説明

ベシクル−スレッド・コンジュゲートから形成される生体模倣膜

本発明は、生物学的な膜および膜タンパク質の特性および機能を有する人工のデバイスを作製するための方法に、ならびにこのようなデバイスの構造に関する。要するに、本発明の一側面では、天然または遺伝子的に操作されたタンパク質がポリマーベシクル中に組み込まれ、このポリマーベシクルが、スレッドにコンジュゲートされて、ベシクル−スレッドのコンジュゲートが形成されるようになされる。この操作されたタンパク質は好ましくは、ポリマーベシクルの壁に包埋された膜貫通タンパク質である。次いで、ベシクル−スレッドのコンジュゲートを、液体の間で化合物を選択的に輸送および/または濾過する能力を含めて、広範な種々の固有の機能を有する膜または薄いファブリックに形成する。特定の特性を有するタンパク質を選択することによって、方向づけられた静電気力、電磁気力および化学力を介して分子スケールアドレス指定能力を含めて規定の機能を有する膜を製造してもよい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の背景
本発明は、生物学的な膜および膜タンパク質の特性および機能を有する人工のデバイスを作製するための方法に、ならびにこのようなデバイスの構築物に関する。
【背景技術】
【0002】
生物学的膜タンパク質は、広範な種々の機能を有し、この機能としては、とりわけ、ポンプ、チャネル、弁(バルブ)、エネルギー輸送因子、ならびにメカニカルセンサー、熱センサーおよび電気センサーとしての作用が挙げられる。これらのタンパク質は、ナノメートルの大きさでかつ極めて効率的であるので、それらは人工的なデバイスにおける使用に極めて魅力的である。しかし、それらの自然な脂質膜の環境は、低い強度、水性環境の必要性、および化学的分解または細菌性分解に対する感受性などの欠点を被る。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0003】
発明の要旨
要するに、本発明の一態様では、天然または遺伝子的に操作されたタンパク質がポリマーベシクル中に組み込まれ、そのポリマーベシクルは、スレッドにコンジュゲートされ、ベシクル−スレッドのコンジュゲートが形成される。操作されたタンパク質は好ましくは、ポリマーベシクルの壁に包埋された膜貫通タンパク質である。次いで、ベシクル−スレッドのコンジュゲートを、液体の間で化合物を選択的に輸送および/または濾過する能力を含めて、広範な種々の固有の機能を有する膜または薄いファブリックに形成する。特定の特性を有するタンパク質を選択することによって、方向づけられた静電気力、電磁気力および化学力を介した分子スケールのアドレス指定能力を含めて規定の機能を有する膜を製造してもよい。
【0004】
本発明のベシクル−スレッドのコンジュゲートは、必要に応じて、以下の特性を有するように、すなわち、所望の厚みの膜を形成する能力; 所望の化学組成の膜を形成する能力; 高い強度の膜を形成する能力; および必要に応じて既に形成された膜の強度を増大する能力、と言う特性を有するように、設計しかつ作製してもよい。ベシクル−スレッドのコンジュゲートの最も重要な特性の1つは、それらが、機能的な状態で自然な生物学的な膜タンパク質を収容し得るということ、およびこれらのコンジュゲートが、このベシクルに生物学的な膜タンパク質を挿入することによって、ロバスト(頑健)でかつ長寿命であり、このタンパク質の特性および機能を有するデバイスが作製されるということである。適切なベシクルは、それらが適切に方向付けられた場合、そのタンパク質の容易な挿入を可能にし、かつそのタンパク質の天然の機能を損なわないために天然の脂質膜と十分に類似していなければならない。これらの条件を満たすベシクルは好ましくは、親水性の外部ブロックおよび疎水性の内部ブロックという一般的な特性を有する、脂質化ポリマーまたはトリブロックのコポリマーから形成される。
【0005】
本発明の一側面は、一致して作用した場合、光から電気を生じるデバイス「バイオソーラーセル(Biosolar Cell)」を生じる2つの異なるタンパク質をベシクルが備えている、ベシクル−スレッドのコンジュゲートの作製に関与する。本発明の別の側面は、任意の水源からの水の精製を可能にする水輸送タンパク質を利用する。これらの側面の説明は以下に示す。
【0006】
デバイスの小型化をもたらす技術的な革新によって、電子機器は、小さく軽くさらに効率的になっているので、これらのデバイスの電源における進歩はそれほど急速に進行していない。21世紀には電源は、大きさおよび重さを小さくする一方で、ますます多くのデバイスに対してエネルギーを供給するという課題に直面する。さらに、ナノテクノロジーおよびバイオテクノロジーの将来の製品では、形態でも機能でも現在用いられているものとは似てさえいない電源が必要とされるであろう。
