説明

プレキャスト鉄筋コンクリート部材およびその製造方法

【課題】製造時におけるコンクリート収縮時の鉄筋の拘束力を低減でき、また、製造時における部材の内部と表面との温度差が極力小さくする上で有利なプレキャスト鉄筋コンクリート部材およびその製造方法を提供すること。
【解決手段】 プレキャスト鉄筋コンクリート柱部材10は、コンクリートC中に多数の鉄筋12と複数のシース管20が埋設されて構成されている。多数の鉄筋12は、主筋14と帯筋16などを含んでいる。シース管20は、プレキャスト鉄筋コンクリート柱部材10の断面の中央付近でプレキャスト鉄筋コンクリート柱部材10の軸方向に延在し、その内部が鉄筋挿通用の孔2002となっている。シース管20は、コンクリートの収縮時におけるコンクリートに対する拘束力が主筋14に比べて小さく、かつ、その内部に鉄筋挿通用の孔2002が確保される程度の剛性を有している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はプレキャスト鉄筋コンクリート部材とその製造方法に関し、より詳細には、高強度コンクリートを用いたプレキャスト鉄筋コンクリート部材とその製造方法に好適なものである。
【背景技術】
【0002】
例えば、設計基準強度F=100N/mm程度以上の高強度コンクリートを用いたプレキャスト鉄筋コンクリート柱部材の製作は,普通強度のコンクリートを用いる場合と同様、構造上必要な軸方向鉄筋および横補強筋をすべて配設し、コンクリートを打設して製造される。
また,内部の温度が高温になろうとも,冷却措置等は特に行われないのが一般的である(特許文献1、特許文献2、特許文献3)。
【0003】
一方、設計基準強度F=100N/mm程度以上の高強度コンクリートは、コンクリートの硬化過程で生じる自己収縮量が非常に大きい。
また、このような高強度コンクリートを用いる柱部材は、配筋量も非常に多いのが一般的である。
そして、このような自己収縮量の大きいコンクリートを用いた鉄筋量の多い柱部材は、コンクリートが硬化する過程において、コンクリートが自己収縮により縮もうとするのを多量の鉄筋がその付着力を介して拘束し、コンクリートに引張力が作用することになる。
その結果,コンクリートにひび割れを生じることがある。
【0004】
また、設計基準強度F=100N/mm程度以上の高強度コンクリートは、硬化初期における発熱量が大きく部材内部では100℃近くにまで達する。
ところが部材表面付近は外気温の影響により温度上昇が比較的小さいため、断面内に温度勾配を生じ応力が発生する。
その結果,前記に加えて部材にひび割れがますます生じやすくなる。
【特許文献1】特開2001−162609
【特許文献2】特開2003−300275
【特許文献3】特開2004−114403
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は前記事情に鑑み案出されたものであって、本発明の目的は、製造時におけるコンクリート収縮時の鉄筋の拘束力を極力低減でき、また、製造時における部材の内部と表面との温度差が極力小さくする上で有利なプレキャスト鉄筋コンクリート部材およびその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記目的を達成するため本発明は、コンクリート中に多数の主筋が埋設されて製造されるプレキャスト鉄筋コンクリート部材であって、前記多数の主筋のうちの複数の主筋に替えてシース管がそれぞれ埋設され、前記各シース管の長手方向の両端は、前記プレキャスト鉄筋コンクリート部材の軸方向の端面に開口されて各シース管の内部は鉄筋挿通孔とされており、前記シース管は、コンクリートの収縮時におけるコンクリートに対する拘束力が前記主筋に比べて小さく、かつ、その内部に前記鉄筋挿通用の孔が確保される程度の剛性を有していることを特徴とする。
