説明

プリント装置および装置の起動制御方法

【課題】 ユーザが長く待たされることなく装置を使用開始することができる、使い勝手に優れたプリント装置の実現。
【解決手段】 ユーザが装置を使用開始する開始時刻を設定することができる設定部と、第1待機モードと前記第1待機モードよりも短時間に起動することができる第2待機モードのいずれかで装置を非稼動状態にすることができる制御部とを有し、前記制御部は、装置オフが指令された時刻から前記設定部で設定された前記開始時刻までの時間差に応じて、前記第1待機モードと前記第2待機モードのいずれに移行するかを決定して、決定したモードに移行するよう制御する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はシートに画像をプリントするプリント装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1に開示されるプリント装置は、主電源がOFF状態になった時間に応じて、主電源ON直後のスタンバイ処理の実行有無を制御するものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2006−254030号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
大型のプリント装置では、起動してから装置の内部状態が安定してプリントを開始することができるまでに、数十分〜数時間の初期化のための起動時間(待ち時間)を要するものがある。そのような装置では、ユーザが長く待たされることなく装置を使用開始することができる仕組みが望まれる。この仕組みを構築することが装置の実用化の上で解決すべき第1の課題である。
【0005】
装置を非稼動状態(オフ状態)にしてから開始時刻までの時間が、初期化のための起動時間(数十分〜数時間)よりも短い場合には、開始時刻にはまだ初期化が完了しておらず、ユーザを待たせてしまう可能性がある。ユーザにとっては、あとどれだけ待てばよいのか分からず装置の前で無為な時間を過ごすことになる。これが装置の実用化の上で解決すべき第2の課題である。
【0006】
また、ユーザを長く待たせないためには、ユーザが装置を使用開始する開始時刻に先って装置が自動起動して、開始時刻には装置内部状態が安定していればよい。しかし、装置の設置環境や起動プロセス等の状況によって起動時間は変化し、常に一定時間となるわけではない。つまり、起動時間には数十分〜数時間の大きな幅がある。例えば、ユーザが使用開始する開始時刻に対して、最長の起動時間を見込んで事前起動すれば、ユーザにとっては待ち時間なしに装置を使用することができる。しかし、早めに立ち上がった場合にはアイドル時間が長くなって省エネルギの観点からは好ましいとはいえない。最長よりも短い時間、例えば平均的な起動時間だけ先立って自動起動すれば、平均のアイドル時間は短縮化される。しかし、起動が設定時間よりも長びいた場合には、長引いた時間だけユーザを待たせることになる。したがって、変動する起動時間にいかに対応して装置を事前起動するかが、装置の実用化の上で解決すべき第3の課題である。
【0007】
本発明は上記の各課題の認識に基づいてなされたものである。本発明の主目的は、ユーザが長く待たされることなく希望する時刻に装置を使用開始することができる、使い勝手に優れたプリント装置の実現である。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明のプリント装置は、シートに画像を記録するプリント部と、ユーザが装置を使用開始する開始時刻を設定することができる設定部と、第1待機モードと、前記第1待機モードよりも短時間に起動することができる第2待機モードの少なくともいずれかで装置を非稼動状態にすることができる制御部とを有し、前記制御部は、装置オフの指令時刻から前記設定部で設定された前記開始時刻までの時間差に応じて、前記第1待機モードと前記第2待機モードのいずれに移行するかを決定して、決定したモードに移行するよう制御することを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、ユーザが長く待たされることなく装置を使用開始することができる、使い勝手に優れたプリント装置が実現する。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】プリント装置の内部構成を示す概略図
【図2】制御部のブロック図
【図3】片面プリントモードでの動作を説明するための図
【図4】両面プリントモードでの動作を説明するための図
【図5】非稼動状態(待機状態)と稼動状態の状態遷移を示す図
【図6】装置の起動シーケンスを示すフローチャート
【図7】装置の非稼動状態への移行シーケンスを示すフローチャート
【図8】装置使用の開始と終了の時刻を設定するシーケンスを示すフローチャート
