説明

プラスチック光学素子材料、プラスチック製光学素子及び光ピックアップ装置

【課題】光安定性を向上させ、透明性に優れながらもその光学特性を長時間にわたって維持する。
【解決手段】プラスチック製光学素子としての対物レンズ10は特殊なプラスチック光学素子材料で構成されている。当該プラスチック光学素子材料は、ポリカーボネート樹脂と、ヒンダードアミン系安定剤の少なくとも1種と、フェノール系安定剤の少なくとも1種と、を有し、前記ヒンダードアミン系安定剤中の全ピペリジル基のモル数(A)と前記フェノール系安定剤中の全ヒドロキシフェニル基のモル数(B)とについて、1<(A)/(B)<20なるモル比を有し、前記ポリカーボネート樹脂の100質量部に対して前記安定剤の全量が0.01〜5質量部含まれる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プラスチック製の光学素子等に好適に用いられるプラスチック光学素子材料、これを用いたプラスチック製光学素子、及びこのプラスチック製光学素子を適用した光ピックアップ装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、MO、CD、DVDといった光情報記録媒体(以下、媒体と略記)に対して、情報の読み取りや記録を行うプレーヤー、レコーダー、ドライブといった記録機器には、光ピックアップ装置が備えられている。光ピックアップ装置は光源から発した所定波長の光を媒体に照射し、反射した光を受光素子で受光する光学素子ユニットを備えており、光学素子ユニットはこれらの光を媒体の反射層や受光素子で集光させるためのレンズ等の光学素子を有している。
【0003】
光ピックアップ装置の光学素子は、射出成形等の手段により安価に作製できる等の点でプラスチックを材料として適用することが好ましい。光学素子の適用可能なプラスチックとしては、環状オレフィンとα−オレフィンの共重合体(特許文献1参照。)等が知られている。
【0004】
一方、光学素子を設計する際、光学材料の屈折率が高くなると、例えばレンズの曲率を小さくでき光学系の小型化できる他、収差をより低減することも可能となるが、比較的屈折率の高いポリカーボネート樹脂は複屈折が大きく適用が困難であった。これに対し、複屈折を低減したポリカーボネート樹脂として、9,9−ビス(4−ヒドロキシフェニル)フルオレン類にカーボネート前駆体を反応させて得られる芳香族ポリカーボネート樹脂は高屈折率化と同時に複屈折を低減させたものとして公知であり、例えば、フルオレン誘導体を構成単位とするポリカーボネート樹脂から成るレンズ成形体が開示されている(特許文献2、3参照)。
【0005】
ところで、例えば、CD/DVDプレーヤーのような複数種の媒体に対して情報の読み書きが可能な情報機器の場合、光ピックアップ装置は両者の媒体の形状や適用する光の波長の違いに対応した構成とする必要がある。この場合、光学素子ユニットはいずれの媒体に対しても共通することがコストやピックアップ特性の観点から好ましい。
【0006】
また、近年、CDやDVDよりも高い密度で情報を記録できる媒体として、CD(λ=780nm)やDVD(λ=635、650nm)で用いるよりも短い波長で情報の記録、再生を行うBlu−ray Disc等の媒体や、これらの媒体で情報の読み書きを行う情報機器の開発が新たに行われている。
【0007】
しかしながら、Blu−ray Disc等の所謂次世代DVDでは、情報の記録、再生には波長400nm付近の光を用いるが、従来提案されているポリカーボネート樹脂は、ベンゾトリアゾール類等の紫外線吸収剤やフェノール系安定剤、ホスファイト系安定剤等を組み合わせた安定剤処方で構成された樹脂組成物であり、次のような問題を有している。すなわち、紫外線吸収剤を含む樹脂組成物により光学素子を製造すると、その光学素子は、波長400nm付近の紫外領域の光を吸収するため、光学素子本来の光学機能を発揮し難い。また、フェノール系安定剤、ホスファイト系安定剤のみ、若しくはそれらを組み合わせた安定剤処方で構成された樹脂組成物により次世代DVDの記録再生に用いられるピックアップ装置用光学素子を製造した場合、その光学素子は、短波長の光照射における光や熱に対する耐久性が十分ではなく、光線透過率が低下したり光学特性が変動したりする問題が生じることが判明した。
【特許文献1】特開2002−105131号公報
【特許文献2】特開平6−25398号公報
【特許文献3】特開2007−57916号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
したがって、本発明の主な目的は、光学設計上優位である高屈折率を有しかつ低複屈折のポリカーボネート樹脂の光安定性を向上させ、透明性に優れながらもその特性を長時間にわたって維持することができるプラスチック光学素子材料を提供することにある。本発明の他の目的は、そのようなプラスチック光学素子材料を用いたプラスチック製光学素子及び光ピックアップ装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明によれば、
下記一般式(1)と一般式(2)で表される構成単位から成るポリカーボネート樹脂と、
ヒンダードアミン系安定剤の少なくとも1種と、
フェノール系安定剤の少なくとも1種と、
を有し、
前記ヒンダードアミン系安定剤中の全ピペリジル基のモル数(A)と前記フェノール系安定剤中の全ヒドロキシフェニル基のモル数(B)とについて、1<(A)/(B)<20なるモル比を有し、
ポリカーボネート樹脂の100質量部に対して前記安定剤の全量が0.01〜5質量部含まれる樹脂組成物であることを特徴とするプラスチック光学素子材料が提供される。
【0010】
【化1】

【0011】
式(1)中、R、R、RおよびRは、それぞれ独立に、水素原子、アルキル基、アルコキシ基、シクロアルキル基、シクロアルコキシル基、アリール基またはアリールオキシ基を表す。Aはアルキレン基、シクロアルキレン基またはアリーレン基を表す。n、m、o、pは、1〜4の整数を表し、qおよびrは0〜5の整数を表す。
【0012】
【化2】

【0013】
