説明

ベアリングレスモータ

【課題】回転子の並進運動を制御すると共に回転軸と直交する方向への回転運動を抑えて回転精度を向上させることが可能なベアリングレスモータを提供する。
【解決手段】べアリングレスモータであって、少なくとも回転子1の重心位置Gと回転子磁極2の磁気的中心Mが回転子軸4と直交する同一X−Y平面P上に配置されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固定子歯に電動機巻線に加えて磁気支持巻線が巻き付けられ、回転子の変位に応じて磁気支持巻線を励磁して回転軸と直交方向の回転子の並進運動を制御するベアリングレスモータに関する。
【背景技術】
【0002】
ディスクドライブ装置、ポリゴンスキャナー装置などの駆動源の一例としてDCブラシレスモータが用いられている。例えばアウターロータ型のモータの構成について説明すると、回転子は回転子軸を中心に回転する回転子ヨークに永久磁石が設けられている。回転子軸は、固定子を支持するハウジングに軸受(オイル含浸、ベアリング、磁気軸受など)を介して回転可能に支持されている。近年、モータの小型化、高回転化、長寿命化、メンテナンスフリーなどの要求があり、ベアリングレスモータも提案されている(特許文献1)。
【特許文献1】特開2001−16887号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ベアリングレスモータにおいては、例えば図6において、回転子51との距離を検出することにより回転子51の図2のX−Y方向への変位を検出するギャップセンサ53が設けられている。図示しないモータ制御部は、回転子51の回転角度を検出して駆動巻線への励磁を切り換えることにより回転子51を回転させ、またギャップセンサ53により検出された回転子51の変位に応じて制御巻線へ励磁して回転子51の図2におけるX−Y方向への並進運動を制御するようになっている。
【0004】
上記ベアリングレスモータにおいて、回転子51の並進運動を制御するべく磁気支持制御巻線を励磁すると回転子軸52と直交する軸まわりの回転運動が発生する。このとき、回転子の重心G、永久磁石54及び固定子コア55の磁気的中心Mが軸方向(高さ方向)にずれていると回転子51の上記回転運動が大きくなる。このため、回転子51が傾いて回転精度や位置検出精度を低下させるおそれがある。更に、並進運動を制御するためのエネルギーが回転運動に変換されるため、エネルギーロスも発生する。また、ギャップセンサ53の測定中心Nが軸方向(高さ方向)に異なる位置に配置されていると、回転子51の傾きを変位として検出するため位置検出精度が低下する。
従来のベアリングレスモータは高速回転化、長寿命化、メンテナンスフリーの点でメリットがあるが、一方でセンサ部や支持力発生部を追加することによる大型化やコストUP等の課題がある。例えば、回転子軸52と直交向きの回転運動が発生すると、その運動が使用上問題となる用途ではその運動を検知する検知手段と、その運動を抑えるような働きをする回転運動抑制力発生手段を追加する必要が生じる。これは回転子を安定して支持する力を発生する手段と回転子の位置を検知する検知手段が2個必要と言うことになり、さらに大型化、コストUPとなる。
【0005】
本発明はこれらの課題を解決すべくなされたものであり、その目的とするところは、回転子の並進運動を制御すると共に回転軸と直交する方向への回転運動を抑えて回転精度を向上させることが可能なベアリングレスモータを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は上記目的を達成するため、次の構成を備える。
複数の固定子歯に巻き付けられる電動機巻線と該電動機巻線と対になって巻き付けられ回転軸を介して対向する位置の固定子歯に直列に巻き付けられる磁気支持巻線を有する固定子と、電動機巻線への励磁によりトルクを発生する回転子磁極を有する回転子と、回転軸と直交するX−Y平面上に配置され当該回転子のX−Y方向への変位を検出する変位検出手段と、回転子の回転位置を検出して電動機巻線への励磁を切り換えることにより回転子を回転させるモータ制御部と、変位検出手段により検出された回転子の変位に応じて磁気支持巻線へ励磁して回転子のX−Y方向への並進運動を制御する支持制御部を備えたベアリングレスモータであって、少なくとも回転子の重心位置と回転子磁極の磁気的中心が回転軸と直交する同一X−Y平面上に配置されていることを特徴とする。
また、回転子の重心位置と回転子磁極の磁気的中心に加えて変位検出手段の測定中心を回転軸と直交する同一X−Y平面上に配置されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
