説明

ヘリオスタット用凹面反射鏡およびその製造方法

【課題】プレス設備および金型を必要とせず、製造が容易で、高精度の凹面を形成できるヘリオスタット用凹面反射鏡およびその製造方法を提供する。
【解決手段】基材14の前面に鏡面部15が設けられ、中央の剛性より周辺部の剛性が低く、かつ、鏡面部15が凹面の放物面を形成するように弾性的に変形可能な反射部材11と、反射部材11の背面16の周辺部を支持するフレーム部材12と、反射部材11の背面16または前面の略中央と対向する位置で、フレーム部材12に取り付けられ、反射部材11の背面16を引っ張り、または、反射部材11の前面を押圧して、反射部材11を弾性的に変形させる調整部材13とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、太陽熱発電装置等に用いられるヘリオスタット用凹面反射鏡およびその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、地球温暖化、化石燃料の枯渇といった問題から、いわゆる自然エネルギー、とりわけ太陽光のエネルギーを利用する技術が注目されている。太陽光のエネルギーを利用する方法には、太陽光の「光」のエネルギーをアモルファスシリコン等の太陽電池等を用いて電気エネルギーに変換して利用する太陽光発電による方法と、太陽光の「熱」のエネルギーを集熱器等に集約して利用する太陽熱利用による方法とが挙げられる。
【0003】
太陽熱利用による方法の一つとして、太陽光を鏡やレンズ等の光学的手段を用いて集熱器に集光して高温の熱を取り出し、その熱を利用してタービンを回転させることにより発電する太陽熱発電がある。この太陽光発電に必須の太陽光集光システムについては、これまで種々の提案がなされてきた。
【0004】
例えば、特許文献1には、上述の光学的手段として、反射特性の経年変化が生じず、かつ、容易に製造できるように設計されたヘリオスタット用凹面反射鏡の形成に用いられるアルミニウム合金薄板材、及び、それを用いたヘリオスタット用凹面反射鏡並びにその製造方法が示されている。アルミニウム合金薄板材は、アルミニウム合金薄板の表面に接着剤層、鏡面層、耐候性透明被覆層、および、保護層の各層を順に設けて形成している。ヘリオスタット用凹面反射鏡は、このアルミニウム合金薄板材を凹面型と凸面型からなる一対の金型を用い、プレス設備を利用して鏡面側が凹面となるように押圧変形させて成形し、前記アルミニウム合金薄板材の凸面と、凹面が形成された基台の凹面とを接着手段を介して接着し、その後、前記保護層を除去することにより製造されている。アルミニウム合金薄板材は、鏡面層の上面側に保護層が設けられているので、製造段階において鏡面層の損傷を防止することができ、上述したように、保護層を剥離して装置を設置した後においても、耐候性透明被覆層により鏡面層の損傷が防止されるようになっている。このようにして、ヘリオスタット用凹面反射鏡に鏡面層における反射特性の経年変化が生じることを防止し、プレス成形によりヘリオスタット用凹面反射鏡を容易に製造できるようになっている。
【0005】
しかしながら、特許文献1のヘリオスタット用凹面反射鏡の製造方法では、コストを大幅に上昇させるプレス設備および金型を必要とするだけでなく、プレス加工により製造工程が増加し製造を複雑化させるという問題がある。
【0006】
また、プレス成形により凹面反射鏡を製造する方法では、アルミニウム合金薄板材等の板材の弾性を考慮すると、反射鏡の凹面を高精度に形成することに限界があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2002−154179号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、プレス設備および金型を必要とせず、製造が容易で、高精度の凹面を形成できるヘリオスタット用凹面反射鏡およびその製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明のヘリオスタット用凹面反射鏡は、基材の前面に鏡面部が設けられ、中央から周辺部に亘る各部位にて剛性を異ならせ、前記鏡面部が凹面の放物面を形成するように弾性的に変形可能な反射部材と、前記反射部材の背面の周辺部を支持するフレーム部材と、前記反射部材の背面または前面の略中央と対向する位置で、前記フレーム部材に取り付けられ、前記反射部材の背面を引っ張り、または、前記反射部材の前面を押圧して前記反射部材を弾性的に変形させる調整部材と、を備えるようにした。また、基材の前面に鏡面部が設けられ、中央の剛性より周辺部の剛性が低く、弾性的に変形可能な反射部材と、前記反射部材の背面の周辺部を支持するフレーム部材と、前記反射部材の背面または前面の略中央と対向する位置で、前記フレーム部材に取り付けられ、前記反射部材の背面を引っ張り、または、前記反射部材の前面を押圧して、前記反射部材を弾性的に変形させる調整部材とを備えるようにした。
ここで、反射部材の支持は、少なくとも3点であればよい。3点を超える多点や、全周を連続した線で支持することを含む。また、回転支持であっても固定支持であってもよい。
【0010】
この構成によれば、フレーム部材が反射部材の背面の周辺部を支持した状態で、フレーム部材に取り付けられた調整部材により、反射部材の背面を引っ張り、または、反射部材の前面を押圧する。これにより、反射部材が弾性的に変形して鏡面部が凹面、好適には放物面を形成する。弾性的に変形可能な反射部材を、調整部材により、反射部材の背面を引っ張り、または、反射部材の前面を押圧して凹面反射鏡を形成するので、プレス設備および金型を必要とせず、製造が容易であり、高精度の凹面を形成できる。
【0011】
前記反射部材は、外形が円形で、背面が中央から周辺部に向かって厚さが小さくなるように形成されていることが好ましい。この構成によれば、反射部材の背面を複雑かつ高精度に加工することなく、反射部材を中央の剛性より周辺部の剛性が小さくなるように容易に製造できる。
【0012】
