説明

ベーン式ポンプ装置およびそれを用いたリークチェックシステム

【課題】結露の発生を高精度に推定可能、かつ、ポンプ特性の異常を検出可能なベーン式ポンプ装置を提供する。
【解決手段】ECU100は、モータ62を駆動したときモータ62に流れる電流に基づき、ポンプ60に結露が生じているか否かを推定する。ECU100は、ポンプ60に結露が生じていると推定した場合、ポンプ60(モータ62)を所定期間駆動する。一方、ECU100は、ポンプ60に結露は生じていないと推定した場合、当該推定後に圧力センサ90により検出した圧力を第1圧力P1として記憶し、当該第1圧力P1の値に基づきポンプ特性の異常を検出可能である。ECU100は、第1圧力P1に基づきポンプ特性の異常を検出するのに先立ち、モータ62に流れる電流に基づきポンプ60に結露が生じているか否かを推定する。そのため、結露の発生を高精度に推定することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、気体を減圧または加圧するベーン式ポンプ装置およびそれを用いたリークチェックシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、燃料タンクで発生する蒸発燃料を吸気通路にパージするエバポ系をポンプで減圧または加圧し、このとき検出した圧力に基づいてエバポ系のリークチェックを行うリークチェックシステムが知られている(例えば特許文献1参照)。このリークチェックシステムでは、気体を減圧または加圧するポンプとしてベーン式ポンプを用いている。ベーン式ポンプは、ハウジングに対して偏心してロータを収容し、ロータに半径方向に往復移動自在にベーンを収容する構成である。このようなベーン式ポンプでは、例えばロータおよびベーンに結露が生じると、ベーンがロータに張り付くことがある。この状態では、モータによりロータを回転駆動しても、ベーンがハウジングの内壁に密に摺動せず、ベーン式ポンプによって気体を十分に減圧または加圧することができないおそれがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2007−218161号公報
【特許文献2】特許第4214965号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述の問題を解決するため、特許文献1のリークチェックシステムでは、リークチェックを実行する前に、ベーン式ポンプで減圧または加圧し、このとき検出した圧力が正常範囲から大気圧側に外れており、かつ、モータの電流値が正常範囲より大きい場合、結露等によりロータにベーンが張り付いた異常が生じていると判断し、結露を解消するようモータを駆動する。
【0005】
ところで、ロータ、ベーンおよびハウジングの摩耗粉がハウジング内に堆積した状態では、ハウジングのシール性が向上している場合がある。この状態では、ロータおよびベーンに結露が生じていても、検出した圧力が正常範囲内となることがある。特許文献1のリークチェックシステムでは、上述のように、モータ電流値の正常範囲との比較の前に、減圧または加圧時の圧力の正常範囲との比較を行うため、上記「圧力が正常範囲となる結露の発生」については検知できず、その後、摩耗粉が堆積したままリークチェック中に結露が解消した場合、「リークしているにもかかわらず、正常である(リークしていない)と判断する誤判定」を招くおそれがある。
【0006】
一方、特許文献2には、ベーン式ポンプで減圧または加圧したときの圧力が基準圧力となるようなモータの回転数を記憶し、当該「記憶した回転数」でモータを駆動制御しつつリークチェックを行うことが開示されている。このリークチェックシステムでは、リークチェック中に摩耗粉の堆積によりシール性が向上した場合、前記「記憶した回転数」でモータを駆動すると、特許文献1のリークチェックシステムと同様、「リークしているにもかかわらず、正常である(リークしていない)と判断する誤判定」を招くおそれがある。
【0007】
本発明は、上述の問題点に鑑みてなされたものであり、その目的は、結露の発生を高精度に推定可能、かつ、ポンプ特性の異常を検出可能なベーン式ポンプ装置を提供することにある。また、本発明の他の目的は、リークの誤判定を回避可能なリークチェックシステムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
