説明

プリプレグテープの経路計算方法

【課題】様々な曲面に対応して皺無くプリプレグテープの貼着や積層を図ること。
【解決手段】任意の初期座標p0を始点として、プリプレグテープの面Sに予定されているプリプレグテープの貼着方向V(i)に沿う探索ベクトルSVを、所定の微小移動量Δaをスカラとして演算する探索ベクトル演算ステップS101と、演算された探索ベクトルSVの終点peから面Sに下ろした垂線の足ptemp1-3(i, j, k)を演算する垂足演算ステップS102とを含み、所定の終了条件が成立するまで、垂線の足ptemp1-3(i, j, k)と探索ベクトルSVの基点とに基づいて新たな探索ベクトルSVを演算するとともに、この新たな探索ベクトルSVに基づき、垂線の足ptemp1-3(i, j, k)を次の演算の始点として探索ベクトル演算ステップS101を繰り返すナビゲーティングステップS100〜S125を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はプリプレグテープの経路計算方法に関する。
【背景技術】
【0002】
複合材料、特に、繊維材料に樹脂を含浸させたプリプレグテープ(prepreg tape)の使用は、自動車、海洋、航空宇宙産業を含む種々の産業界で増加している。プリプレグテープは、車両の筐体を構成する貼付型(例えばマンドレル)等の被貼付体の表面に貼着され、積層される。
【0003】
この貼着作業を自動で行うテープレイアップマシンは、平坦レイアップマシンと曲面レイアップマシンとに分類される。平坦レイアップマシンは、プリプレグテープの貼着時の制御が容易であるため、航空機のストリンガー等に利用されている。これに対し、曲面レイアップマシンは、プリプレグテープの貼着(積層)時に、たるみが生じやすく、皺が寄る傾向があり、その解決が困難な課題として残っている。レイアップマシンが適用できない場合、プリプレグテープは、やむなく手張りによって積層されている。そのため、皺の寄りを効果的に防止するため、曲面に適合したテープ経路(または、「レイアップテープパス」とも呼ばれている)を算出する方法を実用化する必要があった。
【0004】
かかるニーズに応えて、例えば、特許文献1には、複合材料を曲面に貼着するに当たり、テープ経路を算出する方法が開示されている。特許文献1の方法では、製造対象となる製品の三次元の曲面を、当該曲面の境界線も含めて二次元の参照面(reference plane)にマッピングし、この参照面上でテープ経路を算出し、その座標を三次元に変換して、最終的な座標とする方法を採用している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007−185947号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1の方法では、皺や弛みの解消が充分ではなかった。
【0007】
図1及び図2を参照して、加工対象となる製品WSの曲面が各図の(A)に示すような円筒形、または円錐形の場合、これを各図の(B)に示すように、製品WSの曲面Sを比較的精緻に平面に展開することができ、この平面上で最短距離を辿る経路を算出して、テープ経路とすれば、この平面上で最短距離を辿る経路は、概ね直線状に設定され、プリプレグテープの幅方向全域にわたって均等な荷重配分でテープを貼着することが可能になる。
【0008】
しかしながら、図3に示したように、昨今の製品WSによっては、複雑に湾曲した曲面Sを有するものも多数増加している。このような曲面Sは、精緻な2次元平面に展開することが困難であるため、自動化が実現されていなかった。
【0009】
本発明は、上述した課題に鑑みてなされたものであり、様々な曲面に対応して皺無くプリプレグテープの貼着や積層を図ることのできるプリプレグテープの経路計算方法を提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するために、本発明は、プリプレグテープの貼着経路を自動演算するプリプレグテープの経路計算方法であって、プリプレグテープの貼着面の三次元データを読み取る三次元データ読取ステップと、記憶された三次元データに予定されているプリプレグテープの貼着方向に沿って基準レイアップパスを設定する基準レイアップパス設定ステップと、前記基準レイアップパス設定ステップで設定された基準レイアップパスに基づいて当該基準レイアップパスに隣接する隣接レイアップパスを設定する隣接レイアップパス設定ステップとを備え、各レイアップパス設定ステップは、記憶された三次元データに与えられた任意の初期座標を始点として、プリプレグテープの貼着面に予定されているプリプレグテープの貼着方向に基づく微小大きさの探索ベクトルを演算する探索ベクトル演算ステップと、演算された探索ベクトルの終点から前記貼着面に下ろした垂線の足を演算する垂足演算ステップとを含み、所定の終了条件が成立するまで、前記垂線の足と前記探索ベクトルの基点とに基づいて新たな探索ベクトルを演算するとともに、この新たな探索ベクトルに基づき、前記垂線の足を次の演算の始点として前記探索ベクトル演算ステップを繰り返すナビゲーティングステップを備えているプリプレグテープの経路計算方法である。この態様では、ナビゲーティングステップを実行することにより、多様な曲面を有する貼着面に設定された初期座標を基点として、微少量だけプリプレグテープの貼着方向に進む探索ベクトルを演算し、その探索ベクトルの終点から貼着面に下ろした垂線の足を計算の基準として回帰的に演算を繰り返すことができる。この結果、探索ベクトルの向きが微小移動量毎に曲面に沿うように修正されて、演算の基準となる点が曲面に沿う経路を精緻に計算する基準となるので、回帰的に繰り返される演算によって順次算出された基点に基づいて経路を算出することにより、曲面に沿い、プリプレグテープが皺になりにくい経路を正確に演算することが可能になる。
【0011】
好ましい態様において、前記基準レイアップパス設定ステップに先立って、前記初期座標から当該貼着面に対する垂線の足を演算し、この垂線の足を初期座標に設定する初期座標設定ステップをさらに備えている。この態様では、初期座標を選択するときの自由度を高めても、精緻な演算が可能になる。
【0012】
好ましい態様において、前記隣接レイアップパス設定ステップは、演算の基礎となるレイアップパスを基準ラインとし、この基準ライン上の複数の点を始点とし、各始点を演算したときの探索ベクトルと当該貼着面に対する単位法線ベクトルとの外積を新たな探索ベクトルとして前記ナビゲーティングステップを実行することにより、演算される隣接レイアップパスの演算基準となる基準点を探索する基準点探索ステップと、探索された基準点を繋いで隣接レイアップパスを演算する基準点接続ステップと、演算された隣接レイアップパスを次の演算の基礎となるレイアップパスとして、所定の終了条件が成立するまで、前記基準点探索ステップ及び基準点接続ステップを繰り返すものである。この態様では、あるレイアップパスから所定間隔隔てた隣接レイアップパスを算出するに当たり、貼着面の曲面に沿って、基礎となるレイアップパスから次の隣接レイアップパスまでの間隔を精緻に演算することができ、この精緻に演算された間隔に基づいて隣接レイアップパスが設定されるので、あるレイアップパスに貼着されたプリプレグテープと次の隣接レイアップパスに貼着されるプリプレグテープとが重なり合うことと、許容値以上の隙間が生じることを可及的に防止することが可能になる。
