説明

プラスチックレンズの製造方法

【課題】十分に紫外線を吸収できる能力を付与できる量の紫外線吸収剤を配合する原料組成物の調合時間を短縮し、生産性を向上させることができるプラスチックレンズの製造方法を提供する。
【解決手段】原料組成物の調合工程において、重合性モノマーを主成分として含有するモノマー組成物100重量部に対して紫外線吸収剤として500μm以下の粒径に揃えた2−(2−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)−2H−ベンゾトリアゾールなどのベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤0.5〜1.5重量部を溶解させる。重合性モノマーとして、(1)分子内に1個以上のエピスルフィド基を有する化合物、(2)分子内に1個以上のジスルフィド結合(S−S)を有し、且つエポキシ基及び/又はチオエポキシ基を有する化合物を用いることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、プラスチックレンズの製造方法に関し、特に、紫外線吸収能に優れるプラスチックレンズを生産性良く製造することができるプラスチックレンズの製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
太陽光線に含まれている400nm以下の波長を有する紫外線は、眼の角膜や水晶体に悪影響を及ぼすことが知られている。海や山などの紫外線量の多い場所で太陽光線に眼を曝すと、角膜炎を起こしやすい。また、紫外線の蓄積性により、水晶体に白内障を引き起こす場合がある。そのため、眼鏡レンズ、特に近年需要の多いプラスチックレンズに紫外線吸収能を付与することが求められている。
【0003】
プラスチックレンズに紫外線吸収能を付与するために、一般に練り混み法と呼ばれる方法が知られている。練り込み法は、紫外線吸収剤を重合性モノマーおよび重合開始剤・硬化触媒を含む液体中に混合溶解して原料組成物を調合した後、成型用の型に注入して重合硬化させ、レンズ生地自体に紫外線吸収能を付与する方法である。
【0004】
練り込み法では、紫外線吸収剤を高濃度で重合性モノマーに溶解させる必要がある。そのため、紫外線吸収剤がモノマー中に溶解しない、また重合硬化前に溶解していた場合でも、重合硬化後にレンズ全体に析出する、あるいはレンズ全体が白濁したり、黄色に着色する等により、レンズ外観が不良になるといった問題点がある。
【0005】
近年になってプラスチックレンズの更なる軽量化および薄肉化の要望が高まっており、従来よりも高い屈折率を有する光学材料の開発が盛んに行われるようになってきている。以下に示す特許文献1〜3では、高屈折率と高アッベ数のバランスに優れる光学材料として、(1)分子内に1個以上のエピスルフィド基を有する化合物、(2)分子内に1個以上のジスルフィド結合(S−S)を有し、且つエポキシ基及び/又はチオエポキシ基を有する化合物(以下、これらを総称してエピスルフィド等化合物と略称する場合がある)が提案されている。
【0006】
また、以下に示す特許文献5、6では、ポリイソシアネート化合物と、ポリチオール化合物等の活性水素基を有する化合物との反応により得られる、チオウレタン構造を有するプラスチックレンズが提案されている。
【0007】
本出願人は、エピスルフィド等化合物を原料とするプラスチックレンズに紫外線吸収能を付与するため、検討を行った結果、特許文献4に示すように、エピスルフィド等化合物を主成分として含む組成物への溶解性、紫外線吸収能、耐久性、吸収波長範囲の広さ等の点から、2−(2−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)−2H−ベンゾトリアゾール(以下、特定紫外線吸収剤と略記する場合がある)が最適であることを見い出した。また、このときの添加量としては、エピスルフィド等化合物を主成分として含むモノマー組成物100重量部に対して特定紫外線吸収剤を0.5〜1.5重量部添加することにより、レンズ外観不良を起こさずに優れた紫外線吸収能を付与できることも見い出した。
【0008】
また、本出願人は、ポリイソシアネート化合物とポリチオール化合物を原料とするプラスチックレンズに紫外線吸収能を付与するための検討を行った結果、特許文献7に示すように、ベンゾトリアゾール系の紫外線吸収剤が最適であることを見出している。
【0009】
【特許文献1】
特開平9−110979号公報
【特許文献2】
特開平9−255781号公報
【特許文献3】
特開平11−322930号公報
【特許文献4】
特開2002−156503号公報
【特許文献5】
特公平4−58489号公報
【特許文献6】
特開平5−148340号公報
【特許文献7】
特開平11−271501号公報
【0010】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、エピスルフィド等化合物は比較的不安定であり、硬化触媒等を配合して調合するときの温度を室温以下にしなければならない。そのため、特定紫外線吸収剤を高濃度でモノマー組成物に溶解させる際に、特定紫外線吸収剤の溶解速度が遅く、調合に多大な時間を要し、生産性が悪いという問題がある。
【0011】
また、ポリイソシアネート化合物とポリチオール化合物を原料とするチオウレタン系のプラスチックレンズの場合にも、同様な問題は発生し、紫外線吸収剤を高濃度でモノマー組成物に溶解させる際に、溶解速度が遅く、調合に多大な時間を要し、生産性が悪いという問題がある。
【0012】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたもので、十分に紫外線を吸収できる能力を付与できる量の紫外線吸収剤を溶解させる原料組成物の調合時間を短縮し、生産性を向上させることができるプラスチックレンズの製造方法を提供することを目的とする。
【0013】
【課題を解決するための手段】
