説明

プロトン伝導性材料及びその製造方法

【課題】プロトン伝導性を高く維持し、且つ、熱的安定性及び耐熱水溶出性に優れたプロトン伝導性材料及びその製造方法を提供する。
【解決手段】表面に貫通孔を有する中空状の無機微粒子に電解質樹脂が充填され、当該無機微粒子と当該電解質樹脂とが、化学結合により架橋されていることを特徴とする、プロトン伝導性材料。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プロトン伝導性を高く維持し、且つ、熱的安定性及び耐熱水溶出性に優れたプロトン伝導性材料及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
燃料電池は、燃料と酸化剤を電気的に接続された2つの電極に供給し、電気化学的に燃料の酸化を起こさせることで、化学エネルギーを直接電気エネルギーに変換する。火力発電とは異なり、燃料電池はカルノーサイクルの制約を受けないので、高いエネルギー変換効率を示す。燃料電池は、通常、電解質膜を一対の電極で挟持した膜・電極接合体を基本構造とする単セルを複数積層して構成されている。中でも、電解質膜として固体高分子電解質膜を用いた固体高分子電解質型燃料電池は、小型化が容易であること、低い温度で作動すること、などの利点があることから、特に携帯用、移動体用電源として注目されている。
【0003】
固体高分子電解質型燃料電池では、水素を燃料とした場合、アノード(燃料極)では(1)式の反応が進行する。
→ 2H + 2e …(1)
(1)式で生じる電子は、外部回路を経由し、外部の負荷で仕事をした後、カソード(酸化剤極)に到達する。そして、(1)式で生じたプロトンは、水と水和した状態で、固体高分子電解質膜内をアノード側からカソード側に、電気浸透により移動する。
【0004】
また、酸素を酸化剤とした場合、カソードでは(2)式の反応が進行する。
2H + (1/2)O + 2e → HO …(2)
カソードで生成した水は、主としてガス拡散層を通り、外部へと排出される。このように、燃料電池では、水以外の排出物がなく、クリーンな発電装置である。
【0005】
通常用いられる固体高分子電解質型燃料電池の温度領域で作動可能な高分子電解質膜は、高分子を基本骨格又は主鎖にもつ有機高分子タイプのプロトン伝導性材料から構成されている。当該プロトン伝導性材料の課題としては、水の吸水時及び排水時に膜の伸縮を伴うこと、及び熱によりクリープ又は熱収縮が起こることといった、寸法変化が挙げられる。燃料電池の作動環境下では、水及び熱の収支が負荷や外部環境下により頻繁に変化することが知られているが、それに伴う膜の寸法変化は、電解質寿命を短命化する重要な課題であると共に、現行の有機高分子タイプのプロトン伝導性材料では、原理的に解決できない。
【0006】
上記課題を踏まえ、近年無機高分子タイプのプロトン伝導性材料の開発が盛んに行われている。特許文献1は、リン酸ジルコニウム等の結晶性リン酸金属塩に機械的粉砕法を用い、それを含むプロトン伝導性材料に関する技術を開示している。
【0007】
また、特許文献2は、ホスホシリケートゲル又はシリカゲルに、リン酸金属塩を添加したプロトン伝導性材料に関する技術を開示している。
【0008】
さらに、特許文献3は、イオン伝導性を有する高分子化合物にリン酸ジルコニウムを添加したプロトン伝導性材料に関する技術を開示している。
【0009】
また、従来にない有機高分子タイプのプロトン伝導性材料の開発も試みられている。特許文献4は、炭素同素体であるフラーレンにスルホン酸基を導入し、かつビフェニル等でフラーレン誘導体同士を架橋した、プロトン伝導性を有するフラーレンポリマーに関する技術を開示している。
【0010】
【特許文献1】特開2003−281931号公報
【特許文献2】特開2004−55181号公報
【特許文献3】特開2006−147478号公報
【特許文献4】特開2002−193861号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
上記のうち特許文献1乃至3においては、無機材料であるリン酸金属塩を用いている。通常無機材料においては、プロトン伝導性基を追加することによりプロトン伝導能を向上させようとすると、水和して流動性の高い液状になるため形状保持性が極めて悪い。したがって、リン酸金属塩はプロトン伝導能向上においては限界がある。
また特許文献4においては、有限個の炭素原子のみから成るフラーレン1分子上に直接導入できるプロトン伝導性基にはおのずと限界がある。したがって、この場合もプロトン伝導能向上において限界がある。
【0012】
本発明者らは、プロトン伝導性材料について鋭意検討した結果、表面に貫通孔を有する中空状の無機微粒子に電解質樹脂が充填されたものを開発し、前記材料が、機械的特性や形状を損なうことなく高いプロトン伝導性を示すことを見出し、既に特許出願を行っている(特願2007−246203)。
また、上記特許出願においては、表面に貫通孔を有する中空状の無機微粒子をスルホン酸基又はその前駆体基を有するモノマーと混合し、減圧下で前記無機微粒子内に前記モノマーを充填した後、当該モノマーを重合するプロトン伝導性材料の製造方法についても提案している。本方法によれば、無機微粒子の貫通孔から無機微粒子内部へモノマーを充填するという簡便な操作によって、続く重合反応によりポリマーを無機微粒子中に充填することで、機械的特性や形状を損なうことなく、プロトン伝導能を向上させることのできるプロトン伝導性材料を提供することができる。
