説明

プロトン酸基含有ブロックコポリマー、及びその製造方法、並びに高分子電解質膜

【課題】エーテル交換反応を抑制することが可能であって、かつ、工業的に有利なスルホン酸基含有ブロックコポリマーの製造方法を提供すること。
【解決手段】本発明の一態様に係るプロトン酸基含有プロックコポリマーの製造方法は、末端ヒドロキシル基を有し、プロトン酸基を有するポリ(エーテルスルホン)オリゴマーと、末端ヒドロキシル基を有し、プロトン酸基を含まないポリ(エーテルスルホン)オリゴマーと、前記オリゴマーの末端ヒドロキシル基と結合して、前記オリゴマー間の連結部として機能する鎖延長剤と、塩基と、を溶媒中に溶解させ、120℃以下の温度で加温するものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プロトン酸基含有ブロックコポリマー及びその製造方法に関する。また、前記プロトン酸基含有ブロックコポリマーを含む高分子電解質膜に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、固体高分子型燃料電池用の高分子電解質膜には、プロトン伝導性、安定性に優れたパーフルオロ系ポリマーが広く用いられている。しかしながら、パーフルオロ系ポリマーは、高温時にプロトン伝導性が低下してしまうという問題がある。また、高価であることが工業的に問題となっている。
【0003】
そこで、炭化水素系ポリマーがパーフルオロ系ポリマーの代替材料として脚光を浴びている。これまで、ポリエーテル、ポリフェニレン、ポリイミド骨格を持つ新規スルホン化炭化水素系ポリマーが数多く合成され、その特性評価が行われてきた。
【0004】
代表的なパーフルオロ系ポリマーであるNafion(登録商標)膜は、その疎水性主鎖と親水性側鎖間で相分離構造を発現し、親水性ドメインの会合によるクラスター構造がプロトン輸送チャンネルとして働くことで高プロトン伝導性を実現している。そこで、炭化水素系ポリマーにおいても高分子構造と高分子ドメインを制御することで、プロトン輸送チャンネルを形成し、それによる高プロトン伝導性の実現が可能であると考えられている。
【0005】
そのような背景のもと、スルホン酸基含有ブロックコポリマーが注目を浴びている。スルホン酸基含有ブロックコポリマーは、ミクロあるいはナノサイズでプロトン輸送チャンネルとなる親水性ドメインの形状を制御できるため、高プロトン伝導性を実現できると考えられている。
【0006】
スルホン酸基含有ブロックコポリマーを得る方法として、ハロゲン末端を有するオリゴマーと水酸基末端を有するオリゴマーとを反応させる手法が提案されている。しかしながら、塩素末端を用いた場合には、高い反応温度(>180℃)が必要なため、反応時のエーテル交換反応が起こり、高分子構造がランダム化してしまう(非特許文献1参照)。そこで、フッ素末端オリゴマーを用いて温和な条件で反応を行うことによりエーテル交換反応を抑制し、マルチブロックコポリマーを合成する方法が提案された(非特許文献2、3)。しかしながら、上記非特許文献2及び3の方法は、多量のフッ素化合物を用いる必要があった。また、製造工程数が多い観点からも、工業的に有利な条件とは言えなかった。
【非特許文献1】Wang Z ,et al. , Polym Int, 50, 249-255, 2001
【非特許文献2】Mc Grath, J. E. et al. , Polymer, 47, p4132-4139, 2006
【非特許文献3】Mc Grath, J. E. et al. , Polymer, 49, p715-723, 2008
【非特許文献4】McGrath J. E. et al. ,Macromol. Symp., 175, p387-395, 2001
【非特許文献5】McGrath J. E. et al. ,Chem Rev 2004; 104: 4587.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、エーテル交換反応を抑制することが可能であって、かつ、工業的に有利なスルホン酸基含有ブロックコポリマーの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記目的を達成すべく鋭意検討を重ね、下記態様において本件発明の目的を達成し得ることを見出した。すなわち、本発明に係るスルホン酸基含有ブロックコポリマーの製造方法は、末端ヒドロキシル基を有し、プロトン酸基を有するポリ(エーテルスルホン)オリゴマーと、末端ヒドロキシル基を有し、プロトン酸基を含まないポリ(エーテルスルホン)オリゴマーと、前記オリゴマーと結合して、前記オリゴマー間の連結部として機能する鎖延長剤と、塩基と、を溶媒中に溶解させ、120℃以下の温度で加温することにより得るものである。
【0009】
上記非特許文献3においては、下記化学式(3)に示すように、スルホン酸基を有さないオリゴマーと、デカフルオロビフェニルを反応させ、末端にフルオロビフェニルを有するオリゴマーを合成する(Step1)ことが提案されている。
【化1】

