説明

プリント配線基板、および、プリント配線基板を選択する方法

【課題】本発明は、銅配線間の絶縁信頼性に優れたプリント配線基板を提供することを目的とする。
【解決手段】基板および基板上に配置される銅配線を有する銅配線付き基板と、銅配線を覆う窒素含有有機化合物を含有する銅イオン拡散抑制層とを有するプリント配線基板であって、窒素含有有機化合物の付着量が5×10-9〜1×10-6g/mm2であり、かつ、1.8質量%の硫酸と12質量%のペルオキソニ硫酸ナトリウムとを含むエッチング水溶液中に浸漬させた時の銅配線のエッチングレート(Bμm/分)と、銅イオン拡散抑制層を有しない銅配線付き基板をエッチング水溶液中に浸漬させた時の銅配線のエッチングレート(Aμm/分)と比(B/A)が1.2未満である、プリント配線基板。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プリント配線基板、および、プリント配線基板を選択する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電子機器の高機能化等の要求に伴い、電子部品の高密度集積化、高密度実装化等が進んでおり、これらに使用されるプリント配線基板等も小型化かつ高密度化が進んでいる。このような状況下、プリント配線基板中の配線の間隔はより狭小化しており、配線間の短絡を防止するためにも、配線間の絶縁信頼性のより一層の向上が要求されている。
【0003】
銅の配線間の絶縁性を阻害する要因の一つとしては、いわゆる銅イオンのマイグレーションが知られている。これは、配線回路間などで電位差が生じると水分の存在により配線を構成する銅がイオン化し、溶出した銅イオンが隣接する配線に移動する現象である。このような現象によって、溶出した銅イオンが時間と共に還元されて銅化合物となってデンドライト(樹枝状晶)状に成長し、結果として配線間を短絡してしまう。
【0004】
このようなマイグレーションを防止する方法として、ベンゾトリアゾールを使用したマイグレーション抑制層を形成する技術が提案されている(特許文献1および2)。より具体的には、これらの文献においては、配線基板上に銅イオンのマイグレーションを抑制するための層を形成し、配線間の絶縁信頼性の向上を目指している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2001−257451号公報
【特許文献2】特開平10−321994号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述したように、近年、配線の微細化が急激に進んでおり、配線間の絶縁信頼性についてより一層の向上が要求されている。
本発明者らは、特許文献1および2に記載されるベンゾトリアゾールを用いたマイグレーション抑制層について検討を行ったところ、そのマイグレーション抑制効果は昨今要求されるレベルを満たしておらず、さらなる改良が必要であった。
【0007】
また、従来技術において、マイグレーション抑制層を備えたプリント配線基板の配線間の絶縁性を評価するためには、配線間に長時間の電圧を印加する必要があるため評価の効率が悪く、いずれのプリント配線基板が好ましい結果を示すかを判断するのに長期間を要する。また、高額な評価装置を購入する必要があると共に、絶縁膜を備えた評価用のプリント配線基板などを用意する必要があり、その評価手順が煩雑であった。
【0008】
本発明は、上記実情に鑑みて、銅配線間の絶縁信頼性に優れたプリント配線基板を提供することを目的とする。
また、本発明は、より簡便な手順によって、銅配線間の絶縁信頼性に優れたプリント配線基板を選択する方法を提供することも目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、鋭意検討を行った結果、銅イオン拡散抑制層(マイグレーション抑制層)に含まれる銅と相互作用する窒素含有有機化合物の銅配線表面上での付着量と、プリント配線基板を所定のエッチング水溶液に浸漬した際の銅配線のエッチングレートと銅イオン拡散抑制層を有しない銅配線付き基板のエッチングレートとの比とが、銅配線間の絶縁信頼性に関連していることを見出し、本発明を完成するに至った。
具体的には、以下の構成により上記課題を解決できることを見出した。
【0010】
(1) 基板および基板上に配置される銅配線を有する銅配線付き基板と、銅配線を覆う窒素含有有機化合物を含有する銅イオン拡散抑制層とを有するプリント配線基板であって、
窒素含有有機化合物の付着量が5.0×10-9〜1.0×10-6g/mm2であり、かつ、
1.8質量%の硫酸と12質量%のペルオキソニ硫酸ナトリウムとを含むエッチング水溶液中に浸漬させた時の銅配線のエッチングレート(Bμm/分)と、銅イオン拡散抑制層を有しない銅配線付き基板をエッチング水溶液中に浸漬させた時の銅配線のエッチングレート(Aμm/分)との比(B/A)が1.20未満である、プリント配線基板。
(2) 窒素含有有機化合物が、アゾール化合物を含む、(1)に記載のプリント配線基板。
(3) 窒素含有有機化合物が、1,2,3−トリアゾールおよび/または1,2,4−トリアゾールを含む、(1)または(2)に記載のプリント配線基板。
【0011】
(4) 基板および基板上に配置される銅配線を有する銅配線付き基板と、銅配線を覆う窒素含有有機化合物を含有する銅イオン拡散抑制層とを有するプリント配線基板の中から銅配線間の絶縁性に優れたプリント配線基板を選択する方法であって、
窒素含有有機化合物の付着量が5.0×10-9〜1.0×10-6g/mm2であり、かつ
1.8質量%の硫酸と12質量%のペルオキソニ硫酸ナトリウムとを含むエッチング水溶液中に浸漬させた時の銅配線のエッチングレート(Bμm/分)と、銅イオン拡散抑制層を有しない銅配線付き基板をエッチング水溶液中に浸漬させた時の銅配線のエッチングレート(Aμm/分)との比(B/A)が1.20未満であるプリント配線基板を選択する方法。
(5) 窒素含有有機化合物が、アゾール化合物を含む、(4)に記載のプリント配線基板を選択する方法。
(6) 窒素含有有機化合物が、1,2,3−トリアゾールおよび/または1,2,4−トリアゾールを含む、(4)または(5)に記載のプリント配線基板を選択する方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、銅配線間の絶縁信頼性に優れたプリント配線基板を提供することができる。