【0013】
本発明者らは、さらに上記プロトン伝導性材料について研究を進め、熱的安定性及び耐熱水溶出性に優れたプロトン伝導性材料及びその製造方法を見出した。すなわち、本発明は、上記研究の経緯を経て成し遂げられたものであり、プロトン伝導性を高く維持し、且つ、熱的安定性及び耐熱水溶出性に優れたプロトン伝導性材料及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明のプロトン伝導性材料は、表面に貫通孔を有する中空状の無機微粒子に電解質樹脂が充填され、当該無機微粒子と当該電解質樹脂とが、化学結合により架橋されていることを特徴とする。
【0015】
このような構成のプロトン伝導性材料は、当該プロトン伝導性材料の外殻である前記無機微粒子の空洞内に充填された前記電解質樹脂の無数のプロトン伝導性基が、前記無機微粒子表面の貫通孔から露出していることからプロトン伝導性が高く、且つ、前記電解質樹脂が粒径の定まっている前記無機微粒子に閉じ込められていることから、前記プロトン伝導性材料の膨潤及び収縮が無い。また、本発明のプロトン伝導性材料は、プロトン伝導性基を前記電解質樹脂の構造中に多量に導入するというような、通常ならば流動性が高い状態であったとしても、本発明においては前記無機微粒子の空洞内に保持されるので、前記プロトン伝導性材料において形状保持性及びプロトン伝導性の両方の向上を達成することができる。
さらに、本発明のプロトン伝導性材料は、前記無機微粒子と前記電解質樹脂とが、化学結合により架橋されているため、熱的安定性に優れ、且つ、熱水中においても前記電解質樹脂が前記無機微粒子中から溶出すること無く、安定した形状を保つことができる。
【0016】
本発明のプロトン伝導性材料は、前記化学結合が、Si‐O結合であることが好ましい。
【0017】
このような構成のプロトン伝導性材料は、前記無機微粒子と前記電解質樹脂とが、化学的に安定かつ剛直なSi‐O結合により架橋されているため、より熱的安定性及び耐熱水溶出性に優れる。
【0018】
本発明のプロトン伝導性材料は、前記電解質樹脂がSi‐O骨格を有することが好ましい。
【0019】
このような構成のプロトン伝導性材料は、前記無機微粒子に前記電解質樹脂の原料となるモノマーを充填し、重合して前記電解質樹脂を合成する際に、重合反応を簡便に起こすことができるため、作製が容易である。また本発明のプロトン伝導性材料は、前記モノマーが、前記無機微粒子との親和性が高く充填することが容易であるため、前記プロトン伝導性材料の合成を迅速に行うことができる。
【0020】
本発明のプロトン伝導性材料は、前記無機微粒子がSiOであることが好ましい。
【0021】
このような構成のプロトン伝導性材料は、前記プロトン伝導性材料の外殻である前記無機微粒子が、化学的に安定かつ剛直な無機材料であるSiOによって形成されているため、機械的特性に優れ、水及び熱の収支によって収縮/膨張することなく安定した形状を保つことができる。
【0022】
本発明のプロトン伝導性材料は、前記無機微粒子のイオン交換容量よりも大きいイオン交換容量を有することが好ましい。
【0023】
このような構成のプロトン伝導性材料は、前記電解質樹脂を前記無機微粒子中に充填することで、前記無機微粒子以上のプロトン伝導性を確保することができる。
【0024】
本発明のプロトン伝導性材料は、イオン交換容量が0.5meq/g以上であることが好ましい。
【0025】
このような構成のプロトン伝導性材料は、十分なプロトン伝導性を有することができる。
【0026】
本発明のプロトン伝導性材料は、平均粒径が0.05〜10μmであることが好ましい。
【0027】
このような構成のプロトン伝導性材料は、適切な厚さで製膜することができる。
【0028】
本発明のプロトン伝導性材料は、前記無機微粒子のかさ密度が、当該無機微粒子の真密度の20%以下であることが好ましい。
【0029】
このような構成のプロトン伝導性材料は、前記無機微粒子の中に十分量の前記電解質樹脂を充填することができる。
【0030】
本発明のプロトン伝導性材料の製造方法は、表面に貫通孔を有する中空状の無機微粒子と、スルホン酸基を有するモノマーを混合し、減圧下で前記無機微粒子内に前記モノマーを充填した後、当該モノマーを重合し、重合後に結合剤を加えて再重合することによって、前記無機微粒子と、重合後の電解質樹脂とを、化学結合により架橋することを特徴とする。
【0031】
このような構成のプロトン伝導性材料の製造方法により、本発明に係るプロトン伝導性材料が得られる。また、本発明のプロトン伝導性材料の製造方法は、前記無機微粒子と前記モノマーとを共に減圧下に置くという簡便な操作により、前記モノマーを前記無機微粒子の貫通孔から当該無機微粒子内部へと充填することができ、さらに、続く重合反応によりポリマーを無機微粒子中で重合することができる。また、本発明のプロトン伝導性材料の製造方法は、モノマー重合後にさらに結合剤を加えて再重合することによって、本発明に係るプロトン伝導性材料の特徴の一つである、前記無機微粒子と前記電解質樹脂との化学結合の架橋を容易に形成することができる。
