説明

ペプチドで緩衝させた電気輸送用途用配合物および製造方法

電気輸送送達システムで用いるに適した組成物を製造する方法。本方法は、薬剤イオンと会合した対イオンが入っている薬剤溶液を準備し、前記薬剤溶液を最初にイオン交換物質と接触させることで前記薬剤溶液のpHを調整し、前記イオン交換物質をそのpHを調整した薬剤溶液から分離しそしてそのpHを調整しておいた薬剤溶液に緩衝剤による緩衝を受けさせることを包含する。好適にはペプチド系緩衝剤を用いる。本方法では結果として電気輸送送達系装置で用いるに適した組成物を生じさせる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気輸送(electrotransport)で送達するに適した薬配合物、電気輸送装置および前記薬配合物の製造方法に関し、これは、薬配合物を電気輸送送達システムの中に組み込むに適するようにそれのpHを調整することを包含する。
【背景技術】
【0002】
活性薬剤を皮膚経由で送達することができれば数多くの利点が得られ、そのような利点には心地よさ、便利さおよび非侵襲であることが含まれる。加うるに、経口送達で直面する胃腸の刺激かつ吸収速度および代謝速度の変動が回避される。また、経皮送達では所定の活性薬剤が示す血液濃度を制御する度合も高い。
【0003】
いろいろな活性薬剤が大きさ、イオン電荷特徴および親水性が理由で受動的経皮送達に適さない。そのような活性薬剤を経皮送達するに適した1つの方法は、電流を用いて当該活性薬剤を積極的に無傷の皮膚に通して体の中に輸送することを伴い、これは電気輸送またはイオン導入薬剤送達として知られる。現在の電気輸送装置には少なくとも2個の電極が用いられており、それらをそれらが皮膚のある部分に密に電気接触するように位置させることが行われている。活性もしくは供与電極と呼ばれる一方の電極は、活性薬剤を体の中に送達する電極である。対電極もしくは対極と呼ばれるもう一方の電極は、体の中を通った電気回路を閉鎖させる働きをする。前記電極を電気エネルギー源、通常は当該装置の中を通る電流を制御し得る回路と連結させると患者の皮膚と協力して回路が完成する。体の中に入らせようとするイオン性物質が正に帯電している場合には正電極(陽極)を活性電極にしそして負電極(陰極)を対電極として働かせる。送達しようとするイオン性物質が負に帯電している場合には陰極を活性電極にしそして陽極を対電極にする。
【0004】
電気輸送装置には、また、体の中に送達または導入すべき活性薬剤の貯蔵層または源が必要である。そのような貯蔵層を電気輸送装置の陽極もしくは陰極につなげることで1種以上の所望活性薬剤の固定式または再生可能源を生じさせる。電流を電気輸送装置の中に流すと陽極で化学種の酸化が起こる一方で陰極では化学種の還元が起こる。これらの反応の両方によって帯電した状態の可動性イオン種、例えばイオン形態の活性薬剤種などが生じる。そのような可動性イオン種は競合種または競合イオンと呼ばれる、と言うのは、そのような種は電気輸送で送達すべき活性薬剤と競合するからである。
【0005】
いろいろな活性薬剤が遊離酸/塩基形態および塩形態の両方で存在する。塩形態の活性薬剤の方が高い水溶解性を示す可能性があるが、そのような活性薬剤の塩が入っている水溶液のpHは当該薬剤が個々のpHで示す経皮流量および安定性の観点から最適ではない可能性がある。例えば、ヒトの皮膚が帯電したイオンに対して示す選択透過性度は電気輸送装置の供与体溶液のpHに依存する。陽極の供与体貯蔵層溶液(anodic donor reservoir solutions)では、その供与体溶液のpHを一般に約4から約10、より好適には約5から約8、最も好適には約6から約7にした時にカチオン種の経皮電気輸送流量が最適になる。陰極の供与体貯蔵層溶液では、一般に、その供与体溶液のpHを約2から約6、より好適には約3から約5にした時にアニオン種の経皮電気輸送流量が最適になる。
【0006】
pHを変える種(例えば酸または塩基)を電気輸送装置の中の活性薬剤溶液に添加することに伴って生じる問題は、前記活性薬剤が有する電荷と同じ電荷を有する外来のイオンが前記溶液の中に入り込む点にある。そのようなイオンは一般に体表面の中に電気輸送すべき活性薬剤イオンと競合する。例えば、カチオン性活性薬剤が入っている溶液のpHを
上昇させようとして水酸化ナトリウムを添加すると、その溶液の中に入ってきたナトリウムイオンが患者の中に電気輸送で送達すべきカチオン性活性薬剤と競合し、それによって、電気輸送送達の効率が低下する、即ち前記装置で供給する電流単位当たりに送達される活性薬剤の量が少なくなる。
【0007】
そのような問題を取り扱う目的で、活性薬剤の配合物を電気輸送送達システムの中に入れる前にそれのpHを調節しておくことで外来イオンが入り込まないようにする方法が開発された。そのような方法は特許文献1、2、3および4(これらは引用することによって全体が組み入れられる)に記述されている。
【0008】
特定の薬剤、例えばベンズアミジン誘導体(例えばROH−4746)などが示す経口吸収性および生体利用性は劣る。イオン導入を用いるとROH−4746が24時間に渡って制御された様式で治療的に必要な量(20−40mg)で送達されることが示された。そのような送達プロファイルの制御は重要である、と言うのは、投与量が過剰であると過度の出血がもたらされかつ投与量が不足すると血栓がもたらされるであろうからである。前記薬剤はまた数多くのpKaも有し、1つは酸性(2.6)でありそして2つは塩基性(9.4、11.6)である。前記薬剤が入っている水溶液が示すpHは前記薬剤が示す1番目のpKa値が低く、2.6であることが理由で極めて低い(<1)ことを確認した。その結果として、ROH−4746ばかりでなく他のいろいろな薬剤でも、pHを当該配合物が受け入れられるに望ましいpHにする手段が必須である。
【特許文献1】米国特許第6,071,508号
【特許文献2】米国特許第5,853,383号
【特許文献3】PCT出願公開番号WO 96/34597
【特許文献4】米国特許出願公開番号20020058608
【発明の開示】
【0009】
発明の要約
特定の薬剤が示す化学的安定性はpHに敏感でありかつ活性薬剤のpHが長期保存中にシフトする可能性もある。緩衝能力を与えかつ電気輸送中および長期貯蔵中に起こる活性薬剤のpH変化を軽減する方法および配合物が求められている。例えば、ベンズアミジン誘導体であるXa因子阻害剤(例えばROH−4746)を用いて実施した水中安定性試験で、その薬剤は塩基性触媒反応に非常に敏感であることが分かった。pHを7.5にすると25℃でかなりの劣化が3週間の如き早い時期に起こることを観察した。水中の安定性はpHが低い時(pH<4)には受け入れられるが、薬剤が有する電荷が最適でないと電気輸送の度合が低下した。従って、電気輸送用組成物ではpHのレベルを4から6の範囲に維持することが重要であった。
【0010】
本発明では、特定の薬剤、例えばベンズアミジン誘導体(例えばROH−4746)などのpHをイオン交換樹脂で調整することができかつそのような薬剤溶液は電気輸送中に示す流動性の方が無機作用剤(例えばベンズアミジン誘導体用のNaOH)によるpH調整を受けさせておいた同じ薬剤のそれよりも良好であることを見いだした。また、特定のイオン交換を受けさせておいた薬剤溶液、例えばベンズアミジン誘導体(例えばROH−4746)などの溶液では貯蔵中または電気輸送中にpHがシフトするが、それを有利にはマルチペプチド1種または2種以上を用いて緩衝させることができることも見いだした。本発明は、1つの面において、イオン交換を用いて薬剤のpHを調整した後にマルチペプチドを用いて緩衝させることで薬剤組成物のpHを安定にする方法を提供する。本発明は、別の面において、貯蔵中および電気輸送による経皮送達で使用している時に安定である薬剤組成物を提供する。1つの面では、薬剤イオンと会合した対イオンが入っている薬剤溶液を準備し、前記薬剤溶液を最初にイオン交換樹脂と接触させることで前記薬剤溶液のpHを調整し、前記イオン交換物質を前記pHを調整した薬剤溶液から分離しそして前記pHを調整しておいた薬剤溶液にペプチド系緩衝剤を混合してpHを経時的に維持することで、電気輸送送達システムで用いるに適した組成物を得ることができる。
【0011】
1つの面では、Xa因子阻害剤であるROH−4746を電気輸送、例えばイオン導入などで送達するに適するようにマルチペプチド緩衝剤と混合しておいたベンズアミジン誘導体配合物を製造する方法を記述する。前記マルチペプチドは、配合物のpHを維持するに役立ちかつ薬剤の安定性に影響を与え得る望まれないpHシフトが起こらないようにすると同時に当該装置を貯蔵している間ばかりでなくそれを使用している時にそれの+1電荷を維持するに役立つ。
【0012】
1つの面において、本発明は、電気輸送送達システムで用いるに適したベンズアミジン誘導体(BD)組成物を提供する。この組成物はBDの薬剤イオンと会合した対イオンが入っている薬剤溶液を含有する。この組成物のpHは4.5から6.0でありかつBDが示す滴定曲線の急な傾き上に位置する等電点(pI)を有するマルチペプチド緩衝剤を含有する。この急な傾きはBDが示す1番目のpKaに近くに位置しかつそれよりも高い。
【0013】
pHを調整しておいた薬剤溶液、特に前以てイオン交換でpHを調整しておいた薬剤溶液用の緩衝用媒体としてマルチペプチドが極めて有効であることを見いだした。本発明のペプチド系緩衝剤をイオン導入と組み合わせて用いると極めて良好に働く、と言うのは、それらを等電点(pI)で用いると電場の中で不動であるからである。
【0014】
pHを調整しておいた薬剤溶液に緩衝を受けさせる目的でペプチド系緩衝剤を用いると数多くの利点が得られる。勿論、塩基、例えばNaOH、KOH、NHOHなどでpHを調整しておいた薬剤溶液に緩衝を受けさせる目的でペプチド系緩衝剤を用いることも可能である。しかしながら、そのような塩基の使用を回避または最小限にして、最初にイオン交換で薬剤溶液のpH調整を行いそして次にペプチド系緩衝剤を用いた緩衝を行うことを組み合わせることで競合するイオンを最小限にすると同時に薬剤がpH安定性および化学的安定性を示すようにする。当該配合物が示すpHを維持しようとする時に役立つ緩衝剤として固体状のイオン交換樹脂1種または2種以上を用いてもよいが、固体状のイオン交換樹脂を存在させる必要はない。実際、マルチペプチド緩衝剤を用いて緩衝を実施する時にはイオン交換樹脂を存在させない方が好適である。イオン交換樹脂を配合物に用いて前記配合物を緩衝させた(即ち特定のpHに維持した)[典型的には前記樹脂を前記薬剤に添加した後に]としても、pHを所望範囲に微調整する目的で酸または塩基を添加する必要がある。結果として、イオン導入に関して競合するイオン、例えば水酸化ナトリウムの添加によるナトリウムイオンなどが当該配合物の中に入り込んでしまう可能性がある。ペプチド系緩衝剤をpH調整後に用いることのさらなる利点として、緩衝の目的で固体状の材料(例えばイオン交換樹脂)を用いる必要がなくなり、従って、所望のpHおよび均一性を達成しようとする時の配合物の混合が容易になることで、電気輸送装置の製造が容易になり得る。
【0015】
当該薬剤の貯蔵または使用で望まれるpH範囲の所に位置するpIを有するマルチペプチド緩衝剤を選択すると、所望pHの達成が比較的容易になる。イオン交換によるpH調整後の薬剤溶液のpHが当該薬剤が示す滴定曲線の急な傾き上に存在する屈曲点あたりに位置する限り、その的確なpIを有するマルチペプチド緩衝剤の添加量を相対的に少なくしてもpHを所望点または範囲に調節するのが容易になるであろう。イオン交換によるpH調整を薬剤溶液(緩衝させる前)の緩衝で用いるマルチペプチドが示すpIまたはpI