また、本発明によれば、より簡便な手順によって、銅配線間の絶縁信頼性に優れたプリント配線基板を選択する方法を提供することもできる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明のプリント配線基板の一実施形態を表す模式的断面図である。
【図2】本発明の絶縁膜付きプリント配線基板の製造方法の各工程を順に示す模式的断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下に、本発明のプリント配線基板、および、プリント配線基板を選択する方法の好適態様について詳述する。
本発明の特徴点としては、銅イオン拡散抑制層に含有される銅と相互作用する窒素含有有機化合物の銅配線上における付着量、および、プリント配線基板を所定のエッチング水溶液に浸漬した際の銅配線のエッチングレートと銅イオン拡散抑制層を有しない未処理の銅配線付き基板を使用した場合のエッチングレートとの比と、銅イオンのマイグレーション抑制機能との関係を見出した点が挙げられる。
【0015】
通常、有機皮膜で覆われた銅配線付き基板をエッチング液に浸漬する場合、銅配線が有機皮膜で覆われているために、銅配線のエッチングが進行しないことが予想される。一方、本発明者らは、マイグレーション抑制機能に優れた窒素含有有機化合物を含む銅イオン拡散抑制層で覆われた銅配線付き基板を所定のエッチング液に浸漬すると、一定範囲の銅配線のエッチングレートを示すことを見出した。銅と相互作用する窒素含有有機化合物を使用した場合にエッチングが発生する原因としては、キレート効果によると考えられる。プリント配線基板のエッチングレートと、銅イオン拡散抑制層を有しない銅配線付き基板のエッチングレートとの比が所定値以上の場合、窒素含有有機化合物の銅に対する溶解性が強くなりすぎて、多量の銅イオンが銅イオン拡散抑制層の中に含まれることになり、マイグレーション抑制効果が低下する。
【0016】
また、銅イオン拡散抑制層(マイグレーション抑制層)の銅配線上における銅と相互作用する窒素含有有機化合物の付着量が所定範囲内である場合、銅配線より発生する銅イオンのマイグレーションが抑制され、結果として銅配線間の絶縁信頼性がより向上する。なお、銅イオン拡散抑制層の付着量が小さいと、銅配線より発生する銅イオンをトラップする能力が低く、結果として銅のデンドライトの発生などを抑制できず、銅配線間の絶縁信頼性を担保できない。付着量が大きいと、プリント配線基板において銅配線と絶縁膜の密着を阻害し、銅配線間の絶縁信頼性を悪化させてしまう。
【0017】
まず、本発明のプリント配線基板中の窒素含有有機化合物の付着量、および、銅配線のエッチングレートに関して詳述し、その後使用されるプリント配線基板の構成について詳述する。
【0018】
銅イオン拡散抑制層中における窒素含有有機化合物の付着量は、銅配線の全表面積に対して、5.0×10-9〜1.0×10-6g/mm2であり、5.0×10-9〜2.0×10-7g/mm2であることが好ましく、1.0×10-8〜6.0×10-8g/mm2であることがより好ましい。窒素含有有機化合物の付着量が上記範囲であれば、銅イオンのマイグレーションを抑制できる。
なお、付着量は、公知の方法(例えば、吸光度測定法)によって測定することができる。具体的には、まず水で銅配線間に存在する銅イオン拡散抑制層を洗浄する(水による抽出法)。その後、有機酸(例えば、硫酸)により銅配線上の銅イオン拡散抑制層を抽出し、吸光度を測定して、液量と塗布面積から付着量を算出する。
【0019】
本発明のプリント配線基板は、該基板を1.8質量%の硫酸と12質量%のペルオキソニ硫酸ナトリウムとを含むエッチング水溶液中に浸漬させた時の銅配線のエッチングレート(Bμm/分)と、銅イオン拡散抑制層を有しない未処理の銅配線付き基板を該エッチング水溶液中に浸漬させた時の銅配線のエッチングレート(Aμm/分)との比(B/A)が1.20未満を満たす。
上記エッチングレートの比が上記範囲であれば、銅イオン拡散抑制層が優れたマイグレーション抑制効果を示し、結果として銅配線間の絶縁信頼性に優れる。なかでも、マイグレーション抑制効果がより優れる点で、上記エッチングレートの比は1.10未満であることが好ましく、1.05未満であることがより好ましく、1.00未満であることがさらに好ましい。なお、下限は、銅イオン拡散防止層の皮膜付着量の点で、0.60以上であることが好ましく、0.65以上であることがより好ましい。
【0020】
一方、上記エッチングレートの比が1.20以上の場合、高温・高湿環境(例えば、HAST試験環境下)などにおいて銅配線中の銅の溶解が促進され、結果として銅配線間の絶縁信頼性が損なわれる。エッチングレートの比が0.60未満の場合、所定のエッチング液のエッチング効果を阻害するほどの皮膜付着量となったり、より疎水的な皮膜となり、プリント配線基板において銅配線と絶縁膜の密着を阻害しやすく、銅配線間の絶縁信頼性を悪化させてしまう場合がある。
【0021】
エッチングレートの測定方法は、公知の方法(例えば、重量法)によって測定することができる。より具体的には、重量法は、1.8質量%の硫酸と12質量%のペルオキソニ硫酸ナトリウムとを含むエッチング水溶液に、銅イオン拡散抑制層を有するプリント配線基板を所定時間(90秒程度)浸漬させ、浸漬前後でのプリント配線基板の重量変化と経過時間の関係からエッチングレートを算出する。
なお、上記プリント配線基板の代わりに銅配線付き基板を使用することにより、銅イオン拡散抑制層を有しない銅配線付き基板の銅配線のエッチングレートを算出する。
【0022】
使用されるエッチング水溶液には、水溶液全量に対して、1.8質量%の硫酸と、12質量%のペルオキソニ硫酸ナトリウムが含まれる。
また、エッチング水溶液中の溶媒は、水である。
【0023】
上述した付着量およびエッチングレートが所定の範囲内であるプリント配線基板は、銅配線間の絶縁信頼性に優れる。
