説明

プラスチック光学部材の製造方法

【課題】多種多様な横断面形状のプラスチック光学部材を、容易に且つ精度良く、低コストで製造する。
【解決手段】PMMAを用いて溶融押出成形により形成したPMMA棒をコア部25aとし、PVDFからなる中空状のクラッドパイプをクラッド部26aとする。クラッドパイプの中にPMMA棒を挿入して、芯部15を形成する。PMMAを用いて溶融押出成形により横断面形状が正方形であり、かつ芯部15の横断面形状と略相似形の嵌合孔27を有する外殻部16を形成する。先ほど形成した芯部15と外殻部16とを嵌合させてプリフォーム12とする。このプリフォーム12を加熱しながら真空処理した後、光学部材10の横断面形状がプリフォーム12の横断面形状と略相似形となるように加熱延伸する。これにより、横断面形状が正方形の光学部材10を得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プラスチック光学部材の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、光を伝播させる光学部材としては、硬度が高く化学的に安定でありながら、低伝送損失であり、さらには、優れた透明性や成形性などの長所を有することから、石英系光学部材が使用されている。この石英系光学部材としては、その用途や形状の違いにより、光ファイバ素線や、光導波路、あるいはレンズや電子部品などが挙げられる。ただし、最近では、石英系光学部材に劣らぬ優れた加工性や透明性を有し、さらには軽量化が可能であるなどの長所を有することから、プラスチック光学部材が注目されている。このプラスチック光学部材は、素材が全てポリマーであるため、石英系に比べて伝送損失がやや大きいという短所を有するが、上記の長所に加えて、良好な可撓性を示し、また石英系よりも大口径化が可能であるなどの長所も有するため、特に、伝送損失の大きさがあまり問題とならない程度の短距離用の光伝送体としての利用が検討されている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
プラスチック光学部材は、プラスチックからなり光伝送路となるコア(コア部と称するときもある)と、コアよりも低屈折率のプラスチックからなるクラッド(クラッド部と称するときもある)とを有している。なお、以下の説明では、コアを含む部材を芯部と称し、この芯部の外周に配され、芯部に対する熱ダメージや耐水性などを向上させることを目的とする部材を外殻部と称する。そして、この外殻部には、上記のクラッドや芯部を保護する保護層が含まれる。
【0004】
芯部、特にコアは、径の中心から外側に向かうにしたがい次第に屈折率が変化する屈折率分布を有する。このように、プラスチック光学部材は、屈折率分布の違いにより、グレーテッドインデックス(GI)型、ステップインデックス(SI)型、マルチステップインデックス(MI)型などに分類される。上記において、GI型プラスチック光学部材とは、径の中心から外側に向かって屈折率が連続的に低くなるものであり、MSI型プラスチック光学部材は、径の中心から外側に向かって屈折率が段階的に低くなるものである。そして、SI型プラスチック光学部材は、コアとクラッド間の境界で、屈折率がステップ状に変化するものである。
【0005】
屈折率分布の違いに関わらず、プラスチック光学部材の製造方法としては、溶融紡糸法、溶融押出法、モノマーから重合体を得る重合法などが知られている。そして、これらの方法により製造されるプラスチック光学部材の径方向での断面形状は、円形であるものが多い。しかし、用途によっては、断面形状が円形ではなく、矩形や長円などであることが望ましい場合がある。また、プラスチック光学部材の使用形態に関して、通常、光伝送体としての用途の場合には、1本のみの単芯で使用される場合が多い。ただし、パラレル信号伝送や画像取り込み、画像出力などの用途においては、複数のプラスチック光学部材を密接に配列または円柱状、角柱状に結束させて利用する場合ある。
【0006】
上記のような単芯の光学部材を複数用いて集合体を形成する方法としては、複数の光学部材を並列させた状態で熱圧着する方法(例えば、特許文献2参照)や、フォトレジストやエッチングを利用して光学部材を製造する方法(例えば、特許文献3参照)、さらには、複数の中空部が並列に形成されたクラッド部に、複数のコア部を挿入することで複芯構造の光学部材を製造する方法などが提案されている(例えば、特許文献4参照)。
【特許文献1】特開昭61−130904号公報
【特許文献2】特開平6−317716号公報
【特許文献3】特開2001−166165号公報
【特許文献4】特開2005−003899号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、上記に挙げた各特許文献のうち、特許文献4は、石英系光学部材の製造方法であり、プラスチック光学部材に関する記載ではない。また、上記いずれの方法においても、光学部材を製造する際に、加工のために特別な装置を必要とし、設備コストの増大を招くなどの問題がある。しかも、各種の光学部材に対応させて加工装置を用いると、製造時間が長くなるとともに、製造コストが上昇してしまう。くわえて、特許文献2のように、所望の断面を有する光学部材を形成する場合には、非常に微細加工を必要とするため、その精度を確保することが困難であるとともに、製造効率が低下してしまうという問題を抱える。
【0008】
本発明の目的は、様々な横断面形状を有するプラスチック光学部材を低コストで提供することにある。また、本発明の別の目的は、上記のようなプラスチック光学部材を精度良く製造することができる方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明のプラスチック光学部材の製造方法は、光学部材プリフォームを延伸してプラスチック光学部材を製造する方法において、ポリマーから形成される複数の光学部材プリフォーム素片を嵌合させて光学部材プリフォームを形成する光学部材プリフォーム形成工程と、プラスチック光学部材の横断面の形状が、光学部材プリフォームの横断面形状と略相似形となるように加熱延伸する加熱延伸工程とを有することを特徴とする。
【0010】
また、光学部材プリフォーム素片は、光伝送路となる芯部と、中空の嵌合孔を設けた外殻部とからなり、この光学部材プリフォーム形成工程では、外殻部に設けた嵌合孔に芯部を挿入することが好ましい。そして、プラスチック光学部材の横断面の形状が、多角形、閉曲線、直線および曲線を組合せた図形であることが好ましい。
【0011】
芯部は、光伝送路となるコア部を含むことが好ましい。また、この芯部は、コア部とその周囲にコア部よりも低屈折率であるクラッド部とを配置してなることが好ましい。そして、外殻部は、クラッド部および芯部を保護する保護層のうち少なくとも1つを含むことが好ましい。さらに、芯部の横断面の形状と、嵌合孔の横断面の形状とが略相似形であり、芯部を嵌合孔に嵌合させたときに形成される空隙のクリアランスX(mm)が、0<X≦8の条件を満たすことが好ましい。
【0012】
空隙を減圧しながら光学部材プリフォームを加熱延伸することが好ましい。さらに、この外殻部は、嵌合孔を複数有することが好ましい。また、この光学部材プリフォームが、単芯構造である単芯光学部材プリフォームを配列して形成した光学部材プリフォーム集合体であることが好ましい。そして、光学部材プリフォーム集合体が、単芯光学部材プリフォームを加熱延伸してなる中間体光学部材プリフォームにより構成されていることが好ましい。なお、隣接する単芯光学部材プリフォーム同士を接着させて、光学部材プリフォーム集合体を形成することが好ましく、隣接する単芯光学部材プリフォーム同士を融着させて、光学部材プリフォーム集合体を形成することが好ましい。
【0013】
なお、単芯光学部材プリフォームの融着を、加熱延伸前に行なうことが好ましく、単芯光学部材プリフォームの融着を、加熱延伸時の加熱により行なうことが好ましい。また、光学部材プリフォーム集合体は、異なる形状の単芯光学部材プリフォームを含むことが好ましい。そして、光学部材プリフォーム集合体は、異なる光学特性を示す単芯光学部材プリフォームを含むことが好ましい。
【0014】
また、この芯部は、アクリル系ポリマーを含むものであり、芯部および外殻部のうち少なくとも1つは、フッ素原子を含む重合体であることが好ましい。なお、芯部は、その横断面において中心から外側に向かうにしたがい次第に屈折率が変化することが好ましい。
【発明の効果】
【0015】
本発明のプラスチック光学部材の製造方法では、まず、ポリマーからなる芯部と、この芯部を挿入する嵌合孔を有する外殻部とを形成した後、これらを嵌合させて光学部材プリフォームを形成するようにしたので、嵌合させる芯部や外殻部の形状を変更しながら組合せることにより、多種多様の断面形状を有する光学部材プリフォームを得ることができる。また、この光学部材プリフォームを、プラスチック光学部材の横断面の外形状が、光学部材プリフォームの横断面の外形状と略相似形に加熱延伸するようにしたので、特別な装置を用いることなく微細構造のプラスチック光学部材を簡単に製造することができる。
【0016】
