説明

プリプレグ及び積層体

【課題】繊維状強化材への樹脂の含浸性に優れたプリプレグ、並びにピール強度及び耐クラック性に優れた積層体を提供すること。
【解決手段】シクロオレフィンモノマー及びメタセシス重合触媒を含む重合性組成物を、有機ポリマーを表面にグラフトしてなる繊維状強化材に含浸させた後、重合してなるプリプレグ、及び前記プリプレグを硬化してなる層を有する積層体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子機器の材料等として好適に用いられるプリプレグ及び積層体に関する。
【背景技術】
【0002】
近年の電子機器の小型化や通信の高速度化に伴い、電子回路基板にも小型化、多機能化が求められている。かかる回路基板は高周波領域で用いられることが多く、回路基板の絶縁層に用いられる材料は、高周波における伝送ロスを極限まで軽減するため、誘電正接が小さいことが求められている。
【0003】
回路基板は、通常、導体層となる銅箔と、絶縁層となる樹脂層とを積層し、これを加熱圧着して銅張積層板を得、次いで銅箔をエッチングするなどにより回路を形成して製造される。絶縁層を形成する樹脂としては、エポキシ樹脂が一般に使用されているが、誘電正接の小さい樹脂として、ポリフェニレンエーテル、ポリフェニレンオキサイド、ポリブタジエン、及びシクロオレフィンポリマーなどの低極性の樹脂が知られている。しかしながら、絶縁層の強度を高めるなどの観点から、それらの樹脂をガラスクロスなどの繊維状強化材に含浸させて用いた場合、樹脂と繊維状強化材との密着性が不充分になる場合があった。
【0004】
樹脂と繊維状強化材との密着性を高める方法としては、繊維状強化材の表面をシランカップリング剤で処理することが提案されている。例えば、特許文献1には、メタセシス活性を有するシラン化合物でガラスや金属の表面を処理し、かかるガラスや金属の表面上でシクロオレフィンポリマーを重合体として含む樹脂層を形成することが開示されている。また、特許文献2には、繊維状強化材の表面を、所定のシランカップリング剤含有水溶液で処理し、当該表面上に樹脂層を形成することが開示されている。
【0005】
また、前記回路基板の絶縁層の材料には、誘電正接が小さいことに加え、高誘電率であることが求められている。かかる材料として、樹脂中に高誘電率の充填剤を配合した高誘電樹脂材料が検討されている。かかる材料では、高誘電率を得るために充填剤を樹脂中に多量に配合する必要があり、回路基板の特性に影響を与えることなく、樹脂への充填剤の分散性を高める必要がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】国際公開第2000/046257号
【特許文献2】国際公開第2008/123253号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明者らは、前記特許文献に記載の技術を適用して、多量の充填剤を配合した樹脂を繊維状強化材に含浸してプリプレグを得、当該プリプレグにより基板を製造し、評価を行ったところ、プリプレグにおいて繊維状強化材への樹脂の含浸性が低下し、得られた基板ではピール強度及び耐クラック性が劣る場合があることが明らかになった。
本発明の目的は、繊維状強化材への樹脂の含浸性に優れたプリプレグ、並びにピール強度及び耐クラック性に優れた積層体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、シクロオレフィンモノマー及びメタセシス重合触媒を含む重合性組成物を、有機ポリマーを表面にグラフトしてなる繊維状強化材に含浸させ、重合して得られたプリプレグでは、該組成物に多量の充填剤を配合した場合であっても繊維状強化材への樹脂の含浸性が優れており、かかるプリプレグによれば、所望の積層体が得られることを見出した。本発明者は、かかる知見に基いて本発明を完成させるに至った。
【0009】
すなわち、本発明によれば、
〔1〕シクロオレフィンモノマー及びメタセシス重合触媒を含む重合性組成物を、有機ポリマーを表面にグラフトしてなる繊維状強化材に含浸させた後、重合してなるプリプレグ、
〔2〕有機ポリマーがシクロオレフィンポリマーである前記〔1〕記載のプリプレグ、
〔3〕シクロオレフィンポリマーが架橋性炭素−炭素不飽和結合を有するものである前記〔2〕記載のプリプレグ、
〔4〕シクロオレフィンポリマーが、繊維状強化材表面にルテニウムカルベン錯体を結合し、該錯体の重合触媒活性によりシクロオレフィンモノマーをグラフト重合してなるものである前記〔2〕又は〔3〕記載のプリプレグ、
〔5〕重合性組成物が、有機ポリマーを表面にグラフトしてなる充填剤を更に含むものである前記〔1〕〜〔4〕いずれか記載のプリプレグ、並びに
〔6〕前記〔1〕〜〔5〕いずれかに記載のプリプレグを硬化してなる層を有する積層体、
が提供される。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、繊維状強化材への樹脂の含浸性に優れたプリプレグ、並びにピール強度及び耐クラック性に優れた積層体を提供することができる。本発明の積層体は、特に、高誘電性の多層回路基板の製造に好適に用いることができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
1.プリプレグ
本発明のプリプレグは、シクロオレフィンモノマー及びメタセシス重合触媒を含む重合性組成物を、有機ポリマーを表面にグラフトしてなる繊維状強化材に含浸させた後、重合してなる。
【0012】
(シクロオレフィンモノマー)
本発明に用いるシクロオレフィンモノマーとは、炭素原子で形成される脂環構造を有し、かつ該脂環構造中に重合性の炭素−炭素二重結合を有する化合物である。本明細書において「重合性の炭素−炭素二重結合」とは、連鎖重合(メタセシス開環重合)に関与する炭素−炭素二重結合をいう。
【0013】
シクロオレフィンモノマーの脂環構造としては、単環、多環、縮合多環、橋かけ環及びこれらの組み合わせ多環などが挙げられる。本発明に用いるシクロオレフィンモノマーとしては、得られる積層体の機械的強度を向上させる観点から、多環のシクロオレフィンモノマーが好ましい。各環構造を構成する炭素原子数に特に限定はないが、通常、4〜30個、好ましくは5〜20個、より好ましくは5〜15個である。シクロオレフィンモノマーは、アルキル基、アルケニル基、アルキリデン基、及びアリール基などの炭素数1〜30の炭化水素基や、カルボキシル基や酸無水物基などの極性基を置換基として有していてもよい。
【0014】
本発明において、前記シクロオレフィンモノマーとしては、得られる積層体の機械的強度を向上させる観点から、架橋性炭素−炭素不飽和結合を少なくとも1つ有するものが好適に用いられる。本明細書において「架橋性炭素−炭素不飽和結合」とは、メタセシス開環重合には関与せず、架橋反応に関与する炭素−炭素不飽和結合をいう。「架橋反応」とは橋架け構造を形成する反応をいう。また、「架橋反応」とは、通常、ラジカル架橋反応又はメタセシス架橋反応、特にラジカル架橋反応をいう。
【0015】
前記架橋性炭素−炭素不飽和結合としては、芳香族炭素−炭素不飽和結合を除く炭素−炭素不飽和結合、すなわち、脂肪族炭素−炭素二重結合又は三重結合が挙げられ、本発明においては、通常、脂肪族炭素−炭素二重結合をいう。架橋性炭素−炭素不飽和結合を有するシクロオレフィンモノマー中、該不飽和結合の位置は特に限定されるものではなく、炭素原子で形成される脂環構造内の他、該脂環構造以外の任意の位置、例えば、側鎖の末端や内部に存在していてもよい。例えば、前記脂肪族炭素−炭素二重結合は、ビニル基(CH=CH−)、ビニリデン基(CH=C<)、又はビニレン基(−CH=CH−)として存在し得、良好にラジカル架橋性を発揮することから、ビニル基及び/又はビニリデン基として存在するのが好ましく、ビニリデン基として存在するのがより好ましい。
【0016】
架橋性炭素−炭素不飽和結合を少なくとも1つ有するシクロオレフィンモノマーとしては、特に、架橋性炭素−炭素不飽和結合を少なくとも1つ有するノルボルネン系モノマーが好ましい。「ノルボルネン系モノマー」とは、ノルボルネン環構造を分子内に有するシクロオレフィンモノマーをいう。例えば、ノルボルネン類、ジシクロペンタジエン類、及びテトラシクロドデセン類などが挙げられる。
【0017】
架橋性炭素−炭素不飽和結合を少なくとも1つ有するシクロオレフィンモノマーとしては、例えば、3−ビニルシクロヘキセン、4−ビニルシクロヘキセン、1,3−シクロペンタジエン、1,3−シクロへキサジエン、1,4−シクロへキサジエン、5−エチル−1,3−シクロへキサジエン、1,3−シクロへプタジエン、1,3−シクロオクタジエンなどの単環シクロオレフィンモノマー;5−エチリデン−2−ノルボルネン、5−メチリデン−2−ノルボルネン、5−イソプロピリデン−2−ノルボルネン、5−ビニルノルボルネン、5−アリルノルボルネン、5,6−ジエチリデン−2−ノルボルネン、ジシクロペンタジエン、2,5−ノルボルナジエンなどのノルボルネン系モノマー;を挙げることができる。これらの中では、架橋性炭素−炭素不飽和結合を少なくとも1つ有するノルボルネン系モノマーが好ましい。
【0018】
本発明においてシクロオレフィンモノマーとしては、前記架橋性炭素−炭素不飽和結合を少なくとも1つ有するシクロオレフィンモノマーの他、架橋性炭素−炭素不飽和結合を持たないシクロオレフィンモノマーが用いられる。
