説明

プラズマプロセスの動作の際のアーク放電の抑制のための方法及びプラズマプロセスに対するアーク放電識別装置及びプラズマプロセスの電力供給のための電力源を有するプラズマ電力供給装置

【課題】プラズマプロセスへのアーク放電のネガティブな作用及びプラズマプロセスの実施に使用される装置を最小限にまで低減し、この際に処理レートをできるだけ高く保持することである。
【解決手段】上記課題は、プラズマプロセスの動作の際のアーク放電の抑制のための方法において、対抗措置の時間経過は選択的に次のパラメータのうちの少なくとも1つに依存して決定される、すなわち、少なくとも1つの以前の対抗措置に対する時間間隔;当該開始時点以来の又は当該開始時点の前の可変的な時間以来の少なくとも1つの特性量の経過;以前の対抗措置が少なくとも1つの特性量の経過に基づいてトリガされたか又は少なくとも1つの以前の対抗措置に対する時間間隔に基づいてトリガされたかの区別に依存して決定されることによって解決される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はプラズマプロセスの動作の際のアーク放電の抑制のための方法に関し、この方法においては、アーク放電の抑制のための対抗措置としてプラズマプロセスの電力供給は少なくとも1つの特性量に依存して中断される又は極性反転される。さらに本発明はプラズマプロセスに対するアーク放電識別装置に関し、この装置は次のものを有する、すなわち、監視ユニットを有し、この監視ユニットは特性量に基づくプラズマプロセスにおけるアーク放電の識別のために少なくとも1つの特性量を監視するために及び相応の監視信号を出力するために構成されており、制御ユニットを有し、この制御ユニットは監視ユニットからの監視信号の受信のために及びアーク放電の抑制のための対抗措置の惹起のための制御信号を出力するために構成されており、タイマーユニットを有し、このタイマーユニットは制御ユニットに時間基準信号を供給するために構成されている。さらに、本発明は、プラズマプロセスの電力供給のための電力源を有するプラズマ電力供給装置に関する。
【背景技術】
【0002】
プラズマによってコーティングされ、エッチングされ、又は、灰化される。非常によく行われるプラズマプロセスはいわゆるスパッタリングであり、このスパッタリングではプラズマからの加速化されたイオンによってターゲットから原子が剥離され、これらの原子が基板上に堆積される。スパッタリングにおいてしばしば反応性ガスが添加され、この結果例えばAlのような結合物質を基板上に堆積する。この種のスパッタリングは反応性スパッタリングと呼ばれる。反応性スパッタリングの際にはターゲット上にも絶縁層の形成が生じる。ターゲットへと加速されるイオンはこのような絶縁層を帯電させる。このように帯電される絶縁層の電界強度が降伏電界強度を超えると、アーク放電、いわゆるアークが生じる。これは短時間かつ自己消滅する(いわゆるショート又はマイクロアーク)ものであるか、又は、長時間持続しかつ非常にエネルギッシュ(いわゆるハードアーク)である。ショートアークは大抵の場合非常に小さい損傷を引き起こし、多くのプロセス(例えばガスコーティング)にとっては許容されうる。ハードアークは通常ターゲットの破壊をもたらし、許容できない欠陥箇所を基板上にもたらす。従って、ハードアークは通常は常に相応の対抗措置によって消滅される。
【0003】
上述の措置を一般に導入するためには、アーク放電識別(アーク識別)ならびにアーク放電(アーク)抑制又は消滅のための装置がしばしばプラズマ電力供給部の構成要素である。
【0004】
この場合、重要なことは第1にアーク放電又はアークの識別の信頼性である。アーク放電はプラズマ電力供給部の出力側での電圧降伏乃至は電圧降下又は電圧上昇によって識別されうる。言い換えれば、少なくとも1つの相応の特性量、この場合にはプラズマプロセスの電気特性量の監視によってアーク放電識別が実施される。
【0005】
既に説明したように、プラズマプロセスにおいては持続的なアーク放電、事情によっては基板又はターゲットの完全な破壊をもたらすいわゆる「ハードアーク」が発生するだけでなく、いわゆる「ショート又はマイクロアーク」(以下においてはまとめてショートアークと呼ぶ)も発生し、これらのショートアークは規則的に比較的弱くあらわれ、自ずと消滅する。もちろん、相応の対抗措置がとられない場合には、このようなショートアークがハードアークに成長しうることも周知である。
【0006】
