説明

ヘッドアップディスプレイ装置

【課題】ステッピングモータの消費電力の浪費を抑えつつ、虚像の位置を変更する際の虚像の表示品質の低下を抑制することができるヘッドアップディスプレイ装置を提供する。
【解決手段】ヘッドアップディスプレイ装置10に設けられている画像を反射してウインドシールド90に投影する凹面鏡32は、ステッピングモータ50によって回転駆動される。ステッピングモータ50を駆動制御する制御回路82は、駆動信号の振幅を制御する通常回転制御を実行することにより、マグネットロータ60を目標回転角まで回転駆動させる。また、制御回路82は、通常回転制御を実行し、マグネットロータ60を目標回転角まで回転駆動させたら、目標回転角での駆動信号の振幅を維持したまま、駆動信号の印加を所定時間継続する印加継続制御を実行する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヘッドアップディスプレイ装置(以下、HUD装置と記す)に関し、特に車両に搭載するのに適したHUD装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、HUD装置の一例として、特許文献1に示す車両用HUD装置があった。この車両用HUD装置は、使用者(運転者)の好みの位置に虚像を表示させることができるものである。この車両用HUD装置は、画像を表示する表示器と、表示器にて表示された画像を反射して、例えばウインドシールドなどの車両に設けられた投影部材へ投影する反射部材とを備える表示ユニットを備える。表示ユニットからウインドシールドに投影された画像は虚像として表示される。
【0003】
また、このHUD装置は、反射部材を回転駆動させることにより、画像のウインドシールドでの投影位置を変更し、虚像の表示位置を変更するステッピングモータを備えている。このステッピングモータは、運転者の操作スイッチの操作により回転駆動される。これにより、運転者の好みの位置に虚像を表示することができる。
【0004】
ここで、このHUD装置に使用されるステッピングモータは、コイルに周期的に振幅が変化する駆動信号を印加することによりマグネットロータを回転駆動させている。この駆動信号の印加は、発振器から出力されるステップ信号に応じて行われる。発振器は、操作スイッチからの正転信号または逆転信号が入力されるとステップ信号を出力する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平8−2287号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
一般的にロータにマグネットロータを採用するステッピングモータでは、ディテントトルクが最大となる安定点でマグネットロータが保持されることが知られている。このようにディテントトルクを利用してマグネットロータの回転角を保持することによれば、ステッピングモータの消費電力の浪費を極力抑えることができる。
【0007】
しかしながら、ステッピングモータのコイルを固定するステータの寸法や、マグネットロータの磁極の着磁位置がばらついていたりすると、実際のマグネットロータの安定点と、コイルへ駆動信号を印加しているときのマグネットロータの静止点とが異なってしまう。このため、モータの消費電力の浪費を抑えるべく、コイルへの駆動信号の印加を休止すると、マグネットロータが微小角度回転し、虚像が振動するという問題が発生してしまう。
【0008】
ここで、使用者(運転者)は虚像の表示位置を変更させているときは、虚像の表示状態に対する意識が高く、虚像のわずかな動きに対して敏感となっている。このため、反射部材の回転駆動終了直後、すなわち、使用者の虚像の表示状態に対する意識が高い間に、虚像が振動すると、使用者に違和感を与えてしまうこととなる。
【0009】
本発明は、上述の問題点に鑑みてなされたものであって、その目的は、ステッピングモータの消費電力の浪費を抑えつつ、虚像の位置を変更する際の虚像の表示品質の低下を抑制することができるヘッドアップディスプレイ装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の請求項1に記載の発明は、画像を表示する表示器と、
回転自在に設けられ、表示器に表示された画像を反射して投影部材に投影することにより、車両関係情報の虚像を表示させる反射部材と、
周期的に振幅が変化する駆動信号がコイルに印加されることにより、ステータ内に回転自在に収容されているマグネットロータが回転駆動され、回転駆動されたマグネットロータによって反射部材を回転駆動し、虚像の表示位置を調整するステッピングモータと、
ステッピングモータにおいて、ディテントトルクが最大となる安定点をマグネットロータの目標回転角とし、マグネットロータを目標回転角まで回転駆動させるように、駆動信号の振幅を制御する通常回転制御を実行する制御部と、を備えた車両用ヘッドアップディスプレイ装置において、
