説明

プラズマ処理装置

【課題】製造コストの低減を図りつつ、各種の径のプラズマを低コストで照射し得るプラズマ処理装置を提供する。
【解決手段】高周波信号Sを入力して放射する放射器14と、放射器14が内部空間に配設されたトーチ型の筐体11と、筐体11内にプラズマ放電用ガスGを供給するガス供給部3と、放射器14が挿通されると共に筐体11の内面に取り外し可能に取り付けられた絶縁管30a〜30c(管状の絶縁体)とを備え、プラズマ放電用ガスGを供給した状態において放射器14から高周波信号Sを放射して放射器14の近傍に発生させたプラズマPを絶縁管30a〜30cの噴出口31a(一端部)から噴出させて処理対象体Zに照射可能に構成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、処理対象体をプラズマで処理するプラズマ処理装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
この種のプラズマ処理装置として、特開平10−199697号公報に表面処理装置が開示されている。この表面処理装置は、先端部にノズル状のガス出口が設けられた円筒状の対電極(トーチ型の筐体)内に放電発生用電極が配設されて構成されている。また、この表面処理装置では、スパークやアーク放電の発生を回避するために、対電極の内面および放電発生用電極の周面がそれぞれ無機絶縁物で被覆されている。この表面処理装置によって処理対象体を表面処理(プラズマ処理)する際には、対電極内(放電発生用電極の周囲)にヘリウムガスや水素等(以下、「プラズマ放電用ガス」ともいう)を供給した状態において、高周波電源から放電発生用電極に高周波電圧を供給する。この際には、放電発生用電極の先端部の近傍にプラズマが発生し、このプラズマが、プラズマ放電用ガスと共にガス出口から噴出して処理対象体の表面に照射される。これにより、プラズマを照射した部位が表面処理される。
【特許文献1】特開平10−199697号公報(第3−4頁、第1図)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ところが、従来の表面処理装置には、以下の問題点が存在する。すなわち、従来の表面処理装置では、プラズマ放電用ガスと共にプラズマを噴出するガス出口が対電極の一端側に設けられると共に、その対電極の内面が無機絶縁物で被覆されている。この場合、今日では、処理対象体の小型化や処理すべき領域の微細化に伴い、極く狭い領域に対してプラズマを選択的に照射して表面処理(プラズマ処理)する必要が生じている。このため、この種の表面処理装置(プラズマ処理装置)による表面処理時には、処理対象体の表面における非処理部位をマスク材料等で覆う煩雑な前処理が必要となっている。一方、従来の表面処理装置では、対電極の先端部側を先細り形状としてガス出口を小径化することで、ガス出口から噴出するプラズマの径(プラズマを照射する領域の直径)を小さくしている。
【0004】
この場合、処理対象体に向けて噴出すべきプラズマの径は、処理対象体の種類や、処理対象体に対して施すべき表面処理の内容に応じてその都度相違する。しかしながら、従来の表面処理装置の構成を採用して各種の径のプラズマを噴出させるには、ガス出口の口径が相違する複数種類の対電極を有する複数種類の表面処理装置を用意しておく必要がある。このため、従来の表面処理装置には、処理対象体の表面処理に要するコストの低減が困難となっているという問題点がある。また、従来の表面処理装置では、上記したように、対電極の内面を無機絶縁物で被覆した構成を採用している。したがって、従来の表面処理装置には、その製造時において対電極の内面を無機絶縁物で被覆する処理が煩雑であることに起因して、表面処理装置の製造コストが高騰しているという問題点もある。
【0005】
本発明は、かかる問題点に鑑みてなされたものであり、製造コストの低減を図りつつ、各種の径のプラズマを低コストで照射し得るプラズマ処理装置を提供することを主目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成すべく請求項1記載のプラズマ処理装置は、高周波信号を入力して放射する放射器と、当該放射器が内部空間に配設されたトーチ型の筐体と、当該筐体内にプラズマ放電用ガスを供給するガス供給部と、前記放射器が挿通されると共に前記筐体の内面に取り外し可能に取り付けられた管状の絶縁体とを備え、前記プラズマ放電用ガスを供給した状態において前記放射器から前記高周波信号を放射して当該放射器の近傍に発生させたプラズマを前記絶縁体の一端部から噴出させて処理対象体に照射可能に構成されている。
【0007】