例えばEP0692138B1によって示されているように、この目的のために、周期的にパルス化された対抗措置をプラズマプロセスの中のアーク放電の抑制のためにトリガすることが提案されている。このような対抗措置は規則的にいわゆるパルスの形式で行われ、これらの対抗措置においてプラズマプロセスに対するエネルギ供給がパルス状に中断され、場合によってはプラズマ電力供給部の直流電圧源の出力電圧が極性反転される。このようなパルスは周期的に制御されるか又はアークの識別に対するリアクションとしても行われる。このパルスを以下においてアーク放電消去パルスと呼ぶ。
【0007】
周期的なパルスは次のような欠点を有する。すなわち、エネルギ供給の中断がプラズマプロセスにおいて実際に生じるアーク放電に基づいて必要とされるよりも頻繁に行われると、プラズマプロセスの処理レート、例えばデポジションレートなどがパルスによって過分に低下されてしまうのである。
【特許文献1】EP0692138B1
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の課題は、プラズマプロセスへのアーク放電のネガティブな作用及びプラズマプロセスの実施に使用される装置を最小限にまで低減し、この際に処理レートをできるだけ高く保持することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題は、プラズマプロセスの動作の際のアーク放電の抑制のための方法において、
対抗措置の時間経過は選択的に次のパラメータのうちの少なくとも1つに依存して決定される、すなわち、
少なくとも1つの以前の対抗措置に対する時間間隔;
当該開始時点以来の又は当該開始時点の前の可変的な時間以来の少なくとも1つの特性量の経過;
以前の対抗措置が少なくとも1つの特性量の経過に基づいてトリガされたか又は少なくとも1つの以前の対抗措置に対する時間間隔に基づいてトリガされたかの区別に依存して決定されることによって解決され、
さらに、プラズマプロセスに対するアーク放電識別装置において、
制御ユニットは上記本発明の方法を実施するために構成されていることによって解決され、
プラズマプロセスの電力供給のための電力源を有するプラズマ電力供給装置において、
電力源と作用接続されたアーク放電識別装置によって解決される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明の局面の第1の局面によれば、上記課題は冒頭に挙げたような方法において、対抗措置の開始時点及び/又は時間経過は選択的に次のパラメータのうちの少なくとも1つに依存して決定されることによって解決される:
少なくとも1つの以前の対抗措置に対する時間間隔;
当該開始時点以来の又は当該開始時点の前の可変的な時間以来の少なくとも1つの特性量の経過;
以前の対抗措置が少なくとも1つの特性量の経過に基づいてトリガされたか又は少なくとも1つの以前の対抗措置に対する時間間隔に基づいてトリガされたかの区別。
【0011】
本発明の第2の局面によれば、上記課題は冒頭に挙げたようなアーク放電識別装置において、
本発明の第1の局面による方法を実施するように制御ユニットが構成されることによって解決される。
【0012】
さらに上記課題は冒頭に挙げたようなプラズマ電力供給装置において、この装置が電力源との作用接続において本発明の第2の局面によるアーク放電識別装置を有することによって解決される。
【0013】
本発明の実施形態では、従って、例えば電圧又は電流ならびに電力供給の以前の中断の時点のような特性量の時間経過から次に予期されるアーク放電の時点が予め決定され、この時点に到達するとエネルギ供給の相応のパルス状の中断が、場合によってはプラズマ電力供給のための電圧源の出力電圧の極性反転によってトリガされる。以下においてこのことを言葉の上で全般的にエネルギ供給の「パルス化」と呼ぶことによって表現する。
【0014】
この場合、アーク放電の識別の後でのみ1回又は複数回パルス化される。言い換えれば、本発明ではまず最初にアーク放電が監視された特性量に基づいて識別されなければならない。次いで少なくとも1つの相応の対抗措置がトリガされ、この対抗措置には場合によっては選択的に適合されたタイムシーケンスにおいて更に別の対抗措置が続いて行われうる。プラズマプロセスにおけるアーク放電が頻繁に発生してしまうと本発明の方法は以前から周知の周期的なパルス化に類似する。もちろん、アーク放電が発生しない場合には対抗措置は行われない(パルスなし)。
【0015】
