説明

プーリユニット

【課題】 伝動径路を工夫することにより、例えばベルトが巻掛けられるプーリと回転変動に基づき弾性変形する弾性体との間の介装体(ブッシュ等)における摩耗を防止して、長寿命のプーリユニットを提供する。
【解決手段】 回転調整機構4は、オルタネータプーリ2からオルタネータ軸3に至る動力の伝達経路中に配設され、弾性体としてのコイルばね5と、動力伝達と動力遮断の切り替え機能を備えたクラッチ機構6とを中心に構成されている。オルタネータプーリ2の動力は、コイルばね5から動力伝達状態のクラッチ機構6を介してオルタネータ軸3に伝達される。コイルばね5は、オルタネータプーリ2とオルタネータ軸3との少なくとも一方に発生する微小回転変動を弾性変形により低減する。クラッチ機構6は、コイルばね5からオルタネータ軸3に至る伝動経路途中に配設され、オルタネータプーリ2の回転数がオルタネータ軸3の回転数を所定値以上下回ったときにオルタネータプーリ2からオルタネータ軸3への動力伝達を遮断する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プーリユニットに関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、自動車用エンジンのクランクシャフトからベルト、プーリユニット等を介してオルタネータを駆動する場合、エンジンの吸入・圧縮・燃焼膨張・排気等の行程を繰り返すことによって、クランクシャフトには脈動的な回転変動(回転中の加速度変動)を生じることがある。このような回転変動が発生すると、プーリ、回転軸、ベルト等に過大な回転トルク(ねじれ)や張力が生じることがある。一例として、圧縮行程等ではクランクシャフトの回転が瞬間的に低下する傾向となるが、オルタネータは大きな慣性を有するためその回転軸はクランクシャフト(オルタネータプーリ)の回転低下に直ちに追従できず、回転軸とプーリとの間に過大な回転トルクを発生する。その結果、ベルトがトルクの発生方向に引張られて張力が変動し、過負荷を生じたり、寿命の低下を招いたりするおそれがある。そこで、このようなベルト等の過負荷や寿命低下を生じないように、プーリと回転軸との間にばね式一方向クラッチとねじりコイルばねとを介装する技術が知られている(例えば特許文献1参照)。
【0003】
【特許文献1】特表2001−523325号公報(図2)
【0004】
特許文献1の技術によれば、ばね式一方向クラッチ76により動力を遮断したり、ねじりコイルばね74を弾性的にねじり変形させたりすることにより、上記回転変動によるベルト等の過負荷を軽減することができる。特許文献1では、エンジンからの動力は、プーリ106→ばね式一方向クラッチ76→ねじりコイルばね74→シャフト36の径路で伝達される。また、プーリ106内周面とねじりコイルばね74(アウタースリーブ64外周面)とは、それらの間に介装されたスリーブブッシング112により周方向の相対変位可能に接続されている。そのため、クラッチ76により動力が遮断されるたびに、スリーブブッシング112はアウタースリーブ64の回転摺動を受けて摩耗し、破損を生じる場合もある。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の課題は、伝動径路を工夫することにより、例えばベルトが巻掛けられるプーリと回転変動に基づき弾性変形する弾性体との間の介装体(ブッシュなど)における摩耗を防止して、長寿命のプーリユニットを提供することにある。
【課題を解決するための手段及び発明の効果】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明に係るプーリユニットは、
ベルトが巻掛けられるプーリと、そのプーリと同芯状に配置され一体回転可能な回転軸とのうち一方を原動体、他方を従動体とし、原動体から従動体に至る伝動径路に回転調整機構が介装されたプーリユニットであって、
前記回転調整機構は、
前記伝動径路途中に配設され、前記原動体と従動体との少なくとも一方に発生する回転変動に基づき弾性変形する弾性体と、
その弾性体から前記従動体に至る前記伝動径路途中に配設され、前記原動体の回転数が前記従動体の回転数を所定値以上下回ったときに前記原動体から従動体への動力伝達を遮断するクラッチ機構とを備え、
