説明

ベオミセス酸含有抽出物の製造方法

【課題】ベオミセス酸含有抽出物の製造方法及びベオミセス酸含有抽出物の提供。
【解決手段】ベオミセス酸を含有する原料からベオミセス酸含有抽出物を製造するにあたり、ローマカミツレを用いることを特徴とするベオミセス酸含有抽出物の製造方法、1,3−ブタンジオールを抽出溶媒として用い、ベオミセス酸を含有する原料としては、ムシゴケであるベオミセス酸含有抽出物の製造方法、当該方法により得られるベオミセス酸含有抽出物、及びベオミセス酸含有抽出物からなる美白剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ベオミセス酸含有抽出物の製造方法に関する。また、本発明は当該方法により得られるベオミセス酸含有抽出物、並びに該抽出物を含有する美白剤及び美白用組成物に関する。さらに、本発明はベオミセス酸の溶解性を向上させる方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、紫外線による皮膚の黒化、シミ・ソバカス等の色素沈着は、メラノサイトが日光曝露による刺激やホルモンの異常又は遺伝的要素により活性化され、その結果、メラノサイトで合成されたメラニン色素が皮膚内に異常沈着することにより発生する。これを防止又は改善するため、化粧料等にアスコルビン酸、ハイドロキノン誘導体、コウジ酸、胎盤抽出物等のメラニン生成抑制作用を有する美白成分を配合することが行われている。
しかしながら、これらの物質の奏する美白作用は、効果の点で未だ充分に満足のいくものとはいえず、より高い美白効果を持つ素材の探索が進められている。例えば、植物等の抽出物から美白作用を有するとされるエキスが種々報告されている。ローマカミツレの抽出物(特許文献1)及びムシゴケの抽出物(特許文献2)は、メラニン生成抑制作用を有するとの報告がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2006−117613号公報
【特許文献2】特開2006−182731号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、新規な美白成分であるベオミセス酸を含有する抽出物の製造方法を提供することを課題とする。また、本発明は、当該製造方法によって得られるベオミセス酸含有抽出物を提供することを課題とする。さらに本発明は、当該ベオミセス酸含有抽出物を含有する美白剤及び美白用組成物を提供することを課題とする。
また、本発明はベオミセス酸の溶解性を向上させる方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは上記課題に鑑み、植物等の抽出物からの新規美白成分の探求と、当該成分を高濃度に含有しうる抽出方法について鋭意検討を行った。その結果、ムシゴケ抽出物に含まれる成分の1つであるベオミセス酸が、メラニン生成を効果的に抑制しうることを見出し、新規の美白成分として有用であるとの知見を得た。さらに、ムシゴケをローマカミツレと共に抽出して得られた抽出物では、ムシゴケの単独抽出で得られる抽出物と比べてベオミセス酸の含有量が有意に増大していること、及び保存後においてもベオミセス酸の溶解性が高いことを見出した。本発明はこれらの知見に基づいて完成するに至ったものである。
【0006】
すなわち、本発明は、ベオミセス酸を含有する原料からベオミセス酸含有抽出物を製造するにあたり、ローマカミツレを用いることを特徴とするベオミセス酸含有抽出物の製造方法に関する。
また、本発明は、当該方法により得られるベオミセス酸含有抽出物に関する。
また、本発明は、当該ベオミセス酸含有抽出物からなる美白剤及びそれを有効成分として含有する美白用組成物に関する。
さらに、本発明は、ローマカミツレを用いてベオミセス酸の溶媒への溶解性を向上させる方法に関する。
【発明の効果】
【0007】
