説明

プラスチック分解油の処理方法

【課題】プラスチック分解油を石油精製工程において原油由来成分と共に処理する際の問題点を解決し、ガソリン基材原料や石油化学原料及び灯軽油となるナフサ留分や灯軽油留分並びに重油などを製造する方法に関する。
【解決手段】プラスチックの分解によって生成するプラスチック分解油を原油由来成分と混合し、石油精製工程において処理するプラスチック分解油処理方法であって、前記原油由来成分の90%留出温度が、前記プラスチック分解油の90%留出温度以上である。前記原油由来成分の90%留出温度が、200℃以上であること、及び/又は、前記原油由来成分が残さ油であることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プラスチックの分解によって生成するプラスチック分解油を石油精製工程において原油由来成分とともに処理し、ガソリン基材原料や石油化学原料及び灯軽油となるナフサ留分や灯軽油留分並びに重油などを製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に原油から製造されるガソリン基材原料や石油化学原料となるナフサ留分や灯油・軽油留分は需要が旺盛である。この原料としては、直留ナフサ、減圧ナフサ、熱分解ナフサ、直留灯油、減圧灯油、熱分解灯油、直留軽油、減圧軽油、熱分解軽油など原油から得られる石油留分が用いられている。
【0003】
プラスチック分解油は、廃棄物などから分離されたプラスチックの分解によって生成する油分である。原料となるプラスチックは、特に限定されるものではないが、ポリエチレン、ポリプロピレンなどのポリオレフィン、ポリスチレンなどのスチレン系樹脂、ポリアミド樹脂、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリカーボネートなどが挙げられる。通常は、廃棄されたプラスチックを原料とする。このようなプラスチックの熱分解反応は公知である(特許文献1、2参照)。
【0004】
このプラスチック分解油は、一般的にボイラー燃料などに用いられており、不純物が多いことからガソリン基材や灯軽油、石油化学原料として利用されていない。廃プラスチック中、ポリアミド樹脂、ポリウレタン類、ABS樹脂及びNBRには窒素が含有され、ポリ塩化ビニル(PVC)、ポリ塩化ビニリデン(PVDC)、塩化ポリエチレンには塩素が含有される。このため、プラスチック分解油中には塩素分、窒素分 など不純物が比較的多く残存しており、これを除去するために、一度プラスチック分解油を単独で前処理(水素化精製)することによって脱塩素を行い、その後石油留分と混合して石油精製工程にて処理することが提案されている。(特許文献3,4,5参照)
【0005】
プラスチック分解油を単独で前処理(水素化精製)するためには、新しい設備が必要であり、運転コストも高い。このため、前処理をせず、石油留分と混合して石油精製工程にて処理することが提案されている。(特許文献6参照)
【0006】
しかし、プラスチック分解油をそのままでは、実質的には水素化精製することができない。プラスチック分解油には不純物としてオレフィン分が多く含まれていることがある。オレフィン分は熱により重合し、処理装置に汚れが発生、触媒上にコーキングを起こし処理が困難となることがある。例えば、熱交換器においては、プラスチック分解油による汚れが内面に析出するために熱交換効率が悪化したり、触媒上にコーキングを起きるため通油が困難になり、所定の運転ができないことがある。
【0007】
また、石油精製工程において、プラスチック分解油を原油と混合して常圧蒸留装置に入れて処理することが考えられるが、以下の問題があり困難である。プラスチック分解油の各留分には塩素分、窒素分などの不純物が多く、これらの不純物は原油には含まれない。プラスチック分解油を原油と混合して常圧蒸留装置で分留すると、各留分には塩素分、窒素分などの不純物が含まれることとなる。しかし、常圧蒸留装置からの留分のうち、軽質ナフサなどの多くの留分はそのまま、精製処理を経ることなく製品としている。このため、製品に従来含まれない塩素分、窒素分などの不純物が含まれることになる。さらに、プラスチック分解油由来のナフサ、特には重質ナフサを水素化精製しようとすると、汚れ起因物質、例えばスチレン、αメチルスチレンなどが重合を起こし、汚れ、閉塞を発生させ、安定的な長期運転ができない。
【特許文献1】特開平09−235563号公報
【特許文献2】特開2002−60757号公報
【特許文献3】特開平11−061148号公報
【特許文献4】特開平09−048983号公報
【特許文献5】特表平08−508520号公報
【特許文献6】特開2005−105027号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明はこのようなプラスチック分解油の石油精製工程における処理における問題点を解決し、プラスチック分解油をガソリン基材原料や石油化学原料及び灯軽油となるナフサ留分及び灯軽油留分、重油基材として利用することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明によるプラスチック分解油処理方法は、プラスチックの分解によって生成するプラスチック分解油を原油由来成分と混合し、石油精製工程において処理するプラスチック分解油処理方法であって、前記原油由来成分の90%留出温度が、前記プラスチック分解油の90%留出温度以上である。前記原油由来成分の90%留出温度が、200℃以上であること、及び/又は、前記原油由来成分が残さ油であることが好ましい。
【0010】
前記プラスチック分解油の10%留出温度が200℃未満であること、及び/又は、前記プラスチック分解油の初留点が100℃未満であること、及び/又は、前記プラスチック分解油の90%留出温度が300℃を超え、600℃以下であることが好ましい。