上述したベアリングレスモータを用いれば、回転子の重心位置と回転子磁極の磁気的中心が回転軸と直交する同一X−Y平面上に配置されているため、磁気支持巻線へ励磁して回転子のX−Y方向への並進運動を制御する際に回転子に重心付近を中心とした回転子の回転軸と直角方向まわりの回転運動を発生しない。よって、回転子の回転軸と直交する方向への回転運動を抑えながら回転子の並進運動を制御し、高精度の回転運動を得ることができる。
また、回転子の重心位置と回転子磁極の磁気的中心に加えて変位検出手段の測定中心を回転軸と直交する同一X−Y平面上に配置すると、回転子の回転精度や位置検出精度を向上することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下、本発明に係るベアリングレスモータの最良の実施形態について、添付図面を参照しながら説明する。本実施の形態ではアウターロータ型のDCブラシレスモータを例示して説明するが、インナーロータ型のモータについても適用可能である。
【0009】
ベアリングレスモータMの概略構成について図1乃至図4を参照して説明する。図1において、回転子1の構成について説明すると、回転子磁極としては、例えば8極に着磁された永久磁石2がカップ状の回転子ヨーク3の内周面に設けられている。回転子ヨーク3は回転子軸(シャフト)4と一体に連結されて回転可能に支持される。
【0010】
図1において、固定子20の構成について説明すると、固定子コア5は、シャーシ6に設けられた筒状のハウジング部7の外周に固定されている。ハウジング部7には、シャフト4が挿入されて回転子1が支持されている。シャーシ6には、回転子1の回転位置を検出する回転角度センサ15(図4参照)や、図2において回転子1を平面視してX−Y方向への変位を検出するギャップセンサ(変位検出手段)17が設けられている。これらのうちギャップセンサ17はX軸上及びY軸上に設けられている。但し、回転角度センサ15は必ずしもX軸上又はY軸上に設ける必要は無い。
【0011】
図3において、固定子コア5には例えば積層コアが用いられる。複数の固定子歯8は回転方向に30°で突設された歯頭部(8a1、8a2、8b1、8b2、8c1、8c2)を有する。固定子コア5には固定子歯8が放射状に12スロット分形成されている。固定子歯8の外周側にはU相(U1〜U4)、V相(V1〜V4)、W相(W1〜W4)に相当する三相の電動機巻線9が巻き付けられている。また、固定子歯8の内周側には電動機巻線9と対になって磁気支持巻線10(10a1、10a2(a相)、10b1,10b2(b相)、10c1、10c2(c相))が巻き付けられている。磁気支持巻線10は、シャフト4を介して対向する位置にある固定子歯8に直列に巻き付けられている。
【0012】
次に、モータ制御部の構成について図4のブロック図を参照して説明する。制御部11(CPU,DSP(Digital Signal Processor)など)には、モータ制御部12と支持制御部13が設けられている。モータ制御部12は、電動機電流駆動回路14を通じて電動機巻線9のうちいずれか2相(例えばiV及びiW)へ励磁して回転子1にトルクを発生させて回転駆動する。電動機巻線9への通電切り替えは回転角度センサ15の回転子磁極の検出信号に基づいて行なわれる。
【0013】
また、支持制御部13は、ギャップセンサ17の回転子1の変位検出信号により図示しない減算器、補償回路を通じて演算された演算結果と、回転角度センサ15の回転子磁極の検出信号に基づいて、磁気支持巻線10へ通電するX軸方向及びY軸方向の電流指令値を演算する。そして、支持制御部13は磁気支持巻線電流駆動回路16へ電流指令値を送り、磁気支持巻線電流駆動回路16は電動機巻線9のうち通電していないいずれかの1相又は2相(a相、b相、c相)の磁気支持巻線10へ通電して回転子1の並進運動を制御するようになっている。
【0014】
例えば、図5は、回転子1の回転角度φ(図3参照)が22.5°の場合を示す。このときU相は励磁されず電動機巻線9に流れる電流値が零になる。この状態で、U相の電動機巻線9と対になっている磁気支持巻線10a1に図示方向の電流a1を流すと、永久磁石2の磁束(太い矢印)に加えて支持磁束(細い矢印)が発生する。このとき、一方の歯頭部8a1と永久磁石2とのギャップ18では磁束密度が減少し、他方の歯頭部8a1と永久磁石2とのギャップ19では磁束密度が増加する。この結果、回転子1にはX軸方向に並進力Fxが発生する。尚、U相の電動機巻線9は励磁されないので、永久磁石2と固定子歯8に発生する磁束に影響を及ぼさない。このようにギャップセンサ17で検出される回転子1の変位に応じて磁気支持巻線10への通電により回転子1の並進運動を制御して磁気浮上させながらモータの駆動を行うことができる。
【0015】
また、図1において、回転子1の重心位置Gと永久磁石2の磁気支持における力の作用点を示す磁極の磁気的中心Mがシャフト4と直交する同一X−Y平面P上に配置されている。また、シャーシ6に設けられたギャップセンサ17の測定中心Nも同一X−Y平面P上に配置されている。
