説明

プローブ針及びその製造方法

【課題】被測定体に大きな傷を付けることなく被測定体の電気的特性を安定して測定でき、且つ被測定体の構成材料がプローブ針の先端に付着するのを抑制できるプローブ針を提供する。
【解決手段】先端Aを被測定体の電極に接触させてその被測定体の電気的特性を測定するためのプローブ針1であって、先端Aには、四角錐又は三角錐からなる突起2が、マトリクス状に形成された構成とする。このプローブ針1は、金属導体5の外周に絶縁被膜6が形成された所定長さの絶縁被膜付き金属導体を準備する工程と、その絶縁被膜付き金属導体の少なくとも一方の先端Aに35度以上125度以下の頂点角度を持つ四角錐又は三角錐からなる突起2を4μm以上20μm以下のピッチでマトリクス状に形成する突起形成工程と、その突起2が形成されたプレプローブ針の先端部の絶縁被膜を剥離する工程と、絶縁被膜が剥離された露出部にめっき層を形成する工程で製造する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、先端を被測定体の電極に所定荷重で接触させてその被測定体の電気的特性を測定するためのプローブ針及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、携帯電話等に使用される高密度実装基板、又は、パソコン等に組み込まれるBGA(Ball Grid Array)やCSP(Chip Size Package)等のICパッケージ基板等、様々な回路基板が多く用いられている。このような回路基板は、実装の前後の工程において、例えば直流抵抗値の測定や導通検査等が行われ、その電気特性の良否が検査されている。電気特性の良否の検査は、電気特性を測定する検査装置に接続された検査装置用治具(以下、「プローブユニット」という。)を用いて行われ、例えば、プローブユニットに装着されたピン形状のプローブ針(コンタクトプローブともいう。)の先端を、その回路基板(以下「被測定体」ともいう。)の電極に接触させることにより行われている(例えば特許文献1を参照。)。
【0003】
ところで、被測定体の電極はその表面に酸化膜等の絶縁膜が形成され易く、プローブ針を電極に単に接触させただけでは両者間の抵抗値(以下、「接触抵抗値」という。)が高過ぎて正確な検査ができないことがある。そこで、先端を針状に加工したプローブ針が提案されているが、そのプローブ針は、その先端が電極表面の絶縁膜を容易に突き破るので、プローブ針と電極とが確実に接触して接触抵抗値が低下し、その結果、検査の正確性を向上させることができる。しかしながら、こうしたプローブ針は、針状の先端が被測定体の電極に深く突き刺さることがあり、電極に大きな傷が付きやすく、電極が変形し易いという問題が発生すると同時に、その電極材料がプローブに付着し、繰り返し測定での安定性が低下するといった問題がある。
【0004】
こうした問題に対し、先端が平面状や曲面状のプローブ針を用いれば電極への傷等の発生を防ぐことができるが、このプローブ針は、被測定体の電極との間の接触抵抗値を十分に低下させることができない。そこで、例えば特許文献2には、先端に四角錐状突起を格子状に形成したプローブ針が提案されている。このプローブ針を用いることにより、格子状の四角錐状突起が被測定体の電極上に接触する際に荷重を分散することができるので、プローブ針の先端に設けられためっき層の摩耗を抑制して長期間使用が実現できるとされている。
【特許文献1】特開2002−131334号公報
【特許文献2】特開2007−218675号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記特許文献2に記載のプローブ針は、当該文献中にも記載のように、突起が電極上の絶縁膜を突き破って接触抵抗値を下げるものではなく、複数の突起によって接触時の荷重を分散させるものであり、具体的には突起先端の高さを変えたり突起先端に微小平坦部を形成したりしてめっき層の摩耗を防いで長期間の使用を実現している。
【0006】
しかしながら、特許文献2に記載のプローブ針は、電極に対する接触荷重を分散でき、プローブ針先端のめっき層の摩耗の進行は遅らせることができるかもしれないが、被測定体の電極表面に形成された酸化膜が比較的厚くなっていた場合にその電極との接触抵抗値を下げることができず、正確な電気的特性を測定することができないという難点がある。
