説明

ヘリウムリークディテクタおよびそのヘリウムリークディテクタに設けられた補正電極に印加する電圧の調整方法

【課題】検出感度の低下を抑制し、測定制度の高いヘリウムリークディテクタを提供すること。
【解決手段】CイオンなどのHeイオンより重たいイオンが照射される位置に補正電極18を設ける。補正電極18は、中間隔壁13などの分析管10の内部とは絶縁されている。補正電極18は電源111に接続されている。電源111は、補正電極18に印加する電圧の電圧値を可変にできる。電源111は、分析管10の内部に付着したカーボンが偏向軌道Aに及ぼす静電力を相殺するように補正電極18に電圧(たとえば、−70〜0V)を印加する。これにより、Heイオンの偏向軌道Aの歪を抑制できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、真空容器の気密性の検査等に用いられるリークディテクタに関するものである。
【背景技術】
【0002】
分析管の中間隔壁に設けたスリットによってヘリウムイオンと軌道半径の異なる他のイオンをヘリウムイオンから分離するヘリウムリークディテクタが従来技術として知られている(たとえば、特許文献1参照)。
【特許文献1】特開2000−121484号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ヘリウムイオン分析管内の磁場偏向軌道上を進行する各種イオンのうち、油回転ポンプのオイルが発生原因であるハイドロカーボンなどの重いイオンは、分析管の内面に付着し易く汚染の原因となる。特許文献1に記載されているような従来のヘリウムリークディテクタでは、中間隔壁などの分析管の内面にハイドロカーボンが付着すると、ヘリウムイオン本来の磁場偏向軌道に歪みを生じさせるので、検出感度の低下を招き、正確なリーク量の測定ができないという問題がある。
【課題を解決するための手段】
【0004】
(1)請求項1の発明は、被検体からリークされたヘリウムガスを分析管に導いて検出するヘリウムリークディテクタにおいて、分析管は、イオン源部と、イオン源部で生成されるイオンビームを磁場偏向させる磁性体と、磁性体により軌道偏向されたヘリウムイオンビームを選択して通過させるスリット部材と、ヘリウムイオンより重たいイオンのイオンビームが照射される位置に設けられ、ヘリウムイオンビームの軌道を修正する補正電圧が印加される補正電極と、スリット部材を通過したヘリウムイオンをイオン電流として検出するイオンコレクタ部とを備えることを特徴とする。
(2)請求項2の発明は、請求項1に記載のヘリウムリークディテクタにおいて、補正電極に補正電圧を可変に印加する電源を備えることを特徴とする。
(3)請求項3の発明は、請求項1または2に記載のヘリウムリークディテクタにおいて、イオン源部に加速電圧を印加し補正電極に電圧を印加したときにイオンコレクタ部で検出したイオン電流に基づいて、補正電圧を決定する補正電圧調整手段を備えることを特徴とする。
(4)請求項4の発明は、請求項1乃至3のいずれか1項に記載のヘリウムリークディテクタにおいて、ヘリウムイオンより重たいイオンは、ハイドロカーボンより生成されたイオンであることを特徴とする。
(5)請求項5の発明は、請求項1または2に記載のヘリウムリークディテクタに設けられた補正電極に印加する電圧の調整方法であって、リーク量校正用のヘリウムを分析管に導いて、補正電極に印加する電圧を変更しながらイオンコレクタ部でイオン電流を検出したとき、イオン電流が最大になる電圧を補正電極に印加することを特徴とする。
(6)請求項6の発明は、請求項3に記載の補正電極に印加する電圧の調整方法において、補正電極に印加する電圧とともに、さらにイオン源部の加速電圧を変更しながらイオンコレクタ部でイオン電流を検出したとき、イオン電流が最大になったときのイオン源部の加速電圧をイオン源部の加速電圧とし、補正電極に印加した電圧を補正電極に印加する電圧とすることを特徴とする。
【発明の効果】
【0005】
本発明によれば、検出感度の低下を抑制できるので、測定精度の高いヘリウムリークディテクタを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0006】
以下、本発明によるヘリウムリークディテクタについて、図面を参照して説明する。
図1は、本発明の実施の形態によるヘリウムリークディテクタを模式的に示す全体構成図である。ヘリウムリークディテクタ1は、テストポート2を介してリーク検査の被検体である真空容器100に配管接続されている。
【0007】