【0016】
したがって、磁気支持巻線10へ励磁して回転子1のX−Y方向への並進運動を制御する際に回転子1にはシャフト4と直交する軸まわりの回転が発生しない。よって、回転子1の並進運動を制御しても回転子1のシャフト4と直交する方向への回転運動が発生しないため回転精度を向上させることができる。
また、回転子1の重心位置Gと永久磁石2の磁気的中心に加えてギャップセンサ17の測定中心を同一X−Y平面P上に配置されていると、回転子1の回転精度や位置検出精度を向上することができる。
【0017】
また、上記実施例では、8極12スロットのモータについて説明したが、これに限るものではない。例えば相数をn(自然数)とした時、4n個のスロットを有するベアリングレスモータに適用出来る。さらに、2Pスロット(Pは自然数)、P極の2相モータについても適用することが可能である。また、回転子に永久磁石を有さない誘導型やリラクタンス型のベアリングレスモータについても適用可能である。
また、上記実施例では回転子ヨーク3の回転軸としてシャフト4を設けているが、シャフト4がないモータについても適用可能である。
【0018】
以上のような構成により回転子の並進運動を制御することによるモータの回転軸と直交する軸まわりの回転運動を原理的に無くすことが可能となり、前記回転運動を抑制する手段は不要とすることが出来る。その上、ベアリングレスモータを小型化でき、かつコストも低く抑えることも可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】ベアリングレスモータの垂直断面図である。
【図2】ベアリングレスモータの平面図である。
【図3】ベアリングレスモータの水平断面図である。
【図4】モータの制御系を示すブロック構成図である。
【図5】磁気支持力の発生原理の一例を示す説明図である。
【図6】従来のベアリングレスモータの不具合を示す説明図である。
【符号の説明】
【0020】
1 回転子
2 永久磁石
3 回転子ヨーク
4 シャフト
5 固定子コア
6 シャーシ
7 ハウジング部
8 固定子歯
9 電動機巻線
10 磁気支持巻線
11 制御部
12 モータ制御部
13 支持制御部
14 電動機電流駆動回路
15 回転角度センサ
16 磁気支持巻線電流駆動回路
17 ギャップセンサ
18、19 ギャップ
20 固定子

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の固定子歯に巻き付けられる電動機巻線と該電動機巻線と対になって巻き付けられ回転軸を介して対向する位置の固定子歯に直列に巻き付けられる磁気支持巻線を有する固定子と、
電動機巻線への励磁によりトルクを発生する回転子磁極を有する回転子と、
回転子の回転軸と直交するX−Y平面上に配置され当該回転子のX−Y方向への変位を検出する変位検出手段と、
回転子の回転位置を検出して電動機巻線への励磁を切り換えることにより回転子を回転させるモータ制御部と、
変位検出手段により検出された回転子の変位に応じて磁気支持巻線へ励磁して回転子のX−Y方向への並進運動を制御する支持制御部を備えたベアリングレスモータであって、
少なくとも回転子の重心位置と回転子磁極の磁気的中心が回転軸と直交する同一X−Y平面上に配置されているベアリングレスモータ。
【請求項2】
回転子の重心位置と回転子磁極の磁気的中心に加えて変位検出手段の測定中心を回転軸と直交する同一X−Y平面上に配置されている請求項1記載のベアリングレスモータ。

【図1】
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【図2】
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【図4】
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【図6】
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【図3】
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【図5】
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【公開番号】特開2008−211913(P2008−211913A)
【公開日】平成20年9月11日(2008.9.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−46211(P2007−46211)
【出願日】平成19年2月26日(2007.2.26)
【出願人】(000106944)シナノケンシ株式会社 (316)
【Fターム(参考)】