【0007】
本発明は、上記問題を解決したものであって、その目的は、先端を被測定体の電極に接触させてその被測定体の電気的測定を行うためのプローブ針において、被測定体に大きな傷を付けることなく被測定体の電気的特性を安定して測定することができ、且つ被測定体の構成材料がプローブ針の先端に付着するのを抑制できるプローブ針を提供することにある。また、本発明の他の目的は、そうしたプローブ針を歩留まりよく安定して製造する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するための本発明のプローブ針は、先端を被測定体の電極に接触させて該被測定体の電気的特性を測定するためのプローブ針であって、前記先端には、35度以上125度以下の頂点角度を持つ四角錐又は三角錐からなる突起が、4μm以上20μm以下のピッチでマトリクス状に形成されていることを特徴とする。
【0009】
この発明によれば、上記頂点角度の範囲で四角錐又は三角錐の突起先端が形成されているので、被測定体の電極表面に酸化膜が形成されている場合であってもその酸化膜を突き破って接触抵抗値を下げることができ、被測定体の電気的特性を測定することができる。さらに、そうした頂点角度は、被測定体の電極材料(例えば半田材料)がプローブ針先端に転写されない角度範囲であるので、プローブ針の先端が電極材料で汚染されず、長期間の使用が可能となる。さらに、そうした四角錐又は三角錐の突起が上記ピッチの範囲内でマトリクス状に形成されているので、複数の突起が被測定体の電極表面に同時に接触して電極への接触圧力を分散することができる。その結果、酸化膜を突き破ることが可能な突起が、被測定体の電極に大きな傷を付けたり変形させたりすることがない。したがって、本発明によれば、被測定体の電極に対する接触抵抗値を下げて被測定体の正確な電気的特性を測定することができるとともに、被測定体の電極を傷つけ難く、しかも、プローブ針先端に電極材料が転写して接触抵抗値が上がるのを防ぐことができるので、プローブ針を用いた繰り返し測定を安定且つ正確に行うことができる。
【0010】
本発明のプローブ針において、少なくとも前記先端が、金めっき、パラジウムめっき、ロジウムめっき及びニッケルめっきから選ばれる少なくとも1種を有するように構成してもよい。
【0011】
本発明のプローブ針において、前記プローブ針の先端部以外が絶縁被膜で覆われているように構成してもよい。
【0012】
上記課題を解決する本発明のプローブ針の製造方法は、先端を被測定体の電極に接触させて該被測定体の電気的特性を測定するためのプローブ針の製造方法であって、金属導体の外周に絶縁被膜が形成された所定長さの絶縁被膜付き金属導体を準備する工程と、前記絶縁被膜付き金属導体の少なくとも一方の先端に、35度以上125度以下の頂点角度を持つ四角錐又は三角錐からなる突起を4μm以上20μm以下のピッチでマトリクス状に形成する突起形成工程と、前記突起が形成されたプレプローブ針の先端部の絶縁被膜を剥離する工程と、前記絶縁被膜が剥離された露出部にめっき層を形成する工程と、を有することを特徴とする。
【0013】
この発明によれば、突起形成工程が絶縁被膜剥離工程の前にあるので、金属導体の先端が絶縁被膜で包まれた状態下で突起が加工される。その結果、加工時に金属導体にバリが生じにくく、その後に絶縁被膜を剥離すれば、そのまま金属めっき工程に投入できる。したがって、本発明のプローブ針の製造方法によれば、35度以上125度以下の頂点角度を持つ四角錐又は三角錐からなる突起が4μm以上20μm以下のピッチでマトリクス状に形成されている先端を有するプローブ針を、バリ取り等の余計な工程を経ることなく効率的に製造することができる。なお、「プレプローブ針」とは、完成品前のプローブ針中間品のことである。
【0014】
本発明のプローブ針の製造方法は、前記突起形成工程において、前記四角錐からなる突起を直交する2軸V溝加工で行い、前記三角錐からなる突起を60度で交差する3軸V溝加工で行うように構成することが好ましい。
【0015】
本発明のプローブ針の製造方法は、前記準備工程において、前記絶縁被膜付き金属導体は、長尺の金属導体の外周に絶縁被膜を連続塗布して絶縁被膜付き長尺導体を形成する工程と、該絶縁被膜付き長尺導体を所定長さに切断する工程とを経て準備されるように構成することが好ましい。