ヘリウムリークディテクタ1は、油回転ポンプ3、機械式ドライポンプ4およびターボ分子ポンプ5の3台の排気ポンプと、排気経路を開閉するバルブV1,V2,V3,V4の4個のバルブと、リーク校正部6と、分析管10とを有する。分析管10は、ターボ分子ポンプ5、機械式ドライポンプ4、バルブV2を介して油回転ポンプ3に配管接続されている。真空容器100は、テストポート2、バルブV1を介して油回転ポンプ3に配管接続されている。また、真空容器100は、テストポート2、バルブV4を介してターボ分子ポンプ5の排気口5aに配管接続されている。リーク校正部6は、バルブV3、バルブV4を介してターボ分子ポンプ5の排気口5aに配管接続されている。
【0008】
真空容器100のリーク検査は、以下の手順で行う。
(1)バルブV1、V3、V4を閉じるとともに、バルブV2を開いて、分析管10内をターボ分子ポンプ5、機械式ドライポンプ4、油回転ポンプ3の直列構成で所定のバックグランド値(真空度)になるまで排気する。
(2)分析管10内が所定のバックグランド値まで低下した後に、バルブV2を閉じるともにバルブV1を開いて、真空容器100内を油回転ポンプ3で排気(粗引き排気)する。このとき、ターボ分子ポンプ5と機械式ドライポンプ4は運転を止める。
(3)バルブV1を閉じるともにバルブV4を開いて、分析管10によるリークガス検出を開始する。すなわち、真空容器100のリーク試験箇所にヘリウム(He)ガスを吹き付ける。
(4)真空容器100のリーク試験箇所にリークがあると、真空容器100内にHeガスが侵入し、そのHeガスの分圧に応じた量は、開放になっているバルブV4、ターボ分子ポンプ5を経て分析管10に到来する。分析管10がHeガスを検出することにより、真空容器100のリーク量が測定される。
【0009】
リーク量の校正をする場合は、テストポート2を閉じ、バルブV3,V4を開いて、Heガスをリーク校正部6から分析管10に導く。リーク構成部6からは既定の流量でHeガスが流出される。このときの検出値がリーク量の基準値となる。
【0010】
続いて、図2〜4を用い、ヘリウムリークディテクタの分析管の構成と動作をさらに詳細に説明する。
図2は、本発明の実施の形態によるヘリウムリークディテクタの分析管の構成と動作を模式的に示す透視図であり、直交座標で方向が表されている。図3は、図2の分析管の動作原理図ある。図3においては、図2と同じ構成部品には同一符号を付し、説明を省略する。図4は、図3に対応する従来の分析管の断面図であり、図3と比較するために用いられるものである。
【0011】
図2に示されるように、分析管10は、イオンソース11、加速スリット12、中間隔壁13、第1のアーススリット14、サブレッサスリット15、第2のアーススリット16、イオンコレクタ17および補正電極18を有する。不図示のコの字型(馬蹄形)の永久磁石によって、分析管10の内部にはZ方向の反対方向に磁場が発生している。分析管10に導入されたHeガスは、イオンソース11のフィラメント11aから放出される熱電子の流れ(エミッション電流)の作用を受け、イオン化される。Heイオンは、加速スリット12によりイオンビームとして、加速スリット12の開口12aから永久磁石13が形成する磁場空間に入射する。加速電圧は、電源110によって印加され、加速電圧の電圧値は240〜300Vである。このイオンビーム中にはHeイオンだけではなく、水素(H)イオン、ハイドロカーボン(C)イオン等が含まれる場合がある。
【0012】
Heイオンが磁場空間により曲げられ、偏向軌道Aを通って、中間隔壁13のスリット13aを通過した後、第1のアーススリット14の開口14aへ入射するように、分析管10は構成されている。一方、Heイオンより軽いHイオンは、磁場空間による偏向が大きく、偏向軌道Bを通るので、中間隔壁13のスリット13aを通過しない。Heイオンより重いCイオンは、磁場空間による偏向が小さく、偏向軌道Cを通るので、中間隔壁13のスリット13aを通過しない。
【0013】
したがって、ほぼ完全にHeイオンのみのビームが中間隔壁13および第1のアーススリット14を通過し、更にサブレッサスリット15、第2のアーススリット16を通過してイオンコレクタ17に入射する。なお、偏向軌道A,B,Cは、実際には立体的な弧状の軌道である。イオンコレクタ17に入射したHeイオンについてイオン電流計19でイオン電流を検出し、不図示の測定部は、このイオン電流値により被検体である真空容器100のリーク量を測定する。
【0014】
ここで、図4を用いて、従来の分析管の問題点を述べる。図4に示されるように、Heイオンは、加速スリット22の開口22aから射出し、アーススリット24の開口24aへ入射する偏向軌道Aを通る。一方、Cイオンは、偏向軌道Cを通過中に、加速スリット22に対向する面S1や中間隔壁23の一部の面S2にカーボンとして付着する。面S1,S2に付着したカーボンは、イオンの作用により帯電し、この静電力によりHeイオンの偏向軌道Aに歪を生じさせる。Heイオンは、確実に第1のアーススリット24の開口24aへ入射しなくなってしまう(偏向軌道A’)。その結果、イオン電流計19によるHeイオンのイオン電流の検出値が低下、つまり感度が低下してしまう。
