説明

プリオン除去機能を有するフィルター

【課題】 血液製剤等の生物学的流体から異常プリオン除去機能を有するフィルターを提供することにあり、さらには、異常プリオンと同時に白血球も除去できるフィルターを提供することにある。
【解決手段】 生物学的流体中の目標物質を選択的に減少させるためのフィルターであって、流体の出口と入口を有する容器内に積層された担体を有し、積層された担体は少なくとも以下のAとBの構成からなることを特徴とするプリオン除去機能を有するフィルター。
A:異型断面繊維不織布を有する。
B:20モル%以上40モル%以下の疎水性重合性モノマー由来のユニットと5モル%以上13モル%以下の塩基性含窒素部分を含む重合性モノマー由来のユニットと残余がプロトン性中性親水性部分を含む重合性モノマー由来のユニットである3つのユニットから構成されてなるポリマーをコートした担体を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、血液製剤等の生物学的流体から異常プリオン除去機能を有するフィルターに関する。さらに詳しくは、全血製剤、濃厚赤血球、血小板濃厚液等の血液製剤中に存在する可能性のある、異常プリオンを選択的に除去するフィルターに関するものである。
【背景技術】
【0002】
異常プリオンは、ヒト及び動物において中枢神経系の海綿状脳症を引き起こす感染性病原体である。異常プリオンは、細菌、ウイルスおよびウイロイドとは異なる。現在の有力な仮説は、異常プリオンタンパク質の感染性には核酸成分は必要でないというものである。さらに、1つの種の動物(例えばヒト)を感染させる異常プリオンは、別の種(例えばマウス)を感染させないと考えられていた。
【0003】
異常プリオンおよびこれによって引き起こされる疾患の研究における重要な段階は、プリオンタンパク質(「PrP」)と命名されたタンパク質の発見および精製であった(非特許文献1〜3)。その後、異常プリオンタンパク質をコードする完全な遺伝子のクローニング、塩基配列決定、およびトランスジェニック動物における発現がなされた。PrPcは単一コピーの宿主遺伝子によってコードされ(非特許文献4)、通常は神経細胞の外表面に認められる。プリオン病は、PrPcがPrPScと呼ばれる変異型に変換されることによって起こるという仮説が有力である。
【0004】
その後、英国を中心に発生した変異型クロイツフェルト・ヤコブ病(変異型CJD)が、BSEに感染したウシからの牛肉消費の結果であると指摘された(非特許文献5、6)。さらに、変異型CJDはウシからヒトへの牛肉消費による伝播に加えて、血液製剤の輸血や組織の移植片に存在する変異型の異常プリオンタンパク質の伝播によりヒトからヒトへ感染が伝播する危険性が示唆されてきた。近年では、2004年に献血後変異型CJDを発症したドナーの血液を輸血されたレシピエントが変異型CJDに感染した2例の病例が報告され、2006年には3例目の病例が報告されたことから輸血による変異型CJDの伝播の可能性が高まってきている。また、変異型CJDをまだ発病はしていないが感染しているヒトがかなりの数存在しており、これらのヒトからの血液製剤により感染が拡大する可能性も指摘されている。したがって、血液製剤からの異常プリオンを除去する方法が必要とされる。
【0005】
一方で、輸血分野においては、血液製剤中に含まれる混入白血球を除去して輸血する、いわゆる白血球除去輸血が行われるようになってきている。これは、輸血に伴う頭痛、吐気、悪寒、非溶血性発熱反応等の副作用や、受血者により深刻な影響を及ぼすアロ抗原感作、輸血後移植片対宿主疾患(GVHD)、ウイルス感染等の重篤な副作用が、主として輸血に用いられた血液製剤中に混入している白血球が原因となって引き起こされることが明らかになったためである。血液製剤から白血球を除去する方法では白血球除去能力が高いことと、操作が簡便であること、コストが低いことなどの理由によりフィルター法が広く用いられている。フィルター法、即ち、白血球除去フィルターによる血液製剤などの処理は、近年では白血球除去血液製剤の品質管理を徹底するために、保存前に血液センターにおいて濾過が行われることが一般的になりつつある。通常、血液センターで白血球除去フィルターを使用して血液を濾過する際は、濾過されるべき血液製剤が入った血液バックを、濾過後の血液製剤を回収するバックよりも70cmから150cm高い位置に置き、重力の作用によって血液製剤を濾過することが一般的に行われている。
【0006】
白血球除去した血液製剤を調整するためのセットにはSCDタイプとインラインタイプの二種類のセットが広く使われている。SCDタイプにおいては白血球を除去したい血液製剤の入ったバックとセットとを無菌的に接合して白血球除去を行うため、白血球除去フィルターと濾過後の血液製剤を回収する血液バックのみが接続されている。インラインタイプにおいては献血者からの採血から血液製剤調整までを一体型で行うため、通常血液バックには保存液や抗凝固剤が含まれている。これらのセットの滅菌方法にはSCDタイプでは滅菌するためのコストが安価である放射線滅菌を採用することが一般的である。しかし、放射線滅菌により保存液や抗凝固剤の分解が起こるため、インラインタイプでは高圧蒸気滅菌が一般的には使われている。
【0007】
また、赤血球を含有する血液製剤の品質を測る指標のひとつとして溶血度が挙げられ、高品質の赤血球を含む白血球除去血液製剤を供給するために、溶血度が0.8%未満であることが求められている(非特許文献7)。
【0008】
血液製剤から異常プリオンを除去する方法においては血液センターにおける操作性、コスト、血液の損出量を考慮すると白血球除去も同時に出来る方法が好ましい。
特許文献1には疎水性重合性モノマー由来のユニットと塩基性含窒素部分を含む重合性モノマー由来のユニットとプロトン性中性親水性部分を含む重合性モノマー由来のユニットから構成される白血球除去フィルター素材コート用ポリマーを白血球除去能力が高い素材として開示されているが、異常プリオンの除去についてはなんら開示も示唆もされていない。保存前白血球除去の血液濾過としては、採血後1日以内に室温状態で濾過する室温濾過と冷蔵庫で1〜3日程度保存した後濾過する冷蔵濾過が並存している場合が多く、室温濾過においては、濾過時間が短い反面、冷蔵保存血液より白血球が漏出しやすく、冷蔵濾過においては、反対に濾過時間が長く、白血球の漏出は比較的防止されるという傾向が認められている。しかしながら、特許文献1では冷蔵濾過における濾過時間の検討は行われていない。
【0009】
特許文献1ではフィルター法による白血球除去が記載されている。フィルター法は繊維素材や充填方法の検討、特に繊維径や充填率で白血球除去性、分離効率を上げる努力がなされており、例えば特許文献2において繊維径を小さくし、充填率を上げることによって白血球と接触する繊維表面が増し、白血球除去率が良くなることが知られている。しかしながら、繊維径はある程度までしか小さくすることは困難であり、また充填率を上げると白血球がつまり短時間で除去率が低下する。
【0010】
特許文献3には親水性あるいは疎水性あるいは両親媒性の官能基が結合しているポリマーマトリックス、あるいはアルミナ、シリカからなるプリオン結合物質と生物学的流体中のプリオンとが複合体を形成する方法が開示されている。しかし、実施例では官能基をレジンに結合されているが、白血球除去は行えず、血液センターで実用しても白血球除去フィルターを別に使用しなくてはならない。白血球と異常プリオンの除去を別々に実施することは血液製剤のロス量、血液センターでの手間、コストを増大させることになる。また、アルミナ、シリカは凝固系の活性化を惹起し、タンパクの非選択的吸着性が大きいと言われており、血液製剤には適さない。
【0011】
特許文献4にはフロースルーカラムなどの装置、球状重合体ビーズなどの表面が、リンラングステン酸の金属塩(例えばナトリウム)などのプリオン錯化剤で被覆されており、任意の液体資料からのプリオンの除去などに用いる方法が開示されている。しかし、試料中の実質的にすべてのプリオン錯化剤と複合体を形成するのに十分な時間、試料を錯化剤に曝すことが必要である。例えば試料は、約30℃〜45℃(好ましくは37℃)で約1時間〜16時間インキュベートされる。しかし、血液製剤の保存温度として37℃という温度は適切でなく、また現行の白血球除去フィルターの使用方法では冷蔵または室温濾過または冷蔵濾過が一般的であり、また重力の作用により濾過されていることから、この方法は血液製剤からのプリオン除去、あるいは白血球除去の方法としては適さない。
【0012】
特許文献5には、プリオンを除去および検出するための親水性あるいは疎水性あるいは両親媒性の官能基を含む結合物質、あるいはアルミニウム、シリカからなるプリオン結合物質とプリオンタンパク質の複合体を形成させる方法が開示されている。しかし、実施例に用いられているプリオン結合物質では白血球除去を行えず、白血球と異常プリオンの除去を別々に実施すると、血液製剤のロス量、血液センターでの手間、コストが増大するという問題があった。また、アルミナ、シリカは凝固系の活性化を惹起し、タンパクの非選択的吸着性が大きいと言われており、血液製剤には適さない。
【0013】
以上のことから、血液製剤からの異常プリオン除去を目的とした場合、効率良く簡便に除去できる方法が求められており、さらには白血球が同時に除去できることが望まれている。
【非特許文献1】Bolton, et. Al., (1982) Science 218:1309-11
【非特許文献2】Prusiner, et. Al., (1982) Biochemistry 21:6942-50
【非特許文献3】McKinley, et. Al., (1983) Cell 35:57-62
【非特許文献4】Basler, et. Al., (1986) Cell 46:417-28
【非特許文献5】G.Chazot, et. Al., (1996) Lancet 347:1181
【非特許文献6】R.G.Will, et. Al., (1996) Lancet 347:921-25
【非特許文献7】Guide to the preparation, use and quality assurance of blood components 9th edition /Council of Europe Publishing
【特許文献1】国際公開第03/011924号パンフレット
【特許文献2】特公昭58−54125号公報
【特許文献3】米国特許出願公開第2005/0014196号明細書
【特許文献4】特表2002−539081号公報
【特許文献5】特表2006−522344号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