【0010】
次いで、上記化学式(3)により得られたオリゴマーを精製し、このオリゴマーと、スルホン酸基を有する末端ヒドロキシル基のポリ(エーテルスルホン)オリゴマーとを反応させる(Step2)。これらの工程を経て、マルチブロックコポリマーを得る。
【0011】
上記化学式(3)の反応(Step1の反応)においては、末端ヒドロキシ基を有するオリゴマーと、デカフルオロビフェニルによって、ポリマー化させずに、オリゴマーの両末端にフルオロビフェニル基を導入する必要がある。このため、デカフルオロビフェニルをオリゴマーに対して過剰量加えなければならない。同文献においては、スルホン酸基を含まないオリゴマー1モルに対して、デカフルオロビフェニルを6モル加えた実験例が開示されている。
【0012】
本発明によれば、プロトン酸基を有するオリゴマー及びプロトン酸基を有さないオリゴマーの総モル数と同モル数の鎖延長剤を加えることにより、プロトン酸基含有ブロックコポリマーを得ることができる。しかも、上記非特許文献3に記載のStep1及びStep2の工程を、同時に行うことが可能である。具体的には、溶媒中に、プロトン酸基を有するポリ(エーテルスルホン)オリゴマーと、プロトン酸基を含まないポリ(エーテルスルホン)オリゴマーと、鎖延長剤と、塩基とを溶解させ、加温することによりプロトン酸基含有ブロックコポリマーを製造することができる。従って、工業的に有利な条件にて、プロトン酸基含有ブロックコポリマーを製造することができる。
【0013】
また、本発明によれば、120℃以下の温和な条件下で重合反応を進行せしめることができるので、エーテル交換反応や副反応を抑制することができる。従って、分子量低下や高分子構造のランダム化を抑制し、マルチブロックコポリマーを得ることができる。
【0014】
本発明に係るプロトン酸基含有ブロックコポリマーは、上記製造方法により得られるものである。また、本発明に係る高分子電解質膜は、上記プロトン酸基含有ブロックコポリマーを主成分とするものである。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、エーテル交換反応を抑制することが可能であって、かつ、工業的に有利なプロトン酸基含有ブロックコポリマーの製造方法を提供することができるという優れた効果を有する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明を適用した実施形態の一例について説明する。なお、本発明の趣旨に合致する限り、他の実施形態も本発明の範疇に属し得ることは言うまでもない。
【0017】
本発明に係るプロトン酸基含有プロックコポリマーは、(1)末端ヒドロキシル基を有し、プロトン酸基を有するポリ(エーテルスルホン)オリゴマー(以降、プロトン酸基含有「ポリ(エーテルスルホン)オリゴマー」とも云う)と、(2)末端ヒドロキシル基を有し、プロトン酸基を含まないポリ(エーテルスルホン)オリゴマー(以降、単に「ポリ(エーテルスルホン)オリゴマー」とも云う)を共重合させることにより得ることができる。以降の説明において、これら2種類のオリゴマーを総称して「オリゴマー」とも云う。
【0018】
本発明に係るプロトン酸基含有プロックコポリマーは、前記2種類のオリゴマーと、鎖延長剤と、塩基と、を溶媒中に溶解させ、120℃以下の温度で加温することにより得ることができる。鎖延長剤は、オリゴマーと連結して、オリゴマー間の連結部として機能するものである。鎖延長剤は、前記オリゴマーの末端ヒドロキシル基とカップリング反応することにより、オリゴマーと共有結合により連結せしめられる。
【0019】
本発明に係るオリゴマーは、エーテルスルホンの繰り返し構造単位を有する。エーテルスルホン構造とすることにより、優れた耐熱性、耐電解液性を実現することができる。耐熱性、柔軟性、耐酸化性、成膜性を高める観点からは、オリゴマーの主骨格を芳香族炭化水素とすることが好ましい。
【0020】
上記各オリゴマーの数平均分子量は、分子構造によるので一概には言えないが、通常、5000以上、15000以下とすることが好ましい。数平均分子量が5000未満であると、ランダムポリマーの特性が強くなり、後述するブロックコポリマー化による効果が得にくくなる。一方、15000を超えると、ポリマー全体としてのブロック性やマルチブロックコポリマーとしての有効性が失われる可能性がある。
【0021】
本発明に係るプロトン酸基含有ポリ(エーテルスルホン)オリゴマーは、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において、種々の構造とすることができるが、特に好適な例として下記式(1)を挙げることができる。
【化2】

