ヘテロポリ酸を含むポリマー電解質
本開示は、ポリオキソメタレート(POM)又はヘテロポリ酸(HPA)を含有又は含む燃料電池に有用である可能性がある、ポリマー電解質、ポリマー電解質膜(PEM)及び膜電極アセンブリ(MEA)を提供する。いくつかの実施形態において、このポリオキソメタレート、それに対する対イオン、又はそれら両方が、Mn及び/又はCeを含む。いくつかの実施形態において、このポリマー電解質はフッ素化されている。いくつかの実施形態において、このポリマー電解質は、ポリオキソメタレート以外の第2の酸官能基を含む。別の態様において、本開示は、共有結合したポリオキソメタレートを含むモノマーを共重合させる工程を含む方法と、そのポリマーにポリオキソメタレートを共有結合させる工程を含む方法とを含んだ、ポリマー電解質の製造方法を提供する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(関連出願の相互参照)
本開示は、米国特許仮出願番号第60/986749号(2007年11月9日出願)の権利を主張する。
【0002】
(政府の権利)
本開示の主題事項は、米国エネルギー省から認められた協力協定第DE−FC36−02AL67621号のもと、政府支援を得てなされた。政府は、本発明における特定の権利を有する。
【0003】
(開示の分野)
本開示は、ポリオキソメタレート(POM)又はヘテロポリ酸(HPA)を含有又は含む燃料電池に有用である可能性がある、ポリマー電解質、ポリマー電解質膜(PEM)及び膜電極アセンブリ(MEA)に関するものである。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0004】
単純に述べれば、本開示は、a)ポリマー電解質、b)ポリオキソメタレート、及びc)そのポリオキソメタレートに対する対イオン、を含むポリマー電解質組成物を提供するものであり、ここでこのポリオキソメタレートは、Mn及びCeからなる群から選択される遷移金属を含む。いくつかの実施形態において、この遷移金属はMnである。いくつかの実施形態において、この遷移金属はMeである。いくつかの実施形態において、このポリオキソメタレートはヘテロポリ酸である。ポリマー電解質組成物は、燃料電池のポリマー電解質膜に組み込むことができる。ポリマー電解質組成物は、燃料電池の膜電極アセンブリに組み込むことができる。
【0005】
別の態様において、本開示は、共有結合しているポリオキソメタレートとそれに伴うポリオキソメタレートに対する対イオンとを含む第1ペンダント基を含み、ポリオキソメタレート及び対イオンの少なくとも1つが、Mn及びCeからなる群から選択される遷移金属を含む、ポリマー電解質を提供する。いくつかの実施形態において、ポリオキソメタレートはMn及びCeからなる群から選択される遷移金属を含む。いくつかの実施形態において、このポリオキソメタレートはMnを含む。いくつかの実施形態において、このポリオキソメタレートはCeを含む。いくつかの実施形態において、このポリオキソメタレートに対する対イオンは、Mn陽イオン及びCe陽イオンからなる群から選択される。いくつかの実施形態において、このポリオキソメタレートに対する対イオンはMnである。いくつかの実施形態において、このポリオキソメタレートに対する対イオンはCeである。いくつかの実施形態において、このポリマー電解質はフッ素化されている。いくつかの実施形態において、このポリマー電解質は、ポリオキソメタレート以外の第2の酸官能基を含む。いくつかの実施形態において、このポリマー電解質は、ホスホン酸、スルホン酸及びビススルホニルイミドからなる群から選択される第2の酸官能基を含む。いくつかの実施形態において、このポリオキソメタレートは、Ti又はZr原子を介してポリマーに共有結合している。いくつかの実施形態において、このポリオキソメタレートは、シラン基を介してポリマーに共有結合している。いくつかの実施形態において、このポリオキソメタレートは、ホスホネート基を介してポリマーに共有結合している。
【0006】
別の態様において、本開示は、共有結合したポリオキソメタレートを含む第1ペンダント基を含むフッ素化ポリマー電解質を提供する。
【0007】
別の態様において、本開示は、共有結合したポリオキソメタレートを含む第1ペンダント基と、ポリオキソメタレート以外の第2の酸官能基とを含むポリマー電解質を提供する。いくつかの実施形態において、この第2の酸官能基は、ホスホン酸、スルホン酸及びビススルホニルイミドからなる群から選択される。
【0008】
別の態様において、本開示は、ポリマー電解質であって、ポリオキソメタレートがTi又はZr原子を介してポリマーに共有結合している、共有結合したポリオキソメタレートを含む第1ペンダント基を含む、ポリマー電解質を提供する。
【0009】
別の態様において、本開示は、ポリマー電解質であって、ポリオキソメタレートがホスホネート基を介してポリマーに共有結合している、共有結合したポリオキソメタレートを含む第1ペンダント基を含む、ポリマー電解質を提供する。
【0010】
別の態様において、本開示は、本明細書で開示されるそれぞれ及び全てのポリマー電解質を含む燃料電池ポリマー電解質膜を提供する。
【0011】
別の態様において、本開示は、本明細書で開示されるそれぞれ及び全てのポリマー電解質を含む燃料電池膜電極アセンブリを提供する。
【0012】
別の態様において、本開示は、a)Mn及びCeからなる群から選択される遷移金属を含む共有結合したポリオキソメタレートを含むモノマーと、b)少なくとも一種類のコモノマーとを、共重合させる工程を含む、ポリマー電解質の製造方法を提供する。
【0013】
別の態様において、本開示は、a)欠損型ヘテロポリ酸の結合部位の役割を果たし得る3つ以上の官能基を含むポリマーを提供する工程と、b)ポリオキソメタレートをポリマーに共有結合させる工程とを含む、ポリマー電解質の製造方法を提供する。いくつかの実施形態において、この方法は、a)3つ以上のシラン基を含むポリマーを提供する工程と、b)ポリオキソメタレートをそのポリマーのシラン基に共有結合させる工程とを含む。
【0014】
別の態様において、本開示は、a)ホスホン酸基を含むポリマーを提供する工程と、b)ポリオキソメタレートをそのポリマーのホスホン酸基に共有結合させる工程とを含む、ポリマー電解質の製造方法を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】実施例1に記述されているように、本発明によるMEA及び対照MEAの定電位スキャンを表わしたグラフ。
【図2】実施例1に記述されているように、本発明によるMEA及び対照MEAの定電位スキャンを表わしたグラフ。
【図3】実施例1に記述されているように、本発明によるMEA及び対照MEAの性能を、固定露点での電池温度の関数として表わしたグラフ。
【図4】実施例1に記述されているように、本発明によるMEA及び対照MEAのHFR(高周波数抵抗)を、電池温度の関数として表わしたグラフ。
【図5】実施例1に記述されているように、本発明によるMEA及び対照MEAの性能を、負荷下の電圧対時間として表わしたグラフ。
【図6】実施例1に記述されているように、本発明によるMEA及び対照MEAについて、FER対時間を表わしたグラフ。
【図7】実施例1に記述されているように、本発明によるMEA及び対照MEAについて、延長スペクトルを表わしたグラフ。
【図8】実施例1に記述されているように、さまざまな試料及び温度について、インピーダンスのコールコール(Cole-Cole)プロット全幅のグラフ。
【図9】実施例1に記述されているように、さまざまな試料及び温度について、インピーダンスのコールコール(Cole-Cole)プロット全幅のグラフ。
【図10】実施例1に記述されているように、さまざまな試料及び温度について、インピーダンスのコールコール(Cole-Cole)プロット全幅のグラフ。
【図11】実施例2に記述されているように、ハイブリッド無機−有機モノマー及びポリマーについて、さまざまな温度でのPFGSE NMRプロトン拡散係数のグラフ。
【図12】実施例2に記述されているように、温度及び湿度の一定範囲にわたる、HSiW11(メタクリル)2/HEAコポリマー膜のプロトン伝導度測定値のグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本開示は、1つ以上のポリオキソメタレート(対イオンを伴うことがある)を含むポリマー電解質に関するものであり、このときこのポリオキソメタレート又はそれに対する対イオンの一方又は両方が、W、V、Mo、Nb、Mn及びCeの1つ以上を含み得てこれらに制限されない遷移金属原子を含み、より典型的にはMn又はCeを含む。ポリオキソメタレートは、イソポリオキソメタレート又はヘテロポリオキソメタレートであり得る。ポリオキソメタレートは、酸形態、すなわちプロトン(H+)によって電荷が釣り合っている形態であってよく、又は塩形態、すなわちプロトン(H+)以外の陽イオンで電荷が釣り合っている状態であってよい。ポリオキソメタレートを含むポリマー電解質は、燃料電池膜電極アセンブリの1つ以上の部品(例えばポリマー電解質膜、アノード又はカソードなど)の一部又は全てを構成することができる。所望により、ポリオキソメタレートは任意の適切な方法でポリマー電解質に部分的に又は完全に固定化することができ、この方法には不溶性の塩として沈殿、マトリックス内に捕捉、支持体に共有結合、又はポリマー電解質自体に共有結合させることが挙げられ得る。
【0017】
本開示による膜電極アセンブリ(MEA)及びポリマー電解質膜(PEM)は、燃料電池に使用することができる。MEAは、水素燃料電池のようなプロトン交換膜燃料電池の中心要素である。燃料電池は、水素などの燃料と酸素などの酸化剤との触媒された混合物によって使用可能な電気を生み出す電気化学電池である。典型的なMEAは、固体電解質として機能するポリマー電解質膜(PEM)(イオン導電膜(ICM)としても既知である)を含む。PEMの一方の面はアノード電極層と接触し、反対側の面はカソード電極層と接触する。典型的な使用では、プロトンが、水素酸化を介してアノードにおいて形成され、PEMをわたってカソードに輸送されて酸素と反応し、電極を接続する外部回路内に電流を流す。各電極層は、典型的には白金金属を含む電気化学触媒を含む。PEMは、反応ガス間に、耐久性のある無孔の非導電性機械的障壁を形成するが、それでもやはりH+イオンを容易に通過させる。ガス拡散層(GDL)が、アノード及びカソード電極材料の間を行き来するガス輸送を促進して、電流を伝導する。GDLは、多孔質及び導電性の両方であり、典型的には炭素繊維から構成される。またGDLは、流体輸送層(FTL)又はディフューザ/集電体(DCC)と呼ばれる場合もある。いくつかの実施形態では、アノード及びカソード電極層をGDLに適用し、結果として生じる触媒コーティングされたGDLでPEMを挟んで、5層MEAを形成する。5層MEAの5層は、アノードGDL、アノード電極層、PEM、カソード電極層、及びカソードGDLの順である。他の実施形態では、アノード及びカソード電極層をPEMのいずれの側にも適用し、結果として生じる触媒コーティングされた膜(CCM)を2つのGDL間に挟んで、5層MEAを形成する。
【0018】
本開示によるPEMは、任意の好適なポリマー、又はポリマーの混合物を含み得る。典型的なポリマー電解質は、共通主鎖に結合したアニオン性官能基を含み、これは典型的にはスルホン酸基であるが、またカルボン酸基、イミド基、アミド基、又は他の酸の官能基を含んでもよい。本開示によるポリマー電解質は、ポリオキソメタレートを含む官能基を含み得る。このポリマー電解質は、典型的にはフッ素化されており、より典型的には高フッ素化されており、及び最も典型的には全フッ素化されているが、フッ素化されていなくてもよい。このポリマー電解質は、典型的にはテトラフルオロエチレンと、一種類以上のフッ素化された酸官能基コモノマーとのコポリマーである。典型的なポリマー電解質としては、Nafion(登録商標)(DuPont Chemicals,Wilmington DE)及びFlemion(商標)(Asahi Glass Co.Ltd.,Tokyo,Japan)が挙げられる。ポリマー電解質は、米国特許出願第10/322,254号、同第10/322,226号及び同第10/325,278号(これらは本明細書に参考として組み込まれる)に記載されている、テトラフルオロエチレン(TFE)とFSO2−CF2CF2CF2CF2−O−CF=CF2とのコポリマーであってよい。このポリマーは、典型的には1200以下、より典型的には1100以下、より典型的には1000以下、より典型的には900以下、及びより典型的には800以下の当量(EW)を有している。非フッ素化ポリマーには、スルホン化PEEK、スルホン化ポリスルホン、スルホン酸基を含む芳香族ポリマーなどを挙げることができ、これらに制限されない。
【0019】
ポリマーは、任意の好適な方法により膜に形成することができる。ポリマーは、典型的には、懸濁液からキャスティングされる。任意の好適なキャスティング法を使用してよく、バーコーティング、スプレーコーティング、スリットコーティング、ブラシコーティングなどが挙げられる。あるいは、膜を、純粋なポリマーから、押出成形のような溶融プロセスにより形成してもよい。形成後、膜を典型的には120℃以上、より典型的には130℃以上、最も典型的には150℃以上の温度でアニールしてもよい。PEMの厚さは、典型的には50マイクロメートル未満、より典型的には40マイクロメートル未満、より典型的には30マイクロメートル未満、及び最も典型的には約25マイクロメートル未満である。
【0020】
