説明

プラズマディスプレイ前面板用黒色化シールドメッシュの製造方法

【課題】視認性を上げるために前面を黒色化してプラズマディスプレイに適用する電磁波シールドメッシュを製造するに当たり、黒色度が低いという課題を解決し、コストパフォーマンスに優れ、高い黒色度を得ることができる、プラズマディスプレイ前面板用黒色化シールドメッシュの製造方法の提供。
【解決手段】下記の工程(1)〜(5)によりプラズマディスプレイ前面板用黒色化シールドメッシュを製造することにより課題を解決できる。(1)透明樹脂シート1へ銅箔2を貼り合せる。(2)工程(1)で貼り合わせた銅箔2をエッチングして所定のメッシュパターン20を形成する。(3)必要に応じて脱脂処理、粗面化処理を行う。(4)前記メッシュパターン20表面上へ黒色の鉄−銅−炭素共析物4を電気めっきで被覆する。(5)必要に応じて水洗、乾燥する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はプラズマディスプレイ前面板用黒色化シールドメッシュの製造方法に関するものであり、さらに詳しくはプラズマディスプレイ(以下、PDPとも記す)の前面に、有害電磁波の遮蔽のために設置する黒色化シールドメッシュの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
PDPにおける画像表示は、次のようにして行われる。PDP内に充填されたキセノンやネオンが放電によって励起して、紫外領域から近赤外領域にわたる線スペクトルが発生し、この中の紫外線が蛍光体に当たると、この蛍光体から画像表示のための可視光が発生する。この放電に伴って発生した電磁波がPDPから漏洩するため、その遮蔽の目的で、PDPの前面に金属製のシールドメッシュを設置する。
メッシュの開口部から画像を見ることができ、金属であるライン部が電磁波を遮蔽する。このライン部は、ディスプレイの画面上に見えるため、画像の視認性の向上の目的で表面を黒くする。黒色化された表面は、光沢なく、外部から入射した光の反射を防止する。
【0003】
このようなシールドメッシュ表面の黒色化の方法として、いろいろな金属化合物を電気めっきで析出させる提案がなされている。これらは、メッシュ状に加工された金属基材の表面を溶液中で電気的にカソ−ディックに分極し(陰極電解し)、黒色皮膜を被覆するものが多い。
これは、このようなプロセスが、透明樹脂シート上に形成された金属メッシュに対して、透明樹脂シート部の透明性を維持しながら、金属表面を選択的に黒色化するのに好適であるためである。しかも、溶液と電解装置を用意すれば、設備投資も含め低コストで処理を行うことが可能である。
このような方法の例として、特許文献1では、メッシュ状の金属層の表面および側面へめっき法で黒色処理層を設ける。この黒色処理層は、銅、コバルト、ニッケル、亜鉛、スズ、若しくはクロムから選択された少なくとも1種の単体、または化合物を含有する。
また、特許文献2においては、電磁波遮蔽用シールド材として、銅箔メッシュの前面、および側面に鉄と少なくとも1つ以上の他金属成分、特には、銅−コバルト−鉄−ニッケルからなる無光沢の黒色電気めっき層をコーティングしたものを示している。
【特許文献1】WO2004−093513
【特許文献2】特開2005−79596
【0004】
ところが、このような無光沢の金属層を表面に析出するものでは、基本的に白色〜灰色の金属皮膜の表面粗さを調整して析出させ、入射光を散乱させることによって黒色化しているものである。
析出金属を単一のものではなく複数の金属の共析物とすることにより、結晶を微細化させて入射光の散乱の度合いを増し黒色度を増しているが、黒色度を一層高めることには限界がある。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の課題は、視認性を上げるために前面を黒色化してプラズマディスプレイに適用する電磁波シールドメッシュを製造する方法であって、コストパフォーマンスに優れ、プロセス構築が比較的平易という電気めっき法の長所を生かし、かつ、容易に高い黒色度を得ることができる、プラズマディスプレイ前面板用黒色化シールドメッシュの製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記課題を解決するための本発明の請求項1記載のプラズマディスプレイの前面板として電磁波シールドのために使用するプラズマディスプレイ前面板用黒色化シールドメッシュの製造方法は、下記の工程(1)〜(5)により製造することを特徴とする。