式中のX、Xは、プロトン酸基を示し、Xは、単結合、−O−、−SO−、−CO-,−C(CF−から選ばれる任意の基を示す。また、mは、10以上、30以下の整数を示す。
【0022】
特に好ましいXは、単結合、若しくは−C(CF−である。また、mは、10以上、30以下とすることがより好ましく、10以上、25以下とすることが特に好ましい。mが10未満の場合、ランダムポリマーの特性が強くなり、後述するブロックコポリマーによる効果が得にくくなる。一方、mが30を超えると、ポリマー全体としてのブロック性やマルチブロックコポリマーとしての有効性が失われる可能性がある。このオリゴマーを構成するエーテルスルホンの繰り返し構造単位は、同一構造のエーテルスルホンを連結したオリゴマーであっても、複数種類のエーテルスルホンを連結したものであってもよい。
【0023】
上記X、Xのプロトン酸基は、プロトンを放出しやすい官能基とする。例えば、スルホン酸基(−SOH)、カルボン酸基(−COOH)、リン酸基(−PO)、アルキルスルホン酸基(−(CHSOH)、アルキルカルボン酸基(−(CHCOOH)、アルキルホスホン酸基(−(CHPO)、及びフェノール性ヒドロキシル基(−Ph−OH)等からなる群より選ばれた少なくとも1種以上含まれたものが好ましい。上記rは、例えば、1〜10、好ましくは1〜5とする。上記スルホン酸基、カルボン酸基、リン酸基は、一部がアルキル基、ナトリウム、カリウム、カルシウム等で置換されていてもよい。上記酸生成基に含まれるアルキル基及びアルキレン基は、炭素数が1〜10個、好ましくは、1〜5個含有するものであり得る。特に好ましいプロトン酸基として、スルホン酸基を挙げることができる。スルホン酸基を、電子吸引性のスルホニル基近傍に導入することにより、安定性を向上させることができる。
【0024】
プロトン酸基をオリゴマーの主骨格に導入するためには、種々の既知の官能基導入反応を利用することができる。例えば、スルホン酸基を導入する場合、スルホン化剤が使用される。このスルホン化剤としては、特に限定されるものではないが、例えば、濃硫酸、発煙硫酸、クロロ硫酸、無水硫酸錯体等を好適に使用することができる。また、カルボン酸基を導入する場合、酸化反応、カルボン酸誘導体の加水分解反応、転移反応等を用いることができる。フェノール性ヒドロキシル基を導入する場合、ハロゲン等の置換反応、キノン等の還元反応、炭化水素の酸化反応等を用いることができる。プロトン酸基の導入は、モノマーの段階で行うことが好ましい。モノマーの段階でプロトン酸基を導入することにより、オリゴマー鎖中にプロトン酸基を均一に導入することができる。上記式(1)のオリゴマーは、例えば、末端Cl基やF基を有するプロトン酸基が導入されたスルホン基含有モノマーと、X基を含有するビスフェノール化合物若しくはビスフェノール化合物とを反応させることにより合成することができる。
【0025】
本発明に係るプロトン酸基を含まないポリ(エーテルスルホン)オリゴマーは、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において、種々の構造とすることができるが、特に好適な例として下記式(2)を挙げることができる。
【化3】

