説明

ペロブスカイト型複合酸化物

【課題】固体高分子形燃料電池用触媒として優れた触媒性能を有し、特に、一酸化炭素に対する選択的酸化特性に優れ、一酸化炭素の存在する状態においても、燃料電池の電極触媒として優れた性能を発揮し得る新規な材料を提供する。
【解決手段】下記組成式(1):(Ba1−x)BH3−b(1)(式中、Aは、ランタノイド元素及び周期表2族の元素からなる群から選ばれた少なくとも一種の元素であり、Bは、周期表3族の元素、周期表4族の元素、周期表13族の元素、及び元素周期表の第4周期の遷移金属元素からなる群から選ばれた少なくとも一種の元素である)ペロブスカイト型複合酸化物、該ペロブスカイト型複合酸化物を貴金属成分と接触させた状態において熱処理して得られる貴金属含有ペロブスカイト型複合酸化物、及び該貴金属含有ペロブスカイト型複合酸化物を還元性雰囲気下で熱処理して得られる貴金属担持ペロブスカイト型複合酸化物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ペロブスカイト型複合酸化物及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
固体高分子形燃料電池は、電解質としてイオン交換膜を用いるものであり、常温から100℃程度という比較的低温で作動し、高い出力密度を有し、小型・軽量化が可能であるな
どの優れた特徴を有することから、広く注目を集めている。
【0003】
現在、固体高分子形燃料電池の供給燃料としては、水素ガスの他、天然ガス、メタノール等を改質した改質ガス等が用いられている。しかしながら、改質ガス中には一酸化炭素などの触媒被毒物質が含まれており、従来から固体高分子形燃料電池の電極材料として広く用いられている白金については、微量の一酸化炭素の存在により電極の触媒能が損なわれ、電池性能が大きく低下するという問題がある。
【0004】
一酸化炭素に対する酸化特性に優れた触媒として、白金−ルテニウムが知られているが、燃料電池として実用化するためには十分な性能を有するものとはいえず、更に触媒性能を向上させることが望まれている(下記非特許文献1参照)。
【0005】
このため、一酸化炭素被毒に強く、一酸化炭素の存在下においても優れた性能を発揮できる触媒の開発が重要な課題となっている。
【非特許文献1】M. Watanabe, “Handbook of Fuel Cells -Fundamentals Technology and Applications”, Vol.2, Wiley, Chichester, 2003, p.408〜415.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記した従来技術の現状に鑑みてなされたものであり、その主な目的は、固体高分子形燃料電池用触媒として優れた触媒性能を有し、特に、一酸化炭素に対する選択的酸化特性に優れ、一酸化炭素の存在する状態においても、燃料電池の電極触媒として優れた性能を発揮し得る新規な材料を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、上記した目的を達成すべく鋭意研究を重ねてきた。その結果、特定組成のペロブスカイト型結晶構造を有する酸化物であって、結晶構造の歪みの程度を表すトレランスファクターが0.9〜1の範囲内にある特定のペロブスカイト型複合酸化物を、白金等の貴金属の蒸気又は貴金属酸化物の蒸気と接触させることによって、該複合酸化物の構成元素の一部が貴金属元素によって置換されて、ペロブスカイト型複合酸化物の結晶構造中に貴金属元素が含まれた新規な複合酸化物が得られることを見出した。更に、該貴金属含有ペロブスカイト型複合酸化物を還元処理することによって、ペロブスカイト型複合酸化物中に含まれる貴金属元素の一部が貴金属微粒子として析出して、ペロブスカイト型複合酸化物上に微粒子状貴金属が担持された担持体が形成されることを見出した。そして、この担持体は、一酸化炭素に対する選択的酸化性が良好であって、燃料電池用の燃料極の触媒として優れた触媒活性を有する材料であることを見出し、ここに本発明を完成するに至った。
【0008】
即ち、本発明は、下記のペロブスカイト型複合酸化物及びその製造方法を提供するものである。
1. 下記組成式(1):
(Ba1−x)BH3−b (1)
(式中、Aは、ランタノイド元素及び周期表2族の元素からなる群から選ばれた少なくとも一種の元素であり、Bは、周期表3族の元素、周期表4族の元素、周期表13族の元素、及び元素周期表の第4周期の遷移金属元素からなる群から選ばれた少なくとも一種の元素であり、x、a及びbの各記号は下記範囲の数値を示す:0≦x≦1、0<a≦0.5、0<b≦0.25)で表され、
下記式:
t=(r+r)/(21/2・(r+r))
(式中、rは、Ba及びAのイオン半径の相加平均、rは、Bのイオン半径の相加平均、rは酸化物イオン(O2−)のイオン半径(1.40Å)である)で定義されるトレランスファクター(t)が0.9〜1の範囲内にある、ペロブスカイト型複合酸化物。
【0009】
2. 下記組成式(2):
(Ba1−x−y)(B1−z)H3−b (2)(式中、Aは、ランタノイド元素及び周期表2族の元素からなる群から選ばれた少なくとも一種の元素であり、Bは、周期表3族の元素、周期表4族の元素、周期表13族の元素、及び元素周期表の第4周期の遷移金属元素からなる群から選ばれた少なくとも一種の元素である。M及びMは、同一又は異なって、それぞれ、Pt、Pd、Ir、Rh、Ru、Au及びAgからなる群から選ばれた少なくとも一種の貴金属元素である。x、y、z、a及びbの各記号は下記範囲の数値を示す:0≦x≦1、0≦y<0.3、0≦z<0.3、0<a≦0.5、0<b≦0.25:但し、yとzの合計値は、0<y+z<0.6である)で表され、
下記式:
t=(r+r)/(21/2・(r+r))
(式中、rは、Ba、A及びMのイオン半径の相加平均、rは、B及びMのイオン半径の相加平均、rは酸化物イオン(O2−)のイオン半径(1.40Å)である)で定義されるトレランスファクター(t)が0.9〜1の範囲内にある、貴金属含有ペロブスカイト型複合酸化物。
【0010】
3. 下記組成式(3):
(Ba1−x−yy―c)(B1−zz―d)H3−b (3)(式中、Aは、ランタノイド元素及び周期表2族の元素からなる群から選ばれた少なくとも一種の元素であり、Bは、周期表3族の元素、周期表4族の元素、周期表13族の元素、及び元素周期表の第4周期の遷移金属元素からなる群から選ばれた少なくとも一種の元素である。M及びMは、同一又は異なって、それぞれ、Pt、Pd、Ir、Rh、Ru、Au及びAgからなる群から選ばれた少なくとも一種の貴金属元素である。x、y、z、a、b、c及びdの各記号は下記範囲の数値を示す:0≦x≦1、0≦y<0.3、0≦z<0.3、0<a≦0.5、0<b≦0.25、0≦c<0.1、0≦d<0.1;但し、yとzの合計値は0<y+z<0.6であり、cはy以下の数値、dはz以下の数値であって、cとdの合計値は0<c+d<0.2である。)で表され、
下記式:
t=(r+r)/(21/2・(r+r))
(式中、rは、Ba、A及びMのイオン半径の相加平均、rは、B及びMのイオン半径の相加平均、rは酸化物イオン(O2−)のイオン半径(1.40Å)である)で定義されるトレランスファクター(t)が0.9〜1の範囲内にあるペロブスカイト型複合酸化物の表面に、
上記組成式(3)におけるc値に相当する量のM及びd値に相当する量のMからなる貴金属が微粒子として担持されてなる、貴金属担持ペロブスカイト型複合酸化物。
【0011】
4. 上記項1に記載された組成式(1)で表されるペロブスカイト型複合酸化物を、Pt
、Pd、Ir、Rh、Ru、Au、及びAgからなる群から選ばれた少なくとも一種の貴金属の蒸気又は該貴金属の酸化物の蒸気と接触させることを特徴とする、請求項2に記載された組成式(2)で表される貴金属含有ペロブスカイト型複合酸化物の製造方法。
【0012】
5. 上記項2に記載された組成式(2)で表される貴金属含有ペロブスカイト型複合酸化物を、還元性雰囲気下において熱処理することを特徴とする、請求項3に記載された組成式(3)で表される貴金属担持ペロブスカイト型複合酸化物の製造方法。
【0013】
以下、本発明のペロブスカイト型複合酸化物、貴金属含有ペロブスカイト型複合酸化物、及び貴金属担持ペロブスカイト複合酸化物について具体的に説明する。
【0014】
ペロブスカイト型複合酸化物
本発明のペロブスカイト型複合酸化物は、下記組成式(1):
(Ba1−x)BH3−b (1)
(式中、Aは、ランタノイド元素及び周期表2族の元素からなる群から選ばれた少なくとも一種の元素であり、Bは、周期表3族の元素、周期表4族の元素、周期表13族の元素、及び元素周期表の第4周期の遷移金属元素からなる群から選ばれた少なくとも一種の元素であり、x、a及びbの各記号は下記範囲の数値を示す:0≦x≦1、0<a≦0.5、0<b≦0.25)で表されるものである。
【0015】
組成式(1)で表される該複合酸化物において、A成分であるランタノイド元素としては、La, Ce, Pr, Nd等を例示でき、周期表2族の元素としては、Ca, Sr等を例示できる。ランタノイド元素と周期表2族の元素は、一種単独又は二種以上併用することができる。B成分である周期表3族の元素としては、Sc, Y等を例示でき、周期表4族の元素として
は、Ti, Zr, Hf等を例示でき、周期表13族の元素としては、Al, Ga, In等を例示でき、周期表の第4周期の遷移金属元素としては、Cr, Mn, Fe, Co, Ni, Cu等を例示できる。周期表3族の元素、周期表4族の元素、周期表13族の元素、及び元素周期表の第4周期の遷移金属元素は、一種単独又は二種以上併用することができる。
【0016】
上記組成式(1)において、xは0≦x≦1であり、好ましくは、0≦x≦0.9である。aは、0<a≦0.5であり、好ましくは0<a≦0.3である。また、bは、0<b≦0.25であり、好ましくは0<b≦0.15である。
【0017】
尚、上記組成式(1)において、特に、0≦x<1の場合には、組成式(1)で表される複合酸化物には塩基性の高いBaが含まれるので、該複合酸化物を貴金属と接触させた状態で高温で熱処理すると、Baと貴金属とが比較的容易に反応して合金を生成し、その結果融点が低下して、より低温でより高い圧力(分圧)の貴金属蒸気、或いは貴金属酸化物蒸気を生成することができ、組成式(2)において貴金属成分(M、M)の含有量の多い複合酸化物が形成されることが期待される。
【0018】
また、上記組成式(1)において、x=1の場合には、Baが含まれておらず、組成式(1)で表されるペロブスカイト型複合酸化物、組成式(2)で表される貴金属含有ペロブスカイト型複合酸化物、及び組成式(2)で表される複合酸化物を還元処理して得られる貴金属担持ペロブスカイト型複合酸化物は、いずれも、空気中(あるいは燃料電池に供給される燃料中)に存在する二酸化炭素に対する反応性がBaを含む化合物(0≦x<1)よりも更に低く、極めて炭酸塩を生成し難い化学的に安定な複合酸化物となる。
【0019】
更に、上記組成式(1)で表される複合酸化物は、下記式
t=(r+r)/(21/2・(r+r))
で定義されるトレランスファクター(t)が0.9〜1の範囲内にあることが必要である
