説明

プラスチック光ファイバテープ心線、プラスチック光ファイバ単心線、それを用いたコード、ケーブル及びシート

【課題】 コード化、ケーブル化又はシート化のための加熱被覆時の熱によるプラスチック光ファイバの損失増加を低減できるプラスチック光ファイバテープ心線、プラスチック光ファイバ単心線、それを用いたコード、ケーブル及びシートの提供。
【解決手段】 複数のプラスチック光ファイバを平行に並べそれらの外周に被覆層を設けて一括被覆してなるプラスチック光ファイバテープ心線であって、被覆層の最小厚さをd、プラスチック光ファイバの外径半径をrとしたとき、0.6≧d/r≧0.25の範囲となるように構成されたことを特徴とするプラスチック光ファイバテープ心線。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プラスチック光ファイバの外周に被覆層を設けたプラスチック光ファイバテープ心線、プラスチック光ファイバ単心線、それを用いたプラスチック光ファイバコード、プラスチック光ファイバケーブル及びプラスチック光ファイバシートに関する。
【背景技術】
【0002】
プラスチック光ファイバを複数本実装する手段として、テープ心線構造がある。テープ心線は、石英ガラス製の光ファイバでは一般的に用いられている被覆構造であり、複数本の光ファイバを平行に並べ、合成樹脂製の被覆層でテープ状に一括被覆することにより形成されている(例えば、特許文献1〜5参照。)。
【0003】
テープ心線構造では、一括被覆形成用のダイスと実装する本数分の送り出し装置さえあれば、理論上無限の本数の光ファイバ素線を並べることができることから、単純な並列構造の場合には、光ファイバシートよりも有効とされている。
【0004】
このテープ心線は、単体で用いられることもあるが、温度の場合、さらに外層に被覆を施す。例えば、機器間配線に用いられる光ファイバテープコードや、FTTH(Fiber to the home)のアクセス系に用いられる光ファイバリボンケーブルなどが挙げられ、その場合、被覆はポリエチレン樹脂や塩化ビニル樹脂などの熱可塑性樹脂が用いられ、場合によっては熱硬化性樹脂を使用することもある。
【特許文献1】特開2004−206048号公報
【特許文献2】特開2003−241042号公報
【特許文献3】特開2005−10310号公報
【特許文献4】特開2004−354889号公報
【特許文献5】特開2004−240014号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
前述した石英ガラス製の光ファイバを対象としたテープ心線のコード化技術を、プラスチック光ファイバテープ心線のコード化に適用する場合、次のような問題がある。
【0006】
例えば、ポリメチルメタクリレート(PMMA)からなるコアとそれを囲むフッ素樹脂からなる薄いクラッドとからなる一般的なプラスチック光ファイバを複数本平行に並べ、紫外線硬化型樹脂などの被覆材でテープ状に被覆してなるプラスチック光ファイバテープ心線を用い、さらにその外側に熱可塑性樹脂を加熱被覆してコード化する場合、その加熱被覆時の温度は、プラスチック光ファイバのガラス転移温度である85℃を超える。それによって、光ファイバコード内のプラスチック光ファイバが熱劣化し、その伝送損失特性は劣化する。また、その伝送損失の劣化度合いは、熱が均一に加わったような場合でも、場所によっては一様でなくなる。例えば、1製造ロット中にある部分では、損失が1dB/m劣化するが、ある場所では0.2dB/m劣化する、ということが生じてしまう。そのため、製造後の製品の特性にも大きなばらつきが見られるようになる。
【0007】
本発明は前記事情に鑑みてなされ、コード化、ケーブル化又はシート化のための加熱被覆時の熱によるプラスチック光ファイバの損失増加を低減できるプラスチック光ファイバテープ心線、プラスチック光ファイバ単心線、それを用いたコード、ケーブル及びシートの提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記目的を達成するため、本発明は、複数のプラスチック光ファイバを平行に並べそれらの外周に被覆層を設けて一括被覆してなるプラスチック光ファイバテープ心線であって、被覆層の最小厚さをd、プラスチック光ファイバの外径半径をrとしたとき、0.6≧d/r≧0.25の範囲となるように構成されたことを特徴とするプラスチック光ファイバテープ心線を提供する。