【0032】
本発明のプロトン伝導性材料の製造方法は、前記結合剤として、ヒドロカーボンオキシシラン化合物、ビス(トリヒドロカーボンオキシシリル)アルカン化合物、ビス(トリヒドロカーボンオキシシリル)アリール化合物から選ばれる少なくとも一種を用いることが好ましい。
【0033】
このような構成のプロトン伝導性材料の製造方法は、前記結合剤としてSi‐O結合を有する化合物を用いることによって、前記無機微粒子と前記電解質樹脂との間にSi‐O結合の架橋が形成されたプロトン伝導性材料が得られる。
【0034】
本発明のプロトン伝導性材料の製造方法は、前記結合剤を加える量が、前記無機微粒子を加える量を100重量部としたときに、5〜40重量部であることが好ましい。
【0035】
このような構成のプロトン伝導性材料の製造方法は、Si‐O結合の架橋が適度に形成されたプロトン伝導性材料が得られる。
【発明の効果】
【0036】
本発明によれば、本発明のプロトン伝導性材料の外殻である前記無機微粒子の空洞内に充填された前記電解質樹脂の無数のプロトン伝導性基が、前記無機微粒子表面の貫通孔から露出していることからプロトン伝導性が高く、且つ、前記電解質樹脂が粒径の定まっている前記無機微粒子に閉じ込められていることから、前記プロトン伝導性材料の膨潤及び収縮が無い。また、本発明によれば、プロトン伝導性基を前記電解質樹脂の構造中に多量に導入するというような、通常ならば流動性が高い状態であったとしても、本発明においては前記無機微粒子の空洞内に保持されるので、前記プロトン伝導性材料において形状保持性及びプロトン伝導性の両方の向上を達成することができる。
さらに、本発明によれば、前記無機微粒子と前記電解質樹脂とが、化学結合により架橋されているため、熱的安定性に優れ、且つ、熱水中においても前記電解質樹脂が前記無機微粒子中から溶出すること無く、安定した形状を保つことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0037】
本発明のプロトン伝導性材料は、表面に貫通孔を有する中空状の無機微粒子に電解質樹脂が充填され、当該無機微粒子と当該電解質樹脂とが、化学結合により架橋されていることを特徴とする。
【0038】
以下、図面を参照しながら本発明のプロトン伝導性材料について詳しく説明する。図1は本発明のプロトン伝導性材料の典型例を示した図であり、粒子状のプロトン伝導性材料を輪切りにした図である。右下円内は断面の拡大図であり、前記無機微粒子及び前記電解質樹脂の構造式を模式的に示した図である。右下円内のケイ素原子とスルホン酸基をつなぐ折れ線はアルキル鎖を表している。プロトン伝導性材料100は電解質樹脂1と無機微粒子2とから成り、中空状の前記無機微粒子2が前記電解質樹脂1で充填されている。前記無機微粒子2は無数の貫通孔を有し、当該貫通孔を通じて前記電解質樹脂1は粒子表面に露出している。
また、前記電解質樹脂1と前記無機微粒子2とは、化学結合(図1中においては、Si−O結合)により架橋されている。
【0039】
図1の右下円内に模式的に示す構造式のように、前記電解質樹脂1はSi‐O骨格を有することが好ましい。前記電解質樹脂1はスルホン酸基のようなプロトン伝導性基を有している。当該スルホン酸基が、図1の右下円内に示すように、前記無機微粒子2の貫通孔を通じて前記プロトン伝導性材料100表面に露出しているのが好ましい。
【0040】
Si‐O骨格を有する電解質樹脂の典型例としては、モノマーを重合することによってSi‐O骨格が形成されたポリマーが挙げられる。このようなポリマーは、前記無機微粒子に前記電解質樹脂の原料となるモノマーを充填し、重合して前記電解質樹脂を合成する際に、重合反応を簡便に起こすことができる。また前記モノマーは、前記無機微粒子との親和性が高く充填することが容易であるため、前記プロトン伝導性材料の合成を迅速に行うことができる。さらに、前記電解質樹脂がSi‐O骨格という強固なポリマー鎖を有することで、プロトン伝導性基が前記プロトン伝導性材料外へ漏れ出すことがない。
【0041】
前記電解質樹脂1はその他にも、通常燃料電池において使用される高分子電解質を用いることができる。ここでいう高分子電解質とは、ナフィオン(商品名)に代表されるパーフルオロカーボンスルホン酸樹脂のようなフッ素系高分子電解質の他、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルケトン、ポリエーテルスルホン、ポリフェニレンスルフィド、ポリフェニレンエーテル、ポリパラフェニレン等のエンジニアリングプラスチックや、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン等の汎用プラスチック等の炭化水素系高分子にスルホン酸基、カルボン酸基、リン酸基、ボロン酸基等のプロトン酸基(プロトン伝導性基)を導入した炭化水素系高分子電解質が挙げられる。
【0042】
前記無機微粒子2は、粒子内部に十分な充填量を確保することができ、且つ、前記電解質樹脂1の原料となるモノマーの充填時に、流動に対する内部抵抗が小さく且つ充填しやすいことが求められる。完全な中空体に限定されるわけではなく、柱上、隔壁状の内部組織を若干有していてもよい。