主として前記原動体側で発生する微小回転変動を前記弾性体の弾性変形により低減し、かつ主として前記原動体側で発生する前記微小回転変動よりも大きな回転変動を前記クラッチ機構の動力遮断により除去することを特徴とする。
【0007】
また、上記課題を解決するために、本発明に係るプーリユニットの具体的態様は、
ベルトが巻掛けられるプーリから、そのプーリと同芯状に配置され一体回転可能な回転軸に至る伝動径路に回転調整機構が介装されたプーリユニットであって、
前記回転調整機構は、
前記伝動径路途中に配設され、前記プーリと回転軸との少なくとも一方に発生する回転変動に基づき弾性変形する弾性体と、
その弾性体から前記回転軸に至る前記伝動径路途中に配設され、前記プーリの回転数が前記回転軸の回転数を所定値以上下回ったときに前記プーリから回転軸への動力伝達を遮断するクラッチ機構とを備え、
主として前記プーリ側で発生する微小回転変動を前記弾性体の弾性変形により低減し、かつ主として前記プーリ側で発生する前記微小回転変動よりも大きな回転変動を前記クラッチ機構の動力遮断により除去することを特徴とする。
【0008】
このように、原動体(プーリ又は回転軸)から従動体(回転軸又はプーリ)への伝動径路を、例えば、プーリ→弾性体→クラッチ機構→回転軸のように形成し、回転変動に基づき弾性変形する弾性体を動力伝達を遮断するクラッチ機構よりも伝動上手側(伝動上流側)に配置している。これによって、例えば、プーリと弾性体との間に介装されるブッシュ(保持体)は、クラッチ機構により動力が遮断されても、弾性体(あるいは弾性体の収納ケース)の回転摺動を受けずにすみ、摩耗しにくくなるので、ブッシュひいてはプーリユニットが長寿命となる。
【0009】
なお、上記弾性体を、例えば、JIS G4801-1984(ばね鋼鋼材)に規定されるようなばね鋼製のコイルばねにて構成すれば、ベルトの張力変動を低減するに足るねじりばね定数を容易に得ることができる。また、クラッチ機構には、ばね式一方向クラッチの他、ローラ式一方向クラッチ、スプラグ式一方向クラッチ等を用いてもよい。
【0010】
よって、プーリと弾性体との間に、それらプーリと弾性体との周方向の相対変位を許容しつつ、弾性体のラジアル方向の相対変位を規制する保持体を配置すればよい。保持体は、クラッチ機構により動力が遮断されても、弾性体(あるいは弾性体の収納ケース)の回転摺動を受けずにすみ、摩耗しにくくなるので、保持体ひいてはプーリユニットが長寿命となる。
【0011】
なお、上記保持体には、例えば、JIS B1582-1996(滑り軸受用ブシュ)に規定されるような軸受合金鋳物製、軸受合金板製等のブシュの他、各種の転がり軸受等を用いることもできる。
【0012】
そして、回転軸のラジアル方向外側に周方向に沿ってクラッチ機構が配置され、さらにそのクラッチ機構のラジアル方向外側に周方向に沿って弾性体が配置されていることが望ましい。このように、回転軸に対してクラッチ機構と弾性体とを筒状に重ね合わせて配置することによって、アキシャル方向長さを相対的に短くすることができる。
【0013】
その際、クラッチ機構を取り巻くように配置される弾性体を、矩形状断面を有するコイルばねで構成することが好ましい。コイルばねの断面を矩形状にすれば、円形断面に比して詰めた状態(隙間の小さい状態)で巻けるので、断面積を大きくして蓄積できるエネルギーを大きくすることが容易にできる。なお、コイルばねの断面を横長の矩形に形成すれば弾性体の径を小さくでき、コイルばねの断面を縦長の矩形に形成すれば弾性体の幅を小さくできる。
【0014】
一方、回転軸のラジアル方向外側に周方向に沿ってクラッチ機構が配置され、さらにそのクラッチ機構のアキシャル方向一端部には、回転軸の軸線に交差する面において弾性体が弾性変形するように配置されていてもよい。このように、回転軸に対してクラッチ機構を筒状に重ね合わせて配置し、弾性体をクラッチ機構(回転軸)の端部に配置することによって、ラジアル方向長さを相対的に短くすることができる。
【0015】
その際、弾性体を、回転軸の軸線に直交する面に配置された渦巻き状のコイルばねで構成することができる。クラッチ機構の端部に渦巻き状のコイルばねを配置することによって、弾性体が蓄積できるエネルギーを大きくすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