制御部は、通常回転制御を実行し、マグネットロータを目標回転角まで回転駆動させたら、目標回転角での駆動信号の振幅を維持したまま、駆動信号の印加を所定時間、継続する印加継続制御を実行することを特徴とする。
【0011】
本発明では、制御部が、ディテントトルクが最大となる安定点をマグネットロータの目標回転角とし、マグネットロータを目標回転角まで回転駆動させるように、駆動信号の振幅を制御する通常回転制御を実行しているため、マグネットロータを目標回転角まで回転駆動させた後、コイルへの駆動信号の印加を休止しても、ディテントトルクの作用によりマグネットロータを安定点に保持させておくことができる。このため、ヘッドアップディスプレイ装置が作動している間、常にコイルに駆動信号を印加しておく必要がなくなり、ステッピングモータの消費電力の浪費を抑制することができる。
【0012】
ところが、ステッピングモータのコイルを固定するステータの寸法や、マグネットロータの磁極の着磁位置がばらついていたりすると、実際のマグネットロータの安定点と、コイルへ駆動信号を印加しているときのマグネットロータの静止点とが異なってしまう。このため、モータの消費電力の浪費を抑えるべく、コイルへの駆動信号の印加を休止すると、マグネットロータが微小角度回転し、虚像が振動するという問題が発生してしまう。この虚像の振動は、マグネットロータの目標回転角到達直後に発生することとなる。
【0013】
ここで、使用者(運転者)は虚像の表示位置を変更させているときは、虚像の表示状態に対する意識が高く、虚像のわずかな動きに対して敏感となっている。このため、反射部材の回転駆動終了直後、すなわち、使用者(運転者)の虚像の表示状態に対する意識が高い間に、虚像が振動すると、使用者(運転者)に違和感を与えてしまうこととなる。
【0014】
これに対し、本発明では、制御部は、通常回転制御を実行し、マグネットロータが目標回転角まで回転したら、目標回転角での駆動信号の振幅を維持したまま、駆動信号の印加を所定時間、継続する印加継続制御を実行している。このような制御部の印加継続制御によれば、マグネットロータの目標回転角到達以後も所定時間は目標回転角にてマグネットロータを保持させておくことができる。このため、ステッピングモータ回転駆動停止後、所定時間は虚像の振動の発生を抑制することができる。したがって、本発明の印加継続制御によれば、使用者(運転者)の虚像の表示状態に対する意識が比較的高い間は、虚像の振動の発生を抑制することができ、使用者に違和感を極力与えることを抑制することができる。
【0015】
本発明の請求項2に記載の発明は、制御部は、印加継続制御を実行している最中に、マグネットロータを次の目標回転角まで回転駆動させる必要が生じた場合には、現在実行している印加継続制御を休止してから、マグネットロータを次の目標回転角まで回転駆動させるように、通常回転制御を実行することを特徴としている。
【0016】
本発明では、制御部は、印加継続制御を実行している最中に、マグネットロータを次の目標回転角まで回転駆動させる必要が生じた場合には、現在実行している印加継続制御を休止する。このため、次の目標回転角に向けて即座にマグネットロータを回転駆動させることが可能となる。そして、制御部は、印加継続制御を休止してから、マグネットロータを次の目標回転角まで回転駆動させるように、通常回転制御を実行している。このことによれば、現在実行している印加継続制御を休止してから、次の目標回転角に向けて、通常回転制御を実行しているので、印加継続制御と通常回転制御とが衝突することによる回転異常を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の第1実施形態におけるHUD装置の概略構成を示す構成図である。
【図2】本発明の第1実施形態におけるHUD装置のステッピングモータの概略構成および制御系の接続状態を示す図である。
【図3】HUD装置における表示例を示す模式図である。
【図4】ステッピングモータを駆動制御する制御フローを示すフローチャートである。
【図5】操作スイッチが短押し操作されたときのステッピングモータの駆動パターンを示すタイムチャートである。
【図6】操作スイッチが長押し操作されたときのステッピングモータの駆動パターンを示すタイムチャートである。
【図7】本発明の第2実施形態におけるHUD装置の操作スイッチが短押し操作されたときのステッピングモータの駆動パターンを示すタイムチャートである。
【図8】本発明の第2実施形態におけるHUD装置の操作スイッチが長押し操作されたときのステッピングモータの駆動パターンを示すタイムチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の複数の実施形態を図面に基づいて説明する。なお、各実施形態において対応する構成要素には、同一符号を付すことにより、重複する説明を省略する。
【0019】