【発明の効果】
【0016】
本発明のプローブ針によれば、(1)被測定体の電極表面に酸化膜が形成されている場合であってもその酸化膜を突き破って接触抵抗値を下げることができ、被測定体の電気的特性を正確に測定することができ、(2)プローブ針の先端が電極材料で汚染されず、長期間の使用が可能となり、(3)複数の突起が被測定体の電極表面に同時に接触して電極への接触圧力を分散することができ、酸化膜を突き破ることが可能な突起が被測定体の電極に大きな傷を付けたり変形させたりすることがない。したがって、本発明によれば、プローブ針を用いた繰り返し測定を安定且つ正確に行うことができる。
【0017】
本発明のプローブ針の製造方法によれば、加工時に金属導体にバリが生じにくく、その後に絶縁被膜を剥離すればそのまま金属めっき工程に投入できるので、35度以上125度以下の頂点角度を持つ四角錐又は三角錐からなる突起が4μm以上20μm以下のピッチでマトリクス状に形成されている先端を有するプローブ針を、バリ取り等の余計な工程を経ることなく効率的に製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本発明のプローブ針及びその製造方法について、図面を参照しつつ説明する。なお、本発明は下記の実施形態に限定されるものではない。
【0019】
(プローブ針)
図1は本発明のプローブ針1を示す模式的な概略図である。図2は本発明のプローブ針1の先端Aの突起2Aが四角錐である場合の一例を示す概略図であり、図3は本発明のプローブ針1の先端Aの突起2Bが三角錐である場合の一例を示す概略図である。本発明のプローブ針1は、図1に示すように、先端Aを被測定体12の電極11(図5を参照)に接触させてその被測定体12の電気的特性を測定するためのプローブ針である。そして、このプローブ針1の先端Aには、35度以上125度以下の頂点角度を持つ四角錐又は三角錐からなる突起2が、4μm以上20μm以下のピッチPでマトリクス状に形成されている。
【0020】
金属導体5としては、高い導電性と高いばね性を有する金属線(「金属ばね線」ともいう。)が用いられる。金属導体5に用いられる金属としては、広い弾性域を持つ金属を挙げることができ、例えばベリリウム銅、りん青銅、銅銀合金等の銅合金、タングステン、レニウムタングステン、鋼(例えば高速度鋼:SKH)等を好ましく用いることができる。こうした金属導体5は、通常、上記の金属が所定の径の線状導体となるまで冷間又は熱間伸線等の塑性加工が施される。その長さは特に限定されず、仕様に応じた長さであればよい。また、金属導体5の直径も特に限定されないが、最近の被測定体12に設けられた電極11の狭ピッチ化に対応できるように、20μm以上250μm以下の範囲内から好ましく選択される。
【0021】
金属導体5の先端Aには、所定の形状からなる突起2が所定のピッチPでマトリクス状に設けられている。図2に示す突起2Aは四角錐形状であり、図3に示す突起2Bは三角錐形状である(これらを総称するときは単に「突起2」という。)。通常は、図2及び図3に示すように、正四角錐や正三角錐であることが好ましいが、頂点3が角錐の中心からずれた形状、すなわち四角錐や三角錐が傾斜したような態様で形成されていてもよい。
【0022】
突起2の頂点角度は、35度以上125度以下の範囲内であることが望ましい。こうした範囲内の頂点角度を持つ突起2は、被測定体12の電極11表面に電気抵抗の高い酸化膜が形成されている場合に、その酸化膜を突き破って電極11自体に接触して接触抵抗を低下させるので、被測定体12の電気的特性を正確に測定することができる。さらに、上記範囲の頂点角度は、被測定体12の電極を構成する電極材料(例えば半田材料)がプローブ針1の先端Aに転写されない角度範囲であるので、プローブ針1の先端Aが電極材料で汚染されず、長期間の繰り返し測定を可能とし、安定した長期使用が可能となる。
【0023】
突起Aの頂点角度が35度未満の場合は、プローブ針1の先端Aが電極11に突き刺さり易く、その結果、突き刺さった状態から引き抜く時のせん断応力が強くなるため、電極11を構成する電極材料がプローブ針1の先端Aに転写して付着しやすいという問題がある。こうした電極材料(例えば半田等)の付着は、電極材料の微粉末がプローブ針1の先端Aを汚染することになるので、その微粉末が酸化して接触抵抗を上昇させる原因となる。一方、突起Aの頂点角度が125度を超える場合は、プローブ針1の先端Aが電極11表面の酸化膜を突き破ることが困難になり、電極11との接触抵抗値が上がって被測定体12の正確な電気的特性を評価できないことがある。