本発明者は、上記目的を達成するため鋭意検討した結果、一般的なベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤は白色から淡黄色の結晶性粉末であるが、均一な粒径の粉末ではなく、比較的大きな粒径のものが含まれていることに着目した。特に2−(2−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)−2H−ベンゾトリアゾールのでは、較的大きな粒径のものが含まれていて、その数も多い。そこで、本発明者は、粒径が大きいものを篩で除去し、500μmより粒径が小さい粒径に揃えて溶解させてみたところ、溶解性が意外なほど向上し、従来3時間程度必要としていた溶解時間が30分〜1時間と劇的に短縮できることを見い出した。
【0014】
なお、紫外線吸収剤は、通常は作業時の粉塵が嫌われるため、粒径が大きいものが要請されるものであるが、本発明においては、逆に粒径が小さいものを選別している。
【0015】
紫外線吸収剤の中でも、ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤は、プラスチックレンズ用原料モノマーに対する溶解性が良好であり、黄色の着色具合も小さいまま、プラスチックレンズに紫外線吸収性能を付与することが容易である。ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤の中でも、好ましくは、2−(2−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)−2H−ベンゾトリアゾールであり、特に溶解性に優れ、白濁し難く、着色が小さい効果も大きく、高い紫外線吸収能を付与することに優れている。
【0016】
ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤、中でも好ましくは、2−(2−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)−2H−ベンゾトリアゾールは、プラスチックレンズ用原料モノマーの中でも、上記特許文献1〜3に示されたエピスルフィド等化合物に対して特に溶解性に優れ、白濁し難く、着色性も少なく、高い紫外線吸収能を付与することに優れている。
【0017】
また、ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤、中でも好ましくは、2−(2−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)−2H−ベンゾトリアゾールは、エピスルフィド等化合物以外に、重合性モノマーとして、上記特許文献5,6に示された2個以上のイソシアネート基を有するポリイソシアネートと2個以上の活性水素を有する化合物に対しても溶解性が良好であり、黄色の着色具合も小さいまま、プラスチックレンズに紫外線吸収性能を付与することが容易である。溶解性に優れ、白濁し難く、着色性も少なく、高い紫外線吸収能を付与することができる。
【0018】
ポリイソシアネートとして、環状骨格を有するものが好ましい。環状骨格として芳香族骨格が好ましく、芳香族骨格を有するポリイソシアネートとして、キシリレンジイソシアネートが好ましい。
【0019】
調合工程における原料組成物の温度が、−10〜30℃の溶解し難い温度範囲であると、紫外線吸収剤の粒径を小さく揃えて溶解性を向上させた効果が顕著である。
【0020】
従って、請求項1記載の発明は、重合性モノマーを主成分として含有するモノマー組成物100重量部に対して紫外線吸収剤として500μm以下の粒径のベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤を0.5〜1.5重量部を溶解させる原料組成物の調合工程と、前記原料組成物を重合硬化させる重合工程とを有することを特徴とするプラスチックレンズの製造方法を提供する。
【0021】
請求項2記載の発明は、請求項1記載のプラスチックレンズの製造方法においいて、前記紫外線吸収剤が、2−(2−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)−2H−ベンゾトリアゾールであることを特徴とするプラスチックレンズの製造方法を提供する。
【0022】
請求項3記載の発明は、請求項1又は2記載のプラスチックレンズの製造方法において、前記重合性モノマーが、エピスルフィド基を1分子内に1個以上有する化合物を含有することを特徴とするプラスチックレンズの製造方法を提供する。
【0023】
請求項4記載の発明は、請求項1又は2記載のプラスチックレンズの製造方法において、前記重合性モノマーが、1分子内に1個以上のジスルフィド結合(S−S)を有し、且つエポキシ基及び/又はチオエポキシ基を有する化合物を含有することを特徴とするプラスチックレンズの製造方法を提供する。
【0024】
請求項5記載の発明は、請求項1又は2記載のプラスチックレンズの製造方法において、前記重合性モノマーが、2個以上のイソシアネート基を有するポリイソシアネートと、2個以上の活性水素を有する化合物とを主成分とすることを特徴とするプラスチックレンズの製造方法を提供する。
【0025】
請求項6記載の発明は、請求項5記載のプラスチックレンズの製造方法において、前記2個以上の活性水素を有する化合物が、ポリチオールであることを特徴とするプラスチックレンズの製造方法を提供する。
【0026】
請求項7記載の発明は、請求項5又は6記載のプラスチックレンズの製造方法において、前記ポリイソシアネートが、環状骨格として芳香族骨格を有することを特徴とするプラスチックレンズの製造方法を提供する。
【0027】
請求項8記載の発明は、請求項7記載のプラスチックレンズの製造方法において、前記環状骨格として芳香族骨格を有するポリイソシアネートがキシリレンジイソシアネートであることを特徴とするプラスチックレンズの製造方法を提供する。
【0028】
請求項9記載の発明は、請求項1〜8いずれかに記載のプラスチックレンズの製造方法において、調合工程におけるモノマー組成物の温度が−10℃〜30℃の範囲であることを特徴とするプラスチックレンズの製造方法を提供する。
【0029】
【発明の実施の形態】