【0043】
また、前記無機微粒子2が表面に有する貫通孔は、前記電解質樹脂1の原料となるモノマーの充填時に流動に対する抵抗が小さくて充填しやすいこと、且つ、粒子内部でモノマーが付加重合又は重縮合されて生成した電解質樹脂が流出し難い、適切な範囲の大きさを有することが求められる。
【0044】
上記のような前記無機微粒子2内部及び貫通孔の性質を満たすために、当該無機微粒子2はSiOであることが好ましい。前記プロトン伝導性材料100は、SiOによる剛直な殻を有することから機械的特性に優れるという利点もある。
【0045】
前記プロトン伝導性材料100は、前記無機微粒子2そのもののイオン交換容量よりも大きいイオン交換容量を有することが好ましく、前記プロトン伝導性材料100の当該イオン交換容量は0.5meq/g以上であることが好ましい。
仮に前記プロトン伝導性材料100のイオン交換容量が前記無機微粒子2のイオン交換容量よりも小さいとすると、イオン伝導性基を追加してもイオン伝導能の向上は望めない。また、仮に前記プロトン伝導性材料100の前記イオン交換容量が0.5meq/g未満であるとすると、当該プロトン伝導性材料100を例えば燃料電池の電解質膜に用いた際、十分な発電効率が望めない。
【0046】
重合後の前記プロトン伝導性材料の前記電解質樹脂の保持力は、前記無機微粒子が有する貫通孔の平均直径や数、又は重合された電解質樹脂の流動性のいずれにも依存するが、それらを直接に測定又は観測することは困難である。またそれらの値を知得することができたとしても、前記無機微粒子の空洞部に充填された前記電解質脂の充填量に比例するプロトン伝導度との関係から総合的に評価しなければならない。かかる観点から、熱水中においても流出せずに粒子空洞内に残留するプロトン伝導性材料のイオン交換容量、すなわち、熱水処理試験後の残留イオン交換容量が0.5meq/g以上であることがさらに好ましい。
【0047】
前記プロトン伝導性材料100の平均粒径が0.05〜10μmであることが好ましい。
仮に前記プロトン伝導性材料100の平均粒径が0.05μm未満では、十分量充填された電解質樹脂を保持するだけの十分な大きさではない。逆に前記プロトン伝導性材料100の平均粒径が10μmを超えると、例えば、適切な厚さの電解質膜に用いることが不可能になってしまう。
【0048】
前記無機微粒子2のかさ密度が、当該無機微粒子2の真密度の20%以下であることが好ましい。仮に前記無機微粒子2のかさ密度が、当該無機微粒子2の真密度の20%を超えると、十分量の電解質樹脂の充填が期待できない。
さらに好ましくは、粒子の破壊を回避する観点から、前記無機微粒子2のかさ密度が、当該無機微粒子2の真密度の5%以上であればよい。
【0049】
本発明でいう化学結合とは、原子同士の結びつきをいい、原子間で電子を共有し合う共有結合、原子間で電子を共有しないイオン結合の両方を含む。細かく分類すれば、一方の原子からのみ電子が提供される配位結合、主に価電子によって結合が維持される金属結合も含み、さらに、分子間の静電相互作用による結合、ファンデルワールス相互作用による結合、水素結合、電荷移動相互作用による結合も含む。
この内、本発明においては、無機微粒子と電解質樹脂とが、共有結合によって架橋されているのが好ましい。
【0050】
前記化学結合が、Si‐O結合であることが好ましい。これは、前記無機微粒子と前記電解質樹脂とが、化学的に安定かつ剛直なSi‐O結合により架橋されているため、より熱的安定性及び耐熱水溶出性に優れるからである。
なお、前記電解質樹脂1と前記無機微粒子2とは、各々の有するケイ素原子と酸素原子とが結合し、直接Si‐O結合によって架橋されていてもよいし、結合剤を介して間接的にSi‐O結合によって架橋されていてもよい
【0051】
本発明によれば、無機微粒子の空洞内に充填された電解質樹脂の無数のプロトン伝導性基が、無機微粒子表面の貫通孔から露出していることからプロトン伝導性が高く、且つ、電解質樹脂が粒径の定まっている無機微粒子に閉じ込められていることから、プロトン伝導性材料の膨潤及び収縮が無い。また、本発明によれば、プロトン伝導性基を電解質樹脂の構造中に多量に導入するというような、通常ならば流動性が高い状態であったとしても、本発明においては無機微粒子の空洞内に保持されるので、前記プロトン伝導性材料において形状保持性及びプロトン伝導性の両方の向上を達成することができる。
さらに、本発明によれば、無機微粒子と電解質樹脂とが、化学結合により架橋されているため、熱的安定性に優れ、且つ、熱水中においても電解質樹脂が無機微粒子中から溶出すること無く、安定した形状を保つことができる。
【0052】
本発明のプロトン伝導性材料の製造方法は、表面に貫通孔を有する中空状の無機微粒子と、スルホン酸基を有するモノマーを混合し、減圧下で前記無機微粒子内に前記モノマーを充填した後、当該モノマーを重合し、重合後に結合剤を加えて再重合することによって、前記無機微粒子と、重合後の電解質樹脂とを、化学結合により架橋することを特徴とする。
【0053】