また、芯部の横断面の形状と、嵌合孔の横断面形状とが略相似形となるようにし、これらを嵌合させた際に形成される空隙のクリアランスX(mm)を、0<X≦8となるようにしたので、各部材の接触面同士を傷つけることなく容易に嵌合させることができる。なお、光学部材プリフォームが空隙を有する場合には、この空隙を減圧しながら加熱延伸するようにしたので、内部に発泡が生じることなく光学部材を得ることができる。
【0017】
また、光学部材プリフォームとして、単芯構造を有する単芯光学部材プリフォームを集合させて複芯構造を有する光学部材プリフォーム集合体を形成するようにしたので、光学部材プリフォームの横断面における外形状の選択の範囲がより広がり、結果として、種々の横断面形状を有するプラスチック光学部材が得られる。このような複芯構造の光学部材プリフォームは、嵌合孔を複数有する外殻部を使用することでも、容易に形成することができる。その他にも、光学部材プリフォームまたは光学部材プリフォーム集合体を、単芯光学部材プリフォームを加熱延伸してなる中間体光学部材プリフォームを用いて形成するようにしたので、より複雑な横断面形状であっても、略相似形の横断面形状を有するプラスチック光学部材を得ることができる。さらに、単芯光学部材プリフォームとして、形状や材質が異なるものを含ませるようにもしたので、横断面形状の多種多様化の幅を拡げることができるとともに、複雑なプラスチック光学部材を簡単に作製することができる。なお、複数の単芯光学部材プリフォームを配列させたり結束させたりする場合には、接着剤を用いたり、加熱延伸時の熱による熱融着や加熱延伸前の加熱融着による融着など行ったりすることで、界面同士の接着性を向上させるようにしたので、単芯光学部材プリフォーム同士のズレを防止しながら加熱延伸を行うことができる。
【0018】
また、本発明では、芯部は光伝送路となるコア部や、コア部よりも低屈折率である中空状のクラッド部とを含み、この芯部の外周に、クラッド部および芯部を保護する保護層のうち少なくとも1つを含むような外殻部を形成するようにしたので、耐熱性や耐久性などに優れるプラスチック光ファイバ素線(POF)やプラスチック光導波路などのプラスチック光学部材を容易に製造することができる。さらには、芯部が、アクリル系ポリマーを含み、径の中心から外側に向かうにしたがい特有の屈折率分布を有するようにし、外殻部を、フッ素原子を含む重合体により形成するようにしたので、低伝送損失ながら透明性に優れるGI型やSI型などのプラスチック光学部材を製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、本発明について詳細に説明する。実施の形態については、本発明の好適な適用例を記載しているものであり、本発明を何ら制限するものではない。
【0020】
図1に、本発明に係わる第1実施形態として第1製造工程11を示す。第1製造工程11は、光学部材プリフォーム(以下、プリフォームと称する)12を製造するプリフォーム形成工程13と、プリフォーム12を加熱延伸して光学部材10とする加熱延伸工程14とを有する。
【0021】
まず、プリフォーム形成工程13においてプリフォーム12を製造する。プリフォーム12は、径の中心に位置する芯部15と中空状の外殻部16とからなり、各部材を嵌合させることにより形成される。最初に、芯部形成工程17において芯部15を形成するとともに、外殻部形成工程18において外殻部16を形成する。次に、嵌合工程19において、芯部15と外殻部16とを嵌合させてプリフォーム12とする。そして、加熱延伸工程14において、嵌合により得られたプリフォーム12を加熱延伸して、所望のサイズの光学部材10を製造する。
【0022】
加熱延伸工程14では、図2に示すようにプリフォーム12を加熱炉20内に配置する。そして、この加熱炉20により、プリフォーム12を加熱してプリフォーム12の一部を軟化させた後、この軟化箇所の先端部12aを始点として線引き(延伸)を行い、光学部材10を得る。この軟化温度は、特に限定されるものではないが、80〜500℃の温度であることが好ましく、より好ましくは180〜240℃であり、最も好ましくは190〜220℃である。そして、線径モニタ21により、線引した光学部材10の線径を常時確認しながら、巻取装置(図示しない)の芯材22に巻き取る。以上により、ロール状の光学部材製品を得ることができる。なお、プリフォーム12の線引を行う際には、本実施形態のように、線径モニタ21を設けて、光学部材10の外径をモニタリングし、このモニタリング結果に応じて加熱炉20内のプリフォーム12の位置や加熱炉20の温度、巻取装置の巻取速度などを適宜調整して、光学部材10の外径を常に一定になるようにする。
【0023】
なお、本発明での加熱延伸での軟化とは、非円形のプリフォームを加熱延伸したときに、略相似形の断面が得られる状態をいい、本発明での加熱延伸での溶融とは、非円形のプリフォームを加熱延伸したときに、略相似形が保持されず略円形などの断面になる状態をいう。プリフォームが軟化する温度は、ポリマーの温度特性に依存し、一概には規定することはできないため、ポリマー毎に加熱延伸時の軟化する温度を実験などにより求めておき、この求めた温度範囲で加熱延伸を行う。(以下、削除)
【0024】
これにより、プリフォーム12の横断面と略相似形の光学部材10が得られる。この場合、連続的にプリフォーム12の一部を軟化させて光学部材10を得ると、生産コストの低減の観点から有利である。また、光学部材10とした後に、その外周面を保護するために樹脂を被覆して保護膜を形成させても良い。この被覆による保護膜は、放射線硬化樹脂の塗布後に放射線を照射して形成しても良いし、熱可塑性樹脂の押出成形により形成しても良い。上記のような方法により製造される光学部材10としては、角形のPOFや光伝送体などが挙げられる。なお、保護膜を形成させる場合には、光学部材の製造工程とは別ラインとして行っても良いし、加熱延伸工程の後に行うなどして光学部材の製造工程中に組み込んでも良い。
【0025】
図3に、第1製造工程11を説明する一例の概略図を示す。図3(A)に示すように、芯部15は、コア部25aとクラッド26aとを有する。コア部25aは、光の伝送路となる部材であり、クラッド部26aは、コア部25aよりも低屈折率であり、コア部25aとの界面で光を全反射させる中空状の部材である。また、本実施形態では、コア部25aは、径の中心から外側に向かうにしたがい次第に屈折率が高くなるように屈折率分布が調整される。このような屈折率分布を有する芯部15は、GI型プラスチック光ファイバ素線(POF)用プリフォームと同様に構成される。
【0026】
コア部25aやクラッド26aの製造方法は、特に限定されるものではない。例えば、PVDFを用いて溶融押出成形により形成したクラッドパイプの中に、コア部25aを形成させるPMMAを注入後、ラジカル重合させる方法が挙げられ、本実施形態ではこの方法を適用している。その他にも、共押出することができる複合型ノズルを備えた溶融押出装置を用いてコア部25aの外周にクラッド部26aが設けられた芯部15を形成しても良い。なお、コア部25aを形成させるポリマーの中に屈折率調整剤を添加し、その分散具合や濃度を調整すると、所望の屈折率分布を発現させることができる。具体的には、特許3332922号公報に記載されているラジカル重合による製造方法や、特願2004−354786号に記載されている溶融押出方法などが挙げられ、これらの記載も本発明に適用することができる。
【0027】
図3(A)に示すように、外殻部16は嵌合孔27を有する部材である。外殻部16の製造方法は、特に限定されるものではなく、例えば、外殻部16を形成する材料(例えば、PMMAやPVDFなど)を用いて市販の溶融押出成形により形成させれば良い。なお、本実施形態では、PMMAを用いて溶融押出成形により形成させている。また、嵌合孔27の横断面形状は、円形である必要はなく、楕円形、長方形などの多角形又は直線と曲線,円弧,楕円とが組み合わされた形状などの中から、適宜選択すれば良い。ただし、嵌合孔27の横断面の形状は、芯部15の横断面形状と略相似形とする。これにより、芯部15と外殻部16とを容易に嵌合させることができ、かつ、光学部材10とした場合、芯部15と外殻部16との界面での不整合を回避することができる。
【0028】
そして、芯部15を嵌合孔27に挿入して互いを嵌合し、図3(B)に示すようなプリフォーム12を形成する。このとき、芯部15および嵌合孔27のサイズは、嵌合時に空隙28が形成されるようにそれぞれ調整されている。本発明では、この空隙28のクリアランスX(mm)が、0<X≦8を満たすようにする。これにより、芯部15と外殻部16とを容易に嵌合させることができ、かつ嵌合時での両部材の接触(特に界面での接触)を防止することができるので、光学部材10の特性低下を抑制する。ただし、8<Xの場合には、クリアランスが大きすぎるので、光学部材とした場合、芯部と嵌合部との整合性が低下してしまうおそれがある。なお、本実施形態では、嵌合孔27のほぼ中央に芯部15が嵌合された形態を示したが、配置位置は特に限定されるものではなく、偏りが生じていても良い。この場合には、形成される空隙28のクリアランスのうち、その最大値をXとして、上記の条件を満足させるようにする。
【0029】