【0011】
前記石油精製工程は、水素化精製、水素化分解及び接触分解の少なくとも一つの工程を含むことが好ましい。
【発明の効果】
【0012】
本発明は、特定の性状からなるプラスチック分解油を、特定の性状からなる原油由来成分と混合して、石油精製工程で処理するものであり、石油精製工程において、汚れ、コーキングなどの問題を生じることなく処理することが可能となり、特に、水素化精製処理により塩素分、窒素分など不純物を低減できる。したがって、不純物含有量の少ないプラスチック分解油を得ることができ、ガソリン基材原料や石油化学原料、灯軽油および重油基材として利用することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
〔プラスチック分解油〕
プラスチック分解油は、プラスチックの分解によって得られたものであり、蒸留性状は10%留出温度が200℃未満であることが好ましく、特には、180℃以下、更には150℃以下が好ましい。初留点は100℃以下、特には50℃以下であることが好ましい。90%留出温度が300℃〜600℃、特には、350℃を超える、更には400℃を超えることが好ましい。プラスチックの分解方法としては、熱分解、接触分解、加水分解、アルコリシスなどの解重合などの方法があるが、熱分解による分解油が好ましい。
【0014】
プラスチック分解油の性状としては、硫黄分が20000ppm以下、特には300ppm以下、窒素分が2000ppm以下、特には1500ppm以下、塩素分が1〜1000ppm、特には10〜100ppm、臭素価が1.5gBr/100g以上、特には10〜300gBr/100g、ジエン価が0.3g/100g以上、特には1〜5g/100gであることが好ましい。なお、不純物などがこの範囲を外れる場合には、吸着、ろ過、遠心分離などの除去処理により予めプラスチック分解油を処理して不純物を除去することもできる。また、残炭素分が0.01〜10重量%、特には0.1〜5重量%、アスファルテン分が0.05〜5重量%、特には0.1〜3重量%であることが好ましい。
【0015】
〔原油由来成分〕
原油由来成分の蒸留性状について、90%留出温度は、プラスチック分解油の90%留出温度以上、特には100℃以上、さらには200℃以上高いことが好ましい。また、90%留出温度は、
200℃以上、特には400℃以上が好ましい。特には残さ油(直留残さ油、減圧残さ油)であることが好ましい。原油由来成分の芳香族分は、10〜50%、特には20〜40%が好ましい。原油由来成分の90%留出温度がこの範囲であれば、原油由来成分中に多くの芳香族分を有し、溶解性が高いため、コーキングを抑制しながら処理できるため、好ましい。
【0016】
原油由来成分は、原油を原料として得られた炭化水素からなる成分であれば特に限定はなく、例えば、直留ナフサ、減圧ナフサ、熱分解ナフサ、直留灯油、減圧灯油、熱分解灯油、直留軽油、減圧軽油、熱分解軽油、直留残さ油、減圧残さ油などやこれらの任意な混合物が挙げられる。
【0017】
原油由来成分は、硫黄分が0.05〜10%、特には0.1〜5%、窒素分が10〜5000ppm、特には20〜2000ppmであることが好ましい。また、残炭素分が1〜30重量%、特には5〜25重量%、アスファルテン分が1〜10重量%、特には2〜5重量%であることが好ましい。
【0018】
プラスチック分解油の混合割合は、処理対象全体に対して50容量%以下、特には25容量%以下、さらには0.1〜20容量%が好ましい。この範囲を超える場合にはコーキング及び/又は腐食が予想され、処理が困難になることが予想される。
【0019】
〔石油精製工程〕
プラスチック分解油と原油由来成分を混合した混合原料油を処理する石油精製工程は、水素化精製、水素化分解および接触分解の少なくとも一つの工程を含むものであり、特に、水素化精製の工程が好ましい。これにより、原油由来成分の硫黄分、窒素分、金属分などが低減されるとともに、プラスチック分解油の窒素分、塩素分、金属分などが低減される。硫黄分が0.5〜5%、特には1%以上の石油留分をプラスチック分解油と混合して、水素化精製により硫黄分が1%以下、特には0.5%以下とするような精製工程が好ましい。
【0020】
水素化精製は処理油を水素の存在下で水素化精製触媒と接触させるものである。水素化精製触媒は、アルミナなどの無機多孔質担体にモリブデン、ニッケル、コバルト、リンのうち少なくとも一種を、特にモリブデンとニッケルまたはコバルトの少なくとも一方を担持した触媒が好ましく用いられる。好ましい反応条件は反応温度:250〜450℃、反応圧力:1〜25MPa、LHSV(液空間速度):0.1〜30h−1、H/Oil(水素/油比):20〜5000L/Lである。
【0021】
水素化精製の後に残さ油とナフサ留分、灯油留分、軽油留分、重質軽油留分などの留分に分けられ、そのまま、または、他の石油精製工程を経て、石化用ナフサ、ガソリン、灯油、軽油、重油などの製品または製品を構成する基材となる。特に、石化用ナフサ、ガソリン基材としては、硫黄分10ppm以下、特には2ppm以下、窒素分10ppm以下、特には2ppm以下、塩素分10ppm以下特には1ppm以下、全酸価0.01mgKOH/g以下、ジエン価0.2g/100g以下、特に0.1g/100g以下とすることができる。
【実施例】
【0022】
実施例で用いたプラスチック分解油及び原油由来成分の性状を表1にまとめる。プラスチック分解油は、容器包装プラスチック油化事業者協議会より入手した。原油由来成分1は中東系原油を常圧蒸留された残さ油及び原油由来成分2はその残さ油を減圧蒸留して得られた減圧残さ油成分である。
【0023】