(第1実施形態)
車両用HUD装置10の基本構成を説明する。車両に搭載されるHUD装置10は、表示器20、光学系30、ステッピングモータ50、操作スイッチ70および制御系80を備えている。
【0020】
HUD装置10の表示器20、光学系30、ステッピングモータ50は、ハウジング(図示しない)に収容、固定されており、車両のインストルメントパネルに設置されている。ハウジングは、車両の運転席前方に固定された投影部材としてのウインドシールド90と上下方向に対向する箇所に、透光性の出射窓を有する。
【0021】
表示器20は、本実施形態では、透過照明式の液晶パネルであり、画像を表示する画面を有している。表示器20は、内蔵のバックライト(図示しない)により画面22が透過照明されることで画像を表示する。本実施形態では、ナビゲーション装置にて演算された進行方向指示を示す画像を画面22に表示している(図3を参照)。画面22に表示する画像としては、その他の車両関連情報を表示することができる。例えば、車両の走行速度情報や燃料残量情報や車両の冷却水温度情報などの車両情報を示す画像を採用しても良い。
【0022】
光学系30は、反射部材としての凹面鏡32および反射鏡36からなっている。本実施形態では光学系30は二つの鏡からなっているが凹面鏡32だけでも良いし、反射鏡36が複数あっても良い。光学系30は、表示器20に表示された画像を車両のウインドシールド90の所定の場所に投影する。このような画像の投影により画像は、ウインドシールド90の前方にて結像され、虚像として車室内の運転席側へと表示される。これにより、運転席に着座する運転者は、前方の結像位置に表示された画像を虚像100として視認する。なお、本実施形態では、ウインドシールド90に画像を投影しているが、ウインドシールド90とは別のコンバイナに画像を投影するようにしても良い。
【0023】
凹面鏡32は、図1に示すように、保持部材38に回転可能に保持されている。凹面鏡32は、保持部材38に回転自在に支持された回転軸34を有している。凹面鏡32は、回転軸34が回転駆動されることにより、凹面鏡32の回転角に応じて図3に示すように虚像100の表示位置をウインドシールド90に対して上下方向に変化させる。本実施形態においては、虚像100の表示位置は、表示位置A1(移動可能範囲の下限位置)から表示位置A2(移動可能範囲の上限位置)の間で変更が可能である。
【0024】
回転軸34はステッピングモータ50の出力軸64と機械的に連結されており、出力軸64の回転(正転または逆転)に伴って回転する。出力軸64と回転軸34とは、ギヤ40を介して連結されている。また、凹面鏡32と保持部材38との間には、モータ側ギヤと凹面鏡側ギヤの間のバックラッシを吸収するためのバネ部材42が設けられている。ステッピングモータ50のマグネットロータ60には、上記ギヤ40を介してバネ部材42の付勢力による回転トルクが作用していることとなる。
【0025】
本実施形態で採用するステッピングモータ50は、図2に示すように、クローポール構造の永久磁石型であり、ステータ52に固定されている複数の励磁コイル54a、54bおよびマグネットロータ60を有する。ステータ52は、A相を形成するクローポールヨーク56aおよび一対の励磁コイル54aと、B相を形成するクローポールヨーク56bおよび一対の励磁コイル54bとを組み合わせてなる。励磁コイル54a、54bは、それぞれ、二本の電線が同時に各ボビン58a、58bに巻き込まれてなものであり、一般的にバイファイラ巻きコイルと称されるものである。
【0026】
ヨーク56aおよび56bのクローポールは、機械角で1/2ピッチずらして配置されている。マグネットロータ60は、出力軸64の径方向外方に、磁石62を組み付けてなる。マグネットロータ60は、ステータ52に対して回転自在にモータハウジング66に支持されている。
【0027】
こうした構成のステッピングモータ50は、A、B各相の励磁コイル54a、54bのうち駆動信号を受けるコイル54a、54bの励磁により、回転磁界を発生する。この回転磁界の発生により、マグネットロータ60に回転トルクが発生する。この回転トルクは、マグネットロータ60が有する出力軸64およびギヤ40を介して凹面鏡32の回転軸34に伝達される。本実施形態の励磁コイル54a、54bへ印加される駆動信号は、周期的に振幅が変化する信号であって、その信号は、矩形波となっている(図5、図6を参照)。
【0028】
本実施形態のステッピングモータ50は、全ての励磁コイル54a、54bへ駆動信号が印加されていない無励磁状態にあっても、それらヨーク56a、56bとマグネットロータ60の磁石62との相互作用により、ディテントトルクをマグネットロータ60の出力軸64に発生させる。無励磁状態にあるとき、マグネットロータ60は、ディテントトルクが最大となる安定点で静止する。
【0029】
