説明

プーリユニット

【課題】トルクリミット用凹部内にローラが受け入れられてトルクリミット状態にあるときに、遠心力によるローラの浮き上がりを防止することができるプーリユニットを提供する。
【解決手段】エンジン補機1の突出筒部3と回転軸4との間に組み付けられ、プーリ11と、転がり軸受20と、一方向クラッチ40とを備える。一方向クラッチ40は、プーリ11の内周面に固定状態で設けられる外輪体41と、回転軸4の外周面に固定状態で設けられる内輪体42と、内輪体42の外周面に形成されて複数のくさび状空間を周方向に所定間隔を隔てて形成するカム面43と、ローラ61と、を備える。内輪体42のカム面43の周方向一側には、所定値以上のトルクが作用したときに、カム面43を乗り越えて転動するローラ61を受け入れることで、トルク伝達を遮断するトルクリミット用凹部46が形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、エンジン補機(例えば、空調用圧縮機、オルタネータ、ウオーターポンプ、冷却ファン等)に用いられるプーリユニットに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、図6と図7に示すように、車載エンジンのエンジン補機が空調用圧縮機(以下、単に圧縮機という)である場合、圧縮機101のケーシング102の一側から一体に突出された突出筒部103と、この突出筒部103の中心部に配置された回転軸104との間に、プーリ111、複列の転がり軸受120及び一方向クラッチ140を備えたプーリユニット110が組み付けられた構造のものが知られている。
これにおいては、突出筒部103の外周面と、プーリ111の一端部内周に一体状に固定された筒状体113の内周面との間に、外輪121、内輪122及び複列の玉123、124を有する転がり軸受120が組み付けられる。
また、一方向クラッチ140は、外輪体141と、内輪体142と、これら外輪体141と内輪体142とを同期回転させるロック状態と相対回転させるフリー状態とに切り換えるために、内輪体142の外周面に形成され、かつ外輪体141の内周面と協働して複数のくさび状空間を周方向に所定間隔を隔てて形成するカム面143と、複数のくさび空間にそれぞれ配設されたローラ161と、これらローラ161をロック方向に個別に付勢するコイルばね160と、複数のローラ161及びコイルばね160を保持する保持器150とを備えている。
また、一方向クラッチ140は、その内輪体142がプーリ111側の筒状体113の外周面に圧入固定される。
一方、回転軸104の端部寄り外周面には環状部材130がトルク伝達可能に嵌挿され、かつナット135によって締め付けられている。そして、一方向クラッチ140の外輪体141は、環状部材130の外周部に適宜の連結部材によってトルク伝達可能に連結されている。
これによって、車載エンジンのクランクシャフトのトルクが伝動ベルト118を介してプーリ111に伝達される。そして、プーリ111側からのトルクが、一方向クラッチ140と環状部材130を介して圧縮機101の回転軸104に伝達されるようになっている。
また、圧縮機101の回転軸104が焼き付きなどによってロックされ、プーリ111から回転軸4へ所定値以上のトルク(負荷トルク)が作用したときにトルク伝達を遮断するために、内輪体142のカム面143の周方向一側にトルクリミット用凹部146が形成される。そして、プーリ111側の内輪体142と、回転軸104側の外輪体141との間に所定値以上のトルクが作用すると、ローラ161がカム面143の一側を乗り越えて転動しトルクリミット用凹部146内に受け入れられる。これによって、プーリ111と共に内輪体142が空転状態となり、プーリ111側から回転軸104へのトルク伝達が遮断されるようになっている。
なお、内輪体のカム面の周方向一側にトルクリミット用凹部が形成された一方向クラッチとしては、例えば、特許文献1に開示されている。
【特許文献1】特開2002−106608号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ところで、図6と図7に示すような従来のプーリユニット110において、ローラ161がトルクリミット用凹部146内に受け入れられてトルクリミット状態となったときには、プーリ111と共に内輪体142が空転状態となる。
プーリ111と共に内輪体142が空転状態にあるときに、遠心力によってローラ161がトルクリミット用凹部146から浮き上がり、内輪体142と外輪体141との間に不測に噛み込んでロック状態となる恐れがある。
【0004】