本開示によるポリマー電解質は、ポリオキソメタレート(POM)又はヘテロポリ酸(HPA)を含み得る。ポリオキソメタレートは、酸素配位した遷移金属陽イオン(金属酸化物多面体)を含む化学種の分類であり、輪郭のはっきりした(分離性の)クラスター、鎖、又はシートに組み立てられ、ここにおいて少なくとも1つの酸素原子が2つの金属原子に配位結合している(架橋酸素)。ポリオキソメタレートはその構造中に2つ以上の金属陽イオンを含んでいなければならない。ポリオキソメタレートクラスター、鎖、又はシートは、分離性の化学物質として、典型的には正味の電荷をもち、適切に帯電した対イオンとともに固体として又は液体中に存在することができる。陰イオンポリオキソメタレートは、プラスに帯電している対イオン(対陽イオン)によって、溶液中又は固体形態中で電荷が釣り合っている。一種類だけの金属元素を含むポリオキソメタレートは、イソポリオキソメタレートと呼ばれる。二種類以上の金属元素を含むポリオキソメタレートは、ヘテロポリオキソメタレートと呼ばれる。所望により、ポリオキソメタレートは更に、第13族、第14族、又は第15族の金属陽イオンを含み得る。第13族、第14族、又は第15族の金属陽イオン(ヘテロ原子)を含む陰イオンポリオキソメタレートで、プロトンによって電荷が釣り合っているものは、ヘテロポリ酸(HPA)と呼ばれる。プロトンが他の対陽イオンでイオン交換されたヘテロポリ酸は、HPA塩、又はHPAの塩と呼ばれる。
【0021】
本開示のいくつかの実施形態において、ポリマー電解質は、ポリオキソメタレートを組み込んで提示される。ポリオキソメタレート及び/又はそれに対する対イオンは、遷移金属原子を含み、これにはW、V、Mo、Nb、Mn及びCeの1つ以上が挙げられこれらに限定されず、より典型的にはMn又はCeであり得る。本開示のいくつかの実施形態は、マンガン含有ポリオキソメタレートを含むポリマー電解質に関するものである。本開示のいくつかの実施形態は、ポリオキソメタレートのマンガン塩を含むポリマー電解質に関するものである。本開示のいくつかの実施形態は、セリウム含有ポリオキソメタレートを含むポリマー電解質に関するものである。本開示のいくつかの実施形態は、ポリオキソメタレートのセリウム塩を含むポリマー電解質に関するものである。これらのカテゴリーは相互に排他的ではなく、重なり合ってもよい。例えば、マンガン含有ポリオキソメタレート若しくはセリウム含有ポリオキソメタレートのマンガン塩、又は、マンガン含有ポリオキソメタレート若しくはセリウム含有ポリオキソメタレートのセリウム塩であってよい。
【0022】
本開示に有用なポリオキソメタレートには、イソポリオキソメタレート及びヘテロポリオキソメタレートが挙げられる。MEAに有用なポリオキソメタレートは、水溶性であっても非水溶性であってもよい。非水溶性ポリオキソメタレートは、水によってMEAから出て行きにくい場合があり、これにより、ポリオキソメタレートを塩の形態(例えばセシウム塩)で沈殿によって固定化することができる。
【0023】
HPA、及びHPAのマンガン塩又はセリウム塩は、本開示の実施に使用することができる。有用なヘテロポリ酸は、ポリオキソメタレート(例えばクラスター、鎖、又はシート)中にマンガンイオン又はセリウムイオンを含み得る。本開示のいくつかの実施形態は、マンガン含有HPAを含むポリマー電解質に関するものである。本開示のいくつかの実施形態は、HPAのマンガン塩を含むポリマー電解質に関するものである。本開示のいくつかの実施形態は、セリウム含有HPAを含むポリマー電解質に関するものである。本開示のいくつかの実施形態は、HPAのセリウム塩を含むポリマー電解質に関するものである。これらのカテゴリーは相互に排他的ではなく、重なり合ってもよい。例えば、マンガン含有HPA若しくはセリウム含有HPAのマンガン塩、又は、マンガン含有HPA若しくはセリウム含有HPAのセリウム塩であってよい。
【0024】
ポリオキソメタレートは所望により、任意の適切な方法で、ポリマー電解質に部分的に又は完全に固定化することができ、この方法には不溶性の塩として沈殿、マトリックス内に捕捉(例えば、ゾル−ゲル金属酸化物マトリックス)、支持体に共有結合(例えば、ポリオキソメタレートの欠損型結合部位を使用して粒子に取り付ける)、又はポリマーに共有結合させる(例えば、ポリオキソメタレートの欠損型結合部位を使用して)、などが挙げられ得る。
【0025】
本発明のいくつかの実施形態において、欠損型ヘテロポリ酸が、ポリマーの官能基(欠損型ヘテロポリ酸では結合部位の役目を果たし得る)によってポリマーに共有結合する。これにはホスホン酸、シラン(トリハロシラン及びトリアルコキシシランを含む)などが挙げられ得る。いくつかの実施形態において、POMは、POMの一部分を形成するTi又はZr原子を介して、ポリマーの一部分を形成する炭素原子に結合することにより、ポリマーに結合することができ、これにはTi−O−C、Zr−O−C、Ti−C又はZr−C連結が含まれる。ポリマーは任意で架橋されていてよい。いくつかの実施形態において、このポリマーはポリマー電解質である。いくつかの実施形態において、このポリマー電解質は、ポリマーに結合するヘテロポリ酸に加え、酸基及び同様物などの、プロトン伝導度を付与するペンダント基を含む。他の実施形態において、結合したヘテロポリ酸は、結果として得られるポリマー電解質のプロトン伝導度のほぼ全てをもたらす。いくつかの実施形態において、このポリマーはマトリックスであり、この中にポリマー電解質が吸収されるか、圧縮されるか、吸い込まれるか、ないしは別の方法で組み込まれ得る。いくつかの実施形態において、このポリマーは、ポリマー電解質と混合し得る粒子を含む。
【0026】
本発明のいくつかの実施形態において、欠損型ヘテロポリ酸は、重合の際にポリマーに組み込まれる。このヘテロポリ酸は、重合の際にモノマーと反応するよう改変することができる。これは例えば、反応性の二重結合を含む官能基、又は同様の重合可能な基を組み込むことによって行われる。ポリマーは任意で架橋されていてよい。いくつかの実施形態において、このポリマーはポリマー電解質である。いくつかの実施形態において、このポリマー電解質は、ポリマーに結合するヘテロポリ酸に加え、酸基及び同様物などの、プロトン伝導度を付与するペンダント基を含む。他の実施形態において、結合したヘテロポリ酸は、結果として得られるポリマー電解質のプロトン伝導度のほぼ全てをもたらす。いくつかの実施形態において、このポリマーはマトリックスであり、この中にポリマー電解質が吸収されるか、圧縮されるか、吸い込まれるか、ないしは別の方法で組み込まれ得る。いくつかの実施形態において、このポリマーは、ポリマー電解質と混合し得る粒子を含む。
【0027】
本発明のいくつかの実施形態において、欠損型ヘテロポリ酸は、その欠損型ヘテロポリ酸に結合した連結基を介して、ポリマーの官能基によってポリマーに共有結合している。ポリマーは任意で架橋されていてよい。いくつかの実施形態において、このポリマーはポリマー電解質である。いくつかの実施形態において、このポリマー電解質は、ポリマーに結合するヘテロポリ酸に加え、酸基及び同様物などの、プロトン伝導度を付与するペンダント基を含む。他の実施形態において、結合したヘテロポリ酸は、結果として得られるポリマー電解質のプロトン伝導度のほぼ全てをもたらす。いくつかの実施形態において、このポリマーはマトリックスであり、この中にポリマー電解質が吸収されるか、圧縮されるか、吸い込まれるか、ないしは別の方法で組み込まれ得る。いくつかの実施形態において、このポリマーは、ポリマー電解質と混合し得る粒子を含む。
【0028】
本開示のいくつかの実施形態において、膜形成の前に、1つ以上のPOM、HPA、又はこれらの塩をポリマー電解質に添加することができる。典型的には、実質的に均一な分布を達成するために、POM、HPA、又は塩をポリマー電解質に十分に混合する。混合は、ミリング、混練りなどを含む任意の好適な方法で実現され、及び溶媒の含有の有無を問わず起きることがある。添加量は、典型的には最終的なポリマー電解質又はPEMの合計重量の0.01〜5重量%、より典型的には0.1〜2重量%、より典型的には0.2〜0.3重量%である。
【0029】
本開示によるポリマーの膜は、任意の好適なPOM成分を含み得る。膜又はポリマーのPOM成分は、典型的には75重量%未満である。
【0030】
本開示のいくつかの実施形態において、本明細書に記載されているポリマーは、他のポリマー又は他のポリマー電解質と混合して、強度、粘弾性的特性、Tgなどの特性を改変することができる。本開示のいくつかの実施形態において、本明細書に記載されているポリマーは、多孔質マトリックス又は支持層に吸い込ませることができ、これはフッ素化でも非フッ素化でもよく、いくつかの実施形態においては膨張PTFEであり得る。
【0031】
MEA又はCCMを製造するために、触媒は任意の好適な手段によってPEMに適用されてもよく、それには、ハンドブラッシング、ノッチバーコーティング、流体ベアリングダイコーティング、巻線ロッドコーティング、流体ベアリングコーティング、スロット供給ナイフコーティング、3ロールコーティング、又はデカール転写を包含する、手動方法及び機械方法の両方が挙げられる。コーティングは、1回の付着作業又は複数回の付着作業で行うことができる。
【0032】
任意の好適な触媒が本開示の実施に使用されてもよい。典型的には、炭素担持触媒粒子が使用される。典型的な炭素担持触媒粒子は、50〜90重量%の炭素及び10〜50重量%の触媒金属であり、触媒金属は、典型的には、カソード用にPt、並びにアノード用にPt及びRuを2:1の重量比で含む。典型的には、触媒は、触媒インクの形態でPEM又はFTLに適用される。あるいは、触媒インクを転写基材に適用し、乾燥させ、その後にPEMに又はFTLに、デカールとして適用してもよい。触媒インクは、典型的には、PEMを構成するポリマー電解質材料と同じであっても同じでなくてもよいポリマー電解質材料を含む。触媒インクは、典型的には、ポリマー電解質の分散液中に触媒粒子の分散液を含む。このインクは、典型的には5〜30%の固体(すなわちポリマー及び触媒)、より典型的には10〜20%の固体を含有する。電解質分散液は、典型的には水性分散液であり、これは、アルコール、並びにグリセリン及びエチレングリコールのような多価アルコールを更に含有してもよい。水、アルコール、及び多価アルコールの含有量は、インクのレオロジー特性を変えるように調整してもよい。インクは、典型的には、0〜50%のアルコール及び0〜20%の多価アルコールを含有する。加えて、インクは0〜2%の好適な分散剤を含有してもよい。インクは、典型的には、熱と共に撹拌し、その後、コーティング可能な稠度に希釈して製造される。
【0033】
本開示のいくつかの実施形態において、この電極又はこの触媒インクは、PEMの使用について上に記載したように、POM又はHPAを含むポリマー電解質であり得るポリマー電解質を含む。いくつかの実施形態において、上述のようにPOM又はHPAを含むポリマー電解質は、MEAの一方又は両方の電極に使用することができるが、MEAのPEMには使用できない。
【0034】
MEAを製造するために、任意の好適な手段により、GDLをCCMのいずれの側に適用してもよい。任意の好適なGDLが使用できる。典型的には、GDLは、炭素繊維を含むシート材料から構成される。典型的には、GDLは、織布及び不織布炭素繊維構造から選択される炭素繊維構造である。有用である可能性がある炭素繊維構成体には、Toray(商標)Carbon Paper、SpectraCarb(商標)Carbon Paper、AFN(商標)不織カーボンクロス、Zoltek(商標)Carbon Cloth、及び同様のものが挙げられる。GDLは、様々な材料によりコーティング又は浸透されてもよく、炭素粒子コーティング、親水性化処理、及び疎水化処理、例えばポリテトラフルオロエチレン(PTFE)又はテトラフルオロエチレンコポリマー(FEPなど)によるコーティングが挙げられる。
【0035】
使用する際、本発明に係るMEAは典型的には、分配プレートとして既知の、またバイポーラプレート(BPP)又はモノポーラプレートとしても既知の2枚の剛性プレートの間に挟む。GDLのように、分配プレートは導電性でなければならない。分配プレートは典型的には、炭素複合材料、金属材料、又はめっき金属材料から製造される。分配プレートは、反応物質又は生成物質の流体を、MEA電極表面との間で、典型的には、MEAに面する表面内に刻印された、フライス削りされた、成形された、又は打ち抜かれた1つ以上の流体伝導チャネルを通って分配する。これらのチャネルは、流動フィールド(flow field)と呼ばれることもある。分配プレートは、流体を積み重ねられた2つの連続したMEAに分配するか、又はMEAから分配してもよく、1つの面は第1のMEAのアノードに燃料を導き、他の面は次のMEAのカソードに酸化剤を導く(及び生成水を除去する)。典型的な燃料電池用積み重ね体は、分配プレートと交互に積み重ねられた多くのMEAを含んでいる。
【0036】
本開示は、燃料電池の製造及び稼動に有用である。
【0037】
本開示の目的及び利点を、以下の実施例によって更に例示するが、これらの実施例において列挙される特定の材料及びその量並びに他の諸条件及び詳細によって、本開示を不当に制限するものではないと解釈すべきである。本開示の様々な修正及び変更は、本開示の範囲及び原理から逸脱することなく当業者には明白であり、また、本開示は、上記で説明した例示的な実施形態に過度に限定して理解すべきではない。
【実施例】
【0038】
他に言及のない限り、全ての試薬はAldrich Chemical Co.(Milwaukee,WI)から得たか、若しくは入手可能であり、又は既知の方法によって合成してもよい。
【0039】
実施例I
目的:本研究の目的は、より高温で乾燥した条件下において、FER(フッ素放出率)の低減及び伝導度の増加について、新しいMn系HPA(ドーソン(Dawson)型H7[P2W17O61](Mn−OH2)]−NH2)の使用を評価することである。使用できるPEMの量は、異なるPEMタイプそれぞれについて、1つのMEAに対する試験に限定された。
【0040】