。上記トレランスファクターの定義式において、rは、組成式(1)におけるAサイトの陽イオン、即ち、Ba及びAのイオン半径の相加平均であり、rは組成式(1)におけるBサイトの陽イオン、即ち、Bのイオン半径の相加平均である。rは酸化物イオン(O2−)のイオン半径であり、1.40Åである。
【0020】
上記式で定義されるトレランスファクター(t)は、ペロブスカイト型複合酸化物について、結晶構造の歪みの程度を示すものであり、トレランスファクターが1の場合に、理想的なペロブスカイト型構造(立方晶系)と考えられる。トレランスファクターの算出方法としては、例えば、イオン半径の大きさについて記載された論文(R.D. Shannon, Acta
Cryst., A32, 751 (1976))に基づいて、各イオンのイオン半径より上記定義式より算出すればよい。
【0021】
本発明では、トレランスファクター(t)が0.9〜1の範囲にあるペロブスカイト型複合酸化物を用いることが必要である。この様な比較的安定な結晶構造を有するペロブスカイト型複合酸化物を用いることよって、貴金属元素を安定に含む貴金属含有ペロブスカイト型複合酸化物を得ることができ、更に、還元処理を行うことによって、ペロブスカイト複合酸化物表面に微粒子状の貴金属が担持された、優れた触媒性能を有する貴金属担持ペロブスカイト複合酸化物を得ることが可能となる。
【0022】
上記組成式(1)で表される複合酸化物は、例えば、固相反応法、共沈法等の公知の方法によって得ることができる。例えば、固相反応法では、上記組成式に含まれる金属元素を含む化合物、例えば、酸化物、炭酸塩、有機物などを出発原料として用い、目的とする酸化物と同様の金属元素比となるように混合し、焼成することによって目的とするペロブスカイト型複合酸化物を得ることができる。具体的な焼成温度及び焼成時間については、目的とする複合酸化物が形成される条件とすれば良く、特に限定されないが、例えば、1200〜1500℃程度の温度範囲において、10〜40時間程度焼成すれば良い。尚、原料物質として炭酸塩や有機化合物等を用いる場合には、焼成する前に予め仮焼きして原料物質を分解させた後、焼成して目的の複合酸化物を形成することが好ましい。例えば、原料物質として炭酸塩を用いる場合には、1000〜1200℃程度で10時間程度仮焼きした後、上記した条件で焼成すれば良い。焼成手段は特に限定されず、電気加熱炉、ガス加熱炉等任意の手段を採用できる。焼成雰囲気は、通常、酸素気流中、空気中等の酸化性雰囲気中とすればよいが、原料物質が十分量の酸素を含む場合には、例えば、不活性雰囲気中で焼成することも可能である。
【0023】
貴金属含有ペロブスカイト型酸化物
上記組成式(1)で表される複合酸化物は、Pt、Pd、Ir、Rh、Ru、Au、及びAgからなる群から選ばれた少なくとも一種の貴金属の蒸気又は該貴金属の酸化物の蒸気と接触させることによって、下記組成式(2):
(Ba1−x−y)(B1−z)H3−b (2)
で表される貴金属元素を含むペロブスカイト型複合酸化物とすることができる。
【0024】
上記組成式(2)において、M及びMは、同一又は異なって、それぞれ、Pt、Pd、Ir、Rh、Ru、Au及びAgからなる群から選ばれた少なくとも一種の元素である。また、A及びBは、組成式(1)と同一であり、Aは、ランタノイド元素及び周期表2族の元素からなる群から選ばれた少なくとも一種の元素であり、Bは、周期表3族の元素、周期表4族の元素、周期表13族の元素、及び元素周期表の第4周期の遷移金属元素からなる群から選ばれた少なくとも一種の元素である。
【0025】
また、xは0≦x≦1であり、好ましくは、0≦x≦0.9である。yは0≦y<0.3であり、好ましくは0≦y≦0.1である。zは、0≦z<0.3であり、好ましくは
0≦z≦0.1である。但し、yとzの合計は、0<y+z<0.6の範囲内であり、特に、0<y+z≦0.2であることが好ましい。また、aは0<a≦0.5であり、好ましくは0<a≦0.2である。bは0<b≦0.25であり、好ましくは0<b≦0.1である。
【0026】
上記組成式(2)で表される貴金属含有ペロブスカイト型複合酸化物も、トレランスファクターが0.9〜1の範囲内にあることが必要である。
【0027】
組成式(2)では、トレランスファクターの定義式におけるrは、Ba、A及びMのイオン半径の相加平均であり、rはB及びMのイオン半径の相加平均であり、rは酸化物イオン(O2−)のイオン半径であり、1.40Åである。
【0028】
上記組成式(2)で表される酸化物は、組成式(1)で表される複合酸化物のBaの一部及び/又はBの一部が貴金属元素によって置換されたペロブスカイト型結晶構造を有する固溶体である。
【0029】
組成式(2)で表される貴金属含有ペロブスカイト型複合酸化物は、後述する還元処理によって、結晶構造内に含まれる貴金属元素の一部が該複合酸化物表面に析出して、微粒子状の貴金属が該複合酸化物の表面に担持された状態となる。この様な貴金属を担持した複合酸化物は、一酸化炭素に対する選択的酸化性、燃料極の触媒として優れた触媒活性等を有する材料となる。
【0030】
組成式(2)で表される複合酸化物は、組成式(1)で表される複合酸化物と、貴金属の蒸気又は貴金属酸化物の蒸気とを接触させることによって得ることができる。
【0031】
例えば、貴金属又は貴金属化合物を加熱して、貴金属の蒸気又は貴金属酸化物の蒸気を生じさせ、生成した蒸気を組成式(1)で表される複合酸化物に接触させることによって、組成式(2)で表される複合酸化物を形成することができる。
【0032】
具体的な製造方法の例としては、例えば、組成式(1)で表される複合酸化物と貴金属又は貴金属化合物とを、同一の容器内に収容し、貴金属の蒸気又は貴金属酸化物の蒸気が生じる温度まで加熱することによって、該複合酸化物と、貴金属又は貴金属酸化物の蒸気とを接触させることができる。この場合、貴金属又は貴金属酸化物の蒸気が複合酸化物と十分に接触できる状態であれば、反応容器は完全な密閉状態ではなくてもよい。
【0033】
この様な製造方法において、組成式(1)で表される複合酸化物の形状については特に限定はなく、例えば、粉末状のものを用いてもよく、粉末をプレス成形した多孔体を用いてもよく、或いは、焼結体を用いてもよい。
【0034】
貴金属としては、Pt、Pd、Ir、Rh、Ru、Au及びAgからなる群から選ばれた少なくとも一種を用いることができ、特に、Pt、Pd、Rh、Ir、Ru等が好ましい。また、貴金属化合物としては、Pt、Pd、Ir、Rh、Ru、Au及びAgからなる群から選ばれた少なくとも一種の貴金属を含む化合物であって、熱処理条件下において酸化物を形成し得る化合物を用いることができる。貴金属酸化物を用いても良い。上記した貴金属及び貴金属化合物は、一種単独又は二種以上混合して用いることができる。
【0035】
貴金属及び貴金属化合物の形状については特に限定はなく、例えば、粉末状の原料、メッシュ状の原料、線状の原料、箔状の原料等の各種の形状の原料を用いることができる。
【0036】
反応容器内では、貴金属又は貴金属酸化物の蒸気が該複合酸化物と接触できれば良く、
原料とする貴金属又は貴金属化合物と、該複合酸化物とは、接触状態でもよく、或いは、非接触状態でもよい。例えば、箔状の貴金属成分の上に、組成式(1)で表される該複合酸化物を載せた状態、又は粉末状の貴金属成分を組成式(1)の複合酸化物と混合した状態で加熱する方法、或いは、容器内に、貴金属又は貴金属化合物と該複合酸化物とを任意の間隔をあけて非接触状態で配置しで加熱する方法などを適用できる。
【0037】
反応をより短時間で進行させるためには、組成式(1)で表される複合酸化物に、可能な限り高い圧力(分圧)の貴金属又は貴金属酸化物の蒸気を、可能な限り高温で接触させることが好ましい。そのためには、好ましくは貴金属の箔を複合酸化物粉末に接触させ、より好ましくは貴金属のメッシュを複合酸化物粉末に接触させ、さらに好ましくは、貴金属又は貴金属化合物の粉末を複合酸化物粉末に接触させ、かつ該複合酸化物の分解温度未満であって、分解温度に出来るだけ近い温度で反応させることが望ましい。
【0038】
また、組成式(1)で表される複合酸化物を貴金属又は貴金属化合物と接触させた状態で加熱する場合には、該複合酸化物に含まれる金属元素(Ba、Srなど)が貴金属又は貴金属化合物と反応して、貴金属又は貴金属化合物と比べて低融点の合金又は化合物を形成し、より低温でより高い圧力(分圧)の貴金属又は貴金属酸化物の蒸気を発生することができれば、さらに短時間で反応を進行させることが可能となる。
【0039】
容器内における貴金属又は貴金属酸化物の蒸気の圧力(分圧)については、特に限定的ではないが、通常、10−3Pa程度以上とすることが好ましく,1Pa程度以上とすることがより好ましい。この際、貴金属又は貴金属酸化物の蒸気の圧力(分圧)を高くすることにより、反応時間を短縮することができる。
【0040】
加熱温度については、上記した圧力の貴金属蒸気又は貴金属酸化物蒸気が生じる温度とすればよく、通常、800℃程度以上であって、組成式(1)の複合酸化物の分解温度未満とすればよい。具体的には、900〜1750℃程度とすることが好ましく、1050〜1650℃程度とすることがより好ましい。
【0041】
反応時間については、特に限定的ではないが、上記した温度範囲で加熱する場合には、5〜20時間程度とすることが好ましく、10〜15時間程度とすることがより好ましい。
【0042】
尚、貴金属酸化物の蒸気を生成させる場合には、該複合酸化物と貴金属又は貴金属化合物を収容した容器内に酸素を存在させればよい。この場合には、貴金属の蒸気を生成させる場合と比較してより低温で所定の圧力の貴金属酸化物の蒸気を生成させることができる。容器内の酸素の分圧は、10−1Pa程度以上とすればよく、10Pa程度以上とすることが好ましい。
【0043】
また、製造方法のその他の例として、貴金属の蒸気又は貴金属酸化物の蒸気を含む気流を該複合酸化物に接触させる方法によっても、組成式(2)で表される複合酸化物を形成することができる。この方法では、上記した方法と同様に、貴金属又は貴金属酸化物の蒸気の圧力(分圧)については、10−3Pa程度以上とすることが好ましく、1Pa程度以上とすることがより好ましい。
【0044】
還元処理
上記組成式(2)で表される貴金属含有ペロブスカイト型複合酸化物に対して還元処理を施すことによって、該複合酸化物の結晶構造中に含まれる貴金属元素の一部が微粒子状金属となって該複合酸化物の表面に析出し、該複合酸化物の表面に微粒子状の貴金属が担持された状態となる。
【0045】
還元処理としては、例えば、水素ガスなどを含む還元性雰囲気中で加熱処理を行えばよい。具体的には、純水素ガス、又は不活性ガス(窒素ガスなど)を水素ガスの100倍容量程度までの範囲で含む水素−不活性ガス混合ガス等の水素含有ガス気流中において、200〜400℃程度で15分〜1時間程度加熱処理を行えばよい。
【0046】
還元処理後の貴金属を担持したペロブスカイト型複合酸化物は、下記組成式(3):
(Ba1−x−yy―c)(B1−zz―d)H3−b (3)で表されるペロブスカイト型複合酸化物の表面に、上記組成式(3)におけるc値に相当する量のM及びd値に相当する量のMからなる貴金属が微粒子として担持されたものとなる。
【0047】
