説明

フローティングブレーキディスク

【課題】製作コストを高くすることなく製作可能で、しかも耐蝕被膜の破損を防止しつつ連結ピンの引き抜き強度を向上し得るフローティングブレーキディスクを提供する。
【解決手段】内周部に複数の制動側連結凹部15が形成された平板環状の制動ディスク10と、制動側連結凹部15と対向するハブ側連結凹部25が外周部に形成され、制動ディスク10の内側に嵌合されるハブディスク20と、両連結凹部15、25を突き合わせて形成される連結穴31に組み付けられる連結ピン32とを備え、連結ピン32として、少なくとも一端部にかしめにより両ディスク10、20を連結するための鍔部を形成可能な円筒状のかしめ部43Aであって、先端外周面に面取り面45Aが形成され、内周面が全長にわたって同径に構成されたかしめ部43Aを有し、表面に耐蝕処理層を形成したものを用いた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動二輪車のディスクブレーキ装置のブレーキディスクに好適に利用可能なフローティングブレーキディスクに関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、自動二輪車のディスクブレーキ装置のブレーキディスクとして、ブレーキパッドが圧接される環状の制動ディスクと、制動ディスクの内側に装着されるハブディスクと、両ディスクをフローティング状態に連結する複数の連結手段とを有し、両ディスク間の隙間を利用して、ブレーキ作動時における発熱でブレーキディスクが全体的に変形することを防止できるように構成した、所謂フローティングブレーキディスクが広く実用化されている。
【0003】
前記連結手段としては、制動ディスクの内周部に複数の制動側連結凹部を形成し、ハブディスクの外周部に制動側連結凹部と対向するハブ側連結凹部を形成し、両連結凹部を組み合わせて形成される連結穴に連結ピンを装着するとともに、皿バネ及び座金を連結ピンに外嵌状に設け、連結ピンの端部をかしめることで、両ディスクをフローティング状態に連結するように構成したものが広く採用されている(例えば、特許文献1参照。)
【0004】
連結ピンとしては、特許文献1に記載のように、連結穴に略隙間なく装着される略円筒状の胴体部と、胴体部の一端部に形成された連結穴よりも大径の第1鍔部と、胴体部の他端部に形成された胴体部よりも小径のかしめ部と、胴体部とかしめ部との境界部分に形成された段部とを有し、胴体部に皿バネ及び座金を装着した状態で、胴体部を連結穴に装着し、この状態でかしめ部をかしめて第2鍔部を形成し、第2鍔部により皿バネ及び座金を連結ピンとともに両ディスクに固定して、両ディスクをフローティング状態に連結するように構成したものが採用されている。
【0005】
ところで、連結ピンのかしめ部をかしめるときには、かしめ部にかしめローラを挿入して、かしめローラを回転させながらかしめ部を徐々に拡径させてかしめることになるが、このとき連結ピンに対してかしめローラが圧接されることにより、連結ピンの表面に形成した耐蝕被膜が破損するという問題があった。
【0006】
このような耐蝕被膜の破損を防止するため、連結ピンの中心孔の端部周面に、少なくとも一部が凸の円弧形をなしている面取り部を設けた連結ピンも提案されている(例えば、特許文献2参照。)。また、耐蝕被膜の破損を防止することを目的としたものではないが、連結ピンのかしめ部の端部外周面に面取り面を形成するとともに、中心孔の内径を全長にわたって同径に設定した連結ピンも提案されている(例えば、特許文献3参照。)。
【0007】
【特許文献1】実開平6−76727
【特許文献2】特開2001−187910
【特許文献3】実開平6−69463
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところで、特許文献2記載のように連結ピンの中心穴の端部周面に面取り部を形成した場合には、かしめにより耐蝕被膜が破損することを防止できるが、かしめて形成される拡径部と座金間に隙間が形成され、拡径部はその基部においてのみ座金と係合して、連結ピンを抜け止めすることになるので、連結ピンの引き抜き強度を十分に確保できないという問題があった。