前記反射部材は、外形が四角形であり、かつ、厚さが一定の平板部と、前記平板部の背面の対角線上と、該対角線と対角線との間とにそれぞれ突設され、中央から周辺部に向かうに従って剛性が低い複数の放射状リブ部とを有し、前記複数の放射状リブ部のうち、前記対角線上に配設された放射状リブ部の前記四角形の角部側の先端に設けられた4つの支点を少なくとも含む4つ以上の支点により支持されることが好ましい。この構成によれば、平板部は、背面に突設された放射状リブ部の形状に従って弾性的に変形する。放射状リブ部は、中央から周辺部に向かうに従って剛性が低いので、周辺部側の先端に設けられた支点により支持され放物面を形成するように弾性的に変形する。したがって、反射部材は、放物面を形成するように弾性的に変形する。外形が四角形であり、弾性的に変形可能な反射部材を、調整部材により、反射部材の背面を引っ張り、または、反射部材の前面を押圧して凹面反射鏡を形成するので、プレス設備および金型を必要とせず、製造が容易であり、高精度の凹面を形成できる。
【0013】
前記反射部材は、外形が四角形であり、かつ、厚さが一定の平板部と、前記平板部の背面の対角線上と、該対角線と対角線との間とにそれぞれ突設され、中央から周辺部に向かうに従って剛性が低い複数の放射状リブ部とを有し、前記複数の放射状リブ部のうち、前記対角線上に配設された放射状リブ部の前記四角形の角部側の先端に、前記フレーム部材に支持される4つの支点を設け、該支点をつなぐように周辺リブ部を設けることが好ましい。この構成によれば、平板部は、背面に突設された放射状リブ部の形状に従って弾性的に変形する。放射状リブ部は、中央から周辺部に向かうに従って剛性が低いので、四角形の角部側の支点により支持され放物面を形成するように弾性的に変形する。したがって、反射部材は、弾性的に変形する。中央から等距離にある角部に支点を設けているので、反射部材の背面の中央を引っ張り、または、反射部材の前面の中央を押圧した場合に、反射部材の全ての支点がフレーム部材に当接し、フレーム部材により反射部材を安定して支持できる。この支持により、対称性のある凹面を形成できる。放射状リブ部の剛性と周辺リブ部の剛性とを適切に設定することにより、凹面を放物面に形成できる。
【0014】
前記各放射状リブ部は、前記平板部の背面から突出する高さをhとし、幅をbとした場合、bhの値を前記支点からの距離に略比例する値とすることが好ましい。この構成によれば、反射部材は、弾性的に変形して略放物面を形成できる。
【0015】
隣接する前記複数の放射状リブ部を補助リブ部により連結することが好ましい。この構成によれば、放射状リブ部の倒れを防止できる。
【0016】
本発明のヘリオスタット用凹面反射鏡の製造方法は、基材の前面に鏡面部が設けられ、中央から周辺部に亘る各部位にて剛性を異ならせ、前記鏡面部が凹面の放物面を形成するように弾性的に変形可能な反射部材を形成し、前記反射部材の基材の背面の周辺部をフレーム部材により支持し、前記フレーム部材に設けられた調整部材により、前記反射部材の背面の基材の略中央を引っ張り、または、前記反射部材の前面の鏡面部の略中央を押圧して、前記反射部材を弾性的に変形させることを特徴とする。また、本発明のヘリオスタット用凹面反射鏡の製造方法は、基材の前面に鏡面部が設けられ、中央の剛性より周辺部の剛性が低く、弾性的に変形可能な反射部材を形成し、前記反射部材の基材の背面の周辺部をフレーム部材により支持し、前記フレーム部材に設けられた調整部材により、前記反射部材の背面の基材の略中央を引っ張り、または、前記反射部材の前面の鏡面部の略中央を押圧して、前記反射部材を弾性的に変形させることを特徴とする。
【0017】
本発明のヘリオスタット用凹面反射鏡の製造方法は、外形が円形であり背面が中央から周辺部に向かって厚さが小さくなるように形成された基材の前面に鏡面部を形成して、前記鏡面部が凹面の放物面を形成するように弾性的に変形可能な反射部材を形成し、調整部材を取り付けて前記反射部材の基材の背面の周辺部をフレーム部材により支持し、前記フレーム部材に設けられた調整部材により、前記反射部材の背面の基材の略中央を引っ張り、または、前記反射部材の前面の鏡面部の略中央を押圧して、前記反射部材を弾性的に変形させることを特徴とする。
【0018】
本発明のヘリオスタット用凹面反射鏡の製造方法は、外形が四角形であり、背面の対角線上と、該対角線と対角線との間とにそれぞれ突設され、中央から周辺部に向かうに従って剛性が低く、前記四角形の角部側の先端に設けられた4つの支点を少なくとも含む4つ以上の支点を有する複数の放射状リブ部が設けられた厚さが一定の平板部の前面に鏡面部を形成して、前記鏡面部が凹面の放物面を形成するように弾性的に変形可能な反射部材を形成し、調整部材を取り付けて前記反射部材の基材の背面の周辺部をフレーム部材によって前記支点により支持し、前記フレーム部材に設けられた調整部材により、前記反射部材の背面の基材の略中央を引っ張り、または、前記反射部材の前面の鏡面部の略中央を押圧して、前記反射部材を弾性的に変形させることを特徴とする。
【0019】
本発明のヘリオスタット用凹面反射鏡の製造方法は、外形が四角形であり、背面に、該四角形の対角線上と、該対角線と対角線との間とにそれぞれ突設され、中央から周辺部に向かうに従って剛性が低く、前記四角形の角部側の先端に4つの支点を有する複数の放射状リブ部および前記支点をつなぐ周辺リブ部が設けられた厚さが一定の平板部の前面に鏡面部を形成して、前記鏡面部が凹面の放物面を形成するように弾性的に変形可能な反射部材を形成し、調整部材を取り付けて前記反射部材の基材の背面の周辺部をフレーム部材によって前記支点により支持し、前記フレーム部材に設けられた調整部材により、前記反射部材の背面の基材の略中央を引っ張り、または、前記反射部材の前面の鏡面部の略中央を押圧して、前記反射部材を弾性的に変形させることを特徴とする。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、フレーム部材が反射部材の背面の周辺部を支持した状態で、フレーム部材に取り付けられた調整部材により、反射部材の背面を引っ張り、または、反射部材の前面を押圧する。これにより、反射部材が弾性的に変形して鏡面部が凹面、好適には放物面を形成する。弾性的に変形可能な反射部材を、調整部材により、反射部材の背面を引っ張り、または、反射部材の前面を押圧して凹面反射鏡を形成するので、プレス設備および金型を必要とせず、製造が容易であり、高精度の凹面を形成できる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明の第1実施形態のヘリオスタット用凹面反射鏡を示す平面図。
【図2】図1のII−II線断面図。
【図3】ヘリオスタット用凹面反射鏡の反射部材を示す図。
【図4】太陽の理論直径と鏡反射による像の直径とを比較した図。
【図5】太陽光の鏡による反射を示す図。