方法:PEMは、3M 1000ewアイオノマーを使用してCSMで製造された(米国特許出願第10/322,254号、同第10/322,226号及び同第10/325,278号に記載、これらは参考として本明細書に組み込まれる)。添加物は溶液に対して重量パーセンテージで加えられた。PEMは、CSMでキャスティング及びアニールが行われた。キャスティングされたPEMの公称厚さは40.6マイクロメートル(1.6mil)であるが、使用されたPEMはそれぞれ、活性領域にわたる厚さが33.0〜43.2マイクロメートル(1.3〜1.7mil)で変化した。添加PEMは色勾配を有し、全てのPEMはある程度の形態的特徴及びしわを有していた。できる限り最良の領域を選択するよう最善の努力がなされた。使用された電極は、標準EWアイオノマー及びI/C比の、0.4mg/cm2Ptの機械コーティングされた2950 GDLであった。
【0041】
50cm2の活性領域を有する燃料電池MEAが、次のようにPEMから調製された。触媒分散液を、PTFE処理したカーボンペーパーガス放散層にコーティングし、得られたCCBを、約132℃、約13.4kNの力で、約10分間Carver Press(Fred Carver Co.,Wabash,IN)内でプレスすることにより、PEMに適用した。
【0042】
全てのMEAが、ガス流量、圧力、相対湿度、及び電流又は電圧の独立制御を備えた試験ステーション内で(Fuel Cell Technologies,Albuquerque,NM)、四重S字流量フィールドでFuel Cell Technologiesの50cm2電池を使用し、co流量モードで試験された。燃料電池試験では、インキュベーション、温度攻撃、フッ化物収集のエージングの、4つの異なる段階が実施された。液体の水が電池内に形成され得る条件を避けるよう、注意が払われた。試験中は常時、流入ガスが飽和未満であり、インキュベーション段階での最高電流でのみ、排出ガス流が飽和に達するようにされた。電池を動作温度にしてから、ガスが飽和された。試験ステーション加湿システムは、流入ガス流の完全な気化を確実にするよう調節された。これは、HPLCポンプを使用して、916SSウールを充填した形成散布ボトルに流入ガスと共に18MΩ脱イオン水をポンプで入れ、測定することにより達成された。このボトルを露点設定値より10℃上の温度に加熱し、加湿したガス流をボトルの上から排出させ、これにより液体の水がボトルから出る可能性を排除した。アノード側とカソード側の排水流両方からの流出水を採取し、採取の時刻と採取した水の量を両方記録した。水試料は後で、Dionex Ion Chromatography設定を用いてF濃度の分析を行った。すべての試験について、流出ガス流は周囲気圧であった。
【0043】
電池のインキュベーションは、電池温度80℃、H2/空気流800/1800sccm、流入ガス流70℃で行われた。偏光スキャンは、スキャンとスキャンとの間に電池を0.5ボルトに設定し、10分おきに行った。偏光スキャンは、0.9ボルトから0.3ボルトへと電池電位を変化させ、電流を記録しながら、50mV刻み、ドエル時間10秒で戻した。インキュベーション時間は約6時間継続し、これは性能が安定レベルに達するのに常に充分であった。
【0044】
インキュベーション後、試験手順指示により、電池を試験の攻撃(challenge)位相に置いた。流量は、水素を348sccm、空気を833sccmにそれぞれ設定した。これは、0.5アンペア/cm2設定値で化学量論的に2/2に相当する。電池をまず、85℃に加熱した。攻撃位相の残り時間は、電池温度だけを85℃から100℃に3℃間隔で変えた。各温度で、電池を20分間その条件及び電流に維持してから、更に10分間のスキャンで最終的な電圧を記録した。その最後の10分間のスキャンにおいて、全幅のインピーダンス測定が、最終スキャン中に3〜4回実施された。インピーダンス測定は、負荷下で実施され、回路の電池及び既知の閉じた抵抗に対して発した電位>10mVの方形波を利用した。高速フーリエ変換を使用して、周波数の関数としてインピーダンスを導いた。
【0045】
試験の最後の段階は、オペレーターが電池を停止するまで閉回路にするエージング工程であった。試験のこの段階中に、流出水の採取が実施された。電池が電流を維持しなくなるまで、又はOCVが急激に低下するまで、少なくとも8組の採取が実施された。エージング工程については、電池温度を90℃、水素/空気流を348/833sccm、流入ガス流を露点70℃に維持した。電池サイクルは、0.5アンペア/cm2で30分間、次にOCVで2分間測定を実施してから、0.5アンペア/cm2一定のスキャンに戻した。
【0046】
ECSA(電気化学的表面積)試験は、試験を行った全試料について、過飽和、40/60/60℃、H2/N2が800/1800sccm、流出流は周辺温度、という試験条件で、事後に実施された。この条件はHPA損失がある場合はそれを悪化させるよう選択されたものである。3種類の異なる電圧掃引が行われた−50mV/秒0.11〜0.65ボルト、2mV/秒0.11〜0.65ボルト、及び50mV/秒0.11〜1.1ボルト。1回目が「標準」のスキャンとして参照され、2回目がベースラインを決定するために使用され、最後の回は「延長」として用いられた。カソードが酸化力のある何らかのものによって悪影響を受けた場合、この延長回で、標準に比べて表面積の増加が示される。
【0047】
結果:
開始−
図1及び2は、開始段階を示す。図1は、開始条件下で行われた最後の偏光スキャンを表わす。図2は、スキャン数の関数としての、偏光スキャンと偏光スキャンとの間に実施されたPSS(定電位スキャン)を示す。開始稼働のおよその時間は6時間である。
【0048】
乾燥攻撃試験−
開始段階の後、手順指示により、乾燥攻撃試験に進んだ。この結果を図3及び4に示す。図3は、一定露点で、電池温度に対する関数としての各MEAの性能を示す。エラーバーは、最後のGSS(定電流スキャン)にわたる電圧変動である。図4は、電池温度に対する関数としてのHFR(高周波数抵抗)を示す。各温度及び試料についてのインピーダンスのコールコールプロット全幅が、図8〜10で等方向的にプロットされている。
【0049】
加速試験−
加速試験の結果は図5に示されており、この図は負荷下の電圧対時間、図6ではFER対時間を表わしている。図6において、x軸は採取時間を表わす。
【0050】
ECSA試験−
ECSA試験の結果は、表1にまとめられている。1%Mnが、SEF(表面積強化因子−触媒表面積/幾何学的表面積)において唯一、実際に異なっているように見受けられる。これは、ロールの劣る部分から採取されたためである可能性が十分にある。図7の延長スペクトルを見ると、Mnに関連した観測可能な明らかな特徴はなく、すべてのスペクトルがほぼ等しいことがわかる。
【0051】
【表1】
【0052】
追加試験−
5cm2のPEM切片をダイカットし、計量して、室温で脱イオン水20ccが入った密閉ボトルに入れた。pH試験紙を用いて試験し、試料間に測定可能なpHの差はなかった。
【0053】
結論:この添加物は、乾燥条件でより低いHFRを示し、より低いFERであり、かつ高安定性であるという独自の特性を有する。
【0054】
実施例II
1.欠損型ヘテロポリ酸の調製
一空位又は二空位の欠損型シリコタングステン酸のカリウム塩は、Teze,A.;Herve,G.,α−,β−,and γ−Dodecatungstosilicic acids:isomers and related lacunary compounds.Inorganic Syntheses 1990,27,85−96に記述されているように合成された(この文献の開示は、参考として本明細書に組み込まれる)。ハイブリッド有機−無機モノマーの合成には、任意の欠損型ヘテロポリ酸を使用することが可能である。欠損型シリコタングステン酸のカリウム塩は、調製次第すぐに使用された。
【0055】
しばしば、これらの合成を欠損型シリコタングステン酸の酸形態で開始したい場合がある。この酸形態は、Cowan,J.J.;Hill,C.L.;Reiner,R.S.;Weinstock,I.A.,Dodecatungstoalumic acid and its lacunary and mixed addendum derivatives.Inorganic Syntheses 1990,33,18−26に記述されている手順により改変されたエーテル抽出手法によって、カリウム塩から調製される(この文献の開示は、参考として本明細書に組み込まれる)。欠損型シリコタングステン酸のカリウム塩の0.085M溶液が、脱イオン水中で攪拌し、60℃に加熱することによって調製される。この溶液を注意深く35(±3)℃まで冷ます。氷浴中で、溶液の温度を35(±3)℃に維持しながら、濃硫酸を滴下でこの溶液に加える。濃硫酸は、加えた水対加えた硫酸の比が3:1になるまで加える。硫酸を加えた後、この溶液を、温度が0℃になるまで氷浴中で冷やす。溶液が冷えるにつれて、約5℃で白色沈殿が形成される。この溶液を分液漏斗に移し、0℃に冷却したジエチルエーテルを加える。分液漏斗中のエーテル対水の比は、約1:1とする。分液漏斗を振盪し、注意深く蒸気を抜く。液が落ち着いたら、エーテル化合物層が漏斗の底に形成され、これを除去する。漏斗を振盪し、蒸気を抜き、エーテル化合物層が形成されなくなるまで繰り返す。このプロセスの間、エーテルを漏斗に加え、蒸気抜きにより失われ得る分を補う。エーテル化合物分画をドラフト内で蒸発させ、望ましい生成物を形成させる。
【0056】
2.官能基を有する有機誘導体の調製
任意の数の官能基を有するシラン又はホスホリル誘導体を、欠損型ヘテロポリ酸に結合させて、無機−有機ハイブリッドモノマーを形成することができる。本プロジェクトに使用される、この官能基を有する有機前駆体は、メタクリルシラン及びスチリルシランであった。メタクリルオキシプロピルトリメトキシシランは、Gelest,Inc.から(form)購入された。トリエトキシスチリル−シランは、Judeinstein,P.,Synthesis and Properties of Polyoxometalates Based Inorganic−Organic Polymers.Chem.Mater.1992,4,4−7に記述されているグリニャール(Gringard)反応によって調製された(この文献の開示は、参考として本明細書に組み込まれる)。これらのモノマーに組み込まれ得る他の官能基を有する有機化合物は数多く存在する。
【0057】
3.無機−有機ハイブリッドモノマーの調製
一空位又は二空位の欠損型シリコタングステン酸のカリウム塩又は酸形態は、水溶液中、又は水とアセトニトリルの混合物中で、有機ホスホリル又は有機シリル官能基を有する化合物(フェニルホスホン酸、ホスホン酸、トリエトキシスチリルシラン、又はメタクリルオキシプロピル−トリメトキシシランなど)と混合される。この混合物は必要に応じて塩酸を加えることにより酸性にされる。この混合物を室温又は還流温度で一晩、攪拌して反応させる。テトラブチル−又はテトラメチル−アンモニウム(TBA又はTMA)塩は、テトラブチルアンモニウムブロミド又はテトラメチルアンモニウムクロリドをそれぞれ、化学量論的量加えることによって得ることができる。形成される白色の沈殿を水及びイソプロピルアルコールで洗う。望ましい生成物を得るため、この溶液を回転濃縮機(rotovap)にかけ、モノマーのカリウム塩又は酸形態を得ることができる。典型的な反応式を次に示す:
【0058】
【数1】
【0059】
使用するHPA、有機構成成分、及び存在する各構成成分の化学量論的量によって、この方法により多様な無機−有機ハイブリッドモノマーが調製されている。表2に、調製されるモノマーの種類をまとめる。
【0060】
【表2】
【0061】
この合成の具体的な実施例は、HSiW11(メタクリル)4モノマー(試料JLH−14−9b)の調製である。アセトニトリル(60.0mL)及び水(40.0mL)をビーカーに攪拌しながら加える。次に5.4851g(2mmol)の二空位欠損型シリコタングステン酸カリウム塩[K8(γ−SiW10O36)・8H2O]を攪拌しながら加え、白色のスラリーを形成する。次に1.9866g(8mmol)のメタクリルオキシプロピルトリメトキシシラン[(CH3O)3Si(CH2)3OC(O)C(CH3)CH2]をこの攪拌中のスラリーに滴下で加える。濃塩酸(8.0mL)をこのスラリーに攪拌しながらゆっくり加え、スラリーを透明にする。ビーカーにカバーをし、6時間攪拌し続ける。この溶液を濾過し、少量の粘性の共生成物を得る。溶液を回転濃縮機にかけて溶媒を除去し、得られた固体をエタノールで洗う。生成物をエタノール洗浄溶液中で攪拌した後、濾過する。エタノール洗浄液から濾液を蒸発させ、3.8629gの白色固体生成物を得る(収率62%)。
【0062】
4.無機−有機ハイブリッドポリマーの調製
無機−有機ハイブリッドポリマー及びコポリマーの調製には、2つの一般的な方法が使用される。これには、溶液ラジカル重合、酸化還元エマルション重合、及び水溶液ラジカル重合のための独自の方法が挙げられる。
【0063】
この合成の具体的な実施例は、HSiW11(スチリル)2ポリマー(試料JLH−12−195a)の重合である。このポリマーは100% HSiW11(スチリル)2モノマーから生成され、PolyPOM100sというコードが与えられる。HSiW11(スチリル)2(0.6672g)をバイアルに加える。次にジメチルスルホキシド(DMSO)(3〜4mL)をゆっくり加え、モノマーを溶かす。この溶液をシリンジ濾過して、一端が密封された厚いパイレックス(登録商標)管に入れる。この管を沸騰水中に入れ、アルゴンガスの泡を30分間通すことにより脱気する。次に反応開始剤アゾビスイソブチルニトリル(0.047g、モノマー官能基を基準に、8重量%の反応開始剤)を管に加える。この管を室温の水に入れ、アルゴンガスでパージしては減圧することを交互に5回繰り返す。この管をバーナーで溶接密封し、紫外線ランプ下に置く。重合が30分以内に起こった。この管を割って開封し、白色のポリマーゲルを得た。
【0064】
これらのモノマーを、ガラス転移温度Tgに影響する可能性がある、より一般的な市販のモノマーと共重合させることで、より柔軟な膜を調製する試みが行われた。共重合は、メチルメタクリレート、エチルメタクリレート、ブチルアクリレート、及びヘキシルアクリレートをコモノマーとして使用して実施された。他のモノマーも同様に使用することが可能であった。これらの重合は、上記に従って、但し、管に一種類以上の上記コモノマーを加えて実施された。加える反応開始剤の量もしかるべく調整された。ゲル状から脆性の膜まで、幅広い種類の材料が形成されている。
