説明

プレート式反応器を用いた反応生成物の製造方法

【課題】触媒が充填されたプレート式反応器に反応原料を供給し、該反応原料を反応させて反応生成物を製造する製造方法において、反応によって生じた熱による触媒の劣化の進行を抑制することで、反応生成物の収量及び製造量を向上させる新規な方法を提供すること。
【解決手段】円弧、楕円弧、矩形又は多角形の一部に賦形された波板の2枚を対面させ、当該両波板の凸面部を互いに接合して複数の熱媒体流路を形成した伝熱プレートを、複数配列してなりかつ隣り合った伝熱プレートの波板凸面部と凹面部とが対面して所定間隔の触媒層を形成したプレート式反応器に、反応原料を供給し、反応原料を反応させて反応生成物を製造する製造方法であって、伝熱プレートに形成された複数の熱媒体流路には、熱媒体が供給され、熱媒体の流れ方向が、反応生成物の製造開始から所定期間経過毎に、従前の熱媒体の流れ方向と逆方向に変更されることを特徴とする、反応生成物を製造する製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、触媒が充填されたプレート式反応器に反応原料を供給し、該反応原料を反応させて反応生成物を製造する製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、接触気相酸化反応を利用し、不飽和脂肪酸等の反応物を製造する製造方法においては、工業的及び実用的な見地から、管式熱交換器形状の多管式反応器が用いられている(例えば、特許文献1及び特許文献2)。該多管式反応器を用いた反応物の製造方法では、通常数千本から数万本の円筒状反応管にペレット状或いは球状の固体触媒を充填し、反応管の外側のシェル内に熱媒体を供給し該熱媒体の温度を調節することによって触媒層温度が制御されてきた。この様な多管式反応管を用いて接触気相酸化反応を実施する場合、反応管内の全反応帯域のうち、反応ガス入口から1/3の反応帯領域での反応量が最大であり、触媒層内の温度分布は図1に示すようになる。
【0003】
しかしながら、反応熱を除熱するための伝熱面積は、反応管表面積で決定されるため全反応帯域で同じである。また、熱媒体が供給されるシェル側の温度はできる限り均一温度になるように工夫され、大多数の反応管を極力同じ温度で反応させる様に、反応管に対する直角の面上では、同じ熱媒温度を保つように熱媒体の供給方法や流動状態が工夫改良されてきた。従って、反応熱を除熱或いは加熱する効果が、反応管の全反応帯域で同じに設計されている。
然るに、反応量の大きい反応ガス入口付近の反応帯域では、反応に伴う反応熱の除去が充分でない。結果、該反応熱が触媒層に蓄積されて、触媒の一部の温度を著しく上昇させ(以下、ホットスポットともいう)、極端な場合には、触媒が損傷を受けることがある。
【0004】
酸化反応の様に反応による発熱が著しく大きい場合には、特に反応ガス入口付近の反応帯域での触媒層の温度が著しく高温となり、ホットスポットが形成されやすいという問題点があった。触媒層内にホットスポットが形成されると触媒表面の温度上昇のために、当該反応帯域での触媒の劣化促進、及び反応の選択性の低下を引き起こし、目的物の生成量が減少する。
【0005】
一方、上記多管式反応器の問題点を解決するために、特許文献3には、反応熱量の大きい接触気相酸化反応に用いたとしても、触媒層内の温度上昇を抑えホットスポットの形成を防止し、当該触媒層に充填された触媒の劣化を防ぐことによって触媒寿命の延長を可能ならしめるとともに、反応の選択性を最適に保つことが可能な、プレート型触媒反応器が提案されている。
上記提案には、プレート式反応器の構造とその接触気相酸化反応への応用については記述されているが、反応によって生じた熱による触媒の劣化の進行を抑制し、かつ、目的反応物の収量及び製造量を向上させる方法については何ら言及されていない。
【特許文献1】特開2001−139499号公報
【特許文献2】特開2001−137689号公報
【特許文献3】特開2004−202430号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の課題は、触媒が充填されたプレート式反応器に反応原料を供給し、該反応原料を反応させて反応生成物を製造する製造方法において、反応によって生じた熱による触媒の劣化の進行を抑制することで、反応生成物の収量及び製造量を向上させる新規な方法を
提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討を行い、円弧、楕円弧、矩形又は多角形の一部に賦形された波板の2枚を対面させ、当該両波板の凸面部を互いに接合して複数の熱媒体流路を形成された伝熱プレートを、複数配列してなりかつ隣り合った伝熱プレートの波板凸面部と凹面部とが対面して所定間隔の触媒層を形成したプレート式反応器に、反応原料を供給し、当該反応原料を反応させて反応生成物を製造する製造方法において、伝熱プレートに形成された複数の熱媒体流路内の熱媒体の流れ方向に着目し、本発明を完成するに至った。すなわち、本発明の要旨は以下の通りである。
【0008】
[1]円弧、楕円弧、矩形又は多角形の一部に賦形された波板の2枚を対面させ、当該両波板の凸面部を互いに接合して複数の熱媒体流路を形成した伝熱プレートを、複数配列してなりかつ隣り合った伝熱プレートの波板凸面部と凹面部とが対面して所定間隔の触媒層を形成したプレート式反応器に、反応原料を供給し、前記反応原料を反応させて反応生成物を製造する製造方法であって、前記伝熱プレートに形成された複数の熱媒体流路には、熱媒体が供給され、前記熱媒体の流れ方向が、前記反応生成物の製造開始から所定期間経過毎に、従前の熱媒体の流れ方向と逆方向に変更されることを特徴とする、反応生成物を製造する製造方法。
[2] 前記伝熱プレートに形成された複数の熱媒体流路には、熱媒体が供給され、前記熱媒体の全てが、同一の流れ方向であることを特徴とする、[1]に記載の製造方法。
[3] 前記伝熱プレートに形成された複数の熱媒体流路は、2つのグループに分けられ、それぞれのグループ間で熱媒体の流れる方向が逆になることを特徴とする、[1]に記載の製造方法。
[4] 前記伝熱プレートに形成された複数の熱媒体流路には、熱媒体が供給され、前記熱媒体の折り返し数が1以上19以下であることを特徴とする、[3]に記載の製造方法。
[5] 熱媒体を反応原料の流れに対して十字流の方向に流すことを特徴とする、[1]から[4]のいずれか一に記載の製造方法。