(実施例1)
以下、本発明の実施の形態につき図面に示す実施例を参照して説明する。図1は本発明に係るプーリユニットの一例を示す正面断面図である。図1は自動車用エンジン(図示せず)で駆動されるオルタネータ(図示せず)のプーリユニット1を示し、エンジンからの駆動力がベルトBから伝達される原動体としてのオルタネータプーリ2(プーリ)と、オルタネータプーリ2と同芯状に配置されて一体回転可能な従動体としてのオルタネータ軸3(回転軸)と、オルタネータプーリ2とオルタネータ軸3との間に介装された回転調整機構4と、を備えている。
【0017】
回転調整機構4は、オルタネータプーリ2からオルタネータ軸3に至る動力の伝達経路中に配設され、弾性体としてのコイルばね5と、動力伝達と動力遮断の切り替え機能を備えたクラッチ機構6とを中心に構成されている。そして、オルタネータプーリ2の動力は、コイルばね5から動力伝達状態のクラッチ機構6を介してオルタネータ軸3に伝達される。
【0018】
コイルばね5は、オルタネータプーリ2とオルタネータ軸3との少なくとも一方に発生する回転変動に基づき弾性変形する。ようするに、コイルばね5は、主としてオルタネータプーリ2側で発生する微小回転変動を弾性変形により低減する。クラッチ機構6は、コイルばね5からオルタネータ軸3に至る伝動経路途中に配設され、オルタネータプーリ2の回転数がオルタネータ軸3の回転数を所定値以上下回ったときにオルタネータプーリ2からオルタネータ軸3への動力伝達を遮断する。
【0019】
このクラッチ機構6は、オルタネータ軸3のラジアル方向外側に周方向に沿って配置されている。またクラッチ機構6のラジアル方向外側の周方向に沿って、クラッチ機構6を取り巻くように、矩形状断面を有するコイルばね5が配置されている。
【0020】
また、オルタネータプーリ2とコイルばね5との間に、それらオルタネータプーリ2とコイルばね5との周方向の相対変位を許容しつつ、コイルばね5のラジアル方向の相対変位を規制するブッシュ9(保持体)が配置されている。このブッシュ9は滑り軸受として円筒状に形成されている。
【0021】
オルタネータプーリ2は、ベルトBを巻掛するための波状溝2aが外周側に形成された円筒状のプーリ本体2bからなり、プーリ本体2bの内周側において、アキシャル方向一端側(左端側)には、ブッシュ取付段部2cが形成されている。また、アキシャル方向他端側(右端側)には、軸受取付段部2dが形成されている。また、ブッシュ取付段部2cと軸受取付段部2dとの間には、コイルばね5の始端側の受止部5aを押圧して弾性変形させるための押圧壁部2eが形成されている。
【0022】
オルタネータ軸3は、円筒状に形成された軸本体3aからなり、軸本体3aの外周面3bのアキシャル方向中間側には、クラッチ機構6を構成するためのカム面3cが形成されている。また軸本体3aの中心側に形成される取付軸孔3dにはオルタネータ入力軸(図示せず)が螺合固定されている。
【0023】
そして、オルタネータプーリ2はオルタネータ軸3の外側で同芯状に位置して、オルタネータ軸3とオルタネータプーリ2との間に環状の収容空間部Sを形成している。
【0024】
また、オルタネータ軸3とオルタネータプーリ2のアキシャル方向他端側(右端側)には、プーリ本体2bの軸受取付段部2dと、軸本体3aの外周面3bとの間に、玉軸受31(転がり軸受;軸受部)が介装されている。なお、玉軸受31は、軸本体3aの外周面3bに固定した円環状の内輪31a(内側軌道輪)と、プーリ本体2bの軸受取付段部2dに固定した円環状の外輪31b(外側軌道輪)と、かかる内輪31aと外輪31bとの間を転動する複数の玉31c(転動体)とを有する。玉軸受31の玉31cは、図示のような単列の他に複列であってもよい。
【0025】
また、オルタネータ軸3とオルタネータプーリ2との間における収容空間部S内には、コイルばね5を保持すると共に、クラッチ機構6を構成するための支持体7が配置されている。この支持体7は、円筒状に形成する筒部7aと、この筒部7aのアキシャル方向一端側(左側)から外方へ突出する円板状のフランジ部7bとが一体形成されている。このフランジ部7bのアキシャル方向他端側(右側)の端面7cにおける内径側には、筒部7aの外周面と面一で連続する内周壁面を有する環状のバネ収容凹部7dが形成されている。このバネ収容凹部7d内には、コイルばね5の終端側における受止部5bと当接して、コイルばね5の回転を規制する回転規制壁部7e(図2参照)が形成されている。