【0009】
本発明の目的は、製作コストを高くすることなく製作可能で、しかも耐蝕被膜の破損を防止しつつ連結ピンの引き抜き強度を向上し得るフローティングブレーキディスクを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、連結ピンのかしめ部をかしめるときに耐蝕被膜が破損せず、しかも引き抜き強度を十分に確保できるような連結ピンの形状について、種々の形状の連結ピンを製作して試験を行なった結果、かしめ部の先端外周面に面取り面を形成し、かしめ部の内周面を全長にわたって同径に形成することで実現できるとの試験結果を得て、本発明を完成するに至った。
【0011】
本発明に係るフローティングブレーキディスクは、内周部に複数の制動側連結凹部が形成された平板環状の制動ディスクと、前記制動側連結凹部と対向するハブ側連結凹部が外周部に形成され、前記制動ディスクの内側に嵌合されるハブディスクと、前記両連結凹部を突き合わせて形成される連結穴に組み付けられる連結ピンとを備え、前記連結ピンとして、少なくとも一端部にかしめにより両ディスクを連結するための鍔部を形成可能な円筒状のかしめ部であって、先端外周面に面取り面が形成され、内周面が全長にわたって同径に構成されたかしめ部を有し、表面に耐蝕処理層を形成したものを用いたものである。
【0012】
このブレーキディスクでは、制動ディスクとハブディスクとを組み合わせて形成される連結穴に連結ピンを装填し、この連結ピンに座金や皿バネを外嵌させた状態或いはそのままの状態で、連結ピンの端部に形成したかしめ部をかしめて、連結ピンにより両ディスクをフローティング状態に連結することになる。この連結ピンでは、かしめ部の先端外周面に面取り面が形成されるとともに、かしめ部の内周面は全長にわたって同径に構成されているので、予め耐蝕処理層を形成した連結ピンあっても、かしめ部をかしめたときにおける耐蝕処理層の破損が防止される。また、かしめ部をかしめて形成される鍔部は、座金や両ディスクと略隙間なく面接触するようにかしめることができ、座金や両ディスクと連結ピンの鍔部との接触面積を大きく設定して、連結ピンの引き抜き強度を向上することができる。
【0013】
ここで、前記面取り面としてテーパー面、凸形円弧断面の環状湾曲面または凹形円弧断面の環状湾曲面を形成することができる。このような面取り面を形成することで、かしめ部をかしめたときにおける耐蝕処理層の破損を防止できる。
【0014】
前記連結ピンとして、連結穴に略隙間なく装着される円筒状の胴体部と、胴体部の一端部に形成された胴体部よりも大径の第1鍔部と、胴体部の他端部に連設された前記かしめ部とを有し、前記かしめ部をかしめることで胴体部よりも大径の第2鍔部を形成可能な連結ピンを用いることができる。連結ピンの両端部にかしめ部を形成することもできるが、予め連結ピンに第1鍔部を形成しておくと、第1鍔部の成形精度を向上できる。
【0015】
前記連結ピンをアルミニウム合金で構成することが好ましい実施の形態である。アルミニウム合金は、ステンレスなどの鉄系金属と比較して軽量で、しかも加工性に優れ、かしめ易いので好ましい。
【0016】
前記連結ピンのかしめ部をプレスによりかしめて鍔部を形成することもできる。この場合には、ローラを用いてかしめる場合よりも、かしめのための作業時間を短縮でき、しかも複数の連結ピンを同時にかしめることができるので、連結ピンのかしめ作業の作業効率を大幅に向上できる。また、ローラを用いる場合と比較して、耐蝕処理層の破損を防止できるので好ましい。
【0017】
前記連結ピンの鍔部とディスク間に弾性部材を介装することも好ましい実施の形態である。このように構成することで、両ディスクが同一平面内に配置されるように、弾性部材により両ディスクをフローティング支持することができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明に係るフローティングブレーキディスクによれば、かしめ部の外周面に面取り面を形成し、かしめ部の内周面を全長にわたって同径に構成するという簡単な構成で、かしめ部をかしめたときにおける耐蝕処理層の破損を効果的に防止できる。このため、連結ピンの製作コストを高めることなく、耐蝕処理層の破損を防止できる。しかも、かしめた後の鍔部が座金や両ディスクに面接触するまで、かしめ部をかしめることができるので、連結ピンの引き抜き強度を向上できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