【0019】
架橋性炭素−炭素不飽和結合を持たないシクロオレフィンモノマーとしては、例えば、シクロペンテン、3−メチルシクロペンテン、4−メチルシクロペンテン、3,4−ジメチルシクロペンテン、3,5−ジメチルシクロペンテン、3−クロロシクロペンテン、シクロへキセン、3−メチルシクロへキセン、4−メチルシクロヘキセン、3,4−ジメチルシクロヘキセン、3−クロロシクロヘキセン、シクロへプテンなどの単環シクロオレフィンモノマー;ノルボルネン、5−メチルノルボルネン、5−エチルノルボルネン、5−プロピルノルボルネン、5,6−ジメチルノルボルネン、1−メチルノルボルネン、7−メチルノルボルネン、5,5,6−トリメチルノルボルネン、5−フェニルノルボルネン、テトラシクロドデセン、1,4,5,8−ジメタノ−1,2,3,4,4a,5,8,8a−オクタヒドロナフタレン、2−メチル−1,4,5,8−ジメタノ−1,2,3,4,4a,5,8,8a−オクタヒドロナフタレン、2−エチル−1,4,5,8−ジメタノ−1,2,3,4,4a,5,8,8a−オクタヒドロナフタレン、2,3−ジメチル−1,4,5,8−ジメタノ−1,2,3,4,4a,5,8,8a−オクタヒドロナフタレン、2−ヘキシル−1,4,5,8−ジメタノ−1,2,3,4,4a,5,8,8a−オクタヒドロナフタレン、2−エチリデン−1,4,5,8−ジメタノ−1,2,3,4,4a,5,8,8a−オクタヒドロナフタレン、2−フルオロ−1,4,5,8−ジメタノ−1,2,3,4,4a,5,8,8a−オクタヒドロナフタレン、1,5−ジメチル−1,4,5,8−ジメタノ−1,2,3,4,4a,5,8,8a−オクタヒドロナフタレン、2−シクロへキシル−1,4,5,8−ジメタノ−1,2,3,4,4a,5,8,8a−オクタヒドロナフタレン、2,3−ジクロロ−1,4,5,8−ジメタノ−1,2,3,4,4a,5,8,8a−オクタヒドロナフタレン、2−イソブチル−1,4,5,8−ジメタノ−1,2,3,4,4a,5,8,8a−オクタヒドロナフタレン、1,2−ジヒドロジシクロペンタジエン、5−クロロノルボルネン、5,5−ジクロロノルボルネン、5−フルオロノルボルネン、5,5,6−トリフルオロ−6−トリフルオロメチルノルボルネン、5−クロロメチルノルボルネン、5−メトキシノルボルネン、5,6−ジカルボキシルノルボルネンアンハイドレート、5−ジメチルアミノノルボルネン、5−シアノノルボルネンなどのノルボルネン系モノマー;を挙げることができる。これらの中でも、架橋性炭素−炭素不飽和結合を持たないノルボルネン系モノマーが好ましい。
【0020】
以上のシクロオレフィンモノマーは、それぞれ単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。例えば、シクロオレフィンモノマーとして、架橋性炭素−炭素不飽和結合を少なくとも1つ有するシクロオレフィンモノマーと架橋性炭素−炭素不飽和結合を持たないシクロオレフィンモノマーとの混合物が用いられる。
【0021】
重合性組成物に用いるシクロオレフィンモノマー中、架橋性炭素−炭素不飽和結合を少なくとも1つ有するシクロオレフィンモノマーと架橋性炭素−炭素不飽和結合を持たないシクロオレフィンモノマーとの配合割合は所望により適宜選択すればよいが、重量比(架橋性炭素−炭素不飽和結合を少なくとも1つ有するシクロオレフィンモノマー/架橋性炭素−炭素不飽和結合を持たないシクロオレフィンモノマー)で、通常、5/95〜100/0、好ましくは10/90〜95/10、より好ましくは15/85〜90/15の範囲である。当該配合割合がかかる範囲にあれば、得られる架橋樹脂成形体及び積層体において耐熱性や機械的強度がバランス良く向上し、好適である。
【0022】
なお、本発明に用いる重合性組成物には、本発明の効果の発現が阻害されない限り、以上のシクロオレフィンモノマーと共重合可能な任意のモノマーが含まれていてもよい。
【0023】
(メタセシス重合触媒)
本発明に用いるメタセシス重合触媒は、前記シクロオレフィンモノマーをメタセシス開環重合可能なものであれば、特に限定されない。
メタセシス重合触媒としては、遷移金属原子を中心にして、複数のイオン、原子、多原子イオン及び/又は化合物が結合してなる錯体が挙げられる。遷移金属原子としては、5族、6族及び8族(長周期型周期表、以下同じ。)の原子が使用される。それぞれの族の原子は特に限定されないが、5族の原子としては、好ましくはタンタルが挙げられ、6族の原子としては、好ましくは、モリブデン及びタングステンが挙げられ、8族の原子としては、好ましくは、ルテニウム及びオスミウムが挙げられる。
【0024】
これらの中でも、8族のルテニウムやオスミウムの錯体が好ましく、ルテニウムカルベン錯体が特に好ましい。ルテニウムカルベン錯体は、塊状重合時の触媒活性に優れるため、残留未反応モノマーに由来する臭気が少ないプリプレグを効率的に生産することができる。また、8族のルテニウムやオスミウムの錯体は、酸素や空気中の水分に対して比較的安定であって、失活しにくいので、大気下でもプリプレグの生産が可能である。
【0025】
ルテニウムカルベン錯体の具体例としては、以下の式(1)又は式(2)で表される錯体が挙げられる。
【0026】
【化1】

【0027】
式(1)及び(2)において、R及びRは、それぞれ独立して水素原子、ハロゲン原子、又はハロゲン原子、酸素原子、窒素原子、硫黄原子、リン原子若しくは珪素原子を含んでもよい、環状又は鎖状の、炭素数1〜20の炭化水素基を表す。X及びXは、それぞれ独立して任意のアニオン性配位子を示す。L及びLはそれぞれ独立して、ヘテロ原子含有カルベン化合物又はヘテロ原子含有カルベン化合物以外の中性電子供与性化合物を表す。また、RとRは互いに結合して、ヘテロ原子を含んでいてもよい、脂肪族環又は芳香族環を形成してもよい。さらに、R、R、X、X、L及びLは、任意の組合せで互いに結合して多座キレート化配位子を形成してもよい。
【0028】
ヘテロ原子とは、周期表15族及び16族の原子をいう。ヘテロ原子の具体例としては、窒素原子、酸素原子、リン原子、硫黄原子、砒素原子、及びセレン原子などが挙げられる。これらの中でも、安定なカルベン化合物が得られる観点から、窒素原子、酸素原子、リン原子、及び硫黄原子が好ましく、窒素原子が特に好ましい。
【0029】
ヘテロ原子含有カルベン化合物は、カルベン炭素原子の両側にヘテロ原子が隣接して結合した構造を有するものが好ましく、さらにカルベン炭素原子とその両側のヘテロ原子とを含んでヘテロ環が形成された構造を有するものがより好ましい。また、カルベン炭素原子に隣接するヘテロ原子に嵩高い置換基を有するものが好ましい。
【0030】
ヘテロ原子含有カルベン化合物としては、以下の式(3)又は式(4)で示される化合物が挙げられる。
【0031】
【化2】

【0032】
式(3)又は式(4)において、R〜Rは、それぞれ独立して水素原子;ハロゲン原子;又はハロゲン原子、酸素原子、窒素原子、硫黄原子、リン原子若しくは珪素原子を含んでもよい、環状又は鎖状の、炭素数1〜20個の炭化水素基を表す。また、R〜Rは任意の組合せで互いに結合して環を形成していてもよい。
【0033】
前記式(3)又は式(4)で表される化合物の具体例としては、1,3−ジメシチルイミダゾリジン−2−イリデン、1,3−ジ(1−アダマンチル)イミダゾリジン−2−イリデン、1−シクロヘキシル−3−メシチルイミダゾリジン−2−イリデン、1,3−ジメシチルオクタヒドロベンズイミダゾール−2−イリデン、1,3−ジイソプロピル−4−イミダゾリン−2−イリデン、1,3−ジ(1−フェニルエチル)−4−イミダゾリン−2−イリデン、1,3−ジメシチル−2,3−ジヒドロベンズイミダゾール−2−イリデンなどが挙げられる。
【0034】
また、前記式(3)又は式(4)で示される化合物のほかに、1,3,4−トリフェニル−2,3,4,5−テトラヒドロ−1H−1,2,4−トリアゾール−5−イリデン、1,3−ジシクロヘキシルヘキサヒドロピリミジン−2−イリデン、N,N,N’,N’−テトライソプロピルホルムアミジニリデン、1,3,4−トリフェニル−4,5−ジヒドロ−1H−1,2,4−トリアゾール−5−イリデン、3−(2,6−ジイソプロピルフェニル)−2,3−ジヒドロチアゾール−2−イリデンなどのヘテロ原子含有カルベン化合物も用い得る。
【0035】
前記式(1)及び式(2)において、アニオン(陰イオン)性配位子XとXは、中心金属原子から引き離されたときに負の電荷を持つ配位子であり、例えば、弗素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子などのハロゲン原子、ジケトネート基、置換シクロペンタジエニル基、アルコキシ基、アリールオキシ基、カルボキシル基などを挙げることができる。これらの中でもハロゲン原子が好ましく、塩素原子がより好ましい。
【0036】
また、中性電子供与性化合物は、中心金属から引き離されたときに中性の電荷を持つ配位子であればいかなるものでもよい。その具体例としては、カルボニル類、アミン類、ピリジン類、エーテル類、ニトリル類、エステル類、ホスフィン類、チオエーテル類、芳香族化合物、オレフィン類、イソシアニド類、及びチオシアネート類などが挙げられる。これらの中でも、ホスフィン類、エーテル類及びピリジン類が好ましく、トリアルキルホスフィンがより好ましい。
【0037】