本発明の製造方法によれば、新規の美白成分であるベオミセス酸を高濃度に含有する抽出物を製造することができる。当該方法によって得られる本発明のベオミセス酸含有抽出物は、メラニン生成抑制作用を有し、美白剤又は美白用組成物の有効成分として有用である。したがって、本発明は当該ベオミセス酸含有抽出物を含有する美白剤及び美白用組成物を提供することができる。
また、本発明の方法によれば、ベオミセス酸の溶解性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】試験例2において、ベオミセス酸を添加し培養した皮膚シートの写真である。
【図2】試験例2において、ベオミセス酸を添加した皮膚シート中のメラニン量(相対値%)を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明のベオミセス酸含有抽出物の製造方法は、ベオミセス酸を含有する原料からベオミセス酸含有抽出物を製造するに際して、ローマカミツレを用いることを特徴とする。ベオミセス酸含有原料とともにローマカミツレを用いることで、当該原料を単独で用いた場合と比べて抽出物中のベオミセス酸含有量が増大する。
以下、本発明を詳細に説明する。
【0010】
ベオミセス酸とは下記式(1)で表される化合物で、ムシゴケ抽出物等に含まれる成分の1つである。
【0011】
【化1】

【0012】
1.ベオミセス酸含有抽出物の製造方法
[原料]
本発明に使用する抽出原料はベオミセス酸を含有していればよく、ベオミセス酸を含有する植物、地衣類等を用いることができる。ベオミセス酸を含有する地衣類としては、例えば、ムシゴケ、センニンゴケが挙げられる。特に、本発明では抽出原料としてムシゴケを用いることが好ましい。ムシゴケとして、学名Thamnolia vermicularis(和名はセッチャ、別名はムシゴケ)であるムシゴケ科ムシゴケ属の地衣類、又は、学名Thamnolia Subuliformis(和名はトキワムシゴケ)であるムシゴケ科ムシゴケ属の地衣類を用いることができる。好ましくは、セッチャ(Thamnolia vermicularis)を用いる。
本発明においては、上記ベオミセス酸含有原料を二種以上混合して用いてもよく、単独で用いてもよい。
本発明では、上記ベオミセス酸含有原料とともにローマカミツレを用いる。本発明で用いるローマカミツレとは、キク科の植物で、学名はAnthemis nobilis L.である。
これらの植物や地衣類は市販品を使用することもできる。また、本発明では上記植物や地衣類の類縁種を用いることもできる。
【0013】
ベオミセス酸含有原料としてムシゴケを使用する場合、ムシゴケの任意の部位(全体、全草、地衣体、枝状体、葉状体、子実体等)を用いることができ、各部位を複数組み合わせて用いてもよい。好ましくは、地衣体、枝状体を用いる。
ローマカミツレについても任意の部位(全木、全草、根、根茎、幹、枝、茎、葉、樹皮、樹液、樹脂、花、果実、種子、果皮、莢、芽、花穂、心材等)を用いることができ、各部位を複数組み合わせて用いてもよい。好ましくは、花を用いる。
抽出に用いるムシゴケ等のベオミセス酸含有原料、ローマカミツレは生のままでもよく、抽出効率を高めるために、乾燥、細断、粉砕などの処理を施したものであってもよい。
【0014】
ベオミセス酸含有原料とローマカミツレとの使用比率は、ベオミセス酸高含有の抽出物が得られるのであればよく特に限定されない。好ましくは、ベオミセス酸含有原料:ローマカミツレが質量比で、1:0.5〜1:100であり、より好ましくは1:1〜1:10である。
【0015】
本発明の好ましい態様としては、ベオミセス酸含有原料とローマカミツレとを溶媒で抽出し、ベオミセス酸含有抽出物を得る方法が挙げられる。抽出は、あらかじめベオミセス酸含有原料とローマカミツレとを抽出槽に入れ、溶媒で抽出する方法、ローマカミツレエキスを用いてベオミセス酸含有原料を抽出処理する方法、ベオミセス酸含有抽出物を調製中にローマカミツレエキスを加える方法などが挙げられる。好ましくは、ベオミセス酸含有原料とローマカミツレとを同一溶媒(例えば後述の溶媒など)で抽出する方法であり、より好ましくは、ベオミセス酸含有原料とローマカミツレとを同じ抽出槽に入れ、同一溶媒中で抽出する方法である。