以下、本発明のプラスチックレンズの製造方法の実施の形態について説明するが、本発明は以下の実施の形態に限定されるものではない。
【0030】
本発明のプラスチックレンズの製造方法は、上述したように、重合性モノマーを主成分として含有するモノマー組成物に対して紫外線吸収剤として500μm以下の粒径のベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤を溶解させる原料組成物の調合工程と、原料組成物を重合硬化させる重合工程とを有する。
【0031】
本発明で用いる紫外線吸収剤は、ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤であり、中でも2−(2−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)−2H−ベンゾトリアゾールが、原料モノマーに対する溶解性が特に良好であり、白濁しにくく、高い紫外線吸収能を付与することが容易である点で、好ましい。
【0032】
本発明で用いる重合性モノマーとしては、プラスチックレンズの原料に用いられているものであれば、制限はないが、近年開発された高屈折率素材が、特定紫外線吸収剤の溶解性等の観点から、好ましく用いることができる。
【0033】
高屈折率素材用の重合性モノマーとしては、例えば、上記特許文献1〜3に記載されている(1)分子内に1個以上のエピスルフィド基を有する化合物、(2)分子内に1個以上のジスルフィド結合(S−S)を有し、且つエポキシ基及び/又はチオエポキシ基を有する化合物(エピスルフィド等化合物)を例示することができる。
【0034】
エピスルフィド等化合物は、その硬化物が高屈折率、高アッベ数を実現しており、光学性能の非常に優れた材料である。
【0035】
エピスルフィド基は下記式で表される。
【0036】
【化1】



(但し、式中Xは、硫黄原子又は酸素原子を表す。)
【0037】
2つのエピスルフィド基のそれぞれの末端の硫黄原子相互が結合している場合には、分子内に1個以上のジスルフィド結合(S−S)を有し、且つエポキシ基及び/又はチオエポキシ基を有する化合物となる。
【0038】
分子内に1個以上のエピスルフィド基を有する化合物としては、1,2−ビス(2,3−エピチオプロピルチオ)エタン、1,2−ビス(2,3−エピチオプロピルチオ)プロパン、1,3−ビス(2,3−エピチオプロピルチオ)プロパン、1,3−ビス(2,3−エピチオプロピルチオ)−2−メチルプロパン、1,4−ビス(2,3−エピチオプロピルチオ)ブタン、1,4−ビス(2,3−エピチオプロピルチオ)−2−メチルブタン、1,3−ビス(2,3−エピチオプロピルチオ)ブタン、1,5−ビス(2,3−エピチオプロピルチオ)ペンタン、1,5−ビス(2,3−エピチオプロピルチオ)−2−メチルペンタン、1,5−ビス(2,3−エピチオプロピルチオ)−3−チアペンタン、1,6−ビス(2,3−エピチオプロピルチオ)ヘキサン、1,6−ビス(2,3−エピチオプロピルチオ)−2−メチルヘキサン、1,8−ビス(2,3−エピチオプロピルチオ)−3,6−ジチアオクタン、1,2,3−トリス(2,3−エピチオプロピルチオ)プロパン、2,2−ビス(2,3−エピチオプロピルチオ)−1,3−ビス(2,3−エピチオプロピルチオメチル)プロパン、2,2−ビス(2、3−エピチオプロピルチオメチル)−1−(2,3−エピチオプロピルチオ)ブタン、1、5−ビス(2,3−エピチオプロピルチオ)−2−(2、3−エピチオプロピルチオメチル)−3−チアペンタン、1,5−ビス(2,3−エピチオプロピルチオ)−2,4−ビス(2、3−エピチオプロピルチオメチル)−3−チアペンタン、1−(2,3−エピチオプロピルチオ)−2,2−ビス(2,3−エピチオプロピルチオメチル)−4−チアヘキサン、1,5,6−トリス(2,3−エピチオプロピルチオ)−4−(2,3−エピチオプロピルチオメチル)−3−チアヘキサン、1,8−ビス(2,3−エピチオプロピルチオ)−4−(2,3−エピチオプロピルチオメチル)−3,6−ジチアオクタン、1,8−ビス(2,3−エピチオプロピルチオ)−4,5−ビス(2,3−エピチオプロピルチオメチル)−3,6−ジチアオクタン、1,8−ビス(2,3−エピチオプロピルチオ)−4,4−ビス(2,3−エピチオプロピルチオメチル)−3,6−ジチアオクタン、1,8−ビス(2,3−エピチオプロピルチオ)−2,5−ビス(2,3−エピチオプロピルチオメチル)−3,6−ジチアオクタン、1,8−ビス(2,3−エピチオプロピルチオ)−2,4,5−トリス(2,3−エピチオプロピルチオメチル)−3,6−ジチアオクタン、1,1,1−トリス{[2−(2,3−エピチオプロピルチオ)エチル]チオメチル}−2−(2,3−エピチオプロピルチオ)エタン、1,1,2,2−テトラキス{[2−(2,3−エピチオプロピルチオ)エチル]チオメチル}エタン、1,11−ビス(2,3−エピチオプロピルチオ)−4,8−ビス(2,3−エピチオプロピルチオメチル)−3,6,9−トリチアウンデカン、1,11−ビス(2,3−エピチオプロピルチオ)−4,7−ビス(2,3−エピチオプロピルチオメチル)−3,6,9−トリチアウンデカン、1,11−ビス(2,3−エピチオプロピルチオ)−5,7−ビス(2,3−エピチオプロピルチオメチル)−3,6,9−トリチアウンデカン等の鎖状脂肪族の2,3−エピチオプロピルチオ化合物、及び、1,3−ビス(2,3−エピチオプロピルチオ)シクロヘキサン、1,4−ビス(2,3−エピチオプロピルチオ)シクロヘキサン、1,3−ビス(2,3−エピチオプロピルチオメチル)シクロヘキサン、1,4−ビス(2,3−エピチオプロピルチオメチル)シクロヘキサン、2,5−ビス(2,3−エピチオプロピルチオメチル)−1,4−ジチアン、2,5−ビス{[2−(2,3−エピチオプロピルチオ)エチル]チオメチル}−1,4−ジチアン、2,5−ビス(2,3−エピチオプロピルチオメチル)−2,5−ジメチル−1,4−ジチアン等の環状脂肪族の2,3−エピチオプロピルチオ化合物、及び、1,2−ビス(2,3−エピチオプロピルチオ)ベンゼン、1,3−ビス(2,3−エピチオプロピルチオ)ベンゼン、1,4−ビス(2,3−エピチオプロピルチオ)ベンゼン、1,2−ビス(2,3−エピチオプロピルチオメチル)ベンゼン、1,3−ビス(2,3−エピチオプロピルチオメチル)ベンゼン、1,4−ビス(2,3−エピチオプロピルチオメチル)ベンゼン、ビス[4−(2,3−エピチオプロピルチオ)フェニル]メタン、2,2−ビス[4−(2,3−エピチオプロピルチオ)フェニル]プロパン、ビス[4−(2,3−エピチオプロピルチオ)フェニル]スルフィド、ビス[4−(2,3−エピチオプロピルチオ)フェニル]スルフォン、4、4’−ビス(2,3−エピチオプロピルチオ)ビフェニル等の芳香族2,3−エピチオプロピルチオ化合物等を挙げることができる。これらの1種を単独で又は2種以上を併用して用いることができる。