前記式(1)で表される錯体化合物としては、ベンジリデン(1,3−ジメシチル−4−イミダゾリジン−2−イリデン)(トリシクロヘキシルホスフィン)ルテニウムジクロリド、ベンジリデン(1,3−ジメシチル−4,5−ジブロモ−4−イミダゾリン−2−イリデン)(トリシクロヘキシルホスフィン)ルテニウムジクロリド、(1,3−ジメシチル−4−イミダゾリン−2−イリデン)(3−フェニル−1H−インデン−1−イリデン)(トリシクロヘキシルホスフィン)ルテニウムジクロリド、(1,3−ジメシチル−4−イミダゾリジン−2−イリデン)(3−メチル−2−ブテン−1−イリデン)(トリシクロペンチルホスフィン)ルテニウムジクロリド、ベンジリデン(1,3−ジメシチル−オクタヒドロベンズイミダゾール−2−イリデン)(トリシクロヘキシルホスフィン)ルテニウムジクロリド、ベンジリデン[1,3−ジ(1−フェニルエチル)−4−イミダゾリン−2−イリデン](トリシクロヘキシルホスフィン)ルテニウムジクロリド、ベンジリデン(1,3−ジメシチル−2,3−ジヒドロベンズイミダゾール−2−イリデン)(トリシクロヘキシルホスフィン)ルテニウムジクロリド、ベンジリデン(トリシクロヘキシルホスフィン)(1,3,4−トリフェニル−2,3,4,5−テトラヒドロ−1H−1,2,4−トリアゾール−5−イリデン)ルテニウムジクロリド、(1,3−ジイソプロピルヘキサヒドロピリミジン−2−イリデン)(エトキシメチレン)(トリシクロヘキシルホスフィン)ルテニウムジクロリド、ベンジリデン(1,3−ジメシチル−4−イミダゾリジン−2−イリデン)ピリジンルテニウムジクロリド、(1,3−ジメシチル−4−イミダゾリジン−2−イリデン)(2−フェニルエチリデン)(トリシクロヘキシルホスフィン)ルテニウムジクロリド、(1,3−ジメシチル−4−イミダゾリン−2−イリデン)(2−フェニルエチリデン)(トリシクロヘキシルホスフィン)ルテニウムジクロリド、(1,3−ジメシチル−4,5−ジブロモ−4−イミダゾリン−2−イリデン)[(フェニルチオ)メチレン](トリシクロヘキシルホスフィン)ルテニウムジクロリド、(1,3−ジメシチル−4,5−ジブロモ−4−イミダゾリン−2−イリデン)(2−ピロリドン−1−イルメチレン)(トリシクロヘキシルホスフィン)ルテニウムジクロリドなどの、ヘテロ原子含有カルベン化合物及びヘテロ原子含有カルベン化合物以外の中性電子供与性化合物が各々1つ結合したルテニウム錯体化合物;
【0038】
ベンジリデンビス(トリシクロヘキシルホスフィン)ルテニウムジクロリド、(3−メチル−2−ブテン−1−イリデン)ビス(トリシクロペンチルホスフィン)ルテニウムジクロリドなどの、ヘテロ原子含有カルベン化合物以外の2つの中性電子供与性化合物が結合したルテニウム錯体化合物;
【0039】
ベンジリデンビス(1,3−ジシクロヘキシル−4−イミダゾリジン−2−イリデン)ルテニウムジクロリド、ベンジリデンビス(1,3−ジイソプロピル−4−イミダゾリン−2−イリデン)ルテニウムジクロリドなどの、2つのヘテロ原子含有カルベン化合物が結合したルテニウム錯体化合物;などが挙げられる。
【0040】
前記式(2)で表される錯体化合物としては、(1,3−ジメシチル−4−イミダゾリジン−2−イリデン)(フェニルビニリデン)(トリシクロヘキシルホスフィン)ルテニウムジクロリド、(t−ブチルビニリデン)(1,3−ジイソプロピル−4−イミダゾリン−2−イリデン)(トリシクロペンチルホスフィン)ルテニウムジクロリド、ビス(1,3−ジシクロヘキシル−4−イミダゾリン−2−イリデン)フェニルビニリデンルテニウムジクロリドなどが挙げられる。
【0041】
これらの錯体化合物の中でも、前記式(1)で表され、かつ配位子として前記式(4)で表される化合物を1つ有するものが最も好ましい。
【0042】
メタセシス重合触媒の使用量は、(触媒中の金属原子:シクロオレフィンモノマー)のモル比で、通常、1:2,000〜1:2,000,000、好ましくは1:5,000〜1:1,000,000、より好ましくは1:10,000〜1:500,000の範囲である。
【0043】
メタセシス重合触媒は所望により、少量の不活性溶剤に溶解又は懸濁して使用することができる。かかる溶剤としては、n−ペンタン、n−ヘキサン、n−ヘプタン、流動パラフィン、ミネラルスピリットなどの鎖状脂肪族炭化水素;シクロペンタン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、ジメチルシクロヘキサン、トリメチルシクロヘキサン、エチルシクロヘキサン、ジエチルシクロヘキサン、デカヒドロナフタレン、ジシクロヘプタン、トリシクロデカン、ヘキサヒドロインデン、シクロオクタンなどの脂環式炭化水素;ベンゼン、トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素;ニトロメタン、ニトロベンゼン、アセトニトリルなどの含窒素炭化水素;ジエチルエーテル、テトラヒドロフランなどの含酸素炭化水素;などが挙げられる。これらの中では、工業的に汎用な芳香族炭化水素や脂肪族炭化水素、脂環式炭化水素の使用が好ましい。また、メタセシス重合触媒としての活性を低下させないものであれば、液状の老化防止剤、液状の可塑剤、液状のエラストマーを溶剤として用いてもよい。
【0044】
メタセシス重合触媒は、重合活性を制御し、重合反応率を向上させる目的で活性剤(共触媒)と併用することもできる。
【0045】
活性剤としては、アルミニウム、スカンジウム、スズの、アルキル化物、ハロゲン化物、アルコキシ化物及びアリールオキシ化物などを用いることができる。その具体例としては、トリアルコキシアルミニウム、トリフェノキシアルミニウム、ジアルコキシアルキルアルミニウム、アルコキシジアルキルアルミニウム、トリアルキルアルミニウム、ジアルコキシアルミニウムクロリド、アルコキシアルキルアルミニウムクロリド、ジアルキルアルミニウムクロリド、トリアルコキシスカンジウム、テトラアルコキシチタン、テトラアルコキシスズ、テトラアルコキシジルコニウムなどが挙げられる。
【0046】
活性剤の使用量は、(触媒中の金属原子:活性剤)のモル比で、通常、1:0.05〜1:100、好ましくは1:0.2〜1:20、より好ましくは1:0.5〜1:10の範囲である。
【0047】
また、メタセシス重合触媒として、5族及び6族の遷移金属原子の錯体を用いる場合には、メタセシス重合触媒及び活性剤は、いずれもモノマーに溶解して用いるのが好ましいが、生成物の性質を本質的に損なわない範囲であれば少量の溶剤に懸濁又は溶解させて用いることができる。
【0048】
(重合性組成物)
本発明に用いる重合性組成物は、上記シクロオレフィンモノマー及びメタセシス重合触媒を必須成分として、所望により、充填剤、重合調整剤、重合反応遅延剤、連鎖移動剤、架橋剤、反応性流動化剤、架橋助剤、難燃剤、酸化防止剤、及び着色料等のその他の配合剤を含んでなる。
【0049】
本発明で用いられる充填剤に特に限定はなく、有機物であっても無機物であってもよく、得られるプリプレグの用途に応じて適宜選択すればよい。充填剤の形状も特に限定されず、球状、粒状、不定形状、樹枝状、針状、棒状、及び扁平状等のいかなる形状であってもよい。また、充填剤の平均粒子径も特に限定されないが、レーザー散乱回折式粒度分布計で測定した全粒子の50体積%が含まれるメディアン径で、通常、0.001〜70μm、好ましくは0.01〜50μm、より好ましくは0.05〜15μm、最も好ましくは、0.1〜5μmである。
【0050】
充填剤としては、より高誘電率の積層体を得る観点から、無機物であるのが好ましい。無機物からなる充填剤としては、鉄、銅、ニッケル、金、銀、アルミニウム、鉛、及びタングステン等の金属;カーボンブラック、グラファイト、活性炭、及び炭素バルーン等の炭素;ガラス、シリカ、及びシリカバルーン等の非金属の酸化物;アルミナ、酸化チタン、酸化鉄、酸化亜鉛、酸化マグネシウム、酸化すず、酸化アンチモン、酸化ベリリウム、酸化タングステン、バリウムフェライト、ストロンチウムフェライト、BaTiO、BaPbO、MgTiO、CaTiO、SrTiO、NaNbO、KNbO、NaTaO、KTaO、LiTaO、LiNbO、及びロッシェル塩等の、複合酸化物であってもよい金属酸化物;水酸化アルミニウムや水酸化マグネシウム等の金属水酸化物;炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、及び炭酸水素ナトリウム等の炭酸塩;硫酸カルシウム等の硫酸塩;タルク、クレー、マイカ、カオリン、フライアッシュ、モンモリロナイト、ケイ酸カルシウム、ガラス、及びガラスバルーン等のケイ酸塩;チタン酸カルシウムやチタン酸ジルコン酸鉛等のチタン酸塩;窒化アルミニウム;炭化ケイ素;ウィスカー;等が挙げられる。中でも、絶縁体であることから、金属酸化物が好ましい。
【0051】
金属酸化物としては、ペロブスカイト構造を有するものが高い誘電率を示すので好ましい。ペロブスカイト構造を有する金属酸化物は、一般に式ABXで表される構造を有しており、Aサイトの陽イオンとXサイトの陰イオン(O2−)とが同程度の大きさを有し、AサイトとXサイトとから構成される立方晶系単位格子の中にAサイトのものよりも小さなサイズの陽イオンがBサイトに位置するものである。上式において、A及びBは互いに異なる金属イオンを表し、AとBの価数の合計は6である。具体的には、BaTiO、CaTiO、SrTiO、PbTiO、PbZrO、及びBaMnOなどのA2+4+で表されるもの;KNbO、KTaO、NaNbO、及びNaTaOなどのA5+で表されるもの;BiFeO、BiAlO、YFeO、GdFeO、及びLaAlOなどのA3+3+で表されるもの;が挙げられる。