式(2)中、Bは、アルキレン基、シクロアルキレン基またはアリーレン基を表す。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、ポリカーボネート樹脂に対しヒンダードアミン系安定剤とフェノール系安定剤とが特異な比率で含まれているから、光安定性を向上させ、透明性に優れながらもその特性を長時間に亘って維持することができる(下記実施例参照)。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明を実施するための最良の形態について詳細に説明する。
【0016】
本発明の好ましい一実施形態として使用されるプラスチック光学素子材料は、下記一般式(1)と一般式(2)で表される構成単位から成るポリカーボネート樹脂と、ヒンダードアミン系安定剤の少なくとも1種と、フェノール系安定剤の少なくとも1種とを有している。当該プラスチック光学素子材料は、ヒンダードアミン系安定剤中の全ピペリジル基のモル数(A)とフェノール系安定剤中の全ヒドロキシフェニル基のモル数(B)とについて、1<(A)/(B)<20なるモル比を有しており、ポリカーボネート樹脂の100質量部に対して前記安定剤の全量が0.01〜5質量部含まれる樹脂組成物である。
【0017】
【化3】

【0018】
式(1)中、R、R、RおよびRは、それぞれ独立に、水素原子、アルキル基、アルコキシ基、シクロアルキル基、シクロアルコキシル基、アリール基またはアリールオキシ基を表す。Aはアルキレン基、シクロアルキレン基またはアリーレン基を表す。n、m、o、pは、1〜4の整数を表し、qおよびrは0〜5の整数を表す。
【0019】
【化4】

【0020】
式(2)中、Bは、アルキレン基、シクロアルキレン基またはアリーレン基を表す。
【0021】
ポリカーボネート系樹脂は透明性や高屈折率である等、光学特性に優れた樹脂ではあるが、近年の光学機器の機能の高度化に対し、光学素子に対する物性の高度化や、より高い信頼性が求められてきている。特に光学特性の環境変動は大きな課題となっており、複屈折の低減と共に、耐光性、耐熱性の向上といった物性改善が要求されている。
【0022】
これに対し、フルオレン構造を有するポリカーボネート樹脂に対し、ヒンダードアミン系安定剤の少なくとも1種と、フェノール系安定剤の少なくとも1種とを有し、前記ヒンダードアミン系安定剤中の全ピペリジル基のモル数と前記フェノール系安定剤中の全ヒドロキシフェニル基のモル数との比を制御した安定剤組成物を含む樹脂組成物を用いて製造された光学素子は、高い光線透過率を有すると共に光照射に対する安定化効果が高く、例えば、400nm付近の短波長の光の照射を継続的に受けても白濁や屈折率の変動が抑えられ、更に、例えば、85℃前後の高温環境下における光学面の変形を長時間抑制できることを見出した。つまり、光学素子の光安定性と熱安定性を向上させることができ、当該特性を長時間に亘って維持することが可能な素子を製造することができることが判明した。
【0023】
本発明の好ましい他の実施形態によれば、上記プラスチック光学素子材料を用いて製造され、光学面に微細構造が設けられている第1のプラスチック製光学素子が提供される。
【0024】
第1のプラスチック製光学素子によれば、少なくとも1つの光学面に微細構造が設けられ、上記プラスチック光学素子材料を用いて製造されることから、光や熱といった環境変動に対して高い形状安定性を有しており、微細構造に変形を生じるといったことを適正に抑制することができる。
【0025】
好ましくは、第1のプラスチック製光学素子において、前記プラスチック光学素子材料を用いて厚さ3mmの成形体とされた場合に、波長400nmにおける光線透過率が85%以上である第2のプラスチック製光学素子が提供される。
【0026】
第2のプラスチック製光学素子によれば、上記プラスチック光学素子材料を用いて成形された厚さ3mmの成形体は、高い形状安定性を有し、高エネルギーの波長400nm付近の光を透過させても当該成形体に白濁、屈折率の変動や変形等が生じるのを抑えることができる。これにより、波長400nm付近における光線透過率は85%以上とすることができる。従って、例えば、Blu−ray Discのような高い情報密度を有する光情報記録媒体に対する光学素子として好適に用いることができる。
【0027】
更に好ましくは、第1又は第2のプラスチック製光学素子において、集光機能を有する集光装置に用いられる第3のプラスチック製光学素子が提供される。
【0028】
第3のプラスチック製光学素子によれば、集光機能を有する集光装置に光学素子を用いても、当該光学素子は高い形状安定性を有しているので、光学素子の光学特性を低下させるといったことがなくなる。即ち、光学素子に対して集光により高いエネルギーが付与されても、当該光学素子の有する高い形状安定性によって、光学素子の変形を長時間に亘って抑制することが可能となり、光学素子の光学特性の低下を防止することができる。
【0029】
本発明の好ましい他の実施形態によれば、光情報記録媒体に対して情報の再生及び記録のいずれかを行う光ピックアップ装置であって、光を出射する光源と、前記光源から出射された光の該光情報記録媒体への照射及び該光情報記録媒体で反射される光の集光のいずれかを行う光学素子ユニットと、を備え、前記光学素子ユニットが、第1〜第3のいずれか1つのプラスチック製光学素子を備える第1の光ピックアップ装置が提供される。
【0030】
第1の光ピックアップ装置によれば、光学素子ユニットが上記で説明した特定のプラスチック製光学素子を有するから、光照射に対する安定化効果が高く、例えば、400nm付近の短波長の光の照射を継続的に受けても、白濁や屈折率の変動が抑えられる。
【0031】
また、例えば、85℃前後の高温環境下における光学面の変形を長時間に亘って抑制することができる。つまり、光学素子の光安定性を向上させることができ、当該特性を長時間に亘って維持することができる。従って、例えば、Blu−ray Discのような高い情報密度を有する光情報記録媒体に対して、長期間に亘って良好なピックアップ特性で情報の読み書きを行うことができ、光ピックアップ装置として信頼性の高いものを得ることができる。
【0032】
好ましくは、第1の光ピックアップ装置において、前記光源が、波長390〜420nmの光を出射する第2の光ピックアップ装置が提供される。
【0033】