(1)透明樹脂シートへ銅箔を貼り合せる。
(2)工程(1)で貼り合わせた銅箔をエッチングして所定のメッシュパターンを形成する。
(3)必要に応じて脱脂処理、粗面化処理を行う。
(4)前記メッシュパターン表面上へ黒色の鉄−銅−炭素共析物を電気めっきで被覆する。
(5)必要に応じて水洗、乾燥する。
【0007】
本発明の請求項2記載の製造方法は、請求項1記載の製造方法において、前記メッシュパターン表面上へ電気めっきで被覆する黒色の鉄−銅−炭素共析物が金属鉄と、金属銅と、炭素分と、鉄水酸化物または鉄酸化物と銅酸化物からなることを特徴とする。
【0008】
本発明の請求項3記載の製造方法は、請求項1あるいは請求項2記載の製造方法において、前記工程(4)において、少なくとも(イ)鉄分として10〜75g/Lの第1鉄塩、(ロ)銅分として0.1〜15g/Lの第2銅塩、(ハ)有機酸、(ニ)水酸化アルカリを含み、pHを1.5〜4.0とし、鉄分に対して銅分の濃度が質量比で1/5以下である電気めっき液を用いて前記メッシュパターン表面上へ黒色の鉄−銅−炭素共析物を電気めっきで被覆することを特徴とする。
【0009】
本発明の請求項4記載の製造方法は、請求項3記載の製造方法において、前記電気めっき液に含まれる有機酸が、炭素、酸素、水素のみからなり、カルボキシル基を1または2つ有し、その第1段および第2段解離のpKa値(酸解離定数の逆数の対数値)が4未満であることを特徴とする。
【0010】
本発明の請求項5記載の製造方法は、請求項3あるいは請求項4記載の製造方法において、前記電気めっき液に含まれる有機酸がギ酸、グリオキシル酸、グリコール酸、ケイ皮酸、酒石酸、乳酸、ピルビン酸からなる群から選択される少なくとも1つの有機酸であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明の請求項1記載のプラズマディスプレイ前面板用黒色化シールドメッシュの製造方法は、前記の工程(1)〜(5)により製造することを特徴とするものであり、
コストパフォーマンスに優れ、プロセス構築が比較的平易という電気めっき法の長所を生かしつつ、有害電磁波の遮蔽性に優れ、かつ金属だけでなく、元来、黒色の酸化物を共析させることにより、従来より一層高い黒色度が得られるのでより視認性を上げることができるという顕著な効果を奏する。
【0012】
本発明の請求項2記載の製造方法は、請求項1記載の製造方法において、前記メッシュパターン表面上へ電気めっきで被覆する黒色の鉄−銅−炭素共析物が金属鉄と、金属銅と、炭素分と、鉄水酸化物または鉄酸化物と銅酸化物からなることを特徴とするものであり、視認性を上げるための前面のさらなる黒色化を容易に行なうことができるというさらなる顕著な効果を奏する。
【0013】
本発明の請求項3記載の製造方法は、請求項1あるいは請求項2記載の製造方法において、前記工程(4)において、少なくとも(イ)鉄分として10〜75g/Lの第1鉄塩、(ロ)銅分として0.1〜15g/Lの第2銅塩、(ハ)有機酸は濃度が低すぎると、めっき皮膜が黒色化しなくなり、高すぎると液が不安定となり、沈殿を生じる恐れがあり、(ニ)水酸化アルカリを含み、pHを1.5以上、4.0以下とし、鉄分に対して銅分の濃度が質量比で1/5以下である電気めっき液を用いて前記メッシュパターン表面上へ黒色の鉄−銅−炭素共析物を電気めっきで被覆することを特徴とするものであり、
