説明

ブレーキ操作入力装置

【課題】急ブレーキ時に運転者の意思に沿った制動信号を素早く取り出すことを可能となしてブレーキの踏み遅れを防止することができるようにしたブレーキ操作入力装置を提供する。
【解決手段】ブレーキ操作部材2の回転速度の増加に応じてそのブレーキ操作部材2の回転抵抗を増加させる抵抗制御装置を付加した。その抵抗制御装置は、ブレーキ操作部材と共に回転する回転板24aと固定板24bとの間に電気粘性流体24dを入り込ませた抵抗調整器24と、ブレーキ操作部材2の回転角度を検出する角度センサ9と、その角度センサからの回転角度検出信号と経過時間からブレーキ操作部材2の操作速度を演算して電気粘性流体24dへの通電電流値を制御する電子制御装置7とで構成されるものなどが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、ブレーキ操作に応じた電気信号を発生させ、その電気信号に基づいて液圧アクチュエータや電動アクチュエータを制御して制動力を発生させる、所謂バイワイヤー方式の車両用ブレーキシステムに採用するのに適したブレーキ操作入力装置に関する。
【背景技術】
【0002】
バイワイヤー方式のブレーキシステムに用いるブレーキ操作入力装置は、ブレーキ操作に応じて回転運動するブレーキペダルなどのブレーキ操作部材と、そのブレーキ操作部材に、操作力に応じたストロークを付与するストロークシミュレータとを組み合わせて構成される。
【0003】
ストロークシミュレータは、スプリングやゴムなどの弾性体の反発力を利用してブレーキ操作部材に反力を加えるものが多い。そのブレーキ操作入力装置のストロークシミュレータとして、例えば、下記特許文献1が開示している自動車のペダル装置のダンパを使用することが考えられる。この特許文献1のダンパは、運転者のペダル操作疲労を減少させるために、ペダルの回動時に摩擦抵抗を発生させ、そのヒステリシスを利用してペダルの操作量(操作ストローク)が所定値を超えた後のペダル保持力を軽減するようにしたものである。このダンパは、ペダルの回動時に発生する摩擦抵抗が、ペダルの操作ストロークが所定量に達するまでは操作ストロークの増加に応じて増加し、そのために操作ストロークの増加に伴って剛性感が高まるので、操作フィーリングの改善が期待できる。
【0004】
しかしながら、その特許文献1のダンパは、摩擦抵抗の変化が、ペダルの回転速度に応じて起こるのではなく、操作量に応じて起こるので、同じ大きさの制動力を得ようとするならば、通常制動時、緊急制動時(いわゆる急ブレーキ時)の区別なく、同一の操作ストロークを必要とする。そのために、緊急時にはブレーキの操作遅れ(いわゆる踏み遅れ)が発生する可能性がある。
【特許文献1】特開2001−180457号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
この発明は、急ブレーキ時に運転者の意思に沿った制動信号を素早く取り出すことを可能となしてブレーキの踏み遅れを防止することができるようにしたブレーキ操作入力装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の目的を達成するため、この発明においては、ブレーキ操作入力装置に、ブレーキ操作部材の回転速度の増加に応じて前記ブレーキ操作部材の回転抵抗を増加させる抵抗制御装置を付加した。
【0007】
前記抵抗制御装置は、具体的には以下に列挙するようなものが考えられる。
(1)ブレーキ操作部材と共に回転する回転部材と固定部材との間に粘性流体などの粘性体を入り込ませ、その粘性体の粘性抵抗を利用してブレーキ操作部材の回転速度増加時に前記回転抵抗を増加させるように構成されたもの。
(2)ブレーキ操作部材と共に回転する回転子を備えたモータで構成され、このモータの逆起電力を利用してブレーキ操作部材の回転速度増加時に前記回転抵抗を増加させるように構成されたもの。
(3)ブレーキ操作部材と共に回転する回転板と固定板との間に電気粘性流体を入り込ませて構成される抵抗調整器と、前記ブレーキ操作部材の回転角度を検出する角度センサと、前記角度センサからの回転角度検出信号と時間から前記ブレーキ操作部材の操作速度を演算して前記電気粘性流体への通電電流値を制御する電子制御装置とで構成されるもの。
なお、上記(3)の抵抗制御装置に採用する電子制御装置は、前記電気粘性流体の温度をその電気粘性流体の電気抵抗値から推定し、温度変化による電気粘性流体の粘性変化分を補正する機能を持つものにしてもよく、この機能を付与すると性能面での信頼性が高まる。
【発明の効果】
【0008】
この発明のブレーキ操作入力装置は、ブレーキ操作部材の回転速度が速くなるほど回転抵抗が増加して小さな操作ストロークでも操作力(即ち反力)が増加する。その反力を、踏力センサなどを用いて検出すれば、ブレーキ操作部材が急速に操作される緊急制動時(急ブレーキ時)の制動用信号を素早く取り出して制動力の制御指令を出す電子制御装置(ECU)に伝えることができ、検出した信号の値に応じた制動力を発生させてブレーキの踏み遅れを防止することが可能になり、ブレーキの応答性が高まる。
【0009】
