説明

プラズマ処理システムのアーク検出装置

【課題】プラズマ処理装置において発生するソフトアークの発生を確実に検出することのできる、プラズマ処理システムのアーク検出装置を提供する。
【解決手段】本願発明のプラズマ処理システムのアーク検出装置は、高周波電力を発生する高周波電源装置1と、高周波電源装置1から供給される高周波電力によりプラズマを発生させて被加工物Bに所定の加工処理を行うプラズマ処理装置4とを備えるものであって、プラズマ処理装置4のプラズマ処理中に、プラズマ処理装置4からの反射電力の変化を示す情報を検出する検出し、この反射電力の変化に関する情報の変化パターンに基づいて、プラズマ処理装置4における被加工物の加工品質に悪影響を与える微小なアークの発生を検出するアーク検出部17を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は、半導体製造工程に使用されるプラズマ処理システムのアーク検出装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、プラズマ処理システムとしては、図6に示すように、例えば高周波電力を出力するための高周波電源装置51と、この高周波電源装置51に伝送ケーブル52を介して接続され、高周波電源装置51の入力インピーダンスと負荷インピーダンスとを整合するためのインピーダンス整合器53と、このインピーダンス整合器53に負荷接続部54を介して接続され、例えば負荷としてのプラズマ処理装置55とで構成されている。
【0003】
高周波電源装置51は、プラズマ処理装置55に対して高周波電力を供給するための装置であり、例えば図示しない電力増幅回路や発振回路等を備え、所定の電力に設定された高周波電力をインピーダンス整合器53を介してプラズマ処理装置55に出力する。
【0004】
プラズマ処理装置55は、エッチングやCVD等の方法を用いて半導体ウェハや液晶基板等の被加工物を加工するための装置である。より詳細には、プラズマ処理装置55は、プラズマチャンバーの内部に備えられた真空容器に一対の電極を設けた構成とされ、その真空容器にプラズマ発生用の窒素ガス又はアルゴンガス等が導入され、一対の電極間に高周波電力を供給して上記ガスを電離させて、プラズマを発生させるものである。発生されたプラズマは、半導体ウェハや液晶基板等の被加工物を加工するために利用される。
【0005】
プラズマ処理装置55では、プラズマ処理中にアークが発生することがある。アークが発生すると、それによって半導体ウェハや液晶基板等の被加工物を損傷したり、アークが大きい場合は、プラズマ処理装置55を破損してしまうことがあるので、高周波電源装置51では、通常、アークの発生を事前に検出し、プラズマ処理装置55に対する高周波電力の供給量を低減したり、供給自体を停止させることが行われている。
【0006】
例えば、特開平8−167500号公報には、プラズマ処理装置55への入射電力やプラズマ処理装置55からの反射電力を検出し、その検出値の変化パターンからアーク発生を判別し、アーク発生と判別されたときには高周波電源装置51の出力を抑制したり、出力を停止したりすることが記載されている。
【0007】
【特許文献1】特開平8−167500号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
プラズマ処理装置55では、上記のように、真空容器に封入した窒素ガスやアルゴンガスに高周波電力を供給してこれらのガスをイオン化し、このイオン化したガスを被加工物に照射することにより所定のプラズマ処理を行うようになっているため、このプラズマ処理中のプラズマ処理装置55のインピーダンスは常に変動し、不安定な状態となっている。
【0009】
このため、可及的にプラズマ処理装置55のインピーダンスの変動に関係なく、高周波電源装置51から供給される高周波電力が効率良くプラズマ処理装置55に供給されるようにするため、インピーダンス整合器53が設けられている。
【0010】
プラズマ処理装置55で正常にプラズマ処理が行われる場合は、プラズマ処理装置55のインピーダンスが変動してもインピーダンス整合器53により効果的にインピーダンスの整合が図られるので、プラズマ処理装置55からの反射電力は極めて小さい。しかしながら、プラズマ処理装置55でアークが発生し、例えば1回の放電量で被加工物を損傷したり、プラズマ処理装置55を破損したりするようなアーク(以下、「ハードアーク」という。)の場合は、プラズマ処理装置55のインピーダンスが急変し、インピーダンス整合器53によるインピーダンス整合動作が追従できないので、プラズマ処理装置55からの反射電力が急増することになる。