(イ)第1鉄塩の濃度が低いと、めっきの色むらが発生し易く、濃度が高いと溶解度との関係もあるが不経済となり、(ロ)第2銅塩は、濃度が低いと、銅の析出が行なわれず、また、鉄分に対して1/5よりも濃度が高いと、析出物中の銅金属含有量が増加しすぎて黒色ではなく、褐色となり易くなり、(ハ)有機酸は濃度が低すぎると、めっき皮膜が黒色化しなくなり、高すぎると液が不安定となり、沈殿を生じる恐れがあり、(ニ)水酸化アルカリは、めっき液のpH値を1.5〜4.0に調整するために使用するが、pHの上限は、めっき液中の鉄および、銅塩が水酸化物として沈殿しない限界として決められ、pHの下限を下回るとめっき皮膜は黒色化しにくくなり、全体的に灰色になるか、または黒及び灰色の色調のムラが著しくなり、また、皮膜析出の電流効率が低下するので、本発明の前記電気めっき液を用いて前記メッシュパターン表面上へ黒色の鉄−銅−炭素共析物を電気めっきで被覆することにより、経済的に、安定して、確実に、容易により高い黒色度が得られるのでより視認性を上げることができるというさらなる顕著な効果を奏する。
【0014】
本発明の請求項4記載の製造方法は、請求項3記載の製造方法において、前記電気めっき液に含まれる有機酸が、炭素、酸素、水素のみからなり、カルボキシル基を1または2つ有し、その第1段および第2段解離のpKa値(酸解離定数の逆数の対数値)が4未満であることを特徴とするものである。
このような有機酸が電気めっき液中に含有されることにより、めっき皮膜の形成において皮膜に炭素分が含有されるが、有機酸のpH緩衝性が高すぎる場合には、水酸化鉄、水酸化銅の生成が行なわれにくくなり黒色化が不十分となり、有機酸のpKa値が4よりも高い場合は、生成したOH- イオンが有機酸の緩衝作用により減少して被めっき面近傍のpHが上昇しにくくなるため、黒色化には不適となるため、本発明の前記有機酸を使用することにより安定して、確実に、容易により高い黒色度が得られるというさらなる顕著な効果を奏する。
【0015】
本発明の請求項5記載の製造方法は、請求項3あるいは請求項4記載の製造方法において、前記電気めっき液に含まれる有機酸がギ酸、グリオキシル酸、グリコール酸、ケイ皮酸、酒石酸、乳酸、ピルビン酸からなる群から選択される少なくとも1つの有機酸であることを特徴とするものである。
このような有機酸は安価で入手も容易であり、安定して、確実に、容易により高い黒色度が得られるというさらなる顕著な効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下に本発明によるプラズマディスプレイ前面板用黒色化シールドメッシュの製造方法を、その一実施の形態に基いて工程を追って説明する。
図1は、本発明の黒色化シールドメッシュの製造方法の工程を示す断面説明図であり、図2はその平面説明図である。
【0017】
一連の工程を通す時、電磁波シールドメッシュを1枚毎の単位に切断して処理することもできるが、一般的にはシートをロールから巻き出し、連続的に配置されたチャンバーを通すことで連続的に処理して、再度ロールに巻き取る形態のいわゆる「リール・トゥー・リール」方式が採用される場合が多い。
本発明の形態は、「リール・トゥー・リール」方式に限定されないが、以下では、この方式を念頭にして説明する。
【0018】
図1および図2に示すように、透明樹脂シート1の上に、銅箔2をラミネートする。このラミネートの方法は特に指定されない。一般的なラミネートの方法は透明樹脂シート1に、透明接着剤を塗布してから、銅箔2をラミネートする方法である。このほか、接着剤を介さずに、透明樹脂シート1に無電解銅めっきで銅箔2を析出させるなどの方法を取ることもできる。
透明樹脂シート1の材料としては、透明性が高いことが必要である。また、後続の処理で化学薬品が接触するため、それらの薬品に対する耐性を有することも必要である。そのような材料としては、具体的には、例えばアクリル系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリイミド系樹脂、ポリビニル系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリアミド系樹脂やエンジニアリングプラスチックと呼ばれるものが挙げられるが、価格や耐熱性等の点でPET(ポリエチレンテレフタレート)樹脂が適当である。
