プラズモン共鳴を利用して標的物質を検出する装置に用いられる標的物質検出素子用基板、これを用いた検出素子及び検出装置
【課題】 従来のプラズモン共鳴センサーに比べて検出感度を向上させることができる標的物質検出素子用基板を提供すること。
【解決手段】 プラズモン共鳴を利用して標的物質を検出する検出装置に用いる標的物質検出素子用の基板であって、支持体と、規則的な間隔を設けてアレイ状に配された複数の開口部を備えて前記支持体上に形成された金属膜と、を有し、前記開口部が、ループ部及び分岐部の少なくとも1つを有する標的物質検出素子用の基板。
【解決手段】 プラズモン共鳴を利用して標的物質を検出する検出装置に用いる標的物質検出素子用の基板であって、支持体と、規則的な間隔を設けてアレイ状に配された複数の開口部を備えて前記支持体上に形成された金属膜と、を有し、前記開口部が、ループ部及び分岐部の少なくとも1つを有する標的物質検出素子用の基板。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、検体中における標的物質の有無をプラズモン共鳴を利用して検出する装置に用いられる標的物質検出素子用基板、これを用いた検出素子及び検出装置に関する。
【背景技術】
【0002】
金属微粒子を基板表面に固定化し、そこに誘起される局在プラズモン共鳴を利用して金属微粒子近傍の物質を検出する検出法がある。それは、金や銀などの金属微粒子に光が入射すると、局在プラズモン共鳴により特徴的な共鳴スペクトルが現れ、その共鳴波長は金属微粒子近傍の媒質の誘電率に依存することを利用するものである。例えば、媒質の誘電率が大きくなると、共鳴ピークの吸光度は大きくなり、共鳴ピークの位置は、長波長側へシフトするようになる。この現象を利用したセンサーがある。例えば、特許第3452837号明細書は、基板上に離間して配した複数の金属微粒子を用いて構成されるセンサーを開示する。ここではセンサーユニットに光を照射し、該センサーユニットを透過する光の吸収度を測定することで、微粒子近傍の媒質の屈折率を検出する共鳴プラズモンセンサーを開示する。具体的には、直径20ナノメートルの金コロイドを基板上に配してセンサーユニットを構成している。このセンサーは、プリズムと該プリズムの一面に形成され、且つ試料に接触する金属膜を備えたユニットに種々の入射角で光を照射して全反射角を測定する一般的な表面プラズモン共鳴センサーに比べて以下の点が優れるとしている。即ち、プリズム及び特殊な光学系を必要としないことからコンパクトなセンサーを構成できるとしている。
【0003】
これとは別に特開2003−270132号公報は、複数の開口が周期的に配され、開口の大きさと開口同士の間隔を光の波長以下の大きさとした金属薄膜にプラズモン共鳴を誘起させるセンサーを開示する。当該公報によれば、開口の位置を周期的として位置制御することで、位置制御しない微粒子系のセンサーよりも共鳴スペクトル幅が狭く、また高い共鳴ピークが得られる高感度なセンサーを提供できるとしている。
【0004】
更に、J.Phys.Chem.B2004,108,109−116においては、基板上に配した局在プラズモンを誘起する金属ナノドットの形状を、3角形としたものと、球状としたものについて、感度を比較検討している。ここでは、3角形の金属ナノドットの方が、球状のものよりも感度が高くなるとしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第3452837号明細書
【特許文献2】特開2003−270132号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】J.Phys.Chem.B2004,108,109−116
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述した先行資料に開示されたプラズモン共鳴センサーは、それぞれ有用なものであるが、抗原抗体反応の特異性を利用したイムノ・アッセイ(免疫学的測定)などのアフィニティー・アッセイにおいては、必ずしも十分な検出感度が得られない場合があった。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、従来のプラズモン共鳴センサーに比べて検出感度を向上させることができる標的物質検出素子用基板を提供するものである。
【0009】
本発明により提供される標的物質検出素子用の基板の第一の態様(参考態様)は、プラズモン共鳴を利用して標的物質を検出する検出装置に用いる標的物質検出素子用の基板であって、支持体と、該支持体の表面に局在的に設けられた金属構造体と、を有し、前記金属構造体が、ループ部及び分岐部の少なくとも1つを有することを特徴とするものである。
【0010】
また、本発明により提供される標的物質検出素子用の基板の第二の態様は、プラズモン共鳴を利用して標的物質を検出する検出装置に用いる標的物質検出素子用の基板であって、支持体と、規則的な間隔を設けてアレイ状に配された複数の開口部を備えて前記支持体上に形成された金属膜と、を有し、前記開口部が、ループ部及び分岐部の少なくとも1つを有することを特徴とするものである。
【0011】
本発明は、標的物質検出素子、標的物質の検出装置、標的物質の検出方法、及び標的物質検出用キットを包含する。
【0012】
本発明により提供される標的物質検出素子は、上記の基板の有する金属構造体に標的物質捕捉体を配置してなることを特徴とする標的物質検出用の素子である。
【0013】
本発明の標的物質の検出装置は、検体中の標的物質を検出するための装置であって、上記の標的物質検出用の素子を保持するための保持手段と、該素子に検体を接触せしめる手段と、該素子による標的物質の捕捉を検出するための検出手段と、を有することを特徴とする標的物質の検出装置である。
【0014】
本発明の標的物質の検出方法は、検体中での標的物質を検出するための検出方法であって、上記の標的物質検出用の素子と、前記検体とを接触させる工程と、前記検体中に標的物質が含まれている場合における前記素子への標的物質の捕捉を検出する工程と、を有することを特徴とする標的物質の検出方法である。
【0015】
本発明の標的物質検出用キットは、検体中における標的物質の有無または前記標的物質の量を検出するためのキットであって、上記の標的物質検出用の素子と、標的物質の前記素子への捕捉に必要な試薬と、を有することを特徴とする標的物質検出用キットである。
【発明の効果】
【0016】
本発明においては、プラズモン共鳴を誘起する金属構造体の形状または、開口部を備えた金属膜の開口部を、ループ部及び分岐部の少なくとも1つを有するとしており、この構成をとることにより検出物質の検出感度を向上させることができる。
【0017】
局在プラズモン共鳴発生用の金属構造体がループ部及び分岐部の少なくとも1つを有するとした態様の発明においては、ループ部または分岐部を有することで金属構造体における輪郭長さが増大または角部の数が増大する。これによりプラズモン共鳴が増強され標的物質の検出感度を向上させることができる。
【0018】
また、金属膜中に開口部を設けた態様の発明においては、開口部がループ部または分岐部を有することで開口部における輪郭長さが増大または角部の数が増大することでプラズモン共鳴が増強され標的物質の検出感度を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の実施の形態における金属構造体の各種平面形状を例示する模式図である。
【図2】本発明の実施の形態における金属構造体の各種平面形状の例示する模式図である。
【図3】本発明の実施の形態における検出素子の一例を示す模式図である。
【図4】本発明の実施の形態における検出素子の一例を示す模式図である。
【図5】本発明の実施の形態における検出素子の作製方法を説明する図である。
【図6】本発明の実施の形態における検出素子の作製方法を説明する図である。
【図7】本発明の実施の形態における検出素子の作製方法を説明する図である。
【図8】本発明の実施の形態における検出素子上の捕捉体の例を示す模式図である。
【図9】本発明の実施の形態における検出装置の一例を表す模式図である。
【図10】本発明の実施の形態における検出装置のブロック図である。
【図11】実施例1及び3の検出装置の模式図である。
【図12】実施例1の検出素子のSEM画像の1例である。
【図13】実施例1の検出スペクトル(吸収スペクトル)の変化の一例である。
【図14】実施例2の検出装置の模式図である。
【図15】実施例2の検出スペクトル(吸収スペクトル)の変化の一例である。
【図16】実施例3の検出素子のSEM画像の一例である。
【図17】実施例3で得られた検出素子における吸収スペクトルを示す図である。
【図18】金属構造体の平面パターンの大きさの測定基準を示す図である。
【図19】本発明の実施の形態における金属膜開口部の各種平面形状の例示する模式図である。
【図20】本発明の実施の形態における金属膜開口部の一例を示す模式図である。
【図21】本発明の実施の形態における検出素子の作製方法を説明する図である。
【図22】本発明の実施の形態における検出素子上の捕捉体の例を示す模式図である。
【図23】実施例4の検出装置の模式図である。
【図24】本発明の実施の形態における小金属構造体の外形の各種平面形状の例示する模式図である。
【図25】金属膜開口部の平面パターンの大きさの測定基準を示す図である。
【図26】本発明の実施の形態における小金属構造体の開口部の各種平面形状の例示する模式図である。
【図27】本発明の実施の形態における微小金属構造体の外形の各種平面形状の例示する模式図である。
【図28】本発明の実施の形態における複合金属構造体の各種平面形状の例示する模式図である。
【図29】本発明の実施の形態における小金属構造体開口空間内に微小金属構造体が存在することを例示する模式図である。
【図30】本発明の実施の形態における検出素子の一例を示す模式図である。
【図31】実施例1の検出装置の模式図である。
【図32】本発明の実施の形態における検出素子の作製方法を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下本発明について、詳細に説明する。
【0021】
I.(標的物質検出用の素子)
(第1の形態)
この形態にかかる標的物質検出用の素子(検出素子)は、支持体と、支持体の表面に設けられた局在プラズモン共鳴発生用の金属構造体と、金属構造体に設けられた標的物質の捕捉体と、を少なくとも有して構成される。支持体と金属構造体とを有し、標的物質の捕捉体を固定していない状態のものは、標的物質検出用素子を作製するための基板として提供することができる。
【0022】
本発明の素子では、金属構造体の配置の最適化と金属構造体の平面形状(金属パターン)を特定の形状としたことで標的物質の検出感度を向上させるものである。なお、金属構造体の平面形状とは、基板面(支持体面)と平行な面における金属構造体の形状をいい、基板表面を上方から見たときの平面図における形状をいう。
【0023】
本発明では、金属構造体の平面形状は、ループ部と分岐部の少なくとも1つを有する。金属構造体(金属構造体)の一例を、図1(A)〜(E)及び図2(A)〜(F)にそれぞれ示す。図1には、多角形あるいは円形をなすループ部(周回構造)を主体として構成されたものが、図2には、分岐部を主体として構成されたものが示されている。
【0024】
ループ部を有する金属構造体の平面形状としては、図1(A)〜(C)に示すようなループ部のみからなるリング状や、図1(D)のように、その一部分にループ部を有する形状を挙げることができる。更に、図1(E)のようにリングの内側の形状が外側の形状と異なる形状でもよい。また、同一金属構造体に2以上のループを結合したパターンとすることもできる。
【0025】
分岐部を有する金属構造体の平面形状としては、例えば、図2(A)及び(B)に示すように、少なくとも2本の帯状部により交差部が形成された形状を挙げることができる。また、図2(C)乃至(E)にあるように、交差部において帯状部の少なくとも1つが交差部で封止されて、他方の側へ突き抜けていない形状などを挙げることができる。更に、図2(F)のように、製法上、交差部の角が鋭角に形成されずに、丸く鈍ったような形状を形成していてもよい。また、帯状部の交差する角度は、直角に限定されない。更に、図2に示す例では、帯状部は直線的に伸びているが、帯状部は曲線的に伸びているものであってもよい。
【0026】
金属構造体の形成に用いる材料としては、金、銀、銅及びアルミニウムのいずれかの金属、もしくはそれらの合金を用いることができる。金属構造体は、支持体との密着性の観点から、支持体との間にクロムあるいはチタンなどの薄膜を介して、支持体上に形成されていてもよい。
【0027】
金属構造体は、10nmから100nm程度の膜厚で形成される。
【0028】
金属構造体の平面形状における大きさ、すなわち、外周部における任意の一点から他の点までの距離は、10nm〜1450nmの範囲内にあることが好ましい。更には、50nm〜450nmの範囲内にあることが好ましい。この場合、任意の2点間の最大距離がこの範囲に入っていればよい、例えば、図18に示す井桁状のパターンの場合では点XY間の距離が最大であるので、この距離を上記の範囲内とする。また、同様に矩形リングパターンの場合でも外周形状のXY間の対角線Lの距離が最大であるのでLを上記の範囲内とする。図1(C)に示す円形リングパターンでは、外周円の直径を上記の範囲とする。金属構造体の平面形状の大きさがこの範囲にあることで、目的とする検出感度を達成できる局在プラズモン共鳴を更に効果的に得ることができる。
【0029】
一方、金属構造体は帯状の部分を基本として構成されており、この帯状部分の幅(帯幅)は、金属構造体の形成が可能であり、かつ本発明が目的とする局在プラズモン共鳴が得られるものであれば特に限定されない。帯幅は、10nm〜100nmの範囲とすることが好ましい。この帯幅は、例えば図1(C)の円形リングパターンの場合は、外周円と内周円の半径の差であり、図18に示すパターンの場合はWで示される部分である。また、帯状のパターンの幅は同一金属構造体中で同一であっても、帯幅に異なる部分があってもよい。
【0030】
金属構造体は、必要に応じて支持体上に1個以上を設ける。複数個設ける場合には、各金属構造体の間隔は、好ましくは50nm〜2000nm、より好ましくは150nm〜1000nmの範囲から選択した距離とすることが好ましい。これは、金属構造体同士のプラズモンによる相互作用により空間的な電場の分布・強度に影響があるためである。また、間隔が大きくなると、金属構造体の密度が下がり、信号強度が弱くなってしまうため、特殊な光学系を適用する必要性が出てくるので、上記範囲にあることが好ましい。
【0031】
複数の金属構造体を設ける場合は、平面形状及びその大きさの少なくとも1つにおいて異なる複数種類の金属構造体を支持体上に設けることができる。金属構造体の製造効率や検出系の構成を簡便化する点などを考慮した場合は、図3及び図4に示すように、数mm角程度の領域に同一形状及び大きさの金属構造体を規則的にアレイ状に支持体上に配置することが好ましい。このような配置とすることで、透過光や散乱光、反射光の測定を容易にすることができる。図3及び図4において、100は支持体であり、104は金属構造体である。