【0065】
コポリマーの合成の具体的な実施例は、TBASiW11(メタクリル)2/BAコポリマー(試料JLH−13−70a)である。このポリマーは、93重量%のTBASiW11(メタクリル)2コモノマー及び7重量%のブチルアクリレートコモノマーである。PolyPOM93mというコードが与えられる。TBASiW11(メタクリル)2モノマー(2.0236g)を空のバイアルに加えた。次に0.1604gのブチルアクリレート(BA)をこのバイアルに加える。ジメチルホルムアミド(DMF)(1.4459g)をバイアルに加えて、モノマーを溶かす。この溶液をシリンジフィルタで濾過して、一端が密封されたガラス管に入れる。このガラス管を沸騰水中に入れ、アルゴンガスの泡を30分間通すことにより脱気する。過酸化ベンゾイル(BOP)(0.0156g、モノマー官能基を基準に、5重量%の反応開始剤)をこの管に加える。この管を次にアルゴンガスでパージしては減圧することを交互に5回繰り返す。次にバーナーを用いて溶接密封する。この管を紫外線下に置き、30分以内に管内の液体が顕著に粘稠になった。この管を割って開封し、液体をガラスプレート上でキャスティングして、膜スプレッダーを使用して25μmの厚さに広げた。このガラスプレート上で、室温で膜を乾燥させた後、160℃の炉で20分間アニールした。黄色の脆い膜が形成された。
【0066】
表3は、ラジカル溶液重合によって合成されたポリマー及びコポリマーをまとめたものである。
【0067】
【表3】
【0068】
ラジカル重合技法によって生成されたいくつかのポリマー材質について、PFGSE NMR測定が行われた(図11を参照。ハイブリッド無機−有機モノマー及びポリマーについて、さまざまな温度で、PFGSE NMRプロトン拡散係数が報告されている)。これらの材質のプロトン拡散は、Nafion(登録商標)に匹敵する。
【0069】
脆性が少なく、柔軟な膜へとより容易にキャスティング(又はプレス)できるようなハイブリッドポリマーを形成する試みにおいて、酸化還元エマルション重合技法が使用された。一般に、エマルションプロセスによって生成されたポリマーの分子量は、バルク重合によって生成されたものよりも大きくなる傾向がある。
【0070】
ブチルメタクリレート(BM)、ブチルアクリレート(BA)及びエチルアクリレート(EA)の市販試料がコモノマーとして使用された。水とハイブリッドメタクリルモノマーとの混合物を、攪拌棒を備えた三口フラスコに加えた。窒素ガス流下で攪拌した後、継続的に激しく攪拌しながら、市販のコモノマーをエマルションに加えた。市販コモノマーの重量%は、エマルション中の有機官能基の合計重量を基準としている。これは、市販モノマーの質量と、ハイブリッドモノマーの有機官能基の質量とを加えることにより決定される。有機モノマーの重量パーセントを計算する際は、無機構成成分(ヘテロポリ酸)の重量は、考慮に入れない。界面活性剤のラウリル硫酸ナトリウムをこのエマルションに加えた。
【0071】
少量の過硫酸カリウム又は過硫酸ナトリウム、tert−ブチルヒドロペルオキシド、及びメタ重亜硫酸ナトリウムを加えることによって、エマルションに酸化還元反応開始系を組み入れる。添加される反応開始剤構成成分の重量パーセントは、上記のモノマーに存在する有機官能基の合計重量を基準とする。微量の硫酸鉄(II)を加えて、酸化還元反応開始剤を触媒することが知られているFe2+イオンを供給する。これらの酸化還元反応開始剤を加えると、室温以下で重合が起こる。室温近くで重合反応が開始してから約15分後、継続的に激しく攪拌しながらフラスコの温度を約70〜80℃に上げ、過剰の過硫酸カリウム又は過硫酸ナトリウムを熱反応開始剤として作用させ、重合の完了を促進した。典型的に、粘稠な白色のラテックス液体が形成された。ラテックスと共に、白色ポリマーの凝塊が攪拌棒周囲に形成された。酸形態のメタクリルモノマーを使用した場合は、ラテックスはほとんど形成されず、酸化還元反応開始剤をエマルションに加えるとすぐに白色凝塊が形成された。表4は、合成された酸化還元エマルション反応によるハイブリッドポリマーのリストである。これらの重合では、凝塊をテフロン(登録商標)シートに挟んでTシャツプレス機で、552kPa(80psi)及び100℃で130秒間プレスすることにより、柔軟な膜が形成された。
【0072】
【表4】
【0073】
酸化還元エマルション重合の具体的な実施例は、HSiW11(メタクリル)4/HAコポリマー(試料JLH−14−51b)の合成である。このポリマーは7重量%のHSiW11(メタクリル)4コモノマー及び93重量%のHAコモノマーを含む。このポリマーにはPolyPOM7mというコードが割当てられる。この反応では、攪拌棒、窒素流入口、温度計、及び水冷凝縮器を備えた三口反応フラスコに、7.53mLの脱イオン水を加える。窒素の泡を水中に15分間通して、残存酸素を除去する。次に0.3116gのHSiW11(メタクリル)4モノマーを攪拌しながらフラスコに加え、大半のモノマーが溶解して、かすかに曇った白色の懸濁液が生じた。次に0.040gのラウリル硫酸ナトリウムを加えた。この懸濁液が乳白色になった。この懸濁液を窒素流下で15分間攪拌した。次に4.3mLのEAモノマー、0.020gの過硫酸ナトリウム、及び0.080mLのFeSO4(水溶液)(0.15gのFeSO4・7H2Oを100mLのH2Oに溶解)を反応混合物に加えた。反応温度を20℃付近に維持した。次にtert−ブチルヒドロペルオキシド(TBH)1滴と、0.020gのメタ重亜硫酸ナトリウムを加えた。白色のゲル(get)状のポリマーがすぐに形成され、温度が約27℃まで上昇した。少量の液体ラテックスが形成された。フラスコが浸されている水浴を沸騰させ、反応温度を約60〜65℃にする。この水浴を冷まし、60〜70℃の反応温度を1/2時間維持した。少量の白色液体ラテックスと、固体ポリマーゲルが得られた。
【0074】
更に、水溶性コモノマーでの酸化還元水溶液重合を使用したハイブリッドポリマーの合成方法が開発された。溶液重合の新しい技法は、水溶性であるHPAコモノマーに融和性である。この技法で生成された膜は、良好な一体性を有し、燃料電池用途に有望である。HPAコモノマーは、水溶性コモノマーの溶液中に溶解されるか、又は水溶性コモノマー自体に直接溶解される。次に水溶性反応開始剤をこのHPAコモノマー/水溶性コモノマー溶液に加える。この溶液は、酸素が反応に干渉するのを防ぐため、シリコン加工した2枚のマイラーシートの間に挟んで急速にキャスティングされる。キャスティングされたモノマーは、マイラーシートの間に挟んで紫外線ランプ下で硬化させた。ランプ下で2〜24時間硬化させた後、ポリマー膜はシリコン加工マイラーフィルムから容易に除去できる。
【0075】
膜は、テトラブチルアンモニウム(TBA)塩若しくはHPAモノマーのカリウム塩、又はHPAモノマーの酸形態から、製造される。ポリマー膜のTBA−HPA形態は一般に、色が透明〜曇りである。ポリマー膜の酸−HPA形態は、当初は色が曇り又は透明であるが、時間が経つと、色が青に変わる。これは、HPAがポリマー中で還元されるためである。この青色は、HPAがポリマー中に存在しているという良好な指標となる。時間が経ち、特に空気に触れると、膜は再び透明になる。表5は、合成された膜のリストである。
【0076】
【表5】
【0077】
酸化還元水溶液重合の具体的な実施例は、HSiW11(メタクリル)2/HEAコポリマー膜(試料JLH−14−172a)の合成である。このポリマーは50重量%のHSiW11(メタクリル)2コモノマー及び50重量%のHEAを含む。このポリマーは、コードPolyPOM50mを有する。HSiW11(メタクリル)2モノマー(1.7296g)を、小さなバイアル中で、1.7127gのHEA及び1.2306gの脱イオンH2Oと混合した。アルゴンガスの泡をこの溶液に30分間通して溶液を脱気し、O2を除去した。次に0.066mLの1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン(HCPK)をバイアルに加え、素早く渦状に攪拌した。溶液を2枚のシリコン加工したマイラーシートの間に挟んでキャスティングし、紫外線ランプ下に24時間置いた。濃い青色の膜が形成され、これはわずかに伸縮性で柔軟であった。この膜は、プロトン伝導度を測定するための導電性装置に使用するのに適していた(図12を参照。この図は、幅広い温度及び湿度にわたる、HSiW11(メタクリル)2/HEAコポリマー膜のプロトン伝導度測定を示している)。
【技術分野】
【0001】
(関連出願の相互参照)
本開示は、米国特許仮出願番号第60/986749号(2007年11月9日出願)の権利を主張する。
【0002】
(政府の権利)
本開示の主題事項は、米国エネルギー省から認められた協力協定第DE−FC36−02AL67621号のもと、政府支援を得てなされた。政府は、本発明における特定の権利を有する。
【0003】
(開示の分野)
本開示は、ポリオキソメタレート(POM)又はヘテロポリ酸(HPA)を含有又は含む燃料電池に有用である可能性がある、ポリマー電解質、ポリマー電解質膜(PEM)及び膜電極アセンブリ(MEA)に関するものである。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0004】
単純に述べれば、本開示は、a)ポリマー電解質、b)ポリオキソメタレート、及びc)そのポリオキソメタレートに対する対イオン、を含むポリマー電解質組成物を提供するものであり、ここでこのポリオキソメタレートは、Mn及びCeからなる群から選択される遷移金属を含む。いくつかの実施形態において、この遷移金属はMnである。いくつかの実施形態において、この遷移金属はMeである。いくつかの実施形態において、このポリオキソメタレートはヘテロポリ酸である。ポリマー電解質組成物は、燃料電池のポリマー電解質膜に組み込むことができる。ポリマー電解質組成物は、燃料電池の膜電極アセンブリに組み込むことができる。
【0005】
別の態様において、本開示は、共有結合しているポリオキソメタレートとそれに伴うポリオキソメタレートに対する対イオンとを含む第1ペンダント基を含み、ポリオキソメタレート及び対イオンの少なくとも1つが、Mn及びCeからなる群から選択される遷移金属を含む、ポリマー電解質を提供する。いくつかの実施形態において、ポリオキソメタレートはMn及びCeからなる群から選択される遷移金属を含む。いくつかの実施形態において、このポリオキソメタレートはMnを含む。いくつかの実施形態において、このポリオキソメタレートはCeを含む。いくつかの実施形態において、このポリオキソメタレートに対する対イオンは、Mn陽イオン及びCe陽イオンからなる群から選択される。いくつかの実施形態において、このポリオキソメタレートに対する対イオンはMnである。いくつかの実施形態において、このポリオキソメタレートに対する対イオンはCeである。いくつかの実施形態において、このポリマー電解質はフッ素化されている。いくつかの実施形態において、このポリマー電解質は、ポリオキソメタレート以外の第2の酸官能基を含む。いくつかの実施形態において、このポリマー電解質は、ホスホン酸、スルホン酸及びビススルホニルイミドからなる群から選択される第2の酸官能基を含む。いくつかの実施形態において、このポリオキソメタレートは、Ti又はZr原子を介してポリマーに共有結合している。いくつかの実施形態において、このポリオキソメタレートは、シラン基を介してポリマーに共有結合している。いくつかの実施形態において、このポリオキソメタレートは、ホスホネート基を介してポリマーに共有結合している。
【0006】
別の態様において、本開示は、共有結合したポリオキソメタレートを含む第1ペンダント基を含むフッ素化ポリマー電解質を提供する。
【0007】
別の態様において、本開示は、共有結合したポリオキソメタレートを含む第1ペンダント基と、ポリオキソメタレート以外の第2の酸官能基とを含むポリマー電解質を提供する。いくつかの実施形態において、この第2の酸官能基は、ホスホン酸、スルホン酸及びビススルホニルイミドからなる群から選択される。
【0008】
別の態様において、本開示は、ポリマー電解質であって、ポリオキソメタレートがTi又はZr原子を介してポリマーに共有結合している、共有結合したポリオキソメタレートを含む第1ペンダント基を含む、ポリマー電解質を提供する。
【0009】
別の態様において、本開示は、ポリマー電解質であって、ポリオキソメタレートがホスホネート基を介してポリマーに共有結合している、共有結合したポリオキソメタレートを含む第1ペンダント基を含む、ポリマー電解質を提供する。
【0010】
別の態様において、本開示は、本明細書で開示されるそれぞれ及び全てのポリマー電解質を含む燃料電池ポリマー電解質膜を提供する。
【0011】
別の態様において、本開示は、本明細書で開示されるそれぞれ及び全てのポリマー電解質を含む燃料電池膜電極アセンブリを提供する。
【0012】
別の態様において、本開示は、a)Mn及びCeからなる群から選択される遷移金属を含む共有結合したポリオキソメタレートを含むモノマーと、b)少なくとも一種類のコモノマーとを、共重合させる工程を含む、ポリマー電解質の製造方法を提供する。
【0013】
別の態様において、本開示は、a)欠損型ヘテロポリ酸の結合部位の役割を果たし得る3つ以上の官能基を含むポリマーを提供する工程と、b)ポリオキソメタレートをポリマーに共有結合させる工程とを含む、ポリマー電解質の製造方法を提供する。いくつかの実施形態において、この方法は、a)3つ以上のシラン基を含むポリマーを提供する工程と、b)ポリオキソメタレートをそのポリマーのシラン基に共有結合させる工程とを含む。
【0014】