第2の光ピックアップ装置によれば、光源から出射される光の波長は、390〜420nmである。即ち、例えば、Blu−ray Discのような高い情報密度を有する光情報記録媒体に対応した390〜420nmという範囲の光を透過する場合でも、本発明の好ましい実施形態における光学素子に適用される樹脂組成物は、フルオレン構造を有するポリカーボネート樹脂に対し、ヒンダードアミン系安定剤の少なくとも1種と、フェノール系安定剤の少なくとも1種とからなり、前記ヒンダードアミン系安定剤中の全ピペリジル基のモル数と前記フェノール系安定剤中の全ヒドロキシフェニル基のモル数の比を制御した安定剤組成物を含む樹脂組成物であるため、白濁や屈折率の変動といった光学素子の劣化を防止することができる。これにより光学素子の寿命を延ばして、光ピックアップ装置として信頼性の高いものを得ることができる。
【0034】
本発明の好ましい実施形態に係るプラスチック製光学素子に使用されるプラスチック光学素子材料は、フルオレン構造を有するポリカーボネート樹脂に対し、ヒンダードアミン系安定剤の少なくとも1種と、フェノール系安定剤の少なくとも1種とからなり、前記ヒンダードアミン系安定剤中の全ピペリジル基のモル数と前記フェノール系安定剤中の全ヒドロキシフェニル基のモル数の比を制御した安定剤組成物を含む樹脂組成物であることを特徴としている。一般に、プラスチック製の光学材料はガラスやセラミックスといった無機材料と比較すると、390〜420nmの光源を用いる光学系や高温環境下で使用される用途においては素子の光学特性の変動が大きな問題となる。
【0035】
これに対し、本発明者等は上記問題を解決するため鋭意検討した結果、上述したプラスチック光学素子材料を用いることで、例えば、85℃前後の高温環境下における光学特性の変動が抑制でき、更に、例えば、400nm付近の短波長の光の照射を継続的に受けても透明性を維持し白濁や屈折率の変動が抑えられる等、光照射に対する安定化効果が高く、光学素子の熱安定性と光安定性を向上させることができ、当該特性を長時間に亘って維持することが可能な素子を製造することができることが判明した。
【0036】
以下、本発明の好ましい実施形態について、更に詳細な説明を行う。
【0037】
(ポリカーボネート樹脂)
本発明の好ましい実施形態で使用されるポリカーボネート樹脂は、一般式(1)で示される構成単位と一般式(2)で示される構成単位とが交互に結合した化学構造を有している。
【0038】
ポリカーボネート樹脂を形成する一般式(1)で示される構成単位は、フルオレン骨格を有するジヒドロキシ化合物から得られ、具体的には、9,9−ビス(4−ヒドロキシフェニル)フルオレン、9,9−ビス(3−メチル−4−ヒドロキシフェニル)フルオレン、9,9−ビス(3−エチル−4−ヒドロキシフェニル)フルオレン等の9,9−ビス(4−ヒドロキシフェニル)フルオレン類や、9,9−ビス(4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル)フルオレン、9,9−ビス(4−(2−ヒドロキシエトキシ)−3−メチルフェニル)フルオレン、9,9−ビス(4−(2−ヒドロキシエトキシ)−3,5−ジメチルフェニル)フルオレン、9,9−ビス(4−(2−ヒドロキシエトキシ)−3−tert−ブチルフェニル)フルオレン、9,9−ビス(4−(2−ヒドロキシエトキシ)−3−イソプロピルフェニル)フルオレン、9,9−ビス(4−(2−ヒドロキシエトキシ)−3−シクロヘキシルフェニル)フルオレン等の9,9−ビス(4−ヒドロキシアルコキシフェニル)フルオレン類等が例示される。
【0039】
他方、ポリカーボネート樹脂を形成する一般式(2)で示される構成単位としては、トリシクロ[5.2.1.02,6]デカンジメタノール、シクロヘキサン−1,4−ジメタノール、ノルボルナンジメタノール、ペンタシクロペンタデカンジメタノール、シクロペンタン−1,3−ジメタノール、1,4−ブタンジオール等のジヒドロキシ化合物から得られる。
【0040】
ポリカーボネート樹脂は、前記ジヒドロキシ化合物をホスゲンを使用する界面重縮合法、又は炭酸ジエステルを使用するエステル交換反応によって製造される。
【0041】
(樹脂組成物)
プラスチック製光学素子は、上記ポリカーボネート系樹脂に各種安定剤を含んだ樹脂組成物を用いて成形される。
【0042】
当該安定剤としては、ヒンダードアミン系安定剤、及びフェノール系安定剤が使用され、これらと共に、リン系安定剤を適宜添加してもよく、これらの安定剤を適当量樹脂に配合することにより、高温環境下や短波長の光照射に対する光学特性の劣化抑制効果を相乗的に高めることができ、より信頼性の高い光ピックアップ装置を得ることができる。
【0043】
具体的には、ヒンダードアミン系安定剤及びフェノール系安定剤のうち、ヒンダードアミン系安定剤中の全ピペリジル基のモル数を(A)、前記フェノール系安定剤中の全ヒドロキシフェニル基のモル数を(B)とした場合に、モル比が1<(A)/(B)<20となるように調製されている。
【0044】
即ち、各種樹脂の光や熱等に対する安定性を確保する上で、ヒンダードアミン系安定剤とフェノール系安定剤の併用を行う場合に、ヒンダードアミン系安定剤の塩基性とフェノール系安定剤の酸性に基づく塩形成による拮抗作用が生じることから、上記のような範囲となるように、ヒンダードアミン系安定剤とフェノール系安定剤の量の最適化を図ることにより、ラジカル種消去能をより効率的に発揮することができる。
【0045】
ヒンダードアミン系安定剤としては、ビス(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)セバケート、ビス((2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)スクシネート、ビス(1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジル)セバケート、ビス(N−オクトキシ−2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)セバケート、ビス(N−ベンジルオキシ−2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)セバケート、ビス(N−シクロヘキシルオキシ−2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)セバケート、ビス(1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジル)2−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