説明

プレス成形装置及びプレス成形方法

【課題】 帯状ワークのプレス成形時に、ワークの両幅端部が型の中央部側に引き込まれるのを抑制することができて、不良成形品の発生を防止すること。
【解決手段】 上下2枚のシート13a,13bよりなるワーク13を間欠送りし、その停止時においてワーク13に対して凹型11と凸型12との間でプレス成形を行うようにする。凹型11の両側部には、ワーク送り方向に沿って全体として波形をなす複数の歯16bを列設する。上部側の表皮シート13aをクランプ装置14によりクランプして張設状態に保持するとともに、下部側の基材シート13bの両幅端部をフリーにした状態で、プレス成形を行う。その成形に際して、基材シート13bの両幅端部を凹型11の両側部の歯16bに係合させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、例えば自動車等の車両の内装天井材を成形する場合等に用いるプレス成形装置及びプレス成形方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
この種の内装天井材を成形する場合には、例えば、特許文献1に示されるように、基材シートと、表皮シート(天井材の室内側の面を形成する)との上下2枚の帯状シートよりなるワークを間欠送りし、そのワークの停止時においてワークに対して凹型と凸型との間でプレス成形を行うようにしている。この場合、一般には、上部側の表皮シートをその両幅端部においてクランプして張設状態に保持するとともに、下部側の基材シートの両幅端部をフリーにした状態で、プレス成形を行って、表皮シートにシワ等が発生しないようにしている。
【特許文献1】特開昭53−10180号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ここで、プレス成形時においては、基材シート及び表皮シートが凹型の型面に沿って絞られる。この場合、プレス成形時に、基材シートの両幅端部がフリーの状態にあるため、基材シートは、両型の中央部側に引き込まれる。さらには、引き込まれる量が左右で異なることがあり、このため、同基材シートの一側において幅方向のズレや寸法不足を生じ、不良成形品を発生しやすいという問題があった。特に、深絞りのプレス成形を行う場合には、この問題が顕著に現れた。
【0004】
このような問題に対処するため、従来では、作業者がプレス状況を監視してズレが生じないようにしたり、基材シートの幅方向の材料寸法を、プレス成形時の最大引き込み量を考慮して大きく設定したりしていた。このようにすれば、当然、生産コストや材料コスト費が高くなる。また、基材シートの幅寸法を大きくすれば、例えば、プレス後のトリミングの際にトリミング用の治具とワークの端部とが干渉して取り扱いが面倒になる。
【0005】
この発明は、このような従来の技術に存在する問題点に着目してなされたものである。その目的は、帯状ワークのプレス成形時に、ワークの両幅端部が型の中央部側に引き込まれるのを抑制することができて、不良成形品の発生を防止することができるとともに、材料コスト等を節減することができ、しかもプレス後のワークの取り扱いが容易になるプレス成形装置及びプレス成形方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の目的を達成するために、請求項1に記載の発明は、一方向に間欠送りされる帯状ワークに対して凹型と凸型との間でプレス成形を順次行うようにしたプレス成形装置において、前記凹型のワーク送り方向における両側部には、ワーク送り方向に沿って全体として波形をなす複数の歯を列設したことを特徴とするものである。
【0007】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の発明において、前記各歯は、基板上に一体形成されていることを特徴とするものである。
請求項3に記載の発明は、請求項1または請求項2に記載の発明において、前記各歯は、ワーク送り方向の前方側を指向していることを特徴とするものである。
【0008】
請求項4に記載の発明は、請求項1〜請求項3のうちのいずれか一項に記載の発明において、歯の上下位置を調節可能にしたことを特徴とするものである。