近くで受けさせておくことから、緩衝用マルチペプチドをほんの少量添加することでも、薬剤溶液のpHが前記マルチペプチドのpI近くの所望のpHにシフトしかつ維持される。それによって緩衝過程がイオン交換樹脂を用いて緩衝を実施する時よりも簡潔になる。
【0016】
更に、緩衝前にイオン交換を受けさせてpHを調整しておいた薬剤溶液には競合するイオン(例えばROH−4746の場合には強塩基カチオン、例えば無機アルカリカチオン、例えばNaイオン、Kイオン、NHイオンなど)が既にほとんど存在しないか或は全く存在しない。従って、ここでは緩衝の目的でマルチペプチドを用いるが、それによって、競合するイオンの濃度を非常に低く、好適には最小限に保持することができることで電気輸送による薬剤送達が貯蔵または個人への使用のいずれに関しても経時的に向上すると言った大きな利点が得られる。存在させるマルチペプチドの量を低くしてもpHを所望範囲に維持することができることで、また、他の様式に比べて高い流量を達成するに役立つであろう。加うるに、マルチペプチド緩衝剤は優れた生体適合性も示す。従って、マルチペプチド緩衝剤を用いた経皮装置を使用すると、皮膚が刺激を受ける傾向が低下する。ペプチド緩衝剤を用いると、更に、経皮装置のマトリックスに入れるイオン交換樹脂の使用量を少なくすることができるか或は使用しなくてもよくなりかつ高い生体適合性を示しかつ皮膚への刺激がほとんどか或は全くない配合物を提供することができる。
【0017】
ある場合には、必要ならば、ペプチド系緩衝剤の使用に加えて、1番目のイオン交換物質を用いて薬剤溶液のpHを所望のpHに調整した後に前記1番目のイオン交換物質を除去し、2番目のイオン交換物質を用いてそれをpHを調整しておいた薬剤溶液と接触させることでpHの経時的維持に役立てることも可能である。
【0018】
本発明の特定態様における薬剤イオンはカチオン性であり、会合した対イオンはアニオン性であり、1番目のイオン交換物質は高分子量のアニオン交換材料であり、そして2番目のイオン交換物質を用いる場合、これは高分子量のアニオンもしくはカチオン交換材料である。本発明の他の特定態様における薬剤イオンはアニオン性であり、会合した対イオンはカチオン性であり、1番目のイオン交換物質は高分子量のカチオン交換材料であり、そして2番目のイオン交換物質を用いる場合、これは高分子量のカチオンもしくはアニオン交換材料である。
【0019】
本発明は、貯蔵および使用時のpHより低いpKaを少なくとも1つと前記pHより高いpKaを少なくとも1つ有する薬剤のpHを維持しようとする時に特に有用である。良好な緩衝系を用いないと、経皮電気輸送装置を用いて薬剤イオンを個人に輸送している時にpHがシフトする可能性がある。貯蔵または使用時のpHより低いpKaを少なくとも1つと前記pHより高いpKaを少なくとも1つ有する薬剤では、そのpHが当該薬剤のイオン化を低くするpKaのいずれかに近い領域にシフトすると、その薬剤は流れ難くなるであろう。従って、本緩衝系は、薬剤組成物の状態における薬剤の貯蔵を改善するばかりでなくまた使用時の流動を維持するに充分なイオン化も保証するものである。
【0020】
具体的な態様の詳細な説明
本発明は、貯蔵中に起こる望ましくないpHシフトを最小限にするマルチペプチド緩衝剤を用いかつ個人に投与する時に電気輸送薬剤送達に関して競合するイオン量が少ない薬剤組成物がもたらされるようにペプチドを用いた緩衝を行う前にpHを調整する目的でイオン交換を用いて配合物を製造する方法を提供するものである。イオン交換を用いて薬剤のpHを調整すると競合するイオンが入り込まなくなる。その後にマルチペプチド緩衝剤を用いた緩衝で結果として生じる薬剤溶液のpHを経時的に維持すると、更に、電気輸送、例えばイオン導入など下で競合するイオンが入り込む度合が最小限になるか或は回避される。本明細書で用いる如き用語「調整」、「調整する」およびそれの変形は全部が溶液または基質のpHを測定可能なある度合で変化させることを指す。
【0021】
本明細書で用いる如き用語「接触」、「接触させる」およびそれの変形は全部が部分を一緒にすることを前記部分が互いに物理的に接触するように直接的または間接的に起こさせる手段のいずれかを指す。そのような接触には、当該部分を容器の中に一緒に入れること、当該部分を組み合わせること、または当該部分を混合することなどの如き物理的動作が含まれる。
【0022】
本明細書で用いる如き用語「薬剤」および「薬学的に活性な薬剤」は、所望の局所的または全身効果を誘発しかつ電気輸送で送達可能な化学材料または化合物のいずれかを指す。用語「薬剤イオン」と「会合した対イオン」は、負または正のいずれかに帯電した形態の薬剤とこの薬剤に付随していてこの薬剤の電荷と反対の電荷を有する対イオンを指す。
【0023】
本発明の方法で使用可能なイオン性薬剤には、当該薬剤が示す滴定曲線の急な傾きの所またはその近くに位置する安定なpHを示しかつ高純度の前記薬剤が水溶液の状態で示すpHが経皮薬剤送達に有効で刺激性が受け入れられるpH範囲の外側にある(これは一般にpH3−7の範囲、ある薬剤ではpH4−7の範囲である)薬剤が含まれる。そのように考慮する薬剤のpHは、当該薬剤の実質的に純粋な溶液がこの薬剤の濃度が最終的な組成物を貯蔵または使用する時の濃度、例えば1−30重量%、または可能ならば例えば30mMから750mMの時に示すpHであり得る。そのようなイオン性薬剤は複数のpKaを示す可能性があり、それによって、急な傾きが滴定曲線上のどこに位置するかが決まる。本発明は、特に、当該薬剤が示すpKaがこの薬剤が水溶液中で自然に示すpHと有効な経皮薬剤送達および貯蔵安定性に望ましいpH範囲の間に位置する場合に特に有用である。マルチペプチドを用いた緩衝を実施する前にイオン交換を用いてpHがpKaを横切るようにそれを調整する。カチオン性薬剤の場合には、典型的に、最初にアニオン交換材料を用いてpHを調整した後にマルチペプチド緩衝剤を用いた緩衝を実施し、アニオン性薬剤の場合には、最初にカチオン性交換材料を用いてpHを調整した後にマルチペプチド緩衝剤を用いた緩衝を実施する。本発明の方法で使用可能なカチオン性薬剤には、配合物の中に存在させた時にそれが示す1番目のpKaまたは次のいずれかのpKaが配合物緩衝範囲(formulation buffering range)のpHより低い如何なるカチオン性薬剤も含まれる。特定のカチオン性薬剤は配合物緩衝範囲のpHより高いpKaを少なくとも1つ示す可能性がある。カチオン性薬剤を用いる場合、pKaが配合物のpHより高いケースは当該薬剤が示すpKaが1つのみであるケースのみであろう。しかしながら、カチオン性薬剤は所望の貯蔵または電気輸送を実施するpHより低いpKaを少なくとも1つ示しかつ貯蔵または電気輸送を実施するpHより高いpKaを少なくとも1つ示す可能性がある。複数のpKaを示すそのようなカチオン性薬剤の例には、これらに限定するものでないが、2−[3−[4−(4−ピペリジニルオキシ)アニリノ]−1プロペニル]ベンズアミジン誘導体、例えば塩酸([3−(3−カルバミミドイル−フェニル)−2−フルオロ−アリル]−{4−[1−(1−イミノ−エチル)−ピペリジン−4−イルオキシ]−フェニル}−スルファモイル)−酢酸、塩酸([3−(3−カルバミミドイル−フェニル)−2−メチル−アリル]−{4−[1−(1−イミノ−エチル)−ピペリジン−4−イルオキシ]−フェニル}−スルファモイル)−酢酸および塩酸([3−(3−カルバミミドイル−フェニル)−2−フルオロ−アリル]−{3−カルバモイル−4−[1−(1−イミノ−エチル)−ピペリジン−4−イルオキシ]−フェニル}−スルファモイル)−酢酸が含まれる。
【0024】
本発明の方法で使用可能なアニオン性薬剤には、配合物の中に存在させた時にそれが示す1番目のpKaまたは次のいずれかのpKaが配合物緩衝範囲のpHより低い如何なるアニオン性薬剤も含まれる。そのような薬剤が示すpKaが1つのみであることもあり得る。しかしながら、そのようなアニオン性薬剤は所望の貯蔵または電気輸送を実施するpHより高いpKaを少なくとも1つ示しかつ貯蔵または電気輸送を実施するpHより低い
pKaを少なくとも1つ示す可能性がある。そのようなアニオン性薬剤の例には、これらに限定するものでないが、カプトプリルおよびリシノプリルが含まれる。
【0025】
本明細書で用いる如き用語「分離」、「分離する」およびこれの変形は全部が1番目のイオン交換物質の実質的に全部を薬剤溶液から除去することを指す。
【0026】
本明細書で用いる如き用語「添加」、「添加する」およびこれの変形は全部が部分または成分を一緒にすることを前記部分または成分が互いに接近するように直接または間接的に起こさせるいずれかの手段を指す。その用語に、当該部分または成分を容器の中に一緒に入れるか、当該部分または成分を一緒にするか、当該部分または成分を接触させるか、或は当該部分または成分を一緒に撹拌、渦巻き撹拌または掻き混ぜることなどの動作を包含させる。
【0027】
本明細書で用いる如き用語「イオン交換樹脂」または「イオン交換物質」は、(i)ヒドロニウムおよびヒドロキシルイオンから成る群から選択される可動性イオン種および(ii)反対に帯電している実質的に不動の少なくとも1種のイオン種を含んで成る如何なる材料も指す。本発明の特定の態様に関連して用いるに有用なイオン交換物質は、ヒドロキシルイオン(即ち、カチオン性薬配合物のpHを調整する目的で典型的に用いるアニオン交換材料または樹脂)または水素イオン(即ち、アニオン性薬配合物のpHを調整する目的で典型的に用いるカチオン交換材料または樹脂)のいずれかを供与し得る。
【0028】
本明細書で用語「電気輸送」および「電気補助輸送」を用いる場合、起電力を薬剤含有貯蔵層にかけることで薬剤を送達することを指す目的でこの用語を用いる。エレクトロマイグレーション、エレクトロポレーション、電気浸透またはこれらの任意組み合わせを用いて薬剤を送達することができる。電気浸透はまたエレクトロヒドロキネシス、エレクトロコンベクションおよび電気誘発浸透とも呼ばれる。ある種を組織の中に電気浸透させる時、起電力を治療種貯蔵層にかけると、それによって一般に前記種が入っている溶媒が移動する、即ち他のイオン種のエレクトロマイグレーションによって誘発されて溶媒が流れる結果として電気浸透がもたらされる。そのような電気輸送方法を実施している時、皮膚が特定の修飾または変化、例えば皮膚に孔が形成されて一時的に存在すること(また「エレクトロポレーション」とも呼ばれる)などが起こる可能性がある。電気を補助で用いたいずれかの種の輸送が体表面の修飾または変化(例えば皮膚に孔が形成)によって増加することもまた本明細書で用いる如き用語「電気輸送」に包含させる。従って、本明細書で用いる如き用語「電気輸送」および「電気補助輸送」は、(1)帯電している薬剤をエレクトロマイグレーションで送達すること、(2)帯電していない薬剤を電気浸透方法で送達すること、(3)帯電もしくは非帯電薬剤をエレクトロポレーションで送達すること、(4)帯電している薬剤をエレクトロマイグレーション方法と電気浸透方法の組み合わせで送達することおよび/または(5)帯電薬剤と非帯電薬剤の混合物をエレクトロマイグレーション方法と電気浸透方法の組み合わせで送達することを指す。用語「電気輸送送達システム」は電気輸送を実施する目的で使用可能な如何なる装置も指す。
【0029】
本明細書で用いる如き用語「競合するイオン」は、電気輸送で送達すべき薬剤が有する電荷符号と同じ電荷符号を有しかつ当該薬剤の代わりに体表面を通って送達される可能性があるイオン種を指す。供与体貯蔵層溶液のpHを緩衝させる目的で用いられる通常の緩衝剤も同様に結果として競合するイオンを供与体貯蔵層の中に加えることになり、その結果として同様に電気輸送薬剤送達の効率が低くなってしまう。