上記問題点に鑑み本発明の課題は、血液製剤等の生物学的流体から異常プリオン除去機能を有するフィルターを提供することにあり、さらには、異常プリオンと同時に白血球も除去できるフィルターを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明者らは上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、疎水性重合性ポリマー、塩基性含窒素部分を含む重合性モノマー、あるいはプロトン性中性親水性部分を含む重合性モノマー単独からなるポリマーではなく、それらの3元共重合ポリマーをコーティングした異型断面繊維不織布を有するフィルターを用いると、血液製剤から驚くほど簡便に効率良く異常プリオンを除去できることを見出し、本発明を得るに至った。すなわち本発明は以下に関するものである。
(1)生物学的流体中の目標物質を選択的に減少させるためのフィルターであって、流体の出口と入口を有する容器内に積層された担体を有し、積層された担体は少なくとも以下のAとBの構成からなることを特徴とするプリオン除去機能を有するフィルター。
A:異型断面繊維不織布を有する。
B:20モル%以上40モル%以下の疎水性重合性モノマー由来のユニットと5モル%以上13モル%以下の塩基性含窒素部分を含む重合性モノマー由来のユニットと残余がプロトン性中性親水性部分を含む重合性モノマー由来のユニットである3つのユニットから構成されてなるポリマーをコートした担体を有する。
(2)繊維異型度が1.2以上である異型断面繊維不織布を用いることを特徴とする(1)に記載のフィルター。
(3)前記ポリマーをコートした異型断面繊維不織布であることを特徴とする(2)に記載のフィルター。
(4)担体の一部または全てが白血球除去能を有することを特徴とする(1)〜(3)の何れかに記載のフィルター。
(5)担体の充填密度が0.1g/cm以上0.5g/cm以下であることを特徴とする(1)〜(4)の何れかに記載のフィルター。
(6)担体の空隙率が60%以上90%以下であることを特徴とする(1)〜(5)の何れかに記載のフィルター。
(7)前記疎水性重合性モノマー、塩基性含窒素部分を含む重合性モノマー及びプロトン性中性親水性部分を含む重合性モノマーがアクリル酸誘導体及び/又はメタアクリル酸誘導体である(1)に記載のフィルター。
(8)前記塩基性含窒素部分が3級アミノ基であることを特徴とする(1)または(7)に記載のフィルター。
(9)前記プロトン性中性親水性部分が水酸基であることを特徴とする(1)または(7)に記載のフィルター。
(10)フィルターが放射線滅菌の後に高圧蒸気滅菌されていることを特徴とする(1)〜(9)に記載のフィルター。
【発明の効果】
【0016】
本発明を用いることによって、血液製剤から簡便に効率良く異常プリオンを除去できるようになり、さらには異常プリオンと同時に白血球をも除去することが可能である。加えて、本発明のフィルターを用いると、血液製剤の流れ性も良好であり、溶血の少ない高品質の血液製剤を得ることが可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明をさらに詳細に説明する。
本発明でいうポリマーとは疎水性重合性モノマー由来のユニットと塩基性含窒素部分を含む重合性モノマー由来のユニットとプロトン性中性親水性部分を含む重合性モノマー由来のユニットから構成されてなるポリマーのことである。
【0018】
本発明でいうユニットとは、ポリマー分子のそれぞれの重合性モノマー由来の繰り返し最小単位を意味する。ユニットについて例示するならば、二重結合が単に開いて付加重合する場合については、CH=CXY(X:HまたはH以外の置換基、Y:X以外の置換基)で表わされるビニル化合物の重合性モノマーの繰り返し最小単位となる−(CH−CXY)−がユニットとなる。またポリマーを重縮合にて合成する場合を例示するならば、ポリマーの前駆体のA−(R)−B(R:重合にて脱離しない部分、A、B:重合にて反応し脱離する部分)から、ABが脱離して重合する際の繰り返し最小単位となる−(R)−をユニットとして例示することができる。
【0019】
疎水性重合性モノマーとしては、具体的には入手のし易さ、取り扱いの点から、スチレン、メチルスチレン、メチルメタクリレート、メチルアクリレート、エチルメタクリレート、エチルメタクリレート、ブチルアクリレート、ブチルメタクリレート、フェニルアクリレート、フェニルメタクリレート、エチルヘキシルアクリレート、エチルヘキシルメタクリレート、トリクロロエチルアクリレート、トリクロロエチルメタクリレート、などのアクリレートまたはメタクリレート、ペンテン、ヘキセン、ヘプテン、オクテンなどのアルケン類、シリコーン、シロキサンなどの有機ケイ素化合物、エチレンの水素原子が1個以上フッ素原子と置き換えられた有機フッ素重合性モノマーなどを例示することができるが、疎水性重合性モノマーは上記物質に限定されるものではない。その中でもモノマーの入手が容易であること、取り扱いやすい等の理由により、付加重合(ビニル重合)することでビニル系ポリマーが得られる。重合性部分がビニル基であるモノマーが好ましい。中でも、疎水性重合性モノマーとしてはアクリル酸誘導体、またはメタアクリル酸誘導体がより好ましい。疎水性重合性モノマーとしてアクリレートまたはメタクリレートが最も好ましい。
【0020】
塩基性含窒素官能基を有する材料は、生物学的流体中で材料表面が正荷電を有するようになり、これもまた異常プリオンの除去性能を上げる効果を示す。本発明でいう塩基性含窒素部分を含む重合性モノマーとは、以下に述べる塩基性含窒素部分を有する重合性モノマーをいう。塩基性含窒素部分としては、第1級アミノ基、第2級アミノ基、第3級アミノ基、第4級アミノ基、及びピリジル基、イミダゾイル基などの含窒素芳香族などを例示することができる。塩基性含窒素部分としては、特に3級アミノ基が好ましい。塩基性含窒素部分を含む重合性モノマーとして、具体的には入手のし易さ、取り扱い性の点から、ビニルアミン、2−ビニルピリジン、4−ビニルピリジン、2−メチル−5−ビニルピリジン、4−ビニルイミダゾール、N−ビニルー2−エチルイミダゾール、N−ビニル−2−メチルイミダゾール等の含窒素芳香環化合物のビニル誘導体、ジメチルアミノエチルアクリレート、ジメチルアミノエチルメタクリレート、ジエチルアミノエチルアクリレート、ジエチルアミノエチルメタクリレート、3−ジメチルアミノ−2−ヒドロキシプロピルアクリレート、3−ジメチルアミノ−2−ヒドロキシプロピルメタクリレート等のアクリレート及びメタクリレート、N−ジメチルアミノエチルアクリル酸アミド、N−ジメチルアミノエチルメタアクリル酸アミド、N−ジエチルアミノエチルアクリル酸アミド、 N−ジエチルアミノエチルメタアクリル酸アミド等のアクリル酸アミド及びメタアクリル酸アミド誘導体、p−ジメチルアミノメチルスチレン、p−ジエチルアミノエチルスチレン等のスチレン誘導体、及び上記重合性モノマーをハロゲン化アルキル基によって4級アンモニウム塩とした誘導体などが挙げられるが、塩基性含窒素部分を含む重合性モノマーは上記物質に限定されるものではない。含窒素塩基性官能基を含むモノマーとしてはアクリレートまたはメタクリレートがより好ましい。その中でも特に3級アミノ基を含む、ジメチルアミノエチルアクリレート、ジメチルアミノエチルメタクリレート、ジエチルアミノエチルアクリレート、ジエチルアミノエチルメタクリレートが好ましい。その中でモノマーの入手が容易であること、取り扱いやすい等の理由により、付加重合(ビニル重合)することでビニル系ポリマーが得られる重合性部分がビニル基であるモノマーが好ましい。塩基性含窒素部分を含む重合性モノマーとしてはアクリル酸誘導体またはメタアクリル酸誘導体が好ましい。塩基性含窒素部分を含む重合性モノマーとしてより好ましくはアクリレートまたはメタクリレートがより好ましい。その中でも特にジメチルアミノエチルアクリレート、ジメチルアミノエチルメタクリレート、ジエチルアミノエチルアクリレート、ジエチルアミノエチルメタクリレートが好ましい。
【0021】
本発明でいうプロトン性中性親水性部分を含む重合性モノマーとは、非重合性部分が解離してプロトン(H+)を放出し得るものであり、カルボン酸あるいは塩基性アミノ基のように極端な酸性・塩基性を示さないモノマーのことである。プロトン性中性親水性部分を有するモノマーは、非プロトン性中性親水性部分を有するモノマーに比べて高い親水性を示し、血液のプライミング性、血液のチャネリング防止特性に優れる。プロトン性中性親水性部分としては、水酸基、α位にプロトンが存在するアルデヒド基やα位にプロトンが存在するアミド基、1、3−ジカルボニル基等が挙げられる。非重合性のプロトン性中性親水性部分としては特に水酸基が好ましい。プロトン性中性親水性部分を含むモノマーとしてメタクリル酸2−ヒドロキシキシエチル、メタクリル酸ヒドロキシプロピル、アクリルアミド、メタアクリルアミドなどが挙げられるが、プロトン性中性親水性部分を含むモノマーは上記物質に限定されるものではない。その中でモノマーの入手が容易であること、取り扱いやすい等の理由により、付加重合(ビニル重合)することでビニル系ポリマーが得られる重合性部分がビニル基であるモノマーが好ましい。中でも、プロトン性中性親水性部分を含む重合性モノマーとしてアクリル酸誘導体またメタアクリル酸誘導体が好ましい。プロトン性中性親水性部分を含む重合性モノマーとしてアクリレートまたはメタアクリレートが最も好ましい。本発明でいうビニル系ポリマーとは、広義の意味でのビニル系ポリマーであり、主鎖が非環式である重合体を意味する。その具体的例としては、「J Brandrup;E.H.Immergut.1989.“Polymer Hand book Third Edition ”A Willey-interscience Publication, pVII-5〜VII-18」に示される、ポリアクリル酸のα−置換体とその誘導体、ポリビニルエーテル、ポリビニルアルコール、ポリビニルエステル、ポリスチレンとその誘導体、およびこれらを含む共重合体等を挙げることができる。
【0022】
血漿成分を含む血液製剤中の異常プリオンを高度に除去するためには、上記した疎水性重合性モノマー由来のユニット、塩基性含窒素部分を含む重合性モノマー由来のユニット、プロトン性中性親水性部分を含む重合性モノマー由来のユニットの三者を含むポリマーを用いなければならない。各々単独のユニットからなるポリマーでは異常プリオンを高度に除去できず、特に血漿成分を含む血液製剤からの高度な異常プリオン除去性能は得られない。
【0023】
異常プリオンは、陽性荷電した官能基、陰性荷電した官能基、および疎水性官能基に結合する3つの異なる結合領域を有する。一方で、異常プリオンの等電点はpH4.6とされており、血液製剤のpHは約5から7.5の間であることから血液製剤中の異常プリオンは陰性に荷電している。したがって、塩基性含窒素を有するモノマーと疎水性重合性モノマーにより、血液製剤から異常プリオンを高度に除去することができる。また、陰性荷電を有する材料と血液製剤の接触により、血圧低下、顔面紅潮、結膜充血、平滑筋収縮、発痛などのアナフィラキシーを引き起こすブラジキニンの生成が引き起こされるとされており、陰性荷電を有するポリマーは血液製剤を濾過する担体表面のコートには適さない。