【0016】
[抽出溶媒]
抽出溶媒としては、ベオミセス酸含有原料に含まれるベオミセス酸を抽出しうるものであればよく、例えば、水;メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール等のアルコール類;エチレングリコール、プロピレングリコール、グリセリン、ブチレングリコール等の多価アルコール類等が挙げられ、これらは単独で又は2種以上を組み合わせて使用できる。
特に、ベオミセス酸は含水1,3−ブチレングリコール(1,3−ブタンジオール)への溶解性が低いため、抽出溶媒として1,3−ブチレングリコールを使用することで本発明の効果がより発揮され、好ましい。また、1,3−ブチレングリコールは、低刺激性であり、使用感もよいため化粧品等の皮膚外用剤用の溶媒として好ましく用いられるものである。本発明のベオミセス酸含有抽出物は、後述のように美白作用を有しており、化粧料等に美白剤として配合しうる。そのため、1,3−ブチレングリコールを抽出溶媒として得られたベオミセス酸含有抽出物は、化粧品等の用途に直接利用可能で、かつ少量で優れた美白作用を奏しうるものである。
【0017】
抽出溶媒の濃度及び使用量は特に限定されず、抽出原料の使用量や乾燥状態等により適宜選択することができる。美白効果の点からは、抽出物中のベオミセス酸濃度が1ppm〜1000ppm程度であることが好ましく、これを満たすように溶媒の濃度及び使用量を選択することが好ましい。具体的には、ベオミセス酸含有原料に対し1〜400倍量(質量比)の溶媒を使用することが好ましく、10〜400倍量がより好ましく、50〜200倍量がさらに好ましい。
ブチレングリコールを用いる場合、濃度が40%〜60%のものを用いることが好ましい。また、使用量はベオミセス酸含有原料1gに対して10〜400mL程度が好ましく、50〜200mL程度が好ましい。
なお、本発明においてppmは、特に限定がない限り質量基準である。また、本発明において溶媒濃度は特に限定がない限り容量(v/v)基準である。
【0018】
[抽出方法]
上記抽出溶媒で、ベオミセス酸含有原料とローマカミツレとを抽出する。抽出条件としては、地衣類や植物の抽出に用いられる通常の条件を適応することができ、特に制限はない。具体的には、抽出温度0〜100℃程度、好ましくは3〜100℃、より好ましくは20〜80℃、さらに好ましくは20〜40℃で、数分間〜数週間程度、好ましくは1時間〜数週間、より好ましくは1日〜30日間程度で浸漬又は加熱還流することが挙げられる。また、抽出効率を上げる為、併せて攪拌を行ったり、溶媒中でホモジナイズ処理を行ってもよい。
上記抽出工程のあと、必要に応じて、さらに適当な分離手段、例えばゲル濾過、クロマトグラフィー、精密蒸留等により活性の高い画分を分画してもよい。
本発明の製造方法により得られる抽出物には、このようにして得られた各種抽出物、その希釈液、その濃縮液、その精製物又はそれらの乾燥末等が包含される。
【0019】
2.ベオミセス酸含有抽出物
上述の方法により得られる抽出物はベオミセス酸を含有する。ベオミセス酸はメラニン生成抑制作用を有し、これを含有する本発明の抽出物は優れた美白作用を奏する。本発明の抽出物に含まれるベオミセス酸は、ベオミセス酸含有原料由来の成分である。ベオミセス酸がメラニン生成抑制作用を奏することは従来知られておらず、本発明者らにより得られた新しい知見である。
さらに、本発明の抽出物は、ムシゴケ等のベオミセス酸含有原料を単独で抽出して得られる抽出物とは組成が異なり、抽出物中のベオミセス酸含有量が有意に増大している。本発明のベオミセス酸含有抽出物は、同じ抽出条件で同量のベオミセス酸含有原料を単独で抽出した場合と比べて、抽出物中のベオミセス酸濃度が高い抽出物である。ベオミセス酸含有量の高い本発明の抽出物は、ベオミセス酸含有原料の単独抽出物と比べて一段と高い美白効果を奏する。