式中のXは、単結合、−O−、−SO−、−CO-,−C(CF−から選ばれる任意の基を示す。また、nは、10以上、40以下の整数を示す。
【0026】
特に好ましいXは、単結合、若しくは−C(CF−である。また、nは、10以上、40以下とすることがより好ましく、10以上、30以下とすることが特に好ましい。nが10未満の場合には、ランダムポリマーの特性が強くなり、ブロックポリマー化による効果が得にくい。一方、nが40を超えると、ポリマー全体としてのブロック性やマルチブロックコポリマーとしての有効性が失われる可能性がある。このオリゴマーを構成するエーテルスルホンの繰り返し構造単位は、同一構造のエーテルスルホンを連結したオリゴマーであっても、複数種類のエーテルスルホンを連結したものであってもよい。上記式(2)のオリゴマーは、例えば、末端Cl基やF基を有するスルホン基含有モノマーと、ビスフェノール化合物、若しくはX基を含有するビスフェノール化合物とを反応させることにより合成することができる。
【0027】
鎖延長剤は、上述したように、前記オリゴマーの末端ヒドロキシル基と反応して、オリゴマー間の連結部として機能し得るものである。本発明の趣旨を逸脱しないものであれば特に限定されないが、温和な条件下で効率よく反応を進行させる観点から、デカフルオロビフェニル、ヘキサフルオロベンゼン、若しくはオクタフルオロナフタレンとすることが好ましい。より好ましくは、デカフルオロビフェニル、ヘキサフルオロベンゼンを挙げることができる。これらの高活性な鎖延長剤を用いることにより、120℃以下の温和な反応条件下で、オリゴマーと鎖延長剤を求核置換反応によって容易に結合させることができる。温和な条件により合成可能なため、エーテル交換反応や副反応を抑制することができる。高分子量のポリマーを得る観点から、鎖延長剤の仕込み量は、オリゴマーの総モル数と同じとすることが好ましい。
【0028】
反応溶媒としては、例えば、N−メチルピロリドン(NMP)、ジメチルスルホキシド(DMSO)、N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)、N,N−ジメチルアセトアミド、トルエン、メシチレン、アニソール、クロロベンゼン、オルト−クロロベンゼン、シクロヘキサン等を挙げることができる。これらは、単独で、若しくは混合して用いることができる。特に好ましくは、N−メチルピロリドン(NMP)、ジメチルスルホキシド、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミドなどの極性溶媒を好適に用いることができる。
【0029】
塩基としては、例えば、炭酸セシウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、水酸化リチウム等のアルカリ金属の塩基を好適に用いることができる。
【0030】
塩基は、重合反応を効率的に進行せしめる観点から、オリゴマーの総量に対して当量以上加える。すなわち、オリゴマー中の1つのヒドロキシル基1モルに対して少なくとも1モル以上加える。好ましくは、1つのヒドロキシル基1モルに対して塩基を1.1モル以上加える。塩基は、1種類用いても複数種類用いてもよい。反応温度は、120℃以下の加温条件下で行う。より好ましくは、80℃以上、120℃以下である。反応温度を120℃以下とすることにより、反応時のエーテル交換反応による高分子構造のランダム化を十分に抑制することができる。一方、180℃以上とすることにより、ランダムな高分子構造をもつポリマーが得られる。
【0031】
本発明に係るプロトン酸基含有プロックコポリマーの数平均分子量は特に限定されないが、各種物性値を安定に発現させる観点からは、20000以上とすることが好ましく、50000以上とすることがより好ましく、100000以上とすることがさらに好ましい。但し、溶媒への溶解性、加工性を考慮すると200000以下とすることが好ましい。
【0032】
本発明によれば、オリゴマー1モルに対し、鎖延長剤を1モル加えることにより、ブロックコポリマーを得ることが可能である。しかも、上記非特許文献3に記載のStep1及びStep2の工程を、同時に行うことが可能である。従って、工業的に有利な条件にて、プロトン酸基含有ブロックコポリマーを製造することができる。
【0033】
また、本発明によれば、120℃以下の温和な条件下で重合反応を進行せしめることができるので、エーテル交換反応や副反応を抑制することができる。従って、分子量低下や高分子構造のランダム化を抑制し、マルチブロックコポリマーを得ることができる。
【0034】
本発明に係るプロトン酸基含有ブロックコポリマーのうち、プロトン酸基含有ポリ(エーテルスルホン)オリゴマーに由来するユニットは、親水性ユニットとして機能する。一方、プロトン酸基を含まないポリ(エーテルスルホン)オリゴマーに由来するユニットは、疎水性ユニットとして機能する。従って、各ユニットの仕込み比を調節することにより、容易に親水性ユニット、疎水性ユニットの割合を調整することができる。また、オリゴマーの分子量を調整することにより、親水性/疎水性のドメインのサイズを調整することができる。従って、ニーズに応じたドメインサイズ、親水性ユニット/疎水性ユニットの割合を有する膜を容易に作製することができる。
【0035】
本発明に係るプロトン酸基含有プロックコポリマーは、高寸法安定性、高含水性を示す。これは、本発明に係るプロトン酸基含有プロックコポリマーが、マルチブロック性のドメイン構造を有しているため、疎水性ドメインが親水性ドメインの膨潤を効果的に抑制しているものと考察している。さらに、良好なプロトン伝導性を示す。また、本発明に係るプロトン酸基含有プロックコポリマーは、酸化安定性、熱安定性にも優れる。従って、本発明に係るプロトン酸基含有ブロックコポリマーは、高分子電解質膜や分離透析膜等として有用である。
【0036】
本発明に係るプロトン酸基含有ブロックコポリマー、又はその組成物は、押し出し、紡糸、圧延、又はキャストなど任意の方法で繊維やフィルムなどの成形体とすることができる。中でも、適当な溶媒に溶解した溶液から形成することが好ましい。
【0037】
溶液から成形体を得る方法は、公知の方法を用いて行うことができる。例えば、加熱、減圧乾燥、化合物を溶解する溶媒とを混和することができる化合物非溶媒への浸漬等によって、溶媒を除去し成形体を得ることができる。溶媒が、有機溶媒の場合には、加熱又は減圧乾燥によって溶媒を留去させることが好ましい。この際、必要に応じて他の化合物と複合された形で繊維状、フィルム状、ペレット状、プレート状、ロッド状、パイプ状、ボール状、ブロック状などの様々な形状に形成することもできる。溶解挙動が類似する化合物と組み合わせた場合には、良好な形状ができる点が好ましい。
【0038】
本発明に係るプロトン酸基含有ブロックコポリマー又はその組成物から、イオン電導膜を作製することも可能であり、これらは、多孔質膜、フィブリル、紙などの支持体との複合膜であってもよい。得られたイオン導電膜は、燃料電池用の高分子電解質膜として好適に用いることができる。本発明に係るプロトン酸基含有ブロックコポリマーを高分子電解質膜として用いる場合には、プロトン酸基含有オリゴマーと、プロトン酸基を含まないオリゴマーの仕込み比は、10:90〜80:20の範囲とすることが好ましい。プロトン酸基含有オリゴマーの仕込み比が上記範囲より少ないと、十分なプロトン伝導性が得られない恐れがある。逆に、耐水性や耐久性を良好に保つ観点から、プロトン酸基含有オリゴマーの仕込み比が上記範囲より多くならないようにすることが好ましい。より好ましい範囲は、40:60〜70:30である。
【0039】
<実施例>
次に、実施例によりさらに本発明を具体的に説明するが、本発明の範囲は下記の実施例に限定されるものではない。なお、以下に記載する試薬等は、特に断らない限りは一般に市販されているものである。また、赤外吸収スペクトル測定(IR)は、HoribaFT-720フーリエ変換赤外分光度計を、核磁気共鳴吸収スペクトル測定は、Bruker DPX 300SスペクトロメータHNMR(300MHz)、13CNMR(75MHz)を用いた。また、数平均分子量(Mn)及び重量平均分子量(Mw)は、GPC測定(JASCOPU-2080 Plus)により行った。検量線としてポリスチレン標準サンプル、カラムとしてTSKGELs; GMHHR-M、溶出液として0.01MのLiBrを含むN,N−ジメチルホルムアミドを用い、流速を1.0mL/minとして測定を行った。また、熱重量測定(TG)及び示差熱分析測定(DTA)は、Seiko EXSTAR 6000 TG/DTA 6300を用いて、昇温速度10℃/min、窒素雰囲気下で行った。
【0040】
(親水性オリゴマーの合成) 下記化学式(4)及び下記方法に従って、親水性オリゴマーを合成した。
【化4】