【0024】
突起Aの頂点角度のより好ましい範囲は、40度以上120度以下である。この範囲の頂点角度は、さらに電極材料が転写し難く、電極表面の酸化膜を容易に突き破ることができるという特徴的な効果を奏する。特に四角錐からなる突起2Aでは、40度以上110度以下が好ましく、三角錐からなる突起2Bでは、50度以上120度以下が好ましい。
【0025】
突起2の頂点3は、酸化膜を突き破ることができる程度に鋭角であることが好ましく、具体的には、その頂点3は平坦部や曲面部は有さず、尖っていることが望ましい(図6を参照)。なお、電極11としては、通常、銅パッド上に半田が載っているものを挙げられるが、これに限定されず、金パッドやアルミパッド等の電極11を挙げることができる。本発明のプローブ針1は、こうした電極11に接触させるものとして好ましく用いられる。
【0026】
突起Aの頂点角度は、四角錐においては、四角錐を構成する対抗する傾斜面間の角度として測定した値で定義される。一方、三角錐においては、三角錐を構成する1つの傾斜面と、頂点3を挟んで対抗する2つの傾斜面の稜線との角度として測定した値で定義される。なお、こうした頂点角度の代わりに、突起2が平面上に形成されているとした場合の仮想面と、四角錐を構成する傾斜面との角度として表したり、その仮想面と、三角錐を構成する傾斜面との角度として表したりすることができる。こうした角度で表せば、72.5度(頂点角度35度に対応)〜27.5度(頂点角度125度に対応)の範囲を示すことができる。
【0027】
突起2はプローブ針1の先端Aにマトリクス状に形成されている。具体的には、図2に示すように所定のピッチPで、90度で交差する方向に配列されている。また、図3に示すように所定のピッチPで、60度の角度で交差するそれぞれの方向に配列されている。突起2のピッチPは、4μm以上20μm以下であることが好ましい。このとき、ピッチPは、図2に示す四角錐がマトリクス状に形成されている場合には、隣り合う四角錐の頂点間の距離で表すことができ、図3に示す三角錐がマトリクス状に形成されている場合には、最も近い三角錐間の頂点3を、一辺が平行となる方向の直交方向で測定した値で表すことができる。なお、ここでは、頂点3,3間の距離で表しているが、谷部間の距離で表してもよい。特に好ましいピッチPは、接触抵抗低減と被測定体電極へのキズを目立たなくさせるという観点から、7μm以上15μm以下である。
【0028】
突起2のピッチPが上記範囲で二次元平面状に形成されることにより、プローブ針先端Aの複数の突起2が電極11の表面に同時に接触する。その結果、プローブ針先端Aが電極11に接触する際の接触圧力を複数の突起2に分散することができる。そのため、酸化膜を突き破ることが可能な突起2が、被測定体12の電極11に大きな傷を付けたり変形させたりすることがない。しかも、圧力分散した状態でも、プローブ針先端Aの複数の突起2が酸化膜の多数箇所を突き破ることができるので、プローブ針1と電極11間の接触抵抗値を低下させることができ、その結果、長期間安定した電気的特性の測定を行うことができる。
【0029】
突起2のピッチPが4μm未満の場合は、突起2の間隔が細かすぎて接触圧力が多くの突起2に分散し過ぎるため、一つの頂点3に対する接触圧力が低下してしまい、前記した酸化膜を突き破ることが困難になる。一方、突起2のピッチPが20μmを超える場合は、突起2の間隔が粗すぎて接触圧力が複数の突起2に集中し過ぎるため、一つの頂点3に対する接触圧力が増してしまい、電極11に大きな傷を付けたり変形させたりすることがある。こうした接触圧力の過度の上昇は、突起2の頂点3が電極へ深く突き刺さり易くなるため、電極材料がプローブ針1に付着し易くなり、接触抵抗値が上昇する要因の一つとなる。
【0030】
上記ピッチPは突起2の頂点間の距離であるが、突起2の形成態様として突起密度で表してもよい。例えば頂点ピッチが10μmの四角錐の場合はおよそ10000個/mmであるので、上記4μm以上20μmのピッチPで形成された突起2の密度は、62500個/mm以上2500個/mm以下と表すことができる。
【0031】