別の態様において、本開示は、a)ホスホン酸基を含むポリマーを提供する工程と、b)ポリオキソメタレートをそのポリマーのホスホン酸基に共有結合させる工程とを含む、ポリマー電解質の製造方法を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】実施例1に記述されているように、本発明によるMEA及び対照MEAの定電位スキャンを表わしたグラフ。
【図2】実施例1に記述されているように、本発明によるMEA及び対照MEAの定電位スキャンを表わしたグラフ。
【図3】実施例1に記述されているように、本発明によるMEA及び対照MEAの性能を、固定露点での電池温度の関数として表わしたグラフ。
【図4】実施例1に記述されているように、本発明によるMEA及び対照MEAのHFR(高周波数抵抗)を、電池温度の関数として表わしたグラフ。
【図5】実施例1に記述されているように、本発明によるMEA及び対照MEAの性能を、負荷下の電圧対時間として表わしたグラフ。
【図6】実施例1に記述されているように、本発明によるMEA及び対照MEAについて、FER対時間を表わしたグラフ。
【図7】実施例1に記述されているように、本発明によるMEA及び対照MEAについて、延長スペクトルを表わしたグラフ。
【図8】実施例1に記述されているように、さまざまな試料及び温度について、インピーダンスのコールコール(Cole-Cole)プロット全幅のグラフ。
【図9】実施例1に記述されているように、さまざまな試料及び温度について、インピーダンスのコールコール(Cole-Cole)プロット全幅のグラフ。
【図10】実施例1に記述されているように、さまざまな試料及び温度について、インピーダンスのコールコール(Cole-Cole)プロット全幅のグラフ。
【図11】実施例2に記述されているように、ハイブリッド無機−有機モノマー及びポリマーについて、さまざまな温度でのPFGSE NMRプロトン拡散係数のグラフ。
【図12】実施例2に記述されているように、温度及び湿度の一定範囲にわたる、HSiW11(メタクリル)2/HEAコポリマー膜のプロトン伝導度測定値のグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本開示は、1つ以上のポリオキソメタレート(対イオンを伴うことがある)を含むポリマー電解質に関するものであり、このときこのポリオキソメタレート又はそれに対する対イオンの一方又は両方が、W、V、Mo、Nb、Mn及びCeの1つ以上を含み得てこれらに制限されない遷移金属原子を含み、より典型的にはMn又はCeを含む。ポリオキソメタレートは、イソポリオキソメタレート又はヘテロポリオキソメタレートであり得る。ポリオキソメタレートは、酸形態、すなわちプロトン(H+)によって電荷が釣り合っている形態であってよく、又は塩形態、すなわちプロトン(H+)以外の陽イオンで電荷が釣り合っている状態であってよい。ポリオキソメタレートを含むポリマー電解質は、燃料電池膜電極アセンブリの1つ以上の部品(例えばポリマー電解質膜、アノード又はカソードなど)の一部又は全てを構成することができる。所望により、ポリオキソメタレートは任意の適切な方法でポリマー電解質に部分的に又は完全に固定化することができ、この方法には不溶性の塩として沈殿、マトリックス内に捕捉、支持体に共有結合、又はポリマー電解質自体に共有結合させることが挙げられ得る。
【0017】
本開示による膜電極アセンブリ(MEA)及びポリマー電解質膜(PEM)は、燃料電池に使用することができる。MEAは、水素燃料電池のようなプロトン交換膜燃料電池の中心要素である。燃料電池は、水素などの燃料と酸素などの酸化剤との触媒された混合物によって使用可能な電気を生み出す電気化学電池である。典型的なMEAは、固体電解質として機能するポリマー電解質膜(PEM)(イオン導電膜(ICM)としても既知である)を含む。PEMの一方の面はアノード電極層と接触し、反対側の面はカソード電極層と接触する。典型的な使用では、プロトンが、水素酸化を介してアノードにおいて形成され、PEMをわたってカソードに輸送されて酸素と反応し、電極を接続する外部回路内に電流を流す。各電極層は、典型的には白金金属を含む電気化学触媒を含む。PEMは、反応ガス間に、耐久性のある無孔の非導電性機械的障壁を形成するが、それでもやはりH+イオンを容易に通過させる。ガス拡散層(GDL)が、アノード及びカソード電極材料の間を行き来するガス輸送を促進して、電流を伝導する。GDLは、多孔質及び導電性の両方であり、典型的には炭素繊維から構成される。またGDLは、流体輸送層(FTL)又はディフューザ/集電体(DCC)と呼ばれる場合もある。いくつかの実施形態では、アノード及びカソード電極層をGDLに適用し、結果として生じる触媒コーティングされたGDLでPEMを挟んで、5層MEAを形成する。5層MEAの5層は、アノードGDL、アノード電極層、PEM、カソード電極層、及びカソードGDLの順である。他の実施形態では、アノード及びカソード電極層をPEMのいずれの側にも適用し、結果として生じる触媒コーティングされた膜(CCM)を2つのGDL間に挟んで、5層MEAを形成する。
【0018】
本開示によるPEMは、任意の好適なポリマー、又はポリマーの混合物を含み得る。典型的なポリマー電解質は、共通主鎖に結合したアニオン性官能基を含み、これは典型的にはスルホン酸基であるが、またカルボン酸基、イミド基、アミド基、又は他の酸の官能基を含んでもよい。本開示によるポリマー電解質は、ポリオキソメタレートを含む官能基を含み得る。このポリマー電解質は、典型的にはフッ素化されており、より典型的には高フッ素化されており、及び最も典型的には全フッ素化されているが、フッ素化されていなくてもよい。このポリマー電解質は、典型的にはテトラフルオロエチレンと、一種類以上のフッ素化された酸官能基コモノマーとのコポリマーである。典型的なポリマー電解質としては、Nafion(登録商標)(DuPont Chemicals,Wilmington DE)及びFlemion(商標)(Asahi Glass Co.Ltd.,Tokyo,Japan)が挙げられる。ポリマー電解質は、米国特許出願第10/322,254号、同第10/322,226号及び同第10/325,278号(これらは本明細書に参考として組み込まれる)に記載されている、テトラフルオロエチレン(TFE)とFSO2−CF2CF2CF2CF2−O−CF=CF2とのコポリマーであってよい。このポリマーは、典型的には1200以下、より典型的には1100以下、より典型的には1000以下、より典型的には900以下、及びより典型的には800以下の当量(EW)を有している。非フッ素化ポリマーには、スルホン化PEEK、スルホン化ポリスルホン、スルホン酸基を含む芳香族ポリマーなどを挙げることができ、これらに制限されない。
【0019】
ポリマーは、任意の好適な方法により膜に形成することができる。ポリマーは、典型的には、懸濁液からキャスティングされる。任意の好適なキャスティング法を使用してよく、バーコーティング、スプレーコーティング、スリットコーティング、ブラシコーティングなどが挙げられる。あるいは、膜を、純粋なポリマーから、押出成形のような溶融プロセスにより形成してもよい。形成後、膜を典型的には120℃以上、より典型的には130℃以上、最も典型的には150℃以上の温度でアニールしてもよい。PEMの厚さは、典型的には50マイクロメートル未満、より典型的には40マイクロメートル未満、より典型的には30マイクロメートル未満、及び最も典型的には約25マイクロメートル未満である。
【0020】
本開示によるポリマー電解質は、ポリオキソメタレート(POM)又はヘテロポリ酸(HPA)を含み得る。ポリオキソメタレートは、酸素配位した遷移金属陽イオン(金属酸化物多面体)を含む化学種の分類であり、輪郭のはっきりした(分離性の)クラスター、鎖、又はシートに組み立てられ、ここにおいて少なくとも1つの酸素原子が2つの金属原子に配位結合している(架橋酸素)。ポリオキソメタレートはその構造中に2つ以上の金属陽イオンを含んでいなければならない。ポリオキソメタレートクラスター、鎖、又はシートは、分離性の化学物質として、典型的には正味の電荷をもち、適切に帯電した対イオンとともに固体として又は液体中に存在することができる。陰イオンポリオキソメタレートは、プラスに帯電している対イオン(対陽イオン)によって、溶液中又は固体形態中で電荷が釣り合っている。一種類だけの金属元素を含むポリオキソメタレートは、イソポリオキソメタレートと呼ばれる。二種類以上の金属元素を含むポリオキソメタレートは、ヘテロポリオキソメタレートと呼ばれる。所望により、ポリオキソメタレートは更に、第13族、第14族、又は第15族の金属陽イオンを含み得る。第13族、第14族、又は第15族の金属陽イオン(ヘテロ原子)を含む陰イオンポリオキソメタレートで、プロトンによって電荷が釣り合っているものは、ヘテロポリ酸(HPA)と呼ばれる。プロトンが他の対陽イオンでイオン交換されたヘテロポリ酸は、HPA塩、又はHPAの塩と呼ばれる。
【0021】
本開示のいくつかの実施形態において、ポリマー電解質は、ポリオキソメタレートを組み込んで提示される。ポリオキソメタレート及び/又はそれに対する対イオンは、遷移金属原子を含み、これにはW、V、Mo、Nb、Mn及びCeの1つ以上が挙げられこれらに限定されず、より典型的にはMn又はCeであり得る。本開示のいくつかの実施形態は、マンガン含有ポリオキソメタレートを含むポリマー電解質に関するものである。本開示のいくつかの実施形態は、ポリオキソメタレートのマンガン塩を含むポリマー電解質に関するものである。本開示のいくつかの実施形態は、セリウム含有ポリオキソメタレートを含むポリマー電解質に関するものである。本開示のいくつかの実施形態は、ポリオキソメタレートのセリウム塩を含むポリマー電解質に関するものである。これらのカテゴリーは相互に排他的ではなく、重なり合ってもよい。例えば、マンガン含有ポリオキソメタレート若しくはセリウム含有ポリオキソメタレートのマンガン塩、又は、マンガン含有ポリオキソメタレート若しくはセリウム含有ポリオキソメタレートのセリウム塩であってよい。
【0022】
本開示に有用なポリオキソメタレートには、イソポリオキソメタレート及びヘテロポリオキソメタレートが挙げられる。MEAに有用なポリオキソメタレートは、水溶性であっても非水溶性であってもよい。非水溶性ポリオキソメタレートは、水によってMEAから出て行きにくい場合があり、これにより、ポリオキソメタレートを塩の形態(例えばセシウム塩)で沈殿によって固定化することができる。
【0023】
HPA、及びHPAのマンガン塩又はセリウム塩は、本開示の実施に使用することができる。有用なヘテロポリ酸は、ポリオキソメタレート(例えばクラスター、鎖、又はシート)中にマンガンイオン又はセリウムイオンを含み得る。本開示のいくつかの実施形態は、マンガン含有HPAを含むポリマー電解質に関するものである。本開示のいくつかの実施形態は、HPAのマンガン塩を含むポリマー電解質に関するものである。本開示のいくつかの実施形態は、セリウム含有HPAを含むポリマー電解質に関するものである。本開示のいくつかの実施形態は、HPAのセリウム塩を含むポリマー電解質に関するものである。これらのカテゴリーは相互に排他的ではなく、重なり合ってもよい。例えば、マンガン含有HPA若しくはセリウム含有HPAのマンガン塩、又は、マンガン含有HPA若しくはセリウム含有HPAのセリウム塩であってよい。
【0024】
ポリオキソメタレートは所望により、任意の適切な方法で、ポリマー電解質に部分的に又は完全に固定化することができ、この方法には不溶性の塩として沈殿、マトリックス内に捕捉(例えば、ゾル−ゲル金属酸化物マトリックス)、支持体に共有結合(例えば、ポリオキソメタレートの欠損型結合部位を使用して粒子に取り付ける)、又はポリマーに共有結合させる(例えば、ポリオキソメタレートの欠損型結合部位を使用して)、などが挙げられ得る。
【0025】
本発明のいくつかの実施形態において、欠損型ヘテロポリ酸が、ポリマーの官能基(欠損型ヘテロポリ酸では結合部位の役目を果たし得る)によってポリマーに共有結合する。これにはホスホン酸、シラン(トリハロシラン及びトリアルコキシシランを含む)などが挙げられ得る。いくつかの実施形態において、POMは、POMの一部分を形成するTi又はZr原子を介して、ポリマーの一部分を形成する炭素原子に結合することにより、ポリマーに結合することができ、これにはTi−O−C、Zr−O−C、Ti−C又はZr−C連結が含まれる。ポリマーは任意で架橋されていてよい。いくつかの実施形態において、このポリマーはポリマー電解質である。いくつかの実施形態において、このポリマー電解質は、ポリマーに結合するヘテロポリ酸に加え、酸基及び同様物などの、プロトン伝導度を付与するペンダント基を含む。他の実施形態において、結合したヘテロポリ酸は、結果として得られるポリマー電解質のプロトン伝導度のほぼ全てをもたらす。いくつかの実施形態において、このポリマーはマトリックスであり、この中にポリマー電解質が吸収されるか、圧縮されるか、吸い込まれるか、ないしは別の方法で組み込まれ得る。いくつかの実施形態において、このポリマーは、ポリマー電解質と混合し得る粒子を含む。
【0026】
本発明のいくつかの実施形態において、欠損型ヘテロポリ酸は、重合の際にポリマーに組み込まれる。このヘテロポリ酸は、重合の際にモノマーと反応するよう改変することができる。これは例えば、反応性の二重結合を含む官能基、又は同様の重合可能な基を組み込むことによって行われる。ポリマーは任意で架橋されていてよい。いくつかの実施形態において、このポリマーはポリマー電解質である。いくつかの実施形態において、このポリマー電解質は、ポリマーに結合するヘテロポリ酸に加え、酸基及び同様物などの、プロトン伝導度を付与するペンダント基を含む。他の実施形態において、結合したヘテロポリ酸は、結果として得られるポリマー電解質のプロトン伝導度のほぼ全てをもたらす。いくつかの実施形態において、このポリマーはマトリックスであり、この中にポリマー電解質が吸収されるか、圧縮されるか、吸い込まれるか、ないしは別の方法で組み込まれ得る。いくつかの実施形態において、このポリマーは、ポリマー電解質と混合し得る粒子を含む。
