説明

ペプチド含有摂食調節剤

【課題】摂食調節能を有する医薬品、医薬部外品、食品添加物及び機能性食品等に広く利用できるMCHもしくはその酵素分解物を提供すること。
【解決手段】哺乳類のMCHあるいはその酵素分解物として、摂食調節ペプチドを得る。また、得られた物質は生体内生理活性物質であるため、安全面にも優れており、広範な用途に利用できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、魚類若しくは哺乳類メラニン凝集ホルモンおよびその関連物質を有効成分として含む摂食調節剤に関するものである。本発明にかかる摂食調節剤は、過食が原因となる、あるいは摂食の調節が必要とされる、疾病の治療や症状の改善に有用であり、食品、医薬品等に広く利用できる。
【背景技術】
【0002】
高血圧、糖尿病、高脂血症等の生活習慣病患者およびその予備軍は、40歳代以上の男女において約半数以上になる。これらの多くの原因は肥満であり、その予防または改善することが望まれている。規則正しい食生活こそが肥満を予防する最善策と考えられているが、飽食の時代である現代において、それを実行することは困難である場合が少なくない。
【0003】
摂食を調節、とくに抑制する物質としてアンフェタミン類のマジンドールが医薬品として実用化されている。しかし、マジンドールの中枢への直接作用や、習慣性、依存性等の危険性から、高度肥満患者のみにその使用が限定されており、より安全な手法が望まれている。
【0004】
これまでに摂食抑制に関連したものとして、セロトニン、ドーパミン、ノルエピネフリン及びヒスタミンの前駆体を使用する方法(特許文献1)、ヒラタケの子実体(特許文献2)、アボカド(特許文献3)などが報告されている。
【0005】
脳内には、摂食に関わる各種ホルモンの存在が知られている。摂食促進物質としては、メラニン凝集ホルモン(MCH)、ニューロペプチドY、ペプチドYY、AgRP、グレリン、ノルアドレナリン等が存在し、逆に摂食抑制生理活性物質として、α−メラノサイト刺激ホルモン(α−MSH)、セロトニン、コレシストキニン(CCK)、GLP−1等がある。
【0006】
魚類なかでも、はじめてサケの脳下垂体において適応的に色素凝集を司る物質として同定されたメラニン凝集ホルモン(MCH)は、哺乳類脳視床下部からも見出され、摂食にかかわるホルモンとして注目されている。MCH遺伝子欠損マウスは、摂食量の減少及び代謝の増加に伴って顕著な体重減少が観察されており(非特許文献1)、また、MCHをラット脳室内に注入することで、摂食促進行動が確認されている(非特許文献2)。
【0007】
したがって、摂食促進物質であるMCHのレセプターのアンタゴニストを作成することにより、摂食抑制効果が期待される。そこで、食欲抑制物質T−226296(非特許文献3)をはじめとするMCHレセプターアンタゴニストが数多く開発され、抗肥満薬として期待されている。
【0008】
上記のようにMCHは、摂食にかかわる物質、なかでも摂食促進能を有する物質として知られているが、摂食抑制活性に着目した報告はない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特表2000−515139号公報
【特許文献2】特開平9−20675号公報
【特許文献3】特開2002−53474号公報
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】Shimada.M, et.al., Nature, 396, 670-674, 1998.
【非特許文献2】M.Rossi, et.al., Endocrinology, 138, 351-355, 1997.
【非特許文献3】Takekawa, S., et.al., European Journal of Pharmacology, 438(3), 129-135, 2002.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明の目的は、前記従来技術に鑑みて、静脈注射等の医療的投与あるいは食品として簡単に摂取できる摂食調節剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、上記課題を鑑みて鋭意検討した結果、メラニン凝集ホルモン(MCH)およびその酵素分解物が、予想外にも摂食調節能を有し、安全性が高い有用なものであることを見いだし、本発明を完成するに至った。かかる本発明者らの知見は、従来知られていなかった新規なものである。
【0013】
すなわち、本発明の第一の目的は、摂食調節活性を示すペプチド又はペプチド組成物、及びそれらを含む食品、医薬品、医薬部外品、化粧品を提供することであり、本発明の第二の目的は、摂食調節ペプチドおよびその酵素分解物ペプチドの製造法を提供することである。
【0014】
本発明にかかる摂食調節剤の第一の態様は、
下記式(1):
【0015】
【化1】