)−2−ブチルマロネート、ビス(1−アクロイル−2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)2,2−ビス(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)−2−ブチルマロネート、ビス(1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジル)デカンジオエート、2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジルメタクリレート、4−[3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオニルオキシ]−1−[2−(3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオニルオキシ)エチル]−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン、2−メチル−2−(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)アミノ−N−(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)プロピオンアミド、テトラキス(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)1,2,3,4−ブタンテトラカルボキシレート、テトラキス(1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジル)1,2,3,4−ブタンテトラカルボキシレート等が挙げられる。
【0046】
また、本実施形態にあっては、上記の中から選択された少なくとも1種のヒンダードアミン系安定剤が樹脂組成物に添加されるようになっている。
【0047】
フェノール系安定剤としては、従来公知のものが使用でき、例えば、2−t−ブチル−6−(3−t−ブチル−2−ヒドロキシ−5−メチルベンジル)−4−メチルフェニルアクリレート、2,4−ジ−t−アミル−6−(1−(3,5−ジ−t−アミル−2−ヒドロキシフェニル)エチル)フェニルアクリレートなどの特開昭63−179953号公報や特開平1−168643号公報に記載されるアクリレート系化合物;オクタデシル−3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、2,2’−メチレン−ビス(4−メチル−6−t−ブチルフェノール)、1,1,3−トリス(2−メチル−4−ヒドロキシ−5−t−ブチルフェニル)ブタン、1,3,5−トリメチル−2,4,6−トリス(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)ベンゼン、テトラキス(メチレン−3−(3’,5’−ジ−t−ブチル−4’−ヒドロキシフェニルプロピオネート)メタン[すなわち、ペンタエリスリメチル−テトラキス(3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニルプロピオネート))、トリエチレングリコールビス(3−(3−t−ブチル−4−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)プロピオネート)などのアルキル置換フェノール系化合物;6−(4−ヒドロキシ−3,5−ジ−t−ブチルアニリノ)−2,4−ビスオクチルチオ−1,3,5−トリアジン、4−ビスオクチルチオ−1,3,5−トリアジン、2−オクチルチオ−4,6−ビス−(3,5−ジ−t−ブチル−4−オキシアニリノ)−1,3,5−トリアジンなどのトリアジン基含有フェノール系化合物などが挙げられる。
【0048】
本実施形態にあっては、上記の中から選択された少なくとも1種のフェノール系安定剤が樹脂組成物に添加されるようになっている。
【0049】
これらの中で、ヒドロキシフェニル骨格中の水酸基に対し、オルト位にt−ブチル基等のかさ高い置換基を有する化合物が好ましく用いられる。
【0050】
リン系安定剤としては、一般の樹脂工業で通常使用される物であれば格別な限定はなく、例えば、トリフェニルホスファイト、ジフェニルイソデシルホスファイト、フェニルジイソデシルホスファイト、トリス(ノニルフェニル)ホスファイト、トリス(ジノニルフェニル)ホスファイト、トリス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)ホスファイト、10−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)−9,10−ジヒドロ−9−オキサ−10−ホスファフェナントレン−10−オキサイドなどのモノホスファイト系化合物;4,4’−ブチリデン−ビス(3−メチル−6−t−ブチルフェニル−ジ−トリデシルホスファイト)、4,4’イソプロピリデン−ビス(フェニル−ジ−アルキル(C12〜C15)ホスファイト)などのジホスファイト系化合物などが挙げられる。これらの中でも、モノホスファイト系化合物が好ましく、トリス(ノニルフェニル)ホスファイト、トリス(ジノニルフェニル)ホスファイト、トリス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)ホスファイトなどが特に好ましい。
【0051】
本実施形態にあっては、上記の中から選択された少なくとも1種のリン系安定剤が樹脂組成物に添加されても良い。
【0052】
これらの安定剤の配合量は、本発明の好ましい実施形態の目的を損なわない範囲で適宜選択されるが、ポリカーボネート樹脂100質量部に対して、ヒンダードアミン系安定剤及びフェノール系安定剤の安定剤(リン系安定剤を添加する場合にはヒンダードアミン系安定剤、フェノール系安定剤及びリン系安定剤)の全量が0.01〜5質量部、好ましくは0.01〜1質量部である。
【0053】
(その他の配合剤)
樹脂組成物には、必要に応じて、その他の配合剤として、紫外線吸収剤、光安定剤、近赤外線吸収剤、染料や顔料などの着色剤、滑剤、可塑剤、帯電防止剤、蛍光増白剤などを配合することができ、これらは単独で、あるいは2種以上混合して用いることができ、その配合量は本発明の好ましい実施形態の目的を損ねない範囲で適宜選択される。