【図9】時刻の設定画面の一例を示す図
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、インクジェット方式を用いたプリント装置の実施形態を説明する。本例のプリント装置は、長尺で連続したシート(搬送方向において繰り返しのプリント単位(1ページあるいは単位画像という)の長さよりも長い連続したシート)を使用し、片面プリントおよび両面プリントの両方に対応した高速ラインプリンタである。例えば、プリントラボ等における大量の枚数のプリントの分野に適している。なお、本明細書では、1つのプリント単位(1ページ)の領域内に複数の小さな画像や文字や空白が混在していたとしても、当該領域内に含まれるものをまとめて1つの単位画像という。つまり、単位画像とは、連続したシートに複数のページを順次プリントする場合の1つのプリント単位(1ページ)を意味する。プリントする画像サイズに応じて単位画像の長さは異なる。例えばL版サイズの写真ではシート搬送方向の長さは135mm、A4サイズではシート搬送方向の長さは297mmとなる。
本発明はプリンタ、プリンタ複合機、複写機、ファクシミリ装置などのプリント装置に適用可能である。プリント処理はインクジェット方式、電子写真方式、熱転写方式、ドットインパクト方式、液体現像方式など方式は問わない。また、本発明はプリント装置に限らず、ユーザーが装置稼働時刻を指定し且つ起動時の初期化動作に大きな時間を要する工場等で使用される産業機器(各種デバイスの製造装置、検査装置など)等の各種装置にも広く適用可能である。
【0012】
図1はプリント装置の内部構成を示す断面の概略図である。本実施形態のプリント装置は、ロール状に巻かれたシートを用いて、シートの第1面と第1面の背面側の第2面に両面プリントすることが可能となっている。プリント装置内部には、大きくは、シート供給部1、デカール部2、斜行矯正部3、プリント部4、検査部5、カッタ部6、情報記録部7、乾燥部8、反転部9、排出搬送部10、ソータ部11、排出部12、加湿部20、制御部13の各ユニットを備える。シートは、図中の実線で示したシート搬送経路に沿ってローラ対やベルトからなる搬送機構で搬送され、各ユニットで処理がなされる。なお、シート搬送経路の任意の位置において、シート供給部1に近い側を「上流」、その逆側を「下流」という。
【0013】
シート供給部1は、ロール状に巻かれた連続シートを保持して供給するためのユニットである。シート供給部1は、2つのロールR1、R2を収納することが可能であり、択一的にシートを引き出して供給する構成となっている。なお、収納可能なロールは2つであることに限定はされず、1つ、あるいは3つ以上を収納するものであってもよい。また、連続したシートであれば、ロール状に巻かれたものに限らない。例えば、単位長さごとのミシン目が付与された連続したシートがミシン目ごとに折り返されて積層され、シート供給部1に収納されるものでもよい。
【0014】
デカール部2は、シート供給部1から供給されたシートのカール(反り)を軽減させるユニットである。デカール部2では、1つの駆動ローラに対して2つのピンチローラを用いて、カールの逆向きの反りを与えるようにシートを湾曲させて通過させることでデカール力を作用させてカールを軽減させる。
【0015】
斜行矯正部3は、デカール部2を通過したシートの斜行(本来の進行方向に対する傾き)を矯正するユニットである。基準となる側のシート端部をガイド部材に押し付けることにより、シートの斜行が矯正される。
【0016】
プリント部4は、搬送されるシートに対して上方からプリントヘッド14によりシート上にプリント処理を行なって画像を形成するユニットである。つまり、プリント部4はシートに所定の処理を行なう処理部である。プリント部4は、シートを搬送する複数の搬送ローラも備えている。プリントヘッド14は、使用が想定されるシートの最大幅をカバーする範囲でインクジェット方式のノズル列が形成されたライン型プリントヘッドを有する。プリントヘッド14は、複数のプリントヘッドが搬送方向に沿って平行に並べられている。本例ではC(シアン)、M(マゼンタ)、Y(イエロー)、LC(ライトシアン)、LM(ライトマゼンタ)、G(グレー)、K(ブラック)の7色に対応した7つのプリントヘッドを有する。なお、色数およびプリントヘッドの数は7つには限定はされない。インクジェット方式は、発熱素子を用いた方式、ピエゾ素子を用いた方式、静電素子を用いた方式、MEMS素子を用いた方式等を採用することができる。各色のインクは、インクタンクからそれぞれインクチューブを介してプリントヘッド14に供給される。
【0017】
検査部5は、プリント部4でシートにプリントされた検査パターンや画像をスキャナによって光学的に読み取って、プリントヘッドのノズルの状態、シート搬送状態、画像位置等を検査して画像が正しくプリントされたかを判定するためのユニットである。スキャナはCCDイメージセンサやCMOSイメージセンサを有する。