また、緊急制動時(急ブレーキ時)に操作ストロークの変化に対する反力の変化の割合を高めると、剛性感のある操作フィーリングが得られるので、運転者に心理的な安心感を与えることも可能になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、この発明の実施の形態を添付図面の図1乃至図3に基づいて説明する。図1は、第1実施形態のブレーキ操作入力装置1を示している。この第1実施形態のブレーキ操作入力装置1は、ブレーキ操作部材(図のそれはブレーキペダル)2と、このブレーキ操作部材2に付随させたストロークシミュレータ3と、抵抗調整器4と、踏力センサなどの荷重センサ5とで構成されている。
【0011】
ブレーキ操作部材2は、このブレーキ操作部材2に固定されてブレーキ操作部材2が回転するときに共に回転する支軸2aを有し、その支軸2aをブラケット6で支持してブラケット6に回転可能に取り付けている。ストロークシミュレータ3は、スプリング(図のそれはつるまきバネ)を用いており、操作されたブレーキ操作部材2に反力を加える。ブレーキ操作部材2に作用するその反力は、抵抗調整器4の働きにより操作速度に応じて変化する。
【0012】
抵抗調整器4は、支軸2aに間隔をあけて並列に取り付けた複数の回転板(回転円盤)4aと、各回転板と交互配列にして設けた固定板(固定円盤)4bと、回転板4aと固定板4bを包囲するハウジング4cと、このハウジング4c内に封入した粘性流体4dとで構成されている。ハウジング4cはブラケット6に固定されている。図のハウジング4cは、ブラケット6の一部を片側の端壁として共用したものになっているが、両端に端壁を有するものでもよい。
【0013】
粘性流体4dは、粘性のあるグリースやスラリーなど簡単に入手できるものでよい。ハウジング4c内にこの粘性流体4dを封入すると、この粘性流体4dが回転板4aと固定板4b間に入り込み、回転板4aが回転するときに摩擦力が発生する。その摩擦力が回転抵抗となって操作ストロークが小さいときにもブレーキ操作部材2に加える操作力が大きくなる。この粘性流体4dの粘性を利用した回転抵抗は、回転板4aの回転速度が速くなるほど大きくなるので、そのときの操作力(反力)を荷重センサ5で検出する。これにより、検出信号の値に応じた制動力を発生させることが可能になる。
【0014】
図1の7は、ブレーキ装置を制御する電子制御装置である。荷重センサ5で検出した信号をこの電子制御装置7に取り込み、ここから制動力発生装置8に指令を出して取り込んだ検出信号の値に応じた制動力を発生させる。これにより、ブレーキ操作部材2が急速に操作されたとき(急ブレーキ時)の応答性を高めることができる。
【0015】
図2は第2実施形態を示している。この第2実施形態のブレーキ操作入力装置11は、
図1の粘性流体を使用した抵抗調整器4に代えてモータの逆起電力を利用する抵抗調整器14を用いている。その他の構成は図1の第1実施形態と同じであるので、図1と同一要素は同一符号を付して説明を省く。
【0016】
第2実施形態のブレーキ操作入力装置11に採用した抵抗調整器14は、支軸2aに固定したモータ回転子14aと、このモータ回転子14aの周囲に配置した永久磁石14bと、ブラケット6に固定したハウジング14cとで構成されたモータである。ブレーキ操作部材2の回転に伴ってモータ回転子14aが回転すると、回転数に応じた逆起電力が抵抗調整器(モータ)14に発生する。この逆起電力の値に応じた制動力を、電子制御装置(図示せず)から制動装置(これも図示せず)に指令を出して発生させる。これにより、粘性抵抗を利用した第1実施形態と同様の効果を得ることができる。また、第1実施形態のように荷重センサ5を用いてもよい。この場合、逆起電力がブレーキ操作部材2の操作速度(ブレーキペダルの踏み込み速度)によって変化し、そのときの操作力を荷重センサ5で検出する。これにより、検出信号に応じた制動力を発生させることができる。
【0017】
図3は第3実施形態である。この第3実施形態のブレーキ操作入力装置21は、電気粘性流体を使用した抵抗調整器24を設けている。その抵抗調整器24は、支軸2aに間隔をあけて並列に取り付けた複数の回転板24aと、各回転板と交互配列にして設けた固定板24bと、この回転板24a、固定板24bを包囲するハウジング24cと、電気粘性流体24dとで構成されている。この抵抗調整器24を設けた第3実施形態のブレーキ操作入力装置21は、図1の第1実施形態のブレーキ操作入力装置1の粘性流体4dを電気粘性流体24dに置き換え、さらに、ブレーキ操作部材2の回転角を検出する角度センサ9を追設したものと考えてよい。
【0018】
電気粘性流体24dは、絶縁油、例えば、シリコーンオイルなどにわずかに水を含んだシリカ粒子、ポリメタクリル酸ナトリウム粒子、澱粉などの誘電性の微粒子を分散させた懸濁液などが知られており、そのようなものでよい。この電気粘性流体24dは通電すると微粒子が電解方向に並び微粒子間の力で粘性を作り出す。その粘性は通電する電流値によって変わるので、急ブレーキ時に粘性を高める制御を行って制動の応答性を高めることができる。
【0019】