図1および図2に示すように、操作スイッチ70は、車両内の運転席上の運転者により押し操作可能に設置されている。本実施形態の操作スイッチ70は、虚像100の表示位置を上方向に移動させるためのアップ指令信号を発生するアップスイッチと、虚像100の表示位置を下方向に移動させるためのダウン指令信号を発生するダウンスイッチとを有する。本実施形態では、運転者がアップスイッチを押下して、アップスイッチをONさせることにより、操作スイッチ70からアップ指令信号が出力され、ダウンスイッチを押下することにより、操作スイッチ70からダウン指令信号が出力される。これらの指令信号は、各スイッチを押下している間だけ出力される。各スイッチの押下を解除すると、各指令信号の出力は停止する。
【0030】
制御部としての制御系80は、図2に示すように、制御回路82および複数のスイッチング素子84を組み合わせてなり、ケースの内部または外部に設置されている。制御回路82は、本実施形態では、マイクロコンピュータを主体に構成されており、表示器20および操作スイッチ70に電気的に接続されている。各スイッチング素子84は、本実施形態では、コレクタがいずれかの励磁コイル54a、54bに接続されるトランジスタである。トランジスタのエミッタおよびベースがそれぞれアース(図示しない)および制御回路82に接続されている。各スイッチング素子84は、制御回路82から入力されるゲート信号に従って、A、B各相の励磁コイル54a、54bへ印加する駆動信号の振幅を変化させる。そこで以下では、制御回路82によりスイッチング素子84へのゲート信号を制御することを、励磁コイル54a、54bへの駆動信号を制御することとして、説明する。
【0031】
こうした構成の制御系80において制御回路82は、表示器20による画像の表示を制御する。それとともに制御回路82は、操作スイッチ70から入力される指令信号に基づいて、A、B各相の励磁コイル54a、54bへの駆動信号を制御する。具体的には、アップ指令信号に応じて制御回路82は、ステッピングモータ50とともに凹面鏡32を正回転駆動するように、各相の励磁コイル54a、54bに印加される駆動信号の振幅を制御して、虚像100の表示位置を上方へと変化させる。また、ダウン指令信号に応じて制御回路82は、ステッピングモータ50とともに凹面鏡32を逆回転駆動するように、各相の励磁コイル54a、54bに印加される駆動信号の振幅を制御して、虚像100の表示位置を下方へと変化させる。
【0032】
(特徴部分)
次に、HUD装置10の特徴部分を説明する。本実施形態では、図5および図6に示すごとく、HUD装置10の励磁方式は、2相励磁方式を採用している。また、図5および図6に示すように、制御回路82が駆動モードに切替えているときの各相への駆動信号は矩形波となっている。A相と−A相との位相差は電気角で180°となっており、B相と−B相との位相差は電気角で180°となっており、さらにA相とB相との位相差は電気角で90°となっている。
【0033】
本実施形態のステッピングモータ50では、制御回路82は、ステッピングモータ50の駆動方式としてフルステップ駆動方式を採用している。フルステップ駆動方式とは、現在のマグネットロータ60の安定点から隣接する次の安定点まで駆動信号の振幅を変化させる駆動方式である。すなわち、本実施形態でのフルステップ駆動方式では、制御回路82は、上記安定点をマグネットロータ60の目標回転角として設定し、励磁コイル54a、54bへの駆動信号の印加を制御している。なお、本実施形態では、駆動信号として電圧信号を使用している。駆動信号は、電流信号であっても勿論良い。
【0034】
ここで、励磁コイル54a、54bが励磁されている励磁状態のときのマグネットロータ60の静止点と、励磁コイル54a、54bが無励磁状態であるときのマグネットロータ60の安定点とは、マグネットロータ60に負荷が連結されていない状態であれば、理論上一致している。このため、制御回路82が、励磁コイル54a、54bに駆動信号を印加し、励磁コイル54a、54bを励磁させ、マグネットロータ60が静止したのち、各相の励磁コイル54a、54bを無励磁状態としても、マグネットロータ60の回転角(機械角)は変化しない。
【0035】
しかしながら、ステッピングモータ50のステータ52、クローポールヨーク56a、56bの寸法や、マグネットロータ60における磁石62の磁極の着磁位置がばらついていたりすると、無励磁状態となったときの実際のマグネットロータ60の安定点と、励磁コイル54a、54bに駆動信号を印加しているときのマグネットロータ60の静止点とが異なってしまう。
【0036】
また、この安定点と静止点との相違は、バネ部材42の付勢力によっても発生する。制御回路82が励磁コイル54a、54bへの駆動信号の印加を停止し、無励磁状態としたとき、バネ部材42の付勢力の影響を受け、マグネットロータ60は、脱調が起こらない範囲内で回転し、バネ部材42の付勢力とディテントトルクと釣り合う位置で静止する。この場合、上記付勢力とディテントトルクとが釣り合う位置がステッピングモータ50の安定点となる。