【0027】
本発明のいくつかの実施形態において、欠損型ヘテロポリ酸は、その欠損型ヘテロポリ酸に結合した連結基を介して、ポリマーの官能基によってポリマーに共有結合している。ポリマーは任意で架橋されていてよい。いくつかの実施形態において、このポリマーはポリマー電解質である。いくつかの実施形態において、このポリマー電解質は、ポリマーに結合するヘテロポリ酸に加え、酸基及び同様物などの、プロトン伝導度を付与するペンダント基を含む。他の実施形態において、結合したヘテロポリ酸は、結果として得られるポリマー電解質のプロトン伝導度のほぼ全てをもたらす。いくつかの実施形態において、このポリマーはマトリックスであり、この中にポリマー電解質が吸収されるか、圧縮されるか、吸い込まれるか、ないしは別の方法で組み込まれ得る。いくつかの実施形態において、このポリマーは、ポリマー電解質と混合し得る粒子を含む。
【0028】
本開示のいくつかの実施形態において、膜形成の前に、1つ以上のPOM、HPA、又はこれらの塩をポリマー電解質に添加することができる。典型的には、実質的に均一な分布を達成するために、POM、HPA、又は塩をポリマー電解質に十分に混合する。混合は、ミリング、混練りなどを含む任意の好適な方法で実現され、及び溶媒の含有の有無を問わず起きることがある。添加量は、典型的には最終的なポリマー電解質又はPEMの合計重量の0.01〜5重量%、より典型的には0.1〜2重量%、より典型的には0.2〜0.3重量%である。
【0029】
本開示によるポリマーの膜は、任意の好適なPOM成分を含み得る。膜又はポリマーのPOM成分は、典型的には75重量%未満である。
【0030】
本開示のいくつかの実施形態において、本明細書に記載されているポリマーは、他のポリマー又は他のポリマー電解質と混合して、強度、粘弾性的特性、Tgなどの特性を改変することができる。本開示のいくつかの実施形態において、本明細書に記載されているポリマーは、多孔質マトリックス又は支持層に吸い込ませることができ、これはフッ素化でも非フッ素化でもよく、いくつかの実施形態においては膨張PTFEであり得る。
【0031】
MEA又はCCMを製造するために、触媒は任意の好適な手段によってPEMに適用されてもよく、それには、ハンドブラッシング、ノッチバーコーティング、流体ベアリングダイコーティング、巻線ロッドコーティング、流体ベアリングコーティング、スロット供給ナイフコーティング、3ロールコーティング、又はデカール転写を包含する、手動方法及び機械方法の両方が挙げられる。コーティングは、1回の付着作業又は複数回の付着作業で行うことができる。
【0032】
任意の好適な触媒が本開示の実施に使用されてもよい。典型的には、炭素担持触媒粒子が使用される。典型的な炭素担持触媒粒子は、50〜90重量%の炭素及び10〜50重量%の触媒金属であり、触媒金属は、典型的には、カソード用にPt、並びにアノード用にPt及びRuを2:1の重量比で含む。典型的には、触媒は、触媒インクの形態でPEM又はFTLに適用される。あるいは、触媒インクを転写基材に適用し、乾燥させ、その後にPEMに又はFTLに、デカールとして適用してもよい。触媒インクは、典型的には、PEMを構成するポリマー電解質材料と同じであっても同じでなくてもよいポリマー電解質材料を含む。触媒インクは、典型的には、ポリマー電解質の分散液中に触媒粒子の分散液を含む。このインクは、典型的には5〜30%の固体(すなわちポリマー及び触媒)、より典型的には10〜20%の固体を含有する。電解質分散液は、典型的には水性分散液であり、これは、アルコール、並びにグリセリン及びエチレングリコールのような多価アルコールを更に含有してもよい。水、アルコール、及び多価アルコールの含有量は、インクのレオロジー特性を変えるように調整してもよい。インクは、典型的には、0〜50%のアルコール及び0〜20%の多価アルコールを含有する。加えて、インクは0〜2%の好適な分散剤を含有してもよい。インクは、典型的には、熱と共に撹拌し、その後、コーティング可能な稠度に希釈して製造される。
【0033】
本開示のいくつかの実施形態において、この電極又はこの触媒インクは、PEMの使用について上に記載したように、POM又はHPAを含むポリマー電解質であり得るポリマー電解質を含む。いくつかの実施形態において、上述のようにPOM又はHPAを含むポリマー電解質は、MEAの一方又は両方の電極に使用することができるが、MEAのPEMには使用できない。
【0034】
MEAを製造するために、任意の好適な手段により、GDLをCCMのいずれの側に適用してもよい。任意の好適なGDLが使用できる。典型的には、GDLは、炭素繊維を含むシート材料から構成される。典型的には、GDLは、織布及び不織布炭素繊維構造から選択される炭素繊維構造である。有用である可能性がある炭素繊維構成体には、Toray(商標)Carbon Paper、SpectraCarb(商標)Carbon Paper、AFN(商標)不織カーボンクロス、Zoltek(商標)Carbon Cloth、及び同様のものが挙げられる。GDLは、様々な材料によりコーティング又は浸透されてもよく、炭素粒子コーティング、親水性化処理、及び疎水化処理、例えばポリテトラフルオロエチレン(PTFE)又はテトラフルオロエチレンコポリマー(FEPなど)によるコーティングが挙げられる。
【0035】
使用する際、本発明に係るMEAは典型的には、分配プレートとして既知の、またバイポーラプレート(BPP)又はモノポーラプレートとしても既知の2枚の剛性プレートの間に挟む。GDLのように、分配プレートは導電性でなければならない。分配プレートは典型的には、炭素複合材料、金属材料、又はめっき金属材料から製造される。分配プレートは、反応物質又は生成物質の流体を、MEA電極表面との間で、典型的には、MEAに面する表面内に刻印された、フライス削りされた、成形された、又は打ち抜かれた1つ以上の流体伝導チャネルを通って分配する。これらのチャネルは、流動フィールド(flow field)と呼ばれることもある。分配プレートは、流体を積み重ねられた2つの連続したMEAに分配するか、又はMEAから分配してもよく、1つの面は第1のMEAのアノードに燃料を導き、他の面は次のMEAのカソードに酸化剤を導く(及び生成水を除去する)。典型的な燃料電池用積み重ね体は、分配プレートと交互に積み重ねられた多くのMEAを含んでいる。
【0036】
本開示は、燃料電池の製造及び稼動に有用である。
【0037】
本開示の目的及び利点を、以下の実施例によって更に例示するが、これらの実施例において列挙される特定の材料及びその量並びに他の諸条件及び詳細によって、本開示を不当に制限するものではないと解釈すべきである。本開示の様々な修正及び変更は、本開示の範囲及び原理から逸脱することなく当業者には明白であり、また、本開示は、上記で説明した例示的な実施形態に過度に限定して理解すべきではない。
【実施例】
【0038】
他に言及のない限り、全ての試薬はAldrich Chemical Co.(Milwaukee,WI)から得たか、若しくは入手可能であり、又は既知の方法によって合成してもよい。
【0039】
実施例I
目的:本研究の目的は、より高温で乾燥した条件下において、FER(フッ素放出率)の低減及び伝導度の増加について、新しいMn系HPA(ドーソン(Dawson)型H7[P2W17O61](Mn−OH2)]−NH2)の使用を評価することである。使用できるPEMの量は、異なるPEMタイプそれぞれについて、1つのMEAに対する試験に限定された。
【0040】
方法:PEMは、3M 1000ewアイオノマーを使用してCSMで製造された(米国特許出願第10/322,254号、同第10/322,226号及び同第10/325,278号に記載、これらは参考として本明細書に組み込まれる)。添加物は溶液に対して重量パーセンテージで加えられた。PEMは、CSMでキャスティング及びアニールが行われた。キャスティングされたPEMの公称厚さは40.6マイクロメートル(1.6mil)であるが、使用されたPEMはそれぞれ、活性領域にわたる厚さが33.0〜43.2マイクロメートル(1.3〜1.7mil)で変化した。添加PEMは色勾配を有し、全てのPEMはある程度の形態的特徴及びしわを有していた。できる限り最良の領域を選択するよう最善の努力がなされた。使用された電極は、標準EWアイオノマー及びI/C比の、0.4mg/cm2Ptの機械コーティングされた2950 GDLであった。
【0041】
50cm2の活性領域を有する燃料電池MEAが、次のようにPEMから調製された。触媒分散液を、PTFE処理したカーボンペーパーガス放散層にコーティングし、得られたCCBを、約132℃、約13.4kNの力で、約10分間Carver Press(Fred Carver Co.,Wabash,IN)内でプレスすることにより、PEMに適用した。
【0042】
全てのMEAが、ガス流量、圧力、相対湿度、及び電流又は電圧の独立制御を備えた試験ステーション内で(Fuel Cell Technologies,Albuquerque,NM)、四重S字流量フィールドでFuel Cell Technologiesの50cm2電池を使用し、co流量モードで試験された。燃料電池試験では、インキュベーション、温度攻撃、フッ化物収集のエージングの、4つの異なる段階が実施された。液体の水が電池内に形成され得る条件を避けるよう、注意が払われた。試験中は常時、流入ガスが飽和未満であり、インキュベーション段階での最高電流でのみ、排出ガス流が飽和に達するようにされた。電池を動作温度にしてから、ガスが飽和された。試験ステーション加湿システムは、流入ガス流の完全な気化を確実にするよう調節された。これは、HPLCポンプを使用して、916SSウールを充填した形成散布ボトルに流入ガスと共に18MΩ脱イオン水をポンプで入れ、測定することにより達成された。このボトルを露点設定値より10℃上の温度に加熱し、加湿したガス流をボトルの上から排出させ、これにより液体の水がボトルから出る可能性を排除した。アノード側とカソード側の排水流両方からの流出水を採取し、採取の時刻と採取した水の量を両方記録した。水試料は後で、Dionex Ion Chromatography設定を用いてF濃度の分析を行った。すべての試験について、流出ガス流は周囲気圧であった。
【0043】
電池のインキュベーションは、電池温度80℃、H2/空気流800/1800sccm、流入ガス流70℃で行われた。偏光スキャンは、スキャンとスキャンとの間に電池を0.5ボルトに設定し、10分おきに行った。偏光スキャンは、0.9ボルトから0.3ボルトへと電池電位を変化させ、電流を記録しながら、50mV刻み、ドエル時間10秒で戻した。インキュベーション時間は約6時間継続し、これは性能が安定レベルに達するのに常に充分であった。
【0044】
インキュベーション後、試験手順指示により、電池を試験の攻撃(challenge)位相に置いた。流量は、水素を348sccm、空気を833sccmにそれぞれ設定した。これは、0.5アンペア/cm2設定値で化学量論的に2/2に相当する。電池をまず、85℃に加熱した。攻撃位相の残り時間は、電池温度だけを85℃から100℃に3℃間隔で変えた。各温度で、電池を20分間その条件及び電流に維持してから、更に10分間のスキャンで最終的な電圧を記録した。その最後の10分間のスキャンにおいて、全幅のインピーダンス測定が、最終スキャン中に3〜4回実施された。インピーダンス測定は、負荷下で実施され、回路の電池及び既知の閉じた抵抗に対して発した電位>10mVの方形波を利用した。高速フーリエ変換を使用して、周波数の関数としてインピーダンスを導いた。
【0045】
試験の最後の段階は、オペレーターが電池を停止するまで閉回路にするエージング工程であった。試験のこの段階中に、流出水の採取が実施された。電池が電流を維持しなくなるまで、又はOCVが急激に低下するまで、少なくとも8組の採取が実施された。エージング工程については、電池温度を90℃、水素/空気流を348/833sccm、流入ガス流を露点70℃に維持した。電池サイクルは、0.5アンペア/cm2で30分間、次にOCVで2分間測定を実施してから、0.5アンペア/cm2一定のスキャンに戻した。
【0046】
ECSA(電気化学的表面積)試験は、試験を行った全試料について、過飽和、40/60/60℃、H2/N2が800/1800sccm、流出流は周辺温度、という試験条件で、事後に実施された。この条件はHPA損失がある場合はそれを悪化させるよう選択されたものである。3種類の異なる電圧掃引が行われた−50mV/秒0.11〜0.65ボルト、2mV/秒0.11〜0.65ボルト、及び50mV/秒0.11〜1.1ボルト。1回目が「標準」のスキャンとして参照され、2回目がベースラインを決定するために使用され、最後の回は「延長」として用いられた。カソードが酸化力のある何らかのものによって悪影響を受けた場合、この延長回で、標準に比べて表面積の増加が示される。
【0047】
結果:
開始−
図1及び2は、開始段階を示す。図1は、開始条件下で行われた最後の偏光スキャンを表わす。図2は、スキャン数の関数としての、偏光スキャンと偏光スキャンとの間に実施されたPSS(定電位スキャン)を示す。開始稼働のおよその時間は6時間である。
【0048】
乾燥攻撃試験−
開始段階の後、手順指示により、乾燥攻撃試験に進んだ。この結果を図3及び4に示す。図3は、一定露点で、電池温度に対する関数としての各MEAの性能を示す。エラーバーは、最後のGSS(定電流スキャン)にわたる電圧変動である。図4は、電池温度に対する関数としてのHFR(高周波数抵抗)を示す。各温度及び試料についてのインピーダンスのコールコールプロット全幅が、図8〜10で等方向的にプロットされている。
【0049】
加速試験−
加速試験の結果は図5に示されており、この図は負荷下の電圧対時間、図6ではFER対時間を表わしている。図6において、x軸は採取時間を表わす。
【0050】
ECSA試験−