請求項1に記載の発明は、気体を減圧または加圧するベーン式ポンプ装置であって、モータと、ハウジングと、ロータと、ベーンと、圧力センサと、制御手段と、を備えている。ロータは、ハウジングに対し偏心してハウジング内に回転可能に収容され、モータにより回転駆動される。ベーンは、ロータに径方向に往復移動可能に収容され、ロータの回転に伴い径方向外側の端部がハウジングの内壁と摺動する。圧力センサは、ロータおよびベーンの回転により減圧または加圧される気体の圧力を検出する。制御手段は、モータの回転を制御する。また、制御手段は、モータを駆動したときモータに流れる電流に基づき、ロータおよびベーンに結露が生じているか否かを推定する。ここでは、例えばモータを駆動したときモータに流れる電流の経時的な変化に基づき、ロータおよびベーンに結露が生じているか否かを推定すること等が考えられる。
【0009】
制御手段は、ロータおよびベーンに結露が生じていると推定した場合、モータを所定期間駆動する。これにより、ロータおよびベーンに結露が生じていたとしても、当該結露を解消することができる。
一方、制御手段は、ロータおよびベーンに結露は生じていないと推定した場合、当該推定後に圧力センサにより検出した圧力を第1圧力として記憶し、当該第1圧力の値に基づきポンプ特性の異常を検出可能である。ここで、「ポンプ特性の異常」とは、例えばロータ、ベーンおよびハウジングの摩耗粉がハウジング内に堆積することでシール性が向上し、ポンプ特性が変化するような異常を想定している。
【0010】
このように、本発明では、第1圧力に基づきポンプ特性の異常を検出するのに先立ち、モータに流れる電流に基づきロータおよびベーンに結露が生じているか否かを推定する。そのため、「摩耗粉によりシール性が向上することで減圧時または加圧時の圧力が正常範囲となる結露の発生」についても、推定することができる。したがって、本発明では、ロータおよびベーンにおける結露の発生を高精度に推定可能である。
【0011】
請求項2に記載の発明では、制御手段は、ロータおよびベーンに結露が生じていると推定した場合、当該推定後に圧力センサにより検出した圧力を第2圧力として記憶し、当該第2圧力の値に基づきポンプ特性の異常を検出可能である。ここで、例えば第2圧力が、正常範囲の上限値以下の場合、「摩耗粉がハウジング内に堆積している」、すなわち、「摩耗粉がハウジング内に堆積することでシール性が向上し、ポンプ特性が変化するような異常」が生じていると判断することができる。このように、本発明では、結露が発生しているとの推定後、さらに、ポンプの異常の切り分けをすることができる。
【0012】
請求項3に記載の発明では、制御手段は、モータを駆動するとき、モータの回転数が一定となるようモータの回転を制御する。これにより、ロータおよびベーンに結露が生じているときのモータに流れる電流の経時的な変化が顕著になる。したがって、ロータおよびベーンに結露が生じているか否かを高精度に推定することができる。
また、ロータおよびベーンに結露が生じていると推定した後、圧力センサにより圧力(第2圧力)を検出するとき、モータの回転数が一定となるよう制御すれば圧力変動を抑制できるため、ポンプ特性の異常をより高精度に検出可能である。
【0013】
請求項4に記載の発明は、燃料タンク内で発生した蒸発燃料を内燃機関の吸気通路にパージするエバポ系のリークチェックシステムであって、エバポ系を減圧または加圧する請求項1〜3のいずれか一項に記載のベーン式ポンプ装置と、基準オリフィスを有する通路と、判定手段と、を備えている。基準オリフィスは、ベーン式ポンプ装置に吸入される気体、または、ベーン式ポンプ装置から吐出される気体が流通することで、エバポ系のリークを検出するための基準圧を生成可能である。判定手段は、制御手段が、ロータおよびベーンに結露は生じていないと推定し、かつ、ポンプ特性の異常を検出しなかった場合に限り、ベーン式ポンプ装置がエバポ系を減圧または加圧するときに圧力センサが検出する圧力と前記基準圧とを比較し、エバポ系のリークを判定する。つまり、本発明では、ロータおよびベーンに結露が生じていると推定した場合、または、ポンプ特性の異常を検出した場合、その後のリークチェックを行わない。そのため、「実際には結露あるいはポンプ特性の異常が生じているにもかかわらずリークチェックを行い、リークに関し誤判定する」といった事態を回避することができる。したがって、リークチェックシステムの信頼性を高めることができる。
【0014】