【図6】鏡の直径を1mとした場合の鏡面の最大変位量と加熱部までの距離との関係を示す図。
【図7】外周が単純支持され、中央に集中荷重が作用する円板を模式的に示す図。
【図8】中央に集中荷重を加えた円板の中心からの距離とたわみ量との関係を示す図。
【図9】各要素毎に板厚が異なる円板を示す図。
【図10】円板の板厚を一定とした場合の、円板のたわみ曲線と放物線との比較を示す図。
【図11】円板の板厚を変えた場合の、円板のたわみ曲線と放物線との比較を示す図。
【図12】径の異なる同じ厚さの板を3枚重ねて形成した円板を示す図。
【図13】凹面が形成される前の第1実施形態の反射鏡の組み付け状態を示す図。
【図14】図14(a)および図14(b)は第1実施形態のヘリオスタット用凹面反射鏡の変形例を示す図。
【図15】本発明の第2実施形態のヘリオスタット用凹面反射鏡を示す平面図。
【図16】図15のXVI−XVI線断面図。
【図17】第2実施形態の反射部材を示す図。
【図18】単純支持された放射状リブ部のモデルを示す図。
【図19】図19(a)は対角線上にない角部と角部の間の中点と、その中点と中央を通る一直線上に位置する別の中点とに支持される反射部材が形成する放物線を示す図、図19(b)は対角線方向の反射部材が図19(a)と同一の放物線を形成した場合に角部で生じる隙間を示す図。
【図20】角部における反射部材のフレーム部材による支持構造を示す図。
【図21】有限要素解析法により解析される反射部材の範囲を示す図。
【図22】モデル1の変位を示す図。
【図23】モデル1により解析した傾きを示す図。
【図24】モデル2の変位を示す図。
【図25】モデル2により解析した傾きを示す図。
【図26】モデル3の変位を示す図。
【図27】モデル2により解析した傾きを示す図。
【図28】有限要素法による解析結果に基づいて設計した反射部材を示す図。
【図29】凹面が形成される前の第2実施形態の反射鏡の組み付け状態を示す図。
【図30】固定支持された放射状リブ部のモデルを示す図。
【図31】固定支持された別の放射状リブ部のモデルを示す図。
【図32】2つのモデルのたわみ曲線と放物線との比較を示す図。
【図33】本発明の第3実施形態のヘリオスタット用凹面反射鏡を示す平面図。
【図34】図33のXXXIV−XXXIV線断面図。
【図35】第3実施形態の反射部材を示す図。
【図36】反射部材の一部を示す図。
【図37】放射状リブ部の先端が連結された周辺リブ部のモデルを示す図。
【図38】剛性が極端に弱い周辺リブ部のモデルを示す図。
【図39】剛性が極端に強い周辺リブ部のモデルを示す図。
【図40】剛性が調整された周辺リブ部のモデルを示す図。
【図41】本発明の別の実施形態の断面図。
【図42】本発明の別の実施形態の断面図。
【図43】本発明の別の実施形態の放射状リブ部を示す斜視図。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の実施の形態を図面に従って説明する。
【0023】
1.第1実施形態
図1および図2は、本発明の第1実施形態のヘリオスタット用凹面反射鏡10を示す。ヘリオスタット用凹面反射鏡10は、反射部材11、フレーム部材12、および、調整部材13を備えている。
【0024】
反射部材11は、外形が円形の基材14の前面に鏡面部15が設けられている。図3に示すように、反射部材11の基材14の背面16は、中央から周辺部に向かって階段状に厚さが小さくなるように形成されている。すなわち、中央の肉厚Tより周辺部の肉厚Tが小さくなるように形成されている。基材14は、中央の剛性より周辺部の剛性が低く、かつ、鏡面部15が凹面の放物面を形成するように弾性的に変形可能である。反射部材11の基材14は、一体形成されたもの、径の異なる板を重ねて形成されたもののいずれであってもよい。また、鏡面部15は、例えば、鏡面加工、銀の蒸着、および、ミラーシートの貼着等、いかなる方法によって形成されてもよい。反射部材11の背面16の中央には、後述する調整部材13の棒材25の先端が接合されている。
【0025】
フレーム部材12は、支持フレーム部17と取り付け用フレーム部18とを備えている。
【0026】
支持フレーム部17は、外形が正方形の平板であり、中心に円形の貫通孔19が設けられている。貫通孔19の径は、反射部材11の外径より小さく、棒材25が通る大きさであればよい。支持フレーム部17は、反射部材11の外周縁を全周にわたって支持する円環状リブ20を備えている。円環状リブ20の径は、反射部材11の外径より小さく、貫通孔19よりも大きい大きさである。
【0027】
取り付け用フレーム部18には、貫通孔19の中心を通る十字形の梁部21aと脚部21bが設けられている。貫通孔19の軸上の梁部21aには、調整部材13の棒材25を挿通する挿通孔22が設けられている。取り付け用フレーム部18は、反射部材11が凹面を形成した状態を維持できる程度の強度を確保できるようにする。取り付け用フレーム部18の梁部21aは、支持フレーム部17の平板部分に対して間隔があけられていてもいなくてもいずれでもよいが、反射部材11が凹面を形成したときに、背面16と干渉しないように配設されている。
【0028】
調整部材13は、棒材25、バネ26、ワッシャ27、および、調整ナット28を備えている。
【0029】
棒材25は、一端が反射部材11の背面16の中央に接合されている。棒材25の他端側は、反射部材11が放物面を形成するための調整範囲にねじ加工が施されている。棒材25は、取り付け用フレーム部18の梁部21aの挿通孔22に挿通されている。棒材25の他端には、フレーム部材12の取り付け用フレーム部18と、ワッシャ27とでバネ26を挟み込むようにされたワッシャ27と当接する調整ナット28がねじ込まれている。棒材25は、フレーム部材12の貫通孔19の軸方向に移動させることにより、反射部材11に力を加えて変形させるようになっている。本実施形態のバネ26のバネ定数は45kg/mmである。調整部材13の調整ナット28は、反射部材11が所望の放物面を形成する位置に調整されている。所望の放物面は、焦点の位置によって決定される。
【0030】
〔凹面の設計〕
次に、反射部材11の鏡面部15が放物面を形成するための凹面の設計方法について説明する。
【0031】
(鏡面の形状)
まず、最初に、平面状の鏡に太陽の光を反射させて、距離Lだけ離れた加熱部に当てる場合を想定する。太陽の視半径をαとすると、加熱部における太陽の像の半径rは、
【0032】
【数1】