アーク放電は本発明によれば原理的には遅延なく、すなわち典型的には数十〜数百ナノ秒のオーダのできるだけ短い遅延時間によって、アクティブにエネルギ供給の中断によって及び場合によっては出力電圧の極性反転によって消去される。この場合、相応のアーク放電消去パルスの持続時間は典型的には1〜5μsを越えてはならず、この結果、プラズマプロセスの処理レートは全く損なわれないか又はほんの取るに足らないほどにしか損なわれない。
【0016】
アーク放電消去過程及び/又は少なくとも1つの以前のアーク放電の発生以来経過した時間の間の電流又は電圧のような特性量の経過から、本発明の実施形態によればショートアークであるのか又はハードアークであるのかがもとめられる。ハードアークの場合には、エネルギ供給の中断持続時間は本発明の実施形態によればこのようなアーク放電を確実に消去するために相応に延長される。
【0017】
本発明の、とりわけ本発明の方法の更に別の有利な実施形態は従属請求項の対象であり、これらの従属請求項の文言はこれによって本発明の記述に関連付けられることによって取り入れられ、この結果、不必要なテキスト反復は回避される。
【0018】
本発明のさらに別の特徴ならびに利点は、本発明にとって重要な詳細を描いた図面を参照した本発明の実施例に関する説明、ならびに特許請求の範囲に示されている。個々の特徴は各々それ自体単独で実現してもよいし、あるいは本発明の変形実施例において複数の特徴を任意に組み合わせて実現してもよい。
【実施例】
【0019】
図面に本発明の有利な実施例が描かれており、以下でそれらの図面を参照しながら本発明の実施例について詳しく説明する。
【0020】
図1は本発明のアーク放電識別装置を有するプラズマプロセス2のための本発明の電力供給装置1の概略的なブロック回路図を示す。本発明の電力供給装置1はこの場合にはプラズマプロセス2の直流電圧供給のための直流電圧源3ならびにこの直流電圧源3と信号技術的な作用接続において設けられているアーク放電識別装置4を含む。アーク放電識別装置4は監視ユニット5、制御ユニット6ならびにタイマーユニット7を含む。制御ユニット6はさらにメモリユニット8ならびに計算ユニット9を有する。監視ユニット5は信号技術的に直流電圧源3に接続されている。監視ユニット5及びタイマーユニット7はそれぞれ信号技術的に制御ユニット6に接続されている。制御ユニット6は信号技術的に直流電圧源3に接続されている。
【0021】
プラズマプロセス2におけるアーク放電(いわゆるアーク)の識別のために、プラズマ直流電圧供給部、すなわち直流電圧源3の少なくとも1つの特性量KGの監視のための監視ユニット5が構成される。当業者には周知のように、ここに挙げる特性量はとりわけ直流電圧源3の電圧又は電流である。とくに高周波(HF)プラズマ電力供給において使用されるような、電力特性量の測定もここでは考えられており、例えば順方向電力PI及び逆方向電力PRの測定である。アーク放電識別のために外部特性量を使用することも可能である。
【0022】
プラズマプロセス2におけるアーク放電の発生の際には、周知のやり方で相応の電圧降下乃至は電圧降伏が相応に高くなった電流フローと結びついて生じる。アーク放電のこれらの影響は監視ユニット5による特性量KG乃至は相応の特性量信号の監視によって検出される。監視ユニット5はさらに相応の監視信号MSを制御ユニット6に出力するように構成されている。監視信号MSの出力によって制御ユニット6は監視ユニット5によってこの監視ユニット5が特性量KGの監視によってプラズマプロセス2におけるアーク放電の存在を識別したことを報知される。
【0023】
制御ユニット6自体は監視ユニット5からの監視信号MSを受信するように構成されている。以下の記述の中でさらに詳しく記述されるように、直流電圧源3をプラズマプロセス2におけるアーク放電の抑制又は消去のために制御するために、制御ユニット6は監視信号MSならびに更に別の受信された信号に応じて適当なやり方で制御信号SSを発生し、この直流電圧源3に出力する。とりわけ制御信号SSによって、当業者には周知であるが、プラズマ直流電圧供給部、すなわち直流電圧源3の中断又は極性反転が惹起される。
【0024】
この記述においては先に例として言及したアーク放電の抑制のための措置を一般化して「対抗措置」とも呼ぶ。
【0025】
さらにアーク放電識別装置4の中に含まれるタイマーユニット7は時間基準信号TSを制御ユニット6に供給するように構成されている。従って、監視ユニット5とタイマーユニット7との協働によって、監視ユニット5により発生され制御ユニット6に出力される上記監視信号MSのような監視信号を、その発生乃至は出力時点に関して時間的に割り当てることが可能である。言い換えれば、監視ユニット5とタイマーユニット7との協働によって、すなわち監視信号MSと時間基準信号TSとの協働によって、制御ユニット6は、いつ所定の監視信号MSが発生乃至は出力されたのか識別することができる。さらに、制御ユニット6は時間基準信号TSに基づいてこの制御ユニット6自体が上記の制御信号SSを発生乃至は出力する時点を識別乃至は決定することもできる。相応の情報が制御ユニット6のメモリユニット8に格納され、計算ユニット9によって使用される。これについては後ほどさらに詳しく説明する。
