説明

ブローバイガス用オイルセパレータ

【課題】圧力損失の増大およびオイルセパレータの容量の拡大をすることなく、より小粒径のオイルミストを捕集することができるオイルセパレータを提供する。
【解決手段】ブローバイガスに含まれるオイルミストを捕集するオイルセパレータ20は、ブローバイガスの流入口22に面して配置され該流入口22から流入するブローバイガスが衝突する衝突壁26と、該衝突壁26に連なる壁面により袋状に前記流入口22の一側に形成される滞留室28と、前記流入口22の他側からブローバイガスの流出口24への経路に形成されるオイルミストを捕集する捕集室30とを備え、前記滞留室28は、ブローバイガスの流れがサイクロンを形成する室として形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はブローバイガス用のオイルセパレータに関する。より詳しくは、自動車エンジン等の内燃機関のエンジンクランクケース内に発生するブローバイガス中のオイルミストを捕集するオイルセパレータの構造に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車のエンジン等の内燃機関においては、その稼働時にピストンリングとシリンダ壁の隙間から漏出するブローバイガスを大気中に排出することは大気汚染の原因になるため、いわゆるPCV(ポジティブクランクケースベンチレーション)システムによりブローバイガスを吸気系に戻して再燃焼させている。
ここで、ブローバイガス中にはエンジンオイル等の潤滑油が微粒化されたオイルミストが含まれているため、ブローバイガス中のオイルミストが吸気系に流出するのを防止する必要がある。そこで、ブローバイガス中のオイルミストを捕集する手段として、シリンダヘッドカバーの内側やクランクケースと吸気管路を連結する連結流路の途中にオイルセパレータが設けられている。
【0003】
オイルセパレータの方式としては、慣性衝突式、ラビリンス(迷路型)式、及びサイクロン式がある。
慣性衝突式はオイルセパレータの内部にブローバイガスの流れを遮る衝突板を設け、衝突板にブローバイガスを衝突させてブローバイガスに含まれるオイルミストを衝突板に付着させて捕集する方式である。また、ラビリンス式は箱型の装置の中に仕切り板を設けて、オイルミストの浮遊距離を長くしてオイルミストが自重で落下することを促す方式である。仕切り板を設けることでブローバイガスの流速が増して、仕切り板にオイルミストが衝突し易くなるので仕切り板にオイルミストを付着させて捕集する効果もある。よって、ラビリンス式は慣性衝突式を内包した方式と考えることができる。慣性衝突式とラビリンス式はオイルミストの捕集の方法に共通部分があり、オイルセパレータの構造の共通化が容易なため併用されることが多い。
一方サイクロン式は、ブローバイガスを円筒状のサイクロン室内で旋回させ、遠心分離作用によってブローバイガスに含まれるオイルミストを分離する方式である。サイクロン式はオイルミストの捕集の方法が慣性衝突式やラビリンス式と異なるため、サイクロン式のオイルセパレータの構造は、オイルミストの捕集方法の差異に起因して、慣性衝突式やラビリンス式のものとは異なったものとなっている。
【0004】
図6に従来技術によるラビリンス式のオイルセパレータ60の断面図を示す。オイルセパレータ60の下部の流入口62から流入したブローバイガスは仕切り板65a、65b、65cの間を仕切り板や内壁面66に衝突を繰り返して流出口63から流出する。このとき、ブローバイガス中のオイルミストは仕切り板や内壁面に衝突して仕切り板や内壁面に付着しブローバイガスから分離される。ブローバイガスから分離されたオイル分は仕切り板や内壁面を伝い、あるいはオイルセパレータ60の内部を落下してオイルセパレータ60の底に溜まり、回収口64から回収される。
【0005】
従来技術によるオイルセパレータについては、特開平9−88544号公報(特許文献1)に、ラビリンス式のものが開示されている。特許文献1には、図6で紹介した従来技術に対して、仕切り板の開口側端部をブローバイガスの流れる下流に折り曲げた形に変更し、ブローバイガスの流れに緩急の変化を与えてオイルミストの捕集効率を上げる方法が提案されている。
他に、ラビリンス式のオイルセパレータについて開示した文献としては、特開2000−274225号公報(特許文献2)がある。特許文献2には、図6で紹介した従来技術に対して、仕切り板を有孔板と無孔板を並べた構成に変更し、ブローバイガスの流れに乱れを生じさせてブローバイガスと仕切り板の接触面積を大きくし、ブローバイガスに含まれるオイルミストの分離率を向上させる方法が提案されている。
サイクロン式のオイルセパレータについて開示した文献としては、特開2001−246216号公報(特許文献3)がある。なお、特許文献3に記載されているバッフルプレートはブローバイガスのサイクロン室からの流出を抑制して旋回流の形成を容易にするものであって、慣性衝突式の衝突板やラビリンス式の仕切り板とは役割が異なる。