【0018】
カッタ部6は、プリント後のシートを所定長さに切断する機械的なカッタを備えたユニットである。カッタ部6は、シートを次工程に送り出すための複数の搬送ローラも備えている。
【0019】
情報記録部7は、切断されたシートの非プリント領域にプリントのシリアル番号や日付などのプリント情報(固有の情報)を記録するユニットである。記録はインクジェット方式、熱転写方式などで文字やコードをプリントすることで行なわれる。情報記録部7の上流側且つカッタ部6の下流側には、切断されたシートの先端エッジを検知するセンサ23が設けられている。つまり、センサ23はカッタ部6と情報記録部7による記録位置との間でシートの端部を検知する、センサ23の検知タイミングに基づいて情報記録部7で情報記録するタイミングが制御される。
【0020】
乾燥部8は、プリント部4でプリントされたシートを加熱して、付与されたインクを短時間に乾燥させるためのユニットである。乾燥部8の内部では通過するシートに対して少なくとも下面側から熱風を付与してインク付与面を乾燥させる。なお、乾燥方式は熱風を付与する方式に限らず、電磁波(紫外線や赤外線など)をシート表面に照射する方式であってもよい。
【0021】
以上のシート供給部1から乾燥部8までのシート搬送経路を第1経路と称する。第1経路はプリント部4から乾燥部8までの間にUターンする形状を有し、カッタ部6はUターンの形状の途中に位置している。
【0022】
反転部9は両面プリントを行う際に表面プリントが終了した連続シートを一時的に巻き取って表裏反転させるためのユニットである。反転部9は、乾燥部8を通過したシートを再びプリント部4に供給するための、乾燥部8からデカール部2を経てプリント部4に到る経路(ループパス)(第2経路と称する)の途中に設けられている。反転部9はシートを巻き取るための回転する巻取回転体(ドラム)を備えている。表面のプリントが済んで切断されていない連続シートは巻取回転体に一時的に巻き取られる。巻き取りが終わったら、巻取回転体が逆回転して巻き取り済みシートはデカール部2に供給され、プリント部4に送られる。このシートは表裏反転しているのでプリント部4で裏面にプリントを行うことができる。両面プリントのより具体的な動作については後述する。
【0023】
排出搬送部10は、カッタ部6で切断され乾燥部8で乾燥させられたシートを搬送して、ソータ部11までシートを受け渡すためのユニットである。排出搬送部10は、反転部9が設けられた第2経路とは異なる経路(第3経路と称する)に設けられている。第1経路を搬送されてきたシートを第2経路と第3経路のいずれか一方に選択的に導くために、経路の分岐位置には可動フラッパを有する経路切替機構が設けられている。
【0024】
ソータ部11と排出部12は、シート供給部1の側部で且つ第3経路の末端に設けられている。ソータ部11は必要に応じてプリント済みシートをグループ毎に仕分けるためのユニットである。仕分けられたシートは、複数のトレイからなる排出部12に排出される。このように、第3経路はシート供給部1の下方を通過して、シート供給部1を挟んでプリント部4や乾燥部8とは逆側にシートを排出するレイアウトとなっている。
【0025】
加湿部20は加湿気体(空気)を生成して、プリント部4のプリントヘッド14とシートの間に供給するためのユニットである。これにより、プリントヘッド14のノズルのインク乾燥が抑制される。加湿部20の加湿方式は、気化式、水噴霧式、蒸気式などの方式が採用される。気化式には、本実施形態の回転式の他に、透湿膜式、滴下浸透式、毛細管式などがある。水噴霧式には、超音波式、遠心式、高圧スプレー式、2流体噴霧式などがある。蒸気式には、蒸気配管式、電熱式、電極式などがある。加湿部20とプリント部4は第1ダクト21で接続され、更に加湿部20と乾燥部8は第2ダクト22で接続されている。乾燥部8ではシートを乾燥させる際に多湿且つ高温の気体が生成される。この気体は第2ダクト22を通して加湿部20に導入されて、加湿部20での加湿気体生成の補助エネルギとして利用される。そして、加湿部20で生成された加湿気体は第1ダクト21を通してプリント部に導入される。
【0026】
制御部13は、プリント装置全体の各部の制御を司るユニットである。制御部13は、CPU、記憶装置、各種制御部を備えたコントローラ(制御部)、外部インターフェース、およびユーザーが入出力を行なう操作部15を有する。プリント装置の動作は、コントローラまたはコントローラに外部インターフェースを介して接続されるホストコンピュータ等のホスト装置16からの指令に基づいて制御される。
【0027】