【0016】
で示されるペプチド(配列番号:1)である魚類メラニン凝集ホルモン又はその塩を有効成分として含有することを特徴とする摂食調節剤である。
【0017】
本発明にかかる摂食調節剤の第二の態様は、
下記式(2):
【0018】
【化2】

【0019】
で示されるペプチド(配列番号:2)である哺乳類メラニン凝集ホルモン又はその塩を有効成分として含有することを特徴とする摂食調節剤である。
【0020】
本発明にかかる摂食調節剤の第三の態様は、
Asp Phe Asp Met Leu Arg Cys Met Leu Gly Arg Val Tyr Arg Pro Cys Trp Gln Val(配列番号:3)で示されるアミノ酸配列からなるペプチド又はその塩を有効成分として含有する摂食調節物質である。
【0021】
本発明にかかる摂食調節剤の第四の態様は、
下記式(1):
【0022】
【化3】

【0023】
で示される魚類メラニン凝集ホルモン又はその塩もしくは
下記式(2)
【0024】
【化4】

【0025】
で示されるペプチドである哺乳類メラニン凝集ホルモン又はその塩の酵素分解物である以下の(i)〜(iixv)のいずれかに示されるアミノ酸配列からなるペプチドまたはその塩を有効成分として含有することを特徴とする摂食調節剤である。
(i)Asp Phe Asp Met Leu Arg(配列番号:4)
(ii)Asp Phe Asp Met Leu(配列番号:5)
(iii)Asp Met Leu Arg(配列番号:6)
(iv)Arg Cys Met Leu(配列番号:7)
(v)
【0026】
【化5】

【0027】
(配列番号:8)
(vi)
【0028】
【化6】

【0029】
(配列番号:9)
(vii)Met Leu Gly(配列番号:10)
(viii)Leu Gly Arg(配列番号:11)
(viv)Gly Arg Val Tyr(配列番号:12)
(x)Leu Gly Arg Val Tyr(配列番号:13)
(xi)Val Tyr(配列番号:14)
(xii)
【0030】
【化7】

【0031】
(配列番号:15)
(xiii)
【0032】
【化8】

【0033】
(配列番号:16)
(xiv)
【0034】
【化9】

【0035】
(配列番号:17)
(xv)
【0036】
【化10】

【0037】
(配列番号:18)
(xvi)
【0038】
【化11】

【0039】
(配列番号:19)
(xvii)
【0040】
【化12】

【0041】
(配列番号:20)
(xviii)
【0042】
【化13】

【0043】
(配列番号:21)
(xviv)
【0044】
【化14】

【0045】
(配列番号:22)
(iix)
【0046】
【化15】

【0047】
(配列番号:23)
(iixi)
【0048】
【化16】

【0049】
(配列番号:24)
(iixii)
【0050】
【化17】

【0051】
(配列番号:25)
(iixiii) Val Tyr Arg Pro Cys Trp Gln Val(配列番号:26)
(iixiv) Arg Pro Cys Trp Gln Val(配列番号:27)
(iixv) Cys Trp Gln Val(配列番号:28)
本発明にかかる摂食調節剤の第五の態様は、
Arg Cys Met Leu Gly Arg Val Tyr Arg Pro Cys Trp Gln Val(配列番号:29)で示されるアミノ酸配列からなるペプチドまたはその塩を有効成分として含有する摂食調節剤である。
【0052】
上記の有効成分としてのペプチド(配列番号:1〜29)及びそれらの塩の少なくとも1種を用いて摂食調節剤を得ることができる。すなわち、ペプチド(配列番号:1〜29)及びそれらの塩の少なくとも1種を、摂食調節剤の有効成分として、あるいは摂食調節剤の製造における有効成分として使用することができる。
【0053】
これらの摂食調節剤は、前記有効成分を哺乳動物の食欲及び食物摂取を調節するのに有効な量で含むことが好ましい。また、製薬上許容しうる担体を更に含むことができる。更に、これらの摂食調節剤は食品や医薬品として提供することができる。
【0054】
本発明の上記(i)〜(iixv)のいずれかのアミノ酸配列からなるペプチドの製造方法は、
下記式(1):
【0055】
【化18】