【0015】
そこで、実施の形態のヘリウムリークディテクタ1では、図2および図3に示すように、CイオンなどのHeイオンより重たいイオンが照射される位置(面S1,S2の位置)に補正電極18を設ける。補正電極18は、中間隔壁13などの分析管10の内部とは絶縁されている。補正電極18は電源111に接続されている。電源111は、補正電極18に印加する電圧の電圧値を可変にできる。電源111は、面S1,S2に付着したカーボンが偏向軌道Aに及ぼす静電力を相殺するように補正電極18に電圧(たとえば、−70〜0V)を印加する。これにより、Heイオンの偏向軌道Aの歪を抑制できる。
【0016】
補正電極18に印加する電圧値は以下のようにして調節する。
(1)リーク量の校正をする場合と同様に、テストポート2を閉じ、バルブV3,V4を開いて、Heガスをリーク校正部6から分析管10に導き、Heイオンのイオン電流値を検出する。
(2)イオン電流値が最大になるように補正電極18に印加する電圧を調整する。イオン電流値が最大になったときの電圧値が補正電極18に印加する電圧の電圧値となる。
【0017】
以上説明した実施形態によれば、次の作用効果が得られる。
(1)CイオンなどのHeイオンより重たいイオンが照射される位置に、Heイオンビームの偏向軌道Aを修正する補正電圧が印加される補正電極18を設けるようにした。これにより、帯電したカーボンの静電力によるHeイオンの偏向軌道Aの歪を抑制できる。その結果、磁場空間の磁場の強さが安定し、偏向軌道Aが安定し、Heの検出感度が向上するという効果が得られる。したがって、ヘリウムリークディテクタ1の測定制度を高い状態で安定維持できる。
【0018】
また、分析管10の内面に付着したカーボンを除去する作業頻度を少なくすることができ、ヘリウムリークディテクタ1の維持管理が容易になる。
【0019】
分析管10の内部の圧力が高いと、Heイオンより重たいイオンが多くなり、その重たいイオンの静電力でHeイオンの偏向軌道Aに歪が生じてしまう場合がある。圧力が高い状態でリーク検査を行う場合も、補正電極18に電圧を印加することによって、Heイオンの偏向軌道Aの歪を抑制することができ、分析管10のヘリウムイオン検出感度を高くすることができる。
【0020】
リーク検査を行う被検体の表面に汚れなどの残留物が多い場合、分析管10の内部に付着する残留物の増加速度が大きくなるため、分析管10のヘリウムイオン検出感度が短時間に低下する。そのような供試体のリーク検査を行う場合も、補正電極18に印加する電圧値を調整しながら検査することによって、分析管10のヘリウムイオン検出感度を高く維持することができる。
【0021】
ロボットなどを利用して、自動的に被検体のリーク検査を行うと、短時間に大量の被検体を検査するため、分析管10の内部に付着するカーボンの増加速度も速くなる。その結果、分析管10のヘリウムイオン検出感度も短時間に低下する。自動化してリーク検査する場合も補正電極18に印加する電圧値を調整することによって分析管10のヘリウムイオン検出感度を高く維持することができる。
【0022】
(2)リーク量の校正をする場合と同様に、Heガスをリーク校正部6から分析管10に導き、Heイオンのイオン電流値を検出する。そして、補正電極18に印加する電圧を変更して、イオン電流値が最大になる電圧値を検出し、その電圧値で補正電極18に印加し、リーク検査を行うようにした。したがって、Heイオンの偏向軌道Aの歪を抑制するのに好適な電圧値を容易に決定できる。
【0023】
以上の実施形態を次のように変形することができる。
(1)ヘリウムリークディテクタは1、Heイオンが磁場空間により曲げられ、偏向軌道Aを通って、中間隔壁13のスリット13aを通過した後、第1のアーススリット14の開口14aへ入射するように、Heイオンを加速する加速電圧を自動的に補正する機能を有する。この加速電圧自動補正機能では、イオン電流値が最大になるように加速電圧を補正する。このとき、補正電極18の電圧値を調整するようにしてもよい。
【0024】
たとえば、分析管10の内部を洗浄した後の最初のリーク量の校正を行うとき、分析管10の内部にハイドロカーボンによる付着物が付着していないので、補正電極18に電圧を印加しないで加速電圧の調整を行う。そして、次回からは、加速電圧を変更せず、補正電圧18に印加する電圧の調整で、イオン電流値が最大になるように調整する。また、イオン電流値が最大になるように、加速電圧の電圧値と補正電極18との電圧値とを両方とも調整するようにしてもよい。
【0025】
