説明

フロー式化学反応システム及び方法

【課題】
比重が異なる二種類の溶媒を移し変えることなく反応を進行させた後、各溶媒を分離することにより一方の溶媒に溶けた生成物を連続的に回収できるようにする。
【解決手段】
比重が異なる軽溶媒(LS)及び重溶媒(HS)を用い、軽溶媒(LS)に溶かした第一原料(X)と、重溶媒(HS)に溶かした第二原料(Y)を反応管(2)で反応させて、軽溶媒(LS)及び重溶媒(HS)のいずれか一方にのみ溶ける生成物(Z)を連続的に回収するフロー式化学反応システムであって、その反応管(2)の上流側に、第一原料(X)を軽溶媒(LS)と共に供給する軽溶媒供給系(3L)と、第二原料(Y)を重溶媒(HS)と共に供給する重溶媒供給系(3H)を接続し、反応管(2)の下流側に、軽溶媒(LS)と重溶媒(HS)とを比重分離する液液分離機構(4)を接続した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、比重が異なる軽溶媒及び重溶媒を用いて二種類以上の原料を反応させ、生成物を連続的に回収するフロー式化学反応システム及び方法に関し、特に、ペプチド、蛋白質、DNA、RNA、多糖類などのオリゴマー、ポリマー類の生成に適している。
【背景技術】
【0002】
近年、核酸(DNA)、タンパク質に続く第三の鎖状生命分子として、糖鎖分子が注目されている。
糖鎖とは、グルコースやガラクトース等の8種類の単糖がつながったものであり、一般的には、数個〜十数個の単糖がつながった糖鎖をオリゴ糖、それ以上のものが多糖と呼ばれている。
【0003】
また、糖とアミノ酸がつながった糖ペプチドや糖タンパクも同様に注目されている。
糖鎖、糖ペプチド、糖タンパクの性質を解明することにより、新しい原理に基づく医薬品や食品を開発することができ、さらには、病気の予防や治療に役立てることができるなど幅広い応用が期待される。
【0004】
この基礎研究としてまず糖鎖を人工的に合成するため、温度に応じて相溶状態と相分離状態とに可逆的に変化する溶媒システムを用いて糖鎖ペプチドなどを合成する方法が提案されている。
【特許文献1】特開2003−183298号公報
【0005】
これは、第一原料及び第二原料を反応させて生成物を生成する際に、比重が異なり、常温で相分離性/50℃前後で相溶性を呈する二種類の溶媒を用いる。
そして、例えば、比重の軽い軽溶媒としては第一原料及び生成物を溶かし第二原料を溶かさない液体が選定され、比重の重い重溶媒としては第一原料及び生成物を溶かさず第二原料を溶かす液体が選定されている。
【0006】
そして、まず、第一原料を溶かした軽溶媒と、第二原料を溶かした重溶媒を反応容器に所定量注入すると、常温で溶媒同士が相分離性を呈し、軽溶媒と重溶媒が分離される。
次いで、反応容器を50℃に加熱して攪拌させると、溶媒同士が相溶性を呈して溶け合うので、夫々の溶媒中に溶けていた第一原料及び第二原料が相溶性溶媒中で反応し、生成物が生成される。
最後に、溶媒を常温に戻すと、溶媒同士が相分離性を呈し、軽溶媒と重溶媒が分離され、生成された生成物は重溶媒には溶けないので軽溶媒中に存在することとなり、この軽溶媒中から生成物を抽出することにより目的とする生成物が得られる。
【0007】
しかしながら、このようなバッチ処理は非効率的であり、反応を行う度に溶媒を入れ替えたり、昇温/降温させて温度コントロールするのも面倒であり、自動化するには困難であった。
特に、目的とする生成物を得るのに反応を何回も繰り返さなければならない場合は、生成物が溶けた軽溶媒を別の反応容器に移して、次に反応させる第二原料を溶かした重溶媒を入れ、同様の反応処理を必要な回数だけ繰り返さなければならないという面倒があった。
【0008】