【0032】
金属構造体の膜厚、外形、帯幅、構造体間隔は、局在プラズモン共鳴スペクトルのピーク位置に影響するため、測定に適したサイズに形成するものとする。金属構造体の平面形状をループ部及び/または分岐部を有するものとすることによる検出感度の向上は、以下の理由が考えられる。即ち、1つの金属構造体における輪郭長さが増大すること、分岐部を利用する場合には更に角部の数が増加すること、金属構造体の平面形状におけるエッジ間の距離を小さくできること、などが相乗的に関与しているものと考えられる。例えば、図1(A)〜(C)で示される形状における中抜き部分(白地部)がない場合には、金属構造体の輪郭長は外周部分のみとなる。これに対して、図1(A)〜(C)におけるように中抜き部分を有することで、金属構造体の輪郭長は、外周部と内周部の2つの合計となり、輪郭長が増加する。更に、図1(A)の場合では、角部は合計8個であり、中抜き部分がない場合の4の2倍となる。また、図1(A)の場合において中抜き部分Hがない場合は、外周を形成するエッジ部E1上での2点間の距離(エッジ間距離)は正方形の対峙する2辺の間隔となる場合に最小となる。これに対して、中抜き部分Hがある場合にはエッジ間距離は外周エッジE1と内周エッジE2の間での最大距離pとなり、同一の大きさの金属構造体内でエッジ間距離を短縮することができる。
【0033】
図1(C)で示されるリング形状の場合では、輪郭長が外周部と内周部との合計となり、エッジ部の表面プラズモンの増強領域が拡大され、更に、リングの内側と外側のエッジが近接する。これにより表面プラズモン同士が相互作用し表面プラズモンが更に大きく増強されるという効果が期待できる。
【0034】
一方、図2(D)に示す分岐部を有するH型金属構造体でも、同じ外形サイズを有するが、分岐部を持たない正方形(中抜き部なし)の形状に比べ、輪郭長が増大し、かつエッジ間距離も近くなる。更に、角部の個数も正方形の4に対して12と増大する。かかる形状に基づく金属構造体の構造は、表面プラズモンの増強領域が大きくなり、実効的な検出領域の割合が増大する、また、角部や交差部では近接する表面プラズモン同士が相互作用し表面プラズモンが大きく増強されるなどの特徴を有する。
【0035】
なお、本発明者らは、100nm×100nmのサイズの正方形のパターンを金属のエッジ部が増えるようにみじん切りにして、各10nm×10nmの断片に細分化して配置したものでは、本発明において目的とする検出感度の増強効果が得られにくいことを確認している。
【0036】
金属構造体を形成するための支持体としては、光学的に透明な、ガラス板、石英板、ポリカーボネートやポリスチレンなどの樹脂板やITO基板などを用いることができる。すなわち、プラズモン共鳴法による検出を可能とする支持体であればよい。
【0037】
この形態にかかる標的物質検出用素子は、支持体の所定位置に金属構造体を形成し、更に、金属構造体上に捕捉体を配置することにより得ることができる。その製造方法の一例を図5に示す。図5に示したように、まず、支持体100上に金属薄膜102をスパッタ法あるいは蒸着法により成膜する(図5(B))。その上に電子線レジスト103をスピンコートにより成膜し(図5(C))、電子線描画装置で露光し、現像後レジストパターンを得る(図5(D))。その後、不要な金属薄膜をエッチングし(図5(E))、レジストを除去して、アレイ状に配置した金属構造体104を形成する(図5(F))。電子線描画装置の他、集束イオンビーム加工装置、X線露光装置、EUV露光装置によるパターニングで作製することもできる。
【0038】
また、図6に示したように、モールド法により作製した微細な凹凸の支持体100(図5(A))を用いた作製方法も可能である。この場合、支持体1上に金属薄膜102をスパッタ法あるいは蒸着法により成膜する(図6(B))。次に表面の金属膜を研磨し、所望の金属構造体を支持体上に形成する(図6(C))。同様に図7は、金属薄膜2が支持体1の凹凸よりも薄い場合の作製方法を示すものである。この場合、支持体1の凸部が金属薄膜102表面より上部にあってもよいし、凹凸部の壁面に金属薄膜102が成膜されていてもよい。ここで、研磨する代わりに金属膜をドライエッチングによるエッチバックを利用して除去することも可能である。
【0039】
素子への標的物質捕捉能の付与には、図8にあるように抗体105などの化学物質を標的物質106の捕捉体として用いるのが好ましい。抗体を金属構造体104上に固定すると、金属構造体上に標的物質が近づくと特異的に複合体を形成し、素子表面における誘電率(屈折率)を変化させる。前記抗体とは、任意の免疫グロブリンクラスのメンバーであり、本発明においては、IgGクラスの誘導体がより好ましい。また、捕捉体としての抗体は、任意の手法により断片化された抗体フラグメント(抗体断片)でもよい。前記抗体フラグメントあるいは抗体断片とは、前記抗体あるいは免疫グロブリンの全長に満たない抗体の任意の分子あるいは複合体をいう。好ましくは、抗体フラグメントは、少なくとも、全長抗体の特異的結合能力の重要な部分を保持する。抗体フラグメントの例としては、Fab、Fab’、F(ab’)2、scFv、Fv、多重特異性多価抗体(ディアボディー、トライアボディなど)およびFdフラグメントが挙げられるがこれらに限定されるものではない。抗体フラグメントを用いる場合、より検出素子近傍での捕捉が可能であるため、検出感度を向上することができる。また、多重特異性多価抗体を用いる場合、検出素子と標的物質の各々に対して特異的認識能を有するので、簡便かつ効率的に検出素子上に捕捉体を固定化することができる。抗体の他には、このような複合体形成の他の例としては、酵素と基質の複合体、DNAのハイブリダイゼーションによる相補的な塩基対形成などが挙げられ、これらの複合体の一方を他方の捕捉体として利用することができる。これらの捕捉体は、物理的あるいは化学的な方法により、検出素子の表面に固定化される。また、素子の表面は、いわゆる非特異吸着による共雑物の吸着によるシグナルを防止するために、スキムミルクやカゼイン、ウシ血清アルブミン、リン脂質、ポリエチレングリコール及びそれらの誘導体などによるコーティングを行うと、なお好適である。
【0040】
(第2の形態)
以下、第2の形態について説明する。
【0041】
第2の形態の基板は、支持体と、該支持体の表面に設けられた金属膜で構成される標的物質検出用の基板であって、金属膜が開口部を有し、前記開口部の形状がループ部及び分岐部の少なくとも1つを有する。この基板の金属膜に標的物質捕捉体を固定することで標的物質検出素子を得ることができる。
【0042】
第2の形態の基板は、開口部の形状が二つ以上の帯状の開口部の少なくとも2つが交差した部分の1以上を有する形状のものを包含する。この基板の金属膜に標的物質捕捉体を固定することで標的物質検出素子を得ることができる。
【0043】
この素子は、金属膜の開口部の配置の最適化と開口部の平面形状(金属パターン)を特定の形状としたことで標的物質の検出感度を向上させるものである。なお、開口部の平面形状とは、基板面(支持体)と平行な面における開口部の形状をいい、基板表面を上方から見たときの平面図における形状をいう。
【0044】
この形態の金属膜の開口部の平面形状は、ループ部及び分岐部の少なくとも1つを有する。分岐部を有する金属膜(開口部形状)の一例を、図19(A)〜(F)にそれぞれ示す。
【0045】
金属膜の開口部の平面形状としては、図19(A)及び(B)に示すように、少なくとも2本の帯部により交差部が形成された形状を挙げることができる。更に、図19(C)乃至(E)にあるように、交差部において帯状部の少なくとも1つが交差部で封止されて、他方の側へ突き抜けていない形状などを挙げることができる。更に、図19(F)のように、製法上、交差部の角が鋭角に形成されずに、丸く鈍ったような形状を形成していてもよい。また、帯状部の交差する角度は、直角に限定されない。更に、図19に示す例では、帯状部は直線的に伸びているが、帯状部は曲線的に伸びているものであってもよい。
【0046】
図20(A)には、開口部が分岐部を有するものとして十字状の開口部124を複数備えた金属膜102を支持体100上に配した基板を示す。ここに示した開口部124としては、図19に示した別の開口部を採用することもできる。
【0047】
図20(B)には、ループ部を有する開口部を複数備えた金属膜102を支持体100上に配した基板を示す。ここで示した開口部の代わりに、図1(B)〜図1(E)に示した形状の開口部を採用することも可能である。
【0048】
金属膜の形成に用いる材料としては、金、銀、銅及びアルミニウムのいずれかの金属、もしくはそれらの合金を用いることができる。金属膜は、支持体との密着性の観点から、支持体との間にクロムあるいはチタンなどの薄膜を介して、支持体上に形成されていてもよい。
【0049】
金属構膜は、10nmから100nm程度の膜厚で形成される。
【0050】
金属膜の開口部の任意に選択した二つの端部間の最大長さ(端部間長)とは、平面形状における大きさである。すなわち、外周部における任意の一点から他の点までの距離であり、10nm〜1450nmの範囲内にあることがより好ましい。更には、50nm〜450nmの範囲内にあることがより好ましい。この場合、任意の2点間の最大距離がこの範囲に入っていればよい。例えば、図24に示すパターンの場合では点XY間の距離が最大であるので、この距離を上記の範囲内とする。開口部の平面形状の大きさがこの範囲にあることで、目的とする検出感度を達成できる表面プラズモン共鳴を更に効果的に得ることができる。
【0051】
一方、金属膜の開口部は帯状の部分を基本として構成されており、この帯状部分の幅(帯幅)は、開口部の形成が可能であり、かつ本発明が目的とする表面プラズモン共鳴が得られるものであれば特に限定されない。帯幅は、10nm〜100nmの範囲とすると簡便に測定が可能な吸収スペクトルの強度があり、より好ましい。また、帯状のパターンの幅は同一開口部中で同一であっても、帯幅に異なる部分があってもよい。
【0052】
金属膜の開口部は、必要に応じて支持体上に1個以上を設ける。複数個設ける場合には、各開口部の間隔は、好ましくは50nm〜2000nm、より好ましくは150nm〜1000nmの範囲から選択した距離とすることが好ましい。これは、開口部の表面プラズモンによる相互作用により空間的な電場の分布・強度に影響があるためである。また、間隔が大きくなると、開口部の面積が下がり、信号強度が弱くなってしまうため、特殊な光学系を適用する必要性が出てくるので、上記範囲にあることが好ましい。
【0053】
金属膜上に複数の開口部を設ける場合は、平面形状及びその大きさの少なくとも1つにおいて異なる複数種類の開口部を金属膜上に設けることができる。金属膜の製造効率や検出系の構成を簡便化する点などを考慮した場合は、図20に示すように、数mm角程度の領域に同一形状及び大きさの開口部を規則的に支持体上に配置することが好ましい。このような配置とすることで、透過光や散乱光、反射光の測定を容易にすることができる。
【0054】
金属膜の膜厚、開口部の外形、開口部の帯幅、開口部間隔は、表面プラズモン吸光スペクトルのピーク位置に影響するため、測定に適したサイズに形成するものとする。開口部の平面形状を二つ以上の帯状の開口部が交差した形状とすることによる検出感度の向上は、1つの開口部における輪郭長さが増大すること、更に角部の数が増加することによる。
【0055】
一方、図19(D)に示す分岐部を有するH型開口部でも、同じ外形サイズを有するが、分岐部を持たない正方形(中抜き部なし)の形状に比べ、輪郭長が増大し、かつエッジ間距離も近くなる。更に、角部の個数も正方形の4に対して12と増大する。かかる形状に基づく開口部の構造は、表面プラズモンの増強領域が大きくなり、実効的な検出領域の割合が増大する、また、角部や交差部では近接する表面プラズモン同士が相互作用し表面プラズモンが大きく増強されるなどの特徴を有する。
【0056】
金属膜を形成するための支持体としては、光学的に透明な、ガラス板、石英板、ポリカーボネートやポリスチレンなどの樹脂板やITO基板などを用いることができる。すなわち、表面プラズモン共鳴法による検出を可能とする支持体であればよい。
【0057】
この形態にかかる標的物質検出用素子は、支持体の所定位置に金属膜の開口部を形成し、更に、金属膜に捕捉体を配置することにより得ることができる。その製造方法の一例を図21に示す。図21に示したように、まず、支持体100上に金属薄膜102をスパッタ法あるいは蒸着法により成膜する(図21(B))。その上に電子線レジスト103をスピンコートにより成膜し(図21(C))、電子線描画装置で露光し、現像後レジストパターンを得る(図21(D))。その後、不要な金属薄膜をエッチングし(図21(E))、レジストを除去して、アレイ状に配置した開口部124を形成する(図21(F))。電子線描画装置の他、集束イオンビーム加工装置、X線露光装置、EUV露光装置、エキシマ光露光装置によるパターニングで作製することもできる。
【0058】
素子への標的物質捕捉能の付与には、図22にあるように抗体105などの化学物質を標的物質106の捕捉体として用いるのが好ましい。抗体105等については、図8に関連して説明したものを本態様においても使用することができる。
【0059】
(第3の形態)
以下、第3の形態について説明する。第3の形態の基板は、支持体と、該支持体の表面に設けられた複数の金属部材を組合せてなる複合構造体で構成される標的物質検出用素子用の基板である。そして、複合構造体は、開口部を有した枠体構造体と、開口部内に存在し、前記枠構造体から空間的に離れて配置されている内部構造体と、を有する。
【0060】
この基板を用いた素子(検出素子)は、支持体と、支持体の表面に設けられた表面プラズモン共鳴発生用の複合構造体と、を少なくとも有して構成される。この素子では、複合構造体の配置の最適化と、複合金属造体の平面形状(金属パターン)を特定の形状としたことで標的物質の検出感度を向上させるものである。なお、複合構造体の平面形状とは、基板面(支持体面)と平行な面における複合金属構造体の形状をいい、基板表面を上方から見たときの平面図における形状をいう。
【0061】
金属パターン(複合構造体)は、開口部を有する枠構造としての外枠構造体(以下、小金属構造体という)と、その開口部内部に少なくとも一部が位置する内部構造体(以下、微小金属構造体)が存在する形状を有する。金属パターンは小金属構造体の外形と、小金属構造体の開口部の形状と、微小金属構造体の形状より構成される。
【0062】
金属パターンの構成要素の一つである、小金属構造体の外形のみ変化させた一例を図25(A)〜(F)に示す。
【0063】
小金属構造体の外形パターンには、図25(A)のような膜平面形状、図25(B)及び(C)のような多角形形状、図25(D)のような円あるいは楕円といった曲面を持つ形状、図26(E)及び(F)のような図1(B)〜(D)を組み合わせた形状がある。製法上、交差部の角が鋭角に形成されずに、丸く鈍ったような形状を形成していてもよい。また、交差する角度は、直角に限定されない。