無機微粒子としては主成分がSiOであるマイクロカプセル(商品名:ワシンマイクロカプセル)を用いるのが好ましいが、他の無機微粒子多孔質中空体を用いてもよい。具体的には、上記SiOの他にはシルセスオキサンやゼオライト等が挙げられる。ただし、メソポーラスシリカは、粒子内部から電解質樹脂が簡単に流出してしまい、当該電解質樹脂を保持しにくいことから、本発明で用いられる中空状無機微粒子には該当しない。
無機微粒子の製造方法としては、カチオン界面活性基を有するビニルモノマー共存下で、スチレンモノマーを重合させて、表面にイオン性基を有するポリスチレン微粒子を得る。そのポリスチレン微粒子にテトラエトキシシランを加水分解縮合反応させ、ポリスチレン微粒子表面にシリカを形成する。次にポリスチレンを溶媒で溶解除去することによって、中空のシリカマイクロカプセルを得る。
なお、マイクロカプセルは前記プロトン伝導性材料製造前に塩酸等の酸による処理を行い、不純物を予め除くことが必要である。
【0054】
ここでいうモノマーの重合は、付加重合及び重縮合を含む。また、初めから大分子量のポリマーである樹脂は、減圧時に充填しづらいという理由から用いることはできない。したがって、充填にはモノマーを用いることができる。
【0055】
モノマーとしては、中空状無機微粒子の空洞内に充填すべき電解質樹脂の繰り返し単位となる化合物が用いられる。
例えば、従来から固体高分子型燃料電池の分野で用いられているパーフルオロカーボンスルホン酸を無機微粒子に充填したい場合には、フルオロエチレン等のフルオロカーボン骨格を形成するモノマーを用いることができる。
Si‐O骨格を有する電解質樹脂を無機微粒子に充填したい場合には、スルホン酸基又はその前駆体基を有するヒドロカーボンオキシシラン化合物及び/又はシラノール化合物を用いることができる。ここで用い得るヒドロカーボンオキシシラン化合物とは、スルホン酸基又はその前駆体基がケイ素原子に直接又は間接的に結合すると共に、異種原子を含んでいてもよいヒドロカーボンオキシ基が同じケイ素原子に結合した構造を有する化合物である。ヒドロカーボンオキシ基とは、例えばアルコキシ基又はアリールオキシ基のように、脂肪族又は芳香族の炭化水素基に酸素原子が結合した構造を有し、当該酸素原子がケイ素原子に対し結合する基である。ヒドロカーボンオキシ基は異種原子を含んでいてもよい。スルホン酸基又はその前駆体基がケイ素原子に間接的に結合する場合には、例えば、脂肪族又は芳香族の炭化水素基を介して結合していてもよく、この炭化水素基は異種原子を含んでいてもよい。また、ここで用い得るシラノール化合物とは、スルホン酸基又はその前駆体基がケイ素原子に直接又は間接的に結合すると共に、水酸基が同じケイ素原子に結合した構造を有する化合物である。
上記ヒドロカーボンオキシシラン化合物及び/又は上記シラノール化合物としては、例えば、Si原子に、スルホン酸炭化水素基(異種原子を含んでいてもよい)と、水酸基(−OH)及び/又はアルコキシ基若しくはアリールオキシ基(異種原子を含んでいてもよい)とが結合したケイ素化合物が好ましく用いられる。より具体的には、下記式(1)、式(2)及び式(3)で表わされる構造を有するものが挙げられる。
【0056】
【化1】

(式中、Rは炭素数1〜4の脂肪族炭化水素基又は炭素数6〜10の芳香族炭化水素基であり、且つ、n=1〜4である。)
【0057】
スルホン酸基の前駆体基を有するモノマーとしては、上述したスルホン酸基を有するモノマーに誘導可能な化合物を用いることができ、例えば、上記式(1)、式(2)及び式(3)に対応するモノマーとしては、下記式(4)、式(5)及び式(6)で表わされる構造を有するものが挙げられる。
【0058】
【化2】

(式中、R〜Rは互いに独立であり、水素原子、異種原子を含んでいてもよく好ましくは炭素数1〜4の脂肪族炭化水素基、及び異種原子を含んでいてもよく好ましくは炭素数6〜10の芳香族炭化水素基からなる群から選択される官能基である。また、n=1〜4である。X〜Xは互いに独立であり、チオール基、スルフィニル基、スルホン酸フルオリド、スルホン酸クロリド、スルホン酸ブロミド、スルホン酸ヨージド、スルホン酸リチウム、スルホン酸カリウム又はスルホン酸ナトリウム等のスルホン酸基の前駆体基のうちのいずれかから選択される官能基である。)
【0059】
なお、前記電解質樹脂の合成に際し、モノマーは2種類以上用いてもよい。
【0060】
スルホン酸基の前駆体基をスルホン酸基に変換する方法としては、例えば当該前駆体基がチオール基、スルフィニル基の場合には過酸化水素水等の酸化剤を加えることによりスルホン酸基に変換することができ、あるいは前記前駆体基がスルホン酸フルオリド、スルホン酸クロリド、スルホン酸ブロミド、スルホン酸ヨージド、スルホン酸リチウム、スルホン酸カリウム又はスルホン酸ナトリウム等の場合には塩酸若しくは硫酸等の酸又は水酸化ナトリウム水溶液などの塩基を加えることによりスルホン酸基に変換することができる。
また、スルホン酸基の前駆体基は上記に示すものに限らず、例えば、上記式(4)乃至(6)中のX〜Xが末端オレフィンである場合も含む。この場合には、三酸化硫黄を作用させた後塩基処理することによって、末端にスルホン酸基を有するアルキル基へと変換することができる。
【0061】
モノマーの無機微粒子への充填条件としては、減圧度として1〜200mmHg、20〜100℃、1〜6時間行うのが好ましい。また、モノマーの無機微粒子内における重合条件としては、減圧下で80〜150℃、2〜24時間加熱処理を行うのが好ましい。