【0026】
上記の本発明の実施形態に基づいて電力供給装置1乃至はアーク放電識別装置4は、以下に図2〜5を参照して詳しく説明するように、プラズマプロセスの動作のための本発明の方法を実施することができる。
【0027】
図2は本発明の方法の実施形態による例示的な、図式化されたアーク放電消去サイクルの時間経過線図を示す。とりわけ図2は、エネルギ供給の中断及び場合によっては直流電圧源3(図1)の出力電圧の極性反転のための電圧パルスPの時間経過を示し、この結果、このようにしてプラズマプロセス2(図1)において識別されたアーク放電を消去する。時点〔1〕、例えば時間t=0において、上記図1にもとづいて既に詳しく記述したように、プラズマプロセスにおけるアーク放電が識別される。次いで、制御ユニット6(図1)が相応の制御信号SSを直流電圧源3に送信することによって、〔2〕に、開始時点に、例えば時間t=0.05μsに、すなわち数ナノ秒後に消去パルスが開始される。これは、時点〔1〕に又はすぐその後に監視ユニット5から受信したプラズマプロセスにおけるアーク放電の存在を示す監視信号MSに応じて行われる。時点〔3〕に、例えばt=0.7μsに、電力供給が中断される。図2の実施例によれば、本発明ではそのうえさらに直流電圧源3(図1)の出力電圧の極性反転(U>0)が行われる。
【0028】
アーク放電の識別以来の、すなわち時点〔1〕以来の、すなわち有利には当該開始時点の前の可変的な時間以来の全時間の間に、少なくともこの当該開始時点から開始して、プラズマプロセス2の乃至は直流電圧源3の電流及び/又は電圧経過が、すなわち特性量KGが非常に高い反復レートで監視ユニット5によってサンプリングされ、予め設定された規準と比較される。これらの規準は固定された閾値を下回ること乃至は上回ることであってもよい。これらの閾値は可変的であってもよく、例えばこれらの閾値は予め設定された時間インターバルに亘って監視される特性量の平均値又はピーク値であってもよい。これらの規準は特性量のダイナミックな挙動を含んでいてもよく、従って、例えば電圧の変化速度dV/dt又は電流dI/dt又は電力dP/dtの尺度であってもよい。規準は特性量の周波数スペクトルでもよい。複数の規準のコンビネーションでも可能である。
【0029】
上記の例示的に説明した規準に基づいて監視ユニット5によっていわゆる「ハードアーク」が、すなわち自ずと消滅しないアーク放電が識別されると、パルスPは時点〔3〕に到達した状態でそのハードアークの識別から延長された消去時間t2の間継続される。この消去時間は本発明によれば有利には例えば20μsの予め設定された最小持続時間又は最小値t2minを有する。図2の例によれば、時点〔3〕と〔4〕との間の所定の時間にこのようなハードアークが識別され、この結果、延長された消去時間t2≧t2minが線図に図示されているようにアクティブとなる。この消去時間は時点〔6〕まで延長され、この時点〔6〕には電力供給が再び活性化され、これに基づいて時点〔7〕にプラズマプロセスのエネルギ供給の中断が、従ってパルスPが終了する。上記の関連は図2において部分的に破線によって図示されている。
【0030】
これに対して高い反復レートによりサンプリングされた電流又は消去電圧経過に従っていわゆる「ショートアーク」が識別される場合、時点〔4〕に、例えばt=2.7μs後に、プラズマプロセスの電力供給乃至はエネルギ供給が再び活性化され、パルスPが〔5〕において、例えばt=3.5μs後に終了する。このショートアークは通常はハードアークほど強くはあらわれずにとりわけ自ずと再び消滅するアーク放電である。従って、ショートアークの場合にはパルスの全持続時間t1は図示された実施例によればほぼt1=3.5μsである。一般的にこのようなパルスの持続時間は1〜5μsの時間を越えるべきではない。なぜなら、さもなければプラズマプロセスの処理レートが、例えばデポジションレートがあまりにも大きく損なわれてしまうからである。
【0031】