【0056】
で示される魚類メラニン凝集ホルモン又はその塩もしくは
下記式(2)
【0057】
【化19】

【0058】
で示されるペプチドである哺乳類メラニン凝集ホルモン又はその塩を、酵素分解により得られた分解調製物から上記の(i)〜(iixv)のいずれかのアミノ酸配列からなるペプチドを単離することを特徴とする。
【発明の効果】
【0059】
本発明によれば、静脈投与等あるいは日常の食事などから簡単に摂取できる摂食調節剤を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0060】
【図1】摂食量を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0061】
本発明の摂食調節剤は、魚類もしくは哺乳類のメラニン凝集ホルモン(MCH)及びその関連物質を有効成分とする。前述のようにMCHをラット脳室内に注入することによる摂食促進効果は知られていた。かかる摂食促進とは逆に、本発明によれば、上記ペプチドの、経口、静脈、腹腔内、皮下投与等の脳室以外への投与により摂食抑制効果を発現し、抗肥満作用が期待できる。MCH酵素分解物においても、同様の効果を示しており、MCHは生体内のペプチダーゼ等の酵素、内因性の物質が作用することにより分解されて活性を発現するものと考えられる。従って、本発明にかかる摂食調節剤を対象者あるいは対象動物に摂取させることで、その食欲を抑制することができる。また、摂食調節剤の第五の態様は、魚類とヒトのMCHの共通部分の構造であるが、それよりも配列が短いペプチドGly Arg Val Tyr Arg Pro Cys Trp Gln Valでは、摂食調節活性が見出されていない。
【0062】
本発明にかかる摂食調節剤は抗肥満効果を有し、肥満治療中の患者に対して、あるいは肥満予備軍における肥満予防において有効である。更には、本発明にかかる摂食抑制剤は、食欲の抑制が効果を有する各種の疾病の治療や症状の改善に有用である。
【0063】
本発明は、上記のペプチドおよびその塩の少なくとも1種の、摂食調節剤、食品及び医薬品などの製品における摂食抑制用の有効成分としての使用、並びに摂食調節剤、食品及び医薬品などの製品の製造における摂食抑制用の有効成分としての使用、ならびに、そのための方法を含む。
【0064】
次に、本発明について詳細に記載する。本発明の摂食調節剤には、先に記載した第1〜第5の各態様におけるペプチド及びその塩が含まれる。
【0065】
これらのペプチドは、アミノ酸を段階的に導入する一般的な有機化学的液相又は固相法によるペプチド合成や遺伝子工学手法等によっても得る事ができる。すなわち、一般的な化学合成法に準じて容易に製造することもできる。
【0066】
液相又は固相合成法による合成には、従来公知の方法を採用してよい。アミノ基の保護基としてBoc (t-butyloxycarbonyl)、或いはFmoc(9-fluorenylmethoxycarbonyl)を適用した固相合成法が好適である。本発明の摂食調節ペプチドは、市販のペプチド合成機(例えば、Applied Biosystems社等から入手可能)を用いた固相合成法により、所望するアミノ酸配列を有するペプチド鎖を合成することができる。また、ジスルフィド結合を有する環状ペプチドは、上記の方法で一度直鎖状のペプチドを合成した後、希釈した溶液中で空気酸化させることで調製が可能である。
【0067】
更に、遺伝子工学的手法に基づいて本発明にかかる摂食調節ペプチドを生合成により作製してもよい。この手法は、比較的鎖長の長い摂食調節ペプチドを製造する場合に好適である。すなわち、所望する摂食調節ペプチドのアミノ酸配列をコードするヌクレオチド配列(ATG開始コドンを含む)のDNAを合成する。そして、このDNAと該アミノ酸配列を宿主細胞内で発現させるための種々の調節因子(プロモーター、リボゾーム結合部位、ターミネーター、エンハンサー、発現レベルを制御する種々のシスエレメントを包含する)とから成る発現用遺伝子構築物を有する組換えベクターを、宿主細胞に応じて構築する。一般的な技法によって、この組換えベクターを所定の宿主細胞(例えばイースト、昆虫細胞、植物細胞、動物(哺乳類)細胞) に導入し、所定の条件で当該宿主細胞又は該細胞を含む組織や個体を培養する。このことにより、目的とする摂食調節ペプチドを細胞内で発現、生産させることができる。そして、宿主細胞(分泌された場合は培地中)から摂食調節ペプチドを単離し、精製することによって、当該ペプチドを得ることができる。
【0068】