なお、この充填及び重合の際に、既に電解質樹脂と無機微粒子との間に化学結合が形成されている可能性も考えられる。しかし、後の実施例におけるTGA測定及び耐熱水性試験によっても示されているように、結合剤による再重合を経た実施例のプロトン伝導性材料と、結合剤による再重合を経ていない比較例のプロトン伝導性材料とでは、熱安定性及び耐熱水性に差が生じたことから、上述した充填及び重合の際においては、プロトン伝導性材料自体の物理的特性に影響を生じる程の数の化学結合は形成されていないと考えるのが妥当である。
【0062】
前記結合剤としては、ヒドロカーボンオキシシラン化合物、ビス(トリヒドロカーボンオキシシリル)アルカン化合物、ビス(トリヒドロカーボンオキシシリル)アリール化合物から選ばれる少なくとも一種を用いることが好ましい。
【0063】
上記ヒドロカーボンオキシシラン化合物としては、例えば、Si原子に、アルコキシ基又はアリールオキシ基(異種原子を含んでいてもよい)とが結合した化合物が好ましく用いられる。より具体的には、下記式(7)で表わされる構造を有するものが挙げられる。
【0064】
【化3】

(式中、R10〜R13は互いに独立であり、異種原子を含んでいてもよく好ましくは炭素数1〜4の脂肪族炭化水素基、及び異種原子を含んでいてもよく好ましくは炭素数6〜10の芳香族炭化水素基からなる群から選択される官能基である。)
【0065】
上記ビス(トリヒドロカーボンオキシシリル)アルカン化合物とは、脂肪族炭化水素基に、ケイ素原子が2つ結合し、且つ、当該ケイ素原子に、ヒドロカーボンオキシ基が3つずつ結合した化合物のことである。ビス(トリヒドロカーボンオキシシリル)アルカン化合物としては、例えば、Si原子に、アルコキシ基又はアリールオキシ基(異種原子を含んでいてもよい)とが結合した化合物が好ましく用いられる。より具体的には、下記式(8)で表わされる構造を有するものが挙げられる。
【0066】
【化4】

(式中、R14〜R19は互いに独立であり、異種原子を含んでいてもよく好ましくは炭素数1〜4の脂肪族炭化水素基、及び異種原子を含んでいてもよく好ましくは炭素数6〜10の芳香族炭化水素基からなる群から選択される官能基である。また、R20は脂肪族炭化水素基であり、好ましくは、炭素数1〜9の脂肪族炭化水素基である。)
【0067】
上記ビス(トリヒドロカーボンオキシシリル)アリール化合物とは、芳香族炭化水素基に、ケイ素原子が2つ結合し、且つ、当該ケイ素原子に、ヒドロカーボンオキシ基が3つずつ結合した化合物のことである。ビス(トリヒドロカーボンオキシシリル)アリール化合物としては、例えば、Si原子に、アルコキシ基又はアリールオキシ基(異種原子を含んでいてもよい)とが結合した化合物が好ましく用いられる。より具体的には、下記式(9)で表わされる構造を有するものが挙げられる。
【0068】
【化5】

(式中、R21〜R26は互いに独立であり、異種原子を含んでいてもよく好ましくは炭素数1〜4の脂肪族炭化水素基、及び異種原子を含んでいてもよく好ましくは炭素数6〜10の芳香族炭化水素基からなる群から選択される官能基である。また、R27は芳香族炭化水素基であり、好ましくは、炭素数6〜10の芳香族炭化水素基である。)
【0069】
このような構成のプロトン伝導性材料の製造方法は、前記結合剤としてSi‐O結合を有する化合物を用いることによって、前記無機微粒子と前記電解質樹脂との間にSi‐O結合の架橋が形成されたプロトン伝導性材料が得られる。
【0070】
前記結合剤を加える量が、前記無機微粒子を加える量を100重量部としたときに、5〜40重量部であることが好ましい。これは、仮に前記結合剤を加える量が5重量部未満である場合、無機微粒子と電解質樹脂とのSi‐O結合の架橋が十分に形成されないからであり、また、仮に前記結合剤を加える量が40重量部を超える場合、前記無機微粒子表面に、前記結合剤由来の非プロトン伝導層が厚く形成され、プロトン伝導度が低下するからである。
【0071】
再重合を行う準備段階として、上述した充填・重合反応を行ったのとは別の容器に、予め結合剤を加え、さらにメタノール、エタノール等のアルコール類及び塩酸、硫酸、硝酸等の酸水溶液の混合溶媒をゆっくり滴下し、20〜60℃で3〜24時間攪拌するのが好ましい。この手順によって、結合剤を、後の再重合時に加える無機微粒子の内部及び表面に均一に分布させることができる。
【0072】
再重合の手順としては、上述した準備段階後の容器に、上述したポリマーが充填した無機微粒子を加え、20〜60℃、2〜24時間で攪拌した後、溶媒を減圧留去し、減圧下で80〜150℃、2〜24時間加熱処理を行う。加熱処理後、乳鉢などで均一化した後、適切な溶媒で数回洗浄を行い、減圧乾燥を60〜120℃、2〜6時間の条件で行うことで、上述した本発明のプロトン伝導性材料が得られる。
【0073】
本発明によって、上述したプロトン伝導性材料が得られる。また、本発明によれば、無機微粒子とモノマーとを共に減圧下に置くという簡便な操作により、モノマーを無機微粒子の貫通孔から当該無機微粒子内部へと充填することができ、さらに、続く重合反応によりポリマーを無機微粒子中で重合することができる。また、本発明によれば、モノマー重合後にさらに結合剤を加えて再重合することによって、本発明に係るプロトン伝導性材料の特徴の一つである、無機微粒子と電解質樹脂との化学結合の架橋を容易に形成することができる。