請求項5に記載の発明では、判定手段は、制御手段により記憶済みの前記第1圧力を基準圧として設定し、当該基準圧に基づきエバポ系のリークを判定する。このように、本発明では、ロータおよびベーンにおける結露の発生を推定するために検出した圧力(第1圧力)を、エバポ系のリークチェックのために用いる。そのため、判定手段によるリークチェック時の処理ステップを削減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の第1実施形態によるリークチェックシステムを示す概略図。
【図2】本発明の第1実施形態によるリークチェックシステムのポンプモジュールを示す断面図。
【図3】本発明の第1実施形態によるリークチェックシステムのリークチェックに関するフローチャート。
【図4】結露が生じているときにベーン式ポンプ装置のモータに流れる電流の変化を示す図であって、(A)はモータの回転数が一定となるよう制御する場合の図、(B)はモータの回転数が一定となるよう制御しない場合の図。
【図5】(A)は検出した第1圧力が正常範囲の上限値よりも大きいことを示す図、(B)は検出した第1圧力が正常範囲の下限値よりも小さいことを示す図。
【図6】本発明の第2実施形態によるリークチェックシステムのリークチェックに関するフローチャート。
【図7】(A)は検出した第2圧力が正常範囲の上限値よりも大きいことを示す図、(B)は検出した第2圧力が正常範囲の上限値以下であることを示す図。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の複数の実施形態によるリークチェックシステムを図に基づいて説明する。なお、複数の実施形態において、実質的に同一の構成部位には同一の符号を付し、説明を省略する。
(第1実施形態)
本発明の第1実施形態によるリークチェックシステムを図1に示す。
【0017】
図1に示すように、車両のエバポ系において、燃料タンク10とキャニスタ12とは通路11で接続されており、キャニスタ12と吸気通路16のスロットルバルブ18近傍とはパージ通路13で接続されている。パージ通路13にはパージ弁14が設置されている。燃料タンク10内で発生する蒸発燃料は、通路11を通りキャニスタ12内の活性炭等の吸着材に吸着される。パージ弁14は電磁弁であり、パージ弁14の開度が制御されることによりキャニスタ12から吸気通路16にパージされる蒸発燃料量が調整される。
【0018】
本発明の第1実施形態によるリークチェックシステム1は、ポンプモジュール20、制御手段および判定手段としての電子制御装置(以下、ECUという)100等を備えている。リークチェックシステム1は、上述した燃料タンク10、キャニスタ12、パージ弁14、通路11、パージ通路13により構成されるエバポ系のリークチェックを行う。
【0019】
キャニスタ12の大気側は大気通路15によりポンプモジュール20の切換弁30と接続している。また、キャニスタ12の大気側は、大気通路15から分岐した検出通路21により、ポンプモジュール20のポンプ60と接続している。ポンプ60はべーン式ポンプである。検出通路21には、基準オリフィス52aが形成されている。
【0020】
ポンプモジュール20は、切換弁30とポンプ60とが一体にモジュール化されたものである。ポンプモジュール20およびECU100は、ベーン式ポンプ装置2を構成している。ポンプモジュール20の切換弁30は、電磁弁であり、コイル36への通電をオフした状態では、図1に示すように大気通路15と大気通路22とを連通する。大気通路22の切換弁30と反対側の端部には、フィルタ92が設置されている。コイル36への通電をオンすると、切換弁30は、キャニスタ12側とポンプ60側とを検出通路21を介さず大気通路15で直接連通する。
【0021】
(ポンプモジュール20)
次に、ポンプモジュール20の構成を図2に基づいて詳細に説明する。
ポンプモジュール20には、前述した大気通路15、22、検出通路21が形成されている。大気通路15と検出通路21とは常に連通している。検出通路21の一部を形成するキャニスタ口50には、基準オリフィス52aを形成しているカップ部材52が設置されている。基準オリフィス52aは、燃料タンク10からの蒸発燃料を含む空気漏れ(リーク)の許容量の上限値(規定値)となる穴の大きさに対応している。基準オリフィス52aの上下流側にはそれぞれフィルタ54が設置されている。
【0022】
(切換弁30)