また、請求項2記載のプラズマ処理装置は、請求項1記載のプラズマ処理装置において、その径方向で外向きに突出する突出部が前記絶縁体の外周面に設けられ、前記筐体が、本体部および取付け部を備え、当該本体部および当該取付け部の間に前記突出部を挟み込むようにして当該本体部に当該取付け部を固定することで前記絶縁体を当該筐体に取り付け可能に構成されている。
【0008】
さらに、請求項3記載のプラズマ処理装置は、請求項1記載のプラズマ処理装置において、前記絶縁体が、その外周面に凹部が形成されると共に前記筐体の所定位置に設けられた取付け用部材が当該凹部内に嵌め込まれて当該筐体に取り付けられている。
【0009】
また、請求項4記載のプラズマ処理装置は、請求項1から3のいずれかに記載のプラズマ処理装置において、前記プラズマが発生する部位の内径よりも前記一端部の内径の方が小径となるように前記絶縁体が形成されている。
【0010】
さらに、請求項5記載のプラズマ処理装置は、請求項1から4のいずれかに記載のプラズマ処理装置において、前記放射器が、棒状または管状に形成されると共にその一端部が前記筐体に接地されている。
【発明の効果】
【0011】
請求項1記載のプラズマ処理装置によれば、その一端部からプラズマを噴出する管状の絶縁体を筐体に対して取り外し可能に取り付けたことにより、一端部の内径が相違する複数種類の絶縁体を予め製作しておくことで、処理対象体の種類(大きさ)や処理対象体に対して施すプラズマ処理の種類に応じて一端部の内径が任意の内径の絶縁体を筐体に取り付けて任意の径のプラズマを噴出させて処理対象体に照射することができる。したがって、このプラズマ処理装置によれば、従来の表面処理装置とは異なり、1つの筐体を使用して複数種類の径のプラズマを照射することができるため、各種の処理対象体について、そのプラズマ処理に要するコストを十分に低減することができる。また、このプラズマ処理装置によれば、筐体に対して絶縁体を取り外し可能に取り付ける構成を採用したことにより、従来の表面処理装置とは異なり、製造時において筐体(対電極)の内面を被覆する煩雑な処理を不要とできる結果、プラズマ処理装置の製造コストを十分に低減することができる。
【0012】
請求項2記載のプラズマ処理装置によれば、径方向で外向きに突出する突出部を絶縁体の外周面に設けると共に、筐体を構成する本体部および取付け部の間に突出部を挟み込むようにして本体部に取付け部を固定することで絶縁体を筐体に取り付ける構成を採用したことにより、比較的簡易な構成であるにも拘わらず、筐体に対して絶縁体を確実に取り付けることができるだけでなく、既に取り付けられている絶縁体を筐体から容易に取り外して他の絶縁体を容易に取り付けることができる。
【0013】
請求項3記載のプラズマ処理装置によれば、絶縁体の外周面に凹部を形成すると共に、筐体の所定位置に設けた取付け用部材を絶縁体の凹部内に嵌め込むことによって絶縁体を筐体に取り付ける構成を採用したことにより、比較的簡易な構成であるにも拘わらず、筐体に対して絶縁体を確実に取り付けることができるだけでなく、既に取り付けられている絶縁体を筐体から容易に取り外して他の絶縁体を容易に取り付けることができる。
【0014】
請求項4記載のプラズマ処理装置によれば、プラズマが発生する部位の内径よりもプラズマを噴出する一端部の内径の方が小径となるように絶縁体を形成したことにより、放射器の周囲に十分なスペースを確保して十分な量のプラズマ放電用ガスを放射器の周囲に位置させることができるだけでなく、一端部の内径をプラズマが発生する部位の内径よりも十分に小径に規定して形成することで、処理対象体上の極く狭い領域に対してプラズマを点的に照射することができる。
【0015】
請求項5記載のプラズマ処理装置によれば、放射器を棒状または管状に形成すると共にその一端部を筐体に接地させたことにより、放射器が発熱した際に、その熱が筐体に伝熱するため、放射器が過剰に高温となる事態が回避される結果、放射器の温度上昇に起因して共振が妨げられる事態を回避することができる。これにより、プラズマを安定的に発生させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、添付図面を参照して、本発明に係るプラズマ処理装置の最良の形態について説明する。
【0017】
図1に示すプラズマ処理装置1は、プラズマ処理室2、ガス供給部3、高周波電源(高周波信号生成部)4、着火機構5、移動機構6および制御部7を備えている。このプラズマ処理装置1は、高周波電源4において生成された高周波信号Sをプラズマ処理室2に同軸ケーブル4aを介して供給することにより、プラズマ処理室2内(詳しくは、後述する絶縁管30a等の内部)にプラズマPを発生させて載置台6a上の処理対象体Zの表面をプラズマ処理する構成が採用されている。具体的には、このプラズマ処理装置1は、シート状や板状の処理対象体Zに向けてプラズマPを照射することにより、プラズマ処理として、処理対象体Zの表面の殺菌、洗浄および親水性の向上を行ったり、機能性材料のコーティングを行ったりする。プラズマ処理室2は、一例として、筐体11、同軸コネクタ12、カップリングループ13および放射器(アンテナ)14を備えている。