【0013】
好ましい態様において、前記隣接レイアップパス設定ステップは、前記基準レイアップパスを境に貼着面が二分されている場合には、その一方の面について隣接レイアップパスを演算した後、前記外積と逆向きのベクトルを新たな探索ベクトルとして、前記ナビゲーティングステップを前記基準レイアップパスから実行することにより、他方の面について隣接レイアップパスを演算する。この態様では、基準レイアップパス上の点を基礎として、当該基準レイアップパスに二分される両面について、隣接レイアップパスが演算されるので、各隣接レイアップパスの演算誤差を1/2に低減することができる。
【0014】
好ましい態様において、前記基準点接続ステップが、各基準点を接続して暫定レイアップパスを演算するものであり、演算された暫定レイアップパスの端部が当該貼着面の境界に達していない場合には、当該暫定レイアップパスの端部の点を始点とし、且つ当該暫定レイアップパスの端部における進行方向ベクトルに基づいて探索ベクトルを演算し、前記ナビゲーティングステップを実行することにより、当該暫定レイアップパスの端部を当該貼着面の境界まで延長して隣接レイアップパスを完成するレイアップ延長ステップをさらに備えている。この態様では、基準点接続ステップによって演算された暫定レイアップパスが、曲面上で所定の長さに達していない場合には、この暫定レイアップパスの端部から精緻な延長線を求めることができるので、隣接レイアップパスの基礎となったレイアップパスよりも長い隣接レイアップパスを貼着面の曲面に沿って精緻に演算することができる。「暫定レイアップパスの端部における進行方向ベクトルに基づいて探索ベクトルを演算」とは、進行方向ベクトルを探索ベクトルとする、或いは、進行方向ベクトルと逆向きのベクトルを探索ベクトルとする場合をいう。
【0015】
好ましい態様において、前記探索ベクトル演算ステップは、当該貼着面が稜線によって折れている場合に前記探索ベクトルの終点が前記稜線を超えたときは、当該稜線を挟んで探索済の面に隣接する面に対する垂線の足を演算し、この隣接する面に対する垂線の足が存在する場合には、その垂線の足を次の演算の基礎とし、隣接する面に対する垂線の足が存在しない場合には、稜線に対する垂線の足を演算して、次の演算の基礎とするものである。この態様では、稜線によって折れている貼着面の上にテープの貼着経路を演算する場合においても、稜線を跨ってスムーズな貼着経路を演算することが可能になる。
【0016】
好ましい態様において、前記基準レイアップパス設定ステップは、前記貼着面にテープを積層する場合には、初期座標から求めた垂線の足を通る前記貼着面の法線に沿ってプリプレグテープの厚さ分のオフセット量を求め、その終点を次層の始点として基準レイアップパスを演算するものである。この態様では、貼着面に基づいて規定される初期座標に基づいて複数の層での始点が設定されるので、精緻なオフセット量を積層されるテープ厚さ分だけ求め、基準レイアップパスや隣接レイアップパスを演算することができる。
【0017】
好ましい態様において、前記探索ベクトル演算ステップは、演算の基準となる点から当該貼着面に対する垂線の足を演算し、この垂線の足を通る前記貼着面の法線方向に沿って、テープの厚さ分をオフセットした点を次の演算の始点に設定するものである。この態様では、貼着面を基準にして、プリプレグテープの厚み分をオフセットし、経路を積算することができるので、複数層に貼着されるテープの貼着経路を演算する場合にも、精緻な経路を演算することができる。ここで、「演算の基準となる点」とは、演算の最初の段階では、初期座標であり、初期座標からの演算が探索ベクトルの演算が算出された後は、次の探索ベクトルの基点を意味するものである。
【0018】
好ましい態様において、複数の層毎に設定されるプリプレグテープの貼着方向V(i)が重複している場合には、上側の層での初期座標の座標をテープの幅方向にシフトするものである。
【0019】
好ましい態様において、前記基準レイアップパス設定ステップは、前記初期座標から設定された所定の探索ベクトルに沿う前半のレイアップパスを演算した後、前記初期座標から前記所定の探索ベクトルと逆向きの探索ベクトルに沿って後半のレイアップパスを演算し、前記前半のレイアップパスと後半のレイアップパスとを接続して演算されたものである。この態様では、初期座標を基準にして基準レイアップパスを前半のレイアップパスと後半のレイアップパスとに分けて演算するので、各レイアップパスの演算誤差を1/2に低減することができる。
【発明の効果】
【0020】
ナビゲーティングステップを実行することにより、演算の基準となる点が曲面に沿う経路を精緻に計算する基準となる結果、様々な曲面に対応して皺無くプリプレグテープの貼着や積層を図ることができるという顕著な効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】加工対象となる製品の曲面に対するテープレイアップパスを説明する図であり、(A)は、円筒形製品の斜視図、(B)は円筒形製品の展開図である。
【図2】加工対象となる製品の曲面に対するテープレイアップパスを説明する図であり、(A)は、円錐形製品の斜視図、(B)は円錐形製品の展開図である。
【図3】加工対象となる製品の曲面に対するテープレイアップパスを説明する図であって湾曲面を有する製品の斜視図である。
【図4】本発明に係るプリプレグテープの経路計算装置の構成図である。
【図5】貼着面を有する製品のテープレイアッププランを示す斜視図である。
【図6】本発明に係る全体フローを示すフローチャートである。
【図7】ナビゲーティングステップとしてのナビゲーティングモジュールの動作を示すフローチャートである。
【図8】図7の続きを示すフローチャートである。
【図9】ナビゲーティングモジュールによる探索状態を示す説明図であり、(A)は曲面上での探索、(B)は、曲面からオフセットされた曲面での探索を示す。
【図10】ナビゲーティングモジュールによる探索状態を示す説明図である。
【図11】ナビゲーティングモジュールによる探索状態を示す説明図である。
【図12】図6のサブルーチンを示すフローチャートである。
【図13】図12のフローチャートの実行結果を説明する貼着面の説明図であり、(A)は初期座標が曲面上にあった場合、(B)は初期座標が曲面から浮揚していた場合、(C)は初期座標が曲面からオフセットされた場合を示す。
【図14】図12のフローチャートの実行結果を説明する貼着面の斜視図である。
【図15】図12のフローチャートの実行結果を説明する貼着面の斜視図である。
【図16】図12のフローチャートの実行結果を説明する貼着面の斜視図である。
【図17】図12のフローチャートの実行結果を説明する貼着面の斜視図である。
【図18】図12のフローチャートの実行結果を説明する貼着面の斜視図である。
【図19】図12の続きを示すフローチャートである。
【図20】図19のフローチャートの実行結果を説明する貼着面の斜視図である。
【図21】図19のフローチャートの実行結果を説明する貼着面の斜視図である。
