説明

プーリユニット

【課題】トルクリミット用凹部内にローラが受け入れられてトルクリミット状態にあるときに、遠心力によるローラの浮き上がりを防止することができるプーリユニットを提供する。
【解決手段】エンジン補機1のケーシング2の一側に突出された突出筒部3と、回転軸4との間に組み付けられ、プーリ11と、転がり軸受20と、一方向クラッチ40とを備える。一方向クラッチ40は、内輪体42と、外輪体41と、カム面45と、ローラ61と、トルクリミット用凹部46と、を備える。一方向クラッチ40の外輪体41とプーリ11との間にはこれら両者をトルク伝達可能に連結する環状部材30が設けられる。回転軸4の連結軸部5と内輪体42との嵌合部、又は環状部材30(130、230)の一部には、突出筒部3と回転軸4との間の芯ずれを吸収する芯ずれ吸収部80(180、280、580)が設けられている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、エンジン補機(例えば、空調用圧縮機、オルタネータ、ウオーターポンプ、冷却ファン等)に用いられるプーリユニットに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、図9と図10に示すように、車載エンジンのエンジン補機が空調用圧縮機(以下、単に圧縮機という)である場合、圧縮機301のケーシング302の一側から一体に突出された突出筒部303と、この突出筒部303の中心部に配置された回転軸304との間に組み付けられるプーリユニット310が、プーリ311と、複列の転がり軸受320と、一方向クラッチ340とを備えた構造のものが知られている。
これにおいては、突出筒部303の外周面と、プーリ311の一端部内周に一体状に固定された筒状体313の内周面との間に、外輪321、内輪322及び複列の玉323、324を有する転がり軸受320が組み付けられる。
また、一方向クラッチ340は、外輪体341と、内輪体342と、これら外輪体341と内輪体342とを同期回転させるロック状態と相対回転させるフリー状態とに切り換えるために、内輪体342の外周面に形成され、かつ外輪体341の内周面と協働して複数のくさび状空間を周方向に所定間隔を隔てて形成するカム面345と、複数のくさび空間にそれぞれ配設されたローラ361と、これらローラ361をロック方向に個別に付勢するコイルばね360と、複数のローラ361及びコイルばね360を保持する保持器350とを備えている。
また、一方向クラッチ340は、その内輪体342がプーリ311側の筒状体313の外周面に圧入固定される。
一方、回転軸304の端部寄り外周面には環状部材330がトルク伝達可能に嵌挿され、かつナット335によって締め付けられている。そして、一方向クラッチ340の外輪体341は、環状部材330の外周部に適宜の連結部材によってトルク伝達可能に連結されている。
これによって、車載エンジンのクランクシャフトのトルクが伝動ベルト318を介してプーリ311に伝達される。そして、プーリ311側からのトルクが、一方向クラッチ340と環状部材330を介して圧縮機301の回転軸304に伝達されるようになっている。
また、圧縮機301の回転軸304が焼き付きなどによってロックされ、プーリ311から回転軸304へ所定値以上のトルク(負荷トルク)が作用したときにトルク伝達を遮断するために、内輪体342のカム面345の周方向一側にトルクリミット用凹部346が形成される。そして、プーリ311側の内輪体342と、回転軸304側の外輪体341との間に所定値以上のトルクが作用すると、ローラ361がカム面345の一側を乗り越えて転動しトルクリミット用凹部346内に受け入れられる。これによって、プーリ311と共に内輪体342が空転状態となり、プーリ311側から回転軸304へのトルク伝達が遮断されるようになっている。
なお、内輪体のカム面の周方向一側にトルクリミット用凹部が形成された一方向クラッチとしては、例えば、特許文献1に開示されている。
【特許文献1】特開2002−106608号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ところで、図9と図10に示すような従来のプーリユニット310において、ローラ361がトルクリミット用凹部346内に受け入れられてトルクリミット状態となったときには、プーリ311と共に内輪体342が空転状態となる。