また、本発明は、型枠内に鉄筋を配筋しコンクリートを打設して得られるプレキャスト鉄筋コンクリート部材の製造方法であって、前記配筋される鉄筋のうちの複数の主筋に替えて、コンクリートの収縮時におけるコンクリートに対する拘束力が前記主筋に比べて小さく、かつ、その内部に鉄筋挿通用の孔が確保される程度の剛性を有するシース管を配設し、前記型枠内へのコンクリートの打設後のコンクリートの温度上昇時に前記シース管に冷却用媒体を循環させ、製造される部材の内部を構成するコンクリートと、製造される部材の表面を構成するコンクリートとの温度差を小さくするようにしたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明のプレキャスト鉄筋コンクリート部材によれば、製造時にコンクリートが自己収縮により縮もうとする際、シース管が配設された箇所では、コンクリートに対する拘束力が主筋に比べて小さいので、ひび割れのないプレキャスト鉄筋コンクリート部材を得る上で有利となる。また、製造時にコンクリートが発熱するが、シース管に水などの冷却用媒体を循環させることで、プレキャスト鉄筋コンクリート柱部材の内部を冷却でき、プレキャスト鉄筋コンクリート部材の内部と表面との温度差を小さくすることでひび割れのないプレキャスト鉄筋コンクリート部材を得る上で有利となる。
また、本発明の製造方法によれば、コンクリートが硬化する過程において、コンクリートが自己収縮により縮もうとするが、シース管が配設された箇所では、コンクリートへの引っ張り力を低減でき、ひび割れを防止する上で有利となる。また、シース管に水などの冷却用媒体を循環させることで、製造されるプレキャスト鉄筋コンクリート部材の内部と表面との温度差とを小さくでき、ひび割れを防止する上で有利となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下、本発明の実施の形態を図面にしたがって説明する。
図1(A)はプレキャスト鉄筋コンクリート柱部材の斜視図、(B)は同断面図である。
本実施の形態では、プレキャスト鉄筋コンクリート部材はプレキャスト鉄筋コンクリート柱部材である。
プレキャスト鉄筋コンクリート柱部材10は、コンクリートC中に多数の鉄筋12と複数のシース管20が埋設されて構成されている。
コンクリートCは、設計基準強度F=100N/mm程度以上の高強度コンクリートである。
多数の鉄筋12は、プレキャスト鉄筋コンクリート柱部材10の軸方向に延在し軸方向力や曲げモーメントなどを負担する多数の主筋14と、主筋14に連結されてプレキャスト鉄筋コンクリート柱部材10の軸方向と直交する面上を延在しせん断力などを負担する帯筋16などを含んでいる。
多数の主筋14は、プレキャスト鉄筋コンクリート柱部材10の断面の外周部に位置するように配設されている。
【0009】
シース管20は、本実施の形態では4本設けられ、プレキャスト鉄筋コンクリート柱部材10の断面の中央付近でプレキャスト鉄筋コンクリート柱部材10の軸方向に延在し、その内部が鉄筋挿通用の孔2002となっている。
すなわち、シース管20は、本来であればプレキャスト鉄筋コンクリート柱部材10の断面の中央に配設される主筋14に替えて配設されている。
シース管20は、コンクリートCの収縮時におけるコンクリートCに対する拘束力が主筋14に比べて小さく形成されているものが用いられる。より詳細には、コンクリートの収縮時におけるコンクリートに対する拘束力が主筋14に比べて小さく、かつ、その内部に鉄筋挿通用の孔2002が確保される程度の剛性を有している。このようなシース管20として薄肉の鋼製の筒体である市販品が使用可能であり、例えば、栗本鉄工所株式会社の商品名「ワインディングシース」が使用可能である。
各シース管20の長手方向の両端は、プレキャスト鉄筋コンクリート柱部材10の軸方向の端面10Aに開口され、端面10Aと同一面上に位置している。
【0010】
このような構成からなるプレキャスト鉄筋コンクリート柱部材10では、製造時にコンクリートCが硬化する過程においてコンクリートCが自己収縮により縮もうとする際、シース管20が配設された箇所では、コンクリートCに対する拘束力が主筋14に比べて小さいので、コンクリートCに対する拘束力を低減でき、ひび割れのないプレキャスト鉄筋コンクリート柱部材10を得る上で有利となる。特に、設計基準強度F=100N/mm程度以上の高強度コンクリートCでは自己収縮量が大きく、また、配筋される鉄筋量が多いので、ひび割れを防止する上でより有利となる。
