説明

プラスチックボトル容器の製造方法

【課題】
プリフォームを延伸ブローするに際し、過延伸による白化や、局部的な延伸を防止してプリフォーム全体を均一かつ十分に延伸させ、これによって、ボトル全体が均一に薄肉化されたプラスチックボトル容器を製造する。
【解決手段】
有底筒状のプリフォーム1を所定温度で加熱し、延伸ブロー成形することにより、プラスチックボトル容器を形成する延伸ブロー成形方法であって、ブローエアを加熱加圧供給して、延伸過程にある前記プリフォームの過延伸や局部的な延伸が生じ易い部位において、延伸に適した軟化状態を維持させ、無理なく延伸がなされるようにすることで、過延伸による白化や、局部的な延伸を防止してプリフォーム全体を均一かつ十分に延伸させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリエチレンテレフタレート等からなるプリフォーム(パリソン)を延伸ブロー成形してプラスチックボトル容器を製造するにあたり、過延伸による白化や、局部的な延伸を防止して、プリフォーム全体を均一かつ十分に延伸することができ、これによってボトル容器の全体を均一に薄肉化できるプラスチックボトル容器の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、ポリエチレンテレフタレート等のポリエステル、ポリプロピレン、ポリアミド等からなり、延伸ブローによって成形されるプラスチックボトル容器が知られている。この種のプラスチックボトル容器は、一般に、射出成形されたプリフォーム(パリソン)を延伸ブロー成形することにより製造される(例えば、特許文献1、特許文献2等)。
このように延伸ブロー成形方法により製造されたプラスチックボトル容器は、透明性とガスバリヤー性に優れ、飲料水、ミネラルウォーター、ミルクコーヒー、茶類、健康飲料、酒類、調味料等のボトル容器として広く使用されている。
【0003】
【特許文献1】特開2002−240136号公報(第4頁、第4図)
【特許文献2】特許公報第3011058号公報(第2頁)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、近年、プラスチックボトル容器は急速に普及、浸透するようになり、この広範な普及にともない、特に飲料用の容器に対して、容器の薄肉化、軽量化が強く要請されるようになった。例えば、現在、容量2000ml用の容器として使用されているプラスチックボトル容器は平均肉厚が約0.35mm程度あるが、これを更に薄肉化したいという要請がある。
ここで、プラスチックボトル容器の肉厚は、プリフォームの樹脂量を削減し、高い延伸倍率で延伸ブロー成形することにより薄肉化が可能である。
【0005】
しかし、このように単にプリフォームの樹脂量を減らして延伸倍率を高める方法では、過延伸による白化や、破裂などの問題や、均一な肉厚分布のボトルが得られ難いという問題があった。
特に、特許文献1や特許文献2にあるような角形ボトル容器にあっては、周方向ではコーナー部、高さ方向では肩部、及びヒール部において、プリフォームの延伸量が比較的多くなる。このため、相対的に厚肉になり易い胴部の側面の肉厚を減らそうとして、単純にプリフォームの肉厚を薄くしたり、延伸倍率を高くしたりしただけでは、コーナー部などでの延伸倍率が局部的に高くなり、これに伴って肉厚が薄くなり過ぎてしまい、過延伸による白化や局部的な延伸などの問題が顕著になってしまう。
【0006】
すなわち、プリフォームを延伸ブローするに際し、ブローエアによる横方向の膨張・延伸をみてみると、プリフォームは、ほぼ同心円状に延伸されるため、角形ボトル容器を成形する場合には、容器側面に相当する部位が延伸を終えた後、さらにコーナー部に相当する部分が延伸される。このため、角形ボトル容器のコーナー部は高延伸になり易く、容器の薄肉化を図って対向する容器側面間の距離のみを考慮してプリフォームの径や肉厚などを設計すると、コーナー部に過度の延伸が及ぼされ、特に、コーナー部の延伸は、延伸ブロー工程の後期に、延伸過程にあるプリフォームが常温ブローエアにより冷却され、固化がある程度進んだ状態から行われるため、温度が低い状態での無理な過延伸になり易い。
また、ブローエアとストレッチロッドによる縦方向の延伸をみてみると、先ずストレッチロッドによりノズル下とヒール部に相当する部分が先に延伸され、その後に中央部分(胴部)が、ストレッチロッドとブローエアにより延伸されるため、ノズル下とヒール部は高延伸になり易く、また、局部的な延伸が生じ易い。