【0039】
分子内に1個以上のジスルフィド結合(S−S)を有し、且つエポキシ基及び/又はチオエポキシ基を有する化合物としては、例えば、ビス(2,3−エポキシプロピル)ジスルフィドやビス(2,3−エピチオプロピル)ジスルフィドなどの分子内に1個のジスルフィド結合を有する(チオ)エポキシ化合物、ビス(2,3−エピチオプロピルジチオ)メタン、ビス(2,3−エピチオプロピルジチオ)エタン、ビス(6,7−エピチオ−3,4−ジチアヘプタン)スルフィド、1,4−ジチアン−2,5−ビス(2,3−エピチオプロピルジチオメチル)、1,3−ビス(2,3−エピチオプロピルジチオメチル)ベンゼン、1,6−ビス(2,3−エピチオプロピルジチオメチル)−2−(2,3−エピチオプロピルジチオエチルチオ)−4−チアヘキサン、1,2,3−トリス(2,3−エピチオプロピルジチオ)プロパンなどの分子内に2つ以上のジスルフィド結合を有する(チオ)エポキシ化合物が挙げられる。これらの1種を単独で又は2種以上を併用して用いることができる。
【0040】
本発明においては、重合性モノマーとして、これらの分子内に1個以上のエピスルフィド基を有する化合物と分子内に1個以上のジスルフィド結合(S−S)を有し、且つエポキシ基及び/又はチオエポキシ基を有する化合物のいずれか一方を使用できると共に、両者を併用して用いることができる。
【0041】
本発明にかかるエピスルフィド等化合物を含有する原料組成物には、主に得られる樹脂の屈折率等の光学物性の調整や、耐衝撃性、比重等の諸物性を調整するためや、モノマーの粘度、その他の取扱い性を調整するためなど、樹脂の改良をする目的で、樹脂改質剤を加えることができる。
【0042】
樹脂改質剤としては、上記分子内に1個以上のエピスルフィド基を有する化合物、チオール化合物、メルカプト有機酸類、有機酸類及び無水物類、アミノ酸、メルカプトアミン類、アミン類、(メタ)アクリレート類等を含むオレフィン類、エポキシ基、多価カルボン酸基、メタクリル基、アクリル基、アリル基、ビニル基、芳香族ビニル基、水酸基、イソシアネート基等の官能基を有する化合物が挙げられる。これらの樹脂改質剤はいずれも単独でも2種類以上を混合して使用しても良い。
【0043】
硬化触媒としては3級アミン類、ホスフィン類、ルイス酸類、ラジカル硬化触媒類、カチオン硬化触媒類等が通常用いられる。硬化触媒の添加量は、原料組成物全体に対して0.001〜10重量%、より好ましくは0.01〜5重量%の範囲である。硬化触媒の量がこの範囲より多いと硬化物の屈折率、耐熱性が低下し、また得られるレンズが著しく着色する場合がある。またこの範囲より少ないと十分に重合硬化せず耐熱性が十分に得られない場合がある。
【0044】
また、高屈折率素材用の重合性モノマーとして、2個以上のイソシアネート基を有するポリイソシアネートと2個以上の活性水素を有する化合物とを主成分とする重合性モノマーを主成分とするものを例示することができる。
【0045】
重合性モノマーを構成する2個以上のイソシアネート基を有するポリイソシアネートとしては、例えば、m−キシリレンジイソシアネート、p−キシリレンジイソシアネート、テトラクロロ−m−キシリレンジイソシアネート、水添キシリレンジイソシアネート、水添ジフェニルメタンジイソシアネート、テトラメチルキシリレンジイソシアネート、2,5−ビス(イソシアネートメチル)ビシクロ[2.2.1]ヘプタン、2,6−ビス(イソシアネートメチル)ビシクロ[2.2.1]ヘプタン、3,8−ビス(イソシアネートメチル)トリシクロ[5.2.1、02、6]−デカン、3,9−ビス(イソシアネートメチル)トリシクロ[5.2.1.02、6]−デカン、4,8−ビス(イソシアネートメチル)トリシクロ[5.2.1、02、6]−デカン、4,9−ビス(イソシアネートメチル)トリシクロ[5.2.1、02、6]−デカン、ダイマー酸ジイソシアネート等のポリイソシアネート化合物及びそれらの化合物のアロファネート変性体、1,3−ビス(α,α−ジメチルイソシアネートメチル)ベンゼン、1,4−ビス(α,α−ジメチルイソシアネートメチル)ベンゼン、ヘキサメチレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、トリレンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート、ポリメリック型ジフェニルメタンジイソシアネート、トリジンジイソシアネート、ナフタレンジイソシアネート、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネートのビウレット化反応物、ヘキサメチレンジイソシアネートとトリメチロールプロパンのアダクト生成物、4,4’−ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート、イソシアヌレート変性体等が挙げられ、これらの化合物を単独で又は2種以上を混合して用いることができる。これらのポリイソシアネート中でも芳香族骨格等の環状骨格を有するものが好ましい。芳香族骨格のポリイソシアネートとしては、キシリレンジイソシアネートが好ましい。
【0046】
また、重合性モノマーを構成する2個以上の活性水素を有する化合物としては、例えば2個以上の水酸基を有するポリオール、2個以上のチオール基を有するポリチオール、または1分子中に水酸基とチオール基を各々1個以上有する化合物を挙げることができる。
【0047】