【0026】
また、この支持体7は収容空間部S内において、オルタネータ軸3およびオルタネータプーリ2と同芯状に配置されている。かかる支持体7の筒部7aが収容空間部Sを区割りするための区割部材となって、筒部7aの内側をクラッチ収容空間部S1に区割形成するとともに、筒部7aの外側をばね収容空間部S2に区割形成している。
【0027】
また、ブッシュ9は、支持体7のフランジ部7b外周面と、オルタネータプーリ2のアキシャル方向一端側(左端側)のブッシュ取付段部2cとの間に配置されている。ブッシュ9の外周側は、ブッシュ取付段部2cに圧入固定されるとともに、内周側は支持体7のフランジ部7b外周面に摺動自在に設けられている。これにより、支持体7はオルタネータ軸3およびオルタネータプーリ2に対して相対回転自在となる。
【0028】
また、支持体7の筒部7aと、オルタネータ軸3との間におけるアキシャル方向一端側(左側)には、玉軸受部32が配置されている。この玉軸受部32は、支持体7の筒部7aにおける内周面に形成する外輪軌道32aと、オルタネータ軸3の外周面3bに形成する内輪軌道32bと、この内輪軌道32bと外輪軌道32aとの間を転動する複数の玉32c(転動体)とを備えている。玉軸受部32は、支持体7とオルタネータ軸3とを相対回転自在にしつつ、両者のアキシャル方向の相対変位を規制している。なお、玉軸受部32の玉32cは、図示のような単列の他に複列であってもよい。
【0029】
また、図3に示すように、クラッチ機構6において、動力伝達と動力遮断の切り替え機能を有する一方向クラッチ部8は、オルタネータ軸3のラジアル方向外側のクラッチ収容空間部S1(図1参照)内に設けられている。かかる一方向クラッチ部8は、コロタイプを採用しており、外輪8aとしての支持体7における筒部7aと、カム面3cを有する内輪8bとしてのオルタネータ軸3と、外輪8aと内輪8bとの間に形成される環状空間に軸線をアキシャル方向に沿わせて配置された複数(例えば8個)の円柱状のコロ8cと、環状空間内でコロ8cを保持する合成樹脂製で環状の保持器8dと、環状空間内で外輪8aの回転方向(例えば時計回り)とは反対方向に向けて付勢する圧縮コイルばね8e(付勢部材)とを備えている。
【0030】
保持器8dは、オルタネータ軸3のカム面3cの角部を圧入個所となして、周方向およびアキシャル方向の相対変位を規制するように外嵌されている。ここでカム面3cは回転半径が周方向に沿って変化するものであり、二面幅Wを有する断面正多角形状(例えば正八角形状)の矩形状平面を備えている。そして、外輪8aとしての支持体7の筒部7aにおける内周面7fと、内輪8bとしてのカム面3cとの間にラジアル隙間が周方向に変化するくさび状空間Kが形成されている。
【0031】
また、保持器8dの周方向に沿って複数(例えば8ヶ所)のポケット部8fが、ラジアル方向内外に貫通形成されている。このポケット部8fにはコロ8cが回転自在に収容されている。また、圧縮コイルばね8eは、ポケット部8fを形成する柱部8gからポケット部8f内に延出形成する突起8hに一端側が装着されるとともに、他端側がコロ8cに当接している。そして、コロ8cは、くさび状空間K内において、圧縮コイルばね8eによりくさび状空間Kが狭まる方向(例えば反時計回り)に付勢されるとともに、その付勢力に抗してカム面3c上を移動可能である。
【0032】
コイルばね5は、図2に示すように矩形状断面のばね鋼材によってコイル状に形成されている。コイルばね5の始端および終端には、面状に形成した受止部5a,5bを備えている。このコイルばね5は、自由状態においてその径を拡大する方向にばね力が作用する。また矩形状の断面形態には、横長矩形状や、縦長矩形状を含む。
【0033】
図1に戻り、コイルばね5はクラッチ機構6を取り巻くように、ラジアル方向外側に周方向に沿って配置されている。また、オルタネータプーリ2と支持体7の筒部7aとの間のばね収容空間部S2内において、支持体7における筒部7aの外側にコイルばね5が遊嵌状に外装されている。かかるコイルばね5は、その終端側が支持体7のフランジ部7bにおけるバネ収容凹部7dに挿入されている。図2に示すように、終端の受止部5bが回転規制壁部7e(図2参照)に当接するとともに、始端の受止部5aがオルタネータプーリ2の押圧壁部2eに当接している。