【0054】
(成形材料)
樹脂組成物は、上記各成分を適宜混合することにより得ることができる。混合方法としては、炭化水素系重合体に各成分が十分に分散される方法であれば特に限定されず、例えばミキサー、二軸混錬機、ロール、ブラベンダー、押出機などで樹脂を溶融状態で混練する方法、適当な溶剤に溶解して分散させ凝固する方法などが挙げられる。二軸混練機を用いる場合、混錬後に通常は溶融状態で棒状に押し出し、ストランドカッターで適当な長さに切り、ペレット化した成形材料として用いられることが多い。
【0055】
(プラスチック製光学素子)
本実施形態に係るプラスチック製光学素子は、前記樹脂組成物からなる成形材料を成形して得られる。成形方法としては、格別な制限されるものはないが、低複屈折性、機械強度、寸法精度等の特性に優れた光学素子を得る為には溶融成形が好ましい。溶融成形法としては、例えばプレス成形、押し出し成形、射出成形等が挙げられるが、射出成形が成形性、生産性の観点から好ましい。成形条件は使用目的、又は成形方法により適宜選択されるが、例えば射出成形における樹脂温度は、通常150〜400℃、好ましくは200〜350℃、より好ましくは230〜330℃の範囲で適宜選択される。樹脂温度が過度に低いと流動性が悪化し、成形品にヒケやひずみを生じ、樹脂温度が過度に高いと樹脂の熱分解によるシルバーストリークが発生したり、光学素子が黄変するなどの成形不良が発生するおそれがある。
【0056】
本実施形態に係るプラスチック製光学素子は、球状、棒状、板状、円柱状、筒状、チューブ状、繊維状、フィルムまたはシート形状など種々の形態で使用することができ、また、低複屈折性、透明性、機械強度、耐熱性に優れる。
【0057】
プラスチック製光学素子の具体例としては、以下のものが挙げられる。光学レンズや光学プリズムとしては、カメラの撮像系レンズ;顕微鏡、内視鏡、望遠鏡レンズなどのレンズ;眼鏡レンズなどの全光線透過型レンズ;CD、CD−ROM、WORM(追記型光ディスク)、MO(書き変え可能な光ディスク;光磁気ディスク)、MD(ミニディスク)、DVD(デジタルビデオディスク)などの光ディスクのピックアップレンズ;レーザビームプリンターのfθレンズ、センサー用レンズなどのレーザ走査系レンズ;カメラのファインダー系のプリズムレンズなどが挙げられる。光ディスク用途としては、CD、CD−ROM、WORM(追記型光ディスク)、MO(書き変え可能な光ディスク;光磁気ディスク)、MD(ミニディスク)、DVD(デジタルビデオディスク)などが挙げられる。その他の光学用途としては、液晶ディスプレイなどの導光板;偏光フィルム、位相差フィルム、光拡散フィルムなどの光学フィルム;光拡散板;光カード;液晶表示素子基板などが挙げられる。
【0058】
プラスチック製光学素子は、これらの中でも、低複屈折性が要求される光ピックアップ装置を構成する光学系レンズやレーザ走査系レンズとして使用するのが好適であり、光ピックアップ装置の光学系レンズに使用するのが最も好適である。
【0059】
光ピックアップ装置の光学系レンズとしては、例えば、対物レンズ、対物レンズユニット、カップリングレンズ(コリメータ)、ビームエキスパンダ、ビームシェイパ、補正板等として使用することができる。
【0060】
対物レンズユニットは、複数の単玉光学レンズを光軸方向に一体に組み合わせて構成してなるレンズ群であり、前記複数の単玉光学レンズのうちの少なくとも一つの単玉光学レンズとして本実施形態のプラスチック製光学素子を使用することが好ましい。
【0061】
(光ピックアップ装置)
次に、本実施形態に係る光ピックアップ装置について図1及び図2を参照して説明する。図1は、光ピックアップ装置の全体構成の概略構成図であり、図2は対物レンズの構造を示す要部側面図である。
【0062】
光ピックアップ装置1は、波長650nmの光を適用する現行のDVD(以下、現行DVDと表記)、波長390〜420nmの光を適用するいわゆる次世代のDVD(以下、次世代DVD)の2種類の光情報記録媒体5について情報の再生、記録を行う装置である。
【0063】
光ピックアップ装置1は、レーザ発振器(光源)2から出射されるレーザ光(光)を、コリメータレンズ3、後述する対物レンズ(プラスチック製光学素子)10を通過させて、光軸4上で光情報記録媒体5の情報記録面6に集めて集光スポットを形成し、情報記録面6からの反射光を、偏向ビームスプリッタ7で取り込み、検出器8の受光面に再びビームスポットを形成するものである。
【0064】
光源2は、レーザダイオードを有して構成されており、公知の切り換え方法により、650nm、390〜420nmという2種類の波長の光を選択して出射できる構成となっている。
【0065】
対物レンズ10は、上述の樹脂組成物を射出成形で成形することにより作製される。対物レンズ10は、図2に示すように、両面非球面の単レンズであり、その一方(光源側)の光学面11上に、該光学面11を通過する所定の光束に対して予め定められた光路差を付与する光路差付与構造(微細構造)20を有している。
【0066】
光路差付与構造20は、光学面11が光軸4を中心とした3つの輪帯状レンズ面(以下、内側から順に第1輪帯状レンズ面21、第2輪帯状レンズ面22、第3輪帯状レンズ面23と言う)により構成され、該3つの輪帯状レンズ面21〜23のうち隣り合う輪帯状レンズ面21〜23は異なる屈折力を有している。
【0067】
第1輪帯状レンズ面21と第3輪帯状レンズ面23とは、同一の光学面11上にあり、第2輪帯状レンズ面22は、光学面11から平行移動した面となっている。
【0068】
第1輪帯状レンズ面21は、波長650nm、390〜420nm両方の光を通過させ、第2輪帯状レンズ面22は、現行DVDに対応した波長650nmの光を通過させ、第3輪帯状レンズ面23は、次世代DVDに対応した波長390〜420nmの光を通過させる。そして、各輪帯状レンズ面21〜23を通過した光は、情報記録面6の同じ位置に集光されるようになっている。
【0069】
なお、図2では、第1輪帯状レンズ面21と第3輪帯状レンズ面23とは同一光学面11上に設けられているが、これら第1及び第3輪帯状レンズ面21、23とは同一光学面上に設けなくても良く、また、第2輪帯状レンズ面22は、光学面11から平行移動した面となっているが、特に平行移動した面でなくても良い。また、3つの輪帯状レンズ面21〜23は5つであっても良く、少なくとも3つ以上であれば良い。