となる。太陽熱を効率的に集約するには、理論値で、鏡で反射した光がこの半径rの範囲に入ることが必要となる。
【0033】
図4は、鏡直径を1mとした場合の太陽の理論直径(理論径r)と鏡反射による像の直径(鏡反射径)とを比較したものである。横軸は鏡から加熱部までの距離である。加熱部を鏡から100m離した場合であっても、像の大きさは倍以上で、エネルギー密度はかなり低下することが分かる。したがって、本発明においては、太陽光のエネルギー密度を低下させないように凹面鏡を採用している。凹面鏡の凹面形状について説明する。
【0034】
図5に示すように、鏡31の中央を原点とし、原点を通る接線方向をx、法線方向をyとする。鏡31の断面の形状を放物線とし、次式で表す。
【0035】
【数2】

鏡31の半径rの位置に角度βで入射した光が、鏡31で反射して加熱部32に当たる位置をrとすると、
【0036】
【数3】

を満たすようにする(−α≦β≦α)。
半径rにおける法線の傾きγは、次式で表される。
【0037】
【数4】

y軸に対する反射光の角度δは、次式で表される。
【0038】
【数5】

反射光の式は、次式で表される。
【0039】
【数6】

加熱部に当たる位置rは、次式で表される。
【0040】
【数7】

ここで、L≫rとすると、次式が成り立つ。
【0041】
【数8】

従って、次式が成り立つ。
【0042】
【数9】

鏡31の半径をrとすると、次式を満足する必要がある。
【数10】

従って、放物線の式は、次式で表される。
【0043】
【数11】

この式は、焦点距離がLの放物線を表している。
【0044】
鏡31の直径を1mとした場合の鏡面の最大変位量と加熱部までの距離との関係を図6に示す。横軸は加熱部32までの距離である。変位量は非常に僅かであり、このような凹面を従来のようなプレス成形で実現することには困難が伴うことが分かる。
【0045】
(たわみによる凹面の形成)
本発明によるヘリオスタット用凹面反射鏡10の製造方法では、プレス設備および金型を用いることなく、反射部材11の略中央に荷重を加えて反射部材11を変形させるようにしている。
【0046】
例えば、図7に示すように、反射部材が円板33であって、外周が単純支持され、中央に集中荷重が作用する場合、円板33の半径をr、荷重をPとすると、円板33のたわみwは次式で表される。
【0047】
【数12】

ここで、
【0048】
【数13】

この円板33の中央に集中荷重を加えた円板33の中心からの距離とたわみ量との関係について、たわみ曲線と放物線とを比較してみると、図8に示すように、互いに乖離している。したがって、この円板33のたわみ曲線が放物線形状になるようにする。
【0049】
(板厚を変化させた場合のたわみ)
図9に示すように円板の中央に集中荷重Pが作用する場合、外周からi番目の要素iの円板の傾きdw/dr、たわみw、モーメント(r方向)Mの一般式は次式で表される。
【0050】
【数14】

ここで、Ci,1、i,2、i,3 は次に示す境界条件により決定される値である。
【0051】
要素1(円板の外周部分)
r=rにおいて、M=0であるので、
【0052】
【数15】

