説明

プロジェクタ用投影レンズ及びプロジェクタ

【課題】 投影レンズの入射側でオン状態光束とオフ状態光束や迷光束の各光束中心の距離間が小さくなると、迷光などがオン状態光に混入して投影画像のコントラストが低下する欠点があった。
【解決手段】 反射形表示素子を用いるプロジェクタ用の投影レンズであって、光軸方向に可動レンズ群の移動に合わせて移動可能な可動絞り70を備えた投影レンズとし、この可動絞り70の開口部75は投影レンズの光軸69を中心とした円形であって、開口部75の一部には、迷光束中心方向の周辺部から開口部75内に突出する膨出部73を有するプロジェクタ用投影レンズとするものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ビデオ信号等の画像情報に基づいて画像を投影するプロジェクタ装置に関し、尚詳しくは、プロジェクタの投影側光学系に関するものである。
【背景技術】
【0002】
今日、パーソナルコンピュータの画面やビデオ映像などをスクリーンに投影する画像投影装置としてのビデオプロジェクタが多用されている。
このプロジェクタは、高輝度の光源を内蔵し、光源からの光を光源側光学系により順次赤色フィルタ、緑色フィルタ、青色フィルタを用いて赤、緑、青の光とし、この赤、緑、青の光を照明側光学系とするレンズなどにより、液晶表示素子やDMDと呼ばれるマイクロミラー表示素子になどの光変調手段に集光させ、この光変調手段によりプロジェクタ装置の投影口に向けて透過又は反射させる光の量によりスクリーン上にカラー画像を表示させるものである。
【0003】
また、このプロジェクタでは、プロジェクタ本体の上面カバー内に設けられるキースイッチの操作又はリモートコントローラの操作により、画面の大きさや明るさ更には色合いなど、種々の設定を行って使用者の好みに合わせた美麗な画像を投影することができるようにされている。
【0004】
そして、このプロジェクタに用いられる光変調手段としての表示素子は、透過型の液晶表示素子と反射型のマイクロミラー表示素子が多く用いられている。
このマイクロミラー表示素子は、微小なミラーセルを制御信号により揺動させ、反射光の方向を制御し、照明側光学系により表示素子に入射された光を投影側光学系である投影レンズの方向に反射するオン状態光と光吸収板の方向に反射するオフ状態光とし、赤色光、緑色光、青色光の光をオン状態とする時間を制御してスクリーンにカラー画像を投影するものである。
【0005】
尚、オフ状態の光を利用し、この投影レンズに入射させないオフ状態光を光センサーで検出してプロジェクタのホワイトバランスを調整する技術も提案されている(例えば特許文献1)。
また、液晶表示素子は、微小な液晶セルを透過する光を遮断または透過させることにより画像を形成するものであり、この液晶表示素子では、透過した光を投影レンズでスクリーンに結像させる際、画像のコントラストを高くするために投影レンズに三角形の開口を形成した絞りを設けることが提案されている(例えば特許文献2)。
【特許文献1】特開2001−188196号公報
【特許文献2】特開2004−157346号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
このマイクロミラー表示素子を用いたプロジェクタは、液晶表示素子に比較し、セルの制御信号に対する応答が素早く、オン・オフ制御がより短時間に正確に行えるため、投影される画像を鮮明に表示することができるものである。
そして、前述のように、オン状態の光を投影側光学系である投影レンズに入射し、オフ状態の光は投影レンズに入射しないようにすると共に、ミラーセルのオフ状態反射光のみでなく、表示素子のカバーガラスやミラーセル周辺のフラット部分からの反射光であるフラット迷光と呼ばれる迷光なども、投影レンズに入射しないようにしていた。
【0007】
また、フラット迷光と呼ばれる迷光の一部が投影レンズである投影側光学系の入射側から入射する場合でも、この迷光が投影レンズを透過しないように投影側光学系の位置や開口径を決定していた。
しかし、プロジェクタを高輝度化するため、照明側光学系や投影側光学系の開口を大きくする必要が生じている。
【0008】