プーリ311と共に内輪体342が空転状態にあるときに、遠心力によってローラ361がトルクリミット用凹部346から浮き上がり、内輪体342と外輪体341との間に不測に噛み込んでロック状態となる恐れがある。
【0004】
この発明の目的は、前記問題点に鑑み、トルクリミット用凹部内にローラが受け入れられてトルクリミット状態にあるときに、遠心力によるローラの浮き上がりを防止することができるプーリユニットを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
前記目的を達成するために、この発明の請求項1に係るプーリユニットは、エンジン補機のケーシングの一側に突出された突出筒部と、この突出筒部の中心部に配置された回転軸との間に組み付けられ、プーリと、転がり軸受と、一方向クラッチとを備えたプーリユニットであって、
前記転がり軸受は、前記突出筒部の外周面と前記プーリの内周側との間に配置され、
前記一方向クラッチは、前記回転軸の先端部に形成された連結軸部にトルク伝達可能に嵌合される内輪体と、
前記内輪体の外周に同心状をなして設けられた外輪体と、
前記内輪体と前記外輪体とを同期回転させるロック状態と相対回転させるフリー状態とに切り換えるために、前記内輪体の外周面に形成され、かつ前記外輪体の内周面と協働して複数のくさび状空間を周方向に所定間隔を隔てて形成するカム面と、
前記複数のくさび空間にそれぞれ配設されたローラと、
前記内輪体の前記カム面の周方向一側に設けられ、所定値以上のトルクが作用したときに、前記カム面を乗り越えて転動する前記ローラを受け入れることで、前記外輪体と前記内輪体とのトルク伝達を遮断するトルクリミット用凹部と、を備え、
前記一方向クラッチの外輪体と前記プーリとの間にはこれら両者をトルク伝達可能に連結する環状部材が設けられ、
前記回転軸の連結軸部と内輪体との嵌合部、又は前記環状部材の一部には、前記突出筒部と前記回転軸との間の芯ずれを吸収する芯ずれ吸収部が設けられていることを特徴とする。
【0006】
前記構成によると、エンジン補機の回転軸が焼き付きなどによってロック状態となり、プーリ側の外輪体と、エンジン補機の回転軸側の内輪体との間に所定値以上のトルクが作用すると、ローラが内輪体のカム面の一側を乗り越えてトルクリミット用凹部内に受け入れられる。これによって、プーリと共に外輪体が空転状態となり、プーリ側から回転軸へのトルク伝達が遮断される。
この際、ロック状態にある回転軸と共に内輪体が静止状態にある。このため、内輪体のトルクリミット用凹部内に受け入れられたローラが遠心力の作用を受けることがない。
この結果、トルクリミット用凹部からローラが浮き上がることを防止することができ、ローラが内輪体と外輪体との間に不測に噛み込む不具合を抑制することができる。
また、エンジン補機の突出筒部と回転軸との間に芯ずれ(中心ずれ)がある場合、この芯ずれが芯ずれ吸収部において吸収される。
このため、突出筒部と回転軸との間の芯ずれによる不具合を防止することができる。
例えば、突出筒部と回転軸との間の芯ずれが生じると、この芯ずれに伴って、一方向クラッチの内輪体と外輪体とが芯ずれすることがある。すると、複数のくさび空間と各ローラとの噛み合い状態が設定された状態と異なって変化するため、一方向クラッチとしての機能が果たせなくなる恐れがあるが、前記したように、突出筒部と回転軸との間の芯ずれを芯ずれ吸収部において吸収することによって、複数のくさび空間と各ローラとの噛み合い状態を設定された状態に保つことができ、一方向クラッチとしての機能を十分果たすことができる。
【0007】
請求項2に係るプーリユニットは、請求項1に記載のプーリユニットであって、
回転軸の連結軸部の外周面には外歯スプラインが形成される一方、内輪体の内周面には前記外歯スプラインにトルク伝達可能に嵌合される内歯スプラインが形成され、
前記内・外歯のスプラインの噛み合いの隙間部分を芯ずれ吸収部としていることを特徴とする。
【0008】
前記構成によると、回転軸の連結軸部と内輪体との内・外歯のスプラインの噛み合いの隙間部分を芯ずれ吸収部とすることによって、部品点数や組付工数が増加することがないのでコストの面において効果が大きい。
【0009】