[6] 前記反応原料が、エチレン;炭素数3及び4の炭化水素、並びにターシャリーブタノールからなる群から選ばれる少なくとも1種、又は、炭素数3及び4の不飽和脂肪族アルデヒドからなる群から選ばれる少なくとも1種;炭素数4以上の脂肪族炭化水素;o−キシレン;オレフィン;カルボニル化合物;クメンハイドロパーオキサイド;ブテン;エチルベンゼンであり、前記反応原料に対応する前記反応生成物が、それぞれ、酸化エチレン;炭素数3及び4の不飽和脂肪族アルデヒド及び炭素数3及び4の不飽和脂肪酸の少なくとも一方;マレイン酸;フタル酸;パラフィン;アルコール;アセトン及びフェノール;ブタジエン;スチレンである、[1]から[5]のいずれか一に記載の製造方法。
[7] 前記反応原料が、炭素数3及び4の炭化水素、並びにターシャリーブタノールからなる群から選ばれる少なくとも1種、又は、炭素数3及び4の不飽和脂肪族アルデヒドからなる群から選ばれる少なくとも1種であり、前記反応生成物が、炭素数3及び4の不飽和脂肪族アルデヒド及び炭素数3及び4の不飽和脂肪酸の少なくとも一方である、[1]から[6]のいずれか一に記載の製造方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明の好ましい態様によれば、触媒が充填されたプレート式反応器に反応原料を供給し、該反応原料を反応させて反応生成物を製造する製造方法において、反応によって生じた熱による触媒の劣化の進行を抑制することで、反応生成物(以下、目的反応物ともいう)の収量及び製造量を向上させることが可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明の製造方法は、円弧、楕円弧、矩形又は多角形の一部に賦形された波板の2枚を対面させ、当該両波板の凸面部を互いに接合して複数の熱媒体流路を形成した伝熱プレートを、複数配列してなりかつ隣り合った伝熱プレートの波板凸面部と凹面部とが対面して所定間隔の触媒層を形成したプレート式反応器に、反応原料を供給し、前記反応原料を反応させて反応生成物を製造する製造方法であって、
前記伝熱プレートに形成された複数の熱媒体流路には、熱媒体が供給され、前記熱媒体の流れ方向が、前記反応生成物の製造開始から所定期間経過毎に、従前の熱媒体の流れ方向と逆方向に変更されることを特徴とする。
【0011】
本発明の製造方法に適用可能な反応は、発熱又は吸熱を伴う反応であれば特に限定されず、以下に示すものが好適に例示できる。
(1)エチレンと酸素から酸化エチレンを生成する反応、(2)炭素数3及び4の炭化水素、並びにターシャリーブタノールからなる群から選ばれる反応原料の少なくとも1種、または、炭素数3及び4の不飽和脂肪族アルデヒドからなる群から選ばれる反応原料の少なくとも1種と、酸素から、炭素数3及び4の不飽和脂肪族アルデヒド、並びに炭素数3及び4の不飽和脂肪酸からなる群から選ばれる少なくとも1種の反応生成物を生成する反応、(3)炭素数4以上の脂肪族炭化水素と、酸素からマレイン酸 を生成する反応、(4)o−キシレンと酸素からフタル酸を生成する反応、(5)オレフィンの水素化によりパラフィンを生成する反応、(6)カルボニル化合物の水素化によりアルコールを生成する反応、(7)クメンハイドロパーオキサイドの酸分解によりアセトンとフェノールを生成する反応、(8)ブテンの酸化脱水素によりブタジエンを生成する反応、(9)エチルベンゼンの酸化脱水素又は脱水素によりスチレンを生成する反応。
なお、これら反応生成物を得るための反応条件は、公知の反応条件を適用することが可能である。
【0012】
本発明の製造方法において、反応原料は、炭素数3及び4の炭化水素、並びにターシャリーブタノールからなる群から選ばれる反応原料の少なくとも1種、または、炭素数3及び4の不飽和脂肪族アルデヒドからなる群から選ばれる反応原料の少なくとも1種であることがより好ましい。以下、上記(2)に係る反応、及び該反応に適用される反応原料の例を説明する。
上記炭素数3の炭化水素としては、プロピレン、プロパンが挙げられる。
上記炭素数4の炭化水素としては、イソブチレン、ブテン類、ブタン類が挙げられる。
また、上記炭素数3及び4の不飽和脂肪族アルデヒドとしては、アクロレイン、メタクロレインが挙げられ、炭素数3及び4の不飽和脂肪酸としては、アクリル酸、メタクリル酸が挙げられる。上記反応は、文献などでもしばしば指摘されているようにホットスポットが発生しやすいので本発明の製造方法が好適に適用されうる。
【0013】
本発明においては、炭素数3及び4の炭化水素、並びにターシャリーブタノールからなる群から選ばれる反応原料の少なくとも1種を酸化するときの、反応原料の負荷量が、触媒1リットル当たり90リットル毎時[標準状態(温度0℃、101.325kPa)換算]以上であることが好ましい。上記炭素数3及び4の炭化水素、並びにターシャリーブタノールからなる群から選ばれる反応原料の少なくとも1種を酸化するときの、反応原料の負荷量は、触媒1リットル当たり120〜290リットル毎時[標準状態(温度0℃、101.325kPa)換算]であることがより好ましく、触媒1リットル当たり170〜250リットル毎時[標準状態(温度0℃、101.325kPa)換算]であることが、触媒体積当たり発熱量が大きく除熱が特に重要となることから、本発明の製造方法において、特に好ましい。
【0014】
また、炭素数3及び4の不飽和脂肪族アルデヒドからなる群から選ばれる反応原料の少なくとも1種を酸化するときの、反応原料の負荷量が、触媒1リットル当たり130リッ
トル毎時[標準状態(温度0℃、101.325kPa)換算]以上であることが好ましい。上記炭素数3及び4の不飽和脂肪族アルデヒドからなる群から選ばれる反応原料の少なくとも1種を酸化するときの、反応原料の負荷量が、触媒1リットル当たり160〜300リットル毎時[標準状態(温度0℃、101.325kPa)換算]であることがより好ましく、触媒1リットル当たり180〜270リットル毎時[標準状態(温度0℃、101.325kPa)換算]であることが、触媒体積当たり発熱量が大きく除熱が特に重要となることから、本発明の製造方法において、特に好ましい。
【0015】
上記(2)に係る反応において、プレート式反応器に供給される反応混合ガスは、反応原料、分子状酸素、及び必要に応じて窒素や水蒸気などの反応に不活性なガスを含む。
上記反応原料は、1種のみの構成としてもよく、また2種以上を混合した混合ガスとしてもよい。上記反応原料の組成は、目的に応じて適宜選択される。
上記反応原料の、上記反応混合ガスに対する含有量は、特に限定されないが、反応原料の総量として、5〜13モル%であることが好ましい。また、上記分子状酸素の、上記反応混合ガスに対する含有量は、反応原料の総量の1〜3倍量であることが好ましい。
上記不活性なガスの、上記反応混合ガスに対する含有量は、上記反応混合ガス全量から反応原料の総量と分子状酸素量を除いた値となる。なお、上記不活性なガスは、反応系から排出される排気ガスを再循環した不活性ガスを用いてもよい。