このように照明側光学系などの開口を大きくすると、照明側光学系の開口拡大によって投影側光学系の入射側でオン状態光の光束であるオン状態光束やオフ状態光の光束であるオフ状態光束及びフラット迷光などの光束である迷光束の各光束の径も大きくなり、プロジェクタの小型化のために光変調手段と投影側光学系との距離を十分に大きく取ることができないため、投影側光学系の開口拡大と合わせて迷光が投影側光学系である投影レンズに入射する機会やその入射量が多くなり、迷光などによって画像のコントラストが低下する欠点が生じることがあった。
【0009】
本発明は、このような欠点を排除し、明るく鮮明な画像をスクリーンに形成することができる小型のプロジェクタ用の投影レンズ、ひいては小型にして鮮明な画像を得ることのできるプロジェクタを提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、可動絞り(70)を備えたプロジェクタに用いる投影用のズームレンズであって、ズームレンズにおける可動レンズ群の移動に合わせて光軸(69)の方向に移動する可動絞り(70)を有し、可動絞り(70)の開口部(75)は投影レンズ(60)の光軸(69)を中心とした円形であって、開口部(75)の周縁部であるリング部(71)の一部に、開口部(75)内側へ曲線状に突出する膨出部(73)を有する投影レンズ(60)とするものである。
【0011】
そして、この膨出部(73)を備えた可動絞り(70)は、レンズ群とレンズ群との間の空間に配置され、可動絞り(70)の前方のレンズ及び後方のレンズとの距離を可変としているものであって、可動レンズ群が固定された可動鏡筒に弾性部材を介在させて支持される絞り支持筒(190)に固定する場合や、可動レンズ群が固定される可動鏡筒と独立した絞り支持筒)に固定する場合がある。
【0012】
又、この投影レンズ(60)は、反射型表示素子(51)を用いるプロジェクタ用の投影レンズ(60)であって、膨出部(73)は、光軸(69)の位置に対して迷光束Rの中心方向のリング部(71)から開口部(75)に突出する膨出部(73)としているものである。
【0013】
尚、この膨出部(73)は、円弧状や楕円形状などの曲線状にレンズ光軸(69)の方向に突出させることもあり、円弧状とする場合、その曲率中心を迷光束Rの中心位置とすることがある。
【0014】
また、本発明は、マイクロミラー表示素子(51)を用いたプロジェクタ(10)であって、可動絞り(70)を備えたズーム機能を有する投影レンズ(60)を有するものとし、投影側光学系の可動絞り(70)をズーム状態に合わせて光軸方向に移動可能とすると共に、投影側光学系の光軸(69)位置を中心とする円形の開口部(75)を備え、且つ、光軸(69)の位置からの迷光束Rの中心方向に向かっての円周部であるリング部(71)から開口部(75)の中心方向へ突出する膨出部(73)を有する可動絞り(70)としたプロジェクタ(10)とするものである。
【発明の効果】
【0015】
本発明は、開口部の一部に突出する膨出部を周縁のリング部に有し、ズーム状態に合わせて光軸方向に移動する可動絞りを備えるプロジェクタ用投影レンズ及びこの可動絞りを備えた投影レンズを有するプロジェクタであるから、迷光を膨出部により効果的に遮断し、鮮明な投影画像を形成することができるものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
本発明に係るプロジェクタの最良の形態は、入力されるビデオ信号などに基づいてマイクロミラー表示素子51などを制御するマイクロコンピュータを内蔵し、光源装置41と、カラーホイール43や導光ロッド45などを含む光源側光学系と、照明レンズ46やミラー47などを含む照明側光学系、及び、照明側光学系から表示素子51に入射される光を平行光線束とするコンデンサーレンズ55やカバーガラス53を備えたマイクロミラー表示素子51、更に、表示素子51からのオン状態光束によりスクリーンなどに画像を投影するためのズームレンズとされるレンズ群であって可動絞り70を備えた投影側光学系としての投影レンズ60を有するものである。
【0017】
そして、このズーム機能を有する投影レンズ60の可動絞り70は、レンズ群とレンズ群との間の空間に設けられ、投影レンズ60のズーム状態に合わせて可動レンズ群の移動と共に光軸69の方向に移動可能とされ、且つ、投影レンズ60の光軸69を中心とする円形の開口部75を形成する環状のリング部71を有すると共に、迷光束Rの中心方向における開口部75の周縁であるリング部71から開口部75へ円弧状の膨出部73を有し、開口部75を通るオン状態光束Pにおける迷光束R側の光の一部を膨出部73により迷光と共に遮断するものである。