ポリオールとしては、例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、ブチレングリコール、ネオペンチルグリコール、グリセリン、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、ブタントリオール、1,2−メチルグルコサイド、ペンタエリスリトール、ジペンタエリスリトール、トリペンタエリスリトール、ソルビトール、エリスリトール、スレイトール、リビトール、アラビニトール、キシリトール、アリトール、マニトール、ドルシトール、イディトール、グリコール、イノシトール、ヘキサントリオール、トリグリセロール、ジグリペロール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール、トリス(2−ヒドロキシエチル)イソシアヌレート、シクロブタンジオール、シクロペンタンジオール、シクロヘキサンジオール、シクロヘプタンジオール、シクロオクタンジオール、シクロヘキサンジメタノール、ヒドロキシプロピルシクロヘキサノール、トリシクロ〔5,2,1,0,2,6〕デカン−ジメタノール、ビシクロ〔4,3,0〕−ノナンジオール、ジシクロヘキサンジオール、トリシクロ〔5,3,1,1〕ドデカンジオール、ビシクロ〔4,3,0〕ノナンジメタノール、トリシクロ〔5,3,1,1〕ドデカン−ジエタノール、ヒドロキシプロピルトリシクロ〔5,3,1,1〕ドデカノール、スピロ〔3,4〕オクタンジオール、ブチルシクロヘキサンジオール、1,1’−ビシクロヘキシリデンジオール、シクロヘキサントリオール、マルチトール、ラクチトール等の脂肪族ポリオール、ジヒドロキシナフタレン、トリヒドロキシナフタレン、テトラヒドロキシナフタレン、ジヒドロキシベンゼン、ベンゼントリオール、ビフェニルテトラオール、ピロガロール、(ヒドロキシナフチル)ピロガロール、トリヒドロキシフェナントレン、ビスフェノールA、ビスフェノールF、キシリレングリコール、テトラブロムビスフェノールA等の芳香族ポリオール、ジ−(2−ヒドロキシエチル)スルフィド、1,2−ビス−(2−ヒドロキシエチルメルカプト)エタン、ビス(2−ヒドロキシエチル)ジスルフィド、1,4−ジチアン−2,5−ジオール、ビス(2,3−ジヒドロキシプロピル)スルフィド、テトラキス(4−ヒドロキシ−2−チアブチル)メタン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)スルホン(商品名ビスフェノールS)、テトラブロモビスフェノールS、テトラメチルビスフェノールS、4,4’−チオビス(6−tert−ブチル−3−メチルフェノール)、1,3−ビス(2−ヒドロキシエチルチオエチル)−シクロヘキサンなどの硫黄原子を含有したポリオール等が挙げられる。
【0048】
また、ポリチオールとしては、特に制限されないが、例えば下記式(1)で示される4−メルカプトメチル−3,6−ジチオ−1,8−オクタンジチオール、下記式(2)で示されるペンタエリスリトールテトラキス(3−メルカプトプロピオナート)、及び下記一般式(3)で示されるテトラチオールを例示することができる。
【0049】
【化2】



【0050】
この一般式(3)で示されるテトラチオールの具体例としては、例えば次のような構造式の化合物(A)〜(G)を挙げることができる。
【0051】
【化3】



【0052】
その他のポリチオールとしては、例えば、ビス(2−メルカプトエチル)スルフィド、ジ(2−メルカプトエチル)エーテル、1,2−エタンジチオール、1,4−ブタンジチオール、エチレングリコールジチオグリコレート、トリメチロールプロパントリス(チオグリコレート)、ペンタエリスリトールテトラキス(2−メルカプトアセテート)、ジペンタエリスリトールヘキサキス(3−メルカプトプロピオナート)、ジペンタエリスリトールヘキサキス(2−メルカプトアセテート)、1,2−ジメルカプトベンゼン、4−メチル−1,2−ジメルカプトベンゼン、3,6−ジクロロ−1,2−ジメルカプトベンゼン、3,4,5,6−テトラクロロ−1,2−ジメルカプトベンゼン、O−キシリレンジチオール、m−キシリレンジチオール、p−キシリレンジチオール、及び1,3,5−トリス(3−メルカプトプロピル)イソシアヌレートなどが挙げられる。
【0053】
また、1分子中に水酸基とチオール基を各々1個以上有する化合物としては、例えば、2−メルカプトエタノール、3−メルカプト−1,2−プロパンジオール、グルセリンジ(メルカプトアセテート)、1−ヒドロキシ−4−メルカプトシクロヘキサン、2,4−ジメルカプトフェノール、2−メルカプトハイドロキノン、4−メルカプトフェノール、1,3−ジメルカプト−2−プロパノール、2,3−ジメルカプト−1−プロパノール、1,2−ジメルカプト−1,3−ブタンジオール、ペンタエリスリトールトリス(3−メルカプトプロピオネート)、ペンタエリスリトールモノ(3−メルカプトプロピオネート)、ペンタエリスリトールビス(3−メルカプトプロピオネート)、ペンタエリスリトールトリス(チオグリコレート)、ペンタエリスリトールペンタキス(3−メルカプトプロピオネート)、ヒドロキシメチル−トリス(メルカプトエチルチオメチル)メタン、1−ヒドロキシエチルチオ−3−メルカプトエチルチオベンゼン、4−ヒドロキシ−4’−メルカプトジフェニルスルホン、2−(2−メルカプトエチルチオ)エタノール、ジヒドロキシエチルスルフィドモノ(3−メルカプトプロピオネート)、ジメルカプトエタンモノ(サルチレート)、ヒドロキシエチルチオメチルートリス(メルカプトエチルチオ)メタン等が挙げられる。
【0054】
ポリイソシアネート化合物と活性水素の混合割合は、イソシアネート基(NCO)と活性水素(H)の割合がNCO/H(モル比)=0.5〜3.0、特に0.5〜1.5の範囲が好ましい。
【0055】
なお、上記ポリイソシアネート、ポリオール、ポリチオール、分子中に水酸基とチオール基を各々1個以上有する化合物は、上記エピスルフィド等化合物に対して樹脂改質剤として併用するようにしてもよい。
【0056】