また、本発明の抽出物は低温下での溶解性(保存性)にも優れる。ベオミセス酸含有原料を単独で抽出した場合、成分の変性等を防止するために低温保存すると、ベオミセス酸の溶解性が低下して析出が見られた。これに対し、本発明の抽出物は、抽出後に低温下で長期間保存しても、ベオミセス酸の溶解性が低下しにくく、高い含有量を保つことができる。実際的な化粧品用途等への使用を考慮すると、製造適性や効率面で利点となる。
なお、本発明において「美白(作用、効果)」とは、メラニン色素の生成を抑え、余分なメラニンのない本来の透明な肌色に戻すこと、または皮膚の黒化若しくはシミ・ソバカス等の色素沈着を防止、抑制することを意味する。
【0020】
本発明の抽出物中のベオミセス酸濃度は特に限定されないが、美白作用を効果的に得るためには、濃度が1ppm以上であることが好ましく、1〜1000ppm程度であることがより好ましい。
【0021】
3.美白剤・美白用組成物
本発明のベオミセス酸含有抽出物は、そのまま美白剤として用いることができる。或いは、該抽出物を有効成分として配合し美白用組成物とすることもできる。
組成物とする場合、当該抽出物に、例えば酸化チタン、炭酸カルシウム、蒸留水、乳糖、デンプン等の適当な液体または固体の賦形剤または増量剤などを添加することができる。また、他の薬効成分を加えてもよい。例えば、本発明の抽出物以外の美白剤、保湿剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、界面活性剤、増粘剤、色材種等を加えることができる。組成物中に含有されるベオミセス酸含有抽出物の量は特に制限されないが、当該抽出物が0.0001〜20質量%含まれることが好ましく、0.001〜10質量%含まれることがより好ましく、0.05〜5質量%含まれることが特に好ましい。
【0022】
本発明の美白用組成物は、皮膚外用剤の形態で使用することが好ましい。「皮膚外用剤」とは、皮膚化粧料、外用医薬品、外用医薬部外品等として皮膚に適用されるものを意味し、その剤型も水溶液系、可溶化系、乳化系、粉末系、ゲル系、軟膏系、クリーム、水−油2層系、水−油−粉末3層系など、幅広い形態をとり得る。例えば、洗顔料、化粧水、乳液、クリーム、ジェル、エッセンス(美容液)、パック、マスク、ファンデーション、軟膏、シート状製品等の形態が挙げられる。
皮膚外用剤の形態で使用する場合には、本発明のベオミセス酸含有抽出物の他、通常の皮膚外用剤に用いられる成分、例えば界面活性剤、油性物質、高分子化合物、防腐剤、前記以外の薬効成分、紛体、紫外線吸収剤、色素、香料、乳化安定剤、pH調整剤等を適宜配合できる。ベオミセス酸含有抽出物を含有する皮膚外用剤の使用量は、有効成分の含有量により異なるが、例えばクリーム状、軟膏状の場合、皮膚面1cm当たり
0.1〜5μg、液状製剤の場合、同じく0.1〜10μg使用するのが好ましい。
【実施例】
【0023】
以下、本発明を実施例に基づきさらに詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。以下の試験例及び実施例等では、ベオミセス酸含有原料としてセッチャ(Thamnolia vermicularis)を用いた。
【0024】
試験例1.セッチャ抽出物からの成分の単離
(1)ベオミセス酸
セッチャ(新和物産社製)41.6gに95%エタノール水溶液1Lを加え、30℃で30日間抽出後、ろ過し、ろ紙上のセッチャを95%エタノール水溶液200mLで洗浄し、最初のろ液に加え、セッチャ抽出物1100mL(固形分2.98g)を得た。この抽出物56mL(固形分151.7mg)をHPLCで分画し、ベオミセス酸28.00mg(収率18.5%)を得た。
単離成分の構造解析は、NMRにより行った。単離成分のNMRスペクトルデータが文献で報告されているベオミセス酸(日本食品化学学会誌(日食化誌)Vol.14(2),2007参照)のスペクトルデータとほぼ一致したことから、単離された成分はベオミセス酸であると同定した。NMRによる構造解析の結果を表1に示す。なお、表中のMeはメチル基を表す。