上記組成式(3)において、A、B、M及びMは、組成式(2)と同一である。即ち、Aは、ランタノイド元素及び周期表2族の元素からなる群から選ばれた少なくとも一種の元素であり、Bは、周期表3族の元素、周期表4族の元素、周期表13族の元素、及び元素周期表の第4周期の遷移金属元素からなる群から選ばれた少なくとも一種の元素である。また、M及びMは、同一又は異なって、それぞれ、Pt、Pd、Ir、Rh、Ru、Au及びAgからなる群から選ばれた少なくとも一種の貴金属元素である。
【0048】
また、xは0≦x≦1であり、好ましくは、0≦x≦0.9である。yは0≦y<0.3であり、好ましくは0≦y≦0.1である。zは、0≦z<0.3であり、好ましくは0≦y≦0.1である。但し、yとzの合計は、0<y+z<0.6の範囲内であり、好ましくは0<y+z≦0.2の範囲内である。
【0049】
cはy以下の値であって、0≦c<0.1であり、好ましくは0≦c≦0.05である。dはz以下の数値であって、0≦d<0.1であり、好ましくは0≦d≦0.05である。但し、cとdの合計は0<c+d<0.2であり、好ましくは0<c+d<0.1である。
【0050】
aは0<a≦0.5であり、好ましくは0<a≦0.2である。bは0<b≦0.25であり、好ましくは0<b≦0.1である。
【0051】
また、組成式(3)の複合酸化物のトレランスファクターの定義式は、組成式(2)と同様であり、トレランスファクターの値は、0.9〜1の範囲内である。
【0052】
還元処理によって組成式(3)の複合酸化物の表面に析出する貴金属は、組成式(3)の複合酸化物に含まれるMの一部及び/又はMの一部である。
【0053】
析出する貴金属微粒子の粒径は、還元処理の条件(水素濃度、温度、時間など)によって変化するが、通常、金に関しては10nm程度以下、イリジウムに関しては500nm程度以下
、白金、パラジウム、ロジウム、ルテニウム、銀に関しては100nm程度以下となることが
多い。
【0054】
担持される微粒子状の貴金属の量は、Mについては、組成式(3)におけるc値に相当する量であり、Mについては、組成式(3)におけるd値に相当する量であり、その合計量がペロブスカイト型複合酸化物に担持された状態となる。
【0055】
組成式(3)で表されるペロブスカイト型複合酸化物の表面に微粒子状の貴金属が担持された貴金属担持ペロブスカイト型複合酸化物は、微粒子状の貴金属の存在によって、特異な触媒活性を示し、一酸化炭素の選択的酸化性に優れ、更に、水素酸化に対する触媒活
性も有するものとなる。この様な特性を有することによって、還元処理を施された複合酸化物は、耐一酸化炭素被毒性に優れた燃料電池用アノード触媒として優れた性能を発揮することができる。
【発明の効果】
【0056】
本発明における組成式(1)で表されるペロブスカイト型複合酸化物及び組成式(2)で表される貴金属含有ペロブスカイト型複合酸化物は、いずれも、空気中(あるいは燃料電池に供給される燃料中)に存在する二酸化炭素に対する反応性が低く、炭酸塩を生成し難い化学的に安定な複合酸化物であり、例えば、組成式(3)で表されるペロブスカイト型複合酸化物の表面に微粒子状の貴金属が担持された貴金属担持ペロブスカイト型複合酸化物を得るための中間体として有用である。
【0057】
また、組成式(2)で表される複合酸化物を還元処理して得られる貴金属担持ペロブスカイト型複合酸化物は、一酸化炭素に対する選択的酸化性を有し、更に、水素に対する酸化活性も有するものであり、耐一酸化炭素被毒性に優れた燃料電池用アノード触媒として有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0058】
以下、実施例を挙げて本発明を更に詳細に説明する。
【0059】
実施例1
ペロブスカイト型複合酸化物粉末の作製
La、SrCO、BaCO及びScを原料として用い、これらの原料をLa:Sr:Ba:Scの元素比が0.7:0.2:0.1:1となるように混合した後、空気中で焼成、粉砕を数回繰り返し、最終的に空気中、1400℃で10時間することによって、組成式:(La0.7Sr0.2Ba0.1)ScH0.052.875で表される淡黄色の酸化物粉末を作製した。該複合酸化物粉末のトレランスファクターは0.92である。図1は得られた粉末試料のX線回折図形であり、結晶性の良好な単一相のペロブスカイト型複合酸化物粉末が得られたことが確認できた。
【0060】
白金含有ペロブスカイト型複合酸化物粉末の作製
上記方法で得られた、トレランスファクター(t)が0.92の(La0.7Sr0.
Ba0.1)ScH0.052.875酸化物粉末(約2g)を白金箔(厚さ0.03mm、重量1.50g)に載せ、蓋付きの容器(アルミナ製、直方体状、容積:約30cm3)に入
れ、空気中、1625℃で10時間焼成することにより、組成式:(La0.7Sr0.2Ba0.1)(Sc0.994Pt0.006)H0.052.878で表される青色の白金含有ペロブスカイト粉末が得られた。
【0061】
図2は得られた粉末のX線回折図形であり、結晶性の良好な、単一相のペロブスカイト型構造が保持されていることが確認できた。白金元素がペロブスカイト型結晶格子中のBサイトに固溶していることは、X線吸収微細構造(XAFS)測定によって確認された。得られた白金含有ペロブスカイト粉末のトレランスファクターは0.92である。
【0062】
白金含有ペロブスカイト型複合酸化物粉末の還元処理
上記方法で得られた(La0.7Sr0.2Ba0.1)(Sc0.994Pt0.006)H0.052.878で表される複合酸化物を、水素20%/アルゴン80%ガス中、250℃で1時間加熱して還元処理を行った。
【0063】
還元処理後の生成物について、TEM観察により、白金の一部が粒径10nm以下に最頻値のある粒径分布を持つ微粒子としてペロブスカイト結晶構造の外に析出していることが
確認された。また、X線光電子分光法(XPS)測定により、結晶構造中に含まれる白金の一部が表面近傍に白金金属粒子として存在していることを確認できた。さらに、X線吸収微細構造(XAFS)測定により、結晶構造中に含まれる白金の1/4のモル比に相当す
る量が白金金属微粒子として存在していることが確認できた。
【0064】
この結果から、上記還元処理により得られた生成物は、結晶構造内の白金の一部がペロブスカイト型結晶構造外に析出し、微粒子の状態で表面近傍に存在するものであり、組成式:(La0.7Sr0.2Ba0.1)(Sc0.994Pt0.0048)H0.052.8756で表されるペロブスカイト型複合酸化物の表面に、結晶構造内に含まれる白金に対して1/4のモル比の白金微粒子が担持された淡黄色の粉末(以下、Pt0.0
012/(La0.7Sr0.2Ba0.1)(Sc0.994Pt0.0048)H0.052.8756と表す)であることが確認できた。
【0065】
白金担持ペロブスカイト型複合酸化物粉末の触媒活性
上記方法で得られた粉末試料Pt0.0012/(La0.7Sr0.2Ba0.1)(Sc0.994Pt0.0048)H0.052.8756について、空気中に1%の一酸化炭素または水素を含んだ反応ガスを用いて、一酸化炭素及び水素に対する触媒活性(ガス転化率)の温度依存性を測定した。結果を図3に示す。図3より、180℃(453K)以上では、一酸化炭素に対する酸化反応が水素に対する酸化反応よりも優先的に起きることが分かる。
【0066】
一方、従来報告されているTiOに白金を担持させた触媒についての触媒活性の温度依存性を示すグラフを図4に示す。図4より、従来の白金担持TiO触媒では、水素に対する酸化反応が一酸化炭素に対する酸化反応よりも優先的に起きることが判る。
【0067】
以上の結果より、実施例1で得られた粉末試料は一酸化炭素に対する選択的酸化性を有し、更に、水素に対する酸化活性も有するものであり、耐一酸化炭素被毒性に優れた燃料電池用アノード触媒として有効に利用できることが分かる。
【0068】
実施例2
パラジウム含有ペロブスカイト型複合酸化物粉末の作製
実施例1と同様の方法で得られた組成式:(La0.7Sr0.2Ba0.1)ScH0.052.875で表される淡黄色の酸化物粉末(約2g)をパラジウム箔(厚さ0.05mm、重量1.20g)に載せ、蓋付きの容器(アルミナ製、直方体状、容積:約30cm3
に入れ、空気中、1540℃で10時間焼成することにより、組成式:(La0.7Sr0.2Ba0.1)(Sc0.981Pd0.019)H0.052.8655で表さ
れる淡褐色のパラジウム含有ペロブスカイト粉末が得られた。
【0069】
図5は得られた粉末のX線回折図形であり、結晶性の良好な、単一相のペロブスカイト型構造が保持されていることが確認できた。パラジウム元素がペロブスカイト型結晶格子中に固溶していることは、X線吸収微細構造(XAFS)測定によって確認した。得られたパラジウム含有ペロブスカイト粉末のトレランスファクターは0.92である。
【0070】
パラジウム含有ペロブスカイト型複合酸化物粉末の還元処理
上記方法で得られた(La0.7Sr0.2Ba0.1)(Sc0.981Pd0.019)H0.052.8655で表される複合酸化物を、水素20%/アルゴン80%ガス中、350℃で1時間加熱して還元処理を行った。
【0071】
還元処理後の生成物について、X線吸収微細構造(XAFS)測定により、結晶構造中に含まれるパラジウムの1/4のモル比に相当する量がパラジウム金属微粒子として存在し
ていることが確認された。この結果から、上記還元処理により得られた生成物は、結晶構造内のパラジウムの一部がペロブスカイト型結晶構造外に析出し、微粒子の状態で表面近傍に存在するものであり、組成式:(La0.7Sr0.2Ba0.1)(Sc0.981Pd0.0152)H0.052.8617で表されるペロブスカイト型複合酸化物の表面に、結晶構造内に含まれるパラジウムに対して1/4のモル比のパラジウム微粒子が
担持された淡黄色の粉末(以下、Pd0.0038/(La0.7Sr0.2Ba0.1)(Sc0.981Pd0.0152)H0.052.8617と表す)であることが確認できた。
【0072】
パラジウム担持ペロブスカイト型複合酸化物粉末の触媒活性
上記方法で得られた粉末試料Pd0.0038/(La0.7Sr0.2Ba0.1)(Sc0.981Pd0.0152)H0.052.8617について、空気中に1%の一酸化炭素または水素を含んだ反応ガスを用いて、一酸化炭素及び水素に対する触媒活性(ガス転化率)の温度依存性を測定した。結果を図6に示す。図6より、260℃(533K)以上では、一酸化炭素に対する酸化反応が水素に対する酸化反応よりも優先的に起きることが分かる。
【0073】
従来報告されているパラジウムの触媒活性はこの逆で、水素に対する酸化反応が一酸化炭素に対するそれよりも優先的に起きるものであった。従って、図6より、実施例2で得られた粉末試料は一酸化炭素に対する選択的酸化性を有し、更に、水素に対する酸化活性も有するものであり、耐一酸化炭素被毒性に優れた燃料電池用アノード触媒として有効に利用できることが分かる。
【0074】
実施例3
イリジウム含有ペロブスカイト型複合酸化物粉末の作製
実施例1と同様の方法で得られた組成式:(La0.7Sr0.2Ba0.1)ScH0.052.875で表される淡黄色の酸化物粉末(約0.6g)を、イリジウム箔(厚さ0.05mm、重量0.50g)に載せ、蓋付きの容器(アルミナ製、直方体状、容積:約30cm3)に入れ、空気中、1625℃で10時間焼成することにより、組成式:(La0.
