説明

プラズマディスプレイパネル用蛍光体ペーストおよびプラズマディスプレイパネル

【課題】高精細度なパターニングを迅速に行うことが可能なプラズマディスプレイパネル用蛍光体ペーストおよびプラズマディスプレイパネルを提供する。
【解決手段】本発明に係るプラズマディスプレイパネル用蛍光体ペーストは、有機溶媒に溶解されたアクリル樹脂またはメタクリル樹脂と、アクリル樹脂またはメタクリル樹脂に添加される蛍光体と、を含み、せん断速度4000sec−1におけるプラズマディスプレイパネル用蛍光体ペーストの第1法線応力差をNFとし、温度23℃およびせん断速度4000sec−1における粘度をηとした場合に、NFをηで除した値Y=NF/ηが4000以下とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プラズマディスプレイパネル用蛍光体ペーストおよびプラズマディスプレイパネルに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、プラズマディスプレイの製造に用いられる蛍光体ペーストのパターニング方法として、スクリーン印刷法やディスペンサーによる自動塗布法等が利用されており、ディスプレイの高精細化や生産性の問題から、ディスペンサーによる蛍光体のパターニングが検討されている。従来、蛍光体に用いられるバインダー(樹脂)としては、エチルセルロース(EC)が一般的に用いられてきた。他方、バインダー樹脂としてECを用いた場合、その焼失温度が500℃程度と高温なため、蛍光体の劣化による輝度の低下が指摘されている。
【0003】
かかる問題を解決するために、バインダー樹脂を焼失させるための焼失温度を400℃程度まで下げることが可能なアクリル樹脂を使用した蛍光体ペーストが、提案されている(例えば、特許文献1および2を参照。)。
【0004】
【特許文献1】特開2006−124550号公報
【特許文献2】特開2001−329256号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記特許文献1および2における蛍光体ペーストでは、蛍光体ペーストを吐出する際に発生するダイスウェル効果について着目しておらず、かかる蛍光体ペーストを利用して、高精細度なパターニングを迅速に行うことができないという問題があった。
【0006】
そこで、本発明は、このような問題に鑑みてなされたもので、その目的は、高精細度なパターニングを迅速に行うことが可能な、新規かつ改良されたプラズマディスプレイパネル用蛍光体ペーストおよびプラズマディスプレイパネルを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明のある観点によれば、プラズマディスプレイパネル用蛍光体ペーストであって、有機溶媒に溶解したアクリル樹脂またはメタクリル樹脂と、前記アクリル樹脂または前記メタクリル樹脂に添加される蛍光体と、を含み、せん断速度4000sec−1における前記プラズマディスプレイパネル用蛍光体ペーストの第1法線応力差をNFとし、温度23℃およびせん断速度4000sec−1における粘度をηとした場合に、NFをηで除した値Y=NF/ηが4000以下であるプラズマディスプレイパネル用蛍光体ペーストが提供される。
【0008】
NFをηで除した値Y=NF/ηが4000以下である蛍光体ペーストでは、アクリル樹脂またはメタクリル樹脂に発生する第1法線応力差NFが抑制されるため、蛍光体ペースト吐出時のダイスウェル効果を抑制することができ、高精細度なパターニングを迅速に行うことが可能となる。
【0009】
前記アクリル樹脂または前記メタクリル樹脂として、410℃における焼失率が99%以上である樹脂を使用することが可能である。
【0010】
細孔ノズル径がdであるディスペンサーから前記プラズマディスプレイパネル用蛍光体ペーストを吐出した際の当該プラズマディスプレイパネル用蛍光体ペーストの吐出径をdとした場合に、前記吐出径dと前記細孔ノズル径dとの比d/dが1.4以下であってもよい。
【0011】
上記課題を解決するために、本発明の別の観点によれば、互いに対向して配置される第1の基板および第2の基板と、前記第1の基板上に形成される第1誘電体層と、前記第2の基板上に形成される第2誘電体層と、前記第1誘電体層の内部に、第1の方向に沿って設けられる第1の電極と、前記第2誘電体層の内部に、前記第1の方向に対して直交する第2の方向に沿って設けられる第2の電極と、前記第1誘電体層と前記第2誘電体層との間に設けられ、複数の放電空間を区画する隔壁と、前記放電空間内に形成される蛍光体層と、を備え、前記蛍光体層が上述のプラズマディスプレイパネル用蛍光体ペーストを用いて、ディスペンサーにより形成されるプラズマディスプレイパネルが提供される。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、アクリル樹脂またはメタクリル樹脂に発生する第1法線応力差NFが抑制されるため、蛍光体ペースト吐出時のダイスウェル効果を抑制することができ、高精細度なパターニングを迅速に行うことが可能となる。これにより、高精細度なプラズマディスプレイパネルの製造に要する時間を削減することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施の形態について詳細に説明する。なお、本明細書及び図面において、実質的に同一の機能構成を有する構成要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略する。
【0014】
本願発明者らは、上記課題を解決するために、まず、プラズマディスプレイパネル(以下、PDPとも称する。)の製造に用いられる蛍光体ペーストについて、鋭意研究を行った。その結果、以下のような知見に想到した。以下では、まず図1〜図3を参照しながら、本願発明者らが想到した知見について、詳細に説明する。図1は、プラズマディスプレイパネルの蛍光体層の形成に用いられるディスペンサーを説明するための説明図である。図2および図3は、蛍光体ペーストの吐出時に発生するダイスウェル効果を説明するための説明図である。