このため、横方向と縦方向とで、ともに高延伸になり易い容器の肩部の対角方向と、ヒール部の対角方向において、常温のブローエアでは比較的冷えた状態のプリフォームを無理に延伸するため、過延伸による白化や、局部的な延伸などが顕著に生じてしまう。
【0007】
本発明は、以上のような従来の技術が有する問題を解決するために提案されたものであり、プリフォームを延伸ブローするに際し、延伸過程にあるプリフォームを延伸に適した状態に維持させ、プリフォームの延伸が無理なくなされるようにすることで、過延伸による白化や、局部的な延伸を防止してプリフォーム全体を均一かつ十分に延伸することができ、これによって、ボトル全体を均一に薄肉化できるプラスチックボトル容器の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明のプラスチックボトル容器の製造方法は、有底筒状のプリフォームを所定温度で加熱し、延伸ブロー成形することにより、プラスチックボトル容器を製造する方法であって、前記プリフォームを延伸ブローするブローエアを加熱加圧供給して、延伸過程にある前記プリフォームが、延伸に適した軟化状態を維持するようにした構成としてある。
このような構成とすることにより、過延伸や局部的な延伸が生じ易い部位においても延伸に適した状態を維持させ、無理なく延伸がなされるようにすることができ、過延伸による白化や、局部的な延伸を生じることなく、全体が均一に薄肉化されたプラスチックボトル容器を良好に製造することができる。
【0009】
このとき、前記ブローエアは、プリフォームを構成する材料や、プリフォームを容器形態に延伸する際の延伸倍率などを考慮して、70〜180℃の温度範囲で加熱供給するのが好ましく、また、延伸速度や、ブローエアの設定温度などを考慮して、2〜4MPaの圧力範囲で加圧供給するのが好ましい。
また、延伸ブローを行うに先だって、前記プリフォームは、110〜120℃の温度に加熱するのが好ましい。この加熱条件とブローエアの温度設定とを適宜組み合わせることにより、樹脂の粘性を落とし、延伸成形で発生する歪みや過延伸による白化を抑制することができる。
【0010】
さらに、本発明に係るプラスチックボトル容器の製造方法にあっては、前記プリフォームの胴部と底部の間に段付部を形成することにより、容器底部の軽量化を図りつつ、前記段付部と前記底部を一体的に延伸させるようにすることで、プリフォームの胴部及び底部の連続する所定範囲を均一に延伸することができる。また、前記プリフォームの口部と胴部の間に、前記胴部より肉薄のストレート部及び径が絞り込まれながら肉厚を徐々に増して前記ストレート部と前記胴部とを接続する絞り部を有する首下部を形成することにより、前記首下部を前記胴部と一体的に延伸させるようにすることで、プリフォームの胴部及び口部の連続する所定範囲を均一に延伸することができる。その結果、プリフォームの全体が均一に延伸されるようにすることができる。
【発明の効果】
【0011】
以上のような本発明のプラスチックボトル容器の延伸ブロー成形方法によれば、プリフォームを延伸ブローするブローエアを加熱加圧供給して、延伸過程にあるプリフォームが、延伸に適した軟化状態に維持されるようにしたことで、過延伸や局部的な延伸が生じ易い部位においても延伸に適した状態を維持させ、無理なく延伸がなされるようにすることができる。これにより、過延伸による白化や、局部的な延伸を生じることなく、ボトル全体を均一に薄肉化でき、例えば、平均肉厚が約0.22mm程度以下の所望の薄肉ボトルを得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明に係るプラスチックボトル容器の製造方法の好ましい実施形態について、図面を参照しつつ説明する。
図1は、本発明に係るプラスチックボトル容器の製造方法の一実施形態において使用されるプリフォームの概略を示す断面図である。図2は、図1に示すプリフォームの要部拡大図で、(a)は首下部付近の拡大図、(b)は段付部付近の拡大図である。図3は、本発明に係るプラスチックボトル容器の製造方法の一実施形態における製造工程の概略を示す工程図である。
【0013】
[プリフォーム]
1.プリフォームの構造
図1に示すように、本実施形態で使用するプリフォーム1は、ボトル容器10(図4参照)を製造するための予備成形品であって、熱可塑性樹脂からなり、筒状の胴部4と、胴部4の一端側に開口する口部2と、胴部4の他端側を閉塞するほぼ半球形状の底部5を備えた有底筒状(試験管状)に形成されている。
そして、プリフォーム1は、胴部4と底部5の間に所定形状に形成された段付部5aを備え、また、口部2と胴部4の間に所定形状に形成された首下部3を備えている。
【0014】
