説明

プリント配線基板めっき用固定治具

【課題】本発明は、被めっき物が湾曲し易い薄板の場合でも、垂直連続搬送めっき装置を使用してめっきする際に、噴流やエアレーションによるプリント配線基板の揺れを抑制し、ガイド痕の発生を低減することが可能な基板めっき用固定治具を提供するものである。
【解決手段】本発明は、プリント配線基板の周辺に取り付けられる額縁状のプリント配線基板めっき用固定治具であって、板状である上下の額辺と、丸棒状である左右各1対の額辺とを有し、この左右各1対の額辺は、前記上下の額辺の左右端部に固着され、一部が額縁の内側に折り曲げられた額縁状のプリント配線基板めっき用固定治具である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プリント配線基板めっき用固定治具に関するものであり、特には、厚さ0.6mm以下のプリント配線基板(以下、「薄板」と言う。)のめっきや、垂直連続搬送めっきに使用するプリント配線基板の基板めっき用固定治具に関するものである。
【背景技術】
【0002】
プリント配線基板は、その製造過程で、基板表面にめっきにより配線パターンを設ける場合があり、通常は、単にラック等のかごに間隔を開けて複数並べてめっき槽に入れたり、プリント配線基板を水平にしてめっき槽の複数のロール間に投入したり、プリント配線基板を垂直にしてその上部を移動治具のクランプ等で保持してめっき槽に入れたりしてめっきしていた。
最近では、プリント配線基板表面の表裏全面に均一なめっき膜厚を形成させるために、プリント配線基板を垂直に立ててその上部を移動治具のクランプ等で保持してめっき槽に入れてめっきする垂直連続搬送めっき装置が開発されてきた(特許文献1)。
【0003】
また、プリント配線基板には、表面の配線パターン以外に、必要に応じて、貫通スルーホールや非貫通スル−ホ−ルが設けられていて、一般的には、まず無電解めっき、そして次に電解めっきというようにめっき処理によってスルーホール内に導体を形成させている。このため、めっき処理の際にめっき液がスルーホール内にも十分に供給されて、プリント配線基板の表面と裏面だけでなく、スルーホール内にもめっきが形成されるようにする必要がある。
【0004】
そのような方法として、従来、プリント配線基板が浸漬されているめっき槽において、めっき液をノズル等によりプリント配線基板表面に強く吹きかける方法が採用されている(特許文献2)。また、この噴流に加え、被めっき物より発生する電解熱を効果的にうばって迅速に被めっき物を冷却するとともに、被めっき物のスルーホール内より除去された空気やゴミも効果的に除去しうるためにエアレーション(空気によるバブリング)を併用してめっきしていた(特許文献3)。
【特許文献1】特開平11−61495号公報
【特許文献2】特開2002−226993号公報
【特許文献3】特開平11−189880号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、プリント配線基板が湾曲し易い薄板の場合には、固定治具によりプリント配線基板を保持しても、この噴流やエアレーションによりプリント配線基板が揺れ易く、特に、垂直連続搬送めっき装置を使用してのめっきは、めっき装置の搬送部分の両側に設けた揺れ防止のガイドやその他の凸部分にプリント配線板があたって、ガイド痕が生じやすい問題があった。
【0006】
本発明は、上記した従来の問題を解決するためになされたものであり、被めっき物が湾曲し易い薄板の場合でも、垂直連続搬送めっき装置を使用してめっきする際に、噴流やエアレーションによるプリント配線基板の揺れを抑制し、ガイド痕の発生を低減することが可能な基板めっき用固定治具を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、以下のものに関する。
(1) プリント配線基板の周辺に取り付けられる額縁状のプリント配線基板めっき用固定治具であって、板状である上下の額辺と、丸棒状である左右各1対の額辺とを有し、この左右各1対の額辺は、前記上下の額辺の左右端部に固着され、一部が額縁の内側に折り曲げられた額縁状のプリント配線基板めっき用固定治具。