次に、本発明の実施の形態について、図面を参照しながら説明する。
図1〜図3に示すように、フローティングブレーキディスク1は、自動二輪車用のブレーキディスクで、平板環状の制動ディスク10と、制動ディスク10の内側に所定の隙間をあけて内嵌装着されたハブディスク20と、制動ディスク10とハブディスク20とをフローティング状態に連結する複数の連結手段30とを備えている。
【0020】
制動ディスク10は、耐磨耗性に優れたステンレス鋼や炭素鋼からなる平坦な金属板をプレス成形した後、ブレーキパッド(図示略)が摺接される環状の摺動部11を熱処理して製作されている。摺動部11には、放熱性能を向上するとともに重量を軽減するため、複数の小孔12が形成されている。小孔12としては、図1、図2に示すような丸孔以外に細長いスリット状の長孔を形成することも可能で、小孔12の形状や個数や配列は、ブレーキディスク1の意匠性や摺動部11における放熱性を考慮して適宜に設定することができる。制動ディスク10の外周部及び内周部には複数の凹部13、14が円周方向に一定間隔おきに形成され、ブレーキディスク1の放熱性が高められるとともに軽量化が促進され、意匠的にも斬新さが表現されるように構成されている。凹部13、14の個数や形状は任意に設定可能である。ただし、凹部13、14の少なくとも一方を省略したブレーキディスクに対しても、本発明を同様に適用することができる。制動ディスク10の寸法は、例えば外径300mm、厚さ6mmに設定したものを採用できる。
【0021】
ハブディスク20は、例えば軽量化を図るためアルミニウム合金等の軽金属材料で構成されている。ハブディスク20の中央部にはホイールハブの端部が挿通する取付孔21が形成されるとともに、取付孔21を取り囲むようにホイールハブへの取付用の複数のボルト挿通孔22が形成されている。ハブディスク20の半径方向の途中部には複数の軽減孔23が周方向に一定間隔おきに形成されている。
【0022】
図1〜図3に示すブレーキディスク1では、制動ディスク10とハブディスク20とを同一平面内に配置したが、車体側の構成に応じて、制動ディスク10とハブディスク20とを、ブレーキディスク1の厚さ方向(軸心方向)に一定間隔をあけた平行な平面内に配置することも可能である。尚、本発明は、連結手段30の構成に特徴を有するものであり、制動ディスク10やハブディスク20の構成に関しては、既存の構成のものを適宜に採用することができる。
【0023】
連結手段30は、制動ディスク10とハブディスク20間に円周方向に一定間隔おきに設けられている。図1では、8つの連結手段30で制動ディスク10とハブディスク20とをフローティング状態に連結したが、8つ以外の個数の連結手段30で両ディスク10、20をフローティング状態に連結することも可能である。
【0024】
連結手段30について説明すると、図1〜図3に示すように、連結手段30の配設位置において、制動ディスク10の内周部には半円形の制動側連結凹部15が形成され、ハブディスク20の外周部には半円形のハブ側連結凹部25が制動側連結凹部15と対向状に形成され、両ディスク10、20を組み合わせた状態で、両ディスク10、20間には連結凹部15、25により略円形の連結穴31が形成される。連結穴31には連結ピン32が装着され、この連結ピン32より両ディスク10、20の相対回転及び軸方向への相対移動が規制される。連結ピン32には両ディスク10、20が同一平面内に位置するように付勢する皿バネ(これが弾性部材に相当する)33と該皿バネ33を受け止める座金34が取付けられ、両ディスク10、20は連結ピン32と皿バネ33と座金34を介してフローティング状態に連結されている。
【0025】
