説明

ブレーキパッド

【課題】適切な交換時期を運転者に知らせることができるブレーキパッドを提供する。
【解決手段】ブレーキキャリパに設けられているブレーキパッド4は、裏金7のディスクロータ側の面に2つの突起9が設けられ、突起9のディスクロータ側を覆うように摩擦材が設けられている。突起9の摩擦材からの高さは、摩擦材8の厚さよりも低く、摩擦材8の摩耗限界量に設定されている。摩擦材8がディスクロータとの摩擦により摩耗し、摩擦面が裏金7側に推移する。摩擦材8の厚さが摩耗限界量になると、突起9がディスクロータに当接し、当接音によってブレーキパッド4の交換時期を運転者に知らせる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ディスクブレーキ装置に用いられる裏金と摩擦材とからなるブレーキパッドに関する。
【背景技術】
【0002】
ディスクブレーキ装置に用いられるブレーキパッドは裏金と摩擦材とを備えて構成されている。裏金がピストンに押されることで、摩擦材の摩耗面がディスクロータに押し付けられ、車輪に制動力が付与される。
【0003】
ブレーキパッドの摩擦材はディスクロータとの摩擦によって摩耗するため、摩擦材が所定量以上摩耗し、残りの摩擦材の厚さが摩耗限界量以下になった場合にはブレーキパッドを交換することが望ましい。そのため、従来から、裏金の摩擦材側の面の縁部に摩擦材側に突出する突起を設けて、摩擦材の厚さが摩耗により摩耗限界量以下になると、当該突起がディスクロータに当接し、その当接音により、運転者にブレーキパッドの交換時期を報知することが知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平11−218165
【発明の概要】
【0005】
ところで、ディスクロータのゆがみなどで、摩擦材が偏摩耗することが考えられ、摩擦材は一様に摩耗するとは限らない。例えば、摩擦材の縁側から摩耗していくような偏摩耗が起こり、摩擦材の縁部の厚さが中央部の厚さよりも薄くなること考えられる。このような偏摩耗が起こったときに、従来のブレーキパッドでは、摩擦材の厚さが摩耗限界量以下になる前に突起がディスクロータに当接して、運転者に誤った交換時期を知らせてしまうという問題がある。
【0006】
従来の問題を鑑みて、本願発明は、適切な交換時期を運転者に知らせることができるブレーキパッドを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1に記載の発明は、ピストンによりディスクロータに向けて押圧され、当該ディスクロータ側に突出する突起を有している裏金と、裏金のディスクロータ側に設けられ、ピストンのディスクロータ側への移動によってディスクロータに当接される摩擦材と、を備え、裏金の突起は、摩擦材が摩耗により摩耗限界量以下の厚さになると当該摩擦材から露出するように、摩擦材によって少なくともディスクロータ側が覆われていることを特徴とする。
【0008】
摩擦材とディスクロータとの摩擦により摩擦材が摩耗し、摩擦材の厚さが摩耗限界量以下になると、裏金の突起が摩擦材から露出するため、突起とディスクロータとが当接して当接音を発する。この当接音が発生するときは、摩擦材の少なくとも裏金の突起周辺の部分の厚さは摩耗限界に達しているため、適切なブレーキパッド交換時期を運転者に知らせることができる。
【0009】
請求項2に記載の発明は、突起の一部を摩擦材の外縁から露出させることを特徴とする。
【0010】
突起の一部が摩擦材の外縁から露出しているため、突起の摩擦材から露出している部分を基準にして、摩擦材の摩耗の程度をブレーキパッドの外周から視認することができる。要するに、裏金の突起とディスクロータとの当接音に加え、目視でもブレーキパッド交換時期を確認することができる。
【0011】
請求項3に記載の発明は、突起が裏金の中央からディスクロータ径方向にずれて配置されていることを特徴とする。
【0012】
ここで、ブレーキパッドの製造工程には、金型枠に摩擦材の材料を充填し押し固める工程と、押し固めた摩擦材を裏金に組み付ける工程とが含まれる。
請求項3に記載の発明では、突起の一部が摩擦材の外縁から露出しているため、上記組み付け工程において、摩擦材の突起を基準にして金型枠に裏金が組み付けられる。また、突起が裏金の中央からディスクロータ径方向にずれているため、型枠の形状は裏金のディスクロータ径方向の中央に対し非対称となる。よって、上記組み付け工程において、金型枠の裏金に対する位置決めがディスクロータ径方向に逆さまに行われることを防止することができ、ひいてはブレーキパッドの製造コストを削減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明のブレーキパッドをブレーキキャリパに取り付けた状態を示す図である。