また、硬化触媒としては、特に制限されないが、三級アミン、三級ホスフィン、又はジメチルスズジクロライドやジブチルスズジクロライド等のルイス酸が好ましい。硬化触媒の使用量は、一般的に重合性モノマーに対して0.0005〜5重量%の範囲である。
【0057】
本発明の原料組成物には、必要に応じて、鎖延長剤、架橋剤、光安定剤、特定紫外線以外の紫外線吸収剤、酸化防止剤、着色防止剤、染料、充填剤、内部離型剤などの種々の物質を添加してもよい。酸化防止剤や光安定剤の具体例としては、ヒンダードアミン系光安定剤、ヒンダードフェノール系酸化防止剤、ホスファイト系酸化防止剤、チオエーテル系酸化防止剤等を挙げることができる。
【0058】
本発明では、紫外線吸収剤として、ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤を用いる。ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤は、上記原料組成物を構成する重合性モノマーに対する溶解性に優れ、高い紫外線吸収能を付与でき、しかも耐久性、吸収波長範囲が広いという特徴を有する。中でも、2−(2−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)−2H−ベンゾトリアゾールが、重合性モノマーに対する溶解性に特に優れ、白濁することなく、黄色く着色具合も小さい状態で、高い紫外線吸収能を付与することが容易であるため、好ましい。ベンゾトリアゾール系以外のベンゾフェノン系などの他の紫外線吸収剤を使用した場合には、紫外線吸収能が不十分であったり、重合硬化後に、紫外線吸収剤の析出、白濁といった現象によって、外観が不良になる等といった問題が発生する。
【0059】
また、本発明では、粒径が揃っている特定紫外線吸収剤を用いることに特徴があり、500μm以下、好ましくは250μm以下の粒径の特定紫外線吸収剤を用いる。粗大な粒径を含む特定紫外線吸収剤を用いると、溶解性が顕著に低下し、調合工程の時間が長くなり、生産性が低下する。
【0060】
上記粒径の特定紫外線吸収剤を得るには、例えば、市販の特定紫外線吸収剤を篩分し、粒径の大きな部分を取り除き、粒径の小さいものを選別する方法がある。また、ボールミル等の粉砕機を用いて、市販品の特定紫外線吸収剤を粉砕し、必要により篩分して用いるようにしてもよい。
【0061】
このような粒径の特定紫外線吸収剤の配合量は、上記重合性モノマーを主成分として硬化触媒その他の成分を加えたモノマー組成物100重量部に対して0.5〜1.5重量部の範囲である。特定紫外線吸収剤をこの範囲で配合したプラスチックレンズは、波長400nm以下の紫外線をほとんど吸収し、380〜390nm以下の紫外線をほぼ100%吸収する紫外線吸収能を有する。すなわち、400nmの透過率は20%以下であり、380〜390nm以下の透過率はほぼ0%である。配合量が0.5量部よりも小さい場合、紫外線吸収能が十分に発現されない。また1.5重量部を超える場合、レンズが著しく黄色に着色し、かつ白濁によりレンズの外観が不良となる。
【0062】
原料組成物の調合工程は、上記重合性モノマー、硬化触媒、特定紫外線吸収剤その他の成分を上記配合量で混合して原料組成物を調製する工程である。上記エピスルフィド等化合物は、比較的不安定であり、調合工程では、−10℃〜30℃の温度範囲にすることが望ましいとされている。この低い温度での特定紫外線吸収剤のエピスルフィド等化合物に対する溶解速度は高濃度に溶解させることもあって遅い。粒径を調整しない従来の特定紫外線吸収剤を完全に溶解させるには、3時間程度の攪拌時間を必要としていた。粒径を小さく揃えた特定紫外線吸収剤を用いると、30分〜1時間程度の攪拌時間で完全に溶解させることが可能となった。調合時間の短縮により、製造設備の効率化が可能となり、生産性が顕著に向上した。また、調合後に行われる原料組成物のフィルタによる濾過の際に、溶けずに残った特定紫外線吸収剤によるフィルタの目詰まりのおそれがなくなる。
【0063】
調合工程における調合の順序に制限はない。例えば、重合性モノマーに紫外線吸収剤その他の成分を溶解させた後、硬化触媒を最後に添加する方法を採用することができる。
【0064】
調合工程後、原料組成物を重合硬化させる重合工程を行う。重合工程は、原料組成物を例えばガスケットまたはテープによって側面が保持された2枚のガラス型よりなる成形モールド内に注入し、この成形モールドを所定の温度に調節できる雰囲気中で原料組成物を硬化させ、成形モールドのキャビティの形状が転写されたプラスチックレンズを得る注型重合法が用いられる。
【0065】
プラスチックレンズの重合成形では、レンズの両面が成形モールドからの転写で所定の光学面に仕上げられたフィニッシュレンズを製造する場合と、片面が成形モールドからの転写で光学面に仕上げられ、反対側の面が研磨加工により光学面に削られるセミフィニッシュレンズを製造する場合がある。
【0066】
原料組成物の重合温度条件として、例えば初期重合として10〜40℃で4〜10時間、その温度から最高温度の100〜140℃まで3〜7時間で上昇させ、その温度を1〜3時間維持し、3〜5時間かけて常温に冷却し、全体で15〜25時間の重合時間を要するという加熱パターンが一般的である。
【0067】
かかる重合温度の調節は、例えば重合炉の中に成形モールドを配置し、重合炉内の雰囲気温度の温度調節により行われる。
【0068】
エピスルフィド等化合物を重合性モノマーの主成分として用いた場合は、初期重合の段階では20±15℃の温度を5時間以上、好ましくは50時間以内、特に好ましくは8〜24時間保つようにして原料組成物をゲル化する。この低温の初期重合温度条件で重合反応を進めてゲル化を行うことにより、光学的歪みの発生を可及的に抑制することができ、歩留まりを向上させることができる。初期重合温度が上記温度より低いと、ゲル化までの時間がかかりすぎて製造上不利である。また、初期重合温度が高過ぎると、光学的歪みが発生し易くなる。初期重合時間が短すぎるとゲル化が不十分となり、光学的歪みが発生し易くなる。一方、初期重合時間を長くしても、それ以上重合反応がほとんど進行せず、生産効率の面から好ましくない場合がある。上記温度範囲内で一定の温度とする場合が通常であるが、上記温度範囲内で温度を変化させるようにしても良い。