言い換えると、基板および基板上に配置される銅配線を有する銅配線付き基板と、銅配線を覆う窒素含有有機化合物を含有する銅イオン拡散抑制層とを有するプリント配線基板の中から銅配線間の絶縁性に優れたプリント配線基板を選択する方法として、窒素含有有機化合物の付着量が5.0×10-9〜1.0×10-6g/mm2であり、かつ1.8質量%の硫酸と12質量%のペルオキソニ硫酸ナトリウムとを含むエッチング水溶液中に浸漬させた時の銅配線のエッチングレート(Bμm/分)と、銅イオン拡散抑制層を有しない銅配線付き基板をエッチング水溶液中に浸漬させた時の銅配線のエッチングレート(Aμm/分)と比(B/A)が1.20未満であるプリント配線基板を選択する方法が挙げられる。該方法によれば、簡易的な装置で、簡便な手順によって、かつ、短時間に、銅配線間の絶縁信頼性に優れたプリント配線基板を選択することができる。
【0024】
次に、図1に本発明のプリント配線基板の一実施形態を示す。
プリント配線基板10は、基板12と、基板12上に配置される銅配線14と、銅配線14を覆う銅イオン拡散抑制層16とを有する。
以下に、プリント配線基板10を構成する各部材について詳述する。
【0025】
(基板)
基板は、後述する銅配線を支持できるものであれば特に制限されないが、通常、絶縁基板である。絶縁基板としては、例えば、有機基板、セラミック基板、シリコン基板、ガラス基板などを使用することができる。
有機基板の材料としては樹脂が挙げられ、例えば、熱硬化性樹脂、熱可塑性樹脂、またはそれらを混合した樹脂を使用することが好ましい。熱硬化性樹脂としては、フェノール樹脂、尿素樹脂、メラミン樹脂、アルキッド樹脂、アクリル樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ジアリルフタレート樹脂、エポキシ樹脂、シリコーン樹脂、フラン樹脂、ケトン樹脂、キシレン樹脂、ベンゾシクロブテン樹脂等が挙げられる。熱可塑性樹脂としては、ポリイミド樹脂、ポリフェニレンオキサイド樹脂、ポリフェニレンサルファイド樹脂、アラミド樹脂、液晶ポリマー等が挙げられる。
なお、有機基板の材料としては、ガラス織布、ガラス不織布、アラミド織布、アラミド不織布、芳香族ポリアミド織布や、これらに上記樹脂を含浸させた材料なども使用できる。
【0026】
(銅配線)
基板上の配線は、銅で構成される。
基板上への銅配線の形成方法は特に制限されず、公知の方法が採用できる。代表的には、エッチング処理を利用したサブトラクティブ法や、電解めっきを利用したセミアディティブ法が挙げられる。
【0027】
銅配線の幅は特に制限されないが、プリント配線基板の高集積化の点から、1〜1000μmが好ましく、3〜25μmがより好ましい。
銅配線間の間隔は特に制限されないが、プリント配線基板の高集積化の点から、1〜1000μmが好ましく、3〜25μmがより好ましい。
また、銅配線のパターン形状は特に制限されず、任意のパターンであってよい。例えば、直線状、曲線状、矩形状、円状などが挙げられる。
【0028】
銅配線の厚みは特に制限されないが、プリント配線基板の高集積化の点から、1〜1000μmが好ましく、3〜25μmがより好ましい。
銅配線の表面粗さRzは特に制限されないが、後述する絶縁膜との密着性の観点から、0.001〜15μmが好ましく、0.3〜3μmがより好ましい。
銅配線の表面粗さRzを調整する方法としては、公知の方法を使用でき、例えば、化学粗化処理、バフ研磨処理などが挙げられる。
なお、RzはJIS B 0601(1994年)に従って測定する。
【0029】
(銅イオン拡散抑制層)
銅イオン拡散抑制層は、上述したように、銅配線を覆い、窒素含有有機化合物を含む層である。より具体的には、図1に示すように、銅イオン拡散抑制層16は銅配線14表面を覆うように配置される。該銅イオン拡散抑制層16が形成されることにより、銅配線14表面からの銅イオンのマイグレーションが抑制される。
なお、銅イオン拡散抑制層16の銅配線14表面上の付着量は、上述の通りである。
【0030】
図1に示すように、基板12上の銅配線14間には銅イオン拡散抑制層16は設けられていないことが好ましい。つまり、実質的に、銅配線14表面上のみに、銅イオン拡散抑制層16が形成されていることが好ましい。基板12上の銅配線14間に銅イオン拡散抑制層16があると、銅配線間の絶縁信頼性が損なわれる懸念があると共に、後述する絶縁膜と基板との密着性が損なわれる虞がある。
【0031】
まず、銅イオン拡散抑制層中に含まれる窒素含有有機化合物について詳述する。
窒素含有有機化合物は、少なくとも窒素原子を含む化合物であって、該窒素原子を介して銅配線に吸着する。窒素含有有機化合物としては、所定量の付着量で、上述したエッチングレートの比が所定の範囲内に入るような銅イオン拡散抑制層を形成し得る化合物であれば、特に制限されない。例えば、アゾール化合物、アミン化合物、アジリジン化合物、イソシアナート化合物、ウレタン化合物、イミン化合物などが挙げられる。なかでも、銅イオン拡散抑制層の銅イオンのマイグレーション抑制能がより優れる点で、アゾール化合物が好ましい。
【0032】
アゾール化合物は、環内に窒素原子1個以上を含む単環式の複素5員環化合物である。例えば、窒素原子の数が2個であるジアゾール、窒素原子の数が3個であるトリアゾール、および、窒素原子の数が4個であるテトラゾールなどが挙げられる。より具体的には、1,2,3−トリアゾール、1,2,4−トリアゾール、3−アミノ−1,2,4−トリアゾール、テトラゾールなどが挙げられる。なかでも、銅イオンのマイグレーション抑制効果がより優れる点で、トリアゾールが好ましく、具体的には、1,2,3−トリアゾールおよび/または1,2,4−トリアゾールが好ましい。
なお、本発明においては、2種以上のアゾール化合物が含まれていてもよい。
また、該アゾール化合物は、本発明の効果を損なわない限り、アミド基などの置換基を有していてもよい。
なお、複素5員環を含む多環式の有機化合物は、アゾール化合物には該当しない。つまり、複素5員環を含む多環式芳香族化合物であるベンゾトリアゾールは、本明細書のアゾール化合物には含まれない。
【0033】
銅イオン拡散抑制層中における窒素含有有機化合物の含有量は、銅イオンのマイグレーションをより抑制できる点から、0.1〜100質量%であることが好ましく、20〜100質量%であることがより好ましく、50〜90質量%であることがさらに好ましい。特に、銅イオン拡散抑制層は、実質的に窒素含有有機化合物で構成されていることが好ましい。窒素含有有機化合物の含有量の少なすぎると、銅イオンのマイグレーション抑制効果が低くなる。
