説明

ベルト式無段変速機

【課題】フィードバックスプールがサーボスプールに対して過度に摺動し、油圧シリンダへの油路を閉塞してしまうのを防止することができるベルト式無断変速機を提供する
【解決手段】油圧シリンダ270への作動油の送油を油圧サーボ機構280により制御するベルト式無断変速機40であって、油圧サーボ機構280は、変速操作具の操作に応じて摺動することにより油圧シリンダ270への油路を切り換えるサーボスプール283と、サーボスプール283に対して摺動可能に収納され、油圧シリンダ270を構成する可動側シリンダケース271に当接する方向に付勢され、入力側可動シーブ63をサーボスプール283の摺動位置に応じた位置に保持するように前記油路を切り換えるフィードバックスプール84と、フィードバックスプール84の可動側シリンダケース271に当接する方向への摺動を所定の位置で規制する連動部材286と、を具備した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はベルト式無段変速機の技術に関し、より詳細には、可動シーブに油圧シリンダを形成し、前記油圧シリンダへの作動油の送油を油圧サーボ機構により制御するベルト式無断変速機の技術に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、溝幅を可変とする一対のプーリ間にベルトを巻回して動力を伝達するベルト式無段変速機の技術として、特許文献1に記載の技術が知られている。
【0003】
特許文献1に記載のベルト式無段変速機は、プーリの可動シーブに油圧シリンダが形成され、当該プーリの溝幅(可動シーブの位置)を変更するための油圧シリンダの動作を、車速センサやアクセルペダルポジションセンサ等の種々のセンサからの信号に基づいて電子制御し、当該ベルト式無段変速機における変速比を任意に変更するものである。
【0004】
特許文献1に記載のベルト式無段変速機は、油圧シリンダを電子制御するために複雑な構成を要する点で不利である。
【0005】
そこで、サーボスプールやフィードバックスプール等を備える機械的な油圧サーボ機構を用いて、可動シーブの摺動位置を検出(フィードバック)しながら油圧シリンダの動作を制御する技術が存在する。当該技術とは、具体的には、変速操作具の操作に応じて摺動することにより油圧シリンダへの油路を切り換えるサーボスプールと、当該サーボスプールに摺動可能に収納されるとともに、可動シーブに追従して摺動することにより前記油路を切り換えるフィードバックスプールと、を具備するものである。
【0006】
しかし、このような技術においては、変速操作具の操作等により、フィードバックスプールがサーボスプールに対して過度に摺動した場合、作業者の意に反して油圧シリンダへの油路が閉塞されてしまう場合がある。このため、油圧シリンダが作業者の意に反して動作する場合があり、操作性や操作フィーリングが悪化する場合がある点で不利であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2010−96338号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、以上の如き状況を鑑みてなされたものであり、その解決しようとする課題は、フィードバックスプールがサーボスプールに対して過度に摺動し、油圧シリンダへの油路を閉塞してしまうのを防止することができるベルト式無断変速機を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の解決しようとする課題は以上の如くであり、次にこの課題を解決するための手段を説明する。
【0010】
即ち、請求項1においては、可動シーブに油圧シリンダを形成し、前記油圧シリンダへの作動油の送油を油圧サーボ機構により制御するベルト式無断変速機であって、前記油圧サーボ機構は、変速操作具に連結され、当該変速操作具の操作に応じて摺動することにより前記油圧シリンダへの油路を切り換えるサーボスプールと、前記サーボスプールに対して摺動可能に収納されるとともに、前記油圧シリンダを構成する可動側シリンダケースに当接する方向に付勢され、前記可動シーブの摺動位置を前記サーボスプールの摺動位置に応じた位置に保持するように前記油路を切り換えるフィードバックスプールと、前記フィードバックスプールの前記可動側シリンダケースに当接する方向への摺動を所定の位置で規制する連動部材と、を具備するものである。
【0011】
請求項2においては、前記連動部材には、前記油圧シリンダへの油路を構成する油溝が形成されるものである。
【発明の効果】
【0012】
本発明の効果として、以下に示すような効果を奏する。
【0013】
請求項1においては、フィードバックスプールがサーボスプールに対して過度に摺動し、油圧シリンダへの油路を閉塞してしまうのを防止することができる。これによって、操作性及び操作フィーリングの向上を図ることができる。
【0014】
請求項2においては、油圧シリンダへの油路面積を大きく確保することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の一実施形態に係るベルト式無段変速機を具備するトランスミッションの全体構成を示す側面断面図。
【図2】ベルト式無段変速機の入力プーリ、油圧シリンダ及び油圧サーボ機構等を示す側面断面図。
【図3】可動側シリンダケースを示す斜視図。
【図4】当接部材を示す斜視図。
【図5】サーボスプール、フィードバックスプール及び連動部材を示す側面断面拡大図。
【図6】(a)サーボスプール、フィードバックスプール及び連動部材を示す斜視図。(b)同じく、側面断面図。
【図7】サーボスプールに連結されるリンク機構を示す斜視図。
【図8】サーボスプールが後方に摺動した場合を示す側面断面図。
【図9】入力側可動シーブが後方に摺動した場合を示す側面断面図。
【図10】作動油が漏れ出して油圧室内の圧力が低下した場合を示す側面断面図。
【図11】作動油が再び油圧室へと供給される様子を示す側面断面図。
【図12】サーボスプールが前方に摺動した場合を示す側面断面図。
【図13】(a)サーボスプールが前方に摺動した際に、連動部材が無い場合の作動油の流通の様子を示す側面断面図。(b)同じく、連動部材が有る場合の作動油の流通の様子を示す側面断面図。
【図14】ベルト式無段変速機の出力プーリ、カム機構、および付勢部材等を示す側面断面図。
【図15】油圧室内の圧力が低下して入力側可動シーブが前方に摺動した場合を示す側面断面図。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下では、図1を用いて、作業車両の変速装置であるトランスミッション7について説明する。なお、本実施形態に係るトランスミッション7は、農業車両であるトラクタに具備されるものとして説明するが、本発明はこれに限るものではなく、その他の農業車両や建設車両、産業車両等、広く車両全般に適用することが可能である。また、以下では図中の矢印Fの方向を前方向と定義して説明する。
【0017】
トランスミッション7は、駆動源となるエンジン(不図示)からの動力を変速した後に出力するものである。トランスミッション7は、ミッション入力軸20、クラッチ機構200、ベルト式無段変速機40、出力軸170、前輪駆動伝達軸180、PTOブレーキ210、PTO入力軸220、リヤPTO軸230、及びミッドPTO軸240等を具備する。
【0018】
前記エンジンからの動力はミッション入力軸20に伝達された後、クラッチ機構200を介してベルト式無段変速機40及びPTO入力軸220に伝達される。
ベルト式無段変速機40に伝達された動力は、当該ベルト式無段変速機40において無段階に変速された後、出力軸170および前輪駆動伝達軸180に伝達される。
出力軸170に伝達された動力は、最終減速機構(不図示)等を介して前記トラクタの後輪(不図示)へと伝達される。
前輪駆動伝達軸180に伝達された動力は、前車軸(不図示)等を介して前記トラクタの前輪(不図示)へと伝達される。
また、PTO入力軸220に伝達された動力は、ギヤ等を介してリヤPTO軸230及びミッドPTO軸240へと伝達される。
【0019】
このように構成されたトランスミッション7において、ベルト式無段変速機40における変速比を変更することにより、前記トラクタの車速を任意に調節することができる。
また、リヤPTO軸230及びミッドPTO軸240へと伝達された動力により、リヤPTO軸230に連結された作業機(例えば、ロータリ耕耘装置等)、及びミッドPTO軸240に連結された作業機(例えば、ミッドモア等)を駆動させることができる。