【0009】
また本発明は、プラスチック光ファイバの外周に被覆層を設けてなるプラスチック光ファイバ単心線であって、被覆層の厚さをd、プラスチック光ファイバの外径半径をrとしたとき、0.6≧d/r≧0.25の範囲となるように構成されたことを特徴とするプラスチック光ファイバ単心線を提供する。
【0010】
また本発明は、前記本発明に係るプラスチック光ファイバテープ心線又はプラスチック光ファイバ単心線が熱可塑性樹脂又は熱硬化性樹脂により被覆されてなることを特徴とするプラスチック光ファイバコードを提供する。
【0011】
また本発明は、前記本発明に係るプラスチック光ファイバテープ心線又はプラスチック光ファイバ単心線が熱可塑性樹脂又は熱硬化性樹脂により被覆されてなることを特徴とするプラスチック光ファイバケーブルを提供する。
【0012】
また本発明は、前記本発明に係るプラスチック光ファイバテープ心線又はプラスチック光ファイバ単心線が熱可塑性樹脂又は熱硬化性樹脂により被覆されてなることを特徴とするプラスチック光ファイバシートを提供する。
【発明の効果】
【0013】
本発明のプラスチック光ファイバテープ心線及びプラスチック光ファイバ単心線は、被覆層の最小厚さをd、プラスチック光ファイバの外径半径をrとしたとき、0.6≧d/r≧0.25の範囲となる構成としたので、このテープ心線又は単心線に熱可塑性樹脂又は熱硬化性樹脂からなる被覆を設けてコード、ケーブル及びシートを作製する際、このテープ心線又は単心線に熱可塑性樹脂又は熱硬化性樹脂を加熱被覆しても、プラスチック光ファイバへの熱の影響を軽減でき、伝送損失の上昇を0.1dB/m以下に抑えることができるので、低損失のプラスチック光ファイバコード、ケーブル及びシートを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、図面を参照して本発明の実施形態を説明する。
図1は、本発明のプラスチック光ファイバテープ心線の一実施形態を示す図である。本実施形態のプラスチック光ファイバテープ心線10は、複数の(図1の例示では4本)プラスチック光ファイバ11を平行に並べ、それらの外周に被覆層12を設けて一括被覆した構造になっている。このプラスチック光ファイバテープ心線10は、被覆層12の最小厚さをd、プラスチック光ファイバ11の外径半径をrとしたとき、0.6≧d/r≧0.25の範囲となるように構成されている。
【0015】
本実施形態のプラスチック光ファイバテープ心線10において用いられるプラスチック光ファイバ11としては、特に限定されることなく、従来より公知の各種プラスチック光ファイバを適宜選択して使用することができ、例えば、ポリメチルメタクリレート(PMMA)からなるコアとそれを囲むフッ素樹脂からなる薄いクラッドとからなる一般的なプラスチック光ファイバを用いることが望ましい。このプラスチック光ファイバ11の外径も制限なく、各種外径のプラスチック光ファイバ11を用いることが可能である。
【0016】
本実施形態のプラスチック光ファイバテープ心線10において用いられる被覆層12の材料としては、プラスチック光ファイバ等の被覆材として用いられている従来公知の被覆材料、例えば、紫外線硬化型樹脂などを用いることができる。
【0017】
本実施形態のプラスチック光ファイバテープ心線10において、プラスチック光ファイバ11の外径半径rに対する被覆層12の最小厚さdの割合であるd/rの値が、0.25未満であると、被覆層12が薄くなりすぎ、このプラスチック光ファイバテープ心線10に熱可塑性樹脂又は熱硬化性樹脂からなる被覆を設けてコード、ケーブル又はシートを作製する際、プラスチック光ファイバ11に加わる熱による損失増加を低減する効果が十分に得られず、コード化、ケーブル化又はシート化後のプラスチック光ファイバ11の損失が増加してしまう。また、前記d/rの値が0.60を超えると、被覆層12が厚くなるため、テープ形状に形成するのが困難になる。