また、温度に応じて相溶状態と相分離状態に可逆的に変化する溶媒システムを用いてペプチドなどを連続的に合成する方法が提案されている。
【特許文献2】国際公開第2004/24315号パンフレット
【0009】
これは、出発物を触媒存在下で反応させて生成物を得る際に、比重が異なり温度に応じて相溶性/相分離性を呈する二種類の溶媒を用いる。
そして、例えば、比重の軽い軽溶媒としては出発物及び目的とする生成物を溶かすことができ、触媒を溶かさない非極性溶媒が用いられ、比重の重い重溶媒としては出発物及び目的とする生成物を溶かさず、触媒を溶かすことのできる極性溶媒が用いられる。
【0010】
反応容器は、内部の任意の部分領域を挟んでその上下の領域が相分離状態となる温度に維持されると共に、その中間領域が相溶状態となる温度に維持され、光・電気等の反応促進エネルギーを必要に応じて容器内に供給する反応促進装置を備えている。
【0011】
そして、まず、出発物を溶かした非極性溶媒と触媒を溶かした極性溶媒を反応容器に注入すると、相溶状態となっている部分で溶媒同士が溶け合うので、出発物が触媒存在下で反応して目的とする生成物が得られる。
【0012】
しかしながら、従来より、相分離状態となった非極性溶媒と極性溶媒は定常状態を保つことが難しく、また、定常状態を保つことのできない二種類の溶媒を連続的に分離する機構も提案されていなかった。
【0013】
なお、界面を形成する二種類の溶媒系を用いた反応システムでは、上述したように温度に応じて相溶状態と相分離状態に可逆的に変化する溶媒系を用いる場合のほか、水及び有機溶媒の二相系において相間移動触媒を用いた反応システムや、フッ素化されたアルカン類と一般の低極性溶媒を組み合わせたフッ素系相溶性二相反応システムがある。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
そこで本発明は、比重が異なる二種類の溶媒を移し変えることなく反応を進行させた後、各溶媒を分離することにより一方の溶媒に溶けた生成物を連続的に回収できるようにすることを技術的課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0015】
この課題を解決するために、本発明は、比重が異なる軽溶媒及び重溶媒を用い、軽溶媒に溶かした第一原料と、重溶媒に溶かした第二原料を反応管で反応させて、軽溶媒及び重溶媒のいずれか一方にのみ溶ける生成物を連続的に回収するフロー式化学反応システムであって、前記反応管は、その上流側に、第一原料を軽溶媒と共に供給する軽溶媒供給系と、第二原料を重溶媒と共に供給する重溶媒供給系が接続され、その下流側に、軽溶媒と重溶媒とを比重分離する液液分離機構が設けられた管路で形成されたことを特徴とする。
【0016】
また、軽溶媒及び重溶媒として温度に応じて相溶性/相分離性を呈する溶媒を用いる場合には、前記反応管の上流側から下流側に向って相溶温度領域と相分離温度領域を順に形成した。
さらに、複数の反応を連続的に行わせる場合には、反応管が多段に設けられて、各反応管には各段毎に第一原料又は第二原料を供給する溶媒供給系と、上流側の反応管で生成された生成物を下流側の反応管の第一原料又は第二原料として供給する溶媒供給系を備えればよい。
また、好ましくは、液液分離機構として、反応管から流出した軽溶媒及び重溶媒を一時貯留して比重分離させる分離槽と、該分離槽の上面側から軽溶媒を流出させる軽溶媒流出系と、その底面側から重溶媒を流出させる重溶媒流出系とを備えており、さらに好ましくは、分離槽から流出される軽溶媒及び重溶媒の流量比を可変制御して界面位置を一定に維持する界面位置制御装置を備えている。
【発明の効果】
【0017】