【0034】
つぎに、図1から図3により、このように構成したプーリユニット1の作動について説明する。図1に示すオルタネータプーリ2は、図中矢印Aから見て時計方向に設定回転数(例えば5000rpm)で回転している。このとき、図2(c)に示すように、動力の伝達経路の上流側に位置するコイルばね5は、終端の受止部5bが支持体7の回転規制壁部7eに当接して回転規制されている。そのため、始端の受止部5aがオルタネータプーリ2の押圧壁部2eに当接するときに加わる押圧力によって弾性変形し、この変形により一方向クラッチ部8を構成する支持体7に動力が伝達される。なお、弾性変形して拡径するコイルばね5の外周は、支持体7のフランジ部7bおよびオルタネータプーリ2とは接触しない。
【0035】
図3に示すように、オルタネータプーリ2が時計方向(矢印方向)に回転すると、圧縮コイルばね8eの弾発力によってコロ8cがくさび状空間Kの狭い側へ食い込んだロック状態(動力伝達状態)となる。したがって、オルタネータプーリ2の回転による動力がコイルばね5、支持体7、クラッチ機構6、オルタネータ軸3の順に伝達される。
【0036】
ここで、オルタネータプーリ2の回転数がオルタネータ軸3の回転数を上回ったとき(オルタネータ軸3の回転数がオルタネータプーリ2の回転数を下回ったとき)には、一方向クラッチ部8(クラッチ機構6)は上記ロック状態を維持しているので、オルタネータプーリ2からオルタネータ軸3への動力伝達を継続する。
【0037】
一方、オルタネータプーリ2の回転数がオルタネータ軸3の回転数を所定値以上下回ったとき(オルタネータ軸3の回転数がオルタネータプーリ2の回転数を所定値以上上回ったとき)には、図3(b)に示すように、見かけ上オルタネータ軸3が反時計方向に回転することとなる。そして、一方向クラッチ部8のくさび状空間Kの狭い側へ食い込んでいたコロ8cがくさび状空間Kの広い側へ移動してロック状態が解除される。これによってクラッチ機構6がフリー状態(動力遮断状態)となって、一方向クラッチ部8はオルタネータプーリ2からオルタネータ軸3への動力伝達を遮断する。ただし、ブッシュ9は、オルタネータプーリ2とコイルばね5(支持体7)との間に配置されているので、一方向クラッチ部8が動力伝達を遮断してもオルタネータプーリ2とともに一体回転が可能であり、コイルばね5(支持体7)の回転摺動による摩耗が発生しにくい。
【0038】
なお、エンジンの吸入・圧縮・燃焼膨張・排気等の行程によって発生する脈動的な微小回転変動は、コイルばね5の弾性変形によって吸収(低減)される。
【0039】
(変形例)
実施例1の一方向クラッチ部8(クラッチ機構6)において、図3に示す断面多角形状のオルタネータ軸3に代わり、図8のように円弧状等の湾曲状の凹曲面を有するカム面3c’が形成された断面凹面形状のオルタネータ軸3’(内輪8b)を用いてもよい。
【0040】
(実施例2)
つぎに、図4は本発明に係るプーリユニットの他の例を示す正面断面図である。図4のプーリユニット1aでは、前述のクラッチ機構6を構成するコロタイプの一方向クラッチ部8が、バネタイプの一方向クラッチ部18に変更されている。かかる一方向クラッチ部18は、オルタネータ軸3(回転軸;従動体)の軸本体3aの外周面3bにおいて、玉軸受31と玉軸受部32との間に、円形状のクラッチ面18aを備えている。
【0041】
このクラッチ面18aのラジアル方向外側に周方向に沿ってクラッチばね18bが配置されている。かかるクラッチばね18bは、矩形状断面のばね鋼材によってコイル状に形成し、自由状態の径が縮小する方向に使用する。このクラッチばね18aの始端側(右側)は周方向の変位を規制した状態でオルタネータ軸3に連結されている。また、クラッチばね18aの終端側(左側)は、オルタネータプーリ2(プーリ;原動体)の動力によってコイルばね5(弾性体)を介して回転駆動される支持体7の筒部7aに連結されている。
【0042】