【0011】
上記公報に記載される反射電力の変化に基づくアーク検出方法は、プラズマ処理中にプラズマ処理装置55からの反射電力の変化率を監視し、所定の閾値以上の急激な反射電力の変化が生じたときにアーク放電が発生したと判別してアークの検出信号を出力するものであるが、主として、ハードアークの検出を目的とするため、所定の閾値は、その目的を達成し得るような適当な値に設定されているのが通常である。
【0012】
一方、アークの中には、1回の放電では被加工物を損傷するほどではないが、放電が連続して繰り返されると、被加工物に処理むらや焦げ等の加工品質に悪影響を与える微小なアーク(以下、「ソフトアーク」という。)が存在する。
【0013】
そして、近年は、被加工物の品質を可能な限り高精度に管理するために、プラズマ処理中のプラズマ処理装置55内のソフトアークの発生状態についても関心が高まっている。
【0014】
上記従来のアーク検出方法によれば、アーク発生を判別するための所定の閾値を小さくすれば、ソフトアークを検出することも可能になるが、ソフトアーク発生時の反射電力の変化量は微小であるので、通常のインピーダンス変動に基づく反射電力の変化量と区別できない場合が多く、所定の閾値を小さくしたことによって、かえって通常のインピーダンス変動をアーク発生と誤検出することが多くなるという問題が生じる。
【0015】
上記したように、プラズマ処理システムにおいては、通常、アークの発生を検出した場合には、プラズマ処理装置55に対する高周波電力の供給量を抑制したり、停止させたりするので、アークの誤検出によってプラズマ処理システムが停止されると、液晶基板等の生産性を著しく低下させるという問題が生じる。
【0016】
ユーザにとっては、プラズマ処理中にプラズマ処理装置55内で生じるアークを検出し、プラズマ処理装置55等の損傷防止等のための適切な措置を速やかに行うことは重要であるが、その一方でアーク誤検出によるプラズマ処理の中断若しくは停止を防止することもプラズマ処理装置55等の損傷防止と同様に重要である。
【0017】
したがって、従来のアーク検出方法を単純にソフトアークの検出に適用することはできず、確実にソフトアークを検出することのできる方法が要望されるが、従来、この種のアーク検出方法は全く提案されていない。
【0018】
本願発明は、上記した事情のもとで考え出されたものであって、プラズマ処理装置において発生するソフトアークの発生を確実に検出することのできるプラズマ処理システムのアーク検出装置を提供することを、その課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0019】
上記の課題を解決するため、本願発明では、次の技術的手段を講じている。
【0020】
本願発明によって提供されるプラズマ処理システムのアーク検出装置は、高周波電力を発生する高周波電源装置と、前記高周波電源装置から供給される高周波電力によりプラズマを発生させて被加工物に所定の加工処理を行うプラズマ処理手段とを備えるプラズマ処理システムのアーク検出装置であって、前記プラズマ処理手段のプラズマ処理中に、当該プラズマ処理手段からの反射電力の変化を示す情報を検出する検出手段と、前記検出手段により検出される前記反射電力の変化に関する情報の変化パターンに基づいて、前記プラズマ処理手段における前記被加工物の加工品質に悪影響を与える微小なアークの発生を検出するアーク検出手段と、を備えたことを特徴としている(請求項1)。
【0021】
この構成によれば、高周波電力が高周波電源装置からプラズマ処理手段に供給されると、プラズマ処理手段において、プラズマが発生されて被加工物に所定の加工処理が行われる。このプラズマ処理中において、検出手段によってプラズマ処理手段からの反射電力の変化を示す情報が検出される。そして、検出手段により検出される反射電力の変化に関する情報の変化パターンに基づいて、プラズマ処理手段における被加工物の加工品質に悪影響を与える微小なアーク(ソフトアーク)の発生がアーク検出手段によって検出される。ここで、出願人が確認したところでは、プラズマ処理手段に対する高周波電力の供給中にソフトアークが発生するときには、プラズマ処理手段内で反射電力の変化に関する情報の変化パターン(例えば所定時間内に微小なアーク放電が複数回断続的に生じるといった変化パターン)が生じることが判明している。そのため、本願発明では、このような変化パターンに基づいて、ハードアークに比べアーク放電量が微小なソフトアークを確実に検出することができる。
【0022】
