説明

プーリ装置

【課題】プーリ1bと外輪15bとの間でクリープが発生する事を確実に防止できる構造を実現する。
【解決手段】前記外輪15bのローレット目25aの各凹部23a、23aの数を50〜330個とし、これら各凹部23a、23aの段差面28、28の交差角度θを、60≦θ≦140度とする。この凹部23aの径方向深さhと、凸部24aの先端面27の外接円の直径Dとが、h≦0.055Dの関係を満たす。前記凹部23aの底面29の周方向長さL29を、前記凸部24aの先端面27の周方向長さL27以上とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば自動車用エンジンの補機或いはカムシャフトを駆動する為の無端ベルトやタイミングベルト(以下、単に「ベルト」とする。)に所望の張力を付与する為に、或いはベルトの巻き掛け角を確保すべくこのベルトを案内する為に使用するアイドラプーリとして利用するプーリ装置の改良に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、自動車用エンジンの補機或いはカムシャフトを駆動する為のベルトに所望の張力を付与する等の為のアイドラプーリとして、転がり軸受の外周側に、鋼板等の金属板にプレス加工を施して造ったものを、この転がり軸受を構成する外輪に外嵌固定する状態で設けた所謂プレスプーリが広く使用されている。又、転がり軸受を構成する外輪の周囲に、この外輪の外周寄り部分をその内周側にモールドした状態で一体的に固設した合成樹脂製プーリも使用されている。特に、近年は、この合成樹脂製プーリが、アイドラプーリの軽量化及び低コスト化を図れると言った理由により、その採用が増加しつつある。
【0003】
例えば、特許文献1には、図3〜6に示す様に、合成樹脂製のプーリ1を使用した張力付与装置2が記載されている。先ず、この張力付与装置2の構造に就いて、簡単に説明する。シリンダブロック等の固定の部分に結合固定するベースプレート3に形成した長孔4に沿う変位を自在とした支持軸5の基端部(図5の右端部)の頭部6に形成したねじ孔に、調整ボルト7の先端部を螺合させている。この調整ボルト7の基端部は、前記ベースプレート3の一端部(図5の上端部)に設けた折り曲げ板部8に形成した通孔9に挿通している。又、前記調整ボルト7の中間部でこの折り曲げ板部8よりも前記頭部6寄り部分には、調整ナット10とロックナット11とを螺合させている。
【0004】
又、前記支持軸5には、支持スリーブ12を介して、転がり軸受13の内輪14を支持している。単列深溝型のラジアル玉軸受であるこの転がり軸受13の外輪15の周囲には、合成樹脂製のプーリ1を固定している。このプーリ1は、互いに同心に設けられた内径側円筒部16及び外径側円筒部17を有する。この内径側円筒部16の中間部外周面と外径側円筒部17の中間部内周面とは、円輪状の連結部18により連結しており、この連結部18の両側面にそれぞれ複数本ずつの補強リブ19、19を、それぞれ放射状に設けている。
【0005】
この様なプーリ1は、前記内径側円筒部16を深溝型の転がり軸受13を構成する外輪15の周囲に、図6に示す様な射出成形用の金型20により、この外輪15の外周寄り部分をその内周側にモールドした状態で固設している。即ち、前記金型20内に設けた、前記プーリ1の外形に対応した内形を有するキャビティ21内に、図示しないゲートから溶融した熱可塑性樹脂を注入する。そして、この熱可塑性樹脂が冷却・固化した後に前記金型20を開いて、前記プーリ1を前記転がり軸受13と共に、前記キャビティ21内から取り出す。
【0006】
上述の様なプーリ1を含んで構成する、前記張力付与装置2により、ベルトに所望の張力を付与するには、このベルトを、前記プーリ1の一部で、前記調整ナット10と反対側周面(図3の下面)に掛け渡す。そして、前記調整ナット10を回転させる事により前記プーリ1の位置を変えて、このプーリ1により前記ベルトに付与する張力を調節する。そして、この張力が所望値になった状態で、前記ロックナット11を締め付け、前記プーリ1の位置を固定する。
【0007】
上述の様なプーリ1を構成する合成樹脂は、前記転がり軸受13の外輪15を構成する金属材料よりも線膨張係数が大きい。この為、プーリ装置の使用時の温度上昇により、前記プーリ1と前記外輪15との密着性が低下し、これらプーリ1と外輪15との間で相対的な滑り(クリープ)が発生する可能性がある。クリープが発生すると、前記プーリ1の内周面が摩耗し、このプーリ1が前記外輪15に対しがたついてしまう。この様な不都合の原因となるクリープを防止する為の技術として、例えば特許文献2に記載された技術がある。