この発明の目的は、前記問題点に鑑み、トルクリミット用凹部内にローラが受け入れられてトルクリミット状態にあるときに、遠心力によるローラの浮き上がりを防止することができるプーリユニットを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
前記目的を達成するために、この発明の請求項1に係るプーリユニットは、エンジン補機のケーシングの一側に突出された突出筒部と、この突出筒部の中心部に配置された回転軸との間に組み付けられ、プーリと、転がり軸受と、一方向クラッチと、を備えたプーリユニットであって、
前記一方向クラッチは、前記プーリの内周面に固定状態で設けられる外輪体と、
前記外輪体と同心状をなして前記回転軸の外周面に固定状態で設けられる内輪体と、
前記内輪体と前記外輪体とを同期回転させるロック状態と相対回転させるフリー状態とに切り換えるために、前記内輪体の外周面に形成され、かつ前記外輪体の内周面と協働して複数のくさび状空間を周方向に所定間隔を隔てて形成するカム面と、
前記複数のくさび空間にそれぞれ配設されたローラと、
を備え、
前記内輪体の前記カム面の周方向一側には、所定値以上のトルクが作用したときに、前記カム面を乗り越えて転動する前記ローラを受け入れることで、前記外輪体と前記内輪体とのトルク伝達を遮断するトルクリミット用凹部が形成されていることを特徴とする。
【0006】
前記構成によると、エンジン補機の回転軸が焼き付きなどによってロック状態となり、プーリ側の外輪体と、エンジン補機の回転軸側の内輪体との間に所定値以上のトルクが作用すると、ローラが内輪体のカム面の一側を乗り越えてトルクリミット用凹部内に受け入れられる。これによって、プーリと共に外輪体が空転状態となり、プーリ側から回転軸へのトルク伝達が遮断される。
この際、ロック状態にある回転軸と共に内輪体が静止状態にある。このため、内輪体のトルクリミット用凹部内に受け入れられたローラが遠心力の作用を受けることがない。
この結果、トルクリミット用凹部からローラが浮き上がることを防止することができ、ローラが内輪体と外輪体との間に不測に噛み込む不具合を抑制することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
次に、この発明を実施するための最良の形態を実施例にしたがって説明する。
【実施例】
【0008】
(実施例1)
この発明の実施例1を図1〜図5にしたがって説明する。
図1はこの発明の実施例1に係るプーリユニットを備えた圧縮機を示す側断面図である。図2はプーリユニットの一方向クラッチを示す横断面図である。図3は一方向クラッチの保持器のポケットにローラ及びコイルばねが収納された状態を拡大して示す平面図である。図4は一方向クラッチの保持器のポケットにローラ及びコイルばねが収納された状態を拡大して示す横断面図である。図5は一方向クラッチのローラがトルクリミット用凹部内に受け入れられた状態を示す説明図である。
【0009】
図1に示すように、この実施例1に係るプーリユニット10は、車載エンジンのエンジン補機の一つである圧縮機1に使用される場合を例示するものであり、圧縮機1のケーシング2の一側から一体に突出された突出筒部3と、この突出筒部3の中心部に同心上をなして回転可能に組み付けられた圧縮機1の回転軸4との間に跨って組み付けられると共に、プーリ11、複列の転がり軸受20、及び一方向クラッチ40を備える。
【0010】
プーリ11は、突出筒部3の外周に同心上に配設される円筒状に形成され、プーリ11の外周面には伝動ベルト18が掛け渡される断面波形状のベルト溝12が形成されている。なお、伝動ベルト18は、車載エンジンのクランクシャフトのプーリに掛け渡され、クランクシャフトのトルクをプーリ11に伝達するようになっている。
また、プーリ11の内周面と突出筒部3の外周面との間の環状空間には、複列の転がり軸受20と一方向クラッチ40とが並設されている。
【0011】
複列の転がり軸受20は、外輪21と、内輪22と、これら外輪21と内輪22の間にそれぞれ保持器25、26によって保持された状態で複列をなして転動可能に配設された各複数個の玉23、24とを備えている。
そして、複列の転がり軸受20は、その内輪22が圧縮機1側の突出筒部3に圧入固定され、外輪21がプーリ11の内周面に圧入固定されている。
【0012】
図1と図2に示すように、一方向クラッチ40は、外輪体41、内輪体42、複数のローラ61、コイルばね60及び保持器50を備えている。
そして、一方向クラッチ40は、その内輪体42が圧縮機1の回転軸4の先端部のクラッチ装着軸部4aにトルク伝達可能に固定され、外輪体41がプーリ11の内周面に圧入固定されている。
【0013】