r=rにおいて、w=0であるので、
【0053】
【数16】

【0054】
要素iと要素i+1との間
r=rにおいて、w,dw/dr,Mが連続であるので、
【0055】
【数17】

【0056】
要素n(円板の中央部分)
r=0にて有限であるので、
【0057】
【数18】

よって、Cn,2=0である。
以上をまとめると、
【0058】
【数19】

【0059】
(係数の定義)
各式の係数を以下のように置換する。
【数20】

係数行列により各係数を求める。係数行列の対角項が0にならないように式を入れ替える。
【0060】
【数21】

が導かれる。
【0061】
以上の係数の連立方程式を解くことにより、板厚が変化したときの円板のたわみを計算できる。
以上の式により円板のたわみを計算する。
【0062】
図10は円板の板厚を一定とした場合の、円板のたわみ曲線と放物線との比較を示す。たわみ曲線は放物線からかなりずれていることが分かる。
【0063】
次に、図11は、円板の板厚を変えた場合の、円板のたわみ曲線と放物線との比較を示す。この円板は、図12に示すように、径の異なる同じ厚さの板を3枚重ねて形成している。すなわち、中央の肉厚より周辺部の肉厚が小さくなるように、背面が中央から周辺部に向かって階段状に形成されている。最も小さい板の直径は200mm、2番目に小さい板の直径は700mm、最も大きい板の直径は、1000mmである。このたわみ曲線は、放物線と完全には一致していないが、かなり近い形状となっている。この円板の最大たわみ量は2.1mm/10kgであり、焦点距離30mの鏡に相当する。このようにして、反射部材11の鏡面部15が放物面を形成するように凹面を設計することができる。理論的には、荷重を変えても放物面の形状は崩れることはなく、たわみ量は荷重に比例するため、荷重を変えることにより焦点距離を容易に変更できる。なお、焦点距離を一定とした場合、荷重は板のサイズによらず一定である。これは、板が大きくなると、たわみ量が多くなるように大きな荷重を必要とする一方で、板の剛性が低下するため、必要となる荷重の大きさが相殺されるためである。
【0064】
〔ヘリオスタット用凹面反射鏡の製造〕
続いて、ヘリオスタット用凹面反射鏡10の製造の手順を説明する。
【0065】
(反射部材の形成)
反射部材11は、前面が平面であり、背面16が中央から周辺部に向かって階段状となるように、鋳造により一体的に、または、径の異なる板を重ねて互いに接合することにより、基材14を形成する。そして、基材14の前面に、鏡面加工、銀の蒸着、および、ミラーシートの貼着により、鏡面部15を形成する。そして、調整部材13の棒材25の先端を、反射部材11の背面16の中央に、反射部材11の背面16の軸方向に延びるように接合する。
【0066】
(フレーム部材および調整部材の取り付け)
図13に示すように、反射部材11を基材14が上になるように置く。そして、フレーム部材12の取り付け用フレーム部18の挿通孔22に、反射部材11の背面16に接合された調整部材13の棒材25を挿通させた後、フレーム部材12の円環状リブ20が、反射部材11の背面16と当接し、反射部材11の中央とフレーム部材12の中央とを一致させるようにして、フレーム部材12を反射部材11の上に置く。
【0067】
そして、バネ26を、バネ26の軸と調整部材13の棒材25の軸とを略一致させて、フレーム部材12の取り付け用フレーム部18の上に置く。その後、バネ26の上面に、ワッシャ27を置き、調整ナット28をワッシャ27と当接するまで調整部材13の棒材25にねじ込む。
【0068】
(フレーム部材の凹面形成)
フレーム部材12に当接したバネ26に抗して調整ナット28をさらにねじ込むと、反射部材11の背面16と、調整ナット28との距離は短くなり、反射部材11の背面16の中央は上昇する。これにより、反射部材11は、鏡面部15側が凹面となるように変形する。反射部材11が、所望の放物面が形成されるまで、調整ナット28をねじ込んで調整する。
【0069】
このようにすれば、フレーム部材12が反射部材11の背面16の周辺部を支持した状態で、フレーム部材12に取り付けられた調整部材13によって、反射部材11の背面16の略中央と対向する位置で、反射部材11の背面16を引っ張ることにより、中央の剛性より周辺部の剛性が低い反射部材11が弾性的に変形して鏡面部15に放物面を形成することができる。弾性的に変形可能な反射部材11を、調整部材13により、反射部材11の背面16を引っ張り、凹面反射鏡を形成するので、プレス設備および金型を必要とせず、製造が容易であり、高精度の凹面を形成できる。
【0070】
〔変形例〕
図14(a)、および、図14(b)は、第1実施形態のヘリオスタット用凹面反射鏡10の変形例を示す。図14(a)に示すヘリオスタット用凹面反射鏡10において、反射部材11には、中央に貫通孔が設けられている。フレーム部材12の取り付け用フレーム部18は、反射部材11の背面16側に設けられ、調整部材13は、反射部材11の鏡面部15側に設けられている。調整部材13の棒材25の一端は、フレーム部材12の取り付け用フレーム部18に接合されている。図14(b)に示すヘリオスタット用凹面反射鏡10において、フレーム部材12の取り付け用フレーム部18、および、調整部材13は、反射部材11の鏡面部15側に設けられている。いずれのヘリオスタット用凹面反射鏡10においても、調整部材13により、反射部材11を鏡面部15側から押圧するようになっている。
【0071】
このようにすれば、フレーム部材12が反射部材11の背面16の周辺部を支持した状態で、フレーム部材12に取り付けられた調整部材13によって、反射部材11の前面の鏡面部15の略中央と対向する位置で、反射部材11の前面を押圧することにより、中央の剛性より周辺部の剛性が低い反射部材11が弾性的に変形させて鏡面部15に放物面を形成させることができる。弾性的に変形可能な反射部材11を、調整部材13により、反射部材11の前面を押圧し、凹面反射鏡を形成するので、プレス設備および金型を必要とせず、製造が容易であり、高精度の凹面を形成できる。
【0072】
2.第2実施形態
図15および図16は、本発明の第2実施形態のヘリオスタット用凹面反射鏡10を示す。本実施形態において、第1実施形態と同じ構成要素には同じ符号を付して説明を省略する。
【0073】
反射部材11は、図17に示すように、外形が正方形で、厚さが一定の平板部34の前面に鏡面部15が設けられている。平板部34の背面35には、中央にボス部36が設けられ、対角線上と、該対角線と対角線との間の2等分線上とにそれぞれ、中央のボス部36から周辺部に向かうに従って剛性が低い複数の放射状リブ部37が突設されている。すなわち、複数の放射状リブ部37は、45°の間隔で配設されている。本実施形態における放射状リブ部37は、幅が一定で、中央から周辺部に向かうに従って高さが減少している。各放射状リブ部37の周辺部側の先端には、支柱部38が設けられている。支柱部38は、全て同じ大きさである。支柱部38の端面上の点は、後述するフレーム部材12の脚部41を支持する支点となる。図18に示すように、放射状リブ部37は、先端の支柱部38が単純支持されるようになっている。反射部材11は、中央の剛性より周辺部の剛性が低く、かつ、鏡面部15が凹面の放物面を形成するように弾性的に変形可能である。鏡面部15は、例えば、鏡面加工、銀の蒸着、および、ミラーシートの貼着等、いかなる方法によって形成されてもよい。反射部材11の背面35のボス部36には、めねじが切られており、後述する調整部材13の棒材25の先端がねじ込まれている。このボス部36に棒材25がねじ込まれた調整部材13を調整することにより、鏡面部15に放物面が形成されている。
【0074】
各放射状リブ部37は、ボス部36と同心円状の補助リブ部39により連結されている。すなわち、放射状リブ部37と隣接する放射状リブ部37とは、補助リブ部39により連結されている。放射状リブ部37と補助リブ部39とを連結することにより、放射状リブ部37の平板部34に対する倒れを防止するようになっている。本実施形態において、補助リブ部39は、ボス部36と同心円状に連続するように配設されているが、一部の範囲にのみ配設してもよく、中心から同一距離を連結するものであれば、環状のリブ以外の、例えば、直線上のリブであってもよい。また、補助リブ部39の断面は矩形や円形など何でもよく特に限定されない。
【0075】
フレーム部材12は、梁部40と脚部41とを備えている。梁部40は、45°の間隔で放射状に延びるように中央で接続して設けられている。そして、梁部40には、反射部材11の支柱部38と当接する位置に脚部41が配設されている。すなわち、フレーム部材12は、反射部材11の背面35の周辺部を8点で支持するようになっている。梁部40の中心には、貫通孔42が設けられている。フレーム部材12は、反射部材11が凹面を形成した状態を維持できる程度の強度を確保できるようにする。フレーム部材12は、反射部材11が凹面を形成したときに、梁部40と反射部材11の背面35のボス部36とが干渉しないようになっている。
【0076】
〔凹面の設計〕
次に、反射部材11の鏡面部15が放物面を形成するための凹面の設計方法について説明する。
【0077】
反射部材11が正方形の場合には、第1実施形態とは異なり、理論式がないため、有限要素法により解く必要があるが、本実施形態では、放射状リブ部37の形状を、ある程度理論的に設定することにより放物面を形成するようにしている。
【0078】
放物面は、半径方向には放物線の変位、円周方向には同一変位となる面である。したがって、本実施形態においては、放射状リブ部37が、凹面鏡の軸に対して放物線状にたわむように形状を決定する。
【0079】
具体的には、中心を通る一直線上に位置する2つの放射状リブ部37は、中央に集中荷重が作用する場合に、両側の支柱部38の支点により、反射部材11が支持された状態で前記一直線上の2つの放射状リブ部37を放物線状にたわませるようにする。支点からの距離をxとし、Iを断面2次モーメントとした場合、たわみの一般式は、
【0080】
【数22】

従って、
【数23】

この式が放物線になる条件は、
【数24】

従って、I=axとなるようにすればいい。すると、
【数25】

境界条件x=0:w=0、x=r:dw/dx=0を考慮すると、
【数26】

となり、荷重点を中心とした放物線になる。平板部34の背面35から突出する放射状リブ部37の高さをh、幅をbとすると、I=bh/12であるから、幅bを一定とした場合、高さhは、
【数27】