【0037】
ここで、運転者は虚像100の表示位置を変更させているときは、虚像100の表示状態に対する意識が高く、虚像100のわずかな動きに対して敏感となっている。このため、凹面鏡32の回転駆動終了直後、すなわち、運転者の虚像100の表示状態に対する意識が高い間に、虚像100が移動すると、運転者に違和感を与えてしまうこととなる。
【0038】
次に、制御回路82がコンピュータプログラムの実行により実施する駆動信号制御のフローについて、図4から図6を参照しつつ詳細に説明する。なお、図4の駆動信号制御フローは、車両のエンジンスイッチがオン状態となるのに応じて開始され、当該エンジンスイッチがオフ状態となるのに応じて終了する。
【0039】
S10では、虚像100の表示位置の移動させるための、マグネットロータ60の回転要求の有無を、操作スイッチ70からのアップ指令信号またはダウン指令信号に基づき取得する。アップ指令信号およびダウン指令信号のいずれも取得されない間は、A、B各相の励磁コイル54a、54bへの駆動信号の印加は停止されたままである。いずれか一方の指令信号を取得した場合は、運転者が凹面鏡32の回転、すなわち、マグネットロータ60の回転を要求(回転要求)しているとみなし、S20へ移行する。
【0040】
図5および図6に図示する操作スイッチ70のONは、アップ指令信号またはダウン指令信号が出力されている状態、すなわち、運転者のマグネットロータ60の回転要求を表し、OFFは、アップまたはダウン指令信号の出力が停止している状態、すなわち、運転者のマグネットロータ60の停止要求を表している。
【0041】
S20では、S10にて取得した指令信号に応じて、予め定められた回転角度だけマグネットロータ60を回転駆動させるべく、ステッピングモータ50の動作モードを駆動モードに切替え、S30へ移行する。S30では、動作モードが駆動モードに切替わると、図5または図6に示すように、周期的に振幅が変化するように、各相の励磁コイル54a、54bへ順次駆動信号を印加し、励磁コイル54a、54bに回転磁界を発生させる通常回転制御を実行する。発生した回転磁界により、マグネットロータ60が予め定められた回転角度だけ回転する。マグネットロータ60が上記回転角度だけ回転したのち、動作モードが静止モードに切替わる。
【0042】
S30に続く、S40では、S30にて動作モードを静止モードに切替えるときの、マグネットロータ60の回転角での駆動信号の振幅を維持したたま、その駆動信号の印加を所定時間だけ継続する印加継続制御を実行する。本実施形態では、印加を継続する時間は、図5および図6に示すように原則、判定時間からS30での駆動モードの作動時間を差し引いた時間となっている。この印加継続時間は、上記判定時間から駆動モードの作動時間を差し引いた時間を越えていても良い。なお、判定時間については後ほど詳細に説明する。
【0043】
その一方で、S40では、マグネットロータ60の回転要求の継続時間を検出する。回転要求の継続時間の検出は、操作スイッチ70のアップ指令信号またはダウン指令信号の継続時間により検出できる。本実施形態では、制御回路82は、アップ指令信号またはダウン指令信号が途切れたことを取得することにより、回転要求が終了したと判断する。制御回路82がアップ指令信号またはダウン指令信号の出力停止を検出するとき、運転者はマグネットロータ60の回転を停止させたいと要求(停止要求)しているとみなすことができる。
【0044】
S40に続く、S50では、S40にて検出した回転要求の継続時間が予め定められた判定時間(本実施形態では、1sec)を超えたか否かを判定する。S50にて、否定判定がなされれば、これ以上、操作スイッチ70が短押しされたとして、動作モードを駆動モードに切替えることなく、処理をS10に戻す。
【0045】
操作スイッチ70の短押しとは、運転者が行う操作の形態の一つである。本実施形態では、操作スイッチ70の押下時間と虚像100の表示位置の移動距離とを対応させており、操作スイッチ70の押下時間が短いほど、虚像100の表示位置の移動距離を短くするようにしている。これによれば、虚像100の表示位置の移動を運転者の感覚に合わせることができる。
【0046】
ここで、操作スイッチ70が短押しされて、回転要求の継続時間が判定時間よりも短いと判定される場合の駆動信号のパターンについて、図5のタイムチャートを参照しながら説明する。図5は、回転要求の継続時間が判定時間よりも短く、かつその判定時間内に再び回転要求(操作スイッチ70の押下)があった場合を示している。
【0047】