【図22】図19のフローチャートの実行結果を説明する貼着面の斜視図である。
【図23】図19の続きを示すフローチャートである。
【図24】図23のフローチャートの実行結果を説明する貼着面の斜視図である。
【図25】図23のフローチャートの実行結果を説明する貼着面の斜視図である。
【図26】図23の続きを示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、添付図面を参照しながら本発明の好ましい実施の形態について説明する。
【0023】
まず、図4を参照して、本発明に係るシステムは、CADシステム10と、CADシステムからデータを交換可能に接続された経路演算モジュール20とを備えている。
【0024】
CADシステム10は、プリプレグテープが貼着される製品データを蓄積したCADデータベース11と接続されており、このCADデータベース11に記憶されたCADデータをインターフェース(又はネットワーク)経由で経路演算モジュール20に送信することが可能になっている。CADデータは、一般にNURBS(Non-Uniform Rational B-Splines)等のフォーマットで、3次元で曲面を定義することのできるデータが使用される。
【0025】
経路演算モジュール20は、ファクトリコンピュータ等の計算機で実現される論理的なモジュールであり、ハード的には、図略のCPU、ROM、RAMの他、入出力装置21、表示装置22、外部記憶装置23を備えている。
【0026】
経路演算モジュール20は、CADシステム10からデータの読み取り等を実行するCADデータ操作モジュール24と、入力されたCADデータに対し、所定のレイアッププランを処理するレイアッププラン処理モジュール25と、レイアッププラン処理モジュール25に基づいて、平面または曲面を含む面上でプリプレグテープが辿る最短経路(以下、この最短経路を「ナチュラルパス」とも呼称する)を演算するナビゲーティングモジュール26とを論理的に有している。これらは、経路演算モジュール20を構成するハード資源と、このハード資源によって実行されるソフト資源(例えば、ソースコード、オブジェクトコード、プログラミングコード等)との組み合わせによって実現される。
【0027】
図5を参照して、同図に例示するワークWSは、車両の筐体部分を構成する矩形の部品である。この部品を製造する過程では、図略のマンドレルによって規定される曲面Sに対し、層i毎に貼着方向V(i)が入力される。具体的には、最初にワークの一辺に沿うV(1)方向に沿ってプリプレグテープを貼着し、次いで、最初の経路V(1)と直交する経路V(2)に沿って、その後、最初の経路V(1)と45°で交差する経路V(3)に沿ってプリプレグテープを貼着し、層毎に経路を変更してテープ層を形成(テープレイアップ)する設定(このプリプレグテープの貼着手順に関する設定要件を「テープレイアッププラン」ともいう)が実行されることになっている。この場合、図4に示した経路演算モジュール20は、図6以下のフローチャートにそって、ワークのテープレイアッププランに好適なテープ貼着経路を算出する。
【0028】
また、テープレイアッププランでは、最初の層i(層1)のみに初期座標p0の設定も行われる。詳しくは後述するように、初期座標p0は、全ての層iにおけるレイアップパスの演算の基礎となる座標である。
【0029】
図6を参照して、まず、経路演算モジュール20は、CADデータ操作モジュール24によってワークのデータをCADシステム10から読み取る(ステップS20)。本実施形態では、このステップS20が、三次元データ読取ステップとなる。
【0030】
次いで、図5に例示されたテープレイアッププランの入力処理を実行する(ステップS21)。このステップS21では、レイアッププラン処理モジュール25が実行されて、GUIによって表示装置22に入力画面が表示され、ユーザが入力画面の指示に従って、入出力装置21を操作し、テープレイアッププランを入力する。このステップS21でユーザは、ワークに貼着されるテープの幅d、テープの厚さt、プリプレグテープの層毎の貼着方向V(i)、演算の初期座標p0を入力する。初期座標p0を入力する際には、ワークのCAD図面を画面に表示し、入出力装置21でユーザが所望する任意の点を指定させるようにしてもよい。レイアッププラン処理モジュール25は、入力されたデータをメモリまたは外部記憶装置23に記録し、後続する処理に利用する。
【0031】
また、レイアッププラン処理モジュール25は、入力が完了した段階で、テープレイアップの層数nをカウントする(ステップS22)。次いで、演算の基準となるレイアップパスの変数i、j、kが初期設定される(ステップS23、S24)。本実施形態では、層毎に複数のレイアップパスを設定することとしているので、層に関する変数i、レイアップパスに関する変数j、レイアップパスを構成する点に関する変数kを設定し、演算された全ての座標を三次元で一意に特定することができるようになっている。
【0032】
次に、層iに設定されたテープレイアッププランが読み取られる(ステップS25)。この読み取りにより、初期座標p0、テープ幅d、テープ厚さtと、層i毎のプリプレグテープの貼着方向V(i)が特定される。
【0033】
次いで、レイアッププラン処理モジュール25は、読み出された層iに係る貼着方向V(i)と、演算済の他の層iに設定されている貼着方向V(i)が重複しているか否かを探索する(ステップS26)。仮に貼着方向V(i)が同一の層iが見つかった場合には、その層iに設定されている基準レイアップパスTPsの初期座標p0からプリプレグテープの幅方向に沿って、幅dの1/2ずれた位置を演算し(ステップS27)、その座標を新たな初期座標p0に設定する(ステップS28)。これにより、既にレイアップパスが演算されている層iとこれから演算される層iとでは、プリプレグテープが、互いに1/2だけ幅方向にずれるので、製造されるワークが崩れにくい堅固な構造になる。
【0034】
次に、層iでの演算処理サブルーチンが実行される(ステップSS10)。演算処理サブルーチンが実行されると、層の変数iがインクリメントされ(ステップS29)、インクリメントされた層の変数iがステップS22でカウントされた層の数nと比較される(ステップS30)。仮に層の変数iが層の数n以下である場合には、ステップS24に復帰して上述した処理を繰り返し、層の変数iが層の数nを超えている場合には、処理を終了する。
【0035】
この演算処理サブルーチンでは、層i毎に基準レイアップパスTPsが演算され、次いで、基準レイアップパスTPsに等間隔で隣接する隣接レイアップパスTPnが演算される。隣接レイアップパスTPnを演算する際は、既に演算されたレイアップパスを基礎として、基礎となったレイアップパスから等間隔隔てた座標が演算される。このため、貼着面としての曲面Sが複雑に起伏している場合でも、その起伏に沿って、重なりや皺が生じにくい状態でプリプレグテープをすることのできるレイアップパスを演算することが可能になる。そして、本実施形態においては、より精緻な演算を実現するため、個々のステップの随所でナビゲーティングモジュール26が呼び出される。ナビゲーティングモジュール26は、複雑な曲面上でナチュラルパスを演算するための関数群であり、以下に示す演算が可能になっている。
