説明

プラスチックレンズの成形方法

【課題】プラスチックレンズ用の液状成形材料をモールド内に注入する際に内部に極力泡を残さずに充填させることができるプラスチックレンズの成形方法を提供すること。
【解決手段】第1及び第2のレンズ型枠12をテープ14によって所定間隔で保持させてまずモールド11を構築する。そして、セットされたモールド11に対してカッター装置26でまずモールド11の上方正中位置Pから図上右方にずれた位置に注入口45を形成する。次いで、注入口45に注入ノズル27を挿入して原料モノマーの注入を開始する。ある程度注入が進んだところでモールド11を回転させて、注入口45を上方正中位置Pに移動させる。これに伴って注入ノズル27も移動させ、続いて注入作業を再開し内部空間18に原料モノマーを完全に充填する。この充填作業が完了すると、定法に従って原料モノマーを加熱硬化させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はレンズ型枠を組み合わせたモールドの内部空間にプラスチックレンズ用の液状成形材料を同空間内に注入し、同材料を固化させてプラスチックレンズ得るようにしたプラスチックレンズの成形方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来からプラスチックレンズの製造方法として注入型成形法が広く知られている。一般に注入型成形法は2枚のガラス型枠の互いの成形面を所定の間隔をもって対向させ、この状態で両ガラス型枠の周面を粘着テープで巻回したり、ガラス型枠間にガスケットを介在させたりしてモールドを構築し、モールド内の内部空間に液状成形材料として粘性のある原料モノマーを注入し、重合硬化させてプラスチックレンズを得るとするものである。このようなプラスチックレンズの注入型成形法の一例として特許文献1を挙げる。
【特許文献1】特開2005−84520号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
このような注入型成形法でプラスチックレンズを成形する際に、次のような問題がある。注入型成形法では通常テープやガスケットの一箇所に注入口が形成されており、一般にこの注入口を上方の正中位置つまりモールドの一番高い位置に配置して原料モノマーを注入している(図6(a)及び(b)参照)。その場合に成形されるレンズが凹レンズ形状である場合にはモールドの内部空間は周縁寄りよりも中央寄りのほうが両ガラス型枠の間隔が狭くなっている。そのためこのような凹レンズ成型用のモールドに上方正中位置において原料モノマーを注入するとこの図6(a)及び(b)に示すように左右に枝分かれして流下し、中央下部位置に大きな空洞100を形成しながら原料モノマーが充填されていくこととなる。空洞の生成条件は両ガラス型枠のカーブ度、原料モノマーの粘度あるいは注入速度及び注入量等の諸条件によって常に一定ではない。
このような空洞は、原料モノマーの注入が進むにつれて大きな泡として上昇することもあるが、場合によっては壊れて大きな泡と小さな泡が改めて生成されてしまうことがある。大きな泡は浮力が大きいため比較的速やかに上昇するものの小さな泡が浮上できずに残ってしまうと原料モノマーの充填不良(泡不良)ということとなってそのモールドは次工程に移行されず再注入を要するとされる場合があった。
また、成形されるレンズが凸レンズ形状である場合であっても注入の際に原料モノマーが一気にモールドの最下部に到達することからその際の衝撃でやはり小さな泡が原料モノマー中に取り込まれてしまい、それら小さな泡が浮上できずに残って上記と同様も問題が生じる場合があった。
本発明は、このような従来の技術に存在する問題点に着目してなされたものである。その目的とするところは、プラスチックレンズ用の液状成形材料をモールド内に注入する際に内部に極力泡を残さずに充填させることができるプラスチックレンズの成形方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0004】
上記の目的を達成するための第1の手段としては、レンズの裏面を造形するための凸面部を備えた第1のレンズ型枠と同レンズの表面を造形するための凹面部を備えた第2のレンズ型枠とを同凸面部及び凹面部を正対させた状態で所定間隔離間させて配置し、同両レンズ型枠の外周縁に沿って保持部材を配設することで同両レンズ型枠の間隔を保持させながら同両レンズ型枠及び保持部材に包囲された外空間と区画された内部空間を有するモールドを形成させ、同両レンズ型枠を起立させた状態で同保持部材の一部に形成された注入口からレンズ成形用の液状成形材料を同モールド内に注入し、必要に応じて加熱することで同液状成形材料を重合硬化させ、その後同両レンズ型枠を離型させてレンズを得るようにしたプラスチックレンズの成形方法であって、