【実施例】
【0018】
本発明に係るプロジェクタは、プロジェクタ制御手段としてのマイクロコンピュータを内蔵し、図1に示すように、略直方体とされるケースの前面にはレンズカバー11を備えた投影口13を有し、ケースの上面には電源キー21や自動画質調整キー23、手動画質調整キー25、電源ランプインジケータ31、光源ランプインジケータ33、過熱インジケータ35などのキー及びインジケータ類を有し、図示しない背面には電源コネクタやパーソナルコンピュータと接続するUSB端子、画像信号入力用のビデオ端子やミニD−サブ端子などの各種信号入力端子を有するプロジェクタ10である。
【0019】
そして、上面の開閉蓋27の内部には、画質や画像の微調整及びプロジェクタ10の各種動作設定を行うサブキーを有し、ケースの側面には冷却ファンの吸排気口29を有するものである。
また、このプロジェクタ10の内部には、図2に示すように、超高圧水銀ランプなどを内蔵する光源装置41、及び、光源側光学系としてカラーホイール43や導光ロッド45、照明側光学系として複数の照明レンズ46と1枚のミラー47を有するものである。
【0020】
更に、このプロジェクタ10には、光源装置41のランプ点灯や表示素子51を画像信号に基づいて制御するプロジェクタ制御手段としてのマイクロコンピュータ、及び、光源装置41やプロジェクタ制御手段、更に、冷却ファン39などに電力を供給する電源回路を備えた回路基板37を内蔵しているものである。
【0021】
そして、カラーホイール43は、扇形の赤色フィルタ、緑色フィルタ、青色フィルタを円周状に配置した円板であり、ホイールモータ44により回転させて円周状に配置した各フィルタに光源装置41からの光を透過させることにより、光源装置41から射出される白色光を順次赤色光、緑色光、青色光の三原色光とするものである。
【0022】
また、導光ロッド45は、カラーホイール43を透過した光の強度分布を均一化して照明側光学系の照明レンズ46に入射し、この照明レンズ46は動向ロッド45を透過した光を表示素子51に集光させるものである。
そして、ミラー47は、表示素子51のミラーセルが一の方向に傾斜しているとき、表示素子51からの反射光が表示素子51の正面方向に向かうように斜め方向から表示素子51に照明レンズ46を透過した光を照射するものである。
【0023】
尚、このミラー47は、表示素子51の正面方向に反射されるオン状態光束Pと、ミラーセルが他の方向に傾斜したときに表示素子51から反射されたオフ状態光束Qとの両光束軸の角度差が極力大きくなる方向から表示素子51に当該ミラー47の反射光を照射するものである。
【0024】
そして、表示素子51は、縦横十数ミリメートルとされる矩形のDMD(マイクロ・ミラー・デバイス)であって、五十万個乃至百数十万個のミラーセルが格子状に配置され、各ミラーセルが平面位置から一方及び他方に各々十度乃至十数度の角度に傾くように設けられているものである。
なお、表示素子51の前面には、表示素子51を保護するカバーガラス53や照明側光学系のミラー47で反射された光を表示素子51に平行光線束として入射するコンデンサーレンズ55が設けられるものである。
【0025】
また、表示素子51で正面方向に反射されたオン状態光束Pは、図3に示すように、表示素子51の前方に配置された投影側光学系としての投影レンズ60に入射されるものであり、この投影レンズ60は、固定レンズ群61と第1可動レンズ群63及び第2可動レンズ群65による可変焦点型レンズとされ、スクリーンへの投影画像のズーム倍率の調整及びピント調整が可能とされるものであり、このズームレンズとされる投影側光学系は、可動レンズ群63の前方又は後方の空間位置に可動絞り70を有するものである。
【0026】
従って、この可動絞り70の位置では、図4に示すように、投影側光学系である投影レンズ60の光軸69を中心にオン状態光束Pが形成され、理論的にはこのオン状態光束Pに近接してカバーガラス53や表示素子51の平面で反射されたフラット迷光による迷光束Rが形成され、迷光束Rに近接してオフ状態光束Qがオン状態光束Pと逆方向に形成されることになる。
【0027】