66Sr0.19Ba0.08Ir0.07)(Sc0.93Ir0.07)H0.052.89で表される濃褐色のイリジウム含有ペロブスカイト粉末が得られた。
【0075】
図7は得られた粉末のX線回折図形であり、結晶性の良好な、単一相のペロブスカイト型構造が保持されていることが確認できた。イリジウム元素がペロブスカイト型結晶格子中に固溶していることは、X線吸収微細構造(XAFS)測定によって確認した。得られたイリジウム含有ペロブスカイト粉末のトレランスファクターは0.9である。
【0076】
イリジウム含有ペロブスカイト型複合酸化物粉末の還元処理
上記方法で得られた(La0.66Sr0.19Ba0.08Ir0.07)(Sc0.93Ir0.07)H0.052.89で表される複合酸化物を、水素20%/アルゴン80%ガス中、400℃で1時間加熱して還元処理を行った。
【0077】
還元処理後の生成物について、X線吸収微細構造(XAFS)測定により、結晶構造中に含まれるイリジウムの1/4のモル比に相当する量がイリジウム金属微粒子として存在し
ていることが確認された。
【0078】
この結果から、上記還元処理により得られた生成物は、結晶構造内のイリジウムの一部がペロブスカイト型結晶構造外に析出し、微粒子の状態で表面近傍に存在するものであり、組成式:(La0.66Sr0.19Ba0.08Ir0.056)(Sc0.93Ir0.056)H0.052.848で表されるペロブスカイト型複合酸化物の表面に
、結晶構造内に含まれるイリジウムに対して1/4のモル比のイリジウム微粒子が担持され
た褐色の粉末(以下、Ir0.028/(La0.66Sr0.19Ba0.08Ir0.056)(Sc0.93Ir0.056)H0.052.848と表す)であることが確認できた。
【0079】
イリジウム担持ペロブスカイト型複合酸化物粉末の触媒活性
上記方法で得られたIr0.028/(La0.66Sr0.19Ba0.08Ir0.056)(Sc0.93Ir0.056)H0.052.848について、空気中に1%の一酸化炭素または水素を含んだ反応ガスを用いて、一酸化炭素及び水素に対する触媒活性(ガス転化率)の温度依存性を測定した。結果を図8に示す。図8より、275℃(548K)以上では、一酸化炭素に対する酸化反応が水素に対する酸化反応よりも優先的に起きることが分かる。
【0080】
従来報告されているイリジウムの触媒活性はこの逆で、水素に対する酸化反応が一酸化炭素に対するそれよりも優先的に起きるものであった。従って、図8より、実施例3で得られた粉末試料は一酸化炭素に対する選択的酸化性を有し、更に、水素に対する酸化活性も有するものであり、耐一酸化炭素被毒性に優れた燃料電池用アノード触媒として有効に利用できることが分かる。
【0081】
実施例4
ロジウム含有ペロブスカイト型複合酸化物粉末の作製
実施例1と同様の方法で得られた組成式:(La0.7Sr0.2Ba0.1)ScH0.052.875で表される淡黄色の酸化物粉末(約0.7g)をロジウム箔(厚さ0.05mm、重量0.33g)に載せ、蓋付きの容器(アルミナ製、直方体状、容積:約30cm3
)に入れ、空気中、1625℃で10時間焼成することにより、組成式:(La0.7Sr0.2Ba0.1)(Sc0.937Rh0.063)H0.052.875で表される黒色のロジウム含有ペロブスカイト粉末が得られた。
【0082】
図9は得られた粉末のX線回折図形であり、結晶性の良好な、単一相のペロブスカイト型構造が保持されていることが確認できた。ロジウム元素がペロブスカイト型結晶格子中に固溶していることは、X線吸収微細構造(XAFS)測定によって確認した。得られたロジウム含有ペロブスカイト粉末のトレランスファクターは0.93である。
【0083】
ロジウム含有ペロブスカイト型複合酸化物粉末の還元処理
上記方法で得られた(La0.7Sr0.2Ba0.1)(Sc0.937Rh0.063)H0.052.875で表される複合酸化物を、水素20%/アルゴン80%ガス中、400℃で1時間加熱して還元処理を行った。
【0084】
還元処理後の生成物について、X線吸収微細構造(XAFS)測定により、結晶構造中に含まれるロジウムの1/4のモル比に相当する量がロジウム金属微粒子として存在してい
ることが確認された。
【0085】
この結果から、上記還元処理により得られた生成物は、結晶構造内のロジウムの一部がペロブスカイト型結晶構造外に析出し、微粒子の状態で表面近傍に存在するものであり、組成式:(La0.7Sr0.2Ba0.1)(Sc0.937Rh0.0504)H0.052.8561で表されるペロブスカイト型複合酸化物の表面に結晶構造内に含まれるロジウムに対して1/4のモル比のロジウム微粒子が担持された褐色の粉末(以下、R
0.0126/(La0.7Sr0.2Ba0.1)(Sc0.937Rh0.0504)H0.052.8561と表す)であることが確認できた。
【0086】
ロジウム担持ペロブスカイト型複合酸化物粉末の触媒活性
上記方法で得られたRh0.0126/(La0.7Sr0.2Ba0.1)(Sc0.937Rh0.0504)H0.052.8561について、空気中に1%の一酸化炭素または水素を含んだ反応ガスを用いて、一酸化炭素及び水素に対する触媒活性(ガス転化率)の温度依存性を測定した。結果を図10に示す。図10より、150℃(423K)以上では、一酸化炭素に対する酸化反応が水素に対する酸化反応よりも優先的に起きることが分かる。
【0087】
従来報告されているロジウムの触媒活性はこの逆で、水素に対する酸化反応が一酸化炭素に対するそれよりも優先的に起きるものであった。従って、図10より、実施例4で得られた粉末試料は一酸化炭素に対する選択的酸化性を有し、更に、水素に対する酸化活性も有するものであり、耐一酸化炭素被毒性に優れた燃料電池用アノード触媒として有効に利用できることが分かる。
【0088】
実施例5
金含有ペロブスカイト型複合酸化物粉末の作製
実施例1と同様の方法で得られた組成式:(La0.7Sr0.2Ba0.1)ScH0.052.875で表される淡黄色の酸化物粉末(約3.0g)を金箔(厚さ0.03mm、重量1.34g)に載せ、蓋付きの容器(アルミナ製、直方体状、容積:約30cm3)に入
れ、空気中、1060℃で100時間焼成することにより、組成式:(La0.7Sr0.2Ba0.1)(Sc0.9998Au0.0002)H0.052.875で表される微赤色の金含有ペロブスカイト粉末が得られた。
【0089】
図11は得られた粉末のX線回折図形であり、結晶性の良好な、単一相のペロブスカイト型構造が保持されていることが確認できた。金元素がペロブスカイト型結晶格子中に固溶していることは、X線吸収微細構造(XAFS)測定によって確認した。得られた金含有ペロブスカイト粉末のトレランスファクターは0.92である。
【0090】
金含有ペロブスカイト型複合酸化物粉末の還元処理
上記方法で得られた(La0.7Sr0.2Ba0.1)(Sc0.9998Au0.0002)H0.052.875で表される複合酸化物を、水素20%/アルゴン80%ガス中、350℃で1時間加熱して還元処理を行った。
【0091】
還元処理後の生成物について、X線吸収微細構造(XAFS)測定により、結晶構造中に含まれる金の1/4のモル比に相当する量が金の金属微粒子として存在していることが確
認された。
【0092】
この結果から、上記還元処理により得られた生成物は、結晶構造内の金の一部がペロブスカイト型結晶構造外に析出し、微粒子の状態で表面近傍に存在するものであり、組成式:(La0.7Sr0.2Ba0.1)(Sc0.9998Au0.00016)H0.052.87494で表されるペロブスカイト型複合酸化物の表面に結晶構造内に含まれる金に対して1/4のモル比の金微粒子が担持された無色の粉末(以下、Au0.000
04/(La0.7Sr0.2Ba0.1)(Sc0.9998Au0.00016)H0.052.87494と表す)であることが確認できた。
【0093】
金担持ペロブスカイト型複合酸化物粉末の触媒活性
上記方法で得られたAu0.00004/(La0.7Sr0.2Ba0.1)(Sc0.9998Au0.00016)H0.052.87494について、空気中に1%の一酸化炭素または水素を含んだ反応ガスを用いて、一酸化炭素及び水素に対する触媒活性(ガス転化率)の温度依存性を測定した。結果を図12に示す。図12より、280℃
(553K)以上では、一酸化炭素に対する酸化反応が水素に対する酸化反応よりも優先的に起きることが分かる。
【0094】
従来報告されている金の触媒活性はこの逆で、水素に対する酸化反応が一酸化炭素に対するそれよりも優先的に起きるものであった。従って、図12より、実施例5で得られた粉末試料は一酸化炭素に対する選択的酸化性を有し、更に、水素に対する酸化活性も有するものであり、耐一酸化炭素被毒性に優れた燃料電池用アノード触媒として有効に利用できることが分かる。
【0095】
実施例6
銀含有ペロブスカイト型複合酸化物粉末の作製
実施例1と同様の方法で得られた組成式:(La0.7Sr0.2Ba0.1)ScH0.052.875で表される淡黄色の酸化物粉末(約3.0g)を銀箔(厚さ0.05mm、重量1.03g)に載せ、蓋付きの容器(アルミナ製、直方体状、容積:約30cm3)に入
れ、空気中、957℃で100時間焼成することにより、組成式:(La0.7Sr0.2Ba0.1)(Sc0.998Ag0.002)H0.052.873で表される微赤色の銀含有ペロブスカイト粉末が得られた。
【0096】
図13は得られた粉末のX線回折図形であり、結晶性の良好な、単一相のペロブスカイト型構造が保持されていることが確認できた。銀元素がペロブスカイト型結晶格子中に固溶していることは、X線吸収微細構造(XAFS)測定によって確認した。得られた銀含有ペロブスカイト粉末のトレランスファクターは0.92である。
【0097】
銀含有ペロブスカイト型複合酸化物粉末の還元処理