前記液状成形材料の注入時においては前記注入口は前記モールドの上方正中位置に対して左右いずれかにずれた位置に配置され、同注入口から同液状成形材料を注入して同液状成形材料の注入量が所定量に達した段階で同注入口を前記モールドの上方正中位置近傍に戻し、更に注入を続けて同液状成形材料を同モールドの内部空間に充満させるようにしたことをその要旨とする。
【0005】
このような構成では、まず第1のレンズ型枠と第2のレンズ型枠を凹面部及び凸面部を正対させ保持部材によって所定間隔離間させた状態で内部空間を有するモールドを形成させる。そして、このように構築されたモールドについて両レンズ型枠を起立させながら保持部材に形成した注入口を上方正中位置に対して左右いずれかにずらした位置で液状成形材料を内部空間に注入するようにする。すると、注入された液状成形材料はモールド内の内部空間を中心からずれた左右いずれかの縁寄りを流下することとなる。そのため、中に入した液状成形材料がダイレクトにモールドの最下部位置に衝突せず保持部材の内周面に斜めに当接することとなり落下の衝撃を吸収させることができる。尚、ここに「起立」とは両レンズ型枠が垂直に立設されることだけを意味するのではなく、ある程度の傾斜をもって立設される場合も含む概念である。以下の「起立」の概念も同様である。
液状成形材料の注入量が所定量に達した段階で注入口を前記モールドの上方正中位置近傍に戻し、更に注入を続けて同液状成形材料を同モールドの内部空間に充満させるようにする。
【0006】
また、第2の手段としては、レンズの裏面を造形するための凸面部を備えた第1のレンズ型枠と同レンズの表面を造形するための凹面部を備えた第2のレンズ型枠とを同凸面部及び凹面部を正対させた状態で所定間隔離間させて配置し、同両レンズ型枠の外周縁に沿って保持部材を配設することで同両レンズ型枠の間隔を保持させながら同両レンズ型枠及び保持部材に包囲された外空間と区画された内部空間を有するモールドを形成させ、同両レンズ型枠を起立させた状態で同保持部材の一部に形成された注入口からレンズ成形用の液状成形材料を同モールド内に注入し、必要に応じて加熱することで同液状成形材料を重合硬化させ、その後同両レンズ型枠を離型させてレンズを得るようにしたプラスチックレンズの成形方法であって、
前記保持部材に前記液状成形材料を前記モールド内に注入するための注入口を形成する注入口形成工程と、前記注入口を前記モールドの上方正中位置に対して左右いずれかにずれた位置に配置する注入口配置工程と、前記液状成形材料を注入するために前記注入口位置に注入ノズルを配置させるとともに、同注入ノズルから同液状成形材料の注入を開始する第1の液状成形材料注入工程と、前記第1の液状成形材料注入工程において所定量の前記液状成形材料の注入が完了した段階で前記注入口がモールドの上方正中位置近傍に配置されるように前記モールドを回転させるモールド回転工程と、前記モールド回転工程において変位した前記注入口位置に注入ノズルを配置させ、同変位した位置で注入を継続する第2の液状成形材料注入工程とを備えたことをその要旨とする。
【0007】
このような構成では、まず第1のレンズ型枠と第2のレンズ型枠を凹面部及び凸面部を正対させ保持部材によって所定間隔離間させた状態で内部空間を有するモールドを形成させる。そして、このように構築されたモールドについて両レンズ型枠を起立させながら保持部材に注入口を形成する。形成方法は尖頭状のジグを突き刺すことで穿孔することが一般的であると考えられるがそれ以外の手段であっても構わない。次いで、形成した注入口をモールドの上方正中位置に対して左右いずれかにずれた位置に配置する。
そして、そのようなずれた位置の注入口から注入ノズルによって液状成形材料の注入を開始するようにする。すると、注入された液状成形材料はモールド内の内部空間を中心からずれた左右いずれかの縁寄りを流下することとなる。そのため、中に入した液状成形材料がダイレクトにモールドの最下部位置に衝突せず保持部材の内周面に斜めに当接することとなり落下の衝撃を吸収させることができる。