【表1】

【0024】
表1の原油由来成分とプラスチック分解油を表2に示す割合で配合して混合原料油を用意した。この原料油を次の条件で水素化精製した。
【0025】

【表2】

【0026】
混合原料油は、上下方向長さ1160mm、内径19mmの固定床流通式反応器中に、上から順に、3φのアルミナボール約100mlと、60ml(49.2g)の水素化精製触媒(ART社製 HOP802)と、3φアルミナボール約25mlを充填した中に、水素と共に上端から導入した。反応条件は、温度:400℃、圧力12.0MPa、LHSV:0.4h−1、H/Oil:4800L/Lの条件下にて水素化精製を行った。用いたART社製HOP802は、アルミナを担体として金属としてモリブデンを8wt%、ニッケルを2.2wt%含有しているものである。
【0027】
反応器からの流出物を蒸留し、ナフサ留分、灯油留分、軽油留分、重質軽油留分の留分と残さ油とに分離する。
【産業上の利用可能性】
【0028】
本発明は、特定の性状からなるプラスチック分解油を、特定の性状からなる原油由来成分と混合して、石油精製工程で処理するものであり、石油精製工程において、汚れ、コーキングなどの問題を生じることなく処理することが可能となり、特に、水素化精製処理により塩素分、窒素分など不純物を低減できる。したがって、不純物含有量の少ないプラスチック分解油を得ることができ、ガソリン基材原料や石油化学原料、灯軽油および重油基材として利用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
プラスチックの分解によって生成するプラスチック分解油を原油由来成分と混合し、石油精製工程において処理するプラスチック分解油処理方法であって、
前記原油由来成分の90%留出温度が、前記プラスチック分解油の90%留出温度以上であるプラスチック分解油処理方法。
【請求項2】
前記原油由来成分の90%留出温度が、200℃以上である請求項1に記載のプラスチック分解油処理方法。
【請求項3】
前記原油由来成分が残さ油である請求項1又は2に記載のプラスチック分解油処理方法。
【請求項4】
前記プラスチック分解油の10%留出温度が200℃未満である請求項1〜3のいずれかに記載のプラスチック分解油処理方法。
【請求項5】
前記プラスチック分解油は、初留点が100℃未満である請求項1〜4のいずれかに記載のプラスチック分解油処理方法。
【請求項6】
前記プラスチック分解油の90%留出温度が300℃を超え、600℃以下である請求項1〜5のいずれかに記載のプラスチック分解油処理方法。
【請求項7】
前記石油精製工程は、水素化精製、水素化分解及び接触分解の少なくとも一つの工程を含むことを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載のプラスチック分解油処理方法。

【公開番号】特開2007−119648(P2007−119648A)
【公開日】平成19年5月17日(2007.5.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−315547(P2005−315547)
【出願日】平成17年10月31日(2005.10.31)
【出願人】(304003860)株式会社ジャパンエナジー (344)
【Fターム(参考)】