図3(C)に示すように、プリフォーム12を加熱延伸させることにより形成される光学部材10は、コア25bとクラッド26bとからなる芯部材15aと、外殻部材16aとを有する。このコア25bは、コア部25aが加熱延伸されて形成されたものであり、クラッド26bは、クラッド部26aが加熱延伸されたものであるため、屈折率分布などの特性は略同等である。また、この光学部材10は、プリフォーム12の横断面の形状と略相似形の横断面形状を有する。なお、延伸倍率は特に限定されるものではないが、プリフォーム12に対して光学部材10が、10〜500倍であることが好ましい。
【0030】
ただし、プリフォーム12を加熱延伸させて光学部材10とする場合には、空隙28を減圧しながら作業を行う。これにより、プリフォーム12の内部に発泡が生じるのを抑制して、欠陥の少ない光学部材10を得ることができる。なお、減圧を行う際には、市販の減圧装置を用いて、プリフォーム12の状態に応じて減圧度を適宜調整しながら作業を行えば良く、装置や減圧条件などは特に限定されるものではない。
【0031】
なお、加熱延伸を行う前に、プリフォーム12に対して、熱処理および加熱減圧処理のうち少なくとも1つを行うようにすることが好ましい。これにより、プリフォーム12を構成する部材の重合度が不十分な場合には、その重合度を向上させて化学的に安定化することができ、かつ界面での整合性を向上させることができる。上記の熱処理としては、例えば、主要ポリマーのガラス転移温度Tg±40℃となるようにプリフォーム12を加熱する方法が挙げられる。また、加熱減圧処理としては、プリフォーム12に対して、上記加熱温度下で、減圧装置により0.1〜2000Paの減圧を行う方法が挙げられる。ただし、本発明はこれらの方法に対して、特に限定されるものではない。
【0032】
また、プリフォーム12を加熱延伸する前には、このプリフォーム12の端部のうち、どちらか一方の端部を固定するようにすることが好ましい。これにより、外殻部16から芯部15が落下したり、嵌合位置がずれたりすることなく、プリフォーム12を延伸させることができる。ただし、固定する端部は、加熱延伸時において延伸方向となる端部とする。なお、固定端部側の嵌合孔27に固定部材を設けた後に、芯部15を挿入するようにして所望の端部を固定することが好ましい。固定部材としては、市販のポリイミドテープのような耐熱テープや耐熱性のエポキシ樹脂などの接着剤などが挙げられる。固定部材は特に限定されるものではないが、プリフォーム12を形成するポリマー材料と固定部材との親和性を考慮して選択すると、界面において優れた接着性を発現させることができるので好ましい。上記のほかにも、固定端部側を加熱融着させる方法も好ましく用いることができる。この場合には、加熱装置により固定端部側を加熱させることにより、空隙27を塞ぐように芯部15と外殻部16とを融着させれば良い。加熱装置としては、固定端部を直接加熱して融着させることができるものであれば良く、特に限定されるものではない。例えば、ホットプレートや電熱ヒータなどが挙げられる。
【0033】
また、所望の端部を固定する方法としては、図4に示すように、固定端部側に固化プラスチックによる底部を設ける方法も好ましく用いることができる。まず、図4(A)に示すように、嵌合孔13の端部のうち、延伸方向側に位置する固定端部13aの中に、プラスチックペレットを投入する。次に、この固定端部13をヒータなどで部分的に加熱して、このプラスチックペレットを溶融プラスチック29aとした後、嵌合孔27の中に芯部15を挿入する。すると、時間の経過に伴い、図4(B)に示すように、溶融プラスチック29aは冷却されて固化プラスチック29bとなるので、芯部15と外殻部16とが固定端部13aで固定される。
【0034】
本実施形態では、芯部15および外殻部16の横断面が円形である形態を示したが、特に限定されるものではない。横断面の形状は、円形以外にも、非円形、すなわち楕円形、長方形などの多角形又は直線と曲線,円弧,楕円とを適宜選択して組合わせることにより形成される、多角形、閉曲線、直線および曲線などからなる図形が挙げられる。このようにして芯部15と外殻部16との横断面での形状を適宜組合せることにより、様々な横断面形状を有するプリフォーム12を形成することができる。このようなプリフォーム12を用いることにより、その横断面形状と略相似形である多種多様な光学部材10を製造することができる。
【0035】
なお、芯部15および外殻部16の製造方法は、特に限定されるものではなく、例えば、溶融押出方法などが挙げられる。溶融押出方法に用いられる溶融押出装置は、その先端部に複合紡糸ノズルを備えている。そして、複合紡糸ノズルを構成するニップル、ダイスの形態には様々なものを用いることができるので、この複合紡糸ノズルの形態を変更することにより、様々な横断面形状の芯部または外殻部を形成すれば良い。このとき、ニップル,ダイスの形態に応じて、芯部または外殻部の横断面を非円形とすることができる。
【0036】
なお、芯部15と外殻部16との溶融温度差が、100℃以内となるようにすることが好ましい。ただし、本実施形態のように、プリフォーム12を構成する部材が、コア部25a、クラッド部26aおよび外殻部16である場合には、各部材ごとの溶融温度差が100℃以内となるようにする。このように、各部材の溶融温度差を100℃以内とすると、加熱延伸させる際に、構成する樹脂が軟化していない状態で応力が加わることがなく、さらには、芯部15や外殻部16での熱ダメージ差が生じることなく作業を行うことができる。
【0037】
本発明における外殻部とは、プリフォームの最外殻に位置する部材を指すものとする。したがって、芯部がコア部のみの場合には、外殻部としてクラッド部を配することもできる。ただし、この場合には、嵌合孔を有し、コア部よりも低屈折率からなるクラッド部を形成した後、コア部とクラッド部とを嵌合させることでプリフォームとすれば良い。
【0038】
また、本実施形態では径の中心から外側に向かうにしたがい連続的に屈折率が低くなるGI型を示したが、屈折率分布が径の中心から外側に向かって次第に変化する形態であれば良く、特に限定されるものではない。GI型のほかにも、例えば、クラッド界面で屈折率が変化するSI型や、屈折率が径の中心から外側に向かうにしたがい段階的に低くなるMSI型などが挙げられる。また、本実施形態では、コア部において屈折率分布を発現させている形態を示したが、特に限定されるものではなく、コア部とクラッド部とからなる芯部全域に屈折率分布を発現させても良いし、芯部として、屈折率調整剤を含ませずにPMMAを用いてコア部と、PVDFからなるクラッド部と、コア部と同様の屈折率を有しPMMAからなる外殻部とを形成した後、これらを嵌合させると、SI型の屈折率分布を示すプリフォームを形成しても良い。なお、上記のように複数の部材を用いて、これらを嵌合させることによりプリフォームを形成する場合には、加熱延伸工程において加熱延伸することにより、一度に各部材の界面同士を熱融着させることができる。
【0039】
また、複数の嵌合孔を設けた外殻部も、本発明に適用することができる。図5に、複数の嵌合孔を設けた外殻部を用いる光学部材の一例の概略図を示す。図5(A)に示すように、外殻部30には、嵌合孔A31および嵌合孔B32が、それぞれ2個ずつ形成されている。各嵌合孔は大きさが異なり、かつ外殻部30の外形の横断面形状は、長方形とされている。図5(B)に示すように、外殻部30と嵌合される芯部A33および芯部B34は、対応する各嵌合孔の横断面の形状と略相似形とされる。嵌合孔A31に対応する芯部A33はコア部A33とクラッド部A33bとからなる。一方で、嵌合孔B32に対応する芯部B34は、コア部B34aとクラッド部B34bとからなる。そして、芯部A33および芯部B32を、それぞれに対応する嵌合孔に挿入すると、図5(C)に示すように、空隙A36と空隙B37とが形成されたプリフォーム35を得ることができる。
【0040】
そして、このプリフォーム35を、各空隙を減圧しながら加熱延伸させることにより、図5(D)に示すような光学部材38が得られる。光学部材38は、延伸されて細径となることから、各空隙が消失し、芯部材A39と芯部材B40と外殻部材41とが、互いに密着している。なお、上記のように複数の嵌合孔を有する外殻部を使用する場合、外殻部の横断面の形状やサイズなどは、特に限定されるものではなく、円形、非円形、すなわち楕円形、長方形などの多角形や、直線と曲線,円弧,楕円とが組み合わされた形状などから適宜選択して形成すれば良い。また、外殻部に設けられる嵌合孔のサイズや形状、個数なども、使用する芯部の形状や所望の本数に対応するようにして適宜調整すれば良く、特に限定されるものではない。
【0041】
以下、本発明に係わる実施形態を、製造工程を示しながら説明する。なお、第1製造工程11を示して説明した本発明に係わる製造条件は、後述の第2〜第4製造工程に適用されるものとし、各工程において、関連箇所の説明は割愛する。
【0042】
図6に、本発明に係わる第2実施形態として第2製造工程50を示す。第2実施形態では、1つの芯部60と外殻部61とからなる単芯構造のプリフォーム素片51を複数用いてプリフォーム集合体52を形成した後、これを加熱延伸させて光学部材53を製造する。すなわち、プリフォーム集合体52が、プリフォームとしての役割を担う。したがって、第2製造工程50は、プリフォーム集合体形成工程66を含むプリフォーム形成工程55と加熱延伸工程56とを有する。