【0007】
広範な種々の新たな用途のために軽量でかつさらにコンパクトな電源が緊急に必要である。このような電源によって、所定の電源要件が担われるのに必要な重量を最小限にする出力密度を最大化するため、現代のバッテリーの技術で獲得可能であるよりも広い範囲の使命目的が可能になる。重量要件は重要である。なぜなら従来の燃料源では、燃料源はデバイスに近くなければならず、そして可動である場合そのデバイスで輸送されなければならないからである。燃料の消費も生じ得る可能性があり、そして次にその供給の補充が必要となる。これによって、使用者の範囲および移動性は制限され得る。
【0008】
現代科学ではナノバイオテクノロジーの発達で見込まれるエキサイティングな能力が示されている。原子が消費されない構成要素を利用するデバイスの製造によって、最高レベルの効率性および小型化が見込まれる。電源に関して近年の技術的発達が見込まれているが、それらは、既存の技術での段階的な改善から生じる。次世代のデバイスに理想的に適した電源は、その機能にナノバイオテクノロジーを利用しており、また高レベルの能力でデバイスの現在の世代に電力を供給し得る。
【0009】
ごく最近、最初のナノバイオテクノロジーデバイスを開発するために必要な技術および知識が利用可能になり、生化学的燃料ATPによって動力を与えられる、ナノメートル規模の有機/無機のハイブリッドデバイスの操作および構築が報告されている(Soong,R.K.、Bachand,G.D.、Neves,H.P.、Olkhovets,A.G.、Craighead,H.G.、およびMontemagno,C.D.(2000),Science 290,p.1555 1558)。これらのデバイスにおける使用および他の機械に動力を供給するためのこれらのデバイスの使用のためのATPの生成には、マクロ〜ナノメートルのスケールの間の動力の移行、および異なるタイプのエネルギーの相互変換において、動機付けされた目的がある。
【0010】
本発明の別の側面では、異なる機能を有する他のタンパク質を用いて、電子/プロトンを輸送して、電力/化学力の伝達を可能にし、機械的な弁(バルブ)およびセンサーとして作用することができる。
【0011】
本発明の好ましい形態では、膜を用いて、バイオソーラー電力供給物質およびファブリックを提供し、これは、生体適合性のポリマー膜を含むベシクルを有するベシクル−スレッドのコンジュゲートからなり、上記の生体適合性のポリマー膜には、2つのエネルギー変換タンパク質であるバクテリオロドプシンおよびチトクロムオキシダーゼを包埋され、該2つのエネルギー変換タンパク質は、光エネルギーを電気エネルギーに変換し、このエネルギーを外部負荷に送る。薄い(1μm未満)ポリマー膜の使用、および燃料を電源に運搬する必要がないことから大幅な軽量化が得られる。これによって、衣類およびほとんどの物質の表面に組み込むことができるシステムが開発され得、これによって、ソーラーセルで達成できるのと等しいかまたはそれより大きい効率で、電源は効果的に軽量化される(1kg/m2未満)。このように、バイオソーラーパワー材料は、光からエネルギーを得るハイブリッドの有機/無機の電源を形成する。
【0012】
本発明のプロセスは、生体模倣膜および薄膜に形成されたベシクル−スレッドのコンジュゲートからなる薄いファブリックの製造に関する。一実施形態では、このベシクルは、光エネルギーを電気エネルギーに変換し、このエネルギーを外部負荷に送る、2つのエネルギー変換タンパク質であるバクテリオロドプシンおよびチトクロムオキシダーゼを包埋された生体適合性のポリマー膜である。これらのタンパク質は、隔てられており、かつ数百年にわたる自然の選択によって、光エネルギーおよび電気エネルギーを電気化学的エネルギーに変換するように最適化されている。あるデバイスに組み込まれた場合、それらは、有用な量の電力を無制限に供給し、かつ敵対的環境および友好的環境の両方で高い移動度を要する用途のために十分軽く、コンパクトで、頑丈である。
【0013】