ポンプモジュール20の切換弁30は、前述したように電磁弁である。切換弁30の可動コア34は、固定コア32と向き合って設置されている。可動コア34にはシャフト40が取り付けられており、シャフト40にはゴム製の弁部材42、43がそれぞれ軸方向に離れて設置されている。図2に示すコイル36への通電をオフした状態では、弁部材42はキャニスタ口50を閉塞し、弁部材43は大気口56を開放する。この状態では、大気通路15と大気通路22とが連通し、検出通路21は大気通路15を介して大気通路22と連通している。コイル36への通電をオンすると、固定コア32と可動コア34との間に働く磁気吸引力により、可動コア34は、図2の上方側である固定コア32に向けて移動する。すると、弁部材42はキャニスタ口50を開放し、弁部材43は大気口56を閉塞する。この状態では、検出通路21を介さず大気通路15とポンプ60側とが直接連通し、大気通路15と大気通路22との連通が遮断される。
【0023】
(ポンプ60)
ポンプモジュール20のポンプ60はベーン式であり、電気駆動式のモータ62がロータ70を回転駆動する。ポンプ60のロータ70、ベーン72、ハウジング74は樹脂製である。ロータ70には、周方向にほぼ等間隔に例えば4個のスリットが半径方向に延びて形成されており、各スリットに板状のベーン72が半径方向に往復移動自在に収容されている。ロータ70は、環状のハウジング74内にハウジング74に対して偏心して回転自在に収容されている。ハウジング74に対して偏心しているロータ70がモータ62により回転駆動されると、遠心力により半径方向外側に力を受けるベーン72は、ハウジング74の内周面に沿ってハウジング74の内周面と摺動しながら半径方向に往復移動する。ポンプ60の吸入口80にはフィルタ82が設置されている。圧力センサ90は、ポンプ60の吸入口80側の圧力を検出する。このような構成のポンプ60において、ロータ70が回転しベーン72が半径方向に往復移動すると、大気通路15または検出通路21が減圧される。
【0024】
ECU100は、CPU、ROMおよびI/Oインタフェイス等を有している。ECU100は、ROMに記録した制御プログラムをCPUが実行することにより、ポンプモジュール20の切換弁30およびポンプ60を駆動するモータ62の駆動信号を制御するとともに、圧力センサ90から圧力検出信号を入力する。
【0025】
次に、リークチェックシステム1の作動について図3を用いて説明する。
本実施形態では、ECU100は、図3に示すリークチェックのルーチンにおいて、「制御手段」および「判定手段」として機能する。図3に示すルーチンは、車両の運転終了時、すなわち例えば運転者が車両のイグニッションキーをオフしたときに開始される。
【0026】
図3に示すルーチンが開始されると、まず、ECU100は、切換弁30およびポンプ60のモータ62への通電をオフした状態で、圧力センサ90の検出信号から大気圧を検出する。例えば、車両が高地にあり、圧力センサ90の検出圧が所定圧よりも低い場合にはリークチェック自体を行わないこともある。また、圧力センサ90が検出した大気圧を、以後のリークチェックにおいて圧力値を判定するときの補正値として用いてもよい。
【0027】
ステップS101(以下、「ステップ」を省略し、単に記号「S」で示す。)では、ECU100は、測定時間を表すtの値を0にする(リセットする)。以後、ECU100は、単位時間毎にtの値を増大させる。tの値を0にした後、処理はS102に移行する。
【0028】
S102では、ECU100は、切換弁30への通電をオフした図1に示す状態でモータ62への通電をオンし、ポンプ60を駆動する。このとき、本実施形態では、ECU100は、モータ62の回転数が一定となるようモータ62の回転を制御する。
S103では、ECU100は、モータ62に流れる電流の値を測定する。
【0029】
S104では、ECU100は、S103で測定した電流値に基づき、ロータ70およびベーン72に結露が生じているか否かを推定する。具体的には、測定した電流値の変化率が正常範囲外のとき、ロータ70およびベーン72に結露が生じていると推定する。一方、測定した電流値の変化率が正常範囲内のとき、ロータ70およびベーン72には結露は生じていないと推定する。
【0030】
ところで、ロータ70およびベーン72に結露が生じている状態でモータ62の駆動を開始し、回転数が一定となるよう制御した場合(図4(A)のR1(回転数)参照)、特にモータ駆動開始直後から所定の期間において、モータ62に流れる電流値(I1)の変化率は比較的大きい。
一方、ロータ70およびベーン72に結露が生じている状態でモータ62の駆動を開始するものの、回転数の制御を行わない場合(図4(B)のR2(回転数)参照)、特にモータ駆動開始直後から所定の期間において、モータ62に流れる電流値(I2)の変化率は比較的小さい。