制御回路82は、回転要求を取得すると、マグネットロータ60を所定角度だけ回転駆動させるべく、一旦駆動モードに切替え、図5に示すように、励磁コイル54a、54bに順次駆動信号を印加する通常回転制御を実行する。そして、制御回路82は、マグネットロータ60を所定角度だけ回転駆動させたら、動作モードを静止モードに切替える。動作モードが静止モードに切替えられる際、制御回路82は、図5に示すように、動作モードを静止モードに切替えるときの、マグネットロータ60の回転角での駆動信号の振幅を維持したまま、駆動信号の印加を所定時間継続する印加継続制御を実行する。
【0048】
駆動信号の振幅を維持したまま、駆動信号が励磁コイル54a、54bに印加されると、電気角が維持されることとなる。駆動信号が印加されている間、マグネットロータ60はその電気角での機械角に保持されることとなる。
【0049】
その一方で、制御回路82は、回転要求の継続時間を検出している。この図5に示す例では、制御回路82は、この回転要求の継続時間は判定時間よりも短くなっているため、操作スイッチ70が短押しされていると判定する。制御回路82は、マグネットロータ60を所定角度だけ回転駆動させた後に動作モードを静止モードに切替え、印加継続制御を実行する。
【0050】
そして、図5に示すように、初回の駆動モードが開始されてから、判定時間が経過する前に、再び操作スイッチ70が短押しされ、制御回路82が回転要求を取得すると、実行していた印加継続制御を休止する。さらに、制御回路82は再び動作モードを駆動モードに切替え、マグネットロータ60を所定角度だけ回転駆動させるべく、通常回転制御を実行する。
【0051】
そして、更に上述した手順と同様に、制御回路82は、マグネットロータ60を所定角度だけ回転駆動させたら、動作モードを静止モードに切替える。動作モードが静止モードに切替えられる際、制御回路82は、図5に示すように、前回の静止モードへの切替え時と同様に、印加継続制御を実行する。図5に示すように、判定時間が経過する前に、次の回転要求がない場合は、所定時間経過するまで印加継続制御が継続される。
【0052】
制御回路82は、印加継続制御が所定時間継続された後、無励磁状態とすべく、励磁コイル54a、54bへの駆動信号の印加を全て停止する。このように、操作スイッチ70の短押し操作が短時間の間に複数回行われる場合では、制御フローにおけるS10〜S50の処理が繰り返し行われる。
【0053】
この図5に示す駆動信号の駆動パターンによれば、運転者の回転要求と次の回転要求との間が短く、虚像100の表示状態に対する運転者の意識が高い状態において、回転要求と次の回転要求との間に発生する、ステッピングモータ50の構成部品の製造ばらつきや、バネ部材42の付勢力に起因するマグネットロータ60の不用意な回転を抑制することができ、表示位置を変更する際の虚像100の振動の発生を抑制することができる。
【0054】
また、この実施形態では、印加継続制御が行われている最中に、次の回転要求を取得し、マグネットロータ60を所定角度だけ回転駆動させる必要が生じた場合、制御回路82は、実行していた印加継続制御を休止してから通常回転制御を実行している。このことによれば、運転者の回転要求に応じた制御とすることができる。また、制御回路82は、印加継続制御を休止してから次の通常回転制御を行うようにしているため、制御の衝突を回避することができる。このため、制御が衝突することによるマグネットロータ60の回転異常を抑制することができる。
【0055】
次に、説明を図4に示す制御フローのS50に戻す。S50において、S40にて検出した回転要求の継続時間が判定時間を越えたと判定すると、S60に移動する。このことにより、操作スイッチ70の操作は、長押し操作であるとみなすことができる。運転者が大きく虚像100の表示位置を移動させる意思があると判断できる。
【0056】
S60では、一旦静止モードとした動作モードを再び駆動モードに切替えるとともに、実行している印加継続制御を終了し、再びマグネットロータ60を回転駆動すべく、通常回転制御を実行する。
【0057】
S60に続く、S70では、操作スイッチ70の停止要求が検出されているか否かを判定する。ここでいう、停止要求とは、運転者がマグネットロータ60の回転を停止させる意思をもって操作スイッチ70を操作するときに取得されるものである。本実施形態では、制御回路82は、アップ指令信号またはダウン指令信号が無いことを取得することにより、停止要求を取得する。S60において、停止要求が取得されなければ、停止要求が取得されるまで、ここでの処理を繰り返す。停止要求が取得されれば、S80に移動する。
【0058】
S80では、動作モードを静止モードに切替える。さらに、S90では、S80にて動作モードを静止モードに切替えるときの、マグネットロータ60の回転角での駆動信号の振幅を維持したたま、駆動信号の印加を所定時間だけ継続する印加継続制御を実行する。その後、励磁コイル54a、54bへの駆動信号の印加が停止され、励磁コイル54a、54bは無励磁状態となる。S80での処理が終了すると、再び処理はS10に戻る。
【0059】