バクテリオロドプシンは、光の吸収の際に細胞膜を貫通してプロトンを輸送する細菌のタンパク質である。チトクロムオキシダーゼは、高エネルギー電子を用いてプロトンを輸送する膜タンパク質である。これらのタンパク質は、光エネルギーを電気化学的なプロトン勾配へ変換するために直列で用いられ、この勾配が引き続き、外部作業を行うために用いられる起電力へと変換される。このデバイスは、従来のソーラーセルの生物学的バージョンであるので、電源とともに担持されるべき「燃料」がなく、これによって出力密度が有意に大きくなる。さらに、このようなデバイスから理論的に抽出可能な最大エネルギーは、無限である。なぜなら、そのようなエネルギーは太陽またはそのデバイスが働く限り、働くからである。最終デバイスの推定される面の質量密度は約100g/m2であり、これによってソーラーセルで達成可能である以上の効率で効率的に軽いエネルギー源が得られる。このバイオソーラーセルの材料の組成および寸法では、最終的に、容積および重量を事実上占有しないが、大量の装備に対して電力を供給するのに十分な、大きい(>250W/kg)出力密度および大きいエネルギー密度(3時間あたり800Whr/kg。3日あたり9500Whr/kg、10日あたり32000Whr/kg)が得られる。さらに、その操作から生じる、ごくわずかな聴覚的、熱的および電子的な徴候がある。
【0014】
本発明の電源と従来のソーラーセルとの間には重要な区別がある。なぜなら、本発明の電源は大量生産されたタンパク質および一般的なポリペプチドから構築されており、それらは、軽量で、可塑性で、ロバストで、かつ低コストで大量に製造可能であるからである。このデバイスに関連の長さスケールは、パッケージングの厚みが1μm未満である。これらの酵素が正常に存在する膜は、5nmの厚みを有する。バイオソーラーセルの積層シートは、コストを増やすことなく、衣類および他の表面に組み込むことができる。なぜなら、それらは、どんな方式でも着用されるにちがいないからである。ファブリック中の発電セル(power−generating cell)の適切なモジュール設計によって、電力ファブリックが重大な損傷に対して持ちこたえ、かつ機能性を維持する能力が得られる。電気的エネルギーおよび生化学的エネルギーを交換する能力によって、電気的に電力供給するバイオデバイスの構築物、および生化学的燃料の電気への変換が可能になる。電気的形態、生化学的形態および光学的形態の間でエネルギーを変換する能力によって、入力エネルギーの種類によって拘束されないナノ生物学的デバイスの設計および産生が可能になる。
本発明の前述の、および追加の目的、特徴、および利点は、添付の図面と合わせて、その好ましい実施形態の以下の詳細な説明から最も理解される。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明によるベシクル−スレッドのコンジュゲートの模式図である。
【図2】本発明によるベシクル−スレッドのコンジュゲートを産生するために必要なプロセスを示す。
【図3】本発明の一実施形態を示しており、ここではベシクル表面は、アミン末端のPEtOz−PDMS−PEtOzベシクルを生じるように官能化されている。
【図4】メタクリレート末端のPEtOz−PDMS−PEtOzベシクルおよびNHS末端のPEtOz−PDMS−PEtOzベシクルを示す本発明の別の実施形態を示す;
【図5】本発明によるスレッド成分としてのセルロースの使用を示す;
【図6】本発明によるスレッド成分としてカルボキシメチルセルロース(CMC)の使用を示す;
【図7】本発明による好ましいスレッドを有する好ましいベシクルのコンジュゲートを示す。
【図8】本発明によるスレッド成分としてアミノエチルセルロース(AE−セルロース)の使用を示す。
【発明を実施するための形態】
【0016】
「Biomimetic membranes」というタイトルの米国特許第7,208,089号の内容は、明確に参照によって本明細書に援用される。「Biomimetic Polymer Membrane that Prevents Ion Leakage」というタイトルの国際特許出願PCT/US08/74163は、明確に参照によって本明細書に援用される。「Making Functional Protein−Incorporated Polymersomes」というタイトルの国際特許出願PCT/US08/74165は、明確に参照によって本明細書に援用される。「Protein Self−Producing Artificial Cell」と題される、米国特許仮出願第61/055,207号は、明確に参照によって本明細書に援用される。
【0017】