本発明のフロー式化学反応システムによれば、反応管内を流れる軽溶媒と重溶媒が相溶性を呈さない場合はその界面で、夫々に溶けている第一原料と第二原料が接触して反応した後、反応管が流出した軽溶媒と重溶媒とを比重分離すると、軽溶媒及び重溶媒のいずれか一方にのみ溶ける生成物を連続的に回収することができる。
また、軽溶媒と重溶媒が相溶性を呈する場合は、相溶領域で夫々に溶けている第一原料と第二原料が接触して反応した後、相分離領域で軽溶媒と重溶媒が分離されるので、同様に反応管から流出した軽溶媒と重溶媒とを比重分離することができ、軽溶媒及び重溶媒のいずれか一方にのみ溶ける生成物を連続的に回収することができる。
【0018】
また、反応管を多段に接続して、上流側の反応管で生成された生成物を下流側の反応管の第一原料として順送りすることにより、夫々の反応管で順次反応を行わせれば、最終目的とする生成物を得るために何度も反応を繰り返さなければならない場合に溶媒を流すだけで複数種類の反応を順次行わせることができるという効果がある。
さらに、軽溶媒及び重溶媒を分離槽に一時貯留してその界面位置を調整しながら比重分離を行えば、界面位置を定常状態に維持したまま軽溶媒と重溶媒を確実に分離することができるという効果がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
本例では、軽溶媒と重溶媒を移し変えることなく反応を進行させた後、各溶媒を分離することにより一方の溶媒に溶けた生成物を連続的に回収するという課題を達成するために、反応管で各溶媒を流しながら接触させることにより夫々の原料同士を反応させ、その下流側で、軽溶媒と重溶媒とを比重分離することにより、軽溶媒及び重溶媒のいずれか一方にのみ溶ける生成物を連続的に回収するようにした。
【0020】
また、軽溶媒と重溶媒を連続的に且つ安定して分離することができるように、分離槽から流出される軽溶媒及び重溶媒の流量比を可変制御して界面位置を一定に維持する界面位置制御装置を備えた。
【0021】
図1は本発明に係るフロー式化学反応システムの説明図、図2はその使用方法を示す説明図、図3は他の実施形態を示す説明図、図4はその使用方法を示す説明図、図5はさらに他の実施形態を示す説明図、図6はその使用方法を示す説明図である。
【実施例1】
【0022】
図1に示すフロー式化学反応システム1は、比重が異なる軽溶媒LS及び重溶媒HSを用い、軽溶媒LSに溶かした第一原料Xと、重溶媒HSに溶かした第二原料Yを反応させて、軽溶媒LS及び重溶媒HSのいずれか一方、例えば軽溶媒LSにのみ溶ける生成物Zを連続的に回収するものである。
【0023】
このフロー式化学反応システム1は、略水平に設置された反応管2の上流側に、第一原料Xを軽溶媒LSと共に供給する軽溶媒供給系3Lと、第二原料Yを重溶媒HSと共に供給する重溶媒供給系3Hが接続され、下流側には、軽溶媒LSと重溶媒HSとを比重分離する液液分離機構4が接続されている。
反応管2には、管内を第一原料Xと第二原料Yが反応する最適な反応温度に維持する温度制御装置5がその周囲に設けられている。
【0024】
軽溶媒供給系3Lは、軽溶媒LSのみを貯留した溶媒タンク6Lと、第一原料Xを溶かした軽溶媒LSを貯留した原料タンク7Lが、切換バルブ8Lを介してポンプ9Lに接続され、ポンプ9Lの吐出口が軽溶媒供給管10Lを介して反応管2の上流端に設けられたT字管11の上向流入口12Lに接続されている。
重溶媒供給系3Hは、重溶媒HSのみを貯留した溶媒タンク6Hと、第二原料Yを溶かした重溶媒HSを貯留した原料タンク7Hが、切換バルブ8Hを介してポンプ9Hに接続され、ポンプ9Hの吐出口が重溶媒供給管10Hを介してT字管11の下向流入口12Hに接続されている。
【0025】