【0043】
プリフォーム形成工程55は、芯部形成工程62と外殻部形成工程63と嵌合工程65とプリフォーム集合体形成工程66とからなる。先ず、芯部形成工程62で、中空状の芯部60を形成した後、外殻部形成工程63において、外殻部61を形成する。芯部60および外殻部61の製造方法は、第1製造工程11と同じ方法を用いれば良く、特に限定されるものではない。この芯部60は、光の伝送路となるコア部を含むものであり、外殻部60は、コア部の外周に配されるクラッド部や、芯部60を保護する保護層のうちいずれか1つを含むものとする。ただし、外殻部61は、嵌合孔を有しているものとする。この嵌合孔は、芯部60の外形と略相似形であり、かつ芯部60よりも外径が大きくなるように調整する。
【0044】
次に、嵌合工程65において、芯部60と外殻部61とを嵌合させてプリフォーム素片51を形成する。このプリフォーム素片51の横断面の形状は、円形であっても良いし、非円形であっても良い。そして、プリフォーム集合体形成工程66において、複数本のプリフォーム素片51を配列させることにより、所望の横断面構造を有するプリフォーム集合体52を形成する。さらに、このプリフォーム集合体52を、その横断面の形状が光学部材53の横断面の形状と略相似形となるように加熱延伸させる。以上により、所望の横断面形状と外径を有する光学部材53を得ることができる。この方法により製造される光学部材53としては、2芯の高速シリアル伝送用、多芯のパラレル伝送用、画像読取用のPOFやプラスチック光ファイバアレイが挙げられる。なお、第2製造工程50での製造条件の詳細は後述する。
【0045】
図7に、本発明に係わる第3実施形態として第3製造工程70を示す。第3実施形態では、プリフォーム素片71を延伸させて中間体プリフォーム72とした後、これを複数本用いてプリフォーム集合体73を形成する。このプリフォーム集合体73がプリフォームとなる。そして、このプリフォーム集合体73を加熱延伸させることにより光学部材74を製造する。したがって、第3製造工程70は、中間体プリフォーム72を形成する第1加熱延伸工程83を含むプリフォーム形成工程75と第2加熱延伸工程76とを有する。
【0046】
まず、芯部形成工程80で、光伝送路となる芯部87を形成する。同時に、外殻部形成工程81で、この芯部87の外殻に配され、嵌合孔を有する中空状の外殻部88を形成する。なお、芯部80および外殻部88の製造方法は、特に限定されるものではなく、第1製造工程11で示した方法と同じものを用いれば良い。次に、嵌合工程82において、芯部87と外殻部88とを嵌合させてプリフォーム素片71とする。
【0047】
次に、第1加熱延伸工程83において、プリフォーム素片71を加熱軟化させた後、これを延伸して中間体プリフォーム72とする。第1加熱延伸工程83における加熱温度は、特に限定されるものではないが、例えば、芯部87が、PMMAからなるコア部とPVDFからなるクラッド部とを有する形態である場合には、130〜250℃を満たすことが好ましい。また、延伸倍率も、特に限定されるものではないが、プリフォーム素片71に対して10〜500倍であることが好ましい。続いて、プリフォーム集合体形成工程84において、複数本の中間体プリフォーム72を所望の構造に配列させてプリフォーム集合体73を形成する。そして、第2加熱延伸工程76において、プリフォーム集合体73を加熱延伸することにより光学部材74を製造する。この光学部材74の横断面における外形状は、プリフォーム集合体73の横断面形状と略相似形である。以上により製造される光学部材74としては、例えば、この光学部材74を適宜長さに切断することで得られる、屈折率分布型プラスチックレンズが挙げられる。なお、第3製造工程70での製造条件の詳細は後述する。
【0048】
芯部87および外殻部88の横断面での形状は、特に限定されるものではなく、円形状以外にも、三角形、矩形、五角形、6角形などの多角形や非円形である楕円形、直線と曲線,円弧となどを組み合わせた形状のいずれであっても良い。また、プリフォーム集合体を構成する中間体プリフォーム72の本数、形状、サイズなども、特に限定されるものではない。
【0049】
図8に、本発明に係わる第4実施形態として第4製造工程90を示す。第4実施形態では、プリフォーム素片91を加熱延伸させて第1中間体プリフォーム92としてから、この外周に、外殻部となる部材を嵌合し加熱延伸する工程を繰り返し行うことにより、n層の外殻部を設けたプリフォーム93を形成する。そして、このプリフォーム93を加熱延伸させることにより光学部材94を製造する。したがって、第4製造工程90は、第1中間体プリフォーム92を形成する第1加熱延伸工程101を含むプリフォーム形成工程95と、加熱延伸工程96とを有する。
【0050】
まず、プリフォーム素片形成工程100においてプリフォーム素片91を形成する。このプリフォーム素片91は、第2製造工程50および第3製造工程70で示したように、芯部と嵌合孔を有する外殻部とを形成後、嵌合孔に芯部を挿入して互いを嵌合させることにより形成する。なお、芯部および外殻部の製造方法は、第1製造工程11で示した方法と同じものを用いれば良い。ここでの嵌合工程を、第1嵌合工程(図示しない)と称する。次に、第1加熱延伸工程101において、プリフォーム素片91を加熱延伸させて、所望のサイズの第1中間体プリフォーム92を形成する。第1加熱延伸工程101での加熱温度や延伸倍率は、図7に示す第1延伸工程83と同じであるため、説明は割愛する。
【0051】
第2嵌合工程102において、予め形成しておいた中空状の第2外殻部110と第1中間体プリフォーム92とを嵌合させて嵌合体を形成する。次に、第2加熱延伸工程103において、この嵌合体を加熱延伸させることにより、第2中間体プリフォーム111を形成する。この後、上記のように嵌合体を形成した後、加熱延伸させる工程を、所望の層数の外殻部が得られるまで繰り返し行う。さらに、第n嵌合工程104において、最外殻となる第n外殻部112を嵌合させた後、第n加熱延伸工程105において加熱延伸させることにより、芯部の外周に所望の層数の外殻部が設けられたプリフォーム93を得ることができる。そして、加熱延伸工程96において、プリフォーム93を所望のサイズになるよう延伸倍率を調整しながら延伸することにより光学部材94を製造する。この光学部材94の横断面の形状は、プリフォーム93の横断面の形状と略相似形である。なお、第4製造工程90での製造条件の詳細は、後述する。
【0052】
なお、プリフォーム素片91の外周に設けられる第n層の外殻部は、同一素材で形成されていても良いし、異種素材であっても良い。すなわち、プリフォーム素片91が芯部と外殻部とからなり、この芯部がコア部とクラッド部とからなる場合には、クラッド部と同一素材を用いて第n層の外殻部を設けても良いし、クラッド部とは異なる素材を用いて第n層の外殻部を形成しても良い。例えば、PMMAからなるコア部とPVDFからなるクラッド部とからなる芯部を形成する場合には、この芯部の外周にPVDFからなる第n層の外殻部を設けることもでき、または、この芯部の外周にPMMAからなる第n層の外殻部を設けることもできる。
【0053】
なお、第4製造工程90のプリフォーム93を複数本用いてプリフォーム集合体を形成した後、これを加熱延伸させることにより光学部材を得ることもできる。この場合、上記のプリフォーム集合体がプリフォームの役割を担う。
【0054】
以下に、本発明に係わる実施形態での製造条件の詳細を説明する。
【0055】
本発明において、複数本のプリフォーム素片を用いてプリフォーム集合体を製造する場合、その本数は特に限定されるものではないが、2本以上100本以下であることが好ましく、より好ましくは2本以上50本以下であり、最も好ましくは2本以上10本以下である。また、その配置も特に限定されるものではなく、隣接するように配列させたり、結束させたりしても良い。
【0056】
また、各プリフォーム集合体を形成する際に使用するプリフォーム素片または中間体プリフォームは、それぞれが溶着もしくは接着によって接合されることにより連結して、1体化されたプリフォーム集合体が形成される。複数本のプリフォーム素片を配列または束ねる場合には、その界面に接着剤(例えば、ウレタン系化合物,エポキシ系化合物,アクリル系化合物など)を用いれば良い。ただし、加熱加圧法,超音波溶着法,振動溶着法などを用いて、各界面などを接着しても良い。なお、溶着または接着は、加熱延伸の前に行う他に、加熱延伸時の熱で行っても良い。
【0057】
また、プリフォーム集合体に対して、この集合体の外周に外殻層を嵌めても良い。これにより、耐水性や強靭性を向上させたり、バラつきを防止したりすることができる。なお、プリフォーム集合体は、これを構成する複数のプリフォーム素片または中間体プリフォームを束ねる際に、接着を行わずに整列した状態のままで、これを延伸させても良い。この場合には、光学部材を形成する際に行う加熱延伸工程において加熱軟化する段階で、複数のプリフォーム素片または中間体プリフォームの表面同士が接着し、プリフォーム集合体の横断面と略相似形の横断面形状を有する光学部材を得ることができる。この方法は、特にプリフォーム集合体を構成するプリフォーム素片などの数が少ない場合に好適であり、接着工程が省略できるという利点がある。