上記方法で得られた(La0.7Sr0.2Ba0.1)(Sc0.998Ag0.002)H0.052.873で表される複合酸化物を、水素20%/アルゴン80%ガス中、350℃で1時間加熱して還元処理を行った。
【0098】
還元処理後の生成物について、X線吸収微細構造(XAFS)測定により、結晶構造中に含まれる銀の1/4のモル比に相当する量が銀の金属微粒子として存在していることが確
認された。
【0099】
この結果から、上記還元処理により得られた生成物は、結晶構造内の銀の一部がペロブスカイト型結晶構造外に析出し、微粒子の状態で表面近傍に存在するものであり、組成式:(La0.7Sr0.2Ba0.1)(Sc0.998Ag0.0016)H0.052.8728で表されるペロブスカイト型複合酸化物の表面に結晶構造内に含まれる銀に対して1/4のモル比の銀微粒子が担持された無色の粉末(以下、Ag0.0004/(
La0.7Sr0.2Ba0.1)(Sc0.998Ag0.0016)H0.052.8728と表す)であることが確認できた。
【0100】
銀担持ペロブスカイト型複合酸化物粉末の触媒活性
上記方法で得られたAg0.0004/(La0.7Sr0.2Ba0.1)(Sc0.998Ag0.0016)H0.052.8728について、空気中に1%の一酸化炭素または水素を含んだ反応ガスを用いて、一酸化炭素及び水素に対する触媒活性(ガス転化率)の温度依存性を測定した。結果を図14に示す。図14より、150℃(423K)以上では、一酸化炭素に対する酸化反応が水素に対する酸化反応よりも優先的に起きることが分かる。
【0101】
従来報告されている銀の触媒活性はこの逆で、水素に対する酸化反応が一酸化炭素に対するそれよりも優先的に起きるものであった。従って、図14より、実施例6で得られた
粉末試料は一酸化炭素に対する選択的酸化性を有し、更に、水素に対する酸化活性も有するものであり、耐一酸化炭素被毒性に優れた燃料電池用アノード触媒として有効に利用できることが分かる。
【0102】
実施例7
ペロブスカイト型複合酸化物粉末の作製
BaCO、ZrO及びYを原料として用い、これらの原料をBa:Zr:Yの元素比が1:0.8:0.2となるように混合した後、空気中で焼成、粉砕を数回繰り返し、最終的に空気中、1400℃で10時間、焼成することによって、組成式:Ba(Zr0.80.2)H0.052.925で表される淡黄色の酸化物粉末を作製した。
【0103】
該複合酸化物粉末のトレランスファクターは0.99である。図15は得られた粉末試料のX線回折図形であり、結晶性の良好な単一相のペロブスカイト型複合酸化物粉末が得られたことが確認できた。
【0104】
白金含有ペロブスカイト型複合酸化物粉末の作製
上記方法で得られた、トレランスファクター(t)が0.99のBa(Zr0.8
.2)H0.052.925酸化物粉末(約3.3g)を白金箔(厚さ0.05mm、重量1.47g)に載せ、蓋付きの容器(アルミナ製、直方体状、容積:約30cm3)に入れ、空気
中、1625℃で10時間焼成することにより、組成式:Ba(Zr0.7980.198Pt0.004)H0.052.926で表される青色の白金含有ペロブスカイト粉末が得られた。
【0105】
図16は得られた粉末のX線回折図形であり、結晶性の良好な、単一相のペロブスカイト型構造が保持されていることが確認できた。白金元素がペロブスカイト型結晶格子中に固溶していることは、X線吸収微細構造(XAFS)測定によって確認した。得られた白金含有ペロブスカイト粉末のトレランスファクターは0.99である。
【0106】
白金含有ペロブスカイト型複合酸化物粉末の還元処理
上記方法で得られたBa(Zr0.7980.198Pt0.004)H0.052.926を、水素20%/アルゴン80%ガス中、350℃で1時間加熱して還元処理を行った。
【0107】
還元処理後の生成物について、X線吸収微細構造(XAFS)測定により、結晶構造中に含まれる白金の1/4のモル比に相当する量が白金微粒子として存在していることが確認
された。
【0108】
この結果から、上記還元処理により得られた生成物は、結晶構造内の白金の一部がペロブスカイト型結晶構造外に析出し、微粒子の状態で表面近傍に存在するものであり、組成式:Ba(Zr0.7980.198Pt0.0032)H0.052.9244で表されるペロブスカイト型複合酸化物の表面に結晶構造内に含まれる白金に対して1/4の
モル比の白金微粒子が担持された淡黄色の粉末(以下、Pt0.0008/Ba(Zr0.7980.198Pt0.0032)H0.052.9244と表す)であることが確認できた。
【0109】
白金担持ペロブスカイト型複合酸化物粉末の触媒活性
上記方法で得られたPt0.0008/Ba(Zr0.7980.198Pt0.0032)H0.052.9244について、空気中に1%の一酸化炭素または水素を含んだ反応ガスを用いて、一酸化炭素及び水素に対する触媒活性(ガス転化率)の温度依存
性を測定した。結果を図17に示す。図17より、175℃(448K)以上では、一酸化炭素に対する酸化反応が水素に対する酸化反応よりも優先的に起きることが分かる。
【0110】
従来報告されている白金の触媒活性はこの逆で、水素に対する酸化反応が一酸化炭素に対するそれよりも優先的に起きるものであった。従って、図17より、実施例7で得られた粉末試料は一酸化炭素に対する選択的酸化性を有し、更に、水素に対する酸化活性も有するものであり、耐一酸化炭素被毒性に優れた燃料電池用アノード触媒として有効に利用できることが分かる。
【0111】
実施例8
ペロブスカイト型複合酸化物粉末の作製
La、SrCO、BaCO及びCoを原料として用い、これらの原料をLa:Sr:Ba:Coの元素比が0.7:0.2:0.1:1となるように混合した後、空気中で焼成、粉砕を数回繰り返し、最終的に空気中、1400℃で5時間、焼成することによって、組成式:(La0.7Sr0.2Ba0.1)CoH0.052.875で表される黒色の酸化物粉末を作製した。該複合酸化物粉末のトレランスファクターは0.99である。図18は得られた粉末試料のX線回折図形であり、結晶性の良好な単一相のペロブスカイト型複合酸化物粉末が得られたことが確認できた。
【0112】
白金含有ペロブスカイト型複合酸化物粉末の作製
上記方法で得られた、トレランスファクター(t)が0.99の(La0.7Sr0.
Ba0.1)CoH0.052.875酸化物粉末(約2.0g)を白金箔(厚さ0.03mm、重量1.25g)に載せ、蓋付きの容器(アルミナ製、直方体状、容積:約30cm3
に入れ、空気中、1300℃で10時間焼成することにより、組成式:(La0.7Sr0.2Ba0.1)(Co0.996Pt0.004)H0.052.877で表される濃灰色の白金含有ペロブスカイト粉末が得られた。
【0113】
図19は得られた粉末のX線回折図形であり、結晶性の良好な、単一相のペロブスカイト型構造が保持されていることが確認できた。白金元素がペロブスカイト型結晶格子中に固溶していることは、X線吸収微細構造(XAFS)測定によって確認した。得られた白金含有ペロブスカイト粉末のトレランスファクターは0.99である。
【0114】
白金含有ペロブスカイト型複合酸化物粉末の還元処理
上記方法で得られた(La0.7Sr0.2Ba0.1)(Co0.996Pt0.004)H0.052.877を、水素20%/アルゴン80%ガス中、350℃で1時間加熱して還元処理を行った。
【0115】
還元処理後の生成物について、X線吸収微細構造(XAFS)測定により、結晶構造中に含まれる白金の1/4のモル比に相当する量が白金金属微粒子として存在していることが
確認された。
【0116】
この結果から、上記還元処理により得られた生成物は、結晶構造内の白金の一部がペロブスカイト型結晶構造外に析出し、微粒子の状態で表面近傍に存在するものであり、組成式:(La0.7Sr0.2Ba0.1)(Co0.996Pt0.0032)H0.052.8754で表されるペロブスカイト型複合酸化物の表面に結晶構造内に含まれる白金に対して1/4のモル比の白金微粒子が担持された黒色の粉末(以下、Pt0.000
/(La0.7Sr0.2Ba0.1)(Co0.996Pt0.0032)H0.052.8754と表す)であることが確認できた。
【0117】
白金担持ペロブスカイト型複合酸化物粉末の触媒活性
上記方法で得られたPt0.0008/(La0.7Sr0.2Ba0.1)(Co0.996Pt0.0032)H0.052.8754について、空気中に1%の一酸化炭素または水素を含んだ反応ガスを用いて、一酸化炭素及び水素に対する触媒活性(ガス転化率)の温度依存性を測定した。結果を図20に示す。図20より、125℃(398K)以上では、一酸化炭素に対する酸化反応が水素に対する酸化反応よりも優先的に起きることが分かる。
【0118】
従来報告されている白金の触媒活性はこの逆で、水素に対する酸化反応が一酸化炭素に対するそれよりも優先的に起きるものであった。従って、図20より、実施例8で得られた粉末試料は一酸化炭素に対する選択的酸化性を有し、更に、水素に対する酸化活性も有するものであり、耐一酸化炭素被毒性に優れた燃料電池用アノード触媒として有効に利用できることが分かる。
【0119】
実施例9
ペロブスカイト型複合酸化物粉末の作製
La、SrCO及びScを原料として用い、これらの原料をLa:Sr:Scの元素比が0.8:0.2:1となるように混合した後、空気中で焼成、粉砕を数回繰り返し、最終的に空気中、1400℃で10時間焼成することによって、組成式:(La0.8Sr0.2)ScH0.052.925で表される淡黄色の酸化物粉末を作製した。該複合酸化物粉末のトレランスファクターは0.92である。図21は得られた粉末試料のX線回折図形であり、結晶性の良好な単一相のペロブスカイト型複合酸化物粉末が得られたことが確認できた。
【0120】
白金含有ペロブスカイト型複合酸化物粉末の作製
上記方法で得られた、トレランスファクター(t)が0.92の(La0.8Sr0.