ここで、操作スイッチ70が長押しされて、回転要求の継続時間が判定時間を越えていると判定される場合の駆動信号のパターンについて、図6のタイムチャートを参照しながら説明する。S40に対応する制御、すなわち、図6の初回の駆動モードが終了するまでの制御は、上記図5を用いて説明した制御と同じであるため、ここでは説明を省略する。
【0060】
図6に示す操作スイッチ70が長押しされている場合では、回転要求の継続時間が判定時間を越えている。しかしながら、制御回路82は、操作スイッチ70が長押しされている場合であっても、図6に示すように、一旦動作モードを静止モードに切替える。上述したように、静止モードに切替っている状態であっても、制御回路82が印加継続制御を実行することにより(S40)、静止モードに切替えるときの、マグネットロータ60の回転角が保持される。このため、無励磁状態となることで発生するマグネットロータ60の回転位置の変化が抑制される。この印加継続制御は、回転要求の継続時間が判定時間を越えるまで継続される。
【0061】
図6に示すように、回転要求の継続時間が判定時間を越えると、制御回路82は、再び動作モードを駆動モードに切替え、マグネットロータ60を回転駆動すべく通常回転制御を実行する。そして、制御回路82が停止要求(アップ指令信号またはダウン指令信号の未出力状態)を取得すると、動作モードを静止モードに切替え、通常回転制御を停止し、印加継続制御を実行する。そして、制御回路82は、所定時間、印加継続制御を継続した後、無励磁状態とすべく、励磁コイル54a、54bへの駆動信号の印加を全て停止する。
【0062】
以上説明したように、操作スイッチ70の長押し操作が行われる場合であっても、長押し操作中の静止モード期間中、印加継続制御が実行されるので、静止モードに切替ったときのマグネットロータ60の回転角を保持することができる。
【0063】
このように、図6に示すような長押し操作中に一旦静止モードに切替えられるような形態のものであっても、初回の駆動モードから静止モードに切替わるとき、静止モードから次の駆動モードに切替わるときのマグネットロータ60の不用意な回転を抑制することができ、虚像100の表示位置の変更する際の虚像100の振動の発生を抑制することができる。
【0064】
また、図5および図6に図示するように、本実施形態では、制御回路82が運転者の回転要求を取得すると、操作スイッチ70の操作状態(短押し操作、長押し操作)に拘わらず、予め定められた回転角度だけマグネットロータ60を回転駆動させるようにしている。このことによれば、運転者の回転要求の度合いを判断する前にマグネットロータ60を回転駆動させることができ、運転者の回転要求に対するステッピングモータ50の反応を向上させることができる。
【0065】
また、図5および図6に示すように、運転者が操作スイッチ70を操作することによる虚像100の表示位置の調整が終了すると、制御回路82は、動作モードを静止モードに切替え、上記印加継続制御を所定時間実行した後、無励磁状態に切替える。励磁状態から無励磁状態に切替わると、ステッピングモータ50および凹面鏡32の構造上、マグネットロータ60が脱調しない範囲で回転し、虚像100が振動するおそれがある。
【0066】
しかしながら、虚像100の表示位置の変更が終了し、上記印加継続制御が終了するころには、運転者の意識は虚像100とは別のものに移っている可能性が大きい。このため、無励磁状態に切替ったときに虚像100が振動したとしても、虚像100の振動が運転者に与える違和感の影響は少ない。
【0067】
(第2実施形態)
以下、本発明の第2実施形態を図面に基づいて説明する。第2実施形態は、第1実施形態の変形例である。図7および図8は、それぞれ、第2実施形態における操作スイッチ70の短押し操作時の駆動パターンと、長押し操作時の駆動パターンとを示している。以下、第1実施形態と異なる点を中心に説明する。説明を省略する部分については、第1実施形態と実質的に同じである。
【0068】
第2実施形態では、ステッピングモータ50の駆動方式としてマイクロステップ駆動方式を採用している。マイクロステップ駆動方式とは、現在のマグネットロータ60の安定点から隣接する次の安定点の間隔よりも小さな所定角度離れた次の電気角まで、駆動信号を変化させる駆動方式である。マイクロステップ駆動方式では、図7および図8に示すように、各相の励磁コイル54a、54bに印加される駆動信号は、正弦半波となっている。二つの正弦半波状の駆動信号の振幅が、電気角で90°位相がずれている場合、一方の正弦半波の振幅が最大のとき、他方の正弦半波は最小となっている。このように、正弦半波状の駆動信号を各相の励磁コイル54a、54bに印加することによれば、現在の安定点から隣接する安定点との間でマグネットロータ60を静止させることができる。
【0069】