【0031】
本実施形態では、モータ62の回転数が一定となるよう制御しつつ、モータ62に流れる電流値を測定する。そのため、ロータ70およびベーン72に結露が生じているときのモータ62に流れる電流の経時的な変化が顕著になる。したがって、結露が生じているか否かを高精度に推定することができる。
【0032】
ロータ70およびベーン72に結露が生じていると推定したとき、すなわち、測定した電流値の変化率が正常範囲外のとき、処理はS111に移行する。一方、ロータ70およびベーン72に結露は生じていないと推定したとき、すなわち、測定した電流値の変化率が正常範囲内のとき、処理はS105に移行する。
【0033】
S105では、ECU100は、圧力センサ90により圧力を検出する。このとき、切換弁30への通電はオフされており、モータ62は一定の回転数で回転制御されている。また、モータ62の回転により駆動するポンプ60は、検出通路21、大気通路15、切換弁30、大気通路22、フィルタ92を介して大気側と接続している(図1参照)。したがって、ポンプ60が駆動されて圧力センサ90が検出する圧力は基準オリフィス52aのオリフィス径により決定される圧力である。ECU100は、このとき圧力センサ90により検出した圧力を第1圧力P1として記憶する。
【0034】
S106では、ECU100は、S105で記憶した第1圧力P1が正常範囲内か否かを判定する。第1圧力P1が正常範囲内の場合、処理はS107に移行する。
一方、第1圧力P1が正常範囲の上限値よりも大きい場合(正常範囲外の場合:図5(A)参照)、エバポ系以外の、例えば切換弁30のシール不良等によってポンプ62による減圧効果が低下していることが原因であると考えられる。この場合には、切換弁30の交換等の保守作業が必要になるので、S112においてリークチェックをキャンセルし、図3に示すルーチンを抜ける。なお、このとき、リークチェックが行われなかった旨、および、切換弁30の交換の保守作業が必要である旨を、例えば警告灯等の通知手段により運転者に通知してもよい。
【0035】
第1圧力P1が正常範囲の下限値よりも小さい場合(正常範囲外の場合:図5(B)参照)、ハウジング74内に摩耗粉が堆積することによりシール性が高まり、ポンプ特性が変化している(ポンプ特性に異常が生じている)ことが原因であると考えられる。この状態では正しいリークチェックを行えない可能性があるため、S112においてリークチェックをキャンセルし、図3に示すルーチンを抜ける。なお、このとき、リークチェックが行われなかった旨、および、ハウジング74内に摩耗粉が堆積している旨を、例えば警告灯等の通知手段により運転者に通知してもよい。
【0036】
S107では、ECU100は、切換弁30への通電をオンする。これにより、切換弁30は、ポンプ60側とキャニスタ12側の大気通路15とを直接連通し、大気通路15と大気通路22との連通を遮断する。その結果、ポンプ60の駆動により、燃料タンク10、キャニスタ12、パージ弁14、通路11、パージ通路13および燃料タンク10からなるエバポ系が減圧される。
【0037】
S108では、ECU100は、S105で記憶した第1圧力P1を基準圧PSとして設定する。そして、ECU100は、このとき(S108において)圧力センサ90により検出した圧力と基準圧PSとを比較して、エバポ系に基準オリフィス52aの通路面積よりも大きなリークがあるか否かを判定する。
具体的には、圧力センサ90により検出した圧力が基準圧PSよりも低い場合、ECU100は、エバポ系に基準オリフィス52aよりも小さい通路面積のリークが存在すると判定する。
【0038】
一方、圧力センサ90により検出した圧力が基準圧PSよりも高い場合、ECU100は、エバポ系に基準オリフィス52aよりも大きい通路面積のリークが存在すると判定する。なお、このとき、エバポ系に規定以上のリークが生じている旨を、例えば警告灯等の通知手段により運転者に通知してもよい。
S108が終了すると、処理は図3に示すルーチンを抜ける。
【0039】
上述したように、S104でロータ70およびベーン72に結露が生じていると推定したとき、すなわち、測定した電流値の変化率が正常範囲外のとき、処理はS111に移行する。
【0040】