【0036】
図7及び図9を参照して、ナビゲーティングモジュール26は、オフセット量h(i)、微小移動量Δa、積算移動量m、単位探索ベクトルnV等を引数として含んでいる。オフセット量h(i)とは、プリプレグテープの厚さtを考慮した曲面Sからの法線方向の浮揚量であり、i番目の層iについては、(i−1)×tで演算される変数(導出関数)である。微小移動量Δaは、探索する座標の移動量であり、例えば、0.001mmに設定される。積算移動量mは、演算した探索経路の積算値である。単位探索ベクトルnVは、レイアップパスの探索方向のベクトル(探索ベクトルSV)を演算するための単位ベクトルであり、貼着方向V(i)を基準に演算されるものである。単位探索ベクトルnVは、可及的に曲面Sに接するように設定される(図9参照)。これら引数の値は、ナビゲーティングモジュール26を呼び出すプログラムによって、即ち、演算されるオフセットパスの種類等によって、適宜変更される。
【0037】
ナビゲーティングモジュール26が呼び出されると、まず、引数の初期設定が実行される(ステップS100)。この初期設定では、微小移動量Δaが0.001mmに、積算移動量mが0.0mmに設定される。なお、この初期設定は、ユーザがGUIで設定画面を表示させ、この設定画面上で適宜変更できるようになっている。
【0038】
次いで、移動点peが演算される(ステップS101)。この処理では、探索ベクトルSVを、微小移動量Δaと単位探索ベクトルnVとの積で求め、演算の基礎となる点p(i, j, k)を基点として、探索ベクトルSVの終点peを演算する。演算の基礎となる点p(i, j, k)は、ナビゲーティングモジュール26を呼び出すプログラムによって設定される。たとえば、基準レイアップパスTPsの演算を開始する場合、p(i, j, k)の最初の値は、初期座標p0である。次に、演算された終点peから曲面Sに垂線の足ptemp1を演算し(ステップS102)、ptemp1が演算可能な座標であるか否かを検証する(ステップS103)。
【0039】
temp1が演算可能な座標である場合、垂線の足ptemp1+(hV*h(i))を演算する(ステップS104)。ここで、hVは、ptemp1を通る曲面Sの法線単位ベクトルであり、h(i)は、(i−1)×tで演算される変数であることから、最初の層iにおいては、垂線の足ptemp1が点pになる(図9(A)参照)。他方、2番目以降の層iについては、hが0よりも大きくなるので、図9(B)に示すように、演算される点pは、垂線の足ptemp1からh(i)だけ法線方向に浮揚した座標をとることになる。
【0040】
次いで、始点p(i, j, k)から演算した点pまでの移動量Δmを演算する(ステップS105)。
【0041】
その後、設定値Lhが設定されているか否かをチェックする(ステップS106)。この設定値Lhは、詳しくは後述するように、ナビゲーティングモジュール26で隣接レイアップパスの演算の基礎となる座標を演算する際、基礎となる座標から演算対象となる座標までの間隔を算出するための値であり、ナビゲーティングモジュール26を呼び出すプログラムによって設定されるものである。
【0042】
設定値Lhが設定されていない場合、nullが設定されている場合、或いは、設定されているが、積算移動量mの更新値(m+Δm)以下である場合(ステップS107)、変数kをインクリメントする(ステップS108)。
【0043】
次いで、演算された点pの座標をp(i, j, k)とし(ステップS109)、この座標p(i, j, k)を登録する(ステップS110)。
【0044】
その後、次の探索ベクトルを次式
【0045】
【数1】

【0046】
によって演算し(ステップS111)、積算移動量mを移動量Δmでインクリメントする(ステップS112)。その後、ステップS101に復帰して、上述したステップを繰り返す。
【0047】
また、ステップS107において、設定値Lhが積算移動量mの更新値(m+Δm)を超えている場合、積算移動量mが設定値Lh未満であるか否かが判定され(ステップS113)、積算移動量mが設定値Lh未満である場合には、設定値Lhの終点を次式
【0048】
【数2】

【0049】
によって求め(ステップS114)、レイアップパスの変数kをインクリメントして(ステップS115)演算された座標をp(i, j, k)とし(ステップS116)、この座標p(i, j, k)を登録する(ステップS117)。これらのステップS113〜S117により、設定値Lhが設定されている場合には、その終点まで正確にナチュラルパスを演算することが可能になる。その後、これまで演算された点p(i, j, k)に基づいて、ナチュラルパスTP(i, j)を演算し(ステップS118)、メインプログラムに復帰する。なお、ステップS113で積算移動量mが設定値Lh以上である場合には、そのままステップS118に移行する。
【0050】
次に、ステップS103において、垂線の足ptemp1を演算することができない場合について、図8、図10を参照しながら説明する。
【0051】
図10に示すように、例えば曲面Sに稜線RLが存在し、二つの面Sb、Snに分断されている場合、面Sb上で演算されていた探索ベクトルSVの終点peが、面Sbと直角な稜線RL上の面L1を通過すると、面Sb上には、垂線の足ptemp1を演算することができなくなる。そこで、図8に示すように、ptemp1を演算することができない場合には、まず、隣接する面Snの有無を検証し(ステップS120)、面Snが存在する場合には、探索された終点peから面Snに垂線の足ptemp2を演算する(ステップS121)。ここで、さらに、面Sn上に垂線の足ptemp2が演算可能であったか否かを検証し(ステップS122)、演算が可能であった場合(例えば、図10に示すように、面Snと、この面Snと直角な稜線RL上の面L2とに挟まれた領域内に終点peがある場合)には、点pを垂線の足ptemp2に基づいて演算し(ステップS123)、ステップS105に復帰する。ここで、ステップS123のhvは、ptemp2における面Snの法線単位ベクトルである。
【0052】
他方、図11に示したように、探索ベクトルSVの終点peが、面L1、L2間に位置する場合、何れの面Sb、Sn上にも垂線の足を演算することができなくなる。この場合には、ステップS122で垂線の足ptemp2を演算不可と判定して終点peから稜線RL上に垂線の足temp3を演算し(ステップS124)、この垂線の足temp3を基礎にして点pを演算し(ステップS125)、ステップS105に移行する。ここで、ステップS125のhvは、ptemp3から探索ベクトルSVの終点peに向かう垂直単位ベクトルである。
【0053】
なお、ステップS120において、隣接する面Snが存在しない場合には、探索ベクトルSVの終点peが面sの境界を超えた場合であるので、その場合には、始点p(i, j, k)が面内に存在するか否かを検証し(ステップS126)、面s内である場合には、境界をRLとして、ステップS124に移行する。他方、始点p(i, j, k)が面ではない場合(境界上である場合)には、ステップS113に移行し、処理を終了する。
【0054】