【0015】
プラズマディスプレイパネルの放電空間中に形成される蛍光体層は、例えば図1に示したような、複数の細孔ノズル3を有するディスペンサー1を用いて、所定の蛍光体を含む蛍光体ペーストをパターニングすることで形成される。ここで、ディスペンサーとは、液体定量吐出装置を意味し、液体を精度良く定量供給することが可能な装置である。ディスペンサー1の各細孔ノズル3のノズル径dと、相隣接するノズル間の距離(ノズルのピッチ)dとは、製造するプラズマディスプレイパネルの精細度に応じて決定される。
【0016】
例えば、FHD(Full High Definition)と呼ばれる規格のプラズマディスプレイは、1920×1080ピクセルのパネルにより構成され、各ピクセルはR(赤),G(緑),B(青)を表示する3種のサブピクセルから構成されている。たとえば50インチディスプレイの場合には、同じ色を発色するサブピクセル間の距離は、0.576mmであり、各サブピクセルの幅は0.576/3=0.192mm=192μmとなる。各サブピクセル間には、20〜50μm程度の隔壁が存在するため、その空間の幅は150μm程度となる。このようなプラズマディスプレイパネルを製造するためには、図1に示したディスペンサーのノズル径dを100μm以下にし、各色の相隣接するノズル間の距離dを0.576mmと設定したうえで、1サブピクセルの大きさが150μm程度であり、相隣接するピクセル間の距離が0.576/3=0.192mm=192μm程度である放電空間に対して、精度良く蛍光体ペーストを吐出することが必要となる。
【0017】
ここで、ある流体をノズルから吐出する場合に、流体の平均流速を<v>、ノズルの流路幅をLとすると、ノズル内で発生する平均せん断速度γは、以下の式1で与えられる。
【0018】
【数1】

【0019】
上述のように、高精細パネルに蛍光体ペーストをパターニングするためには、ノズル径dを100μm以下とすることが好ましいが、仮にノズル径dを75μm、平均流速を100mmsec−1とすると、式1から得られる平均せん断速度γは、2700sec−1となる。ここで、平均流速は、ノズルから吐出される流体の速度であり、ノズルの走査速度、ひいては、蛍光体ペーストのパターニングに要する時間を決定するパラメータである。実際の製造工程では、ノズルの平均流速として100mmsec−1程度を担保しなければ、蛍光体ペーストの迅速なパターニングを実行することは困難となる。
【0020】
このように、ディスペンサーの細孔ノズル(通常1mmφ以下、好ましくは0.1mmφ以下)からペーストが吐出される際には、数千〜数万sec−1という高せん断速度が発生している。
【0021】
他方、蛍光体ペーストのバインダー樹脂としてアクリル樹脂やメタクリル樹脂のような粘弾性体を用いた場合には、例えば図2に示したように、ペーストがノズル3から吐出される際に、吐出口の径dに対して蛍光体ペースト5の吐出径dが大きく広がる(すなわち、d>dとなる)ダイスウェル効果が顕著となり、良好な吐出ができない。
【0022】
このダイスウェル効果の発生要因は、以下のように説明することができる。すなわち、粘弾性体が細孔ノズルから吐出される際には、吐出方向(すなわち、粘弾性体の流れ方向)にせん断応力7が働く。更に、粘弾性体では、せん断応力7に対して直交する方向に第1法線応力差(NF)9と呼ばれる力が働く。この第1法線応力差NFが大きい場合には、細孔ノズル3の出口で第1法線応力差NFによって発生した圧力が開放されるため、粘弾性体が第1法線応力差NFに対して平行な方向に押し広げられる。その結果、粘弾性体の吐出径dは細孔ノズル3のノズル径dよりも大きくなり、ダイスウェル効果が発生する。
【0023】
また、第1法線応力差9は、抵抗成分として働くため、粘弾性体の吐出速度が遅くなり、粘弾性体の迅速なパターニングができないという問題が発生する。
【0024】
したがって、アクリル樹脂やメタクリル樹脂のような粘弾性体を蛍光体ペーストのバインダーとして使用した場合には、蛍光体ペーストが吐出される際に、吐出口の径に対してペーストの吐出径が大きく広がるダイスウェル効果が顕著となり、良好な吐出が困難となる。
【0025】
このような知見を踏まえたうえで、上述の各特許文献について検討する。上述の知見で説明したように、せん断速度10〜200sec−1でのレオロジー特性は、実際のディスペンシングの際に発生しているせん断速度とは大きく異なり、ディスペンシングによるパターニングの可否とは関連性がないことがわかった。そのため、上記特許文献1では、せん断速度10sec−1での粘度が0.5Pa・s〜50Pa・s(500cP〜50000cP)の蛍光体ペーストはディスペンサーにて塗布可能であるとしているが、前述のように、ディスペンシング性で問題となるせん断速度は、数千〜数万sec−1の高せん断速度であって、せん断速度10sec−1の粘度には関連性はないことがわかる。
【0026】
また、上記特許文献2では、重量平均分子量が30万〜500万のアクリル樹脂をバインダーとして用いた蛍光体ペーストはディスペンサーにて塗布可能であるとしているが、アクリル樹脂の分子量は静置状態でのペースト粘度に影響するのであって、吐出時の大きな応力に対する挙動とはなんら関連性がないことがわかった。
【0027】
他方、近年では、蛍光体ペーストのバインダーとして、溶媒に溶解しないアクリルビーズを用いる試みがなされているが、不溶のビーズ状バインダーでは蛍光体の分散性・安定性に問題が生じる可能性がある。
【0028】