【0058】
また、プリフォーム素片の形状は異なる種類を用いて良いし、プリフォーム素片の光学特性が異なっていても良い。プリフォーム素片の横断面の外周形状は、略円形に限定されるものでなく、略楕円形、多角形、直線と曲線とを組み合わせた形状であれば良い。また、異なる光学特性のプリフォーム素片を製造する方法としては、その構成材料を変更したり、後で説明する屈折率調整剤を用いて屈折率分布を変更したり、添加物を選択することにより、所望の光学特性を発現させる方法が挙げられるが、特に限定されるものではない。
【0059】
本発明の光学部材のうち、コア部について説明する。コア部の原料となる重合性モノマーとしては、塊状重合が容易である原料を選択するのが好ましい。光透過性が高く塊状重合しやすい原料としては例えば、以下のような(メタ)アクリル酸エステル類(フッ素不含(メタ)アクリル酸エステル(a),含フッ素(メタ)アクリル酸エステル(b)),スチレン系化合物(c),ビニルエステル類(d)などを例示することができ、コア部はこれらのホモポリマー、あるいはこれらモノマーの2種以上からなる共重合体、およびホモポリマー及び/または共重合体の混合物から形成することができる。これらのうち、(メタ)アクリル酸エステル類を重合性モノマーとして含む組成を好ましく用いることができる。
【0060】
以上に挙げた重合性モノマーとしては、具体的に、(a)フッ素不含メタクリル酸エステルおよびフッ素不含アクリル酸エステルとしては、メタクリル酸メチル(MMA)、メタクリル酸エチル、メタクリル酸イソプロピル、メタクリル酸−tert−ブチル、メタクリル酸ベンジル(BzMA)、メタクリル酸フェニル、メタクリル酸シクロヘキシル、メタクリル酸ジフェニルメチル、トリシクロ[5・2・1・02 ,6 ]デカニルメタクリレート、アダマンチルメタクリレート、イソボルニルメタクリレート、ノルボルニルメタクリレートなどが挙げられ、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸−tert−ブチル、アクリル酸フェニルなどが挙げられる。また、(b)含フッ素アクリル酸エステルおよび含フッ素メタクリル酸エステルとしては、2,2,2−トリフルオロエチルメタクリレート、2,2,3,3−テトラフルオロプロピルメタクリレート、2,2,3,3,3−ペンタフルオロプロピルメタクリレート、1−トリフルオロメチル−2,2,2−トリフルオロエチルメタクリレート、2,2,3,3,4,4,5,5−オクタフルオロペンチルメタクリレート、2,2,3,3,4,4−ヘキサフルオロブチルメタクリレートなどが挙げられる。さらに、(c)スチレン系化合物としては、スチレン、α−メチルスチレン、クロロスチレン、ブロモスチレンなどが挙げられる。そして、(d)ビニルエステル類としては、ビニルアセテート、ビニルベンゾエート、ビニルフェニルアセテート、ビニルクロロアセテートなどが挙げられる。勿論、これらに限定されるものではない。モノマーの単独あるいは共重合体からなるコア部のポリマーの屈折率は、クラッド部のそれに比べて同などかあるいはそれ以上になるように構成モノマーの種類,組成比を選択する。特に好ましいポリマーとしては、透明樹脂であるポリメタクリル酸メチル(PMMA)が挙げられる。
【0061】
さらに、光学部材を近赤外線用途に用いる場合は、コア部のポリマーを構成するC−H結合に起因した吸収損失が起こるために、特許第3332922号公報などに記載されているような重水素化ポリメチルメタクリレート(PMMA−d8)、ポリトリフルオロエチルメタクリレート(P3FMA)、ポリヘキサフルオロイソプロピル2−フルオロアクリレート(HFIP 2−FA)などを始めとする、C−H結合の水素原子(H)を重水素原子(D)やフッ素(F)などで置換した重合体を用いる。これにより、伝送損失が生じる波長域を長波長化することができ、伝送信号光の損失を軽減することができる。なお、原料モノマーは重合後の透明性を損なわないためにも、不純物や散乱源となる異物は重合前に十分に低減することが望ましい。
【0062】
本発明の光学部材のうち、クラッド部について説明する。クラッド部の素材には、コア部を伝送する光がそれらの界面で全反射するために、コア部よりも低屈折率であり、コア部との密着性に優れるものを用いることが好ましい。ただし、素材の選択によってコア部とクラッド部との界面において不整が起こりやすかったり、もしくは、製造適性上、好ましくなかったりする場合などでは、コア部とクラッド部との間に、さらに層を設けて、その整合性を向上させても良い。この場合、例えば、コア部との界面(即ち、中空管の内壁面)に、コア部のマトリックスと同一組成のポリマーからなるアウターコア層を形成すると、コア部とクラッド部との界面状態を矯正することができる。なお、アウターコア層の詳細については後述する。勿論、アウターコア層を形成せずに、クラッド部そのものを、コア部のマトリックスと同一組成のポリマーから形成しても良い。
【0063】
クラッド部の素材としては、タフネス及び耐湿熱性にも優れているものが好ましく用いられる。例えば、好適な素材としては、フッ素含有モノマーの単独重合体または共重合体が挙げられる。フッ素含有モノマーとしては、フッ化ビニリデン(PVDF)が好ましく、フッ化ビニリデンを10質量%以上含有する1種以上の重合性モノマーを重合させて得られるフッ素樹脂が好ましく用いられる。
【0064】
また、溶融押出法により重合体を成形し、クラッド部を作製する場合は、重合体の溶融粘度が適当であることが必要である。この溶融粘度については、相関する物性として分子量が用いられ特に重量平均分子量との相関がある。本発明においては、重量平均分子量が1〜100万の範囲であることが適当であり、より好ましくは5〜50万の範囲である。
【0065】
さらに、コア部への水分の侵入を防ぐことが好ましく、そのためには、吸水率が低いポリマーをクラッド部の素材(材料)として用いる。すなわち飽和吸水率(以下、吸水率と称する)が1.8%未満のポリマーを用いてクラッド部を作製するのが好ましい。より好ましくは1.5%未満のポリマー、さらに好ましくは1.0%未満のポリマーを用いてクラッド部を作製することが好ましい。また、前記アウターコア層を作製する場合にも同様の吸水率のポリマーを用いることが好ましい。吸水率(%)は、ASTM D 570試験法に従い、23℃の水中に試験片を1週間浸漬し、そのときの吸水率を測定することにより算出することができる。
【0066】
コア部及び/又はクラッド部が、重合性モノマーから重合されたポリマーから作製される場合、重合の際に重合開始剤が用いられる。重合開始剤としては、用いるモノマーや重合方法に応じて適宜選択することができ、例えば、過酸化ベンゾイル(BPO)、tert−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサネート(PBO)、ジ−tert−ブチルパーオキシド(PBD)、tert−ブチルパーオキシイソプロピルカーボネート(PBI)、n−ブチル−4,4−ビス(tert−ブチルパーオキシ)バラレート(PHV)などのパーオキサイド系化合物が挙げられる。また、2,2’−アゾビスイソブチロニトリル、2,2’−アゾビス(2−メチルブチロニトリル)、1,1’−アゾビス(シクロヘキサン−1−カルボニトリル)、2,2’−アゾビス(2−メチルプロパン)、2,2’−アゾビス(2−メチルブタン)、2,2’−アゾビス(2−メチルペンタン)、2,2’−アゾビス(2,3−ジメチルブタン)、2,2’−アゾビス(2−メチルヘキサン)、2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルペンタン)、2,2’−アゾビス(2,3,3−トリメチルブタン)、2,2’−アゾビス(2,4,4−トリメチルペンタン)、3,3’−アゾビス(3−メチルペンタン)、3,3’−アゾビス(3−メチルヘキサン)、3,3’−アゾビス(3,4−ジメチルペンタン)、3,3’−アゾビス(3−エチルペンタン)、ジメチル−2,2’−アゾビス(2−メチルプロピオネート)、ジエチル−2,2’−アゾビス(2−メチルプロピオネート)、ジ−tert−ブチル−2,2’−アゾビス(2−メチルプロピオネート)などのアゾ系化合物が挙げられる。なお、重合開始剤は勿論これらに限定されるものではなく、更には2種類以上を併用しても良い。
【0067】
コア部形成用重合性組成物及びクラッド部形成用重合性組成物は、連鎖移動剤を含有していることが好ましい。連鎖移動剤は、主に重合体の分子量を調整するために用いられる。クラッド部およびコア部形成用重合性組成物がそれぞれ連鎖移動剤を含有していると、重合性モノマーからポリマーを形成する際に、重合速度および重合度を前記連鎖移動剤によってより制御することができ、重合体の分子量を所望の分子量に調整することができる。例えば、得られたプリフォームを延伸により線引して光学部材を形成する際に、分子量を調整することによって延伸時における機械的特性を所望の範囲とすることができ、生産性の向上にも寄与する。
【0068】
連鎖移動剤については、併用する重合性モノマーの種類に応じて、適宜、種類および添加量を選択することができる。各モノマーに対する連鎖移動剤の連鎖移動定数は、例えば、ポリマーハンドブック第3版(J.BRANDRUPおよびE.H.IMMERGUT編、JOHN WILEY&SON発行)を参照することができる。また、前記連鎖移動定数は大津隆行、木下雅悦共著「高分子合成の実験法」化学同人、昭和47年刊を参考にして、実験によっても求めることができる。