次に、上述のような処理を実行するナビゲーティングモジュール26を用いて、図12の演算処理サブルーチン(ステップSS10)の具体例を説明する。
【0055】
図12、図13(A)(B)(C)を参照して、演算処理サブルーチンが実行されると、まず、初期座標設定ステップ(SS101〜SS103)が実行される。この初期座標設定ステップでは、図6のステップS21で与えられた初期座標p0から曲面Sへ垂線の足ptemp0を演算し(ステップSS101)、さらにptemp0+(hV*h(i))を演算して、新たにp0とする(ステップSS102)。ここで、hVは、ptemp0を通る曲面Sの法線単位ベクトルであり、h(i)は、(i−1)×tで演算される変数であることから、元の初期座標p0が曲面S上に存在し、且つ演算される層iが最初の層であるときには、初期座標p0は、そのまま同じ座標となる(図13(A)参照)。また、演算される層iが最初の層であるときに、設定されていた初期座標p0が曲面Sから浮揚していた場合、初期座標p0は、垂線の足ptemp0に更新される(図13(B)参照)。さらに、演算される層iが2層目以降の場合には、垂線の足ptemp0に演算された後、h(i)だけオフセットされる(図13(C)参照)。この結果、ナビゲーティングモジュール26の演算の最初の基礎となる初期座標p0と曲面Sとが極めて精緻に関係づけられることになる。
【0056】
次いで、基準レイアップパス設定ステップが実行される。
【0057】
図12に示すように、この基準レイアップパス設定ステップでは、まず、ナビゲーティングモジュール26を実行するための引数の設定が実行される。具体的には、Lhをnull値に設定し(ステップSS104)、単位探索ベクトルnVをプリプレグテープの貼着方向V(i)に基づいて定義し(ステップSS105)、始点p(i, j, k)を初期座標p0で設定する(ステップSS106)。これにより、ナビゲーティングモジュール26は、p0を始点として、nV方向に曲面Sの境界までレイアップパスを探索する。本実施形態では、この探索によるレイアップパスを前半のレイアップパスTP(i, f)としている。次いで、ナビゲーティングモジュール26が呼び出され(ステップSS107)、上述した引数の設定に基づいて、ナビゲーティングモジュール26を実行することにより、前半のレイアップパスTP(i, f)が演算される(ステップSS108)。この演算により、図14に示すように、曲面Sに始点p(i, j, k)が設定され、次いで図15に示すように、設定された始点p(i, j, k)からΔm間隔の座標p(i, j, k)が登録され、図16に示すように、前半のレイアップパスTP(i, f)が曲面Sの境界まで演算される。
【0058】
次いで、ナビゲーティングモジュール26の処理が終了すると、すなわち、ステップSS108が終了すると、今度は、単位探索ベクトルnVの方向を反転するとともに、始点を初期座標p0に戻して(ステップSS109)、再度、ナビゲーティングモジュール26を呼び出し(ステップSS110)、後半のレイアップパスTP(i, l)が演算される(ステップSS111)。この演算により、図17、図18に示すように、初期座標p0を始点とする点p(i, j, k)からΔm間隔の座標p(i, j, k)が登録され、後半のレイアップパスTP(i, l)が曲面Sの境界まで演算される。
【0059】
次いで、演算された前半のレイアップパスTP(i, f)と後半のレイアップパスTP(i, l)とが接続され、基準レイアップパスTPsが演算され(ステップSS112)、登録される(ステップSS113)。
【0060】
次に、登録された基準レイアップパスTPsに基づいて、当該基準レイアップパスに隣接する隣接レイアップパスTPnを設定する隣接レイアップパス設定ステップについて説明する。
【0061】
プリプレグテープの重なりを防止するため、設定されたレイアップパスとそれに隣接するレイアップパスとの間隔は、精緻に演算される必要がある。この演算は、貼着面が平面である場合には比較的容易であるが、貼着面が曲面である場合には、これまで極めて困難とされていたものである。本実施形態では、曲面上に複数のレイアップパスを演算するために、演算済みのレイアップパスから対向間隔をナビゲーティングモジュール26で演算し、次いで、演算された対向間隔を接続して隣接レイアップパスTPnを演算するステップを採用している。
【0062】
まず、図19を参照して、演算済みの基準レイアップパスTPsから対向間隔をナビゲーティングモジュール26で演算するために、プリプレグテープの幅dを探索値Sfとし、設定値Lhを探索値Sfの絶対値とする(ステップSS120)。探索値Sfは、基準レイアップの探索方向を設定するフラグの機能を兼ねるものである。また、上述したように、設定値Lhは、ナビゲーティングモジュール26で隣接レイアップパスTPnの演算の基礎となる座標を演算する際、基礎となる座標(始点p(i, j, k))から演算対象となる座標Teまでの間隔を算出するための値である。さらにこの段階で基準レイアップパスTPsをTP(i, j)と定義する。
【0063】
次に、このTP(i, j)を基準ラインNLと定義し(ステップSS121)、この基準ラインNLの上流点(プリプレグテープの貼着方向V(i)において、境界上に設定されている貼着方向上流側の点)p(i, j, k)を始点p(i, j, k)とする。次いで、基準ラインNLの全長をL(ステップSS123)、基準ラインNLを分割する間隔をΔLnとし、積算間隔Lnを0にリセットする(ステップSS124)。
【0064】
次いで、単位探索ベクトルnVをp(i, j, k)での曲面S上の単位法線ベクトルhVNLと(添え字のNLは、基準NL上の当該座標p(i, j, k)を示す。以下、同様)、このp(i, j, k)での単位探索ベクトルnVNLとの外積で求める(ステップSS125)。これにより、図20に示したように、基準NL上に設定される個々の点p(i, j, k)毎に、当該単位探索ベクトルnVNLと直角に曲面Sに沿う単位探索ベクトルnVを設定することができる。
【0065】
次いで、単位探索ベクトルnVの方向が、探索値Sfに基づいて判定され(ステップSS126)、仮に探索値Sfの値がマイナスである場合には、単位探索ベクトルnVの値が逆向きに反転される(ステップSS127)。
【0066】
次いで、ナビゲーティングモジュール26を呼び出し(ステップSS128)、基準ラインNLのp(i, j, k)からnV方向のナチュラルパスtp(i, j)を演算する(ステップSS129)。
【0067】
この局面では、図21に示したように、ナビゲーティングモジュール26により、基準ラインNL上に設定された始点p(i, j, k)からナチュラルパスtp(i, j)が演算され、精緻な対向間隔を維持した状態で、終点Teを演算することができる。演算が開始されることにより、探索ベクトルSVは、概ねプリプレグテープの貼着方向V(i)に直交する方向に沿って曲面S上に設定され、始点p(i, j, k)が更新されていく。始点p(i, j, k)の積算移動量mがステップSS120で設定された設定値Lhを超えた場合、或いは、探索ベクトルSVの終点peが境界を越えて、ナビゲーティングモジュール26のステップS112(図7参照)によりナチュラルパスtp(i, j)が演算され、制御が図19のフローに復帰すると、レイアッププラン処理モジュール25は、演算されたナチュラルパスtp(i, j)が設定値Lh以上であるか否かを判定し(ステップSS130)、設定値Lh以上に達しているナチュラルパスtp(i, j)の終点Teのみを隣接レイアップパスTPnの基礎点pn(i, j, k)として登録する(ステップSS131)。これにより、設定値Lh以上に達しているナチュラルパスtp(i, j)のみの終点Teが、隣接レイアップパスTPnの計算の基準となる。