【0064】
金属パターンの構成要素の一つである、小金属構造体の開口部の形状のみ変化させた一例を図26(A)〜(F)に示す。
【0065】
小金属構造体の開口部パターンとしては、図26(A)、(B)及び(C)のような多角形形状、図26(D)のような円あるいは楕円といった曲面をもった形状、図26(E)及び(F)のような図26(B)〜(D)を組み合わせた形状がある。製法上、交差部の角が鋭角に形成されずに、丸く鈍ったような形状を形成していてもよい。また、交差する角度は、直角に限定されない。
【0066】
金属パターンの構成要素の一つである、小金属構造体の開口部の形状のみ変化させた一例を図27(A)〜(F)に示す。
【0067】
微小金属構造体の形状パターンには、図27(A)および(B)のような多角形形状、図27(C)のような円あるいは楕円といった曲面をもった形状がある。更には、図27(D)及び(E)のような図27(A)〜(C)を組み合わせた形状、図27(F)のような開口部を持つ小金属構造体と同様な形状がある。製法上、交差部の角が鋭角に形成されずに、丸く鈍ったような形状を形成していてもよい。また、交差する角度は、直角に限定されない。
【0068】
複合構造体の形状パターンは図25〜図27を組み合わせて構成されており、その一例を図28(A)〜(E)に示す。
【0069】
複合構造体の形状パターンとしては、図28(A)のような微小構造体の開口部内部にさらに構造体がある形状がある。更には、図28(B)のような外形、開口部、微小構造体がそれぞれ異なった形状を組み合わせた形状、図28(C)のような一つの開口部に複数の微小金属構造体が存在する形状がある。更には、図28(D)のような微小金属構造体に複数の開口部が存在する形状、図28(E)のような一つの開口部に異なる微小構造体が存在する形状がある。製法上、交差部の角が鋭角に形成されずに、丸く鈍ったような形状を形成していてもよい。また、交差する角度は、直角に限定されない。
【0070】
複合構造体の形成に用いる材料としては、金、銀、銅及びアルミニウムのいずれかの金属、もしくはそれらの合金を用いることができる。また、小金属構造体及び各微小金属構造体はそれぞれ異なっていてもよい。複合構造体は、支持体との密着性の観点から、支持体との間にクロムあるいはチタンなどの薄膜を介して、支持体上に形成されていてもよい。
【0071】
複合構造体は、10nmから100nm程度の膜厚で形成される。小金属構造体及び微小金属構造体はそれぞれ膜厚が異なっていてもよい。
【0072】
小金属構造体と微小金属構造体は水平方向から見たとき、図29のように小金属構造体開口空間内に微小金属構造体が少なくとも一部は存在する、もしくは接している。また小金属構造体および微小金属構造体の形状は図29のように直方体のみではなく、曲面や直方体を組み合わせた構造体でもよい。
【0073】
図29に示した形態の標的物質検出用素子は、支持体の所定位置に金属構造体を形成し、更に、金属構造体上に捕捉体を配置することにより得ることができる。その製造方法の一例を図32に示す。図32に示したように、まず、支持体100上に電子線レジスト103をスピンコートにより成膜し(図32(B))、電子線描画装置で露光し、現像後レジストパターンを得る(図32(C))。その後、支持体をエッチングし(図32(D))、レジストを除去して、凹凸を持つ支持体を形成する(図32(E))。凹凸を持つ支持体の上に金属薄膜102をスパッタ法あるいは蒸着法により成膜する(図32(F))。その上に電子線レジスト103をスピンコートにより成膜し(図32(G))、電子線描画装置で露光し、現像後レジストパターンを得る(図32(H))。その後、不要な金属薄膜をエッチングし(図32(I))、レジストを除去して、アレイ状に配置した金属構造体を形成する(図32(J))。電子線描画装置の他、集束イオンビーム加工装置、X線露光装置、EUV露光装置、エキシマ光露光装置、等によるパターニングで作製することもできる。
【0074】
小金属構造体の外形、開口部、及び微小金属構造体の任意に選択した二つの端部間の最大長さ(端部間長)とは、平面形状における大きさである。すなわち、外周部における任意の一点から他の点までの距離であり、任意の2点間の最大距離が指定の範囲に入っていればよい、例えば、図24に示すパターンの場合では点XY間の距離が最大であるので、各構造体において、この距離を指定範囲内とする。各構造体の平面形状の大きさがこの範囲にあることで、目的とする検出感度を達成できる表面プラズモン共鳴を更に効果的に得ることができる。
【0075】
複合構造体は、必要に応じて支持体上に1個以上を設ける。複数個設ける場合には、各複合構造体の間隔は、好ましくは50nm〜2000nm、より好ましくは150nm〜1000nmの範囲から選択した距離とすることが好ましい。これは、複合構造体の表面プラズモンによる相互作用により空間的な電場の分布・強度に影響があるためである。また、間隔が大きくなると、金属の面積が下がり、信号強度が弱くなってしまうため、特殊な光学系を適用する必要性が出てくるので、上記範囲にあることが好ましい。
【0076】
支持体に複数の複合構造体を設ける場合は、平面形状及びその大きさの少なくとも1つにおいて異なる複数種類の複合構造体を支持体上に設けることができる。複合構造体の製造効率や検出系の構成を簡便化する点などを考慮した場合は、図7に示すように、数mm角程度の領域に同一形状及び大きさの複合金属構造体を規則的に支持体上に配置することが好ましい。このような配置とすることで、透過光や散乱光、反射光の測定を容易にすることができる。
【0077】
複合構造体を構成する、小金属構造体及び微小金属構造体は、表面プラズモン吸光スペクトルのピーク位置に影響するため、測定に適したサイズに形成し、配置する。小金属構造体と微小金属構造体を組み合わせたことによる検出感度の向上は、小金属構造体開口空間に配置された微小金属構造体が相互作用を起こすことによる。
【0078】
複合金属構造体を形成するための支持体としては、光学的に透明な、ガラス板、石英板、ポリカーボネートやポリスチレンなどの樹脂板やITO基板などを用いることができる。すなわち、表面プラズモン共鳴法による検出を可能とする支持体であればよい。
【0079】
素子への標的物質捕捉能の付与には、図22にあるように抗体105などの化学物質を標的物質106の捕捉体として用いるのが好ましい。抗体105等については、図8に関連して説明したものを本態様においても使用することができる。
【0080】
II.(検出装置及び検出方法)
次に、上記の構成の素子を用いた標的物質検出装置について説明する。本発明による検出装置は、上記構成の素子を保持する保持手段と、素子からの信号を検出するための検出手段と、を少なくとも有して構成される。
【0081】
検出手段としては、光源と分光器、レンズ類から構成される光学検出系と、検体を素子まで移動させ素子との反応を起こさせるための反応領域を形成するための反応用ウェル、流路、送液機構等からなる送液系を有するものが好適に利用できる。光源としては、可視領域から近赤外領域までの波長領域をカバーできるものを用いることができる。光学測定は、吸収スペクトル、透過スペクトル、散乱スペクトル、反射スペクトルを用いることができる。最も好ましくは、吸収スペクトルのピーク波長あるいは、ピークの吸収強度を利用する。素子の有する金属構造体上に設けた捕捉体に標的物質が特異的に結合すると、局在プラズモン共鳴が非結合状態に対して変化し、吸収スペクトルのピーク波長は、長波長側にシフトし、吸収強度は増大する。そのシフト量の程度によって、あらかじめ作製しておいた標的物資に対する検量線から標的物質の量を定量することができる。この素子は、局在プラズモン共鳴を利用しているので、金属構造体近傍では、局所的な電場増強が起こる。この現象は、表面増強ラマン分光法(SERS)や表面プラズモン蛍光分光法(SPFS)などの測定法にも応用でき、これらの方法による標的物質の定量も可能である。
【0082】
保持手段は、検出素子を保持または載置し得る手段であって、標的物質検出装置の構成部品として適用し得るものの中から適宜選択できる。
【0083】
反応領域とは、素子と検体を接触させるための領域である。その反応により、検体中に含まれる標的物質が素子と接触して、標的物質の検出を可能にする。
【0084】
反応用ウェルや流路は、いわゆるμTAS(Micro Total Analysis System)型の装置で用いられているポリジメチルシロキサン(PDMS)基板によって、作製されるのが容易である。このPDMS基板を、検出素子を作製してある基板と貼りあわせて図5のような形状にて使用するものとする。送液機構としては、マイクロピストンポンプやシリンジポンプなどを用いる。次に、代表的な装置形態を図9及び図10に示す。まず、素子118の保持手段と反応領域形成手段を兼ねる反応ウェル部107に素子118を配置し、インレット、アウトレットを有した検出チップ142を送液ポンプ、廃液リザーバに接続する。標的物質を含む検体を流路111を介して送液ポンプ110でインレット108より導入する。一定時間のインキュベーションを行い、その時の光源ユニット112より光を反応ウェル部107を透過させ、透過スペクトルを分光光度計113により測定する。中央演算装置114にて、あらかじめ作製してある検量用データと比較し、濃度などの測定結果を表示ユニット115に表示する。必要があれば、測定前にリン酸緩衝液などを洗浄液としてインレット108より導入し、反応ウェル部107を洗浄してもよい。ここで、一定時間後のスペクトル変化を静的に測定する他に、その変化を動的にリアルタイム測定することも可能である。その場合、時間変化率などを新たな情報として取得することができる。以上の操作を入力ユニット119より入力し、あらかじめHDD120に記録しておいたプログラムをRAM131にロードし、操作を実行する。
【0085】
III.(検出用キット)
上記構成の素子と、標的物質の素子への捕捉に必要な試薬あるいは、上記構成の素子と、標的物質の素子への捕捉に必要な試薬と、を少なくとも用いて標的物質検出用キットを構成することができる。標的物質の捕捉に必要な試薬の一例としては、抗体が挙げられる。また、抗体の非特異吸着を防止するためにBSA(ウシ血清アルブミン)等と抗体を含むものが挙げられる。また、こうした試薬は乾燥状態のものとするのが好ましい。
【0086】
捕捉する標的物質としては、生体物質(タンパク質、核酸、糖鎖、脂質等)やアレルゲン、バクテリア、ウイルス等が好適である。さらに、検出装置は生体由来の物質又はその類似物質を捕捉体成分として用いた、いわゆるバイオセンサに医療用、産業用、家庭用を問わず、好適に応用できる。これにより、検体中の微量の標的物質を検出することができる。
【実施例】
【0087】
以下、本発明を実施例により更に具体的に説明する。なお、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0088】
(実施例1)
図11に本実施例で用いた検出装置の概略の構造を示す。検出素子118は、膜厚20nmの金薄膜を625μm厚の石英板上に形成し、これを所定のパターンに電子線描画装置を用いてパターニングすることで製作した。同図において、107は検出素子を配置する反応ウェルであり、108は標的物質を含む検体を導入するインレット、109は検体を排出するアウトレットである。123は、反応ウェル107、インレット108、アウトレット109を備えたチップであり、117はコリメートレンズである。
【0089】
図12の走査型電子顕微鏡(SEM)画像にあるように、金属構造体の平面形状の外形は160nm×160nmの正方形状、リングの帯幅は70nmである。解像性の高低により、内側の開口部の形状は、外形とは必ずしも同じに作製できるとは限らない。各パターンは、250nmのスペースを開けてアレイ状に3mm×3mmの領域に配置されている。本実施例の構造体の吸収スペクトルは、800nm近傍にピーク波長を持っている。
【0090】
次に、金属構造体の表面に捕捉能を付与するため、本実施例で用いる標的物質捕捉体である抗AFP(α−fetoprotein)抗体を金の構造体表面に固定する方法を示す。本実施例の構造体の材質である金と親和性の高いチオール基を持つ、11−Mercaptoundecanoic acidのエタノール溶液をスポッタ等で素子上に滴下し、前記構造体表面を修飾する。これにより、構造体表面にカルボキシル基が露出される。その状態で、N−Hydroxysulfosuccinimide(同仁化学研究所社製)水溶液と1−Ethyl−3−[3−dimethylamino]propyl]carbodiimide hydrochloride(同仁化学研究所社製)水溶液を同様にスポッタにて反応領域に滴下する。これにより、構造体表面にスクシンイミド基が露出される。さらに、ストレプトアビジンを結合させることにより、構造体表面がストレプトアビジンで修飾される。この構造体にビオチン化した抗AFP抗体を固定させる。
【0091】
複数の検出素子のパターン領域を支持体上に作製し、それぞれに異なる抗体を固定させ、検体中の異なる標的物質を同一基板上にて検出するような構成をとることも可能である。異なる抗体を用いて、前記の方法と同様の固定化操作を行うことでこの構成を得ることができる。
【0092】
以下の操作により、特異的に検体中のAFP濃度を測定することができる。
(1)作製した素子に標的物質であるAFPを含んだ検体をインレット8より導入し、AFPを構造体上に捕捉させる。
(2)検体を排出し、リン酸緩衝液をインレット8より導入し、反応ウェル7内部を洗浄する。
(3)最後にリン酸緩衝液を充填して、金の構造体の吸収スペクトルを測定する。
【0093】
吸収スペクトルについて反応前と反応後を比較すると、図13に1例を示すように、特異的な抗原体反応によって標的物質が検出素子表面に結合することで吸収スペクトルがシフトする。ここで、吸収スペクトルのピーク強度、あるいはピーク波長のシフト量とAFP濃度の相関は、あらかじめ既知のAFPコントロール溶液により求められており、濃度未知の検体の微量AFP濃度を求めることができる。
【0094】
(実施例2)
図14に本実施例で用いた装置の概略の構造を示す。検出素子118は、膜厚20nmの金薄膜を625μm厚の石英板上に設け、これを電子線描画装置を用いてパターニングすることで作製した。走査型電子顕微鏡(SEM)画像で確認すると、構造体の外形は150nm×150nm、線幅は50nmである。描画プロセスの解像性の高低により、交差部の形状は、必ずしも直角に作製できるとは限らない。構造体と構造体の間は、400nmのスペースを開けてアレイ状に3mm×3mmの領域に配置されている。
【0095】