図2は制御部13の概念を示すブロック図である。制御部13に含まれるコントローラ(破線で囲まれる範囲)は、CPU201、ROM202、RAM203、HDD204、画像処理部207、エンジン制御部208、個別ユニット制御部209から構成される。CPU201(中央演算処理部)はプリント装置の各ユニットの動作を統合的に制御する。ROM202はCPU201が実行するためのプログラムやプリント装置の各種動作に必要な固定データを格納する。RAM203はCPU201のワークエリアとして用いられたり、種々の受信データの一時格納領域として用いられたり、各種設定データを記憶させたりする。HDD204(ハードディスク)はCPU201が実行するためのプログラム、プリントデータ、プリント装置の各種動作に必要な設定情報を記憶読出することが可能である。操作部15はユーザーとの入出力インターフェースであり、ハードキーやタッチパネルの入力部、および情報を提示するディスプレイや音声発生器などの出力部を含む。例えば、タッチパネル付きのディスプレイが用いられ、装置の動作ステータス、プリント状況、メンテナンス情報(インク残量、シート残量、メンテナンスステータスなど)等がユーザに対して表示される。ユーザはタッチパネルから各種の情報入力を行なうことができる。
【0028】
高速なデータ処理が要求されるユニットについては専用の処理部が設けられている。画像処理部207は、プリント装置で扱うプリントデータの画像処理を行う。入力された画像データの色空間(たとえばYCbCr)を、標準的なRGB色空間(たとえばsRGB)に変換する。また、画像データに対し解像度変換、画像解析、画像補正等、様々な画像処理が必要に応じて施される。これらの画像処理によって得られたプリントデータは、RAM203またはHDD204に格納される。エンジン制御部208は、CPU201等から受信した制御コマンドに基づいてプリントデータに応じてプリント部4のプリントヘッド14の駆動制御を行なう。エンジン制御部208は更にプリント装置内の各部の搬送機構の制御も行なう。個別ユニット制御部209は、シート供給部1、デカール部2、斜行矯正部3、検査部5、カッタ部6、情報記録部7、乾燥部8、反転部9、排出搬送部10、ソータ部11、排出部12、加湿部20の各ユニットを個別に制御するためのサブコントローラである。CPU201による指令に基づいて個別ユニット制御部209によりそれぞれのユニットの動作が制御される。外部インターフェース205は、コントローラをホスト装置16に接続するためのインターフェース(I/F)であり、ローカルI/FまたはネットワークI/Fである。以上の構成要素はシステムバス210によって接続されている。
【0029】
ホスト装置16は、プリント装置にプリントを行わせるための画像データの供給源となる装置である。ホスト装置16は、汎用または専用のコンピュータであってもよいし、画像リーダ部を有する画像キャプチャ、デジタルカメラ、フォトストレージ等の専用の画像機器であってもよい。ホスト装置16がコンピュータの場合は、コンピュータに含まれる記憶装置にOS、画像データを生成するアプリケーションソフトウェア、プリント装置用のプリンタドライバがインストールされる。なお、以上の処理の全てをソフトウェアで実現することは必須ではなく、一部または全部をハードウェアによって実現するようにしてもよい。
【0030】
次に、プリント時の基本動作について説明する。プリントは、片面プリントモードと両面プリントモードとでは動作が異なるので、それぞれについて説明する。
【0031】
図3は片面プリントモードでの動作を説明するための図である。シート供給部1から供給されたシートがプリントされて排出部12に排出されるまでの搬送経路を太線で示している。シート供給部1から供給され、デカール部2、斜行矯正部3でそれぞれ処理されたシートは、プリント部4において表面(第1面)のプリントがなされる。長尺の連続シートに対して、搬送方向における所定の単位長さの画像(単位画像)を順次プリントして複数の画像を並べて形成していく。プリントされたシートは検査部5を経て、カッタ部6において単位画像ごとに切断される。切断されたカットシートは、必要に応じて情報記録部7でシートの裏面にプリント情報が記録される。そして、カットシートは1枚ずつ乾燥部8に搬送され乾燥が行なわれる。その後、排出搬送部10を経由して、ソータ部11の排出部12に順次排出され積載されていく。一方、最後の単位画像の切断でプリント部4の側に残されたシートはシート供給部1に送り戻されて、シートがロールR1またはR2に巻き取られる。このように、片面プリントにおいては、シートは第1経路と第3経路を通過して処理され、第2経路は通過しない。
【0032】