前記連結ピン32は、図3に示すように、中心孔40を有する円筒状のアルミニウム合金やマグネシウム合金などの軽金属材料からなる中空部材で構成され、連結穴31に略隙間なく内嵌状に装着される円筒状の胴体部41と、胴体部41の一端部に形成された連結穴31よりも大径の抜け止め用の第1鍔部42と、胴体部41の他端部に形成された連結穴31よりも大径の抜け止め用の第2鍔部43であって、図4(a)、図6、図7に図示の連結ピン32Aのかしめ部43Aをかしめて形成した第2鍔部43とを備えている。
【0026】
図4(a)に図示の連結ピン32Aは、連結ピン32の第2鍔部43をかしめにより形成する前のものであり、胴体部41の上端部には第2鍔部43に対応させて円筒状のかしめ部43Aが連設されている。この連結ピン32Aには、アルマイト処理やメッキ処理などが施され、連結ピン32Aの表面にはアルミニウムの酸化被膜やクロムメッキなどの耐蝕処理層(図示略)が形成されている。
【0027】
連結ピン32Aの胴体部41の長さ方向の途中部には段差部44が形成され、段差部44よりも上側の胴体部41は段差部44よりも下側の胴体部41よりも小径に構成され、かしめ部43Aの外径は段差部44よりも上側の胴体部41と同径に構成されている。ただし、段差部44は、かしめによる変形が、胴体部41のうちの連結穴に31に隙間なく嵌合する部分に悪影響を及ぼさない位置であれば任意の位置に形成することが可能で、例えばかしめ部43Aと胴体部41の境界部に段差部44を形成することもできる。また、前述のように、段差部44を設けて、かしめ部43Aを胴体部41よりも小径に構成すると、かしめ部43Aのかしめ作業が容易になるので好ましいが、段差部44を省略した連結ピン、即ちかしめ部の外径を胴体部と同径に構成した連結ピンを採用することも可能である。
【0028】
連結ピン32Aにおける、かしめ部43Aと胴体部41の内周面の直径は全長にわたって同径に構成され、かしめ部43Aの先端外周面には、先端側へ行くにしたがって縮径する円錐状の面取り面45Aが形成され、連結ピン32の先端外周部は面取り面45Aを形成することで減肉されている。そして、このようにかしめ部43Aの内周面の直径を全長にわたって同径に構成するとともに、連結ピン32の先端外周部に面取り面45Aを形成することで、かしめ部43Aをかしめて第2鍔部43を形成するときに、連結ピン32Aの耐蝕処理層が破損しないように構成されている。また、かしめて形成した第2鍔部43の座金34側の端面は、連結ピン32の軸心直交方向の面内に配置される幅の広い環状面47に形成され、この環状面47により第2鍔部43と座金34との接触面積が大きく設定されて、連結ピン32の引き抜き強度が高められている。
【0029】
尚、面取り面45Aの構成を部分的に変更した他の連結ピンの実施例として、図4(b)、(c)に示す連結ピン32B、32Cのように、面取り面45B、45Cの傾斜角度θを変更したものを採用することができる。傾斜角度θは、20°未満の場合には、薄平板形状になって引き抜き強度が低下し、45°を超えると先槍(先細)形状になって引き抜き強度が低下するので、傾斜角度θは20°〜45°に設定することが好ましい。また、図4(a)(b)に示すように、連結ピン32A、32Bの中心線に直交する環状の端面46を形成するともできるし、図4(c)に示す連結ピン32Cのように、面取り面45Cを先鋭に形成することもできる。更に、円錐面状の面取り面45A〜45Cに代えて、図5(a)(b)に示す連結ピン32D、32Eのように、連結ピン32D、32Eの半径方向外方側へ突出する凸形円弧断面の環状湾曲面からなる面取り面45D、45Eや、図5(c)(d)に示す連結ピン32F、32Gのように、連結ピン32F、32Gの半径方向内側へ突出する凹形円弧断面の環状湾曲面からなる面取り面45F、45Gを形成することもできる。図5(a)(b)に示す面取り面45D、45Eの円弧の半径R1は、任意に設定可能であるが、5mm未満の場合には、先槍(先細)形状になって引き抜き強度が低下し、20mmを超えるとピンに欠損が発生する可能性があるので、半径R1は5mm〜20mmに設定することが好ましい。また、図5(c)(d)に示す面取り面45F、45Gの円弧の半径R2は任意に設定可能であるが、5mmを未満の場合には、ピンに欠損が発生する可能性があり、20mmを超えると、先槍(先細)形状になって引き抜き強度が低下するので、半径R2は5mm〜20mmに設定することが好ましい。また、面取り面45A〜45Gの上端部や下端部にアールを形成して角を丸めることも、耐蝕処理層の破損を防止する上で好ましい。