となるようにする。実際は、x=0において、h=0は無理なので若干放物線からずれるが、実用上差し支えないようにリブ形状を決定する。このようにすれば、放射状リブ部37により、反射部材11を、弾性的に変形させて略放物面を形成できる。本実施形態では、放射状リブ部37の幅bを一定とし、高さhを変更するようにしたが、bhの値を前記支点からの距離に略比例する値としてもよい。すなわち、この条件を満たす範囲で、幅bと高さhの両方を変更してもよい。
【0081】
放射状リブ部37には補助リブ部39が連結されているので、放射状リブ部37の形状を崩れにくくすることができる。放射状リブ部37を多く設ければ設けるほど、形成される凹面は放物面に近づいていく。このようにして、反射部材11の鏡面部15が放物面を形成するように凹面を設計することができる。
【0082】
本実施形態の反射部材11は、図17に示すように、正方形であり、支柱部38を角部と、角部と角部の中点に設けているので、中央から支柱部38の支点までの距離が異なる。具体的には、中央から角部までの距離は、中央から前記中点までの距離の√2倍である。この場合、上述の設計方法に、次に示す手順を加える。
【0083】
図19(a)に示すように、前記中点で支柱部38とフレーム部材12の脚部41とを当接させると、図19(b)に示すように、角部での支柱部38とフレーム部材12の脚部41との間に隙間が生じる。そのため、角部では、図20に示すように、支柱部38とフレーム部材12の脚部41との間にシム43を挿入する。このようにすれば、支柱部38とフレーム部材12の脚部41とを当接させることができ、反射部材11の背面35をフレーム部材12により支持することができる。シム43を挿入する方法に換えて、角部の支柱部38の高さを前記中点の支柱部38の高さより高く形成する方法を採用してもよい。
【0084】
次に、前記設計方法により設計したモデルの有限要素法による解析結果を説明する。
【0085】
(有限要素法による解析)
図21のハッチングを施した部分について、1/8モデルで、計算を行う。本解析は半径方向の傾きが重要であるため、その傾きで判断する。放物面の半径方向の傾きは半径方向の位置に比例する(例えば、y=xの場合、傾きは2xとなる)。従って、半径方向の傾きの分布が等間隔の同心円になったとき理想的な放物面になる。
【0086】
(モデル1)
図22に示すように、モデル1では、斜辺に半径方向リブ(放射状リブ)を設け、半径方向リブの、四角形の角部に対応する位置に支点を設け、円周方向リブ(補助リブ)を4本設けた。この場合、図22に示すように、変位は同心円であるが、図23に示すように、傾きは同心円になっていない。そのため、このモデルのように反射部材を形成しても集光できない。
【0087】
(モデル2)
図24に示すように、モデル2では、モデル1に、斜辺ではない辺上に半径方向リブ(放射状リブ)を追加し、半径方向リブの中央ではない側に支点を追加した。図24に示すように、変位は同心円であり、図25に示すように、傾きもほぼ同心円であるため、ほぼ放物面である。外周部は放物面からずれている。
【0088】
(モデル3)
図26に示すように、モデル3では、モデル2から、円周方向リブ(補助リブ)をなくした。この場合、図27に示すように、モデル2とほとんど変わらず、円周方向リブの有無は傾きにほとんど影響しない。しかしながら、外周部には少し変化が見られた。
【0089】
(最終リブ形状)
有限要素法による解析結果より、反射部材11は、図28に示すように、45°の間隔で放射状リブを設け、該放射状リブの先端の、正方形の角部上と、互いに対角線上にない角部と角部との中点上に、支点を設けるのが良いことが分かった。円周方向リブの有無は傾きにほとんど影響がないので、反射部材11に放射面を形成させるという点では必要はない。しかしながら、放射状リブの倒れを防止する目的で補助リブを配設してもよい。なお、リブの数が多くなる場合には、アルミダイキャストや射出成形により形成しても良い。この場合には、軽量化できる。
【0090】
〔ヘリオスタット用凹面反射鏡の製造〕
続いて、ヘリオスタット用凹面反射鏡10の製造の手順を説明する。
【0091】
(反射部材の形成)
反射部材11は、外形が正方形であり、かつ、厚さが一定の平板の背面35にめねじが切られたボス部36を接合する。そして、正方形の角部と、角部と角部の間の中点とに、脚部41を接合する。そして、中央から周辺部に向かうに従って剛性が低い放射状リブ部37を、ボス部36と脚部41の間に、45°の間隔で接合する。その際、対角線上の放射状リブ部37は、対角線上でない放射状リブ部37より長いものを接合する。そして、補助リブ部39をボス部36と同心円状に配置し、放射状リブ部37の上端で補助リブ部39を接合する。そして、平板の前面に、鏡面加工、銀の蒸着、および、ミラーシートの貼着により、鏡面部15を形成する。
【0092】
(フレーム部材と調整部材の取り付け)
図29に示すように、反射部材11を背面35が上になるように置く。そして、フレーム部材12のボス部36に調整部材13の棒材25をねじ込む。そして、フレーム部材12の梁部40の貫通孔42に、反射部材11の背面16にねじ込まれた調整部材13の棒材25を挿通させた後、フレーム部材12の脚部41が反射部材11の背面16の支柱部38と当接し、反射部材11の中央とフレーム部材12の中央とを一致させるようにして、フレーム部材12を反射部材11の上に置く。
【0093】
そして、バネ26を、バネ26の軸と調整部材13の棒材25の軸とを略一致させて、フレーム部材12の梁部40の上に置く。その後、バネ26の上面に、ワッシャ27を置き、調整ナット28をワッシャ27と当接するまで調整部材13の棒材25にねじ込む。
【0094】
(反射部材の凹面形成)
フレーム部材12に当接したバネ26に抗して調整ナット28をさらにねじ込むと、反射部材11の背面35と、調整ナット28との距離は短くなり、反射部材11の背面35の中央は上昇する。これにより、反射部材11は、鏡面部15側が凹面となるように変形する。反射部材11が、所望の放物面が形成されるまで、調整ナット28をねじ込んで調整する。その際、角部の脚部41と反射部材11の支柱部38との間の隙間にはシム43を挿入する。
【0095】
このようにすれば、フレーム部材12が反射部材11の背面35の周辺部を支持した状態で、フレーム部材12に取り付けられた調整部材13によって、反射部材11の背面35の略中央と対向する位置で、反射部材11の背面35を引っ張ることにより、中央の剛性より周辺部の剛性が低い反射部材11が弾性的に変形させて鏡面部15に放物面を形成させることができる。弾性的に変形可能な反射部材11を、調整部材13により、反射部材11の背面35を引っ張り、凹面反射鏡を形成するので、プレス設備および金型を必要とせず、製造が容易であり、高精度の凹面を形成できる。
【0096】
〔変形例〕
第2実施形態のヘリオスタット用凹面反射鏡10の変形例として、第1実施形態の図14(a)および図14(b)と同様に、フレーム部材12の取り付け用フレーム部18、および、調整部材13を配設してもよい。
【0097】
このようにすれば、フレーム部材12が反射部材11の背面35の周辺部を支持した状態で、フレーム部材12に取り付けられた調整部材13によって、反射部材11の前面の鏡面部15の略中央と対向する位置で、反射部材11の前面を押圧することにより、中央の剛性より周辺部の剛性が低い反射部材11が弾性的に変形させて鏡面部15に放物面を形成させることができる。弾性的に変形可能な反射部材11を、調整部材13により、反射部材11の前面を押圧し、凹面反射鏡を形成するので、プレス設備および金型を必要とせず、製造が容易であり、高精度の凹面を形成できる。
【0098】
本実施形態では、フレーム部材12の脚部41は、反射部材11の支柱部38により単純支持されていたが、このような支持方法に限定されず、反射部材11の支柱部38と、フレーム部材12の脚部41とをクランプによって固定支持してもよい。その場合には、図30に示すように、放射状リブ部37の先端を支点の位置まで配設せず、図31に示すように、放射状リブ部37の先端を支点から離れた位置に配設する。図32は、固定支持された2つのモデルのたわみ曲線と放物線との比較を示す。曲線Aは、放物線である。曲線Bは、放射状リブ部37の先端が支点の位置まで配設され固定支持された場合のたわみ曲線である。曲線Bは、曲線Aと大きく乖離している。曲線Cは、放射状リブ部37の先端が支点から離れた位置に配設され固定支持された場合のたわみ曲線である。曲線Cは、支点の近傍では、固定支持により乖離している。そして、放射状リブ部37が配設されている範囲では、略放物線を形成する。支点と放射状リブ部37の先端の間では、変形を規制するものはない。したがって、支点の近傍と前記略放物線とをつないだ状態で変形できる。このようにすることにより、固定支持であっても、反射部材11の凹面を放物面に形成できる。
【0099】
3.第3実施形態
図33および図34は、本発明の第3実施形態のヘリオスタット用凹面反射鏡10を示す。本実施形態において、第2実施形態と同じ構成要素には同じ符号を付して説明を省略する。
【0100】
反射部材11は、図35に示すように、放射状リブ部37は、22.5°の間隔で配設されている。支柱部38は、正方形の角部にのみ配設されている。反射部材11には、支柱部38をつなぐように、外周縁に、周辺リブ部44が設けられている。
【0101】
フレーム部材12は、梁部40が、90°の間隔で放射状に延びるように中央で接続して設けられている点を除いては、第2実施形態のフレーム部材12と同一である。
【0102】
次に、反射部材11の鏡面部15が放物面を形成するための凹面の設計方法について第2実施形態における設計方法と異なる点のみ説明する。
【0103】
本実施形態では、第2実施形態の反射部材11に対して、対角線上にない支点と支点の中点上に支柱部38が設けられていないので、前記中点近傍でたわみが生じてしまう。したがって、たわみをほとんど生じさせないために、この中点上の支柱部38の代替物として、周辺リブ部44が設けられている。
【0104】
放射状リブにおける先端部のたわみ量zは、リブ長さの二乗に比例するので、対角線上にない支点と支点との間の点について、図36に示すように、前記中点からの距離をy、放射状リブ部37の角度をθとして計算すると、
【0105】
【数28】