請求項3に係るプーリユニットは、請求項1に記載のプーリユニットであって、
環状部材の内径端と外径端との間の一部には、前記環状部材の周方向に沿って環状をなす環状弾性体が介在され、
前記環状弾性体の弾性変形部を芯ずれ吸収部としていることを特徴とする。
【0010】
前記構成によると、一方向クラッチの外輪体とプーリとをトルク伝達可能に連結する環状部材の内径端と外径端との間に介在された環状弾性体の弾性変形部を芯ずれ吸収部とすることによって、突出筒部と回転軸との間の芯ずれを良好に吸収することができる。
【0011】
請求項4に係るプーリユニットは、請求項1に記載のプーリユニットであって、
回転軸の連結軸部の外周面と、内輪体の内周面との間の環状空間には、弾性変形可能な筒状の弾性体が介在され、
前記弾性体を芯ずれ吸収部としていることを特徴とする。
【0012】
前記構成によると、回転軸の連結軸部の外周面と、内輪体の内周面との間の環状空間に介在された筒状の弾性体を芯ずれ吸収部とすることによって、突出筒部と回転軸との間の芯ずれを良好に吸収することができる。さらに、内・外歯のスプラインの噛み合いの隙間部分を芯ずれ吸収部とする場合と比べ、芯ずれの吸収性に優れる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
次に、この発明を実施するための最良の形態を実施例にしたがって説明する。
【実施例】
【0014】
(実施例1)
この発明の実施例1を図1〜図5にしたがって説明する。
図1はこの発明の実施例1に係るプーリユニットを備えた圧縮機を示す側断面図である。図2はプーリユニットの一方向クラッチを示す横断面図である。図3は一方向クラッチの保持器のポケットにローラ及びコイルばねが収納された状態を拡大して示す平面図である。図4は一方向クラッチの保持器のポケットにローラ及びコイルばねが収納された状態を拡大して示す横断面図である。図5は一方向クラッチのローラがトルクリミット用凹部内に受け入れられた状態を示す説明図である。
【0015】
図1に示すように、この実施例1に係るプーリユニット10は、車載エンジンのエンジン補機の一つである圧縮機1に使用される場合を例示するものであり、圧縮機1のケーシング2の一側から一体に突出された突出筒部3と、この突出筒部3の中心部に回転可能に組み付けられた圧縮機1の回転軸4との間に跨って組み付けられると共に、プーリ11と、複列の転がり軸受20と、一方向クラッチ40と、環状部材30とを備える。
【0016】
プーリ11は、突出筒部3の外周に同心上に配設される円筒状に形成され、プーリ11の外周面には伝動ベルト18が掛け渡される断面波形状のベルト溝12が形成されている。なお、伝動ベルト18は、車載エンジンのクランクシャフトのプーリに掛け渡され、クランクシャフトのトルクをプーリ11に伝達するようになっている。
【0017】
複列の転がり軸受20は、外輪21と、内輪22と、これら外輪21と内輪22の間にそれぞれ保持器25、26によって保持された状態で複列をなして転動可能に配設された各複数個の玉23、24とを備えている。
そして、複列の転がり軸受20は、その内輪22が圧縮機1側の突出筒部3に圧入固定され止め輪8によって抜け止めされている。また、外輪21は、プーリ11の内周側に形成された筒状体13の内周面に圧入固定されている。
【0018】
図1と図2に示すように、一方向クラッチ40は、外輪体41、内輪体42、複数のローラ61、コイルばね60及び保持器50を備えている。そして、一方向クラッチ40は、その内輪体42が圧縮機1の回転軸4の先端部の連結軸部5にトルク伝達可能に嵌合され、外輪21が環状部材30を介してプーリ11に連結されている。
図2と図4に示すように、一方向クラッチ40の外輪体41と、内輪体42との対向周面の間に複数(図2では6個)のくさび状空間を周方向に所定間隔を隔てて形成するためのカム面(平坦面又は曲面)45が内輪体42の外周面の周方向に所定間隔を隔てて形成される一方、外輪体41の内周面は円形をなしている。複数のくさび空間には、これと同数のローラ61と、これら各ローラ61をロック方向(くさび空間の狭い側)に個別に付勢するコイルばね60とが保持器50の各ポケット51に収納された状態でそれぞれ配設されている。
【0019】
