説明

プラズマエッチング用シリコン電極板

【課題】 プラズマエッチングによって生じる表面の凹凸を抑制し、均一なエッチングが可能になるプラズマエッチング用シリコン電極板を提供すること。
【解決手段】 プラズマエッチング用シリコン電極板が、BとAlとがドーパントとして添加された単結晶シリコンで構成され、Alの濃度が、1×1013atoms/cm以上である。このプラズマエッチング用シリコン電極板では、単結晶シリコンの電気特性が面内で均一化され、プラズマエッチングにおいて表面が消耗する際に凹凸を極めて少なくすることができると共に、割れを抑制することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、プラズマエッチングの面内均一性が向上するプラズマエッチング用シリコン電極板に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、半導体集積回路を製造する工程において使用するシリコンウエハをエッチングするためのプラズマエッチング装置は、図1に示すように、真空容器1内にシリコン電極板2および架台3が間隔をおいて設けられている。このプラズマエッチング装置では、架台3の上にシリコンウエハ4を載置し、エッチングガス7をシリコン電極板2に設けられた貫通細孔5を通してシリコンウエハ4に向って流しながら高周波電源6により電極板2と架台3との間に高周波電圧を印加し、高周波電圧の印加によりシリコン電極板2と架台3との間の空間にプラズマ10を発生させ、このプラズマ10による物理反応と、シリコン−エッチングガス7による化学反応とにより、シリコンウエハ4の表面をエッチングする(特許文献1参照)。
【0003】
従来、シリコン電極板2はカーボンで構成された電極板が使用されたこともあったが、近年、主として単結晶シリコン、多結晶シリコンまたは柱状晶シリコンからなるシリコン電極板が使用されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2003−51491号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記従来の技術には、以下の課題が残されている。
従来のシリコン電極板では、プラズマエッチング時に対向する被エッチング物との間に生じたプラズマによって表面が徐々に消耗して凹凸が生じ、この凹凸によって異常放電が生じるおそれがあった。異常放電が生じると、エッチングの均一性が悪化してしまうという不都合がある。
このようなプラズマエッチングによる表面の凹凸は、平面内において比抵抗値にバラツキが存在しているため、対向する被エッチング物との間のプラズマ密度が不均一になって生じると考えられる。したがって、表面の凹凸を抑えるためには、比抵抗値の面内バラツキを抑える必要があるが、ドーパント含有量に面内差があるため、比抵抗値の面内バラツキを抑えることは困難であった。特に、高比抵抗値では、ドーパント含有量の面内差が大きく影響するため、比抵抗値の面内バラツキを抑えることが難しい。このように従来では、被エッチング物との間のプラズマ密度を均一に保持することが困難なため、被エッチング物であるウエハ面内のエッチングレートを均一化させることが難しいという問題があった。
【0006】
本発明は、前述の課題に鑑みてなされたもので、プラズマエッチングによって生じる表面の凹凸を抑制し、均一なエッチングが可能になるプラズマエッチング用シリコン電極板を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者等は、比抵抗値の面内均一性が良好でプラズマエッチングに際してエッチングレートの面内均一性が向上するシリコン電極板を得るべく研究を行った。その結果、シリコン中にBと共にAlをドーピングすることで、プラズマエッチングにおいて表面における凹凸の発生を抑制可能なことを見出した。
【0008】
したがって、本発明は、上記知見から得られたものであり、前記課題を解決するために以下の構成を採用した。すなわち、本発明のプラズマエッチング用シリコン電極板は、BとAlとがドーパントとして添加された単結晶シリコンで構成され、Alの濃度が、1×1013atoms/cm以上であることを特徴とする。
【0009】