【0016】
本発明の製造方法には、目的に応じて、公知の触媒を用いることが可能である。
例えば、上記(2)に係る反応における接触酸化反応に用いられる触媒の組成としては、モリブデン、タングステン、ビスマスなどを含む金属酸化物、または、バナジウムなどを含む金属酸化物が挙げられる。該組成の金属酸化物粉末を、球状、ペレット状、またはリング状に成型し、高温で焼成して触媒として用いる。
また、触媒の形状は、公知の形状が採用でき、直径が1〜20mm(ミリメートル)の球状、または楕円形以外の形状で1〜20mmの相当直径を有するペレット状、あるいは円柱の円柱中心に穴の開いたリング状の形状のもので、円外径が4〜10mm、円内径が1〜5mm、高さが2〜10mmの形状が好適に用いられる。上記直径、相当直径、円外径及び高さが、3〜5mmの触媒がより好ましい。
【0017】
反応原料がプロピレンの場合、上記金属酸化物として、下記一般式(1)で表される化合物が好適に例示される。
Mo(a)Bi(b)Co(c)Ni(d)Fe(e)X(f)Y(g)Z(h)Q(i)Si(j)O(k)・・・式(1)
上記式(1)中、Moはモリブデン、Biはビスマス、Coはコバルト、Niはニッケル、Feは鉄、Xはナトリウム、カリウム、ルビジュウム、セシウム及びタリウムからなる群から選ばれる少なくとも一種の元素、Yはほう素、りん、砒素及びタングステンからなる群から選ばれる少なくとも一種の元素、Zはマグネシウム、カルシウム、亜鉛、セリウム及びサマリウムからなる群から選ばれる少なくとも一種の元素、Qはハロゲン元素、Siはシリカ、Oは酸素を表す。
また、a、b、c、d、e、f、g、h、i、j及びkは、それぞれMo、Bi、Co、Ni、Fe、X、Y、Z、Q、Si及びOの原子比を表し、モリブデン原子(Mo)が12のとき、0.5≦b≦7、0≦c≦10、0≦d≦10、1≦c+d≦10、0.05≦e≦3、0.0005≦f≦3、0≦g≦3、0≦h≦1、0≦i≦0.5、0≦j≦40であり、kは各元素の酸化状態によって決まる値である。
【0018】
一方、反応原料がアクロレインの場合、上記金属酸化物として、下記一般式(2)で表される化合物が好適に例示される。
Mo(12)V(a)X(b)Cu(c)Y(d)Sb(e)Z(f)Si(g)C(h)O(i)・・・式(2)
上記式(2)中、XはNb及びWからなる群から選ばれる少なくとも一種の元素を示す。YはMg、Ca、Sr、BaおよびZnからなる群から選ばれる少なくとも一種の元素を示す。ZはFe、Co、Ni、Bi、Alからなる群から選ばれる少なくとも一種の元素を示す。但し、Mo、V、Nb、Cu、W、Sb、Mg、Ca、Sr、Ba、Zn、Fe、Co、Ni、Bi、Al、Si、CおよびOは元素記号である。a、b、c、d、e、f、g、hおよびiは各元素の原子比を表し、モリブデン原子(Mo)12に対して、0<a≦12、0≦b≦12、0≦c≦12、0≦d≦8、0≦e≦500、0≦f≦500、0≦g≦500、0≦h≦500であり、iは前記各成分のうちCを除いた各成分の酸化度によって決まる値である。
【0019】
本発明の製造方法に用いられるプレート式反応器は、円弧、楕円弧、矩形又は多角形の一部に賦形された波板の2枚を対面させ、当該両波板の凸面部を互いに接合して複数の熱媒体流路を形成した伝熱プレートを、複数配列してなりかつ隣り合った伝熱プレートの波板凸面部と凹面部とが対面して所定間隔の触媒層を形成したプレート式反応器である。
ここで、上記「円弧、楕円弧、矩形又は多角形の一部に賦形された波板」とは、波板の波の形状の一部が円弧、楕円弧、矩形又は多角形であることを意味する。
また、上記伝熱プレートに形成された複数の熱媒体流路には、熱媒体が供給される。
上記プレート式反応器に供給される反応原料を含む反応混合ガスの流れ方向は伝熱プレートの外側に沿って流れ、熱媒体は伝熱プレートの内側に供給される。当該熱媒体の流れ方向は、反応原料を含む反応混合ガスの流れに対して直角方向、即ち十字流の方向に流れる。上記反応混合ガスは反応により反応生成物を生じ、結果、上記プレート式反応器に流されるガスは反応生成物を含むことになるから、以下、プレート式反応器に流されるガスを反応ガスともいう。
【0020】
上記プレート式反応器は、必要に応じて波板に賦形された円弧、楕円弧、矩形又は多角形の一部の形状を変えることにより、触媒層に供給される反応混合ガスの入口から出口に向かって触媒層の厚さを変化させることが可能である。また、上記プレート式反応器は、必要に応じて反応帯域を複数の領域に分割することが可能であり、複数の領域に分割された反応帯域を上記触媒層の厚さの変化に対応させることが可能である。さらに、分割された複数の反応帯域には、独立して熱媒体が供給され、接触気相酸化反応などにより生じる反応熱を、伝熱プレートを隔てて除熱し、触媒層内の温度を独立して制御することが可能である。
【0021】
図2に上記プレート反応器の具体例を示す。
図2に示されたように、伝熱プレート(1)は、円形、楕円形、矩形又は多角形の一部に賦形された波板の2枚を対面させ、当該両波板の凸面部を互いに接合して、複数の熱媒体流路(5−1、5−2、5−3)を形成する。また、隣り合った2枚の伝熱プレート(1)が互いに熱媒体流路の半分に相当する距離だけずれて向かい合い間隙を形成し、形成された間隙に触媒が充填され、触媒層(2)が形成される。さらに、隣り合った2枚の伝熱プレート(1)は、触媒層(2)へ反応ガスを導入する反応ガス入口(3)と反応ガスを導出する反応ガス出口(4)を具備する。
上記熱媒体流路は、図2のようにそれぞれ流路の断面形状(断面積)が異なっていてもよい。図2のように熱媒体流路(5−1)の幅がもっとも大きくなるように設計した場合、隣り合った上記伝熱プレート(1)の間隔は一定なので、隣り合った伝熱プレートの波板凸面部と凹面部とが対面して形成される間隔(A)(すなわち、触媒層(2)の層厚)はもっとも狭くなる。図2では、熱媒体流路(5−2)から(5−3)へと熱媒体流路の幅が、順次小さくなり、この熱媒体流路に対応する触媒層(2)の厚さは増大する。従って、熱媒体流路(5−1、5−2、及び5−3)に対応する触媒層(2)は、それぞれ触媒層の平均層厚さが異なり、触媒層の平均層厚さが異なる複数の反応帯域(S1、S2、及びS3)を形成することができる。ここで、触媒層の平均層厚さとは、各反応帯域(S
1、S2、及びS3)の各触媒層において、反応ガスの流れ方向と直角方向に測定された上記間隔(A)の平均値を意味する。本発明においては、以下に示す計算式を用いて規定した。