段付部5aは、胴部4と底部5の間に位置するプリフォーム1の一部(所定範囲)であり、胴部4からほぼ同じ肉厚で連続し、内面及び外面がともに筒中心側に傾斜しつつ底部5に連続するように形成されている。
ここで、段付部5aは、肉厚、内面及び外面の傾斜角度、長さ等を所望の値に設定することができ、製造しようとするボトル容器の大きさ、形状、肉厚等に応じて任意に設定可能である。
【0015】
本実施形態では、図2に示す胴部4の肉厚Taと段付部5aと底部5の境界部の肉厚Tbの比が、1.0<Ta/Tb≦1.5となるように設定してある。
このような範囲に設定するのは、胴部4より段付部5aの肉厚が大きくなる(Ta/Tb≦1.0)ようにプリフォーム1を射出成形することは困難であり、また、Ta/Tbが1.5を超えると(Ta/Tb>1.5)、胴部4と段付部5aの肉厚差が大きくなり過ぎ、胴部4と段付部5aの連続部分に局部延伸、過延伸が生じる傾向が強くなるためである。なお、段付部5aの肉厚Tbとは、底部5と段付部5aの境界部の厚みをいう(図2(b)参照)。
【0016】
また、図2に示す胴部4の筒中心から肉厚中心までの半径Raと、段付部5aと底部5の境界部における筒中心から肉厚中心までの半径Rbと、胴部4の肉厚Taとが、Rb≦Ra−Ta/2となるように設定してある。
このような範囲に設定するのは、段付部5aの半径は少なくとも胴部4の半径より小さくしなければ段差が形成されず、その一方、半径の差が胴部4の肉厚Taの半分以下の段差は、射出成形が困難となるためである。
以上のような値に設定することにより、段付き部5aを連続する胴部4とほぼ同じ肉厚にしつつ所望の角度に傾斜させることができる。
【0017】
さらに、図2(b)に示す段付部5aの筒中心側に傾斜する角度θは、所望の範囲に設定可能である。段付部5aの傾斜角度を設定することにより、角度に応じて段付部5a及び底部5の延伸量及び底部5の重量を制御することができる。
すなわち、段付部5aの傾斜角度θを小さくなるように設定すれば、段付部5aの延伸量が大きくなり、底部5の延伸量が小さくなって、底部5の重量が大きくなる。一方、段付部5aの傾斜角度θを大きくなるように設定すれば、段付部5aの延伸量が小さくなり、底部5の延伸量が大きくなって、底部5の重量は小さくすることができる。
【0018】
ここで、段付部5aの傾斜角度θとしては、7°≦θ≦45°とするのが好ましく、特に20°≦θ≦40°の範囲で設定することが好ましい。段付部5aの傾斜角度θが7°より小さいと(θ<7°)、段差による効果が得られず、また、45°より大きいと(θ>45°)、局部延伸、過延伸が生じる傾向が強くなるためである。
【0019】
なお、図2に示す例では、段付部5aの内面と外面はほぼ同じ角度に傾斜しており、段付部5aの肉厚が胴部4から底部5までほぼ同じ値となるように設定してあるが、この段付部5aの傾斜角度は、内面と外面で異ならせるようにしても良い。このようにすると、例えば、段付部5aの外面の傾斜角度を内面の傾斜角度より大きく設定することで、段付部5aを胴部4から底部5に向かって肉薄になるテーパ形状に形成することができ、所望の肉薄部分を設定して延伸量を大きくすることができる。
そして、このような段付部5aを備えることにより、後述する工程によりプリフォーム1が延伸ブロー成形されると、段付部5a及び底部5が全体的に均一に延伸され、胴部4の延伸負担を小さくして、また、底部5の重量を少なくして、結果的にプリフォーム全体が均一に延伸されるようになる。
【0020】
首下部3は、胴部4と口部2の間に位置するプリフォーム1の一部(所定範囲)であり、口部2から連続する、胴部4より肉薄のストレート部3aを有している。ストレート部3aは、径が絞り込まれながら肉厚を徐々に増していく絞り部3bを経て、胴部4に連続するように形成されている。
ここで、首下部3は、ストレート部3a及び絞り部3bを含めて、肉厚、長さ等を所望の値に設定することができ、成形するボトル容器の大きさ、形状、肉厚等に応じて任意に設定可能である。
【0021】
本実施形態では、図2に示す胴部4の肉厚Taとストレート部3aの肉厚Tcの比が、1.2≦Ta/Tc≦1.7となるように設定してある。
このような範囲に設定するのは、胴部4とストレート部3aの肉厚比が1.2より小さくなる(Ta/Tc<1.2)ようにプリフォーム1を射出成形することは困難であり、また、Ta/Tcが1.7を超えると(Ta/Tc>1.7)、胴部4とストレート部3aの肉厚差が大きくなり過ぎ、ストレート部3aに局部延伸、過延伸が生じる傾向が強くなるためである。
【0022】