このプラズマエッチング用シリコン電極板では、B(ボロン)とAlとがドーパントとして添加された単結晶シリコンで構成されているので、単結晶シリコンの電気特性が面内で均一化され、プラズマエッチングにおいて表面が消耗する際に凹凸を極めて少なくすることができる。これは、Bに比べて拡散係数の大きいAlが添加されると、BよりもAlが拡散し易く、比抵抗値の面内均一性が向上するためである。このように比抵抗値の面内均一性が向上したことにより、被エッチング物との間のプラズマ密度が均一化して、表面の消耗状態も均一化されて凹凸がほとんど生じないことから、異常放電の発生を抑制してエッチングの均一化を図ることができる。また、添加されるAlの共有結合半径が、Siとほぼ同等であることから、不純物添加による格子歪みが生じ難く、内在する歪みを抑制でき、割れを防止できる。
なお、添加するAlの濃度を上記下限値以上に設定した理由は、1×1013atoms/cm未満であると、上述した比抵抗値の面内均一性の効果が明確に現れないためである。
【0010】
また、本発明のプラズマエッチング用シリコン電極板は、Alの濃度が、5×1013atoms/cm以下であることが好ましい。
すなわち、このプラズマエッチング用シリコン電極板では、Alの濃度が、5×1013atoms/cm以下であるので、単結晶化率の低下を抑制することができる。添加するAlの濃度を上記上限値以下に設定した理由は、5×1013atoms/cmを超えるとSi単結晶化の阻害要因となり単結晶化率(インゴット中の単結晶部の割合)が小さくなってしまい、製造歩留まりが低下するためである。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、以下の効果を奏する。
すなわち、本発明に係るプラズマエッチング用シリコン電極板によれば、BとAlとがドーパントとして添加された単結晶シリコンで構成されているので、単結晶シリコンの電気特性が面内で均一化され、プラズマエッチングによって生じる表面の凹凸を極めて少なくすることができると共に、内在歪みを抑えることができる。したがって、本発明のプラズマエッチング用シリコン電極板をプラズマエッチング装置に採用することによって、異常放電を抑制することができ、面内均一性の高いプラズマエッチングが可能になると共に、割れや欠けの発生を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明に係るプラズマエッチング用シリコン電極板の一実施形態および従来例を用いたプラズマエッチング装置の断面説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明に係るプラズマエッチング用シリコン電極板の一実施形態を、その製造方法と共に説明する。
【0014】
本実施形態のプラズマエッチング用シリコン電極板12は、例えば図1に示されるように、複数の貫通細孔5が形成され、プラズマエッチング装置の真空容器1内の架台3上に載置されたシリコンウエハ4の上方に対向状態で配される。
このプラズマエッチング装置では、貫通細孔5を通してエッチングガス7をシリコンウエハ4に向って流しながら高周波電源6によりシリコン電極板12と架台3との間に高周波電圧を印加し、高周波電圧の印加によりシリコン電極板12と架台3との間の空間にプラズマ10を発生させ、このプラズマ10による物理反応と、シリコン−エッチングガス7による化学反応とにより、シリコンウエハ4の表面をエッチングする。
【0015】
本実施形態のプラズマエッチング用シリコン電極板12は、B(ボロン)とAlとがドーパントとして添加された単結晶シリコンで構成され、Alの濃度が、1×1013atoms/cm以上に設定されている。また、Alの濃度は、5×1013atoms/cm以下とされることが好ましい。
【0016】
この本実施形態のプラズマエッチング用シリコン電極板12の製造方法について以下に具体的に説明する。
まず、石英ルツボ中でSiを溶解させるが、この際にBと共にAlを上記の所定濃度となるように添加する。なお、Alの添加量は微量であるため、Si中にAlを高濃度(1×1016〜1×1017atoms/cm程度)で含有した多結晶Si塊を予め作製し、この多結晶Si塊を破砕してAl含有多結晶Si粉末とし、該Al含有多結晶Si粉末を必要なAl濃度となるように秤量して石英ルツボ中のSiに添加する。
【0017】
次に、例えば上記石英ルツボから得た直径:300mmの単結晶シリコンインゴットを用意し、このインゴットをダイヤモンドバンドソーにより厚さ:4mmに輪切り切断して円盤状の単結晶シリコン基板を作製する。上記単結晶シリコンインゴットは、B(ボロン)が1×1014〜5×1014atoms/cmのドーパント濃度で添加されていると共に、Alが1×1013〜5×1013atoms/cmのドーパント濃度で添加されて結晶成長されたものである。なお、全体としてp型となるようにBとAlとのドーパント濃度が調整されている。この単結晶シリコン基板は、所定のB濃度を有するシリコン基板をAlと接触させて加熱し、Alを熱拡散させることによって得てもよい。