(式)[触媒層の平均層厚さ]=[触媒層の体積]÷[伝熱プレートの長さ(幅)(図2における紙面に垂直方向の長さ)]÷[伝熱プレートの反応ガスの流れ方向の長さ]
(ここで、[触媒層の体積]は、触媒層が形成される一対の伝熱プレートを地面に対し垂直に保ち、かつ底(各反応帯域の最も下面)に蓋を設置して、一対の伝熱プレートに挟まれた空間内に水などの液体又は直径1mm以下のガラスビーズを注ぎ入れたときに、該空間を満たすのに必要な水などの液体又は直径1mm以下のガラスビーズの体積とする。)
なお、上記において、反応帯域を3つとしているが、これは例示であり、反応帯域の数は限定されない。
【0022】
図3によって上記プレート反応器の具体例で用いられる伝熱プレート(1)の構成を更に詳しく説明する。図3は、円弧、楕円弧、矩形又は多角形の一部に変形された波板の2枚を対面させ、該両波板の凸部を互いに接合して、複数の熱媒体流路が形成された伝熱プレートを示す。
熱媒体流路の大きさ、及び触媒層の平均層厚さは、波板の波の周期にあたる(L)と、波の高さ(H)で規定される。このとき、波の周期(L)は10〜100mmであることが好ましく、20〜50mmであることがより好ましい。一方、高さ(H)は、5〜50mmであることが好ましく、10〜30mmであることがより好ましい。
該伝熱プレートが一対で平行、かつ互いに熱媒体流路の半分に相当する距離(L/2)だけずれて向かい合い間隙を形成し、その間隙に触媒が充填され、触媒層が形成される。この平行な一対の伝熱プレートの間隔(P)と熱媒体流路の周期(L)及び高さ(H)を変えることにより、触媒層の厚さが調節される。一対の伝熱プレートの間隔Pは通常、10から50mmであり、好ましくは、20〜35mmであり、通常は、隣り合う伝熱プレートにおける伝熱プレートの高さ(H)の半値の和の1.1〜5倍の範囲で設定する。
図3では、伝熱プレートの形状が円弧の一部で描かれているが、形状は楕円弧、矩形、または多角形であってもよい。上記周期(L)と高さ(H)を変えることで触媒層厚さを精度良く制御できる。なお、触媒層厚さは、伝熱プレートの長さ(幅)方向(紙面に垂直な方向)において均一であることが好ましい。
また、上記触媒層の平均層厚さは、図3に示す間隔(x)と相関し、当該間隔(x)は上記式で規定した触媒層の平均層厚さの通常0.7〜0.9倍である。
【0023】
各反応器の伝熱プレート(1)の薄板の板厚は2mm以下、好適には1mm以下の鋼板が用いられる。当該鋼板の材質として、好ましくはステンレスが用いられる。ステンレスでは、304、304L、316、及び316Lが好ましく用いられる。
鋼板において、ステンレス及びカーボンスチールなど以外の材質としては、例えばハステロイ、チタン、アルミニウム、エンジニアリングプラスチック及び銅が挙げられる。
伝熱プレート(1)の反応ガス流れ方向の長さは、通常0.5〜10m(メートル)であり、好ましくは0.5〜5mであり、さらに好ましくは0.5〜3mである。通常入手できる薄板鋼板のサイズから、伝熱プレートの反応ガス流れ方向の長さが1.5m以上の時は、1.5m未満の二枚の伝熱プレートを接合するか、組み合わせて、一枚の伝熱プレートを構成することもできる。
反応ガスの流れ方向と直角の方向(図2では紙面に垂直方向の奥行き)の長さは特に制限はなく、通常0.5から20m(メートル)が用いられる。好ましくは3から15m、より好ましくは6から10mである。伝熱プレート(1)は図3に示した配置と同様に積層され、積層される枚数には制限は無い。実際的には、反応に必要な触媒量から決定されるが、数十枚から数百枚である。
【0024】
上記各反応帯域の触媒層の平均層厚さは、特に限定されないが、3〜40mmであることが好ましい。
また、上記各反応帯域の触媒層の平均層厚さは、反応原料の負荷量及び触媒の形状(粒径など)によっても異なるが、図2に示すプレート式反応器において、反応帯域(S1)の触媒層の平均層厚さは5〜20mm(より好ましくは7〜15mm)であり、該反応帯域(S1)に続く反応帯域(S2)の触媒層の平均層厚さは7〜25mm(より好ましくは10〜20mm)であり、該反応帯域(S2)に続く反応帯域(S3)の触媒層の平均層厚さは12〜30mm(より好ましくは15〜25)であることが好ましく例示できる。なお、該複数の反応帯域の触媒層の平均層厚さは、通常、入口部での発熱量が最も大きいので、反応ガスの入口から出口の方向に位置するに従って、順次増加することが好ましい。
【0025】
特に、炭素数3及び4の炭化水素、並びにターシャリーブタノールからなる群から選ばれる反応原料の少なくとも1種を酸化するときの、反応原料の負荷量が、触媒1リットル当たり150リットル毎時[標準状態(温度0℃、101.325kPa)換算]以上である場合、及び、炭素数3及び4の不飽和脂肪族アルデヒドからなる群から選ばれる反応原料の少なくとも1種を酸化するときの、反応原料の負荷量が、触媒1リットル当たり160リットル毎時[標準状態(温度0℃、101.325kPa)換算]以上である場合は、上記触媒層(2)へ反応混合ガスを導入する反応ガス入口(3)に連結される反応帯域(S1)の触媒層の平均層厚さは5〜15mm(特に好ましくは7〜12mm)であり、該反応帯域(S1)に続く反応帯域(S2)の触媒層の平均層厚さは7〜17mm(特に好ましくは10〜15mm)であり、該反応帯域(S2)に続く反応帯域(S3)の触媒層の平均層厚さは12〜27mm(特に好ましくは15〜20mm)であることがより好ましい。
【0026】
上記触媒層の平均層厚さが上記範囲より小さい場合、上記反応帯域S1へ触媒を充填するときに、触媒粒子が触媒層内でブリッジを起こし、充填時間が長くなるなどの困難が伴うことがある。当然ながら触媒層の最小の層厚さは、触媒粒子の粒径より大きくなければならない。通常、触媒層の最小厚さは触媒粒径の1.5倍以上が好ましい。従って、上記例示での触媒層の平均層厚さは触媒粒子の粒径が、3〜5mmの時に好適である。
一方、触媒層の平均層厚さが上記範囲より大きい場合、ホットスポット発生の原因となり易い。特に反応ガスの出口付近の反応帯域、例えば、反応帯域(S3)の触媒層内の温度が上昇し、ホットスポット現象が生じる状況、または反応原料の転化率が最適値より高くなりすぎるようなホットスポットに近い状況になれば、反応成績が低下し、目的生成物の収率が低下する場合がある。上記状況が悪化し、ホットスポットが発生した場合には、触媒が損傷することもある。この際には、熱媒体の温度を下げて反応量を制限し、反応熱の除去を促進したり、反応原料の供給量を下げ、反応原料の負荷量を低下させたりする必要がある。
【0027】