【0052】
ペロブスカイト構造を有する金属酸化物の中でも、複合ペロブスカイト型化合物が特に好ましい。複合ペロブスカイト型化合物は、上式において、A及び/又はBとして複数の金属原子のイオンを有するものである。具体的には、A2+(B2+1/35+2/3)O、A2+(B3+1/25+1/2)O、A2+(B2+1/26+1/2)O、A2+(B3+2/36+1/3)O、A2+(B1/45+3/4)O、(A1/23+1/2)B4+、A3+(B2+1/24+1/2)O、及び(A1/23+1/2)(B2+1/35+2/3)Oなどの組成を有するものが例示される。これらの式において、例えば、Aとしては、Li、Na、K、及びAgが;A2+としては、Pb2+、Ba2+、Sr2+、及びCa2+が;A3+としては、Bi3+、La3+、Ce3+、及びNd3+が;Bとしては、Li、及びCuが;B2+としては、Mg2+、Ni2+、Zn2+、Co2+、Sn2+、Fe2+、Cd2+、Cu2+、及びCr2+が;B3+としては、Mn3+、Sb3+、Al3+、Yb3+、In3+、Fe3+、Co3+、Sc3+、Y3+、及びSn3+が;B4+としては、Ti4+、及びZr4+が;B5+としては、Nb5+、Sb5+、Ta5+、及びBi5+が;B6+としては、W6+、Te6+、及びRe6+が;挙げられる。かかる複合ペロブスカイト型化合物の具体例としては、Pb(Ni1/3Nb2/3)O、Ba(Ni1/3Nb2/3)O、Pb(Sc1/2Nb2/3)O、(Li1/2Bi1/2)TiO、(Na1/2Bi1/2)TiO、(K1/2Bi1/2)TiO、(Ag1/2Bi1/2)TiO、Bi(Mg1/2Ti1/2)O、Bi(Zn1/2Ti1/2)O、及びBi(Ni1/2Ti1/2)O、(Na1/2Bi1/2)(Mg1/3Nb2/3)Oなどが挙げられる。複合ペロブスカイト型化合物を用いることで、得られる積層体を、誘電率の温度特性が安定で、かつ誘電正接が小さなものとすることができる。
【0053】
有機物としては、木粉、デンプン、有機顔料、ポリスチレン、ナイロン、ポリエチレンやポリプロピレンなどのポリオレフィン、カーボンナノチューブ、塩化ビニル、各種エラストマー、及び廃プラスチック等が挙げられる。
【0054】
また、充填剤としては、上記の無機物及び有機物の他、チョップド(chopped)ストランドやミルドファイバー等の短繊維長繊維を用いることもできる。繊維の種類としては、ガラス繊維、カーボン繊維、及び金属繊維等の無機繊維や;アラミド繊維、ナイロン繊維、ジュート繊維、ケナフ繊維、竹繊維、ポリエチレン繊維、延伸ポリエチレン繊維、ポリプロピレン繊維、及び延伸ポリプロピレン繊維等の有機繊維が挙げられる。
【0055】
さらに、充填剤として難燃剤を用いてもよい。例えば、金属水酸化物などの無機物からなる難燃剤や、含リン化合物、含ハロゲン化合物、及び含窒素化合物などの有機物からなる難燃剤が挙げられる。中でも、環境負荷低減という観点から、金属水酸化物からなる難燃剤が好ましい。金属水酸化物からなる難燃剤としては、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、塩基性酸化マグネシウム、及びドーソナイト等が挙げられる。
【0056】
また、充填剤としては、重合性組成物に多量に添加しても充分に分散し、該組成物が低粘度なものとなり、樹脂の含浸性に優れたプリプレグが効率的に得られることから、有機ポリマーを表面にグラフトしてなる充填剤を用いるのが好ましい。充填剤表面への有機ポリマーのグラフトは、後述する、繊維状強化材の表面に有機ポリマーをグラフトする方法に準じ、繊維状強化材を上記充填剤に換えて行えばよい。なお、充填剤表面への有機ポリマーのグラフトは、少なくとも充填剤表面の一部に行われていればよいが、充填剤の分散性を高める観点から、実質的に充填剤表面の全体に行われているのが好ましい。
【0057】
充填剤の含有量は、シクロオレフィンモノマー100重量部に対して、通常、200〜600重量部、好ましくは250〜550重量部、より好ましくは300〜500重量部である。充填剤の含有量がかかる範囲にあれば、重合性組成物中における分散性が優れ、繊維状強化材への含浸性が良好となる観点から、好ましい。
【0058】
重合調整剤は、重合活性を制御したり、重合反応率を向上させたりする目的で配合される。その具体例としては、トリアルコキシアルミニウム、トリフェノキシアルミニウム、ジアルコキシアルキルアルミニウム、アルコキシジアルキルアルミニウム、トリアルキルアルミニウム、ジアルコキシアルミニウムクロリド、アルコキシアルキルアルミニウムクロリド、ジアルキルアルミニウムクロリド、トリアルコキシスカンジウム、テトラアルコキシチタン、テトラアルコキシスズ、及びテトラアルコキシジルコニウムなどが挙げられる。これらの重合調整剤は、それぞれ単独で、又は2種以上を組み合わせて用いてもよい。重合調整剤の使用量は、(触媒中の金属原子:重合調整剤)のモル比で、通常、1:0.05〜1:100、好ましくは1:0.2〜1:20、より好ましくは1:0.5〜1:10の範囲である。
【0059】
本発明に用いる重合性組成物は、重合反応遅延剤を含有していると、その粘度増加が抑制され、好ましい。重合反応遅延剤としては、トリフェニルホスフィン、トリブチルホスフィン、トリメチルホスフィン、トリエチルホスフィン、ジシクロヘキシルホスフィン、ビニルジフェニルホスフィン、アリルジフェニルホスフィン、トリアリルホスフィン、スチリルジフェニルホスフィンなどのホスフィン化合物;アニリン、ピリジンなどのルイス塩基;等を用いることができる。
【0060】
重合性組成物に連鎖移動剤を配合した場合、該組成物を重合して得られるプリプレグの表面では、加熱溶融時に樹脂の追従性がより向上し得る。それゆえ、当該プリプレグを積層し、加熱して溶融、架橋して得られる積層体では、層間の密着性が一層高まり、ピール強度がより向上するので、好ましい。
【0061】
連鎖移動剤は、前記脂肪族炭素−炭素二重結合を含有する基(以下、脂肪族炭素−炭素二重結合基という。)をさらに1以上有していてもよい。かかる脂肪族炭素−炭素二重結合基としては、ビニル基及び/又はビニリデン基が好ましい。連鎖移動剤の具体例としては、1−ヘキセン、2−ヘキセン、スチレン、ビニルシクロヘキサン、アリルアミン、アクリル酸グリシジル、アリルグリシジルエーテル、エチルビニルエーテル、メチルビニルケトン、2−(ジエチルアミノ)エチルアクリレート、及び4−ビニルアニリンなどの、脂肪族炭素−炭素二重結合基を持たない連鎖移動剤;ジビニルベンゼン、メタクリル酸ビニル、メタクリル酸ヘキセニル、メタクリル酸アリル、メタクリル酸スチリル、アクリル酸アリル、メタクリル酸ウンデセニル、アクリル酸スチリル、及びエチレングリコールジアクリレートなどの、脂肪族炭素−炭素二重結合基を1つ有する連鎖移動剤;アリルトリビニルシランやアリルメチルジビニルシランなどの、脂肪族炭素−炭素二重結合基を2以上有する連鎖移動剤などが挙げられる。得られる積層体の機械的強度を向上させる観点から、脂肪族炭素−炭素二重結合基を1以上有するものが好ましく、脂肪族炭素−炭素二重結合基を1つ有するものがより好ましい。かかる連鎖移動剤の中でも、ビニル基とメタクリル基とを1つずつ有する連鎖移動剤が好ましく、メタクリル酸ビニル、メタクリル酸ヘキセニル、メタクリル酸アリル、メタクリル酸スチリル、及びメタクリル酸ウンデセニルなどが特に好ましい。
これらの連鎖移動剤は、それぞれ単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。連鎖移動剤の使用量としては、シクロオレフィンモノマー100重量部に対して、通常、0.01〜10重量部、好ましくは0.1〜5重量部である。
【0062】
本発明に用いる重合性組成物には、該組成物を重合して得られる重合体を効率的に後架橋可能な熱可塑性樹脂とする観点から、架橋剤を含有させてもよい。ここで「後架橋可能な」とは、該樹脂を加熱することにより架橋反応を進行させて架橋樹脂になし得ることを意味する。本発明のプリプレグにおいて前記重合体は基材樹脂をなす。かかるプリプレグを加熱すると、基材樹脂(シクロオレフィンポリマー)は溶融するが、高粘度であるため、その形状は保持する一方、任意の部材を接触させた場合、プリプレグ表面では、該部材の形状に対し樹脂が追従性を発揮し、最終的に架橋して硬化する。本発明のプリプレグのかかる特性は、プリプレグを積層し、加熱して溶融、架橋して得られる積層体においてピール強度の向上に寄与するものと考えられる。
【0063】
架橋剤としては、通常、ラジカル発生剤が好適に用いられる。ラジカル発生剤としては、有機過酸化物、ジアゾ化合物、及び非極性ラジカル発生剤などが挙げられる。
【0064】