さらに、クラッチ機構200により前記エンジンからPTO入力軸220への動力の伝達が遮断された場合、PTOブレーキ210によってPTO入力軸220の回動が制動される。
【0020】
なお、ベルト式無段変速機40は本実施形態に係るトランスミッション7以外のトランスミッションにも適用することが可能であり、駆動源からの動力を変速した後に出力するトランスミッションに広く適用することが可能である。
【0021】
以下では、図1から図15までを用いて、ベルト式無段変速機40の各部について詳細に説明する。ベルト式無段変速機40は、変速入力軸50、入力プーリ60、油圧シリンダ270、油圧サーボ機構280、伝達軸90、出力プーリ100、出力部材110、カム機構120、付勢部材130、ベルト140、及び遊星歯車機構150等を具備する。
【0022】
図1及び図2に示す変速入力軸50は、ミッション入力軸20に連結され、当該ミッション入力軸20からの動力を伝達するものである。変速入力軸50は、略円柱状の部材であり、軸線方向を前後方向として配置される。
変速入力軸50の後端部近傍には、スプライン嵌合によって変速入力ギヤ51が当該変速入力軸50と相対回転不能に連結される。変速入力ギヤ51は、クラッチ機構200のギヤに歯合され(図1参照)、当該クラッチ機構200を介してミッション入力軸20の動力が伝達可能とされる。なお、変速入力ギヤ51の変速入力軸50への連結方法は上記スプライン嵌合に限定するものではなく、変速入力ギヤ51を変速入力軸50と一体的に形成すること等が可能である。
変速入力ギヤ51のすぐ後ろでは、軸受52が変速入力軸50に嵌合される。また、変速入力軸50の前端部近傍では、軸受53が変速入力軸50に嵌合される。軸受52及び軸受53がトランスミッション7を収容するミッションケース8に支持されることによって、変速入力軸50がミッションケース8に回動可能に支持される。
【0023】
図2に示す入力プーリ60は、変速入力軸50上に配置され、一対のシーブを具備する滑車である。入力プーリ60は、入力側固定シーブ61、及び入力側可動シーブ63等を具備する。
【0024】
入力側固定シーブ61は、略円筒形状の軸筒部、及び当該軸筒部の前端に一体的に形成される環状かつ側面断面視で略円錐台形状のシーブ部を有する部材である。入力側固定シーブ61は、シーブ部を軸筒部よりも前方に配置して、変速入力軸50に外嵌される。入力側固定シーブ61のシーブ部の前面61aは、前方から後方にかけて直径が大きくなるような傾斜面として形成される。
入力側固定シーブ61の軸線上には、当該入力側固定シーブ61を前後方向に貫通する貫通孔61bが形成される。入力側固定シーブ61の貫通孔61bには、前方から変速入力軸50が挿通される。当該貫通孔61bと変速入力軸50とが圧入により嵌め合わされることによって、入力側固定シーブ61が変速入力軸50に対して相対回転不能かつ摺動不能に固定される。
【0025】
なお、本実施形態においては変速入力軸50と入力側固定シーブ61とを圧入により嵌め合わせる(嵌合させる)ものとしたが、「焼きばめ」や「冷やしばめ」等、変速入力軸50の径が入力側固定シーブ61の貫通孔61bの径よりも大きいことを利用して嵌め合わせる方法であればよい。
【0026】
入力側固定シーブ61のすぐ後ろでは、ロックナット62が変速入力軸50に締結される。これによって、入力側固定シーブ61が変速入力軸50上を後方へと摺動することを防止でき、入力側固定シーブ61を変速入力軸50に確実に固定することができる。
【0027】
入力側可動シーブ63は、略円筒形状の軸筒部、及び当該軸筒部の後端に一体的に形成される環状かつ側面断面視で略円錐台形状のシーブ部を有する部材である。入力側可動シーブ63は、シーブ部を軸筒部よりも後方に配置して、入力側固定シーブ61の前方において変速入力軸50に外嵌される。入力側可動シーブ63のシーブ部の後面63aは、後方から前方にかけて直径が大きくなるような傾斜面として形成される。
入力側可動シーブ63の軸線上には、当該入力側可動シーブ63を前後方向に貫通する貫通孔63bが形成される。入力側可動シーブ63の貫通孔63bには、後方から変速入力軸50が挿通される。
入力側固定シーブ61の前面61aと入力側可動シーブ63の後面63aとが変速入力軸50上で対向するように配置されることで、当該前面61aおよび後面63aにより入力プーリ60の溝が形成される。
貫通孔63bの内周面及び変速入力軸50の外周面には、変速入力軸50の軸線方向に沿ってそれぞれ溝が形成される。当該溝は、貫通孔63bの内周面及び変速入力軸50の外周面の円周方向に等間隔に3箇所形成され、互いに向かい合わせに位置する一対の溝に鋼球64・64・・・が配置される。これによって、入力側可動シーブ63が変速入力軸50に対して軸線方向に摺動可能かつ相対回転不能に支持される。
入力側可動シーブ63には、軸筒部の外周面と貫通孔63bの内周面とを連通する貫通孔63dが形成される。
【0028】
油圧シリンダ270は、入力側可動シーブ63に形成され、当該入力側可動シーブ63を変速入力軸50上でその軸線方向に摺動させるためのものである。油圧シリンダ270は、可動側シリンダケース271、及び固定側シリンダケース73等を具備する。
【0029】
図2及び図3に示す可動側シリンダケース271は、底面(後面)を有するとともに、前部が開放された円筒状の部材である。可動側シリンダケース271の後面の中心には貫通孔271aが軸線方向に形成され、当該貫通孔271aには入力側可動シーブ63の軸筒部が挿通される。
【0030】
可動側シリンダケース271の円筒部分の前後略中央から後端部にかけては、その他の部分(前端部側)よりも外周面の厚さが厚くなるように肉厚部271bが形成される。可動側シリンダケース271の円筒部分の外周面は均一であり、肉厚部271bの内周面はその他の部分の内周面よりも当該可動側シリンダケース271の内側に向かって迫り出した形状となる。
【0031】
可動側シリンダケース271の肉厚部271bには、連通孔271c・271c・・・が形成される。連通孔271cは、肉厚部271bの前端面(可動側シリンダケース271の内側に位置する部分)から可動側シリンダケース271の後面近傍まで前後方向に形成される円形断面を有する横穴と、当該横穴と可動側シリンダケース271の内側とを当該可動側シリンダケース271の後面近傍において連通する縦孔と、により構成される。連通孔271cは、肉厚部271bの円周方向に等間隔に3箇所形成される。
なお、連通孔271cの間隔は等間隔に限るものではなく、また、連通孔271cの個数は上記個数に限るものではない。
【0032】
連通孔271cの横穴には、摺動部材277が摺動可能に挿入される。摺動部材277は、略円柱状の部材である。摺動部材277の外径は、連通孔271cの内径と略同一となるように(詳細には、摺動可能となるように連通孔271cの内径よりも若干小さく)形成される。摺動部材277の長手方向(前後方向)長さは、連通孔271cの横穴の長手方向長さと略同一となるように形成される。
【0033】
可動側シリンダケース271の円筒部分の前端部近傍には、貫通孔271d・271d・・・が形成される。貫通孔271dは、可動側シリンダケース271の円筒部分の外周面と内周面とを貫通するように形成される。貫通孔271dは、可動側シリンダケース271の円周方向に等間隔に3箇所形成される。
なお、貫通孔271dの間隔は等間隔に限るものではなく、また、貫通孔271dの個数は上記個数に限るものではない。
【0034】
図2に示すように、ボルト等の締結具により、入力側可動シーブ63のシーブ部の前面と可動側シリンダケース271の後面とを当接させた状態で、当該可動側シリンダケース271は入力側可動シーブ63に固設される。
なお、可動側シリンダケース271と入力側可動シーブ63を鍛造等により一体的に形成することも可能である。
【0035】
固定側シリンダケース73は、その後部が開放された箱状部、及び当該箱状部の後端に一体的に形成される環状の鍔部を有する部材である。固定側シリンダケース73の前面の中心には貫通孔73aが形成され、当該貫通孔73aには変速入力軸50が挿通される。固定側シリンダケース73の後部(鍔部)は、可動側シリンダケース271の開放側(前方)から当該可動側シリンダケース271に挿通される。より詳細には、固定側シリンダケース73の後部(鍔部)は、可動側シリンダケース271の肉厚部271bに挿通される。固定側シリンダケース73と可動側シリンダケース271の肉厚部271bとの間には、シール部材74が配置される。