【0030】
本明細書で用いる如き用語「ゲルマトリックス」は、一般に電気輸送送達システムの貯蔵層に入っている組成物を指す。
【0031】
本明細書で用いる如き用語「低下」、「低くする」およびこれの変形は全部がこれをpHに関連して用いる場合、薬剤溶液のpHを測定可能なある度合で変えることで低くすることを指す。
【0032】
本明細書で用いる如き用語「送達」は、ある薬剤を電気輸送で患者または試験被験体に投与することを指す。
【0033】
本明細書で用いる如き用語「患者」は動物、哺乳動物またはヒトを指す。用語「マルチペプチド」はアミノ酸残基の数が2から5のポリペプチド鎖のいずれかを指す。この用語はジペプチド、トリペプチド、テトラペプチドおよびペンタペプチドを包含し、特にHisを含有するマルチペプチド、例えばジペプチドおよびトリペプチドなど、例えばこれらに限定するものでないが、His−Gly、Gly−His、Ala−His、His−SerおよびHis−Alaなどを包含する。用語「マルチペプチド緩衝剤」または「ペプチド系緩衝剤」は、緩衝能力を有するアミノ酸残基数が2から5のポリペプチド鎖のいずれかを含有する緩衝剤を指す。この用語はジペプチド、トリペプチド、テトラペプチドおよびペンタペプチドを包含し、特にHisを含有するマルチペプチド、例えばジペプチドおよびトリペプチドなど、例えばこれらに限定するものでないが、His−Gly、Gly−His、Ala−His、His−SerおよびHis−Alaなどを包含する。
【0034】
本発明は、電気輸送送達システムで用いるに適した組成物を製造する方法に関する。本方法では、結果として当該薬剤の有効な送達および安定性がもたらされるように、電気補助輸送および長期貯蔵中に起こる薬剤溶液のpHの変化を流量に否定的な影響を与える可能性のある競合するイオンを入り込ませることなく低くする。本方法では、また、薬剤溶液が示すpHを所望レベルに維持することで特定のpH範囲外の時に劣った安定性を示す薬剤の触媒作用も防止する。特定態様における本発明の方法は、最初にイオン交換手段を用いて薬剤溶液のpHを調整することで競合するイオンが前記溶液の中に入り込まないようにするか或は入り込む度合を最小限にした後に前記pHを調整しておいた薬剤溶液に緩衝剤を添加することで前記薬剤溶液が電気輸送または貯蔵中に示すpH変化の度合を低くする2段階工程を伴う。本発明の特定態様における緩衝剤はペプチド系緩衝剤である。本発明の特定態様における本方法の2番目の段階で用いる緩衝剤は高分子量のイオン交換樹脂である。さらなる特定態様における本方法の2番目の段階で用いる緩衝剤は、ペプチド系緩衝剤と高分子量のイオン交換樹脂の組み合わせである。
【0035】
本発明の特定態様における薬剤はカチオン性もしくはアニオン性のXa因子阻害剤または抗凝固剤である。好適な態様における薬剤はカチオン性のベンズアミジンまたはナフタミジン誘導体である。より好適な態様における薬剤はカチオン性のベンズアミジン誘導体である。更により好適な態様における薬剤は、例えば日本特許番号JP 2003002832およびPCT出願公開番号WO 02/089803(これらは引用することによって全体が本明細書に組み入れられる)に記述されている如き2−[3−[4−(4−ピペリジニルオキシ)アニリノ]−1プロペニル]ベンズアミジン誘導体である。更により好適な態様における薬剤は、図1に示す2−[3−[4−(4−ピペリジニルオキシ)アニリノ]−1プロペニル]ベンズアミジン誘導体であり、これはまたROH−4746とも呼ばれる。本発明の特定態様における薬剤はアニオン性薬剤、例えばカプトプリルまたはリシノプリルなどである。本発明の他の態様における薬剤はテルブタリンである。
【0036】
本発明の方法および組成物の特定態様で使用可能な二価および多価薬剤には、これらに限定するものでないが、アルニジタンばかりでなく二塩酸タリペキソール(talipexole)、二塩酸カルピプラミン、二塩酸ヒスタミン、二塩酸プロフラビンおよび三塩酸ガスペリムス(gusperimus)が含まれる。本発明の特定態様の方法で製造する配合物に入れる前記薬剤の濃度は、当該薬剤の送達要求に依存する。薬剤充填パーセン
トの範囲は例えば約1から約30重量%、より好適には約1.5から約20重量%、より好適には約2から約10重量%であり得る。
【0037】
記述したように、本発明は、特定態様において、最初に薬剤溶液のpHを調整した後に前記溶液を電気輸送薬剤送達システムの中に組み込むことを伴う方法に向けたものである。如何なる個々の薬剤溶液のpHも必要に応じて上方または下方のいずれかに調整可能である。このようにして、個々の薬剤/重合体マトリックス組成物の安定性と同様に当該薬剤が皮膚の中に入り込む流量を最適にすることができる。これに関して、特に当該薬剤が二価または多価種である時にはある程度または完全に中性にした薬剤溶液の方が相当する薬剤塩の配合物よりも高い経皮流量をもたらし得ることを見いだした。
【0038】
本技術は、電気輸送送達前の供与体薬剤溶液のpHを調整する目的で用いられる従来技術の方法とは対照的に、体表面を通して電気輸送すべき薬剤イオンと競合する可能性のある外来イオンが電気輸送装置の中に入り込まないようにするか或はその度合を最小限にするものである。例えば、カチオン性薬剤の場合、それを水酸化カリウム、水酸化ナトリウムなどと混合することである程度または完全に中和すると、結果として、カリウムイオン、ナトリウムイオンなどが薬配合物の中に入り込む可能性があり、そのような種が今度は電気輸送送達すべきカチオン性薬剤と競合することで薬剤の送達効率が低下してしまう可能性がある。そのようなアルカリを用いないか或はその量を少なくしてpHを調整することができれば、そのような競合するイオンを回避することができるか或はそれの量を最小限にすることができる。
【0039】
特定態様における本発明は、薬剤イオンと会合した対イオンが入っている薬剤溶液を電気輸送薬剤送達システムの中に組み込む前にそれのpHを調整する方法に関する。本発明の特定態様では、最初に前記薬剤溶液をイオン交換物質(1番目の交換材料)と接触させることで前記薬剤溶液のpHを調整する。特定面において、本発明は、当該薬剤イオンがカチオン性であり、会合した対イオンがアニオン性でありそして1番目のイオン交換物質が高分子量のアニオン交換材料である方法に向けたものである。本発明の好適な態様における1番目の高分子量アニオン交換材料は高分子量のアニオン交換樹脂または高分子量のアニオン交換膜である。アニオン性薬剤がカチオン性対イオンを有する場合、同様に、最初に前記薬剤溶液を調整する時に用いる1番目の高分子量材料は好適には高分子量のカチオン交換樹脂または高分子量のカチオン交換膜である。
【0040】
カチオン性薬剤の場合、本発明の特定の態様における1番目のイオン交換物質(即ち当該薬剤溶液のpHを調整する目的で最初に用いるイオン交換物質)は、好適には、カチオン性薬剤に典型的に会合した負に帯電した対イオン、例えば塩化物、臭化物、酢酸塩、トリフルオロ酢酸塩、重酒石酸塩、プロピオン酸塩、クエン酸塩、しゅう酸塩、こはく酸塩、硫酸塩、硝酸塩、燐酸塩などをヒドロキシルイオンと交換させる高分子量のアニオン交換材料である。適切なアニオン交換材料は、典型的に、ヒドロキサイド形態のアミン含有重合体、例えばポリビニルアミン、ポリエピクロロヒドリン/テトラエチレントリアミン、ペンダント型アミン基を含有する重合体などである。本明細書で用いるに好適なアニオン交換材料は、第四級アンモニウム官能と会合したヒドロキシルイオンを有するジビニルベンゼンとスチレンの共重合体である。他の適切なアニオン交換材料には、これらに限定するものでないが、ヒドロキサイド形態のAmberlite(商標)IRA−958(Rohm and Haasから入手可能なアクリル/ジビニルベンゼン共重合体)、コレスチラミン(またRohm and Haasから入手可能なスチレン/ジビニルベンゼン共重合体)、Dowex 2X8(Dow Chemicalから入手可能なスチレン/ジビニルベンゼン)およびMacro−Prep High Q(BioRad Laboratoriesから入手可能なアクリル/エチレングリコールジメタアクリレート共重合体)が含まれる。本分野の技術者が理解するであろうように、第一級、第二級および第三級アミンを含有するアニオン交換材料は比較的弱い塩基である一方、第四級アミン官能を含有するアニオン交換材料は強塩基であり、カチオン性薬剤塩が示すpHの方向により迅速かつ有効に上方調整する。従って、そのような材料が本明細書で用いるに好適である。
【0041】
特定の面において、本発明は、当該薬剤イオンがアニオン性であり、会合した対イオンがカチオン性でありそして高分子量のカチオン交換材料が緩衝前に当該薬剤のpHを調整する目的で用いる1番目(1番目のイオン交換物質)である組成物を生じさせることに向けたものである。本発明の好適な態様における1番目の高分子量カチオン交換材料は高分子量のカチオン交換樹脂または高分子量のカチオン交換膜である。
【0042】
アニオン性薬剤の場合、本発明の特定の態様で用いる1番目のイオン交換物質は、好適には、アニオン性薬剤に典型的に会合した正に帯電した対イオンを水素またはヒドロニウムイオンと交換させるカチオン交換材料である。遊離酸形態の薬剤を薬学的に受け入れられる塩基、典型的にはアミン、例えばジエチルアミン、トリエチルアミン、エタノールアミンなどで処理することで当該薬剤に会合した正に帯電した第四級アンモニウム部分を生じさせると通常はカチオン薬剤の塩が生じる。そのような種を水素イオンと交換させるカチオン交換樹脂には、例えば酸部分を1個以上有する重合体を含んで成るカチオン交換樹脂などが含まれる。そのような重合体には、例えばポリアクリル酸、ポリアクリル系スルホン酸、ポリアクリル系燐酸およびポリアクリル系グリコール酸などが含まれる。カルボン酸部分を含有するカチオン交換樹脂は弱い酸であり、緩衝で用いるに比較的有用であるが、スルホン酸などの如き官能を含有する樹脂はより強い酸であり、従って、本方法に関連してpH調整をより速くかつより効率良く行おうとする時に好適である。緩衝で用いるに有用な弱い酸のカチオン交換樹脂にはAmberlite IRP−64(Rohm and Haasの)およびアクリル系重合体、例えばBioRadのBio−Rex 70などが含まれる。
【0043】
ヒト皮膚経由の電気輸送送達に適した薬剤溶液を調製しようとする時のpH調節の好適な方向および種類は、当該薬剤がカチオン性であることで陽極貯蔵層から送達可能であるか或はアニオン性であることで陰極貯蔵層から送達可能であるかばかりでなく送達すべき個々の薬剤が示す溶解性に依存する。ヒト皮膚経由の電気輸送送達の場合、一般的に、陽極貯蔵層配合物のpHを典型的には約4から約10の範囲内、より好適には約5から約8の範囲内、最も好適には約6から約7の範囲内にする。ヒト皮膚経由の電気輸送送達の場合、一般的に、陰極貯蔵層のpHを典型的には約2から約6の範囲内、より好適には約3から約5の範囲内にする。
【0044】
本分野の技術者は、本発明の方法で1番目のイオン交換物質として用いる通常のイオン交換物質、例えばカチオンおよびアニオン交換樹脂などの代わりに酸もしくは塩基官能を有する相対的に高い分子量の材料を用いることができ、例えば薬剤分子に存在するイオン化した官能性の変換をその材料に存在するプロトンまたはヒドロキシルイオンとの交換などで起こさせることができることとそれと薬剤溶液の分離はその材料が有する分子量が理由で容易であることを理解するであろう。一般的には、必ずしも必要ではないが、そのような材料の分子量を少なくとも約200ダルトン、より好適には少なくとも約300ダルトン、最も好適には少なくとも約500ダルトンにするのが好適である。
【0045】