S111では、ECU100は、その時点のtの値と所定値Tとを比較し、tがT以上か否かを判定する。tはT以上であると判定した場合(S111:YES)、所定の時間が経過しても結露は解消されていないと判断し、S112においてリークチェックをキャンセルし、図3に示すルーチンを抜ける。なお、このとき、リークチェックが行われなかった旨、および、ポンプ60に結露が生じている可能性がある旨を、例えば警告灯等の通知手段により運転者に通知してもよい。
【0041】
一方、tはTより小さいと判定した場合(S111:NO)、その時点で結露は解消されていないと判断し、処理はS102に戻る。このように、ECU100は、ポンプ60に結露が生じていると推定した場合(結露の可能性が疑われる場合)、所定の期間、ポンプ60を駆動し続ける。これにより、ロータ70とハウジング74との摺動熱等によって結露の解消を試みるのである。また、上述のTの値は、リークチェックシステム1が使用される環境やポンプ60の性能等を考慮し、適宜設定される。
【0042】
このように、ECU100は、S101〜107、111、112において「制御手段」として機能し、S108において「判定手段」として機能する。
【0043】
以上説明したように、本実施形態では、ECU100は、モータ62を駆動したときモータ62に流れる電流に基づき、ロータ70およびベーン72(ポンプ60)に結露が生じているか否かを推定する。本実施形態では、モータ62を駆動したときモータ62に流れる電流の経時的な変化に基づき、ロータ70およびベーン72に結露が生じているか否かを推定する。
【0044】
ECU100は、ロータ70およびベーン72に結露が生じていると推定した場合、モータ62を所定期間駆動する。これにより、ロータ70およびベーン72に結露が生じていたとしても、当該結露を解消することができる。
一方、ECU100は、ロータ70およびベーン72に結露は生じていないと推定した場合、当該推定後に圧力センサ90により検出した圧力を第1圧力P1として記憶し、当該第1圧力P1の値に基づきポンプ特性の異常を検出可能である。ここで、「ポンプ特性の異常」とは、例えばロータ70、ベーン72およびハウジング74の摩耗粉がハウジング74内に堆積することでシール性が向上し、ポンプ特性が変化するような異常を想定している。
【0045】
このように、本実施形態では、第1圧力P1に基づきポンプ特性の異常を検出するのに先立ち、モータ62に流れる電流に基づきロータ70およびベーン72に結露が生じているか否かを推定する。そのため、「摩耗粉によりシール性が向上することで減圧時の圧力が正常範囲となる結露の発生」についても、推定することができる。したがって、本実施形態では、ロータ70およびベーン72における結露の発生を高精度に推定可能である。
【0046】
また、本実施形態では、ECU100は、モータ62を駆動するとき、モータ62の回転数が一定となるようモータ62の回転を制御する。これにより、ロータ70およびベーン72に結露が生じているときのモータ62に流れる電流の経時的な変化が顕著になる。したがって、ロータ70およびベーン72に結露が生じているか否かを高精度に推定することができる。
【0047】
また、本実施形態では、ECU100は、ロータ70およびベーン72に結露は生じていないと推定し、かつ、ポンプ特性の異常を検出しなかった場合に限り、ベーン式ポンプ装置2がエバポ系を減圧するときに圧力センサ90が検出する圧力と基準圧PSとを比較し、エバポ系のリークを判定する。つまり、本実施形態では、ロータ70およびベーン72に結露が生じていると推定した場合、または、ポンプ特性の異常を検出した場合、その後のリークチェックを行わない。そのため、「実際には結露あるいはポンプ特性の異常が生じているにもかかわらずリークチェックを行い、リークに関し誤判定する」といった事態を回避することができる。したがって、リークチェックシステム1の信頼性を高めることができる。
【0048】
さらに、本実施形態では、ECU100は、記憶済みの第1圧力P1を基準圧PSとして設定し、当該基準圧PSに基づきエバポ系のリークを判定する。このように、本実施形態では、ロータ70およびベーン72における結露の発生を推定するために検出した圧力(第1圧力P1)を、エバポ系のリークチェックのために用いる。そのため、ECU100によるリークチェック時の処理ステップを削減することができる。
【0049】
(第2実施形態)
本発明の第2実施形態によるリークチェックシステムのリークチェックに関するルーチンを図6に示す。第2実施形態は、リークチェックシステムの物理的な構成は第1実施形態と同様であるが、リークチェックに関するルーチンの一部が第1実施形態と異なる。
【0050】