【0034】
銅イオン拡散抑制層中には、銅イオンまたは金属銅が実質的に含まれていないことが好ましい。銅イオン拡散抑制層に所定量以上の銅イオンまたは金属銅が含まれていると、本発明の効果に劣る場合がある。
【0035】
[プリント配線基板の製造方法]
上述したプリント配線基板の製造方法は特に制限されないが、生産性が高く、基板上の銅配線間における銅イオン拡散抑制層を除去しやすい点で、後述する層形成工程および乾燥工程を備えることが好ましい。
以下に、それぞれの工程について詳述する。
【0036】
(層形成工程)
該工程では、まず、基板および基板上に配置される銅配線を有する銅配線付き基板(コア基板)と、窒素含有有機化合物を含み、pH5〜9を示す処理液とを接触させる(接触工程)。その後、銅配線付き基板を溶剤(洗浄溶剤)で洗浄して、銅配線表面上に窒素含有有機化合物を含む銅イオン拡散抑制層を形成する(洗浄工程)。該工程によって、銅配線の表面を覆うように、銅イオン拡散抑制層が形成され、銅のマイグレーションが抑制される。
まず、層形成工程で使用される材料(銅配線付き基板、処理液など)について説明し、その後層形成工程の手順について説明する。
【0037】
(銅配線付き基板)
本工程で使用される銅配線付き基板(コア基板)は、基板と、基板上に配置される銅配線とを有する。言い換えれば、銅配線付き基板は基板と銅配線とを少なくとも有する積層構造で、最外層に銅配線が配置されていればよく、基板と銅配線との間に他の金属配線(配線パターン)および層間絶縁層をこの順で備えていてもよい。なお、他の金属配線および層間絶縁層は、基板と銅配線との間に、この順でそれぞれの層を2層以上交互に含まれていてもよい。つまり、銅配線付き基板は、いわゆる多層配線基板、ビルドアップ基板であってもよい。
【0038】
層間絶縁層としては、公知の絶縁材料を使用することができ、例えば、フェノール樹脂、ナフタレン樹脂、ユリア樹脂、アミノ樹脂、アルキッド樹脂、エポキシ樹脂、アクリレート樹脂などが挙げられる。
また、銅配線付き基板は、いわゆるリジッド基板、フレキシブル基板、リジッドフレキシブル基板であってもよい。
銅配線は、基板の片面だけに設けられていても、両面に設けられていてもよい。つまり、銅配線付き基板は、片面基板であっても、両面基板であってもよい。
【0039】
銅配線付き基板中の基板の定義は、上述した通りである。また、銅配線付き基板中の配線の定義も、上述した通りである。
【0040】
(処理液)
本工程で使用される処理液は、窒素含有有機化合物を含み、pH5〜9を示す。
窒素含有有機化合物の定義は、上述の通りである。なお、該製造方法において、窒素含有有機化合物としてベンゾトリアゾールを使用した場合、後述する洗浄工程における洗浄溶媒による洗浄によって、大半のベンゾトリアゾールが洗い流されてしまい、結果として所定の付着量の銅イオン拡散抑制層を得ることができない。また、過剰のエッチング剤を含むベンゾトリアゾール含有処理液や、エッチング能を持つイミダゾール化合物を含む処理液では、銅配線上に形成される有機皮膜中に銅イオンが過剰に含まれてしまい、結果として所定の銅配線のエッチングレートの比を得ることができない。
なお、該製造方法において、窒素含有有機化合物として、チオシアヌル酸、3−アミノ−1,2,4−トリアゾールを使用した場合も、所望の特性を示すプリント配線基板を得ることはできない。
【0041】
処理液中における窒素含有有機化合物の総含有量は特に制限されないが、銅イオン拡散抑制層の形成のしやすさ、および、銅イオン拡散抑制層の付着量制御の点から、処理液全量に対して、0.01〜10質量%が好ましく、0.1〜5質量%がより好ましく、0.25〜5質量%が特に好ましい。窒素含有有機化合物の総含有量が多すぎると、銅イオン拡散抑制層の堆積量の制御が困難となる。窒素含有有機化合物の総含有量が少なすぎると、所望の銅イオン拡散抑制層の堆積量になるまで時間がかかり、生産性が悪い。
【0042】
処理液には溶剤が含まれていてもよい。使用される溶剤は特に制限されず、例えば、水、アルコール系溶剤(例えば、メタノール、エタノール、イソプロパノール)、ケトン系溶剤(例えば、アセトン、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン)、アミド系溶剤(例えば、ホルムアミド、ジメチルアセトアミド、N−メチルピロリドン)、ニトリル系溶剤(例えば、アセトニトリル、プロピオニトリル)、エステル系溶剤(例えば、酢酸メチル、酢酸エチル)、カーボネート系溶剤(例えば、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート)、エーテル系溶剤、ハロゲン系溶剤などが挙げられる。これらの溶剤を、2種以上混合して使用してもよい。
【0043】
なかでも、プリント配線基板製造における安全性の点で、水、アルコール系溶剤が好ましい。特に、溶剤として水を使用すると、銅配線付き基板と処理液を接触させる際に浸漬法を採用する場合に、特異的に窒素含有有機化合物が銅配線表面に自己堆積しやすいことから、好ましい。
処理液中における溶剤の含有量は特に制限されないが、処理液全量に対して、90〜99.99質量%が好ましく、95〜99.9質量%がより好ましく、95〜99.75質量%が特に好ましい。
【0044】
一方、プリント配線基板中の銅配線間の絶縁信頼性を高める点で、処理液には銅イオンが実質的に含まれていないことが好ましい。過剰量の銅イオンが含まれていると、銅イオン拡散抑制層を形成する際に該層中に銅イオンが含まれることになり、銅イオンのマイグレーションを抑制する効果が薄れ、銅配線間の絶縁信頼性が損なわれることがある。
なお、銅イオンが実質的に含まれないとは、処理液中における銅イオンの含有量が、1μmol/l以下であることを指し、0.1μmol/l以下であることがより好ましい。最も好ましくは0mol/lである。
【0045】
また、プリント配線基板中の銅配線間の絶縁信頼性を高める点で、処理液には銅のエッチング剤が実質的に含まれていないことが好ましい。処理液中にエッチング剤が含まれていると、銅配線付き基板と処理液とを接触させる際に、処理液中に銅イオンが溶出することがある。そのため結果として、銅イオン拡散抑制層中に銅イオンが含まれることになり、銅イオンのマイグレーションを抑制する効果が薄れ、銅配線間の絶縁信頼性が損なわれることがある。