【0018】
筐体11は、一例として、導電性の筒体21と、筒体21の一端側(同図中の上端側)を閉塞する導電性の閉塞板22とを備え、筒体21の他端側(同図中の下端側)が開口するトーチ型筐体に構成されている。また、図2に示すように、筒体21は、閉塞板22と相俟って本発明における本体部を構成する基端部側部材23と、本発明における取付け部に相当する先端部側部材24とを備えている。この場合、本例では、筐体11内に高周波信号Sを導入するための貫通孔21h、および後述する絶縁管30a〜30c(図2〜4参照:以下、区別しないときには「絶縁管30」ともいう)の鍔部32を嵌入可能な嵌入用凹部23aが基端部側部材23に形成されている。また、先端部側部材24は、図示しないボルトによって基端部側部材23に固定されている。
【0019】
なお、筒体21を構成する基端部側部材23および先端部側部材24は、中心軸と直交する平面に沿った内周面の断面形状が円形であるため、外形は四角筒体であるが、実質的には円筒体として機能する。この場合、このプラズマ処理装置1では、筒体21の長さが放射器14の長さよりも長く規定されて形成されている。また、閉塞板22には、ガス供給部3から供給されたプラズマ放電用ガスGを筐体11内(放射器14との周囲)に導入するための貫通孔22hが形成されている。なお、本発明における本体部は、別個独立して形成された基端部側部材23および閉塞板22を一体化したものに限定されず、基端部側部材23および閉塞板22に相当する部材を一体的に形成したものがこれに含まれる。
【0020】
この場合、このプラズマ処理装置1では、従来の表面処理装置における「無機絶縁物の被覆」に代えて、筐体11の基端部側部材23および先端部側部材24の間に鍔部32を挟み込むようにして基端部側部材23に先端部側部材24を固定することで絶縁管30を筐体11の内部に取り外し可能に取り付ける構成が採用されている。一方、絶縁管30は、本発明における「管状の絶縁体」の一例であって、図2〜4に示すように、本体部31の一端側(各図における下端側:本発明における一端部)がプラズマPの噴出口31aとして機能するように石英等の絶縁性材料で管状に形成されている。また、各絶縁管30における本体部31の外周面には、その径方向で外向きに突出する鍔部32(本発明における「突出部」の一例)がそれぞれ形成されている。
【0021】
この場合、各絶縁管30は、その内径(すなわち、噴出口31aの口径La〜Lc:本発明における一端部の内径)が後述する放射器14の外径L1よりも大径で、その外径L3が筒体21(基端部側部材23および先端部側部材24)の内径L2と同程度(やや小径)となるように規定されて形成されている。具体的には、一例として、絶縁管30aの口径Laが7mmで、絶縁管30bの口径Lbが4mmで、絶縁管30cの口径Lcが10mmとなるように規定されてそれぞれ形成されている。なお、このプラズマ処理装置1は、実際には、絶縁管30a〜30cの他に、その口径Lが口径La〜Lcとは相違する各種口径Lの噴出口31aが形成された各種の絶縁管30を取り付け可能に構成されているが、本発明についての理解を容易とするために、これらについての図示および説明を省略する。
【0022】
また、図1に示すように、このプラズマ処理装置1では、一例として、上記の絶縁管30の下端部(噴出口31aの口縁部)と、筐体11における先端部側部材24の下端部とが面一となるように絶縁管30の長さが規定されて形成されている。この場合、絶縁管30の長さを過剰に短くした場合には、後述するように絶縁管30の噴出口31aから噴出させたプラズマPによって筒体21(先端部側部材24)の下端部内面がプラズマ処理されるおそれがある。一方、絶縁管30の長さを過剰に長くした場合には、筒体21(先端部側部材24)から絶縁管30が大きく突出した状態となるため、絶縁管30の破損を招き易くなる。したがって、絶縁管30の長さは、筒体21に取り付けた状態においてその下端部が筒体21(先端部側部材24)の下端部と面一となるように規定するのが好ましい。
【0023】