液状成形材料の注入量が所定量に達した段階で注入口がモールドの上方正中位置近傍に配置されるように前記モールドを回転させる。この時、注入ノズルはモールドの回転とともに注入孔位置に移動しても、一旦上方に待避させてモールドの回転後(あるいは同期させて)に注入口位置に移動させてもどちらでも構わない。この場合において、注入ノズルがモールドの回転とともに注入孔位置に移動するのであれば注入を継続させたまま移動させることが可能である。また、注入ノズルの移動の際には一旦注入動作を停止させることも可能である。
そして、注入口がモールドの上方正中位置近傍に配置され、そのまま続けて液状成形材料が注入されて同液状成形材料を同モールドの内部空間に充満する。
尚、第1の液状成形材料注入工程と第2の液状成形材料注入工程で使用される注入ノズルは必ずしも同じノズルである必要はない。
【0008】
また、第3の手段としては、レンズの裏面を造形するための凸面部を備えた第1のレンズ型枠と同レンズの表面を造形するための凹面部を備えた第2のレンズ型枠とを同凸面部及び凹面部を正対させた状態で所定間隔離間させて配置し、同両レンズ型枠の外周縁に沿って保持部材を配設することで同両レンズ型枠の間隔を保持させながら同両レンズ型枠及び保持部材に包囲された外空間と区画された内部空間を有するモールドを形成させ、同両レンズ型枠を起立させた状態で同保持部材の一部に形成された注入口からレンズ成形用の液状成形材料を同モールド内に注入し、必要に応じて加熱することで同液状成形材料を重合硬化させ、その後同両レンズ型枠を離型させてレンズを得るようにしたプラスチックレンズの成形方法であって、
前記モールドの上方正中位置に対して左右いずれかにずれた位置において前記保持部材に前記液状成形材料を前記モールド内に注入するための注入口を形成する注入口形成工程と、前記液状成形材料を注入するために前記注入口位置に注入ノズルを配置させるとともに、同注入ノズルから同液状成形材料の注入を開始する第1の液状成形材料注入工程と、前記第1の液状成形材料注入工程において所定量の前記液状成形材料の注入が完了した段階で前記注入口がモールドの上方正中位置近傍に配置されるように前記モールドを回転させるモールド回転工程と、前記モールド回転工程において変位した前記注入口位置に注入ノズルを配置させ、同変位した位置で注入を継続する第2の液状成形材料注入工程とを備えたことをその要旨とする。
【0009】
このような構成では、まず第1のレンズ型枠と第2のレンズ型枠を凹面部及び凸面部を正対させ保持部材によって所定間隔離間させた状態で内部空間を有するモールドを形成させる。そして、このように構築されたモールドについて両レンズ型枠を起立させながらモールドの上方正中位置に対して左右いずれかにずれた位置において注入口を形成する。形成方法は尖頭状のジグを突き刺すことで穿孔することが一般的であると考えられるがそれ以外の手段であっても構わない。
そして、そのようなずれた位置の注入口から注入ノズルによって液状成形材料の注入を開始するようにする。すると、注入された液状成形材料はモールド内の内部空間を中心からずれた左右いずれかの縁寄りを流下することとなる。そのため、中に入した液状成形材料がダイレクトにモールドの最下部位置に衝突せず保持部材の内周面に斜めに当接することとなり落下の衝撃を吸収させることができる。
液状成形材料の注入量が所定量に達した段階で注入口がモールドの上方正中位置近傍に配置されるように前記モールドを回転させる。この時、注入ノズルはモールドの回転とともに注入口位置に移動しても、一旦上方に待避させてモールドの回転後に注入口位置に移動させてもどちらでも構わない。この場合において、注入ノズルがモールドの回転とともに(あるいは同期させて)注入孔位置に移動するのであれば注入を継続させたまま移動させることが可能である。また、注入ノズルの移動の際には一旦注入動作を停止させることも可能である。
そして、注入口がモールドの上方正中位置近傍に配置され、そのまま続けて液状成形材料が注入されて同液状成形材料を同モールドの内部空間に充満する。
尚、第1の液状成形材料注入工程と第2の液状成形材料注入工程で使用される注入ノズルは必ずしも同じノズルである必要はない。
【0010】
また、第4の手段としては第3の手段において、前記注入口形成工程においては前記注入ノズルの下降に伴ってその先端が前記保持部材に突き立てられ注入口が形成されるようにしたことをその要旨とする。
このようにすれば注入口の形成と液状成形材料の注入開始をほぼ同時に行うことができ、注入口の形成のための別途の工程が不要となることから、製造時間の短縮及びコストの削減となる。