また、上記プラズマ処理システムのアーク検出装置において、前記検出手段は、前記反射電力の微小変化に関する情報を検出する微小変化検出手段と、予め定める所定時間内に前記微小変化検出手段によって検出された微小変化の回数を計数する計数手段と、前記計数手段によって計数された回数が予め定める基準回数を越えるか否かを判別する判別手段と、によって構成されており、前記アーク検出手段は、前記判別手段により前記計数手段による計数回数が前記基準回数を越えたとの判別結果に基づき、前記微小なアークの発生を検出するとよい(請求項2)。
【0023】
また、上記プラズマ処理システムのアーク検出装置において、前記反射電力の変化に関する情報には、少なくとも前記プラズマ処理手段からの反射電力の変化、前記プラズマ処理手段の入力端における反射係数、電圧、電流又はインピーダンスの変化が含まれる(請求項3)。
【0024】
また、上記プラズマ処理システムのアーク検出装置において、前記微小変化検出手段は、前記プラズマ処理手段から反射される高周波電力を検出する反射電力検出手段と、前記反射電力検出手段によって検出された反射電力の値が微小変化したか否かを判別する微小変化判別手段と、によって構成されるとよい(請求項4)。
【0025】
また、上記プラズマ処理システムのアーク検出装置において、前記微小変化判別手段は、前記反射電力検出手段によって検出された反射電力の微分値を算出する微分値演算手段と、前記微分値演算手段によって算出された前記反射電力の微分値が予め定める第1閾値を下回った直後に、前記第1閾値より値が大きい第2閾値を上回ったことに基づいて、反射電力の値が微小変化したと判別するとよい(請求項5)。
【0026】
また、上記プラズマ処理システムのアーク検出装置において、前記所定時間の値を変更する時間変更手段をさらに備えるとよい(請求項6)。
【0027】
また、上記プラズマ処理システムのアーク検出装置において、前記第1閾値及び第2閾値を変更する閾値変更手段をさらに備えるとよい(請求項7)。
【0028】
また、上記プラズマ処理システムのアーク検出装置において、前記基準回数の値を変更する回数変更手段をさらに備えるとよい(請求項8)。
【0029】
また、上記プラズマ処理システムのアーク検出装置において、前記アーク検出手段により微小なアークが発生したとの判定結果が出力されると、その判定結果を報知する報知手段をさらに備えるとよい(請求項9)。
【0030】
また、上記プラズマ処理システムのアーク検出装置において、前記アーク検出装置は、前記高周波電源装置の内部に設けられているとよい(請求項10)。
【0031】
本願発明のその他の特徴および利点は、添付図面を参照して以下に行う詳細な説明によって、より明らかとなろう。
【発明を実施するための最良の形態】
【0032】
以下、本願発明の好ましい実施の形態を、添付図面を参照して具体的に説明する。
【0033】
図1は、本願発明に係るアーク検出装置が適用されるプラズマ処理システムの一例を示す図である。このプラズマ処理システムは、半導体ウェハや液晶基板等の非加工物に対して高周波電力を供給して、例えばプラズマエッチングといった加工処理を行うものである。このプラズマ処理システムは、周波数可変の高周波電源装置1、伝送線路2、インピーダンス整合器3、負荷としてのプラズマ処理装置4で構成されている。
【0034】
高周波電源装置1には、例えば同軸ケーブルからなる伝送線路2を介してインピーダンス整合器3が接続され、インピーダンス整合器3にはプラズマ処理装置4が接続されている。
【0035】
高周波電源装置1は、プラズマ処理装置4に対して、例えば数百kHz以上の出力周波数を有する高周波電力を供給するための装置である。高周波電源装置1については後述する。
【0036】
インピーダンス整合器3は、高周波電源装置1とプラズマ処理装置4とのインピーダンスを整合させるものであり、図示しないが、インピーダンス素子であるキャパシタやインダクタ等を備えている。より具体的には、例えば高周波電源装置1の出力端から高周波電源装置1側を見たインピーダンス(出力インピーダンス)が例えば50Ωに設計され、高周波電源装置1が、特性インピーダンス50Ωの伝送線路2でインピーダンス整合器3の入力端に接続されているとすると、インピーダンス整合器3は、当該インピーダンス整合器3の入力端からプラズマ処理装置4側を見たインピーダンスを50Ωに整合する。
【0037】
プラズマ処理装置4は、半導体ウェハや液晶基板等の被加工物BをエッチングやCVD等の方法を用いて加工するための装置である。プラズマ処理装置4は、プラズマを発生させるための窒素ガスやアルゴンガス等の所定のガスを封入するための容器(チャンバー)41と、高周波電源装置1からの高周波電力を容器41内のガスに供給するための一対の電極42,43を備えている。プラズマ処理装置4では、被加工物Bの加工目的に応じて各種の加工プロセスが実行される。例えば、被加工物Bに対してエッチングを行う場合には、そのエッチングに応じたガス種類、ガス圧力、高周波電力の供給電力値、及び高周波電力の供給時間等が適切に設定された加工プロセスが行われる。