即ち、ミラー47から表示素子51に入射された光が表示素子51で反射される際、オン状態光束Pは、図5の(A)に示すように、投影側光学系の光軸69と平行又は僅かに交わるようにして投影側光学系である投影レンズ60に入射され、オフ状態光束Qは図5の(B)に示すように、投影レンズ60に入射しない方向に表示素子51で反射されるものである。
【0028】
そして、表示素子51であるDMDのカバーガラス53やDMDのミラーセル周辺などの投影レンズ60の光軸と垂直な面で反射される僅かな光や表示素子51の表面であってミラーセル以外の平面で反射される光などの迷光束Rは、オン状態光束Pとオフ状態光束Qとの中間方向に反射され、多くは投影側光学系に入射されないように表示素子51や投影側光学系の配置及び光源側光学系のミラー47から表示素子51への入射角などが設定されるも、一部の迷光は図5の(C)に示すように投影側光学系の入射側から投影レンズ60に入射され、投影レンズ60から射出されてスクリーンに達し、投影画像を劣化させることになる。
【0029】
このため、この投影側光学系の入射側から入射した迷光も、レンズ鏡筒内で内壁に吸収し、且つ、可動絞り70によって遮断することにより、投影レンズ60を通過しないように可動絞り70の位置及び形状や投影側光学系の配置等が決められる。
尚、オン状態光束Pの中心とオフ状態光束Qの中心及び迷光束Rの中心は理論上一直線となる。
【0030】
このように、オン状態光束Pと迷光束Rとを近接させて迷光の一部をレンズ鏡筒の内壁で吸収させ、且つ、可動絞り70によって遮断するものであり、投影レンズ60とコンデンサーレンズ55との距離を小さくしてプロジェクタ10を小型化しているものであり、可動絞り70は、図6に示すように、外形を円形とすると共に内側に半径rの円形の開口部75を有する環状のリング部71を有するものとし、開口部75の一部には、リング部71から内方に突出する1個の膨出部73を有するものとしている。
【0031】
更に、この可動絞り70は、図7に示すように、開口部75の中心を投影レンズ60の光軸69と一致させるように投影側光学系に組み込んでいるものであり、膨出部73は、円弧状に開口部75の内側に突出させるものであって、オン状態光束Pに接するオン状態光束Pと同一半径rの迷光束Rの中心を中心とする半径tの円弧状として形成しているものである。
【0032】
このように、オン状態光束Pの外縁と迷光束Rの外縁とを理論的に接線状態とし、この両光束の半径rの2倍だけ投影レンズ60の光軸69から離れた位置を円弧状の膨出部73の曲率中心として円形の開口部75の一部に膨出部73を設けているため、理論上のオン状態光束Pに隣接した理論上の迷光束Rの範囲の周囲に拡散領域Sが発生している場合にも、この拡散領域Sに拡散している迷光を膨出部73により遮断し、鮮明な画像を形成することができるものである。
【0033】
また、膨出部73によりオン状態光束Pに近接する迷光を遮断することができるため、図8に示すように、開口部75の直径を大きくし、可動絞り70を透過するオン状態光線の全体的光量を多くし、明るい投影画像を形成することもできる。
【0034】
即ち、表示素子51の法線方向とオン状態光束Pの表示素子51からの反射角及びオフ状態光束Qの表示素子51からの反射角や表示素子51から可動絞り70までの距離、固定レンズ群61のFナンバーなどにより、オン状態光束Pの外縁と迷光束Rの外縁とが重なる開口部75の半径とすることにより、投影レンズ60の開口径を大きくし、且つ、オフ状態光束Qの中心方向におけるリング部71から開口部75へ円弧状の膨出部73を形成し、論理的迷光束R及びその拡散領域Sの迷光を遮断して明るく且つ鮮明な投影画像とするものである。
【0035】
更に、図4や図7に示したように投影側光学系である投影レンズ60の光軸69をオン状態光束Pの中心と一致させる場合のみでなく、照明側光学系のミラー47によるオン状態光への干渉を防ぐために、投影レンズ60の光軸69を平行移動させてオン状態光束Pの中心から光軸69をずらせたプロジェクタ10であっても、図9に示すように、投影レンズ60の開口Tを大きくし、オン状態光の投影側光学系への入射量を減少させないようにすることがある。
【0036】