こうした特徴的な先端形状を備えた本発明のプローブ針1は、被測定体12の電極11に対する接触抵抗値を下げて被測定体12の正確な電気的特性を測定することができるとともに、その電極11を傷つけ難く、しかも、プローブ針先端Aに電極材料が転写して接触抵抗値が上がるのを防ぐことができるので、プローブ針1を用いた繰り返し測定を安定且つ正確に行うことができるという格別の効果を奏する。さらに、被測定体12の電極11が半田バンプの場合、コンタクト位置がバンプ中心から若干外れた場合であっても、プローブ針先端Aの突起2が半田バンプ上でグリップし、半田バンプからプローブ針1がずり落ちる(外れる)ことがない。
【0032】
上記先端Aの反対側の端部である後端Bの形状は特に限定されず、上記のような突起2と同じ形状であってもよいし、一般的な円錐形状、頂点に半球形状を有する円錐形状、頂点に平坦形状を有する円錐形状、等から選ばれるいずれかであってもよい。ここでいう「半球形状」、「円錐形状」は、正確な半球や円錐を含むが、略円錐や略半球も含む。なお、電解研磨や湿式エッチング処理で端部Bを処理してもよく、その場合は、その後端Bの形状はやや丸みを帯びた形状となるが、こうした形状に必ずしも限定されない。
【0033】
絶縁被膜6は、金属導体5の外周に設けられており、プローブ針1が後述するプローブユニット10に装着された場合に、隣接するプローブ針1との電気的な接触を防いで短絡を防止するように作用する。なお、絶縁被膜6は、金属導体5の外周上に長手方向に亘って設けられていればよく、直接設けられていてもよいし、他の層を介して設けられていてもよい。なお、先端Aと後端Bは、それぞれ電極11とリード線50に接触するので、絶縁被膜6は端部から所定の長さだけ剥離されている。
【0034】
絶縁被膜6は、絶縁性を有する被膜であれば特に限定されないが、ポリウレタン樹脂、ナイロン樹脂、ポリエステル樹脂、エポキシ樹脂、ポリエステルイミド樹脂、ポリアミド樹脂及びポリアミドイミド樹脂から選ばれるいずれか1種であることが好ましい。なお、通常は一種類の樹脂により形成される。これらの樹脂からなる絶縁被膜は耐熱性が異なるので、検査の際に発生する熱を考慮して任意に選択することができる。例えば、より耐熱性が要求される場合には、絶縁被膜6がポリエステルイミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂等で形成されることが好ましい。なかでも、絶縁被膜6が焼付けエナメル被膜として形成されることが好ましい。焼付けエナメル被膜は、後述するように塗料の塗布と焼付けの繰り返しにより連続工程で形成されるので、生産性がよく、金属導体5との間の密着性が高く且つ被膜強度をより高いものとすることができる。
【0035】
絶縁被膜6は、隣接するプローブ針1同士の短絡を防ぐために設けられるが、本発明においては、図5に示すように、その絶縁被膜6の先端A側の端面である段差部7が、プローブユニット10のガイドプレート20に引っ掛かってプローブ針1の落下を防止する作用又はプローブ針1を係止する作用を有することが好ましい。そうした作用を奏する段差部7を形成するための絶縁被膜6の厚さは金属導体5の直径によっても異なるが、例えば5μm以上20μm以下であることが好ましい。
【0036】
プローブ針の先端A又は後端Bには、金属導体5と、被測定体12又は検査装置のリード線50との接触抵抗値の上昇を抑制するために、めっき層が設けられていてもよい。めっき層を構成する金属としては、金、パラジウム、ロジウム、ニッケル等の金属や金合金等の合金を挙げることができる。めっき層は、単層であってもよいし複層であってもよい。複層のめっき層としては、ニッケルめっき層上に金めっき層が形成されたものを好ましく挙げることができる。こうしためっき層は、プローブ針の先端が酸化するのを防ぐので、更に安定した接触抵抗を得ることができ、より長期間の安定測定が可能になる。
【0037】
また、プローブ針1をプローブユニット10に装着し易くするという観点からは、金属導体5の真直度が高いことが好ましく、具体的には真直度が曲率半径Rで1000mm以上であることが好ましい。真直度の高い金属導体5は、通常、絶縁被膜6が設けられる前に予め直線矯正処理をすることにより得ることができる。ここでの直線矯正処理は、例えば回転ダイス式直線矯正装置等によって行われる。また、プローブ針1の長さも特に限定されないが、通常、10mm以上40mm以下程度である。