【0070】
レンズ10は、上述の樹脂組成物を適用しているので、溶融して金型に射出して成形する際、金型の第1輪帯状レンズ面21、第2輪帯状レンズ面22、第3輪帯状レンズ面23の境界部分に対応する部分に確実に樹脂が行き渡っている。そのため、レンズ10は光路差付与構造20が高い精度で付与されている。
【0071】
こうして形成された光路差付与構造20の作用により、レンズ10は現行DVD、次世代DVDといった複数種の光情報記録媒体5に対して、光源2で出射した光の情報記録面6への集光と、情報記録面6で反射した光の検出器8へ向けての集光を高い信頼性で行うことができる。
【0072】
また、樹脂組成物は前記組成の安定剤を含んでいるので、次世代DVDの情報を再生、記録するための390〜420nmという光を透過する場合でも、白濁や屈折率の変動がほとんど生じない。よって、光ピックアップ装置1を長期間にわたり、高いピックアップ特性で作動させることができる。
【0073】
なお、本実施形態に係る対物レンズ10は、上記光路差付与構造20を有するものに限らず、例えば図3〜図7に示す構造20a〜20dを有するレンズ10a〜10eとしても良い。
【0074】
図3における光路差付与構造20aは、光軸4を中心とした複数の回折輪帯21aからなり、複数の回折輪帯21aの断面が鋸歯状であり、かつ、各回折輪帯21aの光学面11aが不連続面となっている。また、複数の回折輪帯21aは、光軸4から離れるにしたがって厚みが増すように形成されている。図3に示すレンズ10aは、いわゆる回折レンズである。
【0075】
図4における光路差付与構造20bは、光軸4を中心とした位相差を生じる複数の輪帯状凹部21bを同心円状に有している。輪帯状凹部21bは、光学面11bのうちの光軸4を中心とした一方の面(図4における光軸4を中心に上下の光学面)に5つずつ形成されている。また、隣り合う輪帯状凹部21bどうしは、連続して一体になっており、各輪帯状凹部21b全体としての断面が階段状となっている。また、各輪帯状凹部21bを形成する光学面22bは、光学面11bに対して平行移動した面となっている。図4に示すレンズ10bはいわゆる位相差レンズである。
【0076】
なお、図4では、隣り合う輪帯状凹部21bどうしが連続して一体になっていて、全体の断面が階段状のものであるとしたが、単に光学面11bに輪帯状凹部21bを個々に設けたものとしても良い(この場合、例えば図2に示したレンズ10と同様の構造となる)。また、図4では輪帯状凹部21bを同心円状に有しているとしたが、図5に示すように、図2の第3輪帯状レンズ面23上に凸部23bを有したレンズ10cとしても良い(図5中、図2と同様の構成部分については同様の符号を付した)。
【0077】
図6における光路差付与構造20dは、光軸4を中心とした複数の回折輪帯21dからなり、複数の回折輪帯21dの断面が鋸歯状であり、かつ、各回折輪帯21dの光学面11dが不連続面である。そして、各回折輪帯21dの断面が光軸方向に沿った3段22dの階段状であり、各段22dの光学面12dが不連続面で、光軸4に対して直交する面となっている。
【0078】
なお、図6に示すレンズ10dは、例えば、図7に示すように図6と同様の光路差付与構造20dを有するホログラム光学素子(HOE)10eと対物レンズ10fとで別体の構成としても良い。この場合、ホログラム光学素子10eは、平板状の光学素子を使用して、該光学素子の対物レンズ10fの面に光路差付与構造20dを設ける。
【0079】
なお、光ピックアップ装置1は、例えばCD、現行DVD、次世代DVDの3種の光情報記録媒体5について情報の再生、記録を行うこととしても良い。光ピックアップ装置1で情報の再生、記録を行う光情報記録媒体5の組み合わせは設計事項であり、適宜設定される。
【0080】
以上のように、本実施形態のプラスチック製光学素子は、フルオレン構造を有するポリカーボネート樹脂に対し、耐光安定剤として機能するヒンダードアミン系安定剤とフェノール系安定剤を混合した樹脂組成物を用いて成形され、樹脂組成物において、ヒンダードアミン系安定剤中の全ピペリジル基のモル数(A)とフェノール系安定剤中の全ヒドロキシフェニル基のモル数(B)の比(A)/(B)が、1<(A)/(B)<20の範囲となるように各安定剤が添加されているので、これらの安定剤の共存に基づいてラジカル種消去能に対する相乗効果がより効率的に発揮されることとなる。これにより、例えば390〜420nmのような短波長の光の照射を継続的に受けても、光学素子の白濁や屈折率の変動といった劣化を効果的に抑制することができる。つまり、光学素子の光安定性を向上させることができ、当該特性を長時間に亘って維持することができる。
【0081】
従って、光ピックアップ装置に対し本実施形態に係るプラスチック製光学素子を用いることにより、Blu−rayDiscのような高い情報密度を有する光情報記録媒体に対して、長期間にわたって良好なピックアップ特性で情報の読み書きを行うことができ、光ピックアップ装置として信頼性の高いものを得ることができる。
【0082】
さらに、樹脂組成物に、リン系安定剤の中から選ばれた少なくとも1種の安定剤を添加することによって、例えば短波長の光照射に対する劣化抑制効果をより相乗的に高めることができる。
【0083】
なお、本発明は、上記実施形態に限定されることなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において、種々の改良及び変更を行っても良い。
【0084】
次に、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【実施例1】
【0085】
(製造例1)
特開平10−101786号公報に記載の方法に準じ、攪拌装置、蒸留器および減圧装置を備えた反応層にジヒドロキシ化合物として、A:9,9−ビス(4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル)フルオレン、B:トリシクロ[5.2.1.02,6]デカンジメタノールをモル比でA/B=10/1となるように仕込んで重合を行い、「ポリカーボネート樹脂A」を得た。得られたポリカーボネート樹脂Aは、Mw(分子量)=65,100、Tg(ガラス転移温度)=150℃であった。
【0086】
(製造例2)