(2) 上下の額辺の下側の額辺から下方に伸びる突起を有する請求項1のプリント配線基板めっき用固定治具。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、被めっき物が湾曲し易い薄板の場合でも、垂直連続搬送めっき装置を使用してめっきする際に、噴流やエアレーションによるプリント配線基板の揺れを抑制し、ガイド痕の発生を低減することが可能な基板めっき用固定治具を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明のめっき用固定治具を使用する対象となるプリント配線基板は、一般的なプリント配線基板であるが、特には、板強度が弱く湾曲し易い厚さ0.6mm以下の薄板である。一般に、プリント配線基板は、めっき等を含む製造工程においては、最終製品となるプリント配線基板の複数を、1枚の基板に面付けした、いわゆるワークサイズで取り扱われる。本発明のプリント配線基板は、このワークワイズのものを言う。
【0010】
本発明のめっき用固定治具は、プリント配線基板の周辺に取り付けられる額縁状のプリント配線基板めっき用固定治具であって、板状である上下の額辺と、丸棒状である左右各1対の額辺とを有し、この左右各1対の額辺は、前記上下の額辺の左右端部に固着され、一部が額縁の内側に折り曲げられた額縁状のプリント配線基板めっき用固定治具である。
【0011】
額縁状とは、被めっき物であるプリント配線基板の周辺を囲むように設けられた、四つの額辺を有することを意味している。プリント配線基板の周辺とは、めっきを行う際のワークサイズにおける、プリント配線基板の端部近傍である。一般には、製品サイズに外形を加工する際に、製品からは切り離される部位を言う。上下の額辺とは、額縁状に設けられた四つの額辺のうち、プリント配線基板の上下を囲む額辺である。左右の額辺とは、額縁状に設けられた四つの額辺のうち、プリント配線基板の左右を囲む額辺である。
【0012】
上下の額辺は、板状とする。板厚は0.5mmから2.0mm程度とすると、薄板から一般的なプリント配線基板までの板厚に対応できるので望ましい。つまり、上下の額辺の板厚が、プリント配線基板の板厚と同等以上であるようにする。これにより、後述するように、上下の額辺の幅方向の両端付近に、上下の額辺の厚さ方向を挟むように、左右の額辺を各1対ずつ設けると、この1対の額辺の厚み方向の隙間に、プリント配線基板を挟み込むようにして、保持することができる。
【0013】
上下の額辺の材質は、ステンレス、ニッケル、燐青銅などの薄くても強度のある金属板が好ましい。また、左右の額辺の端部と固着させる必要があるため溶接可能な金属が好ましい。
【0014】
左右の額辺は、丸棒状とする。これにより、この左右の額辺とプリント配線基板との接触が線となるので、めっき液の非供給部分を低減することができる。また、垂直連続搬送めっき装置の搬送部分の両側には、一般に揺れ防止のガイドが設けられるが、この揺れ防止のガイドに、めっき用固定治具の左右の額辺があたったとしても、接触面積が少なく、スムーズにめっき用固定治具を移動できる。
【0015】
左右の額辺は、直径がφ1.5mmからφ5.0mm程度の円柱とすると、強度を確保しつつ、折り曲げ等の加工がし易い点で望ましい。また、左右の額辺の材質は、ステンレス、ニッケル、燐青銅などの丸棒状でも強度のある金属板が好ましい。また、上下の額辺の端部と固着させる必要があるため溶接可能な金属が好ましい。
【0016】
左右の額辺は、上下の額辺の幅方向の両端付近に、上下の額辺の厚さ方向を挟むように、各1対ずつ設ける。これにより、この1対の額辺の厚み方向の隙間に、プリント配線基板を挟み込むようにして、保持することができる。また、上下の額辺の幅方向の両端に、各1対ずつ設けられた左右の額辺は、丸棒状であるため、1対の左右の額辺の厚さ方向の隙間は、丸棒の円周形状によってテーパー状になっている。このため、1対の左右の額辺の厚さ方向の隙間に、プリント配線基板を取り付ける際に、プリント配線基板が薄板であっても容易にその間に挟み込むことができる。
【0017】
左右の額辺は、上下の額辺部分ではプリント配線基板より幅が広く、少なくとも一部が、額縁の内側に折り曲げられた形状とする。これにより、プリント配線基板の上からの投入がし易く、この折り曲げられた部分だけが、プリント配線基板の周辺にかかるようにすることができるため、プリント配線基板が噴流やエアレーションによって揺れても、ガイド痕の発生を低減することが可能となる。額縁の内側に折り曲げる部分は、プリント配線基板の湾曲の抑制と揺れ防止のめっきガイドとのスムーズな接触ができれば、特に限定しないが、最も湾曲が大きくなる上下の額辺の間の中央付近を含むように設けると、湾曲を抑制する効果が大きいので望ましい。また、額縁の内側に折り曲げる部分は、間隔をおいて、複数個所設けてもよい。