この液液分離機構4は、反応管2から流出した軽溶媒LS及び重溶媒HSを一時貯留して比重分離させる観察窓13a付の分離槽13と、該分離槽13の上面側に形成された生成物回収用の軽溶媒流出口14Lからタンク15Lに至る軽溶媒流出系16Lと、その底面側に形成された重溶媒流出口14Hからタンク15Hに至る重溶媒流出系16Hとを備えると同時に、軽溶媒LSと重溶媒HSを分離状態に維持する温度制御装置4Tが必要に応じて設けられている。
【0026】
また、液液分離機構4は、軽溶媒LS及び重溶媒HSの流量比を可変制御して分離層13に形成される界面位置を一定に維持する界面位置制御装置17を備えている。
この界面位置制御装置17は、その入力側に、分離槽13に形成された界面位置を画像、吸光度、電気伝導度、静電容量、示差屈折率等により光学的・電気的に検出する界面センサ18が接続され、その出力側に軽溶媒流出系16Lを流れる軽溶媒の流量をコントロールするポンプ19が接続され、界面センサ17の出力に基づいてポンプ19の吐出量をコントロールすることにより軽溶媒LS及び重溶媒HSの流量比を可変制御している。
なお、分離槽13に軽溶媒LS及び重溶媒HSの中間の比重を有するフロート栓を設け、界面が下がったときにフロート栓で重溶媒流出口14Hを閉鎖すると共に軽溶媒流出口14Lを開放し、界面が上がったときにフロート栓で軽溶媒流出口14Lを閉鎖すると共に重溶媒流出口14Hを開放するようにしてもよい。
【0027】
以上が本発明の一例構成であって、次にその作用について説明する。
本例では、軽溶媒LSとしてシクロヘキサン、重溶媒としてDMF/DMA溶液を用いると共に、第一原料Xとしてシクロヘキサン可溶性担体結合フェニルアラニン−Fmoc(〔SC〕−Phe−Fmoc),第二原料Yとして3%DBUを用いた。
各溶媒供給系3L及び3Hから各原料X及びYを溶媒LS及びHSと共にポンプ9L及び9Hで同量ずつ供給すると、反応管2の上半分を軽溶媒LSが流れ、下半分を重溶媒HSが流れる。
したがって、軽溶媒LSに溶けている第一原料Xと、重溶媒HSに溶けている第二原料Yが、その界面で接触する。
反応管2内は温度制御装置5により反応に適した温度に設定されているから、第一原料X及び第二原料Yが反応し、生成物Zとして、シクロヘキサン可溶性担体結合フェニルアラニン−NHが生成される。
軽溶媒LSは生成物Zを溶かし、重溶媒HSは生成物Zを溶かさないので、生成物Zは軽溶媒LSに溶けて液液分離機構4に運ばれる。
【0028】
液液分離機構4では、生成物Zの溶けた軽溶媒LSと、未反応第二原料Yが溶けた重溶媒HSが、分離槽13に一時貯留されて界面を形成し比重の違いにより上下に分離する。
軽溶媒LSは、分離槽13の上面側に形成された軽溶媒流出口14Lからポンプ19によりタンク15Lに回収され、重溶媒HSは分離槽13の下面側に形成された重溶媒流出口14Hから自重によりタンク15Hに流出される。
ここで、軽溶媒LSと重溶媒HSが、温度制御装置5の設定温度と異なる温度でより顕著な相分離性を呈する場合は、液液分離機構4の分離槽13が温度制御装置4Tにより最適な相分離温度に維持される。
【0029】
このとき、界面センサ18により界面位置が検出され、予め設定された中立域より上方に移動したときは、ポンプ19の吐出量を減少させて軽溶媒LSの流量を低減させることにより、軽溶媒LSと重溶媒HSの流量比を調整し、界面位置を中立域に戻す。
また、界面位置が予め設定された中立域より下方に移動したときは、ポンプ19の吐出量を増大させて軽溶媒LSの流量を増加させることにより、軽溶媒LSと重溶媒HSの流量比を調整し、界面位置を中立域に戻す。
【0030】
これにより、軽溶媒流出系16Lを介して生成物を回収するタンク15Lに重溶媒HSが混入することがなく、したがって、タンク15Lには第二原料Yなどの不純物が混入しないので、回収された軽溶媒LSから生成物Zのみを容易に抽出できる。