【実施例】
【0074】
1.無機微粒子の前処理
表面上に貫通孔を有する中空状の無機微粒子としてマイクロカプセル(商品名:ワシンマイクロカプセル)10.0gを、0.1Nの塩酸200mL中に加え、1日攪拌した。その後静置してマイクロカプセルを沈殿させ、上澄み液を取り除いた。蒸留水を200mL加えてよく攪拌した後、同様に静置・上澄み液の除去を行った。このように、蒸留水の追加・攪拌・上澄み液の除去を、pH=7程度になるまで繰り返した。
最後に、残った沈殿物を、120℃、真空下の条件で6時間減圧乾燥した。
【0075】
2.プロトン伝導性材料の製造
[実施例1]
上述した前処理後の無機微粒子0.10g(100重量部)を、スルホン酸基を有するモノマーとして濃度30wt%の3‐(トリヒドロキシシリル)‐1‐プロパンスルホン酸溶液(Gelest製)1.54gに加えた。その後、無機微粒子に前記モノマーを充填するために減圧(100mmHg、25℃、2時間)を行った。さらに3時間減圧して、水分を除去し、減圧下で80℃、1日加熱処理を行ってモノマーの重合を行った。
次に、別のフラスコに、結合剤としてテトラエトキシシラン0.034g(34重量部)を加え、さらにエタノールと0.01Nの塩酸の1:1混合溶媒をゆっくり滴下した。室温で24時間攪拌させた後、重合後のポリマーを加え、さらに60℃で24時間攪拌した。その後溶媒を減圧留去し、減圧下で80℃、12時間加熱処理を行って再重合を行った。
その後、乳鉢を用いて均一化した後、イオン交換水で3回洗浄を行い、減圧乾燥(120℃、6時間)を行った。その結果、0.23gの白色固体である、プロトン伝導性材料を得た。
【0076】
[比較例1]
上述した前処理後の無機微粒子0.10gを、スルホン酸基を有するモノマーとして濃度30wt%の3‐(トリヒドロキシシリル)‐1‐プロパンスルホン酸溶液(Gelest製)1.54gに加えた。その後、無機微粒子に前記モノマーを充填するために減圧(100mmHg、25℃、2時間)を行った。さらに3時間減圧して、水分を除去した。続いて減圧下で80℃、12時間加熱処理を行ってモノマーの重合を行った。その後、乳鉢を用いて均一化した後、イオン交換水で3回洗浄を行い、減圧乾燥(120℃、6時間)を行った。その結果、0.36gの白色固体である、プロトン伝導性材料を得た。
【0077】
3.プロトン伝導性材料のTGA測定とその評価
上記実施例1及び比較例1のプロトン伝導性材料、及び前処理後の無機微粒子(すなわち、電解質樹脂を充填する直前の粒子)に対して、TGA(Thermogravimetric analysis)測定を行った。図2は、上記実施例1及び比較例1のプロトン伝導性材料、並びに前処理後の無機微粒子のTGA曲線を示したグラフである。
実施例1及び比較例1のプロトン伝導性材料は、前処理後の無機微粒子と比較して、0〜150℃間における重量減少が少ない。この温度区間における重量減少は、水分の脱離によるものと考えられることから、実施例1及び比較例1のプロトン伝導性材料は、電解質樹脂を有しない無機微粒子と比較して、0〜150℃間においては水分を適度に保持していると考えられる。
また、250〜400℃間における重量減少は、スルホン酸基の脱離によるものと考えられ、さらに、400℃以上における重量減少は、有機部分の分解によるものと考えられる。したがって、実施例1及び比較例1のプロトン伝導性材料は、200℃まで熱的安定性を維持することができ、また、実施例1のプロトン伝導性材料は、比較例1のものと比較して、スルホン酸基の脱離及び有機部分の分解を抑制する効果が大きいことが分かった。
【0078】
4.プロトン伝導性材料の耐熱水性試験とその評価
上記実施例1及び比較例1のプロトン伝導性材料に対して、80℃の熱水に30分浸漬した後、重量を測定し、浸漬前の重量に対する重量減少率を算出した。表1は、実施例1及び比較例1のプロトン伝導性材料の重量減少率を示した表である。
【0079】
【表1】

【0080】
表1より、比較例1のプロトン伝導性材料の重量減少率が34%であったのに対して、実施例1のプロトン伝導性材料の重量減少率は26%に留まった。したがって、実施例1のプロトン伝導性材料は、比較例1のものに比べて、耐熱水性がさらに改善されたことが分かった。
【0081】
5.プロトン伝導性材料を有する電解質膜の製造
[実施例2]
ナスフラスコの中で窒素下、製膜性を向上させるための高分子の一種であるポリビニリデンフルオリド・ヘキサフルオロプロピレン共重合体(PVDF‐HFP)0.10g(50重量部)をジメチルアセトアミド(DMA)1.5mLに溶解させ、実施例1で合成したプロトン伝導性材料0.10g(50重量部、平均粒径3〜5μm)を加え、窒素下室温で1日攪拌した。攪拌終了後、攪拌子を取り出し、超音波ホモジナイザーを用いて30分攪拌し、PVDF‐HFP及び実施例1のプロトン伝導性材料を溶液中で単分散させた。