特定の態様における本発明は、薬剤イオンと会合した対イオンが入っている薬剤溶液を電気輸送薬剤送達システムの中に組み込む前にその溶液のpHを調整しておく方法に関する。本発明の特定態様では、薬剤溶液を1番目のイオン交換物質と接触させることで前記薬剤溶液のpHを調整する。特定態様では、前記薬剤溶液を1番目のイオン交換物質、典型的には固体状担体(例えばビードなど)と結合させておいた形態のイオン交換樹脂と薬
剤塩が入っている溶液を単に混合することで、前記薬剤溶液を前記1番目のイオン交換物質と接触させる。前記1番目のイオン交換物質と前記薬剤塩の相対量は望まれるpH変化に依存し、それは逆に塩薬剤の中和度に依存する。薬配合物のpHの調整を一般的には電気輸送薬剤送達中に当該薬剤が皮膚を通る流量が最適になるように実施する。従って、所定薬剤塩配合物に好適なpHは、最適な薬剤流量を評価する常規実験を実施することで容易に決定可能である。二価または多価薬剤の場合には中和を一般に当該薬剤塩が実質的分率、典型的には約80%を超える分率で一価形態に変化するに有効な度合にまで実施する。
【0046】
当該薬剤溶液と前記1番目のイオン交換物質の間の反応速度は典型的に極めて速く、数分の桁である。この反応を完了まで進行させた後、遠心分離、標準的な濾過技術(例えばフィルター、スクリーンなど)またはシリンジおよび狭いゲージ(例えば26ゲージ)の針を用いて前記薬剤溶液を前記1番目のイオン交換物質から分離してもよい。そのようなイオン交換物質を除去する工程を通り抜けたイオン交換物質が痕跡量で存在し得る可能性もある。
【0047】
次に、そのpHを調整しておいた薬剤溶液を処理、典型的には薬剤貯蔵層として用いるゲルマトリックス材料の中に取り込ませることで電気輸送送達システムの貯蔵層の中に導入してもよい。そのpHを調整しておいた薬剤溶液のpHが貯蔵または患者に使用している時に維持されるように緩衝剤を用いてもよい。そのような緩衝剤は好適にはマルチペプチドである。前記の結果として得た薬剤溶液のイオン交換物質含有量は実質的にゼロであるのが好適であり、そのようにすると、マルチペプチドによるpHの緩衝がより良好に制御される。その緩衝させる薬剤溶液の中にイオン交換物質がいくらか存在する場合(例えば濾過工程を通り抜けた可能性がある場合)、それの濃度を0.2重量%以下、好適には0.1重量%以下、より好適には0.05重量%以下にするのが好適である。本発明は、貯蔵または患者に使用している時のいずれにおいても優れた安定性を示す経皮電気輸送送達用の緩衝を受けた水性配合物を提供するものである。そのような貯蔵層配合物は、有利に、経皮送達すべき薬剤または他の治療薬が入っている供与体貯蔵層配合物であり得る。勿論、また、電解質(例えば食塩水)が入っている対貯蔵層配合(counter reservoir formulation)用の配合にもペプチド系緩衝剤を用いることができる。そのような配合物は、ペプチド系緩衝剤(1種以上のマルチペプチド、好適にはジペプチドまたはトリペプチド、特にジペプチドを包含)による緩衝を受けている薬剤もしくは電解質水溶液を構成している。そのようなペプチド系緩衝剤には、アミノ酸数が2から5のポリペプチド鎖が含まれ、それは等電pH(ポリペプチドが正味の電荷を持たない時)を有する。その水溶液が示すpHを等電pH(即ちpI)から約1.0pH単位内にする。そのようなマルチペプチドが有するpKaは好適には少なくとも2つであり、それらが離れている度合は約3.5pH単位以下である。そのようなマルチペプチドが示す等電pHは好適には約3から10の範囲である。溶液中のペプチド系緩衝剤濃度を好適には少なくとも約10mMにする。そのようなマルチペプチドを好適にはAsp−Asp、Gly−Asp、Asp−His、Glu−His、His−Glu、His−Asp、Glu−Arg、Glu−Lys、Arg−Glu、Lys−Glu、Arg−Asp、Lys−Asp、His−Gly、His−Ala、His−Asn、His−シトルリン、His−Gln、His−ヒドロキシプロリン、His−イソロイシン、His−Leu、His−Met、His−Phe、His−Pro、His−Ser、His−Thr、His−Trp、His−Tyr、His−Val、Asn−His、Thr−His、Tyr−His、Gin−His、Phe−His、Ser−His、シトルリン−His、Trp−His、Met−His、Val−His、His−His、イソロイシン−His、ヒドロキシプロリン−His、Leu−His、Ala−His、Gly−His、ベータ−アラニルヒスチジン、Pro−His、カルノシン、アンセリン、Tyr−Arg、ヒドロキシリシン−His、His−ヒドロキシリシン、オルニチンHis、His−Lys、His−オルニチンおよびLys−Hisから成る群から選択する。そのような緩衝剤に特に好適なジペプチドはGly−Hisである。
【0048】
本発明は、また、経皮電気輸送送達で用いる薬剤もしくは電解質水溶液に緩衝を受けさせる方法も提供する。この方法は、等電pH(マルチペプチドが正味の電荷を持たない)を有するアミノ酸数が2から5のポリペプチド鎖を持つマルチペプチドをpH緩衝量で前記溶液に入れることを包含する。そのような水溶液が示すpHは等電pHから約1.0pH単位内である。そのようなマルチペプチドが示す特性は好適には緩衝を受けた水性配合物に関してこの上に記述した如くである。
【0049】
本発明の実施では、特に明記しない限り、本分野の技術の範囲内の通常の蛋白質化学、電気化学および生化学方法を用いる。そのような技術は文献に充分に説明されている。例えばT.E.Creighton、Proteins:Structures and Molecular Properties(W.H.Freeman and Company、1993);A.L.Lehninger、Biochemistry(Worth Publishers,Inc.、1975);J.S.Newman、Electrochemical Systems(Prentice Hall、1973);およびA.J.BardおよびL.R.Faulkner、Electrochemical Methods、Fundamentals and Applications(John Wiley & Sons、1980)を参照のこと。
【0050】
単数形「a」、「an」および「the」を本明細書および添付請求の範囲で用いる場合、その内容で明確に異なると示さない限り、それに複数対象を包含させることを注目すべきである。従って、例えば「ポリペプチド」の言及は2種以上のポリペプチドの混合物などを包含する。
【0051】
本文全体に渡って下記のアミノ酸省略形を用いる:
アラニン:Ala(A)
アルギニン:Arg(R)
アスパラギン:Asn(N)
アスパラギン酸:Asp(D)
システイン:Cys(C)
グルタミン:Gln(Q)
グルタミン酸:Glu(E)
グリシン:Gly(G)
ヒスチジン:His(H)
イソロイシン:Ile(I)
ロイシン:Leu(L)
リシン:Lys(K)
メチオニン:Met(M)
フェニルアラニン:Phe(F)
プロリン:Pro(P)
セリン:Ser(S)
トレオニン:Thr(T)
トリプトファン:Trp(W)
チロシン:Tyr(Y)
バリン:Val(V)
【0052】
電気輸送実験を動物で実施した時、ある種の緩衝剤がpH制御により良好に適することを驚くべきことに見いだした。特に、緩衝剤であるマルチペプチド、例えばGly−Hi
sおよびHis−GluなどはこれらのpIの時に電気輸送用配合物のpH制御を数時間に渡って確保し得る。本発明で用いるに適したマルチペプチド緩衝剤には、Hisを含有するジペプチド、トリペプチド、テトラペプチドおよびペンタペプチド、例えばHis−Gly、Gly−His、Ala−His、L−カルノシン(またL−Ala−Hisとしても知られる)、His−Ser、His−Ala、Gly−Gly−His(pI=7.5)、His−Gly−Gly(pI=6.9)が含まれる。
【0053】
そのようなマルチペプチドが示す少なくとも2つのpKaが離れている度合は好適には約3.5pH単位以下であるべきである。その範囲を超えるとpHの制御が劣りかつ溶液の導電性が最小限になってしまう。そのようなマルチペプチドが示すpI範囲は3から10の範囲であるべきでありかつ当該配合物の目標pHと当該マルチペプチドが示す等電pH(即ちpI)が離れている度合を好適には約1pH単位以下にする。そのような配合物のpHを一般的に約pH3から約pH9.5にする。しかしながら、好適な配合物のpHはこの配合で用いる個々の薬剤および緩衝剤に依存する。そのようなpH範囲を超えると(即ちpHが3未満の時およびpHが10を超える時には)、そのような配合物は刺激を与える可能性があるか或は結果として受け入れられない皮膚抵抗がもたらされるであろう。加うるに、配合物のpHがペプチド系緩衝剤のpIから離れている度合が1pH単位よりも大きいと、この上に記述した効果があまり有効でなくなるであろう、と言うのは、そのようなマルチペプチドは通常の緩衝剤のように挙動し始めるであろうからである(帯電した種の輸送効率が高くなりかつpHのドリフトが起こる)。そのようなマルチペプチドをこのマルチペプチドが示すpIまたはこれに近いpHを示す(即ちpI±1.0pH単位の)溶液で用いると、そのように緩衝剤は電気的に(即ちイオン的に)中性または中性に近いことから薬剤イオンとの競合(即ち患者への電気輸送に関する)が起こる度合が最小限になり、従って、陽極または陰極のいずれの貯蔵層配合にも良好な結果を伴って用いることができる(即ち、薬剤イオンとのイオン的競合がほとんどか或は全くない)。技術的な理由でカチオン性配合物にマルチペプチドをpIから離れている度合が0.5から1.0pH単位の範囲のpHで用いることを決定した場合には、送達すべき薬剤とのイオン的競合が最小限になるように、そのような緩衝剤をこれが示すpIより若干高いpHで用いる方が好適である。逆に、アニオン性配合でも同じ理由でペプチド系緩衝剤をこれが示すpIより若干低いpH(即ち0.5から1.0pH単位低い)pHで用いるのが好適である。対貯蔵層配合(即ち薬剤を含有しない貯蔵層)の場合にはそれはあまり重要でない、と言うのは、そのような対貯蔵層から患者の中に送達される薬剤イオンと競合する緩衝剤イオンには懸念がないからである。そのようなマルチペプチドを配合物の中に一般的には約10mMから1M、より好適には約10mMから約250mM、最も好適には約25mMから約100mMの濃度で存在させる。
【0054】
表1に、本発明で用いるに有用な選択したマルチペプチドがこれらが示すpIの時に示す導電性および溶解性を挙げる。
【0055】
【表1】

【0056】
そのようなペプチド系緩衝剤は、好適には、His、Asp、Glu、Lys、Tyr、ArgおよびCysから選択される少なくとも1種のアミノ酸を含有し、より好適にはHis、Asp、GluおよびLysから選択される少なくとも1種のアミノ酸を含有し、最も好適にはHisおよびこれの誘導体(例えばメチル−His)から選択される少なくとも1種のアミノ酸を含有する。
【0057】
いろいろなマルチペプチドが電気輸送用配合物で用いるに充分な特性を示す。表2に、完全なリストではないが、pIを高めることで順位付けられるペプチド系緩衝剤のリストを含める。アミノ酸であるヒスチジン、リシン、アスパラギン酸またはグルタミン酸を組み合わせてか或は他のアミノ酸と一緒に含有するアミノ酸数が5以下のマルチペプチドが特に本発明で用いるに有用である。特にジペプチドおよびトリペプチドが好適である。
【0058】
【表2】

【0059】
【表3】

【0060】