【0041】
まず、4,4−ジクロロジフェニルスルホンを発煙硫酸中で6時間反応させ、反応終了後、塩化ナトリウムを用いて塩析を行うことにより、3,3'−ジスルホン酸ナトリウム塩−4,4'−ジクロロジフェニルスルホン(以下、「SDCDPS」と称する)を得た。次いで、窒素雰囲気下、ディーンスターク管を付けた一口なすフラスコに前記SDCDPS3.16g(6.0mmol)、4,4'−ビフェノール1.34g(7.2mmol)、炭酸カリウム1.49g(10.8mmol)、NMP23ml、トルエン20mlを仕込み、150℃にて2時間保温することにより系中の水分を共沸除去した。その後180℃まで昇温し、16時間反応させた。放冷後、反応液を水に注ぎ、塩化カリウムを加えた。ろ過で析出物を回収し、60℃にて減圧乾燥することで両末端がOH基の親水性オリゴマーを得た。
【0042】
得られた親水性オリゴマーの測定結果は、以下のとおりである。
・収率:87%(収量:3.5g)
1HNMR(DMSO-d6,δ,ppm):8.29(2H,s),7.86(2H,d),7.71(2H,d),7.61(end-group,d),
7.47(end-group,d),7.13(2H,d),
7.07(end-group,d),7.01(2H,d),6.83(end-group,d).
・IR(KBr,ν):1242,1165(cm-1)
【0043】
上記結果より、得られた親水性オリゴマーは、上記スキームに示す反応生成物と一致することを確認した。
【0044】
(疎水性オリゴマーαの合成) 下記化学式(5)及び下記方法に従って、疎水性オリゴマーαを合成した。
【化5】

【0045】
窒素雰囲気下、ディーンスターク管を付けた一口なすフラスコに4,4'−ジクロロジフェニルスルホン4.31g(15.0mmol)、4,4'−ビフェノール3.05g(16.4mmol)、炭酸カリウム3.39g(24.5mmol)、NMP35ml、トルエン20mlを仕込み、150℃にて2時間保温することにより系中の水分を共沸除去した。その後180℃まで昇温し、12時間反応させた。放冷後、反応液を水に注ぎ、得られた沈殿物をろ過し、さらにメタノール洗浄を行った。そして、100℃にて減圧乾燥することで両末端にOH基を有する疎水性オリゴマーαを得た。
【0046】
得られたオリゴマーαの測定結果は、以下のとおりである。
・収率:95%(収量:6.0g)
1HNMR(DMSO-d6,δ,ppm):7.92(4H,s),7.72(4H,s),7.61(end-group,d),
7.44(end-group,d),7.16(8H,s),6.84(end-group,d).
【0047】
上記結果より、得られたオリゴマーαは、上記スキームに示す反応生成物と一致することを確認した。
【0048】
(疎水性オリゴマーβの合成) 下記化学式(6)及び下記方法に従って、疎水性オリゴマーβを合成した。
【化6】

【0049】
窒素雰囲気下、ディーンスターク管を付けた一口なすフラスコに4,4'−ジクロロジフェニルスルホン3.45g(12.0mmol)、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ヘキサフルオロプロパン4.40g(13.1mmol)、炭酸カリウム2.71g(19.6mmol)、NMP40ml、トルエン20mlを仕込み、150℃にて2時間保温することにより系中の水分を共沸除去した。その後180℃まで昇温し、12時間反応させた。放冷後、反応液を水に注ぎ、得られた沈殿をろ過し、さらにメタノールで洗浄を行った。そして、100℃にて減圧乾燥することで両末端にOH基を有する疎水性オリゴマーβを得た。
【0050】
得られたオリゴマーβの測定結果は、以下のとおりである。
・収率:90%(収量:6.3g)
1HNMR(DMSO-d6,δ,ppm):7.95(4H,d),7.38(4H,d),7.20(8H,s),
7.03(end-group,d),6.74(end-group,d).
【0051】
上記結果より、得られたオリゴマーβは、上記スキームに示す反応生成物と一致することを確認した。
【0052】
次に、本実施例に係るポリマーの製造方法の一例を説明する。まず、本実施例に係るポリマーと類似構造を有するランダムコポリマーの製造方法について説明する。
(比較例1)
比較例1として、下記化学式(7)及び下記方法に従って、デカフルオロビフェニルと疎水性オリゴマーから合成されるホモポリマーを合成した。
【化7】

【0053】
窒素雰囲気下、三方コックを付けた一口なすフラスコに疎水性オリゴマーα0.90g(M=6000,0.15mmol)、デカフルオロビフェニル0.05g,(0.15mmol)、炭酸カリウム0.03g,(0.23mmol)、DMAc7.0mlを仕込み、120℃で4時間反応させた。放冷後、反応液をDMAcで希釈し、メタノールに注ぎ、得られた沈殿をろ過、水で洗浄し100℃で10時間乾燥し、クリーム色のポリマーIを得た。
【0054】
得られたポリマーIの測定結果は、以下のとおりである。
・収率:93%(収量:0.88g)
・M=95000,M/M=5.7
1HNMR(CDCl3,δ,ppm):7.89(2H,d),7.57(2H,d),7.09(4H,dd).
【0055】
(比較例2)
非特許文献4に従って、下記化学式(8)に示すランダムな共重合体ポリマーを合成した。以後、このポリマーをポリマーIIと称する。
【化8】