【0024】
一方で、血液製剤をフィルターで濾過する際には現行の白血球除去フィルターで濾過する時と同じ品質の血液製剤を提供することが求められている。ポリマーのプロトン性中性親水性部分は、フィルター全体に血液製剤が行き渡るための濡れ性の確保、特に、血液製剤の濾過初期に血液製剤をフィルターに満たすプライミング操作を円滑に行うために必須な部分である。また、塩基性含窒素を有するモノマーと疎水性重合成モノマーはポリマー中の組成がある一定を超えると、溶血あるいは濾過時間の延長といった品質低下を起こす。したがって、異常プリオンが高度に除去された血液製剤を得るためには、疎水性重合性モノマー、塩基性含窒素部分を含む重合性モノマー及びプロトン性中性親水性部分を含む重合性モノマーの組成が適切に設定されていることが必須である。
【0025】
本発明における疎水性重合性モノマーとは、水に対する親和性が極めて低い重合性モノマーであり、且つ分子内に塩基性含窒素部分もプロトン性中性親水性部分も含まないモノマーのことであり、20℃の水に対する溶解度が12g/水100g以下の重合性モノマーを意味する。溶解度が12g/水100gを超えると本発明にて得られる様な高い異常プリオン除去能が得られなくなる傾向にあるので好ましくない。より好ましい範囲としては溶解度が2g/水100g以下である。溶解度の測定は、重合性モノマーが固体の場合には、露点法、熱分析法、溶液の起電力や電導度を測定する電気的方法、ガスクロマトグラフィー分析法、トレーサー法等の公知の測定方法で測定できる。重合性モノマーが液体の場合には、固体の時と同じ測定法でも測定できるが、更に容量法、光散乱法、蒸気圧法等の公知の方法によって測定することができる。また、より簡便な方法として、重合性モノマーが水より沸点が十分に高い場合には、重合性モノマーの飽和水溶液から水を蒸発させ、残量の重さを測定する方法により求めることもできる。
【0026】
より高度な異常プリオン除去性能、さらには白血球除去性能を具現化するためには、ポリマーを構成する前記各モノマーの組成(モル百分率)は疎水性重合性モノマーが20モル%以上40モル%以下、且つ、塩基性含窒素部分を含む重合性モノマーの組成が5モル%以上13モル%以下、且つ、ポリマー中のプロトン性中性親水性部分を含む重合性モノマーの組成(モル%)が100モル%からポリマー中の疎水性重合性モノマーの組成(モル%)とポリマー中の塩基性含窒素部分を含む重合性モノマーの組成(モル%)の和を引いた残余であることが好ましい。ポリマー中の疎水性重合性モノマーの組成が20モル%未満又は塩基性含窒素部分を含む重合性モノマーの組成が5モル%未満の場合には異常プリオン除去性能の向上が見られなくなる傾向があり、好ましくない。ポリマー中の疎水性重合性モノマーの組成が40モル%を超える場合は冷蔵で保存した血液製剤に対して濡れ性が悪くなり、その結果本発明のポリマーをコートした担体を充填したフィルターで血液製剤を濾過する際に血液製剤の濾過速度が落ちる傾向が見られ好ましくない。ポリマー中の塩基性含窒素部分を含む重合性モノマーの組成が13モル%を超える場合には冷蔵で保存した血液製剤に対して溶血等の傾向が見られ好ましくない。さらにより高度な白血球除去能と異常プリオン除去性能を具現化するためには、ポリマーを構成する前記各モノマーの組成(モル百分率)は疎水性重合性モノマーが25モル%以上35モル%以下、且つ、塩基性含窒素部分を含む重合性モノマーの組成が7モル%以上12モル%以下、且つ、ポリマー中のプロトン性中性親水性部分を含む重合性モノマーの組成(モル%)が100モル%からポリマー中の疎水性重合性モノマーの組成(モル%)とポリマー中の塩基性含窒素部分を含む重合性モノマーの組成(モル%)の和を引いた残余であることが好ましい。ポリマー中の疎水性重合性モノマーの共重合組成が27モル%以上33モル%以下、且つ、ポリマー中の塩基性含窒素部分を有する重合性モノマーの共重合組成が11%以下、且つ残余がポリマー中のプロトン性中性親水性部分を含む重合性モノマーであるときが最も好ましい。
【0027】
ポリマー中のモノマーの組成は一般的物理化学的手法にて測定することができる。共重合組成を測定する物理化学的手法について例示するならば、核磁気共鳴スペクトル法(NMR、−1H、−13C)、熱分解GCマススペクトル法等公知の手法を用いて測定することができる。仕込み通りに重合されたこと、ロット間変動なども確認できる。また、担体の表面にコーティングされているポリマーを該ポリマーの溶剤等を用いて溶解、抽出し、その抽出物質であるポリマー中の各モノマーの共重合組成を、前記と同様の方法にて測定することもできる。また担体と担体表面に存在しているポリマーともに重水素化した溶剤にて溶解し、核磁気共鳴スペクトル法(NMR、−1H、−13C)の手法にて測定する方法も共重合組成を測定する方法として利用できる。ポリマーの分子量は、公知のゲルパーミュエーションクロマトグラフィー法にて測定できる。好ましい重量平均分子量(Mw)の範囲としては5万以上300万以下、より好ましくは10万以上200万以下、最も好ましくは15万以上150万以下である。重量平均分子量Mwが5万未満の場合、血液製剤から異常プリオン、さらには白血球を除去した時に血液製剤へポリマーが溶出し易くなる傾向があり好ましくない。また重量平均分子量Mwが300万を超える場合、コーティングする際の溶剤への溶解度が低下する、また重合の際、安定して製造できないなどの懸念があり好ましくない。またポリマーはランダム共重合体、ブロック共重合体のどちらでも良いが、ブロック共重合体はコーティングする際の溶剤への溶解度が低下する傾向が見られたり、溶液中でミセル形成などのコーティングの均一性を損なう傾向が見られたりするため、ランダム共重合体が好ましい。直鎖状ポリマーでも分岐状ポリマーでもいずれでも良いが、分岐状ポリマー鎖はコーティングする際の溶剤への溶解度が低下する傾向があり、また溶液中でミセル形成するなどによりコーティングの均一性を損なうため、直鎖状ポリマー鎖がより好ましい。ポリマーの合成方法としては一般的な重合法を用いれば良い。連鎖反応である付加重合(ビニル重合)等を用いても良く、異性化重合、逐次反応である脱離反応、重付加、重縮合、付加重縮合等を用いても良い。ポリマーを重合するにあたり、連鎖逓電体(chain carrier)としてはラジカル、イオン等を用いれば良い。重合の方式として溶液重合、塊状重合、析出重合、エマルション重合等を例示することができる。その中でも溶液重合が好ましい。
【0028】
以下に重合方法を例示する。
重合溶媒としてエタノールを用い、窒素雰囲気下、エタノールの沸点以下の一定温度で攪拌を行いながら、各モノマーとジアゾ系開始剤を溶解したエタノール溶液を滴下して反応させる。また安定剤などを適宜加えても構わない。反応の収率はガスクロマトグラフ法などの公知の方法にて測定し確認する。ポリマー中またはポリマーを含む反応液中に存在する製剤処理中に溶出の懸念となる低分子量成分、未反応物等の不純物を除くために、一般的な化学的精製方法を用いることで精製することができる。精製方法を例示すると、不純物を溶解し重合体を溶解しない溶媒中に注ぎ沈殿させ、濾別、デカンテーション等で沈殿を分ける方法、また必要に応じ、沈殿溶媒より溶解性のやや高い溶剤(沈殿溶媒と溶媒の混合物など)にて沈殿を洗い、減圧乾燥にて沈殿が恒量になるまで乾燥し、固形状ポリマーとして得る方法を挙げることができる。
【0029】
本発明の担体とは、血液を濾過し得る細孔を有する担体であれば特に限定はなく、何れの担体形態を有する物も含まれるが、具体的には天然繊維、ガラス繊維、編布、織布、不織布などの繊維状媒体や多孔膜、三次元網目状連続孔を有するスポンジ状構造物が特に好ましいものである。また血球にダメージを与えにくいものであれば特に限定はなく各種のものを用いることができ、有機高分子材料、無機高分子材料、金属等が挙げられる。その中でも有機高分子材料は切断等の加工性に優れるため好ましい担体である。例えば、ポリエステル、ポリオレフィン、ポリアクリロニトリル、ポリアミド、ポリスチレン、ポリメチルメタアクリレート、ポリ弗化ビニル、ポリウレタン、ポリビニルアルコール、ポリビニルアセタール、ポリスルホン、ポリ弗化ビニリデン、ポリトリフルオロクロロビニル、弗化ビニリデン−テトラフルオロエチレン共重合体、ポリエーテルスルホン、ポリアクリレート、ブタジエン−アクリロニトリル共重合体、ポリエーテル−ポリアミドブロック共重合体、エチレン−ビニルアルコール共重合体、セルロース、セルロースアセテート等が挙げられるが、本発明の担体は上記例示に限定されるものではない。好ましくはポリエステル、ポリオレフィン、特に好ましくはポリエステルである。
【0030】
本発明でいうポリマーをコートした担体とは、ポリマーが製剤処理中に容易に溶出しないように、担体表面にポリマーが固着された担体を言う。またそのポリマーの担体表面への固着の方法は化学的な共有結合によっても、物理化学的な非共有結合によるものでも構わない。その存在量は0.6mg/m2以上83mg/m2が好ましい。その存在量が担体全表面積単位面積あたり0.6mg/m2未満の場合、異常プリオン除去能、さらには白血球除去能が低下する傾向があり、また、83mg/m2を超える場合、コートむらによる性能ばらつきが大きくなるなどの傾向にあり好ましくない。より好ましくは存在量が担体全表面単位面積あたり5mg/m2以上50mg/m2以下、更に好ましくは存在量が担体全表面積単位面積あたり10mg/m2以上40mg/m2以下である。さらに担体表面のポリマーの存在量は一般的物理化学的手法にて測定することができる。担体表面のポリマーの存在量を測定する方法を例示するならば、コート担体、表面に存在しているポリマーともに重水素化した溶剤にて溶解し、核磁気共鳴(NMR、−1H、−13C)の手法にて測定する方法などを例示することができる。また、本発明においてはポリマーをコートした担体のことをコート担体ということもある。
【0031】
