説明

ペロブスカイト型複合酸化物の製造方法

【課題】誘電体層の積層数が多く、薄層化された積層セラミックコンデンサの誘電体層などに好適に用いることが可能な、微細で、結晶性の高いペロブスカイト型複合酸化物を効率よく、しかも経済的に製造する方法を提供する。
【解決手段】少なくとも酸化チタン、カルシウム化合物、および水酸化バリウムを、スラリー液中で反応させることにより、ペロブスカイト型複合酸化物を生成させる反応工程を含み、かつ、カルシウム化合物として、炭酸カルシウムを用い、ペロブスカイト型複合酸化物を(Ba1-xCaxmTiO3で表したときに、xが0<x≦0.125の範囲にあるペロブスカイト型複合酸化物を得る。
また、カルシウム化合物として、水溶性のカルシウム化合物を用い、ペロブスカイト型複合酸化物を(Ba1-xCaxmTiO3で表したとき、xが0<x≦0.20の範囲にあるペロブスカイト型複合酸化物を得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は複合酸化物の製造方法に関し、詳しくは、セラミック電子部品用のセラミック原料として好適に用いることが可能なペロブスカイト型複合酸化物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般式ABO3で表されるペロブスカイト型複合酸化物の一つであるチタン酸バリウム系セラミックは、優れた誘電特性を備えた材料として、積層セラミックコンデンサなどの用途に広く用いられている。
【0003】
そして、一般式ABO3で表されるペロブスカイト構造を有する複合酸化物粉末の製造方法としては、例えば、結晶水を含有したAサイト成分を構成する元素の水酸化物と、250m2/g以上の比表面積を有する酸化チタン粉末とを混合する混合処理工程を有し、混合処理工程は、加熱処理を行うことにより結晶水の水分のみでAサイト成分の溶解した溶解液を生成する溶解液生成工程と、酸化チタン粉末と溶解液とが反応して反応合成物を生成する反応工程とを含み、溶解液生成工程と反応工程とが連続的に進行するようにした複合酸化物粉末の製造方法が提案されている(特許文献1の請求項1)。
また、特許文献1には、得られた複合酸化物を仮焼することが開示されている(特許文献1の請求項7)。
【0004】
そして、この特許文献1の発明の方法によれば、異相が少なく、超微粒、かつ結晶性に優れた複合酸化物が得られ、これを仮焼処理することにより、立方晶系複合酸化物から結晶系が転移して、結晶性に優れた正方晶系の複合酸化物を製造することができるとされている。
【0005】
また、他の複合酸化物の製造方法として、二酸化炭素が存在しない雰囲気下において、酸化チタン粒子と水溶性バリウム化合物とを、前記酸化チタン粒子のモル数に対して等モルで前記水溶性バリウム化合物を加え、pHが11.5以上13.0以下の水溶液中で、100℃以下の温度で反応させる反応工程を有するチタン酸バリウム粉末の製造方法が提案されている(特許文献2の請求項2)。
【0006】
この特許文献2の発明の方法によれば、塩素不純物の混入を防止しつつ、粒度分布の狭いチタン酸バリウム粉末を経済的に製造することができるとされている。
【0007】
一方、誘電体層の構成材料として、上述のようなチタン酸バリウム(複合酸化物)系の材料を用いた積層セラミックコンデンサにおいては、小型、大容量化が進んでおり、誘電体層の厚みが1μm程度で、積層数が800層を超えるような積層コンデンサが実用化されるに至っている。
【0008】
そして、積層セラミックコンデンサをさらに小型化するためには、誘電体層の厚みを1μm以下のサブマイクロメーターの領域にまで薄層化することが必要になるが、サブマイクロメーターの厚みの誘電体層を実現するためには、誘電体層を構成するセラミック焼結体の粒子径を100nm以下にまで微細にすることが必要になる。そのためには、誘電体層の形成に用いられる焼結前の原料粉末、(例えば、チタン酸バリウム系材料の仮焼粉末)自体の粒径が小さいことが求められる。
【0009】