【0038】
(プローブ針の製造方法)
次に、本発明のプローブ針の製造方法について説明する。本発明のプローブ針1の製造方法は、上記本発明のプローブ針1の製造方法であって、金属導体5の外周に絶縁被膜6が形成された所定長さの絶縁被膜付き金属導体を準備する工程と、その絶縁被膜付き金属導体の少なくとも電極側の先端Aに、35度以上125度以下の頂点角度を持つ四角錐又は三角錐からなる突起2を4μm以上20μm以下のピッチでマトリクス状に形成する突起形成工程と、突起2が形成されたプレプローブ針の先端部の絶縁被膜6を剥離する工程と、絶縁被膜6が剥離された露出部にめっき層を形成する工程とを少なくとも有する。なお、「プレプローブ針」とは、完成品前のプローブ針中間品のことである。以下、順に説明する。
【0039】
絶縁被膜付き金属導体の準備工程は、金属導体5の外周に絶縁被膜6が形成された所定長さの絶縁被膜付き金属導体を準備する工程である。この絶縁被膜付き金属導体は、購入品で準備してもよいし、長尺の金属導体5の外周に絶縁被膜6を連続塗布して絶縁被膜付き長尺導体を形成する工程と、その絶縁被膜付き長尺導体を所定長さに切断する工程とを経て準備してもよい。また、金属導体5を所定の直径に加工する塑性加工工程が含まれていてもよい。絶縁被膜6の連続塗布は、金属導体5の外周に絶縁被膜6をエナメル線製造装置を用いて焼付けエナメルを形成する工程で行ってもよい。また、所定の長さに切断した後においては、プローブ針1の後端Bを研削加工したりレーザ照射したりしてリード線50に接触する部分の絶縁被膜6を除去し、金属導体5を露出させるようにしてもよい。
【0040】
突起形成工程は、その絶縁被膜付き金属導体の少なくとも電極側の先端Aに、35度以上125度以下の頂点角度を持つ四角錐又は三角錐からなる突起2を4μm以上20μm以下のピッチでマトリクス状に形成する工程である。この突起形成工程では、四角錐からなる突起2Aは直交する2軸V溝加工で行い、三角錐からなる突起2Bは60度で交差する3軸V溝加工で行うことが好ましい。こうした溝加工は、加工する金属導体5の材質によって適当な手段を用い、例えば超音波切削加工や、回転砥石加工等の精密機械加工手段を採用して行うことができる。こうして、図2及び図3に示すマトリクス状の突起2A,2Bを加工することができる。
【0041】
なお、本発明では、そうした突起2A,2Bの形成工程を、絶縁被膜6が金属導体5の外周端まで覆った状態(切断端面である先端には絶縁被膜6はない。)でV溝加工することにも特徴がある。図4は、絶縁被膜付き金属導体の先端にV溝加工するときの形態図である。V溝加工するにあたっては、図4に示すように、絶縁被膜付き金属導体を俵積みし、少なくとも一方又は二方の側から圧力Fを加えて絶縁被膜付き金属導体がV溝加工中にずれないように固定する。本発明では、金属導体5の先端側の外周端まで絶縁被膜6が覆われているので、圧力Fを加えたとき、金属導体5に比べて弾性のある絶縁被膜6が隣接する絶縁被膜付き金属導体が有する絶縁被膜6に押し当たることによりその接点8が弾性変形し、相互にグリップする。その結果、絶縁被膜付き金属導体の先端はV溝加工時にずれが生じないので正確なV溝加工を行うことができる。また、絶縁被膜6が金属導体5に密着した状態で外周を覆っているので、V溝加工時に金属導体のダレが発生するのを防ぐことができ、さらに、金属導体の周縁にバリが生じるのを防ぐことができるという従来技術には見られない効果がある。
【0042】
絶縁被膜剥離工程は、突起2が形成されたプレプローブ針の先端部の絶縁被膜6を剥離する工程である。このときの剥離は、所定の長さを正確に剥離することができればその手段は特に限定されないが、例えばレーザによる剥離であっても、機械的な剥離であってもよい。この剥離工程によって、図1に示す段差部7を形成することができる。その段差部7はプローブユニット10のガイドプレート20に当たってプローブ針1の落下を防ぐように作用する。
【0043】
めっき層形成工程は、絶縁被膜6が剥離された露出部にめっき層を形成する工程である。めっき層は、上記種類の中から選択されためっき液を用い、電気めっき法又は無電解めっき法等の湿式めっきで形成することができる。また、蒸着やスパッタリング等のいわゆるPVD法(乾式めっき)で成膜してもよい。