有機過酸化物としては、例えば、t−ブチルヒドロペルオキシド、p−メンタンヒドロペルオキシド、クメンヒドロペルオキシドなどのヒドロペルオキシド類;ジクミルペルオキシド、t−ブチルクミルペルオキシド、α,α’−ビス(t−ブチルペルオキシ−m−イソプロピル)ベンゼン、ジ−t−ブチルペルオキシド、2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルペルオキシ)−3−ヘキシン、2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルペルオキシ)ヘキサンなどのジアルキルペルオキシド類;ジプロピオニルペルオキシド、ベンゾイルペルオキシドなどのジアシルペルオキシド類;2,2−ジ(t−ブチルペルオキシ)ブタン、1,1−ジ(t−ヘキシルペルオキシ)シクロヘキサン、1,1−ジ(t−ブチルペルオキシ)−2−メチルシクロヘキサン、1,1−ジ(t−ブチルペルオキシ)シクロヘキサンなどのペルオキシケタール類;t−ブチルペルオキシアセテート、t−ブチルペルオキシベンゾエートなどのペルオキシエステル類;t−ブチルペルオキシイソプロピルカルボナート、ジ(イソプロピルペルオキシ)ジカルボナートなどのペルオキシカルボナート類;t−ブチルトリメチルシリルペルオキシドなどのアルキルシリルペルオキシド類;などが挙げられる。中でも、メタセシス重合反応に対する障害が少ない点で、ジアルキルペルオキシド類及びペルオキシケタール類が好ましい。
【0065】
ジアゾ化合物としては、例えば、4,4’−ビスアジドベンザル(4−メチル)シクロヘキサノン、4,4’−ジアジドカルコン、2,6−ビス(4’−アジドベンザル)シクロヘキサノン、2,6−ビス(4’−アジドベンザル)−4−メチルシクロヘキサノン、4,4’−ジアジドジフェニルスルホン、4,4’−ジアジドジフェニルメタン、2,2’−ジアジドスチルベンなどが挙げられる。
【0066】
非極性ラジカル発生剤としては、2,3−ジメチル−2,3−ジフェニルブタン、2,3−ジフェニルブタン、1,4−ジフェニルブタン、3,4−ジメチル−3,4−ジフェニルヘキサン、1,1,2,2−テトラフェニルエタン、2,2,3,3−テトラフェニルブタン、3,3,4,4−テトラフェニルヘキサン、1,1,2−トリフェニルプロパン、1,1,2−トリフェニルエタン、トリフェニルメタン、1,1,1−トリフェニルエタン、1,1,1−トリフェニルプロパン、1,1,1−トリフェニルブタン、1,1,1−トリフェニルペンタン、1,1,1−トリフェニル−2−プロペン、1,1,1−トリフェニル−4−ペンテン、1,1,1−トリフェニル−2−フェニルエタンなどが挙げられる。
【0067】
これらのラジカル発生剤は、1種単独で、又は2種以上を組み合わせて用いることができる。2種以上のラジカル発生剤を併用し、その量比を調整することで、プリプレグの基材樹脂のガラス転移温度や溶融状態を任意に制御することが可能である。ラジカル発生剤の1分間半減期温度としては、特に限定はないが、通常、150〜300℃、好ましくは180〜250℃の範囲である。ここで1分間半減期温度とは、ラジカル発生剤の半量が1分間で分解する温度である。ラジカル発生剤の1分間半減期温度は、例えば、各ラジカル発生剤メーカー(例えば、日本油脂株式会社)のカタログやホームページを参照すればよい。
【0068】
架橋剤の量は、シクロオレフィンモノマー100重量部に対して、通常、0.1〜10重量部、好ましくは0.5〜5重量部である。架橋剤の量がかかる範囲にあれば、プリプレグの硬化物が充分な架橋密度を有し、所望の物性を有する積層体が効率的に得られるので、好適である。
【0069】
本発明に用いる重合性組成物を重合して得られる重合体は、通常、後架橋可能な熱可塑性樹脂となる。本発明において反応性流動化剤として使用される化合物は、かかる重合体中において、流動化剤として重合体のガラス転移温度(Tg)を低下させ、かつ架橋剤により架橋反応が誘起された後においては当該反応に関与して重合体に結合反応性を有する化合物をいう。例えば、反応性流動化剤を含む前記重合体がプリプレグの基材樹脂である場合、当該プリプレグを金属材料層などと積層する際、当該プリプレグを加熱することで容易に溶融積層することができ、しかも得られる積層体においては充分な層間密着性が得られる。さらに、反応性流動化剤は、積層する際の加熱で架橋剤により誘起される架橋反応に関与して重合体に結合し得るため、当該加熱以後は、重合体中で実質的に遊離の状態で存在することはなく、従って、いわゆる可塑剤のように、得られる積層体の耐熱性を低下させる因子となることもない。むしろ、得られる積層体において耐熱性や耐クラック性を高める効果を奏し得る。
【0070】
本発明に使用される反応性流動化剤としては、シクロオレフィンモノマー中の重合性の炭素−炭素二重結合や、ビニル基などの、開環重合反応に関与し得る脂肪族炭素−炭素不飽和結合を持たず、かつ架橋剤により誘起される架橋反応に関与して重合体に結合し得る脂肪族炭素−炭素不飽和結合や有機基を1つ有する単官能化合物、中でも、重合性の脂肪族炭素−炭素不飽和結合を持たず、かつ架橋性の脂肪族炭素−炭素不飽和結合を1つ有する単官能化合物が好ましい。架橋剤により誘起される架橋反応に関与して重合体に結合し得る、架橋性の脂肪族炭素−炭素不飽和結合としては、反応性流動化剤を構成する化合物中、例えば、末端ビニリデン基として、特に、イソプロペニル基やメタクリル基として存在するのが好ましく、メタクリル基として存在するのがより好ましい。前記有機基としては、エポキシ基、イソシアネート基、及びスルホ基などが挙げられる。
【0071】
かかる反応性流動化剤としては、例えば、ラウリルメタクリレート、ベンジルメタクリレート、テトラヒドロフルフリルメタクリレート、及びメトキシジエチレングリコールメタクリレートなどの、メタクリル基を1つ有する単官能化合物;イソプロペニルベンゼンなどの、イソプロペニル基を1つ有する単官能化合物;などが挙げられ、好ましくはメタクリル基を1つ有する単官能化合物である。これらの反応性流動化剤は、それぞれ単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。反応性流動化剤の配合量は、所望により適宜選択すればよいが、シクロオレフィンモノマー100重量部に対し、通常、0.1〜100重量部、好ましくは0.5〜50重量部、より好ましくは1〜30重量部である。
【0072】
本発明に使用される架橋助剤は、開環重合に関与せず、架橋剤により誘起される架橋反応に関与可能な架橋性炭素−炭素不飽和結合を2以上有する化合物が好ましい。かかる架橋性炭素−炭素不飽和結合は、架橋助剤を構成する化合物中、例えば、末端ビニリデン基として、特に、イソプロペニル基やメタクリル基として存在するのが好ましく、メタクリル基として存在するのがより好ましい。
【0073】
架橋助剤の具体例としては、p−ジイソプロペニルベンゼン、m−ジイソプロペニルベンゼン、o−ジイソプロペニルベンゼンなどの、イソプロペニル基を2以上有する多官能化合物;エチレンジメタクリレート、1,3−ブチレンジメタクリレート、1,4−ブチレンジメタクリレート、1,6−ヘキサンジオールジメタクリレート、ポリエチレングリコールジメタクリレート、ポリエチレングリコールジメタクリレート、エチレングリコールジメタクリレート、トリエチレングリコールジメタクリレート、ジエチレングリコールジメタクリレート、2,2’−ビス(4−メタクリロキシジエトキシフェニル)プロパン、トリメチロ−ルプロパントリメタクリレート、ペンタエリトリトールトリメタクリレートなどの、メタクリル基を2以上有する多官能化合物などを挙げることができる。中でも、架橋助剤としては、得られる積層体の耐熱性や耐クラック性を向上させる観点から、メタクリル基を2以上有する多官能化合物が好ましい。メタクリル基を2以上有する多官能化合物の中では、特に、トリメチロ−ルプロパントリメタクリレートやペンタエリトリトールトリメタクリレートなどの、メタクリル基を3つ有する多官能化合物がより好適である。
【0074】
前記架橋助剤は、それぞれ単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。架橋助剤の配合量としては、シクロオレフィンモノマー100重量部に対して、通常、0.1〜100重量部、好ましくは0.5〜50重量部、より好ましくは1〜30重量部である。
【0075】
反応性流動化剤と架橋助剤とを共に配合する場合、両者の配合割合は、所望により適宜選択すればよいが、重量比(反応性流動化剤/架橋助剤)で、通常、5/95〜90/10、好ましくは10/90〜70/30、より好ましくは15/85〜70/30の範囲である。配合割合がかかる範囲にあれば、得られるプリプレグにおいては樹脂の流動性が向上し、また、積層体においては配線埋め込み性、耐熱性及び耐クラック性の各特性がバランスされ、好適である。
【0076】
本発明において特に好適な反応性流動化剤と架橋助剤との組合せとしては、ベンジルメタクリレート(反応性流動化剤)とトリメチロ−ルプロパントリメタクリレート(架橋助剤)とからなる組合せが挙げられる。当該組合せを用いれば、得られるプリプレグにおいては樹脂流動性が向上し、また、積層体においては配線埋め込み性、耐熱性及び耐クラック性の各特性が高度にバランスされ、非常に好適である。
【0077】
反応性流動化剤と架橋助剤とからなる組合せの、本発明の重合性組成物への配合量(反応性流動化剤と架橋助剤との合計配合量)としては、シクロオレフィンモノマー100重量部に対して、通常、0.2〜200重量部、好ましくは1〜100重量部、より好ましくは2〜60重量部である。
【0078】
難燃剤としては、特に限定されるものではなく、公知の難燃剤、例えば、ハロゲン系難燃剤、リン−窒素系難燃剤、リン酸エステル難燃剤、窒素系難燃剤、及び無機系難燃剤から、適宜選択して用いることができる。その配合量も、所望の効果が得られるよう適宜調整すればよい。