【0036】
固定側シリンダケース73が可動側シリンダケース271に挿通された後、当該可動側シリンダケース271の開放側(前方)端部近傍の内側には、当接部材278F及び当接部材278Rが挿通される。図2及び図4に示す当接部材278F及び当接部材278Rは、円形板状の部材の中心に孔を設けた形状(円環状)となるように形成される。当接部材278F及び当接部材278Rの外径は、可動側シリンダケース271の円筒部分(詳細には、当該円筒部分の前側(肉厚部271bでない部分))の内径と略同一となるように(詳細には、摺動可能となるように可動側シリンダケース271の円筒部分の内径よりも若干小さく)形成される。当接部材278Fの後面には、当該当接部材278Fの内周面と外周面とを連通するように油溝278aが形成される。同様に、当接部材278Rの前面には、当該当接部材278Rの内周面と外周面とを連通するように油溝278bが形成される。当接部材278F及び当接部材278Rは、当該当接部材278Fの後面と当接部材278Rの前面とを当接させた状態で、可動側シリンダケース271に挿通される。
【0037】
図2に示すように、当接部材278F及び当接部材278Rが可動側シリンダケース271に挿通された後、当該可動側シリンダケース271の貫通孔271d・271d・・・(図3参照)には規制部材279・279・・・が嵌装される。規制部材279は、可動側シリンダケース271の外側から貫通孔271dに嵌装され、当該規制部材279の内側端部は、可動側シリンダケース271の内周面から内側へと突出する。このように構成することによって、当接部材278F及び当接部材278Rが前方へと摺動すると、所定位置で規制部材279に当接するため、当該当接部材278F及び当接部材278Rの摺動移動を規制することができる。
【0038】
固定側シリンダケース73のすぐ前では、変速入力軸50が前述の軸受53に挿通され、当該軸受53を介してミッションケース8に対して回動可能に支持される。
軸受53のすぐ前では、ロックナット75が変速入力軸50に締結される。これによって、軸受53が前方へと摺動することを防止するとともに、当該軸受53を介して固定側シリンダケース73が前方へと摺動することを防止できる。また、ロックナット62及びロックナット75により軸受53、固定側シリンダケース73、可動側シリンダケース271、入力側可動シーブ63、ベルト140、及び入力側固定シーブ61を挟み込むことで、各部材に加わるトルクを当該ロックナット62及びロックナット75の間に閉じ込めることができる。
【0039】
上述のようにして、入力プーリ60の入力側可動シーブ63に油圧シリンダ270が設けられる。また、このように構成された油圧シリンダ270において、入力側可動シーブ63、可動側シリンダケース271、固定側シリンダケース73、及び変速入力軸50により閉塞された空間に油圧室76が形成される。また、上述の摺動部材277・277・・・、当接部材278F、当接部材278R、規制部材279・279・・・及び可動側シリンダケース271の連通孔271c・271c・・・によって、本発明に係るスプール位置保持機構が構成される。
【0040】
図2及び図5に示す油圧サーボ機構280は、油圧シリンダ270への作動油の送油を制御し、ひいては当該油圧シリンダ270を介して入力側可動シーブ63の動作を制御するためのものである。油圧サーボ機構280は、フロントケース81、サーボスプール283、フィードバックスプール84、スプールスプリング85及び連動部材286等を具備する。
【0041】
フロントケース81は、作動油を案内するための油路が形成される部材である。フロントケース81には、弁室81a、軸受穴81b、作動油ポート81c及び連通油路81d等が形成される。
【0042】
弁室81aは、フロントケース81の前面と後面とを連通するように形成される、円形断面を有する貫通孔である。弁室81aは、軸線方向を前後方向として形成される。また、弁室81aは、正面視において入力プーリ60の入力側可動シーブ63と重複するように、すなわち、入力側可動シーブ63と対向する位置に形成される。
【0043】
軸受穴81bは、フロントケース81の後面から前端部近傍まで形成される、円形断面を有する穴である。軸受穴81bは、軸線方向を前後方向として形成される。軸受穴81bには、後方から変速入力軸50の前端部が挿通される。
【0044】
作動油ポート81cは、フロントケース81の本体部の側面と弁室81aとを連通するように形成される貫通孔である。より詳細には、作動油ポート81cは、フロントケース81の本体部の側面と、弁室81aの軸線方向略中央よりもやや前方に位置する部分とを連通する。また、作動油ポート81cは、配管等によって図示しない作動油ポンプに接続される。
なお、作動油ポート81cは、フロントケース81の外部と弁室81aとを連通するものであればよく、その孔の形状及び大きさを限定するものではない。
【0045】
連通油路81dは、弁室81aと軸受穴81bとを連通するように形成される油路である。より詳細には、連通油路81dは、弁室81aの軸線方向略中央よりもやや後方に位置する部分と、軸受穴81bの軸線方向略中央部分とを連通する。
【0046】
図2、図5及び図6に示すサーボスプール283は、油圧サーボ機構280における油路を切り換えるためのものである。サーボスプール283は、略円柱状の部材であり、後端部には他の部分よりも径の大きい拡径部が形成される。サーボスプール283は、軸線方向を前後方向として配置される。サーボスプール283には、摺動孔283a、第一溝283b、第二溝283c、第一貫通孔283d、第二貫通孔283e及び排出油路283f等が形成される。
【0047】
摺動孔283aは、サーボスプール283の軸線上において、当該サーボスプール283の後端から前端までを貫通するように形成される、円形断面を有する貫通孔である。当該摺動孔283aの前端は、蓋部材283gによって閉塞される。
第一溝283bは、サーボスプール283の軸線方向略中央よりもやや前方において、当該サーボスプール283の外周に沿って形成される。また、後述するように、サーボスプール283がフロントケース81の弁室81aに対して軸線方向に摺動する場合であっても、当該サーボスプール283の摺動位置にかかわらず常時第一溝283bが作動油ポート81cと対向するように、当該第一溝283bはサーボスプール283の軸線方向に長く形成される。
第二溝283cは、サーボスプール283の第一溝283bより後方において、当該サーボスプール283の外周に沿って形成される。また、後述するように、サーボスプール283がフロントケース81の弁室81aに対して軸線方向に摺動する場合であっても、当該サーボスプール283の摺動位置にかかわらず常時第二溝283cが連通油路81dと対向するように、当該第二溝283cはサーボスプール283の軸線方向に長く形成される。
第一貫通孔283dは、軸線方向をサーボスプール283の軸線と直交する方向として、第一溝283bと摺動孔283aとを連通するように形成される。
第二貫通孔283eは、軸線方向をサーボスプール283の軸線と直交する方向として、第二溝283cと摺動孔283aとを連通するように形成される。第二貫通孔283eは、円形断面を有するように形成される。
排出油路283fは、サーボスプール283の後端と摺動孔283aとを連通するように形成される油路である。より詳細には、排出油路283fは、サーボスプール283の後端と、摺動孔283aの第二溝283cと対向する部分より後方の部分とを連通する。
【0048】
サーボスプール283の外径は、フロントケース81の弁室81aの内径と略同一となるように形成される。サーボスプール283は、フロントケース81の弁室81aに後方から摺動可能に挿通される。サーボスプール283の拡径部の径はフロントケース81の弁室81aの径よりも大きく形成され、当該拡径部がフロントケース81に当接することでサーボスプール283の前方への摺動が所定位置で規制される。また、図7に示すように、サーボスプール283の前端部(蓋部材283g)はフロントケース81の前面から前方へと突設される。サーボスプール283の前端部(蓋部材283g)は、リンク機構8aを介して変速レバーや変速ペダル等の図示せぬ変速操作具に連結され、当該変速操作具を操作することにより、サーボスプール283を前後方向に摺動させることが可能である。また、リンク機構8aには復帰バネ8bが設けられる(図7参照)。復帰バネ8bによって、リンク機構8aが常時中立位置に復帰するように付勢され、ひいてはサーボスプール283が常時中立位置に復帰するように付勢される。