【0044】
以上説明しように、本発明のプローブ針1の製造方法によれば、突起形成工程が絶縁被膜剥離工程の前にあるので、金属導体5の先端Aが絶縁被膜6で包まれた状態下で突起2が加工される。その結果、加工時に金属導体5の周縁にバリが生じにくく、その後に絶縁被膜6を剥離すれば、バリ取り処理等を行わずにそのまま金属めっき工程に投入できる。したがって、本発明のプローブ針1の製造方法によれば、35度以上125度以下の頂点角度を持つ四角錐又は三角錐からなる突起2が4μm以上20μm以下のピッチPでマトリクス状に形成されている先端Aを有するプローブ針1を、バリ取り等の余計な工程を経ることなく効率的に製造することができる。
【0045】
(プローブ針の使用方法)
次に、上述した本発明のプローブ針1を用いた電気特性の検査方法について、図5を参照して説明する。本発明のプローブ針1は、プローブユニット10に装着されて回路基板等の被測定体12の電気特性の良否の検査に利用される。プローブユニット10は、図5に示すように、複数本から数千本のプローブ針1と、プローブ針1を被測定体12の電極11にガイドするプレート20と、プローブ針1を検査装置のリード線50にガイドするプレート30とを備えている。検査装置側のプレート30は、プローブ針1の直径よりも若干大きい案内穴31を有し、その案内穴31は一本一本のプローブ針1をリード線50にガイドする。被測定体側のプレート20は、金属導体5の直径よりも若干大きい案内穴21を有し、その案内穴21は一本一本のプローブ針1の金属導体5の先端Aを電極11にガイドする。
【0046】
プローブ針1が備える段差部7は、電極11側のガイドプレート20に当たってプローブ針1が落下したりしないように保持するように作用する。
【0047】
プローブユニット10と被測定体12は、被測定体12の電気特性を検査する際、プローブ針1と被測定体12の電極11とが対応するように位置制御される。電気特性の検査は、プローブユニット10又は被測定体12のいずれかを上下させ、プローブ針1の弾性力を利用して電極11にプローブ針1の先端Aを所定の圧力で押し当てることにより行われる。このとき、プローブ針1の後端Bはリード線50に常時又は随時接触し、被測定体12からの電気信号がそのリード線50を通って検査装置(図示しない。)に送られる。なお、図5中の符号40はリード線用の保持板を示す。
【0048】
本発明のプローブ針1は、従来型プローブ針とは異なり、突起2の形状とピッチPが特定されることにより従来にない優れて効果を奏するものであるので、プローブユニット10を動作させてプローブ針1を電極11に押し当てれば、長期間の安定測定を正確に行うことができる。
【実施例】
【0049】
本発明について、以下のような実験を行って本発明を更に具体的に説明する。なお、以下の実験結果は一例であって、本発明は以下の実験結果に限定されるものではない。
【0050】
(実験例)
頂点角度と頂点ピッチPを種々変化させた試料を多数作製し、実験を行った。先ず、金属導体5として長尺のタングステン線(直径:90μm)を用いた。絶縁被膜用の塗料として、ポリウレタン樹脂系のエナメル塗料を用い、図示しない絶縁被膜焼付装置により厚さ15μmのポリウレタン被膜6を連続的に焼付け、絶縁被膜付きタングステン線を作製した。次に、定尺切断装置で30mm長さに切断した。次に、絶縁被膜付きタングステン線を図4に示す態様で所定の治具に俵積みして固定し、その先端AをV溝加工した。V溝加工は超音波切削加工により行い、四角錐は直交する2軸V溝加工で行い、三角錐は60度で交差する3軸V溝加工で行った。V溝加工では、頂点角度と頂点ピッチPを種々変化させ、表1に示す形態となるように作製した。なお、得られた四角錐の形態例を図6に示した。図6の中央はタングステン線であり、外周部はポリウレタン樹脂層である。
【0051】
その後、先端Aにエキシマレーザを照射し、先端から2.5mm程度の絶縁被膜6を剥離し、図1に示す態様のプローブ針1を作製した。プローブ針1の後端Bは研削加工装置により半球形状に研削加工した。また、絶縁被膜6を剥離した後の先端Aには、プローブ針先端Aの酸化を防止し且つ電極11との接触抵抗値を低減するために、厚さ0.5μmのパラジウムめっきを電気めっきにより形成した。こうしてNo.1〜20の試料を作製した。
【0052】
(測定及び結果)