このようにマイクロステップ駆動方式では、マグネットロータ60を二つの安定点間で静止させることができるものであるが、本実施形態では、制御回路82は、上記安定点をマグネットロータ60の目標回転角として設定し、励磁コイル54a、54bへの駆動信号の印加を制御している。すなわち、駆動モードから静止モードへの切替え、および静止モードから駆動モードへの切替えは、マグネットロータ60が安定点となったときに行われる。
【0070】
図7および図8は、励磁コイル54a、54bに供給される駆動信号の形態を除き、図5および図5と同じである。この実施形態でも制御回路82が行う制御フローは、図4に示すものと同じである。このため、本実施形態によっても、操作スイッチ70の短押し操作が連続して行われる場合や、長押し操作が行われる場合であっても、途中の静止モードで無励磁状態となることを抑制することができる。したがって、本実施形態においても、マグネットロータ60の不用意な回転を抑制することができ、虚像100の振動の発生を抑制することができる。
【0071】
(その他の実施形態)
以上、本発明の複数の実施形態について説明した。本発明は、上記実施形態に限定して解釈されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲内において種々の実施形態に適用することができる。
【0072】
例えば、第1実施形態では、2相励磁方式にてステッピングモータ50を回転駆動させていたが、1相励磁方式であっても良いし、1−2相励磁方式であっても良い。1−2相励磁方式を採用する場合には、制御回路82は、動作モードを静止モードに切替える際、マグネットロータ60が安定点に至ったときに切替えるように駆動信号を制御する。
【0073】
また、第1、第2実施形態の操作スイッチ70は、ON−OFF式のスイッチであり、制御回路82は、運転者が操作スイッチ70を押下することにより、当該スイッチから出力されたアップ指令信号またはダウン指令信号を取得することにより回転要求があったとと判断し、操作スイッチ70の押下状態が解除され、当該指令信号の出力が検出されなくなったことで停止要求操作があったと判断している。回転要求および停止要求は、上記形態に限定されない。例えば、アップまたはダウン指令信号を出力とは別に、停止のための指令信号を出力できる操作スイッチであっても良い。
【符号の説明】
【0074】
10 ヘッドアップディスプレイ装置(HUD装置)、20 表示器、30 光学系、32 凹面鏡(反射部材)、34 回転軸、38 保持部材、40 ギヤ、42 バネ部材、50 ステッピングモータ、52 ステータ、54a、54b 励磁コイル、56a、56b クローポールヨーク、60 マグネットロータ、62 磁石、64 出力軸、70 操作スイッチ、80 制御系(制御部)、82 制御回路、84 スイッチング素子、90 ウインドシールド、100 虚像

【特許請求の範囲】
【請求項1】
画像を表示する表示器と、
回転自在に設けられ、前記表示器に表示された前記画像を反射して投影部材に投影することにより、車両関係情報の虚像を表示させる反射部材と、
周期的に振幅が変化する駆動信号がコイルに印加されることにより、前記ステータ内に回転自在に収容されているマグネットロータが回転駆動され、前記回転駆動されたマグネットロータによって前記反射部材を回転駆動し、前記虚像の表示位置を調整するステッピングモータと、
前記ステッピングモータにおいて、ディテントトルクが最大となる安定点を前記マグネットロータの目標回転角とし、前記マグネットロータを前記目標回転角まで回転駆動させるように、前記駆動信号の振幅を制御する通常回転制御を実行する制御部と、を備えた車両用ヘッドアップディスプレイ装置において、
前記制御部は、前記通常回転制御を実行し、前記マグネットロータを前記目標回転角まで回転駆動させたら、前記目標回転角での前記駆動信号の振幅を維持したまま、前記駆動信号の印加を所定時間、継続する印加継続制御を実行することを特徴とする車両用ヘッドアップディスプレイ装置。
【請求項2】
前記制御部は、前記印加継続制御を実行している最中に、前記マグネットロータを次の前記目標回転角まで回転駆動させる必要が生じた場合には、現在実行している前記印加継続制御を休止してから、前記マグネットロータを前記次の目標回転角まで回転駆動させるように、前記通常回転制御を実行することを特徴とする請求項1に記載の車両用ヘッドアップディスプレイ装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate


【公開番号】特開2011−207430(P2011−207430A)
【公開日】平成23年10月20日(2011.10.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−79097(P2010−79097)
【出願日】平成22年3月30日(2010.3.30)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【Fターム(参考)】