なお、サーボスプール283の「中立位置」とは、前記エンジンからの動力がベルト式無段変速機40において変速された結果、出力軸170に動力が伝達されなくなる(出力軸170の回転数が0になる)際のサーボスプール283の摺動位置をいうものとする。なお、ベルト式無段変速機40における動力伝達、及び変速の概要については後述する。
【0049】
図2、図5及び図6に示すフィードバックスプール84は、油圧サーボ機構280における油路を切り換えるためのものである。フィードバックスプール84は、略円柱状の部材である。フィードバックスプール84は、軸線方向を前後方向として配置される。フィードバックスプール84には、排出油路84a及び連通溝84b等が形成される。
【0050】
排出油路84aは、フィードバックスプール84の軸線上において、当該フィードバックスプール84の前端と後端とを連通するように形成される油路である。
連通溝84bは、フィードバックスプール84の軸線方向略中央部において、当該フィードバックスプール84の外周に沿って形成される。より詳細には、連通溝84bが形成された部分は、その他の部分よりも外径が小さくなるように形成される。
【0051】
フィードバックスプール84の外径(より詳細には、連通溝84b以外の部分の外径)は、サーボスプール283の摺動孔283aの内径と略同一となるように形成される。フィードバックスプール84は、サーボスプール283の摺動孔283aに摺動可能に挿通される。これによって、フィードバックスプール84は、サーボスプール283に対して前後方向に摺動可能とされる。
【0052】
スプールスプリング85は、フィードバックスプール84を後方へと付勢するものである。スプールスプリング85は圧縮コイルばねで構成される。スプールスプリング85は、サーボスプール283の摺動孔283aに配置され、フィードバックスプール84を後方(すなわち、入力側可動シーブ63側)へと常時付勢する。
【0053】
なお、フィードバックスプール84を後方へと付勢することができる構成であれば、当該付勢するための部材は圧縮コイルばね(スプールスプリング85)に限るものではない。
【0054】
フィードバックスプール84がスプールスプリング85によって後方へと常時付勢されることによって、当該フィードバックスプール84の後端は、可動側シリンダケース271に挿通された当接部材278Fの前面に常時当接される。すなわち、フィードバックスプール84は、当接部材278Fを介して間接的に可動側シリンダケース271と当接することとなる。
【0055】
連動部材286は、フィードバックスプール84のサーボスプール283に対する後方への摺動を所定の位置で規制するものである。連動部材286は略円柱状の部材であり、その外径はサーボスプール283の第二貫通孔283eの内径と略同一となるように形成される。連動部材286には、当該連動部材286の一端面と他端面とを連通するように油溝286aが形成される。
【0056】
連動部材286は、サーボスプール283の摺動孔283aにフィードバックスプール84が挿通された後で、当該サーボスプール283の第二貫通孔283eに挿通される。この際、連動部材286の一端(図6における上端)はサーボスプール283の摺動孔283a内に突出するように配置され、当該連動部材286の一端はフィードバックスプール84の連通溝84b内に位置することとなる。すなわち、連動部材286は、サーボスプール283の第二貫通孔283eからフィードバックスプール84の連通溝84bにわたるように配置される。
【0057】
また、図2に示す変速入力軸50には、第一溝50c、作動溝50e及び作動油路50fが形成される。
【0058】
第一溝50cは、変速入力軸50の軸線方向前端部近傍において、当該変速入力軸50の外周に沿って形成される。より詳細には、第一溝50cは、フロントケース81の軸受穴81bに変速入力軸50が挿通された際に、当該フロントケース81に形成された連通油路81dと対向する軸線方向位置に形成される。
作動溝50eは、変速入力軸50の軸線方向中途部において、当該変速入力軸50の外周面の一部に形成される。より詳細には、作動溝50eは、変速入力軸50に入力側可動シーブ63が支持された際に、当該入力側可動シーブ63に形成された貫通孔63dと対向する位置に形成される。また、入力側可動シーブ63が変速入力軸50に対して軸線方向に摺動する場合であっても、当該可動シーブの摺動位置にかかわらず常時作動溝50eが貫通孔63dと対向するように、当該作動溝50eは変速入力軸50の軸線方向に長く形成される。
作動油路50fは、変速入力軸50の前端から軸線方向において作動溝50eと略同一位置まで形成される穴である。作動油路50fの前端部は、プラグによって閉塞される。作動油路50fは、前端部近傍において第一溝50cと、後端部近傍において作動溝50eと、それぞれ連通される。
【0059】
以下では、上述の如く構成された油圧サーボ機構280を用いて油圧シリンダ270の動作を制御し、入力側可動シーブ63を摺動させる様子について説明する。
【0060】
まず、サーボスプール283が図2に示す位置(中立位置)にある場合について説明する。
【0061】
この場合、油圧サーボ機構280の油路(作動油ポート81c、連通油路81d等)、変速入力軸50の油路(作動油路50f、作動溝50e等)、入力側可動シーブ63の油路(貫通孔63d)及び油圧室76には、前記作動油ポンプから圧送される作動油によって一定の圧力が付与されている。当該作動油の圧力は、可動側シリンダケース271に形成された連通孔271cを介して摺動部材277の後端に付与される。当該圧力によって、摺動部材277は前方に摺動する。当該摺動部材277の前端は当接部材278Rの後面に当接し、当該摺動部材277が当接部材278R及び当接部材278Fを前方に向かって押すため、当該当接部材278R及び当接部材278Fも前方に摺動する。当該当接部材278R及び当接部材278Fは、規制部材279と当接する位置まで前方に摺動し、その位置で保持される。
【0062】
当接部材278Fに前方から当接するフィードバックスプール84は、スプールスプリング85の付勢力に抗してサーボスプール283の摺動孔283aに対して所定位置まで押し込まれた状態で保持されている。
【0063】
ここで、フィードバックスプール84の「所定位置」とは、サーボスプール283に対する相対的な位置であり、より詳細には、フィードバックスプール84の外周面(詳細には連通溝84bより前方の外周面)によってサーボスプール283の第一貫通孔283dを閉塞し、かつ、フィードバックスプール84の外周面(詳細には連通溝84bより後方の外周面)によってサーボスプール283の排出油路283fを閉塞する位置である。
【0064】
前記作動油ポンプから圧送された作動油はフロントケース81の作動油ポート81cを介してサーボスプール283の第一溝283bに供給される。しかし、第一溝283bと摺動孔283aとを連通する第一貫通孔283dはフィードバックスプール84の外周面によって閉塞されている。このため、前記作動油ポンプから供給される作動油は、フィードバックスプール84によってせき止められ、油圧シリンダ270の油圧室76に供給されることはない。
【0065】
また、入力側可動シーブ63は、入力プーリ60に巻回された後述するベルト140の張力により前方に付勢されているため、当該入力側可動シーブ63及び可動側シリンダケース271は前方に摺動した状態で保持される。
【0066】
次に、図8に示すように、前記変速操作具を操作することによって、サーボスプール283が後方に向かって摺動された場合について説明する。
【0067】
この場合、サーボスプール283が後方に向かって摺動するのに対し、フィードバックスプール84は当接部材278Fに当接しているため後方に摺動することができない。したがって、フィードバックスプール84は、サーボスプール283に対して相対的に前方に摺動することになる。これによって、フィードバックスプール84の連通溝84bがサーボスプール283の第一貫通孔283d及び第二貫通孔283eと対向し、前記作動油ポンプから作動油ポート81cへと供給された作動油が、第一溝283b、第一貫通孔283d、連通溝84b、第二溝283c及び第二貫通孔283eを介して連通油路81dへと供給される。
【0068】