上記のようにして得た各試料を図5に示すプローブユニット10に装着し、電極材料が半田(スズ63%、鉛37%)からなるでバンプ(直径80μm)の電極11に対し、コンタクト荷重を10gとして繰り返し接触させ、そのときの接触抵抗値、電極外観傷、電極材料付着を評価した。また、その結果を基にして総合評価を行った。接触抵抗値はマルチメーターで測定し、プローブ針1と電極11とを前記荷重で1000回接触させた後の接触抵抗値が1.5Ω以上のときを「×」とし、1.5Ω未満のときを「○」とした。また、電極外観傷は、上記同様、1000回接触させた後の電極11を300倍に拡大した顕微鏡で観察し、許容できる傷(傷の最大幅が10μm未満)である場合は「○」とし、許容できない傷(傷の最大幅が10μm以上)である場合は「×」とした。また、電極材料付着も、上記同様、1000回接触させた後のプローブ針先端Aを顕微鏡で観察し、全く付着していないか電極材料色が付く程度に僅か付着していた場合を「○」とし、角錐の輪郭が変わる程度に付着していた場合を「×」とした。結果を表1にまとめた。
【0053】
【表1】

【図面の簡単な説明】
【0054】
【図1】本発明のプローブ針1を示す模式的な概略図である。
【図2】本発明のプローブ針1の先端Aの突起2Aが四角錐である場合の一例を示す概略図である。
【図3】本発明のプローブ針1の先端Aの突起2Bが三角錐である場合の一例を示す概略図である。
【図4】本発明のプローブ針1の先端Aの突起2を形成する工程の説明図である。
【図5】本発明のプローブ針1を装着したプローブユニット10の構成例を示す模式的な構成図である。
【図6】本発明のプローブ針1の先端形状を示す電子顕微鏡写真である。
【符号の説明】
【0055】
1 プローブ針
2,2A,2B 突起
3 頂点
4 谷部
5 金属導体
6 絶縁被膜
7 段差部(当接部)
A 先端
B 後端
P ピッチ
F 加重
11 電極
12 被測定体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
先端を被測定体の電極に接触させて該被測定体の電気的特性を測定するためのプローブ針であって、
前記先端には、35度以上125度以下の頂点角度を持つ四角錐又は三角錐からなる突起が、4μm以上20μm以下のピッチでマトリクス状に形成されていることを特徴とするプローブ針。
【請求項2】
少なくとも前記先端が、金めっき、パラジウムめっき、ロジウムめっき及びニッケルめっきから選ばれる少なくとも1種を有する、請求項1に記載のプローブ針。
【請求項3】
前記プローブ針の先端部以外が絶縁被膜で覆われている、請求項1又は2に記載のプローブ針。
【請求項4】
先端を被測定体の電極に接触させて該被測定体の電気的特性を測定するためのプローブ針の製造方法であって、
金属導体の外周に絶縁被膜が形成された所定長さの絶縁被膜付き金属導体を準備する工程と、
前記絶縁被膜付き金属導体の少なくとも一方の先端に、35度以上125度以下の頂点角度を持つ四角錐又は三角錐からなる突起を4μm以上20μm以下のピッチでマトリクス状に形成する突起形成工程と、
前記突起が形成されたプレプローブ針の先端部の絶縁被膜を剥離する工程と、
前記絶縁被膜が剥離された露出部にめっき層を形成する工程と、
を有することを特徴とするプローブ針の製造方法。
【請求項5】
前記突起形成工程において、前記四角錐からなる突起を直交する2軸V溝加工で行い、前記三角錐からなる突起を60度で交差する3軸V溝加工で行う、請求項4に記載のプローブ針の製造方法。
【請求項6】
前記準備工程において、前記絶縁被膜付き金属導体は、長尺の金属導体の外周に絶縁被膜を連続塗布して絶縁被膜付き長尺導体を形成する工程と、該絶縁被膜付き長尺導体を所定長さに切断する工程とを経て準備される、請求項4又は5に記載のプローブ針の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2009−198238(P2009−198238A)
【公開日】平成21年9月3日(2009.9.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−38584(P2008−38584)
【出願日】平成20年2月20日(2008.2.20)
【出願人】(000003414)東京特殊電線株式会社 (173)
【Fターム(参考)】