上記の観点からすると、上述の特許文献1および2の発明は、微粒のチタン酸バリウム粉末を得ることが可能で、有意義であるものの、今後のさらなる薄層化に対応するには、より微細で、高い信頼性を備えたペロブスカイト型複合酸化物を効率よく製造する方法が求められるに至っているのが実情である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特許第4200427号公報
【特許文献2】特許第4057475号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、上記課題を解決するものであり、薄層化された誘電体層(セラミック層)を多数枚積層してなる積層セラミックコンデンサを製造する際の、上記誘電体層の構成材料などとして好適に用いることが可能な、微細で、結晶性の高いペロブスカイト型複合酸化物を効率よく、しかも経済的に製造する方法、および、該方法により製造されるペロブスカイト型複合酸化物を用いて積層セラミックコンデンサを製造する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するため、本発明のペロブスカイト型複合酸化物の製造方法は、
ABO3(Aは少なくともBaおよびCaを含み、Bは少なくともTiを含む)で表されるペロブスカイト型複合酸化物の製造方法であって、
少なくとも酸化チタン、カルシウム化合物、および水酸化バリウムを、スラリー液中で反応させることによりペロブスカイト型複合酸化物を生成させる反応工程を含み、
前記カルシウム化合物が炭酸カルシウムであり、
前記ペロブスカイト型複合酸化物を(Ba1-xCaxmTiO3で表した場合に、xが0<x≦0.125の範囲にあること
を特徴としている。
【0013】
また、本発明のペロブスカイト型複合酸化物の製造方法は、
ABO3(Aは少なくともBaおよびCaを含み、Bは少なくともTiを含む)で表されるペロブスカイト型複合酸化物の製造方法であって、
少なくとも酸化チタン、カルシウム化合物、および水酸化バリウムを、スラリー液中で反応させる反応工程を含み、
前記カルシウム化合物が水溶性のカルシウム化合物であり、
前記ペロブスカイト型複合酸化物を(Ba1-xCaxmTiO3で表した場合に、xが0<x≦0.20の範囲にあること
を特徴としている。
【0014】
また、本発明においては、前記水溶性のカルシウム化合物が、酢酸カルシウムまたは硝酸カルシウムであることが好ましい。
【0015】
また、本発明においては、前記反応工程で生成したペロブスカイト型複合酸化物を熱処理する工程をさらに備えていることが好ましい。
【0016】
また、本発明の積層セラミックコンデンサの製造方法は、
請求項4記載の製造方法により製造したペロブスカイト型複合酸化物と、添加成分を配合して、セラミックグリーンシート原料を調製する工程と、
前記セラミックグリーンシート原料を成形してセラミックグリーンシートを作製するシート作製工程と、
前記シート作製工程で作製された前記セラミックグリーンシートに、内部電極形成用の導電性ペーストを塗布して内部電極パターンを形成する工程と、
前記内部電極パターンが形成された前記セラミックグリーンシートを所定枚数積層する工程を経て、前記セラミックグリーンシートを介して内部に所定枚数の前記内部電極パターンが積層された構造を有する積層体を作製する工程と、
前記積層体を焼成する工程と
を備えていることを特徴としている。
【発明の効果】
【0017】
本発明のペロブスカイト型複合酸化物の製造方法は、少なくとも酸化チタン、カルシウム化合物、および水酸化バリウムを、スラリー液中で反応させることによりペロブスカイト型複合酸化物を生成させる反応工程を含み、かつ、カルシウム化合物として炭酸カルシウムを用いているので、前記ペロブスカイト型複合酸化物を(Ba1-xCaxmTiO3で表した場合に、xが0<x≦0.125の範囲にあるペロブスカイト型複合酸化物を効率よく製造することができる。
すなわち、本発明の方法によれば、微細で、結晶性の高い、信頼性に優れたペロブスカイト型複合酸化物を効率よく製造することができる。
【0018】