【0008】
図7〜8は、この特許文献2に記載されている、クリープを防止する為の従来構造の1例を示している。転がり軸受13(図3〜6参照)を構成する外輪15aの外周面に係止溝22を設けており、この係止溝22の底面に、ローレット加工による凹部23、23と凸部24、24とを全周に亙って交互に配置して成る、平目のローレット目25を形成している。そして、前記外輪15aの係止溝22の底面に形成した凹部23、23に、プーリ1aを構成する合成樹脂の一部を進入・固化させる事で、このプーリ1aの内周面に、それぞれが軸方向に長い突条26、26を形成している。これら各突条26、26と前記外輪15aのローレット目25との係合により、前記プーリ1aとこの外輪15aとの間でクリープが発生する事を防止している。
【0009】
但し、上述の様な特許文献2に記載されている従来構造では、前記ローレット目25の各凹部23、23及び凸部24、24の数、形状及び寸法を特に規制していなかった。この為、これら各凹部23、23の数が少なかったり、これら各凹部23、23の周方向長さが十分でないと、前記プーリ1aと前記外輪15aとの間に加わるトルク(クリープ荷重)を支承できなくなる可能性がある。又、前記各凹部23、23の数が多過ぎたり、これら各凹部23、23の径方向深さが大き過ぎると、前記プーリ1aを構成する合成樹脂の一部が、これら各凹部23、23内全体に行き渡らず、このプーリ1aの内周面と前記外輪15aの外周面との間に隙間が生じ、これらプーリ1aと外輪15aとががたついたり、これら両部材1a、15aの結合強度を十分に確保できなくなる可能性がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開平10−122339号公報
【特許文献2】特開平11−148550号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、上述の様な事情に鑑みて、ローレット目の数、形状及び寸法を適切に規制する事で、プーリと外輪との間でクリープが発生する事を確実に防止できるプーリ装置を実現すべく発明したものである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明のプーリ装置は、プーリと転がり軸受とを備える。
このうちのプーリは、合成樹脂製で外周面にベルトを掛け渡す。
又、前記転がり軸受は、前記プーリの内径側に保持されており、外周面に単列深溝型の内輪軌道を有する内輪と、内周面に単列深溝型の外輪軌道を有する外輪と、これら内輪軌道と外輪軌道との間に転動自在に設けられた複数個の玉とを備える。そして、前記外輪を前記プーリの内径側に、このプーリの射出成型時にモールドする事により、保持固定している。
【0013】
特に、本発明のプーリ装置に於いては、前記転がり軸受の外輪の外周面の軸方向の一部に、ローレット加工による凹部と凸部とを全周に亙って交互に配置して成るローレット目を形成している。そして、これら各凹部及び凸部の数、形状及び寸法が、次の(1)〜(4)の総ての条件を満たす様に規制している。
(1)前記各凹部の数は50〜330個とする。
(2)これら各凹部の内側面のうち、前記各凸部の先端面との連続部に、周方向に関して互いに対向する段差面を設けており、これら両段差面の交差角度をθとした場合に、この交差角度θを60度≦θ≦140度とする。
(3)前記凹部の径方向深さhと、前記凸部の先端面の外接円の直径(これら各凸部の山径)Dとが、h≦0.055Dの関係を満たす。尚、好ましくはh≧0.002Dとする。
(4)前記凹部の底面の周方向長さを、前記凸部の先端面の周方向長さ以上とする。
【発明の効果】
【0014】
上述の様に構成する本発明のプーリ装置の場合には、外輪の外周面に形成されたローレット目の各凹部及び凸部の数、形状及び寸法を適正に規制する事で、プーリとこの外輪との間でクリープが発生する事を確実に防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の実施の形態の1例を示す、転がり軸受の斜視図。
【図2】図1の部分拡大a−a断面図。
【図3】プーリ装置を組み込んだ張力付与装置を示す断面図。
【図4】プーリ装置を取り出して図3の側方から見た状態で示す正面図。
【図5】同じく部分切断斜視図。
【図6】プーリを射出成形する金型を、補強リブから外れた部分で切断した状態で示す部分断面図(A)と、補強リブ部分で切断した状態で示す部分断面図(B)。