【0018】
さらに、この単結晶シリコン基板の上下面を平面研削し、反りを除去して厚みを整えた後、取付穴および貫通細孔5を加工する。例えば、内径:0.5mmの貫通細孔5を孔間ピッチ:8mmで形成する。この後、さらに平面研削を施して製品の所定厚みとする。
【0019】
このように作製した本実施形態のプラズマエッチング用シリコン電極板12では、B(ボロン)とAlとがドーパントとして添加された単結晶シリコンで構成されているので、単結晶シリコンの電気特性が面内で均一化され、プラズマエッチングにおいて表面が消耗する際に凹凸を極めて少なくすることができる。これは、Bに比べて拡散係数の大きいAlが添加されると、BよりもAlが拡散し易く、比抵抗値の面内均一性が向上するためである。
【0020】
このように比抵抗値の面内均一性が向上したことにより、被エッチング物(シリコンウエハ4)との間のプラズマ密度が均一化して、表面の消耗状態も均一化されて凹凸がほとんど生じないことから、異常放電の発生を抑制してエッチングの均一化を図ることができる。また、添加されるAlの共有結合半径が、Siとほぼ同等であることから、不純物添加による格子歪みが生じ難く、内在する歪みを抑制でき、割れを防止できる。
また、Alの濃度が、1×1013〜5×1013atoms/cmであるので、良好な比抵抗値の面内均一性が得られると共に、単結晶化率が小さくなり、製造歩留まりが低下するのを抑制することができる。
【実施例】
【0021】
次に、上記本実施形態に基づいて作製したシリコン電極板の実施例について評価した結果を説明する。
【0022】
本発明のシリコン電極板の実施例は、表1に示すように、Alの添加量を変えて作製し、比抵抗値の面内分布と、加工中の割れ枚数(100枚中の割れ枚数)と、Si単結晶化率とについてそれぞれ調べた。これらの結果を表1に示す。また、比較例として、Alが1×1013atoms/cmよりも少なく添加されたシリコン電極板も作製して同様に評価した結果も表1に併せて示す。なお、いずれの実施例および比較例も、Bの添加量を2×1014atoms/cmとした。
【0023】
【表1】

【0024】
この評価結果から判るように、比較例に対して本発明の実施例はいずれも比抵抗値の面内分布の数値が半分程度に小さくなっている。また、加工中の割れ数においても、比較例に対して本実施例はいずれも大幅に低減されている。なお、Alの添加量(Al濃度)が5×1013atoms/cmを超えて多い実施例4では、比較例や他の実施例よりもSi単結晶化率が低下しているが、5×1013atoms/cm以下の実施例1〜3については、93%以上の高いSi単結晶化率が得られている。
このように本実施例のシリコン電極板では、比抵抗値の高い面内均一性を有していると共に、加工中の割れを少なく抑えることができる。
【0025】
なお、本発明の技術範囲は上記実施形態および上記実施例に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の変更を加えることが可能である。
【符号の説明】
【0026】
1…真空容器、2,12…シリコン電極板、3…架台、4…シリコンウエハ、5…貫通細孔、6…高周波電源、7…プラズマエッチングガス、10…ブラズマ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
BとAlとがドーパントとして添加された単結晶シリコンで構成され、
Alの濃度が、1×1013atoms/cm以上であることを特徴とするプラズマエッチング用シリコン電極板。
【請求項2】
請求項1に記載のプラズマエッチング用シリコン電極板において、
Alの濃度が、5×1013atoms/cm以下であることを特徴とするプラズマエッチング用シリコン電極板。

【図1】
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【公開番号】特開2012−160570(P2012−160570A)
【公開日】平成24年8月23日(2012.8.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−19180(P2011−19180)
【出願日】平成23年1月31日(2011.1.31)
【出願人】(000006264)三菱マテリアル株式会社 (4,417)
【Fターム(参考)】