また、第5の手段としては第1〜第4のいずれか手段において、前記両レンズ型枠の外縁は円環形状であることをその要旨とする。
両レンズ型枠の外縁は円環形状であれば保持部材も湾曲して配設されることとなるため、流下した液状成形材料がその湾曲部に案内されてスムーズに流動することとなり、液状成形材料の落下の衝撃を吸収させることとなるため、モールド内部に泡が生成されるおそれが少なくなる。
また、第6の手段としては第1〜第5のいずれか手段において、前記第1のレンズ型枠の凹面部と前記第2のレンズ型枠の凸面部との間隔は周囲よりも中心寄りの方が狭くなっていることをその要旨とする。
これは要するに凹レンズを成形する場合を意味している。凹レンズを成形する場合にはモールドを構成する両レンズ型枠の間隔は中心寄りのほうが周縁寄りよりも間隔が狭いため、上方正中位置に対して液状成形材料を注入すると図6(a)及び(b)に示すように左右に枝分かれして流下し、中央下部位置に大きな空洞を形成しながら原料モノマーが充填されてしまうからである。そのため、本発明のように上方正中位置に対して左右いずれかにずらした位置で液状成形材料を内部空間に注入すれば中央下部位置に大きな空洞が形成されることはない。
このような製造方法はフィニッシュと呼ばれる選択されたフレームの形状に加工さえすれば直ちに装用可能なレンズにも、同じくセミフィニッシュと呼ばれる表裏いずれかあるいは両方を所定の度数が得られるように加工してからフレームの形状に加工するレンズにも適用が可能である。また、本発明の方法はレンズは凹レンズ用のモールドを使用する場合に特に大きな効果が得られるが、凸レンズ用のモールドについて使用することも可能である。
【発明の効果】
【0011】
上記各請求項の発明では、液状成形材料を注入すると内部空間の中央から左右いずれかにずれた位置を流下することとなるため、結果として液状成形材料の注入に伴う小さな泡の発生を防止することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明の具体的な実施例として熱硬化性プラスチック材料によって成形されるプラスチックレンズの成形方法について図面に基づいて説明する。
まず、液状成形材料としての原料モノマーを充填するためのモールド11について説明する。図1(a)〜(c)に示すように、プラスチックレンズ用のモールド11は第1のレンズ型枠12、第2のレンズ型枠13及び保持部材としての粘着テープ14から構成されている。第1のレンズ型枠12及び第2のレンズ型枠13はメニスカス形状のガラス製の円形板状体とされている。第1のレンズ型枠12の裏面は成形されるプラスチックレンズの裏面(眼球側)を成形するための凸面部15とされ、第2のレンズ型枠13の表面は成形されるプラスチックレンズの表面(物体側)を成形するための凹面部16とされている。図2に示すように、このモールド11は中心寄りの方が周縁寄りよりも狭い凹レンズ用のモールドとされている。両レンズ型枠12,13の外周縁12a,13aはテープ14が貼着される貼着面とされている。本実施例のテープ14はPET(ポリエチレンテレフタレート)製のシートにシリコーン粘着材を塗布してなるが、シート材質や粘着材素材はこれに限定されるものではない。
両レンズ型枠12,13は公知の図示しない型組み装置によって作製するレンズに応じた間隔で正確に凹面部15と凸面部16が正対した状態に保持される(図1(a)の状態)。そして両レンズ型枠12,13の外周縁12a,13aにテープ14が巻回されて当該プラスチックレンズのためのモールド17が構築される。図2に示すように、モールド17内部には両レンズ型枠12,13及びテープ14によって包囲された内部空間18が形成されることとなる。
【0013】
図3〜図5に基づいてこのようなモールド17に液状成形材料としての原料モノマーを注入する方法の一例について説明する。
尚、ここに用いられる原料モノマーとしてはプラスチックレンズの製造用に用いられる粘性のある熱硬化型あるいは光硬化型の化合物であれば特に限定はされない。熱硬化型としては一般にはポリイソシアネート化合物と活性水素型化合物の混合物に触媒を加えたものが使用される。尚、液状成形材料として熱硬化型以外の好適な材質が開発されればそれも使用可能である。
図5は本方法における自動化された原料モノマーを注入する注入装置21の一例を示す概念図である。注入装置21はモールド17がセットされる回転テーブル22を備えている。本実施例では概念的な説明であるためモールド17は4つとしたが、多数セットすることも可能である。回転テーブル22は上盤22aが回転して回転中心から等距離に配置されたモールド17を順に所定の注入位置に移動させるようになっている。