【0018】
本実施形態のプラスチック光ファイバテープ心線10は、被覆層12の最小厚さをd、プラスチック光ファイバの外径半径をrとしたとき、0.6≧d/r≧0.25の範囲となるように構成したことで、このプラスチック光ファイバテープ心線10に熱可塑性樹脂又は熱硬化性樹脂からなる被覆を設けてコード、ケーブル及びシートを作製する際、このプラスチック光ファイバテープ心線10に熱可塑性樹脂又は熱硬化性樹脂を加熱被覆しても、プラスチック光ファイバ11への熱の影響を軽減でき、伝送損失の上昇を0.1dB/m以下に抑えることができるので、低損失のプラスチック光ファイバコード、プラスチック光ファイバケーブル及びプラスチック光ファイバシートを提供することができる。
【0019】
図2は、本発明のプラスチック光ファイバ単心線の一実施形態を示す図である。本実施形態のプラスチック光ファイバ単心線20は、単心のプラスチック光ファイバ21の周囲に被覆層22が設けられた構造になっており、被覆層22の最小厚さをd、プラスチック光ファイバ21の外径半径をrとしたとき、0.6≧d/r≧0.25の範囲となるように構成されている。
【0020】
このプラスチック光ファイバ単心線20を構成しているプラスチック光ファイバ21及び被覆層22は、前述したプラスチック光ファイバテープ心線10を構成しているプラスチック光ファイバ11及び被覆層12と同様に構成することができる。
【0021】
このプラスチック光ファイバ単心線20は、被覆層22の最小厚さをd、プラスチック光ファイバ21の外径半径をrとしたとき、0.6≧d/r≧0.25の範囲となるように構成したことで、このプラスチック光ファイバ単心線20に熱可塑性樹脂又は熱硬化性樹脂からなる被覆を設けてコード、ケーブル及びシートを作製する際、このプラスチック光ファイバ単心線20に熱可塑性樹脂又は熱硬化性樹脂を加熱被覆しても、プラスチック光ファイバ21への熱の影響を軽減でき、伝送損失の上昇を0.1dB/m以下に抑えることができるので、低損失のプラスチック光ファイバコード、プラスチック光ファイバケーブル及びプラスチック光ファイバシートを提供することができる。
【0022】
また本発明に係るプラスチック光ファイバコード、プラスチック光ファイバケーブル及びプラスチック光ファイバシートは、前記プラスチック光ファイバテープ心線10又は前記プラスチック光ファイバ単心線20を熱可塑性樹脂又は熱硬化性樹脂からなる被覆層により被覆し、コード、ケーブル又はシート形状とした構成になっている。
【0023】
この熱可塑性樹脂又は熱硬化性樹脂からなる被覆層としては、ポリエチレンテレフタレート、アクリル樹脂、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリアミド、ポリイミド、ポリスチレンなどの熱可塑性樹脂やエポキシ樹脂、ベークライト等のフェノール樹脂などの熱硬化性樹脂が用いられ、これらの中でもポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンが好ましい。
【0024】
このプラスチック光ファイバコード、プラスチック光ファイバケーブル及びプラスチック光ファイバシートは、本発明に係るプラスチック光ファイバテープ心線10又はプラスチック光ファイバ単心線20を用いたものなので、被覆形成時に内部のプラスチック光ファイバの損失増加が少なくなり、低損失のプラスチック光ファイバを備えたものとなる。
【実施例】
【0025】
表1は、図1に示すプラスチック光ファイバテープ心線の構成において、プラスチック光ファイバの外径半径rと被覆層の厚さdを変化させ、テープ化後のプラスチック光ファイバの伝送損失と、このテープ心線にポリエチレンテレフタレート(PET)を加熱加圧被覆して被覆を設けてプラスチック光ファイバコードを作製し、そのコード化後の伝送損失との差(表1中、「最大ロス変動」と記している)を測定した結果を示すものである。なお、使用したプラスチック光ファイバは、r=125μm又は250μmのコアがPMMA、クラッドがフッ素含有の樹脂(例えばテフロン(登録商標))製のプラスチック光ファイバを用い、被覆層は紫外線硬化型樹脂で形成した。また、コード化の際の加熱加圧条件は温度160℃、圧力1kg/cm、加熱加圧時間20秒とした。