また、ストレート部3aの筒長手方向の長さLaと肉厚Tcの比は、3≦La/Tc≦5となるように設定してある。ストレート部3aが短すぎると(La/Tc<3)、首下部に局部延伸、過延伸が生じる傾向が強くなってしまい、ストレート部3aを長くしすぎると(La/Tc>5)、射出成形の際に材料が入りづらく成形不良が生じるからである。
【0023】
さらに、絞り部3bの絞り比、すなわち、胴部4の外径φyとストレート部3aの外径φxの比は、0.4≦φy/φx≦1.3となるように設定してある。この絞り比が小さすぎると(φy/φx<0.4)、局部延伸や過延伸が生じる傾向が強くなってしまい、大きすぎると(φy/φx>1.3)、ストレート部3aと絞り部3bが十分に延伸されず、段付部5aが先に延伸され、過延伸になってしまうからである。
【0024】
具体的には、後述する図4に示すような容量2000mlのボトル容器用のプリフォームの場合、樹脂重量は約30〜40gで、胴部4の肉厚は約3〜4mmに設定する。この場合、図2に示す胴部の肉厚Taとストレート部の肉厚Tcの差が、Ta−Tc=1.6mm以下となるように設定する。
さらに、ストレート部3a及び絞り部3bは、筒長手方向の長さが所望の範囲に設定可能であり、ストレート部3aの筒長手方向の長さLaが、5〜9mmとなるように設定し、絞り部3bの筒長手方向の長さLbが、7〜15mmとなるように設定する。また、胴部4の筒長手方向の長さLcも所望の範囲に設定可能であり、56〜86mmとなるように設定する。
このような値に設定することで、容量2000mlで平均肉厚が約0.22mmのボトル容器が得られるようになる。
【0025】
このようにして、首下部3に、胴部4より肉薄のストレート部3a、及び径が絞り込まれながら肉厚を徐々に増してストレート部3aと胴部4とを接続する絞り部3bを設け、その肉厚と長さ、絞り部3bの絞り比を適宜設定可能とすることで、ストレート部3a及び絞り部3bを含む首下部3の全体を均一に延伸させることができる。
そして、後述する工程によりプリフォーム1が延伸ブロー成形されると、首下部3が全体的に均一に延伸され、胴部4の延伸負担を小さくして、結果的にプリフォーム全体が均一に延伸されるようになる。
なお、図1及び図2に示す例では、ストレート部3aは、口部2から絞り部3aに至るまで、肉厚Tcが均一になるように形成してあるが、例えば、ストレート部3aの外面又は内面を傾斜させることで、肉厚を変更することも可能である。このようにすると、肉厚部と肉薄部とで延伸量を異ならせて延伸量を調整することができる。
【0026】
2.構成成分
本実施形態で使用するプリフォーム1を構成する熱可塑性樹脂は、延伸ブロー成形及び熱結晶化可能な樹脂であれば任意のものを使用することができる。
【0027】
具体的には、ポリエチレンテレフタレート,ポリブチレンテレフタレート,ポリエチレンナフタレート,ポリカーボネート,ポリアリレート、ポリ乳酸又はこれらの共重合体等の熱可塑性ポリエステル、これらの樹脂あるいは他の樹脂とのブレンド物が好適であり、特に、ポリエチレンテレフタレート等のエチレンテレフタレート系熱可塑性ポリエステルが好適に使用される。
また、アクリロニトリル樹脂,ポリプロピレン,プロピレン−エチレン共重合体,ポリエチレン等も使用することができる。
これらの樹脂には、成形品の品質を損なわない範囲内で種々の添加剤、例えば、着色剤,紫外線吸収剤,離型剤,滑剤,核剤,酸化防止剤,帯電防止剤等を配合することができる。
【0028】
プリフォーム1を構成するエチレンテレフタレート系熱可塑性ポリエステルは、エステル反復単位の大部分、一般に70モル%以上をエチレンテレフタレート単位を占めるものであり、ガラス転移点(Tg)が50〜90℃、融点(Tm)が200〜275℃の範囲にあるものが好適である。
エチレンテレフタレート系熱可塑性ポリエステルとしては、ポリエチレンテレフタレート(PET)が耐圧性,耐熱性,耐熱圧性等の点で特に優れているが、エチレンテレフタレート単位以外にイソフタル酸やナフタレンジカルボン酸等の二塩基酸とプロピレングリコール等のジオールからなるエステル単位の少量を含む共重合ポリエステルも使用することができる。
【0029】
また、本実施形態のプリフォーム1は、単層(一層)の熱可塑性ポリエステル層で構成される場合の他、二層以上の熱可塑性ポリエステル層により構成することもできる。
さらに、本実施形態のプリフォーム1は、二層以上の熱可塑性ポリエステル層からなる内層及び外層の間に封入される中間層を備えることができ、中間層をバリヤー層や酸素吸収層とすることができる。
このようにバリヤー層,酸素吸収層を備えることにより、ボトル容器内への外部からの酸素の透過を抑制し、ボトル容器内の内容物の外部からの酸素による変質を防止することができ、特に炭酸ガス入り飲料用のボトル容器に好適となる。