図4に示すように、内輪体42の各カム面45の周方向一側には、凹円弧形状、凹湾曲形状等のトルクリミット用凹部46が所要の深さをもって形成されている。
そして、圧縮機1の回転軸4が焼き付きなどによってロックされ、プーリ11側の外輪体41から回転軸4側の内輪体42へ所定値以上のトルク(負荷トルク)が作用したときに、図5に示すように、ローラ61がカム面45を乗り越えて転動しトルクリミット用凹部46内に受け入れられることで、外輪体41と、内輪体42との間に対するローラ61の噛み込みが不能となり、プーリ11側の外輪体41と回転軸4側の内輪体42とのトルク伝達を遮断するようになっている。
【0020】
また、一方向クラッチ40の保持器50は合成樹脂材の射出成形によって一体に円筒状に形成され、その周方向には複数のポケット51と、これらポケット51を区画する柱部52とが交互に形成されている。そして、保持器50は内輪体42の外周面に嵌合されている。
保持器50の各柱部52の両側壁面のうち、一側面(くさび空間の狭い側に対向する面)には、コイルばね45の基端巻回部が嵌挿される突起53が突設されている。また、保持器50の柱部52のローラ61に対向する他側面には、トルクリミット用凹部46内にローラ61が受け入れられたときに、トルクリミット用凹部46と協働してローラ61を挟持状に保持するローラ保持部55が形成されることが望ましい。さらに、ローラ保持部55は、ローラ61の外周面に沿う円弧状に形成されることがより望ましい。
なお、この実施例1において、内輪体42の外周面と保持器50の内周面との間には、保持器50のフリー方向への回動を阻止してコイルばね60の反力を受け、カム面45上からトルクリミット用凹部46内に配置されたときのローラ61の変位角度に対応して保持器50のロック方向への回動は許容する係合部(図示しない)が設けられている。
【0021】
コイルばね60は、ばね線材が楕円形状、矩形形状等に巻回されて形成され、柱部52の突起53の根元部をばね座としてコイルばね60の基端巻回部が突起53に嵌挿されて支持された状態で先端巻回部がローラ61の外周面に当接している。そして、コイルばね60はローラ61をくさび状空間の狭い側(ロック状態となる側)に弾発付勢している。
なお、保持器50の内周面と内輪体42の外周面には、相互に係合してコイルばね60の反力を受ける係合部(図示しない)がそれぞれ形成されている。
【0022】
また、この実施例1において、図1に示すように、一方向クラッチ40の外輪体41と内輪体42との間の環状空間内には、保持器50の片側に位置して転がり軸受70を構成する複数の玉71が保持器72によって保持された状態で転動可能に配設されている。
そして、ローラ61がトルクリミット用凹部46内に配置されたときに、転がり軸受70によって、外輪体41と内輪体42とを同心上に保持するようになっている。
【0023】
図1に示すように、環状部材30は、一方向クラッチ40の外輪体41とプーリユニット10とを連結するものであり、一方向クラッチ40の外輪体41が圧入固定される筒状のボス部31と、このボス部31の一端部外周面から一体に延出されたフランジ部32とを備えている。そして、ボス部31に外輪体41が圧入固定された状態で、止めねじ33がフランジ部32の外周部を貫通してプーリ11の一端面にねじ込まれることによって、一方向クラッチ40の外輪体41とプーリユニット10とを連結するようになっている。
【0024】
前記したように、突出筒部3の外周面に転がり軸受20を介してプーリ11が組み付けられ、回転軸4の連結軸部5に組み付けられる一方向クラッチ40の外輪体41が環状部材30によってプーリ11に連結される構造上、突出筒部3と回転軸4との間の芯ずれ(中心のずれ)が生じると、この芯ずれに伴って、一方向クラッチ40の内輪体42と外輪体41とが芯ずれする恐れがある。
前記芯ずれを吸収するために、回転軸4の連結軸部5と一方向クラッチ40の内輪体42との嵌合部、又は環状部材30の一部に芯ずれ吸収部80が設けられている。
この実施例1において、回転軸4の連結軸部5の外周面に外歯スプライン6が形成される一方、一方向クラッチ40の内輪体42の内周面に外歯スプライン6にトルク伝達可能に嵌合される内歯スプライン43が形成されている。外歯スプライン6と内歯スプライン43との噛み合いの隙間部分を芯ずれ吸収部80としている。