図4は両面プリントモードでの動作を説明するための図である。両面プリントでは、表面(第1面)プリントシーケンスに次いで裏面(第2面)プリントシーケンスを実行する。最初の表面プリントシーケンスでは、シート供給部1から検査部5までの各ユニットでの動作は上述の片面プリントの動作と同じである。カッタ部6では切断動作は行わずに、連続シートのまま乾燥部8に搬送される。乾燥部8での表面のインク乾燥の後、排出搬送部10の側の経路(第3経路)ではなく、反転部9の側の経路(第2経路)にシートが導かれる。第2経路においてシートは、順方向(図面では反時計回り方向)に回転する反転部9の巻取回転体に巻き取られていく。プリント部4において、予定された表面のプリントが全て終了すると、カッタ部6にて連続シートのプリント領域の後端が切断される。切断位置を基準に、搬送方向下流側(プリントされた側)の連続シートは乾燥部8を経て反転部9でシート後端(切断位置)まで全て巻き取られる。一方、この巻取りと同時に、切断位置よりも搬送方向上流側(プリント部4の側)に残された連続シートは、シート先端(切断位置)がデカール部2に残らないように、シート供給部1に巻き戻されて、シートがロールR1またはR2に巻き取られる。この巻き戻しによって、以下の裏面プリントシーケンスで再び供給されるシートとの衝突が避けられる。
【0033】
上述の表面プリントシーケンスの後に、裏面プリントシーケンスに切り替わる。反転部9の巻取回転体が巻き取り時とは逆方向(図面では時計回り方向)に回転する。巻き取られたシートの端部(巻き取り時のシート後端は、送り出し時にはシート先端になる)は、図の破線の経路に沿ってデカール部2に送り込まれる。デカール部2では巻取回転体で付与されたカールの矯正がなされる。つまり、デカール部2は第1経路においてシート供給部1とプリント部4の間、ならびに第2経路において反転部9とプリント部4の間に設けられて、いずれの経路においてもデカールの働きをする共通のユニットとなっている。シートの表裏が反転したシートは、斜行矯正部3を経て、プリント部4に送られて、シートの裏面にプリントが行なわれる。プリントされたシートは検査部5を経て、カッタ部6において予め設定されている所定の単位長さ毎に切断される。カットシートは両面にプリントされているので、情報記録部7での記録はなされない。カットシートは1枚ずつ乾燥部8に搬送され、排出搬送部10を経由して、ソータ部11の排出部12に順次排出され積載されていく。このように、両面プリントにおいてはシートは第1経路、第2経路、第1経路、第3経路の順に通過して処理される。
【0034】
次に、上述の構成のプリント装置における、装置の起動(オン)と停止(オフ)の起動制御方法についてさらに詳しく説明する。起動制御は主に制御部13の指令に基づいてなされる。
【0035】
プリント装置は、ユーザは操作部15によって、ユーザが装置を使用開始する開始時刻と、装置の稼動終了時刻(装置オフの指令時刻)の2つの時刻を個別に設定することができるようになっている。
【0036】
図5はプリント装置の非稼動状態(待機状態)と稼動状態の状態遷移を示す図である。装置が稼動している稼動状態401と、非稼動状態(待機状態またはオフ状態)である第1待機モード402、第2待機モード403とに分けられる。稼動状態401は装置が完全に起動している状態であり、この状態でプリント動作等を行なうことができる。第1待機モード402は装置がディープスリープ状態にあり、制御部の一部(例えば、制御部13のCPU)への通電を除いて装置全体がシャットダウンされた状態である。第1待機モード402から起動が指令された場合は、稼動状態401に移行するまでに数十分〜数時間の時間を要する。逆に、稼動状態401から第1待機モード402に移行するのにも、数分〜状況に応じて数十分の時間を要する。第2待機モード403は、第1待機モードよりも浅いスリープ状態である。第2待機モード403は、多くのユニットが通電された状態であり、例えば、検査部5、反転部9、排出搬送部10などの起動に時間のかからない部位だけ電源供給がオフになる。第2待機モード403から起動が指令された場合は、第1待機モード402よりも短時間(例えば、数分)に稼動状態401に移行することができる。逆に、稼動状態401から第2待機モード403に移行するのも、僅かな時間(例えば、数分)で済む。第1待機モード402と第2待機モードの間でも状態移動することができる。例えば、第2待機モードが長く続いたときには自動的に第1待機モードに移行する。なお、それぞれスリープの深さが異なる(スリープからの復帰の時間が異なる)3つ以上の待機モードを持つようにしてもよい。
【0037】
プリント装置は、装置起動時の初期化動作、すなわち第1待機モード402から稼動状態401に移行するための初期化動作に要する時間を予測して予測時間を取得する予測手段(制御部13)を有している。予測手段は、さらに第2待機モード403から稼動状態401に移行するための簡易的な初期化動作に要する時間を予測して予測時間を取得する。
【0038】