また逆に、重溶媒流出系16Hを介して生成物Zが溶けた軽溶媒LSが流出することがないので、生成物Zを高効率で回収できる。
【0031】
なお、上述の説明では、生成物Zが軽溶媒LSに溶ける場合について説明したが、重溶媒HSに溶けている場合は、重溶媒流出系16Hのタンク15Hに回収した重溶媒HSから生成物Zを抽出すればよい。
また、界面位置制御装置17により吐出量制御されるポンプ19を軽溶媒流出系16Lにのみ介装した場合について説明したが、ポンプ19を重溶媒流出系16Hにのみ介装させても、双方に介装させてもよい。
【実施例2】
【0032】
図3は本発明に係るフロー式化学反応システムの他の実施形態を示す。図1及び図2と共通する部分は同一符号を付して詳細説明を省略する。
本例のフロー式化学反応システム21では、軽溶媒LS及び重溶媒HSとして温度に応じて相溶性/相分離性を呈する溶媒を用い、反応管22の上流側から下流側に向って相溶温度領域Dと相分離温度領域Sが順に形成されている。
【0033】
本例の反応管22は可撓性のある耐薬品性チューブが用いられている。
相溶温度領域D及び相分離温度領域Sは、熱媒として水を用いた熱媒槽23D及び23Sで形成され、その水温を個別にコントロールする温度制御装置24D及び24Sが設けられ、相溶温度領域Dの熱媒槽23Dの水温が例えば50℃程度の相溶温度に維持され、相分離温度領域Sの熱媒槽23Sの水温が例えば室温(25℃)の相分離温度に維持されている。
そして、反応管22はループ状に巻かれた状態で夫々の熱媒槽23D及び23Sに沈められており、これにより相溶温度領域Dの熱媒槽23Dに沈められた部分で軽溶媒LSと重溶媒HSが完全に溶け合う相溶性を呈し、相分離温度領域Sの熱媒槽23Sに沈められた部分で軽溶媒LSと重溶媒HSが完全に分離する相分離性を呈する。
また、液液分離機構4には、軽溶媒LSと重溶媒HSを最適な分離温度に維持する温度制御装置4Tが必要に応じて設けられている。
なお、それ以外の構成は図1に示すフロー式化学反応システム1と同様である。
【0034】
本例では、軽溶媒LSとしてシクロヘキサン、重溶媒としてDMF/DMA溶液を用いると共に、第一原料Xとしてシクロヘキサン可溶性担体結合フェニルアラニン−NH(〔SC〕−Phe−NH)、第二原料YとしてFmoc−プロリン−t−ブトキシカルボニル(Fmoc−Pro−OBt)を用いた。
各溶媒供給系3L及び3Hから各原料X及びYを溶媒LS及びHSと共にポンプ9L及び9Hで同量ずつ供給すると、これら各溶媒LS及びHSは室温で相分離性を呈するので、反応管2内で混ざり合うことなく相溶温度領域Dに達する。
【0035】
相溶温度領域Dでは、反応管2の内部温度が50℃程度の相溶温度に維持されているので、軽溶媒LS及び重溶媒HSが互いに溶け合って、夫々に溶けている第一原料X及び第二原料Yが接触して反応し、生成物Zとしてシクロヘキサン可溶性担体結合フェニルアラニン−プロリン−Fmoc(〔SC〕−Phe−Pro−Fmoc)が生成され、相分離温度領域Sに送られる。
【0036】
相分離温度領域Sでは、反応管2の内部温度が25℃程度の相分離温度に維持されているので、軽溶媒LSと重溶媒HSが完全に相分離を起こす。
そして、軽溶媒LSは生成物Zを溶かし、重溶媒HSは生成物Zを溶かさないので、生成物Zは軽溶媒LSに溶けて反応管2内を流れて液液分離機構4に運ばれる。
【0037】
液液分離機構4では、図1で示したフロー式化学反応システム1と同様に、比重により軽溶媒LSと重溶媒HSが分離されて、生成物Zが軽溶媒LSに溶けてタンク15Lに回収されるので、回収された軽溶媒LSから生成物Zのみを抽出できる。