本発明においてポリマーを担体にコートする方法は、例えば上記にて説明した各重合性モノマーあるいはポリマーを担体に化学的な共有結合によって固着させる方法(グラフトなど)、物理化学的な非共有結合(イオン結合、ファン・デア・ワールス力など)によって固着させる方法(コーティングなど)、包埋等の公知の方法を例示することができる。より具体的には放射線グラフトやプラズマグラフトなどのグラフト重合法によって、各重合性モノマーまたはポリマーを担体表面に直接グラフトさせる方法、またはポリマーを溶解した液に担体を含浸またはポリマーをロールに塗布し担体に転写させて表面にコーティングする方法が比較的容易に製造可能であり、且つ安定して性能が優れているのでより好ましい。本発明のポリマーの担体へのコーティング方法は担体の細孔を著しく閉塞することなく、かつ担体表面がある程度の範囲にて均一にコーティングできるものであれば特に制限はなく各種の方法を用いることができる。例えば、ポリマーを溶かした溶液に担体を含浸させる方法、ポリマーを溶かした溶液を担体に吹き付ける方法、ポリマーを溶かした溶液をグラビアロール等を用い担体に塗布・転写する方法、などが挙げられるが、本発明の担体へのポリマーのコーティング方法は上記例示に限定されるものではない。この中でもポリマーを溶かした溶液に担体を含浸させ含浸後コート担体を絞る方法、該ポリマーを溶かした溶液をグラビアロール等を用い担体に塗布・転写する方法は、連続生産性に優れ、コストも低いことより好ましい方法である。ポリマーを溶解する溶剤としては、担体を著しく溶解させないものであれば特に限定なく種々の溶剤を用いることができ、水及び無機塩を含む水溶液、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノールなどのアルコール類、アセトン、メチルエチルケトンなどのケトン類、酢酸メチル、酢酸エチルなどのエステル類、ベンゼン、シクロヘキサンなどの炭化水素類、クロロホルム、ジクロロメタンなどのハロゲン化炭化水素類、ジメチルスルホキシドなどの硫黄含有溶剤、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミドなどのアミド類及び上記の複数の溶剤の可溶な範囲での混合物などが挙げられるが、本発明のポリマーを溶解する溶剤は上記例示に限定されるものではない。またコーティング後の乾燥としては、機械的な圧縮、空気や窒素などの気体の吹き付けなどで余剰の溶液を除去し、乾燥気体中または減圧下で常温または加温するなどの方法を用いることができる。また、コーティングの前に、本発明のポリマーと担体との接着性をより高めるため、担体の表面を酸、アルカリなどの適当な薬品で処理を行ったり、プラズマを照射したりすることもできる。更に、ポリマーのコーティング後に熱処理や、γ線、電子線などの放射線を照射する後加工を施し、担体とポリマーとの接着性を更に強化することもできる。尚、コーティングは担体を製造するときに行っても良いし、担体製造後に行っても良い。
【0032】
コート担体の物理的な構造は異常プリオンおよび白血球の除去に大きく寄与することが知られており、異常プリオンおよび白血球の除去能を向上させるには該コート担体の選択も重要な因子となる。
【0033】
異常プリオンおよび白血球を除去するための容器内に該繊維状媒体を充填したときに表面積を向上させるには、異型断面繊維不織布を用いることが好ましい。本発明における異型断面繊維不織布とは、繊維断面が円形状でないものを総称したものであり、さらには下記の式(1)で示される繊維異型度が1.2以上の繊維からなるものが好ましい。本発明にかかるフィルターを構成する繊維の断面は、異形断面化されていることにより、円形状断面繊維に比べて、繊維異型度が1.2以上好ましくは1.3以上であり、1.2より少ない表面積増加比では、円形状断面繊維に比べ白血球除去性能及びプリオン性能の向上が少ないので好ましくない。ここで繊維異型度は、大きければ大きいほど好ましいが、異型断面繊維の製造方法から10程度が限界と推測される。繊維の断面形状は特に限定されない。

繊維異型度=単繊維断面の平均外周長(cm)
÷(単繊維断面の平均断面積(cm)×4π)1/2 (1)
【0034】
コート担体の物理的な構造として、その比表面積は1.0m2/g以上5.0m2/g以下、好ましくは1.1m2/g以上3.0m2/g以下、より好ましくは1.3m2/g以上2.0m2/g以下であることが好ましい。コート担体の比表面積が1.0m2/g未満であると高率で白血球の除去することが難しい。コート担体の比表面積は5.0m2/g以上であるともはや安定してコート担体を製造することができない。また実際の血液フィルターでの製剤処理においては複数の比表面積のコート担体を出口側に向かってより大きくなる様に配することが好ましい。
【0035】
コート担体の物理的な構造として、その空隙率は60%以上90%以下が好ましく、75%以上88%以下がより好ましい。空隙率は60%未満であると血液等の濾過速度が低くなって、異常プリオン及び白血球の除去に長時間要するようになり問題である。また、空隙率が90%以上であると異常プリオンと白血球が接着しやすい繊維と繊維の交絡部が少なく高い異常プリオン除去性能と白血球除去性能が得られない。また、不織布などの繊維状媒体をコート担体とする場合、平均繊維径は0.3μm以上3.0μm以下、好ましくは0.5μm以上2.5μm以下、より好ましくは1μm以上2μm以下であることが好ましい。また実際の血液フィルターでの製剤処理においては複数の平均繊維径のコート担体を出口側に向かってより細かくなる様に配することが好ましい。また実際の血液フィルターでの製剤処理においては必要に応じ該コート担体の入口側に微小凝集体除去を主な目的とした平均繊維径10μm以上40μm以下の担体を配しても構わない。
【0036】
また、平均孔径とは、例えばコールターエレクトロニクス社製コールターRポロメーターを使用し、約50mgの試料を用いて測定した値(ミーン・フロー・ポアサイズ:MFP)である。平均孔径は1μm以上60μm以下、好ましくは1μm以上30μm以下、より好ましくは1μm以上20μm以下であることが好ましい。平均孔径が1μm未満であると全血製剤が流れ難くなるので好ましくなく、60μmを超えると白血球除去能が低下する傾向にあるため好ましくない。また実際の血液フィルターでの製剤処理においては複数の平均孔径のコート担体を出口側に向かって小さくなる様に配することが好ましい。また実際の血液フィルターでの製剤処理においては必要に応じ該フィルター素材の入口側に微小凝集体除去を主な目的とした平均孔径50μm以上200μm以下の担体を配しても構わない。
また実際の血液フィルターでの製剤処理においては必要に応じ該コート担体の出口側に偏流防止を主な目的とした平均孔径50μm以上200μm以下の担体を配しても構わない。
【0037】
また、異常プリオンおよび白血球を除去するための容器内に該繊維状媒体を充填したときの充填密度は0.1g/cm3以上0.5g/cm3以下、より好ましくは0.1g/cm3以上0.3g/cm3以下であることが好ましい。充填密度の測定方法について例示する。充填する不織布を充填カットサイズ(cm2)にカットし、その重量(g)を測定し、実際の容器内で圧縮された状態での距離(cm)から求めることができる。
平均繊維径が0.3μm未満、平均孔径が1μm未満、あるいは充填密度が0.5g/cm3を超えると血球の目詰まりや圧力損失の増大を引き起こし、平均繊維径が3.0μmを超える、平均孔径が60μmを超える、あるいは充填密度が0.1g/cm3未満であると、異常プリオンおよび白血球の除去能が低下してしまうため好ましくない。
【0038】
多孔質膜、三次元網目状連続孔を有するスポンジ状構造物をコート担体とする場合には、1μm以上60μm以下の平均孔径を有することが好ましい。5μm以上50μm以下がより好ましい。さらに好ましくは10μm以上40μm以下が好ましい。平均孔径1μm未満であると血球目詰まりや圧力損失を引き起こし、平均孔経が60μmを超えると白血球除去能が低下してしまうため好ましくない。
【0039】
本発明における異常プリオンとは、ヒトおよび動物に海綿状脳症と言われている疾患を引き起こすことが知られている変異型のプリオンタンパク質を意味するものとする。異常プリオンは正常プリオンと同じアミノ酸配列を持つがβ−シートに富む構造変化したタンパク質であり、プロテアーゼKによる消化に抵抗性を示す。異常プリオンは、動物を感染させて、ヒツジおよびヤギの神経系の感染性変性疾患であるスクレイピー(scrapie)、ウシにおけるBSEが広く知られている。ヒトの疾患の形態は、孤発性クロイツフェルト・ヤコブ病(sCJD)、医原性のクロイツフェルト・ヤコブ病、Gerstmann-Straeussler-Scheinker(GSS)症候群、致死的な家族性イソムニア(isomnia)(FFI)、クールー(Kuru)そしてBSEの食肉により感染することが知られている変異型CJDがある。本発明で用いられるプリオンには、以上の疾患のすべてもしくは任意の1つ、または任意の動物、特にヒトおよび家畜動物において疾患を引き起こすすべての型の異常プリオンタンパク質を含む。因みに2006年3月に開催されたCambridge Healthtech Institut's10th Annual Transmissible Spongiform Encephalopathies- The Definitive American TSE Meeting - のSamuel Cokerの発表によれば、スクレイピー、変異型CJDおよび孤発性CJD由来の異常プリオンは、フィルター(ポール社製LAPRF)で同じように除去されて、その除去率にほとんど差はなかった。このことはフィルター除去性能に関係する異常プリオンタンパク質構造は動物や疾患の種類が異なってもほとんど異ならず、動物由来の異常プリオンの除去率をもってヒト由来の異常プリオンの除去率を推定することができることを示している。
【0040】
本発明におけるフィルターとは、血液製剤の入口と出口を有する容器に本発明のコート担体を充填したものであり、血液製剤の上流側に微小凝集物を捕捉するための担体があっても良いし、下流側に担体があっても良い。
【0041】
容器の材質は、硬質樹脂や軟質樹脂のいずれでも良い。硬質樹脂の場合、素材はフェノール樹脂、アクリル樹脂、エポキシ樹脂、ホルムアルデヒド樹脂、尿素樹脂、ケイ素樹脂、ABS樹脂、ナイロン、硬質のポリウレタン、ポリカーボネート、塩化ビニル、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエステル、などが例示できる。軟質樹脂の場合、可撓性の合成樹脂製のシートに血液製剤の入口と出口を形成し、それを周縁部で溶着したものや血液製剤の入口と出口を持つ円筒状成型物等が用いられる。材質はコート担体と一緒に容器と溶着するような場合には、コート担体と熱的、電気的性質が類似のものが良く、例えば、軟質ポリ塩化ビニル、ポリウレタン、エチレン−酢酸ビニル共重合体、ポリエチレン及びポリプロピレンのようなポリオレフィン、スチレン−ブタジエン−スチレン共重合体の水添物、スチレン−イソプレン−スチレン共重合体またはその水添物等の熱可塑性エラストマー、及び、熱可塑性エラストマーとポリオレフィン、エチレン−エチルアクリレート等の軟化剤との混合物等が好適な材料として挙げられる。中でも好ましいのは軟質塩化ビニル、ポリウレタン、エチレン−酢酸ビニル共重合体、ポリオレフィン、及び、これらを主成分とする熱可塑性エラストマーであり、特に好ましいのは軟質塩化ビニル、ポリオレフィンである。
【0042】