また、本発明のペロブスカイト型複合酸化物の製造方法は、少なくとも酸化チタン、カルシウム化合物、および水酸化バリウムを、スラリー液中で反応させる反応工程を含み、かつ、カルシウム化合物として水溶性のカルシウム化合物を用いているので、ペロブスカイト型複合酸化物を(Ba1-xCaxmTiO3で表した場合に、xが0<x≦0.20の範囲にあるペロブスカイト型複合酸化物を効率よく製造することができる。
すなわち、本発明の方法によれば、微細で、結晶性の高い、信頼性に優れたペロブスカイト型複合酸化物を効率よく製造することができる。
【0019】
また、水溶性のカルシウム化合物として、酢酸カルシウムまたは硝酸カルシウムを用いることにより、ペロブスカイト型複合酸化物を(Ba1-xCaxmTiO3で表したとき、xが0<x≦0.20の範囲にあるペロブスカイト型複合酸化物を効率よく製造することが可能になり、本発明をより実効あらしめることができる。
【0020】
すなわち、Ca原料としてCaCO3を用いた場合に比べて、酢酸カルシウム、硝酸カルシウムなどの水溶性のカルシウム化合物を用いることにより、反応性が向上し、BaTiO3格子へのCaの固溶がさらに促進される。
【0021】
また、反応工程で生成したペロブスカイト型複合酸化物を熱処理することにより、c/a軸比を高めて、結晶性の高いペロブスカイト型複合酸化物を得ることができる。
【0022】
例えば、800〜1000℃の温度で熱処理することにより、c/a軸比が大きい(1を超える)正方晶のペロブスカイト型複合酸化物を得ることが可能になる。
【0023】
また、本発明の積層セラミックコンデンサの製造方法の発明は、請求項4記載の方法により製造したペロブスカイト型複合酸化物と、添加成分を含むセラミックグリーンシート原料を成形したセラミックグリーンシートに、内部電極形成用の導電性ペーストを塗布して内部電極パターンを形成し、この内部電極パターンが形成されたセラミックグリーンシートを積層することにより、セラミックグリーンシートを介して内部に所定枚数の内部電極パターンが積層された構造を有する積層体を作製する工程を経て積層セラミックコンデンサを製造するようにしているので、厚みの薄い誘電体層が多数積層された、小型で、高特性の積層セラミックコンデンサを確実に製造することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明の一実施例において作製したペロブスカイト型複合酸化物における、AサイトのBaの一部をCaで置換したときのCa置換量(Ca添加量)と格子容積の関係を示す線図である。
【図2】本発明のペロブスカイト型複合酸化物を誘電体層に用いた積層セラミックコンデンサの構成を示す断面図である。
【図3】本発明のペロブスカイト型複合酸化物を誘電体層に用いた積層セラミックコンデンサの、ペロブスカイト型複合酸化物におけるCa置換量(Ca添加量)と平均故障発生時間(MTTF)の関係を示す線図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下に本発明の実施例を示して、本発明の特徴とするところをさらに詳しく説明する。
【実施例1】
【0026】
[1]ペロブスカイト型複合酸化物粉末の作製
まず、ペロブスカイト型複合酸化物の原料として、下記の(a)〜(e)を用意した。
(a)比表面積が300m2/gの酸化チタン(TiO2)粉末、
(b)比表面積が30m2/gの、水和水を含まない水酸化バリウム(Ba(OH)2)粉末、
(c)CaCO3粉末、
(d)水溶性のカルシウム化合物である酢酸カルシウム((CH3COO)2Ca)、
(e)水溶性のカルシウム化合物である硝酸カルシウム(Ca(NO32
【0027】
そして、化学式を(Ba1-xCax)TiO3としたとき、x=0、0.025、0.05、0.075、0.1、0.125、0.15、0.175、0.2、0.25となるように秤量した。
なお、カルシウム原料としては、上記(c),(d),(e)の各原料を択一的に使用した。
【0028】