【特許文献1】特開平9−88544号公報
【特許文献2】特開2000−274225号公報
【特許文献3】特開2001246216号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、図6に示した従来技術によるラビリンス式のオイルセパレータでは、比較的大きい粒子径のオイルミストは仕切り板や内壁面に衝突してブローバイガスから分離されるが、より小粒径のオイルミストは仕切り板や内壁面に衝突せず、分離しにくい。
そこで、より小粒径のオイルミストを分離できるようにするためには、仕切り板同士の間隔を狭めてオイルミストの流速を上げたり、オイルセパレータの容量を大きくしオイルミストの浮遊距離を長くする必要がある。しかし、仕切り板同士の間隔を狭めることは圧力損失を増大してしまうという問題がある。また、エンジンのコンパクト化という観点から、オイルセパレータの容量を大きくすることは困難である。
そこで、本発明が解決しようとする課題は、圧力損失の増大およびオイルセパレータの容量の拡大をすることなく、より小粒径のオイルミストを捕集することができるオイルセパレータを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するため、本発明に係るブローバイガス用オイルセパレータは次の手段をとる。
まず、本発明の第1の発明に係るブローバイガス用オイルセパレータは、エンジンのクランクケース内に発生するブローバイガスに含まれるオイルミストを捕集するオイルセパレータであって、ブローバイガスの流入口に面して配置され該流入口から流入するブローバイガスが衝突する衝突壁と、該衝突壁に連なる壁面により袋状に前記流入口の一側に形成される滞留室と、前記流入口の他側からブローバイガスの流出口への経路に形成されるオイルミストを捕集する捕集室とを備え、前記滞留室は、ブローバイガスの流れがサイクロンを形成する室として形成されていることを特徴とする。
この第1の発明によれば、流入口から流入したブローバイガスに含まれるオイルミストは流入口に面して配置された衝突壁に衝突することにより衝突壁に付着して捕集される。そして、衝突壁に衝突し滞留室に流入したブローバイガスは、サイクロンを形成する室として形成された滞留室で旋回運動を生じる。そこで、滞留室に集まったブローバイガス中の小粒径のオイルミストは遠心力により大きな径のオイルミストに凝集され、凝集したオイルミストは滞留室の壁に付着して捕集される。さらに、滞留室で凝集した後に捕集室に流入したオイルミストおよび衝突壁に衝突して捕集室に流入したブローバイガスに含まれるオイルミストは捕集室の壁に付着して捕集される。
【0008】
次に、本発明の第2の発明は、上記第1の発明に係るブローバイガス用オイルセパレータであって、前記捕集室にラビリンスを形成する仕切り板が配置されていることを特徴とする。
この第2の発明によれば、上記第1の発明と同様の効果を得られる他に、滞留室で凝集した後に捕集室に流入したオイルミストおよび衝突壁に衝突して捕集室に流入したブローバイガスに含まれるオイルミストは、捕集室に配置された仕切り板に衝突し仕切り板に付着して捕集される。
【0009】
次に、本発明の第3の発明は、上記第1の発明に係るブローバイガス用オイルセパレータであって、前記衝突壁とオイルセパレータの内壁面が一体成形されていることを特徴とする。
この第3の発明によれば、第1の発明と同様の効果を得られる他に、衝突壁および滞留室を簡易に形成することができる。
【0010】
次に、本発明の第4の発明は、上記第2の発明に係るブローバイガス用オイルセパレータであって、前記衝突壁と前記仕切り板とオイルセパレータの内壁面が一体成形されていることを特徴とする。
この第4の発明によれば、第2の発明と同様の効果を得られる他に、衝突壁、滞留室および仕切り板を簡易に形成することができる。
【発明の効果】
【0011】
上記本発明の各発明によれば、次の効果が得られる。
まず、この第1の発明によれば、流入口から流入したブローバイガスに含まれるオイルミストは衝突壁に衝突することにより衝突壁に付着して捕集される。さらに、衝突壁に衝突したのち滞留室に集まったブローバイガス中の小粒径のオイルミストは遠心力により凝集されより大きな粒径のオイルミストとなり、滞留室の壁に付着して捕集される。さらに、滞留室で凝集した後に捕集室に流入したオイルミストおよび衝突壁に衝突して捕集室に流入したブローバイガスに含まれるオイルミストは捕集室の壁に付着して捕集される。よって、この第1の発明によれば、より小粒径のオイルミストを捕集することができる。