上記触媒層の平均層厚さの詳細は、反応量の変化によって異なるが、触媒層(2)の入口から出口まで連続的に変化させても良いし、段階的に変化させても良い。寧ろ、触媒を製造する際の反応活性の不揃いを考慮すれば、段階的に上記触媒層の平均層厚さを変化させた方が自由度を確保できて良い。
また、上記反応帯域の分割数は2〜5が好ましく、反応ガスの入口から出口に向かって、各反応帯域の触媒層の平均層厚さが増大することが好ましい。
さらに、各反応帯域における触媒層の反応ガスの流れ方向の長さは、反応原料の転化率等を考慮して決定されるが、例えば、上記反応帯域が3つに分割された場合では、全触媒層長さに対して、反応帯域(S1)部分が10%〜55%、反応帯域(S2)部分が20%〜65%、反応帯域(S3)部分が25%〜70%の触媒層長さを適用することが好ましい。また、反応帯域(S3)部分の触媒層長さは反応原料の転化率の達成度によって変
化させることが好ましい。
【0028】
本発明の製造方法は、反応によって生じた熱による触媒の劣化の進行を抑制し、反応生成物(目的反応物)の収量及び製造量を向上させるために、円弧、楕円弧、矩形又は多角形の一部に賦形された波板の2枚を対面させ、当該両波板の凸面部を互いに接合して複数の熱媒体流路を形成した伝熱プレートを、複数配列してなりかつ隣り合った伝熱プレートの波板凸面部と凹面部とが対面して所定間隔の触媒層を形成したプレート式反応器において、伝熱プレートに形成された複数の熱媒体流路には、熱媒体が供給され、熱媒体の流れ方向が、反応生成物の製造開始から所定期間経過毎に、従前の熱媒体の流れ方向と逆方向に変更されることを特徴とする。
また、上記伝熱プレートに形成された複数の熱媒体流路において、供給された熱媒体の全てが、同一の流れ方向であることが好ましい。
さらに、上記熱媒体は反応原料の流れに対して十字流の方向に流すことが、プレート式反応器の構造上の観点から好ましい。
【0029】
上記熱媒体の流れ方向を反応生成物の製造開始から所定期間経過毎に従前の熱媒体の流れ方向と逆方向に変更すること、及び、供給された熱媒体の全てが同一の流れ方向であること、とは以下の態様を好適に例示できる。
例えば、図2に示す伝熱プレート及び触媒層を備えたプレート式反応器において、反応生成物の製造開始時には、熱媒体の流れる方向を図6に示すように、波形伝熱プレートの紙面左端から全ての熱媒体を供給し、紙面右端より全ての熱媒体を排出する。この状態で、所定期間運転し、所定期間経過後に、熱媒体の流れ方向を、従前の熱媒体の流れ方向と逆方向に変更する。即ち、熱媒体の流れる方向が、図6に示す流れとは逆に、波型伝熱プレートの紙面右端から全ての熱媒体が供給され、紙面左端から全ての熱媒体が排出されるように変更される。そして、当該熱媒体の流れ方向の変更が所定期間経過毎に実施される。
ここで、上記のように、波形伝熱プレートの紙面左端から全ての熱媒体を供給し、紙面右端より排出する態様であって、反応が上記のように接触気相酸化(発熱反応)の場合、一般的に、紙面左端から供給される熱媒体の温度に比して、紙面左端から排出される熱媒体の温度が高くなる。その結果、伝熱プレートの幅方向の右端部に存在する触媒の温度は、左端部に存在する触媒の温度より高くなり、伝熱プレートの幅方向の右端部に存在する触媒は熱による劣化が生じやすい環境となる。
【0030】
すなわち、上記環境で反応生成物の製造開始から所定期間使用したプレート式反応器の触媒層において、反応によって生じた熱が触媒の特定部分に蓄積され、特定部分の触媒の温度が他の部分に比して上昇することになる。この状態で、さらに使用を継続した場合、当該触媒層の特定部分の触媒の劣化が進行し、反応収率等の低下を招き反応生成物(目的反応物)の生成量が低下する。
しかしながら、反応生成物の製造開始から所定期間経過毎に、熱媒体の流れ方向を、従前の熱媒体の流れ方向と逆方向に変更することによって、触媒層の長期間使用においても、特定部分の触媒に対する特異的な高温状態を防止し、当該特定部分の触媒の劣化進行を抑制し、結果、反応生成物(目的反応物)の収量及び生成量を向上させることが可能となる。
【0031】
上記「所定期間経過毎」における所定期間は、触媒の種類、並びに、反応原料の種類、反応原料の供給量、及び熱媒体温度等の反応条件等によって変化するので、一概に限定することはできない。
しかしながら、上記所定期間は、特定部分の触媒の劣化進行を抑制する観点より決定される。すなわち、上記反応において、反応生成物(目的反応物)の収量低下を目安にして、熱媒体の流れ方向を変更するための「所定期間」が決定される。特定部分の触媒の劣化
進行対策としては短い所定期間が好ましいが、熱媒体の供給を一旦停止してから、熱媒体の流れ方向を変更するため、場合によっては反応を一定期間、停止する必要がある。長すぎる反応停止期間は工業的経済性の観点から好ましくはない。したがって、「所定期間」は、反応収率の低下防止及び触媒の劣化防止による触媒使用期間の延長の経済性向上と停止期間による生産量減少とを勘案して、決定される。
具体的には、反応期間中、反応器出口の反応ガスを定期的に分析して、反応生成物(目的生成物)の収量を監視し、一定量の収量低下が観測された時に所定期間が決定される。
例えば、劣化の速い触媒や高生産効率型の反応条件では、上記所定期間は、1ヶ月〜2年間であることが好ましく、3ヶ月から1年半であることがより好ましく、6ヶ月から1年間であることが特に好ましい。逆に、触媒の全使用期間、即ち触媒の寿命が長く4年から6年の場合は、上記所定期間は、好ましくは、1年から2年間で、最も好ましくは、通常毎年行われる製造設備のメンテナンス時に合わせて切り替えるのが最も都合がよい。
なお、本発明において、反応生成物の製造開始から所定期間経過毎に、熱媒体の流れ方向が、従前の熱媒体の流れ方向と逆方向に変更されるが、その変更回数は、特に限定されることはなく、特定部分の触媒の劣化進行を抑制する観点、及び反応生成物の製造期間より決定される。また、当該「所定期間毎」における所定期間は、同一であっても、異なっていてもよい。
【0032】
また、上記図6で示される例では、全ての熱媒体が波形伝熱プレートの紙面左端から供給され、全ての熱媒体が紙面右端より排出される場合、すなわち、一の伝熱プレートにおいて、全ての熱媒体が波形伝熱プレートの同一の一端から、伝熱プレートの幅方向の他端に流れる態様について言及している。しかしながら、本発明において、熱媒体の流れの態様は上記に限定されるものではなく、以下に示す態様にも適用が可能である。
第一に、上記伝熱プレートに形成された複数の熱媒体流路を2つのグループに分け、それぞれのグループ間で熱媒体の流れる方向が逆になる態様(以下、第一の態様ともいう)が挙げられる。