補正電極18に印加する電圧値とともに、さらに加速電圧の電圧値を検討することによって、より多くのHeイオンを、第1のアーススリット14の開口14aへ入射させるようにすることができる。
【0026】
(2)ハイドロカーボンより生成されるイオンが照射される位置であれば、補正電極18を設ける位置は、Cイオンが照射される位置に限定されない。また、Heイオンより重たいイオンが照射される位置であれば、ハイドロカーボンより生成されるイオンが照射される位置に限定されない。このようなイオンが照射された位置に生成した化合物が帯電しHeイオンの偏向軌道Aに影響を与えるおそれがあるからである。
【0027】
なお、本発明は、上記の実施の形態に限られず、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で様々な変形が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明の実施の形態に係るヘリウムリークディテクタを模式的に示す全体構成図である。
【図2】本発明の実施の形態に係るヘリウムリークディテクタの分析管の構成と動作を模式的に示す透視図である。
【図3】図2の分析管の動作原理図である。
【図4】従来の分析管の動作原理図であり、図3に対応する図である。
【符号の説明】
【0029】
1:ヘリウムリークディテクタ
2:テストポート
3:油回転ポンプ
4:機械式ドライポンプ
5:ターボ分子ポンプ
10:分析管
11:イオンソース
12:加速スリット
13:中間隔壁
14:第1のアーススリット
15:サブレッサスリット
16:第2のアーススリット
17:イオンコレクタ
18:補正電極
100:真空容器(リーク検査の被検体)
110,111 電源
A,B,C:偏向軌道

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被検体からリークされたヘリウムガスを分析管に導いて検出するヘリウムリークディテクタにおいて、
前記分析管は、
イオン源部と、
前記イオン源部で生成されるイオンビームを磁場偏向させる磁性体と、
前記磁性体により軌道偏向されたヘリウムイオンビームを選択して通過させるスリット部材と、
ヘリウムイオンより重たいイオンのイオンビームが照射される位置に設けられ、前記ヘリウムイオンビームの軌道を修正する補正電圧が印加される補正電極と、
前記スリット部材を通過したヘリウムイオンをイオン電流として検出するイオンコレクタ部とを備えることを特徴とするヘリウムリークディテクタ。
【請求項2】
請求項1に記載のヘリウムリークディテクタにおいて、
前記補正電極に補正電圧を可変に印加する電源を備えることを特徴とするヘリウムリークディテクタ。
【請求項3】
請求項1または2に記載のヘリウムリークディテクタにおいて、
前記イオン源部に加速電圧を印加し前記補正電極に電圧を印加したときに前記イオンコレクタ部で検出したイオン電流に基づいて、前記補正電圧を決定する補正電圧調整手段を備えることを特徴とするヘリウムリークディテクタ。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれか1項に記載のヘリウムリークディテクタにおいて、
前記ヘリウムイオンより重たいイオンは、ハイドロカーボンより生成されたイオンであることを特徴とするヘリウムリークディテクタ。
【請求項5】
請求項1または2に記載のヘリウムリークディテクタに設けられた補正電極に印加する電圧の調整方法であって、
リーク量校正用のヘリウムを前記分析管に導いて、前記補正電極に印加する電圧を変更しながら前記イオンコレクタ部でイオン電流を検出したとき、イオン電流が最大になる電圧を前記補正電極に印加することを特徴とする補正電極に印加する電圧の調整方法。
【請求項6】
請求項3に記載の補正電極に印加する電圧の調整方法において、
前記補正電極に印加する電圧とともに、さらに前記イオン源部の加速電圧を変更しながら前記イオンコレクタ部でイオン電流を検出したとき、イオン電流が最大になったときの前記イオン源部の加速電圧を前記イオン源部の加速電圧とし、前記補正電極に印加した電圧を前記補正電極に印加する電圧とすることを特徴とする補正電極に印加する電圧の調整方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【公開番号】特開2008−281432(P2008−281432A)
【公開日】平成20年11月20日(2008.11.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−125762(P2007−125762)
【出願日】平成19年5月10日(2007.5.10)
【出願人】(000001993)株式会社島津製作所 (3,708)
【Fターム(参考)】