(実施例1)
下記化学式(9)及び下記方法に従って、ポリマーAを合成した。
【化9】

【0056】
窒素雰囲気下、三方コックを付けた一口なすフラスコに上記親水性オリゴマーを0.45g(M=15000,0.03mmol)、疎水性オリゴマーαを0.20g(M=6500,0.03mmol)、NMP5.5mlを仕込み、80℃で親水性オリゴマーと、疎水性オリゴマーαを溶解させた。空冷後、デカフルオロビフェニル0.02g(0.06mmol)と炭酸カリウム0.01g(0.07mmol)を加え、120℃で18時間反応させた。放冷後、反応液をNMPで希釈し、イソプロパノールに注ぎ、得られた沈殿をろ過、水で洗浄した。次に、得られたポリマーの酸処理を行った。得られたポリマーを、室温で2日間、1.0M硫酸水溶液中で攪拌した後、ろ過によりポリマーを回収した。そして、ポリマーを純水でよく洗浄し、60℃で10時間乾燥することにより薄茶色のポリマーAを得た。
【0057】
得られたポリマーAの測定結果は、以下のとおりである。また、図1に、得られたポリマーAのIRスペクトルを、図2(a)に疎水性オリゴマーαのHNMRスペクトルを、図2(b)に実施例1に係るポリマーAのHNMRスペクトルを示す。また、図3(a)に比較例2に係るポリマーIIの13CNMRスペクトルを、図3(b)に実施例1に係るポリマーAの13CNMRスペクトルを示す。
・収率:88%(収量:0.57g)
・M=52000,M/M=3.2
HNMR(DMSO-d6,δ,ppm):8.30,7.98-7.81,7.76-7.60,7.24-6.98.
・IR(KBr,ν):1241,1149(cm-1)
【0058】
実施例1に係るポリマーAには、図1示すように、スルホン酸基由来の吸収(1241cm−1、1149cm−1)があることを確認した。また、ポリマーAにおいては、図2に示すように、疎水性オリゴマーαにおいて観測される末端ビフェノール由来のシグナル(6.84ppm、7.44ppm)が消失していることを確認した。
【0059】
また、図3(a)の比較例2に係るポリマーIIのNMRスペクトルのピークは分裂しているのに対し、図3(b)の本実施例1に係るポリマーAのNMRスペクトルのピークは分裂していない。これは、エーテル交換によるランダム化が抑制され、マルチブロック性が維持されていることを示している。以上より、得られたポリマーAは、上記スキームに示す反応生成物と一致し、かつマルチブロック性が維持されていることを確認した。
【0060】
(実施例2)
上記実施例1と仕込み量を変えた以外は、同様の方法によりポリマーBを重合した。具体的には、窒素雰囲気下、三方コックを付けた一口なすフラスコに上記親水性オリゴマー0.30g(M=15000,0.02mmol)、疎水性オリゴマーα0.18g(M=6500,0.03mmol)、NMP4.0mlを仕込み、80℃で親水性オリゴマーと、疎水性オリゴマーαを溶解させた。空冷後、デカフルオロビフェニル0.017g(0.05mmol)と炭酸カリウム0.008g(0.06mmol)を加え、120℃で18時間反応させた。放冷後、反応液をNMPで希釈し、イソプロパノールに注ぎ、得られた沈殿をろ過、水で洗浄した。次に、得られたポリマーの酸処理を行った。得られたポリマーを、室温で2日間、1.0M硫酸水溶液中で攪拌した後、ろ過によりポリマーを回収した。そして、ポリマーを純水でよく洗浄し、60℃で10時間乾燥することにより薄茶色のポリマーBを得た。得られたポリマーBは、Mn=38000,Mw/Mn=2.8であった。
【0061】
(実施例3)
下記化学式(10)及び下記方法に従って、ポリマーCを合成した。
【化10】