それから、秤量した上記の酸化チタン(TiO2)粉末を、容積が5リットルのガラス容器に入れ、所定量の純水を投入して、酸化チタン(TiO2)の含有率が20重量%のスラリーを作製した。
【0029】
次に、得られたスラリーを撹拌しながら、上記(c),(d),(e)の各Ca化合物を択一的に添加した。
それから、スラリーを加熱し、スラリー温度が70℃に達した時点で水酸化バリウム(Ba(OH)2)粉末を投入し、85℃以上で1時間撹拌をしながら反応させた。
【0030】
次に、得られたスラリーを排出し、乾燥機で乾燥した。それから、乾燥粉末を、1050℃の温度で熱処理することにより、カルシウムで変性したチタン酸バリウム粉末(ペロブスカイト型複合酸化物粉末)を得た。
得られたチタン酸バリウム粉末について、X線回折法(XRD)を用いて格子定数を測定し、格子容量を算出した。その結果を図1に示す。
【0031】
図1に示すように、Ca原料としてCaCO3を用いた場合、および、Ca原料として水溶性Caを用いた場合のいずれの場合も、Caの固溶量の増加に伴って、格子容積は小さくなっている。これは、Baのイオン半径が1.61オングストロームであるのに対して、Caのイオン半径は1.34オングストロームと小さいため、Caの固溶量(置換量)が増えると全体として格子容積が小さくなることによる。
【0032】
ただし、Ca原料としてCaCO3を用いた場合、Caの添加量が、BaとCaの合計量を1とした場合に、モル比で0.125に達するまでは、格子容積が小さくなっているが、さらにCa添加量が増えると、格子容積の減少傾向は急激に低下しており、Ca原料としてCaCO3を用いた場合の固溶限界は、モル比で0.125(Ca/(Ba+Ca))になることが確認された。
すなわち、ペロブスカイト型複合酸化物を(Ba1-xCaxmTiO3で表した場合に、xが0<x≦0.125となるような範囲で、CaがBaTiO3に固溶していることが確認された。
【0033】
また、図1より、Ca原料として、水溶性カルシウム化合物(酢酸カルシウム((CH3COO)2Ca)、または、硝酸カルシウム(Ca(NO32))を用いた場合の固溶限界は、モル比で0.20(Ca/(Ba+Ca))にまで高まることが確認された。
すなわち、ペロブスカイト型複合酸化物を(Ba1-xCaxmTiO3で表した場合に、xが0<x≦0.20となるような範囲で、CaがBaTiO3に固溶していることが確認された。
【0034】
これは、Ca原料として、酢酸カルシウム、硝酸カルシウムなどの水溶性のカルシウム化合物を用いることにより、Ca原料としてCaCO3を用いた場合に比べて反応性が向上するため、BaTiO3格子へのCaの固溶量が増加したものと考えられる。
【0035】
[2]積層セラミックコンデンサの作製
上述のようにして作製したペロブスカイト型複合酸化物(Ca変性されたチタン酸バリウム)を誘電体層(セラミック層)の原料として用い、積層セラミックコンデンサを作製した。
【0036】
まず、上述のようにして作製したチタン酸バリウム粉末100モルに対し、添加物として、MgO、Dy23、SiO2、および、MnCO3をそれぞれ、
MgO :1.0モル
Dy23 :0.8モル
SiO2 :1.3モル
MnCO3 0.05モル
となるように秤量し、添加した。
【0037】
また、モル比調整用のBaCO3を、A/B比が1.007になるように添加した。
【0038】
それから、この配合物と、有機バインダー(この実施例ではポリビニルブチラール樹脂)と、有機溶剤(この実施例ではエタノール)とをボールミルに投入し、直径が2mmのPSZメディアを用いて、混合、粉砕した。
【0039】
次に、ドクターブレード法を用いて、シート厚みが焼成後に0.8μmになるようにシート成型し、これを所定の大きさに打ち抜き、矩形状のセラミックグリーンシートを得た。
【0040】
次に、Niを主成分とする内部電極形成用の導電性ペーストを準備し、上述のセラミックグリーンシートにスクリーン印刷して、焼成後に内部電極となる内部電極パターンを形成した。
【0041】