同軸コネクタ12は、図1に示すように、高周波電源4に接続された同軸ケーブル4aの先端に装着された状態で、筒体21(基端部側部材23)の外周面に、貫通孔21hを閉塞するようにして取り付けられている。カップリングループ13は、同図に示すように、導電性を有する棒状体がL字状に折曲(本例では直角に折曲)されて構成されている。また、カップリングループ13は、一端が筐体11の閉塞板22に接続されると共に、他端が同軸コネクタ12の芯線(不図示)に接続されている。この状態において、カップリングループ13の一端側部位(折曲部位を基準として一端側に位置する部位)13aは、閉塞板22から直角に起立した状態(筒体21の中心軸と平行な状態)となっており、かつ高周波信号Sの波長をλとしたときに、その長さがλ/4の半分以下の長さ(本例では、一例としてλ/10)に規定されている。一方、カップリングループ13の他端側部位(折曲部位を基準として他端側に位置する部位)13bは、貫通孔21hの中心軸上に位置した状態で貫通孔21hに挿通されている。
【0024】
放射器14は、その長さが((1/4+n/2)×λ)に規定された1本の導電性の棒状体(本例では円柱体)で構成されている。ここで、nは、0以上の整数であり、本例では一例としてn=0に設定され、放射器14の長さは(λ/4)に規定されている。なお、本発明における放射器14の形状は、円柱体に限定されず、円柱以外の各種形状の棒状体(角柱体や樋状体(ハーフパイプ状体)など)、および筒状体に形成することができる。また、放射器14は、図1に示すように、筒体21の中心軸上に位置した状態で、一端部(同図中の上端側)が閉塞板22に固定されて接地されている。この構成により、放射器14は、カップリングループ13における一端側部位13aに対して所定の距離を隔てて近接した状態で立設された状態となっている。ガス供給部3は、後述するようにして、制御部7の制御に従って筐体11内にプラズマ放電用ガスG(以下、「放電用ガスG」ともいう)を供給する。この場合、放電用ガスGとしては、電離電圧が低くプラズマが発生し易いガス(例えば、アルゴンガスやヘリウムガスなど)を使用する。
【0025】
高周波電源4は、高周波信号S(一例として、2.45GHz程度の準マイクロ波)を生成してプラズマ処理室2に出力する。また、高周波電源4は、不図示の操作部を備え、操作部に対する操作によって選択された変調周波数およびデューティー比でパルス変調された高周波信号Sを出力可能に構成されている。このように高周波信号Sのデューティー比を変更可能に構成されているため、高周波電源4は、高周波信号Sの電力(出力電力)を制御可能となっている。また、高周波電源4は、デューティー比を100%とする選択がなされたときには、高周波信号Sを連続波(CW)として出力する。この場合には、高周波電源4は、操作部に対する操作によって選択された振幅に高周波信号Sの振幅を設定することにより、高周波信号Sの電力(出力電力)を制御する。なお、本例では、高周波電源4が、準マイクロ波(1GHz〜3GHz)を高周波信号Sとして出力する構成を採用しているが、マイクロ波(3GHz〜30GHz)を高周波信号Sとして出力する構成を採用することもできる。また、高周波電源4からプラズマ処理室2に対する高周波信号Sの供給効率を高めるため、高周波電源4とプラズマ処理室2との間に整合器を配設することもできる。
【0026】
着火機構5は、図1に示すように、導体棒41、電圧生成装置42および移動機構43を備えている。導体棒41は、その一端側(同図における左端側)が移動機構43に取り付けられて、着火処理時には、その他端側(同図における右端側)が絶縁管30の筒先(着火処理位置)に位置させられると共に、着火処理の完了後には、同図に示すように、処理対象体Zに対するプラズマPの照射の妨げとなることのない待避位置に待避させられる。電圧生成装置42は、制御部7の制御に従い、一例として、10kV程度の直流電圧Vを生成して導体棒41に印加する。移動機構43は、制御部7の制御に従い、上記したように、導体棒41を着火処理位置および待避位置のいずれかに移動させる。
【0027】
移動機構6は、制御部7の制御に従って載置台6aを任意のX−Y−Z方向に移動させることにより、載置台6a上の処理対象体Zにおける所望の処理位置を絶縁管30の下方(プラズマ照射位置)に位置させる。制御部7は、プラズマ処理装置1を総括的に制御する。具体的には、制御部7は、ガス供給部3を制御して放電用ガスGの供給を開始または停止させる。また、制御部7は、高周波電源4を制御して、高周波信号Sの生成を開始または停止させる。さらに、制御部7は、着火機構5の移動機構43を制御して導体棒41を上記の着火処理位置または待避位置のいずれかに移動させる。また、制御部7は、着火機構5の電圧生成装置42を制御して直流電圧Vの生成を開始または停止させる。さらに、制御部7は、移動機構6を制御して載置台6a(処理対象体Z)を任意のX−Y−Z方向に移動させる。