【0038】
加工プロセスでは、被加工物が配置される容器41内に、例えば窒素やアルゴン等のプラズマ発生用ガスが封入され、電極42,43に高周波電力の供給が開始されると、電極42,43間に高周波電界Pが生じ、この高周波電界Pによりプラズマ発生用ガスがプラズマ状態になる。そして、プラズマ状態になったガスを用いて被加工物Bが加工される。
【0039】
本実施形態における高周波電源装置1は、高周波電力をプラズマ処理装置4に対して供給するものであるとともに、プラズマ処理装置4からの反射電力の変化を示す情報、例えば、反射電力自体の変化やプラズマ処理装置4の入力端における反射係数、電圧、電流、又はインピーダンス等の変化を検出し、その反射電力の変化を示す情報の変化パターンに基づいて、プラズマ処理装置4におけるソフトアークの発生を検出するものである。
【0040】
また、ソフトアークとは、上述したように、ハードアークに比べ、アーク放電量が微小なアークであって、ハードアークに比べ反射電力量の変化量が時間的に緩やかな特性を有するアークをいうが、出願人が確認したところでは、プラズマ処理装置4に対する高周波電力の供給中にソフトアークが発生するときには、プラズマ処理装置4内で所定時間T内に微小なアーク放電が複数回断続的に生じることが判明した。そして、ソフトアークが発生するときには、所定時間T内に微小なアーク放電が繰り返されるのに応じてプラズマ処理装置4のインピーダンスの値が所定時間T内で微小変化を繰り返し、この微小変化に基づいて反射電力も微小変化を繰り返すといった特定の変化パターンが見られることが判明した。本高周波電源装置1は、このような反射電力の微小変化の変化パターンを利用して、ハードアークに比べアーク放電量が微小なソフトアークを検出するようにしたものである。
【0041】
すなわち、本実施形態の高周波電源装置1は、ソフトアーク発生によりプラズマ処理装置4のインピーダンスの値が変化すると、その変化に応じてプラズマ処理装置4からの反射電力(プラズマ処理装置4側に供給した高周波電力に対して、プラズマ処理装置4側から反射してくる高周波電力)が微小変化することから、その反射電力の微小変化を検出し、所定時間T内における反射電力の微小変化の回数Cに基づいて、ソフトアークを検出するようにしている。
【0042】
また、高周波電源装置1は、ソフトアークを検出したときには、その検出結果を図略の表示部にメッセージ表示したり、警報や発光によって報知したりするようにしている。これは、ソフトアークが発生しても被加工物Bを損傷したり、処理品質を著しく低下させたりすることはないが、ユーザによりプラズマ処理装置4内の処理状態を可能な限り把握したいといった要望があるので、この要望に応えるためである。なお、ユーザが希望する場合は、高周波電源装置1の出力を低下してソフトアークの発生を抑えたり、場合によっては、高周波電源装置1の出力停止を可能にしたりしてもよい。
【0043】
高周波電源装置1は、図1に示すように、操作部11と、制御部12と、メモリ13と、発振部14と、増幅部15と、パワー検出部16と、アーク検出部17とを備えている。
【0044】
操作部11は、ユーザによって高周波電源装置1の出力条件(出力周波数や出力電力)を設定するためのものであり、図1では省略しているが、高周波電力の出力値を設定するための出力電力設定スイッチ、及び高周波電力の供給の開始を指示する出力開始スイッチ等の操作部材が設けられている。操作部11において設定された高周波電力の出力値や周波数値等は、制御部12に出力される。
【0045】
制御部12は、本高周波電源装置1の制御中枢となるものであり、操作部11において設定された高周波電力の出力値に基づいて発振部14に制御信号を出力することにより、プラズマ処理装置4に対して高周波電力を供給させるものである。
【0046】
制御部12には、メモリ13が接続されており、メモリ13には、高周波電力をプラズマ処理装置4に供給するための制御プログラムが記憶されている。また、メモリ13には、アークの発生を検出する処理で用いられる、第1閾値LD及び第2閾値LU、所定時間T、並びに基準回数C0の各データがそれぞれ記憶されている。上記第1閾値LD及び第2閾値LU、所定時間T、並びに基準回数C0については後述する。
【0047】