第1待機モード402から稼動状態401に移行するための初期化動作は、次のような手順でなされる。電源が投入されたら、乾燥部8および加湿部20に内蔵されるヒータが加熱を始め、乾燥部8が所定の温度の気体を、加湿部20が所定の温湿度の加湿気体を安定して生成する状態(安定状態)になるまで待つ。プリント装置を構成するその他のユニットの初期化も並行して行なわれる。乾燥部8および加湿部20が安定状態になったら、次いでプリント部4の調整処理が行なわれる。調整処理には、ノズル目詰まり解消(インクの予備吐出や吸引)、レジスト調整などが含まれる。中でも時間を要するのがレジスト調整である。レジスト調整は、プリント部4でシート上にテストパターンを形成して、検査部5でテストパターンを読み取ってプリントヘッド14の全てのノズルが正常に動作しているかを検査して、正しく動作するように調整する。プリント部4の調整が済んだら一連の初期化動作が完了して、通常のプリントを開始することができる。初期化動作の全体時間を決定付けるのは、主に乾燥部8および加湿部20の安定化とそれに続くプリント部4の調整である。従って、これらの時間をそれぞれ予測して合計時間を予測時間とすればよい。
【0039】
乾燥部8および加湿部20の安定化までの時間は、電源投入時のユニット内の温度・湿度やヒータ温度、プリント装置が置かれる外気温に依存して変化する。予測手段(制御部13)は、各ユニットが備える温度計測器や湿度計測器の現在の値を読み取る。そして、読み取った値と次回起動するまでの非稼動時間とから、計算によってあるいは予め経験則でテーブル化した値をメモリから読み出してして安定状態になるまでの時間を予測する。非稼動時間はユーザが操作部15で入力した開始時刻と装置の稼動終了時刻の2つの時刻の差分から取得することができる。乾燥部8と加湿部20のいずれか安定化時間が長い方を予測時間(第1の予測時間)とする。
【0040】
また、プリント部4の調整に要する時間はプリント装置の非稼動時間によって変化する。そこで、予測手段(制御部13)は、非稼動時間から計算によってあるいは予め経験則でテーブル化した値をメモリから読み出してしてレジスト調整に要する予測時間(第2の予測時間)とする。そして、予測手段は、第1の予測時間と第2の予測時間を合計した時間を、プリント装置の初期化動作に要する予測時間とする。
【0041】
なお、第2待機モード403では、乾燥部8および加湿部20はスリープ中も暖気されているので、スリープ解除してから短時間で安定状態になる。そのため、第2待機モード403から稼動状態401に移行するための簡易的な初期化動作は、主にプリント部4の調整(よくにレジスト調整)に要する時間が占める。そこで、予測手段はプリント部4の調整に要する時間を予測してこれを全体の予測時間としてもよい。なお、いずれの場合も、予測時間は実際の初期化動作に必要と予測される時間に、予測誤差を見込んで若干のマージン時間を足したものとする。
【0042】
図6は、非稼動状態から稼動状態への装置の起動シーケンス(電源オン制御)を示すフローチャートである。この起動シーケンスは、装置が待機モードであっても 一部が通電された制御部で行なうようになっている。
【0043】
ステップS101では、予測手段によって初期化動作(後述のステップS105)、及び簡易的な初期化動作(後述のステップS108)に要するであろう時間をそれぞれ予測して、予測時間を取得する。なお、予測時間は実際の初期化動作に必要と予測される時間に、予測誤差を見込んで若干のマージン時間を足したものとする。
【0044】
ステップS102では、予め設定された開始時刻に装置が稼動状態となっているように、非稼動状態の装置が初期化動作を開始する初期化開始時刻を設定する。初期化開始時刻は、第1待機モード402からの起動を開始する第1初期化開始時刻と、第2待機モード403からの起動を開始する第2初期化開始時刻の2つが設定される。初期化開始時刻は、開始時刻から予測時間だけ遡った時刻とする。予測時間だけ遡った時刻に初期化動作を開始することで、開始時刻には装置が稼動状態になる。
【0045】
ステップS103では、装置内の時計がステップS102で設定された第1初期化開始時刻になるまで待つ。ステップS104では、装置が非稼動状態における待機モードが第1待機モードであるか否か(第2待機モード)に応じて処理を分岐する。YES(第1待機モード)の場合はステップS105に、NO(第2待機モード)の場合はステップS107にそれぞれ移行する。ステップS105では、第1待機モードから復帰するため装置全体の各ユニットの初期化動作を行なう。初期化動作とは、起動してから装置の内部状態が安定してプリントを開始することができるまでの動作である。初期化動作は例えば、プリントヘッド14のクリーニング動作、乾燥部8の加熱動作、加湿部20の加湿動作、機内雰囲気(湿度や温度)を所定状態にするの空調動作、その他、装置が安定するまでの各種初期化動作である。初期化動作には数十分〜数時間の起動時間を要する。ステップS107では、上述のステップS102で設定された第2初期化開始時刻になるまで待つ。ステップS108では、第2待機モードから復帰するため、第1待機モードよりも簡易的な初期化動作を行なう。
【0046】
ステップS105またはステップS108で初期化動作が完了したら、ステップS106に移行し、設定された開始時刻には稼動状態となる。こうしてシーケンスを終了する。