上述のような知見を元に、本願発明者らが鋭意研究を行った結果、ディスペンシングによるパターニングに適正のある蛍光体ペーストに関連するレオロジーパラメータとして、第1法線応力差NFに着目し、以下で説明するような発明に想到した。
【0029】
(第1の実施形態)
<本実施形態に係るPDP用蛍光体ペーストについて>
本発明の第1の実施形態に係るPDP用蛍光体ペーストは、有機溶媒に溶解したアクリル樹脂またはメタクリル樹脂と、アクリル樹脂またはメタクリル樹脂に添加される蛍光体と、を主に含む。
【0030】
(アクリル樹脂またはメタクリル樹脂について)
ここで、上記のアクリル樹脂またはメタクリル樹脂は、後述する蛍光体のバインダーとして用いられる樹脂である。アクリル樹脂またはメタクリル樹脂を用いることで、PDPに形成される蛍光体層が、基板に対して優れた接着性と形状の均一性とを有するものとなる。
【0031】
このようなアクリル樹脂またはメタクリル樹脂は、例えば以下に示すような単量体(モノマー)を、重合または共重合することで得ることが可能である。
【0032】
本実施形態に係るアクリル樹脂またはメタクリル樹脂の単量体として、例えば、アルキル(メタ)アクリレート、ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート、フェノキシアルキル(メタ)アクリレート、アルコキシアルキル(メタ)アクリレート、ポリアルキレングリコール(メタ)アクリレート、シクロアルキル(メタ)アクリレート、グリシジル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、テトラヒドロフルリル(メタ)アクリレート等を挙げることが可能である。なお、(メタ)アクリレートという表記は、アクリレートおよびメタクリレートの2つを意味するものであり、例えば、アルキル(メタ)アクリレートとは、アルキルアクリレートと、アルキルメタクリレートの2種類を意味する。
【0033】
アルキル(メタ)アクリレートの具体例としては、例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n−プロピル(メタ)アクリレート、i−プロピル(メタ)アクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレート、i−ブチル(メタ)アクリレート、t−ブチル(メタ)アクリレート、n−ペンチル(メタ)アクリレート、i−ペンチル(メタ)アクリレート、n−ヘキシル(メタ)アクリレート、n−ヘプチル(メタ)アクリレート、n−オクチル(メタ)アクリレート、i−オクチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、n−ノニル(メタ)アクリレート、n−デシル(メタ)アクリレート、i−デシル(メタ)アクリレート、ウンデシル(メタ)アクリレート、ドデシル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、i−ステアリル(メタ)アクリレート等を挙げることができる。
【0034】
ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートの具体例としては、例えば、ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、4−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、3−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、3−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート等を挙げることができる。
【0035】
フェノキシアルキル(メタ)アクリレートの具体例としては、例えば、フェノキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシ−3−フェノキシプロピル(メタ)アクリレート等を挙げることができる。
【0036】
アルコキシアルキル(メタ)アクリレートの具体例としては、例えば、2−メトキシエチル(メタ)アクリレート、2−エトキシエチル(メタ)アクリレート、2−プロポキシエチル(メタ)アクリレート、2−ブトキシエチル(メタ)アクリレート、2−メトキシブチル(メタ)アクリレート等を挙げることができる。
【0037】
ポリアルキレングリコール(メタ)アクリレートの具体例としては、例えば、ポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、エトキシジエチレングリコール(メタ)アクリレート、メトキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、フェノキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、ノニルフェノキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールモノ(メタ)アクリレート、メトキシポリプロピレングリコール(メタ)アクリレート、エトキシポリプロピレングリコール(メタ)アクリレート、ノニルフェノキシポリプロピレングリコール(メタ)アクリレート等を挙げることができる。
【0038】
シクロアルキル(メタ)アクリレートの具体例としては、例えば、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、4−ブチルシクロヘキシル(メタ)アクリレート、ジシクロペンタニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンテニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンタジエニル(メタ)アクリレート、ボルニル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、トリシクロデカニル(メタ)アクリレート等を挙げることができる。