前記容器の形状は、血液製剤の入口と異常プリオン、さらには白血球が除去された血液製剤の出口とを有する形状であれば特に限定されないが、担体の形状に応じた形状であることが好ましい。例えば、担体が平板状の場合には、四角形、六角形などの多角形や、円形、楕円形などの曲線からなる扁平形状の容器を用いることができる。より詳細には、容器は血液製剤入口を有する入口側容器と血液製剤出口を有する出口側容器から構成され、両者が担体を直接あるいは支持体を介して挟み込むことにより担体内部を二室に分け、扁平状のフィルターを形成するような形状が例示できる。また、別の例として、担体が円筒形状の場合には、容器も同様に円筒状であることが好ましい。より詳細には、容器は、担体を収容する筒状胴部と血液製剤入口を有する入口側ヘッダーおよび血液製剤出口を有する出口側ヘッダーから構成され、ポッティング加工により、容器内部が入口から導入された液体が円筒状担体の外周部から内周部(または内周部から外周部)に流れるように二室に分けた、円筒状のフィルター形成するような形状が例示できる。
【0043】
本発明の血液製剤とは、異常プリオンを含む可能性のある、全血や全血から調製して得られる単一もしくは複数種類の血液成分からなる液体、またはそれらの液体に抗凝固剤や保存液などが添加された液体を総称するものである。具体例としては、全血製剤、赤血球製剤、血小板製剤、血漿製剤、洗浄赤血球浮遊液、解凍赤血球濃厚液、合成血、多血小板血漿、バフィーコートなどが挙げられるが、これらに限定されるものでは無い。
本発明の全血製剤とは、献血者から採血された全血にCitrate Phosphate Dextrose(CPD)、Citrate Phosphate Dextrose Adenine-1(CPDA−1)、Citrate Phosphate-2-Dextrose(CP2D)、Acid Citrate Dextrose Formula-A(ACD−A)、Acid Citrate Dextrose Formula-B(ACD−B)、ヘパリンなどの保存液、抗凝固剤を添加した血液製剤のことである。
【0044】
次に、本発明の血液製剤から異常プリオンを除去する方法について、その手技を中心に説明する。先ず初めに、各種血液製剤を調製する方法の一つの態様について説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0045】
(異常プリオン除去全血製剤の調製)
採血された全血にCPD、CPDA−1、CP2D、ACD−A、ACD−B、ヘパリンなどの保存液、抗凝固剤を添加し、本発明のフィルターで濾過することにより全血から異常プリオンを除去し、異常プリオン除去全血製剤を得る。
全血製剤の濾過は、少なくとも血液製剤の入ったバッグ、フィルター、異常プリオンを除去された血液製剤を回収するためのバッグが回路によりこの順に無菌的に接続されたシステムを用いて行いわれる。採血針や採血バッグや遠心分離後各成分に分けるためのバッグやフィルターに残留した血液製剤を回収するための回路が接続されていても良い。濾過はフィルターよりも高い位置に設置された血液製剤の入ったバッグから、重力落差によって血液製剤が導管を経由してフィルターに流れることによって行いわれてもよいし、また、ポンプなどの手段を用いて血液製剤をフィルターの入口側から加圧および/またはフィルターの出口側から減圧して流すことによって異常プリオンの除去を行いってもよい。この濾過方法は全血製剤に限らず、他の血液製剤でも同様である。
異常プリオン全血製剤の調製においては、保存前に異常プリオンを除去する場合、好ましくは室温下または冷蔵下にて保存された全血を採血後72時間以内、更に好ましくは24時間以内、特に好ましくは12時間以内、最も好ましくは8時間以内に室温下または冷蔵下にて本発明のフィルターを用いて異常プリオン除去を行いうことにより異常プリオン除去全血製剤を得る。保存後に異常プリオンを除去する場合、室温下または冷蔵下にて保存された全血を、好ましくは使用前24時間以内にフィルターを用いて異常プリオンを除去することにより異常プリオン除去全血製剤を得る。本発明では異常プリオンと共に白血球をも除去された全血製剤を得ることもできる。
【0046】
(異常プリオン除去赤血球製剤の調製)
採血された全血にCPD、CPDA−1、CP2D、ACD−A、ACD−B、ヘパリンなどの保存液、抗凝固剤を添加する。これに引続き行いわれる各血液成分への分離方法は、全血から異常プリオンを除去した後に遠心分離を行いう場合と、全血を遠心分離した後に赤血球もしくは赤血球とバフィーコート(以下、「BC」という)から異常プリオンを除去する場合がある。
全血から異常プリオンを除去した後に遠心分離を行いう場合、前記異常プリオン除去全血製剤の調製と同様に異常プリオン除去全血を得た後、異常プリオン除去全血を遠心分離し、下層の濃厚赤血球を回収することにより異常プリオン除去赤血球製剤を得る。
異常プリオン除去前に全血を遠心分離する場合、遠心条件は、赤血球、富血小板血漿(PRP)に分離される弱遠心条件と、赤血球、BC、乏血小板血漿(PPP)に分離される強遠心条件の2種類がある。必要に応じて全血から分離回収された赤血球、もしくはBCを含んだ赤血球にSaline Adenine Glucose Mannitol solution(SAGM)、Additive solution−1(AS−1)、Additive solution−3(AS−3)、Additive solution−5(AS−5)、Mannitol Adenine Phosphate(MAP)などの保存液を添加後、本発明のフィルターで赤血球製剤を濾過して異常プリオン除去赤血球製剤を得る。
異常プリオン除去赤血球製剤調製においては、好ましくは室温下または冷蔵下にて保存された全血を採血後72時間以内、更に好ましくは48時間以内、特に好ましくは24時間以内、最も好ましくは12時間以内に遠心分離を行いう。また、保存前に異常プリオンを除去する場合、好ましくは室温下または冷蔵下にて保存された赤血球製剤から採血後120時間以内、更に好ましくは72時間以内、特に好ましくは24時間以内、最も好ましくは12時間以内に室温下または冷蔵下にてフィルターで濾過して異常プリオンを除去することにより異常プリオン除去赤血球製剤を得る。保存後異常プリオン除去の場合、好ましくは室温下または冷蔵下にて保存された赤血球製剤から使用前24時間以内に異常プリオン除去フィルターで濾過して異常プリオンを除去することにより異常プリオン除去赤血球製剤を得る。
【0047】
(異常プリオン除去血小板製剤の調製)
採血された全血にCPD、CPDA−1、CP2D、ACD−A、ACD−B、ヘパリンなどの保存液、抗凝固剤を添加する。
これに引続き行いわれる各血液成分への分離方法は、全血から異常プリオンを除去した後に遠心分離を行いう場合と、全血を遠心分離した後にPRPもしくは血小板から異常プリオンを除去する場合がある。
全血から異常プリオンを除去した後に遠心分離を行いう場合、前記異常プリオン除去全血製剤の調製と同様に異常プリオン除去全血を得た後、異常プリオン除去全血を遠心分離して上層のPRPを回収し、これをさらに遠心分離して下層の濃厚血小板(PC)を回収することにより異常プリオン除去血小板製剤を得る。
異常プリオンを除去する前に全血を遠心分離する場合、遠心条件は、赤血球、PRPに分離される弱遠心条件と赤血球、BC、PPPに分離される強遠心条件の2種類がある。弱遠心条件の場合、全血から分離されたPRPをフィルターで濾過して異常プリオンを除去した後に再度遠心分離して下層のPCを回収することにより異常プリオン除去血小板製剤を得るか、もしくはPRPを遠心分離して血小板とPPPを得た後、下層のPCをフィルターで濾過して異常プリオンを除去し、異常プリオン除去血小板製剤を得る。強遠心条件の場合、全血から分離されたBCを一単位もしくは数〜十数単位プールしたものに必要に応じて保存液、血漿などを添加して遠心分離を行い、上層を回収することにより得られた濃厚血小板をフィルターで濾過して異常プリオンを除去することにより異常プリオン除去血小板製剤を得る。
異常プリオン除去血小板製剤調製において、好ましくは室温下にて保存された全血を採血後24時間以内、更に好ましくは12時間以内、特に好ましくは8時間以内に遠心分離を行いう。また、異常プリオンを除去する場合、好ましくは室温下にて保存された血小板製剤を採血後120時間以内、更に好ましくは78時間以内、特に好ましくは24時間以内、最も好ましくは12時間以内に室温下にてフィルターで濾過して異常プリオンを除去することにより異常プリオン除去血小板製剤を得る。保存後に異常プリオンを除去する場合、好ましくは室温下または冷蔵下にて保存された血小板製剤から使用前24時間以内にフィルターで濾過して異常プリオンを除去することにより異常プリオン除去血小板製剤を得る。
【0048】
(異常プリオン除去血漿製剤の調製)
採血された全血にCPD、CPDA−1、CP2D、ACD−A、ACD−B、ヘパリンなどの保存液、抗凝固剤を添加する。
これに引続き行いわれる各血液成分の分離方法は、全血から異常プリオンを除去した後に遠心分離を行いう場合と、全血を遠心分離した後にPPPもしくはPRPから異常プリオンを除去する場合がある。
全血から異常プリオンを除去した後に遠心分離を行いう場合、前記異常プリオン除去全血製剤の調製と同様に異常プリオン除去全血を得た後、異常プリオン除去全血を遠心分離して上層の血漿を回収することにより白血球除去血漿製剤を得る。
【0049】
異常プリオンの除去前に全血を遠心分離する場合、遠心条件は、赤血球、PRPに分離される弱遠心条件と赤血球、BC、PPPに分離される強遠心条件の2種類がある。弱遠心条件の場合、PRPをフィルターで濾過して異常プリオンを除去したPRPを濾過した後に再度遠心分離して上清のPPPを回収することにより異常プリオン除去血漿製剤を得るか、または遠心分離によりPRPをPPPと血小板に分離した後にPPPをフィルターで濾過して異常プリオンを除去することにより異常プリオン除去血漿製剤を得る。強遠心条件の場合、PPPをフィルターで濾過して異常プリオンを除去することにより異常プリオン除去血漿製剤を得る。
【0050】
異常プリオン除去血漿製剤調製においては、好ましくは室温下または冷蔵下にて保存された全血を採血後72時間以内、更に好ましくは48時間以内、特に好ましくは24時間以内、最も好ましくは12時間以内に遠心分離を行いう。また、好ましくは室温下または冷蔵下にて保存された血漿製剤から採血後120時間以内、更に好ましくは72時間以内、特に好ましくは24時間以内、最も好ましくは12時間以内に室温下または冷蔵下にてフィルターで濾過して異常プリオンを除去することにより異常プリオン除去血漿製剤を得る。保存後に異常プリオンを除去する場合、好ましくは室温下または冷蔵下または冷凍下にて保存された血漿製剤から使用前24時間以内にフィルターで濾過して異常プリオンを除去することにより異常プリオン除去血漿製剤を得る。
【0051】
本発明における白血球除去フィルターとは血液製剤を濾過すると白血球数を99%以上除去できるフィルターのことである。好ましくは99.9%以上、さらに好ましくは99.99%以上除去できるフィルターのことである。白血球除去性能で言い換える場合には下式(2)に従い算出される値で、2以上の除去性能を示すフィルターのことである。好ましくは3以上、さらに好ましくは4以上の除去性能を示すフィルターのことである。
白血球除去性能=−Log 10{ [白血球濃度(個/μL)(濾過後血)]