【0062】
窒素雰囲気下、三方コックを付けた一口なすフラスコに親水性オリゴマー0.45g(Mn=15000,0.03mmol)、疎水性オリゴマーβ0.21g(Mn=8000,0.026mmol)、NMP5.5mlを仕込み、80℃で親水性オリゴマーと疎水性オリゴマーβを溶解させた。空冷後、デカフルオロビフェニル0.02g(0.056mmol)と炭酸カリウム0.009g(0.067mmol)を加え、120℃で12時間反応させた。放冷後、反応液をNMPで希釈し、イソプロパノールに注ぎ、得られた沈殿をろ過し、水で洗浄した。次に、得られたポリマーの酸処理を行った。ポリマーを、室温で2日間、1.0M硫酸水溶液中で攪拌した後、ろ過によりポリマーを回収した。その後、ポリマーを純水でよく洗浄し、60℃で10時間乾燥し、薄茶色のポリマーCを得た。
【0063】
得られたポリマーCの測定結果は、以下のとおりである。
・収率:85%(収量:0.56g)
・Mn=122000,Mw/Mn=4.0
HNMR(DMSO-d6,δ,ppm):8.35-8.22,8.00-7.79,7.75-7.64,7.44-7.30,7.27-6.94.
・IR(KBr,ν):1250,1157(cm-1)
上記結果より、得られたポリマーCは、上記化学式(10)に示す反応生成物と一致することを確認した。
【0064】
(実施例4)
上記実施例3と仕込み量を変えた以外は、同様の方法によりポリマーDを合成した。具体的には、窒素雰囲気下、三方コックを付けた一口なすフラスコに0.30g(Mn=15000,0.02mmol)、疎水性オリゴマーβ0.25g(Mn=8000,0.03mmol)、NMP4.0mlを仕込み、80℃で親水性オリゴマーと疎水性オリゴマーβを溶解させた。空冷後、デカフルオロビフェニル0.017g(0.05mmol)と炭酸カリウム0.008g(0.06mmol)を加え、120℃で10時間反応させた。放冷後、反応液をNMPで希釈し、イソプロパノールに注ぎ、得られた沈殿をろ過し、水で洗浄した。次に、得られたポリマーの酸処理を行った。ポリマーを、室温で2日間、1.0M硫酸水溶液中で攪拌した後、ろ過によりポリマーを回収した。その後、ポリマーを純水でよく洗浄し、60℃で10時間乾燥し、薄茶色のポリマーDを得た。得られたポリマーDは、Mn=110000,Mw/Mn=5.0であった。
【0065】
[特性評価]
イオン交換容量(IEC)は、0.02M水酸化ナトリウム水溶液滴定、及びHNMRスペクトルから求めた。HNMRスペクトによるIEC値は、図2(b)のNMRスペクトルデータにおける炭素cの積分比と、それ以外の炭素の積分比の割合からポリマー中の親水性ユニット/疎水性ユニット組成比を求めることにより算出した。プロトン伝導度は、5Hzから100kHzの周波数領域で膜面方向のインピーダンス測定値から算出した。なお、プロトン伝導度の算出には<式1>を用いた。
<式1> σ = d/(LR)
式中のdは電極間距離、Lはフィルム膜厚、wはフィルム幅、Rは抵抗値を示す。
【0066】
吸水率は、フィルムを室温で24時間純水に浸し、その重量変化をもとに以下の<式2>から算出した。
<式2> WU=(Ws−Wd)/Wd×100wt%
式中のWs、Wdはそれぞれ水和状態、乾燥状態でのフィルムの重量を示す。
【0067】
寸法安定性は、フィルムを室温で24時間純水に浸し、そのフィルム長・膜厚変化をもとに以下の<式3>、<式4>から算出した。
<式3> Δt=(t−t)/t
<式4> Δl=(l−l)/l
式中のt、lはそれぞれ水和状態でのフィルム膜厚、フィルム長とし、tは乾燥状態でのフィルム膜厚、lは乾燥状態でのフィルム長を示す。
【0068】
フィルムの酸化安定性は、フィルム断片を80℃で1時間フェントン試薬溶液(2ppmの硫酸鉄(II)を含む3wt%過酸化水素水水溶液)に浸漬し、試験前後でのフィルム断片の重量変化とフィルムの状態変化を観察することにより検討した。また、フィルムの表面形状をタッピングモードのよる原子間力顕微鏡(AFM)により観察した。測定に用いたフィルムは、測定前に室温で相対湿度100%環境下に24時間以上放置したものを用いた。
【0069】
実施例1〜4に係るポリマーA〜Dは、NMP,DMF、DMSOに良好な溶解性を示した。各ポリマーのフィルムは、各ポリマーのNMP溶液をガラス板にキャストし、80℃で10時間減圧乾燥を行うことにより得た。これらは、いずれも透明、かつ柔軟なフィルムであった。
【0070】
表1に、実施例1〜4のオリゴマーの仕込み比、及びイオン交換容量(IEC)を示す。IEC値は、仕込み比から算出される計算値、HNMRスペクトル、及び滴定から算出した結果示す。
【表1】

HNMRスペクトル、及び滴定から求めたIEC値は、各ユニットの仕込み組成から予想される計算から求まるIEC値とほぼ等しい。これにより、各ユニットの仕込み比を調節することで、容易にIEC値の調節が可能であることがわかった。
【0071】
図4に、実施例2に係るポリマーB、実施例4に係るポリマーDのTG曲線を示す。いずれのポリマーにおいても、三段階の重量減少(〜200℃、250℃〜350℃、350℃〜)が観察できる。一段階目の重量減少は水和水の蒸発によるもの、二段階目はスルホン酸基の脱離によるのも、三段階目はポリマー主鎖の分解によるものである。ポリマーA及びポリマーCにおいても、同様の挙動を示した。
【0072】
表2に、上記方法による酸化安定性評価、含水性評価、寸法安定性評価を行った結果を示す。
【表2】