ここで、酸素吸収層としては、酸素を吸収して酸素の透過を防ぐものであれば任意のものを使用することができるが、酸化可能有機成分及び遷移金属触媒の組合せ、あるいは実質的に酸化しないガスバリヤー性樹脂,酸化可能有機成分及び遷移金属触媒の組み合わせを使用することが好適である。
【0030】
[プラスチックボトル容器の製造方法]
次に、以上のようなプリフォームを使用した本実施形態に係るプラスチックボトル容器の製造方法について具体的に説明する。
1.プリフォームの製造
プリフォーム1は、公知の射出成形や押出成形により有底筒状のプリフォーム(パリソン)を製造することができる。上述した胴部4と底部5の間の段付部5a、口部3と胴部4の間のストレート部3a及び絞り部3bを含む首下部3についても、公知の射出成形等により所望の形状、寸法で製造可能である。
なお、プリフォーム1として、中間層に酸素吸収層を備える多層プリフォームを使用する場合には、従来から公知の共射出成形機等を用いて、内外層をポリエステル樹脂とし、内外層の間に一層又は二層以上の酸素吸収層を挿入し、射出用プリフォーム金型の形状に対応した、ヒール部及び開口部を有する多層プリフォームを製造することができる。
【0031】
2.延伸ブロー成形
次に、プリフォーム1を二軸延伸ブロー成形する。
本実施形態では、まず、プリフォーム1をガラス転移点(Tg)以上の延伸温度に加熱する。プリフォーム1の加熱は、図1に示すように、ヒータ101などの公知の加熱手段により行う。また、この加熱の際には、図1に示すように、非結晶の口部2が加熱されないように加熱防止用冷却ガイド102で保護される。なお、口部2を予め結晶化させたプリフォームを使用することもできる。
【0032】
本実施形態では、プリフォーム1を加熱限界温度である約120℃で加熱するようにしてある。通常の肉厚のボトル容器を製造する場合には、プリフォームの加熱温度は約85℃〜110℃であるが、本実施形態では加熱限界である120℃近傍まで温度を上げることにより、樹脂の粘性を落とし、延伸成形で発生する歪みを軽減するようにしてある。但し、120℃を超える高温で加熱すると、ブロー成形後にボトルが白化(白濁)してしまうため好ましくない。本実施形態において、好ましいプリフォームの加熱温度は、110〜120度である。
【0033】
次に、加熱したプリフォーム1は、所定の熱処理(ヒートセット)温度に加熱された金型内において二軸延伸ブロー成形する。
具体的には、図3(a)〜(b)に示すように、まず、加熱したプリフォーム1が金型103内にセットされ(図3(a)参照)、次に、ストレッチロッド(延伸ロッド)104により縦方向(軸方向)に延伸されるとともに、ブローエアによって主に横方向(周方向)に延伸され、金型により賦形される際には縦方向方にも延伸される(図3(b)参照)。
【0034】
このとき、本実施形態では、プリフォーム1を構成する材料や、プリフォーム1を容器形態に延伸する際の延伸倍率、さらには容器1の形状などを考慮して、ブローエアを70〜180℃の温度に設定する。これにより、延伸過程にあるプリフォーム1には絶えず熱が加えられることになり、延伸工程の全工程において延伸に適した軟化状態を維持させることができる。
したがって、従来、プリフォームの延伸工程の後期において、ある程度の固化が進行したプリフォームをさらに延伸することにより生じていた、過延伸による白化を有効に回避することができる。
【0035】
また、ブローエアは、プリフォーム1を延伸させるために加圧供給されるが、その圧力は、延伸速度や、ブローエアの設定温度などを考慮して、2〜4MPaに設定するのが好ましい。
【0036】
ここで、本実施形態で使用するプリフォーム1は、延伸の際に、段付部5aが、連続する底部5を含めて全体として均一に延伸される。また、首下部3が、ストレート部3a及び絞り部3bを含めて全体として均一に延伸される。
これによって、プリフォーム1の全体が均一に延伸されるとともに、ブローエアの温度設定により、過延伸による白化を有効に回避することができるため、局所的な延伸や過延伸が発生せず、その結果、均一な肉厚分布のボトル容器10が成形されることになる。
【0037】
また、本実施形態におけるブロー成形体の延伸倍率は、縦方向2.4〜3.1倍、横方向で4.5〜6倍とし、縦×横で10.8〜18.6倍となるように設定する。
通常の肉厚のボトル容器の場合、ブロー成形体の延伸倍率は、縦方向約2.2倍、横方向約5倍程度で、縦×横で約11倍程度となっている。