構造体の表面に捕捉能を付与するため、本実施例で用いる標的物質捕捉体である抗AFP(α−fetoprotein)抗体を金の構造体表面に固定する方法を示す。本実施例の構造体の材質である金と親和性の高いチオール基を持つ、11−Mercaptoundecanoic acidのエタノール溶液をスポッタ等で素子上に滴下し、前記構造体表面を修飾する。これにより、構造体表面にカルボキシル基が露出される。その状態で、N−Hydroxysulfosuccinimide(同仁化学研究所社製)水溶液と1−Ethyl−3−[3−dimethylamino]propyl]carbodiimide hydrochloride(同仁化学研究所社製)水溶液を同様にスポッタにて反応領域に滴下する。これにより、構造体表面にスクシンイミド基が露出される。さらに、ストレプトアビジンを結合させることにより、構造体表面がストレプトアビジンで修飾される。この構造体にビオチン化した抗AFP抗体を固定させる。
【0096】
複数の検出素子のパターン領域を支持体上に作製し、それぞれに異なる抗体を固定させ、検体中の異なる標的物質を同一基板上にて検出するような構成をとることも可能である。
【0097】
異なる抗体を用いて、前記の方法と同様の固定化操作を行うことでこの構成を得ることができる。
【0098】
以下の操作により、特異的に検体中のAFP濃度を測定することができる。
(1)作製した素子に標的物質であるAFPを含んだ検体をインレット108より導入し、AFPを構造体上に捕捉させる。
(2)検体を排出し、リン酸緩衝液をインレット108より導入し、反応ウェル107内部を洗浄する。
(3)最後にリン酸緩衝液を充填して、金の構造体の吸収スペクトルを測定する。
【0099】
吸収スペクトルについて反応前と反応後を比較すると、図15に1例を示すように、特異的な抗原体反応によって標的物質が検出素子表面に結合することで吸収スペクトルがシフトする。ここで、吸収スペクトルのピーク強度、あるいはピーク波長のシフト量とAFP濃度の相関は、あらかじめ既知のAFPコントロール溶液により求められており、濃度未知の検体の微量AFP濃度を求めることができる。
【0100】
(実施例3及び比較例1)
本実施例では、素子の構成を変えた以外は、実施例1と同様の構成の検出装置を用いた。本実施例で用いた検出素子は、膜厚20nmの金薄膜を625μm厚の石英板上に形成し、これを電子線描画装置を用いてパターニングして製作した。図16の走査型電子顕微鏡(SEM)画像にあるように、金属構造体の平面形状の外形は200nm×200nm、リングの帯幅は50nmである。解像性の高低により、内側の開口部の形状は、外形とは必ずしも同じに作製できるとは限らない。構造体と構造体の間は、250nmのスペースを開けてアレイ状に3mm×3mmの領域に配置されている。本実施例の金属構造体の吸収スペクトルは、大気中で1070nm近傍にピーク波長を持っている。図17に基本性能としての屈折率に対する応答性を示した。屈折率に対するこのピーク波長のシフトの大きさは、リング状の周回構造を持たない同一外周形状及び同サイズのパターン(比較例1)と比較すると、1.4倍程度増加した。
【0101】
構造体の表面に捕捉能を付与するため、本実施例で用いる標的物質捕捉体である抗AFP(α−fetoprotein)抗体を金の構造体表面に固定する方法を示す。本実施例の構造体の材質である金と親和性の高いチオール基を持つ、11−Mercaptoundecanoic acidのエタノール溶液をスポッタ等で素子上に滴下し、前記構造体表面を修飾する。これにより、構造体表面にカルボキシル基が露出される。その状態で、N−Hydroxysulfosuccinimide(同仁化学研究所社製)水溶液と1−Ethyl−3−[3−dimethylamino]propyl]carbodiimide hydrochloride(同仁化学研究所社製)水溶液を同様にスポッタにて反応領域に滴下する。これにより、構造体表面にスクシンイミド基が露出される。さらに、ストレプトアビジンを結合させることにより、構造体表面がストレプトアビジンで修飾される。この構造体にビオチン化した抗AFP抗体を固定させる。
【0102】
複数の検出素子のパターン領域を支持体上に作製し、それぞれに異なる抗体を固定させ、検体中の異なる標的物質を同一基板上にて検出するような構成をとることも可能である。異なる抗体を用いて、前記の方法と同様の固定化操作を行うことでこの構成を得ることができる。
【0103】
実施例1と同様の操作により、特異的に検体中のAFP濃度を測定することができる。
【0104】
吸収スペクトルの変化について反応前と反応後を比較すると、特異的な抗原抗体反応によって、標的物質が検出素子表面に結合することで実施例と同様の吸収スペクトルのシフトが観察された。ここで、吸収スペクトルのピーク強度、あるいはピーク波長のシフト量とAFP濃度の相関は、あらかじめ既知のAFPコントロール溶液により求められており、濃度未知の検体の微量AFP濃度を求めることができる。
【0105】
(実施例4)
図23に本実施例で用いる検出装置の概略の構造を示す。検出素子118は、膜厚20nmの金薄膜を625μm厚の石英板上に形成し、これを所定のパターンに電子線描画装置を用いてパターニングすることで製作する。開口部の平面形状の外形は200nm×200nmの十字型形状、帯幅は50nmである。解像性の高低により、内側の開口部の形状は、外形とは必ずしも同じに作製できるとは限らない。各開口部は、400nmのスペースを開けてアレイ状に3mm×3mmの領域に配置されている。図23において図番が付与されている部位は、同じ図番が付与された他の図の部位と同じであるのでここでの説明を省略する。
【0106】
次に、金属膜の表面に捕捉能を付与するため、本実施例で用いる標的物質捕捉体である抗AFP(α−fetoprotein)抗体を金の膜表面に固定する方法を示す。本実施例の膜の材質である金と親和性の高いチオール基を持つ、11−Mercaptoundecanoic acidのエタノール溶液をスポッタ等で素子上に滴下し、前記膜表面を修飾する。これにより、膜表面にカルボキシル基が露出される。その状態で、N−Hydroxysulfosuccinimide(同仁化学研究所社製)水溶液と1−Ethyl−3−[3−dimethylamino]propyl]carbodiimide hydrochloride(同仁化学研究所社製)水溶液を同様にスポッタにて反応領域に滴下する。これにより、膜表面にスクシンイミド基が露出される。さらに、ストレプトアビジンを結合させることにより、金属膜表面がストレプトアビジンで修飾される。この金属膜にビオチン化した抗AFP抗体を固定させる。
【0107】
複数の検出素子のパターン領域を基板上に作製し、それぞれに異なる抗体を固定させ、検体中の異なる標的物質を同一基板上にて検出するような構成をとることも可能である。異なる抗体を用いて、前記の方法と同様の固定化操作を行うことでこの構成を得ることができる。
【0108】
以下の操作により、特異的に検体中のAFP濃度を測定することができる。図10の装置を用いて説明する。光源ユニット112及び分光光度計113は、入力ユニット119より操作を入力し、HDD120上に保存してあるプログラムをRAM131にロードして実行し、表示ユニット115に結果を表示させる。
(1)インレット108を送液ポンプ110に、アウトレット109を廃液リザーバ116に接続し、光源ユニット112と分光光度計113の間に反応ウェルが来るように検出チップ142を設置する。
(2)標的物質であるAFPを含んだ検体を送液ポンプ110によりインレット108から導入し、反応ウェルにおいてAFPを素子118上に捕捉させる。
(3)検体をアウトレット109より排出し、リン酸緩衝液をインレット108より導入し、反応ウェル内部を洗浄する。排出した液は廃液リザーバ116に貯める。
(4)最後にリン酸緩衝液を反応ウェルに充填して、光源ユニット112よりタングステンランプの光を反応ウェル中にある素子118に透過させ、分光光度計113を用いて吸収スペクトルを測定する。
【0109】
吸収スペクトルについて反応前と反応後を比較すると、図15に示すものと同様の結果が得られる。すなわち、特異的な抗原体反応によって標的物質が検出素子表面に結合することで吸収スペクトルがシフトする。ここで、吸収スペクトルのピーク強度、あるいはピーク波長のシフト量とAFP濃度の相関は、あらかじめ既知のAFPコントロール溶液により求められており、濃度未知の検体の微量AFP濃度を求めることができる。
【0110】
(実施例5)
図30及び図31に本実施例で用いる検出装置の概略の構造を示す。検出素子118は、膜厚20nmの金薄膜102を625μm厚の石英板100上に形成し、これを所定のパターンに電子線描画装置を用いてパターニングすることで製作する。複合構造体126のパターンは、400nmの開口部を持つ膜からなる小金属構造体と、各小金属構造体開口部の中心に配置された100nmの正方形の微小金属構造体からなるパターンである。解像性の高低により、内側の開口部の形状は、外形とは必ずしも同じに作製できるとは限らない。各開口部は、400nmのスペースを開けてアレイ状に3mm×3mmの領域に配置されている。図31に示した装置は、既に図11、図14等で説明した装置の検出素子118だけを変更したものであり、付与した図番は同一なので、説明はここでは行わない。
【0111】
次に、複合金属構造体の表面に捕捉能を付与するため、本実施例で用いる標的物質捕捉体である抗AFP(α−fetoprotein)抗体を金の表面に固定する方法を示す。本実施例の構造体の材質である金と親和性の高いチオール基を持つ、11−Mercaptoundecanoic acidのエタノール溶液をスポッタ等で素子上に滴下し、前記金表面を修飾する。これにより、金表面にカルボキシル基が露出される。その状態で、N−Hydroxysulfosuccinimide(同仁化学研究所社製)水溶液と1−Ethyl−3−[3−dimethylamino]propyl]carbodiimide hydrochloride(同仁化学研究所社製)水溶液を同様にスポッタにて反応領域に滴下する。これにより、金表面にスクシンイミド基が露出される。さらに、ストレプトアビジンを結合させることにより、金表面がストレプトアビジンで修飾される。この金にビオチン化した抗AFP抗体を固定させる。
【0112】
複数の検出素子のパターン領域を基板上に作製し、それぞれに異なる抗体を固定させ、検体中の異なる標的物質を同一基板上にて検出するような構成をとることも可能である。異なる抗体を用いて、前記の方法と同様の固定化操作を行うことでこの構成を得ることができる。
【0113】
実施例4と同様にして特異的に検体中のAFP濃度を測定することができる。
【0114】
吸収スペクトルについて反応前と反応後を比較すると、図15に示すものと同様の結果を得ることができる。すなわち、特異的な抗原体反応によって標的物質が検出素子表面に結合することで吸収スペクトルがシフトする。ここで、吸収スペクトルのピーク強度、あるいはピーク波長のシフト量とAFP濃度の相関は、あらかじめ既知のAFPコントロール溶液により求められており、濃度未知の検体の微量AFP濃度を求めることができる。
【0115】
(実施例6)
実施例1に記載の素子において、金属構造体の表面に捕捉能を付与するため、本実施例では、検出素子の材料である金と標的物質であるHEL(ニワトリ卵白リゾチーム)の2つの物質に対して特異的親和性を持つ2重特異性抗体(ディアボディ)を用いる。ここで用いる2重特異性抗体(ディアボディ)は、特開2005−312446号公報に記載のものである。調整されたディアボディは、リン酸緩衝液と共に検出素子部に添加し、約30分間インキュベーション後、緩衝液にて洗浄して用いる。本実施例のディアボディを用いる手法によると、化学的な固定化方法に比べ、親和性を損なうことなく固定できること、その結果として、検出素子上に固定化するために必要な捕捉体量が削減できる。
【0116】
次に、以下の操作により、特異的に検体中のHEL濃度を測定することができる。
(1)作製した素子に標的物質であるHELを含んだ検体をインレット108より導入し、HELを構造体上に捕捉させる(図11)。
(2)検体を排出し、リン酸緩衝液をインレット108より導入し、反応ウェル107内部を洗浄する。
(3)最後にリン酸緩衝液を充填して、金の構造体の吸収スペクトルを測定する。
【0117】
吸収スペクトルについて反応前と反応後を比較すると、図13に1例を示すように、特異的な抗原体反応によって標的物質が検出素子表面に結合することで吸収スペクトルがシフトする。ここで、吸収スペクトルのピーク強度、あるいはピーク波長のシフト量とHEL濃度の相関は、あらかじめ既知のHELコントロール溶液により求められており、濃度未知の検体の微量HEL濃度を求めることができる。
【符号の説明】
【0118】
100 支持体
102 金属薄膜
104 金属構造体
105 抗体
106 標的物質
【技術分野】
【0001】
本発明は、検体中における標的物質の有無をプラズモン共鳴を利用して検出する装置に用いられる標的物質検出素子用基板、これを用いた検出素子及び検出装置に関する。
【背景技術】
【0002】
金属微粒子を基板表面に固定化し、そこに誘起される局在プラズモン共鳴を利用して金属微粒子近傍の物質を検出する検出法がある。それは、金や銀などの金属微粒子に光が入射すると、局在プラズモン共鳴により特徴的な共鳴スペクトルが現れ、その共鳴波長は金属微粒子近傍の媒質の誘電率に依存することを利用するものである。例えば、媒質の誘電率が大きくなると、共鳴ピークの吸光度は大きくなり、共鳴ピークの位置は、長波長側へシフトするようになる。この現象を利用したセンサーがある。例えば、特許第3452837号明細書は、基板上に離間して配した複数の金属微粒子を用いて構成されるセンサーを開示する。ここではセンサーユニットに光を照射し、該センサーユニットを透過する光の吸収度を測定することで、微粒子近傍の媒質の屈折率を検出する共鳴プラズモンセンサーを開示する。具体的には、直径20ナノメートルの金コロイドを基板上に配してセンサーユニットを構成している。このセンサーは、プリズムと該プリズムの一面に形成され、且つ試料に接触する金属膜を備えたユニットに種々の入射角で光を照射して全反射角を測定する一般的な表面プラズモン共鳴センサーに比べて以下の点が優れるとしている。即ち、プリズム及び特殊な光学系を必要としないことからコンパクトなセンサーを構成できるとしている。
【0003】
これとは別に特開2003−270132号公報は、複数の開口が周期的に配され、開口の大きさと開口同士の間隔を光の波長以下の大きさとした金属薄膜にプラズモン共鳴を誘起させるセンサーを開示する。当該公報によれば、開口の位置を周期的として位置制御することで、位置制御しない微粒子系のセンサーよりも共鳴スペクトル幅が狭く、また高い共鳴ピークが得られる高感度なセンサーを提供できるとしている。
【0004】
更に、J.Phys.Chem.B2004,108,109−116においては、基板上に配した局在プラズモンを誘起する金属ナノドットの形状を、3角形としたものと、球状としたものについて、感度を比較検討している。ここでは、3角形の金属ナノドットの方が、球状のものよりも感度が高くなるとしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第3452837号明細書