エッチング剤としては、例えば、有機酸(例えば、硫酸、硝酸、塩酸、酢酸、ギ酸、ふっ酸)、酸化剤(例えば、過酸化水素、濃硫酸)、キレート剤(例えば、イミノジ酢酸、ニトリロトリ酢酸、エチレンジアミン4酢酸、エチレンジアミン、エタノールアミン、アミノプロパノール)、チオール化合物などが挙げられる。また、エッチング剤としては、イミダゾールや、イミダゾール誘導体化合物などのように自身が銅のエッチング作用を持つものも含まれる。
なお、エッチング剤が実質的に含まれないとは、処理液中におけるエッチング剤の含有量が、処理液全量に対して、0.01質量%以下であることを指し、銅配線間の絶縁信頼性をより高める点で、0.001質量%以下であることがより好ましい。最も好ましくは0質量%である。
【0046】
処理液のpHは、5〜9を示す。なかでも、プリント配線基板中の銅配線間の絶縁信頼性がより優れる点から、pHは6〜8であることがより好ましい。
処理液のpHが5未満であると、銅配線から銅イオンの溶出が促進され、銅イオン拡散抑制層に銅イオンが多量に含まれることになり、結果として銅のマイグレーションを抑制する効果が低下する場合がある。処理液のpHが9超であると、水酸化銅が析出し、酸化溶解しやすくなり、結果として銅のマイグレーションを抑制する効果が低下する場合がある。
なお、pHの調整は、公知の酸(例えば、塩酸、硫酸)や、塩基(例えば、水酸化ナトリウム)を用いて行うことができる。また、pHの測定は、公知の測定手段(例えば、pHメーター(水溶媒の場合))を用いて実施できる。
【0047】
なお、上記処理液には、他の添加剤(例えば、pH調整剤、界面活性剤、防腐剤、析出防止剤など)が含まれていてもよい。
【0048】
(溶剤(洗浄溶剤))
銅配線付き基板を洗浄する洗浄工程で使用される溶剤(洗浄溶剤)は、基板上の銅配線間に堆積した余分な窒素含有有機化合物などを除去することができれば、特に制限されない。なかでも、窒素含有有機化合物が溶解する溶剤であることが好ましい。該溶剤を使用することにより、基板上に堆積した余分な窒素含有有機化合物や、配線上の余分な窒素含有有機化合物などをより効率的に除去することができる。
溶剤としては、例えば、水、アルコール系溶剤(例えば、メタノール、エタノール、プロパノール)、ケトン系溶剤(例えば、アセトン、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン)、アミド系溶剤(例えば、ホルムアミド、ジメチルアセトアミド、N−メチルピロリドン)、ニトリル系溶剤(例えば、アセトニトリル、プロピオニトリル)、エステル系溶剤(例えば、酢酸メチル、酢酸エチル)、カーボネート系溶剤(例えば、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート)、エーテル系溶剤、ハロゲン系溶剤などが挙げられる。これらの溶剤を、2種以上混合して使用してもよい。
なかでも、微細配線間への液浸透性の点から、水、アルコール系溶剤、およびメチルエチルケトンからなる群から選ばれる少なくとも1つを含む溶剤であることが好ましく、アルコール系溶剤と水の混合液であることがより好ましい。
【0049】
使用される溶剤の沸点(25℃、1気圧)は特に制限されないが、安全性の観点で、75〜100℃が好ましく、80〜100℃がより好ましい。
【0050】
使用される溶剤の表面張力(25℃)は特に制限されないが、銅配線間の洗浄性がより優れ、銅配線間の絶縁信頼性がより向上する点から、10〜80mN/mであることが好ましく、15〜60mN/mであることがより好ましい。
【0051】
(層形成工程の手順)
層形成工程を、接触工程と洗浄工程の2つの工程に分けて説明する。
【0052】
(接触工程)
まず、基板および基板上に配置される銅配線を有する銅配線付き基板と、窒素含有有機化合物を含み、pH5〜9を示す処理液とを接触させる。より具体的には、図2(A)に示す基板12と銅配線14とを含む銅配線付き基板18と上記処理液とを接触させることにより、図2(B)に示すように、銅配線付き基板18上に窒素含有有機化合物を含む層20が形成される。該層20は、基板12上、および、銅配線14上に形成される。つまり、本工程は、言い換えると、銅配線付き基板と処理液とを接触させ、窒素含有有機化合物で基板表面と銅配線表面とを覆う工程である。
【0053】
窒素含有有機化合物を含む層には、窒素含有有機化合物が含有される。その含有量などは、上述した銅イオン拡散抑制層中の含有量と同義である。また、その付着量は特に制限されず、後述する洗浄工程を経て、所望の付着量の銅イオン拡散抑制層を得ることができるような付着量であることが好ましい。
【0054】
銅配線付き基板と上記処理液との接触方法は特に制限されず、公知の方法を採用することができる。例えば、ディップ浸漬、シャワー噴霧、スプレー塗布、スピンコートなどが挙げられ、処理の簡便さ、処理時間の調整の容易さから、ディップ浸漬、シャワー噴霧、スプレー塗布が好ましい。
【0055】
また、接触の際の処理液の液温としては、銅イオン拡散抑制層の付着量制御の点で、5〜60℃の範囲が好ましく、15〜50℃の範囲がより好ましく、20〜40℃の範囲がさらに好ましい。
また、接触時間としては、生産性、および銅イオン拡散抑制層の付着量制御の点で、10秒〜30分の範囲が好ましく、15秒〜10分の範囲がより好ましく、30秒〜5分の範囲がさらに好ましい。
【0056】
(洗浄工程)
次に、銅配線付き基板を溶剤で洗浄して、銅配線表面上に窒素含有有機化合物を含む銅イオン拡散抑制層を形成する。具体的には、図2(B)で得られた窒素含有有機化合物を含む層20が設けられた銅配線付き基板18を上記洗浄溶剤で洗浄することにより、図2(C)に示すように、銅配線14間の窒素含有有機化合物を含む層20が除去されると共に、銅配線14上の余分な窒素含有有機化合物が除去され、銅配線14上に窒素含有有機化合物を含む銅イオン拡散抑制層16が形成される。つまり、本工程は、言い換えると、溶剤を用いて銅配線付き基板を洗浄して、基板表面上の窒素含有有機化合物を除去する工程である。
【0057】
洗浄方法は特に制限されず、公知の方法を採用することができる。例えば、銅配線付き基板上に洗浄溶剤を塗布する方法、洗浄溶剤中に銅配線付き基板を浸漬する方法などが挙げられる。
