説明

ブレーキ力検出装置

【課題】 ブレーキをかけた方向にかかわらず常に正確なブレーキ力を検出可能なブレーキ力検出装置を提供することである。
【解決手段】 ブレーキ力検出装置であって、キャリパブラケットに生じるブレーキ時の歪を検出する歪ゲージと、歪ゲージの検出値からブレーキ力を算出するブレーキ力算出手段と、今回のブレーキが前進状態におけるブレーキか、後退状態におけるブレーキかを判別する前進・後退ブレーキ状態判別手段とを含んでいる。ブレーキ力算出手段は、前回のブレーキと今回のブレーキが同一方向の場合は、前回のブレーキと今回のブレーキが反対方向の場合に対して、同一の検出値に対して算出されるブレーキ力が低くなるように補正する補正手段を含んでいる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ディスクブレーキによるブレーキ力(以下、制動力とも言う。)を検出するブレーキ力検出装置に関する。
【背景技術】
【0002】
車両の制動制御を行う場合には、制動力が重要な情報の一つである。例えば、ブレーキをかけている時、実際にかかっている制動力が検出できれば、容易に路面の状態を推測することができる。路面の状態が判れば、ABS制御(アンチスキッドブレーキシステム制御)をより正確に行え、安全に短い距離で停止できるようになる。
【0003】
また、車両旋回時又は低摩擦係数(μ)の路面等においてブレーキをかけた時、各車輪にかかる制動力を検出できれば、各車輪の制動力を個別に制御できるようになり、車両の走行制御をより安全に行うことができるようになる。
【0004】
従来は、ディスクブレーキの摩擦パッドの固定支持体の支持係合部にロードセルを設けたり、或いは歪ゲージを貼付したりすることにより、ブレーキ力を検出するディスクブレーキが開発されている。
【0005】
しかし、摩擦パッドの付近は、摩擦パッドとブレーキディスク間の摩擦により発生する熱により高温になり易く、耐熱性、耐環境性、寿命等を考慮すると、ロードセルや歪ゲージの現在の性能では車載部品として不適当である。
【0006】
そこで、熱的影響を受けにくい制動力測定装置が特開平6−123665号で提案されている。この公開公報に開示された制動力測定装置は、ブレーキキャリパとナックルアームの間に介装され、略垂直な一対の梁を有する支持部材と、梁の変位を検出する検出手段とを備えて構成される。
【特許文献1】特開平6−123665号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述した特許文献1記載の制動力測定装置によると、熱的影響を受けにくいという利点があるが、制動力測定装置の断面がH型であるため、キャリパブラケットとナックルとの間のブレーキディスク軸方向の距離が大きくなり、測定装置が大型化してしまうという問題がある。また、二つの梁の間に変位検出装置を配置するのも難しい。
【0008】
さらに、特許文献1記載の制動力測定装置では、車両の前進時と後退時とで、ブレーキ力による変形が逆方向に作用するため、歪も引張、圧縮の両方向に生じ、センサ出力のゼロ点補正が困難であるなど検出出力の安定化の課題がある。
【0009】
そこで、本出願人は、センサ出力のゼロ点補正が容易で検出出力の安定化が可能なブレーキ力検出装置を先に提案した(特願2006−252973)。この先願のブレーキ力検出装置によると、センサプレートが連結部に生じる引張方向の変形を受けるように連結部に取り付けられているため、車両の前進時及び後退時のいずれもブレーキ力によるセンサプレートの変形は引っ張りの一方向であり、センサ出力のゼロ点補正が容易となり、検出出力の安定化を図ることができる。
【0010】
この先願のブレーキ力検出装置によると、前進及び後退の両方向で正確なブレーキ力検出を行い得るが、前回のブレーキと今回のブレーキが同一進行方向の場合と反対の進行方向の場合とで、歪検出手段に作用する残留応力が異なる場合があり、その残留応力が検出値に表れ、同じブレーキ力であっても歪検出手段の検出値がばらつくという問題がある。
【0011】