本発明は、生体模倣膜または薄膜(8)に形成され得る、図1に図示されるようなベシクル−スレッドのコンジュゲート(1)に関する。好ましい実施形態では、この薄膜(8)は、ベシクル−スレッドのコンジュゲート(1)をファブリックへと織ることによって形成される。別の実施形態では、薄膜(8)は、コンジュゲートがお互いに結合する「抄紙(paper−making)」構造へとベシクル−スレッドのコンジュゲート(1)を溶着させることによって形成される。図1は、ベシクル膜に包埋される任意の種類のタンパク質(7)を有するベシクルまたはポリマーソーム(polymersome)(2)を示す。このベシクル(1)は、ABAトリブロックコポリマー(3)であって、それらをスレッド(5)に対して連結している架橋官能基(4)を有するコポリマーを含み得る。また、薄膜または膜(8)も示され、これは複数のこのようなベシクル−スレッドのコンジュゲート(1)によって形成される。このコンジュゲートは、図2に示されるように官能化ベシクル表面および官能化スレッド表面を提供することによって形成される。
【0018】
ベシクルは好ましくは、米国特許第7,208,089号に記載のような、脂質化されたポリマーまたはトリブロックコポリマーである。図3は、ベシクル表面が、アミン末端のPEtOz−PDMS−PEtOzベシクルを生じるように官能化されている本発明の一実施形態を示す(その内容が明らかに参照によって本明細書に援用されている、Joon−Sik Park,et al.Macromolecules 2004,37,6786−6792を参照のこと)。このベシクル表面は、他の公知の技術を用いて官能化されてもよい。図4は、メタクリレート末端のPEtOz−PDMS−PEtOzベシクルおよびNHS末端のPEtOz−PDMS−PEtOzベシクルを示す。この選択された官能基は、ベシクル−スレッドのコンジュゲート中で用いられるスレッドのタイプに依存して変化し得る。さらに、ポリマーおよび官能化の種類は、ベシクル中に組み込まれているタンパク質の種類に依存し得る。
【0019】
このスレッドは、これらに限定されるものではないが、セルロース材料、カルボキシメチルセルロース(CMC)、アミノエチルセルロース(AE−セルロース)およびナイロンベースの材料を含む種々の利用可能な材料から選択され得る。この好ましいセルロース材料は、水およびほとんどの有機溶媒に対して親水性および不溶性である。図5に示すように、セルロース材料上の複数のヒドロキシル基は、別の鎖の上の酸素分子と水素結合を形成し、隣り合って鎖を一緒に強固に保持し、そして高い引張強度を有する微小繊維(マイクロフィブリル)を形成する。結晶性セルロースは、25MPaの圧力下では水中で非結晶になる。セルロースのヒドロキシル基を種々の試薬と部分的にまたは完全に反応して、有用な特性を有する誘導体を得ることができる。セルロースエステルおよびセルロースエーテルは、最も重要な市販の物質、例えば、2〜3例を挙げると、酢酸セルロース、エチルセルロース、メチル−セルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、およびヒドロキシエチルメチルセルロースである。図6に示されるとおり、別のスレッド材料は、市販のカルボキシメチルセルロース(CMC)であってもよい。CMCは、ヒドロキシル基から生じるようなカルボキシルメチル基(−CH2−COOH)結合を有するセルロース誘導体である。極性(有機酸)カルボキシル基によってセルロース溶解性および化学的反応性が得られる。部分的にカルボキシメチル化されたセルロースは低い置換程度で(DS=0.2)その線維性の特徴を保持するが、その特性の多くは、もとの線維の特性とは異なっている。平均の鎖長および置換の程度は、重要性が大きく;さらに疎水性の低置換CMCは、チキソトロピック(thixotropic)だが、さらに伸長して、より高度に置換されたCMCは偽塑性(pseudoplastic)である。低いpHでは、CMCはカルボン酸と遊離のヒドロキシル基との間のラクトン化を通じて架橋を形成し得る。図8は、アミノエチルセルロース(AE−セルロース)から形成されたスレッドを示す。AE−セルロースは、水酸化ナトリウムの存在下でセルロースと2−アミノエチル−硫酸とが反応することによって形成され得る。AE−セルロースは、Whatmanから市販されており、以前にクロマトグラフィーカラムおよびフィルターに用いられている。
【0020】
図7は、好ましいベシクルと好ましいスレッドとのコンジュゲーションを示す。この実施形態では、カルボキシメチルセルロース(CMC)スレッドは、ジシクロヘキシル カルボジイミド(DCCI)の存在下でアミン−官能化ベシクルと反応される。あるいは、AE−セルロースは、トリクロロメチルプリンまたはベンゼンスルホニルクロライドなどのハライド類と反応する。これはまた、ジシクロヘキシルカルボジイミドなどのカルボジイミドの存在下でタンパク質および有機酸と反応する。