第2実施形態では、図6に示すように、S104でロータ70およびベーン72に結露が生じていると推定したとき、すなわち、測定した電流値の変化率が正常範囲外のとき、処理はS201に移行する。
S201では、ECU100は、圧力センサ90により圧力を検出する。このとき、切換弁30への通電はオフされており、モータ62は一定の回転数で回転制御されている。また、モータ62の回転により駆動するポンプ60は、検出通路21、大気通路15、切換弁30、大気通路22、フィルタ92を介して大気側と接続している(図1参照)。したがって、ポンプ60が駆動されて圧力センサ90が検出する圧力は基準オリフィス52aのオリフィス径により決定される圧力である。ECU100は、このとき圧力センサ90により検出した圧力を第2圧力P2として記憶する。
【0051】
S202では、ECU100は、S201で記憶した第2圧力P2が正常範囲の上限値より大きいか否かを判定する。
第2圧力P2が正常範囲の上限値よりも大きい場合(正常範囲外の場合:図7(A)参照)、ロータ70およびベーン72に結露が生じることでベーン72がロータ70に張り付き、ポンプ60による吸引力が低下していることが原因であると考えられる。この場合、ポンプ60を所定時間駆動させることにより結露を解消できる可能性があるため、処理はS111に移行する。S111での処理は、第1実施形態と同様である。
【0052】
一方、第2圧力P2が正常範囲の上限値以下の場合(正常範囲内または正常範囲外の場合:図7(B)参照)、ハウジング74内に摩耗粉が堆積することによりシール性が高まり、ポンプ特性が変化している(ポンプ特性に異常が生じている)ことが原因であると考えられる。より詳細には、この場合、結露発生によりポンプ60の吸引力は低下するものの、摩耗粉の堆積によりシール性が高まることで、結果的にポンプ60の吸引力が正常値またはそれ以上となって、圧力センサ90による検出圧力が正常範囲の上限値以下となると考えられる。この状態では正しいリークチェックを行えない可能性があるため、S112においてリークチェックをキャンセルし、図3に示すルーチンを抜ける。なお、このとき、リークチェックが行われなかった旨、および、ハウジング74内に結露が発生しているとともに摩耗粉が堆積している旨を、例えば警告灯等の通知手段により運転者に通知してもよい。
図6のS201およびS202以外のステップ(S101〜108、111、112)での処理については、第1実施形態と同様である。
【0053】
以上説明したように、ECU100は、ロータ70およびベーン72に結露が生じていると推定した場合、当該推定後に圧力センサ90により検出した圧力を第2圧力P2として記憶し、当該第2圧力P2の値に基づきポンプ特性の異常を検出可能である。ここで、例えば第2圧力P2が、正常範囲の上限値以下の場合、「摩耗粉がハウジング74内に堆積している」、すなわち、「摩耗粉がハウジング74内に堆積することでシール性が向上し、ポンプ特性が変化するような異常」が生じていると判断することができる。このように、本実施形態では、結露が発生しているとの推定後、さらに、ポンプ60の異常の切り分けをすることができる。
【0054】
また、本実施形態では、圧力センサ90により圧力(第2圧力P2)を検出するとき、モータ62の回転数が一定となるよう制御するため圧力変動を抑制できる。これにより、ポンプ特性の異常を高精度に検出可能である。
【0055】
(他の実施形態)
上述の実施形態では、リークチェックのルーチンにおいて、ECUがモータを一定の回転数で回転するよう制御する例を示した。これに対し、本発明の他の実施形態では、リークチェックのルーチンにおいて、ECUがモータを一定の回転数で回転するよう制御しなくてもよい。
【0056】
また、上述の実施形態では、モータを駆動したときモータに流れる電流の経時的な変化に基づき、ロータおよびベーンに結露が生じているか否かを推定する例を示した。これに対し、本発明の他の実施形態では、モータを駆動したときモータに流れる電流の値が正常範囲内か否かにより、ロータおよびベーンに結露が生じているか否かを推定することとしてもよい。例えば、測定した電流値が正常範囲から外れて大きかった場合、ロータとハウジングとの間に結露による表面張力が働き、モータに大きな負荷が加わっていることが原因であると推定する。
【0057】
また、上述の実施形態では、ECUが、リーク圧チェックのステップ(S108)において、事前に記憶済みの第1圧力P1を基準圧PSとして設定し、当該基準圧PSに基づきエバポ系のリークを判定する例を示した。これに対し、本発明の他の実施形態では、リーク圧チェックのステップ(S108)において、記憶済みの第1圧力P1を基準圧PSとして設定せず、圧力センサにより基準圧PSを直接検出することとしてもよい。