よって、本発明の目的は、前回のブレーキと今回のブレーキとで進行方向が同じ場合と反対の場合に、残留応力による検出値の変化を適切に補正することのできるブレーキ力検出装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明によると、車輪を回転可能に支持するとともに、サスペンションによって車体に支持される車輪支持体と、車輪とともに回転するブレーキディスクと、該ブレーキディスクの両側に配置される一対の摩擦パッドと、前記摩擦パッドを前記ブレーキディスクに向けて押動する前記ブレーキディスクの軸線と平行な方向に進退する押動部材を内蔵するブレーキキャリパと、前記摩擦パッドの前記ブレーキディスクの円周方向の両側で前記摩擦パッドを支持するとともに、前記ブレーキキャリパを支持し、前記車輪支持体に固定されたキャリパブラケットと、を備えたブレーキ装置のブレーキ力検出装置であって、前記キャリパブラケットに生じるブレーキ時の歪みを検出する歪検出手段と、該歪検出手段の検出値からブレーキ力を算出するブレーキ力算出手段と、今回のブレーキが前進状態におけるブレーキか、後退状態におけるブレーキかを判別する前進・後退ブレーキ状態判別手段とを具備し、前記ブレーキ力算出手段は、前回のブレーキと今回のブレーキが同一方向の場合は、前回のブレーキと今回のブレーキが反対方向の場合に対して、同一の検出値に対して算出されるブレーキ力が低くなるように補正する補正手段を含んでいることを特徴とするブレーキ力検出装置が提供される。
【0013】
尚、本出願においては、路面と平行な方向で車軸と直角な方向に発生するブレーキ力及び車軸周りに発生するブレーキトルクを総称してブレーキ力と定義する。
【発明の効果】
【0014】
本発明によると、ブレーキ力算出手段が、前回のブレーキと今回のブレーキが同一方向の場合は、前回のブレーキと今回のブレーキが反対方向の場合に対して、同一の検出値に対して算出されるブレーキ力が低くなるように補正する補正手段を含んでいるので、残留応力による検出値の変化を適切に補正することができ、常に正確なブレーキ力を検出することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明のブレーキ力検出装置の一例について説明する。図1はブレーキ力検出装置を具備したディスクブレーキの外観斜視図である。図2は図1の左側面図である。
【0016】
図1及び図2に示すように、ブレーキディスク(ディスクロータ)2は図示しない車輪に固定されており、車輪とともに回転する。4はナックル(車輪支持体)であり、車輪を回転可能に支持するとともに、図示しないサスペンションを介して車体に連結されている。
【0017】
8はキャリパブラケットであり、ボルト10,12によりナックル4に取り付けられている。キャリパブラケット8は、ブレーキディスク2の回入側及び回出側の両側でブレーキディスク2の軸方向両側に配置される一対の摩擦パッド18,20を支持している。
【0018】
キャリパブラケット8には、2本のボルト14,16によりブレーキキャリパ6に固定された2本のスライドピン15,17が摺動可能に嵌合されており、このブレーキキャリパ6は、図3に示すように、ブレーキディスク2の軸線と平行な方向に進退して摩擦パッド18,20をブレーキディスク2に向けて押し付けるピストン(押動部材)24を内蔵している。
【0019】
ブレーキキャリパ6はホイールシリンダ22を一体的に有しており、ホイールシリンダ22内にはピストン24が嵌合されている。ピストン室26には、液圧供給口28を介してブレーキマスタシリンダからの液圧が供給される。
【0020】
ブレーキディスク2はハブ3に連結されている。液圧供給口28を介してブレーキマスタシリンダから液圧がピストン室26内に供給されると、ピストン24が図3で左方向に押し出されてパッド18がブレーキディスク2に押し付けられる。
【0021】
ピストン24がパッド18をブレーキディスク2に押し付けた反力でブレーキキャリパ6が右方向に移動し、反対側のパッド20もブレーキディスク2に押し付けられ、ブレーキディスク2の回転を制動する。
【0022】
図4は本発明が適用可能なブレーキ力検出装置の要部を示している。図5は図4の5−5線断面図、図6は図4の平面図である。図6を参照すると明らかなように、キャリパブラケット8は一対のブレーキ荷重受け部8a,8bと、ブレーキ荷重受け部8a,8bを連結する内側連結部(インナーブリッジ部)8cと、外側連結部(アウターブリッジ部)8dとから構成される。
【0023】