有効成分として用いるペプチドは必要に応じて無機酸若しくは有機酸との塩や無機塩基若しくは有機塩基との塩を形成させる事ができる。酸や塩基としては、塩の用途に応じて選択できるが、食品、化粧品、医薬品などへの用途を考慮すると、以下に挙げる薬学的に許容される塩が好ましい。酸付加塩としては、例えば、塩酸塩、硝酸塩、硫酸塩、メタンスルホン酸塩、p−トルエンスルホン酸塩、更にはシュウ酸、マロン酸、コハク酸、マレイン酸、またはフマル酸等のジカルボン酸との塩、更に、酢酸、プロピオン酸、または酪酸等のモノカルボン酸との塩等を挙げる事ができる。又、本発明で得られるペプチド化合物の塩の形成に適した無機塩基は、例えば、アンモニア、ナトリウム、リチウム、カルシウム、マグネシウム、アルミニウム等の水酸化物、炭酸塩及び重炭酸塩等である。有機塩基との塩としては、例えば、メチルアミン、ジメチルアミン、トリエチルアミンの様なモノ−、ジ−またはトリ−アルキルアミン塩、モノ−、ジ−またはトリ−ヒドロキシアルキルアミン塩、グアニジン塩、N−メチルグルコサミン塩等を挙げる事ができる。
【0069】
本発明にかかる摂食調節剤は、上記の第一〜第五の態様における各ペプチドまたはその塩の少なくとも1種をそのまま用い、あるいは、必要に応じて、担体、希釈剤、各種添加剤などの副次的成分から選択された成分とともに組成物として提供することもできる。担体又は副次的な成分(希釈剤、賦形剤、各種添加剤などで、典型的には用途に応じて薬学的に許容され得るもの)としては、摂食調節剤の用途や形態に応じて適宜異なり得る。かかる成分としては、水、種々の有機溶媒、種々の緩衝液、その他充填剤、増量剤、結合剤、付湿剤、表面活性剤、賦形剤、色素、香料等が挙げられる。
【0070】
本発明の摂食調節剤は、医薬組成物、固形食品、半固形食品、及び飲料を含む液状食品などの食品、その他の各種の形態として提供することができる。例えば、本発明の摂食調節剤は、溶液、エマルジョン、分散液、粉末、顆粒、錠剤、カプセル剤、ペースト、クリーム、などの各種の形態で提供することができる。
【0071】
本発明にかかる摂食調節剤の一形態の肥満改善治療及び/または予防剤は、上記のペプチド及びその塩の少なくとも1種を有効成分として製造することができる。その際、必要に応じて適宜賦形剤等の添加剤と混合して、例えば注射剤、経口用液剤、錠剤、顆粒剤、散剤、カプセル剤、坐剤、軟膏、点鼻剤、点眼剤、貼付剤等の形態で製剤化する事ができる。
【0072】
上記の各種製剤で用いられる添加剤としては、例えばステアリン酸マグネシウム、タルク、乳糖、デキストリン、デンプン類、メチルセルロース、脂肪酸グリセリド類、水、プロピレングリコール、マクロゴール類、アルコール、結晶セルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、低置換度ヒドロキシプロピルセルロース、カルメロース類、ポピドン、ポリビニルアルコール、ステアリン酸カルシウム等を挙げる事ができる。これらは単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。この際、必要に応じて、着色剤、安定化剤、抗酸化剤、防腐剤、pH 調節剤、等張化剤、溶解補助剤及び/または無痛化剤等を添加する事ができる。顆粒剤、錠剤、またはカプセル剤は、コーティング基剤、例えばヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロースフタレート等によってコーティングする事もできる。これらの製剤は、有効成分としての上記のペプチド及びその塩の少なくとも1種を、0.01重量%以上、好ましくは0.01〜70重量%の割合で含有する事ができる。
【0073】
特に注入(注射)投与に好適な医薬的形状には、無菌水性溶液( 水溶性のもの)または分散液、ならびに無菌注射溶液または分散液の即時製造用の無菌粉末が含まれる。いずれの場合にも、この形成物は無菌でなければならず、また、容易に注射可能な状態となるように広がり渡るような流動物でなければならない。製造および貯蔵状態において安定でなければならず、また、バクテリアや菌類などの微生物による汚染から保護されなければならない。担体は、溶媒または分散媒質であってもよく、例えば水、エタノール、ポリオール(例えば、グリセロール、ポリエチレングリコールおよび液体ポリエチレングリコールなど)、これらの好ましい混合物、ならびに植物油などである。たとえば、レシチンなどのコーティング剤の使用により、分散液の場合には所望の粒子サイズの保持により、そして界面活性剤の使用により、適正な流動性を保つことが可能である。微生物の活動の予防は、例えば、パラベン、クロロブタノール、フェノール、ソルビン酸、チメロサールなど、種々の抗菌剤および抗カビ剤により行なうことが可能である。多くの場合、例えば、砂糖や塩化ナトリウムなどの等張剤を含むことが好ましい。注入(注射)用組成物の吸収の長期化は、組成物中に、例えば、モノステアリン酸アルミニウムおよびゼラチンなどの吸収遅延剤を使用することにより行なうことが可能である。
【0074】