そして、オルタネータ軸3の回転数がオルタネータプーリ2の回転数を下回ったときには、クラッチばね18b内周面が縮径してオルタネータ軸3のクラッチ面18aに接触し、この接触面に作用する摩擦力によってロック状態(動力伝達状態)が継続する。一方、これとは反対にオルタネータ軸3の回転数がオルタネータプーリ2の回転数を所定値以上上回ったときには、クラッチばね18b内周面が拡径してオルタネータ軸3のクラッチ面18aから離脱すると、摩擦力が解除されてフリー状態になり、動力遮断が行われるように切り替えられる。なお、図4(実施例2)において図1(実施例1)と共通する機能を有する部分には同一符号を付して説明を省略する。
【0043】
(実施例3)
つぎに、図5は本発明に係るプーリユニットのさらに他の例を示す正面断面図である。図5のプーリユニット1bでは、図1(実施例1)に示したプーリユニット1において、伝動経路中に配設されたクラッチ機構6のラジアル方向外側で取り巻くように配置される弾性体(コイルばね5)の配置位置が変更されている。
【0044】
すなわち、オルタネータ軸3(回転軸;従動体)、オルタネータプーリ2(プーリ;原動体)、クラッチ機構6を備えるプーリユニット1bのアキシャル方向一端(左端)には、渦巻き状のコイルばね15(渦巻きばね;弾性体)を収容する環状の弾性体保持部材20が装着されている。また、同芯状に配置されるオルタネータ軸3とオルタネータプーリ2との間の収容空間部Sには、弾性体保持部材20内のコイルばね15と連繋する支持体17が配置されている。
【0045】
この支持体17は、円筒状に形成された筒部17aと、この筒部17aのアキシャル方向一端側(左側)において、オルタネータ軸3の軸線と直交するように一体形成された取付壁面17bとを有している。また、取付壁面17bのアキシャル方向端面(左端面)中央には、同方向へ突出する円柱状のボス17cが一体形成され、ボス17cにはラジアル方向に貫通する係止スリット17dが切欠き形成されている(図6参照)。
【0046】
かかる支持体17の筒部17a外周面と、オルタネータプーリ2のアキシャル方向一端側(左端側)のブッシュ取付段部2cとの間に、ブッシュ19(保持体)が配置されている。このブッシュ19は滑り軸受として鍔付き円筒状に形成されている。ブッシュ19は、外周側がブッシュ取付段部2cに圧入固定されるとともに、内周側が支持体17の筒部17a外周面に摺動自在に設けられている。これにより、支持体17はオルタネータ軸3およびオルタネータプーリ2に対して相対回転自在となる。
【0047】
また、弾性体保持部材20は、円筒部20aの一端に底壁20bが一体形成された有底円筒状の本体20cからなる。円筒部20a内に支持体17のボス17cが配置されるように、底壁20b中央にはボス17cが挿通する挿通孔20dが穿設されている(図6参照)。また、オルタネータプーリ2のアキシャル方向一端側の外周面に外嵌するための周壁部20eが、底壁20bからアキシャル方向他端側に一体的に突出形成されている。また、本体20c内の周壁部20eには、中心側に向かって押圧突起20fが一体形成されている(図6参照)。
【0048】
そして、弾性体保持部材20の周壁部20e内に、オルタネータプーリ2のアキシャル方向一端側の外周面が圧入嵌合されている。これによって、弾性体保持部材20とオルタネータプーリ2とが一体結合して、相対回転を規制され(一体回転可能とされ)ている。
【0049】
コイルばね15は、図6に示すように矩形状断面のばね鋼材によって渦巻き状に形成されている。コイルばね15の始端はフック片15aを有するとともに、終端を係合部15bとなしている。また矩形状の断面形態には、横長矩形状や、縦長矩形状を含む。
【0050】
このコイルばね15は、フック片15aをボス17cの係止スリット18dに挿入するとともに、係合部15bを押圧突起20fに当接させることにより、弾性体保持部材20内に収容されている。
【0051】
図5に戻り、オルタネータプーリ2には、プーリ本体2bの内周側において、アキシャル方向他端側(右側)に、玉軸受部32を構成する外輪軌道32aが形成されている。また、オルタネータ軸3には、軸本体3aの外周面3bにおいて、アキシャル方向一端側(左端側)に、クラッチ機構6を構成するためのカム面3cが形成されている。また、アキシャル方向他端側(右側)には、玉軸受部32を構成する内輪軌道32bが形成されている。また、オルタネータプーリ2とオルタネータ軸3とを相対回転自在にするため、外輪軌道32aと内輪軌道32bとの間に転動する複数の玉32c(転動体)が配置されている。なお、玉軸受部32の玉32cは、図示のような複列の他に単列であってもよい。