本実施形態では、プリフォーム1の形状によりプリフォーム1の全体が均一に延伸されるとともに、ブローエアの温度設定により過延伸による白化を有効に回避することができ、局所的延伸や過延伸を発生させることなく均一な延伸が可能であるため、均一な肉厚分布で可能な限り肉薄のボトル容器を得るために、少なくとも上記の延伸倍率とすることが好ましい。
【0038】
3.ヒートセット
延伸されたブロー成形体は、金型内でヒートセット(熱固定)される。
ヒートセットは、上述したブロー金型103を、所定温度に加熱し、二軸延伸ブロー時に、ブロー成形体の器壁の外側を金型内面に所定時間接触させて熱処理を行う。
ここで、本実施形態では、ヒートセット温度として金型を約105〜115℃となるように加熱する。
【0039】
また、ヒートセットの熱処理時間(ブロー時間)は、ブロー成形体の厚みや温度によっても相違するが、一般に1〜10秒、好ましくは2〜5秒程度である。また、その後の冷却時間も、熱処理温度や冷却用流体の種類により異なるが、一般に0.1〜10秒、好ましくは0.2〜5秒程度である。
このヒートセットにより、ブロー成形体は結晶化される。
なお、このブロー成形体の結晶化度は、容器の肉厚,形状,ヒートセット温度,時間等の条件によるため、これらの条件を最適化することにより、ボトル容器10の胴部13の結晶化度を、例えば、約30〜40%程度の好適な範囲とすることができる。
【0040】
4.クーリングブロー
以上の所定時間の熱処理後、図3(c)に示すように、クーリングブローロッド105から噴出する内部冷却用流体により、ブロー成形体内部を冷却する。
ここで、本実施形態では、クーリングブローのエア供給圧を約4MPaとしてある。通常の肉厚のボトル容器をブロー成形する場合、クーリングブローのエア供給圧は約3MPa程度であるが、本実施形態では、エアの供給圧力を高めることにより、ブロー成形後のボトルの取り出し温度を低減してヒケの発生を防止するようにしてある。
【0041】
なお、冷却用流体としては、常温の空気,冷却された各種気体、例えば、−40℃〜+10℃の窒素,空気,炭酸ガス等のほか、化学的に不活性な液化ガス、例えば、液化窒素ガス,液化炭酸ガス,液化トリクロロフルオロメタンガス,液化ジクロロジフルオロメタンガス,他の液化脂肪族炭化水素ガス等を使用することができる。この冷却用流体には、水等の気化熱の大きい液体のミストを共存させることもできる。以上のような冷却用流体を使用することにより、顕著な冷却温度を得ることができる。
【0042】
その後は、図3(d)に示すように、成形体は金型から取り出され、ボトル容器10が得られる。金型から取り出したブロー成形体(ボトル容器10)は、放冷により、又は冷風を吹き付けることにより冷却する。これで、延伸ブロー成形工程が完了する。
以上のような工程にしたがって実施される本実施形態は、例えば、図4に示すようなボトル容器10を製造するのに特に好適である。
【0043】
[ボトル容器]
図4は、本実施形態により製造されるボトル容器の一例を示し、図4(a)は、ボトル容器の正面図であり、図4(b)、(c)は、それぞれ図4(a)のA−A横端面図、B−B横端面図である。なお、作図上、図4(b)、(c)では、ボトル容器10の肉厚を誇張している。
【0044】
図4に示すボトル容器10は、口部20、胴部30及びヒール部40を備えており、ほぼ円筒状の容器形状を有している。胴部30の高さ方向ほぼ中央には、径を絞り込んだウェスト部50が形成されている。そして、胴部30は、ウェスト部50を境に、上側胴部31と下側胴部32とに分けられている。
ここで、高さ方向とは、口部20を上にしてボトル容器10を水平面に置いたときに、水平面に直交する方向に沿った方向をいうものとする。
【0045】
図示する例において、高さ方向に沿って延びる複数の稜線311が形成されている。それぞれの稜線311は、上側胴部31の側面に沿って形成されており、正面視したときに直線状に観察される。
そして、これらの稜線311の間には、ボトル容器10の内圧が減少したときに、ボトル容器1の内方に緩やかに湾曲して圧力の減少を吸収する減圧吸収面312が十二面形成されており、上側胴部31の横断面形状は、正十二角形状に形成されている(図4(b)参照)。
また、下側胴部32には、高さ方向に沿って螺旋状に延びる複数の稜線321が形成されており、これらの稜線321の間には、下側胴部32の横断面形状が正十六角形状となるように(図4(c)参照)、十六面の減圧吸収面322が均等に形成されている。
【0046】
ここで、上側胴部31及び下側胴部32に形成する減圧吸収面312,322の面数は、隣接する減圧吸収面312,322の交わる角度が135〜163.7度、好ましくは144〜162度となるように設定される。