この場合においても、理論上、一直線となるオン状態光束Pの中心、迷光束Rの中心、及び、オフ状態光束Qの中心の内、迷光束Rの中心へ光軸69から向かった投影レンズ60の周縁部yの位置に膨出部73を形成した可動絞り70とすることにより、効果的に迷光を遮断することができる。
【0037】
そして、この可動絞り70をレンズ群とレンズ群との間の空間に配置するに際しての位置決めは、投影側光学系によるズーム機能を有する投影レンズ60を構成する単レンズなどの組み合わせにより、オン状態光線や迷光の光路が異なるため、コンピュータによるシミュレーションによって迷光が最も密集する位置を求めて決定するものである。
【0038】
このシミュレーションにより、図10に示すように、例えば4群可動型のズームレンズであれば、前方から第1レンズ群101乃至第4レンズ群104のレンズ群とレンズ群との空間における迷光束Rの面積が最も小さく密集する最密集位置Vを求めるものである。
【0039】
この図10に示した第1レンズ群101、第2レンズ群102、第3レンズ群103、及び第4レンズ群104の各レンズ群は、全て可動レンズ群であり、図10に示した各レンズ群の位置は、投影レンズ60としてワイド端状態を示すものである。
更に、この最密集位置Vにおける迷光束Rの形状をシミュレーションで求め、図11に示すように、この迷光束Rの領域RWを覆う膨出部73の形状を定め、迷光束Rを遮断することができるようにするものである。
【0040】
尚、この投影レンズ60を形成する第1レンズ群101乃至第4レンズ群104を構成する単レンズ表面位置において、迷光束Rが最も密集する第2レンズ群102の前表面位置においては、図12に示すように迷光束Rの領域RWが形成されるものである。そして、この迷光束Rを遮断する膨出部73を形成すると、この膨出部73によりワイド端状態のオン状態光束PWは3.4パーセントの減衰を受けることになる。
【0041】
この第2レンズ群102のレンズ表面位置で迷光束Rを遮断するのに対し、図11に示した最密集位置Vに膨出部73を有する可動絞り70を位置させて迷光束Rを遮断する膨出部73を形成すると、この膨出部73によるワイド端状態でのオン状態光束PWの減衰を2.4パーセントと少なくすることができる。
【0042】
そして、この第1レンズ群101乃至第4レンズ群104による投影レンズ60のズーム比を順次変化させてワイド端状態からテレ端状態とするとき、オン状態光束Pの領域が変化すると共に迷光束Rの領域も変化し、第2レンズ群102の前表面位置における迷光束Rの領域は、投影レンズ60をテレ端状態とするとレンズ表面の周縁に僅かに現れることになる。
【0043】
即ち、図13に示すように、テレ端状態では迷光束Rの領域RTは極めて小さく、ミドル状態では迷光束Rの領域RMはテレ端状態の領域RTよりも大きく、且つ、図12に示したワイド端状態の領域RWよりも小さく現れるものである。
そして、このとき、オン状態光束Pも、図13に示したように、ワイド端状態のオン状態光束領域PWからミドル状態のオン状態光束領域PM、テレ端状態のオン状態光束領域PTのように変化するものである。
【0044】
従って、最密集位置Vの前方に位置する第1レンズ群101と最密集位置Vの後方に位置する第2レンズ群102との間である空間においても、投影レンズ60のワイド端状態からテレ端状態への変化に応じてオン状態光束Pの領域がワイド端状態の領域PW、ミドル状態の領域PM、テレ端状態の領域PTと変化する。
【0045】
このため、第1レンズ群101と第2レンズ群102との間の空間におけるオン状態光束Pの領域変化の状態に合わせ、図14に示すように、膨出部73が迷光束Rの領域を遮断しつつ順次ワイド端状態からミドル状態、テレ端状態へと変化するオン状態光束Pの各領域PW、PM、PT内に膨出部73が食い込む面積率が最小となる位置をシミュレーションにより求めるものである。
【0046】
この結果、可動絞り70の位置は、図15に示したミドル状態における絞り位置、図16に示したテレ端状態における絞り位置のように、第2レンズ群102の直前位置とすることにより、投影レンズ60のミドル状態やテレ端状態においてオン状態光束Pを膨出部73が遮る量を少なくすることができることになる。
【0047】
このため、図12に示した第2レンズ群102の前面表面位置に膨出部73を形成した場合に、テレ端状態ではオン状態光束Pを膨出部73が遮断することによりオン状態光束Pの減衰率を3.6パーセントとすることになるのに対し、可動絞り70を第2レンズ群102の僅かに前方に位置させることにより、3.1パーセントの減衰としてオン状態光束Pの遮断率を低減することができる。