【0025】
【表1】

【0026】
(2)スクァマト酸
上記(1)で得られたセッチャ抽出物24mL(固形分65.04mg)をHPLCで分画したところ、スクァマト酸5.6mg(収率8.61%)が得られた。単離成分の構造解析は、NMRにより行った。単離成分のNMRスペクトルデータが文献で報告されているスクァマト酸(Yunnan Zhiwu Yanjiu,24(4),525-530(2002))のスペクトルデータとほぼ一致したことから、単離された成分はスクァマト酸であると同定した。NMRによる構造解析の結果を表2に示す。なお、表中のMeはメチル基を表す。
【0027】
【表2】

【0028】
試験例2.セッチャ由来成分のメラニン産生抑制作用の検証
試験例1で単離したベオミセス酸を用いて、皮膚におけるメラニン産生の抑制作用について検証した。
メラノサイトを含む3次元培養皮膚モデル(MEL300A;クラボウ社)を、メラノサイト活性化因子であるエンドセリン−1(ET-1)とSCF(幹細胞増殖因子)とを終濃度10nMで添加したEPI-100-NMM113培地を用いて、37℃、5%CO条件下にて培養した。培養初日より、ベオミセス酸を終濃度50μMで添加した(N=2)。培地交換は3日に一度行った。14日後に、皮膚モデルをPBSにて洗浄し、写真撮影を行った。結果を図1に示す。その後、アラマーブルー試薬を用いて細胞呼吸活性を測定し、上記終濃度が細胞毒性を示さない濃度であることを確認した(結果は図示せず)。
続いて皮膚モデルカップをPBSで洗浄し、ピンセットで皮膚シートを剥離してチューブに移し、PBSで3回洗浄した。50%エタノールで3回、100%エタノールで2回洗浄した後、室温で一晩放置し、完全に乾燥させた。2M NaOHを200μL加えた後100℃で溶解させ、遠心分離によって得られた上清について405nmの測定波長で吸光度を測定し、メラニン量を算出した。結果を図2に示す。メラニン量は、コントロールのメラニン量を100とした場合の相対値(%)で示した。なお、コントロールとして、エタノール又は10〜95v/v%の含水エタノール溶液を終濃度0.1〜0.5v/v%で添加したものを用いた。
【0029】
図1から明らかなように、ベオミセス酸を添加した系では、コントロールの系に比べて皮膚の色が明るく、メラニン産生による皮膚の黒化が抑えられていた。また、図2に示すように、ベオミセス酸を添加した系では、細胞毒性を示さない添加濃度において、コントロールの系に比べて皮膚組織中のメラニン量が45%以上も低下していた。
【0030】
続いて、試験例1で単離したスクァマト酸を用いて、上記と同様にメラニン産生抑制作用について検証した。スクァマト酸を添加した系では、ベオミセス酸のような有意なメラニン量の低下は見られなかった。
【0031】
実施例1.ベオミセス酸含有抽出物の製造
表3に示す比率でセッチャ(新和物産社製)とローマカミツレ(新和物産社製)とを混合した混合物に、60%又は40%1,3−ブタンジオール400mLをそれぞれ加えて、40℃で4日間静置し、セッチャ‐ローマカミツレ混合抽出エキスを得た。
次いで、これらのエキス中のベオミセス酸含有量を、HPLCを用いて下記の条件で分析した。結果を表3に示す。表中のベオミセス酸含有比は、60%又は40%1,3−ブタンジオールを用いた抽出それぞれにおいて、セッチャ単独抽出物のベオミセス酸濃度を1として各エキスのベオミセス酸含有量を相対値で示したものである。
[ベオミセス酸分析条件]
・使用カラム:Inertsil ODS-3(3*150mm)
・移動相:A)0.1%TFA H2O
B)0.1%TFA MeOH
70% B液isocratic
・検出波長:254nm
・流速:0.6mL/min
上記条件で、ベオミセス酸の保持時間11分
【0032】
【表3】

【0033】
表3から明らかなように、セッチャを単独抽出して得られた抽出物(試料1及び6)と比較して、セッチャとローマカミツレとの混合抽出による抽出物(試料2〜5及び7)ではベオミセス酸濃度が大幅に高くなっていることがわかった。