【0106】
このように、上で示したzは、yに関する放物線を表している。したがって、周辺リブ部44で連結された放射状リブ部37の先端を、放物線上に位置させるようにする。
【0107】
放射状リブ部37は、弾性を有しているので、先端はバネが連結された挙動をふるまうと考えることができる。バネ定数は、放射状リブ部37の長さによって異なる。
【0108】
図37は、反射部材11の外周の一辺を示す。●は、Lの長さのバネが連結された放射状リブ部37の先端部を表している。●を結ぶ線は周辺リブ部44に相当する。両端に示した先端部は、放射状リブ部37のうちの対角線上のものであり、支柱部38と一致する。対角線先端を支点とし、板の中央を引っ張ることは、両端に示した先端部を上方向に引っ張り上げることと同じである。このとき周辺リブ部44が放物線にたわむような剛性にする。
【0109】
図38は、周辺リブ部44の剛性が極端に弱い場合の反射部材11の外周の一辺を示す。両端に示した先端部を上方向に引っ張り上げると、両端に示した先端部のみが変形し、バネの長さがLからLになる。
【0110】
図39は、周辺リブ部44の剛性が極端に強い場合の反射部材11の外周の一辺を示す。両端に示した先端部を上方向に引っ張り上げると、両端に示した先端部だけでなく、全ての先端部が一緒に持ち上がる。バネの長さは、全てLになる。
【0111】
図40は、周辺リブ部44の剛性を調整した場合の反射部材11の外周の一辺を示す。中央から前記中点までの長さの√2倍となる角部では、たわみは2倍となるので、前記調整は、両端に示した先端部を上方向に引っ張り上げると、前記中点のバネの長さが、δだけ伸び、両端に示した先端部のバネの長さが、2δだけ伸びるようにされている。このように、剛性が調整された周辺リブ部44を設けることにより、前記中点の支持部を設けない場合であっても、放物線を形成することができる。
【0112】
第3実施形態のヘリオスタット用凹面反射鏡10の変形例として、第1実施形態の図14(a)および図14(b)と同様に、フレーム部材12の取り付け用フレーム部18、および、調整部材13を配設してもよい。
【0113】
このようにすれば、フレーム部材12が反射部材11の背面35の周辺部を支持した状態で、フレーム部材12に取り付けられた調整部材13によって、反射部材11の前面の鏡面部15の略中央と対向する位置で、反射部材11の前面を押圧することにより、中央の剛性より周辺部の剛性が低い反射部材11が弾性的に変形させて鏡面部15に放物面を形成させることができる。弾性的に変形可能な反射部材11を、調整部材13により、反射部材11の前面を押圧し、凹面反射鏡を形成するので、プレス設備および金型を必要とせず、製造が容易であり、高精度の凹面を形成できる。
【0114】
本発明の実施の形態は上記したものに限定されない。例えば、図1、図2に示した本発明の実施の形態では基材14の背面16を、中央部から周辺部に向かって階段状に厚さが小さくなるように形成したものを示した。ただし、基材14の背面16は、中央部から周辺部に向かって厚さが小さくなるように形成されておれば良く、階段状とすることは必須ではない。例えば、図41に示すように、基材14の背面16を、中央部から周辺部に向かって厚さが連続的に小さくなるように形成されていてもよい。この場合、基材14の背面16は鋳造等によって成形されるのが好ましい。
【0115】
また、本発明の反射部材には、その中央から周辺部に向かうに従って剛性が低くなることが求められる。ただし、その中央から周辺部に向かうに従って、全ての領域で、低くなることまでは求められず、中央から周辺部に向かう一部の領域では剛性が一定か、逆に大きくなることも許容される。例えば、図42に示したものは、図34に示したものとほとんどの構成を同じくするものであるが、放射状リブ部37の一部に突起部37aを有している点で図34に示したものと相違している。つまり、この突起部37aの存在しているわずかな部分においては、反射部材の中央から周辺部に向かうに従っても剛性は小さくならないが、このような形態のものも本発明に含まれる。
【0116】
また、対角線状に存在する放射状リブは対角線状に一様に形成されることが好ましいが、一部が分断されていてもよい。例えば、図43のように、放射状リブ部37が形成されていても良い。
【符号の説明】
【0117】
10 ヘリオスタット用凹面反射鏡
11 反射部材
12 フレーム部材
13 調整部材
14 基材
15 鏡面部
16 背面
17 支持フレーム部
18 取り付け用フレーム部
19 貫通孔
20 円環状リブ
21a 梁部
21b 脚部
22 挿通孔
25 棒材
26 バネ
27 ワッシャ
28 調整ナット
31 鏡
32 加熱部
33 円板
34 平板部
35 背面
36 ボス部
37 放射状リブ部
38 支柱部
39 補助リブ部
40 梁部
41 脚部
42 貫通孔
中央の肉厚
外周部の肉厚