【0073】
実施例1〜4に係るポリマーのフィルムの酸化安定性評価を行ったところ、重量減少は、0〜3wt%の重量減少であり、良好な結果が得られた。評価後も全てのフィルムにおいて、透明で柔軟な形状を維持しており、優れた酸化安定性を示した。
【0074】
実施例1〜4に係るポリマーのフィルムの含水性評価を行ったところ、含水量は39〜64wt%の範囲にあり、特にフッ素含有量の多い実施例3及び4のフィルムで含水量が低く抑えられることがわかった(39〜53wt%)。また、実施例1〜4に係るポリマーのフィルムは、高い寸法安定性を示した。
【0075】
上記非特許文献5によれば、本実施例と類似した化学組成から成るランダムコポリマー(IEC>1.9mequiv/g)は、過度の含水性を示し、ハイドロゲルを形成するために十分なフィルム特性が得られないという報告がなされている。しかしながら、実施例1〜4に係るポリマーA〜Dの各フィルムにおいては、そのような現象は観察されず、高含水性、及び高寸法安定性を示した。実施例1〜4に係るポリマーは、マルチブロック性のドメイン構造を有することで、疎水性ドメインが親水性ドメインの膨潤を効果的に抑制した結果、高含水性と高寸法安定性を示したと考えられる。
【0076】
図5に、80℃における実施例1〜4に係るポリマーフィルムのプロトン伝導度の相対湿度依存性を示す。実施例1〜4に係るマルチブロックコポリマー、及び比較例2に係るポリマーII(IEC=1.71mequiv/g)のフィルムにおけるプロトン伝導度は、相対湿度95%において良好な特性を示している。
【0077】
相対湿度50%の条件下においては、比較例2に係るポリマーIIのフィルムのプロトン伝導度は、相対湿度に大きく依存しており、1.0×10−3S/cm程度まで低下している。一方、本実施例1〜4に係るポリマーA〜Dの各フィルムのプロトン伝導度は、相対湿度50%の条件下においても、6.0×10−3S/cmという良好なプロトン伝導性を維持した。本実施例1〜4に係るポリマーA〜Dは、比較例2に係るポリマーIIと比較して親水性ドメイン制御ができた結果、低湿度域でのプロトン伝導性が改善されたものと考察している。また、前述したように、高含水性や高寸法安定性を同時に示すことからも、親水性・疎水性ドメイン間で何らかの相分離構造を形成していることが示唆される。
【0078】
図6(a)に、実施例1に係るポリマーAのフィルムのタッピングモード測定によるAFM像(位相像、1000nm×1000nm)を、図6(b)に同AFM像(500nm×500nm)示す。位相像中の暗部と明部は、それぞれスルホン酸基を含むポリマー親水性部とポリマー疎水性部に対応している。図6から、親水性クラスターによるドメインの大きさは20〜50nmと比較的大きく、また各ドメインが連続的に連なっていることを確認することができる。このようなナノサイズの親水性/疎水性相分離構造によって、効率的なプロトン輸送が可能となり、その結果良好なプロトン伝導性を示したと考えられる。
【図面の簡単な説明】
【0079】
【図1】実施例1に係るポリマーのIRスペクトル図。
【図2】(a)は、疎水性オリゴマーαのHNMRスペクトル図、(b)は実施例1に係るポリマーのHNMRスペクトル図。
【図3】(a)は、比較例2に係るポリマーの13CNMRスペクトル図、(b)は実施例1に係るポリマーの実施例3に係るポリマーの13CNMRスペクトル図。
【図4】実施例2に係るポリマーのTGプロファイルを示す図。
【図5】実施例1〜4に係るポリマーから作製したフィルムの相対湿度に対するプロトン伝導度を示す図。
【図6】(a)は、実施例1に係るポリマーのタッピングモード測定によるAFM像(位相像、1000nm×1000nm)、(b)は同AFM像(500nm×500nm)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
末端ヒドロキシル基を有し、プロトン酸基を有するポリ(エーテルスルホン)オリゴマーと、
末端ヒドロキシル基を有し、プロトン酸基を含まないポリ(エーテルスルホン)オリゴマーと、
前記オリゴマーの末端ヒドロキシル基と結合して、前記オリゴマー間の連結部として機能する鎖延長剤と、
塩基と、を溶媒中に溶解させ、
120℃以下の温度で加温するプロトン酸基含有ブロックコポリマーの製造方法。
【請求項2】
前記プロトン酸基が、スルホン酸基であることを特徴とする請求項1に記載のプロトン酸基含有ブロックコポリマーの製造方法。
【請求項3】
前記オリゴマーの数平均分子量が、5000以上、15000以下であることを特徴とする請求項1又は2に記載のプロトン酸基含有ブロックコポリマーの製造方法。
【請求項4】
前記鎖延長剤が、デカフルオロビフェニル、又は/及びヘキサフルオロベンゼンであることを特徴とする請求項1,2又は3に記載のプロトン酸基含有ブロックコポリマーの製造方法。
【請求項5】
前記プロトン酸基を有するポリ(エーテルスルホン)オリゴマーが、下記一般式(1)で表わされる化合物であることを特徴とする請求項1、2、3又は4に記載のプロトン酸基含有ブロックコポリマーの製造方法。
【化1】

(式中のX、Xは、プロトン酸基を示し、Xは、単結合、−O−、−SO−、−CO-,−C(CF−から選ばれる任意の基を示す。また、mは、10以上、25以下の整数を示す。)
【請求項6】
前記プロトン酸基を含まないポリ(エーテルスルホン)オリゴマーが、下記一般式(2)で表わされる化合物であることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載のプロトン酸基含有ブロックコポリマーの製造方法。
【化2】

(式中のXは、単結合、−O−、−SO−、−CO-,−C(CF−から選ばれる任意の基を示す。また、nは、10以上、40以下の整数を示す。)
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか1項に記載の製造方法により得られたプロトン酸基含有ブロックコポリマー。
【請求項8】
請求項7に記載のプロトン酸基含有ブロックコポリマーを主成分とする高分子電解質膜。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2009−235158(P2009−235158A)
【公開日】平成21年10月15日(2009.10.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−80155(P2008−80155)
【出願日】平成20年3月26日(2008.3.26)
【出願人】(304021417)国立大学法人東京工業大学 (1,821)
【Fターム(参考)】