【0039】
なお、上記のアクリル樹脂またはメタクリル樹脂の具体例は、あくまでも本実施形態に係るアクリル樹脂またはメタクリル樹脂の一例であって、本実施形態に係るアクリル樹脂またはメタクリル樹脂が上記の化合物に限定されるわけではない。
【0040】
また、本実施形態に係るアクリル樹脂またはメタクリル樹脂として、1種類のアクリル樹脂またはメタクリル樹脂のみを用いてもよく、2種類以上のアクリル樹脂またはメタクリル樹脂を組み合わせて使用してもよい。
【0041】
また、本実施形態に係るアクリル樹脂またはメタクリル樹脂は、410℃での焼失率が99%以上であることが好ましい。ここで、焼失とは、空気中にて所定の温度で加熱したときに樹脂が解重合等によって分解、消失することであり、消失率は、分解消失した樹脂質量/初期の樹脂質量で表される。410度での焼失率が99%以上であるアクリル樹脂またはメタクリル樹脂を使用することで、本実施形態に係る蛍光体ペーストを焼成する際に、焼成温度を低く設定することが可能となり、焼成に起因する蛍光体の熱劣化を防ぐことができる。
【0042】
なお、上述の410℃における焼失率は、例えば、示差熱−熱重量同時測定(ThermoGravimetry/Differential ThermalAnalysis:TG/DTA)が可能な熱分析計等を用いて測定する。
【0043】
(有機溶媒について)
本実施形態に係る蛍光体ペーストに用いられる有機溶媒は、上記アクリル樹脂またはメタクリル樹脂を溶解する溶液であれば任意のものを使用することが可能である。このような有機溶媒の具体例として、例えば、ターピネオール(terpineol)、γ−ブチロラクトン(γ−BL)、ブチルカルビトールアセテート(Butyl Carbitol Acetate:BCA)、酢酸エチル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、ベンジルアルコール、トルエン、3−メトキシ−3−メチルブタノール等から選択される1または2以上の溶媒を用いることが可能である。
【0044】
(蛍光体について)
上記アクリル樹脂またはメタクリル樹脂には、赤色蛍光体、緑色蛍光体または青色蛍光体のいずれかが蛍光体として添加される。
【0045】
赤色蛍光体は、所定の励起光(例えば、放電ガスとして利用されるキセノンガスの共鳴線147nmや、分子線173nm)により励起され、約600nm〜約800nmの波長を有する光を発光する蛍光体である。このような赤色蛍光体の一例として、例えば、YVO:Eu、YSiO:Eu、YAl12:Eu、Zn(PO:Mn、GdBO、ScBO:Eu、LuBO:Eu、Y(P,V)O:Eu、YBO:Eu、(Y,Gd)BO:Eu(YGBとも称する。)、Y:Eu、(Y,Gd):Eu、LaS:Eu等を挙げることができる。
【0046】
緑色蛍光体は、所定の励起光(例えば、放電ガスとして利用されるキセノンガスの共鳴線147nmや、分子線173nm)により励起され、約490nm〜約550nmの波長を有する光を発光する蛍光体である。このような緑色蛍光体の一例として、例えば、Y(Al,Ga)12:Ce、BaMgAl1017:Mn、BaMgAl1424:Mn、BaMgAl1422:Mn、BaMgAl1017:Eu,Mn、SrAl1219:Mn、ZnAl1219:Mn、CaAl1219:Mn、YBO:Tb、LuBO:Tb、GdBO:Tb、ScBO:Tb、LaPO:Ce,Tb、SrSiCl:Eu、ZnSiO:Mn、BaAl1219:Mn、CaScSi12:Ce、SrGa:Eu等を挙げることができる。
【0047】
青色蛍光体は、所定の励起光(例えば、放電ガスとして利用されるキセノンガスの共鳴線147nmや、分子線173nm)により励起され、約430nm〜約490nmの波長を有する光を発光する蛍光体である。このような青色蛍光体の一例として、例えば、BaMgAl:Eu(x、yは1〜50の自然数、例えば、BaMgAl1017:Eu等)、CaWO:Pb、CaWO:W、Sr(PO:Eu、Ba(PO:Eu、YSiO:Ce、SrMg(SiO:Eu、BaMgAl1424:Eu、SrCl(PO:Eu、YSi:Ce、CaMgSi:Eu等を挙げることができる。
【0048】
なお、上述の蛍光体は、あくまでも一例であって、本実施形態に係るPDP用蛍光体ペーストに使用される蛍光体は、上述の例に限定されるわけではない。
【0049】
本実施形態に係るPDP用蛍光体ペーストを製造する方法は、特に制限されるわけではないが、例えば、以下のような方法で製造することが可能である。まず、上述の有機溶媒に、アクリル樹脂またはメタクリル樹脂を5質量%〜25質量%程度加えて加熱溶解してビヒクルを調整する。次に、調整したビヒクルに対して所定の蛍光体を25質量%〜50質量%程度添加して、ボールミル、サンドミル、3本ロールミル等で分散・攪拌させる。このような工程を経ることで、本実施形態に係るPDP用蛍光体ペーストを製造することが可能である。
【0050】
(本実施形態に係るPDP用蛍光体ペーストのレオロジーパラメータについて)
本実施形態に係るPDP用蛍光体ペーストは、せん断速度4000sec−1における第1法線応力差NFと、温度23℃およびせん断速度4000sec−1における粘度ηという、2種類のレオロジーパラメータについて着目する。
【0051】
せん断速度4000sec−1という値は、上記式1から明らかなように、50インチのFHD−PDPを製造するために用いられる細孔ノズル径である75μmにおいて、150mm/secという高速なノズル走査速度を実現可能な値である。また、せん断速度4000sec−1という値は、細孔ノズル径が50μmという、高精細度のPDPを製造可能な微細なノズルにおいて、ノズル走査速度100mm/secを実現可能な値である。