本発明のペプチド系緩衝剤が有するpH緩衝能力は一例としてGly−His(Gly−Hisが示すpIは7.55である)をpH7.5で用いることで説明可能である。この分子が前記pHの時に示す正味の電荷は本質的にゼロである。前記pIの時には3種類の種が共存する。その分子の大部分(70%)は、結果として正味の電荷がゼロになるように2中性電荷と1正電荷と1負電荷を持つ中性種で構成されている。その残り(30%)は正に帯電している種(1−2+、正味電荷=+1)と負に帯電している種(−1)の塩形態で構成されている。そのような塩が存在することは、Gly−His溶液がこれのpIの時に示す溶液導電率を測定することで立証可能である(表1)。溶液中で正味正もしくは負電荷を示す種が低いパーセントで存在してはいるが、前記3種類の種の間の電荷平衡が理由でそのような帯電している種がイオン的に輸送される度合は最小限である(即ち、正電荷が電場の中を移行するとほとんど瞬時にその中性形態に戻ることで推進力を失うか或は負形態に戻ることで後方に移動する)。従って、そのように帯電しているペプチドが患者の全身循環の中にイオン的に移送されることはあるとしても僅かのみである。電荷平衡の同じ原理が理由で、帯電している分子がいくらか不足している状態は、中性形態が開離を起こしてそれの帯電した種になることで直ちに補われ、それによって、長期のpH安定性を確保する貯蔵層がもたらされる。加うるに、中性種の電気浸透によって分子損失が起こったとしても、その結果としてpHが変化することは全く起こらないであろう。
【0061】
そのようなマルチペプチドはこれの等電pHまたはその近くでpHを緩衝する能力を有することから、燐酸塩または3−[N−モルホリノ]プロパンスルホン酸(MOPS)などの如き通常の緩衝剤を同じか或はより高いイオン濃度で用いた時に観察されるよりもpH安定性を維持する能力が良好であることに加えて競合するイオンの数が少ないことが分かる。
【0062】
本発明は特にカチオン性薬剤、例えばベンズアミジン誘導体、例えばROH−4746などのpHを維持しようとする時に有用である。ベンズアミジン誘導体、例えばROH−4746などの緩衝を実施しようとする時に特に有用な群の双性イオンマルチペプチド緩衝剤には、これらに限定するものでないが、Asp−His、Glu−His、His−Glu、His−Asp、Glu−Arg、Glu−Lys、Arg−Glu、Lys−Glu、Arg−Asp、Lys−Glu、Arg−Asp、Lys−AspおよびHis−Glyが含まれる。当該薬剤をpHが維持されるpIで用いることで、その薬剤との相互作用が起こらないようにすると、競合イオンが配合物の中に入り込む度合が最小限になり得る。
【0063】
ROH−4746を二塩酸塩として供給すると、これは1個の酸性pKaと2個の塩基性pKaを示す(2.6、9.4、11.6)。この薬剤上の電荷はいろいろなpHの時に+2、+1、0または−1であり得る。加うるに、水中安定性試験で、その薬剤が示す長期の安定性は4.0−6.5pH単位の範囲内の時に好ましいことを確認した。ROH−4746の安定性を保つばかりでなく+1に帯電した分子を送達することで装置の効率を維持しようとするには使用中の配合物のpHを制御することが重要である。この2つの事項は安定な作動pH範囲と薬剤分子が+1の電荷を維持するpH範囲が重なり合っている点で一緒になってうまく働く。そのような+1薬剤分子の送達を確保する目的で、その添加する薬剤溶液の初期pH調整をイオン交換で実施してもよい。それを単独で用いたのではその調整されたpHを貯蔵中または患者に投与する時に維持しようとする緩衝問題は解決されない。従って、2番目の緩衝段階が必要であり、これをペプチド系緩衝剤を添加することで達成する。これは、また、競合するイオン(これは流れを邪魔する)が配合物の中に入り込む度合を制限しようとする時にも重要である。その上、イオン交換樹脂を用いて前以て調整しておいた薬剤溶液にマルチペプチドを添加すると、pHを所望点にシフトさせる目的で典型的に必要とされていた伝統的な塩基(即ち水酸化ナトリウム)を用いることなく最終的pHを等電点に設定することが可能になる。そのような塩基を配合に用いないことから、競合するイオンが配合物の中に入り込むことが有効になくなる。
【0064】
滴定剤(例えばカチオン性薬剤を滴定する時の塩基、例えばNaOHなど)をある薬剤(例えばカチオン性薬剤、例えばROH−4746)に添加すると前記薬剤自身が1番目のpKaの時に緩衝能力を示すことが理由でpHがその使用する滴定剤の量に応じて前記pKa付近でゆっくりと変化することは良く知られている。pHの滴定を前記1番目のpKaを過ぎて、恐らくは約1から2pH単位過ぎて行うと、そのpHはpHがその使用する滴定剤の量に応じて非常に迅速に変化する段階にシフトする。滴定剤を更に添加すると
、その使用する滴定剤の量に応じて起こるpH変化の速度が再び遅くなる。このように、滴定を前記1番目のpHを過ぎて行うと、滴定曲線の中に屈曲点を伴う急な傾きが存在するようになる。従って、このような急な傾きは前記1番目のpKaに近接して位置しかつ滴定の方向に向かう。ROH−4746の場合のそのような急な傾きは1番目の(最も低い)pKaの中性側に存在する。pKaを複数有する薬剤、例えばROH−4746などの場合には滴定曲線に沿って屈曲点が数個存在する可能性がある。ROH−4746の場合の屈曲点付近で急速なpH変化が起こる1番目の急な傾きは、1番目のpKaである2.6を過ぎた後であるが2番目のpKaである9.4より低く、約pH4.0から8.0である。2番目のpKaである9.4より高い所に別の屈曲点が存在する。アニオン性薬剤の場合にも、同様に、酸(例えばHCl)を用いてアニオン性薬剤の滴定を高いpHから低いpHに向かって行う時にアニオン性薬剤が示す最も高いpKaが1番目のpKaであると見なすと、滴定を1番目のpKaを過ぎて行った後に滴定曲線上の屈曲点付近に急な傾きが存在するであろう。pKaを複数示すアニオン性薬剤の場合にも同様に屈曲点が複数存在するであろう。そのようなカチオン性もしくはアニオン性薬剤が示す滴定曲線は、典型的な酸および塩基(例えばNaOH、HClなど)を用いた滴定で得ることができ、かつまた、適切なpHおよびpIを示すマルチペプチドを用いて緩衝させることも可能である。興味の持たれる電荷および安定性領域が達成されるならば滴定を如何なるpH方向で実施してもよい。
【0065】
滴定曲線上の屈曲点は滴定技術分野で公知の伝統的な方法を用いて決定可能である。本発明の目的で、急な傾きを有する範囲を決定しようとする時、曲線に沿った点の傾きを測定しそして傾きが最も急な点を選択することで、滴定曲線上の屈曲点を得ることができる。これはコンピューターアルゴリズムまたは手でグラフを用いて数学的に実施可能である。別法として、pKaを2個以上有する薬剤に関してその2個のpKaの間の屈曲点を得ようとする場合、その2個のpKaの間のpH中点をそれらの間の屈曲点として見なすことも可能である。屈曲点を決定する更に別の方法は、曲線に沿ったいろいろな点の所の傾きを測定しそして傾きが最も急速に大きくなる点および傾きが急速に小さくなる隣接する点を選択しそしてそれの間のpH中点を採用する方法である。屈曲点付近で傾きが最も急速に大きくなる地点と傾きが最も急速に小さくなる地点の間のpH範囲を急な傾きの領域であると採用してもよい。そのような傾きを測定しようとする時、実用の理由で、薬剤の選択に応じて、屈曲点付近に中心が位置する幅が約4pH単位、好適には幅が約3pH単位、より好適には幅が約2pH単位、更により好適には幅が約1pH単位の範囲を急な傾きと見なすことができる。
【0066】
当該マルチペプチドのpIの選択では、それが当該薬剤が経時的に貯蔵または個人使用または両方の点で安定であるにとって受け入れられるpH範囲内であるように選択する。そのような範囲はある薬剤の場合には幅が約2から3pH単位の範囲内であり得る(例えばROH−4746の場合には約4から6.5のpH)。当該組成物の目標pH範囲の選択では、それが受け入れられる安定性pH範囲内になるように選択する。その上、特定の薬剤に緩衝を受けさせる目的でマルチペプチドを選択する時、その薬剤が示す滴定曲線上の1番目のpKaおよび前記1番目のpKaを過ぎた後の急な傾きの範囲を注目しかつその急な傾きに位置するpIを示すマルチペプチドを選択することができるであろう。好適には、pIがそのような傾きの屈曲点近くに位置するようにそれを選択することができるであろう。マルチペプチドが示すpIの選択では、一般に、それが傾きの屈曲点から各側約1.5pH単位、好適には各側約1pH単位、より好適には各側約0.5pH単位のpH範囲内に位置するようにpIを選択してもよい。例えば、ROH−4746は約pH4から6.5の範囲内の時に安定であることが分かっている。そのような緩衝を受けさせた薬剤組成物の目標pHがそのような安定性pH範囲の範囲内にありかつ緩衝の目的で用いるマルチペプチドが示すpIから両側約1pH単位内であるのが好適である。このように、pI=5.2のジペプチド緩衝剤を選択する場合、それが屈曲点から1pH単位内に位置するようにし、その緩衝を受けさせた薬剤組成物の目標pHを4.2から6.2の範囲(これはROH−4746が安定である範囲である)内にするのが好適である。
【0067】
そのようなペプチド系緩衝剤を用いる結果としてもたらされる競合するイオンの量を少なくする目的で、当該薬剤溶液のpHをイオン交換によって前記マルチペプチドが示すpIまたはその付近、好適には前記pIから各側約1.5pH単位内、好適には各側約1pH単位内、より好適には各側約0.5pH単位内、更により好適には各側約0.25pH単位内になるように調整する。その上、使用時に受け入れられるpH安定性を伴って望ましい定常状態の流量範囲がもたらされるように、その使用する組成物の中に入れるマルチペプチドの濃度を選択することができるであろう。一般的には、薬剤送達システム使用時に起こるpHシフトは約1pH単位未満であるのが好適である。マルチペプチド濃度の選択では、一般に、定常状態の流量が最大の定常状態流量の約50%内であるように選択する。例えば、ROH−4746の場合、マルチペプチドの濃度を結果として薬剤の定常状態の流量が約20から120μg/cm時、好適には約40から100μg/cm時になるように選択することができるであろう。銀箔陽極と塩化銀陰極を持たせた特注の改造フランツ拡散セルを用いて電気輸送流量試験を実施した。この装置の組み立ては、ポリ(ビニルアルコール)重合体(PVOH)が入っている配合物が収容されかつ新鮮な受容体溶液の一定した源がもたらされるように本技術分野で良く知られている典型的なフランツ拡散セルを改造したことが基になっている。全面的外装(overall housing)をDelran Teflonで構成させた。陽極室に薬剤含有PVOHヒドロゲルを入れた。陰極室に熱分離(heat separated)ヒト皮膚を入れて、これを前記PVOHヒドロゲルに接触させる。前記陰極室に、皮膚の中を通ってきた薬剤を受け取る受容体溶液を入れた。これらの電極を0.100mA/cmの一定電流を供給するDC電力源につなげた。ヒドロゲルの製造を以下に示す実施例に記述する方法で実施した。
【0068】
1番目のイオン交換体を用いて薬剤溶液を調整し、その1番目のイオン交換体を前記薬剤溶液から除去しそしてその結果として得た薬剤溶液にペプチド系緩衝剤による緩衝を受けさせると、結果として、競合するイオンが最小限であることに加えて貯蔵および電気輸送中にpH安定性を示す緩衝薬剤溶液を得ることができた。例えば、本発明の方法を用いると、ROH−4746の場合に結果としてもたらされる緩衝薬剤溶液に約1から30重量%、好適には約2から10重量%のROH−4746濃度を持たせることができることに加えて前記薬剤の滴定曲線の急な傾き上のpHの範囲は約4から7、好適には約5から6であり、そしてそれに加えて、強塩基カチオン(例えばアルカリカチオンNa、K、または更に強度がより低い塩基カチオン、例えばNH)の濃度は好適には約75mM未満、好適には約40mM未満、より好適には約20mM未満であり得る。好適な態様では、その緩衝を受けさせる配合物に入れるROH−4746の濃度を30mMから750mMにする。他の薬剤にもpH調整および緩衝を所望のpHになるように受けさせることで、その薬剤にも同様な特性およびイオン濃度を持たせることができる。