【0028】
次に、本発明に係るプラズマ処理装置の使用方法について、プラズマ処理装置1の処理対象体Zに対する処理動作(表面処理動作)と共に説明する。なお、筐体11は予めグランドに接続されてグランド電位が付与されているものとする。
【0029】
まず、処理対象体Zの種類(大きさ)や処理対象体Zに施すプラズマ処理の内容に応じて、任意の口径Lの噴出口31aが形成された絶縁管30を選択して筐体11に取り付ける。具体的には、処理対象体Zに向けて噴出するプラズマPの径、すなわち、プラズマPを照射すべき照射領域の大きさに応じて、図1に示すように、例えば、口径Laの噴出口31aが形成された絶縁管30aを筐体11に取り付ける。この際には、図2に示すように、まず、基端部側部材23から先端部側部材24を取り外した状態において、絶縁管30aの鍔部32を基端部側部材23の嵌入用凹部23aに嵌入させるようにして基端部側部材23に絶縁管30aをセットする。次いで、図1に示すように、基端部側部材23および先端部側部材24の間に鍔部32を挟み込むようにして基端部側部材23に先端部側部材24を固定する。これにより、絶縁管30aが筐体11の内面に取り付けられる。
【0030】
次いで、載置台6aの上に処理対象体Zを載置して固定した後に、図示しない操作部を操作してプラズマ処理の開始を指示する。このプラズマ処理では、まず、制御部7がガス供給部3を制御して放電用ガスGの供給を開始させる。この際に、ガス供給部3は、図1において矢印で示すように、接続用配管を介して筐体11内(放射器14の周囲)に放電用ガスGを連続的に供給する。次いで、制御部7は、着火機構5を制御して着火処理を開始させる。具体的には、制御部7は、まず、移動機構43を制御することにより、待避位置に位置させられている導体棒41を絶縁管30aの筒先(着火処理位置)に移動させる。次いで、制御部7は、電圧生成装置42を制御して直流電圧Vを生成させる。この際には、直流電圧Vが前述したように非常に高電圧のため、この直流電圧Vによって導体棒41から絶縁管30a内を通って放射器14の先端部に向けての放電が行われる(放電が開始される)。
【0031】
続いて、制御部7は、高周波電源4を制御して高周波信号Sの生成を開始させる。この際には、高周波電源4によって生成された高周波信号Sが、同軸ケーブル4aを介して、同軸コネクタ12、さらにはカップリングループ13の他端に達し、カップリングループ13を経由して筐体11(閉塞板22)に流れる。この場合、カップリングループ13が高周波信号Sに流れることにより、一端側部位13aの周囲に磁界が発生し、高周波信号Sの波長λに対して((1/4+n/2)×λ)の長さに規定されている放射器14がこの磁界によって共振する。共振状態の放射器14は共振モノポールとして作動して放射器14の他端側(同図中の下端側)で電圧が最大となる。このため、プラズマ処理室2内における放射器14の他端側近傍(付近)で電界強度が最大なり、プラズマ処理室2内(すなわち筐体11内)では、この他端側近傍においてプラズマが発生し易い状態となる。
【0032】
一方、プラズマ処理室2の内部(筐体11の内部であって、放射器14の周囲)には、プラズマPの発生し易い放電用ガスGが存在し、筐体11の外部は大気が存在している状態となっている。この結果、放射器14の他端側近傍での強電界の発生と、着火機構5の導体棒41からの放電とにより、図1に示すように、放電用ガスGが供給されている筐体11の内部(絶縁管30aの内部)における放射器14の他端側近傍でプラズマPが連続して発生し、このプラズマPが絶縁管30a内を移動して噴出口31aから載置台6a上の処理対象体Zに向けて噴出される。
【0033】
次いで、制御部7は、高周波電源4による高周波信号Sの生成開始後、プラズマPが発生した時点において、着火機構5の動作を停止させる。この場合、プラズマPの光を検知して検知信号を出力する照度センサ(図示せず)や、高周波電源4の出力側でのインピーダンスの変化を検知して検知信号を出力するインピーダンス検知装置(図示せず)を設けるのが好ましい。この構成を採用することで、制御部7は、照度センサまたはインピーダンス検知装置から検知信号が出力されたときに、プラズマPが発生したとして、着火機構5の動作を停止させる。具体的には、制御部7は、まず、電圧生成装置42を制御して直流電圧Vの生成を停止させる。これにより、導体棒41から放射器14に向かっての放電が停止する。次いで、制御部7は、移動機構43を制御して着火処理位置(絶縁管30aの筒先)に位置させられている導体棒41を図1に示すように待避位置まで移動させる。
【0034】