すなわち、図2と図4に示すように、一方向クラッチ40の外輪体41と、内輪体42との対向周面の間に複数(図2では6個)のくさび状空間を周方向に所定間隔を隔てて形成するための平坦面(又は曲面)なカム面43が内輪体42の外周面の周方向に所定間隔を隔てて形成される一方、外輪体41の内周面は円形をなしている。複数のくさび空間には、これと同数のローラ61と、これら各ローラ61をロック方向(くさび空間の狭い側)に個別に付勢するコイルばね60とが保持器50の各ポケット51に収納された状態でそれぞれ配設されている。
【0014】
図4に示すように、内輪体42の各カム面43の周方向一側には、凹円弧形状、凹湾曲形状等のトルクリミット用凹部46が所要の深さをもって形成されている。
そして、圧縮機1の回転軸4が焼き付きなどによってロックされ、プーリ11側の外輪体41から回転軸4側の内輪体42へ所定値以上のトルク(負荷トルク)が作用したときに、図5に示すように、ローラ61がカム面43を乗り越えて転動しトルクリミット用凹部46内に受け入れられることで、外輪体41と、内輪体42との間に対するローラ61の噛み込みが不能となり、プーリ11側の外輪体41と回転軸4側の内輪体42とのトルク伝達を遮断するようになっている。
【0015】
また、一方向クラッチ40の保持器50は合成樹脂材の射出成形によって一体に円筒状に形成され、その周方向には複数のポケット51と、これたポケット51を区画する柱部52とが交互に形成されている。そして、保持器50は内輪体42の外周面に嵌合されている。
保持器50の各柱部52の両側壁面のうち、一側面(くさび空間の狭い側に対向する面)には、コイルばね45の基端巻回部が嵌挿される突起53が突設されている。また、保持器50の柱部52のローラ61に対向する他側面には、トルクリミット用凹部46内にローラ61が受け入れられたときに、トルクリミット用凹部46と協働してローラ61を挟持状に保持するローラ保持部55が形成されることが望ましい。さらに、ローラ保持部55は、ローラ61の外周面に沿う円弧状に形成されることがより望ましい。
なお、この実施例1において、内輪体42の外周面と保持器50の内周面との間には、保持器50のフリー方向への回動を阻止してコイルばね60の反力を受け、カム面43上からトルクリミット用凹部46内に配置されたときのローラ61の変位角度に対応して保持器50のロック方向への回動は許容する係合部(図示しない)が設けられている。
【0016】
コイルばね60は、ばね線材が楕円形状、矩形形状等に巻回されて形成され、柱部52の突起53の根元部をばね座としてコイルばね60の基端巻回部が突起53に嵌挿されて支持された状態で先端巻回部がローラ61の外周面に当接している。そして、コイルばね60はローラ61をくさび状空間の狭い側(ロック状態となる側)に弾発付勢している。
なお、保持器50の内周面と内輪体42の外周面には、相互に係合してコイルばね60の反力を受ける係合部(図示しない)がそれぞれ形成されている。
【0017】
また、この実施例1において、図1に示すように、一方向クラッチ40の外輪体41と内輪体42との間の環状空間内には、保持器50の片側に位置して転がり軸受70を構成する複数の玉71が保持器72によって保持された状態で転動可能に配設されている。
そして、ローラ61がトルクリミット用凹部46内に配置されたときに、転がり軸受70によって、外輪体41と内輪体42とを同心上に保持するようになっている。
【0018】
この実施例1に係るエンジン補機としての圧縮機1に用いられるプーリユニット10は上述したように構成される。
したがって、車載エンジンの作動時において、クランクシャフトのトルクが伝動ベルト18によってプーリ11に伝達されると、プーリ11と共に、一方向クラッチ40の外輪体41が回転される。この外輪体41のトルクは、ローラ61によって内輪体42及び圧縮機1の回転軸4にトルク伝達されて回転軸4が回転される。
すなわち、車載エンジンの作動時において、プーリ11の回転速度が回転軸4の回転速度よりも速いときには、一方向クラッチ40がロック状態となるので、回転軸4はプーリ11と一体回転する。
また、プーリ11の回転速度が回転軸4の回転速度よりも遅くなると、一方向クラッチ40のローラ61がロック位置から外れてくさび状空間の広い側へ移動してフリー状態に切替わる。これにより、プーリ11の回転変動が吸収される。
【0019】
圧縮機1の回転軸4に焼き付き等が生じて回転軸4がロック状態となった場合、外輪体41と内輪体42との間には所定値以上のトルク(負荷トルク)が作用する。
この場合、ローラ61がカム面43の一側を乗り越えて転動し、トルクリミット用凹部46内に受け入れられる。そして、ローラ61がトルクリミット用凹部46内に受け入れられることによって、外輪体41と共にプーリ11が空転状態となり、プーリ11側から回転軸4へのトルク伝達が遮断される。