【0069】
連鎖移動剤としては、アルキルメルカプタン類(例えば、n−ブチルメルカプタン、n−ペンチルメルカプタン、n−オクチルメルカプタン、n−ラウリルメルカプタン、tert−ドデシルメルカプタンなど)、チオフェノール類(例えば、チオフェノール、m−ブロモチオフェノール、p−ブロモチオフェノール、m−トルエンチオール、p−トルエンチオールなど)などを用いることが好ましい。特に、n−オクチルメルカプタン、n−ラウリルメルカプタン、tert−ドデシルメルカプタンのアルキルメルカプタンを用いるのが好ましい。また、C−H結合の水素原子が重水素原子(D)やフッ素原子(F)で置換された連鎖移動剤を用いることもできる。なお、連鎖移動剤は勿論これらに限定されるものではなく、これら連鎖移動剤は2種類以上を併用しても良い。
【0070】
コア部用重合性組成物には、屈折率調整剤を含有させることが好ましい。屈折率調整剤はドーパントとも称され、併用する前記重合性モノマーの屈折率と異なる化合物である。なお、必要に応じて、クラッド部重合性組成物に屈折率調整剤を含有させても良い。屈折率調整剤の濃度に分布を持たせることによって、濃度の分布に基づいて屈折率分布型のコアを容易に作製することができる。このとき、その屈折率差は0.005以上であるのが好ましい。ただし、屈折率調整剤を用いなくとも、コア部の形成に2種以上の重合性モノマーを用いて、コア部内に共重合比の分布を持たせることにより、屈折率分布構造を導入することもできる。
【0071】
ドーパントは、これを含有する重合体が無添加の重合体と比較して、屈折率が高くなる性質を有する。これらは、特許第3332922号公報や特開平5−173026号公報に記載されているような、モノマーの合成によって生成される重合体との比較において溶解性パラメータとの差が7(cal/cm3 1/2 以内であると共に、屈折率の差が0.001以上であり、これを含有する重合体が無添加の重合体と比較して屈折率が変化する性質を有し、重合体と安定して共存可能で、且つ前述の原料である重合性モノマーの重合条件(加熱および加圧などの重合条件)下において安定であるものを、いずれも用いることができる。
【0072】
上記性質を有し、重合体と安定して共存可能で、且つ前述の原料である重合性モノマーの重合条件(加熱および加圧などの重合条件)下において安定であるものを、ドーパントとして用いることができる。例えば、コア部形成用重合性組成物にドーパントを含有させ、コア部を形成する工程においてラジカル重合により重合の進行方向を制御し、ドーパントの濃度に傾斜を持たせ、コア部にドーパントの濃度分布に基づく屈折率分布構造を形成する方法が挙げられる。この屈折率分布構造は、横断面において中心から外周に向かって屈折率が変化するもので、屈折率が中心から外周に向うに従い次第に連続的に低くなるGI型と、屈折率が中心から外周に向うに従い次第に段階的に低くなるマルチステップインデックス(MI)型とがある。これらGI型またはMI型の光学部材は、広い伝送帯域を有する。
【0073】
ドーパントは重合性化合物であっても良く、重合性化合物のドーパントを用いた場合は、これを共重合成分として含む共重合体が、これを含まない重合体と比較して、屈折率が上昇する性質を有するものを用いる。なお、このような共重合体には、MMA−BzMA共重合体などが挙げられる。
【0074】
ドーパントとしては、特許第3332922号や特開平11−142657号公報に記載されているような、例えば、安息香酸ベンジル(BEN)、硫化ジフェニル(DPS)、リン酸トリフェニル(TPP)、フタル酸ベンジル−n−ブチル(BBP)、フタル酸ジフェニル(DPP)、ジフェニル(DP)、ジフェニルメタン(DPM)、リン酸トリクレジル(TCP)、ジフェニルスルホキシド(DPSO)、硫化ジフェニル誘導体、ジチアン誘導体などが挙げられる。中でも、BEN、DPS、TPP、DPSOおよび硫化ジフェニル誘導体、ジチアン誘導体が好ましい。なお、これらの化合物中に存在する水素原子を重水素原子に置換した化合物も広い波長域での透明性を向上させる目的で用いることができる。また、重合性化合物として、例えば、トリブロモフェニルメタクリレートなどが挙げられる。屈折率調整成分として重合性化合物を用いる場合は、マトリックスを形成する際に、重合性モノマーと重合性屈折率成分とを共重合させるので、種々の特性(特に光学特性)の制御がより困難となるが、耐熱性の面では有利となる可能性がある。
【0075】
ドーパントの濃度および分布を調整することによって、光学部材の屈折率を所望の値に変化させることができる。その添加量は、用途および組み合わされる部材に応じて適宜選ばれる。なお、ドーパントは、複数種類添加しても良い。
【0076】
ドーパントなどの他にも、コア部やクラッド部、もしくはそれらの一部には、光伝送性能を低下させない範囲であれば、それらを構成する重合性組成物に添加剤を含有させることができる。例えば、コア部もしくはその一部に耐候性や耐久性などを向上させる目的で、安定剤を添加することができる。また、光伝送性能の向上を目的として、光信号増幅用の誘導放出機能化合物を添加することもできる。前記誘導放出機能化合物を添加することにより、減衰した信号光を励起光により増幅することができ、伝送距離が向上するので、例えば、光伝送リンクの一部に光ファイバ増幅器として使用することができる。これらの添加剤も、原料モノマーに添加した後、重合することによって、コア部、クラッド部もしくはそれらの一部に含有させることができる。
【0077】
加熱延伸後のクラッド部の外周には、防水性や耐久性などを向上させる目的により、溶融樹脂の押出成形などによって被覆層を設けることが好ましい。この被覆層の材料は特に限定されるものではないが、例えば、熱可塑性樹脂が用いられ、特に、耐薬品性や柔軟性が良好であることなどからポリオレフィン系樹脂が好ましく用いられる。ポリオレフィン系樹脂としては、例えば、エチレン、プロピレン又はα−オレフィンなどの重合体が挙げられる。α−オレフィンとしては、例えば、1−ブテン、1−ペンテン、1−ヘキセン、4−メチル−1−ペンテン、1−ペプテン、1−オクテンなどが挙げられ、これらの重合体としては、例えば、ポリエチレン、エチレンとプロピレンの共重合体、エチレンとα−オレフィンの共重合体、ポリプロピレン、プロピレンとα−オレフィンの共重合体、ポリブテン、ポリイソプレンなどが挙げられる。また、ポリオレフィン系樹脂は、得られる物性を考慮した上で、適当な組合せにてブレンドされているものを用いても良い。なお、ポリオレフィン系樹脂の分子量および分子量分布は、特に限定されるものではないが、その重量平均分子量は、通常5000〜5000000であり、好ましくは20000〜300000である。そして、重量平均分子量Mw/数平均分子量Mnで示される分子量分布は、1〜80であり、好ましくは1〜40とされる。
【0078】
また、放射線硬化樹脂や熱硬化性樹脂を塗布した後に、放射線を照射したり、熱をかけたりすることにより硬化させて、被覆材としても良い。放射線硬化樹脂としては、例えば、アクリル変性の不飽和ポリエステルやエポキシ樹脂、ポリウレタンなどが挙げられ、熱硬化性樹脂としては、フェノール樹脂やメラミン樹脂、ジアクリルフタレート樹脂などが挙げられる。なお、前記被覆層は一層のみならず、複層であっても良い。複層とする場合には、間に抗張力繊維などを配置しても良い。
【0079】
前述の各実施形態においてコアには予め光散乱粒子を含有させても良い。光散乱粒子としては、その大きさは特に限定されるものではないが、平均粒径が1μm以上2μm以下のものが好ましく用いられる。なお、素材も特に限定されるものではないが、シリコン粒子,シリカ粒子,ポリスチレン粒子,ジルコニアビーズ,メラミン粒子などが好ましく用いられ、特に好ましくはシリコン粒子を用いることである。コア42に光散乱粒子を含有させることで、特開平10−186184号公報に開示されている光バス(シートバス)のような光インターコネクション技術用途や、また異なる光散乱粒子濃度の単位をパターン状に配置して局部的に光散乱能を変化させた導光板や拡散シートおよび反射板などの導光部材用途などに本発明の光学部材を用いることができる。
【0080】
本発明の光伝送材料は、種々の発光素子や受光素子、光スイッチ、光アイソレータ、光集積回路、光送受信モジュールなどの光部品を含む光信号処理装置に用いられ、必要に応じて他の石英やプラスッチ製の光ファイバや光導波路などと組み合わせても良い。それらに関連する技術としてはいかなる公知の技術も適用でき、例えば、プラスティックオプティカルファイバの基礎と実際(エヌ・ティー・エス社発行)、日経エレクトロニクス2001.12.3号110頁〜127頁「プリント配線基板に光部品が載る,今度こそ」などを参考にすることができる。前記文献に記載の種々の技術と組み合わせることによって、本発明の光学部材は、コンピュータや各種デジタル機器内の装置内配線や、車両・船舶などの内部配線、光伝送システムなどに用いられる。光伝送システムは、高速大容量のデータ通信や電磁波の影響を受けない制御用途に用いられ、短距離用途であることが特に好ましい。この光伝送システムの具体例としては、データ通信光端末とデジタル機器、デジタル機器同士の光リンクや、一般家庭や集合住宅・工場・オフィス・病院・学校などの屋内や域内の光LANなどがある。