続いて、制御部7は、移動機構6を制御して載置台6a上の処理対象体Zにおける任意の処理位置を絶縁管30aの下方(すなわち、プラズマPの照射位置)に位置させるように移動させる。この結果、絶縁管30aの下方に位置させられた部位(処理対象体Zの表面)がプラズマPによって順次表面処理される。この際に、このプラズマ処理装置1では、前述したように、噴出口31aの口径Laが十分に小径となるように絶縁管30aが形成されている。したがって、この絶縁管30aから噴出されるプラズマPの直径が十分に小さくなっている。この結果、処理対象体Zの表面における極く狭い領域に対してプラズマPが点的に照射される(吹き付けられる)。
【0035】
また、このプラズマ処理装置1では、前述したように、放射器14が筐体11(この例では、閉塞板22)に固定されて接地されている。したがって、カップリングループ13に対する高周波信号Sの入力によって共振モノポールとして作動している放射器14が発熱したときに、この熱が筐体11(筒体21)に効率よく伝熱する結果、放射器14が過剰に高温となる事態が回避される。一方、制御部7は、処理対象体Zに対するプラズマ処理を完了したとき(処理すべきすべての部位に対してプラズマPの照射を完了したとき)に、高周波電源4を制御して高周波信号Sの生成を停止させる。これにより、絶縁管30a内におけるプラズマPの発生が停止する。この後、制御部7は、ガス供給部3を制御して放電用ガスGの供給を停止させ、このプラズマ処理を終了する。
【0036】
この場合、処理対象体Zに対して、一層小径のプラズマPを照射する場合には、上記の絶縁管30aに代えて、絶縁管30bを筐体11に取り付ける。具体的には、まず、先端部側部材24を基端部側部材23から取り外した後に、絶縁管30aを基端部側部材23から取り外す。次いで、絶縁管30bの鍔部32を基端部側部材23の嵌入用凹部23aに嵌入させるようにして基端部側部材23に絶縁管30bをセットする。次いで、基端部側部材23および先端部側部材24の間に鍔部32を挟み込むようにして基端部側部材23に先端部側部材24を固定する。これにより、絶縁管30bが筐体11の内面に取り付けられる。この場合、前述したように、絶縁管30bの噴出口31aは、その口径Lbが絶縁管30aにおける噴出口31aの口径Laよりも小径となるように規定されて形成されている。したがって、この絶縁管30bを取り付けた状態において筐体11内にプラズマPを発生させることにより、噴出口31aの口径Lbとほぼ同径で、絶縁管30aを取り付けた状態において噴出されるプラズマPよりも小径のプラズマPが噴出口31aから噴出されて処理対象体Zに照射されることとなる。この結果、処理対象体Zの表面における一層狭い領域に対してプラズマPが点的に照射される(吹き付けられる)。
【0037】
一方、絶縁管30aを取り付けた状態において照射されるプラズマPよりも大径のプラズマPを処理対象体Zに照射する場合には、上記の絶縁管30aに代えて、絶縁管30cを筐体11に取り付ける。なお、絶縁管30cの取り付け手順については、上記の絶縁管30bのときと同様であるため、説明を省略する。この場合、前述したように、絶縁管30cの噴出口31aは、その口径Lcが絶縁管30aにおける噴出口31aの口径Laよりも大径となるように規定されて形成されている。したがって、この絶縁管30cを取り付けた状態において筐体11内にプラズマPを発生させることにより、噴出口31aの口径Lcとほぼ同径で、絶縁管30aを取り付けた状態において噴出されるプラズマPよりも大径のプラズマPが噴出口31aから噴出されて処理対象体Zに照射されることとなる。この結果、処理対象体Zの表面におけるやや広い領域に対してプラズマPが照射される(吹き付けられる)。
【0038】
このように、このプラズマ処理装置1によれば、その一端部(噴出口31a)からプラズマPを噴出する絶縁管30(管状の絶縁体)を筐体11に対して取り外し可能に取り付けたことにより、噴出口31aの口径L(一端部の内径)が相違する複数種類の絶縁管30(この例では、絶縁管30a〜30c)を予め製作しておくことで、処理対象体Zの種類(大きさ)や処理対象体Zに対して施すプラズマ処理の種類に応じて任意の口径Lの噴出口31aが形成された絶縁管30を筐体11に取り付けて任意の径のプラズマPを噴出させて処理対象体Zに照射することができる。したがって、このプラズマ処理装置1によれば、従来の表面処理装置とは異なり、1つの筐体11を使用して複数種類の径のプラズマPを照射することができるため、各種の処理対象体Zについて、そのプラズマ処理に要するコストを十分に低減することができる。また、このプラズマ処理装置1によれば、筐体11に対して絶縁管30を取り外し可能に取り付ける構成を採用したことにより、従来の表面処理装置とは異なり、製造時において筐体(対電極)の内面を被覆する煩雑な処理を不要とできる結果、プラズマ処理装置1の製造コストを十分に低減することができる。