【0019】
次に、銅箔2の表面にエッチング用のレジスト3を被覆し、パターンニングする。一般的な電磁波シールドメッシュでは、銅メッシュパターン20のライン幅(W1)は、5〜70μm、ラインの間隔(W2)は、100〜1000μm程度であり、その仕様によってレジストの種類やパターンニングの方法が選択される。
一般的な方法は、感光性のドライフィルムレジストまたは液状レジストをコーティングし、フォトマスクを通して露光、現像するものである。この方法では、ライン幅(W1)が5〜20μmの高精細パターンを形成できる。しかし、精細度よりもコストを重視する場合には、レジスト3を印刷で形成することもできる。
【0020】
次に、レジスト3を被覆していない部分の銅箔2をエッチングして銅メッシュパターン20を形成する。エッチングの方法は、一般的に、塩化第2鉄、または塩化第2銅を主成分とするエッチング液を使用した化学的エッチングを行なう。エッチング後には、エッチングレジスト3を除去する。除去の方法は、用いるレジストにもよるが、通常は、アルカリ性の水溶液に浸漬して溶解除去する。
【0021】
そして、形成された銅メッシュパターン20の表面を黒色化するが、その直前処理として表面を脱脂、および、化学粗化することが望ましい。銅メッシュパターン20の表面には、エッチングレジスト3の残渣などの有機物が付着し、その部分は、後続の処理において処理液の濡れ性が劣るためにムラを生じる場合がある。
そこで、それらを除くために脱脂処理を行うことが望ましい。脱脂処理は、市販の酸性またはアルカリ性の脱脂液に浸漬するか、脱脂液中で電解処理を行う。また、黒色化される銅メッシュパターン20の表面は、入射される外部からの光を散乱させるため、平坦でなく凹凸があった方がよい。
そのため、銅メッシュパターン20の表面を化学的に粗化する。この処理は、化学粗化液、または、ソフトエッチング液などと呼ばれる水溶液中に、銅メッシュパターン20を浸漬することによって行なう。
この液は、一般的に、過硫酸ナトリウム、過硫酸アンモニウムなどの過硫酸塩や、過酸化水素水などの成分を含む。
このような、脱脂および粗化のプロセスは、最終的に黒色化した銅メッシュパターン20の仕様や、上述のような表面の汚れ付着の度合いによって必要性が変わるため、導入が必要かどうかは事業者によって決められるべきである。
【0022】
次に、銅メッシュパターン20に、電気めっきで鉄−銅−炭素共析物皮膜4を被覆して黒色化する。
鉄−銅−炭素共析物めっきは、少なくとも(1)鉄分として10〜75g/Lの第1鉄塩、(2)銅分として0.1〜15g/Lの第2銅塩、(3)有機酸、(4)水酸化アルカリを含み、pHを1.5以上、4.0以下とし、鉄分に対して銅分の濃度が重量比で1/5以下である電気めっき液を用いて行なわれることが好ましい。
【0023】
(1)第1鉄塩は、硫酸第1鉄、塩化第1鉄、スルファミン酸第1鉄などの塩を使用する。濃度は、第1鉄イオン濃度で、10〜75g/Lが適当である。濃度が低いと、めっきの色むらが発生しやすい。濃度が高いことはあまり問題ないが、塩の溶解度と経済的な理由から75g/L程度を上限とすることが適当である。
【0024】
(2)第2銅塩としては、硫酸第2銅、塩化第2銅、硝酸第2銅などの塩を使用する。濃度は、第2銅イオン濃度で0.1〜15g/Lが適当であり、銅分は鉄分に比べて重量比で1/5以下の濃度である必要がある。銅濃度が低いと、銅の析出が行なわれず、また、鉄分に対して1/5よりも濃度が高いと、析出物中の銅金属含有量が増加しすぎて黒色ではなく、褐色となりやすくなる。
【0025】
(3)有機酸は、炭素、酸素、水素のみからなり、窒素やイオウ分が含まれないものがよい。そして、カルボキシル酸基を1または2つ有し、その第1段および第2段解離のpKa値(酸解離定数の逆数の対数値)がいずれも4未満であることが適当である。