【図7】従来構造に係るプーリ装置の要部断面図。
【図8】図7のb−b断面図。
【発明を実施するための形態】
【0016】
図1〜2は、本発明の実施の形態の1例を示している。尚、本例の特徴は、プーリと外輪との間でクリープが発生する事を確実に防止するプーリ装置を実現すべく、このプーリ装置の外輪15bの外周面の一部に設けたローレット目25aの凹部23a、23a及び凸部24a、24aの数、形状及び寸法を工夫した点にある。その他の部分の構造及び作用は、前述の図3〜6に示した構造を含め、従来から知られているプーリ装置と同様であるから、同等部分に関する図示並びに説明は、省略又は簡略にし、以下、本例の特徴部分を中心に説明する。
【0017】
本例のプーリ装置の転がり軸受13aを構成する外輪15bは、外径が35〜65mmで、外周面の一部に係止溝22aを設けている。そして、この係止溝22aの底面に、ローレット加工による凹部23a、23aと凸部24a、24aとを全周に亙って交互に配置して成る、ローレット目25aを形成している。そして、前記各凹部23a、23aに、プーリ1bを構成する合成樹脂の一部を進入・固化させる事で、このプーリ1bの内周面に、それぞれが軸方向に長い突条26a、26aを形成している。これら各突条26a、26aと前記外輪15bのローレット目25aとの係合により、前記プーリ1bとこの外輪15bとの間のクリープの発生を防止している。尚、前記ローレット目25aの幅W25は、外輪15bの幅をW15とした場合、0.10W15≦W25≦0.25W15とする。W25<0.10W15とした場合、前記プーリ1bとこの外輪15bとの間に加わるトルク(クリープ荷重)を支承できなくなる可能性があり、好ましくない。一方、W25>0.25W15とした場合、ローレット加工により前記ローレット目25aを形成する事が難しくなる。
【0018】
このうち、前記各凹部23a、23aの数は、合計で50〜330個としている。この各凹部23a、23aの数、即ち、前記各突条26a、26aの数が50個未満の場合、これら各突条26a、26aの数が十分ではなくなり、前記プーリ1bと前記外輪15bとの間に加わるトルク(クリープ荷重)を支承できなくなる可能性がある。これに対して、前記各凹部23a、23aの数が330個を超えると、前記プーリ1bを構成する合成樹脂の一部を進入させようとしても、これら各凹部23a、23a全体にこの合成樹脂が行き渡らず、これら各凹部23a、23aの底面29、29と、前記各突条26a、26aの先端面との間に隙間が生じる可能性がある。又、これら各突条26a、26aの周方向長さが小さくなり、これら各突条26a、26aの強度が低くなる為、前記プーリ1bと前記外輪15bとの間に加わるトルク(クリープ荷重)を支承できなくなったり、このプーリ1bの耐久性を確保できない可能性がある。
【0019】
又、前記各凹部23a、23aの内側面のうち、前記各凸部24a、24aの先端面27、27との連続部に、周方向に関して互いに対向する段差面28、28を設けており、これら両段差面28、28の交差角度θを、60〜140度の範囲に規制している。この交差角度θが60度未満の場合には、前記各凹部23a、23aに、前記プーリ1bを構成する合成樹脂の一部を進入させようとしても、これら各凹部23a、23a全体にこの合成樹脂が行き渡らず、これら各凹部23a、23aの底面29、29と、前記各突条26a、26aの先端面との間に隙間が生じる可能性がある。一方、前記交差角度θが140度を超えた場合、前記各凹部23a、23aの数を十分に(50個以上)確保する事が難しくなるだけでなく、前記各段差面28、28と前記各突条26a、26aとの当接面の圧力角が小さくなる。これらにより、前記外輪15bの外周面に対して前記プーリ1bの内周面が滑り易くなり、クリープ防止効果を十分に得る事ができない。
【0020】
又、前記各凹部23a、23aの径方向深さhと、前記各凸部24a、24aの先端面の外接円の直径(これら各凸部24a、24aの山径)Dとは、h≦0.055Dの関係を満たしている。h>0.055Dの場合には、前記プーリ1bを構成する合成樹脂の一部を進入させようとしても、これら各凹部23a、23a全体にこの合成樹脂が行き渡りにくくなり、これら各凹部23a、23aの底面29、29と、前記各突条26a、26aの先端面との間に隙間が生じる可能性がある。尚、h<0.002Dとした場合、前記各凹部23a、23aと前記各突条26a、26aとの結合強度を十分に確保できず、前記プーリ1bと前記外輪15bとの間に加わるトルク(クリープ荷重)を支承できなくなる可能性があり、好ましくない。