【0025】
この実施例1に係るエンジン補機としての圧縮機1に用いられるプーリユニット10は上述したように構成される。
したがって、車載エンジンの作動時において、クランクシャフトのトルクが伝動ベルト18によってプーリ11に伝達されると、プーリ11と共に、一方向クラッチ40の外輪体41が回転される。この外輪体41のトルクは、ローラ61によって内輪体42及び圧縮機1の回転軸4にトルク伝達されて回転軸4が回転される。
すなわち、車載エンジンの作動時において、プーリ11の回転速度が回転軸4の回転速度よりも速いときには、一方向クラッチ40がロック状態となるので、回転軸4はプーリ11と一体回転する。
また、プーリ11の回転速度が回転軸4の回転速度よりも遅くなると、一方向クラッチ40のローラ61がロック位置から外れてくさび状空間の広い側へ移動してフリー状態に切替わる。これにより、プーリ11の回転変動が吸収される。
【0026】
圧縮機1の回転軸4に焼き付き等が生じて回転軸4がロック状態となった場合、外輪体41と内輪体42との間には所定値以上のトルク(負荷トルク)が作用する。
この場合、図5に示すように、ローラ61がカム面45の一側を乗り越えて転動し、トルクリミット用凹部46内に受け入れられる。そして、ローラ61がトルクリミット用凹部46内に受け入れられることによって、外輪体41と共にプーリ11が空転状態となり、プーリ11側から回転軸4へのトルク伝達が遮断される。
この際、ロック状態にある回転軸4と共に内輪体42が静止状態にある。このため、内輪体42のトルクリミット用凹部46内に受け入れられたローラ61が遠心力の作用を受けることがない。
この結果、内輪体42外周面のトルクリミット用凹部46からローラ61が浮き上がることを防止することができ、ローラ61が内輪体42と外輪体41との間に不測に噛み込む不具合を抑制することができる。
【0027】
また、この実施例1において、図5に示すように、ローラ61がトルクリミット用凹部46内に受け入れられて外輪体41と共にプーリ11が空転状態となる際に、トルクリミット用凹部46と、保持器50の柱部52のローラ保持部55との協働によってローラ61を挟持状に保持することができる。
このため、車両走行時の振動等によってローラ61がトルクリミット用凹部46から浮き上がったり、あるいはガタツクことを抑制することができる。ひいては、ローラ61が内輪体42と外輪体41との間に不測に噛み込む不具合を防止することができ、外輪体41と共にプーリ11を空転状態に保つことができる。
【0028】
また、圧縮機1の突出筒部3と回転軸4との間に芯ずれ(中心ずれ)がある場合、この芯ずれが芯ずれ吸収部80、すなわち、回転軸4の連結軸部5の外歯スプライン6と、一方向クラッチ40の内輪体42の内歯スプライン43との噛み合いの隙間部分において吸収される。
このため、一方向クラッチ40の外輪体41と内輪体42との間の複数のくさび空間と各ローラ61との噛み合い状態を設定された状態に保つことができ、一方向クラッチとしての機能を十分果たすことができる。
【0029】
なお、前記実施例1においては、圧縮機1の突出筒部3と回転軸4との間に芯ずれを吸収する芯ずれ吸収部80が、回転軸4の連結軸部5の外歯スプライン6と、一方向クラッチ40の内輪体42の内歯スプライン43との噛み合いの隙間部分によって構成される場合を例示したが、図6に示すように、環状部材130を、内外方向に分割された内径体130aと外径体130bと、これら内径体130aの外周部分と外径体130bの内周部分との重ね合わせ部を一体状に連結するゴム等の弾性体よりなる環状弾性体130cによって構成し、環状弾性体130cの弾性変形部を芯ずれ吸収部180としてもこの発明を実施することができる。
また、図7に示すように、環状部材230を、内外方向に分割された内径体230aと、外径体230bと、これら内径体230aの外周面と外径体230bの内周面との間の環状の隙間に介在されて両者を連結するゴム等の弾性体よりなる環状弾性体230cによって構成し、環状弾性体230cの弾性変形部を芯ずれ吸収部280としてもこの発明を実施することができる。
図6及び図7に示すように、環状部材130(又は230)の内径端と外径端との間の一部に環状弾性体130c(又は230c)が介在された場合には、回転軸4の連結軸部5に、一方向クラッチ40の内輪体42をねじによる締め付けによって固定するように構成してもよい。