無菌(滅菌)注入用(注射用)溶液は、必要とされる量の活性化合物を、必要に応じて先に列挙した種々の他の成分を含む適切な溶媒に混入し、次にろ過滅菌することにより製造される。一般的に分散液は、様々な無菌(滅菌)活性成分を、基本的な分散媒および先に列挙したものの中から必要とされるその他の成分を含む無菌(滅菌)担体に組み込むことに製造される。無菌注入用溶液の調整用の無菌(滅菌)粉末の場合、好ましい製造方法は、フリーズドライ技術に、先述のろ過滅菌溶液に由来する、いかなる追加の必要成分をも加えて真空乾燥することである。
【0075】
製剤の調製に際しては必要に応じメントール、クエン酸及びその塩類、香料等の矯臭剤を用いる事ができる。更に、本発明で得られる摂食調節剤は治療上有用な他の成分と併用する事もできる。
【0076】
本発明にかかる摂食調節剤は、ヒトを含めた哺乳動物に、脳室内に直接投与せず、すなわち経口的または非経口的(例えば経皮、静脈内、腹腔内等) に投与される。投与量は動物種、対象となる患者の人種、性別、症状、体重、年齢、血圧の程度、投与方法等によって異なり一概には言えないが、一般的なヒトの成人に経口投与する場合は、通常、1日につき体重1kgあたり0.1〜2000mg、好ましくは1〜500mgであり、これを通常1日1回または2〜3回に分けて投与する。しかしながらその投与量は症状の程度に応じ適宜選択する事ができる。
【0077】
本発明で得られるMCHまたはその酵素分解物は、優れた摂食調節効果を示す。しかも該物質は臭い、味、色に特異な厭味が認められない事から経口摂取が容易である。その為、有効成分としての上記のペプチド及びその塩の少なくとも1種を、医薬品以外の製品にも好適に配合することができる。例えば、ゼリー、飴、顆粒菓、錠菓、飲料、ヨーグルト、スープ、麺、煎餅、和菓子、洋菓子、冷菓、焼き菓子、調味料等の固形食品、半固形食品及び液状食品に配合、添加し提供する事ができる。また、医薬品以外の製品で、食品以外のものとしては、化粧品、または、衛生用品、嗜好品などの形態として提供することもできる。これらの食品以外の製品、例えば医薬部外品としては、例えば、育毛剤・養毛剤、脱毛剤、染毛剤、脱色剤、パーマネントウェーブ用剤、浴用剤、薬用化粧品・薬用石けん、薬用歯みがき類、清涼剤、腋臭防止剤、てんか粉類、などが挙げられる。
【0078】
これらの医薬品以外の製品へのMCHあるいはその酵素分解物の含有量は、その物品の目的とする用途や機能に応じて設定すればよく、例えば、0.01重量%以上、好ましくは0.1〜70重量%の範囲から選択することができる。また、化粧品の場合は、各種の固体状、半固体状あるいは液体状の化粧品用の基材と、目的とする化粧効果を得るための有効成分に加えて、摂食調節剤あるいは組成物を用いて、ローション、クリーム、パウダー、乳液ゲルなどの各種形態の化粧品を構成することができる。
【0079】
哺乳類のMCHの酵素分解調製物の調製に用いることのできる蛋白質分解酵素としては、トリプシン等が挙げられる。酵素分解においては、1種の酵素を単独で、又は2種以上の酵素を組み合わせても良い。また、蛋白質分解酵素は、蛋白質の内部配列を特異的に認識して切断するエンドペプチダーゼと、末端から1〜2アミノ酸残基ずつ切断するエキソペプチダーゼに分類される。従って、必要に応じて、エンドペプチダーゼとエキソペプチダーゼの組合せにより、様々なペプチド鎖を生成させることが可能である。酵素により加水分解する場合には、基質に対して、酵素0.001〜10重量%を添加し、溶液を使用される酵素の至適pHとして加水分解する。
【実施例】
【0080】
次に実施例を示して本発明を実施するための形態について詳細に記載するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
(実施例1)
(配列番号:3のアミノ酸配列からなるペプチドの合成)
ペプチド合成機(Model 433A, Applied Biosystems)を用いFastMoc法にて鎖状MCHの合成を0.25mmolスケールで行った。プレロードレジンはFmoc-Val-HMPレジン(0.51mmol/)490.0mgを用いた。得られた合成ヒト鎖状MCHレジン31.6mgに8mLのクリベージカクテルB(フェノール 0.75g、2,3−エタンジチオール 0.25mL、チオアニソール 0.5mL、蒸留水 0.5mL、トリフルオロ酢酸 10mLの混合溶液)を加え0℃で15分攪拌した。室温に戻し1.5時間攪拌した後、濾過(Assist cc.07)した。濾液を氷冷したt−ブチルメチルエーテル 7.5mLの入った遠沈管2本に分けて滴下した。攪拌した後、遠心分離(4℃、3000rpm、10分)した。上清部をデカンテーションした後、沈殿部に氷冷t−ブチルメチルエーテル 7.5mLを加え同様の操作を行い鎖状のMCH粗ペプチドを得た。得られた粗ペプチドを一度0.1%酢酸水溶液に溶解した後凍結乾燥を行い酢酸塩とした。
【0081】
(実施例2)