上述のように、消去過程の間の特性量の経過から、ショートアークであるのか又はハードアークであるのかが識別される。ハードアークがある場合にはエネルギ供給の中断又は極性反転の持続時間は、ハードアークを確実に消去するために、相応に延長される。このようにして本発明によればあらゆる種類のアーク放電ができるだけ小さいアークエネルギで及びできるだけ短時間のエネルギ供給の中断によって消去されることが達成される。よって、アーク放電が頻繁に発生する場合には一種の規則的なパルス動作が生じる。アーク放電が識別される毎に、とりわけショートアークの際には、これに関連する短時間パルス(パルス持続時間≦1〜5μs)によって、更なるアーク放電の発生が遅延され、これによりアーク放電の頻繁な発生及び処理レートの相応の損害に対抗することが達成される。
【0032】
本発明の枠内で特定の実施形態においてさらに以前のアーク放電の発生以来経過した時間も後続のアーク放電の「処理」に取り入れることが行われる。すなわち図2の図示においてパルスPの終了後の、すなわち時点〔5〕の後の例えば5μsの時間T1内に新たにアーク放電が識別されるならば、これは図2には明示的に図示されてはいないが、延長される消去時間t2が所定の値又は所定の延長インターバル[Δt2+]だけ増大される。この場合、延長インターバルΔt2+はとりわけ5μsである。延長された消去時間t2の新たな値、すなわちt2’=t2+[Δt2+]は次のハードアークの識別において効力を有し、この場合上述のように相応にハードアークの消去のために使用される。各々の消去されたハードアークの後に、すなわち図2の時点〔7〕に続いて、第2の消去時間t2が予め設定された値又は短縮インターバル[Δt2−]だけ既述の事前調整された初期値又は最小値t2minまで減少される。これは図2の実施例の場合には、上述のように、t2min=20μsである。
【0033】
言い換えれば、パルスPの終了後時間t1内にあらたにアーク放電が識別される場合、これは本発明の枠内ではこれまで使用された消去パラメータがプラズマプロセスにおけるアーク放電の発生をまだ十分に効率的には抑制していないことの兆候として評価される。従って、より良好にアーク放電の発生に対抗するために消去時間t2がさらに増大される。発生したアーク放電が成功裡に消去されるたび毎に、本発明では相応の消去時間の低減が行われる。この場合消去時間の低減は有利にはその増大よりもゆっくりと行われる。延長インターバルは上述のように有利には5μsであるが、消去時間t2の低減は事前調整された初期値までほんの1μsのステップで徐々に行われる。この関連は図3にさらにまとめて図示されている。
【0034】
図3は本発明の方法の更に別の構成の図示のためのフローチャートを示す。図3の本発明の方法はステップ300で開始する。次のステップ302では、プラズマ直流電圧供給の少なくとも1つの電気特性量の監視が、図1及び2において既に詳細に説明したように行われる。次いで、ステップ304において、監視によってアーク放電の識別がおこなわれたかどうか検査される。イエス(j)の場合、この方法がステップ306に進む。さもなければ(n)、この方法はステップ302に戻る。
【0035】
ステップ306においては、図2に基づいて詳しく上で記述されたように、ステップ304で識別されたアーク放電が以前のアーク放電抑制パルスの終了以来の予め設定された時間インターバル内にあるかどうかが検査される。この時間インターバル内にない場合(n)、この方法は直ぐに(A)に進む。さもなければ(j)、ステップ308において識別されたハードアークに対する消去時間が、既述のように延長インターバルだけ増大される。次いでこの方法は(A)に進む。
【0036】
(A)から本発明の方法は2つのパラレルな方法プロットに分岐し、これらのパラレルな方法プロットは基本的に同時に実施される。一方では、ステップ310においてまず最初にアーク放電消去パルスが開始され、次いでプラズマプロセスの電力供給が中断される(ステップ312)。他方で、ステップ314において基本的にステップ310及び312にパラレルに、同様に図2で詳しく記述されたように非常に高い反復レートで電流及び電圧経過の強化された監視が行われる。サンプリングされた電流及び/又は電圧経過は予め設定された規準と比較され、この結果、続いてステップ316においてショートアークとハードアークとの区別が行われる。ステップ310及び312乃至はステップ314に続いて、本発明の方法は図3によれば(B)に進むのである。
【0037】
次いでステップ316において高い反復レートによってサンプリングされた電流又は電圧経過に基づいてハードアークが識別されたかどうかが検査される。ハードアークが識別された場合(j)、図2で同様に既述したようにステップ318において第2の延長された消去時間が活性化される。次いで、ステップ320において、ハードアークの消去の後で、事前調整された初期値にまだ到達しない限りにおいて第2の消去時間が低減インターバルの値、例えば1μsだけ低減される。この方法は次いでステップ322で終了する。