このような有機酸が液中に含有されることにより、めっき皮膜の形成において皮膜に炭素分が含有される。
めっき皮膜中の炭素含有率は、有機酸の種類やその他のめっき液成分、およびめっき条件で異なるが、0.001〜30質量%の範囲内である。
このような有機酸としてはギ酸、グリオキシル酸、グリコール酸、ケイ皮酸、酒石酸、乳酸、ピルビン酸があてはまる。その濃度は、5〜500mmol/Lが適当であるが、黒色化に対する最適濃度も、有機酸の種類やその他のめっき液成分、およびめっき条件により異なる。
また、2種以上の有機酸を混合して添加してもよい。
濃度が低すぎると、めっき皮膜が黒色化しなくなり、高すぎると液が不安定となり、沈殿を生じる。
【0026】
(4)水酸化アルカリは、めっき液のpH値を1.5〜4.0、さらに好ましくは2.0〜3.0に調整するために使用する。pHの上限は、めっき液中の鉄および、銅塩が水酸化物として沈殿しない限界として決められる。pHの下限を下回るとめっき皮膜は黒色化しにくくなり、全体的に灰色になるか、または黒及び灰色の色調のムラが著しくなる。また、皮膜析出の電流効率が低下する。水酸化アルカリとしては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウムが使用できる。
【0027】
これら以外の成分として、pH緩衝性のない電気伝導塩を添加してもよい。これはめっき液の電気伝導度を高め、めっき面内の電流分布を小さくするために使用される。例えば硫酸、硝酸、塩酸のナトリウム、カリウム、リチウム塩が適当であり、その濃度は、1〜100g/Lがよい。
濃度が低すぎると、電気伝導度を高める効果がなく、濃度が高すぎると第1鉄塩の溶解度を制限してしまう。pH緩衝性がないことの理由は、後述のように、めっき面近傍でのpHを上昇させることによって、黒色化させるためである。また、液の濡れ性を改善するために、第1鉄イオンおよび第2銅イオンと錯体を形成しないラウリル硫酸ナトリウムなどの界面活性剤なども0.01〜5g/L程度添加することができる。
【0028】
本発明の鉄−銅−炭素共析物めっきによる黒色化のメカニズムは、次のように考えられる。
めっきが析出するカソード面では、第1鉄イオンの還元反応
Fe2+ + 2e → Fe (1)
および、第2銅イオンの還元反応
Cu2+ + 2e → Cu (2)
が起こり、金属鉄と金属銅が共析物として析出する。
これらの反応に加えて、水素発生反応が起こる。
2H2 O + 2e → H2 + 2OH- (3)
この反応でOH- が生成することにより電極近傍ではpHが上昇し、OH- は液中の第1鉄イオンと水酸化鉄を、第2銅イオンと水酸化銅を生成する。それは液中の温度の影響で酸化物に変化し、それを巻き込んで析出するため黒色化すると考えられる。
2OH- + Fe2+ → Fe(OH)2 → 鉄酸化物 (4)
2OH- + Cu2+ → Cu(OH)2 → 銅酸化物 (5)
したがって、共存する有機酸のpH緩衝性が高すぎる場合には、水酸化鉄、水酸化銅の生成が行なわれにくくなり黒色化が不十分となる。有機酸のpKa値が4よりも高い場合は、(3) で生成したOH- イオンが有機酸の緩衝作用により減少して被めっき面近傍のpHが上昇しにくくなるため、(4) 、(5) の反応が起きにくくなり黒色化には不適である。
【0029】
本発明では、銅メッシュパターン表面に黒色の鉄−銅−炭素共析物を析出させる。炭素分は、共存する有機酸がその源となる。詳細なメカニズムは不明であるが、有機酸が何らかの作用で分解して、金属鉄、金属銅および、鉄、銅の酸化物と共に取り込まれたものと考えられる。しかし、鉄−銅−炭素共析物の炭素分は黒色化の程度を決定づける因子ではない。
本発明では第1鉄に第2銅イオンを共存させることにより、黒色度を高める。これは第1鉄に比べて少量の第2銅イオンが存在することにより水素発生反応(3) を適度に抑え、表面に水素の泡が付着することによるムラを防ぐことに加え、被めっき面近傍で生成する酸化銅が比較的高い黒色度を持つことによると考えられる。
【0030】