÷[白血球濃度(個/μL)(濾過前血)] } (2)
【0052】
本発明におけるフィルターの滅菌方法としては、エチレンオキサイドガス滅菌、γ線滅菌または電子線滅菌などの放射線滅菌、高圧蒸気滅菌のいずれも使用できる。より好ましくは、放射線滅菌または高圧蒸気滅菌である。全血製剤からの高度な異常プリオン除去性能を得るためには、放射線滅菌と高圧蒸気滅菌の両者を行うことが好ましい。放射線滅菌と高圧蒸気滅菌を行う順序は特に限定されないが、放射線滅菌の後に高圧蒸気滅菌を行うことがより好ましい。高圧蒸気滅菌を行ったポリマーをコートした担体を使用すると、全血製剤中ではポリマーをコートした担体へのプリオンの吸着量が減少することがある。これは、高圧蒸気滅菌においては担体表面のポリマーの化学特性に変化が起こらず、全血製剤においてはタンパクとの競合吸着が起こる為と推定される。一方で、放射線滅菌では全血製剤でも高いプリオン除去性能が得られる。その理由は定かではないが、フィルターに対する放射線滅菌により担体表面のポリマーの化学特性に変化が起こり、ポリマーを構成する3つのユニットの荷電状態、組成バランスがプリオンとの吸着において好ましい状態になる為と推定される。しかし、驚くべきことに、本発明者等は、放射線滅菌の後ならば、高圧蒸気滅菌を行っても、高度なプリオン除去性能が得られることを見出した。放射線滅菌の後に高圧蒸気滅菌を行うとプリオンとの吸着特異性が保持された状態になり、高圧蒸気滅菌をしたにも関わらず、高いプリオン除去性能が得られると推定される。インラインタイプのセットを用いる場合にはフィルターのみをあらかじめ放射線滅菌することで、高圧蒸気滅菌を行っても高いプリオン除去性能が得られるのである。
【0053】
[実施例]
以下、本発明を実施例でさらに詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
実施例、比較例で用いた諸数値は以下の方法によって測定した。
【0054】
(フィルター素材の比表面積)
本発明でいう比表面積(m2/g)とは、(株)島津製作所「アキュソーブ2100」又はこれと同等の仕様を持った装置を用いて、気体吸着法(BET法)によって求められる不織布単位重量あたりの表面積のことである。0.50g〜0.55gの範囲で秤量した担体を試料管に充填し、上記アキュソーブ本体で1×10−4mmHgの減圧度(室温下)にて20時間脱気処理した後、吸着ガスとして吸着占有面積の判っているクリプトンガスを用い、液体窒素の温度下で不織布の表面に吸着させその吸着量から秤量した不織布中の全表面積を求め、秤量した不織布重量で割ることで求められる。
【0055】
(平均繊維径の測定)
不織布の電顕写真を、不織布につき5カ所程度無作為に撮り、格子が描かれた透明シートを上記で撮影した写真に重ね、直径が既知のポリスチレンラテックスを対照として、格子の交点と重なった、100箇所の繊維の直径を測定し、その平均を算出して平均繊維径とした。尚、異型断面繊維不織布の場合は、単繊維断面の平均断面積の円相当面積の直径として算出した値を用いた。
【0056】
(素材全表面の単位面積あたりのポリマー保持量)
本発明でいう素材全表面積(m2)とは、素材の重量(g)と素材の比表面積(m2/g)との積から得られる値を言う。また本発明における素材全表面の単位面積(m2)当たりのポリマー保持量(mg/m2)は、一定面積(重量)の素材を担体、コート剤共通の重水素化溶剤に溶解しNMR測定により求めた。具体例を挙げると、ポリエステル不織布にメチルメタクリレート、ジメチルアミノエチルアメクリレート、2−ヒドロキシメタクリレートからなるポリマーをコーティングした素材の一定重量を、重水素化1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロ−2−プロパノールに溶解し、明確に不織布に帰属するシグナル(例えば、ベンゼン環のプロトン)とコート剤に明確に帰属するシグナル(例えば、メチルメタクリレートのエステル隣接のメチル基のプロトン)の強度比と、別途測定したコート剤の共重合組成から、不織布単位重量当たりのポリマー保持量を求めた。また、不織布単位重量当たりのポリマー保持量は、フィルターに充填された素材の比表面積から、素材全表面の単位面積当たりのポリマー保持量に換算することができる。
【0057】
(血液濾過試験)
血液評価に用いた血液製剤は赤血球製剤であり、採血直後の血液100mLに対して抗凝固剤であるCPD溶液を14mL加えて混和し、冷蔵で72時間保存した後遠心し、分離されたBCを含んだ赤血球にSAGMを加えて、1時間静置したものである(以下、「濾過前血」という)。
【0058】
評価に用いたフィルターは、実施例1〜13、比較例1〜9では準備したポリマーをコーティングした平均繊維径1.18μm、目付40g/m2、比表面積1.47m2/g、繊維異型度1.58のポリエステル異型断面繊維不織布Cを容器に充填した(比較例6はコーティングなし)。実施例14では準備したポリマーをコーティングした平均繊維径1.18μm、目付40g/m2、比表面積1.45m2/g、繊維異型度1.29のポリエステル異型断面繊維不織布Cを、比較例10では準備したポリマーをコーティングした平均繊維径1.20μm、目付40g/m2、比表面積1.47m2/g、繊維異型度1.12のポリエステル異型断面繊維不織布Cを、比較例11では準備したポリマーをコーティングした平均繊維径1.20μm、目付40g/m2、比表面積1.47m2/g、繊維異型度1.0のポリエステル異型断面繊維不織布Cを、それぞれ容器に充填した。
【0059】
コーティングした不織布8枚を有効濾過面積1.3cm2のカラムに充填し、濾過前血が充填されたシリンジとカラムの入口を内径3mm、外径4.2mmの塩化ビニル製のチューブで接続した後に、冷蔵庫内でシリンジポンプにて流速0.175mL/minでカラム内に流し、3mLを回収した(以下、「濾過後血」という)。コーティングした不織布(比較例6はコーティングなし)は実施例1〜5、11および14と比較例1〜11では25KGyのγ線滅菌を実施し、実施例8、12では30KGyの電子線滅菌を実施し、実施例6、7、10、13で115℃、59分間高圧蒸気滅菌を実施し、実施例9では30KGyの電子線滅菌の後115℃、59分間、高圧蒸気滅菌を実施した。
【0060】
[白血球除去性能]
白血球除去性能は、濾過前後の白血球濃度から前記(1)式により求めた。白血球濃度は、各血液100μLをサンプリングし、ビーズ入りLeucocountキット(日本ベクトン・ディッキンソン社製)を用い、フローサイトメトリー法(装置:BECTON DICKINSON社製 FACSCalibur)により測定した。
【0061】
[血液処理圧]
血液処理圧は、カラム入口側のチューブに圧力計を接続して濾過終了時に測定を行った。
【0062】
[濾過後溶血度]
濾過後血の42日後の溶血度は、濾過後の赤血球製剤の全ヘモグロビン量に対する、血漿中の遊離ヘモグロビン量から求めた。
溶血度の具体的算出方法は、以下のとおりである。
(1)濾過後の赤血球製剤の総ヘモグロビン濃度(g/dL)およびヘマトクリット値(%)を自動血球計数装置で計測する。
(2)濾過後の赤血球製剤サンプル2mLを採取し、これを1,750×gで10分間遠心分離する。
(3)上澄み液の630nmから500nmの波長範囲の吸光度を、分光光度計でスキャンして測定する。
(4)血漿中の遊離ヘモグロビン濃度を、Clin. Biochem. 8, 96-102 (1975)の方法に準じて算出する。
(5)溶血度を、下式(3)から算出する。
溶血度(%)=(100−ヘマトクリット値(%))
×(遊離ヘモグロビン濃度(g/dL))/総ヘモグロビン濃度(g/dL) (3)
(プリオン除去性能評価:実施例1〜13、比較例1、3、5〜8、10)
【0063】
[フィルターの作成]
ろ材として、平均繊維直径12μm、目付30g/m2、比表面積0.24m2/gのポリエステル製不織布P、平均繊維直径2.5μm、目付60g/m2、比表面積0.8m2/gのポリエステル製不織布A、平均繊維直径1.8μm、目付60g/m2、比表面積1.1m2/gのポリエステル製不織布B、および上記に記載した各実施例、比較例で準備した異型断面繊維不織布Cを使用した。ろ材P、A、B、Cを上流から順番にP−A−B−Cの順に重ね、更にこの下流側にBと同ろ材のB’、Aと同ろ材のA’、Pと同ろ材のP’を重ね、全体としてP−A−B−C−B’−A’−P’という対称構造のろ材を作製した。このろ材を血液入口または出口となるポートを有する可撓性塩化ビニル樹脂シートで挟み、高周波溶着機を用いて、ろ材と可撓性シートの周縁部分を溶着、一体化させ、有効濾過面積56cm2のフィルターを作成した。
実施例1〜5、11および14と比較例1〜11では25KGyのγ線滅菌を実施し、実施例8,12では30KGyの電子線滅菌を実施し、実施例6、7、10、13で115℃、59分間高圧蒸気滅菌を実施し、実施例9では30KGyの電子線滅菌の後115℃、59分間、高圧蒸気滅菌を実施した。
【0064】
[ホモジネートの調製]
ハムスターの脳を320mMショ糖の中で超音波破砕を行い、10重量(g)/容量(100ml)%(以下、「W/V%」と記す)のホモジネート作成した。そのホモジネートをさらに4℃、80xg、1分間遠心し、添加するホモジネート(以下、「ホモジネート」と略す)として用いた。
【0065】
[マイクロソーマルフラクションの調製]
ホモジネートを5000xg、20分遠心し、その上清をさらに100000xg、1時間遠心した。遠心後の沈殿を150mM NaCl、20mM Tris−HCl、pH 7.4の溶液に再懸濁し、さらに100000xg、1時間遠心した。遠心後の沈殿を150mM NaCl、20mM Tris−HCl、pH 7.4の溶液に再懸濁し、さらに100000xg、1時間遠心した。
【0066】
[正常プリオン除去性能試験]
欧州基準に従って調製された白血球除去赤血球製剤を購入して用いた。2〜4日間4℃の冷蔵庫内で保存後、白血球除去赤血球製剤1単位に室温でマイクロソーマルフラクションを9.5mL添加して添加濾過前血を作製。これを落差100cmの自然落差で、ポリマーをコーティングしたポリエステル製不織布Cを含むフィルターを用いて濾過し、血液を回収して添加濾過後血とした。添加濾過前血および添加濾過後血を4000xg、30分間遠心し上清を分注。それらの上清を100000xg、4℃±2℃、1時間遠心。遠心後、沈殿を100μLの sample bufferで再懸濁し、5〜10分間、100℃±5℃で保持した。
【0067】
[正常プリオン力価の解析]
sample bufferを加えて加熱した添加濾過前後の血液製剤は正常プリオンタンパクに特異的に結合する3F4を一次抗体として用いて一般的なWestern blotの方法で正常プリオンタンパクを検出した。すべての添加濾過前後血の検出を連続的な0.5Log希釈系列で実施した。正常プリオンタンパクのシグナルが目視確認できた最大希釈倍率を正常プリオン力価とする。