【0034】
実施例2.ベオミセス酸含有抽出物の低温保存後の溶解性の検証
表4に示す比率でセッチャ(新和物産社製)とローマカミツレ(新和物産社製)とを混合した混合物に、60%1,3−ブタンジオール400mLを加えて、40℃で4日間静置し、セッチャ‐ローマカミツレ混合抽出エキスを得た。
得られたエキス中のベオミセス酸含有量を、HPLCを用いて上記実施例1と同様の条件にて分析した。次いで、得られたエキスを−5℃で2週間保存後、メンブランフィルターによりろ過を行った。得られたろ液中のベオミセス酸含有量を、HPLCを用いて同様に分析した。

【0035】
【表4】

【0036】
表4から明らかなように、セッチャを単独抽出して得られた抽出物(試料1及び3)では、低温保存後のベオミセス酸濃度がほぼ1/2と大幅に低下していた。また、低温保存後の抽出物には白濁又は析出が見られた。このことから、単独抽出の抽出物では、低温下においてベオミセス酸の溶解性が大きく低下すると考えられる。これに対し、セッチャとローマカミツレとの混合抽出による抽出物(試料2及び4)では、低温保存後のベオミセス酸濃度が相対的に高かった。また、抽出物に白濁又は析出は見られなかった。
なお、試料5及び6では低温保存後のベオミセス酸濃度が同程度であるが、これはセッチャの量に対して溶媒量が多いため、単独抽出時と混合抽出時とのベオミセス酸の溶解性に差が出ないためと考えられる。
【0037】
参考例1.ローマカミツレ由来成分の含有量分析
下記の表5に示す比率でセッチャ(新和物産社製)とローマカミツレ(新和物産社製)とを混合した生薬混合物に、60%又は40%1,3−ブタンジオール400mLをそれぞれ加えて40℃で4日間静置し、セッチャ−ローマカミツレ混合抽出エキスを得た。次いで、抽出物中のアピゲニン含有量をHPLCを用いて下記の条件にて分析した。
なお、アピゲニンはローマカミツレに含まれるフラボノイド成分の1つである。
【0038】
[アピゲニン分析条件]
・使用カラム:Inertsil ODS-3(3*150mm)
・移動相:A)0.1%TFA H2O
B)0.1%TFA MeOH
50% B液isocratic
・検出波長:340nm
・流速:0.5mL/min
上記条件で、アピゲニンの保持時間14分
【0039】
【表5】

【0040】
表5から明らかなように、ローマカミツレを単独抽出して得られた抽出物(試料1,3,5,7及び9)と、セッチャとローマカミツレとの混合抽出による抽出物(試料2,4,6,8及び10)との間でアピゲニン濃度に有意な差異は認められなかった。
【0041】
実施例2.ベオミセス酸含有抽出物の美白作用(メラニン生成抑制作用)の検証
セッチャ‐ローマカミツレ混合抽出物の美白作用を、下記のドーパオキシダーゼ活性評価系によって検証した。ドーパオキシダーゼ活性は、チロシナーゼ酵素活性阻害作用をもつメラニン産生抑制素材を評価する際にその指標として用いられているものである(Wrathall JR.et al.,JCB 1973 57:406-423参照)。この手法によれば、メラノサイト内のドーパオキシダーゼ活性を抑制することで、最終的な生合成産物であるメラニンの産出を抑制する物質を評価することができる。
【0042】
ドーパオキシダーゼ活性の測定
96穴プレートにヒト新生児包皮由来のメラノサイト100μlを1×10cell/wellの細胞密度となるように各穴に播種した。培地はMedium254にPMAを除くHMGS(Human Melanocyte Growth Supplement)(いずれもCascade Biologics社製)を添加したものを用いた。
24時間の培養後、メラノサイト活性化因子エンドセリン−1(ET−1)、幹細胞増殖因子(SCF)、αメラノサイト刺激ホルモン(α−MSH)、ヒスタミンおよびプロスタグランジンE2(PGE2)を、それぞれ培地中終濃度で10×10-7mol/m3になるように添加した。