【0081】
さらに、IEICE TRANS. ELECTRON., VOL. E84-C, No.3, MARCH 2001, p.339−344 「High Uniformity Star Coupler Using Diffused Light Transmission」,エレクトロニクス実装学会誌 Vol.3, No.6, 2000 476頁〜480頁「光シートバス技術によるインタコネクション」に記載されているものや、特開平10−123350号、特開2002−90571号、特開2001−290055号などの各公報に記載の光バス;特開2001−74971号、特開2000−329962号、特開2001−74966号、特開2001−74968号、特開2001−318263号、特開2001−311840号などの各公報に記載の光分岐結合装置;特開2000−241655号などの公報に記載の光スターカプラ;特開2002−62457号、特開2002−101044号、特開2001−305395号などの各公報に記載の光信号伝達装置や光バスシステム;特開2002−23011号などに記載の光信号処理装置;特開2001−86537号などに記載の光信号クロスコネクトシステム;特開2002−26815号などに記載の光伝送システム;特開2001−339554号、特開2001−339555号などの各公報に記載のマルチファンクションシステム;や各種の光導波路、光分岐器、光結合器、光合波器、光分波器などと組み合わせることで、多重化した送受信などを使用して、より高度な光伝送システムを構築することができる。以上の光伝送用途以外にも、本発明のプラスチック光学部材は、照明、エネルギー伝送、イルミネーション、センサ分野にも用いることができる。
【0082】
以下、本発明に係る光学部材の製造方法について、実施例1〜5を挙げてさらに具体的に説明する。なお、以下の実施例に示す材料の種類、それらの割合、処方などは、本発明の精神から逸脱しない限り適宜変更して良い。従って、本発明の範囲は以下に示す実施例に制限されるものではない。
【実施例1】
【0083】
実施例1では、図1に示す第1製造工程11により、図3(A)に示すようなコア部25aとクラッド部26aとからなる芯部15と、嵌合孔27を有する外殻部16とを形成後、これらを嵌合させて、図3(B)に示すようなプリフォーム12とし、さらに、このプリフォーム12を加熱延伸して、図3(C)に示すような光学部材10を製造した。
【0084】
先ず、PMMAを用いて、溶融押出成形によりφ20mm、長さが400mmのPMMA棒をコア部25aとして作製した。次に、上記と同様の溶融押出成形により予め作製した内径20.3mm、外径21.3mm、長さ400mmのPVDFからなるクラッドパイプの中に、先ほどのPMMA棒を挿入し嵌合させることにより芯部15を形成した。そして、予め溶融押出成形により形成した、直径21.6mmの嵌合孔27を有し、横断面の形状が正方形で一辺が34×34mm、長さが400mmであるPMMA棒を外殻部16とし、芯部15と外殻部16とを嵌合させて、プリフォーム12とした。最後に、空隙28を減圧しながら加熱延伸させることにより、光学部材10を製造した。なお、加熱延伸前には、プリフォーム12を90℃に加熱した状態で真空処理し、さらに、固定端部をヒータにより加熱融着させて固定化した。
【0085】
上記により得られた光学部材10は、φ205μmのコア25bを含む芯部材15aと外殻部材16aとからなり、横断面の形状が350×350μmであった。また、この光学部材10の伝送損失を測定したところ、850nm波長で0.04dB/cmとなり、非常に低伝送損失を示した。
【実施例2】
【0086】
実施例2では、図1に示す第1製造工程11を適用して、図5(A)に示すような外殻部30と、図5(B)に示すような芯部A33および芯部B34とを嵌合させて、図5(C)に示すようなプリフォーム35を形成した後、これを加熱延伸することにより、図5(D)に示すような光学部材38を製造した。
【0087】
先ず、異なるサイズの芯部A33と芯部B34とを作製した。芯部A33としては、クラッド部A33bとなる内径9mm、外径10mmのPVDF管を用意し、この中に、屈折率調整剤としてDPSおよび、重合開始剤、連鎖移動剤を加えた重水素化MMAを注入してから、これをラジカル重合させることによりコア部A33aを形成した。また、芯部B34としては、クラッド部B34bとなる内径14mm、外径15mmのPVDF管を用意し、この中に、屈折率調整剤としてDPSを加えた重水素化MMAを注入してから、これをラジカル重合させることにより、コア部B34aを形成した。上記のようにして、芯部A33と芯部B34とを各2本ずつ形成した後、これらを外殻部30と嵌合させることによりプリフォーム35を製造した。なお、外殻部30は、φ10.3mmの嵌合孔31およびφ15.3mmの嵌合孔32を2個ずつ設け、かつ横断面の形状が20×80mmの長方形となるようにした。そして、このプリフォーム35の空隙A36および空隙B37を、それぞれ減圧しながら加熱延伸させることにより、光学部材38を製造した。ただし、加熱延伸前では、プリフォーム35を所定の範囲内で加熱減圧処理するとともに、固定端部を耐熱テープで固定した。
【0088】
上記により得られた光学部材38は、横断面の外形が200×800μmであり、φ90μmの芯部材A39とφ140mmの芯部材B40とを、それぞれ2芯ずつ有する形態であった。また、その横断面の形状は、プリフォーム35の横断面形状と略相似形とした。光学部材38の伝送損失を測定したところ、いずれも850nm波長で0.03dB/cmであり、非常に低伝送損失を示した。
【実施例3】
【0089】
実施例3では、図6に示す第2製造工程50を適用して、図9(A)に示すようなプリフォーム素片51を形成後、図9(B)に示すように4本のプリフォーム素片51を配列させてプリフォーム集合体52とした後、これを加熱延伸させることにより、図9(C)に示すような光学部材53を製造した。
【0090】
先ず、芯部60および外殻部61をそれぞれ作製した。芯部60は、PMMAを用いて、溶融押出成形によりφ20mm、長さが400mmのPMMA棒をコア部として作製後、これを、同じく溶融押出成形により作製した内径20.3mm、外径21.3mm、長さ400mmのPVDFからなるクラッドパイプに挿入し、嵌合させることによりコア部の外周にクラッド部を配することで形成した。また、外殻部61としては、同じく溶融押出成形により、直径21.6mmの嵌合孔を有し、横断面の形状が正方形で一辺が34×34mm、長さが400mmであるPMMA棒を形成した。次に、芯部60と外殻部61とを嵌合させることにより、空隙120を有するプリフォーム素片51を形成した。このとき、プリフォーム素片51の延伸方向側に位置する端部を耐熱テープで固定した。上記の方法によりプリフォーム素片51を4本用意してから、これらを密接に配列させることにより、横断面の形状が長方形であり、かつ外形が34×136mmのプリフォーム集合体52を形成した。続いて、このプリフォーム集合体52を、所望の範囲内で加熱減圧処理した後、各空隙120を減圧しながら加熱延伸させることにより、光学部材53を製造した。なお、加熱延伸時の熱によりプリフォーム集合体52を構成する各プリフォーム素片51の界面を融着させるようにしたので、接着剤を使用する必要はなかった。
【0091】
上記により得られた光学部材53は、芯部材121と外殻部材122とからなり、横断面の形状が350×1400μmであり、横断面の形状がプリフォーム集合体52と略相似形であった。この光学部材53の伝送損失を測定したところ、850nm波長で0.04dB/cmとなり、非常に低伝送損失を示した。
【実施例4】
【0092】
実施例4では、図7に示す第3製造工程70を適用して、図10(A)に示すようなプリフォーム素片71を形成した後、これを一度加熱延伸させて、図10(B)に示すような中間体プリフォーム72を作製した。上記の方法により5本の中間体プリフォーム72を用意してから、これらを配列させることにより、図10(C)に示すようなプリフォーム集合体73を形成した後、このプリフォーム集合体73を加熱延伸させて、図10(D)に示す光学部材74を製造した。
【0093】
実施例4では、プリフォーム素片71として、実施例1で形成したプリフォーム12を使用し、このプリフォーム素片71を加熱延伸することで、中間体プリフォーム72とした。この中間体プリフォーム72は、芯部15と外殻部16とが、それぞれ加熱延伸されることで形成された第1芯部材131と第1外殻部材132とからなり、横断面の形状を、一辺が8×8mmである正方形とした。そして、この中間体プリフォーム72を5本用意してから、横断面の形状が長方形となるように配列させて、外形が8×40mmのプリフォーム集合体73を形成した。続いて、このプリフォーム集合体52を、所望の範囲内で加熱減圧処理した後、このプリフォーム集合体73を、光学部材74の横断面の形状が略相似形となるように加熱延伸させることにより、光学部材74を製造した。なお、実施例4では、プリフォーム集合体73を加熱延伸させる際の加熱により、各中間体プリフォーム72の界面を融着させたので、接着剤を使用する必要はなかった。