【特許文献2】特開2003−270132号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】J.Phys.Chem.B2004,108,109−116
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述した先行資料に開示されたプラズモン共鳴センサーは、それぞれ有用なものであるが、抗原抗体反応の特異性を利用したイムノ・アッセイ(免疫学的測定)などのアフィニティー・アッセイにおいては、必ずしも十分な検出感度が得られない場合があった。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、従来のプラズモン共鳴センサーに比べて検出感度を向上させることができる標的物質検出素子用基板を提供するものである。
【0009】
本発明により提供される標的物質検出素子用の基板の第一の態様(参考態様)は、プラズモン共鳴を利用して標的物質を検出する検出装置に用いる標的物質検出素子用の基板であって、支持体と、該支持体の表面に局在的に設けられた金属構造体と、を有し、前記金属構造体が、ループ部及び分岐部の少なくとも1つを有することを特徴とするものである。
【0010】
また、本発明により提供される標的物質検出素子用の基板の第二の態様は、プラズモン共鳴を利用して標的物質を検出する検出装置に用いる標的物質検出素子用の基板であって、支持体と、規則的な間隔を設けてアレイ状に配された複数の開口部を備えて前記支持体上に形成された金属膜と、を有し、前記開口部が、ループ部及び分岐部の少なくとも1つを有することを特徴とするものである。
【0011】
本発明は、標的物質検出素子、標的物質の検出装置、標的物質の検出方法、及び標的物質検出用キットを包含する。
【0012】
本発明により提供される標的物質検出素子は、上記の基板の有する金属構造体に標的物質捕捉体を配置してなることを特徴とする標的物質検出用の素子である。
【0013】
本発明の標的物質の検出装置は、検体中の標的物質を検出するための装置であって、上記の標的物質検出用の素子を保持するための保持手段と、該素子に検体を接触せしめる手段と、該素子による標的物質の捕捉を検出するための検出手段と、を有することを特徴とする標的物質の検出装置である。
【0014】
本発明の標的物質の検出方法は、検体中での標的物質を検出するための検出方法であって、上記の標的物質検出用の素子と、前記検体とを接触させる工程と、前記検体中に標的物質が含まれている場合における前記素子への標的物質の捕捉を検出する工程と、を有することを特徴とする標的物質の検出方法である。
【0015】
本発明の標的物質検出用キットは、検体中における標的物質の有無または前記標的物質の量を検出するためのキットであって、上記の標的物質検出用の素子と、標的物質の前記素子への捕捉に必要な試薬と、を有することを特徴とする標的物質検出用キットである。
【発明の効果】
【0016】
本発明においては、プラズモン共鳴を誘起する金属構造体の形状または、開口部を備えた金属膜の開口部を、ループ部及び分岐部の少なくとも1つを有するとしており、この構成をとることにより検出物質の検出感度を向上させることができる。
【0017】
局在プラズモン共鳴発生用の金属構造体がループ部及び分岐部の少なくとも1つを有するとした態様の発明においては、ループ部または分岐部を有することで金属構造体における輪郭長さが増大または角部の数が増大する。これによりプラズモン共鳴が増強され標的物質の検出感度を向上させることができる。
【0018】
また、金属膜中に開口部を設けた態様の発明においては、開口部がループ部または分岐部を有することで開口部における輪郭長さが増大または角部の数が増大することでプラズモン共鳴が増強され標的物質の検出感度を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の実施の形態における金属構造体の各種平面形状を例示する模式図である。
【図2】本発明の実施の形態における金属構造体の各種平面形状の例示する模式図である。
【図3】本発明の実施の形態における検出素子の一例を示す模式図である。
【図4】本発明の実施の形態における検出素子の一例を示す模式図である。
【図5】本発明の実施の形態における検出素子の作製方法を説明する図である。
【図6】本発明の実施の形態における検出素子の作製方法を説明する図である。
【図7】本発明の実施の形態における検出素子の作製方法を説明する図である。
【図8】本発明の実施の形態における検出素子上の捕捉体の例を示す模式図である。
【図9】本発明の実施の形態における検出装置の一例を表す模式図である。
【図10】本発明の実施の形態における検出装置のブロック図である。
【図11】実施例1及び3の検出装置の模式図である。
【図12】実施例1の検出素子のSEM画像の1例である。
【図13】実施例1の検出スペクトル(吸収スペクトル)の変化の一例である。
【図14】実施例2の検出装置の模式図である。
【図15】実施例2の検出スペクトル(吸収スペクトル)の変化の一例である。
【図16】実施例3の検出素子のSEM画像の一例である。
【図17】実施例3で得られた検出素子における吸収スペクトルを示す図である。
【図18】金属構造体の平面パターンの大きさの測定基準を示す図である。
【図19】本発明の実施の形態における金属膜開口部の各種平面形状の例示する模式図である。
【図20】本発明の実施の形態における金属膜開口部の一例を示す模式図である。
【図21】本発明の実施の形態における検出素子の作製方法を説明する図である。
【図22】本発明の実施の形態における検出素子上の捕捉体の例を示す模式図である。
【図23】実施例4の検出装置の模式図である。
【図24】本発明の実施の形態における小金属構造体の外形の各種平面形状の例示する模式図である。
【図25】金属膜開口部の平面パターンの大きさの測定基準を示す図である。
【図26】本発明の実施の形態における小金属構造体の開口部の各種平面形状の例示する模式図である。
【図27】本発明の実施の形態における微小金属構造体の外形の各種平面形状の例示する模式図である。
【図28】本発明の実施の形態における複合金属構造体の各種平面形状の例示する模式図である。
【図29】本発明の実施の形態における小金属構造体開口空間内に微小金属構造体が存在することを例示する模式図である。
【図30】本発明の実施の形態における検出素子の一例を示す模式図である。
【図31】実施例1の検出装置の模式図である。
【図32】本発明の実施の形態における検出素子の作製方法を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下本発明について、詳細に説明する。
【0021】
I.(標的物質検出用の素子)
(第1の形態)
この形態にかかる標的物質検出用の素子(検出素子)は、支持体と、支持体の表面に設けられた局在プラズモン共鳴発生用の金属構造体と、金属構造体に設けられた標的物質の捕捉体と、を少なくとも有して構成される。支持体と金属構造体とを有し、標的物質の捕捉体を固定していない状態のものは、標的物質検出用素子を作製するための基板として提供することができる。
【0022】
本発明の素子では、金属構造体の配置の最適化と金属構造体の平面形状(金属パターン)を特定の形状としたことで標的物質の検出感度を向上させるものである。なお、金属構造体の平面形状とは、基板面(支持体面)と平行な面における金属構造体の形状をいい、基板表面を上方から見たときの平面図における形状をいう。
【0023】
本発明では、金属構造体の平面形状は、ループ部と分岐部の少なくとも1つを有する。金属構造体(金属構造体)の一例を、図1(A)〜(E)及び図2(A)〜(F)にそれぞれ示す。図1には、多角形あるいは円形をなすループ部(周回構造)を主体として構成されたものが、図2には、分岐部を主体として構成されたものが示されている。
【0024】
ループ部を有する金属構造体の平面形状としては、図1(A)〜(C)に示すようなループ部のみからなるリング状や、図1(D)のように、その一部分にループ部を有する形状を挙げることができる。更に、図1(E)のようにリングの内側の形状が外側の形状と異なる形状でもよい。また、同一金属構造体に2以上のループを結合したパターンとすることもできる。
【0025】
分岐部を有する金属構造体の平面形状としては、例えば、図2(A)及び(B)に示すように、少なくとも2本の帯状部により交差部が形成された形状を挙げることができる。また、図2(C)乃至(E)にあるように、交差部において帯状部の少なくとも1つが交差部で封止されて、他方の側へ突き抜けていない形状などを挙げることができる。更に、図2(F)のように、製法上、交差部の角が鋭角に形成されずに、丸く鈍ったような形状を形成していてもよい。また、帯状部の交差する角度は、直角に限定されない。更に、図2に示す例では、帯状部は直線的に伸びているが、帯状部は曲線的に伸びているものであってもよい。
【0026】
金属構造体の形成に用いる材料としては、金、銀、銅及びアルミニウムのいずれかの金属、もしくはそれらの合金を用いることができる。金属構造体は、支持体との密着性の観点から、支持体との間にクロムあるいはチタンなどの薄膜を介して、支持体上に形成されていてもよい。
【0027】
金属構造体は、10nmから100nm程度の膜厚で形成される。
【0028】
金属構造体の平面形状における大きさ、すなわち、外周部における任意の一点から他の点までの距離は、10nm〜1450nmの範囲内にあることが好ましい。更には、50nm〜450nmの範囲内にあることが好ましい。この場合、任意の2点間の最大距離がこの範囲に入っていればよい、例えば、図18に示す井桁状のパターンの場合では点XY間の距離が最大であるので、この距離を上記の範囲内とする。また、同様に矩形リングパターンの場合でも外周形状のXY間の対角線Lの距離が最大であるのでLを上記の範囲内とする。図1(C)に示す円形リングパターンでは、外周円の直径を上記の範囲とする。金属構造体の平面形状の大きさがこの範囲にあることで、目的とする検出感度を達成できる局在プラズモン共鳴を更に効果的に得ることができる。
【0029】
一方、金属構造体は帯状の部分を基本として構成されており、この帯状部分の幅(帯幅)は、金属構造体の形成が可能であり、かつ本発明が目的とする局在プラズモン共鳴が得られるものであれば特に限定されない。帯幅は、10nm〜100nmの範囲とすることが好ましい。この帯幅は、例えば図1(C)の円形リングパターンの場合は、外周円と内周円の半径の差であり、図18に示すパターンの場合はWで示される部分である。また、帯状のパターンの幅は同一金属構造体中で同一であっても、帯幅に異なる部分があってもよい。
【0030】
金属構造体は、必要に応じて支持体上に1個以上を設ける。複数個設ける場合には、各金属構造体の間隔は、好ましくは50nm〜2000nm、より好ましくは150nm〜1000nmの範囲から選択した距離とすることが好ましい。これは、金属構造体同士のプラズモンによる相互作用により空間的な電場の分布・強度に影響があるためである。また、間隔が大きくなると、金属構造体の密度が下がり、信号強度が弱くなってしまうため、特殊な光学系を適用する必要性が出てくるので、上記範囲にあることが好ましい。
【0031】
複数の金属構造体を設ける場合は、平面形状及びその大きさの少なくとも1つにおいて異なる複数種類の金属構造体を支持体上に設けることができる。金属構造体の製造効率や検出系の構成を簡便化する点などを考慮した場合は、図3及び図4に示すように、数mm角程度の領域に同一形状及び大きさの金属構造体を規則的にアレイ状に支持体上に配置することが好ましい。このような配置とすることで、透過光や散乱光、反射光の測定を容易にすることができる。図3及び図4において、100は支持体であり、104は金属構造体である。
【0032】
金属構造体の膜厚、外形、帯幅、構造体間隔は、局在プラズモン共鳴スペクトルのピーク位置に影響するため、測定に適したサイズに形成するものとする。金属構造体の平面形状をループ部及び/または分岐部を有するものとすることによる検出感度の向上は、以下の理由が考えられる。即ち、1つの金属構造体における輪郭長さが増大すること、分岐部を利用する場合には更に角部の数が増加すること、金属構造体の平面形状におけるエッジ間の距離を小さくできること、などが相乗的に関与しているものと考えられる。例えば、図1(A)〜(C)で示される形状における中抜き部分(白地部)がない場合には、金属構造体の輪郭長は外周部分のみとなる。これに対して、図1(A)〜(C)におけるように中抜き部分を有することで、金属構造体の輪郭長は、外周部と内周部の2つの合計となり、輪郭長が増加する。更に、図1(A)の場合では、角部は合計8個であり、中抜き部分がない場合の4の2倍となる。また、図1(A)の場合において中抜き部分Hがない場合は、外周を形成するエッジ部E1上での2点間の距離(エッジ間距離)は正方形の対峙する2辺の間隔となる場合に最小となる。これに対して、中抜き部分Hがある場合にはエッジ間距離は外周エッジE1と内周エッジE2の間での最大距離pとなり、同一の大きさの金属構造体内でエッジ間距離を短縮することができる。
【0033】
図1(C)で示されるリング形状の場合では、輪郭長が外周部と内周部との合計となり、エッジ部の表面プラズモンの増強領域が拡大され、更に、リングの内側と外側のエッジが近接する。これにより表面プラズモン同士が相互作用し表面プラズモンが更に大きく増強されるという効果が期待できる。
【0034】
一方、図2(D)に示す分岐部を有するH型金属構造体でも、同じ外形サイズを有するが、分岐部を持たない正方形(中抜き部なし)の形状に比べ、輪郭長が増大し、かつエッジ間距離も近くなる。更に、角部の個数も正方形の4に対して12と増大する。かかる形状に基づく金属構造体の構造は、表面プラズモンの増強領域が大きくなり、実効的な検出領域の割合が増大する、また、角部や交差部では近接する表面プラズモン同士が相互作用し表面プラズモンが大きく増強されるなどの特徴を有する。
【0035】
なお、本発明者らは、100nm×100nmのサイズの正方形のパターンを金属のエッジ部が増えるようにみじん切りにして、各10nm×10nmの断片に細分化して配置したものでは、本発明において目的とする検出感度の増強効果が得られにくいことを確認している。
【0036】
金属構造体を形成するための支持体としては、光学的に透明な、ガラス板、石英板、ポリカーボネートやポリスチレンなどの樹脂板やITO基板などを用いることができる。すなわち、プラズモン共鳴法による検出を可能とする支持体であればよい。
【0037】
この形態にかかる標的物質検出用素子は、支持体の所定位置に金属構造体を形成し、更に、金属構造体上に捕捉体を配置することにより得ることができる。その製造方法の一例を図5に示す。図5に示したように、まず、支持体100上に金属薄膜102をスパッタ法あるいは蒸着法により成膜する(図5(B))。その上に電子線レジスト103をスピンコートにより成膜し(図5(C))、電子線描画装置で露光し、現像後レジストパターンを得る(図5(D))。その後、不要な金属薄膜をエッチングし(図5(E))、レジストを除去して、アレイ状に配置した金属構造体104を形成する(図5(F))。電子線描画装置の他、集束イオンビーム加工装置、X線露光装置、EUV露光装置によるパターニングで作製することもできる。