本発明におけるめっき皮膜の黒色度に対しては、前述した電気めっき液の組成および、以下に示すめっき条件が強く影響を与える。これらの事項は、前述の黒色化のメカニズムを支持するものである。
【0031】
(電流密度)
カソードの電流密度は、0.5〜10A/dm2 が適当である。
低すぎると、電極表面での水素発生反応の電流効率が下がり過ぎて(3) の反応が起こりにくくなるため、黒色化が不十分となる。また、必要な膜厚を得るための時間が長くなる。一方、電流密度が高すぎると、析出するめっき皮膜の表面形状が不均一になりやすい。ただ、最適な電流密度は、液の流動の状態、めっきされる銅メッシュパターンの搬送速度や第1鉄イオン、第2銅イオン濃度により変化するため、そのめっき装置に対して適正化されるべきである。
【0032】
(温度)
電気めっき液の温度は、20〜60℃が適当である。
低すぎると、金属鉄の析出効率が低下、および、水酸化銅の酸化銅への変化が不十分となり黒色度も低下する。高すぎると、液中の化学種の拡散速度が向上しすぎるため、黒色化が起こりにくくなったり、部分的にムラが生じたりする。
【0033】
(液の流動)
本発明では、電気めっきを行なう時に、めっき槽内での強制攪拌を行なわないことが望ましい。特定な方向への液攪拌を行うと、めっき表面で(3) の反応により生じた水酸化物イオンの濃度は、下流に行くほど高くなるため、めっき面内での色調の分布を生じる。そのため、液中に外部から侵入した粒子等をろ過するための循環系程度の緩やかな液流動を設け、液がめっき面に直接当たる構造は避ける。また、空気攪拌も行なわない。リール・トゥー・リール方式では、被めっき材である銅メッシュパターンが液中を一定速度で搬送され、それが基材に対して液を適当に流動させる作用を十分に持つ。
【0034】
(膜厚)
銅メッシュパターン上の黒色化鉄−銅−炭素共析物は、十分な黒色の色調が得られる膜厚であればよい。0.01〜0.6μm、好ましくは0.02〜0.5μm、さらに好ましくは、0.05〜0.2μmである。膜厚が薄すぎると、黒色の色調が薄すぎたり、色ムラが発生する。逆に膜厚が厚すぎると、取り込まれた酸化物量も増大するため、めっき表面の抵抗値が増大する。抵抗値が増大することは、電磁波シールドとしてアース接点の接触抵抗が大きくなりシールド性が低下する。
【0035】
(アノード)
アノードは、不溶性または、可溶性のものが使用できるが、可溶性の鉄アノードを使用することが望ましく、市販の鉄板を使用できる。鉄アノードをめっき液中に浸漬すると、電極間に電流が流れていない状態では置換反応(Cu2++Fe→Cu+Fe2+)により表面には銅が金属として析出するが、電流が流れている状態では、置換反応は抑制される。リール・トゥー・リール方式では、連続的に電流が流れ、アノードは常に正に分極されているため、鉄アノード上にも銅の置換析出は実質的に起こらない。
しかし、アノード電流密度が小さい(<0.5A/dm2 )場合には、置換反応による銅析出が見られる。また、可溶性アノードでは、アノード表面の不働態化を防ぐため、電流密度が大きくなりすぎないよう、アノード面積はカソード面積(エッチング後の実表面積)の2倍以上と小さくしすぎないことが望ましい。 一方、白金被覆チタン電極などの不溶性アノードを使用すると、電解中にその表面で液中の第1鉄イオンが酸化(Fe2+→Fe3++e)し、濃度が低下してしまう。
そのため、不溶性アノードを使用する場合には、第1鉄イオンの酸化反応を抑えるため、めっき液にL−アスコルビン酸、硫酸ヒドロキシルアミン、ホルマリン、次亜リン酸などの犠牲酸化剤となりうる還元剤を添加することもできる。犠牲酸化剤は、自身が酸化を受けることによって、共存する成分の酸化を防ぐために添加される成分である。
【0036】
(槽内の構造)
リール・トゥー・リール方式によるめっき槽内構造の概略図を図3〜図5に示す。
図3は、リール・トゥー・リール方式によるめっき槽の構造を示す概略説明図である。
図4は、図3に示しためっき槽のX−X断面構造を示す概略説明図である。
図5は、図3に示しためっき槽のY−Y断面構造を示す概略説明図である。