【0079】
重合性組成物に酸化防止剤として、フェノール系酸化防止剤、アミン系酸化防止剤、リン系酸化防止剤及びイオウ系酸化防止剤からなる群から選ばれる少なくとも1種の酸化防止剤を加えることにより、架橋反応を阻害しないで、得られる積層体の耐熱性を高度に向上させることができ、好適である。これらの中でも、フェノール系酸化防止剤及びアミン系酸化防止剤が好ましく、フェノール系酸化防止剤が特に好ましい。これらの酸化防止剤は、それぞれ単独で、又は2種以上を組み合わせて用いてもよい。酸化防止剤の配合量は、使用目的に応じて適宜選択されるが、シクロオレフィンモノマー100重量部に対して、通常、0.0001〜10重量部、好ましくは0.001〜5重量部、より好ましくは0.01〜1重量部の範囲である。
【0080】
本発明の重合性組成物は、上記成分を混合して得ることができる。混合方法としては、常法に従えばよく、例えば、メタセシス重合触媒を適当な溶媒に溶解若しくは分散させた液(触媒液)を、シクロオレフィンモノマー、及び所望により、その他の配合剤を配合した液(モノマー液)に添加し、攪拌することによって調製することができる。
【0081】
(繊維状強化材)
本発明のプリプレグは、シクロオレフィンモノマーを含む重合性組成物を、有機ポリマーを表面にグラフトしてなる繊維状強化材に含浸させた後、重合してなる。それゆえ、該組成物に多量の充填剤を配合した場合であっても繊維状強化材への樹脂の含浸性が優れており、かかるプリプレグによれば、ピール強度及び耐クラック性に優れた積層体が得られるものと考えられる。
【0082】
本発明に用いる繊維状強化材としては、無機系及び/又は有機系の繊維が使用でき、例えば、PET(ポリエチレンテレフタレート)繊維、アラミド繊維、超高分子ポリエチレン繊維、ポリアミド(ナイロン)繊維、液晶ポリエステル繊維などの有機繊維;ガラス繊維、炭素繊維、アルミナ繊維、タングステン繊維、モリブデン繊維、ブデン繊維、チタン繊維、スチール繊維、ボロン繊維、シリコンカーバイド繊維、シリカ繊維などの無機繊維;などを挙げることができる。これらの中でも、有機繊維やガラス繊維が好ましく、特にアラミド繊維、液晶ポリエステル繊維、及びガラス繊維が好ましい。ガラス繊維としては、Eガラス、NEガラス、Sガラス、Dガラス、及びHガラス等の繊維を好適に用いることができる。
【0083】
ガラス繊維としては、ガラスクロスを用いるのが好ましい。好ましいガラスクロスは、直径が1〜10μmのガラス製フィラメントを集束してストランドとしたものに撚りをかけたガラスの糸(ガラス製ヤーンという。)を織り上げたものである。また、ガラスクロスの厚さは、通常、5〜200μm、好ましくは10〜150μm、より好ましくは10〜100μmである。
【0084】
本発明においては、上記のような繊維状強化材の表面に有機ポリマーをグラフトして用いる。繊維状強化材表面への有機ポリマーのグラフトは、少なくとも繊維状強化材表面の一部に行われていればよいが、含浸性を高める観点から、実質的に繊維状強化材表面の全体に行われているのが好ましい。
【0085】
繊維状強化材の表面にグラフトさせる有機ポリマーは特に限定されない。例えば、ポリエチレン、ポリブタジエン等のポリオレフィン;ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール等のポリエーテル;ポリスチレン、ポリ(メタ)アクリル酸、ポリ(メタ)アクリル酸エステル、ポリビニルアルコール、ポリビニルエステル、フェノール樹脂、メラミン樹脂、アリル樹脂、フラン樹脂、ポリエステル、エポキシ樹脂、シリコン樹脂、ポリイミド樹脂、ポリウレタン、テフロン、アクリロニトリル/スチレン樹脂、スチレン/ブタジエン樹脂、ビニル樹脂、ポリアミド樹脂、ポリカーボネート、ポリアセタール、ポリエーテルスルホン、ポリフェニレンオキシド、シクロオレフィンポリマー、糖、澱粉、セルロース、ポリペプチド等が挙げられる。有機ポリマーは適宜水素添加されたものであってもよい。また、これらの有機化合物は単独で用いられても、2種以上が併用されてもよい。中でも、含浸性を高める観点から、有機ポリマーとしてはシクロオレフィンポリマーが好ましい。グラフトされた有機ポリマー中のシクロオレフィンポリマーの含有量としては、同様の観点から、通常、50重量%以上、好ましくは80重量%以上、より好ましくは100重量%である。
【0086】
シクロオレフィンポリマーとしては、得られる積層体において繊維状強化材とシクロオレフィンポリマーとの密着性を向上させる観点から、架橋性炭素―炭素不飽和結合を有するものが好ましい。架橋性炭素―炭素不飽和結合は前記した通りである。
【0087】
繊維状強化材の表面に有機ポリマーをグラフトさせる方法は特に限定されない。例えば、1)有機ポリマーに、繊維状強化材表面に対して結合性を有する官能基(A)〔以下、官能基(A)という。〕を付加させて、繊維状強化材表面にグラフトさせる方法、2)官能基(A)と、任意の有機化合物に対し化学反応性の官能基(B)〔以下、官能基(B)という。〕とを有する化合物(X)〔以下、化合物(X)という。〕を繊維状強化材表面に結合し、次いで官能基(B)と有機ポリマーとを反応させる方法、3)繊維状強化材表面に重合触媒活性を有する化合物を結合し、該活性により有機モノマーをグラフト重合する方法等が挙げられる。中でも、繊維状強化材の内部及び全面に渡り均一に有機ポリマーをグラフトすることが可能で、且つ重合鎖長の制御が容易であるという観点から、3)の方法が好ましい。なお、繊維状強化材の表面上の、グラフトされた有機ポリマーからなる層(グラフト層)の厚さは、特に限定されないが、樹脂の含浸性を高める観点から、通常、1〜500nm、好ましくは10〜100nmである。当該層の厚さは、グラフトする有機ポリマー鎖長により適宜調整することが出来る。
【0088】
前記官能基(A)としては、例えば、シラン基、シラノール基、カルボキシル基、アミノ基、アンモニウム基、ニトロ基、水酸基、カルボニル基、チオール基、スルホン酸基、スルホニウム基、ホウ酸基、オキサゾリン基、ピロリドン基、燐酸基、及びニトリル基等が挙げられる。前記官能基(B)としては、例えば、ヒドロキシル基、カルボキシル基、アミノ基、エポキシ基、シリル基、シラノール基、イソシアネート基、及びノルボルネン基等が挙げられる。前記化合物(X)としては、例えば、2−ノルボルネン−6−メチルジクロロシラン、ビシクロ[2.2.1]ヘプト−5−エン 2−カルボン酸、p−ベンゼンチオールビニルスルフィド、及び1−メルカプト−10−(エクソ−5−ノルボルネン−2−オキシ)デカンなどが挙げられる。
【0089】
前記3)の方法は、繊維状強化材表面に前記ルテニウムカルベン錯体を結合し、該錯体の重合触媒活性によりシクロオレフィンモノマーをグラフト重合することにより、好適に行うことができる。繊維状強化材表面へのルテニウムカルベン錯体の結合方法は、特に限定されず、例えば、3−1)ルテニウムカルベン錯体に官能基(A)を付加して繊維状強化材表面に結合させる方法、3−2)化合物(X)を繊維状強化材表面に結合させ、次いで官能基(B)とルテニウムカルベン錯体とを反応させる方法等が挙げられる。操作の簡便性より、3−2)の方法が好ましい。
【0090】
繊維状強化材表面にグラフトされるシクロオレフィンポリマーが架橋性炭素−炭素不飽和結合を有するものとする場合には、例えば、グラフト重合に用いるシクロオレフィンモノマーとして、架橋性炭素−炭素不飽和結合を少なくとも1つ有するシクロオレフィンモノマーと架橋性炭素−炭素不飽和結合を持たないシクロオレフィンモノマーとを配合してなるシクロオレフィンモノマー混合物を用いればよい。用いるシクロオレフィンモノマー、及びシクロオレフィンモノマー混合物の配合割合は、前記と同様でよい。
【0091】
繊維状強化材表面にルテニウムカルベン錯体を結合し、該錯体の重合触媒活性によりシクロオレフィンモノマーをグラフト重合する場合、例えば、以下のようにして行うことができる。化合物(X)の使用量は、適宜調整すればよいが、繊維状強化材100重量部に対し、好ましくは1〜20重量部、より好ましくは3〜10重量部である。例えば、化合物(X)を含む任意の有機溶媒中に繊維状強化材を浸漬し、官能基(A)を介して化合物(X)を繊維状強化材表面に結合させる。処理温度は、通常、40〜200℃、処理時間は、通常、5〜100分間である。次いで、化合物(X)と同モル量でルテニウムカルベン錯体を含む任意の有機溶媒中に繊維状強化材を浸漬し、官能基(B)とルテニウムカルベン錯体とを反応させる。処理温度及び処理時間は、前記と同様の範囲である。任意の有機溶媒中、得られた、ルテニウムカルベン錯体が表面に結合した繊維状強化材と、シクロオレフィンモノマーとを配合し、グラフト重合を行う。その際のシクロオレフィンモノマーとメタセシス重合触媒との割合は、(触媒中の金属原子:シクロオレフィンモノマー)のモル比で、通常、1:2,000〜1:2,000,000、好ましくは1:5,000〜1:1,000,000、より好ましくは1:10,000〜1:500,000の範囲である。また、グラフト重合時には反応系に架橋剤を存在させておいてもよい。重合温度は、通常、室温〜250℃、重合時間は、所望とするシクロオレフィンポリマーのグラフト鎖長に合わせ適宜設定できるが、通常、1分間〜12時間の範囲である。かかるシクロオレフィンポリマーの分子量は、特に限定されないが、ゲル・パーミエーション・クロマトグラフィー(溶離液:テトラヒドロフラン)で測定されるポリスチレン換算の重量平均分子量(Mw)で、通常、1000〜1000000、好ましくは10000〜100000の範囲である。得られた繊維状強化材は、適宜、洗浄後、乾燥して用いればよい。なお、前記有機溶媒としては、例えば、テトラヒドロフラン、トルエン、ジクロロメタン、及びトリクロロメタンなどが挙げられる。