【0030】
第1鍔部42と両ディスク10、20間において胴体部41には皿バネ33と座金34が外嵌状に装着され、両ディスク10、20は皿バネ33により同一平面内に配置されるように付勢されている。ただし、座金34と皿バネ33のうちの少なくとも座金34は省略することができる。また、連結ピン32として、胴体部41の横断面形状が楕円形や正方形や長方形などの方形状のものを採用することもでき、この場合には、連結穴31の形状も胴体部41に適合する形状に形成することになる。
【0031】
前記皿バネ33は、図3に示すように、緩やかな円錐状の円板状の部材で構成され、第1鍔部42と両ディスク10、20間に皿バネ33を組付けた状態で、皿バネ33が多少圧縮されるように、両ディスク10、20と第3鍔部43間の距離Hは皿バネ33の自然状態での高さよりも多少短く設定されている。但し、皿バネ33に代えてウェーブスプリングなどを採用することもできる。
【0032】
かしめ部43Aのかしめ処理は、プレス装置により行なうこともできるし、ロールを用いた回転式のかしめ装置で行なうこともできるが、プレス装置によりかしめる方が連結ピン32の耐蝕処理層の破損を防止する上で好ましい。
【0033】
プレス装置としては、図6、図7に示すように、ポンチ50とダイス51とを有し、ポンチ50に、連結ピン32Aの中心孔40に挿入されてかしめ部43Aの先端部を外側へ押し広げる円錐台状の第1成形面50aと、押し広げたかしめ部43Aの先端部を連結ピン32の半径方向外方側へ案内する第2成形面50bとを設け、ダイス51に、第1鍔部42を収容可能な収容部51aを設け、押圧スリーブ52で座金34を押えた状態で、ポンチ50でかしめ部43Aをかしめて第2鍔部43をプレス成形できるように構成したものを採用できる。
【0034】
また、ロールを用いた回転式のかしめ装置としては、図8に示すように、軸心P1を中心として回転自在に支持された支持ヘッド55と、支持ヘッド55の偏心位置において支持ヘッド55の軸心P1に対して傾斜状に配置された軸心P2を中心として回転自在なロール56と、連結ピン32の載置するための凹部57aを有する載置台57とを備え、ロール56の先端部に、連結ピン32Aの中心孔40に挿入されてかしめ部43Aの先端部を外側へ押し広げる円錐台状の成形面56aを形成し、支持ヘッド55を軸心P1回りに回転させるとともに、ロール56を軸心P2回りに回転させながら、ロール56の成形面56aをかしめ部43Aの先端内周面に圧接させて、かしめ部43Aをかしめて第2鍔部43を成形できるように構成したものを採用できる。
【0035】
前記フローティングブレーキディスク1の組立方法の一例について、図面を参照しながら簡単に説明する。
先ず、図7に示すように、プレス装置のダイス51に形成された8つの収容部51aに第1鍔部42を夫々装着して8本の連結ピン32Aをダイス51にセットする。
【0036】
次に、図7に示すように、制動ディスク10の8つの制動側連結凹部15を8つの連結ピン32Aに夫々臨ませて、上方より制動ディスク10をダイス51の上面にセットするとともに、ハブディスク20の8つのハブ側連結凹部25を8つの連結ピン32Aに夫々臨ませて、上方よりハブディスク20をダイス51の上面にセットする。
【0037】
次に、図7に示すように、連結ピン32Aのかしめ部43Aの下半部に皿バネ33及び座金34を外嵌状に装着してから、図6に示すように、ポンチ50の成形面50a、50bでかしめ部43Aをかしめて第2鍔部43を形成し、連結ピン32と皿バネ33及び座金34とで両ディスク10、20をフローティング状態に連結する。
【0038】
この連結手段30では、連結ピン32として、かしめ部43Aの先端外周部に面取り面45Aを形成し、かしめ部43Aの内周面をその全長にわたって同径に形成したものを用いているので、かしめ部43Aをかしめて第2鍔部43を形成したときに、耐蝕被膜層が破損するという問題を防止できる。また、第2鍔部43の座金34側には平坦な環状面47が形成され、第2鍔部43と座金34との接触面積が広くなるので、連結ピン32の引き抜き強度を向上できる。