【0069】
そのような緩衝用マルチペプチドまたはマルチペプチド混合物の濃度を一般に約10mMから250mM、好適には約20mMから100mM、より好適には約25mMから70mMにする。その薬剤含有組成物が単純に前記ペプチド系緩衝剤による緩衝を受けた組成物であるか或は緩衝範囲が当該薬剤のpKaに近い場合にはその薬剤自身が示すある緩衝能力の範囲内で緩衝を受けた薬剤が示す緩衝能力が更に付加されている組成物であるのが好適である。従って、定常状態の流れを邪魔しない最も低い薬剤濃度になるように薬剤含有組成物の緩衝剤濃度と競合するイオンの濃度の両方を最小限にするのが好適である。
【0070】
従来のpH調整方法に比べた時の利点は、ベンズアミジン誘導体の系列に限定されず、配合物の緩衝pHが当該薬剤のpKaではなく当該薬剤の所望pH(例えば中性点)の方
に近い全てケースで得られる。このことは、所望の貯蔵pHより低いpKaを少なくとも1つ有しかつ貯蔵pH条件より高いpKa値を1個または2個以上有するあらゆるカチオン性薬剤に当てはまる。本発明は、また、所望の貯蔵pHより高いpKaを少なくとも1つ有しかつ貯蔵pH条件より低いpKa値を1個または2個以上有するアニオン性薬剤にも適用可能である。
【0071】
必要ならば、以下により詳細に説明するように、そのイオン交換によるpH調整を受けさせておいた薬剤溶液にペプチド系緩衝剤を用いないで1種類のみのイオン交換物質を用いた緩衝を受けさせることも可能である。その上、必要ならば、そのイオン交換によるpH調整を受けさせておいた薬剤溶液にペプチド系緩衝剤とイオン交換物質の両方を用いた緩衝を受けさせることも可能である。本分野の技術者は、ペプチド系緩衝剤およびイオン交換の使用に関する本説明を基にして所望の結果を得ようとしてそれらの各々を用いることができるであろう。
【0072】
この上で述べたように、本発明の特定態様は電気輸送送達システムで用いるに適した組成物の製造に関し、この製造では、pHを調整しておいた薬剤溶液を2番目のイオン交換物質と接触させる。本発明のいくつかの態様では、そのpHを調整しておいた薬剤溶液を最初に電気輸送送達システムの貯蔵層に加えそして次に2番目のイオン交換物質を前記薬剤溶液を入れておいた貯蔵層に加える。本発明の他の態様では、そのpHを調整しておいた薬剤溶液を最初に2番目のイオン交換物質と接触させた後、その結果として得た混合物を電気輸送送達システムの貯蔵層に加える。本発明の更に別の態様では、2番目のイオン交換物質を最初に電気輸送送達システムの貯蔵層に加えた後、前記pHを調整しておいた薬剤溶液を前記2番目のイオン交換物質が入っている貯蔵層に加える。
【0073】
本発明の特定態様における薬剤イオンはカチオン性であり、会合した対イオンはアニオン性でありそして2番目のイオン交換物質は高分子量のアニオンもしくはカチオン交換材料である。本分野の通常の技術者が理解するであろうように、適切な2番目の高分子量イオン交換樹脂の選択はこの樹脂の酸/塩基特性で決まる。本発明の方法に従って調製する特定の配合物では、高分子量のアニオン交換材料がその必要な特性を与え、そして本発明の方法に従って調製する他の特定の配合物では、高分子量のカチオン交換材料がその必要な特性を与える。
【0074】
本発明の特定態様における薬剤イオンはアニオン性であり、会合した対イオンはカチオン性でありそして2番目のイオン交換物質は高分子量のアニオンもしくはカチオン交換材料である。再び、本分野の通常の技術者が理解するであろうように、適切な2番目の高分子量イオン交換樹脂の選択はこの樹脂の酸/塩基特性で決まる。
【0075】
特定態様における2番目の高分子量アニオンもしくはカチオン交換材料は高分子量のアニオンもしくはカチオン交換樹脂である。他の態様における2番目の高分子量アニオンもしくはカチオン交換材料は高分子量のアニオンもしくはカチオン交換膜である。
【0076】
適切な2番目の高分子量カチオン交換樹脂には、例えばポラクリリン(polacrilin)、アクリレート、スルホン酸メチル、メタアクリレート、カルボン酸官能基、スルホン酸、スルホイソブチルまたはスルホキシエチルが含まれる。特に好適な態様における2番目の高分子量カチオン交換樹脂にはポラクリリンまたはアクリレートが含まれる。
【0077】
適切な2番目の高分子量カチオン交換樹脂には、例えば酸部分を1個以上有する重合体が含まれる。そのような重合体には、例えばポリアクリル酸、ポリアクリル系スルホン酸、ポリアクリル系燐酸およびポリアクリル系グリコール酸が含まれる。アニオン交換体を用いて緩衝を行う場合、弱アニオンとして識別される交換材料が好適である。そのような重合体の数種はBioRadから「Bio−Rex」および「AG」系列の樹脂の範囲内で入手可能である(即ちBio−Rex 5およびAG 4−X4)。他のアニオン交換材料にはAmberliteの形態(Rohm and Haasから入手可能な)、例えばAmberlite IRA67などが含まれる。さらなるアニオン交換樹脂には、Dow Chemicalの「Dowex」系列の樹脂(Dowex Monosphere 77)が含まれる。
【0078】
本発明の方法の特定態様に従って調製する配合物に入れる2番目のイオン交換樹脂の中性度および2番目のイオン交換樹脂の濃度はある範囲の値に渡って散らばっている。本発明の特定態様における2番目の高分子量アニオンもしくはカチオン交換樹脂の中和度は約2%から約70%である。より好適な態様における2番目の高分子量アニオンもしくはカチオン交換樹脂の中和度は約5%から約50%である。更により好適な態様における2番目の高分子量アニオンもしくはカチオン交換樹脂の中和度は約5%から約30%である。そのような中和パーセントは当該樹脂が緩衝剤の如く働く性能に影響を与える。中和パーセントは、(本ケースでは)塩基を添加した時に中和される酸基の量を指す。例えば20ミリモルの酢酸に10ミリモルのNaOHを添加すると前記酢酸の50%が中和される。イオン交換樹脂の中和度は高分子量イオン交換樹脂緩衝剤をNaOHで中和することで達成される。データは、中和パーセントが高分子量緩衝剤の緩衝能力である役割を果たしていることを示している。
【0079】
本発明の方法の特定態様に従って調製する配合物に入れる2番目の高分子量アニオンもしくはカチオン交換樹脂の濃度を約20meq/mLから約200meq/mLにする。より好適な態様では、前記2番目の高分子量アニオンもしくはカチオン交換樹脂の濃度を約20meq/mLから約140meq/mLにする。更により好適な態様では、前記2番目の高分子量アニオンもしくはカチオン交換樹脂の濃度を約25meq/mLから約60meq/mLにする。前記2番目のイオン交換樹脂のパーセントを下限にするのが好適である、と言うのは、それを用いると少ない量ではあるが競合するイオン(例えばナトリウムイオン)が配合物の中に入り込む。その上、濃度をより低くすると、定常状態の流量を達成する時の立ち上がり時間がより短くなることで、定常状態の流量を達成しようとする時の悪影響が回避される。
【0080】
本発明の好適な特定態様における薬剤は2−[3−[4−(4−ピペリジニルオキシ)アニリノ]−1プロペニル]ベンズアミジン誘導体でありそして2番目のイオン交換樹脂はポラクリリンである。本発明の方法のそのような態様に従って調製する配合物に入れるポラクリリンの所望量は約0.23から約1.13重量%であり、それの中和度は約5%から約10%の範囲である。本発明の特定態様において、送達中のpH制御をより厳密に行おうとする場合には、その範囲を狭くして、2番目のアニオン交換樹脂を約0.23から約0.40重量%にし、それの中和度を約5%から8%の範囲にする。
【0081】
本分野の技術者は本方法で調製する配合物を幅広く多様な電気輸送薬剤送達システム(イオン導入薬剤送達システムを包含)[決して本方法をそれに限定するものでないが]と一緒に用いることができることを理解するであろう。電気輸送薬剤送達システムおよびイオン導入薬剤送達システムの例として、Theeuwes他の米国特許第5,147,296号、Theeuwes他の米国特許第5,080,646号、Theeuwes他の米国特許第5,169,382号およびGyory他の米国特許第5,169,383号(これらの開示は各々引用することによって全体が本明細書に組み入れられる)が参考になり得る。
【0082】
電気輸送送達システムの貯蔵層は一般にゲルマトリックスを含んで成っていて、その貯蔵層の中の少なくとも1つの中に当該薬剤溶液が均一に分散している。そのようなゲルマ
トリックスに適切な重合体には、本質的に、非イオン性の合成および/または天然に存在する高分子量材料のいずれも含まれ得る。当該活性薬剤が極性がありそして/またはイオン化し得る時には、薬剤の溶解性が向上するように、極性のある性質が好適である。場合により、そのようなゲルマトリックスは水で膨潤し得る。適切な合成重合体の例には、これらに限定するものでないが、ポリ(アクリルアミド)、ポリ(アクリル酸2−ヒドロキシエチル)、ポリ(アクリル酸2−ヒドロキシプロピル)、ポリ(N−ビニル−2−ピロリドン)、ポリ(n−メチロールアクリルアミド)、ポリ(ジアセトンアクリルアミド)、ポリ(メタアクリル酸2−ヒドロキシエチル)、ポリ(ビニルアルコール)およびポリ(アリルアルコール)が含まれる。また、ヒドロキシル官能を有する縮合重合体(即ちポリエステル、ポリカーボネート、ポリウレタン)も適切な極性合成重合体の例である。ゲルマトリックスとして用いるに適した天然に存在する極性重合体(またはこれの誘導体)の例はセルロースエーテル、メチルセルロースエーテル、セルロースおよびヒドロキシル化セルロース、メチルセルロースおよびヒドロキシル化メチルセルロース、ゴム、例えばグアー、ニセアカシア、カラヤ、キサンタン、ゼラチンおよびこれらの誘導体などである。また、イオン性重合体をマトリックスとして用いることも可能であるが、但し有効な対イオンが電荷が当該活性薬剤に対して反対である薬剤イオンもしくは他のイオンであることを条件とする。
【0083】
本発明の特定態様における電気輸送送達システムの貯蔵層はヒドロゲルを含んで成る。本発明の他の態様における貯蔵層はヒドロゲルではない乾燥マトリックスを含んで成る。
【0084】
本発明の好適な特定態様における電気輸送送達システムの貯蔵層は、例えば米国特許第6,039,977号(引用することによって全体が本明細書に組み入れられる)に記述されている如きポリビニルアルコールヒドロゲルを含んで成る。ポリビニルアルコールヒドロゲルの調製は、例えば米国特許第6,039,977号に記述されているようにして実施可能である。本発明の方法の特定態様において、電気輸送送達システムの貯蔵層用のゲルマトリックスを調製する時に用いるポリビニルアルコールの重量パーセントは約10%から約30%、好適には約15%から約25%、より好適には約19%である。好適には、加工および使用を容易にする目的で、そのゲルマトリックスの粘度を約1,000から約200,000ポイズ、好適には約5,000から約50,000ポイズにする。
【0085】
そのようなゲルマトリックスへの薬剤溶液の混合は無数の様式で実施可能である、即ちその溶液を貯蔵層マトリックスの中に吸収させること、薬剤溶液をヒドロゲル形成前のマトリックス材料と混合することなどで実施可能である。