具体的には、上型胴部31の最大径φbが95〜115mm程度である場合、上型胴部31に形成する減圧吸収面312の面数は八〜十六面、好ましくは十〜十四面である。また、下型胴部32の最大径φcが100〜120mm程度である場合、下側胴部32に形成する減圧吸収面322の面数は十〜二十二面、好ましくは十二〜二十面である。
なお、上側胴部31及び下側胴部32の横断面形状を正多角形状に形成する場合、隣接する減圧吸収面312が交わる角度は、正八角形で135度、正十角形で144度、正二十角形で162度、正二十二角形で163.6度である。
【0047】
通常、過延伸が生じ易いのは、周方向ではコーナー部及びその近傍であり、コーナー部がとがっているほど顕著となる。稜線311,321の両脇に位置する減圧吸収面321,322がなす角度を上記範囲の比較的鈍い角度とし、稜線311,321をとがらせるようにすれば、コーナー部に相当する稜線311,321及びその近傍での過延伸を抑制することができ、本実施形態の製造方法を適用するにあたって、より有効に過延伸による白化を回避することができる。
【0048】
ところで、図示するボトル容器の例において、減圧吸収面312,322を上記したような構造とするのは、上側胴部31及び下側胴部32の周方向に沿った全面を減圧吸収面として機能させ、ボトル容器1の減圧吸収性能を向上させるためである。また、高さ方向に沿って形成された稜線311,321は、柱状の構造部位として機能し、特に、縦方向の荷重に対する耐荷重強度を向上させるものである。さらに、このような稜線311,321を形成することにより、成形時のひけを防止して容器1の成形性を良好なものとすることもできる。
【0049】
したがって、減圧吸収面312,322の面数が、前述した範囲に満たないと、稜線311,321の両脇に位置する減圧吸収面312,322がなす角度が比較的鋭くなってしまい、稜線311,321及びその近傍に過延伸が生じる傾向が強くなるとともに、稜線311,321の数も減少するので、前述したような、耐荷重強度の向上や、ひけ防止などの稜線311,321を形成することによって得られる効果も不十分になってしまう。また、減圧吸収面312,322が大きくなるため、成形後のひけが生じたり、減圧吸収時の一面あたりの変形量が大きくなり過ぎて、ボトル容器1の外観に悪影響を及ぼしてしまう。
【0050】
一方、上記範囲を超えて減圧吸収面312,322を形成すると、稜線311,321及びその近傍に過延伸が生じ難くなり、また、稜線311,321によるひけ防止などの効果も得られるものの、減圧吸収面312,322が小さくなるため、減圧吸収時の一面あたりの減圧吸収量が減ってしまい、十分な減圧吸収性能が得られなくなってしまう。さらに、隣接する減圧吸収面312,322どうしがなす角度が鈍くなり過ぎてしまうので、容器形状保持のための稜線311,321の骨子としての機能が損なわれ、耐荷重強度も減少する。
【0051】
このように、図4に示すようなボトル容器10を製造するにあたり、減圧吸収面312,322の面数は、ボトル容器10の成形性、要求される耐荷重強度と減圧吸収性能とのバランス、減圧吸収時のボトル容器10の変形具合、ボトル容器10のデザインなどを考慮して適宜設定されるが、本実施形態では、これらを考慮するとともに、稜線311,321及びその近傍での過延伸を抑制するために、減圧吸収面312,322がなす角度と、延伸ブロー成形の際のブローエアの温度をバランスよく設定することで、過延伸による白化を防止しつつ成形性よくボトル容器を製造することができる。
【0052】
以下、本発明に係るプラスチックボトル容器の製造方法によってボトル容器を製造する場合の具体的な実施例を示す。
[実施例]
ポリエチレンテレフタレート(PET)を押出機に供給して重量35gのプリフォーム1を製造した。プリフォーム1には、胴部4と底部5の間に段付部5aを形成し、また、胴部4と口部2の間にストレート部3a及び絞り部3bを有する首下部3を形成した。
プリフォーム1の肉厚は、胴部4の肉厚Taが約3.5mm、ストレート部3aの肉厚Tcが約2mm、段付部5a及び底部5の肉厚Tbが約3mmとした。段付部5aの傾斜角度θは、約13°とした。ストレート部3aは長さLaが約7mm、絞り部3bは長さLbが約10mmとし、絞り部3bの絞り比φy/φxは0.9とした。胴部4の長さLcは70mmとした。
【0053】
このプリフォーム1をガラス転移点(Tg)以上の約115℃に加熱し、約110℃に加熱された金型内にセットして、約120℃の温度に加熱されたブローエアを約3MPaの圧力で供給し、一段ブロー成形法により二軸延伸ブローを行い、その後、約4MPaのエア供給圧でクーリングブローをして、図4に示すような内容量約2000mlのボトル容器を得た。