【0068】
次いで、積算間隔Lnを分割間隔ΔLnで更新し(ステップSS132)、積算間隔Lnが、基準ラインNLの全長を超えたか否かを判定する(ステップSS133)。仮に基準ラインNLの全長を超えている場合には、次のステップに移行し、基準ラインNLの全長以下である場合には、始点p(i, j, k)を分割間隔ΔLnで更新し(ステップSS134)、ステップSS125に移行して上述した処理を繰り返す。
【0069】
これにより、図22に示したように、一つの基準ラインNL毎に、多数の始点p(i, j, k)が設定され、設定された始点p(i, j, k)毎にナビゲーティングモジュール26で精緻に対向間隔が演算された終点Teが演算され、そのうち、曲面S内に存在するものが、登録されることになる。
【0070】
次に、図23を参照して、一つの基準ラインNLについて、全ての終点Teが演算されると、今度は、基礎点pn(i, j, k)が存在するか否か、すなわち、プリプレグテープを貼着する隣接レイアップパスTPnを演算可能か否かが判定される(ステップSS140)。
【0071】
一つの基準ラインNLについて、隣接レイアップパスTPnを演算することができると判定された場合、レイアップパスの変数jを更新し(ステップSS141)、基礎点pn(i, j, k)を接続して得られる暫定レイアップパスTPtemp(i, j)を演算する(ステップSS142)。ここで、演算された暫定レイアップパスTPtemp(i, j)の上流点pu(i, j, k)、下流点pd(i, j, k)が曲面Sの境界に接しているか否かが判定され(ステップSS143、SS144)、接していれば、この暫定レイアップパスTPtemp(i, j)を隣接レイアップパスTPnとして定義し(ステップSS145)、この隣接レイアップパスTPnを登録する(ステップSS146)。この処理により、図24に示すように、基準レイアップパスTPsを基準ラインNLとする隣接レイアップパスTPnが演算され、登録される。その後、ステップSS121に移行し、演算された隣接レイアップパスTPnを次の演算の基準ラインNLとして、上述した演算を繰り返す。
【0072】
他方、ステップSS143で、暫定レイアップパスTPtemp(i, j)の上流点が曲面Sの境界に届いていない場合、始点p(i, j, k)を当該暫定レイアップパスTPtemp(i, j)の上流点pu(i, j, k)で定義し(ステップSS147)、その上流点pu(i, j, k)でのTPtemp(i, j)の進行方向ベクトルである単位探索ベクトルnVpu(i, j, k)と逆向きの方向を単位探索ベクトルnVと定義する(ステップSS148)。次いで、ナビゲーティングモジュール26を呼び出し(ステップSS149)、暫定レイアップパスTPtemp(i, j)を延長する(ステップSS150)。この処理により、図25に示すように、中途で途切れていた暫定レイアップパスTPtemp(i, j)が曲面Sの境界まで延長される。
【0073】
また、ステップSS144で、暫定レイアップパスTPtemp(i, j)の下流点pd(i, j, k)が曲面Sの境界に届いていない場合には、始点p(i, j, k)を当該暫定レイアップパスTPtemp(i, j)の下流点pd(i, j, k)で定義し(ステップSS151)、その下流点pd(i, j, k)でのTPtemp(i, j)の進行方向ベクトルである単位探索ベクトルnVpd(i, j, k)の方向を単位探索ベクトルnVと定義する(ステップSS152)。次いで、ステップSS149に移行することにより、下流側でも中途で途切れていた暫定レイアップパスTPtemp(i, j)を曲面Sの境界まで延長することができる。
【0074】
ステップSS140で暫定レイアップパスTPtemp(i, j)(従って、隣接レイアップパスTPn)を演算することができかなった場合、図26に示すように、探索値Sfの符号が判別される(ステップSS160)。探索値Sfがマイナスであるときは、元のメインルーチンに復帰する。これにより、層iでの隣接レイアップパスTPnの演算が全て終了し、図6のメインフローに復帰してステップS29以下を実行する。
【0075】
他方、探索値Sfがプラスであるときは、探索値Sfをマイナスに更新し(ステップSS161)、基準ラインNLを基準レイアップパスTPsに設定する(ステップSS162)。その後、ステップSS122に移行することにより、今度は、基準レイアップパスTPsを境に反対側の面に隣接レイアップパスTPnの演算を進めることができる。
【0076】
以上説明したように本実施形態では、プリプレグテープの貼着面としての曲面Sの三次元データを読み取る三次元データ読取ステップS20と、記憶された曲面Sに予定されているプリプレグテープの貼着方向V(i)に沿って基準レイアップパスを設定する基準レイアップパス設定ステップSS101〜SS113と、基準レイアップパス設定ステップSS101〜SS113で設定された基準レイアップパスTPsに基づいて当該基準レイアップパスTPsに隣接する隣接レイアップパスTPnを設定する隣接レイアップパス設定ステップSS120〜SS162とを備え、各レイアップパス設定ステップは、記憶された曲面S上に与えられた任意の初期座標p0を始点として、プリプレグテープの曲面Sに予定されているプリプレグテープの貼着方向V(i)に基づく探索ベクトルSVを、所定の微小移動量Δaをスカラとして演算する探索ベクトル演算ステップS101と、演算された探索ベクトルSVの終点peから曲面Sに下ろした垂線の足ptemp0(i, j, k)を演算する垂足演算ステップS102とを含み、図7、図8に示した所定の終了条件が成立するまで、垂線の足ptemp0(i, j, k)と探索ベクトルSVの基点とに基づいて新たな探索ベクトルSVを演算するとともに、この新たな探索ベクトルSVに基づき、垂線の足ptemp0(i, j, k)を次の演算の始点として探索ベクトル演算ステップS101を繰り返すナビゲーティングステップS100〜S125を備えている。このため、本実施形態によれば、ナビゲーティングステップS100〜S125を実行することにより、多様な曲面を有する貼着面に設定された初期座標p0を基点として、微少量だけプリプレグテープの貼着方向V(i)に進む探索ベクトルSVを演算し、その探索ベクトルの終点から曲面Sに下ろした垂線の足ptemp0(i, j, k)を計算の基準として回帰的に演算を繰り返すことができるので、演算の基準となる点が曲面に沿う経路を精緻に計算する基準となる。この結果、回帰的に繰り返される演算によって順次算出された基点p(i, j, k)に基づいて経路を算出することにより、曲面に沿い、プリプレグテープが皺になりにくい経路を正確に演算することが可能になる。