(哺乳類MCHの合成)
ペプチド合成機(Model 433A, Applied Biosystems)を用いFastMoc法にて鎖状MCHの合成を0.25mmolスケールで行った。プレロードレジンはFmoc-Val-HMPレジン(0.51mmol/)490.0mgを用いた。得られた合成ヒト鎖状MCHレジン48.9mgに1mLのクリベージカクテルB(フェノール 0.75g、2,3−エタンジチオール 0.25mL、チオアニソール 0.5mL、蒸留水 0.5mL、トリフルオロ酢酸 10mLの混合溶液)を加え0℃で15分攪拌した。室温に戻し1.5時間攪拌した後、濾過(Assist cc.07)した。濾液を氷冷したt−ブチルメチルエーテル 7.5mLの入った遠沈管2本に分けて滴下した。攪拌した後、遠心分離(4℃、3000rpm, 10分)した。上清部をデカンテーションした後、沈殿部に氷冷t−ブチルメチルエーテル 7.5mLを加え同様の操作を行い鎖状のMCH粗ペプチドを得た。その後、得られた粗ペプチドを一度0.1%トリフルオロ酢酸水溶液に溶解した後凍結乾燥を行い18.9mgのペプチドを得た。このペプチド18.9mgを20mM炭酸アンモニウム500mLに溶解し、室温で6日間攪拌することで、分子内ジスルフィド結合の形成を行った。その後、凍結乾燥により目的物を得た。
【0082】
(実施例3)
(哺乳類MCHトリプシン分解物の調製)
哺乳類MCH(1.08mg)にリン酸緩衝溶液(pH8,200μL)を加えて溶解し、トリプシン(1U/0.25mg)を加え、25℃で4時間反応させた。その後、95℃、10分間で反応を停止し、凍結乾燥し、定量的に得た。
【0083】
(実施例4)
(配列番号:29のアミノ酸配列からなるペプチドの合成)
ペプチド合成機(Model 433A, Applied Biosystems)を用いFastMoc法にて配列番号:29 アミノ酸配列からなるペプチドの合成を0.25mmolスケールで行った。プレロードレジンはFmoc-Val-HMPレジン(0.51mmol/)490.0mgを用いた。得られたレジン100mgに4mLのクリベージカクテルB(フェノール 0.75g、2,3−エタンジチオール 0.25mL、チオアニソール 0.5mL、蒸留水 0.5mL、トリフルオロ酢酸 10mLの混合溶液)を加え0℃で15分攪拌した。室温に戻し1.5時間攪拌した後、濾過(Assist cc.07)した。濾液を氷冷したt−ブチルメチルエーテル 7.5mLの入った遠沈管2本に分けて滴下した。攪拌した後、遠心分離(4℃、3000rpm, 10分)した。上清部をデカンテーションした後、沈殿部に氷冷t−ブチルメチルエーテル 7.5mLを加え同様の操作を行い当該ペプチドを得た。得られた粗ペプチドを一度0.1%酢酸水溶液に溶解した後凍結乾燥を行い酢酸塩とした。
【0084】
(試験例)
(摂食量の測定)
雄性のSDラット(Sprague−Dawley、体重275±25g)を5匹あたり45×23×15cmのAPECRケージで飼育し、試験開始前に明暗周期12時間、室
温22〜24℃、湿度60〜80%、飼料及び水分自由摂取の環境下で1週間以上馴化させた後に試験に供した。試験に用いたラットは試験開始前夜より12時間の絶食負荷をした。絶食負荷後、試験群はラット1匹に対して、試験品を生理食塩水に溶解し、静脈投与 (150μg/body)し、1、2、4、6時間後の摂食量を測定した。また対照群は、生理食塩水を同様に静脈投与し、摂食量を測定した。
(試験品)
(1)式(1)の構造のペプチドである魚類メラニン凝集ホルモン(MCH)
(2)式(1)の構造のペプチドである哺乳類メラニン凝集ホルモン(MCH)
(3)Asp Phe Asp Met Leu Arg Cys Met Leu Gly Arg Val Tyr Arg Pro Cysのアミノ酸配列からなるペプチド(配列番号:3)
(4)哺乳類メラニン凝集ホルモン(MCH)トリプシン分解物。これは、ペプチド(i)〜(iixv)の全てを含むものである。
(5)Arg Cys Met Leu Gly Arg Val Tyr Arg Pro Cys Trp Gln Val(配列番号:29)のアミノ酸配列からなるペプチド。
(試験結果)
図1の通り、本発明のMCHまたはその酵素分解物は、摂食量を有意に抑制する作用を有することが確認できた。
【産業上の利用可能性】
【0085】
上記のように、MCHもしくはその酵素分解物をラットに摂取させることにより、摂食調節効果が認められた。このことから、該MCHもしくはその関連物質は肥満改善の治療および予防に有用であるとともに、上記のような生理活性を有する医薬品、医薬部外品、健康食品あるいは機能性食品等としての利用が可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1):
【化1】