連通油路81dへと供給された作動油は、さらに変速入力軸50の第一溝50c、作動油路50f、作動溝50e及び入力側可動シーブ63の貫通孔63dを介して油圧室76へと供給される。油圧室76へと作動油が供給されると、油圧室76内の圧力が上昇し、当該圧力により入力側可動シーブ63及び可動側シリンダケース271が後方に向かって付勢される。このように作動油の圧力によって後方に向かって付勢された入力側可動シーブ63及び可動側シリンダケース271は、ベルト140の張力による前方への付勢力に抗して、後方に摺動する(図9参照)。
【0069】
次に、図9に示すように、入力側可動シーブ63及び可動側シリンダケース271が後方に摺動した場合について説明する。
【0070】
入力側可動シーブ63及び可動側シリンダケース271が後方に摺動すると、当該可動側シリンダケース271とともに当接部材278F及び当接部材278Rも後方へと移動する。当接部材278Fが後方へと移動すると、当該当接部材278Fに前方から付勢された状態で当接しているフィードバックスプール84も後方に摺動する。すなわち、フィードバックスプール84は、サーボスプール283に対して相対的に後方に摺動することになる。
【0071】
フィードバックスプール84が所定位置まで摺動し、当該フィードバックスプール84の外周面によってサーボスプール283の第一貫通孔283dが再び閉塞されると、油圧シリンダ270の油圧室76への作動油の供給が終了する。したがって、入力側可動シーブ63及び可動側シリンダケース271は、油圧室76への作動油の供給が終了した時点の位置に保持されることになる。
【0072】
次に、図10に示すように、油圧シリンダ270の油圧室76内の作動油が漏れ出して、当該油圧室76内の圧力が低下した場合について説明する。
【0073】
入力側可動シーブ63及び可動側シリンダケース271が後方に摺動した状態で油圧室76への作動油の供給が終了した場合、当該入力側可動シーブ63及び可動側シリンダケース271は、油圧室76への作動油の供給が終了した時点の位置に保持される。しかし、可動側シリンダケース271と固定側シリンダケース73との隙間や入力側可動シーブ63と変速入力軸50との隙間等から油圧室76内の作動油が少しずつ漏れ出した場合、当該油圧室76内の圧力が低下し、ベルト140の張力により入力側可動シーブ63及び可動側シリンダケース271は少しずつ前方に摺動する。
【0074】
入力側可動シーブ63及び可動側シリンダケース271が前方に摺動すると、当接部材278Fに当接しているフィードバックスプール84も前方に摺動する。すなわち、フィードバックスプール84は、サーボスプール283に対して相対的に前方に摺動することになる。
【0075】
フィードバックスプール84が前方に摺動し、フィードバックスプール84の連通溝84bが再びサーボスプール283の第一貫通孔283d及び第二貫通孔283eと対向すると、図11に示すように、作動油が再び油圧シリンダ270の油圧室76へと供給される。これによって、入力側可動シーブ63及び可動側シリンダケース271は後方に摺動する(図9参照)。
【0076】
入力側可動シーブ63及び可動側シリンダケース271とともにフィードバックスプール84が所定位置まで摺動し、当該フィードバックスプール84の外周面によってサーボスプール283の第一貫通孔283dが再び閉塞されると、油圧シリンダ270の油圧室76への作動油の供給が終了する。
このように、フィードバックスプール84が入力側可動シーブ63および可動側シリンダケース271に追従して摺動し、油圧室76に連通する油路を切り換えることで、当該入力側可動シーブ63及び可動側シリンダケース271をサーボスプール283の摺動位置に応じた位置に保持することができる。
【0077】
次に、図12に示すように、前記変速操作具を操作することによって、サーボスプール283が前方に向かって摺動された場合について説明する。
【0078】
この場合、サーボスプール283が前方に向かって摺動するのに対し、フィードバックスプール84はスプールスプリング85によって当接部材278Fに向かって付勢されているため、当該フィードバックスプール84は当接部材278Fに当接した状態に保持される。したがって、フィードバックスプール84は、サーボスプール283に対して相対的に後方に摺動することになる。これによって、フィードバックスプール84の連通溝84bがサーボスプール283の第二貫通孔283e及び排出油路283fと対向し、作動油が第二溝283c及び第二貫通孔283eを介して排出油路283fへと流通可能となる。
【0079】
入力側可動シーブ63及び可動側シリンダケース271は、ベルト140の張力により前方に付勢されている。このため、油圧シリンダ270の油圧室76内の作動油は入力側可動シーブ63及び可動側シリンダケース271によって押し出され、入力側可動シーブ63の貫通孔63d、変速入力軸50の作動溝50e、作動油路50f、第一溝50c、連通油路81d、サーボスプール283の第二溝283c、第二貫通孔283e、フィードバックスプール84の連通溝84b及びサーボスプール283の排出油路283fを介して当該サーボスプール283の後端から後方へと排出される。サーボスプール283の後端から排出された作動油によって、当接部材278Fの潤滑を行うことが可能である。また、油圧室76内の作動油が排出されることにより、入力側可動シーブ63及び可動側シリンダケース271はベルト140からの付勢力に従って前方に摺動する(図2参照)。
【0080】
なお、この場合、サーボスプール283の第一貫通孔283dは、フィードバックスプール84の外周面によって閉塞されたままであり、前記作動油ポンプからの作動油が油圧シリンダ270の油圧室76に供給されることはない。
【0081】
次に、図2に示すように、入力側可動シーブ63及び可動側シリンダケース271が前方に摺動した場合について説明する。
【0082】
入力側可動シーブ63及び可動側シリンダケース271が前方に摺動すると、当接部材278Fに当接しているフィードバックスプール84も前方に摺動する。すなわち、フィードバックスプール84は、サーボスプール283に対して相対的に前方に摺動することになる。
【0083】
フィードバックスプール84が所定位置まで摺動し、当該フィードバックスプール84の外周面によってサーボスプール283の排出油路283fが閉塞されると、油圧シリンダ270の油圧室76からの作動油の排出が終了する。したがって、入力側可動シーブ63及び可動側シリンダケース271は、油圧室76からの作動油の排出が終了した時点の位置に保持されることになる。
【0084】
以上の如く、サーボスプール283を任意の位置に摺動させることにより、入力側可動シーブ63を所望の位置に摺動させることができる。また、入力側可動シーブ63に追従して摺動するフィードバックスプール84によって、当該入力側可動シーブ63を所望の摺動位置に保持することができる。
【0085】
なお、本実施形態においては、油圧サーボ機構280を用いて入力側可動シーブ63を摺動させる構成としたが、本発明はこれに限るものではなく、油圧サーボ機構280を用いて後述する出力プーリ100の出力側可動シーブ103を摺動させる構成とすることも可能である。
【0086】
以下では、上述の如く(図12参照)、前記変速操作具を操作することによって、サーボスプール283が前方に向かって摺動された場合の、当該サーボスプール283及びフィードバックスプール84の様子について詳細に説明する。
【0087】
まず、比較のために、図13(a)に示すように、本実施形態とは異なり、サーボスプール283の第二貫通孔283eに連動部材286が設けられていない場合を想定する。この場合において、サーボスプール283が前方に向かって摺動されると、フィードバックスプール84がサーボスプール283に対して後方に過度に摺動し、第二貫通孔283eが当該フィードバックスプール84の外周面によって閉塞されることがある。ここで、フィードバックスプール84がサーボスプール283に対して後方に過度に摺動する場合とは、例えばサーボスプール283を急操作する場合(すなわち、変速操作具を急操作する場合)等が想定される。
【0088】
この場合、図12に示すような油圧室76内の作動油の排出を行うことができない。すなわち、油圧シリンダ270は、前記変速操作具を操作した作業者の思い通りに動作しないため、操作性及び操作フィーリングが悪化してしまう。