【0039】
また、かしめ部43Aと胴体部41間に段差部44が形成されるとともに、かしめ部43Aは胴体部41よりも薄肉に構成されているので、かしめ荷重が胴体部41側へ作用することが抑制され、かしめ荷重による胴体部41の変形を防止出来る。
【0040】
次に、連結ピン32の評価試験について説明する。
実施例1、2として、図9(a)に示すような寸法で、かしめ部43Aの先端外周部に面取り面として半径10mmの面取り面45Jを形成した実施例1の連結ピン32Jと、図9(b)に示すように、面取り面として半径15mmの面取り面45Kを形成した以外は実施例1の連結ピン32Jと同様に構成した実施例2の連結ピン32Kを製作した。また、比較例1として、図10(a)に示すように、面取り面を省略した以外は、実施例1の連結ピン32Jと同様に構成した連結ピン32Lを製作した。また、比較例2として、図10(b)に示すような寸法で、先端内周面にテーパー面状の面取り面45Mを形成した連結ピン32Mを製作した。そして、製作した連結ピン32J〜32Mに対して、耐蝕被膜層として、アルマイト処理を施した。
【0041】
こうして製作した連結ピン32J〜32Mを、図11に示すように、引張り試験機の断面C型の1対の治具60に皿バネ33及び座金34とともに組み付けて、引張り試験を行なって連結ピン32J〜32Mの引抜き強度を測定した。具体的には、断面C型の1対の治具60を背中合わせに組み合わせた状態で、ブレーキディスクに連結ピン32Aを組み付ける場合と同様に、両治具60に形成した連結孔61に連結ピンを装填してから、連結ピンに皿バネ33及び座金34を外嵌させた状態で、連結ピンのかしめ部をプレスによりかしめた場合と、ロールによりかしめた場合の2種類の試験具62を、連結ピン32J〜32Mについてそれぞれ製作した。そして、製作した試験具62の連結ピン32のアルマイト処理層に、かしめにより、剥離や亀裂などの損傷がないか否かを目視にて検査し、その後、試験具62を引き抜き試験機の1対の軸部材63間に組み付けて、試験具62の1対の治具60を相互に離間させて連結ピンの引張り試験を行ない、引張最大荷重を引抜き最大荷重として測定した。その結果を表1に示す。また、連結ピン32J、32K、32Mを組み付けた試験具62に関しては、連結ピン32J、32K、32Mをかしめた後、ワイヤーソーなどの加工機で連結ピン連結ピンを縦に切断して、連結ピンの断面形状を撮影した。図12は、撮影した断面形状の外観形状を写し取った図面で、図12(a)は、ローラにてかしめた実施例1の連結ピン32Jaの断面図であり、図12(b)は、プレスにてかしめた実施例1の連結ピン32Jbの断面図であり、図12(c)は、ローラにてかしめた実施例2の連結ピン32Kの縦断面図であり、図12(d)は、ローラにてかしめた比較例2の連結ピン32Mの縦断面図である。
【0042】
【表1】

【0043】
表1から、比較例1の連結ピン32Lのように、かしめ部43Aの先端外周部に面取り面を形成しないと、実施例1、2と比較して引き抜き強度が低下するとともに、アルマイトが損傷し、耐蝕性能が低下するという問題が発生することが判る。また、比較例2の連結ピン32Mのように、面取り面を形成する場合であっても、先端内周面に面取り面を形成すると、アルマイトの損傷は発生しないが、引き抜き強度が格段に低くなっていることが判る。その原因としては、比較例2の連結ピン32Mのかしめ後の断面形状は、図12(d)に示すように、連結ピン32Mの先端部には外方へ膨出する第2鍔部43Mは形成されるものの、図12(a)〜(c)に示す実施例1、2の連結ピン32J、32Kに見られるような、外方へ大きく突出する第2鍔部43が形成されておらず、しかも第2鍔部43Mの座金34側には、実施例1、2の連結ピン32J、32Kのように軸心直交方向の環状面47が形成されておらず、座金34との引っ掛かりが十分に確保されないことから、引き抜き強度が低下しているものと推定できる。
【0044】