【0077】
また、本実施形態では、基準レイアップパス設定ステップSS101〜SS113の初めに、初期座標p0から当該曲面Sに対する垂線の足ptemp0(i, j, k)を演算し、この垂線の足ptemp0(i, j, k)を初期座標p0に設定する初期座標設定ステップSS101〜SS103を備えている。このため、本実施形態では初期座標p0を選択するときの自由度を高めても、精緻な演算が可能になる。
【0078】
また、本実施形態では、隣接レイアップパス設定ステップSS120〜SS162は、演算の基礎となるレイアップパス上の複数の点pを始点とし、各始点を演算したときのレイアップパスの単位探索ベクトルnVNLと当該曲面Sに対する単位法線ベクトルhVNLとの外積を単位探索ベクトルnVとして、ナビゲーティングステップS100〜S125を実行することにより、演算される隣接レイアップパスTPnの演算基準となる基準点Teを探索する基準点探索ステップSS129と、探索された点Teを繋いで隣接レイアップパスTPnを演算する基準点接続ステップSS142と、演算された隣接レイアップパスTPnを次の演算の基礎となるレイアップパスとして、図23、図26に示した所定の終了条件が成立するまで、前記基準点探索ステップSS129及び基準点接続ステップSS142を繰り返すものである。このため、本実施形態ではあるレイアップパスから所定間隔隔てた隣接レイアップパスTPnを算出するに当たり、曲面Sに沿って、基礎となるレイアップパスから次の隣接レイアップパスTPnまでの間隔を精緻に演算することができ、この精緻に演算された間隔に基づいて隣接レイアップパスTPnが設定されるので、あるレイアップパスに貼着されたプリプレグテープと次の隣接レイアップパスTPnに貼着されるプリプレグテープとが重なり合うことと、許容値以上の隙間が生じることを可及的に防止することが可能になる。
【0079】
また、本実施形態では、隣接レイアップパス設定ステップSS120〜SS162は、基準レイアップパスを境に曲面Sが二分されている場合には、その一方の面について隣接レイアップパスTPnを演算した後、外積と逆向きのベクトルを探索ベクトルSVとして、ナビゲーティングステップS100〜S125を前記基準レイアップパスから実行することにより、他方の面について隣接レイアップパスTPnを演算する。このため、本実施形態では基準レイアップパス上の点を基礎として、当該基準レイアップパスに二分される両面について、隣接レイアップパスTPnが演算されるので、各隣接レイアップパスTPnの演算誤差を1/2に低減することができる。
【0080】
また、本実施形態では、基準点接続ステップが、各基準点を接続して暫定レイアップパスTPtemp(i, j)を演算するものであり、演算された暫定レイアップパスTPtemp(i, j)の端部が当該貼着面の境界に達していない場合には、当該暫定レイアップパスTPtemp(i, j)の端部の点pu(i, j, k)、pd(i, j, k)を始点とし、且つ端部の点pu(i, j, k)、pd(i, j, k)それぞれにおけるTPtemp(i, j)の延長方向の単位方向ベクトルをそれぞれの単位探索ベクトルnVとして求め、ナビゲーティングステップS100〜S125を実行することにより、当該暫定レイアップパスTPtemp(i, j)の端部を曲面Sの境界まで延長して隣接レイアップパスTPnを完成するレイアップ延長ステップSS143〜SS152をさらに備えている。このため本実施形態では、基準点接続ステップによって演算された暫定レイアップパスTPtemp(i, j)が、曲面S上で所定の長さに達していない場合には、この暫定レイアップパスTPtemp(i, j)の端部から精緻な延長線を求めることができるので、隣接レイアップパスTPnの基礎となったレイアップパスよりも長い隣接レイアップパスTPnを曲面Sの曲面に沿って精緻に演算することができる。
【0081】
また、本実施形態では、探索ベクトル演算ステップS101は、当該曲面Sが稜線RLによって折れている場合に探索ベクトルSVの終点peが前記稜線RLを超えたときは、探索済の面Sbに隣接する面Snに対する垂線の足ptemp2(i, j, k)を演算し、この隣接する面Snに対する垂線の足ptemp2(i, j, k)が存在する場合には、その垂線の足ptemp2(i, j, k)を次の演算の基礎とし、隣接する面Snに対する垂線の足ptemp3(i, j, k)が存在しない場合には、稜線RLに対する垂線の足ptemp3(i, j, k)を演算して、次の演算の基礎とするものである。このため、本実施形態では、図10、図11に示したように、より稜線RLによって折れている曲面Sの上にプリプレグテープの貼着経路を演算する場合においても、稜線RLを跨ってスムーズな貼着経路を演算することが可能になる。
【0082】
また、本実施形態では、基準レイアップパス設定ステップSS101〜SS113は、曲面Sにプリプレグテープを積層する場合には、初期座標p0から求めた垂線の足ptemp0(i, j, k)を通る曲面Sの法線に沿ってプリプレグテープの厚さ分のオフセット量h(i)を求め、その終点を次層の始点p(i, j, k)として基準レイアップパスTPsを演算するものである。このため、本実施形態では曲面Sに基づいて規定される初期座標p0に基づいて複数の層での始点p(i, j, k)が設定されるので、精緻なオフセット量h(i)を積層されるテープ厚さ分だけ求め、基準レイアップパスや隣接レイアップパスTPnを演算することができる。
【0083】
また、本実施形態では、探索ベクトル演算ステップS101は、演算の基準となる点から当該曲面Sに対する垂線の足ptemp0(i, j, k)を演算し、この垂線の足ptemp0(i, j, k)を通る曲面Sの法線方向に沿って、テープの厚さt分をオフセットした点を次の演算の始点p(i, j, k)に設定するものである。このため、本実施形態では曲面Sを基準にして、プリプレグテープの厚さt分をオフセットし、経路を積算することができるので、複数層に貼着されるテープの貼着経路を演算する場合にも、精緻な経路を演算することができる。上述したように、「演算の基準となる点」とは、演算の最初の段階では、初期座標p0であり、初期座標p0からの演算が探索ベクトルの演算が算出された後は、次の探索ベクトルSVの基点p(i, j, k)を意味する。
【0084】
また、本実施形態では、複数の層毎に設定されるプリプレグテープの貼着方向V(i)が重複している場合には、上側の層での初期座標p0の座標をテープの幅方向にシフトするものである。
【0085】
また、本実施形態では、基準レイアップパス設定ステップSS101〜SS113は、初期座標p0から設定された所定の探索ベクトルSVに沿う前半のレイアップパスTP(i, f)を演算した後、前記初期座標p0から前記所定の探索ベクトルSVと逆向きの探索ベクトルに沿って後半のレイアップパスTP(i, l)を演算し、前記前半のレイアップパスTP(i, f)と後半のレイアップパスTP(i, l)とを接続して演算されたものである。この態様では、初期座標を基準にして基準レイアップパスTP(i, j)を前半のレイアップパスTP(i, f)と後半のレイアップパスTP(i, l)とに分けて演算するので、各レイアップパスTP(i, f)、TP(i, l)の演算誤差を1/2に低減することができる。