発振部14は、高周波信号を発生するもので、図示しない電圧制御発振回路によって構成されている。発振部14の発振出力と周波数は、それぞれ制御部12からの出力制御信号と周波数制御信号によって制御される。発振部14から出力される高周波信号は増幅部15に入力され、所定の出力レベルに増幅される。
【0048】
増幅部15は、発振部14からの発振出力信号を増幅して高周波電力を出力するものである。増幅部15において増幅された発振出力信号は、パワー検出部16を介してインピーダンス整合器3に出力される。
【0049】
パワー検出部16は、増幅部15から出力される高周波電力を検出するものであり、例えば、方向性結合器によって構成されている。パワー検出部16は、増幅部14からプラズマ処理装置4側に進行する高周波電力と、プラズマ処理装置4側から反射してくる高周波電力(反射電力)とを分離して、それらの電力値をそれぞれ検出するものである。パワー検出部16において検出された反射波の電力値は、アーク検出部17に出力される。
【0050】
アーク検出部17は、パワー検出部16から出力される反射電力の値に基づいて、プラズマ処理装置4においてソフトアークが発生したか否かを検出するものである。アーク検出部17は、ソフトアークの発生を検出すると、制御部12に対してアーク検出信号を出力する。
【0051】
図2は、アーク検出部17の内部構成を示す図である。アーク検出部17は、A/Dコンバータ部21、変化判定部22、タイマ23、カウンタ24、及びアーク判定部25によって構成されている。
【0052】
A/Dコンバータ部21は、パワー検出部16から出力される反射電力としてのアナログ信号を一定の時間周期でサンプリングすることによりディジタル信号に変換するものである。A/Dコンバータ部21によってディジタル信号に変換された反射電力は、変化判定部22に出力される。
【0053】
変化判定部22は、A/Dコンバータ部21から出力される反射電力の値に基づいて、その反射電力に微小変化が生じたか否かを判定するものである。図3(a)は、A/Dコンバータ部21から出力される反射電力のレベル値の一例を示し、図3(b)は、それに応じた反射電力のレベル値の微分値波形の一例を示す。
【0054】
図3(a)に示すように、ソフトアークが発生するときには、反射電力のレベルが所定時間T内に断続的に微小変化する。変化判定部22では、A/Dコンバータ部21から出力される反射電力を入力し、その微分値を算出して、当該微分値(図3(b)参照)が予め定める第1閾値LDを下回った直後に、第1閾値LDより値が大きい第2閾値LUを上回るようにして変化したか否かが判定される。図3(b)では、時間t1において微分値が第1閾値LDを下回っており、時間t2において微分値が第2閾値LUを上回っている場合を示している。なお、第1閾値LD及び第2閾値LUの具体例としては、例えば第1閾値LDは1Wに設定され、第2閾値LUは10Wに設定されている。
【0055】
変化判定部22では、このように反射電力の微分値が第1閾値LD及び第2閾値LUで構成される基準幅を外れた場合、反射電力の値に微小変化が生じたこととして判定し、そのことを示す判定信号をタイマ23及びカウンタ24に出力する。
【0056】
上記変化判定部22では、反射電力のレベル値の時間的変化(図3(a)参照)から直接的にその微小変化が生じたことを判定しないで、反射電力のレベル微分値の時間的変化から反射電力の値に微小変化が生じたことを判定しているが、このようにすれば、反射電力の値が一方向にのみ変化した場合(例えば単調低下した場合)を誤って反射電力が微小変化したと誤検出してしまうことをより確実に防止することができる。
【0057】
なお、反射電力のレベル値の時間的変化(図3(a)参照)から直接的にその微小変化が生じたことを判定するようにしてもよい。また、第1閾値LD及び第2閾値LUの値は、ユーザが操作部11を操作することより任意の値に設定変更するようにしてもよい。図3(a),(b)では、微小変化がほぼ等間隔に生じている場合を示しているが、これは微小変化が生じる形態の一例を示すものであり、ソフトアークが生じるときには、微小変化の発生間隔がほぼ一定になるといったことを示すものではない。
【0058】
タイマ23は、変化判定部22からの判定信号に基づいて、反射電力の微小変化の回数を計数する所定時間T(例えば60μsec)の計時を行うものである。具体的には、タイマ23は、変化判定部22からの判定信号に基づいてその計時を開始するよう動作するとともに、カウンタ24に対して計時を開始したことの開始信号を出力する。これにより、カウンタ24は、変化判定部22からの判定信号を受け入れ許容状態となる。すなわち、カウンタ24は、変化判定部22から判定信号が出力される度に、内部に有するカウント値(反射電力が微小変化した回数C)をカウントアップする。