次に上述の第2の発明によれば、第1の発明と同様の効果を得られる他に、滞留室で凝集した後に捕集室に流入したオイルミストおよび衝突壁に衝突して捕集室に流入したブローバイガスに含まれるオイルミストは、捕集室に配置された仕切り板に衝突し仕切り板に付着して捕集される。このため、より小粒径のオイルミストを効率よく捕集することができる。
次に上述の第3の発明によれば、第1の発明と同様の効果を得られる他に、衝突壁および滞留室を簡易に構成することができる。
次に上述の第4の発明によれば、第2の発明と同様の効果を得られる他に、衝突壁、滞留室および仕切り板を簡易に構成することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明を実施するための最良の形態について説明する。
図1に本発明の一実施例である自動車エンジンに取り付けられるオイルセパレータ筐体10の外観斜視図を示す。オイルセパレータ筐体10はケーシング12と蓋体14の内部に独立した2系統のオイルセパレータを包含する構成となっており、流入口22と流出口24および流入口42と流出口44を備えている。なお、2系統のオイルセパレータを一筐体にまとめたのはオイルセパレータの配置の都合によるものであって、本発明のオイルセパレータにおいて必須の事項ではない。
図2にオイルセパレータ筐体10のケーシング12の上面図を示す。図2に示すとおり、ケーシング12の右側に第1のオイルセパレータ20が配置され、左側に第2のオイルセパレータ40が配置されている。
【0013】
第1のオイルセパレータ20は、前面中央の下部に水平方向に設けられたブローバイガスの流入口22と、ブローバイガスの流入口22に面して配置され流入口22から流入するブローバイガスが衝突する衝突壁26と、衝突壁26に連なる壁面により袋状に流入口22の左側に形成された滞留室28と、流入口22の右側からブローバイガスの流出口24への経路に形成されるオイルミストを捕集する捕集室30とを備えている。ブローバイガスの流出口24は、第1のオイルセパレータ20の左奥部の中段に水平方向に設けられており、捕集室30の最奥部に位置している。
【0014】
流入口22から第1のオイルセパレータ20の内部に流入したブローバイガスは、まず、流入口22に面して配置された衝突壁26に衝突する。ここで、ブローバイガスに含まれるオイルミストは衝突壁26に衝突して衝突壁26に付着し捕集される。そして、衝突壁26によって捕集されなかったオイルミストを含むブローバイガスは流入口22の左側に形成された滞留室28と流入口22の右側に形成された捕集室30に分岐して流入していく。
滞留室28は袋状に形成されており、ブローバイガスの流入によって流入口22側と衝突壁26側に圧力差が生じるので、サイクロンを形成する室として形成された滞留室28には反時計回りに旋回運動が生じる。そこで、滞留室28ではブローバイガスの旋回運動による遠心力により、衝突壁26によって捕集されなかった小粒径のオイルミストが凝集される。そして、凝集されたオイルミストは滞留室28の壁面に付着して捕集される。
【0015】
滞留室28には、新たに第1のオイルセパレータ20に流入し衝突壁26衝突したブローバイガスが供給されるため、滞留室28に一時的に滞留し旋回運動による遠心力により凝集されたオイルミストを含むブローバイガスは、流入口22の上方を通って捕集室30に流れ出していく。そして滞留室28で凝集され比較的大きい粒子径となったオイルミストは、捕集室30に配置された仕切り板32や第1のオイルセパレータ20の内壁面34に衝突して捕集される。
【0016】
図3に、第1のオイルセパレータ20内部におけるブローバイガスの流れを示す。Aは流入口22から流入するのブローバイガスの流れを示す。Bは滞留室28に流入したブローバイガスの滞留室28内での旋回運動を示す。Cは滞留室28での旋回運動による遠心力で凝集されたオイルミストを含むブローバイガスが滞留室28から捕集室30に流れ込む流れを示す。Dは捕集室30内でのブローバイガスの流れを示す。衝突壁26に衝突して滞留室28に流れ込むブローバイガスはA,B,C,Dの順に流れていく。また、衝突壁26に衝突してそのまま捕集室30に流れ込むブローバイガスはA,Dの順に流れていく。
【0017】
このように、実施例によれば、プローバイガス中の小粒径のオイルミストについても、滞留室28での旋回運動による遠心力でオイルミストが凝集され比較的大きい粒子径となるため、仕切り板32の間隔を狭めたり第1のオイルセパレータ20の容積を大きくすることなく、小粒径のオイルミストの捕集性能を高めることができる。
【0018】
第1のオイルセパレータ20の内壁面34、衝突壁26、滞留室28の壁面および仕切り板32は図2に示すように一枚の鉄板を折り曲げて一体成形されているので、滞留室28の形成や衝突壁26および仕切り板32の第1のオイルセパレータ20内部への取付けが容易である。
【0019】