)ScH0.052.925酸化物粉末(約2g)を白金箔(厚さ0.03mm、重量1.50g)に載せ、蓋付きの容器(アルミナ製、直方体状、容積:約30cm3)に入れ、空気中
、1525℃で10時間焼成することにより、組成式:(La0.8Sr0.2)(Sc0.988Pt0.012)H0.052.931で表される青色の白金含有ペロブスカイト粉末が得られた。
【0121】
図22は得られた粉末のX線回折図形であり、結晶性の良好な、単一相のペロブスカイト型構造が保持されていることが確認できた。白金元素がペロブスカイト型結晶格子中のBサイトに固溶していることは、X線吸収微細構造(XAFS)測定によって確認された。得られた白金含有ペロブスカイト粉末のトレランスファクターは0.92である。
【0122】
白金含有ペロブスカイト型複合酸化物粉末の還元処理
上記方法で得られた(La0.8Sr0.2)(Sc0.988Pt0.012)H0.052.931で表される複合酸化物を、水素20%/アルゴン80%ガス中、350℃で1時間加熱して還元処理を行った。
【0123】
還元処理後の生成物について、X線吸収微細構造(XAFS)測定により、結晶構造中に含まれる白金の1/4のモル比に相当する量が白金金属微粒子として存在していることが
確認された。この結果から、上記還元処理により得られた生成物は、結晶構造内の白金の一部がペロブスカイト型結晶構造外に析出し、微粒子の状態で表面近傍に存在するものであり、組成式:(La0.8Sr0.2)(Sc0.988Pt0.0096)H0.052.9262で表されるペロブスカイト型複合酸化物の表面に、結晶構造内に含まれる白金に対して1/4のモル比の白金微粒子が担持された淡黄色の粉末(以下、Pt0.0
024/(La0.8Sr0.2)(Sc0.988Pt0.0096)H0.052.9262と表す)であることが確認できた。
【0124】
白金担持ペロブスカイト型複合酸化物粉末の触媒活性
上記方法で得られた粉末試料Pt0.0024/(La0.8Sr0.2)(Sc0.988Pt0.0096)H0.052.9262について、空気中に1%の一酸化炭素または水素を含んだ反応ガスを用いて、一酸化炭素及び水素に対する触媒活性(ガス転化率)の温度依存性を測定した。結果を図23に示す。図23より、207℃(480K)以上では、一酸化炭素に対する酸化反応が水素に対する酸化反応よりも優先的に起きることが分かる。
【0125】
従来報告されている白金の触媒活性はこの逆で、水素に対する酸化反応が一酸化炭素に対するそれよりも優先的に起きるものであった。従って、図23より、実施例9で得られた粉末試料は一酸化炭素に対する選択的酸化性を有し、更に、水素に対する酸化活性も有するものであり、耐一酸化炭素被毒性に優れた燃料電池用アノード触媒として有効に利用できることが分かる。
【0126】
実施例10
パラジウム含有ペロブスカイト型複合酸化物粉末の作製
実施例9と同様の方法で得られた組成式:(La0.8Sr0.2)ScH0.052.925で表される淡黄色の酸化物粉末(約2g)をパラジウム箔(厚さ0.05mm、重量0.70g)に載せ、蓋付きの容器(アルミナ製、直方体状、容積:約30cm3)に入れ、空
気中、1540℃で10時間焼成することにより、組成式:(La0.8Sr0.2)(Sc0.977Pd0.023)H0.052.9135で表される淡褐色のパラジウ
ム含有ペロブスカイト粉末が得られた。
【0127】
図24は得られた粉末のX線回折図形であり、結晶性の良好な、単一相のペロブスカイト型構造が保持されていることが確認できた。パラジウム元素がペロブスカイト型結晶格子中に固溶していることは、X線吸収微細構造(XAFS)測定によって確認した。得られたパラジウム含有ペロブスカイト粉末のトレランスファクターは0.91である。
【0128】
パラジウム含有ペロブスカイト型複合酸化物粉末の還元処理
上記方法で得られた(La0.8Sr0.2)(Sc0.977Pd0.023)H
.052.9135で表される複合酸化物を、水素20%/アルゴン80%ガス中、400℃で1時間加熱して還元処理を行った。
【0129】
還元処理後の生成物について、X線吸収微細構造(XAFS)測定により、結晶構造中に含まれるパラジウムの1/4のモル比に相当する量がパラジウム金属微粒子として存在し
ていることが確認された。この結果から、上記還元処理により得られた生成物は、結晶構造内のパラジウムの一部がペロブスカイト型結晶構造外に析出し、微粒子の状態で表面近傍に存在するものであり、組成式:(La0.8Sr0.2)(Sc0.977Pd0.0184)H0.052.9089で表されるペロブスカイト型複合酸化物の表面に、結晶構造内に含まれるパラジウムに対して1/4のモル比のパラジウム微粒子が担持された
淡黄色の粉末(以下、Pd0.0046/(La0.8Sr0.2)(Sc0.977Pd0.0184)H0.052.9089と表す)であることが確認できた。
【0130】
パラジウム担持ペロブスカイト型複合酸化物粉末の触媒活性
上記方法で得られた粉末試料Pd0.0046/(La0.8Sr0.2)(Sc0.977Pd0.0184)H0.052.9089について、空気中に1%の一酸化炭素または水素を含んだ反応ガスを用いて、一酸化炭素及び水素に対する触媒活性(ガス転化率)の温度依存性を測定した。結果を図25に示す。図25より、227℃(500K)以上では、一酸化炭素に対する酸化反応が水素に対する酸化反応よりも優先的に起きる
ことが分かる。
【0131】
従来報告されているパラジウムの触媒活性はこの逆で、水素に対する酸化反応が一酸化炭素に対するそれよりも優先的に起きるものであった。従って、図25より、実施例10で得られた粉末試料は一酸化炭素に対する選択的酸化性を有し、更に、水素に対する酸化活性も有するものであり、耐一酸化炭素被毒性に優れた燃料電池用アノード触媒として有効に利用できることが分かる。
【0132】
実施例11
ペロブスカイト型複合酸化物粉末の作製
La、CaO及びAlを原料として用い、これらの原料をLa:Ca:Alの元素比が0.9:0.1:1となるように混合した後、空気中で焼成、粉砕を数回繰り返し、最終的に空気中、1600℃で30時間焼成することによって、組成式:(La0.9Ca0.1)AlH0.0252.9625で表される淡赤色の酸化物粉末を作製した。該複合酸化物粉末のトレランスファクターは1.00である。図26は得られた粉末試料のX線回折図形であり、結晶性の良好な単一相のペロブスカイト型複合酸化物粉末が得られたことが確認できた。
【0133】
白金含有ペロブスカイト型複合酸化物粉末の作製
上記方法で得られた、トレランスファクター(t)が1.00の(La0.9Ca0.
)AlH0.0252.9625酸化物粉末(約2g)を白金箔(厚さ0.03mm、重量1.50g)に載せ、蓋付きの容器(アルミナ製、直方体状、容積:約30cm3)に入れ、空
気中、1625℃で20時間焼成することにより、組成式:(La0.9Ca0.1)(Al0.9999Pt0.0001)H0.0252.96255で表される淡褐色の白金含有ペロブスカイト粉末が得られた。
【0134】
図27は得られた粉末のX線回折図形であり、結晶性の良好な、単一相のペロブスカイト型構造が保持されていることが確認できた。白金元素がペロブスカイト型結晶格子中のBサイトに固溶していることは、X線吸収微細構造(XAFS)測定によって確認された。得られた白金含有ペロブスカイト粉末のトレランスファクターは1.00である。
【0135】
白金含有ペロブスカイト型複合酸化物粉末の還元処理
上記方法で得られた(La0.9Ca0.1)(Al0.9999Pt0.0001)H0.0252.96255で表される複合酸化物を、水素20%/アルゴン80%ガス中、350℃で1時間加熱して還元処理を行った。
【0136】
還元処理後の生成物について、X線吸収微細構造(XAFS)測定により、結晶構造中に含まれる白金の1/4のモル比に相当する量が白金金属微粒子として存在していることが
確認された。この結果から、上記還元処理により得られた生成物は、結晶構造内の白金の一部がペロブスカイト型結晶構造外に析出し、微粒子の状態で表面近傍に存在するものであり、組成式:(La0.9Ca0.1)(Al0.9999Pt0.00008)H0.0252.96251で表されるペロブスカイト型複合酸化物の表面に、結晶構造内に含まれる白金に対して1/4のモル比の白金微粒子が担持された無色の粉末(以下、Pt
0.00002/(La0.9Ca0.1)(Al0.9999Pt0.00008)H0.0252.96251と表す)であることが確認できた。
【0137】
白金担持ペロブスカイト型複合酸化物粉末の触媒活性
上記方法で得られた粉末試料Pt0.00002/(La0.9Ca0.1)(Al0.9999Pt0.00008)H0.0252.96251について、空気中に1%の一酸化炭素または水素を含んだ反応ガスを用いて、一酸化炭素及び水素に対する触媒活
性(ガス転化率)の温度依存性を測定した。結果を図28に示す。図28より、297℃(570K)以上では、一酸化炭素に対する酸化反応が水素に対する酸化反応よりも優先的に起きることが分かる。
【0138】
従来報告されている白金の触媒活性はこの逆で、水素に対する酸化反応が一酸化炭素に対するそれよりも優先的に起きるものであった。従って、図28より、実施例11で得られた粉末試料は一酸化炭素に対する選択的酸化性を有し、更に、水素に対する酸化活性も有するものであり、耐一酸化炭素被毒性に優れた燃料電池用アノード触媒として有効に利用できることが分かる。
【0139】
実施例12
ペロブスカイト型複合酸化物粉末の作製
SrCO、ZrO及びYを原料として用い、これらの原料をSr:Zr:Yの元素比が1.0:0.9:0.1となるように混合した後、空気中で焼成、粉砕を数回繰り返し、最終的に空気中、1600℃で10時間焼成することによって、組成式:Sr(Zr0.90.1)H0.052.975で表される淡赤色の酸化物粉末を作製した。該複合酸化物粉末のトレランスファクターは0.94である。図29は得られた粉末試料のX線回折図形であり、結晶性の良好な単一相のペロブスカイト型複合酸化物粉末が得られたことが確認できた。
【0140】
白金含有ペロブスカイト型複合酸化物粉末の作製
上記方法で得られた、トレランスファクター(t)が0.94のSr(Zr0.9
.1)H0.052.975酸化物粉末(約2g)を白金箔(厚さ0.03mm、重量1.50g)に載せ、蓋付きの容器(アルミナ製、直方体状、容積:約30cm3)に入れ、空気中、
1625℃で10時間焼成することにより、組成式:Sr(Zr0.89880.0988Pt0.0024)H0.052.9756で表される青緑色の白金含有ペロブスカイト粉末が得られた。
【0141】
図30は得られた粉末のX線回折図形であり、結晶性の良好な、単一相のペロブスカイト型構造が保持されていることが確認できた。白金元素がペロブスカイト型結晶格子中のBサイトに固溶していることは、X線吸収微細構造(XAFS)測定によって確認された。得られた白金含有ペロブスカイト粉末のトレランスファクターは0.94である。