また、実施例1の試料2で得られたベオミセス酸高含有抽出物(セッチャ‐ローマカミツレ混合抽出物)の2倍希釈品を終濃度0.50質量%となるように添加した(ベオミセス酸濃度:0.32ppm)。最終的に培地量は200μl/wellで、37℃、5%CO2の条件下で3日間培養を行った。
【0043】
なお、培地には、以下の添加物も添加されている。
bFGF(塩基性線維芽細胞成長因子) 3ng/ml
BPE(ウシ脳下垂体抽出液) 0.2体積%
FBS(ウシ胎児血清) 0.5体積%
ハイドロコーチゾン 5×10-4mol/m3
インスリン 5μg/ml
トランスフェリン 5μg/ml
ヘパリン 5μg/ml
培養終了後、メラノサイトをCa2+およびMg2+を除去したPhosphate−buffered saline(PBS)で洗浄し、抽出バッファー(0.1M Tris−HCL(pH7.2)、1%Nonidet P−40、0.01%SDS、100μM PMSF(フェニルメチルスルホニルフルオライド)、1μg/mlアプロチニン)を20μl/well、Assay buffer(4%ジメチルホルムアミドを含有する100mM Sodium phosphate−buffered(pH7.1))を20μL/well添加し、4℃、3時間で細胞を可溶化し、ドーパオキシターゼ活性の測定を行った。ドーパオキシダーゼ活性測定は、MBTH法(例えば、Winder A.J.,Harris H.,Eur.J.Biochem.,198,317-326,1991参照)を参考に、以下のように行った。
【0044】
可溶化した細胞溶液の各wellに、Assay bufferを80μL/well、20.7mM MBTH(3−メチル−2−ベンゾチアゾリノン ヒドラゾン)溶液を60μL、基質として5mM L−ドーパ(L−ジヒドロキシフェニルアラニン)溶液を40μl、それぞれ加え、37℃で30〜60分反応させた後、その呈色反応を490nmの吸光度で測定した。
結果を表6に示す。なお、ドーパオキシダーゼ活性の値は、試料を添加しなかった場合の吸光度に対する相対値で示している。
【0045】
【表6】

【0046】
表6の結果から明らかなように、セッチャとローマカミツレとの混合抽出エキスを添加した系では、添加しなかった系と比べてドーパオキシダーゼ活性が大きく低下することがわかった。前述のように、ドーパオキシダーゼ活性はメラニン生合成に関するチロシナーゼの酵素活性の指標として用いられろ。すなわち、本発明のベオミセス酸含有抽出物は、ドーパオキシダーゼ活性を効果的に阻害することでメラニン産生を抑制でき、美白成分として有用であることがわかる。
【0047】
処方例
前記実施例1で得られたベオミセス酸含有抽出物を有効成分として、下記に示す組成のローション、乳液、美容液、クリーム、パックを常法により各々調製した。
【0048】
1.ローションの調製
(組成) (配合:質量%)
1,3−ブチレングリコール 8.0
グリセリン 5.0
エタノール 3.0
ベオミセス酸含有抽出物(実施例1の試料2) 3.0
ローマカミツレエキス 3.0
キキョウエキス 1.0
チョウジエキス 1.0
キサンタンガム 0.1
ヒアルロン酸 0.1
リン酸二ナトリウム 0.1
リン酸二水素ナトリウム 0.1
アスコルビン酸2−グルコシド 2.0
精製水 残部
香料 適量
防腐剤 適量
【0049】
2.乳液の調製
(組成) (配合:質量%)
ベオミセス酸含有抽出物(実施例1の試料2) 5.0
ローマカミツレエキス 1.0
キキョウエキス 1.0
アルテアエキス 2.0
スクワラン 3.0
オリブ油 3.0
グリセリン 5.0
ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油(エチレンオキサイドの付加モル数:40) 1.0
カルボキシビニルポリマー 0.2
水酸化カリウム 0.1
キサンタンガム 0.2
エデト酸二ナトリウム 0.02
精製水 残部
防腐剤 適量
【0050】
3.美容液の調製
(組成) (配合:質量%)
ベオミセス酸含有抽出物(実施例1の試料2) 1.0