【0038】
また、図6に示したように、モールド法により作製した微細な凹凸の支持体100(図5(A))を用いた作製方法も可能である。この場合、支持体1上に金属薄膜102をスパッタ法あるいは蒸着法により成膜する(図6(B))。次に表面の金属膜を研磨し、所望の金属構造体を支持体上に形成する(図6(C))。同様に図7は、金属薄膜2が支持体1の凹凸よりも薄い場合の作製方法を示すものである。この場合、支持体1の凸部が金属薄膜102表面より上部にあってもよいし、凹凸部の壁面に金属薄膜102が成膜されていてもよい。ここで、研磨する代わりに金属膜をドライエッチングによるエッチバックを利用して除去することも可能である。
【0039】
素子への標的物質捕捉能の付与には、図8にあるように抗体105などの化学物質を標的物質106の捕捉体として用いるのが好ましい。抗体を金属構造体104上に固定すると、金属構造体上に標的物質が近づくと特異的に複合体を形成し、素子表面における誘電率(屈折率)を変化させる。前記抗体とは、任意の免疫グロブリンクラスのメンバーであり、本発明においては、IgGクラスの誘導体がより好ましい。また、捕捉体としての抗体は、任意の手法により断片化された抗体フラグメント(抗体断片)でもよい。前記抗体フラグメントあるいは抗体断片とは、前記抗体あるいは免疫グロブリンの全長に満たない抗体の任意の分子あるいは複合体をいう。好ましくは、抗体フラグメントは、少なくとも、全長抗体の特異的結合能力の重要な部分を保持する。抗体フラグメントの例としては、Fab、Fab’、F(ab’)2、scFv、Fv、多重特異性多価抗体(ディアボディー、トライアボディなど)およびFdフラグメントが挙げられるがこれらに限定されるものではない。抗体フラグメントを用いる場合、より検出素子近傍での捕捉が可能であるため、検出感度を向上することができる。また、多重特異性多価抗体を用いる場合、検出素子と標的物質の各々に対して特異的認識能を有するので、簡便かつ効率的に検出素子上に捕捉体を固定化することができる。抗体の他には、このような複合体形成の他の例としては、酵素と基質の複合体、DNAのハイブリダイゼーションによる相補的な塩基対形成などが挙げられ、これらの複合体の一方を他方の捕捉体として利用することができる。これらの捕捉体は、物理的あるいは化学的な方法により、検出素子の表面に固定化される。また、素子の表面は、いわゆる非特異吸着による共雑物の吸着によるシグナルを防止するために、スキムミルクやカゼイン、ウシ血清アルブミン、リン脂質、ポリエチレングリコール及びそれらの誘導体などによるコーティングを行うと、なお好適である。
【0040】
(第2の形態)
以下、第2の形態について説明する。
【0041】
第2の形態の基板は、支持体と、該支持体の表面に設けられた金属膜で構成される標的物質検出用の基板であって、金属膜が開口部を有し、前記開口部の形状がループ部及び分岐部の少なくとも1つを有する。この基板の金属膜に標的物質捕捉体を固定することで標的物質検出素子を得ることができる。
【0042】
第2の形態の基板は、開口部の形状が二つ以上の帯状の開口部の少なくとも2つが交差した部分の1以上を有する形状のものを包含する。この基板の金属膜に標的物質捕捉体を固定することで標的物質検出素子を得ることができる。
【0043】
この素子は、金属膜の開口部の配置の最適化と開口部の平面形状(金属パターン)を特定の形状としたことで標的物質の検出感度を向上させるものである。なお、開口部の平面形状とは、基板面(支持体)と平行な面における開口部の形状をいい、基板表面を上方から見たときの平面図における形状をいう。
【0044】
この形態の金属膜の開口部の平面形状は、ループ部及び分岐部の少なくとも1つを有する。分岐部を有する金属膜(開口部形状)の一例を、図19(A)〜(F)にそれぞれ示す。
【0045】
金属膜の開口部の平面形状としては、図19(A)及び(B)に示すように、少なくとも2本の帯部により交差部が形成された形状を挙げることができる。更に、図19(C)乃至(E)にあるように、交差部において帯状部の少なくとも1つが交差部で封止されて、他方の側へ突き抜けていない形状などを挙げることができる。更に、図19(F)のように、製法上、交差部の角が鋭角に形成されずに、丸く鈍ったような形状を形成していてもよい。また、帯状部の交差する角度は、直角に限定されない。更に、図19に示す例では、帯状部は直線的に伸びているが、帯状部は曲線的に伸びているものであってもよい。
【0046】
図20(A)には、開口部が分岐部を有するものとして十字状の開口部124を複数備えた金属膜102を支持体100上に配した基板を示す。ここに示した開口部124としては、図19に示した別の開口部を採用することもできる。
【0047】
図20(B)には、ループ部を有する開口部を複数備えた金属膜102を支持体100上に配した基板を示す。ここで示した開口部の代わりに、図1(B)〜図1(E)に示した形状の開口部を採用することも可能である。
【0048】
金属膜の形成に用いる材料としては、金、銀、銅及びアルミニウムのいずれかの金属、もしくはそれらの合金を用いることができる。金属膜は、支持体との密着性の観点から、支持体との間にクロムあるいはチタンなどの薄膜を介して、支持体上に形成されていてもよい。
【0049】
金属構膜は、10nmから100nm程度の膜厚で形成される。
【0050】
金属膜の開口部の任意に選択した二つの端部間の最大長さ(端部間長)とは、平面形状における大きさである。すなわち、外周部における任意の一点から他の点までの距離であり、10nm〜1450nmの範囲内にあることがより好ましい。更には、50nm〜450nmの範囲内にあることがより好ましい。この場合、任意の2点間の最大距離がこの範囲に入っていればよい。例えば、図24に示すパターンの場合では点XY間の距離が最大であるので、この距離を上記の範囲内とする。開口部の平面形状の大きさがこの範囲にあることで、目的とする検出感度を達成できる表面プラズモン共鳴を更に効果的に得ることができる。
【0051】
一方、金属膜の開口部は帯状の部分を基本として構成されており、この帯状部分の幅(帯幅)は、開口部の形成が可能であり、かつ本発明が目的とする表面プラズモン共鳴が得られるものであれば特に限定されない。帯幅は、10nm〜100nmの範囲とすると簡便に測定が可能な吸収スペクトルの強度があり、より好ましい。また、帯状のパターンの幅は同一開口部中で同一であっても、帯幅に異なる部分があってもよい。
【0052】
金属膜の開口部は、必要に応じて支持体上に1個以上を設ける。複数個設ける場合には、各開口部の間隔は、好ましくは50nm〜2000nm、より好ましくは150nm〜1000nmの範囲から選択した距離とすることが好ましい。これは、開口部の表面プラズモンによる相互作用により空間的な電場の分布・強度に影響があるためである。また、間隔が大きくなると、開口部の面積が下がり、信号強度が弱くなってしまうため、特殊な光学系を適用する必要性が出てくるので、上記範囲にあることが好ましい。
【0053】
金属膜上に複数の開口部を設ける場合は、平面形状及びその大きさの少なくとも1つにおいて異なる複数種類の開口部を金属膜上に設けることができる。金属膜の製造効率や検出系の構成を簡便化する点などを考慮した場合は、図20に示すように、数mm角程度の領域に同一形状及び大きさの開口部を規則的に支持体上に配置することが好ましい。このような配置とすることで、透過光や散乱光、反射光の測定を容易にすることができる。
【0054】
金属膜の膜厚、開口部の外形、開口部の帯幅、開口部間隔は、表面プラズモン吸光スペクトルのピーク位置に影響するため、測定に適したサイズに形成するものとする。開口部の平面形状を二つ以上の帯状の開口部が交差した形状とすることによる検出感度の向上は、1つの開口部における輪郭長さが増大すること、更に角部の数が増加することによる。
【0055】
一方、図19(D)に示す分岐部を有するH型開口部でも、同じ外形サイズを有するが、分岐部を持たない正方形(中抜き部なし)の形状に比べ、輪郭長が増大し、かつエッジ間距離も近くなる。更に、角部の個数も正方形の4に対して12と増大する。かかる形状に基づく開口部の構造は、表面プラズモンの増強領域が大きくなり、実効的な検出領域の割合が増大する、また、角部や交差部では近接する表面プラズモン同士が相互作用し表面プラズモンが大きく増強されるなどの特徴を有する。
【0056】
金属膜を形成するための支持体としては、光学的に透明な、ガラス板、石英板、ポリカーボネートやポリスチレンなどの樹脂板やITO基板などを用いることができる。すなわち、表面プラズモン共鳴法による検出を可能とする支持体であればよい。
【0057】
この形態にかかる標的物質検出用素子は、支持体の所定位置に金属膜の開口部を形成し、更に、金属膜に捕捉体を配置することにより得ることができる。その製造方法の一例を図21に示す。図21に示したように、まず、支持体100上に金属薄膜102をスパッタ法あるいは蒸着法により成膜する(図21(B))。その上に電子線レジスト103をスピンコートにより成膜し(図21(C))、電子線描画装置で露光し、現像後レジストパターンを得る(図21(D))。その後、不要な金属薄膜をエッチングし(図21(E))、レジストを除去して、アレイ状に配置した開口部124を形成する(図21(F))。電子線描画装置の他、集束イオンビーム加工装置、X線露光装置、EUV露光装置、エキシマ光露光装置によるパターニングで作製することもできる。
【0058】
素子への標的物質捕捉能の付与には、図22にあるように抗体105などの化学物質を標的物質106の捕捉体として用いるのが好ましい。抗体105等については、図8に関連して説明したものを本態様においても使用することができる。
【0059】
(第3の形態)
以下、第3の形態について説明する。第3の形態の基板は、支持体と、該支持体の表面に設けられた複数の金属部材を組合せてなる複合構造体で構成される標的物質検出用素子用の基板である。そして、複合構造体は、開口部を有した枠体構造体と、開口部内に存在し、前記枠構造体から空間的に離れて配置されている内部構造体と、を有する。
【0060】
この基板を用いた素子(検出素子)は、支持体と、支持体の表面に設けられた表面プラズモン共鳴発生用の複合構造体と、を少なくとも有して構成される。この素子では、複合構造体の配置の最適化と、複合金属造体の平面形状(金属パターン)を特定の形状としたことで標的物質の検出感度を向上させるものである。なお、複合構造体の平面形状とは、基板面(支持体面)と平行な面における複合金属構造体の形状をいい、基板表面を上方から見たときの平面図における形状をいう。
【0061】
金属パターン(複合構造体)は、開口部を有する枠構造としての外枠構造体(以下、小金属構造体という)と、その開口部内部に少なくとも一部が位置する内部構造体(以下、微小金属構造体)が存在する形状を有する。金属パターンは小金属構造体の外形と、小金属構造体の開口部の形状と、微小金属構造体の形状より構成される。
【0062】
金属パターンの構成要素の一つである、小金属構造体の外形のみ変化させた一例を図25(A)〜(F)に示す。
【0063】
小金属構造体の外形パターンには、図25(A)のような膜平面形状、図25(B)及び(C)のような多角形形状、図25(D)のような円あるいは楕円といった曲面を持つ形状、図26(E)及び(F)のような図1(B)〜(D)を組み合わせた形状がある。製法上、交差部の角が鋭角に形成されずに、丸く鈍ったような形状を形成していてもよい。また、交差する角度は、直角に限定されない。
【0064】
金属パターンの構成要素の一つである、小金属構造体の開口部の形状のみ変化させた一例を図26(A)〜(F)に示す。
【0065】
小金属構造体の開口部パターンとしては、図26(A)、(B)及び(C)のような多角形形状、図26(D)のような円あるいは楕円といった曲面をもった形状、図26(E)及び(F)のような図26(B)〜(D)を組み合わせた形状がある。製法上、交差部の角が鋭角に形成されずに、丸く鈍ったような形状を形成していてもよい。また、交差する角度は、直角に限定されない。
【0066】
金属パターンの構成要素の一つである、小金属構造体の開口部の形状のみ変化させた一例を図27(A)〜(F)に示す。
【0067】
微小金属構造体の形状パターンには、図27(A)および(B)のような多角形形状、図27(C)のような円あるいは楕円といった曲面をもった形状がある。更には、図27(D)及び(E)のような図27(A)〜(C)を組み合わせた形状、図27(F)のような開口部を持つ小金属構造体と同様な形状がある。製法上、交差部の角が鋭角に形成されずに、丸く鈍ったような形状を形成していてもよい。また、交差する角度は、直角に限定されない。
【0068】
複合構造体の形状パターンは図25〜図27を組み合わせて構成されており、その一例を図28(A)〜(E)に示す。
【0069】
複合構造体の形状パターンとしては、図28(A)のような微小構造体の開口部内部にさらに構造体がある形状がある。更には、図28(B)のような外形、開口部、微小構造体がそれぞれ異なった形状を組み合わせた形状、図28(C)のような一つの開口部に複数の微小金属構造体が存在する形状がある。更には、図28(D)のような微小金属構造体に複数の開口部が存在する形状、図28(E)のような一つの開口部に異なる微小構造体が存在する形状がある。製法上、交差部の角が鋭角に形成されずに、丸く鈍ったような形状を形成していてもよい。また、交差する角度は、直角に限定されない。
【0070】
複合構造体の形成に用いる材料としては、金、銀、銅及びアルミニウムのいずれかの金属、もしくはそれらの合金を用いることができる。また、小金属構造体及び各微小金属構造体はそれぞれ異なっていてもよい。複合構造体は、支持体との密着性の観点から、支持体との間にクロムあるいはチタンなどの薄膜を介して、支持体上に形成されていてもよい。
【0071】
複合構造体は、10nmから100nm程度の膜厚で形成される。小金属構造体及び微小金属構造体はそれぞれ膜厚が異なっていてもよい。
【0072】
小金属構造体と微小金属構造体は水平方向から見たとき、図29のように小金属構造体開口空間内に微小金属構造体が少なくとも一部は存在する、もしくは接している。また小金属構造体および微小金属構造体の形状は図29のように直方体のみではなく、曲面や直方体を組み合わせた構造体でもよい。
【0073】
図29に示した形態の標的物質検出用素子は、支持体の所定位置に金属構造体を形成し、更に、金属構造体上に捕捉体を配置することにより得ることができる。その製造方法の一例を図32に示す。図32に示したように、まず、支持体100上に電子線レジスト103をスピンコートにより成膜し(図32(B))、電子線描画装置で露光し、現像後レジストパターンを得る(図32(C))。その後、支持体をエッチングし(図32(D))、レジストを除去して、凹凸を持つ支持体を形成する(図32(E))。凹凸を持つ支持体の上に金属薄膜102をスパッタ法あるいは蒸着法により成膜する(図32(F))。その上に電子線レジスト103をスピンコートにより成膜し(図32(G))、電子線描画装置で露光し、現像後レジストパターンを得る(図32(H))。その後、不要な金属薄膜をエッチングし(図32(I))、レジストを除去して、アレイ状に配置した金属構造体を形成する(図32(J))。電子線描画装置の他、集束イオンビーム加工装置、X線露光装置、EUV露光装置、エキシマ光露光装置、等によるパターニングで作製することもできる。