【0059】
また、タイマ23は、所定時間Tの計時が終了すれば、カウンタ24に対してリセット信号を出力する。これにより、カウンタ24は、変化判定部22からの判定信号を受け入れ不可状態となる。なお、所定時間Tの値は、ユーザによって任意の値に設定変更可能とされてもよい。
【0060】
カウンタ24は、変化判定部22からの判定信号に基づいて、反射電力の微小変化の回数Cを計数するものである。より具体的には、カウンタ24は、タイマ23から開始信号が入力されてからリセット信号が入力されるまで変化回数Cの計数を継続し、その計数結果をアーク判定部25に出力する。カウンタ24は、タイマ23からリセット信号が出力されると、変化回数Cを「0」にリセットする。
【0061】
アーク判定部25は、カウンタ24からのカウント信号(変化回数C)に基づいてソフトアークを検出したか否かを判定するものである。すなわち、アーク判定部25では、変化回数Cが予め定める基準回数C0の値(例えば5回)を越えると、ソフトアークを検出したと判定し、制御部12に対して、ソフトアークを検出したことのアーク検出信号を出力する。なお、基準回数C0の値は、ユーザによって任意の値に設定変更可能とされてもよい。
【0062】
制御部12は、アーク判定部25からアーク検出信号が出力されると、このプラズマ処理システムを停止させるよう制御する。なお、制御部12は、プラズマ処理システムを停止させることに代えて、ソフトアークが検出されたときのプラズマ処理装置4内で処理中の被加工物B(図1参照)を不良品と選定し、被加工物Bの製造ラインからその不良品を除去するための制御を行うようにしてもよい。
【0063】
このように、所定時間T内における反射電力の微小変化の回数Cを計数し、その計数が基準回数C0を超えるとき、ソフトアークの発生が検出したと判別すると、プラズマ処理装置4内で一定時間内に微小なアーク放電が複数回断続的に生じるといった、ソフトアークが発生するときの現象を適格に捉えることができ、ソフトアークの発生を確実に検出することができる。
【0064】
なお、上記実施形態では、反射電力の微小変化に基づいてソフトアークを検出するようにしたが、ソフトアークの検出は、反射電力の微小変化に基づくことに限らず、プラズマ処理装置4の入力端における反射係数、インピーダンス、電圧又は電流等の各微小変化に基づいて行ってもよい。また、上記実施形態では、アーク検出部17は、制御部12に対して別途設けられているが、制御部12内に設けられていてもよい。
【0065】
次に、上記構成における制御動作について図4に示すフローチャートを参照して説明する。
【0066】
まず、このプラズマ処理システムが稼動されると、プラズマ処理装置4に対して高周波電力が供給される。制御部12では、反射電力の微小変化の回数を示す変化回数Cが「0」に初期化される(S1)。パワー検出部16では、プラズマ処理装置4からの反射電力を検出すると、それをアーク検出部17に出力する。アーク検出部17では、パワー検出部16からの反射電力を常時監視している(S2)。
【0067】
ステップS3では、タイマ23が動作中であるか否かが判別され(S3)、プラズマ処理システムが稼動された当初は、タイマ23はその計時が開始されていないので(S3:NO)、ステップS4に進む。
【0068】
ステップS4では、アーク検出部17のA/Dコンバータ21において、パワー検出部16からの反射電力がA/D変換され、変化判定部22において反射電力が微小変化したか否か判定される(S4)。
【0069】
変化判定部22によって微小変化が生じたと判定されたとき(S4:YES)、すなわち、図3(b)に示したように、反射電力のレベル微分値が第1閾値LDを下回った直後に、第2閾値LUを上回った場合、反射電力の微小変化が生じたと判定される。一方、変化判定部22によって微小変化が生じていないと判定されたとき(S4:NO)、処理はステップS2に戻り、反射電力の監視が継続される。
【0070】
次いで、微小変化が生じたことの判定が1回目であるか否かの判別が行われる(S5)。すなわち、タイマ23が動作していない状態で、反射電力の微小変化が生じたときが1回目とされる。変化判定部22によって判別された微小変化が1回目であるとき(S5:YES)、反射電力の微小変化の回数を示す変化回数Cが「1」とされ(S6)、タイマ23による計時が開始される(S7)。タイマ23による計時が開始されると、処理はステップS2に戻り、反射電力の監視が継続される。
【0071】