【0092】
なお、繊維状強化材の表面へのシクロオレフィンポリマー以外の有機ポリマーのグラフトは、例えば、国際公開第2002/035555号に記載の方法を参照して行うことができる。
【0093】
本発明のプリプレグ中の、有機ポリマーを表面にグラフトしてなる繊維状強化材の含有量は、使用目的に応じて適宜選択すればよいが、通常、5〜50体積%、好ましくは15〜40体積%の範囲である。かかる繊維状強化材の含有量がこの範囲にあれば、得られる積層体において機械的強度と誘電特性が高度にバランスされ好適である。
【0094】
本発明のプリプレグは、前記重合性組成物を前記繊維状強化材に含浸し、重合することにより得られる。重合の態様は、溶液重合であっても塊状重合であってもよいが、プリプレグの生産効率に優れることから、塊状重合であるのが好ましい。
【0095】
本発明に用いる重合性組成物は低粘度であるため、繊維状強化材に対して速やかに満遍なく重合性組成物を含浸させることができる。
重合性組成物の繊維状強化材への含浸は、重合性組成物の所定量を、スプレーコート法、ディップコート法、ロールコート法、カーテンコート法、ダイコート法、及びスリットコート法等の公知の方法により繊維状強化材に塗布し、所望によりその上に保護フィルムを重ね、上側からローラーなどで押圧することにより行うことができる。また、予め、例えば、割型構造、すなわち、コア型とキャビティー型を有する成形型に繊維状強化材を設置しておき、該型内に重合性組成物を注入して含浸させてもよい。なお、重合性組成物を成形型のキャビティー内に充填する際の充填圧力(注入圧)は、通常、0.01〜10MPa、好ましくは0.02〜5MPaである。充填圧力が低すぎると、キャビティー内周面に形成された転写面の転写が良好に行われない傾向にあり、充填圧が高すぎると、成形型の剛性を高くしなければならず経済的ではない。型締圧力は、通常、0.01〜10MPaの範囲内である。
【0096】
重合性組成物を繊維状強化材に含浸させた後、得られた含浸物を所定温度に加熱することで重合性組成物を塊状重合させ、所望のプリプレグを得る。
繊維状強化材に重合性組成物を含浸させてなる含浸物の加熱方法としては、例えば、含浸物を支持体上に設置し、当該支持体を、加熱プレート上に載せて加熱する方法、プレス機を用いて加圧しながら加熱(熱プレス)する方法、加熱したローラーで押圧する方法、加熱炉内で加熱する方法などが挙げられる。前記支持体としては、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリカーボネート、ポリエチレンナフタレート、ポリアリレート、及びナイロンなどの樹脂からなるフィルムや板;鉄、ステンレス、銅、アルミニウム、ニッケル、クロム、金、及び銀などの金属材料からなるフィルムや板;などが挙げられる。中でも、金属箔又は樹脂フィルムの使用が好ましい。金属箔又は樹脂フィルムの厚さは、作業性などの観点から、通常、1〜150μm、好ましくは2〜100μm、より好ましくは3〜75μmである。金属箔としては、その表面が平滑であるものが好ましく、表面粗度(Rz)としては、AFM(原子間力顕微鏡)により測定される値で、通常、10μm以下、好ましくは5μm以下、より好ましくは3μm以下、さらに好ましくは2μm以下である。また、金属箔の表面は、公知のカップリング剤や接着剤などで処理されていてもよい。
また、成形型内で含浸物を得た場合には、例えば、成形型に配設された電熱器やスチームなどの加熱手段を利用して加熱する方法や、成形型を電気炉内で加熱する方法などが挙げられる。
【0097】
重合性組成物を重合するための加熱温度は、通常、30〜250℃、好ましくは50〜200℃、より好ましくは90〜150℃の範囲である。重合性組成物が架橋剤、例えば、ラジカル発生剤を含む場合、通常、ラジカル発生剤の1分間半減期温度以下、好ましくは1分間半減期温度の10℃以下、より好ましくは1分間半減期温度の20℃以下である。そのようにして加熱することで、プリプレグの基材樹脂を効率的に後架橋可能な熱可塑性樹脂とすることなできる。重合時間は適宜選択すればよいが、通常、1秒間〜20分間、好ましくは10秒間〜5分間である。重合性組成物をかかる条件で加熱することにより未反応モノマーの少ないプリプレグが得られるので好適である。
【0098】
以上のようにして得られるプリプレグを構成する重合体(シクロオレフィンポリマー)は、実質的に架橋構造を有さず、例えば、トルエンに可溶である。当該重合体の分子量は、ゲル・パーミエーション・クロマトグラフィー(溶離液:テトラヒドロフラン)で測定されるポリスチレン換算の重量平均分子量で、通常、1,000〜1,000,000、好ましくは5,000〜500,000、より好ましくは10,000〜100,000の範囲である。
【0099】
本発明のプリプレグの厚さは、特に限定されないが、通常、1μm〜10mmである。
【0100】
本発明のプリプレグの基材樹脂は、その一部が架橋されたものであってもよい。例えば、型内で重合性組成物を塊状重合したときには、型の中心部分は重合反応熱が発散しにくいので、型内の一部の温度が高くなりすぎる場合がある。高温部では架橋反応が起き、架橋が生ずることがある。しかし、熱を発散しやすい表面部が後架橋可能な架橋性の樹脂で形成されていれば、本発明のプリプレグは所望の効果を発揮し得る。
【0101】
本発明のプリプレグは、重合を完結させて得られるものであり、保管中にさらに重合反応が進行するという恐れがない。また、本発明のプリプレグは、所望により、ラジカル発生剤などの架橋剤を含有してなるが、架橋反応を起す温度以上に加熱しない限り、表面硬度が変化するなどの不具合を生じず、保存安定性に優れる。本発明のプリプレグは、例えば、本発明の積層体の製造に好適に用いられる。
【0102】
2.積層体
本発明の積層体は、本発明のプリプレグを硬化してなる層を有する。当該層は、連続的に積層されていても、他の層を挟んで間接的に積層されていてもよい。
本発明の積層体は、例えば、本発明のプリプレグ、及び任意に前記金属箔を積層し、熱プレスして架橋することにより製造することができる。熱プレスするときの加熱温度は、プリプレグにおいて架橋反応が生ずる温度以上である。典型的には、100〜300℃、好ましくは150〜250℃の範囲である。架橋剤が含まれている場合、加熱温度は、通常、架橋剤により架橋反応が誘起される温度以上である。例えば、架橋剤としてラジカル発生剤を使用する場合、通常、1分間半減期温度以上、好ましくは1分間半減期温度より5℃以上高い温度、より好ましくは1分間半減期温度より10℃以上高い温度である。加熱時間は、0.1〜180分間、好ましくは0.5〜120分間、より好ましくは1〜60分間の範囲である。また、熱プレスするときの圧力は、通常、0.5〜20MPa、好ましくは3〜10MPaである。熱プレスは、真空又は減圧雰囲気下で行ってもよい。熱プレスは、平板成形用のプレス枠型を有する公知のプレス機、シートモールドコンパウンド(SMC)やバルクモールドコンパウンド(BMC)などのプレス成形機を用いて行なうことができる。
【0103】
本発明の積層体は、本発明のプリプレグを硬化してなる層を有するが、かかるプリプレグは、それを構成する重合性組成物に多量の充填剤を配合した場合であっても繊維状強化材への樹脂の含浸性に優れる。そのため、本発明の積層体はピール強度及び耐クラック性に優れており、高誘電率の充填剤を高配合した高誘電樹脂材料を必要とする、高誘電性の多層回路基板の製造などに好適に用いることができる。
【実施例】
【0104】
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。なお、実施例及び比較例における部及び%は、特に断りのない限り重量基準である。
【0105】
実施例及び比較例における各特性は、以下の方法に従って評価した。
(1)含浸性
プリプレグを切断し、その断面を走査型電子顕微鏡(SEM)で観察(倍率:1000倍)し、樹脂とガラスクロスとの間の密着性を、以下の基準で評価した。当該密着性が高いほど、樹脂のガラスクロスへの含浸性が優れる。
(評価基準)
○:密着していない部分が確認できなかった
×:密着していない部分が確認された
(2)ピール強度
銅張積層板から銅箔を引き剥がすときの強度を、JIS C6481に準拠して測定し、以下の基準に従ってピール強度を評価した。
(評価基準)
○:0.2kN/m超
×:0.2kN/m以下
(3)耐クラック性
10枚の銅張積層板を用意し、各積層板に対し、−40℃〜+150℃の温度範囲で200回の冷熱衝撃試験を行った。試験後、各積層板の外観観察を目視にて行い、クラックが発生した枚数を調べ、以下の基準に従って耐クラック性を評価した。なお、冷熱衝撃試験は、冷熱衝撃試験装置(エスペック社製、型番:TSA−71H−W)により行った。
(評価基準)
◎:クラックの発生数が2枚以下
○:クラックの発生数が3枚以上、5枚以下