【0052】
また、クラッチ機構6において、動力伝達と動力遮断の切り替え機能を有する一方向クラッチ部18は、図1(実施例1)の一方向クラッチ部8と同様に、オルタネータ軸3のラジアル方向外側に設けられている。
【0053】
つぎに、図5および図6により、このように構成したプーリユニット1bの作動について説明する。図5に示すオルタネータプーリ2は、図中矢印Aから見て時計方向に設定回転数(例えば5000rpm)で回転している。このとき、図6に示すように、動力の伝達経路の上流側に配置するコイルばね15は、フック片15aが支持体7のボス17cによって回転規制されている。そのため、オルタネータプーリ2と一体回転する弾性体保持部材20の押圧突起20fに当接するときに係合部15bに加わる押圧力によって弾性変形し、この変形により一方向クラッチ部18を構成する支持体17に動力が伝達される。
【0054】
この一方向クラッチ部18でも、図1(実施例1)の一方向クラッチ部8と同様に、オルタネータプーリ2が時計方向に回転すると、ロック状態(動力伝達状態)となる。したがって、オルタネータプーリ2の回転による動力がコイルばね15、支持体17、クラッチ機構6、オルタネータ軸3の順に伝達される。
【0055】
ここで、オルタネータプーリ2の回転数がオルタネータ軸3の回転数を上回ったとき(オルタネータ軸3の回転数がオルタネータプーリ2の回転数を下回ったとき)には、一方向クラッチ部18(クラッチ機構6)は上記ロック状態を維持しているので、オルタネータプーリ2からオルタネータ軸3への動力伝達を継続する。
【0056】
一方、オルタネータプーリ2の回転数がオルタネータ軸3の回転数を所定値以上下回ったとき(オルタネータ軸3の回転数がオルタネータプーリ2の回転数を所定値以上上回ったとき)には、図3(b)に示したように、見かけ上オルタネータ軸3が反時計方向に回転することとなる。そして、一方向クラッチ部18のくさび状空間Kの狭い側へ食い込んでいたコロ8cがくさび状空間Kの広い側へ移動してロック状態が解除される。これによってクラッチ機構6がフリー状態(動力遮断状態)となって、一方向クラッチ部18はオルタネータプーリ2からオルタネータ軸3への動力伝達を遮断する。ただし、ブッシュ19は、オルタネータプーリ2とコイルばね15(支持体17)との間に配置されているので、一方向クラッチ部8が動力伝達を遮断してもオルタネータプーリ2とともに一体回転が可能であり、コイルばね15(支持体17)の回転摺動による摩耗が発生しにくい。
【0057】
なお、エンジンの吸入・圧縮・燃焼膨張・排気等の行程によって発生する脈動的な微小回転変動は、コイルばね15の弾性変形によって吸収(低減)される。
【0058】
(実施例4)
つぎに、図7はスプラグタイプの一方向クラッチ部を用いた場合の作動を示す説明図である。図7では、図3(実施例1)に示すコロタイプの一方向クラッチ部8がスプラグタイプの一方向クラッチ部28に変更されている。かかる一方向クラッチ部28は、支持体7の筒部7aを外輪28a、オルタネータ軸3を内輪28bとし、これら外輪28aと内輪28bとの間に形成される環状空間に、軸線をアキシャル方向に沿わせて配置された複数のスプラグ28cと、環状空間内でスプラグ28cを保持する環状の内輪側保持器28d、環状の外輪側保持器28eおよび環状バネ28fとを備えている。
【0059】
スプラグ28cは、外輪28aおよび内輪28bの対向面に対し各々傾斜して配置されるとともに、内輪側保持器28dと外輪側保持器28eとによってその傾斜状態が保持されている。そして、外輪28aが時計方向に回転すると、外輪28aとスプラグ28cの接触個所に作用する摩擦力によって、スプラグ28cは右方向にさらに傾き、外輪28aと内輪28bの間に強く噛み込んだロック状態となって動力が伝達される。一方、これとは反対に外輪28aが反時計方向に回転すると、スプラグ28cは左方向に傾き、外輪28aと内輪28bとの噛み合いが解除されたフリー状態となって動力が遮断される。
【図面の簡単な説明】
【0060】