【0039】
また、このプラズマ処理装置1によれば、径方向で外向きに突出する鍔部32(突出部)を絶縁管30における本体部31の外周面に設けると共に、筐体11を構成する閉塞板22および基端部側部材23(本体部)と、先端部側部材24(取付け部)との間に鍔部32を挟み込むようにして基端部側部材23に先端部側部材24を固定することで絶縁管30を筐体11に取り付ける構成を採用したことにより、比較的簡易な構成であるにも拘わらず、筐体11に対して絶縁管30を確実に取り付けることができるだけでなく、既に取り付けられている絶縁管30を筐体11から容易に取り外して他の絶縁管30を容易に取り付けることができる。
【0040】
さらに、このプラズマ処理装置1によれば、放射器14を棒状または管状(この例では、棒状)に形成すると共にその一端部を筐体11(この例では、閉塞板22)に接地させたことにより、放射器14が発熱した際に、その熱が筐体11(閉塞板22)に伝熱するため、放射器14が過剰に高温となる事態が回避される結果、放射器14の温度上昇に起因して共振が妨げられる事態を回避することができる。これにより、プラズマPを安定的に発生させることができる。
【0041】
なお、本発明は、上記した実施の形態に示した構成および方法に限定されない。例えば、その内径がいずれの部位においても等しい絶縁管30a〜30cを筐体11に取り付けて使用する例について説明したが、本発明における「管状の絶縁体」の構成はこれに限定されない。例えば、図5に示す絶縁管30d(本発明における「管状の絶縁体」の他の一例)や、図6に示す絶縁管30e(本発明における「管状の絶縁体」のさらに他の一例)のように、放射器14からの高周波信号の放出に伴ってプラズマPが発生する部位(矢印Aの部位)の内径Ld2,Le2(一例として、10mm)よりも、噴出口31aの口径Ld1,Le1(本発明における一端部の内径:一例として、1mm)の方が小径となるように、先細り構造に形成することができる。なお、この絶縁管30d,30eや、後に説明する絶縁管30f(図7,8参照)において上記の絶縁管30a〜30cと同一の機能を有する構成要素については、同一の符号を付して重複する説明を省略する。
【0042】
この絶縁管30d,30e、および絶縁管30d,30eを備えたプラズマ処理装置1によれば、プラズマPが発生する部位の内径Ld2,Le2よりも噴出口31aの口径Ld1,Le1(一端部の内径)の方が小径となるように本発明における絶縁体を構成したことにより、放射器14の周囲に十分なスペースを確保して十分な量のプラズマ放電用ガスGを放射器14の周囲に位置させることができるだけでなく、噴出口31aの口径Ld1,Le1を内径Ld2,Le2よりも十分に小径に規定して噴出口31aを形成することで、処理対象体Z上の極く狭い領域に対してプラズマPを点的に照射することができる。この場合、絶縁管30dのように、その内径Ld2が噴出口31aに向けて徐々に小径となるようにして噴出口31aを口径Ld1とする構成を採用することにより、絶縁管30d内で発生したプラズマPを噴出口31aに向けてスムーズに移動させることができる。また、絶縁管30eのように、放射器14が挿通させられる部位だけを内径Le2とし、噴出口31a側の内径を噴出口31aの口径Le1と等しくすることにより、比較的容易に絶縁管30eを形成することができるため、その製作コストを十分に低減することができる。
【0043】
また、上記のプラズマ処理装置1では、鍔部32を基端部側部材23と先端部側部材24との間に挟み込むようにして基端部側部材23に先端部側部材24を固定することで筐体11に各絶縁管30を取り付ける構成を採用しているが、本発明に係るプラズマ処理装置の構成はこれに限定されない。例えば、図7に示すプラズマ処理装置1Aのように、本発明における「管状の絶縁体」のさらに他の一例である絶縁管30fにおける本体部31の外周面に溝33(本発明における凹部:図8参照)を形成すると共に、閉塞板22と相俟って筐体11を構成する筒体21に固定用ねじ25(本発明における「取付け用部材」の一例)をねじ込み可能なねじ孔21aを形成し、筒体21内に挿入した絶縁管30fの溝33内に、ねじ孔21aにねじ込んだ固定用ねじ25の先端部を嵌め込む(先端部を挿入する)ことによって絶縁管30fを筐体11(筒体21)に取り付ける構成を採用することができる。なお、このプラズマ処理装置1Aにおいて前述したプラズマ処理装置1と同一の機能を有する構成要素については、同一の符号を付して重複する説明を省略する。
【0044】