ここで、軽溶媒LSと重溶媒HSの相分離温度が例えば室温より低い場合には、相分離領域Sが最適な相分離温度(例えば0℃)に設定され、液液分離機構4の分離槽13も温度制御装置4Tにより相分離温度に維持される。
【実施例3】
【0038】
図5は本発明に係るフロー式化学反応システムの他の実施形態を示す。図1及び図3と共通する部分は同一符号を付して詳細説明を省略する。
本例のフロー式化学反応システム31は、上流側から下流側へ反応管32A〜32Cが多段に連結されており、第一反応管32Aで第一原料Xと第二原料Yを反応させて生成物Zを生成し、この生成物Zを第二反応管32Bの第一原料として他の第二原料Yと反応させて生成物Zを生成し、この生成物Zを第三反応管32Cの第一原料としてさらに他の第二原料Yと反応させて生成物Zを生成する。
【0039】
第一反応管32Aには、その上流側に、第一原料Xを軽溶媒LSと共に供給する軽溶媒供給系3Lと、第二原料Yを重溶媒HSと共に供給する重溶媒供給系3Hが接続され、下流側には、軽溶媒LSと重溶媒HSとを比重分離する液液分離機構4Aが接続され、生成物Z1が溶けている軽溶媒LSを液液分離機構4Aから第二反応管32Bに供給する軽溶媒供給系33Lが形成されると共に、重溶媒HSをタンク34へ排出する重溶媒流出系35が形成されている。
なお、第一反応管32Aは、相溶/相分離性溶媒を反応させるため、図3に示すフロー式化学反応システム21と同様、可撓性のある耐薬品性チューブが用いられており、その上流側から下流側に向って相溶温度領域Dと相分離温度領域Sが順に形成されており、その構成も、フロー式化学反応システム21と同様である。
【0040】
第二反応管32Bは、その上流側に、第一反応管32Aから連通する軽溶媒供給系33Lと、第二原料Yを重溶媒HSと共に供給する重溶媒供給系33Hが接続され、下流側には、軽溶媒LSと重溶媒HSとを比重分離する液液分離機構4Bが接続され、生成物Zが溶けている軽溶媒LSを液液分離機構4Bから第三反応管32Cに供給する軽溶媒供給系36Lが形成されると共に、重溶媒HSをタンク37へ排出する重溶媒流出系38が形成されている。
【0041】
第三反応管32Cは、その上流側に、第二反応管32Bから連通する軽溶媒供給系36Lと、第二原料Yを重溶媒HSと共に供給する重溶媒供給系36Hが接続され、下流側に、軽溶媒LSと重溶媒HSとを比重分離する液液分離機構4Cが接続され、生成物Zが溶けている軽溶媒LSを液液分離機構4Cからタンク15Lに回収する軽溶媒流出系16Lと、重溶媒HSをタンク15Hへ排出する重溶媒流出系16Hが形成されている。
【0042】
また、液液分離機構4A〜4Cは、軽溶媒LS及び重溶媒HS〜HSの流量比を可変制御して分離層13に形成される界面位置を一定に維持する界面位置制御装置17を備えている。
この界面位置制御装置17の構成は、図1に示すフロー式化学反応システム1で用いたものと同様である。
【0043】
本例によれば、第一反応管32Aにおいて、軽溶媒LSとしてシクロヘキサン、重溶媒HSとしてDMF/DMA溶液を用いると共に、第一原料Xとしてシクロヘキサン可溶性担体結合フェニルアラニン−NH(〔SC〕−Phe−NH)、第二原料YとしてFmoc−プロリン−t−ブトキシカルボニル(Fmoc−Pro−OBt)を用い、各溶媒供給系3L及び3Hから供給する。
各原料X及びYを溶媒LS及びHSと共にポンプ9L及び9Hで同量ずつ供給すると、夫々に溶けている第一原料X及び第二原料Yが相溶温度領域Dで接触して反応し、生成物Zとしてシクロヘキサン可溶性担体結合フェニルアラニン−プロリン−Fmoc(〔SC〕−Phe−Pro−Fmoc)が生成され、液液分離機構4Aで軽溶媒LSと重溶媒HSに分離される。
【0044】