キャリパブラケット8の内側連結部8cのブレーキディスク2の半径方向外側側面には凹部55が形成されている。この凹部55に一対のボルト58,60によりセンサプレート56が固定されている。
【0024】
図6に示すように、センサプレート56には歪ゲージから成るブレーキトルクセンサ48が貼付されており、ブレーキトルクセンサ48はその出力を増幅するアンプ50に接続されている。
【0025】
アンプ50の出力はブレーキ力算出手段52に入力され、歪ゲージ48の検出値からブレーキ力が算出される。後で詳細に説明するように、ブレーキ力算出手段52は前回のブレーキと今回のブレーキが同一方向の場合は、前回のブレーキと今回のブレーキが反対方向の場合に対して、同一の検出値に対して算出されるブレーキ力が低くなるように補正する補正手段54を含んでいる。
【0026】
車両前進時にブレーキがかけられた場合には、パッド18,20がブレーキディスク2を圧接しながらブレーキディスクが回転するため、パッド18,20がブレーキディスク2に引き摺られてブレーキディスクの回転方向に移動し、キャリパブラケット8のブレーキ荷重受け部8bに圧接する。
【0027】
キャリパブラケット8はネジ穴32,34にボルト10,12を螺合することによりナックル4に固定されているため、内側連結部8cのブレーキディスク2の半径方向外側側面に固定されたセンサプレート56には引張荷重が発生し、この引張荷重によりセンサプレート56には引張方向の変形が生じる。
【0028】
この変形はブレーキトルクセンサ48により検出され、ブレーキトルクセンサ48に接続されたアンプ50でブレーキトルクセンサ48の出力を増幅することにより、センサプレート56の歪量に基づいて制動力が検出される。
【0029】
センサプレート56の歪は、ブレーキトルクがキャリパブラケット8のブレーキ荷重受け部8b及び内側連結部8cを介して伝達されたときにのみ発生するため、上下力や横方向の力に影響され難く、精度よくブレーキ力を検出可能である。
【0030】
車両後退時にブレーキがかけられた場合には、ブレーキディスク2は前進時と反対方向に回転するため、パッド18,20はブレーキディスク2に引き摺られてブレーキ荷重受け部8aに圧接する。
【0031】
よって、後退時にもネジ穴32,34を結ぶ線よりもブレーキディスク2の半径方向外側の内側連結部8cには引張荷重が発生する。この引張荷重により、センサプレート56は引張方向の変形を受け、ブレーキトルクセンサ48によりセンサプレート56の変形量に基づいてブレーキトルクが検出される。
【0032】
よって、車両前進時及び後退時のいずれも、ブレーキ力によるセンサプレート56の変形は引っ張りの一方向であるため、センサ出力のゼロ点補正が容易となり、検出出力の安定化を図ることができる。
【0033】
上述したブレーキ力検出装置では、後退時にブレーキがかけられたときの歪ゲージから成るブレーキトルクセンサ48の出力は、図7に示すように前進時にブレーキがかけられたときのブレーキトルクセンサ48の出力と縦軸について対称となる。
【0034】
よって、前進時には歪ゲージから成るブレーキトルクセンサ48が引張方向の変形を受け、後退時には圧縮方向の変形を受ける場合に比較して、ブレーキトルクセンサ48の分解能を約2倍に向上することができる。
【0035】
ところで、上述したようなブレーキ力検出装置でセンサプレートの歪を検出すると、前回のブレーキと今回のブレーキが同一方向の場合と逆方向の場合とで、歪ゲージ(ブレーキトルクセンサ)に作用する残留応力が異なる場合があり、その残留応力が検出値に表れ、同じブレーキ力であっても歪ゲージの検出値がばらつくという不具合があることを見出した。
【0036】
図8のフローチャートを参照して、このような不具合を解消した本発明実施形態に係るブレーキ力検出装置について説明する。まず、ステップS10で今回のブレーキが前回と逆方向か否かを判定する。同一方向と判定された場合には、ステップS11へ進んで、歪−トルク変換マップAを使用して、歪ゲージ48の検出値をブレーキトルクに変換する。
【0037】
ステップS10が肯定判定の場合、即ち今回のブレーキと前回のブレーキが逆方向の場合には、ステップS12へ進んで歪−トルク変換マップBを使用して、歪ゲージ48の検出値をブレーキトルクに変換する。
【0038】