容器1の寸法は、高さHが310mm、口部2の開口径φaが26mm、上側胴部31の最大径φbが107mm、下側胴部32の最大径φcが110mm、ウェスト部5の最小径φdが72mmであった。また、胴部2の平均肉厚は、約0.22mmであった。
【0054】
このようにして得られたボトル容器には、過延伸による白化が観察されなかった。また、局部延伸による偏肉も観察されず、全体的に均一な肉厚で形成されていた。
【0055】
以上、本発明について、好ましい実施形態を示して説明したが、本発明は、前述した実施形態にのみ限定されるものではなく、本発明の範囲で種々の変更実施が可能であることは言うまでもない。
【0056】
例えば、上記実施形態により好適に製造されるボトル容器として、ほぼ円筒状のものを例示したが、本発明により製造されるプラスチックボトル容器は、円筒状のものに限られるものではない。例えば、角形ボトル容器であっても、必要に応じてコーナー部を丸めたり、面取りも併用したりすることにより実施可能である。
また、上記実施形態では、容量が2000mlのボトル容器を示したが、本発明の適用にあたってボトル容器の容量は特に限定されるものではない。従って、例えば容量1000mlのボトル容器であっても、また、容量1500mlのボトル容器であっても本発明の適用を妨げない。
【産業上の利用可能性】
【0057】
以上説明した本発明は、予備成形品であるポリエチレンテレフタレート等からなるプリフォーム(パリソン)を延伸ブロー成形してプラスチックボトル容器を製造する延伸ブロー成形方法に利用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0058】
【図1】本発明に係るプラスチックボトル容器の製造方法の一実施形態において使用されるプリフォームの概略を示す断面図である。
【図2】図1に示すプリフォームの要部拡大図で、(a)は首下部付近の拡大図、(b)は段付部付近の拡大図である。
【図3】本発明に係るプラスチックボトル容器の製造方法の一実施形態における製造工程の概略を示す工程図である。
【図4】本発明に係るプラスチックボトル容器の製造方法の一実施形態により製造されるボトル容器の一例を示し、(a)はボトル容器の正面図であり、(b)、(c)は、それぞれ(a)のA−A横端面、B−B横端面を示している。
【符号の説明】
【0059】
1 プリフォーム
2 口部
3 首下部
3a ストレート部
3b 絞り部
4 プリフォーム胴部
5 プリフォーム底部
5a プリフォーム段付部
10 ボトル容器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
有底筒状のプリフォームを所定温度で加熱し、延伸ブロー成形することにより、プラスチックボトル容器を製造する方法であって、
前記プリフォームを延伸ブローするブローエアを加熱加圧供給して、延伸過程にある前記プリフォームが、延伸に適した軟化状態を維持するようにしたことを特徴とするプラスチックボトル容器の製造方法。
【請求項2】
前記ブローエアを70〜180℃の温度範囲で加熱供給する請求項1に記載のプラスチックボトル容器の製造方法。
【請求項3】
前記ブローエアを2〜4MPaの圧力範囲で加圧供給する請求項1又は2に記載のプラスチックボトル容器の製造方法。
【請求項4】
前記プリフォームを、110〜120℃の温度範囲で加熱後、延伸ブローを行う請求項1、2又は3に記載のプラスチックボトル容器の製造方法。
【請求項5】
前記プリフォームの胴部と底部の間に段付部を形成することにより、前記段付部と前記底部部を一体的に延伸させるようにした請求項1〜4記載のプラスチックボトル容器の製造方法。
【請求項6】
前記プリフォームの口部と胴部の間に、前記胴部より肉薄のストレート部及び径が絞り込まれながら肉厚を徐々に増して前記ストレート部と前記胴部とを接続する絞り部を有する首下部を形成することにより、前記首下部を前記胴部と一体的に延伸させるようにした請求項1〜5記載のプラスチックボトル容器の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2006−137058(P2006−137058A)
【公開日】平成18年6月1日(2006.6.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−327636(P2004−327636)
【出願日】平成16年11月11日(2004.11.11)
【出願人】(000003768)東洋製罐株式会社 (1,150)
【Fターム(参考)】