【0018】
このように、被めっき物が湾曲し易い薄板の場合でも、垂直連続搬送めっき装置を使用してめっきする際に、噴流やエアレーションによるプリント配線基板の揺れを抑制し、ガイド痕の発生を低減することが可能な基板めっき用固定治具を提供することができる。
【0019】
上下の額辺の下側の額辺から下方に伸びる突起を設けるのが望ましい。プリント配線板用の基板よりも下側となるめっき槽内に搬送ガイドを設け、この搬送ガイドと上記の突起とを接触可能とすることにより、めっき用固定治具の揺れを下側からも抑制することができる。このため、上述したように、垂直連続搬送めっき装置の搬送部分の両側には、一般に揺れ防止のガイドが設けられるが、プリント配線基板が、この揺れ防止のガイドにあたることもなくなる。したがって、さらに、噴流やエアレーションによるプリント配線基板の揺れを抑制し、ガイド痕の発生を低減することが可能な基板めっき用固定治具を提供することができる。
【0020】
めっき用固定治具が金属性であると、プリント配線基板をめっきするたびにそれ自身もめっきされるので、時々めっきをエッチング等で除去する必要がある。このため、めっきされないように、めっき用固定治具の表面に絶縁物を被覆しておくのが望ましい。
【0021】
以下、本発明を図面に示す実施の形態に基づいて説明する。
【0022】
図1は、本発明のめっき用固定治具の一例を、模式的に示している。図1(a)は、めっき用固定治具6のみを示していて、図1(b)は、プリント配線基板4をめっき用固定治具6に装着した状態を示している。めっき用固定治具6は、プリント配線基板4の周辺に取り付けられ、板状である上下の額辺1と丸棒状である左右各1対の額辺2とが額縁状に構成され、前記左右各1対の額辺2は、前記上下の額辺1の幅方向の両端近傍に固着され、一部が前記額縁の内側に折り曲げられた額縁状のプリント配線基板めっき用固定治具6である。上下の額辺1の下側の額辺1には、プリント配線基板4を支える基板受け3を設けるか、または、ガチヤツク(オート株式会社の登録商標で、コの字形の平板固定具)、クリップ等でプリント配線基板4を固定する。
【0023】
図2は、本発明の別の例のめっき用固定治具6を模式的に示している。上述した図1のめっき用固定治具6において、上下の額辺1の下側の額辺の底部に、突起5を設けたものである。突起5は、上下の額辺1の下側の額辺から一体的に張り出して設けると、部品数の削減や組み立ての手間が省略できる。別部品として設けると、取り付ける位置を調整できる。丸棒状の左右の額辺2のように、丸棒をコの字形状に加工し、両端を下側の額辺に固定すると、左右の額辺2と部材の共通化を図ることができる。また、左右の丸棒状の額辺2の端部を延長してつなぎ合わせたものとすると、部品数の削減のほか左右の額辺2と一体化した状態となり、強度が増す。
【0024】
図3は、本発明のめっき用固定治具6を使用しためっき装置を模式的に示している。
図3は、めっき装置の断面図を示していて、めっき用固定治具6に装着したプリント配線基板4は、前後に移動してめっきされる。
めっき用固定治具6の上下の額辺1の下側の額辺の底部に設けた突起5は、めっき槽16底部に設けた搬送ガイド10により、揺れを防止する。また、搬送ガイド10は、めっき槽16底部に設けた遮蔽板11と一体的に設けると、強度が増し、また、組み立ての手間も省けるので望ましい。
【実施例】
【0025】
以下、本発明を実施例に基づいて説明する。なお、めっき装置の搬送部分の両側に設けた揺れ防止のガイド部分と基板4の接触により生じる基板4表面のガイド痕の位置と発生数は、各基板4を横10、縦10に分割した図4の、基板4表面エリアの定義に従い、評価した。
【0026】
(実施例1)
本実施例では、プリント配線基板4のコア基板材料として、日立化成工業株式会社製 ガラスエポキシ樹脂銅張り積層板 (製品名 MCL−E67WK、厚み0.2mm)及び絶縁層材料として日立化成工業株式会社製プリプレグ(製品名GEA−67、厚み0.06mm)を用い、ガラスエポキシ樹脂銅張り積層板を所定の両側に内層回路を形成後、プリプレグを介して、厚み12μmの銅箔を重ね、積層プレス機により加圧、加熱して4層銅張り積層板(ワークサイズ幅405mm、高さ510mm)を製作した。