その後、ステップS3においては、ステップS7でタイマ23による計時が開始されている場合、タイマ23が動作中であるので(S3:YES)、処理はステップS8に進み、タイマ23がタイムアウトになったか否かが判別される。すなわち、タイマ23による計時が開始されてから所定時間Tを経過したか否かが判別される。タイマ23がタイムアウトになっていない場合には(S8:NO)、ステップS4の反射電力の値が微小変化したか否かの判別処理に進む。
【0072】
一方、タイマ23がタイムアウトになった場合には(S8:YES)、変化回数Cの値が「0」にリセットされるとともに(S9)、タイマ23による計時が停止され(S10)、処理はステップS2に戻り、反射電力の監視が継続される。すなわち、タイマ23による計時が所定時間T経過するまでに、微小変化の変化回数Cが予め定める基準回数C0を超えない場合には、ソフトアークが発生していないと判別して、次回の微小変化が発生するか否かを監視する。
【0073】
ステップS5において、微小変化の変化回数Cが1回目でない場合(S5:NO)、すなわち、変化回数Cが2回目以上の場合には、変化回数Cが予め定める基準回数C0を越えたか否かが判別される(S11)。なお、基準回数C0の具体例としては、例えば5回が設定される。
【0074】
変化回数Cが基準回数C0を越えていない場合(S11:NO)、変化回数Cに「1」を加算して新たに変化回数Cとし(S12)、処理はステップS2に戻り、反射電力の監視が継続される。すなわち、タイマ23による計時が開始され、その計時が所定時間T経過するまでに、微小変化が発生すると、その微小変化が変化回数Cとして加算される。
【0075】
一方、変化回数Cが基準回数C0を越えた場合(S11:YES)、アーク判定部25ではソフトアークが発生したと判別する(S13)。すなわち、所定時間T内に基準回数C0を超える反射電力の微小変化が生じた場合、ソフトアークが発生したと判別している。
【0076】
図5は、所定時間T内における反射電力の微小変化が発生した状態を示し、図5(a)は、ソフトアークが発生したと判別する場合、図5(b)は、ソフトアークが発生したと判別しない場合を示している。すなわち、図5(a)では、所定時間T内に反射電力の微小変化が6回生じており、基準回数C0(この場合は5回)を越えているので、この場合は、ソフトアークが発生したと判別する。一方、図5(b)では、所定時間T内に反射電力の微小変化が4回しか生じておらず、基準回数C0を越えていないため、この場合は、ソフトアークが発生していないと判別する。
【0077】
アーク判定部25では、ソフトアークが発生したと判別すると、アーク検出信号を制御部12に出力する。そのアーク検出信号を入力した制御部12は、例えば、図略の表示部に所定のメッセージを表示させる等してユーザにソフトアークの発生を報知する。このように、本実施形態によれば、プラズマ処理システムにおいて、ソフトアークの発生を可及的に誤検出することなく確実に検出することができ、ユーザはプラズマ処理装置4におけるソフトアークの発生状況を比較的高い精度で把握することができる。
【0078】
なお、上記実施形態では、ソフトアークの検出機能を高周波電源装置1の内部に設けたが、ソフトアークの検出装置を高周波電源装置1とは別体とし、高周波電源装置1の外部に設けるようにしてもよい。
【0079】
もちろん、この発明の範囲は上述した実施の形態に限定されるものではない。例えば、アークの発生を検出した場合には、その検出信号が図示しない外部処理装置に出力されるようにしてもよい。
【0080】
また、上記実施形態では、ソフトアークを検出する場合におけるプラズマ処理システムについて説明したが、このプラズマ処理システムには、例えばハードアークを検出するための構成が含まれていてもよい。すなわち、このプラズマ処理システムでは、電源投入後、ハードアークを検出する構成、及びソフトアークを検出する構成が同時に並行して動作し、いずれかの構成が先にアークを検出した場合に、このプラズマ処理システムを停止させるようにしてもよい。
【0081】
あるいは、このプラズマ処理システムの構成に加えて、ソフトアークを検出する他の構成が含まれていてもよい。すなわち、いずれかの構成が例えば反射電力に基づいてソフトアークを検出する構成であって、他のいずれかの構成が例えば反射電力に基づいてソフトアークを検出する構成であってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0082】
【図1】本願発明に係る高周波電源装置が適用されるプラズマ処理システムの構成図である。
【図2】アーク検出部の構成を示す図である。
【図3】反射電力の時間的変化を示す図であり、(a)は、A/Dコンバータ部から出力される反射電力のレベル値の一例を示し、(b)は、それに応じた反射電力のレベル値の微分値波形の時間的変化をそれぞれ示す。