次いで、第二反応管32Bに、軽溶媒供給系33Lから生成物Zを第一原料として供給すると共に、重溶媒供給系33Hから第二原料Yとして3%DBUを重溶媒HSに溶かして供給すると、その界面で各原料が接触し、生成物Zとしてシクロヘキサン可溶性担体結合フェニルアラニン−プロリン−NH(〔SC〕−Phe−Pro−NH)が生成され、液液分離機構4Bで軽溶媒LSと重溶媒HSに分離される。
【0045】
最後に、第三反応管32Cに、軽溶媒供給系36Lから生成物Zを第一原料として供給すると共に、重溶媒供給系36Lから第二原料YとしてFmoc−イソロイシン−t−ブトキシカルボニル(Fmoc−Ile−OBt)を重溶媒HSとなるDMF/DMA溶液に溶かして供給すると、相溶温度領域Dで各溶媒LS及びHSが互いに溶解し、夫々に溶けている生成物(第一原料)Z及び第二原料Yが接触して反応し、生成物Zとなるシクロヘキサン可溶性担体結合フェニルアラニン−プロリン−イソロイシン−Fmoc(〔SC〕−Phe−Pro−Ile−Fmoc)が生成され、液液分離機構4Cで軽溶媒LSと重溶媒HSに分離される。
【0046】
液液分離機構4Cでは、生成物Zの溶けた軽溶媒LSと、未反応第二原料Yが溶けた重溶媒HSが、分離槽13に一時貯留されて界面を形成し比重の違いにより上下に分離する。
軽溶媒LSは、分離槽13の上面側に形成された軽溶媒流出口14Lからポンプ19によりタンク15Lに連続的に回収され、重溶媒HSは分離槽13の下面側に形成された重溶媒流出口14Hから自重によりタンク15Hに流出される。
したがって、回収された軽溶媒LSから生成物Zを抽出すれば、目的とする生成物Zが得られる。
【0047】
なお、いずれの液液分離機構4A〜4Cでも、界面センサ18により界面位置が検出され、予め設定された中立域より上下に変動したときは、界面位置制御装置17により中立域に戻るように制御される。
これにより、各液液分離機構4A〜4Cでは軽溶媒LSと重溶媒HS〜HSが混入することがなく、したがって、最終的にタンク15Lには第二原料Yなどの不純物が混入しないので、回収された軽溶媒LSから生成物Zのみを容易に抽出できる。
また逆に、各液液分離機構4A〜4Cから各生成物Z〜Zが軽溶媒LSと共に重溶媒流出系35,38、16Hに流出することがないので、生成物Zを高効率で回収することができる。
【0048】
このように本例では、軽溶媒供給系3Lから第一反応管32Aに第一原料Xを供給すると共に、各反応管32A〜32Cの夫々に各重溶媒供給系3H、33H、36Hから第二原料Y〜Yを供給すると、各反応管32A〜32Cで生成物Z〜Zが順次生成され、目的とする生成物Zが軽溶媒LSと共に連続的にタンク15Lに回収されるので、この軽溶媒LSから生成物Z3を抽出することができる。
【産業上の利用可能性】
【0049】
以上述べたように、本発明は、比重が異なる二種類の溶媒を用いて、原料を供給しながらこれらを反応させて、ペプチド、蛋白質、DNA、RNA、多糖類などのオリゴマーやポリマー類などを連続的に回収する用途に適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0050】
【図1】本発明に係るフロー式化学反応システムの説明図。
【図2】その使用方法を示す説明図。
【図3】他の実施形態を示す説明図。
【図4】その使用方法を示す説明図。
【図5】さらに他の実施形態を示す説明図。
【図6】その使用方法を示す説明図。
【符号の説明】
【0051】
1、21、31 フロー式化学反応システム
2、22、32A〜32C 反応管
3L、33L、36L 軽溶媒供給系
3H、33H、36H 重溶媒供給系
4、4A〜4C 液液分離機構






【特許請求の範囲】
【請求項1】