ECSA試験の結果は、表1にまとめられている。1%Mnが、SEF(表面積強化因子−触媒表面積/幾何学的表面積)において唯一、実際に異なっているように見受けられる。これは、ロールの劣る部分から採取されたためである可能性が十分にある。図7の延長スペクトルを見ると、Mnに関連した観測可能な明らかな特徴はなく、すべてのスペクトルがほぼ等しいことがわかる。
【0051】
【表1】
【0052】
追加試験−
5cm2のPEM切片をダイカットし、計量して、室温で脱イオン水20ccが入った密閉ボトルに入れた。pH試験紙を用いて試験し、試料間に測定可能なpHの差はなかった。
【0053】
結論:この添加物は、乾燥条件でより低いHFRを示し、より低いFERであり、かつ高安定性であるという独自の特性を有する。
【0054】
実施例II
1.欠損型ヘテロポリ酸の調製
一空位又は二空位の欠損型シリコタングステン酸のカリウム塩は、Teze,A.;Herve,G.,α−,β−,and γ−Dodecatungstosilicic acids:isomers and related lacunary compounds.Inorganic Syntheses 1990,27,85−96に記述されているように合成された(この文献の開示は、参考として本明細書に組み込まれる)。ハイブリッド有機−無機モノマーの合成には、任意の欠損型ヘテロポリ酸を使用することが可能である。欠損型シリコタングステン酸のカリウム塩は、調製次第すぐに使用された。
【0055】
しばしば、これらの合成を欠損型シリコタングステン酸の酸形態で開始したい場合がある。この酸形態は、Cowan,J.J.;Hill,C.L.;Reiner,R.S.;Weinstock,I.A.,Dodecatungstoalumic acid and its lacunary and mixed addendum derivatives.Inorganic Syntheses 1990,33,18−26に記述されている手順により改変されたエーテル抽出手法によって、カリウム塩から調製される(この文献の開示は、参考として本明細書に組み込まれる)。欠損型シリコタングステン酸のカリウム塩の0.085M溶液が、脱イオン水中で攪拌し、60℃に加熱することによって調製される。この溶液を注意深く35(±3)℃まで冷ます。氷浴中で、溶液の温度を35(±3)℃に維持しながら、濃硫酸を滴下でこの溶液に加える。濃硫酸は、加えた水対加えた硫酸の比が3:1になるまで加える。硫酸を加えた後、この溶液を、温度が0℃になるまで氷浴中で冷やす。溶液が冷えるにつれて、約5℃で白色沈殿が形成される。この溶液を分液漏斗に移し、0℃に冷却したジエチルエーテルを加える。分液漏斗中のエーテル対水の比は、約1:1とする。分液漏斗を振盪し、注意深く蒸気を抜く。液が落ち着いたら、エーテル化合物層が漏斗の底に形成され、これを除去する。漏斗を振盪し、蒸気を抜き、エーテル化合物層が形成されなくなるまで繰り返す。このプロセスの間、エーテルを漏斗に加え、蒸気抜きにより失われ得る分を補う。エーテル化合物分画をドラフト内で蒸発させ、望ましい生成物を形成させる。
【0056】
2.官能基を有する有機誘導体の調製
任意の数の官能基を有するシラン又はホスホリル誘導体を、欠損型ヘテロポリ酸に結合させて、無機−有機ハイブリッドモノマーを形成することができる。本プロジェクトに使用される、この官能基を有する有機前駆体は、メタクリルシラン及びスチリルシランであった。メタクリルオキシプロピルトリメトキシシランは、Gelest,Inc.から(form)購入された。トリエトキシスチリル−シランは、Judeinstein,P.,Synthesis and Properties of Polyoxometalates Based Inorganic−Organic Polymers.Chem.Mater.1992,4,4−7に記述されているグリニャール(Gringard)反応によって調製された(この文献の開示は、参考として本明細書に組み込まれる)。これらのモノマーに組み込まれ得る他の官能基を有する有機化合物は数多く存在する。
【0057】
3.無機−有機ハイブリッドモノマーの調製
一空位又は二空位の欠損型シリコタングステン酸のカリウム塩又は酸形態は、水溶液中、又は水とアセトニトリルの混合物中で、有機ホスホリル又は有機シリル官能基を有する化合物(フェニルホスホン酸、ホスホン酸、トリエトキシスチリルシラン、又はメタクリルオキシプロピル−トリメトキシシランなど)と混合される。この混合物は必要に応じて塩酸を加えることにより酸性にされる。この混合物を室温又は還流温度で一晩、攪拌して反応させる。テトラブチル−又はテトラメチル−アンモニウム(TBA又はTMA)塩は、テトラブチルアンモニウムブロミド又はテトラメチルアンモニウムクロリドをそれぞれ、化学量論的量加えることによって得ることができる。形成される白色の沈殿を水及びイソプロピルアルコールで洗う。望ましい生成物を得るため、この溶液を回転濃縮機(rotovap)にかけ、モノマーのカリウム塩又は酸形態を得ることができる。典型的な反応式を次に示す:
【0058】
【数1】
【0059】
使用するHPA、有機構成成分、及び存在する各構成成分の化学量論的量によって、この方法により多様な無機−有機ハイブリッドモノマーが調製されている。表2に、調製されるモノマーの種類をまとめる。
【0060】
【表2】
【0061】
この合成の具体的な実施例は、HSiW11(メタクリル)4モノマー(試料JLH−14−9b)の調製である。アセトニトリル(60.0mL)及び水(40.0mL)をビーカーに攪拌しながら加える。次に5.4851g(2mmol)の二空位欠損型シリコタングステン酸カリウム塩[K8(γ−SiW10O36)・8H2O]を攪拌しながら加え、白色のスラリーを形成する。次に1.9866g(8mmol)のメタクリルオキシプロピルトリメトキシシラン[(CH3O)3Si(CH2)3OC(O)C(CH3)CH2]をこの攪拌中のスラリーに滴下で加える。濃塩酸(8.0mL)をこのスラリーに攪拌しながらゆっくり加え、スラリーを透明にする。ビーカーにカバーをし、6時間攪拌し続ける。この溶液を濾過し、少量の粘性の共生成物を得る。溶液を回転濃縮機にかけて溶媒を除去し、得られた固体をエタノールで洗う。生成物をエタノール洗浄溶液中で攪拌した後、濾過する。エタノール洗浄液から濾液を蒸発させ、3.8629gの白色固体生成物を得る(収率62%)。
【0062】
4.無機−有機ハイブリッドポリマーの調製
無機−有機ハイブリッドポリマー及びコポリマーの調製には、2つの一般的な方法が使用される。これには、溶液ラジカル重合、酸化還元エマルション重合、及び水溶液ラジカル重合のための独自の方法が挙げられる。
【0063】
この合成の具体的な実施例は、HSiW11(スチリル)2ポリマー(試料JLH−12−195a)の重合である。このポリマーは100% HSiW11(スチリル)2モノマーから生成され、PolyPOM100sというコードが与えられる。HSiW11(スチリル)2(0.6672g)をバイアルに加える。次にジメチルスルホキシド(DMSO)(3〜4mL)をゆっくり加え、モノマーを溶かす。この溶液をシリンジ濾過して、一端が密封された厚いパイレックス(登録商標)管に入れる。この管を沸騰水中に入れ、アルゴンガスの泡を30分間通すことにより脱気する。次に反応開始剤アゾビスイソブチルニトリル(0.047g、モノマー官能基を基準に、8重量%の反応開始剤)を管に加える。この管を室温の水に入れ、アルゴンガスでパージしては減圧することを交互に5回繰り返す。この管をバーナーで溶接密封し、紫外線ランプ下に置く。重合が30分以内に起こった。この管を割って開封し、白色のポリマーゲルを得た。
【0064】
これらのモノマーを、ガラス転移温度Tgに影響する可能性がある、より一般的な市販のモノマーと共重合させることで、より柔軟な膜を調製する試みが行われた。共重合は、メチルメタクリレート、エチルメタクリレート、ブチルアクリレート、及びヘキシルアクリレートをコモノマーとして使用して実施された。他のモノマーも同様に使用することが可能であった。これらの重合は、上記に従って、但し、管に一種類以上の上記コモノマーを加えて実施された。加える反応開始剤の量もしかるべく調整された。ゲル状から脆性の膜まで、幅広い種類の材料が形成されている。
【0065】
コポリマーの合成の具体的な実施例は、TBASiW11(メタクリル)2/BAコポリマー(試料JLH−13−70a)である。このポリマーは、93重量%のTBASiW11(メタクリル)2コモノマー及び7重量%のブチルアクリレートコモノマーである。PolyPOM93mというコードが与えられる。TBASiW11(メタクリル)2モノマー(2.0236g)を空のバイアルに加えた。次に0.1604gのブチルアクリレート(BA)をこのバイアルに加える。ジメチルホルムアミド(DMF)(1.4459g)をバイアルに加えて、モノマーを溶かす。この溶液をシリンジフィルタで濾過して、一端が密封されたガラス管に入れる。このガラス管を沸騰水中に入れ、アルゴンガスの泡を30分間通すことにより脱気する。過酸化ベンゾイル(BOP)(0.0156g、モノマー官能基を基準に、5重量%の反応開始剤)をこの管に加える。この管を次にアルゴンガスでパージしては減圧することを交互に5回繰り返す。次にバーナーを用いて溶接密封する。この管を紫外線下に置き、30分以内に管内の液体が顕著に粘稠になった。この管を割って開封し、液体をガラスプレート上でキャスティングして、膜スプレッダーを使用して25μmの厚さに広げた。このガラスプレート上で、室温で膜を乾燥させた後、160℃の炉で20分間アニールした。黄色の脆い膜が形成された。
【0066】
表3は、ラジカル溶液重合によって合成されたポリマー及びコポリマーをまとめたものである。
【0067】
【表3】
【0068】
ラジカル重合技法によって生成されたいくつかのポリマー材質について、PFGSE NMR測定が行われた(図11を参照。ハイブリッド無機−有機モノマー及びポリマーについて、さまざまな温度で、PFGSE NMRプロトン拡散係数が報告されている)。これらの材質のプロトン拡散は、Nafion(登録商標)に匹敵する。
【0069】
脆性が少なく、柔軟な膜へとより容易にキャスティング(又はプレス)できるようなハイブリッドポリマーを形成する試みにおいて、酸化還元エマルション重合技法が使用された。一般に、エマルションプロセスによって生成されたポリマーの分子量は、バルク重合によって生成されたものよりも大きくなる傾向がある。
【0070】
ブチルメタクリレート(BM)、ブチルアクリレート(BA)及びエチルアクリレート(EA)の市販試料がコモノマーとして使用された。水とハイブリッドメタクリルモノマーとの混合物を、攪拌棒を備えた三口フラスコに加えた。窒素ガス流下で攪拌した後、継続的に激しく攪拌しながら、市販のコモノマーをエマルションに加えた。市販コモノマーの重量%は、エマルション中の有機官能基の合計重量を基準としている。これは、市販モノマーの質量と、ハイブリッドモノマーの有機官能基の質量とを加えることにより決定される。有機モノマーの重量パーセントを計算する際は、無機構成成分(ヘテロポリ酸)の重量は、考慮に入れない。界面活性剤のラウリル硫酸ナトリウムをこのエマルションに加えた。
【0071】
少量の過硫酸カリウム又は過硫酸ナトリウム、tert−ブチルヒドロペルオキシド、及びメタ重亜硫酸ナトリウムを加えることによって、エマルションに酸化還元反応開始系を組み入れる。添加される反応開始剤構成成分の重量パーセントは、上記のモノマーに存在する有機官能基の合計重量を基準とする。微量の硫酸鉄(II)を加えて、酸化還元反応開始剤を触媒することが知られているFe2+イオンを供給する。これらの酸化還元反応開始剤を加えると、室温以下で重合が起こる。室温近くで重合反応が開始してから約15分後、継続的に激しく攪拌しながらフラスコの温度を約70〜80℃に上げ、過剰の過硫酸カリウム又は過硫酸ナトリウムを熱反応開始剤として作用させ、重合の完了を促進した。典型的に、粘稠な白色のラテックス液体が形成された。ラテックスと共に、白色ポリマーの凝塊が攪拌棒周囲に形成された。酸形態のメタクリルモノマーを使用した場合は、ラテックスはほとんど形成されず、酸化還元反応開始剤をエマルションに加えるとすぐに白色凝塊が形成された。表4は、合成された酸化還元エマルション反応によるハイブリッドポリマーのリストである。これらの重合では、凝塊をテフロン(登録商標)シートに挟んでTシャツプレス機で、552kPa(80psi)及び100℃で130秒間プレスすることにより、柔軟な膜が形成された。
【0072】
【表4】
【0073】
酸化還元エマルション重合の具体的な実施例は、HSiW11(メタクリル)4/HAコポリマー(試料JLH−14−51b)の合成である。このポリマーは7重量%のHSiW11(メタクリル)4コモノマー及び93重量%のHAコモノマーを含む。このポリマーにはPolyPOM7mというコードが割当てられる。この反応では、攪拌棒、窒素流入口、温度計、及び水冷凝縮器を備えた三口反応フラスコに、7.53mLの脱イオン水を加える。窒素の泡を水中に15分間通して、残存酸素を除去する。次に0.3116gのHSiW11(メタクリル)4モノマーを攪拌しながらフラスコに加え、大半のモノマーが溶解して、かすかに曇った白色の懸濁液が生じた。次に0.040gのラウリル硫酸ナトリウムを加えた。この懸濁液が乳白色になった。この懸濁液を窒素流下で15分間攪拌した。次に4.3mLのEAモノマー、0.020gの過硫酸ナトリウム、及び0.080mLのFeSO4(水溶液)(0.15gのFeSO4・7H2Oを100mLのH2Oに溶解)を反応混合物に加えた。反応温度を20℃付近に維持した。次にtert−ブチルヒドロペルオキシド(TBH)1滴と、0.020gのメタ重亜硫酸ナトリウムを加えた。白色のゲル(get)状のポリマーがすぐに形成され、温度が約27℃まで上昇した。少量の液体ラテックスが形成された。フラスコが浸されている水浴を沸騰させ、反応温度を約60〜65℃にする。この水浴を冷まし、60〜70℃の反応温度を1/2時間維持した。少量の白色液体ラテックスと、固体ポリマーゲルが得られた。
【0074】