【0052】
本実施形態に係るPDP用蛍光体ペーストでは、以下の式2に示したように、せん断速度4000sec−1における第1法線応力差NF[Pa]を、温度23℃およびせん断速度4000sec−1における粘度η[Pa・s]で除した値Y(=NF/η)が4000以下となる。
【0053】
【数2】

【0054】
ここで、上記式2中のせん断速度4000sec−1における第1法線応力差NFと、温度23℃およびせん断速度4000sec−1における粘度ηとは、例えば、せん断速度を4000sec−1に設定したレオメータ等を利用して測定する。
【0055】
細孔ノズル径がdであるディスペンサーからPDP用蛍光体ペーストを吐出した際の吐出径をdとした場合に、本実施形態に係るPDP用蛍光体ペーストは、上記式2の条件を満たすことで、吐出径dと細孔ノズル径dとの比d/d(以下、この比を、Swell比とも称する。)が1.4以下となり、ディスペンサーによる蛍光体ペーストの塗布が可能となる。
【0056】
<本実施形態に係るプラズマディスプレイパネルの構成について>
次に、図4〜図6を参照しながら、本発明の第1の実施形態に係るプラズマディスプレイパネル(以下、PDPと略記する。)について、詳細に説明する。図4は、本実施形態に係るプラズマディスプレイパネルを説明するための部分平面図である。また、図5は、本実施形態に係るプラズマディスプレイパネルを図4のA−A切断線で切断した拡大断面図であり、図6は、本実施形態に係るプラズマディスプレイパネルを図4のB−B切断線で切断した拡大断面図である。なお、以下では、各図中に示した座標軸を用いながら、説明することとする。
【0057】
図4は、本実施形態に係るPDP10を、第2の基板である前面基板107の上方から見下ろした場合の部分平面図である。PDP10は、略格子形状の隔壁115によって、複数の放電空間117に区画される。これらの放電空間117は、図4のx軸方向およびy軸方向に沿って、配列している。また、隔壁115の上側(図4のz軸正方向側)には、第2の電極であるバス電極109および透明電極111と、第2誘電体層113とが設けられる。ここで、バス電極109は、図4のx軸方向に沿って設けられている。
【0058】
隔壁115の下側(図4のz軸負方向側)には、第1の電極であるアドレス電極103と、第1誘電体層105とが設けられ、これらの更に下方には、第1の基板である背面基板101が設けられる。ここで、アドレス電極103は、図4のy軸方向に沿って設けられている。
【0059】
なお、図4に示したように、本実施形態に係るPDP10では、放電空間117の形状が略直方体である場合を用いて詳細な説明するが、放電空間117の形状は略直方体に限定されるわけではなく、立方体でもよく、また、球形、楕円形状、または多面体形状であってもよい。
【0060】
図5は、PDP10を図4のA−A切断線で切断した場合における拡大断面図である。図5から明らかなように、PDP10は、例えば、背面基板101と、アドレス電極103と、第1誘電体層105と、前面基板107と、バス電極109と、透明電極111と、第2誘電体層113と、隔壁115と、を主に備える。
【0061】
第1の基板である背面基板101と、第2の基板である前面基板107とは、所定の大きさを有する基板であり、例えばソーダライムガラス等のガラスを材料として用いることが可能である。背面基板101および前面基板107の大きさは、本実施形態に係るPDP10を備えるプラズマディスプレイの画面の大きさに応じて、変更することが可能である。この背面基板101および前面基板107の表面に、例えばSiOなどの物質をコーティングしておき、背面基板101および前面基板107の絶縁性を担保するようにしてもよい。背面基板101や前面基板107の厚みを薄くすることで、PDP10の薄型化を図ることが可能であり、製造するPDPの厚みに応じて、これらの基板の厚みを変更することが可能である。これらの背面基板101と前面基板107とは、所定の空間を介して互いに対向するように設けられる。
【0062】
第1の電極であるアドレス電極103は、後述するバス電極109および透明電極111と同様に、放電空間117にプラズマ放電を発生させるために使用される電極である。このアドレス電極103は、例えば、Ag、Al、Ni、Cu、Mo、またはCrなどの良導性の金属を用いて形成することが可能である。アドレス電極103は、背面基板101の前面基板107側の表面(図5のz軸正方向側の表面)に、y軸方向に沿って形成される。この際、アドレス電極103自体が放電空間117に露出することは好ましくない。そのため、アドレス電極103は、第1誘電体層105によって、表面が覆われる。なお、この第1誘電体層105は、SiO等を用いて反射型誘電体層として形成することが可能である。また、第1誘電体層105の表面に、更にMgO等の仕事関数の値の小さな物質からなる保護層を形成して、第1誘電体層105をプラズマによる第1誘電体層105のスパッタリングから保護してもよい。この保護層は、放電空間117内で発生するプラズマによって誘電体等がスパッタリングされることを保護するためのものである。
【0063】
なお、アドレス電極103は、例えば、スパッタや蒸着などの方法を用いて形成することが可能であり、特定の形成方法に限定されるわけではない。
【0064】