比重が異なる軽溶媒及び重溶媒を用い、軽溶媒に溶かした第一原料と、重溶媒に溶かした第二原料を反応管で反応させて、軽溶媒及び重溶媒のいずれか一方にのみ溶ける生成物を連続的に回収するフロー式化学反応システムであって、
前記反応管は、その上流側に、第一原料を軽溶媒と共に供給する軽溶媒供給系と、第二原料を重溶媒と共に供給する重溶媒供給系が接続され、その下流側に、軽溶媒と重溶媒とを比重分離する液液分離機構が接続されたことを特徴とするフロー式化学反応システム。
【請求項2】
前記軽溶媒及び重溶媒として温度に応じて相溶性/相分離性を呈する溶媒を用い、前記反応管の上流側から下流側に向って相溶温度領域と相分離温度領域が順に形成された請求項1記載のフロー式化学反応システム。
【請求項3】
前記反応管が上流側から下流側へ多段に設けられ、各反応管には各段毎に第一原料又は第二原料を供給する溶媒供給系と、上流側の反応管で生成された生成物を下流側の反応管の第一原料又は第二原料として供給する溶媒供給系を備えた請求項1又は2記載のフロー式化学反応システム。
【請求項4】
前記液液分離機構として、反応管から流出した軽溶媒及び重溶媒を一時貯留して比重分離させる分離槽と、該分離槽の上面側から軽溶媒を流出させる軽溶媒流出系と、その底面側から重溶媒を流出させる重溶媒流出系とを備えた請求項1又は2記載のフロー式化学反応システム。
【請求項5】
前記分離槽から流出される軽溶媒及び重溶媒の流量比を可変制御して界面位置を一定に維持する界面位置制御装置を備えた請求項4記載のフロー式化学反応システム。
【請求項6】
比重が異なる軽溶媒及び重溶媒を用い、軽溶媒に溶かした第一原料と、重溶媒に溶かした第二原料を反応管で反応させて、軽溶媒及び重溶媒のいずれか一方にのみ溶ける生成物を連続的に回収するフロー式化学反応方法であって、
反応管の上流側から、第一原料の溶けた軽溶媒と、第二原料の溶けた重溶媒を供給して、反応管で各溶媒を流しながら接触させることにより夫々の原料同士を反応させ、その下流側で、軽溶媒と重溶媒とを比重分離することにより、軽溶媒及び重溶媒のいずれか一方にのみ溶ける生成物を連続的に回収するフロー式化学反応方法。
【請求項7】
前記軽溶媒及び重溶媒として温度に応じて相溶性/相分離性を呈する溶媒を用い、上流側から下流側に向って相溶温度領域と相分離温度領域が順に形成された前記反応管に、各溶媒を流しながら相溶温度領域で相溶状態にして反応させると共に、相分離温度領域で相分離状態にした後、軽溶媒と重溶媒とを比重分離する請求項6記載のフロー式化学反応方法。
【請求項8】
上流側から下流側へ多段に設けられた各反応管毎に第一原料又は第二原料を供給すると共に、上流側の反応管で生成された生成物を下流側の反応管の第一原料又は第二原料として供給し、最終段で生成された生成物を溶媒と共に回収する請求項6又は7記載のフロー式化学反応方法。
【請求項9】
反応管から流出した軽溶媒及び重溶媒を分離槽に一時貯留して、該分離槽の上面側から軽溶媒を流出させ、その底面側から重溶媒を流出させる請求項6又は7記載のフロー式化学反応方法。
【請求項10】
前記分離槽から流出される軽溶媒及び重溶媒の流量比を可変制御して界面位置を一定に維持する請求項9記載のフロー式化学反応方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2007−61725(P2007−61725A)
【公開日】平成19年3月15日(2007.3.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−250409(P2005−250409)
【出願日】平成17年8月31日(2005.8.31)
【出願人】(000138200)株式会社モリテックス (120)
【Fターム(参考)】