テーブル22の後方にはコラム23が立設されている。コラム23前方にはアーム24が上下方向に移動可能に配設されている。アーム24前方にはヘッド25がアーム24に対して左右方向に移動可能に配設されている。コラム23上端にはアーム24駆動用の第1のモータ28が配設され、アーム24の側端にはヘッド25駆動用の第2のモータ29が配設されている。テーブル22内部には上盤22aを回転させるための第3のモータ30が配設されている。このような構造によって、ヘッド25は垂直な平面内を自在に移動することが可能となる。
ヘッド25の下面位置にはカッター装置26及び注入ノズル27が配設されている。注入装置21には図示しない原料モノマー用のタンクやタンク内の原料モノマーを送出するポンプが併設されている。
【0014】
図3(a)及び図5に示すように、テーブル22上にはスタンド31が配設されており、モールド17は同スタンド31に支持されている。図3(a)及び図4に示すように、スタンド31はその内部には左右に配設された一対の駆動ローラ33と中央下部位置に配設された1つの案内ローラ34を備えている。モールド17はこれら3つのローラ33,34によって支持されている。駆動ローラ33は併設された第4のモータ35の駆動を受けて同方向に回動しモールド17を自転させるようになっている。各モータ28〜30,35は図示しないコントローラによって統合的に制御されている。尚、上盤22aの偏倚量やアーム24やヘッド25の移動量は図示しない各種センサ(ロータリーエンコーダや近接センサ等)によって認識される。
【0015】
次に所定の注入位置に配置されたモールド17への注入装置21の作用について図3に(a)〜(f)に基づいて時系列的に説明する。
A.図3(a)に示すように、アーム24及びヘッド25の移動に伴ってカッター装置26はモールド17の正中位置Pから図上右方にずれた位置で下動し、テープ14に原料モノマーの注入口45を形成する。
B.図3(b)に示すように、アーム24及びヘッド25の移動に伴って注入ノズル27が注入口45に導かれその先端が注入口45からモールド17内に若干進出させられる。
C.図3(c)に示すように、注入ノズル27から原料モノマーがモールド17内に注入される。このとき、原料モノマーはテープ14内周面の曲面に案内されながら内部に広がっていく。
D.図3(d)に示すように、原料モノマーがモールド17内に半分程度充填された状態で一旦注入を停止し、注入ノズル27を上動させてモールド17から離間させるとともにスタンド31の駆動ローラ33を駆動させてモールド17を図上矢印方向に回転させ注入口45を上方正中位置P(図3(a)参照)に配置させる。上動させた注入ノズル27は新たな注入口45の位置の上方に移動させる。この移動は本実施例ではモールド17の回転に同期させている。
E.図3(e)に示すように、注入ノズル27を再度下動させて、再びその先端を注入口45からモールド17内に若干進出させ注入を再開する。
F.図3(f)に示すように、原料モノマーが注入口45に達し内部空間18が原料モノマーで満たされると原料モノマーの充填が完了したとして注入ノズル27を再度上動させて、次のモールド17への原料モノマー注入のための準備を行う(回転テーブル22の上盤22aを回転させて次のモールド17を注入基準位置に移動させる)。
尚、モールド17内への原料モノマーの充填の完了は図示しないセンサ等によって検出される。
以下、このように原料モノマーが充填されたモールド17の注入口45を別のテープで塞ぎ、定法に従って加熱硬化させプラスチックレンズを得る。
【0016】
このように構成することにより本実施例は次のような効果を奏する。
(1)モールド11は中心寄りの方が周縁寄りよりも狭い凹レンズ用のモールドとされているため、初めから注入口45を上方正中位置Pに配置して原料モノマーを注入すると図6(a)及び(b)のように中央下部位置に大きな空洞100が形成されてしまい、泡不良が生じるおそれがある。ところが、このように中央寄りを避けて原料モノマーを注入しているため空洞100が形成されることはなく、確実に小さな泡ができずに原料モノマーを充填させることができる。
(2)モールド11周縁は円環形状のテープ14の内側面とされている。テープ14の内側面は曲面で構成されているため、この面に落下した原料モノマーは曲面に案内されて速やかに流下するため、注入口45を上方正中位置Pに配置して原料モノマーを注入する場合に比べて泡立ちにくくなっている。