この最外層には、片側閉塞タイプの非貫通スルーホール(ビアトップ直径0.10mm、絶縁層厚み0.06mm)をレーザ加工により設けた。
次いで片側閉塞タイプの非貫通スルーホールの形成時に、スルーホール内壁に溶着した樹脂(スミア)を除去するデスミア処理と、スルーホール内壁を導電化するめっき触媒化処理を行った。
次いで、無電解銅めっき方法を適用して非貫通スルーホール及び基板4表面に、厚さ5μmの無電解銅めっき膜を形成した。
次いで、上記基板4を本発明によるめっき用固定治具6(図1)に装着して、基板4を装着した固定治具6の上部を垂直連続搬送めっき装置用の移動治具のクランプ8で保持して、垂直連続搬送めっき装置に入れて硫酸銅めっきを実施して基板4表面に銅めっき厚さ 20μmの電解銅めっき膜を形成した。
次いで、めっき装置の搬送部分の両側に設けた揺れ防止のガイド部分9と基板4の接触により生じる基板4表面のガイド痕の位置と発生数を評価した。
【0027】
(実施例2)
製品ワークサイズ(幅405mm、高さ510mm)に断裁した基板4を、本発明による上下の額辺1の下側の額辺1の底部に突起5を設けためっき用固定治具6(図2)に装着して実施例1と同様に、垂直連続搬送めっき装置で基板4表面に銅めっき厚さ 20μmの電解銅めっき膜を形成して、基板4表面のガイド痕の位置と発生数を評価した。
【0028】
(比較例)
製品ワークサイズ(幅405mm、高さ510mm)に断裁した基板4を、めっき用固定治具6に装着しないで、実施例1と同様に、垂直連続搬送めっき装置で基板4表面に銅めっき厚さ 20μmの電解銅めっき膜を形成して、基板4表面のガイド痕の位置と発生数を評価した。
【0029】
実施例1、実施例2及び比較例の、電解銅めっき実施後の基板4の表面ガイド痕の位置と発生数を表1に示す。表1の数値は、プリント配線基板4を横10、縦10に分割したときの各基板4表面エリア内のガイド痕の数を表す。表1より、実施例1、実施例2及び比較例から、本発明のめっき用固定治具6を適用することにより、垂直連続搬送めっき装置の基板ゆれ防止ガイド9と基板4の接触により生じるガイド痕の低減に効果が高いことがわかる。
【0030】
【表1】

【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】本発明の実施例1に係るめっき用固定治具を模式的に示している。
【図2】本発明の実施例2に係るめっき用固定治具を模式的に示している。
【図3】本発明のめっき用固定治具を使用しためっき装置を模式的に示している。
【図4】基板の表面エリアの定義を示している。
【符号の説明】
【0032】
1…上下の額辺、2…左右の額辺(左右各1対の額辺)、3…基板受け、4…プリント配線基板(基板)、5…突起、6…めっき用固定治具、7…ハンガ(移動治具)、8…クランプ(移動治具)、9…基板ゆれ防止ガイド、10…搬送ガイド、11…遮蔽板、12…噴流ノズル、13…不溶性アノード、14…フィルター、15…循環ポンプ、16…めっき槽。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
プリント配線基板の周辺に取り付けられる額縁状のプリント配線基板めっき用固定治具であって、板状である上下の額辺と、丸棒状である左右各1対の額辺とを有し、この左右各1対の額辺は、前記上下の額辺の左右端部に固着され、一部が額縁の内側に折り曲げられた額縁状のプリント配線基板めっき用固定治具。
【請求項2】
上下の額辺の下側の額辺から下方に伸びる突起を有する請求項1のプリント配線基板めっき用固定治具。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2009−191303(P2009−191303A)
【公開日】平成21年8月27日(2009.8.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−31596(P2008−31596)
【出願日】平成20年2月13日(2008.2.13)
【出願人】(000233000)日立エーアイシー株式会社 (153)
【Fターム(参考)】