【図1】本発明に係るプーリユニットの一例を示す正面断面図。
【図2】図1に用いられるコイルばねの斜視図及び作動説明図。
【図3】図1に用いられるローラタイプの一方向クラッチ部の断面図及び作動説明図。
【図4】本発明に係るプーリユニットの他の例を示す正面断面図。
【図5】本発明に係るプーリユニットのさらに他の例を示す正面断面図。
【図6】図5の正面断面図。
【図7】スプラグタイプの一方向クラッチ部の作動説明図。
【図8】図3の変形例を示す要部断面説明図。
【符号の説明】
【0061】
1,1a,1b プーリユニット
2 オルタネータプーリ(プーリ;原動体)
3 オルタネータ軸(回転軸;従動体)
4 回転調整機構
5,15 コイルばね(渦巻きばね;弾性体)
6 クラッチ機構
7 支持体
8,18,28 一方向クラッチ部
9 ブッシュ(保持体)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ベルトが巻掛けられるプーリと、そのプーリと同芯状に配置され一体回転可能な回転軸とのうち一方を原動体、他方を従動体とし、原動体から従動体に至る伝動径路に回転調整機構が介装されたプーリユニットであって、
前記回転調整機構は、
前記伝動径路途中に配設され、前記原動体と従動体との少なくとも一方に発生する回転変動に基づき弾性変形する弾性体と、
その弾性体から前記従動体に至る前記伝動径路途中に配設され、前記原動体の回転数が前記従動体の回転数を所定値以上下回ったときに前記原動体から従動体への動力伝達を遮断するクラッチ機構とを備え、
主として前記原動体側で発生する微小回転変動を前記弾性体の弾性変形により低減し、かつ主として前記原動体側で発生する前記微小回転変動よりも大きな回転変動を前記クラッチ機構の動力遮断により除去することを特徴とするプーリユニット。
【請求項2】
ベルトが巻掛けられるプーリから、そのプーリと同芯状に配置され一体回転可能な回転軸に至る伝動径路に回転調整機構が介装されたプーリユニットであって、
前記回転調整機構は、
前記伝動径路途中に配設され、前記プーリと回転軸との少なくとも一方に発生する回転変動に基づき弾性変形する弾性体と、
その弾性体から前記回転軸に至る前記伝動径路途中に配設され、前記プーリの回転数が前記回転軸の回転数を所定値以上下回ったときに前記プーリから回転軸への動力伝達を遮断するクラッチ機構とを備え、
主として前記プーリ側で発生する微小回転変動を前記弾性体の弾性変形により低減し、かつ主として前記プーリ側で発生する前記微小回転変動よりも大きな回転変動を前記クラッチ機構の動力遮断により除去することを特徴とするプーリユニット。
【請求項3】
前記プーリと弾性体との間に、それらプーリと弾性体との周方向の相対変位を許容しつつ、前記弾性体のラジアル方向の相対変位を規制する保持体が配置されている請求項2に記載のプーリユニット。
【請求項4】
前記回転軸のラジアル方向外側に周方向に沿って前記クラッチ機構が配置され、さらにそのクラッチ機構のラジアル方向外側に周方向に沿って前記弾性体が配置されている請求項2又は3に記載のプーリユニット。
【請求項5】
前記弾性体は、前記クラッチ機構を取り巻くように配置されるとともに、矩形状断面を有するコイルばねで構成されている請求項4に記載のプーリユニット。
【請求項6】
前記回転軸のラジアル方向外側に周方向に沿って前記クラッチ機構が配置され、さらにそのクラッチ機構のアキシャル方向一端部には、前記回転軸の軸線に交差する面において前記弾性体が弾性変形するように配置されている請求項2又は3に記載のプーリユニット。
【請求項7】
前記弾性体は、前記回転軸の軸線に直交する面に配置された渦巻き状のコイルばねで構成されている請求項6に記載のプーリユニット。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2008−82508(P2008−82508A)
【公開日】平成20年4月10日(2008.4.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−265753(P2006−265753)
【出願日】平成18年9月28日(2006.9.28)
【出願人】(000001247)株式会社ジェイテクト (7,053)
【Fターム(参考)】