【0017】
尚、この発明は、次のように変更して具体化することも可能である。
・注入口45を形成するために上記実施例のようなカッター装置26を用いなくとも構わない。例えば注入ノズル27の先端を尖頭形状とし、注入ノズル27を図3(b)のように下動させることでカッター装置26のような注入口形成手段を兼ねることが可能であるからである。
・どの程度の量の原料モノマーを注入した段階で斜め位置に開口させられている注入口45を上方正中位置Pに移動させるかは特に決まってはいない。要は斜め位置に開口させられている注入口45から原料モノマーがこぼれるまえに注入口45を正中位置Pに移動させればよいからである。従って1/3程度の原料モノマーが注入されればいつ注入口45を正中位置Pに移動させても構わない。
・上記スタンドの駆動ローラでモールド17を回転させるようにしたが、チャックのような装置でモールド17を把持して回転させることも可能である。更に、ノズル27によって注入口45の縁部分を押動して(つまり注入口45をノズル27で引っ掛ける)を正中位置に来るようにしてもよい。
・上記ではモールド17を回転させる際に図3(d)に示すように一旦ノズル27を上動させていたが、図3(d)に代えて図7のようにノズル27を上動させずにモールド17の回転に同期して注入口45に先端を差し込んだままで移動させるように制御しても構わない。このようにノズル27を注入口45に差し込んだままで移動させれば原料モノマーの注入を中断する必要がなくなる。
・上記実施例ではいわゆるテープモールド法であるテープを使用したモールド17の例を説明したが、その他のモールド、例えばガスケットで両レンズ型枠を連結するようなガスケットモールドで実施することも可能である。
・上記実施例では始めに注入口45を形成する場合に図3(a)のようにすでに正中位置Pからずれた位置で形成するようにしていたが、この位置以外の場所に注入口45を形成することは自由である。
・上記注入装置21の構成は一例であって、他の構成の装置によって自動化を実現することは自由である。また、上記のように自動化せずに作業員が実際に原料モノマーを本発明の方法でモールド毎に注入するように実施しても構わない。
・モールド17の支持手段は上記スタンド31以外の手段でも構わない。
・その他、本発明の趣旨を逸脱しない態様で実施することは自由である。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】(a)〜(c)は本発明の実施例に使用するモールドの構築工程を説明する斜視図。
【図2】同じモールドの断面図。
【図3】(a)〜(f)は同じモールドを使用した原料モノマーの注入工程を説明する説明図。
【図4】同じモールドをスタンド上に載置した状態の斜視図。
【図5】注入装置の概略を説明する正面図。
【図6】(a)及び(b)は従来の原料モノマーのモールドへの注入方法を説明する説明図。
【図7】他の実施例における原料モノマーの一注入工程を説明する説明図。
【符号の説明】
【0019】
11…モールド、12…第1のレンズ型枠、13…第1のレンズ型枠、14…保持部材としてのテープ、15…凸面部、16…凹面部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
レンズの裏面を造形するための凸面部を備えた第1のレンズ型枠と同レンズの表面を造形するための凹面部を備えた第2のレンズ型枠とを同凸面部及び凹面部を正対させた状態で所定間隔離間させて配置し、同両レンズ型枠の外周縁に沿って保持部材を配設することで同両レンズ型枠の間隔を保持させながら同両レンズ型枠及び保持部材に包囲された外空間と区画された内部空間を有するモールドを形成させ、同両レンズ型枠を起立させた状態で同保持部材の一部に形成された注入口からレンズ成形用の液状成形材料を同モールド内に注入し、必要に応じて加熱することで同液状成形材料を重合硬化させ、その後同両レンズ型枠を離型させてレンズを得るようにしたプラスチックレンズの成形方法であって、
前記液状成形材料の注入時においては前記モールドの上方正中位置に対して左右いずれかにずれた位置に配置された前記注入口から同液状成形材料を注入し、同液状成形材料の注入量が所定量に達した段階で同注入口を前記モールドの上方正中位置近傍に戻し、更に注入を続けて同液状成形材料を同モールドの内部空間に充満させるようにしたことを特徴とするプラスチックレンズの成形方法。