ローマカミツレエキス 1.0
キキョウエキス 1.0
チョウジエキス 1.0
カルボキシビニルポリマー 0.2
アクリル酸・メタクリル酸アルキル共重合体 0.2
水酸化カリウム 0.2
キサンタンガム 0.1
ヒアルロン酸 0.2
クエン酸ナトリウム 0.15
クエン酸 0.03
グリセリン 10.0
1,3−ブチレングリコール 5.0
エデト酸二ナトリム 0.05
精製水 残部
防腐剤 適量
香料 適量
【0051】
4.クリームの調製
(組成) (配合:質量%)
ベオミセス酸含有抽出物(実施例1の試料2) 3.0
ローマカミツレエキス 2.0
キキョウエキス 2.0
チョウジエキス 2.0
メチルポリシロキサン 3.0
スクワラン 2.0
ジカプリン酸ネオペンチルグリコール 3.0
ステアリルアルコール 1.5
セタノール 1.0
ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油(エチレンオキサイドの付加モル数:60) 0.5
アクリル酸・メタクリル酸アルキル共重合体 0.3
水酸化カリウム 0.15
キサンタンガム 0.1
エデト酸二ナトリウム 0.05
精製水 残部
防腐剤 適量
香料 適量
【0052】
5.パックの調製
(組成) (配合:質量%)
ベオミセス酸含有抽出物(実施例1の試料2) 3.0
ローマカミツレエキス 2.0
キキョウエキス 1.0
ジプロピレングリコール 3.0
ポリエチレングリコール(平均分子量1500) 2.0
1,3−ブチレングリコール 5.0
グリセリン 5.0
クエン酸ナトリウム 0.5
ポリビニルアルコール 10.0
乳酸 0.3
ポリオキシエチレンデシルテトレデシルエーテル 0.5
精製水 残部
防腐剤 適量
香料 適量

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ベオミセス酸を含有する原料からベオミセス酸含有抽出物を製造するにあたり、ローマカミツレを用いることを特徴とするベオミセス酸含有抽出物の製造方法。
【請求項2】
前記ベオミセス酸含有原料とローマカミツレとを同一溶媒で抽出することを特徴とする、請求項1記載のベオミセス酸含有抽出物の製造方法。
【請求項3】
1,3−ブタンジオールを抽出溶媒として用いることを特徴とする、請求項1又は2記載のベオミセス酸含有抽出物の製造方法。
【請求項4】
前記ベオミセス酸含有原料がムシゴケであることを特徴とする、請求項1〜3のいずれか1項に記載のベオミセス酸含有抽出物の製造方法。
【請求項5】
前記ムシゴケがセッチャ(Thamnolia vermicularis)であることを特徴とする、請求項4記載のベオミセス酸含有抽出物の製造方法。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項に記載の製造方法により得られるベオミセス酸含有抽出物。
【請求項7】
請求項6記載のベオミセス酸含有抽出物からなる美白剤。
【請求項8】
請求項7記載の美白剤を有効成分として含有する美白用組成物。
【請求項9】
ローマカミツレを用いてベオミセス酸の溶媒への溶解性を向上させる方法。
【請求項10】
前記溶媒が1,3−ブタンジオールであることを特徴とする、請求項9記載の方法。

【図2】
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【図1】
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【公開番号】特開2012−126654(P2012−126654A)
【公開日】平成24年7月5日(2012.7.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−277003(P2010−277003)
【出願日】平成22年12月13日(2010.12.13)
【出願人】(000000918)花王株式会社 (8,290)
【Fターム(参考)】