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材の前面に鏡面部が設けられ、中央から周辺部に亘る各部位にて剛性を異ならせ、前記鏡面部が凹面の放物面を形成するように弾性的に変形可能な反射部材と、
前記反射部材の背面の周辺部を支持するフレーム部材と、
前記反射部材の背面または前面の略中央と対向する位置で、前記フレーム部材に取り付けられ、前記反射部材の背面を引っ張り、または、前記反射部材の前面を押圧して前記反射部材を弾性的に変形させる調整部材と、
を備えることを特徴とするヘリオスタット用凹面反射鏡。
【請求項2】
基材の前面に鏡面部が設けられ、中央の剛性より周辺部の剛性が低く、弾性的に変形可能な反射部材と、
前記反射部材の背面の周辺部を支持するフレーム部材と、
前記反射部材の背面または前面の略中央と対向する位置で、前記フレーム部材に取り付けられ、前記反射部材の背面を引っ張り、または、前記反射部材の前面を押圧して、前記反射部材を弾性的に変形させる調整部材と
を備えることを特徴とするヘリオスタット用凹面反射鏡。
【請求項3】
前記反射部材は、外形が円形で、背面が中央から周辺部に向かって厚さが小さくなるように形成されていることを特徴とする請求項2に記載のヘリオスタット用凹面反射鏡。
【請求項4】
前記反射部材は、
外形が四角形であり、かつ、厚さが一定の平板部と、
前記平板部の背面の対角線上と、該対角線と対角線との間とにそれぞれ突設され、中央から周辺部に向かうに従って剛性が低い複数の放射状リブ部と
を有し、
前記複数の放射状リブ部のうち、前記対角線上に配設された放射状リブ部の前記四角形の角部側の先端に設けられた4つの支点を少なくとも含む4つ以上の支点により支持されることを特徴とする請求項2に記載のヘリオスタット用凹面反射鏡。
【請求項5】
前記反射部材は、
外形が四角形であり、かつ、厚さが一定の平板部と、
前記平板部の背面の対角線上と、該対角線と対角線との間とにそれぞれ突設され、中央から周辺部に向かうに従って剛性が低い複数の放射状リブ部と
を有し、
前記複数の放射状リブ部のうち、前記対角線上に配設された放射状リブ部の前記四角形の角部側の先端に、前記フレーム部材に支持される4つの支点を設け、該支点をつなぐように周辺リブ部を設けたことを特徴とする請求項2に記載のヘリオスタット用凹面反射鏡。
【請求項6】
前記各放射状リブ部は、前記平板部の背面から突出する高さをhとし、幅をbとした場合、bhの値を前記支点からの距離に略比例する値としたことを特徴とする請求項4または請求項5に記載のヘリオスタット用凹面反射鏡。
【請求項7】
隣接する前記複数の放射状リブ部を補助リブ部により連結したことを特徴とする請求項4ないし請求項6のいずれか1項に記載のヘリオスタット用凹面反射鏡。
【請求項8】
基材の前面に鏡面部が設けられ、中央から周辺部に亘る各部位にて剛性を異ならせ、前記鏡面部が凹面の放物面を形成するように弾性的に変形可能な反射部材を形成し、
前記反射部材の基材の背面の周辺部をフレーム部材により支持し、
前記フレーム部材に設けられた調整部材により、前記反射部材の背面の基材の略中央を引っ張り、または、前記反射部材の前面の鏡面部の略中央を押圧して、前記反射部材を弾性的に変形させることを特徴とするヘリオスタット用凹面反射鏡の製造方法。
【請求項9】
基材の前面に鏡面部が設けられ、中央の剛性より周辺部の剛性が低く、弾性的に変形可能な反射部材を形成し、
前記反射部材の基材の背面の周辺部をフレーム部材により支持し、
前記フレーム部材に設けられた調整部材により、前記反射部材の背面の基材の略中央を引っ張り、または、前記反射部材の前面の鏡面部の略中央を押圧して、前記反射部材を弾性的に変形させることを特徴とするヘリオスタット用凹面反射鏡の製造方法。
【請求項10】
外形が円形であり背面が中央から周辺部に向かって厚さが小さくなるように形成された基材の前面に鏡面部を形成して、前記鏡面部が凹面の放物面を形成するように弾性的に変形可能な反射部材を形成し、
調整部材を取り付けて前記反射部材の基材の背面の周辺部をフレーム部材により支持し、
前記フレーム部材に設けられた調整部材により、前記反射部材の背面の基材の略中央を引っ張り、または、前記反射部材の前面の鏡面部の略中央を押圧して、前記反射部材を弾性的に変形させることを特徴とするヘリオスタット用凹面反射鏡の製造方法。
【請求項11】
外形が四角形であり、背面の対角線上と、該対角線と対角線との間とにそれぞれ突設され、中央から周辺部に向かうに従って剛性が低く、前記四角形の角部側の先端に設けられた4つの支点を少なくとも含む4つ以上の支点を有する複数の放射状リブ部が設けられた厚さが一定の平板部の前面に鏡面部を形成して、前記鏡面部が凹面の放物面を形成するように弾性的に変形可能な反射部材を形成し、
調整部材を取り付けて前記反射部材の基材の背面の周辺部をフレーム部材によって前記支点により支持し、
前記フレーム部材に設けられた調整部材により、前記反射部材の背面の基材の略中央を引っ張り、または、前記反射部材の前面の鏡面部の略中央を押圧して、前記反射部材を弾性的に変形させることを特徴とするヘリオスタット用凹面反射鏡の製造方法。
【請求項12】
外形が四角形であり、背面に、該四角形の対角線上と、該対角線と対角線との間とにそれぞれ突設され、中央から周辺部に向かうに従って剛性が低く、前記四角形の角部側の先端に4つの支点を有する複数の放射状リブ部および前記支点をつなぐ周辺リブ部が設けられた厚さが一定の平板部の前面に鏡面部を形成して、前記鏡面部が凹面の放物面を形成するように弾性的に変形可能な反射部材を形成し、
調整部材を取り付けて前記反射部材の基材の背面の周辺部をフレーム部材によって前記支点により支持し、
前記フレーム部材に設けられた調整部材により、前記反射部材の背面の基材の略中央を引っ張り、または、前記反射部材の前面の鏡面部の略中央を押圧して、前記反射部材を弾性的に変形させることを特徴とするヘリオスタット用凹面反射鏡の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図28】
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【図29】
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【図30】
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【図31】
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【図32】
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【図33】
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【図34】
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【図35】
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【図36】
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【図37】
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【図38】
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【図39】
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【図40】
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【図41】
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【図42】
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【図43】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【図26】
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【図27】
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【公開番号】特開2011−169530(P2011−169530A)
【公開日】平成23年9月1日(2011.9.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−34882(P2010−34882)
【出願日】平成22年2月19日(2010.2.19)
【出願人】(000001199)株式会社神戸製鋼所 (5,860)
【Fターム(参考)】