請求項5に記載の発明は、請求項1〜請求項4のうちのいずれか一項に記載の発明において、前記凸型が凹型に対して接近移動したときに、その凸型と各歯との間にワークの幅端部を挟持するように構成したことを特徴とする。
【0009】
請求項6に記載の発明は、上下2枚の帯状シートよりなるワークを間欠送りし、そのワークの停止時においてワークに対して凹型と凸型との間でプレス成形を行うプレス成形方法において、上部側の帯状シートをその両幅端部をクランプして張設状態に保持するとともに、下部側の帯状シートの両幅端部をフリーにした状態で、請求項1〜請求項4のうちのいずれか一項に記載のプレス成形装置によりプレス成形を行い、その成形に際して下部側の帯状シートの両幅端部を凹型の両側部の歯に係合させることを特徴としたものである。
【0010】
(作用)
請求項1に記載の発明においては、帯状ワークを凹型と凸型との間でプレス成形する際に、ワークの両幅端部が凹型の両側部の歯に係合して抵抗が付与される。これにより、ワークの両幅端部が両型の中央部側に引き込まれることを抑制でき、ワークの幅方向へのズレや材料幅不足が生じるのを防止することができ、不良成形品が発生するのを防止することができる。また、帯状ワークの幅方向の材料寸法を、プレス成形時の引き込み量を考慮して大きく設定する必要がないため、材料コストを節減することができるとともに、ワークを広幅にする必要がないため、トリミング等において取り扱いが容易になる。
【0011】
請求項2に記載の発明においては、凹型の両側部に複数の歯を容易に列設配置することができる。
請求項3に記載の発明においては、帯状ワークが間欠送りされる際に、そのワークの両幅端部が凹型の両側部の歯に引っ掛かるのを防止でき、ワークの送りに支障を来たすおそれを防止することができる。
【0012】
請求項4に記載の発明においては、歯の高さを調節できるため、ワークの材質の相違等に対して有効に対処できる。
請求項5に記載の発明においては、プレスに先立って凸型と各歯との間にワークの幅端部を挟持するため、ワークの幅方向へのずれを確実に防止できる。
【0013】
請求項6に記載の発明においては、2枚の帯状シートよりなるワークのうちで、上部側の帯状シートの両幅端部をクランプするとともに、下部側の帯状シートの両幅端部をフリーにした状態で、プレス成形する際に、下部側の帯状シートの両幅端部が型の中央部側に引き込まれるのを防止することができる。よって、下部側の帯状シートが上部側の帯状シートに対して、幅方向にズレや材料幅不足を生じた状態でプレス成形されるのを防止することができ、不良成形品の発生を抑制することができる。
【発明の効果】
【0014】
以上のように、この発明によれば、帯状ワークのプレス成形時に、ワークの両幅端部が型の中央部側に引き込まれるのを防止することができて、不良成形品の発生を抑制することができるとともに、材料コストや生産コスト等を節減することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下に、この発明の一実施形態を、図1〜図3に基づいて説明する。
図1に示すように、このプレス成形装置においては、凹型よりなる下型11の上部に凸型よりなる上型12が接近離間可能に対向配置されている。両型11,12間には、上下2枚の帯状シートとしての表皮シート13aと、同じく帯状シートとしての基材シート13bよりなるワーク13が一方向へ間欠送り可能に配置される。図3に示すように、両型11,12のワーク送り方向と交差する方向の両側方には、一対のクランプ装置14が配設され、このクランプ装置14はワーク13とともにワーク送り方向に走行される。
【0016】
そして、これらのクランプ装置14により、上部側の表皮シート13aがその両幅端部においてクランプされて張設状態に保持されながら、基材シート13bとともに図1の右方へ間欠送りされる。このとき、下部側の基材シート13bは両幅端部をクランプされることなくフリーにされて、下型11内に自然に垂下された状態で同方向に送られる。この状態で、ワーク13の間欠送りの停止タイミングにおいて、上型12が下型11に対して接近移動されることにより、両型11,12間でワーク13がプレス成形されて、成形品15が形成される。成形終了にともなう型開き後、ワーク13が両型11,12間からさらに同方向に送られて、両型11,12の前方において成形品15単位に切断分離され、その後、各成形品15の外周が図示しない治具上でトリミングされる。