【0048】
そして、この可動絞り70は、図17に示すように、第1レンズ群101を固定支持する第1鏡筒171に対して、圧縮状態とした弾性体175を介して摺動可能に絞り支持筒190の端部を嵌装し、この絞り支持筒190の他の端部近傍に膨出部73を備えた可動絞り70を固定するものである。
【0049】
この第1レンズ群101を内部に固定した第1鏡筒171や第2レンズ群102を内部に固定した第2鏡筒181は、図18に示すように、その外周にカムピン173、183を備えるものであり、この第1鏡筒171や第2鏡筒181を保持筒151に内装するものである。
【0050】
この保持筒151は、前端近傍にその軸方向に沿った直線状の前摺動溝153を有し、後端近傍にもその軸方向に沿った直線状の後摺動溝155を有するものであって、第1鏡筒171を軸方向に摺動可能に保持筒151の内部に収容して第1鏡筒171の第1カムピン173の先端をこの前摺動溝153から突出させ、同様に第2鏡筒181を軸方向に摺動可能に保持筒151の内部に収容して第2鏡筒181の第2カムピン183の先端をこの後摺動溝155から突出させるものである。
【0051】
更に、この保持筒151は、その前端を前固定筒157により支持され、且つ、その後端を後固定筒158により支持されてプロジェクタの内部に固定されるものであり、カム筒161が、前固定筒157及び後固定筒158により軸方向の移動を制限されて回転自在に前固定筒157及び後固定筒158により保持されて保持筒151をその内部に収納するものである。
【0052】
そして、このカム筒161は、その外周に回転歯167が設けられると共に、第1カムピン173の先端が挿入される前カム溝163と第2カムピン183が挿入される後カム溝165を有し、回転歯167によりカム筒161が回転させられると第1カムピン173や第2カムピン183を軸方向に移動させて第1鏡筒171や第2鏡筒181を光軸69方向に移動させるものである。
【0053】
尚、第3レンズ群103や第4レンズ群104も同様に各々カムピンを備えた鏡筒に固定され、第3レンズ群103を保持する鏡筒や第4レンズ群104を保持する鏡筒を保持筒の内部に摺動可能に装着し、カム溝を備えるカム筒の回転により第3レンズ群103及び第4レンズ群104も光軸方向に移動させるものである。
【0054】
このように、絞り支持筒190を圧縮状態の弾性体175を介して第1鏡筒171で保持しているため、図10に示したように、第1レンズ群101乃至第4レンズ群104の各レンズの間隔を広くしたワイド端状態では、可動絞り70を第1レンズ群101や第2レンズ群102から離れた状態として迷光束Rの最密集位置Vに位置させることができ、図15に示すように第1レンズ群101と第2レンズ群102との間隔が小さくなったミドル状態では、可動絞り70を第2レンズ群102の前方近傍に位置させることができる。
【0055】
そして、図16に示した第1レンズ群101と第2レンズ群102との間隔が更に小さくなる投影レンズ60のテレ端状態では、絞り支持筒190が第2鏡筒181と接触して弾性体175を圧縮し、可動絞り70は第2レンズ群102に近接した状態で第1レンズ群101との間隔を小さくするものである。
【0056】
このようにして、膨出部73を備えた可動絞り70を可動レンズ群の動きに合わせてオン状態光束Pの遮断率を小さくするように移動させることができる。
そして、この膨出部73は、迷光束Rの中心を曲率中心とする円弧状とすることにより、投影側光学系の入射側から投影側光学系に入射される迷光を効果的に遮断しつつ、必要なオン状態光を極力遮断することがないようにできるものである。
【0057】
また、開口部75の直径を一定として膨出部73により迷光を遮断するようにすれば、迷光束Rを投影レンズ60の光軸69の位置に近づけることも可能であり、鮮明な画像を維持しつつプロジェクタ10を小型化することも容易に可能とすることができるものである。
【0058】
尚、可動絞り70を固定する絞り支持筒190は、弾性体175を介して第1鏡筒171により支持する場合に限るものなく、絞り支持筒190を保持筒151の内部に摺動可能に収納し、この絞り支持筒190にも保持筒151を貫通するカムピンを設け、カム筒161に可動絞り移動用のカム溝を形成してカム筒161の回転により第1鏡筒171や第2鏡筒181と共に光軸69方向に移動させることもある。