第2の電極であるバス電極109と、バス電極109と電気的に接続される透明電極111とは、放電空間117にプラズマ放電を発生させるためにアドレス電極103とともに使用される電極である。バス電極109は、例えば、Ag、Al、Ni、Cu、Mo、またはCrなどの良導性の金属を用いて形成することが可能であり、透明電極111は、例えばインジウム−スズ酸化物(Indium−Tin Oxide:ITO)等を用いて形成することが可能である。バス電極109は、前面基板107の背面基板101側の表面(図5のz軸負方向側の表面)に、x軸方向に沿って形成される。この際、バス電極109および透明電極111についても、電極自体が放電空間117に露出することは好ましくない。そのため、バス電極109および透明電極111は、第2誘電体層113によって、表面が覆われる。なお、第2誘電体層113は、SiO等を用いて形成することが可能である。また、第2誘電体層113の表面に、更にMgO等の仕事関数の値の小さな物質からなる保護層を形成して、第2誘電体層113をプラズマによる第2誘電体層113のスパッタリングから保護してもよい。
【0065】
なお、バス電極109および透明電極111は、例えば、スパッタや蒸着などの方法を用いて、形成することが可能であり、特定の形成方法に限定されるわけではない。
【0066】
隔壁115は、所定の間隔を有するように配置された背面基板101および前面基板107によって生じる空間を、所定の広さを有する複数の放電空間117に区画する役割を果たすものである。すなわち、放電空間117は、背面基板101と、前面基板107と、隔壁115とによって定義される空間である。隔壁115は、例えば図2に示したように格子状に設けられるので、放電空間117は、図5に示したように、上下(z軸方向)に沿って設けられる背面基板101および前面基板107と、左右(y軸方向)に沿って配設される2つの隔壁115とによって区画される。
【0067】
図6に示したように、隔壁115の断面形状は、例えば、テーパ形状となっている。図6においては、隔壁115の断面形状はテーパ形状であるが、本発明に係る隔壁115の断面形状は図中の形状に限定されるわけではなく、広い放電空間117を確保できる形状であれば、様々な形状を有することができ、例えば断面が略長方形となっていてもよい。
【0068】
背面基板101、前面基板107および隔壁115により区画される各放電空間117は、当該放電空間117内に形成される蛍光体層の発光色に応じて、赤色領域119、緑色領域121および青色領域123(以下、それぞれR領域119、G領域121およびB領域123と略記する。)に大別される。R領域119には、赤色蛍光体を用いた蛍光体層125(以下、R蛍光体層125と略記する。)が形成され、G領域121には、緑色発光体を用いた蛍光体層127(以下、G蛍光体層127と略記する。)が形成され、B領域123には、青色蛍光体を用いた蛍光体層129(以下、B蛍光体層129と略記する。)が形成される。
【0069】
図5および図6に示したように、アドレス電極103方向(すなわち、y軸方向)に沿って隣接する放電空間117は、同一の発光が生じる放電空間であり、バス電極109方向(すなわち、x軸方向)に沿って隣接する放電空間117は、それぞれ異なる色の発光が生じる放電空間となる。
【0070】
このような蛍光体層125,127,129は、放電空間117内であって、放電経路ではない場所であれば、どこに設けられていても構わない。また、蛍光体層を、蛍光体層からの発光が透過していく基板である前面基板107に設ける場合には、透過率を低下させないために、蛍光体層の厚みを薄くすることが好ましい。また、蛍光体層は、本実施形態に係る蛍光体ペーストを使用し、ディスペンサーによって形成することが可能である。
【0071】
R蛍光体層125は、例えば、約600nm〜約800nmの波長を有する光を発光する赤色蛍光体により形成される。G蛍光体層127は、例えば、約490nm〜約550nmの波長を有する光を発光する緑色蛍光体により形成される。B蛍光体層129は、例えば、約430nm〜約490nmの波長を有する光を発光する青色蛍光体により形成される。
【0072】
また、放電空間117は真空状態ではなく、例えば、Xeが主放電ガスであるNe−Xeガスなどが封じ込められている。放電ガスにおけるXeの分圧は、例えば放電ガス全体のガス圧に対して、例えば10〜30%程度とすることが可能である。
【0073】
<本実施形態に係るプラズマディスプレイパネルの動作について>
続いて、本実施形態に係るPDP10の動作について説明する。アドレス電極103およびバス電極109、透明電極111間に、放電開始電圧よりも大きな交流電圧が印加されると、各電極に印加される電圧の極性が変化するたびに、アドレス電極103およびバス電極109、透明電極111間に放電経路が形成され、この放電経路中に存在する放電ガス中にプラズマ放電が発生して、紫外線が放電空間117中に放射されることとなる。放電空間117中に放射された紫外線は、蛍光体層中の蛍光体に当たり、この紫外線が有するエネルギーにより、蛍光体が発光する。蛍光体からの発光は、例えば前面基板107を透過して、PDP10の外部へと進むこととなる。
【0074】
なお、本実施形態に係るPDP10に、アドレス電極103およびバス電極109、透明電極111を制御するドライブ回路や、その他の装置を接続することで、本実施形態に係るPDP10を備えたプラズマディスプレイを製造することが可能である。PDPを備えたプラズマディスプレイを製造する方法については、公知のあらゆる方法を適用することが可能である。
【0075】
<本実施形態に係るプラズマディスプレイパネルの製造方法について>
続いて、本実施形態に係るPDPの製造方法について、詳細に説明する。本実施形態に係るPDP10は、例えば、以下に示す段階を経て製造することが可能である。
【0076】
すなわち、本実施形態に係るPDP10は、例えば、背面基板101上にアドレス電極103および第1誘電体層105を製造する段階と、第1誘電体層105上に隔壁形成層を形成する段階と、隔壁形成層を焼成する段階と、隔壁形状を形成する段階と、隔壁形状により区画された放電空間内に、本実施形態に係る蛍光体ペーストを用いて各蛍光体層を形成する段階と、バス電極109および透明電極111ならびに第2誘電体層113が形成された前面基板107を配設する段階と、を経て製造することが可能である。