×:クラックの発生数が5枚を超える
【0106】
製造例1
トルエン 500mLに2−ノルボルネン−6−メチルジクロロシラン 50mmolを加え、ここに10cm角に切り出した、厚さ70μmのガラスクロス(Eガラス)を浸漬し、6時間放置して、ガラスクロス表面にノルボルネン基を結合させた後、ガラスクロスを取り出し、トルエンで洗浄した。
次いで、上記ガラスクロスを、メタセシス重合性触媒としてビス(トリシクロヘキシルホスフィン)ベンジリジンルテニウム(IV)ジクロライド 50mmolを添加したトルエン 500mL中に室温で30分間浸漬し、ノルボルネン基と反応させた後、ガラスクロスを取り出し、トルエンで洗浄した。
更に、グラフト重合に供するシクロオレフィンモノマーとしてノルボルネン 20mmolをトルエン 500mLにアルゴン雰囲気下で添加し、ここに上記ガラスクロスを室温で30分間浸漬して、グラフト重合を行った。メタノール洗浄し、濾過後、乾燥して、シクロオレフィンポリマーを表面にグラフトさせたガラスクロス(表面処理基材1)を得た。シクロオレフィンポリマーの重量平均分子量(Mw)は35,000であった。また、グラフト層の厚さは、0.1μmであった。
【0107】
製造例2
ジメチルホルムアミド 500mLに3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン 0.5gを加え、ここに10cm角に切り出した、厚さ70μmのガラスクロス(Eガラス)を浸漬し、6時間放置して、ガラスクロスを取り出し、トルエンで洗浄した。
次いで、上記ガラスクロスを、メチルメタクリレートモノマー 10g、塩化第一銅 0.1g、4,4’−ピピリジル 0.5gを添加したジメチルホルムアミド 500mL中に100℃で4時間浸漬した。メタノール洗浄し、濾過後、乾燥して、アクリルポリマーを表面にグラフトさせたガラスクロス(表面処理基材2)を得た。アクリルポリマーの重量平均分子量(Mw)は35,000であった。また、グラフト層の厚さは、0.1μmであった。

【0108】
製造例3
p−スチリルトリメトキシシラン(KBM−1403、信越化学工業社製)を、メタノールに濃度50%になるように溶解した。次いで、得られた溶液を、界面活性剤としてポリオキシエチレンオクチルフェノールエーテル(商品名:HS−210、日本油脂製、HLB値13、5)を0.06%含む水溶液に逐次的に滴下することにより、溶解させた。滴下の速度は、界面活性剤含有水溶液1Lあたり5mL/分とした。さらに、溶液のpHが4になるように酢酸を滴下し、シランカップリング剤濃度0.03%の処理剤含有水溶液を得た。
10cm角に切り出した、厚さ70μmのガラスクロス(Eガラス)に、上記で得られた処理剤含有水溶液を、温度23℃、湿度50%の環境下で、バーコーターを用いて塗布厚が4μmになるように均一に塗布した。次いで、これを速やかに窒素気流下で120℃で5分間乾燥させることによって、シラン系カップリング剤を表面に結合させたガラスクロス(表面処理基材3)を得た。
【0109】
製造例4
充填剤として酸化ケイ素粒子(アドマテックス社製、商品名SOC02、平均粒子径0.5μm)100gを用い、これに、2−ノルボルネン−6−メチルジクロロシランを50mmol加え、テトラヒドロフラン中で40℃で6時間攪拌し、粒子表面にノルボルネン基を結合させた。濾過により未反応の2−ノルボルネン−6−メチルジクロロシランを除去し、トルエンで洗浄後、再度、精製トルエンにアルゴン雰囲気下で分散させた。
得られた分散液に、メタセシス重合触媒としてビス(トリシクロヘキシルホスフィン)ベンジリジンルテニウム(IV)ジクロライドを50mmol加え、室温で30分間撹拌し、ノルボルネン基と反応させた。濾過により未反応のビス(トリシクロヘキシルホスフィン)ベンジリジンルテニウム(IV)ジクロライドを除去し、トルエンで洗浄後、再度、精製トルエンにアルゴン気流下で分散した。
得られた分散液中に、グラフト重合に供するシクロオレフィンモノマーとして、精製トルエンに溶解したノルボルネン 20mmolをアルゴン雰囲気下で加え、室温で30分間グラフト重合を行った。メタノール洗浄し、濾過後、乾燥して、シクロオレフィンポリマーを表面にグラフトさせた充填剤(表面処理粒子1)を得た。シクロオレフィンポリマーの重量平均分子量(Mw)は40,000であった。また、グラフト層の厚さは、0.1μmであった。
【0110】
製造例5
ベンジリデン(1,3−ジメシチル−4−イミダゾリジン−2−イリデン)(トリシクロヘキシルホスフィン)ルテニウムジクロリド 51部と、トリフェニルホスフィン 79部とを、トルエン 952部に溶解させて触媒液を調製した。これとは別に、シクロオレフィンモノマーとしてテトラシクロドデセン(TCD)80部及びジシクロペンタジエン 20部、酸化ケイ素粒子(アドマテックス社製、商品名SOC02、平均粒子径0.5μm)200部、連鎖移動剤としてスチレン 0.74部、架橋剤として3,3,5,7,7−ペンタメチル−1,2,4−トリオキセパン(1分間半減期温度205℃)2部、反応性流動化剤としてベンジルメタクリレート 15部、架橋助剤としてトリメチロールプロパントリメタクリレート 20部、難燃剤としてジメチルホスフィン酸アルミニウム 50部、フェノール系老化防止剤として3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシアニソール 1部を混合してモノマー液を調製した。ここに上記触媒液をシクロオレフィンモノマー100gあたり0.12mLの割合で加えて撹拌し、重合性組成物1を調製した。
【0111】
実施例1
重合性組成物1を、厚さ70μmの表面処理基材1に含浸させ、次いで120℃にて5分間維持し、重合性組成物1を塊状重合して、厚さ0.11mmのプリプレグ1を得た。プリプレグ1のガラスクロス含有量は25体積%であった。
【0112】
更に、プリプレグ1を6枚重ね、厚さ12μmのF2銅箔(シランカップリング剤処理電解銅箔、粗度Rz=1,600nm、古河サーキットホイル社製)で、積層したプリプレグシートを挟み、205℃で20分間、3MPaにて加熱プレスを行い、銅張積層板1(積層体)を得た。
【0113】
実施例2
表面処理基材1に換えて表面処理基材2を用いた以外は実施例1と同様にして、プリプレグ2を得た。プリプレグ1に換えてプリプレグ2を用いた以外は実施例1と同様にして、銅張積層板2を得た。
【0114】
実施例3
酸化ケイ素粒子に換えて製造例4で得られた表面処理粒子1を用いた以外は製造例5と同様にして重合性組成物2を調製した。重合性組成物1に換えて重合性組成物2を用いた以外は実施例1と同様にしてプリプレグ3を得た。プリプレグ1に換えてプリプレグ3を用いた以外は実施例1と同様にして、銅張積層板3を得た。
【0115】
比較例1
表面処理基材1に換えて表面処理基材3を用いた以外は実施例1と同様にして、プリプレグ4を得た。プリプレグ1に換えてプリプレグ4を用いた以外は実施例1と同様にして、銅張積層板4を得た。
【0116】
【表1】

【0117】
表1より、有機ポリマーを表面にグラフトさせた繊維状強化材にシクロオレフィンモノマーを含む重合性組成物を含浸し重合してなるプリプレグは樹脂の含浸性に優れており、当該プリプレグによれば、ピール強度及び耐クラック性に優れた積層体が得られることが分かる(実施例1〜3)。特に、有機ポリマーを表面にグラフトさせた充填剤を配合した重合性組成物を前記繊維状強化材に含浸し重合してなるプリプレグによれば、耐クラック性にいっそう優れた積層体が得られることが分かる(実施例3)。一方、プリプレグにシラン系カップリング剤を表面に結合させたのみの繊維状強化材を用いて得たプリプレグは樹脂の含浸性に劣り、得られた積層体では、ピール強度及び耐クラック性のいずれにも劣ることが分かる(比較例1)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シクロオレフィンモノマー及びメタセシス重合触媒を含む重合性組成物を、有機ポリマーを表面にグラフトしてなる繊維状強化材に含浸させた後、重合してなるプリプレグ。
【請求項2】
有機ポリマーがシクロオレフィンポリマーである請求項1記載のプリプレグ。
【請求項3】
シクロオレフィンポリマーが架橋性炭素−炭素不飽和結合を有するものである請求項2記載のプリプレグ。
【請求項4】
シクロオレフィンポリマーが、繊維状強化材表面にルテニウムカルベン錯体を結合し、該錯体の重合触媒活性によりシクロオレフィンモノマーをグラフト重合してなるものである請求項2又は3記載のプリプレグ。
【請求項5】
重合性組成物が、有機ポリマーを表面にグラフトしてなる充填剤を更に含むものである請求項1〜4いずれか記載のプリプレグ。
【請求項6】
請求項1〜5いずれかに記載のプリプレグを硬化してなる層を有する積層体。

【公開番号】特開2012−97165(P2012−97165A)
【公開日】平成24年5月24日(2012.5.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−244758(P2010−244758)
【出願日】平成22年10月29日(2010.10.29)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.テフロン
【出願人】(000229117)日本ゼオン株式会社 (1,870)
【Fターム(参考)】