この場合、例えば、圧縮機1の回転軸4の連結軸部5の外周面に雄ねじ5aを形成する一方、一方向クラッチ40の内輪体42の内周面に雄ねじに対応する雌ねじと、締め付け工具に対応する凹部とを形成する。
【0030】
また、前記実施例1においては、保持器50の柱部52の他側面に、ローラ61の外周面に沿う円弧状のローラ保持部55が形成される場合を例示したが、円弧状のローラ保持部55は必ずしも設けなくてもこの発明を実施することができる。
【0031】
(実施例2)
次に、この発明の実施例2を図8にしたがって説明する。
図8はこの発明の実施例2に係るプーリユニットを備えた圧縮機を示す側断面図である。
図8に示すように、この実施例2においても、前記実施例1とほぼ同様にしてプーリユニット510は、圧縮機501のケーシング502の一側から一体に突出された突出筒部503と、この突出筒部503の中心部に回転可能に組み付けられた圧縮機501の回転軸504との間に跨って組み付けられると共に、プーリ511と、複列の転がり軸受520と、一方向クラッチ540と、環状部材530とを備える。
特に、この実施例2においては、回転軸504先端の連結軸部505の外周面と、内輪体542の内周面との間に環状空間が形成され、この環状空間に、合成樹脂、ゴム等の弾性変形可能な筒状の弾性体580aが適切に弾性圧縮された状態で介在されている。そして、この弾性体580aを芯ずれ吸収部580としている。
さらに、連結軸部505の外周面及び内輪体542の内周面と弾性体580との接触部の摩擦力によって連結軸部505と内輪体542とがトルク伝達されるようになっている。
この実施例2のその他の構成は、実施例1と同様に構成されるため、その説明は省略する。
【0032】
したがって、この実施例2においても、実施例1で述べたように、圧縮機501の回転軸504に焼き付き等が生じて回転軸504がロック状態となった場合、外輪体541と内輪体542との間には所定値以上のトルク(負荷トルク)が作用する。
この場合、一方向クラッチ540のローラ561がカム面の一側を乗り越えて転動し、トルクリミット用凹部(図示しない)内に受け入れられることによって、外輪体541と共にプーリ511が空転状態となり、プーリ511側から回転軸504へのトルク伝達が遮断される。
この際、ロック状態にある回転軸504と共に内輪体542が静止状態にあるため、内輪体542のトルクリミット用凹部内に受け入れられたローラ561が遠心力の作用を受けることがない。
この結果、内輪体542外周面のトルクリミット用凹部からローラ561が浮き上がることを防止することができ、ローラ561が内輪体542と外輪体541との間に不測に噛み込む不具合を抑制することができる。
【0033】
圧縮機501の突出筒部503と回転軸504との間に芯ずれ(中心ずれ)がある場合、この芯ずれが、筒状の弾性体580aによる弾性的な拡径(膨張)変形及び縮径(圧縮)変形によって良好に吸収することができる。
このため、一方向クラッチ540の外輪体541と内輪体542との間の複数のくさび空間と各ローラとの噛み合い状態を設定された状態に保つことができ、一方向クラッチとしての機能を十分果たすことができる。
さらに、実施例1で述べた内・外歯のスプライン6、43の噛み合いの隙間部分を芯ずれ吸収部とする場合と比べ、筒状の弾性体580aの弾性的な拡径変形及び縮径変形によって吸収することができるため、芯ずれの吸収性に優れる。
【0034】
なお、この発明は前記実施例1及び2に限定するものではない。
例えば、前記実施例1及び2においては、エンジン補機としての圧縮機に採用されるプーリユニットである場合を例示したが、オルタネータ、ウオーターポンプ、冷却ファン等のエンジンの補機に対応するプーリユニットとして使用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】この発明の実施例1に係るプーリユニットを備えた圧縮機を示す側断面図である。
【図2】同じくプーリユニットの一方向クラッチを示す横断面図である。
【図3】同じく一方向クラッチの保持器のポケットにローラ及びコイルばねが収納された状態を拡大して示す平面図である。