また、洗浄溶剤の液温としては、銅イオン拡散抑制層の付着量制御の点で、5〜60℃の範囲が好ましく、15〜30℃の範囲がより好ましい。
また、銅配線付き基板と洗浄溶剤との接触時間としては、生産性、および銅イオン拡散抑制層の付着量制御の点で、10秒〜10分の範囲が好ましく、15秒〜5分の範囲がより好ましい。
【0058】
(乾燥工程)
該工程では、銅イオン拡散抑制層が設けられた銅配線付き基板を加熱乾燥する。銅配線付き基板上に水分が残存していると、銅イオンのマイグレーションを促進させるおそれがあるため、該工程を設けることにより水分を除去することが好ましい。
【0059】
加熱乾燥条件としては、銅配線の酸化を抑制する点で、70〜120℃(好ましくは、80℃〜110℃)で、15秒〜10分間(好ましくは、30秒〜5分)実施することが好ましい。乾燥温度が低すぎる、または、乾燥時間が短すぎると、水分の除去が十分でない場合があり、乾燥温度が高すぎる、または、乾燥時間が長すぎると、酸化銅が形成されるおそれがある。
乾燥に使用する装置は特に限定されず、恒温層、ヒーターなど公知の加熱装置を使用することができる。
【0060】
なお、本工程は任意の工程であり、層形成工程で使用される溶媒が揮発性に優れる溶媒である場合などは、本工程は実施しなくてもよい。
【0061】
本発明のプリント配線基板は、必要に応じて、銅イオン拡散抑制層を覆うように絶縁膜を有していてもよい。より具体的には、図2(D)に示すように、絶縁膜22が、銅イオン拡散抑制層16が表面に設けられた銅配線14に接するように銅配線付き基板18上に設けられる。つまり、基板12と、基板12上に配置される銅配線14と、銅配線14上に配置される絶縁膜22とを備え、銅配線14と絶縁膜22との間に銅イオン拡散抑制層16が介在する積層体(絶縁膜付きプリント配線基板)を得ることができる。絶縁膜22が設けられることにより、銅配線14間の絶縁信頼性がより担保される。また、基板12と絶縁膜22とが直接接触できるために、絶縁膜22の密着性が優れる。
まず、使用される絶縁膜について説明し、次に絶縁膜の形成方法について説明する。
【0062】
絶縁膜としては、公知の絶縁性の材料を使用することができる。例えば、いわゆる層間絶縁膜として使用されている材料を使用することができ、具体的には、エポキシ樹脂、アラミド樹脂、結晶性ポリオレフィン樹脂、非晶性ポリオレフィン樹脂、フッ素含有樹脂(ポリテトラフルオロエチレン、全フッ素化ポリイミド、全フッ素化アモルファス樹脂など)、ポリイミド樹脂、ポリエーテルスルフォン樹脂、ポリフェニレンサルファイド樹脂、ポリエーテルエーテルケトン樹脂、アクリレート樹脂など挙げられる。層間絶縁膜としては、例えば、味の素ファインテクノ(株)製、ABF GX−13などが挙げられる。
また、絶縁膜として、いわゆるソルダーレジスト層を使用してもよい。ソルダーレジストは市販品を用いてもよく、具体的には、例えば、太陽インキ製造(株)製 PFR800、PSR4000(商品名)、日立化成工業(株)製 SR7200Gなどが挙げられる。
【0063】
絶縁膜の形成方法は特に制限されず、公知の方法を採用することができる。例えば、絶縁膜のフィルムを直接プリント配線基板上にラミネートする方法や、絶縁膜を構成する成分を含む絶縁膜形成用組成物をプリント配線基板上に塗布する方法や、プリント配線基板を該絶縁膜形成用組成物に浸漬する方法などが挙げられる。
なお、上記絶縁膜形成用組成物には、必要に応じて溶剤が含まれていてもよい。溶剤を含む絶縁膜形成用組成物を使用する場合は、該組成物を基板上に配置した後、必要に応じて溶剤を除去するために加熱処理を施してもよい。
また、絶縁膜をプリント配線基板上に設けた後、必要に応じて、絶縁膜に対してエネルギー付与(例えば、露光または加熱処理)を施してもよい。
なお、絶縁膜は、プリント配線基板上の全面に設けられても、一部に設けられてもよい。例えば、プリント配線基板中の銅配線の一部が露出するように、銅配線を覆うように設けられてもよい。
【0064】
形成される絶縁膜の膜厚は特に制限されず、銅配線間の絶縁信頼性の観点からは、5〜50μmが好ましく、15〜40μmがより好ましい。
【0065】
また、得られた絶縁膜を一部除去して、半導体チップを実装して、プリント回路板として使用してもよい。
例えば、絶縁膜としてソルダーレジストを使用する場合は、所定のパターン状のマスクを絶縁膜上に配置し、エネルギーを付与して硬化させ、エネルギー未付与領域の絶縁膜を除去して銅配線を露出させる。次に、露出した銅配線の表面を公知の方法で洗浄(例えば、硫酸や界面活性剤を使用して洗浄)した後、半導体チップを銅配線表面上に実装する。
絶縁膜として公知の層間絶縁膜を使用する場合は、ドリル加工やレーザー加工により、絶縁膜を除去することができる。
【0066】
[用途]
本発明のプリント配線基板は、種々の用途および構造に対して使用することができ、例えば、マザーボード用基板や半導体パッケージ用基板、MID(Molded Interconnect Device)基板などが挙げられ、リジット基板、フレキシブル基板、フレックスリジット基板、成型回路基板などに対して使用することができる。
なお、本発明のプリント配線基板の銅配線間に発生するデンドライトの成長速度(μm/秒)は、絶縁特性がより優れる点で、2.9μm/秒以下であることが好ましく、2.5μm/秒以下であることがより好ましく、2.0μm/秒以下であることがさらに好ましい。
【実施例】
【0067】
以下、実施例により、本発明について更に詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0068】
(実施例1)
ガラスエポキシ基板を用いて、サブトラクティブ法により、L/S=100μm/100μmの櫛型銅配線基板(銅配線付き基板)を形成した。銅配線付き基板は以下の方法により作製した。
【0069】
銅張積層板(日立化成社製 MCL−E−679F、基板:ガラスエポキシ基板)上にドライフィルムレジスト(DFR,商品名;RY3315,日立化成工業株式会社製)を真空ラミネーターにより、0.2MPaの圧力で70℃の条件にてラミネートした。ラミネート後、銅パターン形成部を中心波長365nmの露光機にて、70mJ/cm2の条件でマスク露光した。その後、1%重曹水溶液にて現像して、水洗を行い、サブトラクティブ・エッチング用のレジストパターンを得た。