【0086】
このように、pHを調整しておいた溶液に緩衝を受けさせる前または後のいずれかに本発明の方法を用いて薬剤溶液のpHを調整した後、その溶液を薬剤貯蔵層、例えばこの直ぐ上に記述した如きゲルマトリックスの中に混合し、そして次に、電気輸送薬剤送達システムを用いて患者に投与する。その緩衝用材料(ペプチド系緩衝剤、2番目のイオン交換物質またはこれらの組み合わせ)が前記薬剤貯蔵層が電気輸送中に起こすpH変化の度合を低くしかつ前記貯蔵層の所望pHを維持する働きをし、その結果として、当該薬剤の安定性がより高くなりかつ送達が向上する。
【0087】
本発明の特定態様では、pHを調整しておいた薬剤溶液を緩衝剤(例えばペプチド系緩衝剤、2番目のイオン交換物質または組み合わせ)と混合することでそれに緩衝を受けさせた後、その溶液を患者に投与する目的で電気輸送送達システムの貯蔵層の中に入れないで貯蔵する。前記緩衝剤は当該薬剤溶液が起こすpH変化の度合を低くしかつ前記溶液の所望pHを長期貯蔵中に保持させる働きをする。このように、本発明の方法に従って配合した薬剤溶液は長期間、例えば緩衝用材料および条件の選択に応じて数週間から数カ月そして数年に渡って安定に貯蔵可能である。
【0088】
本発明の他の特定態様では、pHを調整しておいた薬剤溶液を電気輸送送達システムの貯蔵層の中に導入しそしてそれを前記貯蔵層の中に入れる前または後のいずれかに適切な緩衝剤(例えばペプチド系緩衝剤、2番目のイオン交換物質または組み合わせ)を用いた緩衝を実施する。前記貯蔵層を即座に用いる代わりに前記貯蔵層を長期間に渡って貯蔵する。前記緩衝剤は前記貯蔵層が起こすpH変化の度合を低くしかつ前記貯蔵層の所望pHを貯蔵中に保持させる働きをする。本発明の方法に従って調製したpH調整薬剤溶液を含有させた貯蔵層は長期間、例えば数週間から数カ月そして数年に渡って安定に貯蔵可能である。
【0089】
以下の実施例は本発明の特定態様の説明であり、本発明の範囲を限定すると解釈されるべきでない。
【実施例1】
【0090】
電気輸送用カチオン性薬剤配合物の調製
図1に示した2−[3−[4−(4−ピペリジニルオキシ)アニリノ]−1プロペニル]ベンズアミジン誘導体(ROH−4746と呼ぶ)の濃溶液のpHの調整をこの薬剤溶液にNaOHまたは少量のヒドロキシル化アニオン交換樹脂[Biorad(2000 Alfred Nobel Dr.、Hercules、CA 94547)から入手可能なAG1−X8]のいずれかを添加することで実施した。前記ベンズアミジン誘導体が水中で自然に示すpHはこの薬剤が示す最も低いpKaより低い。この薬剤分子の塩化物対イオンに前記樹脂に由来するヒドロキサイドによる交換を受けさせると、電気輸送中の薬剤重量を低くする可能性のある如何なる競合するイオンも入り込むことなく、前記薬剤溶液のpHが高くなった。この薬剤溶液のpHを興味の持たれるペプチドが示すpI(例えばHis−Gluの場合にはpI=5.2)または前記pIの近くの所望値に調整した後、シリンジフィルター(0.2μm)を用いた濾過で前記樹脂を除去した。その後、その薬剤溶液にマルチペプチド緩衝剤、例えばHis−Gluなどを結果として濃度が10−70mMになるように添加した。その結果、His−Gluを結果として濃度が25mMになるように添加した時により良好な結果がもたらされることが分かった。
【0091】
ヒドロゲルの調製を典型的にはポリビニルアルコール(PVOH)を90℃の精製水に19重量%の量で入れて30分間置いた後に温度を50℃にまで下げ、そのゲル懸濁液をディスクの中に分与しそして凍結硬化させることで実施した。ROH−4746が100mg/mL入っている溶液の調製を前記薬剤を精製水に溶解させることで実施した。そのROH−4746溶液にヒドロキシル化イオン交換樹脂AG 1x8(BioRad)によるpH調整を受けさせることでペプチド系緩衝剤His−Gluが示すpIである約5.2にした後、そのpHを調整しておいたROH−4746溶液に前記ペプチド系緩衝剤を添加した。その前以て生じさせておいたヒドロゲルに脱水をある程度受けさせた後、それに前記pHを調製しておいた薬剤溶液を濃水溶液として室温で吸収させることで所望の薬剤充填率を得た。前記ペプチド系緩衝剤の添加量を所望の配合物モル濃度が達成されるように調整した。この調整は前記ヒドロゲルによる吸収を実施する前に計算および実験手順で実施可能である。別法として、吸収後に緩衝剤を更に添加して微調整を行うことで調整を実施することも可能である。
【実施例2】
【0092】
インビトロ電気輸送試験
調製(この上に記述した如く)したヒドロゲルに前記緩衝を受けさせておいたROH−4746溶液を実験に先立って12−24時間吸収させることで前記薬剤が前記ゲル全体に渡って平衡状態になるようにした。イオン交換を受けさせる前の初期濃度が100mg/mLのROH−4746を用いた場合、吸収後に結果としてもたらされるヒドロゲル中
のROH−4746濃度は水溶液を基準にして約30mg/mLであった。この上に記述したように銀箔陽極と塩化銀陰極を取り付けた改造フランツ拡散セルを用いて電気輸送流量試験を実施した。その改造フランツ拡散セルはポリ(ビニルアルコール)重合体(PVOH)が入っている配合物を収容し、それによって、新鮮な受容体溶液の一定した源が得られた。薬剤が通る試験表面積を約1.3cmにした。この試験で用いるヒドロゲルの厚みを約1.6mmにした。全面的外装をDelran Teflonで構成させた。陽極室に前記薬剤を含有させておいたPVOHヒドロゲルを入れた。陰極室に熱分離ヒト皮膚を入れて、これを前記PVOHヒドロゲルに接触させた。前記熱分離ヒト皮膚を通るROH−4746の流量を測定した。100μA/cmの密度の電流を24時間かける前に各ゲルの初期pHを測定した。受容体溶液をHPLCで分析することで薬剤の流量を測定した。24時間後に再びpHを測定することで前記マルチペプチドが有する緩衝能力を評価した。特定のヒドロゲルサンプルにペプチド系緩衝剤による緩衝を受けさせ、そして特定のヒドロゲルサンプルを対照サンプルとし、それにはペプチド系緩衝剤による緩衝を受けさせなかった。
【0093】
マルチペプチドを前記配合物に混合し、使用するイオン濃度を25mM以上にすると、ヒドロゲルのpHシフトが最小限になった。ヒドロゲルにHis−Glu(pI=5.2)による緩衝を初期pHを約5.2にして受けさせた。このマルチペプチドの濃度(mM)を結果としてもたらされるヒドロゲル系の水性成分中の緩衝剤濃度で決定した(これにはゲルマトリックスを形成するポリビニルアルコール材料を含めない)。図2に、配合物中の緩衝剤濃度を高くするとイオン導入用途中の定常状態の流量がどのような影響を受けるかを示す。この図は、受け入れられる流量を保持しながらpHを充分に保持する最適な濃度範囲が存在することを示している。本分野の技術者は本開示を考慮して緩衝剤および薬剤を選択することを基にして最適な濃度を決定することができるであろう。
【0094】
表3に、His−Gluによる緩衝をいろいろな緩衝剤濃度で受けさせたヒドロゲルをイオン導入で用いる前および24時間後を示す。ペプチド系緩衝剤濃度を10mMまたは25mMにした時の定常状態の流量は極めて高く、約80μg/cm・時であった。そのペプチド系緩衝剤の濃度を更に高くして行くと定常状態の流量が悪化した。しかしながら、使用するペプチド系緩衝剤の濃度をより高くするとpHが電気輸送使用時に経時的にシフトする傾向が低下した。従って、このケースでは、His−Glu緩衝剤に最適な範囲は約10mMから35mMであった。10mM、25mM、35mMおよび70mMの濃度の中で10mMの時に最良の流量を得たが、流量が良好でありかつpHシフトが低いことを考慮すると最適な濃度は約25mMであった。
【0095】
【表4】

【実施例3】
【0096】
ジペプチド緩衝剤を用いた時の長期貯蔵
貯蔵中にジペプチドが示す緩衝能力を評価する目的で促進配合物安定試験を実施した。この上に記述した方法を用いて貯蔵用組成物中のROH−4746含有量が2.37%のヒドロゲルを調製して、それにHis−Glu(pI=5.2、25mM)による緩衝を初期pHが5.24になるように受けさせた。その上、また、マルチペプチド緩衝剤に入れたROH−4746が貯蔵下で示す安定性も評価した。図3は、いろいろな貯蔵条件下で起こるpHのシフトを12週間に渡って示すグラフである。ヒドロゲルを40℃で貯蔵した時に最大のpHシフトが見られて約0.7単位低下した。しかしながら、25℃以下の貯蔵条件下ではpHシフトが約0.4pH単位以下に制限された。あらゆるケースでマルチペプチドは貯蔵中のpHを維持するに充分であることが分かった。この試験の結果としてマルチペプチド緩衝剤をそのような配合で用いることができることが分かった。図4に、図3に示したHis−Gluによる緩衝を受けさせたヒドロゲルの中に入っている薬剤の回収率を要約する。あらゆるケースで、通常の周囲室温またはそれ以下の通常の貯蔵条件下では、12週間貯蔵した後の回収率は受け入れられる回収率であった(通常の周囲温度は約27℃であると見なすことができる)。例えば、約−25℃から25℃の温度で貯蔵を行った時の損失率は約10%以下であった。
【実施例4】
【0097】
電気輸送用アニオン性薬剤配合物の調製
以下に示す手順に従い、高分子量のカチオン交換材料を用いてアニオン性薬剤のpHを調整した後、それに高分子量のイオン交換物質を用いた緩衝を受けさせた。
【0098】
薬剤セフトリアキソン(ジナトリウム塩として供給)は下記の3pKa:3(カルボン酸)、3.2(アミン)および4.1(エノールOH)を示し、これは溶液中で塩基として作用する。この薬剤が水中で自然に示すpHは中性より高く、これはこの薬剤が示す最も高いpKaよりも高い。Henderson−Hasselbach方程式を用いて、この系が示す理論的最終pHを計算することができる。
【0099】
セフトリアキソンの溶液に高分子量のカチオン交換材料を添加することで前記溶液のpHをこの薬剤が示す2番目のpKaと3番目のpKaの間の値が前記マルチペプチド含有ペプチド系緩衝剤のpI(例えばGly−AspではpI=3.6)または前記pI付近になるように調整した。その後、適切なペプチド系緩衝剤を用いて前記溶液に緩衝を受け
させることで貯蔵中および/または電気輸送装置稼働中のpHを維持する(例えばGly−Aspが10−70mMの時に示すpI=3.6)。そのイオン交換を受けさせた薬剤溶液中ばかりでなく結果としてもたらされるヒドロゲル中のセフトリアキソンの濃度が水溶液を基準にして約1から30重量%、好適には水溶液を基準にして約2から10重量%になるようにそれを選択することができる。
【0100】
本発明の開示を基にして、そのような緩衝を受けさせておいたアニオン性薬剤組成物は緩衝を受けさせていないアニオン性薬剤に比べて向上したpH安定性を示しかつ酸、例えば無機HClなどおよび他の伝統的な非ペプチド系緩衝剤による緩衝を受けさせておいた薬剤に比べて競合するアニオンの数が少ないことは本分野の技術者に明らかであろう。
【0101】
当該薬剤溶液を調整する目的で1番目のイオン交換体を用い、前記1番目のイオン交換体を薬剤溶液から除去しそしてその結果として得た薬剤溶液にペプチド系緩衝剤による緩衝を受けさせると、結果として、貯蔵および電気輸送中のpHが安定であることに加えて競合するイオンの数が最小限の薬剤溶液を得ることができる。例えば、セフトリアキソンの場合、結果として緩衝を受けた薬剤溶液のセフトリアキソン濃度を約1−30重量%、好適には2−10重量%にすることができることに加えて、この薬剤が示す滴定曲線の急な傾き上に位置するpHは約3.5から4.0、好適には約3.4から3.9であり、そしてそれに加えて、強酸アニオンのイオン濃度は約75mM未満、好適には約20mM未満、より好適には約10mM未満であり得る。マルチペプチド緩衝剤の濃度を一般に約10mMから250mM、好適には約15mMから100mM、より好適には約25mMから70mMにする。