【0026】
【表1】

【0027】
表1の結果より、被覆層の厚みdが大きいほどコード化後の伝送損失の劣化は小さくなる。これは、前述したように被覆層が厚いほどコード化時の加熱被覆時にプラスチック光ファイバに加わる熱が軽減できることを示している。なお、テープ化は紫外線硬化樹脂を用いて行うので、熱劣化はほとんどないが、紫外線硬化樹脂は熱可塑性樹脂や熱硬化性樹脂に比べて単価が高く耐候性も弱いため、これを用いてのコード化は難しい。
【0028】
表1の結果より、d/rを0.6≧d/r≧0.25の範囲とした場合、テープ化後の加熱被覆による伝送損失の増加は0,1dB/m以下に抑えることが可能であると考えられる。
【0029】
この構造は、テープ心線構造のみならず、単心の場合にも応用ができて、プラスチック光ファイバ単心線に熱硬化性樹脂・熱可塑性樹脂からなる被覆を施すときにも同様の作用が得られた。
【0030】
この構造は、コードやケーブルなどにおける加熱被覆を施す場合のみならず、テープ心線をPETやアクリル板など硬質プラスチックで加熱加圧接着を施すような場合にも適応できる。例えば、図1に示す構造を持ったテープ心線を、PETで加熱加圧接着を施してシート状のコードを作製したところ、伝送損失の増加は0.1dB/mと小さかった。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】本発明のプラスチック光ファイバテープ心線の一実施形態を示す断面図である。
【図2】本発明のプラスチック光ファイバ単心線の一実施形態を示す断面図である。
【符号の説明】
【0032】
10…プラスチック光ファイバテープ心線、11,21…プラスチック光ファイバ、12,22…被覆層、20…プラスチック光ファイバ単心線。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のプラスチック光ファイバを平行に並べそれらの外周に被覆層を設けて一括被覆してなるプラスチック光ファイバテープ心線であって、
被覆層の最小厚さをd、プラスチック光ファイバの外径半径をrとしたとき、0.6≧d/r≧0.25の範囲となるように構成されたことを特徴とするプラスチック光ファイバテープ心線。
【請求項2】
プラスチック光ファイバの外周に被覆層を設けてなるプラスチック光ファイバ単心線であって、
被覆層の厚さをd、プラスチック光ファイバの外径半径をrとしたとき、0.6≧d/r≧0.25の範囲となるように構成されたことを特徴とするプラスチック光ファイバ単心線。
【請求項3】
請求項1に記載のプラスチック光ファイバテープ心線又は請求項2に記載のプラスチック光ファイバ単心線が熱可塑性樹脂又は熱硬化性樹脂により被覆されてなることを特徴とするプラスチック光ファイバコード。
【請求項4】
請求項1に記載のプラスチック光ファイバテープ心線又は請求項2に記載のプラスチック光ファイバ単心線が熱可塑性樹脂又は熱硬化性樹脂により被覆されてなることを特徴とするプラスチック光ファイバケーブル。
【請求項5】
請求項1に記載のプラスチック光ファイバテープ心線又は請求項2に記載のプラスチック光ファイバ単心線が熱可塑性樹脂又は熱硬化性樹脂により被覆されてなることを特徴とするプラスチック光ファイバシート。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2007−101924(P2007−101924A)
【公開日】平成19年4月19日(2007.4.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−292115(P2005−292115)
【出願日】平成17年10月5日(2005.10.5)
【出願人】(000005186)株式会社フジクラ (4,463)
【Fターム(参考)】