次に、レジストパターンが形成されていない非レジスト部の銅がエッチングされるまで、得られた基板に45℃の40%酸化第二銅液をスプレー噴射した。その後、得られた基板を水洗した。
次に、レジストパターンを剥離すために、45℃の4%NaOH水溶液に基板を60秒間浸漬した。その後、得られた基板を水洗し、1%硫酸に30秒間浸漬した。その後、再び水洗した。
次に、前処理剤(メック社製 CA−5330)により銅配線表面の汚れ等を除去した後、粗化処理剤(メック社製 CZ−8110)により、銅配線表面の粗化処理を施して、L/S=100μm/100μmの銅配線付き基板を得た。得られた銅配線の表面粗さは、Rz=1.0μmであった。
【0070】
次に、得られた銅配線付き基板を、1,2,3−トリアゾールを含む水溶液(溶媒:水、1,2,3−トリアゾールの含有量:水溶液全量に対して2.5質量%、液温:25℃、pH:7)に30秒間浸漬した。その後、エタノールを用いて得られた銅配線付き基板を洗浄した(接触時間:2分、液温度:25℃)。さらに、その後、基板を100℃で2分間乾燥処理して、銅配線付き基板上に銅イオン拡散抑制層を有する銅イオン拡散抑制層付き銅配線基板(プリント配線基板に該当)を得た。
【0071】
反射率測定を行うことにより、銅配線上に1,2,3−トリアゾールを含む銅イオン拡散抑制層が形成されていることを確認した。また、上述した吸光度測定により該トリアゾール化合物の付着量は3.5×10-8g/mm2であった。
次に、得られた銅イオン拡散抑制層付き銅配線基板を、1.8質量%の硫酸と12質量%のペルオキソニ硫酸ナトリウムとを含むエッチング水溶液に浸漬させ、上述した重量法により銅配線のエッチングレート(Bμm/分)を測定した。エッチングレートBは、0.76μm/分であった。
また、銅イオン拡散抑制層を有しない未処理の銅配線付き基板を用いて、上記と同様の方法により、エッチングレートを測定した。エッチングレートAは0.75μm/分であった。エッチングレートの比(B/A)は、1.01であった。
なお、銅イオン拡散抑制層付き銅配線基板の銅配線間の基板表面においては、水による銅配線間抽出液の吸光度測定により、銅イオン拡散抑制層は確認できず、エタノール洗浄により除去されていることが確認された。
【0072】
(溶液浸漬試験によるデンドライト成長速度測定)
得られた銅イオン拡散抑制層付き銅配線基板を、pH5の塩酸中に浸漬させ、銅配線間に1.2Vの電圧を印加して、光学顕微鏡下(オリンパス社製 BX−51)で銅配線間に発生するデンドライトの成長速度(μm/秒)を測定した。
実施例1で得られた結果を、表1に示す。
【0073】
(HAST試験による基板寿命測定)
得られた銅イオン拡散抑制層付き銅配線基板上に、絶縁膜(太陽インキ社製 PFR−800)をラミネートし、その後露光、ベークを行って、絶縁膜付きプリント配線基板(絶縁膜の膜厚:35μm)を製造した。
得られた絶縁膜付きプリント配線基板を用いて、湿度85%、温度130度、圧力1.2atm、電圧100Vの条件で寿命測定(使用装置:espec社製、EHS−221MD)を行った。
評価方法としては、20ロッド(20個の絶縁膜付きプリント配線基板)を用意して、上記試験を実施した。なお、銅配線間の抵抗値が1×109Ωを基準抵抗値とした。試験開始から120時間経過した時の抵抗値が基準抵抗値以上を示すロッドを合格とした。実施例1で得られた結果を、表1に示す。
なお、以下の評価基準に従って、評価した。
「○」:20ロッド中、20ロッドが基準抵抗値以上を示した場合
「△」:20ロッド中、1〜19ロッドが基準抵抗値以上を示した場合
「×」:20ロッド中、基準抵抗値以上を示したものがない場合
【0074】
(実施例2)
実施例1で使用した1,2,3−トリアゾールを含む水溶液を使用し、銅配線付き基板を2分30秒間浸漬させた以外は、実施例1と同様の手順に従って、銅イオン拡散抑制層付き銅配線基板の製造を行った。各種測定結果を、表1にまとめて示す。
【0075】
(実施例3)
実施例1で使用した1,2,3−トリアゾールを含む水溶液の代わりに、1,2,4−トリアゾールの含有量が水溶液全量に対して2.5質量%である1,2,4−トリアゾールを含む水溶液(溶媒:水、液温:25℃、pH:6)を使用し、銅配線付き基板を45秒間浸漬させた以外は、実施例1と同様の手順に従って、銅イオン拡散抑制層付き銅配線基板の製造を行った。各種測定結果を、表1にまとめて示す。
【0076】
(実施例4)
実施例1で使用した1,2,3−トリアゾールを含む水溶液の代わりに、1,2,4−トリアゾールの含有量が水溶液全量に対して2.5質量%である1,2,4−トリアゾールを含む水溶液(溶媒:水、液温:25℃、pH:6)を使用し、銅配線付き基板を5分間浸漬させた以外は、実施例1と同様の手順に従って、銅イオン拡散抑制層付き銅配線基板の製造を行った。各種測定結果を、表1にまとめて示す。
【0077】
(実施例5)
実施例1で使用した1,2,3−トリアゾールを含む水溶液の代わりに、1,2,3−トリアゾールおよび1,2,4−トリアゾールを含む水溶液(溶媒:水、液温:25℃、pH:6)を使用した以外は、実施例1と同様の手順に従って、銅イオン拡散抑制層付き銅配線基板の製造を行った。各種測定結果を、表1にまとめて示す。
なお、処理液中における1,2,3−トリアゾールの含有量は、処理液全量に対して、2.5質量%であり、1,2,4−トリアゾールの含有量は、処理液全量に対して、2.5質量%であった。
【0078】
(実施例6)
実施例1で使用した1,2,3−トリアゾールを含む水溶液の代わりに、1,2,3−トリアゾール−4−カルボン酸を含む水溶液(溶媒:水、液温:25℃、pH:6、1,2,3−トリアゾール−4−カルボン酸の水溶液全量に対する含有量:1質量%)を使用し、銅配線付き基板を5分間浸漬させた以外は、実施例1と同様の手順に従って、銅イオン拡散抑制層付き銅配線基板の製造を行った。各種測定結果を、表1にまとめて示す。
【0079】
(実施例7)
実施例1で使用した1,2,3−トリアゾールを含む水溶液を使用し、銅配線付き基板を240秒間浸漬させ、HAST試験で使用される絶縁膜であるPFR−800の代わりにABF GX−13(味の素ファインテクノ(株)製)を使用した以外は、実施例1と同様の手順に従って、銅イオン拡散抑制層付き銅配線基板の製造を行った。各種測定結果を、表1にまとめて示す。