【図2】本発明のブレーキパッドの正面図である。
【図3】図2のA−A線断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
図1は本願発明に係るブレーキパッド4をブレーキキャリパ1に取り付けた状態を示す図である。ブレーキキャリパ1は、マウンティング6を介して図示しない車体にディスクロータ5を挟むように固定されている。当該マウンティング6にはシリンダ2が取り付けられており、当該シリンダ2は、マウンティング6に対して相対移動可能に構成されている。シリンダ2にはピストン3が設けられており、当該ピストン3は、運転者のブレーキペダル操作に伴ってシリンダ2内をディスクロータ5に対する近接方向又は離間方向に摺動するように構成されている。
【0015】
ピストン3とディスクロータ5との間にはインナパッド4aが配設され、シリンダ2のピストン3とは反対側部分とディスクロータ5との間にはアウタパッド4bが配設されている。これにより、インナパッド4a及びアウタパッド4bは、ディスクロータ5の両側に配設される。
【0016】
シリンダ2のピストン3との摺動部には、ピストン3をディスクロータ5との離間方向に付勢するシール部材10が設けられている。当該シール部材10は弾性力によって、ピストン3をディスクロータ5との離間方向に復帰付勢させている。
【0017】
図2は本発明のブレーキパッド4(インナパッド4a、アウタパッド4b)の正面図であり、図3は図2のA−A線断面図である。
【0018】
ブレーキパッド4は、裏金7を有しており、その裏金7のピストン3側の面7aがピストン3に押圧されるように構成されている。裏金7のディスクロータ5側の面7bには2つの突起9が形成され、摩擦材8が突起9のディスクロータ5側を覆うように設けられている。
【0019】
詳しくは、裏金7は、板状の本体と、当該本体からディスクロータ5側に突出し上記突起9に相当する突出部とを有して構成されている。そして、突出部の本体からの高さは、摩擦材8の厚さよりも低く、摩擦材8の摩耗限界量に設定されている。
2つの突起9は、摩擦材8のディスクロータ5周方向の外縁から一部が露出するように互いにディスクロータ5周方向に離間し、かつ、裏金7のディスクロータ5径方向の中央からディスクロータ5中心側にずらして、配置されている。
なお、突起9は裏金7のディスクロータ5径方向の中央からディスクロータ5の外周側にずらして配置してもよい。
【0020】
運転者によってブレーキペダル操作がされると、ピストン3がシリンダ2内をディスクロータ5に対する近接方向に摺動し、インナパッド4aがディスクロータ5に押し付けられる。すると、ディスクロータ5から受ける反力によってシリンダ2がディスクロータ5に対する近接方向に移動し、アウタパッド4bがディスクロータ5に押し付けられる。ブレーキパッド4(インナパッド4a、アウタパッド4b)がディスクロータ5に押し付けられることで車輪に制動力が付与される。
【0021】
運転者のブレーキペダル操作によって制動が繰り返されると摩擦材8が摩耗し、摩擦材8のディスクロータ5との摩擦面11が裏金7側に推移してゆく。そして、摩擦材8が摩耗限界量の厚さになると、突起9のディスクロータ5側が摩擦材8から露出して、制動時において、突起9がディスクロータ5に当接するようになり、当接音が発生する。これにより、摩擦材8の厚さが摩耗限界となったこと、すなわちブレーキパッド4の交換時期を運転者に知らせることができる。
【0022】
ところで、上述の如く、ブレーキパッドとディスクロータとの摩擦態様によっては、摩擦材が一様に摩耗するとは限らない。例えば、ディスクロータの回転方向の縁部が中央部よりも薄くなる偏摩耗が考えられる。そのため、従来のブレーキパッドのように、突起が裏金の縁部に設けられたブレーキパッドであると、摩擦材の厚さが摩耗限界以下になる前に、裏金の突起とディスクロータとの当接音が発生することが考えられる。
【0023】
これに対して、本発明では、上述の如く、突起9のディスクロータ5側を摩擦材8で覆っている。そのため、突起9のディスクロータ5側が摩擦材8から露出している状態、すなわち突起9とディスクロータ5との当接音が発生している状態においては、摩擦材8の少なくとも突起9周辺の部分の厚さが確実に摩耗限界以下となっている。よって、摩擦材8の少なくとも一部の厚さが摩耗限界以下となったブレーキパッド4の交換時期を、突起9とディスクロータ5との当接音によって適切に知らせることができる。
【0024】