で示されるペプチドである魚類メラニン凝集ホルモン又はその塩を有効成分として含有することを特徴とする摂食調節剤。
【請求項2】
下記式(2):
【化2】

で示されるペプチドである哺乳類メラニン凝集ホルモン又はその塩を有効成分として含有することを特徴とする摂食調節剤。
【請求項3】
Asp Phe Asp Met Leu Arg Cys Met Leu Gly Arg Val Tyr Arg Pro Cys Trp Gln Valで示されるアミノ酸配列からなるペプチド又はその塩を有効成分として含有する摂食調節剤。
【請求項4】
下記式(1)
【化3】

で示される魚類メラニン凝集ホルモン又はその塩もしくは
下記式(2)
【化4】

で示されるペプチドである哺乳類メラニン凝集ホルモン又はその塩の酵素分解物である以下の(i)〜(iixv)のいずれかに示されるアミノ酸配列からなるペプチドまたはその塩を有効成分として含有することを特徴とする摂食調節剤。
(i)Asp Phe Asp Met Leu Arg
(ii)Asp Phe Asp Met Leu
(iii)Asp Met Leu Arg
(iv)Arg Cys Met Leu
(v)
【化5】

(vi)
【化6】

(vii)Met Leu Gly
(viii)Leu Gly Arg
(viv)Gly Arg Val Tyr
(x)Leu Gly Arg Val Tyr
(xi)Val Tyr
(xii)
【化7】

(xiii)
【化8】

(xiv)
【化9】

(xv)
【化10】

(xvi)
【化11】

(xvii)
【化12】

(xviii)
【化13】

(xviv)
【化14】

(iix)
【化15】

(iixi)
【化16】

(iixii)
【化17】

(iixiii) Val Tyr Arg Pro Cys Trp Gln Val
(iixiv) Arg Pro Cys Trp Gln Val
(iixv) Cys Trp Gln Val
【請求項5】
Arg Cys Met Leu Gly Arg Val Tyr Arg Pro Cys Trp Gln Valで示されるアミノ酸配列からなるペプチドまたはその塩を有効成分として含有する摂食調節剤。
【請求項6】
以下のペプチド及びその塩:
(A)下記式(1):
【化18】