【0068】
[正常プリオン除去性能]
正常プリオン除去性能は下記の式(4)によって決められる。
正常プリオン除去性能=正常プリオンの力価(添加濾過前血)
−正常プリオンの力価(添加濾過後血) (4)
【実施例1】
【0069】
重合溶媒としてエタノールを用い、窒素雰囲気下、78℃で攪拌を行いながら、上記重合性モノマーとジアゾ系開始剤を溶解したエタノール溶液を滴下して、重合を行った。各重合性モノマーの仕込みは、疎水性重合性モノマーとしてメチルメタクリレート(以下、「MMA」と略す)20モル%、塩基性含窒素部分を含む重合性モノマーとしてジメチルアミノエチルメタクリレート(以下、「DM」と略す)5モル%、プロトン性中性親水性部分を含むモノマーとして2−ヒドロキシエチルメタアクリレート(以下、「HEMA」と略す)75モル%であった。重合液を過剰の水にて精製し、減圧乾燥した。ポリマーの共重合組成を1H−NMRにて測定した。結果は、ほぼ仕込み比通りであり、ポリマー中のMMAの共重合組成が20モル%、ポリマー中のDMの共重合組成が5モル%、ポリマー中のHEMAが75モル%であった。重量平均分子量Mwは21万であった。コーティング溶媒としてエタノールを用い、ポリマー濃度0.8W/V%とした。素材であるポリエステル製不織布に上記ポリマー濃度にてコーティングを行った。
異型断面繊維不織布のポリマーの保持量は素材全表面の単位面積当たり23mg/m2であった。
上述の方法で白血球除去性能試験、回収時圧力試験、濾過後の溶血試験と正常プリオン除去性能試験を行ったところ、白血球除去性能は4.60、血液処理圧は9.7kPa、溶血は0.2%、正常プリオン除去性能は2.5であった。
【実施例2】
【0070】
各重合モノマーの仕込み比をMMA20モル%、DM13モル%、HEMA67モル%として実施例1と同様の条件で重合、精製、乾燥した。ポリマーの共重合組成を1H−NMRにて測定した。ポリマー中のMMAの共重合組成が20モル%、ポリマー中のDMの共重合組成が13モル%、ポリマー中のHEMAが67モル%であった。重量平均分子量Mwは25万であった。本ポリマーを用いた以外は実施例1と同様の操作を行った。
異型断面繊維不織布のポリマーの保持量は素材全表面の単位面積当たり24mg/m2であった。
白血球除去性能は5.80、血液処理圧は7.8kPa、溶血は0.5%、正常プリオン除去性能は3.5であった。
【実施例3】
【0071】
各重合モノマーの仕込み比をMMA30モル%、DM10モル%、HEMA60モル%として実施例1と同様の条件で重合、精製、乾燥した。ポリマーの共重合組成を1H−NMRにて測定した。ポリマー中のMMAの共重合組成が30モル%、ポリマー中のDMの共重合組成が10モル%、ポリマー中のHEMAが60モル%であった。重量平均分子量Mwは21万であった。本ポリマーを用いた以外は実施例1と同様の操作を行った。
異型断面繊維不織布のポリマーの保持量は素材全表面の単位面積当たり22mg/m2であった。
白血球除去性能は5.75、血液処理圧は11.0kPa、溶血は0.2%、正常プリオン除去性能は4.0であった。
【実施例4】
【0072】
各重合モノマーの仕込み比をMMA40モル%、DM5モル%、HEMA55モル%として実施例1と同様の条件で重合、精製、乾燥した。ポリマーの共重合組成を1H−NMRにて測定した。ポリマー中のMMAの共重合組成が40モル%、ポリマー中のDMの共重合組成が5モル%、ポリマー中のHEMAが55モル%であった。重量平均分子量Mwは17万であった。本ポリマーを用いた以外は実施例1と同様の操作を行った。
異型断面繊維不織布のポリマーの保持量は素材全表面の単位面積当たり22mg/m2であった。
白血球除去性能は5.66、血液処理圧は12.5kPa、溶血は0.3%、正常プリオン除去性能は3.0であった。
【実施例5】
【0073】
各重合モノマーの仕込み比をMMA40モル%、DM13モル%、HEMA47モル%として実施例1と同様の条件で重合、精製、乾燥した。ポリマーの共重合組成を1H−NMRにて測定した。ポリマー中のMMAの共重合組成が40モル%、ポリマー中のDMの共重合組成が13モル%、ポリマー中のHEMAが47モル%であった。重量平均分子量Mwは18万であった。本ポリマーを用いた以外は実施例1と同様の操作を行った。
異型断面繊維不織布のポリマーの保持量は素材全表面の単位面積当たり23mg/m2であった。
白血球除去性能は5.70、血液処理圧は10.8kPa、溶血は0.4%、正常プリオン除去性能は3.0であった。
【実施例6】
【0074】
各重合モノマーの仕込み比をMMA30モル%、DM10モル%、HEMA60モル%として実施例1と同様の条件で重合、精製、乾燥した。ポリマーの共重合組成を1H−NMRにて測定した。ポリマー中のMMAの共重合組成が30モル%、ポリマー中のDMの共重合組成が10モル%、ポリマー中のHEMAが60モル%であった。重量平均分子量Mwは21万であった。本ポリマーを用いた以外は実施例1と同様の操作を行った。
異型断面繊維不織布ポリマーの保持量は素材全表面の単位面積当たり21mg/m2であった。
白血球除去性能は5.78、血液処理圧は12.8kPa、溶血は0.4%、正常プリオン除去性能は3.0であった。
【実施例7】
【0075】
各重合モノマーの仕込み比をMMA30モル%、DM10モル%、HEMA60モル%として実施例1と同様の条件で重合、精製、乾燥した。ポリマーの共重合組成を1H−NMRにて測定した。ポリマー中のMMAの共重合組成が30モル%、ポリマー中のDMの共重合組成が10モル%、ポリマー中のHEMAが60モル%であった。重量平均分子量Mwは21万であった。本ポリマーを用いた以外は実施例1と同様の操作を行った。
異型断面繊維不織布のポリマーの保持量は素材全表面の単位面積当たり24mg/m2であった。
白血球除去性能は5.66、血液処理圧は11.0kPa、溶血は0.2%、正常プリオン除去性能は3.0であった。
【実施例8】
【0076】
各重合モノマーの仕込み比をMMA30モル%、DM10モル%、HEMA60モル%として実施例1と同様の条件で重合、精製、乾燥した。ポリマーの共重合組成を1H−NMRにて測定した。ポリマー中のMMAの共重合組成が30モル%、ポリマー中のDMの共重合組成が10モル%、ポリマー中のHEMAが60モル%であった。重量平均分子量Mwは21万であった。本ポリマーを用いた以外は実施例1と同様の操作を行った。
異型断面繊維不織布のポリマーの保持量は素材全表面の単位面積当たり21mg/m2であった。
白血球除去性能は5.23、血液処理圧は11.5kPa、溶血は0.2%、正常プリオン除去性能は3.0であった。
【実施例9】
【0077】
各重合モノマーの仕込み比をMMA30モル%、DM10モル%、HEMA60モル%として実施例1と同様の条件で重合、精製、乾燥した。ポリマーの共重合組成を1H−NMRにて測定した。ポリマー中のMMAの共重合組成が30モル%、ポリマー中のDMの共重合組成が10モル%、ポリマー中のHEMAが60モル%であった。重量平均分子量Mwは21万であった。本ポリマーを用いた以外は実施例1と同様の操作を行った。
異型断面繊維不織布のポリマーの保持量は素材全表面の単位面積当たり23mg/m2であった。
白血球除去性能は5.81、血液処理圧は12.2kPa、溶血は0.2%、正常プリオン除去性能は4.0であった。
【実施例10】
【0078】
各重合モノマーの仕込み比をエチルメタクリレート(以下、「EMA」と略す)30モル%、DM10モル%、HEMA60モル%として実施例1と同様の条件で重合、精製、乾燥した。ポリマーの共重合組成を1H−NMRにて測定した。ポリマー中のEMAの共重合組成が30モル%、ポリマー中のDMの共重合組成が10モル%、ポリマー中のHEMAが60モル%であった。重量平均分子量Mwは22万であった。本ポリマーを用いた以外は実施例1と同様の操作を行った。
異型断面繊維不織布のポリマーの保持量は素材全表面の単位面積当たり21mg/m2であった。
白血球除去性能は5.73、血液処理圧は11.0kPa、溶血は0.2%、正常プリオン除去性能は3.5であった。
【実施例11】
【0079】
各重合モノマーの仕込み比をMMA30モル%、ジエチルアミノエチルメタクリレート(以下、「DE」と略す)10モル%、HEMA60モル%として実施例1と同様の条件で重合、精製、乾燥した。ポリマーの共重合組成を1H−NMRにて測定した。ポリマー中のEMAの共重合組成が30モル%、ポリマー中のDMの共重合組成が10モル%、ポリマー中のHEMAが60モル%であった。重量平均分子量Mwは20万であった。本ポリマーを用いた以外は実施例1と同様の操作を行った。
異型断面繊維不織布のポリマーの保持量は素材全表面の単位面積当たり24mg/m2であった。
白血球除去性能は5.12、血液処理圧は11.5kPa、溶血は0.3%、正常プリオン除去性能は3.5であった。
【実施例12】
【0080】
各重合モノマーの仕込み比をMMA30モル%、DM10モル%、ヒドロキシプロピルメタクリレート(以下、「HPMA」と略す)60モル%として実施例1と同様の条件で重合、精製、乾燥した。ポリマーの共重合組成を1H−NMRにて測定した。ポリマー中のMMAの共重合組成が30モル%、ポリマー中のDMの共重合組成が10モル%、ポリマー中のHPMAが60モル%であった。重量平均分子量Mwは28万であった。本ポリマーを用いた以外は実施例1と同様の操作を行った。
異型断面繊維不織布のポリマーの保持量は素材全表面の単位面積当たり24mg/m2であった。
白血球除去性能は5.38、血液処理圧は13.8kPa、溶血は0.4%、正常プリオン除去性能は3.5であった。
【実施例13】
【0081】
各重合性モノマーの仕込み比を疎水性重合性モノマーとしてブチルアクリレート(以下、「BA」と略す)40モル%、塩基性含窒素部分を含む重合性モノマーとしてジエチルアミノエチルアクリレート(以下、「DEA」と略す)10モル%、プロトン性中性親水性部分を含むモノマーとしてヒドロキシブチルアクリレート(以下、「HBA」と略す)50モル%として実施例1と同様の条件で重合、精製、乾燥した。ポリマーの共重合組成を1H−NMRにて測定した。ポリマー中のBAの共重合組成が40モル%、ポリマー中のDEAの共重合組成が10モル%、ポリマー中のHPAが50モル%であった。重量平均分子量Mwは15万であった。本ポリマーを用いた以外は実施例1と同様の操作を行った。
異型断面繊維不織布のポリマーの保持量は素材全表面の単位面積当たり24mg/m2であった。
白血球除去性能は5.38、血液処理圧は11.5kPa、溶血は0.3%、正常プリオン除去性能は3.5であった。
【実施例14】
【0082】
実施例1で用いたポリマーをコーティングした平均繊維径1.18μm、目付40g/m2、比表面積1.47m2/g、繊維異型度1.58のポリエステル異型断面繊維不織布Cの代わりに平均繊維径1.18μm、目付40g/m2、比表面積1.45m2/g、繊維異型度1.29のポリエステル異型断面繊維不織布Cを用いた以外は実施例1と同様な操作を行った。