それから、内部電極パターンを備えたセラミックグリーンシートを所定枚数、所定の順序で積層するとともに、最外層として、内部電極パターンが形成されていないセラミックグリーンシートを積層した後、圧着することにより、圧着ブロックを作製した。
【0042】
そして、この圧着ブロックをカットすることにより得た積層体を、所定の条件で焼成した後、焼成後の積層体に外部電極形成用の導電性ペーストを塗布して焼き付けることにより、図2に示すような構造を有する積層セラミックコンデンサ20を作製した。
【0043】
なお、この積層セラミックコンデンサ20は、積層セラミック素子11中に、セラミック層(誘電体層)12を介して、複数の内部電極13a,13bが積層され、かつ、互いに対向する内部電極13a,13bが交互に積層セラミック素子11の異なる側の端面14a,14bに引き出され、該端面14a,14bに形成された外部電極15a,15bに接続された構造を有している。
【0044】
なお、この実施例では、積層セラミックコンデンサ20の素子厚み(互いに対向する内部電極13a,13b間に位置するセラミック層12の厚み)を0.8μm、誘電体層12の積層数を100層とした。
【0045】
[評価]
上述のようにして作製した積層セラミックコンデンサについて、周囲温度175℃で、24Vの直流電圧を印加し、加速寿命試験(HALT)を行った。絶縁抵抗(LogIR)が100kΩまで低下した時間を故障時間とし、平均故障発生時間(MTTF)を求めた。その結果を表1および図3に示す。
【0046】
なお、表1において、Ca添加量の値は、Ba原料であるBa(OH)2に由来するBaと添加したCaの合計量に対するCaの割合、すなわち、Ca/(Ba+Ca)(モル比)を示す。
また、表1において、Ca原料として水溶性Caを用いた場合とは、Ca原料として、上記(d)の水溶性のカルシウム化合物である酢酸カルシウム((CH3COO)2Ca)、および、上記(e)の水溶性のカルシウム化合物である硝酸カルシウム(Ca(NO32)を用いた場合を示しており、上記(d),(e)のいずれを用いた場合も、平均故障発生時間(MTTF)に関し、同じ結果が得られたことから、「Ca原料として水溶性Caを用いた場合」として、まとめて表1に示している。
【0047】
【表1】

【0048】
表1に示すように、Ca原料としてCaCO3を用いた場合、および、Ca原料として水溶性Caを用いた場合のいずれの場合も、Caの固溶量の増加に伴って、故障発生に至るまでの時間(MTTF)の値が大きくなり、信頼性(耐久性)が向上することがわかる。
【0049】
これは、ABO3で表されるペロブスカイト型複合酸化物(この実施例ではBaTiO3)のAサイト(Baサイト)にCaを固溶させることにより、格子が歪み、酸素欠陥などの移動が抑制されることにより、安定性が向上し、故障発生に至るまでの時間(MTTF)が長くなったものと考えられる。
【0050】
しかし、Ca原料としてCaCO3を用いた場合には、ペロブスカイト型複合酸化物(BaTiO3)への固溶量は、先に図1に基づいて説明したように、モル比で0.125(Ca/(Ba+Ca))(12.5mol%)で頭打ちになるため、12.5mol%を超えてCaCO3を添加した場合、固溶しないCaが存在することになり、逆に故障発生に至るまでの時間(MTTF)が短くなって、信頼性が低下することが確認された。
【0051】
一方、Ca原料として、水溶性Ca(CH3COO)2Ca、または、Ca(NO32)を用いた場合には、先に図1に基づいて説明したように、Ca原料としてCaCO3を用いた場合よりも固溶量が増大し、モル比で0.20(Ca/(Ba+Ca))(20mol%)までCaが固溶するため、Ca添加量が20mol%に達するまでは故障発生に至るまでの時間(MTTF)が長くなり、信頼性が向上することが確認された。
【0052】
なお、この実施例では水酸化バリウムとして、水和水を含まないBa(OH)2を固体のまま用い、TiO2などが分散したスラリーに直接添加しているが、上述のように、水和水を含まないBa(OH)2を固体のまま、70℃のスラリーに添加した場合、その溶解熱により、スラリーの温度が100℃付近まで急激に上昇し、合成反応が促進される。