このプラズマ処理装置1Aによれば、絶縁管30f(絶縁体)における本体部31の外周面に溝33(凹部)を形成すると共に、筐体11の所定位置に設けた取付け用部材(この例では、筒体21のねじ孔21aにねじ込んだ固定用ねじ25)を絶縁管30fの溝33に嵌め込むことによって絶縁管30fを筐体11に取り付ける構成を採用したことにより、比較的簡易な構成であるにも拘わらず、筐体11に対して絶縁管30fを確実に取り付けることができるだけでなく、既に取り付けられている絶縁管30fを筐体11から容易に取り外して他の絶縁管30fを容易に取り付けることができる。この場合、上記のプラズマ処理装置1Aにおける固定用ねじ25に代えて、例えば、筒体21の内面において絶縁管30fの溝33と対向する位置に溝を形成し、この溝内に、十分な太さのOリングを配置し、Oリングを絶縁管30fの溝33に嵌め込むことによって絶縁管30fを筐体11に取り付ける構成を採用することもできる。このような構成を採用した場合においても、固定用ねじ25によって絶縁管30fを筐体11に取り付ける構成のプラズマ処理装置1Aと同様の効果を奏することができる。
【0045】
また、本発明における放射器を固定する(接地する)位置は、閉塞板22の内面に限定されない。具体的には、一例として、放射器をL字状に形成すると共に、その一端部を筒体21の内面に固定して接地させ、その他端部を絶縁管の近傍に位置させる構成を採用することもできる。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】プラズマ処理装置1の構成図である。
【図2】分解状態の筐体11および絶縁管30aの断面図である。
【図3】絶縁管30bの断面図である。
【図4】絶縁管30cの断面図である。
【図5】絶縁管30dの断面図である。
【図6】絶縁管30eの断面図である。
【図7】プラズマ処理装置1Aにおける筐体11および絶縁管30fの断面図である。
【図8】絶縁管30fの外観斜視図である。
【符号の説明】
【0047】
1,1A プラズマ処理装置
2 プラズマ処理室
3 ガス供給部
4 高周波電源
7 制御部
11 筐体
12 同軸コネクタ
13 カップリングループ
14 放射器
21 筒体
21h,22h 貫通孔
21a ねじ孔
22 閉塞板
23 基端部側部材
23a 嵌入用凹部
24 先端部側部材
25 固定用ねじ
30a〜30f 絶縁管
31 本体部
31a 噴出口
32 鍔部
33 溝
Ld2,Le2 内径
La〜Lc,Ld1,Le1 口径
G プラズマ放電用ガス
P プラズマ
S 高周波信号
Z 処理対象体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
高周波信号を入力して放射する放射器と、当該放射器が内部空間に配設されたトーチ型の筐体と、当該筐体内にプラズマ放電用ガスを供給するガス供給部と、前記放射器が挿通されると共に前記筐体の内面に取り外し可能に取り付けられた管状の絶縁体とを備え、前記プラズマ放電用ガスを供給した状態において前記放射器から前記高周波信号を放射して当該放射器の近傍に発生させたプラズマを前記絶縁体の一端部から噴出させて処理対象体に照射可能に構成されているプラズマ処理装置。
【請求項2】
前記絶縁体の外周面には、その径方向で外向きに突出する突出部が設けられ、
前記筐体は、本体部および取付け部を備え、当該本体部および当該取付け部の間に前記突出部を挟み込むようにして当該本体部に当該取付け部を固定することで前記絶縁体を当該筐体に取り付け可能に構成されている請求項1記載のプラズマ処理装置。
【請求項3】
前記絶縁体は、その外周面に凹部が形成されると共に前記筐体の所定位置に設けられた取付け用部材が当該凹部内に嵌め込まれて当該筐体に取り付けられている請求項1記載のプラズマ処理装置。
【請求項4】
前記絶縁体は、前記プラズマが発生する部位の内径よりも前記一端部の内径の方が小径となるように形成されている請求項1から3のいずれかに記載のプラズマ処理装置。
【請求項5】
前記放射器は、棒状または管状に形成されると共にその一端部が前記筐体に接地されている請求項1から4のいずれかに記載のプラズマ処理装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2010−56002(P2010−56002A)
【公開日】平成22年3月11日(2010.3.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−221582(P2008−221582)
【出願日】平成20年8月29日(2008.8.29)
【出願人】(000214836)長野日本無線株式会社 (140)
【Fターム(参考)】