例えば、図2に示す伝熱プレートにおいて、伝熱プレートに形成された複数の熱媒体流路を任意に2つのグループ(A及びB)に分け、グループ(A)の熱媒体の流れる方向は、紙面手前側から紙面向こう側に流れ、グループ(B)の熱媒体の流れる方向は、紙面向こう側から紙面手前側に流れる態様である。
好ましくは、1又は複数の熱媒体流路毎に、グループ(A)とグループ(B)が交互に存在する態様である。該複数は、2〜6が好ましく、2〜4がさらに好ましい。
特に好ましくは、図4に示すように、隣り合った熱媒体流路に供給される熱媒体の流れる方向が逆方向(カウンターフロー)となる態様である。
このとき、グループ(A)とグループ(B)に供給される熱媒体は独立に供給されてもよく、一方のグループに供給され熱媒体流路を流れ終えた熱媒体を、再度他方のグループに供給することも可能である。また、上記グループ(A)とグループ(B)に供給される熱媒体の流量及び温度は同じであっても、異なっていても良い。
【0033】
第二に、上記伝熱プレートに形成された複数の熱媒体流路には、熱媒体が供給され、該熱媒体の折り返し数が1以上19以下である態様(以下、第二の態様ともいう)が挙げられる。
例えば、図5に示す伝熱プレートにおいて、反応ガス入口(3)に隣接する熱媒体流路(第1番目流路)の熱媒体供給口[(1A)の位置]から供給された熱媒体が熱媒体排出口[(1B)の位置]から排出されたときの、熱媒体の折り返し数は0(折り返さない)と規定する。また、反応ガス入口(3)に隣接する熱媒体流路の熱媒体供給口[(1A)の位置]から供給された熱媒体が熱媒体排出口[(1B)の位置]から排出され、該熱媒体排出口[(1B)の位置]から排出された熱媒体が、第1番目流路に隣接する熱媒体流路(第2番目流路)に再び熱媒体供給口[(2B)の位置]から供給され、熱媒体排出口[(2A)の位置]から排出されたときの、熱媒体の折り返し数は1と規定する。該図5
において、熱媒体は(1A)→(1B)→(2B)→(2A)→(3A)→(3B)→(4B)→(4A)の経路を通るので、熱媒体の折り返し数は3と規定する。すなわち、熱媒体が1往復、2往復及び3往復したとき、それぞれの折り返し数は1、3、及び5となる。また、上記折り返し数に1を加えたものをパス数ともいう。即ち、当該折り返し数が1、3、及び5であるとき、それぞれパス数は、2、4、及び6となる。
上記熱媒体の折り返し数は1以上10以下であることが好ましく、3以上9以下であることがより好ましい。上記熱媒体の折り返し数が19より多くなると、熱媒体流路を流れる熱媒体の圧力損失が大きくなり、熱媒体を供給するポンプの動力が増加するなど経済的な不利益が発生する場合がある。
【0034】
上記第二の態様において、熱媒体の流れ方向を、従前の熱媒体の流れ方向と逆方向に変更する場合、以下の2つの態様が挙げられる。
(1) 図5において、熱媒体は、反応ガスの入口[3]に最も近接する熱媒体流路の熱媒体供給口[(1A)の位置]から導入され、順次に折り返して反応ガスの流れ方向の下流に位置する熱媒体流路の熱媒体排出口[(4A)の位置]から排出されている。ここで、従前の熱媒体の流れ方向と逆方向に変更する、一の方法は、熱媒体を、反応ガスの出口[4]に近接する熱媒体流路の熱媒体供給口[(4A)の位置]から導入し、順次に折り返して反応ガスの流れ方向の上流に位置する熱媒体流路の熱媒体排出口[(1A)の位置]から排出する方法である。すなわち、該図5において、熱媒体は(4A)→(4B)→(3B)→(3A)→(2A)→(2B)→(1B)→(1A)の経路を通る。
(2)他の方法は、熱媒体を、反応ガスの入口[3]に最も近接する熱媒体流路の熱媒体供給口[(1B)の位置]から導入し、順次に折り返して反応ガスの流れ方向の下流に位置する熱媒体流路の熱媒体排出口[(4B)の位置]から排出する方法である。すなわち、該図5において、熱媒体は(1B)→(1A)→(2A)→(2B)→(3B)→(3A)→(4A)→(4B)の経路を通る。
上記(1)及び(2)に記載の方法のいずれを採用するかは、触媒の種類、並びに、反応原料の種類、反応原料の供給量、及び熱媒体温度等の反応条件等を鑑みて決定される。
【0035】
上記第一及び第二の態様において、反応帯域が複数存在するときには、任意の反応帯域で、上記伝熱プレートに形成された複数の熱媒体流路内の熱媒体の流れ方向、又は、熱媒体の折り返し数の制御を実施することができる。即ち、当該制御は全ての反応帯域で実施されても構わないし、特定の反応帯域のみで実施されても構わない。また、熱媒体の流れ方向と、反応ガスの流れ方向は直交していることが好ましい。
さらに、熱媒体の折り返し部において、熱交換器を設置したり、温度の異なる熱媒体を追加するなどして、熱媒体の温度を変更して、再度熱媒体流路へ供給することも可能である。反応帯域をまたいで熱媒体を折り返す場合には、折り返し部において熱媒体温度を調節することが好ましい。
【0036】
本発明の製造方法において、反応原料の転化率を最適に保つために、供給される熱媒体の温度を調節することができる。熱媒体は、熱媒体流路に最適な温度で供給される。伝熱プレートに形成された複数の熱媒体流路内の熱媒体の流れ方向を制御する場合、熱媒体の各流路の入口温度と出口温度の温度差は、0.5℃から10℃であることが好ましく、1℃から6℃であることがより好ましく、2℃から5℃であることが特に好ましい。
一方、熱媒体の折り返しを含む複数の熱媒体流路の、熱媒体の入口温度と出口温度の温度差は、50℃以下であることが好ましく、30℃以下であることがより好ましく、10℃以下であることが特に好ましい。
熱媒体の入口温度と出口温度の温度差は、触媒の劣化や反応成績の均一性の観点からは小さいほうが好ましいが、小さくしすぎると熱媒体の流量及び圧力損失が増加するため、熱媒体供給用ポンプが大きくなり、必要な動力も増加する。
【0037】
熱媒体流路に供給される熱媒体の温度は、反応原料が、炭素数3及び4の炭化水素、並びにターシャリーブタノールからなる群から選ばれる反応原料の少なくとも1種のときは、250〜450℃であることが好ましく、より好ましくは、300〜420℃である。該反応原料が、プロピレンの場合は、供給される熱媒体の温度が250〜400℃であることが好ましく、300〜400℃であることがより好ましい。
一方、反応原料が、炭素数3及び4の不飽和脂肪族アルデヒドからなる群から選ばれる反応原料の少なくとも1種のときは、200〜350℃であることが好ましく、より好ましくは、250〜330℃である。該反応原料がアクロレインの場合は、供給される熱媒体の温度が200〜350℃であることが好ましく、250〜320℃であることがより好ましい。
【0038】
熱媒体流路に供給される熱媒体の流量は反応熱量と伝熱抵抗から決定される。しかし、伝熱抵抗は、通常、液体である熱媒体より反応ガスの気体側にあるので問題になることは少ないが、熱媒体流路内の液線速度は好適には0.3m/s以上が採用される。