【0038】
ステップ316においてハードアークではなくショートアークしか識別されない場合には(n)、ステップ324においてより短時間の第1の消去時間(図2ではt1)の間だけ上記のことが行われる。その後でこの方法は同様にステップ322で終了する。
【0039】
アーク放電消去パルスの終了後所定の時間の経過した後で、本発明では新たに短時間パルス化される。このことは関連従来技術によれば周期的に行われ、処理レートに関する相応の欠点の原因となる。本発明によれば、これに対して、次のパルスのトリガまでのパルスの終了後のタイムスパンは固定的に予め設定されておらず、直流電圧源3(図1)の出力電流及び出力電圧の時間経過に依存してならびに少なくとも1つの以前のアーク放電消去パルスの時点から決定される。この場合、図1の制御ユニット6の計算ユニット9によるパルス開始時点の相応の計算が各パルスの後に改めて実施される。
【0040】
図4は本発明の方法の更に別の実施形態の図示のための時間経過線図を示す。図4ではP(−1)、P(0)及びP(x)においてその都度アーク放電消去パルスが概略的に図示されている。この場合、P(−1)は以前のパルス、P(0)は現在のパルス、そしてP(x)は将来の(新たな)後続のパルスを示す。時間軸上のマーキングt(−1)、t(0)及びt(x)はP(−1)、P(0)及びP(x)の、すなわちこれにより惹起される対抗措置のその都度の開始時点である。パルスP(−1)の終了とパルスP(0)の開始時点t(0)との間には時間T3があり、他方でパルスP(0)の終了とパルスP(x)の開始時点t(x)との間には第2の時間T2がある。
【0041】
本発明ではパルスP(0)の終了以来の第2の時間T2の経過後に新たなパルス、すなわちパルスP(x)がトリガされ、時間T2は新たな各々のパルスP(x)毎にその都度の現在のパルスP(0)に関連して新たに計算される。この場合、第2の時間T2の計算はとりわけ現在のパルスP(0)の以前のパルスP(−1)に対する時間間隔、すなわち時間T3の値を基礎とする。
【0042】
例えば次のパルスP(x)のトリガの時点t(x)は次の関係式によって決定される:
t(x)=[t(0)−t(−1)]・k
この場合、t(x)は次のパルスP(x)の開始時点、すなわち次の消去の開始時点であり、t(−1)は以前のパルスP(−1)の開始時点であり、t(0)は瞬時のパルスP(0)の開始時点であり、kは係数又は数値ファクタであり、この係数又は数値ファクタはタイムスパンT3に対するタイムスパンT2の本発明の延長又は短縮を制御する。以前のパルスP(−1)が実際に識別されたアーク放電に起因した場合、kにはファクタk1が選択され、このファクタk1は典型的には1より小さい、k1<1。この場合ファクタk1は典型的には0.5と1との間の範囲にある。このようにして次のパルスP(x)は現在のパルスP(0)の比較的近傍にくる。すなわち、T2<T3である。前のパルスP(−1)が予期されたアーク放電によりトリガされた場合、すなわち、というのも実際にはこのようなアーク放電が電気特性量に基づいて識別されたのではなく、本発明の方法によって予期された場合には、ファクタk2が選択され、このファクタk2は典型的には1より大きく、k2>1である。このようにしてパルスP(x)とP(0)との間の時間間隔は増大する。すなわちT2>T3である。
【0043】
次に前述の実施形態が簡単な数値例に基づいて説明される。現在時点がt=0と仮定する。次いでt(−1)=−25μs、t(0)=−1μs、k=k1=0.5であると、t(x)=(−1μs−(−25μs))・0.5=12μsである。従って、t(x)−t=12μsの後で新たなパルスP(x)がトリガされ、パルス間隔が減少する。
【0044】
本発明によればこの場合時点t(x)に対する制限値乃至は所定の時間インターバルにおけるパルス頻度が規定されうる。例えば、本発明の直流電圧供給装置1(図1)の電力スイッチの保護のために時間的な制限値が定義されうる。この制限値は電力スイッチの負荷耐性が許容するよりも頻発にはパルスが発生しないようにする。所定のプラズマプロセスが反復されるパルスの最小値を要求する場合、更に別の下限値が定められうる。例えばプラズマデポジションプロセスにおける所定の層特性の達成のためには低い周波数を有する周期的パルスが有利であり得る。
【0045】
上記の実施形態は次に図5でさらにまとめて示される。