さらに、この際、サーボスプール283の第一貫通孔283dが摺動孔283a(より詳細には、摺動孔283aのうちフィードバックスプール84より前方の空間)と連通する。これによって、当該空間に前記作動油ポンプから作動油が圧送され、当該空間の圧力が上昇する。フィードバックスプール84は、当該圧力を前方から受けることになるため、当該フィードバックスプール84が前方に摺動し難くなり、さらに操作性及び操作フィーリングが悪化してしまう。
【0089】
一方、本実施形態(図13(b)参照)の如く、サーボスプール283の第二貫通孔283eに連動部材286を設けた場合について説明する。この場合において、サーボスプール283が前方に向かって摺動されると、フィードバックスプール84がサーボスプール283に対して後方に一定距離だけ摺動した位置(所定の位置)で、連動部材286の一端(上端)がフィードバックスプール84の連通溝84bの前端部と係合する。したがって、フィードバックスプール84はサーボスプール283に対してそれ以上後方に摺動することがない。すなわち、この状態でサーボスプール283が前方に向かって摺動されると、当該サーボスプール283と一体的にフィードバックスプール84も前方に移動することになる。
【0090】
この場合、フィードバックスプール84の連通溝84bがサーボスプール283の第二貫通孔283e及び排出油路283fと対向しており、作動油が第二溝283c及び第二貫通孔283eを介して排出油路283fへと流通可能となる。したがって、前記変速操作具を操作した作業者の思い通りに、図12に示すような油圧室76内の作動油の排出を行うことができる。
【0091】
さらにこの場合、第二貫通孔283eを流通する作動油は、連動部材286に形成された油溝286a内を流通することもできるため、当該作動油が排出油路283fへと流通するための油路面積を大きく確保することができる。
【0092】
以上の如く、本実施形態に係るベルト式無段変速機40は、
入力側可動シーブ63(可動シーブ)に油圧シリンダ270を形成し、油圧シリンダ270への作動油の送油を油圧サーボ機構280により制御するベルト式無断変速機40であって、
油圧サーボ機構280は、
変速操作具に連結され、当該変速操作具の操作に応じて摺動することにより油圧シリンダ270への油路を切り換えるサーボスプール283と、
サーボスプール283に対して摺動可能に収納されるとともに、油圧シリンダ270を構成する可動側シリンダケース271に当接する方向(後方)に付勢され、入力側可動シーブ63の摺動位置をサーボスプール283の摺動位置に応じた位置に保持するように前記油路を切り換えるフィードバックスプール84と、
フィードバックスプール84の可動側シリンダケース271に当接する方向への摺動を所定の位置で規制する連動部材286と、
を具備するものである。
このように構成することにより、フィードバックスプール84がサーボスプール283に対して過度に摺動し、油圧シリンダ270への油路を閉塞してしまうのを防止することができる。これによって、操作性及び操作フィーリングの向上を図ることができる。
【0093】
また、連動部材286には、油圧シリンダ270への油路を構成する油溝286aが形成されるものである。
このように構成することにより、油圧シリンダ270への油路面積を大きく確保することができる。
【0094】
また、本実施形態においては、連動部材286を第二貫通孔283eに挿入するだけの簡易な構造で、上述のような操作性及び操作フィーリングの向上を図ることができる。
【0095】
また、上述の第二貫通孔283eが閉塞される(図13(a)参照)のを防止する方法として、連通溝84bの全長(前後方向長さ)を長くし、第二貫通孔283eと連通溝84bとが対向する部分を長く確保する方法もある。しかし、この場合、サーボスプール283及びフィードバックスプール84自体の全長も長くする必要があり、各部材が大型化してしまう点で不利である。これに比べて本実施形態に係る油圧サーボ機構280においては、サーボスプール283及びフィードバックスプール84の全長を長くする必要がないため、各部材が大型化してしまうこともない。
【0096】
なお、本実施形態において連動部材286は略円柱状の部材としたが、本発明はこれに限るものではなく、フィードバックスプール84の後方への摺動を所定の位置で規制することができる形状(例えば、角柱状、板状等)であれば良い。
また、連動部材286に形成される油溝286aの形状は本実施形態に限るものではなく、作動油が連動部材286の一端面と他端面との間を流通することができるものであれば良い。
【0097】
図1及び図14に示す伝達軸90は、変速入力軸50からの動力を伝達するものである。伝達軸90は、略円柱状の部材であり、軸線方向を前後方向として配置される。
伝達軸90の前端部近傍には軸受91が嵌合される。軸受91がミッションケース8に支持されることによって、伝達軸90がミッションケース8に回動可能に支持される。
【0098】
図14に示す出力プーリ100は、伝達軸90上に配置され、一対のシーブを具備する滑車である。出力プーリ100は、出力側固定シーブ101及び出力側可動シーブ103等を具備する。
【0099】
出力側固定シーブ101は、入力側固定シーブ61と同一の材質で、同一の形状に形成される部材である。すなわち、出力側固定シーブ101は、略円筒形状の軸筒部、及び当該軸筒部の後端に一体的に形成される環状かつ側面断面視で略円錐台形状のシーブ部を有する部材である。出力側固定シーブ101は、シーブ部を軸筒部よりも後方に配置して、伝達軸90に外嵌される。出力側固定シーブ101のシーブ部の後面101aは、後方から前方にかけて直径が大きくなるような傾斜面として形成される。
出力側固定シーブ101の軸線上には、当該出力側固定シーブ101を前後方向に貫通する貫通孔101bが形成される。出力側固定シーブ101の貫通孔101bには、後方から伝達軸90が挿通される。当該貫通孔101bと伝達軸90とが圧入により嵌め合わされることによって、出力側固定シーブ101が伝達軸90に対して相対回転不能かつ摺動不能に固定される。
【0100】
なお、本実施形態においては伝達軸90と出力側固定シーブ101とを圧入により嵌め合わせる(嵌合させる)ものとしたが、「焼きばめ」や「冷やしばめ」等、伝達軸90の径が出力側固定シーブ101の貫通孔101bの径よりも大きいことを利用して嵌め合わせる方法であればよい。
【0101】
出力側固定シーブ101のすぐ前では、伝達軸90が前述の軸受91に挿通され、当該軸受91を介してミッションケース8に対して回動可能に支持される。
軸受91のすぐ前では、ロックナット102が伝達軸90に締結される。これによって、軸受91が前方へと摺動することを防止するとともに、当該軸受91を介して出力側固定シーブ101が前方へと摺動することを防止でき、出力側固定シーブ101を伝達軸90に確実に固定することができる。
【0102】
出力側可動シーブ103は、入力側可動シーブ63と同一の材質で、同一の形状に形成される部材である。すなわち、出力側可動シーブ103は、略円筒形状の軸筒部、及び当該軸筒部の後端に一体的に形成される環状かつ側面断面視で略円錐台形状のシーブ部を有する部材である。出力側可動シーブ103は、シーブ部を軸筒部よりも前方に配置して、出力側固定シーブ101の後方において伝達軸90に外嵌される。出力側可動シーブ103のシーブ部の前面103aは、前方から後方にかけて直径が大きくなるような傾斜面として形成される。
出力側可動シーブ103の軸線上には、当該出力側可動シーブ103を前後方向に貫通する貫通孔103bが形成される。出力側可動シーブ103の貫通孔103bには、前方から伝達軸90が挿通される。
出力側固定シーブ101の後面101aと出力側可動シーブ103の前面103aとが伝達軸90上で対向するように配置されることで、当該後面101a及び前面103aにより出力プーリ100の溝が形成される。
貫通孔103bの内周面および伝達軸90の外周面には、伝達軸90の軸線方向に沿ってそれぞれ溝が形成される。当該溝は、貫通孔103bの内周面及び伝達軸90の外周面の円周方向に等間隔に3箇所形成され、互いに向かい合わせに位置する一対の溝に鋼球104・104・・・が配置される。これによって、出力側可動シーブ103が伝達軸90に対して軸線方向に摺動可能かつ相対回転不能に支持される。
【0103】
上記の如く、入力プーリ60の入力側固定シーブ61及び入力側可動シーブ63と、出力プーリ100の出力側固定シーブ101及び出力側可動シーブ103と、をそれぞれ同一の部品で共用することで、部品の種類を削減することができ、ひいては部品コストの低減を図ることができる。