【0077】
背面基板101上にアドレス電極103および第1誘電体層105を製造する段階は、背面基板101として利用するガラス基板上に、所定の方法でアドレス電極103を形成した後に、電極取り出し部以外の場所に第1誘電体層105として反射型誘電体層を形成する段階である。
【0078】
第1誘電体層105上に隔壁形成層を形成する段階は、上述のフィラーを含むガラス材料を使用して、第1誘電体層105上に隔壁形成層を形成する段階である。
【0079】
隔壁形成層を焼成する段階は、形成した隔壁形成層を、同時に焼成する段階である。続いて行われる隔壁形状を形成する段階は、焼成後の隔壁形成層にドライフィルムレジスト(Dry Film Resist:DFR)等のレジスト層を形成する段階と、レジスト層を隔壁の形成パターンにあわせて露光・現像する段階と、焼成後の隔壁形成層を加工する段階と、残存しているレジスト層を除去する段階と、を含む。
【0080】
かかる段階を経ることで、隔壁115が形成された背面基板101を製造することができる。
【0081】
隔壁115が形成された後に、隔壁115により区画された放電空間内に、各色に対応する蛍光体層を、本実施形態に係る蛍光体ペーストを使用して、ディスペンサーにより形成する。
【0082】
他方、前面基板107として利用されるガラス基板に対して、ITOなどを用いて透明電極111を形成した後に、印刷法等を用いてバス電極109を形成することで、前面基板107上にバス電極109および透明電極111を形成することが可能である。その後、バス電極109および透明電極111上に第2誘電体層113を形成することで、バス電極109、透明電極111および第2誘電体層113が形成された前面基板107を製造することができる。また、第2誘電体層113を形成した後に、誘電体層を保護する保護膜としてMgO等を成膜してもよい。
【0083】
上述のような方法で形成された前面基板107を隔壁115上に配設することで、本実施形態に係るPDP10を製造することができる。その後、放電空間内を脱気した上で所定の放電ガスを注入し、放電空間を封着する段階を行う。
【0084】
ここで、背面基板101上にアドレス電極103および第1誘電体層105を形成する段階と、前面基板107上にバス電極109および透明電極111と第2誘電体層113を形成する段階とは、任意の順に行うことが可能であり、上記2つの段階を並行して行うことも可能である。
【実施例】
【0085】
続いて、本発明に係るPDP用蛍光体ペーストについて、実施例を示しながら詳細に説明する。なお、本発明に係るPDP用蛍光体ペーストが、下記の実施例に限定されるわけではない。
【0086】
(実施例および比較例で使用した樹脂について)
以下に示す実施例1〜8では、重合方法、分子量および組成の異なるアクリル樹脂1〜8(三菱レイヨン社製ダイヤナールLP)を使用して、各実施例1〜8に係る蛍光体ペーストを製造した。比較例1では、エチルセルロースをバインダー樹脂として使用し、蛍光体ペーストを製造した。比較例2〜4では、重合方法、分子量および組成の異なるアクリル樹脂9〜11(三菱レイヨン社製ダイヤナールHR)を使用し、蛍光体ペーストを製造した。比較例5〜7では、重合方法、分子量および組成の異なるアクリル樹脂12〜14(三菱レイヨン社製ダイヤナールBR)を使用して、蛍光体ペーストを製造した。
【0087】
(焼失率の測定)
以下に示す実施例および比較例では、上述の樹脂を、セイコーインスツルメント社製熱分析計6000TG/DTAを用いて測定し、410℃での焼失率を測定した。
【0088】
(蛍光体ペーストの製造)
以下に示す実施例および比較例では、有機溶媒であるターピネオール44.5gに、上述の樹脂5.5gを加熱溶解させてビヒクルを調整した後、蛍光体として、青色蛍光体であるBaMgAl1017:Eu、BAM)を33.3g添加した。蛍光体が添加されたビヒクルを3本ミルで混練して、それぞれの実施例および比較例における青色蛍光体ペーストを調整した。
【0089】
(第1法線応力差および粘度の測定)
上述の方法で製造した蛍光体ペーストの第1法線応力差および粘度は、アントンパール社製MCR300レオメータに25mmφ、0.5°のコーンプレートを装着して測定した。なお、測定時の温度は、23℃であり、せん断速度は0.1〜10000sec−1に設定し、この範囲の粘度とNFを測定した。
【0090】
(Swell比の測定)
吐出圧が0.4MPaに設定された細孔ノズル径が75μmであるディスペンサーを用いて、上述の方法で製造した蛍光体ペーストを吐出して、吐出径をCCDカメラにて計測し、Swell比を算出した。
【0091】
(ノズルの走査速度および発光強度の測定)
上述の方法で製造した蛍光体ペーストを、マルチノズルディスペンサー(ノズルの間隔0.576mm)を用いて隔壁間隔(なお、ここでいう隔壁間隔とは、ディスプレイのサブピクセルの空間部分をいい、蛍光体ペーストが充填される空間部分の間隔を表す。)が150μmの基板に塗布・パターニングを行った。このとき、隔壁上部とノズルヘッドとのギャップは180μmとし、隔壁中に蛍光体ペーストが適切に塗布される状態になるときのノズルの走査速度(mm/sec)を計測した。また、得られた蛍光体入りパネルを410℃あるいは500℃焼成した後、中心波長172nmのエキシマーランプで励起して、その発光強度を測定した。
【0092】
上述の方法で測定した各測定値を、以下の表1に示す。
【0093】
【表1】

【0094】
まず、表1の「ノズルの最適な走査速度」の欄に着目する。NF/ηの値が4000以下である実施例1〜8では、ノズルの最適な走査速度の値は、100mm/sec近傍の値となり、迅速なパターニングを実行可能であることがわかった。また、NF/ηの値が4000超過となった比較例2〜8では、ノズルの最適な走査速度の値は、非常に低い値となっており、迅速なパターニングは実行できないことがわかった。