【0142】
白金含有ペロブスカイト型複合酸化物粉末の還元処理
上記方法で得られたSr(Zr0.89880.0988Pt0.0024)H0.052.9756で表される複合酸化物を、水素20%/アルゴン80%ガス中、350℃で1時間加熱して還元処理を行った。
【0143】
還元処理後の生成物について、X線吸収微細構造(XAFS)測定により、結晶構造中に含まれる白金の1/4のモル比に相当する量が白金金属微粒子として存在していることが
確認された。この結果から、上記還元処理により得られた生成物は、結晶構造内の白金の一部がペロブスカイト型結晶構造外に析出し、微粒子の状態で表面近傍に存在するものであり、組成式:Sr(Zr0.89880.0988Pt0.00192)H0.052.97464表されるペロブスカイト型複合酸化物の表面に、結晶構造内に含まれる白金に対して1/4のモル比の白金微粒子が担持された無色の粉末(以下、Pt0.000
48/Sr(Zr0.89880.0988Pt0.00192)H0.052.97464と表す)であることが確認できた。
【0144】
白金担持ペロブスカイト型複合酸化物粉末の触媒活性
上記方法で得られた粉末試料Pt0.00048/Sr(Zr0.89880.09
88Pt0.00192)H0.052.97464について、空気中に1%の一酸化炭素または水素を含んだ反応ガスを用いて、一酸化炭素及び水素に対する触媒活性(ガス転化率)の温度依存性を測定した。結果を図31に示す。図31より、157℃(430K)以上では、一酸化炭素に対する酸化反応が水素に対する酸化反応よりも優先的に起きることが分かる。
【0145】
従来報告されている白金の触媒活性はこの逆で、水素に対する酸化反応が一酸化炭素に対するそれよりも優先的に起きるものであった。従って、図31より、実施例12で得られた粉末試料は一酸化炭素に対する選択的酸化性を有し、更に、水素に対する酸化活性も有するものであり、耐一酸化炭素被毒性に優れた燃料電池用アノード触媒として有効に利用できることが分かる。
【0146】
実施例13
ペロブスカイト型複合酸化物粉末の作製
CaO、ZrO及びYを原料として用い、これらの原料をCa:Zr:Yの元素比が1.0:0.95:0.05となるように混合した後、空気中で焼成、粉砕を数回繰り返し、最終的に空気中、1350℃で10時間焼成することによって、組成式:Ca(Zr0.950.05)H0.0252.9875で表される淡赤色の酸化物粉末を作製した。該複合酸化物粉末のトレランスファクターは0.91である。図32は得られた粉末試料のX線回折図形であり、結晶性の良好な単一相のペロブスカイト型複合酸化物粉末が得られたことが確認できた。
【0147】
白金含有ペロブスカイト型複合酸化物粉末の作製
上記方法で得られた、トレランスファクター(t)が0.91のCa(Zr0.95
0.05)H0.0252.9875酸化物粉末(約2g)を白金箔(厚さ0.03mm、重量1.50g)に載せ、蓋付きの容器(アルミナ製、直方体状、容積:約30cm3)に入れ、
空気中、1625℃で10時間焼成することにより、組成式:Ca(Zr0.94980.0498Pt0.0004)H0.0252.9876で表される淡褐色の白金含有ペロブスカイト粉末が得られた。
【0148】
図33は得られた粉末のX線回折図形であり、結晶性の良好な、単一相のペロブスカイト型構造が保持されていることが確認できた。白金元素がペロブスカイト型結晶格子中のBサイトに固溶していることは、X線吸収微細構造(XAFS)測定によって確認された。得られた白金含有ペロブスカイト粉末のトレランスファクターは0.91である。
【0149】
白金含有ペロブスカイト型複合酸化物粉末の還元処理
上記方法で得られたCa(Zr0.94980.0498Pt0.0004)H0.0252.9876で表される複合酸化物を、水素20%/アルゴン80%ガス中、350℃で1時間加熱して還元処理を行った。
【0150】
還元処理後の生成物について、X線吸収微細構造(XAFS)測定により、結晶構造中に含まれる白金の1/4のモル比に相当する量が白金金属微粒子として存在していることが
確認された。この結果から、上記還元処理により得られた生成物は、結晶構造内の白金の一部がペロブスカイト型結晶構造外に析出し、微粒子の状態で表面近傍に存在するものであり、組成式:Ca(Zr0.94980.0498Pt0.00032)H0.0252.98744表されるペロブスカイト型複合酸化物の表面に、結晶構造内に含まれる白金に対して1/4のモル比の白金微粒子が担持された無色の粉末(以下、Pt0.00
008/Ca(Zr0.94980.0498Pt0.00032)H0.0252.98744と表す)であることが確認できた。
【0151】
白金担持ペロブスカイト型複合酸化物粉末の触媒活性
上記方法で得られた粉末試料Pt0.00008/Ca(Zr0.94980.0498Pt0.00032)H0.0252.98744について、空気中に1%の一酸化炭素または水素を含んだ反応ガスを用いて、一酸化炭素及び水素に対する触媒活性(ガス転化率)の温度依存性を測定した。結果を図34に示す。図34より、257℃(530K)以上では、一酸化炭素に対する酸化反応が水素に対する酸化反応よりも優先的に起きることが分かる。
【0152】
従来報告されている白金の触媒活性はこの逆で、水素に対する酸化反応が一酸化炭素に対するそれよりも優先的に起きるものであった。従って、図34より、実施例13で得られた粉末試料は一酸化炭素に対する選択的酸化性を有し、更に、水素に対する酸化活性も有するものであり、耐一酸化炭素被毒性に優れた燃料電池用アノード触媒として有効に利用できることが分かる。
【0153】
実施例14
ルテニウム含有ペロブスカイト型複合酸化物粉末の作製
実施例1と同様の方法で得られた組成式:(La0.7Sr0.2Ba0.1)ScH0.052.875で表される淡黄色の酸化物粉末(約2g)をセラミックス容器(アルミナ製、直方体状、容積:約30cm3)内に入れ、この酸化物粉末と非接触の状態でルテ
ニウムディスク(直径13mm、厚さ1.0mm、重量1.30g)を同一容器内に入れて、該容器
に蓋をした。次いで、空気中、1125℃で10時間焼成することにより、組成式:(La0.7Sr0.2Ba0.1)(Sc0.93Ru0.07)H0.052.91で表される黄褐色のルテニウム含有ペロブスカイト粉末が得られた。
【0154】
図35は得られた粉末のX線回折図形であり、結晶性の良好な、単一相のペロブスカイト型構造が保持されていることが確認できた。ルテニウム元素がペロブスカイト型結晶格子中に固溶していることは、X線吸収微細構造(XAFS)測定によって確認した。得られたルテニウム含有ペロブスカイト粉末のトレランスファクターは0.93である。
【0155】
ルテニウム含有ペロブスカイト型複合酸化物粉末の還元処理
上記方法で得られた(La0.7Sr0.2Ba0.1)(Sc0.93Ru0.07)H0.052.91で表される複合酸化物を、水素20%/アルゴン80%ガス中、400℃で1時間加熱して還元処理を行った。
【0156】
還元処理後の生成物について、X線吸収微細構造(XAFS)測定により、結晶構造中に含まれるルテニウムの1/4のモル比に相当する量がルテニウム金属微粒子として存在し
ていることが確認された。この結果から、上記還元処理により得られた生成物は、結晶構造内のルテニウムの一部がペロブスカイト型結晶構造外に析出し、微粒子の状態で表面近傍に存在するものであり、組成式:(La0.7Sr0.2Ba0.1)(Sc0.93Ru0.056)H0.052.882で表されるペロブスカイト型複合酸化物の表面に、結晶構造内に含まれるルテニウムに対して1/4のモル比のルテニウム微粒子が担持さ
れた淡黄褐色の粉末(以下、Ru0.014/(La0.7Sr0.2Ba0.1)(Sc0.93Ru0.056)H0.052.882と表す)であることが確認できた。
【0157】
ルテニウム担持ペロブスカイト型複合酸化物粉末の触媒活性
上記方法で得られた粉末試料Ru0.014/(La0.7Sr0.2Ba0.1)(Sc0.93Ru0.056)H0.052.882について、空気中に1%の一酸化炭素または水素を含んだ反応ガスを用いて、一酸化炭素及び水素に対する触媒活性(ガス転化率)の温度依存性を測定した。結果を図36に示す。図36より、147℃(420K)以上では、一酸化炭素に対する酸化反応が水素に対する酸化反応よりも優先的に起き
ることが分かる。
【0158】
従来報告されているルテニウムの触媒活性はこの逆で、水素に対する酸化反応が一酸化炭素に対するそれよりも優先的に起きるものであった。従って、図36より、実施例14で得られた粉末試料は一酸化炭素に対する選択的酸化性を有し、更に、水素に対する酸化活性も有するものであり、耐一酸化炭素被毒性に優れた燃料電池用アノード触媒として有効に利用できることが分かる。
【0159】
実施例15
白金含有ペロブスカイト型複合酸化物粉末の作製
実施例1と同様の方法で得られた組成式:(La0.7Sr0.2Ba0.1)ScH0.052.875で表される淡黄色の酸化物粉末(約2g)をセラミックス容器(アルミナ製、直方体状、容積:約30cm3)内に入れ、該容器内に、該酸化物粉末と非接触の
状態で白金メッシュ(縦25mm、横10mm、厚さ0.2mm、80メッシュ、重量1.20g)2枚を
入れて、該容器に蓋をいた。次いで、空気中、1525℃で10時間焼成することにより、組成式:(La0.7Sr0.2Ba0.1)(Sc0.997Pt0.003)H0.052.8765で表される青色の白金含有ペロブスカイト粉末が得られた。
【0160】
図37は得られた粉末のX線回折図形であり、結晶性の良好な、単一相のペロブスカイト型構造が保持されていることが確認できた。白金元素がペロブスカイト型結晶格子中に固溶していることは、X線吸収微細構造(XAFS)測定によって確認した。得られた白金含有ペロブスカイト粉末のトレランスファクターは0.92である。
【0161】
白金含有ペロブスカイト型複合酸化物粉末の還元処理
上記方法で得られた(La0.7Sr0.2Ba0.1)(Sc0.997Pt0.003)H0.052.8765で表される複合酸化物を、水素20%/アルゴン80%ガス中、350℃で1時間加熱して還元処理を行った。
【0162】
還元処理後の生成物について、X線吸収微細構造(XAFS)測定により、結晶構造中に含まれる白金の1/4のモル比に相当する量が白金金属微粒子として存在していることが
確認された。この結果から、上記還元処理により得られた生成物は、結晶構造内の白金の一部がペロブスカイト型結晶構造外に析出し、微粒子の状態で表面近傍に存在するものであり、組成式:(La0.7Sr0.2Ba0.1)(Sc0.997Pt0.0024)H0.052.8753で表されるペロブスカイト型複合酸化物の表面に、結晶構造内に含まれる白金に対して1/4のモル比の白金微粒子が担持された淡黄色の粉末(以下、
Pt0.0006/(La0.7Sr0.2Ba0.1)(Sc0.997Pt0.0024)H0.052.8753と表す)であることが確認できた。