【0074】
小金属構造体の外形、開口部、及び微小金属構造体の任意に選択した二つの端部間の最大長さ(端部間長)とは、平面形状における大きさである。すなわち、外周部における任意の一点から他の点までの距離であり、任意の2点間の最大距離が指定の範囲に入っていればよい、例えば、図24に示すパターンの場合では点XY間の距離が最大であるので、各構造体において、この距離を指定範囲内とする。各構造体の平面形状の大きさがこの範囲にあることで、目的とする検出感度を達成できる表面プラズモン共鳴を更に効果的に得ることができる。
【0075】
複合構造体は、必要に応じて支持体上に1個以上を設ける。複数個設ける場合には、各複合構造体の間隔は、好ましくは50nm〜2000nm、より好ましくは150nm〜1000nmの範囲から選択した距離とすることが好ましい。これは、複合構造体の表面プラズモンによる相互作用により空間的な電場の分布・強度に影響があるためである。また、間隔が大きくなると、金属の面積が下がり、信号強度が弱くなってしまうため、特殊な光学系を適用する必要性が出てくるので、上記範囲にあることが好ましい。
【0076】
支持体に複数の複合構造体を設ける場合は、平面形状及びその大きさの少なくとも1つにおいて異なる複数種類の複合構造体を支持体上に設けることができる。複合構造体の製造効率や検出系の構成を簡便化する点などを考慮した場合は、図7に示すように、数mm角程度の領域に同一形状及び大きさの複合金属構造体を規則的に支持体上に配置することが好ましい。このような配置とすることで、透過光や散乱光、反射光の測定を容易にすることができる。
【0077】
複合構造体を構成する、小金属構造体及び微小金属構造体は、表面プラズモン吸光スペクトルのピーク位置に影響するため、測定に適したサイズに形成し、配置する。小金属構造体と微小金属構造体を組み合わせたことによる検出感度の向上は、小金属構造体開口空間に配置された微小金属構造体が相互作用を起こすことによる。
【0078】
複合金属構造体を形成するための支持体としては、光学的に透明な、ガラス板、石英板、ポリカーボネートやポリスチレンなどの樹脂板やITO基板などを用いることができる。すなわち、表面プラズモン共鳴法による検出を可能とする支持体であればよい。
【0079】
素子への標的物質捕捉能の付与には、図22にあるように抗体105などの化学物質を標的物質106の捕捉体として用いるのが好ましい。抗体105等については、図8に関連して説明したものを本態様においても使用することができる。
【0080】
II.(検出装置及び検出方法)
次に、上記の構成の素子を用いた標的物質検出装置について説明する。本発明による検出装置は、上記構成の素子を保持する保持手段と、素子からの信号を検出するための検出手段と、を少なくとも有して構成される。
【0081】
検出手段としては、光源と分光器、レンズ類から構成される光学検出系と、検体を素子まで移動させ素子との反応を起こさせるための反応領域を形成するための反応用ウェル、流路、送液機構等からなる送液系を有するものが好適に利用できる。光源としては、可視領域から近赤外領域までの波長領域をカバーできるものを用いることができる。光学測定は、吸収スペクトル、透過スペクトル、散乱スペクトル、反射スペクトルを用いることができる。最も好ましくは、吸収スペクトルのピーク波長あるいは、ピークの吸収強度を利用する。素子の有する金属構造体上に設けた捕捉体に標的物質が特異的に結合すると、局在プラズモン共鳴が非結合状態に対して変化し、吸収スペクトルのピーク波長は、長波長側にシフトし、吸収強度は増大する。そのシフト量の程度によって、あらかじめ作製しておいた標的物資に対する検量線から標的物質の量を定量することができる。この素子は、局在プラズモン共鳴を利用しているので、金属構造体近傍では、局所的な電場増強が起こる。この現象は、表面増強ラマン分光法(SERS)や表面プラズモン蛍光分光法(SPFS)などの測定法にも応用でき、これらの方法による標的物質の定量も可能である。
【0082】
保持手段は、検出素子を保持または載置し得る手段であって、標的物質検出装置の構成部品として適用し得るものの中から適宜選択できる。
【0083】
反応領域とは、素子と検体を接触させるための領域である。その反応により、検体中に含まれる標的物質が素子と接触して、標的物質の検出を可能にする。
【0084】
反応用ウェルや流路は、いわゆるμTAS(Micro Total Analysis System)型の装置で用いられているポリジメチルシロキサン(PDMS)基板によって、作製されるのが容易である。このPDMS基板を、検出素子を作製してある基板と貼りあわせて図5のような形状にて使用するものとする。送液機構としては、マイクロピストンポンプやシリンジポンプなどを用いる。次に、代表的な装置形態を図9及び図10に示す。まず、素子118の保持手段と反応領域形成手段を兼ねる反応ウェル部107に素子118を配置し、インレット、アウトレットを有した検出チップ142を送液ポンプ、廃液リザーバに接続する。標的物質を含む検体を流路111を介して送液ポンプ110でインレット108より導入する。一定時間のインキュベーションを行い、その時の光源ユニット112より光を反応ウェル部107を透過させ、透過スペクトルを分光光度計113により測定する。中央演算装置114にて、あらかじめ作製してある検量用データと比較し、濃度などの測定結果を表示ユニット115に表示する。必要があれば、測定前にリン酸緩衝液などを洗浄液としてインレット108より導入し、反応ウェル部107を洗浄してもよい。ここで、一定時間後のスペクトル変化を静的に測定する他に、その変化を動的にリアルタイム測定することも可能である。その場合、時間変化率などを新たな情報として取得することができる。以上の操作を入力ユニット119より入力し、あらかじめHDD120に記録しておいたプログラムをRAM131にロードし、操作を実行する。
【0085】
III.(検出用キット)
上記構成の素子と、標的物質の素子への捕捉に必要な試薬あるいは、上記構成の素子と、標的物質の素子への捕捉に必要な試薬と、を少なくとも用いて標的物質検出用キットを構成することができる。標的物質の捕捉に必要な試薬の一例としては、抗体が挙げられる。また、抗体の非特異吸着を防止するためにBSA(ウシ血清アルブミン)等と抗体を含むものが挙げられる。また、こうした試薬は乾燥状態のものとするのが好ましい。
【0086】
捕捉する標的物質としては、生体物質(タンパク質、核酸、糖鎖、脂質等)やアレルゲン、バクテリア、ウイルス等が好適である。さらに、検出装置は生体由来の物質又はその類似物質を捕捉体成分として用いた、いわゆるバイオセンサに医療用、産業用、家庭用を問わず、好適に応用できる。これにより、検体中の微量の標的物質を検出することができる。
【実施例】
【0087】
以下、本発明を実施例により更に具体的に説明する。なお、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0088】
(実施例1)
図11に本実施例で用いた検出装置の概略の構造を示す。検出素子118は、膜厚20nmの金薄膜を625μm厚の石英板上に形成し、これを所定のパターンに電子線描画装置を用いてパターニングすることで製作した。同図において、107は検出素子を配置する反応ウェルであり、108は標的物質を含む検体を導入するインレット、109は検体を排出するアウトレットである。123は、反応ウェル107、インレット108、アウトレット109を備えたチップであり、117はコリメートレンズである。
【0089】
図12の走査型電子顕微鏡(SEM)画像にあるように、金属構造体の平面形状の外形は160nm×160nmの正方形状、リングの帯幅は70nmである。解像性の高低により、内側の開口部の形状は、外形とは必ずしも同じに作製できるとは限らない。各パターンは、250nmのスペースを開けてアレイ状に3mm×3mmの領域に配置されている。本実施例の構造体の吸収スペクトルは、800nm近傍にピーク波長を持っている。
【0090】
次に、金属構造体の表面に捕捉能を付与するため、本実施例で用いる標的物質捕捉体である抗AFP(α−fetoprotein)抗体を金の構造体表面に固定する方法を示す。本実施例の構造体の材質である金と親和性の高いチオール基を持つ、11−Mercaptoundecanoic acidのエタノール溶液をスポッタ等で素子上に滴下し、前記構造体表面を修飾する。これにより、構造体表面にカルボキシル基が露出される。その状態で、N−Hydroxysulfosuccinimide(同仁化学研究所社製)水溶液と1−Ethyl−3−[3−dimethylamino]propyl]carbodiimide hydrochloride(同仁化学研究所社製)水溶液を同様にスポッタにて反応領域に滴下する。これにより、構造体表面にスクシンイミド基が露出される。さらに、ストレプトアビジンを結合させることにより、構造体表面がストレプトアビジンで修飾される。この構造体にビオチン化した抗AFP抗体を固定させる。
【0091】
複数の検出素子のパターン領域を支持体上に作製し、それぞれに異なる抗体を固定させ、検体中の異なる標的物質を同一基板上にて検出するような構成をとることも可能である。異なる抗体を用いて、前記の方法と同様の固定化操作を行うことでこの構成を得ることができる。
【0092】
以下の操作により、特異的に検体中のAFP濃度を測定することができる。
(1)作製した素子に標的物質であるAFPを含んだ検体をインレット8より導入し、AFPを構造体上に捕捉させる。
(2)検体を排出し、リン酸緩衝液をインレット8より導入し、反応ウェル7内部を洗浄する。
(3)最後にリン酸緩衝液を充填して、金の構造体の吸収スペクトルを測定する。
【0093】
吸収スペクトルについて反応前と反応後を比較すると、図13に1例を示すように、特異的な抗原体反応によって標的物質が検出素子表面に結合することで吸収スペクトルがシフトする。ここで、吸収スペクトルのピーク強度、あるいはピーク波長のシフト量とAFP濃度の相関は、あらかじめ既知のAFPコントロール溶液により求められており、濃度未知の検体の微量AFP濃度を求めることができる。
【0094】
(実施例2)
図14に本実施例で用いた装置の概略の構造を示す。検出素子118は、膜厚20nmの金薄膜を625μm厚の石英板上に設け、これを電子線描画装置を用いてパターニングすることで作製した。走査型電子顕微鏡(SEM)画像で確認すると、構造体の外形は150nm×150nm、線幅は50nmである。描画プロセスの解像性の高低により、交差部の形状は、必ずしも直角に作製できるとは限らない。構造体と構造体の間は、400nmのスペースを開けてアレイ状に3mm×3mmの領域に配置されている。
【0095】
構造体の表面に捕捉能を付与するため、本実施例で用いる標的物質捕捉体である抗AFP(α−fetoprotein)抗体を金の構造体表面に固定する方法を示す。本実施例の構造体の材質である金と親和性の高いチオール基を持つ、11−Mercaptoundecanoic acidのエタノール溶液をスポッタ等で素子上に滴下し、前記構造体表面を修飾する。これにより、構造体表面にカルボキシル基が露出される。その状態で、N−Hydroxysulfosuccinimide(同仁化学研究所社製)水溶液と1−Ethyl−3−[3−dimethylamino]propyl]carbodiimide hydrochloride(同仁化学研究所社製)水溶液を同様にスポッタにて反応領域に滴下する。これにより、構造体表面にスクシンイミド基が露出される。さらに、ストレプトアビジンを結合させることにより、構造体表面がストレプトアビジンで修飾される。この構造体にビオチン化した抗AFP抗体を固定させる。
【0096】
複数の検出素子のパターン領域を支持体上に作製し、それぞれに異なる抗体を固定させ、検体中の異なる標的物質を同一基板上にて検出するような構成をとることも可能である。
【0097】
異なる抗体を用いて、前記の方法と同様の固定化操作を行うことでこの構成を得ることができる。
【0098】
以下の操作により、特異的に検体中のAFP濃度を測定することができる。
(1)作製した素子に標的物質であるAFPを含んだ検体をインレット108より導入し、AFPを構造体上に捕捉させる。
(2)検体を排出し、リン酸緩衝液をインレット108より導入し、反応ウェル107内部を洗浄する。
(3)最後にリン酸緩衝液を充填して、金の構造体の吸収スペクトルを測定する。
【0099】
吸収スペクトルについて反応前と反応後を比較すると、図15に1例を示すように、特異的な抗原体反応によって標的物質が検出素子表面に結合することで吸収スペクトルがシフトする。ここで、吸収スペクトルのピーク強度、あるいはピーク波長のシフト量とAFP濃度の相関は、あらかじめ既知のAFPコントロール溶液により求められており、濃度未知の検体の微量AFP濃度を求めることができる。
【0100】
(実施例3及び比較例1)
本実施例では、素子の構成を変えた以外は、実施例1と同様の構成の検出装置を用いた。本実施例で用いた検出素子は、膜厚20nmの金薄膜を625μm厚の石英板上に形成し、これを電子線描画装置を用いてパターニングして製作した。図16の走査型電子顕微鏡(SEM)画像にあるように、金属構造体の平面形状の外形は200nm×200nm、リングの帯幅は50nmである。解像性の高低により、内側の開口部の形状は、外形とは必ずしも同じに作製できるとは限らない。構造体と構造体の間は、250nmのスペースを開けてアレイ状に3mm×3mmの領域に配置されている。本実施例の金属構造体の吸収スペクトルは、大気中で1070nm近傍にピーク波長を持っている。図17に基本性能としての屈折率に対する応答性を示した。屈折率に対するこのピーク波長のシフトの大きさは、リング状の周回構造を持たない同一外周形状及び同サイズのパターン(比較例1)と比較すると、1.4倍程度増加した。
【0101】
構造体の表面に捕捉能を付与するため、本実施例で用いる標的物質捕捉体である抗AFP(α−fetoprotein)抗体を金の構造体表面に固定する方法を示す。本実施例の構造体の材質である金と親和性の高いチオール基を持つ、11−Mercaptoundecanoic acidのエタノール溶液をスポッタ等で素子上に滴下し、前記構造体表面を修飾する。これにより、構造体表面にカルボキシル基が露出される。その状態で、N−Hydroxysulfosuccinimide(同仁化学研究所社製)水溶液と1−Ethyl−3−[3−dimethylamino]propyl]carbodiimide hydrochloride(同仁化学研究所社製)水溶液を同様にスポッタにて反応領域に滴下する。これにより、構造体表面にスクシンイミド基が露出される。さらに、ストレプトアビジンを結合させることにより、構造体表面がストレプトアビジンで修飾される。この構造体にビオチン化した抗AFP抗体を固定させる。