異型断面繊維不織布のポリマーの保持量は素材全表面の単位面積当たり22mg/m2であった。
白血球除去性能は4.45、血液処理圧は10.0kPa、溶血は0.3%、正常プリオン除去性能は3.5であった。
【比較例1】
【0083】
各重合モノマーの仕込み比をMMA30モル%、DM3モル%、HEMA67モル%として実施例1と同様の条件で重合、精製、乾燥した。ポリマーの共重合組成を1H−NMRにて測定した。ポリマー中のMMAの共重合組成が30モル%、ポリマー中のDMの共重合組成が3モル%、ポリマー中のHEMAが67モル%であった。重量平均分子量Mwは20万であった。本ポリマーを用いた以外は実施例1と同様の操作を行った。
異型断面繊維不織布のポリマーの保持量は素材全表面の単位面積当たり21mg/m2であった。
白血球除去性能は5.10、血液処理圧は10.8kPa、溶血は0.2%、正常プリオン除去性能は0.5であった。塩基性含窒素部分を含む重合成モノマーの重合組成が5モル%以下となると、正常プリオンの吸着が減少し、正常プリオンの除去性能が低下する結果となった。
【比較例2】
【0084】
各重合モノマーの仕込み比をMMA30モル%、DM16モル%、HEMA54モル%として実施例1と同様の条件で重合、精製、乾燥した。ポリマーの共重合組成を1H−NMRにて測定した。ポリマー中のMMAの共重合組成が30モル%、ポリマー中のDMの共重合組成が16モル%、ポリマー中のHEMAが54モル%であった。重量平均分子量Mwは19万であった。本ポリマーを用いた以外は実施例1と同様の操作を行った。
異型断面繊維不織布のポリマーの保持量は素材全表面の単位面積当たり21mg/m2であった。
血液処理圧は12.0kPa、溶血は2.7%であった。冷蔵濾過においては塩基性含窒素部分を含む重合成モノマーの重合組成が増えると溶血が発生し、0.8%という基準を満たせない結果となった。
【比較例3】
【0085】
各重合モノマーの仕込み比をMMA15モル%、DM10モル%、HEMA75モル%として実施例1と同様の条件で重合、精製、乾燥した。ポリマーの共重合組成を1H−NMRにて測定した。ポリマー中のMMAの共重合組成が15モル%、ポリマー中のDMの共重合組成が10モル%、ポリマー中のHEMAが75モル%であった。重量平均分子量Mwは22万であった。本ポリマーを用いた以外は実施例1と同様の操作を行った。
異型断面繊維不織布のポリマーの保持量は素材全表面の単位面積当たり21mg/m2であった。
白血球除去性能は5.38、血液処理圧は7.6kPa、溶血は0.3%、正常プリオン除去性能は0.5であり、疎水性重合性モノマーが20モル%未満では正常プリオン除去性能が低下する結果となった。
【比較例4】
【0086】
各重合モノマーの仕込み比をMMA45モル%、DM10モル%、HEMA45モル%として実施例1と同様の条件で重合、精製、乾燥した。ポリマーの共重合組成を1H−NMRにて測定した。ポリマー中のMMAの共重合組成が45モル%、ポリマー中のDMの共重合組成が10モル%、ポリマー中のHEMAが45モル%であった。重量平均分子量Mwは18万であった。本ポリマーを用いた以外は実施例1と同様の操作を行った。
異型断面繊維不織布のポリマーの保持量は素材全表面の単位面積当たり23mg/m2であった。
血液製剤の流れ性が悪く、血液処理圧が60kPaを超え、チューブおよびシリンジの破損が懸念され途中で試験を中止したため、白血球除去性能および溶血については測定できなかった。
【比較例5】
【0087】
各重合モノマーの仕込み比をDM3モル%、HEMA97モル%として実施例1と同様の条件で重合、精製、乾燥した。ポリマーの共重合組成を1H−NMRにて測定した。ポリマー中のDMの共重合組成が3モル%、HEMAの共重合組成が97モル%であった。重量平均分子量Mwは55万であった。本ポリマーを用いた以外は実施例1と同様の操作を行った。
異型断面繊維不織布のポリマーの保持量は素材全表面の単位面積当たり7.5mg/m2であった。
白血球除去性能は5.38、血液処理圧は6.6kPa、溶血は0.2%、正常プリオン除去性能は0.5であった。
【比較例6】
【0088】
ポリマーコーティングせずに用いた以外は、実施例1と同様の操作を行った。
白血球除去性能は4.90、血液処理圧は20.3kPa、溶血は0.2%、正常プリオン除去性能は0であった。
【比較例7】
【0089】
酸性のモノマーとしてカルボキシル基を持つメタクリル酸(以下、「MAA」と略す)を用いた。
各重合モノマーの仕込み比をMMA30モル%、MAA10モル%、HEMA60モル%として実施例1と同様の条件で重合、精製、乾燥した。ポリマーの共重合組成を1H−NMRにて測定した。ポリマー中のMMAの共重合組成が30モル%、ポリマー中のMAAの共重合組成が10モル%、ポリマー中のHEMAが60モル%であった。重量平均分子量Mwは23万であった。本ポリマーを用いた以外は実施例1と同様の操作を行った。
異型断面繊維不織布のポリマーの保持量は素材全表面の単位面積当たり23mg/m2であった。
白血球除去性能は5.88、血液処理圧は11.0kPa、溶血は0.4%、正常プリオン除去性能は0であった。酸性のモノマーを有するポリマーでは正常プリオンを除去出来ないという結果になった。
【比較例8】
【0090】
各重合モノマーの仕込み比をDM10モル%、HEMA90モル%として実施例1と同様の条件で重合、精製、乾燥した。ポリマーの共重合組成を1H−NMRにて測定した。ポリマー中のDMの共重合組成が10モル%、HEMAの共重合組成が90モル%であった。重量平均分子量Mwは50万であった。本ポリマーを用いた以外は実施例1と同様の操作を行った。
異型断面繊維不織布のポリマーの保持量は素材全表面の単位面積当たり20mg/m2であった。
白血球除去性能は4.20、血液処理圧は14.5kPa、溶血は0.5%、正常プリオン除去性能は1.0であった。
【比較例9】
【0091】
各重合モノマーの仕込み比をMMA90モル%、DM10モル%として実施例1と同様の条件で重合、精製、乾燥した。ポリマーの共重合組成を1H−NMRにて測定した。ポリマー中のMMAの共重合組成が90モル%、ポリマー中のDMの共重合組成が10モル%であった。重量平均分子量Mwは24万であった。本ポリマーを用いた以外は実施例1と同様の操作を行った。
異型断面繊維不織布のポリマーの保持量は素材全表面の単位面積当たり22mg/m2であった。
血液製剤の流れ性が悪く、血液処理圧が60kPaを超え、チューブおよびシリンジの破損が懸念され途中で試験と中止したため、白血球除去性能および溶血については測定できなかった。
【比較例10】
【0092】
実施例5で用いたポリマーをコーティングした平均繊維径1.18μm、目付40g/m2、比表面積1.47m2/g、繊維異型度1.58のポリエステル異型断面繊維不織布Cの代わりに実施例5と同じポリマーをコーティングした平均繊維径1.20μm、目付40g/m2、比表面積1.47m2/g、繊維異型度1.12のポリエステル異型断面繊維不織布Cを用いた以外は実施例5と同様な操作を行った。
異型断面繊維不織布のポリマーの保持量は素材全表面の単位面積当たり20mg/m2であった。
白血球除去性能は4.82、血液処理圧は10.3kPa、溶血は0.3%、正常プリオン除去性能は1.5であった。繊維異型度が低下すると白血球除去能及び正常プリオン除去能が低下する結果となった。
【比較例11】
【0093】
実施例5で用いたポリマーをコーティングした平均繊維径1.18μm、目付40g/m2、比表面積1.47m2/g、繊維異型度1.58のポリエステル異型断面繊維不織布Cの代わりに実施例5と同じポリマーをコーティングした平均繊維径1.20μm、目付40g/m2、比表面積1.47m2/g、繊維異型度1.0のポリエステル異型断面繊維不織布Cを用いた以外は実施例5と同様な操作を行った。
異型断面繊維不織布のポリマーの保持量は素材全表面の単位面積当たり18mg/m2であった。
白血球除去性能は4.21、血液処理圧は10.5kPa、溶血は0.3%、正常プリオン除去性能は1.0であった。比較例10と同様に繊維異型度が低下すると白血球除去能及び正常プリオン除去能が低下する結果となった。

【表1】

【産業上の利用可能性】
【0094】
本発明に係る血液製剤から異常プリオンを除去する方法は、輸血医療の現場で異常プリオンによる伝播性海綿状脳症(TSE)の輸血感染の防止、さらには白血球による輸血副作用の防止に有用に用いられる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
生物学的流体中の目標物質を選択的に減少させるためのフィルターであって、流体の出口と入口を有する容器内に積層された担体を有し、積層された担体は少なくとも以下のAとBの構成からなることを特徴とするプリオン除去機能を有するフィルター。
A:異型断面繊維不織布を有する。
B:20モル%以上40モル%以下の疎水性重合性モノマー由来のユニットと5モル%以上13モル%以下の塩基性含窒素部分を含む重合性モノマー由来のユニットと残余がプロトン性中性親水性部分を含む重合性モノマー由来のユニットである3つのユニットから構成されてなるポリマーをコートした担体を有する。
【請求項2】
繊維異型度が1.2以上である異型断面繊維不織布を用いることを特徴とする請求項1に記載のフィルター。
【請求項3】
前記ポリマーをコートした異型断面繊維不織布であることを特徴とする請求項2に記載のフィルター。
【請求項4】
担体の一部または全てが白血球除去能を有することを特徴とする請求項1〜3の何れかに記載のフィルター。
【請求項5】
担体の充填密度が0.1g/cm以上0.5g/cm以下であることを特徴とする請求項1〜4の何れかに記載のフィルター。
【請求項6】
担体の空隙率が60%以上90%以下であることを特徴とする請求項1〜5の何れかに記載のフィルター。
【請求項7】
前記疎水性重合性モノマー、塩基性含窒素部分を含む重合性モノマー及びプロトン性中性親水性部分を含む重合性モノマーがアクリル酸誘導体及び/又はメタアクリル酸誘導体である請求項1に記載のフィルター。
【請求項8】
前記塩基性含窒素部分が3級アミノ基であることを特徴とする請求項1または7に記載のフィルター。
【請求項9】
前記プロトン性中性親水性部分が水酸基であることを特徴とする請求項1または7に記載のフィルター。
【請求項10】
フィルターが放射線滅菌の後に高圧蒸気滅菌されていることを特徴とする請求項1〜9に記載のフィルター。


【公開番号】特開2009−167128(P2009−167128A)
【公開日】平成21年7月30日(2009.7.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−7445(P2008−7445)
【出願日】平成20年1月16日(2008.1.16)
【出願人】(507365204)旭化成メディカル株式会社 (65)
【Fターム(参考)】