【0058】
また、上述の実施形態では、リークチェックシステムに本発明のベーン式ポンプ装置を用いる例を示した。これに対し本発明の他の実施形態では、ポンプが気体を減圧または加圧するベーン式ポンプ装置であれば、本発明のベーン式ポンプ装置をリークチェックシステム以外のどのような用途に用いてもよい。
【0059】
また、上記実施形態のようにリークチェックシステムに本発明のベーン式ポンプ装置を用いる場合、エバポ系を加圧してリークチェックを行ってもよい。
このように、本発明は、上記実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々の実施形態に適用可能である。
【符号の説明】
【0060】
2 ・・・ベーン式ポンプ装置
62 ・・・モータ
70 ・・・ロータ
72 ・・・ベーン
74 ・・・ハウジング
90 ・・・圧力センサ
100 ・・・ECU(電子制御装置、制御手段)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
気体を減圧または加圧するベーン式ポンプ装置であって、
モータと、
ハウジングと、
前記ハウジングに対し偏心して前記ハウジング内に回転可能に収容され、前記モータにより回転駆動されるロータと、
前記ロータに径方向に往復移動可能に収容され、前記ロータの回転に伴い径方向外側の端部が前記ハウジングの内壁と摺動するベーンと、
前記ロータおよび前記ベーンの回転により減圧または加圧される気体の圧力を検出する圧力センサと、
前記モータの回転を制御する制御手段と、を備え、
前記制御手段は、
前記モータを駆動したとき前記モータに流れる電流に基づき、前記ロータおよび前記ベーンに結露が生じているか否かを推定し、
前記ロータおよび前記ベーンに結露が生じていると推定した場合、前記モータを所定期間駆動し、
前記ロータおよび前記ベーンに結露は生じていないと推定した場合、当該推定後に前記圧力センサにより検出した圧力を第1圧力として記憶し、当該第1圧力の値に基づきポンプ特性の異常を検出可能であることを特徴とするベーン式ポンプ装置。
【請求項2】
前記制御手段は、前記ロータおよび前記ベーンに結露が生じていると推定した場合、当該推定後に前記圧力センサにより検出した圧力を第2圧力として記憶し、当該第2圧力の値に基づきポンプ特性の異常を検出可能であることを特徴とする請求項1に記載のベーン式ポンプ装置。
【請求項3】
前記制御手段は、前記モータを駆動するとき、前記モータの回転数が一定となるよう前記モータの回転を制御することを特徴とする請求項1または2に記載のベーン式ポンプ装置。
【請求項4】
燃料タンク内で発生した蒸発燃料を内燃機関の吸気通路にパージするエバポ系のリークチェックシステムであって、
前記エバポ系を減圧または加圧する請求項1〜3のいずれか一項に記載のベーン式ポンプ装置と、
前記ベーン式ポンプ装置に吸入される気体、または、前記ベーン式ポンプ装置から吐出される気体が流通することで、前記エバポ系のリークを検出するための基準圧を生成可能な基準オリフィスを有する通路と、
前記制御手段が、前記ロータおよび前記ベーンに結露は生じていないと推定し、かつ、ポンプ特性の異常を検出しなかった場合に限り、前記ベーン式ポンプ装置が前記エバポ系を減圧または加圧するときに前記圧力センサが検出する圧力と前記基準圧とを比較し、前記エバポ系のリークを判定する判定手段と、
を備えることを特徴とするリークチェックシステム。
【請求項5】
前記判定手段は、前記制御手段により記憶済みの前記第1圧力を前記基準圧として設定し、当該基準圧に基づき前記エバポ系のリークを判定することを特徴とする請求項4に記載のリークチェックシステム。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate


【公開番号】特開2012−47112(P2012−47112A)
【公開日】平成24年3月8日(2012.3.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−190467(P2010−190467)
【出願日】平成22年8月27日(2010.8.27)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【Fターム(参考)】