オイルセパレータ筐体10の左側に配置された第2のオイルセパレータ40は、サイクロンを形成する室として形成された滞留室48で生じる旋回運動による遠心力で小粒径のオイルミストを凝縮させオイルミストを大粒径化させて捕集効率を高めるものであり、基本的な構成は第1のオイルセパレータ20と共通する。
ここで、第2のオイルセパレータ40の特徴は、流入口42が第2のオイルセパレータ40の底面に設けられており、ブローバイガスが下方から上方に向かって流れ込んでくる点にある。
【0020】
図4に第2のオイルセパレータ40内におけるブローバイガスの平面的な流れを示す。図5に図4のI−I断面で見たブローバイガスの上下方向の流れを示す。Aは流入口42から流入するブローバイガスの流れを示す。Bは滞留室48内でのブローバイガスの旋回運動を示す。Cは滞留室48での旋回運動による遠心力で凝集されたオイルミストを含むブローバイガスが滞留室48から捕集室50に流れ込む流れを示す。Dは捕集室50内でのブローバイガスの流れを示す。
流入口42から流入したブローバイガスは、流入口42に面した蓋体14の内側に衝突する。第2のオイルセパレータ40では、蓋体14の内側が衝突壁46の役割を果たす。また、ブローバイガスが下方から流れ込んでくるため、滞留室48で生じる旋回運動は上下方向となる。なお、第2のオイルセパレータ40では、内壁面54と仕切り板52とは別体で形成されて結合されている。
【0021】
この実施例では、オイルセパレータはケーシングと蓋体との組付体として2系統が内蔵された構成としているが、1系統のみの構成としても良い。また、ケーシングがシリンダヘッドカバーの内部に組付けられた構造、あるいは、シリンダヘッドカバーに一体化されている構造にしても良い。
なお、オイルセパレータの全体形状は実施例に限られるものではなく、本発明の思想の範囲で各種の形態とすることが可能である。
【0022】
本発明は、自動車のエンジンに取り付けられるオイルセパレータの他、自動車エンジン以外の内燃機関の内部で発生するブローバイガス中のオイルを分離するセパレータとしても適用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】一実施例におけるオイルミストセパレータ筐体の外観斜視図である。
【図2】一実施例におけるケーシングの上面図である。
【図3】第1のオイルセパレータ内におけるブローバイガスの流れを示す図である。
【図4】第2のオイルセパレータ内におけるブローバイガスの流れを示す図である。
【図5】図4のI−I断面で見たブローバイガスの流れを示す図である。
【図6】従来技術によるオイルセパレータの断面図である。
【符号の説明】
【0024】
10 オイルセパレータ筐体
12 ケーシング
14 蓋体
20 第1のオイルセパレータ
22 流入口
24 流出口
26 衝突壁
28 滞留室
30 捕集室
32 仕切り板
34 内壁面
40 第2のオイルセパレータ
42 流入口
44 流出口
46 衝突壁
48 滞留室
50 捕集室
52 仕切り板
54 内壁面


【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンのクランクケース内に発生するブローバイガスに含まれるオイルミストを捕集するオイルセパレータであって、
ブローバイガスの流入口に面して配置され該流入口から流入するブローバイガスが衝突する衝突壁と、該衝突壁に連なる壁面により袋状に前記流入口の一側に形成される滞留室と、前記流入口の他側からブローバイガスの流出口への経路に形成されるオイルミストを捕集する捕集室とを備え、
前記滞留室は、ブローバイガスの流れがサイクロンを形成する室として形成されていることを特徴とするオイルセパレータ。
【請求項2】
請求項1に記載のオイルセパレータであって、前記捕集室にラビリンスを形成する仕切り板が配置されていることを特徴とするオイルセパレータ。
【請求項3】
請求項1に記載のオイルセパレータであって、前記衝突壁とオイルセパレータの内壁面が一体成形されていることを特徴とするオイルセパレータ。
【請求項4】
請求項2に記載のオイルセパレータであって、前記衝突壁と前記仕切り板とオイルセパレータの内壁面が一体成形されていることを特徴とするオイルセパレータ。


【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate


【公開番号】特開2009−68471(P2009−68471A)
【公開日】平成21年4月2日(2009.4.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−240665(P2007−240665)
【出願日】平成19年9月18日(2007.9.18)
【出願人】(000185617)小島プレス工業株式会社 (515)
【Fターム(参考)】