【0069】
エピスルフィド等化合物を重合性モノマーとして用いる場合は、重合時の最高温度を125℃〜140℃とする。最高温度が低いと、レンズの度数は重合後の1回のアニールでは安定せず、その後の熱処理によってレンズ度数は変化し続ける現象を示す場合がある。一方、重合時の最高温度が140℃を越える場合は、重合後のレンズ色調において黄色が強くなり、無色透明が望まれる眼鏡レンズ用としては、使用できなくなる場合がある。
【0070】
重合炉から成形モールドを取り出し、成形モールドを分解して硬化したプラスチックレンズを取り出すことができる。
【0071】
成形モールドから取り出したプラスチックレンズを再加熱しアニール処理を行うことは、レンズ度数の安定化やレンズの光学歪みを取り除くために、好ましい処理方法である。このときの処理温度は70℃〜160℃であり、好ましくは80℃〜140℃である。また処理時間は10分〜6時間であり、好ましくは1時間〜3時間である。
【0072】
重合成形されたプラスチックレンズがフィニッシュレンズの場合は、研磨加工せずに、染色、ハードコート膜の形成、反射防止膜の形成などの処理工程を必要により経て最終的なプラスチックレンズとなる。
【0073】
重合成形されたプラスチックレンズがセミフィニッシュレンズの場合は、一方の面を所定の光学面に削る研磨工程を行う。研磨工程後、染色、ハードコート膜の形成、反射防止膜の形成などの処理工程を必要により経て最終的なプラスチックレンズとなる。
【0074】
このようにして得られたプラスチックレンズは、紫外線吸収剤として2−(2−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)−2H−ベンゾトリアゾールなどのベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤を0.5〜1.5重量部配合しているため、紫外線吸収能に優れ、眼を紫外線から保護することができる。
【0075】
【実施例】
実施例および比較例で使用する化合物の略称は以下の通りである。
エピスルフィド等化合物
A−1:ビス−(2,3−エピチオプロピル)ジスルフィド
チオール化合物
B−1:4,8or4,7or5,7−ジメルカプトメチル−1,11−ジメルカプト−3,6,9−トリチアウンデカン
B−2:ビス(2−メルカプトエチル)スルフィド
ポリイソシアネート化合物
C−1:m−キシリレンジイソシアネート
紫外線吸収剤
S−701:2−(2−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)−2H−ベンゾトリアゾール(商品名 シーソーブ701 シプロ化成株式会社製、市販品)
S−701P:上記S−701の市販品を目開き250μmの篩で篩分し、目開き250μmの篩を通過したもの。
S−706:2−(2H−ベンゾトリアゾール−2−イル−)−4−メチル−6−(3,4,5,6−テトラヒドロフタルイミジルメチル)フェノール(商品名シーソーブ706 シプロ化成株式会社製)
S−707:2−(2−ヒドロキシ−4−オクチルオキシフェニル)−2H−ベンゾトリアゾール(商品名 シーソーブ707 シプロ化成株式会社製)
S−709:2−(2−ヒドロキシ−5−t−オクチルフェニル)−2H−ベンゾトリアゾール(商品名 シーソーブ709 シプロ化成株式会社製)
T−234:2−(2−ヒドロキシ−3,5−ビス(α、α’ジメチルベンジル)フェニル)−2H−ベンゾトリアゾール(商品名 チヌビン234 チバ・スペシャルティ・ケミカルズ株式会社製)
【0076】
(実施例1)
レンズ原料組成物として、表1に示す化合物を表1に示す組成比で温度20℃で混合した後、紫外線吸収剤として表1に示す化合物を、表1に示す量添加し、1時間攪拌した時点で原料組成物の外観を目視にて確認し、紫外線吸収剤の溶解性を下記の基準で評価した。
【0077】
<溶解性>
○:溶け残った紫外線吸収剤の粒子が見られない。
△:少量の紫外線吸収剤の粒子が溶け残り、モノマー中に分散している。
×:大部分の紫外線吸収剤粒子が溶け残っている。
【0078】
溶け残っている場合には更に十分に撹拌して、完全に溶解させた。その後、触媒としてN,N−ジメチルシクロヘキシルアミン0.02g、N,N−ジシクロヘキシルメチルアミン0.10gを添加した後、20℃で十分に撹拌して均一液とした。ついでこの組成物を中心厚1.2mmとしたプラスチックレンズ用ガラスモールド中に注入し、大気重合炉中で30℃から120℃まで24時間かけて昇温を行い、重合硬化させた。その後ガラスモールドよりレンズを離型し、130℃で2時間加熱してアニール処理を行った。
【0079】
このようにして製造したプラスチックレンズを、下記の方法で品質評価を行った。その結果を表2に示す。
【0080】
<屈折率>
アッベ屈折率計により20℃でD線(589.3nm)の屈折率を測定した。
【0081】
<アッベ数>
アッベ屈折率計により20℃でD線(589.3nm)のアッベ数を測定した。
【0082】
<紫外線吸収能>
分光光度計U−3500(日立製)を用いて、レンズ中心部(レンズ厚が一番薄くなる部分)の透過スペクトルを測定し、波長400nmにおける透過率を求めた。この結果をもとに以下のように分類した。
○:紫外線がほぼ吸収されている(波長400nm透過率 20%以下)。
△:紫外線の吸収が不十分である(波長400nm透過率 20〜40%)。
×:紫外線がほとんど吸収されていない(波長400nm透過率 40%以上)。
【0083】
<耐光性>
JIS B 7753に規定するサンシャインカーボンアーク灯式耐候性試験機を使用し、80時間加速試験後レンズの色調(b*)を測定し、初期と比べてb*の変化量が2未満のものを○、2以上のものを×とした。
【0084】
<色調>
目視により得られたレンズの色調を目視で観察し、黄色さのレベルによって以下のように分類した。
○:良好
△:レンズが若干黄色化している。もしくは若干紫外線吸収剤の析出が見られる。
×:レンズが著しく黄色化している。もしくは著しく紫外線吸収剤の析出が見られる。
【0085】
<白濁>