また、実施例1のように、かしめ部43Aの先端外周部に面取り面45Jを形成した連結ピン32Jを用いる場合であっても、ローラによりかしめる場合には、プレスによりかしめる場合と比較して、引き抜き強度は多少高くなるが、アルマイトが損傷し、耐蝕性が低下することから、プレスによりかしめることが好ましいことが判る。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】ブレーキディスクの斜視図
【図2】ブレーキディスクの正面図
【図3】図1のIII-III線断面図
【図4】(a)は連結ピンの縦断面図、(b)(c)は他の構成の連結ピンの縦断面図
【図5】(a)〜(d)は他の構成の連結ピンの縦断面図
【図6】プレスによるかしめ装置の説明図
【図7】連結ピンをかしめる直前の連結手段の縦断面図
【図8】ロールによるかしめ装置の説明図
【図9】(a)は実施例1の連結ピンの縦断面図、(b)は実施例2の連結ピンの縦断面図
【図10】(a)は比較例1の連結ピンの縦断面図、(b)は比較例2の連結ピンの縦断面図
【図11】引張り試験機の説明図
【図12】実際の連結ピンの断面形状を写し取った図面で、(a)は、ローラにてかしめた実施例1の連結ピンの断面図であり、(b)は、プレスにてかしめた実施例1の連結ピンの断面図であり、(c)は、ローラにてかしめた実施例2の連結ピンの縦断面図であり、(d)は、ローラにてかしめた比較例2の連結ピンの縦断面図である。
【符号の説明】
【0046】
1 ブレーキディスク
10 制動ディスク 11 摺動部
12 小孔 13 凹部
14 凹部 15 制動側連結凹部
20 ハブディスク 21 取付孔
22 ボルト挿通孔 23 軽減孔
25 ハブ側連結凹部
30 連結手段 31 連結穴
32 連結ピン 33 皿バネ
34 座金
40 中心孔 41 胴体部
42 第1鍔部 43 第2鍔部
43A かしめ部 44 段差部
46端面 47 環状面
32A〜32G 連結ピン
45A〜45G 面取り面
50 ポンチ 50a 第1成形面
50b 第2成形面 51 ダイス
51a 収容部 52 押圧スリーブ
55 支持ヘッド 56 ロール
56a 成形面
60 治具 61 連結孔
62 試験具 63 軸部材


【特許請求の範囲】
【請求項1】
内周部に複数の制動側連結凹部が形成された平板環状の制動ディスクと、
前記制動側連結凹部と対向するハブ側連結凹部が外周部に形成され、前記制動ディスクの内側に嵌合されるハブディスクと、
前記両連結凹部を突き合わせて形成される連結穴に組み付けられる連結ピンと、
を備え、
前記連結ピンとして、少なくとも一端部にかしめにより両ディスクを連結するための鍔部を形成可能な円筒状のかしめ部であって、先端外周面に面取り面が形成され、内周面が全長にわたって同径に構成されたかしめ部を有し、表面に耐蝕処理層を形成したものを用いた、
ことを特徴とするフローティングブレーキディスク。
【請求項2】
前記面取り面としてテーパー面、凸形円弧断面の環状湾曲面または凹形円弧断面の環状湾曲面を形成した請求項1記載のフローティングブレーキディスク。
【請求項3】
前記連結ピンとして、連結穴に略隙間なく装着される円筒状の胴体部と、胴体部の一端部に形成された胴体部よりも大径の第1鍔部と、胴体部の他端部に連設された前記かしめ部とを有し、前記かしめ部をかしめることで胴体部よりも大径の第2鍔部を形成可能な連結ピンを用いた請求項1または2記載のフローティングブレーキディスク。
【請求項4】
前記連結ピンがアルミニウム合金からなる請求項1〜3のいずれか1項記載のフローティングブレーキディスク。
【請求項5】
前記連結ピンのかしめ部をプレスによりかしめて鍔部を形成した請求項1〜4のいずれか1項記載のフローティングブレーキディスク。
【請求項6】
前記連結ピンの鍔部とディスク間に弾性部材を介装した請求項1〜5のいずれか1項記載のフローティングブレーキディスク。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2010−14190(P2010−14190A)
【公開日】平成22年1月21日(2010.1.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−174308(P2008−174308)
【出願日】平成20年7月3日(2008.7.3)
【出願人】(305032254)サンスター技研株式会社 (97)
【Fターム(参考)】