【0163】
白金担持ペロブスカイト型複合酸化物粉末の触媒活性
上記方法で得られた粉末試料Pt0.0006/(La0.7Sr0.2Ba0.1)(Sc0.997Pt0.0024)H0.052.8753について、空気中に1%の一酸化炭素または水素を含んだ反応ガスを用いて、一酸化炭素及び水素に対する触媒活性(ガス転化率)の温度依存性を測定した。結果を図38に示す。図38より、247℃(520K)以上では、一酸化炭素に対する酸化反応が水素に対する酸化反応よりも優先的に起きることが分かる。
【0164】
従来報告されている白金の触媒活性はこの逆で、水素に対する酸化反応が一酸化炭素に対するそれよりも優先的に起きるものであった。従って、図38より、実施例15で得られた粉末試料は一酸化炭素に対する選択的酸化性を有し、更に、水素に対する酸化活性も有するものであり、耐一酸化炭素被毒性に優れた燃料電池用アノード触媒として有効に利
用できることが分かる。
【図面の簡単な説明】
【0165】
【図1】実施例1で得たペロブスカイト型酸化物粉末のX線回折図。
【図2】実施例1で得たPt含有ペロブスカイト型酸化物粉末のX線回折図。
【図3】実施例1で得たPt担持ペロブスカイト型酸化物粉末の触媒活性(ガス転化率)を示すグラフ。
【図4】Ptを担持した酸化チタンの触媒活性(ガス転化率)を示すグラフ。
【図5】実施例2で得たPd含有ペロブスカイト型酸化物粉末のX線回折図。
【図6】実施例2で得たPd担持ペロブスカイト型酸化物粉末の触媒活性(ガス転化率)を示すグラフ。
【図7】実施例3で得たIr含有ペロブスカイト型酸化物粉末のX線回折図。
【図8】実施例3で得たIr担持ペロブスカイト型酸化物粉末の触媒活性(ガス転化率)を示すグラフ。
【図9】実施例4得たRh含有ペロブスカイト型酸化物粉末のX線回折図。
【図10】実施例4で得たRh担持ペロブスカイト型酸化物粉末の触媒活性(ガス転化率)を示すグラフ。
【図11】実施例5で得たAu含有ペロブスカイト型酸化物粉末のX線回折図。
【図12】実施例5で得たAu担持ペロブスカイト型酸化物粉末の触媒活性(ガス転化率)を示すグラフ。
【図13】実施例6で得たAg含有ペロブスカイト型酸化物粉末のX線回折図。
【図14】実施例6で得たAg担持ペロブスカイト型酸化物粉末の触媒活性(ガス転化率)を示すグラフ。
【図15】実施例7で得たペロブスカイト型酸化物粉末のX線回折図。
【図16】実施例7で得たPt含有ペロブスカイト型酸化物粉末のX線回折図。
【図17】実施例7で得たPt担持ペロブスカイト型酸化物粉末の触媒活性(ガス転化率)を示すグラフ。
【図18】実施例8で得たペロブスカイト型酸化物粉末のX線回折図。
【図19】実施例8で得たPt含有ペロブスカイト型酸化物粉末のX線回折図。
【図20】実施例8で得たPt担持ペロブスカイト型酸化物粉末の触媒活性(ガス転化率)を示すグラフ。
【図21】実施例9で得たペロブスカイト型酸化物粉末のX線回折図。
【図22】実施例9で得たPt含有ペロブスカイト型酸化物粉末のX線回折図。
【図23】実施例9で得たPt担持ペロブスカイト型酸化物粉末の触媒活性(ガス転化率)を示すグラフ。
【図24】実施例10で得たPd含有ペロブスカイト型酸化物粉末のX線回折図。
【図25】実施例10で得たPd担持ペロブスカイト型酸化物粉末の触媒活性(ガス転化率)を示すグラフ。
【図26】実施例11で得たペロブスカイト型酸化物粉末のX線回折図。
【図27】実施例11で得たPt含有ペロブスカイト型酸化物粉末のX線回折図。
【図28】実施例11で得たPt担持ペロブスカイト型酸化物粉末の触媒活性(ガス転化率)を示すグラフ。
【図29】実施例12で得たペロブスカイト型酸化物粉末のX線回折図。
【図30】実施例12で得たPt含有ペロブスカイト型酸化物粉末のX線回折図。
【図31】実施例12で得たPt担持ペロブスカイト型酸化物粉末の触媒活性(ガス転化率)を示すグラフ。
【図32】実施例13で得たペロブスカイト型酸化物粉末のX線回折図。
【図33】実施例13で得たPt含有ペロブスカイト型酸化物粉末のX線回折図。
【図34】実施例13で得たPt担持ペロブスカイト型酸化物粉末の触媒活性(ガス転化率)を示すグラフ。
【図35】実施例14で得たRu含有ペロブスカイト型酸化物粉末のX線回折図。
【図36】実施例14で得たRu担持ペロブスカイト型酸化物粉末の触媒活性(ガス転化率)を示すグラフ。
【図37】実施例15で得たPt含有ペロブスカイト型酸化物粉末のX線回折図。
【図38】実施例15で得たPt担持ペロブスカイト型酸化物粉末の触媒活性(ガス転化率)を示すグラフ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記組成式(1):
(Ba1−x)BH3−b (1)
(式中、Aは、ランタノイド元素及び周期表2族の元素からなる群から選ばれた少なくとも一種の元素であり、Bは、周期表3族の元素、周期表4族の元素、周期表13族の元素、及び元素周期表の第4周期の遷移金属元素からなる群から選ばれた少なくとも一種の元素であり、x、a及びbの各記号は下記範囲の数値を示す:0≦x≦1、0<a≦0.5、0<b≦0.25)で表され、
下記式:
t=(r+r)/(21/2・(r+r))
(式中、rは、Ba及びAのイオン半径の相加平均、rは、Bのイオン半径の相加平均、rは酸化物イオン(O2−)のイオン半径(1.40Å)である)で定義されるトレランスファクター(t)が0.9〜1の範囲内にある、ペロブスカイト型複合酸化物。
【請求項2】
下記組成式(2):
(Ba1−x−y)(B1−z)H3−b (2)
(式中、Aは、ランタノイド元素及び周期表2族の元素からなる群から選ばれた少なくとも一種の元素であり、Bは、周期表3族の元素、周期表4族の元素、周期表13族の元素、及び元素周期表の第4周期の遷移金属元素からなる群から選ばれた少なくとも一種の元素である。M及びMは、同一又は異なって、それぞれ、Pt、Pd、Ir、Rh、Ru、Au及びAgからなる群から選ばれた少なくとも一種の貴金属元素である。x、y、z、a及びbの各記号は下記範囲の数値を示す:0≦x≦1、0≦y<0.3、0≦z<0.3、0<a≦0.5、0<b≦0.25:但し、yとzの合計値は、0<y+z<0.6である)で表され、
下記式:
t=(r+r)/(21/2・(r+r))
(式中、rは、Ba、A及びMのイオン半径の相加平均、rは、B及びMのイオン半径の相加平均、rは酸化物イオン(O2−)のイオン半径(1.40Å)である)で定義されるトレランスファクター(t)が0.9〜1の範囲内にある、貴金属含有ペロブスカイト型複合酸化物。
【請求項3】
下記組成式(3):
(Ba1−x−yy―c)(B1−zz―d)H3−b (3)(式中、Aは、ランタノイド元素及び周期表2族の元素からなる群から選ばれた少なくとも一種の元素であり、Bは、周期表3族の元素、周期表4族の元素、周期表13族の元素、及び元素周期表の第4周期の遷移金属元素からなる群から選ばれた少なくとも一種の元素である。M及びMは、同一又は異なって、それぞれ、Pt、Pd、Ir、Rh、Ru、Au及びAgからなる群から選ばれた少なくとも一種の貴金属元素である。x、y、z、a、b、c及びdの各記号は下記範囲の数値を示す:0≦x≦1、0≦y<0.3、0≦z<0.3、0<a≦0.5、0<b≦0.25、0≦c<0.1、0≦d<0.1;但し、yとzの合計値は0<y+z<0.6であり、cはy以下の数値、dはz以下の数値であって、cとdの合計値は0<c+d<0.2である。)で表され、
下記式:
t=(r+r)/(21/2・(r+r))
(式中、rは、Ba、A及びMのイオン半径の相加平均、rは、B及びMのイオン半径の相加平均、rは酸化物イオン(O2−)のイオン半径(1.40Å)である)で定義されるトレランスファクター(t)が0.9〜1の範囲内にあるペロブスカイト型複合酸化物の表面に、
上記組成式(3)におけるc値に相当する量のM及びd値に相当する量のMからなる
貴金属が微粒子として担持されてなる、貴金属担持ペロブスカイト型複合酸化物。
【請求項4】
請求項1に記載された組成式(1)で表されるペロブスカイト型複合酸化物を、Pt、Pd、Ir、Rh、Ru、Au、及びAgからなる群から選ばれた少なくとも一種の貴金属の蒸気又は該貴金属の酸化物の蒸気と接触させることを特徴とする、請求項2に記載された組成式(2)で表される貴金属含有ペロブスカイト型複合酸化物の製造方法。
【請求項5】
請求項2に記載された組成式(2)で表される貴金属含有ペロブスカイト型複合酸化物を、還元性雰囲気下において熱処理することを特徴とする、請求項3に記載された組成式(3)で表される貴金属担持ペロブスカイト型複合酸化物の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【図26】
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【図27】
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【図28】
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【図29】
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【図30】
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【図31】
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【図32】
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【図33】
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【図34】
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【図35】
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【図36】
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【図37】
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【図38】
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【公開番号】特開2008−100902(P2008−100902A)
【公開日】平成20年5月1日(2008.5.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−237384(P2007−237384)
【出願日】平成19年9月13日(2007.9.13)
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【Fターム(参考)】