【0017】
図2及び図3に示すように、前記下型11のワーク送り方向における両側部には、一対の歯体16が各一対の長孔17を介してボルト18により上下方向へ位置調節可能に取り付けられている。各歯体16は、基板16aと、その基板16aの上端縁にワーク送り方向に沿って全体として波形をなすように一体に列設形成された複数の歯16bとから構成されている。各歯16bは、先鋭状をなすように形成されるとともに、その前後両縁の傾斜角度を相違させることにより、図2に示すように側面から見て、ワーク送り方向の前方側を指向している。また、各歯16bは、図3に示すように、厚さ方向の外端側においてエッジ部16cが上方へ突出するように形成されている。
【0018】
そして、前記のように両型11,12間でワーク13がプレス成形される際に、下部側の基材シート13bの両幅端部が両歯体16の各歯16bに係合して、その両幅端部に対して内方移動方向への抵抗が付与される。
【0019】
さて、ワーク13の成形に際しては、はじめに、ワーク13の材質等に応じて、ボルト18の緩め及び締めを行って、歯体16の高さ、すなわち歯16bの高さを調節する。この状態で、クランプ装置14によりクランプされている表皮シート13aと、クランプされることなくフリーな基材シート13bとよりなるワーク13を間欠送りすれば、歯16bが前方を指向しているため、その基材シート13bが歯16bにほとんど引っ掛かることはない。
【0020】
そして、間欠送りの停止時において上型12を下降させて成形を行う。このとき、図3に示すように、ワーク13の基材シート13bの両幅端部が内方に移動しようとするため、その両幅端部が歯体16の歯16bに係合して、基材シート13bの両幅端部が両型11,12の中央部側に引き込まれるのを抑制することができる。そして、この状態で、表皮シート13aに対するクランプが解放されて、図4に示すように、プレス成形直前において両シート13a,13bの両幅端部が上型12の両側と歯体16との間に挟持される。従って、両型11,12に対する表皮シート13a及び基材シート13bの位置関係が所定の状態に維持され、基材シート13bが表皮シート13aに対して幅方向へズレを生じた状態でプレス成形されるおそれを防止することができる。よって、成形品15が不良品になるのを防ぐことができ、プレス成形に対する監視も不要となる。また、基材シート13bの幅方向の材料寸法を、プレス成形時の引き込み量を考慮して大きく設定する必要がないため、材料コストを節減することもできるとともに、基材シート13bの幅が小さくなるため、後工程のトリミングも容易に行うことができる。
【0021】
さらに、この実施形態においては、各歯16bがワーク送り方向の前方を指向するように形成されているため、ワーク13が間欠送りされる際に、基材シート13bの両幅端部が歯16bに引っ掛かかることがなく、従って、ワーク13の送りに支障を来たすおそれを防止することができる。さらに、歯体16が下型11の両側部に対して上下方向へ位置調節可能に取り付けられているため、プレス成形作業に先立って、歯16bを基材シート13bの両幅端部と係合可能な最適位置に容易かつ確実に調節配置することができ、前述のように間欠送りの際の引っ掛かりを防止できるとともに、プレス成形に際しては基材シート13bを有効に係合保持できる。しかも、プレス成形に先立ってワーク13の両幅端部を上型12と歯体16との間に挟持するため、前記歯16bの作用と相まってワーク13のズレを確実に防止できる。
【0022】
このように、この実施形態では以下の効果を発揮する。
・ ワーク13の両側縁が歯体16の歯16bに係合して、ワーク13が両型11,12の中央部側に引き込まれるのを抑制することができ、ズレ等を生じることなく、成形品15が不良品になるのを防ぐことができるとともに、幅の狭い材料を使用でき、材料コストを節減することができる。
【0023】
・ ワーク13のズレを防止できるため、プレス成形の際の監視が不要になり、生産コストを低減できる。