したがって、Ba源としては、水和水を含まない水酸化バリウムを用いることが好ましい。ただし、水和水を含む水酸化バリウムを用いることも可能であることはいうまでもない。
【0053】
なお、本発明は上記実施例に限定されるものではなく、酸化チタン粉末を水に分散させた酸化チタンスラリーの固形分濃度、酸化チタンスラリーに水酸化バリウムを添加して反応させる際の反応温度や反応時間などの条件、原料である酸化チタン粉末の比表面積の範囲、Aサイトの一部をCaで置換する際の置換割合、反応工程で生成したペロブスカイト型複合酸化物を熱処理する際の条件、積層セラミックコンデンサを製造する場合の具体的な条件などに関し、発明の範囲内において、種々の応用、変形を加えることが可能である。
【符号の説明】
【0054】
11 積層セラミック素子
12 セラミック層(誘電体層)
13a,13b 内部電極
14a,14b 積層セラミック素子の端面
15a,15b 外部電極
20 積層セラミックコンデンサ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ABO3(Aは少なくともBaおよびCaを含み、Bは少なくともTiを含む)で表されるペロブスカイト型複合酸化物の製造方法であって、
少なくとも酸化チタン、カルシウム化合物、および水酸化バリウムを、スラリー液中で反応させることによりペロブスカイト型複合酸化物を生成させる反応工程を含み、
前記カルシウム化合物が炭酸カルシウムであり、
前記ペロブスカイト型複合酸化物を(Ba1-xCaxmTiO3で表した場合に、xが0<x≦0.125の範囲にあること
を特徴とするペロブスカイト型複合酸化物の製造方法。
【請求項2】
ABO3(Aは少なくともBaおよびCaを含み、Bは少なくともTiを含む)で表されるペロブスカイト型複合酸化物の製造方法であって、
少なくとも酸化チタン、カルシウム化合物、および水酸化バリウムを、スラリー液中で反応させる反応工程を含み、
前記カルシウム化合物が水溶性のカルシウム化合物であり、
前記ペロブスカイト型複合酸化物を(Ba1-xCaxmTiO3で表した場合に、xが0<x≦0.20の範囲にあること
を特徴とするペロブスカイト型複合酸化物の製造方法。
【請求項3】
前記水溶性のカルシウム化合物が、酢酸カルシウムまたは硝酸カルシウムであることを特徴とする請求項2のペロブスカイト型複合酸化物の製造方法。
【請求項4】
前記反応工程で生成したペロブスカイト型複合酸化物を熱処理する工程をさらに備えていることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のペロブスカイト型複合酸化物の製造方法。
【請求項5】
請求項4記載の製造方法により製造したペロブスカイト型複合酸化物と、添加成分を配合して、セラミックグリーンシート原料を調製する工程と、
前記セラミックグリーンシート原料を成形してセラミックグリーンシートを作製するシート作製工程と、
前記シート作製工程で作製された前記セラミックグリーンシートに、内部電極形成用の導電性ペーストを塗布して内部電極パターンを形成する工程と、
前記内部電極パターンが形成された前記セラミックグリーンシートを所定枚数積層する工程を経て、前記セラミックグリーンシートを介して内部に所定枚数の前記内部電極パターンが積層された構造を有する積層体を作製する工程と、
前記積層体を焼成する工程と
を備えていることを特徴とする積層セラミックコンデンサの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−176857(P2012−176857A)
【公開日】平成24年9月13日(2012.9.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−39584(P2011−39584)
【出願日】平成23年2月25日(2011.2.25)
【出願人】(000006231)株式会社村田製作所 (3,635)
【Fターム(参考)】