【0046】
図5は本発明の方法の更に別の実施形態の図示のためのフローチャートを示す。図5のこの本発明の方法はステップ500で開始し、大部分は図1の制御ユニット6の計算ユニット9において経過する。
【0047】
まず最初にステップ502において前のパルスの開始時点t(−1)が例えば制御ユニット6のメモリユニット8からの相応の値の読み出しによってもとめられる。続いて、ステップ504において相応のパルスP(−1)がアーク放電によりトリガされたパルスなのか又は予期されたパルスなのかが検査される。またこれは本発明ではメモリユニット8に格納されている相応の情報の検査によっても行われうる。パルスP(−1)が実際に識別されたアーク放電によってトリガされた場合(j)、すなわち、例えば監視信号MSの相応の信号状態(例えばMS=1)と結合されている場合、同時に次の開始時間によってステップ506においてファクタk=k1が選択される。さもなければ、ステップ508においてファクタk=k2が選択される。いずれにせよ、次いでステップ510において提示された公式によって次のパルスP(x)の開始時点t(x)の計算が行われ、ファクタkに対してステップ506又は508に従って相応の値が使用される。続いてステップ512において場合によっては計算されたt(x)の到達まで動作中のプラズマプロセスにおいて上述したようにアーク放電が識別されるかどうかが検査される。イエスの場合(j)、ステップ514において図3を参照して上述されたような措置がとられる。さもなければ(n)、次のパルスP(x)が計算された開始時点t(x)によってステップ516において発生される。この方法はいずれにせよステップ518で終了する。
【0048】
本発明の利点及び実施形態の記述はプラズマプロセスの直流電圧供給への適用に集中されているが、本発明は同様にバイポーラにパルス化された中波及び高周波(HF)プラズマ電流供給にも適用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【図1】本発明のアーク放電識別装置を有するプラズマプロセスのための本発明の電力供給装置の概略的なブロック回路図を示す。
【図2】本発明の方法の実施形態によるアーク放電消去サイクルの時間経過線図を示す。
【図3】本発明の方法の更に別の実施形態の図示のためのフローチャートを示す。
【図4】本発明の方法の更に別の実施形態の図示のための時間経過線図を示す。
【図5】本発明の方法の更に別の実施形態の図示のためのフローチャートを示す。
【符号の説明】
【0050】
1 電力供給装置
2 プラズマプロセス
3 直流電圧源
4 アーク放電識別装置
5 監視ユニット
6 制御ユニット
7 タイマーユニット
8 メモリユニット
KG 特性量
MS 監視信号
SS 制御信号
TS 時間基準信号
P アーク放電消去パルス

【特許請求の範囲】
【請求項1】
プラズマプロセス(2)の動作の際のアーク放電の抑制のための方法であって、アーク放電の抑制のための対抗措置としてプラズマプロセスの電力供給は少なくとも1つの特性量(KG)に依存して中断される又は極性反転される、プラズマプロセス(2)の動作の際のアーク放電の抑制のための方法において、
対抗措置の時間経過は選択的に次のパラメータのうちの少なくとも1つに依存して決定される、すなわち、
少なくとも1つの以前の対抗措置に対する時間間隔(T3);
当該開始時点以来の又は当該開始時点の前の可変的な時間以来の少なくとも1つの特性量(KG)の経過;
以前の対抗措置が少なくとも1つの特性量の経過に基づいてトリガされたか又は少なくとも1つの以前の対抗措置に対する時間間隔に基づいてトリガされたかの区別
に依存して決定されることを特徴とする、プラズマプロセス(2)の動作の際のアーク放電の抑制のための方法。
【請求項2】
対抗措置の開始時点(t(x))は選択的に次のパラメータのうちの少なくとも1つに依存して決定される、すなわち、
少なくとも1つの以前の対抗措置に対する時間間隔(T3);
当該開始時点以来の又は当該開始時点の前の可変的な時間以来の少なくとも1つの特性量(KG)の経過;
以前の対抗措置が少なくとも1つの特性量の経過に基づいてトリガされたか又は少なくとも1つの以前の対抗措置に対する時間間隔に基づいてトリガされたかの区別
に依存して決定されることを特徴とする、請求項1記載の方法。
【請求項3】
対抗措置はアーク放電の識別の後で直ぐに、すなわち数百ナノ秒内にトリガされることを特徴とする、請求項1又は2記載の方法。
【請求項4】
対抗措置は第1の時間インターバル(t1)の間に実施され、前記第1の時間インターバル(t1)の持続時間は1〜5μsであることを特徴とする、請求項3記載の方法。