なお、この第3実施形態のブレーキ操作入力装置21は、角度センサ9から操作角度の検出信号が電子制御装置7に入力され、その信号と経過時間から電子制御装置7がブレーキ操作部材2の操作速度を演算して電気粘性流体24dに通電する電流値を制御する。従って、電子制御装置が不可欠の要素となるが、その電子制御装置は制動力制御用のものを利用できるのでコストに悪影響を及ぼすことはない。
【0020】
第3実施形態におけるブレーキ操作部材2の操作力は、荷重センサ5による検出と、ブレーキ操作部材2(ブレーキペダル)の回転速度と回転角度から算出する方法がある。
【0021】
その操作力を荷重センサ5によって検出する場合、ブレーキ操作部材2の角度センサ9から、操作角度の検出信号が電子制御装置7に入力され、その信号と経過時間から電子制御装置7がブレーキ操作部材2の操作速度を演算して電気粘性流体24dに通電する電流値を制御する。これにより電気粘性流体24dの粘性が変化し、そのときの操作力を荷重センサ5で検出する。これにより、検出信号に応じた制動力を発生させることができる。
【0022】
一方、ブレーキ操作部材2の操作力をブレーキ操作部材2の回転速度と回転角度から算出する場合は、ブレーキ操作部材2の角度センサ9から操作角度の検出信号が電子制御装置7に入力され、その信号と経過時間から電子制御装置7がブレーキ操作部材2の操作速度を演算して電気粘性流体24dに通電する電流値を制御する。その電流値と角度センサ9の操作角度の検出信号から運転者の操作力を演算し、ブレーキの検出信号とすることで検出信号に応じた制動力を発生させることができる。
【0023】
次に、粘性流体は環境温度の変化による粘性変化が避けられず、その粘性変化によって制動の精度に誤差が発生する。その精度誤差を抑えるために、粘性変化分を補正した制御を行うのが好ましい。
【0024】
電気粘性流体24dの電気抵抗値から電気粘性流体の温度を推定するプログラムを電子制御装置7にインプットしておき、温度変化による電気粘性流体の粘性変化分を補正した通電電流を決定して電気粘性流体24dに通電する構成にしておけば、温度変化による制動誤差が小さく抑えられてブレーキ装置の制動性能が安定し、運転者が感じる操作フィーリングもより良いものになる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】第1実施形態のブレーキ操作入力装置の概要を示す断面図
【図2】第2実施形態のブレーキ操作入力装置の概要を示す断面図
【図3】第3実施形態のブレーキ操作入力装置の概要を示す断面図
【符号の説明】
【0026】
1、11、21 ブレーキ操作入力装置
2 ブレーキ操作部材
2a 支軸
3 ストロークシミュレータ
4、14、24 抵抗調整器
4a、24a 回転板
4b、24b 固定板
4c、14c、24c ハウジング
4d 粘性流体
24d 電気粘性流体
14a 回転子
14b 永久磁石
5 荷重センサ
6 ブラケット
7 電子制御装置
8 制動力発生装置
9 角度センサ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ブレーキ操作に応じて支点を中心に回転運動するブレーキ操作部材を有し、そのブレーキ操作部材の回転速度の増加に応じて前記ブレーキ操作部材の回転抵抗を増加させる抵抗制御装置を付加したブレーキ操作入力装置。
【請求項2】
前記抵抗制御装置が、前記ブレーキ操作部材と共に回転する回転部材と固定部材との間に粘性体を入り込ませ、その粘性体の粘性抵抗を利用してブレーキ操作部材の回転速度増加時に前記回転抵抗を増加させるように構成されたことを特徴とする請求項1に記載のブレーキ操作入力装置。
【請求項3】
前記抵抗制御装置が、前記ブレーキ操作部材と共に回転する回転子を備えたモータで構成され、このモータの逆起電力を利用してブレーキ操作部材の回転速度増加時に前記回転抵抗を増加させるように構成されたことを特徴とする請求項1に記載のブレーキ操作入力装置。
【請求項4】
前記抵抗制御装置が、前記ブレーキ操作部材と共に回転する回転板と固定板との間に電気粘性流体を入り込ませて構成される抵抗調整器と、前記ブレーキ操作部材の回転角度を検出する角度センサと、前記角度センサからの回転角度検出信号と経過時間から前記ブレーキ操作部材の操作速度を演算して前記電気粘性流体への通電電流値を制御する電子制御装置とで構成されることを特徴とする請求項1に記載のブレーキ操作入力装置。
【請求項5】
前記電子制御装置に、前記電気粘性流体の温度をその電気粘性流体の電気抵抗値から推定し、温度変化による電気粘性流体の粘性変化分を補正する機能を持たせた請求項4に記載のブレーキ操作入力装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2006−264579(P2006−264579A)
【公開日】平成18年10月5日(2006.10.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−87959(P2005−87959)
【出願日】平成17年3月25日(2005.3.25)
【出願人】(301065892)株式会社アドヴィックス (1,291)
【Fターム(参考)】