単分散後の溶液をテフロン(登録商標)シャーレ上にキャストし、窒素気流下で60℃、24時間放置したところ、湿潤ゲル膜を得た。当該湿潤ゲル膜中の残留溶媒を除去するために、120℃、真空下の条件で12時間減圧乾燥したところ、半透明で柔軟性のある電解質膜0.2gを得た。
【0082】
[比較例2]
ナスフラスコの中で窒素下、製膜性を向上させるための高分子の一種であるPVDF‐HFP0.10g(50重量部)をジメチルアセトアミド(DMA)1.5mLに溶解させ、比較例1で合成したプロトン伝導性材料0.10g(50重量部、平均粒径3〜5μm)を加え、窒素下室温で1日攪拌した。攪拌終了後、攪拌子を取り出し、超音波ホモジナイザーを用いて30分攪拌し、PVDF‐HFP及び比較例1のプロトン伝導性材料を溶液中で単分散させた。
単分散後の溶液の処理は、上述した実施例2と同様であり、当該処理後に、半透明で柔軟性のある電解質膜0.2gを得た。
【0083】
6.プロトン伝導性材料を有する電解質膜のプロトン伝導度測定
上記実施例2及び比較例2の電解質膜に対して、80℃の熱水に30分浸漬する熱水処理の前、及び当該熱水処理後のプロトン伝導度を測定した。表1は、実施例2及び比較例2の電解質膜のプロトン伝導度を、熱水処理前後で比較した表である。
【0084】
【表2】

【0085】
表2より、比較例2の電解質膜のプロトン伝導度は、熱水処理前後で大幅に変化し、したがって、比較例2の電解質膜は、耐熱水性が低いことが分かる。これに対して、実施例2の電解質膜のプロトン伝導度は、熱水処理前後でほとんど変化せず、したがって、実施例2の電解質膜は、耐熱水性が高いことが分かる。これらの結果から、実施例2の電解質膜は、比較例2のものに比べて、耐熱水性がさらに改善され、熱水処理後においても高いプロトン伝導性を保持し続けることが分かった。
【0086】
6.まとめ
上記TGA測定及び耐熱水性試験結果より、実施例1のプロトン伝導性材料は、比較例1のプロトン伝導性材料と比べて、熱的安定性及び耐熱水性が改良されていることが分かった。また、上記プロトン伝導度測定結果より、実施例2の電解質膜は、比較例2の電解質膜と比べて、熱水処理後も高いプロトン伝導性を保持し続けることが分かった。
【図面の簡単な説明】
【0087】
【図1】本発明の燃料電池用電解質膜に含有されるプロトン伝導性材料の典型例を示した図であり、粒子状のプロトン伝導性材料を輪切りにした図である。
【図2】実施例1及び比較例1のプロトン伝導性材料、並びに前処理後の無機微粒子のTGA曲線を示したグラフである。
【符号の説明】
【0088】
1…第一の電解質樹脂
2…無機微粒子
100…プロトン伝導性材料

【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面に貫通孔を有する中空状の無機微粒子に電解質樹脂が充填され、当該無機微粒子と当該電解質樹脂とが、化学結合により架橋されていることを特徴とする、プロトン伝導性材料。
【請求項2】
前記化学結合が、Si‐O結合である、請求項1に記載のプロトン伝導性材料。
【請求項3】
前記電解質樹脂がSi‐O骨格を有する、請求項1又は2に記載のプロトン伝導性材料。
【請求項4】
前記無機微粒子がSiOである、請求項1乃至3のいずれか一項に記載のプロトン伝導性材料。
【請求項5】
前記無機微粒子のイオン交換容量よりも大きいイオン交換容量を有する、請求項1乃至4のいずれか一項に記載のプロトン伝導性材料。
【請求項6】
イオン交換容量が0.5meq/g以上である、請求項1乃至5のいずれか一項に記載のプロトン伝導性材料。
【請求項7】
平均粒径が0.05〜10μmである、請求項1乃至6のいずれか一項に記載のプロトン伝導性材料。
【請求項8】
前記無機微粒子のかさ密度が、当該無機微粒子の真密度の20%以下である、請求項1乃至7のいずれか一項に記載のプロトン伝導性材料。
【請求項9】
表面に貫通孔を有する中空状の無機微粒子と、スルホン酸基を有するモノマーを混合し、減圧下で前記無機微粒子内に前記モノマーを充填した後、当該モノマーを重合し、重合後に結合剤を加えて再重合することによって、前記無機微粒子と、重合後の電解質樹脂とを、化学結合により架橋することを特徴とする、プロトン伝導性材料の製造方法。
【請求項10】
前記結合剤として、ヒドロカーボンオキシシラン化合物、ビス(トリヒドロカーボンオキシシリル)アルカン化合物、ビス(トリヒドロカーボンオキシシリル)アリール化合物から選ばれる少なくとも一種を用いる、請求項9に記載のプロトン伝導性材料の製造方法。
【請求項11】
前記結合剤を加える量が、前記無機微粒子を加える量を100重量部としたときに、5〜40重量部である、請求項9又は10に記載のプロトン伝導性材料の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−9852(P2010−9852A)
【公開日】平成22年1月14日(2010.1.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−166132(P2008−166132)
【出願日】平成20年6月25日(2008.6.25)
【出願人】(304023318)国立大学法人静岡大学 (416)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】