【請求項5】
電気特性量(KG)の経過が自ずと消滅しないアーク放電を示す場合には、トリガされた対抗措置の持続時間(t1)は特性量(KG)の経過に依存して第2の時間インターバル(t2)の活性化によって延長されることを特徴とする、請求項1〜4のうちの1項記載の方法。
【請求項6】
対抗措置の終了後の第1の予め設定された時間(T1)内に新たにアーク放電が識別される場合には、第2の時間インターバル(t2)が延長インターバル(Δt2+)だけ延長されることを特徴とする、請求項5記載の方法。
【請求項7】
第1の予め設定された時間(T1)内に新たなアーク放電が識別されない場合には、第2の時間インターバル(t2)が低減インターバル(Δt2−)だけ短縮されることを特徴とする、請求項5又は6記載の方法。
【請求項8】
第2の時間インターバル(t2)は段階的に予め設定された最小値(t2min)まで短縮されることを特徴とする、請求項7記載の方法。
【請求項9】
対抗措置の終了以来第2の時間(T2)が経過した後で新たに対抗措置が実施され、前記第2の時間は新たな対抗措置毎に新たに決定されることを特徴とする、請求項1〜8のうちの1項記載の方法。
【請求項10】
第2の時間(T2)は電気特性量(KG)の経過及び/又は少なくとも1つの以前の対抗措置に対する時間間隔(T3)に基づいて決定されることを特徴とする、請求項9記載の方法。
【請求項11】
第2の時間(T2)の決定は次の関係式に従って行われる、すなわち、
t(x)=[t(0)−t(−1)]・k
ただしここでt(x)は新たな対抗措置の開始時点、t(0)は瞬時の対抗措置の開始時点、t(−1)は以前の対抗措置の開始時点、そしてkは数値ファクタを示すことを特徴とする、請求項9又は10記載の方法。
【請求項12】
以前の対抗措置がアーク放電の識別に基づいてトリガされた場合、k=k1、0.5≦k1≦1が選択され、
以前の対抗措置がアーク放電の識別に依存せずに第2の時間(T2)の経過後にトリガされた場合、k=k2、k2>1が選択されることを特徴とする、請求項11記載の方法。
【請求項13】
対抗措置のタイムシーケンスに対して下限値及び/又は上限値が予め設定されることを特徴とする、請求項1〜12のうちの1項記載の方法。
【請求項14】
プラズマプロセス(2)に対するアーク放電識別装置(4)は次のものを有する、すなわち、
監視ユニット(5)を有し、該監視ユニット(5)は特性量に基づくプラズマプロセスにおけるアーク放電の識別のために少なくとも1つの特性量(KG)を監視するために及び相応の監視信号(MS)を出力するために構成されており、
制御ユニット(6)を有し、該制御ユニット(6)は監視ユニット(5)からの監視信号の受信のために及びアーク放電の抑制のための対抗措置の惹起のための制御信号(SS)を出力するために構成されており、
タイマーユニット(7)を有し、該タイマーユニット(7)は制御ユニット(6)に時間基準信号(TS)を供給するために構成されている、プラズマプロセス(2)に対するアーク放電識別装置(4)において、
制御ユニット(6)は請求項1〜13のうちの1項記載の方法を実施するために構成されていることを特徴とする、プラズマプロセス(2)に対するアーク放電識別装置(4)。
【請求項15】
プラズマプロセスの電力供給のための電力源(3)を有するプラズマ電力供給装置(1)において、
電力源(3)と作用接続された請求項14記載のアーク放電識別装置(4)を特徴とする、プラズマプロセスの電力供給のための電力源(3)を有するプラズマ電力供給装置(1)。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2008−226839(P2008−226839A)
【公開日】平成20年9月25日(2008.9.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−57910(P2008−57910)
【出願日】平成20年3月7日(2008.3.7)
【出願人】(505169226)ヒュッティンガー エレクトローニク ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング ウント コンパニー コマンディートゲゼルシャフト (29)
【氏名又は名称原語表記】HUETTINGER Elektronik GmbH + Co. KG
【住所又は居所原語表記】Boetzinger Strasse 80,D−79111 Freiburg,Germany
【Fターム(参考)】