【0094】
上記により得られた光学部材74は、第1芯部材131が加熱延伸された第2芯部材133と、第1外殻部材132が加熱延伸された第2外殻部材134とからなり、さらに、この第2芯部材133は、φ147μmのコア(図示しない)を含む5つ有する5芯光導波路であった。また、その横断面の形状は、プリフォーム集合体73の横断面の形状と略相似形であり、その外形は250×1250μmの長方形であった。光学部材74の伝送損失は、実施例1と同様に、いずれの単芯も850nm波長で0.04dB/cmであり、非常に低伝送損失を示した。
【実施例5】
【0095】
実施例5では、図8に示す第4製造工程90を適用して、図11(A)に示すようなプリフォーム素片91を作製後、これを一度加熱延伸させて、図11(B)に示すような第1中間体プリフォーム92を作製した。続いて、第1中間体プリフォーム92に第2外殻部110を嵌合させた後、これを加熱延伸して第2中間体プリフォーム111とし、続けて、この嵌合および加熱延伸工程を繰り返し5回行うことにより、図11(C)に示すようなプリフォーム93を作製した。そして、このプリフォーム93を加熱延伸させて、光学部材94を製造した。なお、プリフォーム素片91として、実施例1で形成したプリフォーム12を使用した。ただし、実施例5では、このプリフォーム素片91を加熱延伸することにより中間体プリフォームを作製するため、第1中間体プリフォーム92を構成する部材との区別を付けるなど、説明の便宜上、プリフォーム12(図3(B))のうち、芯部15を芯部前駆体140とし、外殻部16を第1外殻部前駆体141として、名称を変更する。
【0096】
先ず、用意したプリフォーム素片91を加熱延伸して第1中間体プリフォーム92とした。この第1中間体プリフォーム92は、芯部前駆体140が加熱延伸された芯部145と、第1外殻部前駆体141が加熱延伸された第1外殻部146とから形成した。次に、この第1中間体プリフォーム92と、予めPMMAを用いて市販の溶融押出成形により形成した第2外殻部110とを嵌合させて、第2中間体プリフォーム111を形成した。そして、この嵌合および加熱延伸工程を連続的に4回繰り返し行って、第1外殻部146〜第6外殻部112までを順に形成した複層構造の外殻部150を有するプリフォーム93を形成した。このプリフォーム93は、横断面の形状が、一辺が15×15mmの正方形であった。最後に、このプリフォーム93を加熱延伸させて、光学部材94を製造した。なお、加熱延伸前のプリフォーム93には、所定の範囲内において加熱減圧処理を施した。
【0097】
上記により得られた光学部材94は、芯部材151と外殻部材152とからなり、その外形は、一辺が150×150μmの正方形であった。また、その横断面の形状は、プリフォーム93の横断面の形状と略相似形であった。そして、光学部材94の伝送損失は、実施例1と同様に、いずれも850nm波長で0.04dB/cmであり、非常に低伝送損失を示した。
【図面の簡単な説明】
【0098】
【図1】本発明に係る光学部材の製造方法を示す第1製造工程図である。
【図2】本発明に係る光学部材の製造方法における加熱延伸工程の説明図である。
【図3】本発明に係わる光学部材の第1製造工程を説明する一例の概略図である。
【図4】本発明に係る光学部材の端部の固定化を説明する一例の概略図である。
【図5】本発明に係る光学部材の第1製造工程を説明する一例の概略図である。
【図6】本発明に係る光学部材の製造方法を示す第2製造工程図である。
【図7】本発明に係る光学部材の製造方法を示す第3製造工程図である。
【図8】本発明に係る光学部材の製造方法を示す第4製造工程図である。
【図9】本発明に係る光学部材の第2製造工程を説明する一例の概略図である。
【図10】本発明に係る光学部材の第3製造工程を説明する一例の概略図である。
【図11】本発明に係る光学部材の第4製造工程を説明する一例の概略図である
【符号の説明】
【0099】
10,38,53,74,94 光学部材
12,35,93 プリフォーム
15,60,87, 芯部
16,30,61,88, 外殻部
25a コア部
26a クラッド部
27 嵌合孔
28,120, 空隙
51,71,91 プリフォーム素片
52,73, プリフォーム集合体
72 中間体プリフォーム
92 第1中間体プリフォーム
111 第2中間体プリフォーム


【特許請求の範囲】
【請求項1】
光学部材プリフォームを延伸してプラスチック光学部材を製造する方法において、
ポリマーから形成される複数の光学部材プリフォーム素片を嵌合させて前記光学部材プリフォームを形成する光学部材プリフォーム形成工程と、
前記プラスチック光学部材の横断面の形状が、前記光学部材プリフォームの横断面形状と略相似形となるように加熱延伸する加熱延伸工程とを有することを特徴とするプラスチック光学部材の製造方法。
【請求項2】
前記光学部材プリフォーム素片は、光伝送路となる芯部と、中空の嵌合孔を設けた外殻部とからなり、
前記光学部材プリフォーム形成工程では、前記外殻部に設けた嵌合孔に前記芯部を挿入することを特徴とする請求項1記載のプラスチック光学部材の製造方法。
【請求項3】
前記プラスチック光学部材の横断面の形状が、多角形、閉曲線、直線および曲線を組合せた図形であることを特徴とする請求項1または2記載のプラスチック光学部材の製造方法。
【請求項4】
前記芯部は、光伝送路となるコア部を含むことを特徴とする請求項2記載のプラスチック光学部材の製造方法。
【請求項5】
前記芯部は、前記コア部とその周囲に前記コア部よりも低屈折率であるクラッド部とを配置してなることを特徴とする請求項2または4記載のプラスチック光学部材の製造方法。
【請求項6】
前記外殻部は、前記クラッド部および前記芯部を保護する保護層のうち少なくとも1つを含むことを特徴とする請求項2、4、5いずれかひとつ記載のプラスチック光学部材の製造方法。
【請求項7】
前記芯部の横断面の形状と、前記嵌合孔の横断面の形状とが略相似形であり、
前記芯部を前記嵌合孔に嵌合させたときに形成される空隙のクリアランスX(mm)が、0<X≦8の条件を満たすことを特徴とする請求項2記載のプラスチック光学部材の製造方法。
【請求項8】
前記空隙を減圧しながら前記光学部材プリフォームを加熱延伸することを特徴とする請求項7記載のプラスチック光学部材の製造方法。
【請求項9】
前記外殻部は、前記嵌合孔を複数有することを特徴とする請求項2または6記載のプラスチック光学部材の製造方法。
【請求項10】
前記光学部材プリフォームが、単芯構造である単芯光学部材プリフォームを配列して形成した光学部材プリフォーム集合体であることを特徴とする請求項1ないし3いずれかひとつ記載のプラスチック光学部材の製造方法。
【請求項11】
前記光学部材プリフォーム集合体が、前記単芯光学部材プリフォームを加熱延伸してなる中間体光学部材プリフォームにより構成されていることを特徴とする請求項10記載のプラスチック光学部材の製造方法。
【請求項12】
隣接する前記単芯光学部材プリフォーム同士を接着させて、前記光学部材プリフォーム集合体を形成することを特徴とする請求項10または11記載のプラスチック光学部材の製造方法。
【請求項13】
隣接する前記単芯光学部材プリフォーム同士を融着させて、前記光学部材プリフォーム集合体を形成することを特徴とする請求項10ないし12いずれかひとつ記載のプラスチック光学部材の製造方法。
【請求項14】
前記単芯光学部材プリフォームの融着を、加熱延伸前に行なうことを特徴とする請求項13記載のプラスチック光学部材の製造方法。
【請求項15】
前記単芯光学部材プリフォームの融着を、加熱延伸時の加熱により行なうことを特徴とする請求項13記載のプラスチック光学部材の製造方法。
【請求項16】
前記光学部材プリフォーム集合体は、異なる形状の前記単芯光学部材プリフォームを含むことを特徴とする請求項10ないし13いずれかひとつ記載のプラスチック光学部材の製造方法。
【請求項17】
前記光学部材プリフォーム集合体は、異なる光学特性を示す前記単芯光学部材プリフォームを含むことを特徴とする請求項10ないし13いずれかひとつ記載のプラスチック光学部材の製造方法。
【請求項18】
前記芯部は、アクリル系ポリマーを含むものであり、
前記芯部および前記外殻部のうち少なくとも1つは、フッ素原子を含む重合体であることを特徴とする請求項1または2記載のプラスチック光学部材の製造方法。
【請求項19】
前記芯部は、その横断面において中心から外側に向かうにしたがい次第に屈折率が変化することを特徴とする請求項18記載のプラスチック光学部材の製造方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2007−108271(P2007−108271A)
【公開日】平成19年4月26日(2007.4.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−297280(P2005−297280)
【出願日】平成17年10月12日(2005.10.12)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】