ガス側伝熱抵抗に比較し、熱媒体側の抵抗が小さく問題にならない値とするには、0.5〜1.0m/sが最も適当である。大きすぎると熱媒体の循環ポンプの動力が大きくなって経済面で好ましくない。
なお、用いられる熱媒体は、公知のものを使用することが可能である。
特に、熱媒体の温度が、350℃を超える場合は、通常、硝酸塩混合物である溶融塩(ナイターと呼ばれるもの)が用いられる。
【0039】
本発明の製造方法において、プレート式反応器の反応ガス出口での反応原料の転化率は、90%以上であることが好ましく、より好ましくは95%以上であり、特に好ましくは97%以上である。
【0040】
本発明の製造方法において、反応圧力は、通常、常圧から3000kPa(キロパスカル)であり、好ましくは常圧から1000kPaであり、より好ましくは常圧から300kPaである。
【実施例】
【0041】
以下、実施例を用いて本発明を更に詳しく説明するが、本発明は何らこれらに限定されるものではない。
【0042】
本発明において用いられる、反応原料の転化率、目的生成物の選択率、目的生成物(反応生成物)の収率、及び反応原料の負荷量の計算方法を下記に記す。
<1>反応原料(プロピレン、アクロレイン等)の転化率[%] =
(反応器で他物質に転化した反応原料のモル数)/(反応器に供給された反応原料のモル数)×100
<2>目的生成物の選択率[%] =
(反応器出口における目的性生物のモル数)/(反応器で他物質に転化した反応原料のモル数)×100
<3>目的生成物の収率[%] =
(反応器出口における目的性生物のモル数)/(反応器に供給された反応原料のモル数)×100
【0043】
<プレート式反応器>
プレート式反応器は図2に示す構造のものを用いた。波形形状の薄いステンレスプレート(板厚1mm)を2枚接合して反応温度調節用の熱媒体流路を形成した。図3に示す波形形状の周期(L)、高さ(H)及び波数を表1に示す。
【0044】
【表1】

【0045】
上記作製された波形伝熱プレートの間に、後述する触媒を充填して触媒層を形成した。触媒層は波形形状の仕様によって、表1に示すように、反応ガスの流れ方向の上流から第1反応帯域(以下、S1部ともいう)、第2反応帯域(以下、S2部ともいう)及び第3反応帯域(以下、S3部ともいう)に分割した。波形伝熱プレートは図2に示すように平行に、かつ図3に示す位置関係に設置し、その間隔(図3に示すP)を26mmに調整して、プレート式反応器とした。波形伝熱プレートの波板部分は、反応ガスの流れ方向の長さが1800mmで、反応ガスの流れ方向と直角方向の長さ(以下、波形伝熱プレートの幅ともいう)は6mであった。該波形伝熱プレートの幅方向には、2枚の波形伝熱プレートの間隔(図3に示すP)を一定に保つために50cm毎にスペーサーを2枚の波形伝熱プレートと直交するように設置した。該スペーサーの形状は、上記S1部では、プレートの波板の形状を正確にトレースした形状とし、上記S2部及びS3部では、矩形状であって、反応ガスの流れ方向において波板凸面部の頂点部と接する形状とした。
【0046】
<触媒>
使用した触媒は、Mo(12)Bi(5)Co(3)Ni(2)Fe(0.4)Na(0.4)B(0.2)K(0.08)Si(24)O(x)の組成の金属酸化物粉末を調製し、これを成型して外径4mmφ、高さ3mmの円柱状に成形し、焼成したものである。ここで、Mo、Bi、Co、Ni、Fe、Na、B、K、Si、Oは原子記号であり、O(x)の(x)は各金属酸化物の酸化状態によって定まる値である。
上記S3部の最下部に直径6mmのイナートボールをS3部最下面から5cmの距離まで充填した後、上記触媒をプレート式反応器の2枚の波形伝熱プレートの間に均一に充填したところ、2枚の波形伝熱プレートと50cm間隔のスペーサーの間に形成された空間に充填された触媒量は12.5リットル(L)であった。ここで、触媒量は、触媒層が形成される2枚の伝熱プレートを地面に対し垂直に保ち、かつ底に蓋を設置して、2枚の波形伝熱プレートと50cm間隔のスペーサーの間に形成された空間内に水を注ぎ入れたときに、該空間を満たすのに必要な水の体積である。
また、2枚の波形伝熱プレートと50cm間隔のスペーサーの間に形成された空間すべてに、同じ触媒量(12.5L)を充填したが、各触媒層の高さは均一であり、ブリッジ等の充填異常は認められなかった。
【0047】
<熱媒体>
熱媒体として、硝酸塩類の混合物であるナイターを用いた。該ナイターは、亜硝酸ナトリウム、硝酸ナトリウム及び硝酸カリ塩が40:7:53(質量比)で混合された混合物である。該ナイターを200℃以上に加熱することで溶融塩として、貯槽に保管し、使用時に適切な温度に調節後、プレート式反応器の熱媒体流路に供給した。
熱媒体は、熱媒体流路内での流速が0.39m/秒になるように、プレート式反応器の熱媒体流路へ供給し、該熱媒体で反応温度を制御した。
【0048】
<反応条件>
反応に用いた反応混合ガスの組成は、プロピレン9.5モル%、酸素15.0モル%、窒素66.0モル%及び水蒸気9.5モル%であった。該反応混合ガスを260℃に加熱し、87.7リットル毎秒[標準状態(温度0℃、101.325kPa)換算]で反応器の入口に供給した。
また、2枚の波形伝熱プレートの間に充填された触媒層の温度を測定するために、波形伝熱プレートの幅方向の両端(左右)から30cmの位置(以下、それぞれ左端部、右端部ともいう)及び中央部に複数の熱電対を有する温度計を設置した。この温度計は、触媒層の反応ガスの流れ方向において、上記波周期(L)の2倍の距離毎に熱電対を有する(すなわち、上記S1部触媒層の反応ガスの流れ方向には6つの熱電対が等間隔に設置されている)。
さらに、上記S1部触媒層の終端部におけるプロピレンの転化率を測定するために、S1部触媒層の終端部で、かつ、波形伝熱プレートの幅方向の両端(左右)から30cmの位置(以下、それぞれ左端部、右端部ともいう)及び中央部に反応ガスのサンプリング口を設置した。サンプリングされた反応ガスは、ガスクロマトグラフを用いてその組成を分析した。
【0049】
<比較例1>
上記プレート式反応器の熱媒体の流れる方向を図6に示すように、全て波形伝熱プレートの左端から熱媒体を供給し、右端より排出した。温度340.6℃の熱媒体を、上記プレート式反応器の各熱媒体流路に供給して、上記プロピレンを含有する反応混合ガスの酸化反応を開始した。反応混合ガスの供給量が所定の量に達してから、4〜5時間経過後、触媒層の温度分布が安定したことを確認した。このとき、熱媒体流量は114.7m3/hrであり、熱媒体の戻り温度は344.9℃であった。次いで、触媒層内の温度分布(特に、触媒層内の最高温度)の計測、及び上記サンプリング口から取得された反応ガスの組成分析を実施した。