この際、図5に示すように、圧縮機1のロック状態にある回転軸4と共に内輪体42が静止状態にある。このため、内輪体42のトルクリミット用凹部46内に受け入れられたローラ61が遠心力の作用を受けることがない。
この結果、内輪体42外周面のトルクリミット用凹部46からローラ61が浮き上がることを防止することができ、ローラ61が内輪体42と外輪体41との間に不測に噛み込む不具合を抑制することができる。
【0020】
また、この実施例1において、図5に示すように、ローラ61がトルクリミット用凹部46内に受け入れられて外輪体41と共にプーリ11が空転状態となる際に、トルクリミット用凹部46と、保持器50の柱部52のローラ保持部55との協働によってローラ61を挟持状に保持することができる。
このため、車両走行時の振動等によってローラ61がトルクリミット用凹部46から浮き上がったり、あるいはガタツクことを抑制することができる。ひいては、ローラ61が内輪体42と外輪体41との間に不測に噛み込む不具合を防止することができ、外輪体41と共にプーリ11を空転状態に保つことができる。
【0021】
なお、この発明は前記実施例1に限定するものではない。
例えば、前記実施例1においては、保持器50の柱部52の他側面に、ローラ61の外周面に沿う円弧状のローラ保持部55が形成される場合を例示したが、円弧状のローラ保持部55は必ずしも設けなくてもこの発明を実施することができる。
また、前記実施例1においては、エンジン補機としての圧縮機に採用されるプーリユニットである場合を例示したが、オルタネータ、ウオーターポンプ、冷却ファン等のエンジンの補機に対応するプーリユニットとして使用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】この発明の実施例1に係るプーリユニットを備えた圧縮機を示す側断面図である。
【図2】同じくプーリユニットの一方向クラッチを示す横断面図である。
【図3】同じく一方向クラッチの保持器のポケットにローラ及びコイルばねが収納された状態を拡大して示す平面図である。
【図4】同じく一方向クラッチの保持器のポケットにローラ及びコイルばねが収納された状態を拡大して示す横断面図である。
【図5】同じく一方向クラッチのローラがトルクリミット用凹部内に受け入れられた状態を示す説明図である。
【図6】従来のプーリユニットを備えた圧縮機を示す側断面図である。
【図7】同じくプーリユニットの一方向クラッチを示す横断面図である。
【符号の説明】
【0023】
1 圧縮機(エンジン補機)
2 ケーシング
3 突出筒部
4 回転軸
10 プーリユニット
11 プーリ
20 複列の転がり軸受
40 一方向クラッチ
41 外輪体
42 内輪体
43 カム面
46 トルクリミット用凹部
50 保持器
52 柱部
55 ローラ保持部
60 コイルばね
61 ローラ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジン補機のケーシングの一側に突出された突出筒部と、この突出筒部の中心部に配置された回転軸との間に組み付けられ、プーリと、転がり軸受と、一方向クラッチと、を備えたプーリユニットであって、
前記一方向クラッチは、前記プーリの内周面に固定状態で設けられる外輪体と、
前記外輪体と同心状をなして前記回転軸の外周面に固定状態で設けられる内輪体と、
前記内輪体と前記外輪体とを同期回転させるロック状態と相対回転させるフリー状態とに切り換えるために、前記内輪体の外周面に形成され、かつ前記外輪体の内周面と協働して複数のくさび状空間を周方向に所定間隔を隔てて形成するカム面と、
前記複数のくさび空間にそれぞれ配設されたローラと、
を備え、
前記内輪体の前記カム面の周方向一側には、所定値以上のトルクが作用したときに、前記カム面を乗り越えて転動する前記ローラを受け入れることで、前記外輪体と前記内輪体とのトルク伝達を遮断するトルクリミット用凹部が形成されていることを特徴とするプーリユニット。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2009−79672(P2009−79672A)
【公開日】平成21年4月16日(2009.4.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−249121(P2007−249121)
【出願日】平成19年9月26日(2007.9.26)
【出願人】(000001247)株式会社ジェイテクト (7,053)
【Fターム(参考)】