【0021】
本発明の好ましい形態では、ベシクル−スレッドのコンジュゲートをファブリックに織って、バイオソーラー電力型(biosolar−powered)材料およびファブリック(光エネルギーを、電気エネルギーに変換し、かつこのエネルギーを外部負荷に送る、2つのエネルギー変換タンパク質であるバクテリオロドプシンおよびチトクロムオキシダーゼを包埋した生体適合性のポリマー膜を組み込んでいる薄いファブリックからなる)を得るために用いられる生体模倣膜を作製する。薄い(1μm未満)ポリマー膜を使用すること、燃料を電源に運搬する必要性がないことから、かなり重量を減らせる。これによって、衣類およびほとんどの物質の表面に組み込むことができるシステムが開発され得、これによって、ソーラーセルで達成できるのと等しいかまたはそれより大きい効率で、電源は効果的に軽量化される(1kg/m2未満)。このように、バイオソーラー電力型材料は、光からエネルギーを得るハイブリッドの有機/無機の電源を形成する。
【0022】
本発明の一形態では、バクテリオロドプシンおよびチトクロムオキシダーゼがベシクルに組み込まれ、このベシクルがさらにスレッドとコンジュゲートされる。このベシクル−スレッドのコンジュゲートは、微細加工された電極と接触させられているファブリックに織られる。この提唱されたデバイスの操作は、バクテリオロドプシン、チトクロムオキシダーゼおよびそれらの脂質およびポリマー膜への組み込みが理解された後に最もよく理解され得る。これらの全ては、広範に研究されており、かつそれらの合成および機能に関与する広範な文献がある。エネルギー変換タンパク質、ならびにそれらを脂質およびポリマー膜へ組み込むことに関するさらに詳細については、米国特許第7,208,089号を参照のこと。
【0023】
膜表面に対するイオンの拡散は、大きくかつ、ベシクルの適切な選択によって大きくなり得るので、そのベシクル表面自体が、バイオソーラーセルの機能化のために必要なことである(Pitard et al.,1996)。ベシクル、例えば、脂質化ポリマーまたは多くの生体適合性ポリマーマトリクスの任意の1つは、タンパク質を含み、かつプロトン障壁として機能する。これらのポリマーマトリクスは極めて一般的であり、好ましくは、(a)それらが、膜貫通タンパク質を用いる場合、タンパク質の上半分および下半分を分けるベシクルを形成すること、(b)それらが、天然の脂質膜に対して十分類似の環境を形成し、その結果このタンパク質が適切な方向でベシクルに容易に挿入され得ること、(c)このタンパク質によって経験されるベシクルの局所の化学的環境が、そのタンパク質の自然な機能を含むようにタンパク質を折りたたみも変形もしないこと、しか必要としない。これらの条件を満たすベシクルとしては限定するものではないが、親水性の外側ブロックおよび疎水性の内部ブロックという一般的な特性を有する、脂質化ポリマーおよびトリブロックコポリマーが挙げられる。このタンパク質組み込みポリマーベシクルは好ましくは、米国特許第7,208,089号および国際特許出願PCT/US08/74163に記載されているものである。BRおよびCOXは、このベシクルの表面に方向づけられ、かつ組み合わされ、そしてこのベシクル−スレッドのコンジュゲートから形成された膜は電極と重ねられる。
【0024】
タンパク質に対して電極を近接させるためには、米国特許第7,208,089号に記載されるような多くの使用可能な戦略がある。電極グリッドは、電気的測定のための外部接続された細いワイヤーメッシュの形態で脂質の上に直接おいてもよい。表面上から液体を除去した後、アルミニウムまたはニッケルの薄い透過性の層を膜上に直接噴霧して、対電極を形成してもよい。あるいは、この電極は、チップのアレイをラスタリングすることによって脂質表面上に電気化学的に蒸着され得る。この蒸着は、膜の表面上に数百万のナノスケールのワイヤを生じる。上記の工程を繰り返して組み合わせ、脂質膜に含まれる方向づけられたCOXおよびBRを生じる。
【0025】
BRおよびCOXの方向に以下の2つの可能なシナリオがある:平行および逆平行の双極子方向。双極子が平行である場合、その配置は、シングル・フィールドの用途によって両方同時に達成され得る。それらが逆平行である場合、PMの大きい集合体双極子モーメント(aggregate dipole moment)が利用される。適切な方向は、ハイ・フィールド中でCOXの最初の方向によって、続いてCOXの動揺を回避するのに十分小さいがPMフラグメントを満足に操作するには十分大きいフィールド中のPMの方向によって、達成される。
【0026】