図3〜図5において、下面に銅メッシュパターン20を形成した透明樹脂シート5は、めっき槽7の入り側の端部に設けられたスリット6を通って、めっき槽7に搬送され、めっき後、めっき槽7の出側の端部に設けられたスリット6を通って搬出される。めっき槽7内では、めっき液8を隔て、アノード9と対向している。
銅メッシュパターン20への給電は、めっき槽7の外部に設置された給電部10において行なわれる。めっき液8は、リザーバタンク11に蓄えられているが、めっき時には、フィルター付きポンプ12を経てめっき槽7に導入され、そして、オーバーフローでリザーバタンク11に戻る。めっき槽7内では、銅メッシュパターン20の端部で電流密度が増大することを防ぐために、遮蔽板21を設ける。
【0037】
電気めっきにより鉄−銅−炭素共析物を被覆した銅メッシュパターン付きのシートは、その後、水洗、乾燥され、リール・トゥー・リール方式の場合は、ロールに巻き取られる。これにより、一連の製造工程を終える。
【実施例】
【0038】
次に、黒色の鉄−銅−炭素共析物の電気めっき工程に関し、実施例および比較例を示して説明するが本発明の主旨を逸脱しない限り実施例に限定されるものではない。
【0039】
(実施例1〜7)、(比較例1〜7)
PET製の透明シート(500mm×500mm、厚さ50μm)に18μm厚さの銅箔を、アクリル系樹脂の透明接着剤でラミネートした。一般的な方法により、銅箔上に感光性のドライフィルムをラミネートし、露光、現像、塩化第2鉄エッチング、レジスト剥離という工程を通し、図1、2に例示した、ライン幅50μm、ライン間隔300μmの銅メッシュパターン20を形成した。
【0040】
このシートを用いて各種電気めっき条件[(有機酸の検討)、(Fe濃度の検討)、(Cu濃度の検討)および(pHの検討)]による黒色化を検討した。
【0041】
めっき槽、電気めっき液、および基本的なめっき条件の共通条件は下記の通りである。
【0042】
なお、めっき時には、シートはプラスチック板に貼りつけて固定した。また、めっき槽に投入する前には、過硫酸ナトリウム100g/L、硫酸50g/Lの溶液に室温で30秒浸漬して銅表面を化学粗化し、その後水洗を行なった。
【0043】
表1に示したように(有機酸の検討)[(実施例1〜3)および(比較例1〜3)]においては有機酸の種類およびその濃度を変化させた以外は共通条件でめっきを行った。
また表1に示したように(Fe濃度の検討)[(実施例1、4)および(比較例4)]においては有機酸を酒石酸5g/LとしFe濃度を変化させた以外は共通条件でめっきを行った。
また表1に示したように(Cu濃度の検討)[(実施例1、5)および(比較例5、6)]においては有機酸を酒石酸5g/LとしCu濃度を変化させた以外は共通条件でめっきを行った。
また表1に示したように(pHの検討)[(実施例1、6、7)および(比較例7)]においては有機酸を酒石酸5g/LとしpHを変化させた以外は共通条件でめっきを行った。
そして、めっきされたシートを水洗、乾燥し、外観を観察し、メッシュ上の色調やムラを調べ、その結果を表1にまとめた。
【0044】
(共通条件)
めっき液
硫酸第1鉄(FeSO4 ・7H2 O)200g/L(Feとして40g/L)
硫酸第2銅(CuSO4 ・5H2 O)4g/L(Cuとして1g/L)
pH 2.5 (NaOHで調整)
めっき条件
電流密度 5.0 A/dm2
温度 50 ℃
めっき時間 10秒
攪拌 なし
めっき槽
800mm×800mm×200mmのバッチ型槽
遮蔽板 シートの端部に10mm隔てて額縁上の遮蔽板を設置
アノード 鉄板(500mm×500mm)
【0045】
【表1】

【0046】
表1から、実施例1〜7の本発明の製造方法により、シートの表面を均一に黒色化することができ、良好なプラズマディスプレイ前面板用の電磁波シールドメッシュを作製できることが判る。実施例7においてはpHが4.5とやや高いので沈殿が生成したが、シートの表面を黒色化できた。