レンズのコバ部分から光をあてることによって、レンズの白濁を目視で観察し、白濁のレベルによって以下のように分類した。
○:白濁は見られない。
△:薄い白濁が見られる。
×:濃い白濁が見られる。
【0086】
(実施例2)
原料組成を表1に示すように変更した以外は、実施例1と同条件でレンズを作製し、実施例1と同様の品質評価を行った。評価結果を表2に示す。
【0087】
(実施例3)
レンズ原料組成物として表1に示す化合物を表1に示す組成比で温度20℃で混合した後、紫外線吸収剤として表1に示す量添加し、1時間撹拌した時点で原料組成物の外観を目視にて確認し、紫外線吸収剤の溶解性を実施例1と同様の基準で評価した。
【0088】
溶け残っている場合には更に十分に撹拌して完全に溶解させた。その後、内部離型剤0.75gを添加して撹拌した後に、触媒としてジブチルスズジクロライド0.03gを添加し、撹拌して溶解させた後、5mmHgの真空下で60分脱気を行った。ついでこの組成物を、中心厚1.2mmとしたプラスチックレンズ用ガラスモールド中に注入し、大気重合炉中で30℃から120℃まで17時間かけて昇温を行い、重合硬化させた。その後ガラスモールドよりレンズを離型し、120℃で2時間加熱してアニールを行った。
【0089】
このようにして製造したプラスチックレンズを実施例1と同様の方法で品質評価を行い、その結果を表2に示す。
【0090】
(比較例1〜12)
原料組成と、紫外線吸収剤の種類と添加量を、表1に示すように変更した以外は、実施例1と同条件でレンズを作製し、実施例1と同様の品質評価を行った。評価結果を表2に示す。
【0091】
【表1】



【0092】
【表2】



【0093】
表2の結果より、篩分して粒径の大きなものを除いていない2−(2−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)−2H−ベンゾトリアゾールを使用した場合(比較例1、2、9)、溶解性が悪い。紫外線吸収剤の配合量が本発明の範囲より少ない場合(比較例3、10)、紫外線吸収能が劣り、配合量が多すぎる場合(比較例4、11)は、白濁が生じる。2−(2−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)−2H−ベンゾトリアゾール以外の紫外線吸収剤を使用した場合(比較例5〜8、12)、白濁が生じ、紫外線吸収能の低下や、レンズが著しく黄色化し、もしくは著しく紫外線吸収剤の析出が見られる。
【0094】
これに対して、紫外線吸収剤として250μmより大きな粒径のものを除いた2−(2−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)−2H−ベンゾトリアゾールを本発明の範囲の配合量で使用した場合は、溶解性が良好で、1時間の攪拌時間で溶解し、紫外線吸収能に優れ、白濁、着色等も発生しないことが認められる。
【0095】
【発明の効果】
本発明のプラスチックレンズの製造方法によれば、原料組成物の調合時間を短縮して生産性を向上させることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
重合性モノマーを主成分として含有するモノマー組成物100重量部に対して紫外線吸収剤として500μm以下の粒径のベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤0.5〜1.5重量部を溶解させる原料組成物の調合工程と、
前記原料組成物を重合硬化させる重合工程と
を有することを特徴とするプラスチックレンズの製造方法。
【請求項2】
請求項1記載のプラスチックレンズの製造方法において、
前記ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤が、2−(2−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)−2H−ベンゾトリアゾールであることを特徴とするプラスチックレンズの製造方法。
【請求項3】
請求項1又は2記載のプラスチックレンズの製造方法において、
前記重合性モノマーが、エピスルフィド基を1分子内に1個以上有する化合物を含有することを特徴とするプラスチックレンズの製造方法。
【請求項4】
請求項1又は2記載のプラスチックレンズの製造方法において、
前記重合性モノマーが、1分子内に1個以上のジスルフィド結合(S−S)を有し、且つエポキシ基及び/又はチオエポキシ基を有する化合物を含有することを特徴とするプラスチックレンズの製造方法。
【請求項5】
請求項1又は2に記載のプラスチックレンズの製造方法において、
前記重合性モノマーが、2個以上のイソシアネート基を有するポリイソシアネートと、2個以上の活性水素を有する化合物とを主成分とすることを特徴とするプラスチックレンズの製造方法。
【請求項6】
請求項5記載のプラスチックレンズの製造方法において、
前記2個以上の活性水素を有する化合物が、ポリチオールであることを特徴とするプラスチックレンズの製造方法。
【請求項7】
請求項5又は6記載のプラスチックレンズの製造方法において、
前記ポリイソシアネートが、環状骨格として芳香族骨格を有することを特徴とするプラスチックレンズの製造方法。
【請求項8】
請求項7記載のプラスチックレンズの製造方法において、
前記環状骨格として芳香族骨格を有するポリイソシアネートがキシリレンジイソシアネートであることを特徴とするプラスチックレンズの製造方法。
【請求項9】
請求項1〜8いずれかに記載のプラスチックレンズの製造方法において、
調合工程におけるモノマー組成物の温度が−10℃〜30℃の範囲であることを特徴とするプラスチックレンズの製造方法。

【公開番号】特開2004−345123(P2004−345123A)
【公開日】平成16年12月9日(2004.12.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2003−142035(P2003−142035)
【出願日】平成15年5月20日(2003.5.20)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】