製造例1において、反応層にジヒドロキシ化合物として、A:9,9−ビス(4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル)フルオレン、B:2,2―ビス(4―ヒドロキシフェニル)プロパンをモル比でA/B=1/1となるように仕込んだ他は同様の操作で重合を行い、「ポリカーボネート樹脂B」を得た。得られたポリカーボネート樹脂Bは、Mw=62,100、Tg=154℃であった。
【0087】
[実施例1]
製造例1で得られたポリカーボネート樹脂Aの100質量部に対し、ヒンダードアミン系安定剤として、テトラキス(2、2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)1,2,3,4−ブタンテトラカルボキシレート(アデカスタブLA−57、旭電化社製)1.0質量部と、フェノール系安定剤として、n−オクタデシル−3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート(アデカスタブAO−50、旭電化社製)2.3質量部とを、二軸混練機(東芝機械社製、TEM−35B、スクリュー径37mm、L/D=32、スクリュー回転数150rpm、樹脂温度240℃、フィードレート10kg/時間)に添加、混練した後、ペレット化した。
【0088】
このとき、ヒンダードアミン系安定剤とフェノール系安定剤との組成比は、ヒンダードアミン系安定剤中のピペリジル基のモル数(A)とフェノール系安定剤のヒドロキシフェニル基のモル数(B)とのモル比が(A)/(B)=1.17である。ポリカーボネート樹脂A(100質量部)に対するヒンダードアミン系安定剤とフェノール系安定剤との全量は3.3質量部(=1.0+2.3)である。
【0089】
得られたペレットを、空気を流通させた熱風乾燥器を用いて70℃で2時間乾燥して水分を除去した後、射出成形機(ファナック社製AUTOSHOTMODEL 30A)により、シリンダー温度280℃、金型温度80℃、一次射出圧力98.1MPa、二次射出圧力78.4MPaにて、射出成形し、樹脂基体、Φ30mm、厚さ3mmの板状の「プラスチック製光学素子1」を得た。
【0090】
[実施例2]
実施例1において、フェノール系安定剤としての、n−オクタデシル−3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート(アデカスタブAO−50、旭電化社製)0.5質量部(ヒンダードアミン系安定剤中のピペリジル基のモル数(A)とフェノール系安定剤のヒドロキシフェニル基のモル数(B)のモル比、(A)/(B)=5.37)に変更して添加する以外は同様の操作を行い、「プラスチック製光学素子2」を得た。
【0091】
[実施例3]
実施例1において、フェノール系安定剤としての、n−オクタデシル−3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート(アデカスタブAO−50、旭電化社製)0.14質量部(ヒンダードアミン系安定剤中のピペリジル基のモル数(A)とフェノール系安定剤のヒドロキシフェニル基のモル数(B)のモル比、(A)/(B)=19.0)に変更して添加する以外は同様の操作を行い、「プラスチック製光学素子3」を得た。
【0092】
[実施例4]
実施例2において、混練の際にリン系安定剤として、トリス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)ホスファイト(アデカスタブ2112、旭電化社製)0.5質量部を追加して添加する以外は同様の操作を行い、「プラスチック製光学素子4」を得た。
【0093】
[実施例5]
実施例2において、ポリカーボネート樹脂Aの代わりに、ポリカーボネート樹脂Bを用いること以外は同様の操作を行い、「プラスチック製光学素子5」を得た。
【0094】
[実施例6]
実施例3において、ポリカーボネート樹脂Aの代わりに、ポリカーボネート樹脂Bを用いること以外は同様の操作を行い、「プラスチック製光学素子6」を得た。
【0095】
(比較例7)
実施例1において、フェノール系安定剤としての、n−オクタデシル−3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート(アデカスタブAO−50、旭電化社製)3.0質量部(ヒンダードアミン系安定剤中のピペリジル基のモル数(A)とフェノール系安定剤のヒドロキシフェニル基のモル数(B)のモル比、(A)/(B)=0.9)に変更して添加する以外は同様の操作を行い、「プラスチック製光学素子7」を得た。
【0096】
(比較例8)
実施例1において、フェノール系安定剤としての、n−オクタデシル−3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート(アデカスタブAO−50、旭電化社製)0.12質量部(ヒンダードアミン系安定剤中のピペリジル基のモル数(A)とフェノール系安定剤のヒドロキシフェニル基のモル数(B)のモル比、(A)/(B)=22.38)に変更して添加する以外は同様の操作を行い、「プラスチック製光学素子8」を得た。
【0097】
(比較例9)
実施例1において、フェノール系安定剤としての、n−オクタデシル−3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート(アデカスタブAO−50、旭電化社製)を添加しないこと以外は同様の操作を行い、「プラスチック製光学素子9」を得た。
【0098】
(比較例10)
実施例1において、混練の際にヒンダードアミン系安定剤を添加せずに、フェノール系安定剤として、n−オクタデシル−3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート(アデカスタブAO−50、旭電化社製)1.0質量部を添加する以外は同様の操作を行い、「プラスチック製光学素子10」を得た。
【0099】
《プラスチック製光学素子の評価》
次に、得られたプラスチック製光学素子1〜10について、以下の方法に従って、各光学特性評価を行い、得られた結果を、表1に示す。
【0100】
(着色性及び透明性評価)
上記各プラスチック製光学素子1〜10について、波長400nmによる光線透過率の測定し、透過光を介しての色調を目視観察し、着色性及び透明性の評価を行った。その結果、各プラスチック製光学素子1〜10は光線透過率が86%以上で、高い透過率を示した。