【0102】
pKa値が2.85、3.37および4.18である薬剤セフォジジムジナトリウム塩でも同様な方策を用いる。当該薬剤溶液を調整する目的で1番目のイオン交換体を用い、前記1番目のイオン交換体を薬剤溶液から除去しそしてその結果として得た薬剤溶液にペプチド系緩衝剤による緩衝を受けさせると、結果として、貯蔵および電気輸送中のpHが安定であることに加えて競合するイオンの数が最小限の薬剤溶液を得ることができる。例えば、セフォジジムジナトリウム塩の場合、結果として緩衝を受けた薬剤溶液のセフォジジム濃度を約1から30重量%、好適には2から10重量%にすることができることに加えて、この薬剤が示す滴定曲線の急な傾き上に位置するpHは約3.4から4.1、好適には約3.5から3.9であり、そしてそれに加えて、強酸アニオンのイオン濃度は約75mM未満、好適には約40mM未満、より好適には約20mM未満であり得る。マルチペプチド緩衝剤の濃度を一般に約10mMから250mM、好適には約20mMから100mM、より好適には約25mMから70mMにする。そのイオン交換を受けさせた薬剤溶液中ばかりでなく結果としてもたらされるヒドロゲル中のセフォジジムジナトリウム塩の濃度が水溶液を基準にして約1から30重量%、好適には水溶液を基準にして約2から10重量%になるようにそれを選択することができる。
【0103】
本資料に引用または記述した特許、特許出願および公開の各々の開示は全体が引用することによって本明細書に組み入れられる。本発明の態様を具体的に記述してきた。ROH−4746を具体例として記述してきたが、他の2−[3−[4−(4−ピペリジニルオキシ)アニリノ]−1プロペニル]ベンズアミジン誘導体も同様なpKaを示す可能性があり、それらにもROH−4746で用いた技術と同様な技術を用いたpH調整および緩衝を受けさせることができる。本分野の技術者は本明細書に開示したスキームのいろいろな部分および成分のいろいろな組み合わせおよび置換を本発明の範囲から逸脱することなく実施することができると理解されるべきである。更に、ある態様で目的または材料を記述する時、また、前記目的または材料を複数または組み合わせも特に明記しない限り有用であると意図することも理解されるべきである。
【図面の簡単な説明】
【0104】
【図1】図1に、ROH−4746、即ち2−[3−[4−(4−ピペリジニルオキシ)アニリノ]−1プロペニル]ベンズアミジン誘導体の化学構造を示す。
【図2】図2に、ジペプチド(His−Glu)による緩衝を受けさせた陽極ヒドロゲルの配合に入れる緩衝剤の濃度を高くするとイオン導入使用時に定常状態のROH−4746流量およびpHシフトがどのような影響を受けるかを示す。
【図3】図3は、ROH−4746含有量が2.37%のヒドロゲルにHis−Glu(25mM)による緩衝を受けさせた時にROH−4746薬剤溶液のpHがいろいろな貯蔵条件の時に12週間の間に起こすシフトを示したグラフである。
【図4】図4は、ROH 4746含有量が2.37%のヒドロゲルにHis−Glu(25mM)による緩衝を受けさせた時にいろいろな貯蔵条件下の貯蔵安定性を12週間に渡って示したグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電気輸送送達システムで用いるに適した組成物を製造する方法であって、
薬剤の、薬剤イオン及び会合した対イオンを含んで成り、純粋であると仮定した時にあるpHを有する薬剤溶液を準備し、
組成物の安定性が受け入れられかつ経皮送達が有効であるようなpH範囲を選択するが、ここで、その選択したpH範囲が少なくとも前記薬剤溶液が示す滴定曲線の急な傾きと重なり、前記薬剤溶液が純粋であると仮定した時のpHが前記選択したpH範囲の外側に位置し、
前記薬剤溶液が示す滴定曲線の急な傾き上に位置する等電点(pI)を有するマルチペプチドを選択し、
前記薬剤溶液をイオン交換物質と接触させることで前記薬剤溶液のpHを前記マルチペプチドが示すおおよそのpIに調整し、
前記イオン交換物質を前記pHを調整した薬剤溶液から分離し、そして
前記pHを調整しておいた薬剤溶液を前記マルチペプチドで緩衝させることで前記選択したpH範囲にする、
ことを含んで成る方法。
【請求項2】
薬剤が少なくとも1番目のpKaを有しそしてマルチペプチドの選択を、前記1番目のpKaが前記マルチペプチドの示すpIと前記薬剤溶液が純粋であると仮定した時のpHの間に位置し、かつ前記薬剤溶液のpHが前記イオン交換物質によって前記1番目のpKaを横切る如く調整されるように行う請求項1記載の方法。
【請求項3】
更に薬剤が安定である安定性pH範囲を決定し、かつpH範囲をこれが前記安定性pH範囲内になるように選択することも含んで成る前請求項のいずれか記載の方法。
【請求項4】
薬剤溶液をイオン交換物質と接触させることで前記薬剤溶液のpHをこれが前記マルチペプチドが示すpIから1pH単位内になるように調整することを含んで成る前請求項のいずれか記載の方法。
【請求項5】
更にpH範囲をこれが滴定曲線の急な傾き上に位置するように選択することも含んで成るが、前記急な傾きが前記1番目のpKaの中性側に近接しかつその方向に向かう前請求項のいずれか記載の方法。
【請求項6】
急な傾きの範囲が薬剤が示す滴定曲線上の屈曲点から各側に1.5pH単位内にありかつ選択したpH範囲の幅が1pH単位未満でありそして前記滴定曲線の急な傾きが前記薬剤の選択したpH範囲を包含する前請求項のいずれか記載の方法。
【請求項7】
更にpHを調整しておいた薬剤溶液を電気輸送送達システムの貯蔵層に添加することも含んで成る前請求項のいずれか記載の方法。
【請求項8】
更にマルチペプチドを組成物にそれが10mMから250mMまでの濃度を達成するように含有させることも含んで成る前請求項のいずれか記載の方法。
【請求項9】
マルチペプチドが示すpIが3から10の範囲である前請求項のいずれか記載の方法。
【請求項10】
His、Tyr、Arg、Cys、Lys、AspおよびGluから成る群から選択される少なくとも1種のアミノ酸を有するジペプチドもしくはトリペプチドをマルチペプチドとして選択することを含んで成る前請求項のいずれか記載の方法。
【請求項11】
Asp−His、Glu−His、His−Glu、His−Asp、Glu−Arg、Glu−Lys、Arg−Glu、Lys−Glu、Arg−Asp、Lys−Glu、Arg−Asp、Lys−AspおよびHis−Glyから成る群から選択したジペプチドをマルチペプチドとして選択することを含んで成る前請求項のいずれか記載の方法。
【請求項12】
薬剤イオンがカチオンであり、会合した対イオンがアニオンでありそしてイオン交換物質が高分子量のアニオン交換樹脂である前請求項のいずれか記載の方法。
【請求項13】
薬剤溶液のpHをイオン交換によってpH3からpH9の範囲に調整する前請求項のいずれか記載の方法。
【請求項14】
イオン交換物質が高分子量のアニオン交換膜である前請求項のいずれか記載の方法。
【請求項15】
薬剤がカチオン性薬剤であり、かつXa因子阻害剤である前請求項のいずれか記載の方法。
【請求項16】
薬剤がカチオン性薬剤であり、かつベンズアミジン誘導体である前請求項のいずれか記載の方法。
【請求項17】
ベンズアミジン誘導体(BD)の薬剤イオン及び会合した対イオンを含んで成る薬剤溶液を準備するが、BDが少なくとも1番目のpKaを有し、前記1番目のpKaがBDが示す最も低いpKaであり、前記薬剤溶液があるpHを示し、
組成物のpH範囲を選択するが、前記pH範囲が前記BDが示す前記1番目のpKaよりも高くかつBDが安定でありかつ有効に送達され得るような4から6.5の範囲内になるようにし、
BDが示す滴定曲線の急な傾き上に位置する等電点(pI)を有するマルチペプチドを選択し、
前記薬剤溶液をアニオン性イオン交換物質と接触させることで前記薬剤溶液のpHをこれが前記1番目のpKaを通過して前記マルチペプチドが示すおおよそのpIに到達するように調整し、
前記イオン交換物質を前記pHを調整した薬剤溶液から分離し、そして
前記pHを調整しておいた薬剤溶液を前記マルチペプチドで緩衝させることでpH範囲を4から6.5にする、
ことを含んで成る前請求項のいずれか記載の方法。
【請求項18】
薬剤溶液のpHをイオン交換で調整してそれがマルチペプチドが示すpIから各側0.5pH単位の範囲になるようにすることを含んで成る前請求項のいずれか記載の方法。
【請求項19】
緩衝の目的でジペプチドHis−Gluを用いそして薬剤溶液のpHをイオン交換でpH5.0からpH5.5の範囲に調整することを含んで成る前請求項のいずれか記載の方法。
【請求項20】
電気輸送送達システムで用いるに適したベンズアミジン誘導体(BD)組成物であって、
BDの薬剤イオン及び会合した対イオンを含んで成る薬剤溶液[BDは少なくとも1番目のpKaを有し、前記1番目のpKaがBDが示す最も低いpKaである]、
BDが示す前記1番目のpKaに近接しかつそれよりも高い等電点(pI)を有するマルチペプチド緩衝剤、
を含んで成っていて、
該組成物のpHがpH5.0からpH5.5の範囲内でありかつアルカリカチオンの濃
度が75mM未満である、
ベンズアミジン誘導体(BD)組成物。
【請求項21】
アルカリカチオンの濃度が40mM未満である請求項20記載のベンズアミジン誘導体(BD)組成物。
【請求項22】
イオン交換物質を実質的に含有しない請求項20−21のいずれか記載のベンズアミジン誘導体(BD)組成物。
【請求項23】
マルチペプチド緩衝剤がHis−Gluを緩衝用ジペプチドとして含んで成りかつ組成物のpHがpH5.0からpH5.5の範囲内である請求項20−22のいずれか記載のベンズアミジン誘導体(BD)組成物。
【請求項24】
組成物のpHがpH5.0からpH5.5の範囲でありかつ該組成物がイオン交換物質を実質的に含有せずかつアルカリカチオンの濃度が75mM未満である請求項20−23のいずれか記載のベンズアミジン誘導体(BD)組成物。
【請求項25】
アルカリカチオンの濃度が40mM未満である請求項20−24のいずれか記載のベンズアミジン誘導体(BD)組成物。
【請求項26】
BDの濃度が30mMから750mMである請求項20−25のいずれか記載のベンズアミジン誘導体(BD)組成物。
【請求項27】
BDがROH−4746である請求項20−26のいずれか記載のベンズアミジン誘導体(BD)組成物。
【請求項28】
BD組成物が電気輸送送達システムの貯蔵層の中に入っている請求項20−27のいずれか記載のベンズアミジン誘導体(BD)組成物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公表番号】特表2007−516962(P2007−516962A)
【公表日】平成19年6月28日(2007.6.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−541616(P2006−541616)
【出願日】平成16年11月19日(2004.11.19)
【国際出願番号】PCT/US2004/039184
【国際公開番号】WO2005/051485
【国際公開日】平成17年6月9日(2005.6.9)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TEFLON
【出願人】(503073787)アルザ・コーポレーシヨン (113)
【Fターム(参考)】