ベシクルを形成するのにおけるポリマー膜の使用は、以下の理由で所望される:それらは脂質膜よりも長い寿命を有し、それらはさらに頑丈であり、それらはさらに容易に仕立てられる特性、例えば、電子およびイオン伝導度および透過性を有する。これらの膜の内部は、疎水性でかつ弾性でなければならず、そのため天然のタンパク質環境は、できるだけ近似してシミュレートされなければならない。
【0027】
広範な種々の特性、例えば、光学的吸収、極性、電気伝導度およびイオン伝導度を有する広範な種々の生体適合性ポリマーが存在する。本発明のソーラーセルの特性を増強するポリマーは、タンパク質および電極と適合しなければならない。プロトンに対する不浸透性も重要である。ポリマーの表面をドープする能力は重要である場合がある。なぜなら、その能力は、プロトン伝導性および膜貫通コンダクタンスにおいて重要な役割を果たし得るからである。ポリマーの寿命およびそれに含まれるタンパク質の寿命のその影響も関連しており、その選択の要因である。半減期が短いが能力は高いポリマーの選択は、特別な用途では有用である場合がある。
【0028】
生物学的な構成要素で作製された、極めて効率的でかつ生産的なソーラー電源(solar power source)の生産のための前述の方法は、外部デバイスで生物学的タンパク質を変換するエネルギーの組み込みを示し、広範な種々のデバイスに電力供給できるバイオソーラーセルの大規模生産を可能にする製造経路の方向性を示す。
【0029】
本発明の別の側面では、トリブロックコポリマー膜に組み込まれたアクアポリンファミリーのタンパク質の使用を通じて、水のみを通過させ、これによって水の精製、脱塩および透析による分子濃縮を可能にする安定なフィルムを作製する。アクアポリンは、水溶液から全ての混入物、例としては細菌、ウイルス、鉱物、タンパク質、DNA、塩類、界面活性剤類、溶解した気体、そしてプロトンでさえ通過を排除するが、アクアポリン分子はその構造のおかげで水を通過できる。アクアポリンファミリーのタンパク質に関するさらなる詳細は、米国特許第7,208,089号に開示される。水は、水圧または浸透圧により、膜を通って、特定の方向に移動する。水の精製/脱塩は、堅いタンパク質が組み込まれたポリマー膜(アクアポリンをその中心に充てんされている)によって隔てられるチャンバを有する2チャンバのデバイスで達成され得る。この膜自体が、水に不浸透性であり、かつ第二のチャンバ中の精製水から、第一のチャンバ中の汚染した水を隔てる。純水のみがこの2つのチャンバの間を流れることができる。従って、膜の片側の海水または他の汚染水を、適切な圧力下に置いた場合、純水は天然には、他のチャンバに流入する。従って精製された水は、飲用不能な水源から得られてもよいし、またはその水源が目的の化合物を含む場合、その水を選択的に除去することが可能で、これによって、インプットチャンバ中に、高濃度の捕えたい化合物が残る。しかし、重要なことに、アクアポリンはまた、水についてそれが排他的に選択性であること以外の理由で本発明に適している。このタンパク質ファミリーの多くのメンバー、例えば、アクアポリンZ(AqpZ)は、極めて頑丈であり、かつ機能を失うことなく汚染した水源の過酷な条件に抵抗し得る。AqpZは、酸類、電圧、界面活性剤類および熱に対する曝露から変性すること、またはもとに戻ることに抵抗する。従って、このデバイスを用いて、別の膜を汚染するかまたは破壊し得る物質で汚染された水源を精製してもよく、このデバイスは、一貫して高温に曝される領域で用いることができる。
【0030】
AqpZも、変わりやすい。このタンパク質は、その最終の形状および機能に影響する遺伝的配列に応じて宿主細菌で特異的に発現されるので、技術者は、その遺伝的コードを容易に変化して、タンパク質の特徴を変化することができる。従って、このタンパク質は、このタンパク質のもとの機能とは異なってもよい所望の用途を満たすように操作されてもよい。例えば、水チャネルの中心に近い特定のアミノ酸残基を単にシステインに変化することによって、産生されたアクアポリンは、溶液中の遊離の水銀(Mercury)に結合して、遮断に起因して水の輸送を停止する。従って、膜デバイスで用いられるこれらの変異体タンパク質は、毒性物質の濃度が高くなりすぎる場合、単に流れを停止することによって水サンプル中で水銀の混入を検出し得る。
【0031】
本発明の好ましい形態は、従来のフィルターディスクが機能性についてそのように最も容易にアッセイされるので、従来のフィルターディスクの形態を有する。このようなディスクを製造するために、合成のトリブロックコポリマーおよびタンパク質の5nm厚の単層を、Langmuir−Blodgettトラフを用いて25mmの市販の限外濾過ディスクの表面上に溶着させる。このディスク上の単層を次に、254nmのUV光に曝して、ポリマーを架橋し、その耐久性を向上させる。最後に、220nmの細孔サイズのPVDF膜を、このディスク表面に対してエポキシ接着して、安全な取扱を確実にし、端部での漏出を防ぐ。