また、プレキャスト鉄筋コンクリート柱部材10では、製造時にコンクリートCが硬化する過程において発熱するが、シース管20に水などの冷却用媒体を循環させることで、プレキャスト鉄筋コンクリート柱部材10の内部を冷却でき、プレキャスト鉄筋コンクリート柱部材10の内部と表面との温度差を小さくできる。したがって、ひび割れのないプレキャスト鉄筋コンクリート柱部材10を得る上で有利となる。特に、設計基準強度F=100N/mm程度以上の高強度コンクリートCでは、硬化初期における発熱量が大きいので、ひび割れを防止する上でより有利となる。
【0011】
また、本実施の形態では、シース管20は、温度上昇の大きい断面の中央付近に配設されているので、プレキャスト鉄筋コンクリート柱部材10の内部と表面との温度差をより効果的に小さくでき、ひび割れのないプレキャスト鉄筋コンクリート柱部材10を得る上でより有利となる。
さらに、組み立て時には、図2(A)乃至(C)に示すように、各シース管20の内部に鉄筋挿通用の孔2002が確保されているので、各鉄筋挿通用の孔2002に、本来の配設すべき主筋14Aを挿通し、あるいは、相手側の部材から突出する主筋14A(軸方向鉄筋)を挿通し、主筋14とシース管20の内面との隙間にグラウトGを充填することで一体化でき、シース管20を備えていない従来のプレキャスト鉄筋コンクリート柱部材10と同等の強度、剛性が発揮される。
【0012】
次に、プレキャスト鉄筋コンクリート柱部材10の製造方法について説明する。
図3(A)はプレキャスト鉄筋コンクリート柱部材の製造時の平面図、(B)は同断面正面を示す。
まず、上面が開放された型枠K内に、型枠Kの内面に臨むように多数の主筋14を配設し、また、主筋14に連結して複数の帯筋16(図1(B)参照)などの鉄筋12を組み立てる。
また、型枠K内に、型枠Kの断面の中央で軸方向に延在させて複数のシース管20を配設する。
この場合、単一のシース管20を用い、型枠Kの軸方向の端部に位置する型枠板からシース管20を突出させ、湾曲させて向きを逆転し、型枠K内の次の位置に直線状に延在させるように配設していくと、型枠K内の4箇所で延在するシース管20を、連続した単一の冷却路として用いることができ、冷却する際のコストを低減する上で有利となる。
次に、高強度コンクリートCを型枠K内へ打設する。
【0013】
そして、高強度コンクリートCの型枠K内への打設後、シース管20に水などの冷却用媒体を循環させ、冷却しつつコンクリートCを硬化させる。この冷却期間は、部材内部のコンクリート温度がピークに達し,その後外気温との差が小さくなる打設後から2〜3日間が望ましい。
そして、所定の養生期間の後、型枠Kを外し、プレキャスト鉄筋コンクリート柱部材10を得る。
なお、単一のシース管20を用い、型枠Kの軸方向の端部に位置する型枠板からシース管20を突出させ、湾曲させて向きを逆転し、型枠K内の次の位置に直線状に延在させるように配設した場合には、4箇所に位置する各シース管20の長手方向の両端を、プレキャスト鉄筋コンクリート柱部材10の軸方向の端面と同一面上に位置するように切断する。
【0014】
本実施の形態の製造方法によれば、コンクリートCが硬化する過程において、コンクリートCが自己収縮により縮もうとするが、シース管20が配設された箇所では、鉄筋12に比べてコンクリートCに対する拘束力が弱く、したがって、コンクリートCへの引っ張り力を低減でき、ひび割れを防止する上で有利となる。特に、設計基準強度F=100N/mm程度以上の高強度コンクリートCのように自己収縮量が大きく、また、配筋される鉄筋量が多い場合には、ひび割れを防止する上でより有利となる。
また、シース管20に水などの冷却用媒体を循環させ、冷却しつつコンクリートを硬化させるので、硬化初期における高強度コンクリートCの発熱を抑え、製造されるプレキャスト鉄筋コンクリート柱部材10の内部を構成するコンクリートCと表面を構成するコンクリートCとの温度差とが小さくなるように抑制でき、これにより、プレキャスト鉄筋コンクリート柱部材10の断面内における温度勾配を緩和し、ひび割れを防止する上で有利となる。特に、設計基準強度F=100N/mm程度以上の高強度コンクリートCでは、硬化初期における発熱量が大きいので、ひび割れを防止する上でより有利となる。
また、本実施の形態では、シース管20により、温度上昇の大きい断面の中央付近を冷却するので、プレキャスト鉄筋コンクリート柱部材10の内部と表面との温度差をより効果的に小さくでき、ひび割れのないプレキャスト鉄筋コンクリート柱部材10を得る上で有利となる。