【0047】
以上のように、制御部13は、設定部で設定された開始時刻と予測手段で予測した予測時間とに基づいて、開始時刻よりも早い時刻に装置を自動起動するように制御する。このため、開始時刻には装置が稼動状態になっているので、ユーザは長く待たされることなく装置を使用開始することができる。
【0048】
図7は、装置の稼動状態から非稼動状態への移行シーケンス(装置オフ制御)を示すフローチャートである。ステップS201では、装置稼動中に、装置オフの指令が発せられるまで待つ。装置オフの指令は、設定部で予め設定された稼動終了時刻(装置オフの指令時刻)になると自動的に発せられる。あるいは、装置をオフにしたいユーザが操作部15から電源オフを手動操作することで、任意のタイミングの装置オフの指令時刻に装置オフの指令が発せられる。
【0049】
ステップS202では、装置オフの指令時刻から、設定部で予め設定された次回ユーザが装置を使用開始する開始時刻までの時間差を計算して求める。そして求めた時間差(装置の非稼働時間を意味する)が、所定時間よりも長いか(YES)否か(NO)を判断する。所定時間とは、装置起動時の初期化動作に要する時間をもとに設定された時間である。具体的には、予測手段で取得された第1待機モード402からの復帰するときの初期化(ステップS105の処理)の予測時間を所定時間とする。なお、所定時間は初期化動作に要する時間の経験則から求めた一定の決まった時間としてもよい。YESの場合はステップS203に移行し、NOの場合はステップS204に移行する。ステップS203では第1待機モードに移行する。ステップS205では、第1待機モードよりも短時間に起動が可能な第2待機モードに移行する。こうしてシーケンスを終了する。
【0050】
以上のように、制御部は、装置オフの指令時刻から設定部で設定された次回の開始時刻までの時間差に応じて、第1待機モードと第2待機モードのいずれに移行するかを決定して、決定したモードに移行するよう制御する。もし、装置の非稼働時間が短い場合に第1待機モードに移行すると、次回の開始時刻までに初期化が完了せずにユーザを長く待たせてしまうことになる。本実施形態では、装置の非稼働時間が短い場合には浅いスリープ状態の第2待機モードに移行するので、次回の開始時刻には初期化が完了している若しくはほぼ完了しているので、ユーザを長く待たせてしまうといった事態を防ぐことができる。
【0051】
図8は、ユーザが装置使用の開始と終了の時刻を設定するシーケンスを示すフローチャートである。また、図9は、操作部15(設定部)のディプレイ上に表示される時刻の設定画面の一例を示す図である。図8において、ステップS301では、装置稼動中にユーザは操作部15を操作して、図9に示したような入力部801から、次回の使用開示時刻を設定する。ステップS302では、図9に示したような入力部802から、現在の稼動の稼動終了時刻を設定する。ステップS303では、稼働終了時間から使用開始時刻までの時間差を計算して求める。求めた時間差(装置の非稼動時間)が、所定時間、ここでは予測手段で取得された第1待機モード402から復帰するときの初期化の予測時間よりも長い(YES)か否か(NO)を判断する。YESの場合はシーケンスを終了する。NOの場合はステップS304に移行する。ステップS304では、第2待機状態で装置オフにする旨の警告を、操作部15のディスプレイに表示する。なお、ユーザが設定する稼働終了時間と使用開始時刻の間の時間差(装置の非稼動時間)が、装置オフの処理に要する時間(予測時間よりも更に短い所定時間)にも満たないほど短い場合は、ユーザの設定は無効にするかまたは受け付けない。そして、その旨の警告をディスプレイに表示する。こうしてシーケンスが終了する。
【0052】
以上説明してきた実施形態によれば、装置オフの指令時刻から装置の使用開始時刻までの時間差に応じて、第1待機モードと第2待機モードのいずれに移行するかを決定する。また、ユーザが装置を使用開始する時刻に先立って予め装置が自動的に起動して初期動作を開始する。このため、ユーザが長く待たされることなく装置を使用開始することができ、使い勝手に優れたプリント装置が実現する。
【符号の説明】
【0053】
1 シート供給部
2 デカール部
3 斜行矯正部
4 プリント部
5 検査部
6 カッタ部
7 情報記録部
8 乾燥部
9 反転部
10 排出搬送部
11 ソータ部
12 排出部
13 制御部
14 プリントヘッド
15 操作部
16 ホスト装置
20 加湿部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シートに画像を記録するプリント部と、
ユーザが装置を使用開始する開始時刻を設定することができる設定部と、
第1待機モードと、前記第1待機モードよりも短時間に起動することができる第2待機モードの少なくともいずれかで装置を非稼動状態にすることができる制御部とを有し、