【0101】
(光耐久性の評価)
90℃、55%RHの恒温恒湿槽内で、図1に記載の光ピックアップ装置を用い、各プラスチック製光学素子1〜10上に光源2のレーザーダイオードから405nmの波長の光を直径1mmの円形スポット光として1500時間に亘り連続照射を施した後、そのレーザー照射箇所を目視観察し、下記の基準に従って、白濁による透明性(着色度)及び形状安定性について評価した。
【0102】
〈着色度の評価〉
○:連続照射後、レーザー照射箇所に極僅か濁りが認められる
△:連続照射後、レーザー照射箇所に濁りが認められる
×:連続照射後、レーザー照射箇所に白濁現象が認められる
なお、この評価において「△」以上であれば(○,△であれば)、実用上許容の範囲にある。
【0103】
〈形状安定性の評価〉
◎:連続照射後、レーザー照射箇所の変形は認められない
○:連続照射後、レーザー照射箇所に極僅か変形が認められる
△:連続照射後、レーザー照射箇所に僅かに変形が認められる
×:連続照射後、レーザー照射箇所に変形が認められる
なお、この評価において「△」以上であれば(◎,○,△であれば)、実用上許容の範囲にある。
【0104】
【表1】

【0105】
表1に記載の結果より明らかなように、本発明の実施例に係る樹脂組成物を用いて成形されたプラスチック製光学素子は、比較例に対し、短波長の光を長時間連続照射しても着色や白濁を生じず、更に変形が生じず高い形状安定性を維持することができた。
【実施例2】
【0106】
《光ピックアップ装置の作製》
実施例1に記載のプラスチック製光学素子1〜10と同様の組成で、射出成形により図2〜図7に記載の構成からなる光学素子(対物レンズ)をそれぞれ作製し、図1に記載の構成で、本発明の実施例に係る光ピックアップ装置1〜6及び比較例の光ピックアップ装置7〜10を作製した。次いで、各光ピックアップ装置1〜10を用いて、レーザーダイオードによる405nmの波長の光を用い、DVDへの記録及び再生を行った。
【0107】
《光ピックアップ装置の評価》
本発明の実施例に係るプラスチック光学素子1〜6を用いて作製した光ピックアップ装置1〜6は、長時間連続照射しても良好なピックアップ特性を示した。
これに対し、比較例のプラスチック光学素子7〜10を用いて作製した光ピックアップ装置7〜10は、その光学面の構造がより微細(複雑)に形成されているものほどピックアップ特性の低下が見られた。
【図面の簡単な説明】
【0108】
【図1】本発明の実施形態に係る光ピックアップ装置の概略を示す側面図である。
【図2】本発明の実施形態に係る対物レンズの断側面図である。
【図3】本発明の実施形態に係る対物レンズの断側面図である。
【図4】本発明の実施形態に係る対物レンズの断側面図である。
【図5】本発明の実施形態に係る対物レンズの断側面図である。
【図6】本発明の実施形態に係る対物レンズの断側面図である。
【図7】本発明の実施形態に係るホログラム光学素子及び対物レンズの断側面図である。
【符号の説明】
【0109】
1 光ピックアップ装置
2 光源
3 コリメータレンズ
4 光軸
5 光情報記録媒体
6 情報記録面
7 偏光ビームスプリッタ
8 検出器
10、10a、10b、10c、10d、10f 対物レンズ(プラスチック製光学素子、対物光学素子)
11、11a、11d、12d、22b 光学面
20、20a、20b、20c、20d 光路差付与構造
21 第1輪帯状レンズ面(輪帯状レンズ面)
22 第2輪帯状レンズ面(輪帯状レンズ面)
23 第3輪帯状レンズ面(輪帯状レンズ面)
23b 輪帯状凸部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)と一般式(2)で表される構成単位から成るポリカーボネート樹脂と、
ヒンダードアミン系安定剤の少なくとも1種と、
フェノール系安定剤の少なくとも1種と、
を有し、
前記ヒンダードアミン系安定剤中の全ピペリジル基のモル数(A)と前記フェノール系安定剤中の全ヒドロキシフェニル基のモル数(B)とについて、1<(A)/(B)<20なるモル比を有し、
前記ポリカーボネート樹脂の100質量部に対して前記安定剤の全量が0.01〜5質量部含まれる樹脂組成物であることを特徴とするプラスチック光学素子材料。
【化1】

(式(1)中、R、R、RおよびRは、それぞれ独立に、水素原子、アルキル基、アルコキシ基、シクロアルキル基、シクロアルコキシル基、アリール基またはアリールオキシ基を表す。Aはアルキレン基、シクロアルキレン基またはアリーレン基を表す。n、m、o、pは、1〜4の整数を表し、qおよびrは0〜5の整数を表す。)
【化2】

(式(2)中、Bは、アルキレン基、シクロアルキレン基またはアリーレン基を表す。)
【請求項2】
請求項1に記載のプラスチック光学素子材料を用いて製造され、光学面に微細構造が設けられていることを特徴とするプラスチック製光学素子。
【請求項3】
前記プラスチック光学素子材料を用いて厚さ3mmの成形体とされた場合に、波長400nmにおける光線透過率が85%以上であることを特徴とする請求項2に記載のプラスチック製光学素子。
【請求項4】
集光機能を有する集光装置に用いられることを特徴とする請求項2または3に記載のプラスチック製光学素子。
【請求項5】
光情報記録媒体に対して情報の再生及び記録のいずれかを行う光ピックアップ装置であって、
光を出射する光源と、
前記光源から出射された光の該光情報記録媒体への照射及び該光情報記録媒体で反射される光の集光のいずれかを行う光学素子ユニットと、を備え、
前記光学素子ユニットが、請求項2〜4のいずれか一項に記載のプラスチック製光学素子を備えることを特徴とする光ピックアップ装置。
【請求項6】
前記光源が、波長390〜420nmの光を出射することを特徴とする請求項5に記載の光ピックアップ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2008−285550(P2008−285550A)
【公開日】平成20年11月27日(2008.11.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−130530(P2007−130530)
【出願日】平成19年5月16日(2007.5.16)
【出願人】(303000408)コニカミノルタオプト株式会社 (3,255)
【Fターム(参考)】