で示されるペプチドである魚類メラニン凝集ホルモン及びその塩、
(B)下記式(2):
【化19】

で示されるペプチドである哺乳類メラニン凝集ホルモンおよびその塩、
(C)Asp Phe Asp Met Leu Arg Cys Met Leu Gly Arg Val Tyr Arg Pro Cys Trp Gln Valで示されるアミノ酸配列からなるペプチド及びその塩、
(D)以下の(i)〜(iixv)のいずれかに示されるアミノ酸配列からなるペプチド及びその塩、
(i)Asp Phe Asp Met Leu Arg
(ii)Asp Phe Asp Met Leu
(iii)Asp Met Leu Arg
(iv)Arg Cys Met Leu
(v)
【化20】

(vi)
【化21】

(vii)Met Leu Gly
(viii)Leu Gly Arg
(viv)Gly Arg Val Tyr
(x)Leu Gly Arg Val Tyr
(xi)Val Tyr
(xii)
【化22】

(xiii)
【化23】

(xiv)
【化24】

(xv)
【化25】

(xvi)
【化26】

(xvii)
【化27】

(xviii)
【化28】

(xviv)
【化29】

(iix)
【化30】

(iixi)
【化31】

(iixii)
【化32】

(iixiii) Val Tyr Arg Pro Cys Trp Gln Val
(iixiv) Arg Pro Cys Trp Gln Val
(iixv) Cys Trp Gln Val、及び
(E)Arg Cys Met Leu Gly Arg Val Tyr Arg Pro Cys Trp Gln Valのアミノ酸からなるペプチド及びその塩、
から選択される少なくとも1種を含むことを特徴とする摂食調節剤。
【請求項7】
前記有効成分を哺乳動物の食欲及び食物摂取を調節するのに有効な量で含む請求項1〜6に記載の摂食調節剤。
【請求項8】
製薬上許容しうる担体を更に含む請求項1〜7に記載の摂食調節剤。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれかに記載の摂食調節剤を含むことを特徴とする食品。
【請求項10】
請求項1〜8のいずれかに記載の摂食調節剤を含むことを特徴とする医薬品。
【請求項11】
請求項4に記載の(i)〜(iixv)のいずれかのアミノ酸配列からなるペプチドの製造方法であって、
下記式(1)
【化33】

で示される魚類メラニン凝集ホルモン又はその塩もしくは
下記式(2)
【化34】

で示されるペプチドである哺乳類メラニン凝集ホルモン又はその塩を、酵素分解により得られた分解調製物から請求項4に記載の(i)〜(iixv)のいずれかのアミノ酸配列からなるペプチドを単離することを特徴とするペプチドの製造方法。
【請求項12】
以下のアミノ酸配列:
(i)Asp Phe Asp Met Leu Arg
(ii)Asp Phe Asp Met Leu
(iii)Asp Met Leu Arg
(iv)Arg Cys Met Leu
(v)
【化35】

(vi)
【化36】

(vii)Met Leu Gly
(viii)Leu Gly Arg
(viv)Gly Arg Val Tyr
(x)Leu Gly Arg Val Tyr
(xi)Val Tyr
(xii)
【化37】

(xiii)
【化38】

(xiv)
【化39】

(xv)
【化40】

(xvi)
【化41】

(xvii)
【化42】

(xviii)
【化43】

(xviv)
【化44】

(iix)
【化45】

(iixi)
【化46】

(iixii)
【化47】

(iixiii) Val Tyr Arg Pro Cys Trp Gln Val
(iixiv) Arg Pro Cys Trp Gln Val
(iixv) Cys Trp Gln Val
のいずれかのアミノ酸配列からなるペプチドまたはその塩。

【図1】
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【公開番号】特開2011−6442(P2011−6442A)
【公開日】平成23年1月13日(2011.1.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−181878(P2010−181878)
【出願日】平成22年8月16日(2010.8.16)
【分割の表示】特願2008−54126(P2008−54126)の分割
【原出願日】平成20年3月4日(2008.3.4)
【出願人】(000233620)株式会社マルハニチロ食品 (34)
【Fターム(参考)】