【請求項2】
レンズの裏面を造形するための凸面部を備えた第1のレンズ型枠と同レンズの表面を造形するための凹面部を備えた第2のレンズ型枠とを同凸面部及び凹面部を正対させた状態で所定間隔離間させて配置し、同両レンズ型枠の外周縁に沿って保持部材を配設することで同両レンズ型枠の間隔を保持させながら同両レンズ型枠及び保持部材に包囲された外空間と区画された内部空間を有するモールドを形成させ、同両レンズ型枠を起立させた状態で同保持部材の一部に形成された注入口からレンズ成形用の液状成形材料を同モールド内に注入し、必要に応じて加熱することで同液状成形材料を重合硬化させ、その後同両レンズ型枠を離型させてレンズを得るようにしたプラスチックレンズの成形方法であって、
前記保持部材に前記液状成形材料を前記モールド内に注入するための注入口を形成する注入口形成工程と、
前記注入口を前記モールドの上方正中位置に対して左右いずれかにずれた位置に配置する注入口配置工程と、
前記液状成形材料を注入するために前記注入口位置に注入ノズルを配置させるとともに、同注入ノズルから同液状成形材料の注入を開始する第1の液状成形材料注入工程と、
前記第1の液状成形材料注入工程において所定量の前記液状成形材料の注入が完了した段階で前記注入口がモールドの上方正中位置近傍に配置されるように前記モールドを回転させるモールド回転工程と、
前記モールド回転工程において変位した前記注入口位置に注入ノズルを配置させ、同変位した位置で注入を継続する第2の液状成形材料注入工程とを備えたことを特徴とするプラスチックレンズの成形方法。
【請求項3】
レンズの裏面を造形するための凸面部を備えた第1のレンズ型枠と同レンズの表面を造形するための凹面部を備えた第2のレンズ型枠とを同凸面部及び凹面部を正対させた状態で所定間隔離間させて配置し、同両レンズ型枠の外周縁に沿って保持部材を配設することで同両レンズ型枠の間隔を保持させながら同両レンズ型枠及び保持部材に包囲された外空間と区画された内部空間を有するモールドを形成させ、同両レンズ型枠を起立させた状態で同保持部材の一部に形成された注入口からレンズ成形用の液状成形材料を同モールド内に注入し、必要に応じて加熱することで同液状成形材料を重合硬化させ、その後同両レンズ型枠を離型させてレンズを得るようにしたプラスチックレンズの成形方法であって、
前記モールドの上方正中位置に対して左右いずれかにずれた位置において前記保持部材に前記液状成形材料を前記モールド内に注入するための注入口を形成する注入口形成工程と、
前記液状成形材料を注入するために前記注入口位置に注入ノズルを配置させるとともに、同注入ノズルから同液状成形材料の注入を開始する第1の液状成形材料注入工程と、
前記第1の液状成形材料注入工程において所定量の前記液状成形材料の注入が完了した段階で前記注入口がモールドの上方正中位置近傍に配置されるように前記モールドを回転させるモールド回転工程と、
前記モールド回転工程において変位した前記注入口位置に注入ノズルを配置させ、同変位した位置で注入を継続する第2の液状成形材料注入工程とを備えたことを特徴とするプラスチックレンズの成形方法。
【請求項4】
前記注入口形成工程においては前記注入ノズルの下降に伴ってその先端が前記保持部材に突き立てられ注入口が形成されることを特徴とする請求項3に記載のプラスチックレンズの成形方法。
【請求項5】
前記両レンズ型枠の外縁は円環形状であることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載のプラスチックレンズの成形方法。
【請求項6】
前記第1のレンズ型枠の凹面部と前記第2のレンズ型枠の凸面部との間隔は周囲よりも中心寄りの方が狭くなっていることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載のプラスチックレンズの成形方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2008−80766(P2008−80766A)
【公開日】平成20年4月10日(2008.4.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−266606(P2006−266606)
【出願日】平成18年9月29日(2006.9.29)
【出願人】(000219738)東海光学株式会社 (112)
【Fターム(参考)】