それに対して、比較例1〜7においては、シートの表面を黒色化することができなかった。
【産業上の利用可能性】
【0047】
本発明のプラズマディスプレイ前面板用黒色化シールドメッシュの製造方法はコストパフォーマンスに優れ、プロセス構築が比較的平易という電気めっき法の長所を生かしつつ、有害電磁波の遮蔽性に優れ、かつ金属だけでなく、元来、黒色の酸化物を共析させることにより、従来より一層高い黒色度が得られるのでより視認性を上げることができるという顕著な効果を奏するので、産業上の利用価値が高い。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【図1】本発明の黒色化プラズマディスプレイ前面板用シールドメッシュの製造方法の工程を示す断面説明図である。
【図2】図1に示した本発明の黒色化プラズマディスプレイ前面板用シールドメッシュの製造方法の工程の平面説明図である。
【図3】リール・トゥー・リール方式によるめっき槽の構造を示す概略説明図である。
【図4】図3に示しためっき槽のX−X断面構造を示す概略説明図である。
【図5】図3に示しためっき槽のY−Y断面構造を示す概略説明図である。
【符号の説明】
【0049】
1・・・透明樹脂シート
2・・・銅箔
3・・・エッチング用のレジスト
4・・・鉄−銅−炭素共析物皮膜
5・・・銅メッシュパターンを形成した透明樹脂シート
6・・・スリット
7・・・めっき槽
8・・・めっき液
9・・・アノード
10・・・給電部
11・・・リザーバタンク
20・・・銅メッシュパターン
21・・・遮蔽板
W1・・・ライン幅
W2・・・ラインの間隔

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記の工程(1)〜(5)により製造することを特徴とするプラズマディスプレイの前面板として電磁波シールドのために使用するプラズマディスプレイ前面板用黒色化シールドメッシュの製造方法。
(1)透明樹脂シートへ銅箔を貼り合せる。
(2)工程(1)で貼り合わせた銅箔をエッチングして所定のメッシュパターンを形成する。
(3)必要に応じて脱脂処理、粗面化処理を行う。
(4)前記メッシュパターン表面上へ黒色の鉄−銅−炭素共析物を電気めっきで被覆する。
(5)必要に応じて水洗、乾燥する。
【請求項2】
前記メッシュパターン表面上へ電気めっきで被覆する黒色の鉄−銅−炭素共析物が金属鉄と、金属銅と、炭素分と、鉄水酸化物または鉄酸化物と銅酸化物からなることを特徴とする請求項1記載の製造方法。
【請求項3】
前記工程(4)において、少なくとも(イ)鉄分として10〜75g/Lの第1鉄塩、(ロ)銅分として0.1〜15g/Lの第2銅塩、(ハ)有機酸、(ニ)水酸化アルカリを含み、pHを1.5〜4.0とし、鉄分に対して銅分の濃度が質量比で1/5以下である電気めっき液を用いて前記メッシュパターン表面上へ黒色の鉄−銅−炭素共析物を電気めっきで被覆することを特徴とする請求項1あるいは請求項2記載の製造方法。
【請求項4】
前記電気めっき液に含まれる有機酸が、炭素、酸素、水素のみからなり、カルボキシル基を1または2つ有し、その第1段および第2段解離のpKa値(酸解離定数の逆数の対数値)が4未満であることを特徴とする請求項3記載の製造方法。
【請求項5】
前記電気めっき液に含まれる有機酸がギ酸、グリオキシル酸、グリコール酸、ケイ皮酸、酒石酸、乳酸、ピルビン酸からなる群から選択される少なくとも1つの有機酸であることを特徴とする請求項3あるいは請求項4記載の製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公開番号】特開2009−21342(P2009−21342A)
【公開日】平成21年1月29日(2009.1.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−182181(P2007−182181)
【出願日】平成19年7月11日(2007.7.11)
【出願人】(000003193)凸版印刷株式会社 (10,630)
【Fターム(参考)】