【0102】
複数の検出素子のパターン領域を支持体上に作製し、それぞれに異なる抗体を固定させ、検体中の異なる標的物質を同一基板上にて検出するような構成をとることも可能である。異なる抗体を用いて、前記の方法と同様の固定化操作を行うことでこの構成を得ることができる。
【0103】
実施例1と同様の操作により、特異的に検体中のAFP濃度を測定することができる。
【0104】
吸収スペクトルの変化について反応前と反応後を比較すると、特異的な抗原抗体反応によって、標的物質が検出素子表面に結合することで実施例と同様の吸収スペクトルのシフトが観察された。ここで、吸収スペクトルのピーク強度、あるいはピーク波長のシフト量とAFP濃度の相関は、あらかじめ既知のAFPコントロール溶液により求められており、濃度未知の検体の微量AFP濃度を求めることができる。
【0105】
(実施例4)
図23に本実施例で用いる検出装置の概略の構造を示す。検出素子118は、膜厚20nmの金薄膜を625μm厚の石英板上に形成し、これを所定のパターンに電子線描画装置を用いてパターニングすることで製作する。開口部の平面形状の外形は200nm×200nmの十字型形状、帯幅は50nmである。解像性の高低により、内側の開口部の形状は、外形とは必ずしも同じに作製できるとは限らない。各開口部は、400nmのスペースを開けてアレイ状に3mm×3mmの領域に配置されている。図23において図番が付与されている部位は、同じ図番が付与された他の図の部位と同じであるのでここでの説明を省略する。
【0106】
次に、金属膜の表面に捕捉能を付与するため、本実施例で用いる標的物質捕捉体である抗AFP(α−fetoprotein)抗体を金の膜表面に固定する方法を示す。本実施例の膜の材質である金と親和性の高いチオール基を持つ、11−Mercaptoundecanoic acidのエタノール溶液をスポッタ等で素子上に滴下し、前記膜表面を修飾する。これにより、膜表面にカルボキシル基が露出される。その状態で、N−Hydroxysulfosuccinimide(同仁化学研究所社製)水溶液と1−Ethyl−3−[3−dimethylamino]propyl]carbodiimide hydrochloride(同仁化学研究所社製)水溶液を同様にスポッタにて反応領域に滴下する。これにより、膜表面にスクシンイミド基が露出される。さらに、ストレプトアビジンを結合させることにより、金属膜表面がストレプトアビジンで修飾される。この金属膜にビオチン化した抗AFP抗体を固定させる。
【0107】
複数の検出素子のパターン領域を基板上に作製し、それぞれに異なる抗体を固定させ、検体中の異なる標的物質を同一基板上にて検出するような構成をとることも可能である。異なる抗体を用いて、前記の方法と同様の固定化操作を行うことでこの構成を得ることができる。
【0108】
以下の操作により、特異的に検体中のAFP濃度を測定することができる。図10の装置を用いて説明する。光源ユニット112及び分光光度計113は、入力ユニット119より操作を入力し、HDD120上に保存してあるプログラムをRAM131にロードして実行し、表示ユニット115に結果を表示させる。
(1)インレット108を送液ポンプ110に、アウトレット109を廃液リザーバ116に接続し、光源ユニット112と分光光度計113の間に反応ウェルが来るように検出チップ142を設置する。
(2)標的物質であるAFPを含んだ検体を送液ポンプ110によりインレット108から導入し、反応ウェルにおいてAFPを素子118上に捕捉させる。
(3)検体をアウトレット109より排出し、リン酸緩衝液をインレット108より導入し、反応ウェル内部を洗浄する。排出した液は廃液リザーバ116に貯める。
(4)最後にリン酸緩衝液を反応ウェルに充填して、光源ユニット112よりタングステンランプの光を反応ウェル中にある素子118に透過させ、分光光度計113を用いて吸収スペクトルを測定する。
【0109】
吸収スペクトルについて反応前と反応後を比較すると、図15に示すものと同様の結果が得られる。すなわち、特異的な抗原体反応によって標的物質が検出素子表面に結合することで吸収スペクトルがシフトする。ここで、吸収スペクトルのピーク強度、あるいはピーク波長のシフト量とAFP濃度の相関は、あらかじめ既知のAFPコントロール溶液により求められており、濃度未知の検体の微量AFP濃度を求めることができる。
【0110】
(実施例5)
図30及び図31に本実施例で用いる検出装置の概略の構造を示す。検出素子118は、膜厚20nmの金薄膜102を625μm厚の石英板100上に形成し、これを所定のパターンに電子線描画装置を用いてパターニングすることで製作する。複合構造体126のパターンは、400nmの開口部を持つ膜からなる小金属構造体と、各小金属構造体開口部の中心に配置された100nmの正方形の微小金属構造体からなるパターンである。解像性の高低により、内側の開口部の形状は、外形とは必ずしも同じに作製できるとは限らない。各開口部は、400nmのスペースを開けてアレイ状に3mm×3mmの領域に配置されている。図31に示した装置は、既に図11、図14等で説明した装置の検出素子118だけを変更したものであり、付与した図番は同一なので、説明はここでは行わない。
【0111】
次に、複合金属構造体の表面に捕捉能を付与するため、本実施例で用いる標的物質捕捉体である抗AFP(α−fetoprotein)抗体を金の表面に固定する方法を示す。本実施例の構造体の材質である金と親和性の高いチオール基を持つ、11−Mercaptoundecanoic acidのエタノール溶液をスポッタ等で素子上に滴下し、前記金表面を修飾する。これにより、金表面にカルボキシル基が露出される。その状態で、N−Hydroxysulfosuccinimide(同仁化学研究所社製)水溶液と1−Ethyl−3−[3−dimethylamino]propyl]carbodiimide hydrochloride(同仁化学研究所社製)水溶液を同様にスポッタにて反応領域に滴下する。これにより、金表面にスクシンイミド基が露出される。さらに、ストレプトアビジンを結合させることにより、金表面がストレプトアビジンで修飾される。この金にビオチン化した抗AFP抗体を固定させる。
【0112】
複数の検出素子のパターン領域を基板上に作製し、それぞれに異なる抗体を固定させ、検体中の異なる標的物質を同一基板上にて検出するような構成をとることも可能である。異なる抗体を用いて、前記の方法と同様の固定化操作を行うことでこの構成を得ることができる。
【0113】
実施例4と同様にして特異的に検体中のAFP濃度を測定することができる。
【0114】
吸収スペクトルについて反応前と反応後を比較すると、図15に示すものと同様の結果を得ることができる。すなわち、特異的な抗原体反応によって標的物質が検出素子表面に結合することで吸収スペクトルがシフトする。ここで、吸収スペクトルのピーク強度、あるいはピーク波長のシフト量とAFP濃度の相関は、あらかじめ既知のAFPコントロール溶液により求められており、濃度未知の検体の微量AFP濃度を求めることができる。
【0115】
(実施例6)
実施例1に記載の素子において、金属構造体の表面に捕捉能を付与するため、本実施例では、検出素子の材料である金と標的物質であるHEL(ニワトリ卵白リゾチーム)の2つの物質に対して特異的親和性を持つ2重特異性抗体(ディアボディ)を用いる。ここで用いる2重特異性抗体(ディアボディ)は、特開2005−312446号公報に記載のものである。調整されたディアボディは、リン酸緩衝液と共に検出素子部に添加し、約30分間インキュベーション後、緩衝液にて洗浄して用いる。本実施例のディアボディを用いる手法によると、化学的な固定化方法に比べ、親和性を損なうことなく固定できること、その結果として、検出素子上に固定化するために必要な捕捉体量が削減できる。
【0116】
次に、以下の操作により、特異的に検体中のHEL濃度を測定することができる。
(1)作製した素子に標的物質であるHELを含んだ検体をインレット108より導入し、HELを構造体上に捕捉させる(図11)。
(2)検体を排出し、リン酸緩衝液をインレット108より導入し、反応ウェル107内部を洗浄する。
(3)最後にリン酸緩衝液を充填して、金の構造体の吸収スペクトルを測定する。
【0117】
吸収スペクトルについて反応前と反応後を比較すると、図13に1例を示すように、特異的な抗原体反応によって標的物質が検出素子表面に結合することで吸収スペクトルがシフトする。ここで、吸収スペクトルのピーク強度、あるいはピーク波長のシフト量とHEL濃度の相関は、あらかじめ既知のHELコントロール溶液により求められており、濃度未知の検体の微量HEL濃度を求めることができる。
【符号の説明】
【0118】
100 支持体
102 金属薄膜
104 金属構造体
105 抗体
106 標的物質
【特許請求の範囲】
【請求項1】
プラズモン共鳴を利用して標的物質を検出する検出装置に用いる標的物質検出素子用の基板であって、
支持体と、規則的な間隔を設けてアレイ状に配された複数の開口部を備えて前記支持体上に形成された金属膜と、を有し、前記開口部が、ループ部及び分岐部の少なくとも1つを有することを特徴とする標的物質検出素子用の基板。
【請求項2】
隣接する2つの開口部の距離は、50nm以上2000nm以下の範囲にある請求項1に記載の基板。
【請求項3】
前記隣接する開口部の距離は、150nm以上1000nm以下範囲にある請求項2に記載の基板。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれか1項に記載の基板の有する前記金属膜に標的物質捕捉体を配置してなることを特徴とする標的物質検出用の素子。
【請求項5】
プラズモン共鳴を利用して検体中の標的物質を検出するための装置であって、
請求項4に記載の標的物質検出用の素子と、該素子を保持するための保持手段と、該素子に検体を接触せしめる手段と、該素子による標的物質の捕捉を検出するための検出手段と、を有することを特徴とする標的物質の検出装置。
【請求項6】
前記検出手段が、光学的検出手段である請求項5に記載の検出装置。
【請求項7】
プラズモン共鳴を利用して検体中の標的物質を検出するための検出方法であって、請求項4に記載の標的物質検出用の素子と、前記検体とを接触させる工程と、前記検体中に標的物質が含まれている場合における前記素子への標的物質の捕捉を検出する工程と、を有することを特徴とする標的物質の検出方法。
【請求項8】
検体中における標的物質の有無または前記標的物質の量を検出するためのキットであって、請求項4に記載の標的物質検出用の素子と、標的物質の前記素子への捕捉に必要な試薬と、を有することを特徴とする標的物質検出用キット。
【請求項9】
前記標的物質捕捉体は抗体であることを特徴とする請求項4に記載の標的物質検出用の素子。
【請求項10】
前記抗体は抗体断片である請求項9に記載の標的物質検出用の素子。
【請求項11】
前記抗体断片は多重特異性多価抗体である請求項10に記載の標的物質検出用の素子。
【請求項1】
プラズモン共鳴を利用して標的物質を検出する検出装置に用いる標的物質検出素子用の基板であって、
支持体と、規則的な間隔を設けてアレイ状に配された複数の開口部を備えて前記支持体上に形成された金属膜と、を有し、前記開口部が、ループ部及び分岐部の少なくとも1つを有することを特徴とする標的物質検出素子用の基板。
【請求項2】
隣接する2つの開口部の距離は、50nm以上2000nm以下の範囲にある請求項1に記載の基板。
【請求項3】
前記隣接する開口部の距離は、150nm以上1000nm以下範囲にある請求項2に記載の基板。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれか1項に記載の基板の有する前記金属膜に標的物質捕捉体を配置してなることを特徴とする標的物質検出用の素子。
【請求項5】
プラズモン共鳴を利用して検体中の標的物質を検出するための装置であって、
請求項4に記載の標的物質検出用の素子と、該素子を保持するための保持手段と、該素子に検体を接触せしめる手段と、該素子による標的物質の捕捉を検出するための検出手段と、を有することを特徴とする標的物質の検出装置。
【請求項6】
前記検出手段が、光学的検出手段である請求項5に記載の検出装置。
【請求項7】
プラズモン共鳴を利用して検体中の標的物質を検出するための検出方法であって、請求項4に記載の標的物質検出用の素子と、前記検体とを接触させる工程と、前記検体中に標的物質が含まれている場合における前記素子への標的物質の捕捉を検出する工程と、を有することを特徴とする標的物質の検出方法。
【請求項8】
検体中における標的物質の有無または前記標的物質の量を検出するためのキットであって、請求項4に記載の標的物質検出用の素子と、標的物質の前記素子への捕捉に必要な試薬と、を有することを特徴とする標的物質検出用キット。
【請求項9】
前記標的物質捕捉体は抗体であることを特徴とする請求項4に記載の標的物質検出用の素子。
【請求項10】
前記抗体は抗体断片である請求項9に記載の標的物質検出用の素子。
【請求項11】
前記抗体断片は多重特異性多価抗体である請求項10に記載の標的物質検出用の素子。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【図26】
【図27】
【図28】
【図29】
【図30】
【図31】
【図32】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【図26】
【図27】
【図28】
【図29】
【図30】
【図31】
【図32】
【公開番号】特開2011−252928(P2011−252928A)
【公開日】平成23年12月15日(2011.12.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−192817(P2011−192817)
【出願日】平成23年9月5日(2011.9.5)
【分割の表示】特願2006−120802(P2006−120802)の分割
【原出願日】平成18年4月25日(2006.4.25)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年12月15日(2011.12.15)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年9月5日(2011.9.5)
【分割の表示】特願2006−120802(P2006−120802)の分割
【原出願日】平成18年4月25日(2006.4.25)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】
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