【0080】
(比較例1)
実施例1で使用した1,2,3−トリアゾールを含む水溶液の代わりに、ベンゾトリアゾールを含む水溶液(溶媒:水、液温:25℃、pH:6、ベンゾトリアゾールの水溶液全量に対する含有量:1質量%)を使用し、銅配線付き基板を10分間浸漬させた以外は、実施例1と同様の手順に従って、銅イオン拡散抑制層付き銅配線基板の製造を行った。各種測定結果を、表1にまとめて示す。
【0081】
(比較例2)
実施例1で使用した1,2,3−トリアゾールを含む水溶液の代わりに、チオシアヌル酸を含む水溶液(溶媒:水、液温:25℃、pH:6、チオシアヌル酸の水溶液全量に対する含有量:0.01質量%)を使用し、銅配線付き基板を10分間浸漬させた以外は、実施例1と同様の手順に従って、銅イオン拡散抑制層付き銅配線基板の製造を行った。各種測定結果を、表1にまとめて示す。
【0082】
(比較例3)
実施例1で使用した1,2,3−トリアゾールを含む水溶液の代わりに、3−アミノ−1,2,4−トリアゾールを含む水溶液(溶媒:水、液温:25℃、pH:7、3−アミノ−1,2,4−トリアゾールの水溶液全量に対する含有量:2.5質量%)を使用し、銅配線付き基板を5分間浸漬させた以外は、実施例1と同様の手順に従って、銅イオン拡散抑制層付き銅配線基板の製造を行った。各種測定結果を、表1にまとめて示す。
【0083】
(比較例4)
実施例1で使用した1,2,3−トリアゾールを含む水溶液を使用し、銅配線付き基板を3秒間浸漬させた以外は、実施例1と同様の手順に従って、銅イオン拡散抑制層付き銅配線基板の製造を行った。各種測定結果を、表1にまとめて示す。
【0084】
(比較例5)
実施例1で使用した1,2,3−トリアゾールの代わりに1,2,4−トリアゾールを含む水溶液を使用し、銅配線付き基板を12時間浸漬させた以外は、実施例1と同様の手順に従って、銅イオン拡散抑制層付き銅配線基板の製造を行った。各種測定結果を、表1にまとめて示す。
【0085】
なお、実施例6、比較例2における各処理液のpHは、水酸化ナトリウムを用いて調整した。また、pHの測定には、pHメーター(東亜ディーケーケー社製)を使用した。表1中の「付着量」は、各実施例および比較例中の銅イオン拡散抑制層付き銅配線基板の銅配線上に付着した窒素含有有機化合物の付着量を意味し、その測定は上述した吸光度測定法により行った。
【0086】
【表1】

【0087】
上記表1に示されるように、窒素含有有機化合物の付着量が所定範囲内であり、銅イオン拡散抑制層を有しない銅配線付き基板のエッチングレートとの比が所定の範囲である本発明のプリント配線基板は、銅配線間のデンドライトの成長速度が遅く、銅配線間の絶縁信頼性に優れていることが確認された。特に、実施例1〜7の比較から、1,2,3−トリアゾールおよび/または1,2,4−トリアゾールを使用した場合に、高温高湿環境下における絶縁特性がより優れることが確認された。さらに、実施例1〜4の比較から、1,2,4−トリアゾールを使用した場合に、デンドライトの成長速度がより小さく、絶縁特性に優れることが確認された。
一方、窒素含有有機化合物の付着量、または、上記エッチングレートの比の少なくともいずれか一方を満たさない比較例1〜5においては、銅配線間のデンドライトの成長速度が速く、銅配線間の絶縁信頼性に劣っていた。
【符号の説明】
【0088】
10:プリント配線基板
12:基板
14:銅配線
16:銅イオン拡散抑制層
18:銅配線付き基板
20:窒素含有有機化合物を含む層
22:絶縁膜

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板および前記基板上に配置される銅配線を有する銅配線付き基板と、前記銅配線を覆う窒素含有有機化合物を含有する銅イオン拡散抑制層とを有するプリント配線基板であって、
前記窒素含有有機化合物の付着量が5.0×10-9〜1.0×10-6g/mm2であり、かつ、
1.8質量%の硫酸と12質量%のペルオキソニ硫酸ナトリウムとを含むエッチング水溶液中に浸漬させた時の前記銅配線のエッチングレート(Bμm/分)と、前記銅イオン拡散抑制層を有しない前記銅配線付き基板を前記エッチング水溶液中に浸漬させた時の銅配線のエッチングレート(Aμm/分)との比(B/A)が1.20未満である、プリント配線基板。
【請求項2】
前記窒素含有有機化合物が、アゾール化合物を含む、請求項1に記載のプリント配線基板。
【請求項3】
前記窒素含有有機化合物が、1,2,3−トリアゾールおよび/または1,2,4−トリアゾールを含む、請求項1または2に記載のプリント配線基板。
【請求項4】
基板および前記基板上に配置される銅配線を有する銅配線付き基板と、前記銅配線を覆う窒素含有有機化合物を含有する銅イオン拡散抑制層とを有するプリント配線基板の中から前記銅配線間の絶縁性に優れたプリント配線基板を選択する方法であって、
前記窒素含有有機化合物の付着量が5.0×10-9〜1.0×10-6g/mm2であり、かつ
1.8質量%の硫酸と12質量%のペルオキソニ硫酸ナトリウムとを含むエッチング水溶液中に浸漬させた時の前記銅配線のエッチングレート(Bμm/分)と、前記銅イオン拡散抑制層を有しない前記銅配線付き基板を前記エッチング水溶液中に浸漬させた時の銅配線のエッチングレート(Aμm/分)との比(B/A)が1.20未満であるプリント配線基板を選択する方法。
【請求項5】
前記窒素含有有機化合物が、アゾール化合物を含む、請求項4に記載のプリント配線基板を選択する方法。
【請求項6】
前記窒素含有有機化合物が、1,2,3−トリアゾールおよび/または1,2,4−トリアゾールを含む、請求項4または5に記載のプリント配線基板を選択する方法。


【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2013−8961(P2013−8961A)
【公開日】平成25年1月10日(2013.1.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−118658(P2012−118658)
【出願日】平成24年5月24日(2012.5.24)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】