【0059】
又、図10乃至図16に示した投影レンズ60は、4群全可動型のズームレンズであるも、レンズ群の構成は、4群に限ることなく、より多くのレンズ群により投影レンズ60を構成することもあり、更に、ズーム形式においても、複数の後方レンズ群のみを可動レンズ群とする場合、複数の前方レンズ群のみを可動レンズ群とする場合、複数の中間のレンズ群のみ可動レンズ群とするインナーズーム形式など、種々の構成のレンズを組み合わせた投影レンズ60とすることがある。
【0060】
そして、これらの投影レンズ60において、シミュレーションにより最も多くの迷光が投影レンズ60を透過するズーム状態における最密集位置Vを求め、この最密集位置Vにおける迷光束Rの領域の大きさ又は形状などをシミュレーションにより求めるものである。
【0061】
即ち、可動絞り70や絞り支持筒190は、第1レンズ群101と第2レンズ群102との間に設ける場合に限るものでなく、投影レンズ60とするズームレンズのレンズ構成に合わせ、シミュレーションにより迷光が最も密集するレンズ群とレンズ群との間の空間位置及びその領域形状を求めてこの空間位置に膨出部73を備えた可動絞り70を移動可能に配置するものである。
【0062】
尚、本発明は、以上の実施例の形態に限定されるものでなく、発明の要旨を逸脱しない範囲で自由に変更、改良が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0063】
【図1】本発明に係るプロジェクタの外観を示す図。
【図2】本発明に係るプロジェクタの内部構造を示す図。
【図3】本発明に係るプロジェクタの投影側光学系を示す模式図。
【図4】プロジェクタにおけるオン状態光束とオフ状態光束及び迷光束を模式的に示す図。
【図5】プロジェクタにおけるオン状態光束とオフ状態光束及び迷光束と投影側光学系の関係を模式的に示す図。
【図6】本発明に係るプロジェクタに用いる可動絞りを示す図。
【図7】本発明に係るプロジェクタにおける可動絞りによる迷光遮断状態を模式的に示す図。
【図8】本発明に係るプロジェクタにおける可動絞りの開口部を大きくした例を示す模式図。
【図9】プロジェクタにおけるオン状態光束やオフ状態光束及び迷光束と投影レンズの光軸との他の位置関係を模式的に示す図。
【図10】本発明に係るプロジェクタにおける投影側光学系のワイド端状態での迷光束の状態を模式的に示す図。
【図11】本発明に係るプロジェクタにおける迷光束最密集位置の光束状態を示す図。
【図12】本発明に係るプロジェクタにおけるレンズ表面位置での光束状態を示す図。
【図13】本発明に係るプロジェクタにおけるレンズ表面位置での光束状態の変化を示す図。
【図14】本発明に係るプロジェクタにおける迷光束最密集位置近傍における光束状態の変化を示す図。
【図15】本発明に係るプロジェクタにおける投影側光学系のミドル状態での迷光束の状態を模式的に示す図。
【図16】本発明に係るプロジェクタにおける投影側光学系のテレ端状態での迷光束の状態を模式的に示す図。
【図17】本発明に係るプロジェクタにおける可動絞りの取付け状態の一例を示す要部断面図。
【図18】本発明に係るプロジェクタにおける可動レンズ群の要部分解斜視図。
【符号の説明】
【0064】
10 プロジェクタ
11 レンズカバー 13 投影口
21 電源キー 23 自動画質調整キー
25 手動画質調整キー 27 開閉蓋
29 吸排気口 31 電源ランプインジケータ
33 光源ランプインジケータ 35 過熱インジケータ
37 回路基板 39 冷却ファン
41 光源装置 43 カラーホイール
44 ホイールモータ 45 導光ロッド
46 照明レンズ 47 ミラー
51 表示素子 53 カバーガラス
55 コンデンサーレンズ
60 投影レンズ 61 固定レンズ群
63 第1可動レンズ群 65 第2可動レンズ群
69 光軸
70 可動絞り 71 リング部
73 膨出部 75 開口部
101 第1レンズ群 102 第2レンズ群
103 第3レンズ群 104 第4レンズ群
151 保持筒
153 前摺動溝 155 後摺動溝
157 前固定筒
159 後固定筒
161 カム筒
163 前カム溝 165 後カム溝