【0032】
このデバイスは、膜を横切って水源を加圧するチャンバ中にそのデバイスをフィットさせることによってアッセイされる。このデバイスは、膜の反対側を純水が通過し、かつ混入している溶質がもともとのチャンバ中で濃縮されて残る場合にのみ機能的であるとみなされる。混入された溶液は、多数の溶解した粒子を有するチャンバに純水が流入するという自然な傾向を克服するために加圧されなければならない。浸透圧に逆行し、かつ混入している溶質から純水を隔てることがアクアポリンZ膜の目的である。このシステムのこの傾向または浸透圧は、1平方インチあたりのポンド(psi)で表現してもよい。例えば、海水の浸透圧はほぼ360psi(2481.8Kpa)である。
【0033】
デバイスがこれらの種類の圧力に耐えることを可能にするために用いられ得るいくつかの方法がある。ポリマーのいくつかの種類は他のものよりも天然には耐久性であり、かつUV光で架橋して、特別な合成をもたらし得る。別の方法は、高濃度の非毒性でかつ容易に除去可能な溶質を淡水のチャンバに添加して、チャンバ加圧に起因して逆浸透も生じながら、膜を横切る正規の浸透を増強することである。最後に、逆浸透に必要な圧力を、連続して小さい濃度の混入物を含んでいる、シールされ、接続されたチャンバのカスケードにおいて複数のAqpZデバイスを用いることによって低下してもよい。チャンバの各々の対で水を精製するために必要な得られた圧力は、逆浸透に必要な総圧力の分画である。従って、各々の膜は小さい圧力に抵抗しなければならないだけであり、かつインタクトで残る機会が大きい。そのため、各々のチャンバの対の間の濃度の相違は、100%ではなくたった10%であって、上述の高圧のちょうど10%が各々の接合部で水源を精製するために必要である。純水は、一定の圧力および流量を有する最終チャンバで連続して産生される。
【0034】
アクアポリン逆浸透膜は、わずか単一の工程で、いくつかの異なる種類の混入物を保有する水を精製し得る。電動的な高純度のシステムでは、水(アクアポリン精製水ほど清浄ではない)を産生し得る前に組み合わせられるべき、硬水軟化剤、炭素フィルター、イオン交換体、UV殺菌または化学殺菌、および2つの通過逆浸透フィルターセットを含み得るいくつかの成分を必要とする。この複雑な構成は、アクアポリン膜でできるようには、溶存ガスも150ダルトンより小さい物質も水源から除去できない。さらに、これらの全ての成分はメンテナンスを要する。UVバルブ(bulbs)は、交換およびエネルギーを要する。イオン交換体は、満杯になれば、化学的に再生される必要がある。軟化剤は、塩を必要とする。炭素および逆浸透カートリッジは、それらが汚染された場合は置き換える必要がある。最終的に、単一工程のデバイスが必要とするのは、典型的な精製システムよりはかなり少ないスペースおよびかなり軽い重量であり、この利点によって、本発明のアクアポリン水精製デバイスは携帯可能になる。
【0035】
アクアポリン膜はまた、従来のシステムよりも速い。従来の高速R.O.ユニットは、毎分約28.4リットル(7.5ガロン)の浄水を作製し得る。現在の研究では、54μモル/秒の速度でAqpZ飽和脂質膜(0.0177mm2)を横切る水分子の動きが示されている。(Pohl,P.,Saparov,S.M.,Borgnia,M.J.,およびAgre,P.,(2001),Proceedings of the National Academy of Sciences 98,p.9624 9629)。従って、1.0平米の表面積を有する理論的なアクアポリンZ逆浸透膜は、毎分ごとに最大3295リットルまでの純水を濾過し得る。この速度は、正常な精製器よりも116倍速い。
【0036】
最後に、新規なタンパク質ベースの膜は、製造コストが安価である。このプロセスの核心であるAqpZは、操作されたE.coli細菌株からミリグラムの量で容易に回収される。平均して、生成されている培養物の1リットルごとに2.5mgの純粋なタンパク質を得ることができる。約5ドルの成長培地から10mgのタンパク質を産生できる。いくつかのフルサイズのデバイスにはこれは十分なタンパク質である。また、AqpZが包埋されるポリマーは、同じ実験室で、各々のデバイスについてごく安価な価値の化合物で作製され得る。アクアポリンZ逆浸透膜は、水の精製の新規で、効率的でかつ安価な手段である。