また、突起9の一部が摩擦材8のディスクロータ5周方向の外縁から露出しているため、当該突起9の露出部分を基準にして、摩擦材8の摩耗の程度をブレーキパッド4の外周から視認するすることができる。これにより、上記突起9とディスクロータ5との当接音に加え、目視でもブレーキパッド4の交換時期を確認することができる。
【0025】
一般的に、ブレーキパッドは、軟鉄等で形成された裏金に、繊維や充填材を熱硬化性樹脂等の結合剤で押し固めて形成した摩擦材を貼り付けて構成している。そのため、ブレーキパッドには、ディスクロータとの摩擦により裏金と摩擦材との間に生じるせん断力に対する所定のせん断強度が求められる。そこで従来のブレーキパッドでは、裏金にモールド穴と呼ばれる穴を設け、モールド穴に摩擦材を嵌合させることでせん断強度を確保しているが、この場合裏金にモールド穴を形成する必要がある。
【0026】
これに対して、本発明では、突起9を摩擦材8で覆っているため、裏金7にモールド穴を形成することなく、裏金7と摩擦材8との間のせん断強度を確保することができる。
【0027】
ここで一般に、ブレーキパッドは、摩擦材の原料混合物又は予備成形品が熱成形金型に入れられて押し固められる工程と、裏金のディスクロータ側の面に熱硬化性樹脂の接着剤が塗布され、裏金のディスクロータ側の面に熱成形金型を当てられる工程とを経た後に、加熱・加圧して成形される。
【0028】
本発明に係るブレーキパッド4は、その製造工程において、熱成形金型の裏金7に当たる側に裏金7の突起9と密接する凹部を設け、当該凹部に突起9が密接するように熱成形金型の裏金7に対する位置決めが行われることで、突起9の一部が摩擦材8の外縁から露出するように製造され得る。
特に本発明に係るブレーキパッド4では、突起9が裏金7の中央からディスクロータ5径方向にずれて裏金7に配置されているため、熱成形金型を裏金7に密接させる際、熱成形金型の凹部と裏金7の突起9とを基準にすることで、容易に熱成形金型の裏金7に対する位置決めを行うことができる。そのため熱成形金型の裏金7に対する位置決めがディスクロータ5径方向に逆さまに行われることを防止することができ、ひいては、ブレーキパッド4の製造コストを削減することができる。
【0029】
上記実施形態では、ディスクロータ5をシリンダ2とピストン3とで挟圧するいわゆる浮動型のブレーキキャリパを用いたが、ディスクロータ5の双方の側面をピストンにて押圧する対向型のブレーキキャリパにも適用可能である。また、突起9の一部が摩擦材8のディスクロータ5周方向の外縁から露出するようにしたが、突起9の少なくともディスクロータ5側が摩擦材8に覆われていればよい。例えば、裏金7の中央付近に突起9を設けて、突起9の全面を摩擦材8で覆ってもよい。これにより、裏金7と摩擦材8との間のせん断強度を高めることができる。
さらに上記実施形態では、裏金7に突起9を2つ設けたが、裏金7に突起9を1つ設けてもよいし、3つ以上設けてもよい。
【符号の説明】
【0030】
1・・・ブレーキキャリパ
2・・・シリンダ
3・・・ピストン
4・・・ブレーキパッド
4a・・・インナパッド
4b・・・アウタパッド
5・・・ディスクロータ
6・・・マウンティング
7・・・裏金
7a・・・裏金7のピストン3側の面
7b・・・裏金7のディスクロータ5側の面
8・・・摩擦材
9・・・突起
10・・・シール部材
11・・・摩擦面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ピストンに押圧され、前記ピストンとは反対側に突出する突起を有している裏金と、
前記裏金の前記ピストンとは反対側に設けられ、前記ピストンのディスクロータ側への移動によって当該ディスクロータに当接される摩擦材と、を備え、
前記裏金の突起は、前記摩擦材が摩耗により摩耗限界量以下の厚さになると当該摩擦材から露出するように、前記摩擦材によって少なくとも前記ディスクロータ側が覆われていることを特徴とするブレーキパッド。
【請求項2】
前記突起は、その一部が前記摩擦材の外縁から露出していることを特徴とする請求項1に記載のブレーキパッド。
【請求項3】
前記突起は、前記裏金の前記ディスクロータ径方向の中央からずれて、配置されていることを特徴とする請求項2に記載のブレーキパッド。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−159141(P2012−159141A)
【公開日】平成24年8月23日(2012.8.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−19557(P2011−19557)
【出願日】平成23年2月1日(2011.2.1)
【出願人】(301065892)株式会社アドヴィックス (1,291)
【Fターム(参考)】