167 回転歯
171 第1鏡筒
173 第1カムピン 175 弾性体
181 第2鏡筒
183 第2カムピン
190 絞り支持筒

P オン状態光束
PW オン状態光束のワイド端状態領域
PM オン状態光束のミドル状態領域
PT オン状態光束のテレ端状態領域
Q オフ状態光束
R 迷光束
RW 迷光束のワイド端状態領域
RM 迷光束のミドル状態領域
RT 迷光束のテレ端状態領域

S 拡散領域
T 投影レンズの開口
J1 軸上光束
J2 軸上光束以外の光線

【特許請求の範囲】
【請求項1】
プロジェクタに用いる投影用ズームレンズであって、可動レンズ群の移動に合わせて光軸方向に移動する可動絞りを有し、前記可動絞りの開口部は当該投影レンズの光軸を中心とした円形であって、前記開口部の周縁の一部に開口部内側へ曲線状に突出する膨出部を有することを特徴とするプロジェクタ用投影レンズ。
【請求項2】
前記膨出部を有する可動絞りは、レンズ群とレンズ群との間の空間に配置され、可動絞りの前方のレンズ及び後方のレンズとの距離を可変としていることを特徴とする請求項1に記載したプロジェクタ用投影レンズ。
【請求項3】
前記可動絞りは、可動レンズ群が固定された可動鏡筒に弾性部材を介在させて支持される絞り支持筒に固定されていることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載したプロジェクタ用投影レンズ。
【請求項4】
前記可動絞りは、可動レンズ群が固定される可動鏡筒と独立した絞り支持筒に固定されていることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載したプロジェクタ用投影レンズ。
【請求項5】
前記投影レンズは表示素子としてDMDを用いたプロジェクタ用の投影レンズであって、前記膨出部は、前記レンズの光軸位置に対して迷光束中心の方向における周縁部から前記開口部に突出していることを特徴とする請求項1乃至請求項4の何れかに記載したプロジェクタ用投影レンズ。
【請求項6】
前記膨出部は、前記円形の開口部の内側へ円弧状に突出していることを特徴とする請求項5に記載したプロジェクタ用投影レンズ。
【請求項7】
前記円弧状の曲率中心が、前記迷光束中心の位置であることを特徴とする請求項6に記載したプロジェクタ用投影レンズ。
【請求項8】
光源装置、光源側光学系及び照明側光学系、マイクロミラー表示素子、ズームレンズ機能を備えた投影側光学系、更に、電源回路やプロジェクタ制御手段を備えたプロジェクタであって、前記投影側光学系は、光軸方向への可動レンズ群の移動に合わせて光軸方向に移動可能な可動絞りを有し、この可動絞りが前記投影側光学系の光軸位置を中心とする円形の開口部を備えると共に、該開口部中心に対して迷光束中心方向における周縁部には前記開口部の中心方向へ突出する膨出部を有する可動絞りであることを特徴とするプロジェクタ。
【請求項9】
前記膨出部を有する可動絞りは、レンズ群とレンズ群との間の空間に配置され、可動絞りの前方のレンズ及び後方のレンズとの距離を可変としていることを特徴とする請求項8に記載したプロジェクタ。
【請求項10】
前記可動絞りは、可動レンズ群が固定された可動鏡筒に弾性部材を介在させて支持される絞り支持筒に固定されていることを特徴とする請求項8又は9に記載したプロジェクタ。
【請求項11】
前記可動絞りは、可動レンズ群が固定される可動鏡筒と独立した絞り支持筒に固定されていることを特徴とする請求項8又は9に記載したプロジェクタ。
【請求項12】
前記マイクロミラー表示素子としてDMDを用いたプロジェクタであって、前記膨出部は、前記周縁部から前記開口部へ円弧状に突出していることを特徴とする請求項8乃至請求項11の何れかに記載したプロジェクタ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【公開番号】特開2007−322960(P2007−322960A)
【公開日】平成19年12月13日(2007.12.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−155769(P2006−155769)
【出願日】平成18年6月5日(2006.6.5)
【出願人】(000001443)カシオ計算機株式会社 (8,748)
【Fターム(参考)】