【0015】
なお、本実施の形態では、プレキャスト鉄筋コンクリート柱部材10の断面の中央に複数のシース管20を配設し、断面の外周部に多数の主筋14を配設した場合について説明したが、外周部のみに主筋14が配設されるものでは、それら複数の主筋14に替えて外周部にシース管20を配設することになる。
また、本実施の形態では、プレキャスト鉄筋コンクリート部材がプレキャスト鉄筋コンクリート柱である場合について説明したが、本発明におけるプレキャスト鉄筋コンクリート部材は、プレキャスト鉄筋コンクリート梁などのその他の部材にも無論適用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】(A)はプレキャスト鉄筋コンクリート柱部材の斜視図、(B)は同断面図である。
【図2】(A)乃至(C)はプレキャスト鉄筋コンクリート柱部材の組み立て時の説明図である。
【図3】図3(A)はプレキャスト鉄筋コンクリート柱部材の製造時の平面図、(B)は同断面正面である。
【符号の説明】
【0017】
10……プレキャスト鉄筋コンクリート柱部材、12……鉄筋、20……シース管、14……主筋、16……帯筋。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
コンクリート中に多数の主筋が埋設されて製造されるプレキャスト鉄筋コンクリート部材であって、
前記多数の主筋のうちの複数の主筋に替えてシース管がそれぞれ埋設され、
前記各シース管の長手方向の両端は、前記プレキャスト鉄筋コンクリート部材の軸方向の端面に開口されて各シース管の内部は鉄筋挿通孔とされており、
前記シース管は、コンクリートの収縮時におけるコンクリートに対する拘束力が前記主筋に比べて小さく、かつ、その内部に前記鉄筋挿通用の孔が確保される程度の剛性を有している、
ことを特徴とするプレキャスト鉄筋コンクリート部材。
【請求項2】
前記複数のシース管は前記プレキャスト鉄筋コンクリート部材の断面の中央付近に位置し、前記多数の主筋は前記プレキャスト鉄筋コンクリート部材の断面の外周部に位置していることを特徴とする請求項1記載のプレキャスト鉄筋コンクリート部材。
【請求項3】
前記コンクリートは、設計基準強度F=100N/mm程度以上の高強度コンクリートであることを特徴とする請求項1記載のプレキャスト鉄筋コンクリート部材。
【請求項4】
前記プレキャスト鉄筋コンクリート部材はプレキャスト鉄筋コンクリート柱部材であることを特徴とする請求項1記載のプレキャスト鉄筋コンクリート部材。
【請求項5】
型枠内に鉄筋を配筋しコンクリートを打設して得られるプレキャスト鉄筋コンクリート部材の製造方法であって、
前記配筋される鉄筋のうちの複数の主筋に替えて、コンクリートの収縮時におけるコンクリートに対する拘束力が前記主筋に比べて小さく、かつ、その内部に鉄筋挿通用の孔が確保される程度の剛性を有するシース管を配設し、
前記型枠内へのコンクリートの打設後のコンクリートの温度上昇時に前記シース管に冷却用媒体を循環させ、製造される部材の内部を構成するコンクリートと、製造される部材の表面を構成するコンクリートとの温度差を小さくするようにした、
ことを特徴とするプレキャスト鉄筋コンクリート部材の製造方法。
【請求項6】
前記複数のシース管は前記プレキャスト鉄筋コンクリート部材の断面の中央付近に配設されることを特徴とする請求項4記載のプレキャスト鉄筋コンクリート部材の製造方法。
【請求項7】
前記コンクリートは、設計基準強度F=100N/mm程度以上の高強度コンクリートであることを特徴とする請求項4記載のプレキャスト鉄筋コンクリート部材の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2007−237410(P2007−237410A)
【公開日】平成19年9月20日(2007.9.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−58887(P2006−58887)
【出願日】平成18年3月6日(2006.3.6)
【出願人】(302060926)株式会社フジタ (285)
【Fターム(参考)】