【0095】
次に、表1の「Swell比」の欄に着目すると、NF/ηの値が4000以下である実施例1〜8では、Swell比の値が1.4以下となり、ダイスウェル効果が抑制されていることがわかった。また、比較例2〜8において、Swell比の値が1.4以下となった場合も存在したが、このような値を示した蛍光体ペーストでは、ノズルの最適な走査速度が極端に小さな値となっており、高精細度かつ迅速なパターニングが実行できないことがわかった。
【0096】
続いて、表1の「相対輝度」の欄に着目すると、焼成温度が410℃である実施例1〜8および比較例2〜7では、相対輝度が100近傍の値となったが、焼成温度が500°であるエチルセルロースを用いた比較例1では、相対輝度の値が68となった。これは、高い焼成温度により、蛍光体の熱劣化が発生したことに起因する。
【0097】
なお、表1の「分子量」および「10sec−1における粘度η」の欄から明らかなように、ノズルの最適な走査速度の値は、樹脂の分子量や、10sec−1における粘度ηには依存しないことがわかった。
【0098】
以上説明したように、一定条件を満たすレオロジー特性を有する低温焼失(メタ)アクリル樹脂を用いた蛍光体ペーストを用いることにより、省エネルギーの生産工程となり、また焼成による蛍光体の輝度劣化を防止し、安価で、高効率なプラズマディスプレイパネルを製造することが可能となる。
【0099】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明はかかる例に限定されないことは言うまでもない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【0100】
例えば、上述した実施形態においては、プラズマディスプレイがアドレス電極とバス電極の2種類の電極を有する2電極構造である場合について説明したが、本発明に係るプラズマディスプレイの電極の種類は上述の場合に限定されるわけではなく、例えば3種類以上の電極を有する3電極構造であってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0101】
【図1】プラズマディスプレイパネルの蛍光体層の形成に用いられるディスペンサーを説明するための説明図である。
【図2】蛍光体ペーストの吐出時に発生するダイスウェル効果を説明するための説明図である。
【図3】蛍光体ペーストの吐出時に発生するダイスウェル効果を説明するための説明図である。
【図4】本発明の第1の実施形態に係るプラズマディスプレイパネルを説明するための部分平面図である。
【図5】同実施形態に係るプラズマディスプレイパネルを説明するための断面図である。
【図6】同実施形態に係るプラズマディスプレイパネルを説明するための断面図である。
【符号の説明】
【0102】
1 ディスペンサー
3 細孔ノズル
5 蛍光体ペースト
7 せん断応力
9 第1法線応力差
10 プラズマディスプレイパネル
101 背面基板
103 アドレス電極
105 第1誘電体層
107 前面基板
109 バス電極
111 透明電極
113 第2誘電体層
115 隔壁
117 放電空間
119 R領域
121 G領域
123 B領域
125 R蛍光体層
127 G蛍光体層
129 B蛍光体層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
プラズマディスプレイパネル用蛍光体ペーストであって、
有機溶媒に溶解したアクリル樹脂またはメタクリル樹脂と、
前記アクリル樹脂または前記メタクリル樹脂に添加される蛍光体と、
を含み、
せん断速度4000sec−1における前記プラズマディスプレイパネル用蛍光体ペーストの第1法線応力差をNFとし、温度23℃およびせん断速度4000sec−1における粘度をηとした場合に、NFをηで除した値Y=NF/ηが4000以下である
ことを特徴とする、プラズマディスプレイパネル用蛍光体ペースト。
【請求項2】
前記アクリル樹脂または前記メタクリル樹脂は、410℃における焼失率が99%以上である
ことを特徴とする、請求項1に記載のプラズマディスプレイパネル用蛍光体ペースト。
【請求項3】
細孔ノズル径がdであるディスペンサーから前記プラズマディスプレイパネル用蛍光体ペーストを吐出した際の当該プラズマディスプレイパネル用蛍光体ペーストの吐出径をdとした場合に、前記吐出径dと前記細孔ノズル径dとの比d/dが1.4以下である
ことを特徴とする、請求項1または2に記載のプラズマディスプレイパネル用蛍光体ペースト。
【請求項4】
互いに対向して配置される第1の基板および第2の基板と、
前記第1の基板上に形成される第1誘電体層と、
前記第2の基板上に形成される第2誘電体層と、
前記第1誘電体層の内部に、第1の方向に沿って設けられる第1の電極と、
前記第2誘電体層の内部に、前記第1の方向に対して直交する第2の方向に沿って設けられる第2の電極と、
前記第1誘電体層と前記第2誘電体層との間に設けられ、複数の放電空間を区画する隔壁と、
前記放電空間内に形成される蛍光体層と、
を備え、
前記蛍光体層は、請求項1〜請求項3に記載のプラズマディスプレイパネル用蛍光体ペーストを用いて、ディスペンサーにより形成される
ことを特徴とする、プラズマディスプレイパネル。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2009−152065(P2009−152065A)
【公開日】平成21年7月9日(2009.7.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−328973(P2007−328973)
【出願日】平成19年12月20日(2007.12.20)
【出願人】(590002817)三星エスディアイ株式会社 (2,784)
【Fターム(参考)】