【0086】
上述した実施の形態は、本発明の好ましい具体例を例示したものに過ぎず、本発明は上述した実施形態に限定されない。例えば、製品が球状の曲面を有する場合には、基準レイアップパスTPsを演算する際に、設定値Lhを設定し、周回する経路を演算可能にすれば、この曲面に沿う基準レイアップパスTPsや、その隣接レイアップパスTPnを演算することができる。
【0087】
その他、本発明の特許請求の範囲内で種々の変更が可能であることはいうまでもない。
【符号の説明】
【0088】
10 CADシステム
11 CADデータベース
20 経路演算モジュール
21 入出力装置
22 表示装置
23 外部記憶装置
24 データ操作モジュール
25 レイアッププラン処理モジュール
26 ナビゲーティングモジュール
d テープ幅
h オフセット量
hV 単位法線ベクトル
i,j,k 変数
Lh 設定値
Ln 積算間隔
m 積算移動量
n 層数
nV 単位探索ベクトル
NL 基準ライン
p(i, j, k) 始点
pd 下流点
pu 上流点
p0 初期座標
pe 終点
pn 基礎点
temp0−ptemp3 垂線の足
RL 稜線
S 曲面(貼着面の一例)
Sf 探索値
S20 三次元データ読取ステップ
S100-S125 ナビゲーティングステップ
S101 探索ベクトル演算ステップ
S101-S113 基準レイアップパス設定ステップ
S102 垂足演算ステップ
S120-S154 隣接レイアップパス設定ステップ
SS129 基準点探索ステップ
SS142 基準点接続ステップ
SV 探索ベクトル
t 厚さ
Te 終点
tp ナチュラルパス
TP レイアップパス
V(i) プリプレグテープの貼着方向
Δa 微小移動量
ΔLn 分割間隔
Δm 移動量

【特許請求の範囲】
【請求項1】
プリプレグテープの貼着経路を自動演算するプリプレグテープの経路計算方法であって、
テープの貼着面の三次元データを読み取る三次元データ読取ステップと、
記憶された三次元データに予定されているプリプレグテープの貼着方向に沿って基準レイアップパスを設定する基準レイアップパス設定ステップと、
前記基準レイアップパス設定ステップで設定された基準レイアップパスに基づいて当該基準レイアップパスに隣接する隣接レイアップパスを設定する隣接レイアップパス設定ステップと
を備え、各レイアップパス設定ステップは、
記憶された三次元データに与えられた任意の初期座標を始点として、プリプレグテープの貼着面に予定されているプリプレグテープの貼着方向に基づく微小大きさの探索ベクトルを演算する探索ベクトル演算ステップと、
演算された探索ベクトルの終点から前記貼着面に下ろした垂線の足を演算する垂足演算ステップと
を含み、所定の終了条件が成立するまで、前記垂線の足と前記探索ベクトルの基点とに基づいて新たな探索ベクトルを演算するとともに、この新たな探索ベクトルに基づき、前記垂線の足を次の演算の始点として前記探索ベクトル演算ステップを繰り返すナビゲーティングステップを備えている
ことを特徴とするプリプレグテープの経路計算方法。
【請求項2】
請求項1記載のプリプレグテープの経路計算方法において、
前記隣接レイアップパス設定ステップは、演算の基礎となるレイアップパスを基準ラインとし、この基準ライン上の複数の点を始点とし、各始点を演算したときの探索ベクトルと当該貼着面に対する単位法線ベクトルとの外積を新たな探索ベクトルとして前記ナビゲーティングステップを実行することにより、演算される隣接レイアップパスの演算基準となる基準点を探索する基準点探索ステップと、探索された基準点を繋いで隣接レイアップパスを演算する基準点接続ステップと、演算された隣接レイアップパスを次の演算の基礎となるレイアップパスとして、所定の終了条件が成立するまで、前記基準点探索ステップ及び基準点接続ステップを繰り返すものである
ことを特徴とするプリプレグテープの経路計算方法。
【請求項3】
請求項2記載のプリプレグテープの経路計算方法において、
前記隣接レイアップパス設定ステップは、前記基準レイアップパスを境に貼着面が二分されている場合には、その一方の面について隣接レイアップパスを演算した後、前記外積と逆向きのベクトルを新たな探索ベクトルとして、前記ナビゲーティングステップを前記基準レイアップパスから実行することにより、他方の面について隣接レイアップパスを演算する
ことを特徴とするプリプレグテープの経路計算方法。
【請求項4】
請求項2または3記載のプリプレグテープの経路計算方法において、
前記基準点接続ステップが、各基準点を接続して暫定レイアップパスを演算するものであり、
演算された暫定レイアップパスの端部が当該貼着面の境界に達していない場合には、当該暫定レイアップパスの端部の点を始点とし、且つ当該暫定レイアップパスの端部における進行方向ベクトルに基づいて探索ベクトルを演算し、前記ナビゲーティングステップを実行することにより、当該暫定レイアップパスの端部を当該貼着面の境界まで延長して隣接レイアップパスを完成するレイアップ延長ステップをさらに備えている
ことを特徴とするプリプレグテープの経路計算方法。
【請求項5】
請求項1から4の何れか1項に記載のプリプレグテープの経路計算方法において、
前記探索ベクトル演算ステップは、当該貼着面が稜線によって折れている場合に前記探索ベクトルの終点が前記稜線を超えたときは、当該稜線を挟んで探索済の面に隣接する面に対する垂線の足を演算し、この隣接する面に対する垂線の足が存在する場合には、その垂線の足を次の演算の基礎とし、隣接する面に対する垂線の足が存在しない場合には、稜線に対する垂線の足を演算して、次の演算の基礎とするものである
ことを特徴とするプリプレグテープの経路計算方法。
【請求項6】
請求項1から5の何れか1項に記載のプリプレグテープの経路計算方法において、
前記基準レイアップパス設定ステップは、前記貼着面にテープを積層する場合には、初期座標から求めた垂線の足を通る前記貼着面の法線に沿ってプリプレグテープの厚さ分のオフセット量を求め、その終点を次層の始点として基準レイアップパスを演算するものであり、
前記探索ベクトル演算ステップは、演算の基準となる点から当該貼着面に対する垂線の足を演算し、この垂線の足を通る前記貼着面の法線方向に沿って、テープの厚さ分をオフセットした点を次の演算の始点に設定するものである
ことを特徴とするプリプレグテープの経路計算方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【図26】
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【公開番号】特開2011−121281(P2011−121281A)
【公開日】平成23年6月23日(2011.6.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−280770(P2009−280770)
【出願日】平成21年12月10日(2009.12.10)
【出願人】(000191180)新日本工機株式会社 (51)
【Fターム(参考)】