・ ワーク13の幅を狭くできるため、トリミングにおいてワークと治具との干渉を避けることができ、トリミングが容易になって前記と同様に生産コストを低減できる。
【0024】
・ 歯体16の高さを調節できるため、ワーク13の材質等に応じて、歯16bの高さを最適状態に設定できる。
・ 各歯16bがワーク送り方向の前方を指向しているため、ワーク13をスムーズに送ることができ、ワーク13が柔らかいものであっても、傷付きにくい。
(変更例)
なお、この実施形態は、次のように変更して具体化することも可能である。
【0025】
・ 図5に示すように、歯体16の各歯16bの前後両側縁の傾斜角度を等しくして、その各歯16bを側面から見て、ほぼ三角山形状をなすように形成すること。この場合、各歯16bの先端をわずかに丸くすれば、ワーク送り時の引っ掛かりを有効に防止できる。ただし、この場合でも、図3に示すように、外側のエッジ部16cを立てるのが好ましい。
【0026】
・ 図6に示すように、歯体16の各歯16bの厚さ方向の中央部においてエッジ部16cが上方へ突出するように形成すること。
・ 図7に示すように、歯16bの上端が側面に対して直角状をなすようにすること。このようにしても外側にエッジ部16cが形成される。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】一実施形態のプレス成形装置を示す断面図。
【図2】図1のプレス成形装置の下型を拡大して示す斜視図。
【図3】図1のプレス成形装置の一部を拡大して示す断面図。
【図4】ワークを挟持した状態を示す断面図。
【図5】歯体の変更例を示す部分正面図。
【図6】歯体の別の変更例を示す部分断面図。
【図7】歯体のさらに別の変更例を示す部分断面図。
【符号の説明】
【0028】
11…凹型よりなる下型、12…凸型よりなる上型、13…ワーク、13a…帯状シートとしての表皮シート、13b…帯状シートとしての基材シーツ、14…クランプ装置、15…成形品、16…歯体、16a…基板、16b…歯。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一方向に間欠送りされる帯状ワークに対して凹型と凸型との間でプレス成形を順次行うようにしたプレス成形装置において、
前記凹型のワーク送り方向における両側部には、ワーク送り方向に沿って全体として波形をなす複数の歯を列設したことを特徴とするプレス成形装置。
【請求項2】
前記各歯は、基板上に一体形成されていることを特徴とする請求項1に記載のプレス成形装置。
【請求項3】
前記各歯は、ワーク送り方向の前方側を指向していることを特徴とする請求項1または請求項2に記載のプレス成形装置。
【請求項4】
歯の上下位置を調節可能にしたことを特徴とする請求項1〜請求項3のうちのいずれか一項に記載のプレス成形装置。
【請求項5】
前記凸型が凹型に対して接近移動したときに、その凸型と各歯との間にワークの幅端部を挟持するように構成したことを特徴とする請求項1〜請求項4のうちのいずれか一項に記載のプレス成形装置。
【請求項6】
上下2枚の帯状シートよりなるワークを間欠送りし、そのワークの停止時においてワークに対して凹型と凸型との間でプレス成形を行うプレス成形方法において、
上部側の帯状シートをその両幅端部をクランプして張設状態に保持するとともに、下部側の帯状シートの両幅端部をフリーにした状態で、請求項1〜請求項5のうちのいずれか一項に記載のプレス成形装置によりプレス成形を行い、その成形に際して下部側の帯状シートの両幅端部を凹型の両側部の歯に係合させることを特徴としたプレス成形方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2006−116751(P2006−116751A)
【公開日】平成18年5月11日(2006.5.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−304775(P2004−304775)
【出願日】平成16年10月19日(2004.10.19)
【出願人】(000119232)株式会社イノアックコーポレーション (1,145)
【Fターム(参考)】