前記制御部は、装置オフの指令時刻から前記設定部で設定された前記開始時刻までの時間差に応じて、前記第1待機モードと前記第2待機モードのいずれに移行するかを決定して、決定したモードに移行するよう制御することを特徴とするプリント装置。
【請求項2】
前記制御部は、前記時間差が所定時間よりも長い場合は前記第1待機モードに移行し、前記時間差が前記所定時間より長くない場合は前記第2待機モードに移行するよう制御することを特徴とする、請求項1記載のプリント装置。
【請求項3】
前記所定時間は、装置起動時の初期化動作に要する時間をもとに設定された時間であることを特徴とする、請求項2記載のプリント装置。
【請求項4】
前記装置オフの指令時刻は、前記設定部で設定される装置オフの時刻、または装置稼動中にユーザが装置オフを指令した時刻であることを特徴とする、請求項1から3のいずれかに記載のプリント装置。
【請求項5】
前記時間差が前記所定時間より長くない場合は、前記設定部が警告を発することを特徴とする、請求項2または3に記載のプリント装置。
【請求項6】
前記設定部で設定される前記開始時刻と前記装置オフの指令時刻との時間差が、前記所定時間よりもさらに短い別の所定時間に満たない場合は、前記設定は無効にするかまたは受け付けずに警告を発することを特徴とする、請求項5記載のプリント装置。
【請求項7】
装置起動時の初期化動作に要する時間を予測して予測時間を取得する予測手段を更に有し、
前記制御部は、設定された前記開始時刻と前記予測手段で取得された予測時間とに基づいて、設定された前記開始時刻よりも早い時刻に装置を自動起動するように制御することを特徴とする、請求項1から6のいずれかに記載のプリント装置。
【請求項8】
前記プリント部でプリントしたシートを乾燥させる乾燥部を有し、前記予測手段は前記乾燥部が安定状態になるまで時間と前記安定状態になった後に行なう前記プリント部のレジスト調整に要する時間とを元に、前記予測時間を取得することを特徴とする、請求項7記載のプリント装置。
【請求項9】
前記プリント部に供給する加湿気体を生成する加湿部を有し、前記予測手段は前記加湿部が安定状態になるまで時間と前記安定状態になった後に行なう前記プリント部のレジスト調整に要する時間とを元に、前記予測時間を取得することを特徴とする、請求項7記載のプリント装置。
【請求項10】
シートに画像を記録するプリント部と、
前記プリント部でプリントしたシートを乾燥させる乾燥部と、
ユーザが装置を使用開始する開始時刻を設定することができる設定部と、
前記乾燥部が安定状態になるまでの時間と、前記安定状態になった後に行なう前記プリント部の調整に要する時間とを元に、装置起動時の初期化動作に要する予測時間を取得する予測手段と、
前記設定部で設定された前記開始時刻と前記予測手段で取得された予測時間とに基づいて、前記開始時刻よりも早い時刻に装置を自動起動するように制御する制御部と
を有することを特徴とするプリント装置。
【請求項11】
前記プリント部に供給する加湿気体を生成する加湿部を更に有し、
前記予測手段は、前記乾燥部および前記加湿部が安定状態になるまでの時間と、前記安定状態になった後に行なう前記プリント部の調整に要する時間とを元に、前記予測時間を取得することを特徴とする、請求項10記載のプリント装置。
【請求項12】
前記プリント部は、インクジェット方式でプリントを行なうことを特徴とする、請求項1から11のいずれかに記載のプリント装置。
【請求項13】
装置を使用開始する開始時刻を設定する設定ステップと、
第1待機モードと、前記第1待機モードよりも短時間に起動することができる第2待機モードの少なくともいずれかで装置を非稼動状態にする制御ステップとを有し、
前記制御ステップは、装置オフの指令時刻から前記設定された前記開始時刻までの時間差に応じて、前記第1待機モードと前記第2待機モードのいずれに移行するかを決定して、決定したモードに移行するよう制御することを特徴とする装置の起動制御方法。
【請求項14】
装置起動時の初期化動作に要する予測時間を取得するステップと、
前記設定された前記開始時刻と前記取得された予測時間とに基づいて、前記開始時刻よりも早い時刻に装置を自動起動するように制御するステップと、
を有することを特徴とする、請求項13記載の起動制御方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2011−177941(P2011−177941A)
【公開日】平成23年9月15日(2011.9.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−42335(P2010−42335)
【出願日】平成22年2月26日(2010.2.26)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】