【0104】
出力部材110は、カム機構120からの動力を遊星歯車機構150へと伝達するためのものである。出力部材110は、底面(後面)を有する略円筒形状の軸筒部、及び当該軸筒部の前端に一体的に形成される環状のフランジ部を有する部材である。出力部材110は、出力プーリ100の後方において、当該出力部材110の前記貫通孔に伝達軸90が挿通された状態で配置される。
【0105】
カム機構120は、出力プーリ100及び出力部材110間のトルクの伝達を可能とするものである。カム機構120は、第一カム121及び第二カム122等を具備する。
【0106】
第一カム121は、略円筒形状の部材である。第一カム121は、軸線方向を前後方向に向けて、かつ軸線が伝達軸90の軸線と一致するように配置される。この第一カム121の軸線上には、所定の内径を有する貫通孔が形成される。第一カム121の前面には、軸線方向と直交する平面が形成され、第一カム121の後面には、軸線方向と直交する面に対して所定の角度だけ傾斜した複数の面等が形成される。
第一カム121の貫通孔には、前方から出力側可動シーブ103の軸筒部が挿通される。ボルト等の締結具や溶接等により、出力側可動シーブ103のシーブ部の後面と第一カム121の前面とを当接させた状態で、当該第一カム121は出力側可動シーブ103に固設される。
なお、第一カム121と出力側可動シーブ103を鍛造等により一体的に形成することも可能である。
【0107】
第二カム122は、第一カム121と同一の材質で、同一の形状に形成される部材である。すなわち、第二カム122は、軸線方向を前後方向に向けて、かつ軸線が伝達軸90の軸線と一致するように配置される。この第二カム122の軸線上には、所定の内径を有する貫通孔が形成される。第二カム122の後面には、軸線方向と直交する平面が形成され、第二カム122の前面には、軸線方向と直交する面に対して所定の角度だけ傾斜した複数の面等が形成される。
第二カム122の貫通孔には、前方から伝達軸90が挿通される。ボルト等の締結具や溶接等により、出力部材110の前面と第二カム122の後面とを当接させた状態で、当該第二カム122は出力部材110に固設される。その結果、第一カム121の後面と第二カム122の前面とが対向するように配置される。
なお、第二カム122と出力部材110を鍛造等により一体的に形成することも可能である。
【0108】
付勢部材130は、出力側可動シーブ103を前方へと付勢するものである。付勢部材130は、出力部材110内に配置され、軸線方向に並べられた複数の皿ばね131・131・・・によって構成される。付勢部材130の後端(最も後に配置された皿ばね131)は出力部材110と当接され、付勢部材130の前端(最も前に配置された皿ばね131)は内側ガイド部材132を介して出力側可動シーブ103の後端と当接される。
【0109】
図2及び図14に示すベルト140は、入力プーリ60の溝及び出力プーリ100の溝に巻回され、入力プーリ60の動力を出力プーリ100へと伝達するものである。ベルト140は、金属製の薄板が重ねられたバンドと、金属製のエレメントからなる金属ベルトである。なお、本発明はこれに限るものではなく、ベルト140としてゴム製、チェーン製、または樹脂製のベルトを用いてもよい。
【0110】
入力プーリ60の溝に巻回されたベルト140は、油圧シリンダ270により所定の力で入力側可動シーブ63が入力側固定シーブ61側へと押されることで、入力プーリ60に挟持される。出力プーリ100の溝に巻回されたベルト140は、付勢部材130の付勢力等により所定の力で出力側可動シーブ103が出力側固定シーブ101側へと押されることで、出力プーリ100に挟持される。
【0111】
遊星歯車機構150は、2つの動力を合成して出力するためのものである。遊星歯車機構は、サンギヤ151、リングギヤ152、キャリヤギヤ153、プラネタリ軸155・155・・・、連結軸156・156・・・、プラネタリギヤ157・157・・・、支持部材159及び遊星出力部材163等を具備する。
【0112】
サンギヤ151は、出力部材110のすぐ後方において伝達軸90に相対回転可能に支持される。サンギヤ151の前端部及び後端部にはそれぞれ歯が形成され、サンギヤ151の前端部は出力部材110とスプライン嵌合される。
【0113】
リングギヤ152は、環状部材の内周面に歯が形成されたギヤである。リングギヤ152は、サンギヤ151の後端部の外側に配置される。
【0114】
キャリヤギヤ153は、略円形板状の部材の外周面に歯を形成されたギヤである。キャリヤギヤ153は、サンギヤ151の前後中途部に相対回転可能に支持される。
キャリヤギヤ153の歯は、ミッション入力軸20上に設けられたクラッチ機構200のギヤと歯合され、当該クラッチ機構200を介してミッション入力軸20の動力が伝達可能とされる。
【0115】
プラネタリ軸155・155・・・は、略円柱形状の部材である。プラネタリ軸155・155・・・の一端(前端)は、キャリヤギヤ153に形成された貫通孔にそれぞれ嵌合されることにより、当該プラネタリ軸155・155・・・はキャリヤギヤ153に固定される。プラネタリ軸155・155・・・の他端(後端)は後方に向けて延設される。プラネタリ軸155・155・・・は、伝達軸90を中心とする同一円周上に3つ配列される。
【0116】
連結軸156・156・・・は、略円柱形状の部材である。連結軸156・156・・・の一端(前端)は、キャリヤギヤ153に形成された貫通孔にそれぞれ嵌合されることにより、当該連結軸156・156・・・はキャリヤギヤ153に固定される。連結軸156・156の他端(後端)は後方に向けて延設される。連結軸156・156・・・は、伝達軸90を中心とする同一円周上に、プラネタリ軸155・155・・・と互い違いに3つ配列される。
【0117】
プラネタリギヤ157・157・・・は、サンギヤ151の歯、及びリングギヤ152の歯とそれぞれ歯合する3つのギヤである。プラネタリギヤ157・157・・・にはプラネタリ軸155・155・・・がそれぞれ挿通され、当該プラネタリギヤ157・157・・・はプラネタリ軸155・155・・・に相対回動可能に支持される。
【0118】
支持部材159は、略円筒形状の軸筒部、及び当該軸筒部の前端に一体的に形成される環状の鍔部を有する部材である。支持部材159は、サンギヤ151のすぐ後方において、軸受を介して伝達軸90に相対回転可能に支持される。支持部材159の鍔部に形成された貫通孔には、プラネタリ軸155・155・・・の他端及び連結軸156・156・・・の他端がそれぞれ嵌合される。
【0119】
遊星出力部材163は、その前部が開放された箱状の部材である。遊星出力部材163の後面の中心には貫通孔が形成される。遊星出力部材163は、伝達軸90の後方から当該伝達軸90の後端部及び支持部材159を覆うように配置される。遊星出力部材163の前後中央部近傍は軸受を介して伝達軸90に相対回動可能に支持される。遊星出力部材163の前端は、ボルトによりリングギヤ152に締結され、当該リングギヤ152と一体的に回動可能となるように連結される。
なお、遊星出力部材163とリングギヤ152を鍛造等により一体的に形成することも可能である。
【0120】
遊星出力部材163の後端には出力軸170がスプライン嵌合される。遊星出力部材163からの動力は、当該出力軸170を介して前記トラクタの後輪(不図示)や前輪駆動伝達軸180へと伝達可能とされる。
【0121】
以下では、上述の如く構成されたベルト式無段変速機40における動力伝達、及び変速の概要について説明する。
【0122】
前記エンジンからの動力がミッション入力軸20及びクラッチ機構200を介して変速入力軸50に伝達されると、当該変速入力軸50とともに入力プーリ60も回動される。入力プーリ60が回動されると、ベルト140を介して出力プーリ100が回動される。出力プーリ100が回動されると、当該出力プーリ100に固設された第一カム121が回動される。第一カム121が回動すると、第一カム121の後面(傾斜面)と第二カム122の前面(傾斜面)とが当接し、第一カム121の回動に伴って第二カム122が回動される。第二カム122が回動されると、出力部材110を介して遊星歯車機構150のサンギヤ151が回動される。サンギヤ151が回動されると、当該サンギヤ151と歯合しているプラネタリギヤ157・157・・・がプラネタリ軸155・155・・・の周りを回動(自転)する。
【0123】