【0021】
更に、前記各凹部23a、23aの底面29の周方向長さL29を、前記各凸部24a、24aの先端面27の周方向長さL27以上(L29≧L27)としている。前記底面29の長さ寸法L29がこの先端面27の長さ寸法L27よりも小さい(L29<L27)場合、前記各突条26a、26aの強度を十分に確保する事が難しく、前記プーリ1bと前記外輪15bとの間に加わるトルク(クリープ荷重)を支承できなくなる可能性がある。
【実施例】
【0022】
本発明の効果を確認する為に行った実験に就いて、以下に説明する。この実験では、外周面の一部に、下記の表1に示した、本発明の技術的範囲に属する2種類(実施例1〜2)と、この発明の技術的範囲から外れる1種類(比較例)との合計3種類の、互いに異なる凹部及び凸部の数、形状及び寸法を有するローレット目を形成した、JIS呼び番号が6203の単列深溝型玉軸受(内径17mm、外径40mm、幅12mm)を用意した。尚、係止溝の幅寸法は何れも2.36mmとし、ローレット目の幅寸法は実施例1〜2の場合には1.48mm、比較例の場合には1.57mmとした。
【0023】
【表1】

【0024】
上述の表1に示した各例の外輪に、前記図6に示した様な金型20を用いて、合成樹脂を射出し、これら各外輪の外周面にプーリを形成し、プーリ装置とした。この合成樹脂材料として、ガラス繊維を35%含有したポリアミド66樹脂(PA66GF35)を使用し、前記プーリの外径寸法は70mm、幅寸法は24mmとした。
この様にして得られた各プーリ装置を、120度の高温下で1時間放置した後に、前記プーリを回転不能に固定し、前記外輪に回転方向の力を加えた。この状態で、これらプーリと外輪との間でクリープが発生(この外輪が、このプーリに対して相対回転)した時のトルクの大きさを測定した。
【0025】
【表2】

上述の様な実験の結果を表した表2の記載から、前記トルクの大きさが、比較例に対して、実施例1の場合には25%、実施例2の場合には50%向上している事が分かる。以上の実験により、本発明によれば、前記特許文献2に記載された構造を有するプーリ装置に於いて、プーリと外輪との間で支承できるトルクの大きさを確実に向上させられる事を確認できた。
【符号の説明】
【0026】
1、1a、1b プーリ
2 張力付与装置
3 ベースプレート
4 長孔
5 支持軸
6 頭部
7 調整ボルト
8 折り曲げ板部
9 通孔
10 調整ナット
11 ロックナット
12 支持スリーブ
13 転がり軸受
14 内輪
15、15a、15b 外輪
16 内径側円筒部
17 外径側円筒部
18 連結部
19 補強リブ
20 金型
21 キャビティ
22、22a 係止溝
23、23a 凹部
24、24a 凸部
25、25a ローレット目
26、26a 突条
27 先端面
28 段差面
29 底面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
外周面にベルトを掛け渡すプーリと、このプーリの内径側に保持された転がり軸受とを備え、この転がり軸受は、外周面に単列深溝型の内輪軌道を有する内輪と、内周面に単列深溝型の外輪軌道を有する外輪と、これら内輪軌道と外輪軌道との間に転動自在に設けられた複数個の玉とを備えたものであり、前記外輪を前記プーリの内径側に、このプーリの射出成型時にモールドする事で保持固定しているプーリ装置に於いて、前記外輪の外周面の軸方向の一部にローレット加工による凹部と凸部とを全周に亙って交互に配置して成るローレット目を形成しており、これら各凹部の数を50〜330個とし、これら各凹部の内側面のうち、前記各凸部の先端面との連続部に、互いに対向する段差面を設けており、これら両段差面同士の交差角度をθとした場合に、この交差角度θを60度≦θ≦140度の範囲に規制しており、前記凹部の径方向深さhと、前記凸部の先端面の外接の直径Dとが、h≦0.055Dの関係を満たし、前記凹部の底面の周方向長さを、前記凸部の先端面の周方向長さ以上とした事を特徴とするプーリ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2013−7449(P2013−7449A)
【公開日】平成25年1月10日(2013.1.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−140761(P2011−140761)
【出願日】平成23年6月24日(2011.6.24)
【出願人】(000004204)日本精工株式会社 (8,378)
【Fターム(参考)】