歪−トルク変換マップAでは、ブレーキの作動する方向が前回と今回で同一方向であるので、センサプレート56に残留応力が残っているため、歪が小さい状態ではブレーキトルクを低く算出する。
【0039】
一方、歪−トルク変換マップBでは、前回のブレーキと今回のブレーキは逆方向であるので、残留応力の影響がそれ程ないため、歪が小さい領域では歪をブレーキトルクに直線状に変換している。
【0040】
尚、残留応力の影響は、ブレーキトルク、即ち歪が小さい領域で顕著であるので、全領域で補正するのではなく歪の小さい領域に限定して補正しても良い。また、残留応力の大きさは前回の(乃至は前回を含む過去の)ブレーキトルクの大きさに関係するので、例えば歪―トルク変換マップAを、ブレーキ作動方向が前回と今回で同一方向、且つ前回の(乃至は前回を含む過去の)ブレーキトルクの大きさが、残留応力が比較的大きいと判断し得る値に設定される所定値以上の時に用いても良い。更に、これらを組み合わせても良い。
【0041】
ステップS11及びステップS12で歪ゲージ48の検出値をブレーキトルクに変換したあと、ステップS13へ進んでブレーキトルクからブレーキ力を求める。
【0042】
このように、本発明実施形態のブレーキ力検出装置では、前回のブレーキと今回のブレーキが同一方向の場合と逆方向の場合とで、歪−トルク変換マップを持ち替えるように制御しているので、残留応力による検出値の変化を適切に補正することができ、精度の高いブレーキ力の検出を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】本発明のブレーキ力検出装置が適用可能なディスクブレーキの外観斜視図である。
【図2】図1のディスクブレーキの左側面図である。
【図3】ディスクブレーキの概略断面図である。
【図4】歪ゲージ(ブレーキトルクセンサ)を取り付けたキャリパブラケットの正面図である。
【図5】図4の5−5線断面図である。
【図6】図4の平面図である。
【図7】ブレーキトルクと歪ゲージ(ブレーキトルクセンサ)出力の関係を示す図である。
【図8】本発明のブレーキ力検出装置の要部を示すフローチャートである。
【符号の説明】
【0044】
2 ブレーキディスク(ディスクロータ)
4 ナックル
6 ブレーキキャリパ
8 キャリパブラケット
8a,8b ブレーキ荷重受け部
8c 内側連結部(インナーブリッジ)
8d 外側連結部(アウターブリッジ)
18,20 パッド
48 歪ゲージ(ブレーキトルクセンサ)
56 センサプレート

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車輪を回転可能に支持するとともに、サスペンションによって車体に支持される車輪支持体と、
車輪とともに回転するブレーキディスクと、
該ブレーキディスクの両側に配置される一対の摩擦パッドと、
前記摩擦パッドを前記ブレーキディスクに向けて押動する前記ブレーキディスクの軸線と平行な方向に進退する押動部材を内蔵するブレーキキャリパと、
前記摩擦パッドの前記ブレーキディスクの円周方向の両側で前記摩擦パッドを支持するとともに、前記ブレーキキャリパを支持し、前記車輪支持体に固定されたキャリパブラケットと、
を備えたブレーキ装置のブレーキ力検出装置であって、
前記キャリパブラケットに生じるブレーキ時の歪みを検出する歪検出手段と、
該歪検出手段の検出値からブレーキ力を算出するブレーキ力算出手段と、
今回のブレーキが前進状態におけるブレーキか、後退状態におけるブレーキかを判別する前進・後退ブレーキ状態判別手段とを具備し、
前記ブレーキ力算出手段は、
前回のブレーキと今回のブレーキが同一方向の場合は、前回のブレーキと今回のブレーキが反対方向の場合に対して、同一の検出値に対して算出されるブレーキ力が低くなるように補正する補正手段を含んでいることを特徴とするブレーキ力検出装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2008−247051(P2008−247051A)
【公開日】平成20年10月16日(2008.10.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−87045(P2007−87045)
【出願日】平成19年3月29日(2007.3.29)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】