一方、前記エンジンからの動力がミッション入力軸20及びクラッチ機構200を介して(すなわち、入力プーリ60、出力プーリ100、及びベルト140によって変速されることなく)遊星歯車機構150のキャリヤギヤ153に伝達されると、キャリヤギヤ153とともに、当該キャリヤギヤ153に支持されたプラネタリギヤ157・157・・・が伝達軸90の周りを回動(公転)する。
【0124】
このように、ミッション入力軸20からベルト140を介して遊星歯車機構150に伝達される動力、及びミッション入力軸20からベルト140を介さずに直接遊星歯車機構150に伝達される動力が、当該遊星歯車機構150のプラネタリギヤ157・157・・・によって合成される。当該合成された動力は、プラネタリギヤ157・157・・・と歯合しているリングギヤ152、及び遊星出力部材163を介して出力軸170へと伝達される。
【0125】
また、カム機構120は、第一カム121から第二カム122へと伝達するトルクに応じて、出力側可動シーブ103に前方への付勢力を付与することができる。詳細には、カム機構120が伝達するトルクに応じて、第一カム121と第二カム122との間に捩れが生じる。この場合、第一カム121の後面(傾斜面)と第二カム122の前面(傾斜面)とが当接しているため、当該当接した面に従って第一カム121と第二カム122とが離間する方向に力が発生する。当該力により第一カム121が第二カム122から離間する方向に移動することで、出力側可動シーブ103が出力側固定シーブ101へと付勢される。当該付勢力と、付勢部材130による付勢力によって、出力プーリ100においてベルト140を適切な力で挟持することができる。
【0126】
また、油圧シリンダ270の動作を制御し、入力側可動シーブ63を後方に向かって摺動させると、入力側可動シーブ63の後面63aと入力側固定シーブ61の前面61aとの間隔(入力プーリ60の溝幅)が狭くなる。入力プーリ60の溝幅が狭くなると、入力プーリ60に巻回されるベルト140の径が大きくなる。ベルト140の全長は一定であるため、入力プーリ60に巻回されるベルト140の径が大きくなると、出力プーリ100の出力側可動シーブ103が付勢部材130の付勢力に抗して後方へと摺動して、出力プーリ100の溝幅が広くなり、出力プーリ100に巻回されるベルト140の径は小さくなる。このように入力プーリ60に巻回されるベルト140の径を大きくし、出力プーリ100に巻回されるベルト140の径を小さくすることで、ベルト140を介して遊星歯車機構150に伝達される動力を増速側に変速することができる。
【0127】
油圧シリンダ270の動作を制御し、油圧室76内の作動油を排出可能な状態にすると、入力プーリ60に巻回されているベルト140の張力の前方への分力により、入力側可動シーブ63が前方に向かって摺動するため、入力プーリ60の溝幅が広くなる。入力プーリ60の溝幅が広くなると、入力プーリ60に巻回されるベルト140の径が小さくなる。ベルト140の全長は一定であるため、入力プーリ60に巻回されるベルト140の径が小さくなると、出力プーリ100の出力側可動シーブ103が付勢部材130の付勢力により前方へと摺動して、出力プーリ100の溝幅が狭くなり、出力プーリ100に巻回されるベルト140の径は大きくなる。このように入力プーリ60に巻回されるベルト140の径を小さくし、出力プーリ100に巻回されるベルト140の径を大きくすることで、ベルト140を介して遊星歯車機構150に伝達される動力を減速側に変速することができる。
【0128】
このように、ミッション入力軸20からベルト140を介して遊星歯車機構150に伝達される動力を変速することで、遊星歯車機構150を介して出力軸170へと伝達される動力を正転から逆転まで(すなわち、前進から後進まで)変速することができる。
【0129】
以下では、サーボスプール283が中立位置にある状態で、前記エンジンが停止された場合におけるスプール位置保持機構の動作について説明する。
【0130】
サーボスプール283が中立位置にある状態(図2参照)で、前記エンジンが停止されると、油圧室76へと作動油を圧送する前記作動油ポンプの駆動も停止される。これによって、油圧室76内の圧力が低下する。
【0131】
油圧室76内の圧力が所定値未満まで低下すると、付勢部材130(図14参照)等によって付与されるベルト140の張力によって、入力側可動シーブ63が前方へと摺動する(図15参照)。入力側可動シーブ63が前方へと摺動すると、当該入力側可動シーブ63とともに可動側シリンダケース271、摺動部材277、当接部材278R及び当接部材278Fも一体的に前方へと摺動する。
【0132】
しかし、当接部材278Fは、復帰バネ8bによって中立位置に保持されているサーボスプール283と当接すると、それ以上前方へと摺動することができない。したがって、可動側シリンダケース271が前方へと摺動するのに対し、当接部材278F及び当接部材278Rはそのままの位置に保持される。すなわち、当接部材278F及び当接部材278Rは可動側シリンダケース271に対して相対的に後方へと摺動する。この際、油圧室76内の圧力は所定値未満まで低下しているため、摺動部材277は当接部材278Rによって後方に押し込まれる。
すなわち、この場合における油圧室76内の圧力の「所定値」とは、摺動部材277が復帰バネ8bの付勢力に抗することができず、後方へと押し込まれてしまう程度に低い値を言う。
【0133】
入力側可動シーブ63は、当該入力側可動シーブ63の前端が固定側シリンダケース73と当接するまで前方へと摺動する(図15参照)。固定側シリンダケース73によって、当該入力側可動シーブ63の前方への摺動が規制され、当該入力側可動シーブ63はこの位置に保持される。この場合においても、当接部材278F、当接部材278R及び摺動部材277は、可動側シリンダケース271に対して相対的に後方へと摺動しているため、サーボスプール283は中立位置で保持されたままとなる。
【0134】
このように、前記エンジンが停止されると、油圧室76内の圧力が低下するため、ベルト140の張力によって入力側可動シーブ63及び可動側シリンダケース271が前方へと摺動してしまう。しかし、油圧室76内の圧力が低下した状態においては、当接部材278F及び当接部材278Rが当該可動側シリンダケース271に対して相対的に後方へと摺動可能となるため、サーボスプール283を前方に押し出すことがなく、当該サーボスプール283を中立位置に保持することができる。これによって、当該サーボスプール283に連結された図示せぬ変速操作具も中立位置に保持されたままとなるため、当該変速操作具が中立位置以外の位置に勝手に(作業者の意に反して)移動して作業者に違和感を与えてしまうことがない。
【符号の説明】
【0135】
40 ベルト式無段変速機
60 入力プーリ
63 入力側可動シーブ(可動シーブ)
270 油圧シリンダ
271 可動側シリンダケース
280 油圧サーボ機構
283 サーボスプール
84 フィードバックスプール
286 連動部材
286a 油溝

【特許請求の範囲】
【請求項1】
可動シーブに油圧シリンダを形成し、前記油圧シリンダへの作動油の送油を油圧サーボ機構により制御するベルト式無断変速機であって、
前記油圧サーボ機構は、
変速操作具に連結され、当該変速操作具の操作に応じて摺動することにより前記油圧シリンダへの油路を切り換えるサーボスプールと、
前記サーボスプールに対して摺動可能に収納されるとともに、前記油圧シリンダを構成する可動側シリンダケースに当接する方向に付勢され、前記可動シーブの摺動位置を前記サーボスプールの摺動位置に応じた位置に保持するように前記油路を切り換えるフィードバックスプールと、
前記フィードバックスプールの前記可動側シリンダケースに当接する方向への摺動を所定の位置で規制する連動部材と、
を具備するベルト式無段変速機。
【請求項2】
前記連動部材には、前記油圧シリンダへの油路を構成する油溝が形成される、
請求項1に記載のベルト式無段変速機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【公開番号】特開2013−7424(P2013−7424A)
【公開日】平成25年1月10日(2013.1.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−139948(P2011−139948)
【出願日】平成23年6月23日(2011.6.23)
【出願人】(000006781)ヤンマー株式会社 (3,810)
【Fターム(参考)】