更に、水溶性コモノマーでの酸化還元水溶液重合を使用したハイブリッドポリマーの合成方法が開発された。溶液重合の新しい技法は、水溶性であるHPAコモノマーに融和性である。この技法で生成された膜は、良好な一体性を有し、燃料電池用途に有望である。HPAコモノマーは、水溶性コモノマーの溶液中に溶解されるか、又は水溶性コモノマー自体に直接溶解される。次に水溶性反応開始剤をこのHPAコモノマー/水溶性コモノマー溶液に加える。この溶液は、酸素が反応に干渉するのを防ぐため、シリコン加工した2枚のマイラーシートの間に挟んで急速にキャスティングされる。キャスティングされたモノマーは、マイラーシートの間に挟んで紫外線ランプ下で硬化させた。ランプ下で2〜24時間硬化させた後、ポリマー膜はシリコン加工マイラーフィルムから容易に除去できる。
【0075】
膜は、テトラブチルアンモニウム(TBA)塩若しくはHPAモノマーのカリウム塩、又はHPAモノマーの酸形態から、製造される。ポリマー膜のTBA−HPA形態は一般に、色が透明〜曇りである。ポリマー膜の酸−HPA形態は、当初は色が曇り又は透明であるが、時間が経つと、色が青に変わる。これは、HPAがポリマー中で還元されるためである。この青色は、HPAがポリマー中に存在しているという良好な指標となる。時間が経ち、特に空気に触れると、膜は再び透明になる。表5は、合成された膜のリストである。
【0076】
【表5】
【0077】
酸化還元水溶液重合の具体的な実施例は、HSiW11(メタクリル)2/HEAコポリマー膜(試料JLH−14−172a)の合成である。このポリマーは50重量%のHSiW11(メタクリル)2コモノマー及び50重量%のHEAを含む。このポリマーは、コードPolyPOM50mを有する。HSiW11(メタクリル)2モノマー(1.7296g)を、小さなバイアル中で、1.7127gのHEA及び1.2306gの脱イオンH2Oと混合した。アルゴンガスの泡をこの溶液に30分間通して溶液を脱気し、O2を除去した。次に0.066mLの1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン(HCPK)をバイアルに加え、素早く渦状に攪拌した。溶液を2枚のシリコン加工したマイラーシートの間に挟んでキャスティングし、紫外線ランプ下に24時間置いた。濃い青色の膜が形成され、これはわずかに伸縮性で柔軟であった。この膜は、プロトン伝導度を測定するための導電性装置に使用するのに適していた(図12を参照。この図は、幅広い温度及び湿度にわたる、HSiW11(メタクリル)2/HEAコポリマー膜のプロトン伝導度測定を示している)。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
a)ポリマー電解質と、
b)ポリオキソメタレートと、
c)該ポリオキソメタレートに対する対イオンと、
を含み、
該ポリオキソメタレートは、Mn及びCeからなる群から選択される遷移金属を含む、ポリマー電解質組成物。
【請求項2】
前記ポリオキソメタレートがMnを含む、請求項1に記載のポリマー電解質組成物。
【請求項3】
前記ポリオキソメタレートがCeを含む、請求項1に記載のポリマー電解質組成物。
【請求項4】
前記ポリオキソメタレートがヘテロポリ酸である、請求項1〜3のいずれか一項に記載のポリマー電解質組成物。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか一項のポリマー電解質組成物を含む、燃料電池ポリマー電解質膜。
【請求項6】
請求項1〜4のいずれか一項のポリマー電解質組成物を含む、燃料電池膜電極アセンブリ。
【請求項7】
共有結合しているポリオキソメタレートとそれに伴うポリオキソメタレートに対する対イオンとを含む第1ペンダント基を含み、前記ポリオキソメタレート及び前記対イオンの少なくとも1つが、Mn及びCeからなる群から選択される遷移金属を含む、ポリマー電解質。
【請求項8】
前記ポリオキソメタレートがMn及びCeからなる群から選択される遷移金属を含む、請求項7に記載のポリマー電解質。
【請求項9】
前記ポリオキソメタレートがMnを含む、請求項7に記載のポリマー電解質。
【請求項10】
前記ポリオキソメタレートがCeを含む、請求項7に記載のポリマー電解質。
【請求項11】
前記ポリオキソメタレートに対する前記対イオンが、Mn陽イオン及びCe陽イオンからなる群から選択される、請求項7〜10のいずれか一項に記載のポリマー電解質。
【請求項12】
前記ポリオキソメタレートに対する前記対イオンがMn陽イオンである、請求項7〜10のいずれか一項に記載のポリマー電解質。
【請求項13】
前記ポリオキソメタレートに対する前記対イオンがCe陽イオンである、請求項7〜10のいずれか一項に記載のポリマー電解質。
【請求項14】
フッ素化されている、請求項7〜13のいずれか一項に記載のポリマー電解質。
【請求項15】
ポリオキソメタレート以外の第2の酸官能基を含む、請求項7〜14のいずれか一項に記載のポリマー電解質。
【請求項16】
前記第2の酸官能基が、ホスホン酸、スルホン酸及びビススルホニルイミドからなる群から選択される、請求項15に記載のポリマー電解質。
【請求項17】
前記ポリオキソメタレートが、Ti又はZr原子を介して前記ポリマーに共有結合している、請求項7〜16のいずれか一項に記載のポリマー電解質。
【請求項18】
前記ポリオキソメタレートが、シラン基を介して前記ポリマーに共有結合している、請求項7〜16のいずれか一項に記載のポリマー電解質。
【請求項19】
前記ポリオキソメタレートが、ホスホネート基を介して前記ポリマーに共有結合している、請求項7〜16のいずれか一項に記載のポリマー電解質。
【請求項20】
共有結合したポリオキソメタレートを含む第1ペンダント基を含む、フッ素化ポリマー電解質。
【請求項21】
共有結合したポリオキソメタレートを含む第1ペンダント基と、ポリオキソメタレート以外の第2の酸官能基とを含む、ポリマー電解質。
【請求項22】
前記第2の酸官能基が、ホスホン酸、スルホン酸及びビススルホニルイミドからなる群から選択される、請求項21に記載のポリマー電解質。
【請求項23】
ポリマー電解質であって、ポリオキソメタレートがTi又はZr原子を介して前記ポリマーに共有結合している、共有結合したポリオキソメタレートを含む第1ペンダント基を含む、ポリマー電解質。
【請求項24】
ポリマー電解質であって、ポリオキソメタレートがホスホネート基を介して前記ポリマーに共有結合している、共有結合したポリオキソメタレートを含む第1ペンダント基を含む、ポリマー電解質。
【請求項25】
請求項7〜24のいずれか一項に記載のポリマー電解質を含む、燃料電池ポリマー電解質膜。
【請求項26】
請求項7〜24のいずれか一項に記載のポリマー電解質を含む、燃料電池膜電極アセンブリ。
【請求項27】
a)Mn及びCeからなる群から選択される遷移金属を含む、共有結合したポリオキソメタレートを含むモノマーと、
b)少なくとも一種類のコモノマーと、
を共重合する工程を含む、ポリマー電解質の製造方法。
【請求項28】
a)欠損型ヘテロポリ酸の結合部位として作用し得る3つ以上の官能基を含むポリマーを提供する工程と、
b)ポリオキソメタレートを該ポリマーに共有結合させる工程と、を含む、ポリマー電解質の製造方法。
【請求項29】
a)3つ以上のシラン基を含むポリマーを提供する工程と、
b)ポリオキソメタレートを該ポリマーのシラン基に共有結合させる工程と、を含む、請求項28に記載の方法。
【請求項30】
a)ホスホン酸基を含むポリマーを提供する工程と、
b)ポリオキソメタレートを該ポリマーのホスホン酸基に共有結合させる工程と、を含む、ポリマー電解質の製造方法。
【請求項1】
a)ポリマー電解質と、
b)ポリオキソメタレートと、
c)該ポリオキソメタレートに対する対イオンと、
を含み、
該ポリオキソメタレートは、Mn及びCeからなる群から選択される遷移金属を含む、ポリマー電解質組成物。
【請求項2】
前記ポリオキソメタレートがMnを含む、請求項1に記載のポリマー電解質組成物。
【請求項3】
前記ポリオキソメタレートがCeを含む、請求項1に記載のポリマー電解質組成物。
【請求項4】
前記ポリオキソメタレートがヘテロポリ酸である、請求項1〜3のいずれか一項に記載のポリマー電解質組成物。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか一項のポリマー電解質組成物を含む、燃料電池ポリマー電解質膜。
【請求項6】
請求項1〜4のいずれか一項のポリマー電解質組成物を含む、燃料電池膜電極アセンブリ。
【請求項7】
共有結合しているポリオキソメタレートとそれに伴うポリオキソメタレートに対する対イオンとを含む第1ペンダント基を含み、前記ポリオキソメタレート及び前記対イオンの少なくとも1つが、Mn及びCeからなる群から選択される遷移金属を含む、ポリマー電解質。
【請求項8】
前記ポリオキソメタレートがMn及びCeからなる群から選択される遷移金属を含む、請求項7に記載のポリマー電解質。
【請求項9】
前記ポリオキソメタレートがMnを含む、請求項7に記載のポリマー電解質。
【請求項10】
前記ポリオキソメタレートがCeを含む、請求項7に記載のポリマー電解質。
【請求項11】
前記ポリオキソメタレートに対する前記対イオンが、Mn陽イオン及びCe陽イオンからなる群から選択される、請求項7〜10のいずれか一項に記載のポリマー電解質。
【請求項12】
前記ポリオキソメタレートに対する前記対イオンがMn陽イオンである、請求項7〜10のいずれか一項に記載のポリマー電解質。
【請求項13】
前記ポリオキソメタレートに対する前記対イオンがCe陽イオンである、請求項7〜10のいずれか一項に記載のポリマー電解質。
【請求項14】
フッ素化されている、請求項7〜13のいずれか一項に記載のポリマー電解質。
【請求項15】
ポリオキソメタレート以外の第2の酸官能基を含む、請求項7〜14のいずれか一項に記載のポリマー電解質。
【請求項16】
前記第2の酸官能基が、ホスホン酸、スルホン酸及びビススルホニルイミドからなる群から選択される、請求項15に記載のポリマー電解質。
【請求項17】
前記ポリオキソメタレートが、Ti又はZr原子を介して前記ポリマーに共有結合している、請求項7〜16のいずれか一項に記載のポリマー電解質。
【請求項18】
前記ポリオキソメタレートが、シラン基を介して前記ポリマーに共有結合している、請求項7〜16のいずれか一項に記載のポリマー電解質。
【請求項19】
前記ポリオキソメタレートが、ホスホネート基を介して前記ポリマーに共有結合している、請求項7〜16のいずれか一項に記載のポリマー電解質。
【請求項20】
共有結合したポリオキソメタレートを含む第1ペンダント基を含む、フッ素化ポリマー電解質。
【請求項21】
共有結合したポリオキソメタレートを含む第1ペンダント基と、ポリオキソメタレート以外の第2の酸官能基とを含む、ポリマー電解質。
【請求項22】
前記第2の酸官能基が、ホスホン酸、スルホン酸及びビススルホニルイミドからなる群から選択される、請求項21に記載のポリマー電解質。
【請求項23】
ポリマー電解質であって、ポリオキソメタレートがTi又はZr原子を介して前記ポリマーに共有結合している、共有結合したポリオキソメタレートを含む第1ペンダント基を含む、ポリマー電解質。
【請求項24】
ポリマー電解質であって、ポリオキソメタレートがホスホネート基を介して前記ポリマーに共有結合している、共有結合したポリオキソメタレートを含む第1ペンダント基を含む、ポリマー電解質。
【請求項25】
請求項7〜24のいずれか一項に記載のポリマー電解質を含む、燃料電池ポリマー電解質膜。
【請求項26】
請求項7〜24のいずれか一項に記載のポリマー電解質を含む、燃料電池膜電極アセンブリ。
【請求項27】
a)Mn及びCeからなる群から選択される遷移金属を含む、共有結合したポリオキソメタレートを含むモノマーと、
b)少なくとも一種類のコモノマーと、
を共重合する工程を含む、ポリマー電解質の製造方法。
【請求項28】
a)欠損型ヘテロポリ酸の結合部位として作用し得る3つ以上の官能基を含むポリマーを提供する工程と、
b)ポリオキソメタレートを該ポリマーに共有結合させる工程と、を含む、ポリマー電解質の製造方法。
【請求項29】
a)3つ以上のシラン基を含むポリマーを提供する工程と、
b)ポリオキソメタレートを該ポリマーのシラン基に共有結合させる工程と、を含む、請求項28に記載の方法。
【請求項30】
a)ホスホン酸基を含むポリマーを提供する工程と、
b)ポリオキソメタレートを該ポリマーのホスホン酸基に共有結合させる工程と、を含む、ポリマー電解質の製造方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公表番号】特表2011−503300(P2011−503300A)
【公表日】平成23年1月27日(2011.1.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−533275(P2010−533275)
【出願日】平成20年11月7日(2008.11.7)
【国際出願番号】PCT/US2008/082783
【国際公開番号】WO2009/108222
【国際公開日】平成21年9月3日(2009.9.3)
【出願人】(505005049)スリーエム イノベイティブ プロパティズ カンパニー (2,080)
【出願人】(502032275)
【Fターム(参考)】
【公表日】平成23年1月27日(2011.1.27)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年11月7日(2008.11.7)
【国際出願番号】PCT/US2008/082783
【国際公開番号】WO2009/108222
【国際公開日】平成21年9月3日(2009.9.3)
【出願人】(505005049)スリーエム イノベイティブ プロパティズ カンパニー (2,080)
【出願人】(502032275)
【Fターム(参考)】
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