【図4】同じく一方向クラッチの保持器のポケットにローラ及びコイルばねが収納された状態を拡大して示す横断面図である。
【図5】同じく一方向クラッチのローラがトルクリミット用凹部内に受け入れられた状態を示す説明図である。
【図6】環状部材を構成する内径体と外径体との重ね合わせ部に環状弾性体を介在させて芯ずれ吸収部を構成した実施態様を示す断面図である。
【図7】環状部材を構成する内径体と外径体の間の環状の隙間に環状弾性体を介在させて芯ずれ吸収部を構成した実施態様を示す断面図である。
【図8】この発明の実施例2に係るプーリユニットを備えた圧縮機を示す側断面図である。
【図9】従来のプーリユニットを備えた圧縮機を示す側断面図である。
【図10】同じくプーリユニットの一方向クラッチを示す横断面図である。
【符号の説明】
【0036】
1、501 圧縮機(エンジン補機)
2、502 ケーシング
3、503 突出筒部
4、504 回転軸
5、505 連結軸部
6 外歯スプライン(芯ずれ吸収部)
10、510 プーリユニット
11、511 プーリ
20、520 転がり軸受
30、130、230、530 環状部材
40、540 一方向クラッチ
41、541 外輪体
42、542 内輪体
43 内歯スプライン(芯ずれ吸収部)
45 カム面
46 トルクリミット用凹部
61 ローラ
80、180、280、580 芯ずれ吸収部
580a 筒状の弾性体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジン補機のケーシングの一側に突出された突出筒部と、この突出筒部の中心部に配置された回転軸との間に組み付けられ、プーリと、転がり軸受と、一方向クラッチとを備えたプーリユニットであって、
前記転がり軸受は、前記突出筒部の外周面と前記プーリの内周側との間に配置され、
前記一方向クラッチは、前記回転軸の先端部に形成された連結軸部にトルク伝達可能に嵌合される内輪体と、
前記内輪体の外周に同心状をなして設けられた外輪体と、
前記内輪体と前記外輪体とを同期回転させるロック状態と相対回転させるフリー状態とに切り換えるために、前記内輪体の外周面に形成され、かつ前記外輪体の内周面と協働して複数のくさび状空間を周方向に所定間隔を隔てて形成するカム面と、
前記複数のくさび空間にそれぞれ配設されたローラと、
前記内輪体の前記カム面の周方向一側に設けられ、所定値以上のトルクが作用したときに、前記カム面を乗り越えて転動する前記ローラを受け入れることで、前記外輪体と前記内輪体とのトルク伝達を遮断するトルクリミット用凹部と、を備え、
前記一方向クラッチの外輪体と前記プーリとの間にはこれら両者を連結する環状部材が設けられ、
前記回転軸の連結軸部と内輪体との嵌合部、又は前記環状部材の一部には、前記突出筒部と前記回転軸との間の芯ずれを吸収する芯ずれ吸収部が設けられていることを特徴とするプーリユニット。
【請求項2】
請求項1に記載のプーリユニットであって、
回転軸の連結軸部の外周面には外歯スプラインが形成される一方、内輪体の内周面には前記外歯スプラインにトルク伝達可能に嵌合される内歯スプラインが形成され、
前記内・外歯のスプラインの噛み合いの隙間部分を芯ずれ吸収部としていることを特徴とするプーリユニット。
【請求項3】
請求項1に記載のプーリユニットであって、
環状部材の内径端と外径端との間の一部には、前記環状部材の周方向に沿って環状をなす環状弾性体が介在され、
前記環状弾性体の弾性変形部を芯ずれ吸収部としていることを特徴とするプーリユニット。
【請求項4】
請求項1に記載のプーリユニットであって、
回転軸の連結軸部の外周面と、内輪体の内周面との間の環状空間には、弾性変形可能な筒状の弾性体が介在され、
前記弾性体を芯ずれ吸収部としていることを特徴とするプーリユニット。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2009−97712(P2009−97712A)
【公開日】平成21年5月7日(2009.5.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−188467(P2008−188467)
【出願日】平成20年7月22日(2008.7.22)
【出願人】(000001247)株式会社ジェイテクト (7,053)
【Fターム(参考)】