【図4】高周波電源装置の制御動作を示すフローチャートである。
【図5】所定時間内における反射電力の微小変化が発生した状態を示す図であり、(a)は、ソフトアークが発生したと判別する場合、(b)は、ソフトアークが発生したと判別しない場合をそれぞれ示す。
【図6】従来のプラズマ処理システムの構成図である。
【符号の説明】
【0083】
1 高周波電源装置
3 インピーダンス整合器
4 プラズマ処理装置
11 操作部
12 制御部
13 メモリ
14 発振部
15 増幅部
16 パワー検出部
17 アーク検出部
21 A/Dコンバータ
22 変化判定部
23 タイマ
24 カウンタ
25 アーク判定部
C 変化回数
C0 基準回数
LD 第1閾値
LU 第2閾値
T 所定時間

【特許請求の範囲】
【請求項1】
高周波電力を発生する高周波電源装置と、前記高周波電源装置から供給される高周波電力によりプラズマを発生させて被加工物に所定の加工処理を行うプラズマ処理手段とを備えるプラズマ処理システムのアーク検出装置であって、
前記プラズマ処理手段のプラズマ処理中に、当該プラズマ処理手段からの反射電力の変化を示す情報を検出する検出手段と、
前記検出手段により検出される前記反射電力の変化に関する情報の変化パターンに基づいて、前記プラズマ処理手段における前記被加工物の加工品質に悪影響を与える微小なアークの発生を検出するアーク検出手段と、
を備えたことを特徴とする、プラズマ処理システムのアーク検出装置。
【請求項2】
前記検出手段は、
前記反射電力の微小変化に関する情報を検出する微小変化検出手段と、
予め定める所定時間内に前記微小変化検出手段によって検出された微小変化の回数を計数する計数手段と、
前記計数手段によって計数された回数が予め定める基準回数を越えるか否かを判別する判別手段と、によって構成されており、
前記アーク検出手段は、
前記判別手段により前記計数手段による計数回数が前記基準回数を越えたとの判別結果に基づき、前記微小なアークの発生を検出する、請求項1に記載のプラズマ処理システムのアーク検出装置。
【請求項3】
前記反射電力の変化に関する情報には、
少なくとも前記プラズマ処理手段からの反射電力の変化、前記プラズマ処理手段の入力端における反射係数、電圧、電流又はインピーダンスの変化が含まれる、請求項1又は2に記載のプラズマ処理システムのアーク検出装置。
【請求項4】
前記微小変化検出手段は、
前記プラズマ処理手段から反射される高周波電力を検出する反射電力検出手段と、
前記反射電力検出手段によって検出された反射電力の値が微小変化したか否かを判別する微小変化判別手段と、
によって構成される、請求項2又は3に記載のプラズマ処理システムのアーク検出装置。
【請求項5】
前記微小変化判別手段は、
前記反射電力検出手段によって検出された反射電力の微分値を算出する微分値演算手段と、
前記微分値演算手段によって算出された前記反射電力の微分値が予め定める第1閾値を下回った直後に、前記第1閾値より値が大きい第2閾値を上回ったことに基づいて、反射電力の値が微小変化したと判別する、請求項4に記載のプラズマ処理システムのアーク検出装置。
【請求項6】
前記所定時間の値を変更する時間変更手段をさらに備える、請求項2ないし5のいずれかに記載のプラズマ処理システムのアーク検出装置。
【請求項7】
前記第1閾値及び第2閾値を変更する閾値変更手段をさらに備える、請求項5又は6に記載のプラズマ処理システムのアーク検出装置。
【請求項8】
前記基準回数の値を変更する回数変更手段をさらに備える、請求項2ないし7のいずれかに記載のプラズマ処理システムのアーク検出装置。
【請求項9】
前記アーク検出手段により微小なアークが発生したとの判定結果が出力されると、その判定結果を報知する報知手段をさらに備える、請求項1ないし8のいずれかに記載のプラズマ処理システムのアーク検出装置。
【請求項10】
前記アーク検出装置は、前記高周波電源装置の内部に設けられている、請求項1ないし9のいずれかに記載のプラズマ処理システムのアーク検出装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2007−149596(P2007−149596A)
【公開日】平成19年6月14日(2007.6.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−345650(P2005−345650)
【出願日】平成17年11月30日(2005.11.30)
【出願人】(000000262)株式会社ダイヘン (990)
【Fターム(参考)】