結果、プロピレンの転化率は、左端部が62.5%、右端部が64.6%であった。また、触媒層内の最高温度は、左端部が405.0℃、右端部が414.0℃であった。触媒層内の最高温度が右端部で414.0℃と非常に高く、ホットスポットに近い状態と判断され、また、プロピレンの転化率も左端部と右端部の差が大きく、触媒層の温度が均一に制御されている状態ではないと判断された。
この状態で、1年間運転を継続したところ、右端部の触媒層内の最高温度は406℃に低下し、プロピレンの転化率も57%まで低下した。運転を停止し、充填されている触媒を一部抜き出して、触媒の性能を点検したところ、波形伝熱プレート中央部から右端部の触媒層の触媒の活性が低下していることが確認された。
【0050】
<実施例1>
比較例1において、半年間運転後、熱媒体の流れ方向を、従前の熱媒体の流れ方向と逆方向に変更した。即ち、熱媒体の流れる方向を図6に示す流れとは逆に、全て波型伝熱プレートの右端から熱媒体を供給し、左端から排出した。
熱媒体の流れ方向を変更した後も、比較例1の条件と同様に、温度340.6℃の熱媒体を、上記プレート式反応器の各熱媒体流路に供給して、上記プロピレンを含有する反応混合ガスの酸化反応を継続した。反応混合ガスの供給量が所定の量に達してから、4〜5時間経過後、触媒層の温度分布が安定したことを確認した。このとき、熱媒体流量は114.7m3/hrであり、熱媒体の戻り温度は344℃であった。次いで、更に半年間運転後、触媒層内の温度分布(特に、触媒層内の最高温度)の計測、及び上記サンプリング口から取得された反応ガスの組成分析を実施した。プロピレンの転化率は、左端部が64.0%、右端部が61.3%であった。また、触媒層内の最高温度も、左端部が412℃、右端部が404.5℃であった。
この状態で、上記プレート式反応器の運転を停止し、充填されている触媒をサンプリン
グし、点検したところ、触媒層の劣化は平均的で活性低下の程度は少ないことが確認された。また、比較例1に比し、反応生成物であるアクロレイン及びアクリル酸の合計の収率で1.0%から2.5%の改善が見られた。
すなわち、定期的に、熱媒体の流れ方向を、従前の熱媒体の流れ方向と逆方向に変更ことによって、高温にさらされる触媒層の位置を変更し、反応によって生じた熱による触媒の劣化の進行を抑制することで、反応生成物の収量及び製造量を向上させることが可能となった。
【図面の簡単な説明】
【0051】
【図1】従来の多管式反応器における触媒層内温度分布を示す図である。
【図2】プレート式反応器の縦断面図を示す。
【図3】伝熱プレートの拡大図を示す。
【図4】熱媒体流路に供給される熱媒体の流れる方向を示す図である。
【図5】熱媒体流路に供給される熱媒体の流れ方を示す図である。
【図6】熱媒体流路に供給される熱媒体の流れる方向を示す図である。
【符号の説明】
【0052】
1 伝熱プレート
2 触媒層
3 反応ガス入口
4 反応ガス出口
5−1 熱媒体流路
5−2 熱媒体流路
5−3 熱媒体流路
P 一対の伝熱プレートの間隔
L 波の周期
H 波の高さ
x 間隔

【特許請求の範囲】
【請求項1】
円弧、楕円弧、矩形又は多角形の一部に賦形された波板の2枚を対面させ、当該両波板の凸面部を互いに接合して複数の熱媒体流路を形成した伝熱プレートを、複数配列してなりかつ隣り合った伝熱プレートの波板凸面部と凹面部とが対面して所定間隔の触媒層を形成したプレート式反応器に、反応原料を供給し、前記反応原料を反応させて反応生成物を製造する製造方法であって、
前記伝熱プレートに形成された複数の熱媒体流路には、熱媒体が供給され、前記熱媒体の流れ方向が、前記反応生成物の製造開始から所定期間経過毎に、従前の熱媒体の流れ方向と逆方向に変更されることを特徴とする、反応生成物を製造する製造方法。
【請求項2】
前記伝熱プレートに形成された複数の熱媒体流路には、熱媒体が供給され、前記熱媒体の全てが、同一の流れ方向であることを特徴とする、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記伝熱プレートに形成された複数の熱媒体流路は、2つのグループに分けられ、それぞれのグループ間で熱媒体の流れる方向が逆になることを特徴とする、請求項1に記載の製造方法。
【請求項4】
前記伝熱プレートに形成された複数の熱媒体流路には、熱媒体が供給され、前記熱媒体の折り返し数が1以上19以下であることを特徴とする、請求項3に記載の製造方法。
【請求項5】
熱媒体を反応原料の流れに対して十字流の方向に流すことを特徴とする、請求項1から4のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項6】
前記反応原料が、エチレン;炭素数3及び4の炭化水素、並びにターシャリーブタノールからなる群から選ばれる少なくとも1種、又は、炭素数3及び4の不飽和脂肪族アルデヒドからなる群から選ばれる少なくとも1種;炭素数4以上の脂肪族炭化水素;o−キシレン;オレフィン;カルボニル化合物;クメンハイドロパーオキサイド;ブテン;エチルベンゼンであり、前記反応原料に対応する前記反応生成物が、それぞれ、酸化エチレン;炭素数3及び4の不飽和脂肪族アルデヒド及び炭素数3及び4の不飽和脂肪酸の少なくとも一方;マレイン酸;フタル酸;パラフィン;アルコール;アセトン及びフェノール;ブタジエン;スチレンである、請求項1から5のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項7】
前記反応原料が、炭素数3及び4の炭化水素、並びにターシャリーブタノールからなる群から選ばれる少なくとも1種、又は、炭素数3及び4の不飽和脂肪族アルデヒドからなる群から選ばれる少なくとも1種であり、前記反応生成物が、炭素数3及び4の不飽和脂肪族アルデヒド及び炭素数3及び4の不飽和脂肪酸の少なくとも一方である、請求項1から6のいずれか一項に記載の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−105983(P2010−105983A)
【公開日】平成22年5月13日(2010.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−281459(P2008−281459)
【出願日】平成20年10月31日(2008.10.31)
【出願人】(000005968)三菱化学株式会社 (4,356)
【出願人】(000176763)三菱化学エンジニアリング株式会社 (85)
【Fターム(参考)】