【0037】
従って、汚染されるか、塩を含んでいるかそうでなければ混入されている水から完全に純粋な水を極めて効果的に産生するために、生物学的な構成要素を利用する方法および装置が開示されている。本発明は、外部デバイスで生物学的タンパク質を輸送する水の組み込みを示しており、かつ水の精製デバイスの大規模生産を可能にする製造経路に向かう方法を示す。
【0038】
本発明は、好ましい実施形態に関して記載してきたが、本明細書に開示される方法およびデバイスの多数の改変および修飾が、添付の特許請求の範囲に示されるように、本発明の真の趣旨および範囲から逸脱することなくなされ得ることが理解される。
【符号の説明】
【0039】
2 ポリマーソーム; 3 ABAトリブロックコポリマー;
4 架橋官能基; 5 スレッド; 7 タンパク質; 8 薄膜。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ベシクル−スレッドのコンジュゲートを形成するようにスレッドに対してコンジュゲートされる、ポリマーベシクル。
【請求項2】
前記コンジュゲートが、官能化されたベシクル表面および官能化されたスレッド表面を提供することによって形成される、請求項1に記載のベシクル−スレッドのコンジュゲート。
【請求項3】
タンパク質がベシクルの膜に組み込まれている、請求項1または2に記載のベシクル−スレッドのコンジュゲート。
【請求項4】
2種類以上のタンパク質が前記ベシクルの膜に組み込まれている、請求項3に記載のベシクル−スレッドのコンジュゲート。
【請求項5】
前記ベシクルが、親水性の外部ブロックおよび疎水性内部ブロックの一般的な特性を有する形成された脂質化ポリマーまたはトリブロックコポリマーである、請求項1〜4の何れか1項に記載のベシクル−スレッドのコンジュゲート。
【請求項6】
前記スレッドが、セルロース材料、カルボキシメチルセルロース(CMC)、アミノエチルセルロース(AE−セルロース)、マイクロファイバーセル、ナノ結晶性セルロース、セルロースナノファイバー/ウィスカーおよび/またはナイロンベースの材料のうちの任意の1つまたは順序または順列を含む、請求項1〜5の何れか1項に記載のベシクル−スレッドのコンジュゲート。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれかに記載の複数のベシクル−スレッドのコンジュゲートのスレッドをファブリックに織ることによって形成される生体模倣膜
【請求項8】
請求項1〜6の何れか1項に記載のベシクル−スレッドのコンジュゲートを、該コンジュゲートがお互いに接着する「抄紙」構造に配置することによって形成される生体模倣膜。
【請求項9】
請求項7および8に記載の生体模倣膜の組み合わせで形成される生体模倣膜。
【請求項10】
UV光で架橋されている、請求項7〜9の何れか1項に記載の生体模倣膜。
【請求項11】
前記膜が、前記ベシクルの前記膜へ組み込まれた異なる種類のタンパク質とのベシクル−スレッドのコンジュゲートを含む、請求項7〜10の何れか1項に記載の生体模倣膜。
【請求項12】
前記ベシクルの前記膜へ組み込まれた前記タンパク質が、アクアポリンファミリーのタンパク質を含む、請求項7〜11の何れか1項に記載の生体模倣膜。
【請求項13】
前記膜が、水のみを通過させ、従って、水の精製、脱塩および透析による分子濃縮を可能にする水濾過膜である、請求項12に記載の生体模倣膜。
【請求項14】
2つのエネルギー変換タンパク質がベシクル膜に組み込まれる、請求項7〜11の何れか1項に記載の生体模倣膜。
【請求項15】
前記2つのエネルギー変換タンパク質がバクテリオロドプシンおよびチトクロムオキシダーゼである、請求項14に記載の生体模倣膜。
【請求項16】
前記生体模倣膜が、微細加工電極と接触させられている、請求項14または15に記載の生体模倣膜を含む電源。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公表番号】特表2012−505167(P2012−505167A)
【公表日】平成24年3月1日(2012.3.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−530365(P2011−530365)
【出願日】平成21年10月6日(2009.10.6)
【国際出願番号】PCT/DK2009/000216
【国際公開番号】WO2010/040353
【国際公開日】平成22年4月15日(2010.4.15)
【出願人】(506400111)
【Fターム(参考)】